特許第6913075号(P6913075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913075
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 167/00 20060101AFI20210727BHJP
   C10M 143/00 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 143/06 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 159/24 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 159/22 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 129/54 20060101ALN20210727BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20210727BHJP
   F16H 57/04 20100101ALN20210727BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20210727BHJP
   C10N 30/10 20060101ALN20210727BHJP
【FI】
   C10M167/00
   !C10M143/00
   !C10M129/10
   !C10M133/12
   !C10M143/06
   !C10M159/24
   !C10M159/22
   !C10M129/54
   !C10M137/10 A
   !F16H57/04 Z
   C10N10:04
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:02
   C10N30:08
   C10N30:10
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-503419(P2018-503419)
(86)(22)【出願日】2017年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2017008496
(87)【国際公開番号】WO2017150707
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年9月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-42777(P2016-42777)
(32)【優先日】2016年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100153866
【弁理士】
【氏名又は名称】滝沢 喜夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】横溝 真人
(72)【発明者】
【氏名】鎌野 秀樹
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−287196(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/069967(WO,A1)
【文献】 特表2015−502446(JP,A)
【文献】 特開平04−202398(JP,A)
【文献】 特開2014−025004(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136973(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
F16H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と共に、
質量平均分子量が500以上5000以下であり、炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素モノマーに由来の構成単位を含むオレフィンオリゴマー(A)、
フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)、及び
アルカリ土類金属系清浄剤(C)
を含み、
アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、1700質量ppm以上2700質量ppm以下であり、
100℃における動粘度が4.0mm2/s以上6.0mm2/s以下であることを特徴とする、潤滑油組成物。
【請求項2】
オレフィンオリゴマー(A)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.8質量%以上4.5質量%以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
オレフィンオリゴマー(A)がポリブテンである、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
アルカリ土類金属系清浄剤(C)が、150mgKOH/g以上450mgKOH/g以下の塩基価を有するアルカリ土類金属塩である、請求項1〜のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
アルカリ土類金属系清浄剤(C)が、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ土類金属サリシレートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜のいずれかに一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子が、カルシウム原子又はマグネシウム原子である、請求項1〜のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
酸化防止剤(B)の含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、0.5質量%以上3.0質量%以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
前記フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)の比が1/2〜2/1である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
さらに、ジチオリン酸亜鉛(E)を含有する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物が変速機用である、潤滑油組成物。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を充填した、変速機。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を用いた潤滑方法。
【請求項13】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物の変速機への使用方法。
【請求項14】
基油に、質量平均分子量が500以上5000以下であり、炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素モノマーに由来の構成単位を含むオレフィンオリゴマー(A)、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)、及びアルカリ土類金属系清浄剤(C)をそれぞれ配合する潤滑油組成物の製造方法であって、アルカリ土類金属系清浄剤(C)を、前記潤滑油組成物の全量基準で、アルカリ土類金属原子換算での含有量が1700質量ppm以上2700質量ppm以下となるように配合する、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、潤滑油組成物に関し、例えば変速機用に好適に用いられる潤滑油組成物に関する。
【0003】
近年、炭酸ガス排出量削減、化石燃料の消費低減の観点から、自動車の省燃費化が強く求められている。例えば、自動車用歯車装置の潤滑油においても、撹拌抵抗低減のため、低粘度化が進められている。しかしながら、潤滑油の低粘度化により高温領域での油膜強度が低下し、耐焼付き性、耐摩耗性、及び耐疲労性等の低下が懸念される。これに対しては、高温領域では潤滑油の粘度を高く維持し、常用温度域では潤滑油の粘度を低下させることが有効である。すなわち、高粘度指数化が有効である。
しかしながら、高粘度指数化にはポリマーなどの粘度指数向上剤を潤滑油に添加することが必要である。これらポリマーは、使用中にせん断を受けることにより潤滑油の粘度低下を引き起こす。そのため、粘度指数向上剤を潤滑油に配合する際は、実車走行時のかかる粘度低下を考慮する必要がある。
【0004】
また、変速機設計においては小型軽量化が進んでいる。変速機の小型軽量化により、潤滑部位の力学的な負荷が増大するため、充填される潤滑油にはさらなる潤滑性の向上が求められる。また、熱負荷も増大するため、潤滑油の耐熱性および酸化安定性のより一層の向上も求められる。
潤滑油の耐熱性および酸化安定性が悪化するとスラッジが発生し、これが潤滑部位に付着することで潤滑不良を起こす。例えば、スラッジが付着することによるベアリング等の動作不良を挙げることができる。また、特に手動変速機において、変速段の切り替えを受け持つシンクロメッシュ機構におけるスラッジの付着は、摩擦特性の低下によるシフトフィーリングの低下、更にはシンクロナイザーリングが固着することによる動作不良を引き起こす。
【0005】
特許文献1及び2では、低粘度基油にせん断安定性に優れる粘度指数向上剤を配合することで、潤滑油の一層の低粘度化(100℃における動粘度:最少で6.2mm2/s)を図っている。しかしながら、実車走行による潤滑油の粘度低下を完全に抑制する事はできないため、新油時の低粘度化には限界がある。
特許文献3では、ポリメタクリレート系化合物を潤滑油に配合せずに低粘度化(100℃における動粘度:実施例において約6.0mm2/s以上)を図りつつ、モリブデン系化合物を潤滑油に配合することにより、シンクロメッシュにおける摩耗を防止し、摩擦特性維持を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−193255号公報
【特許文献2】特開2014−177605号公報
【特許文献3】特開2014−98090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に記載の技術は、潤滑油の低粘度化に付随する懸念事項を解消するものではない。また、装置の小型軽量化に伴う耐熱性及び酸化安定性向上の要求を十分に満足するものでも無い。
本発明は、以上の事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、低粘度化を図りつつ、実車走行時における粘度低下を抑制し、また耐熱性及び酸化安定性の向上を達成する、潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、基油と共に、特定の(A)〜(C)成分を必須成分として含む潤滑油組成物が、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[5]を提供する。
[1]基油と共に、
質量平均分子量が500以上5000以下のオレフィンオリゴマー(A)、
フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)、及び
アルカリ土類金属系清浄剤(C)
を含み、
アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、1700質量ppm以上2700質量ppm以下であり、
100℃における動粘度が4.0mm2/s以上6.0mm2/s以下である、潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物を充填した、変速機。
[3]上記[1]に記載の潤滑油組成物を用いた、潤滑方法。
[4]上記[1]に記載の潤滑油組成物の変速機への使用方法。
[5]基油に、質量平均分子量が500以上5000以下のオレフィンオリゴマー(A)、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)、及びアルカリ土類金属系清浄剤(C)をそれぞれ配合する潤滑油組成物の製造方法であって、アルカリ土類金属系清浄剤(C)を、前記潤滑油組成物の全量基準で、アルカリ土類金属原子換算での含有量が1700質量ppm以上2700質量ppm以下となるように配合する、潤滑油組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低粘度化を達成しつつ、実車走行時における粘度低下を抑制し、かつ耐熱性及び酸化安定性の向上が達成される潤滑油組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の一実施形態について詳細に説明する。なお、本発明において、基油又は潤滑油組成物の「100℃における動粘度」及び「40℃における動粘度」は、JIS K 2283:2000に記載の方法に基づいて測定した値を意味する。
【0011】
本発明において、潤滑油組成物中のアルカリ土類金属原子の含有量は、JPI−5S−38−92に準拠して測定された値を意味する。
【0012】
本発明において、「アルカリ土類金属原子」は、ベリリウム原子、マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、及びバリウム原子を指す。
【0013】
本実施形態に係る潤滑油組成物は、基油と共に、質量平均分子量が500以上5000以下のオレフィンオリゴマー(A)、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)、及びアルカリ土類金属系清浄剤(C)を含み、アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、1700質量ppm以上2700質量ppm以下であり、100℃における動粘度が4.0mm2/s以上6.0mm2/s以下である。
【0014】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油、オレフィンオリゴマー(A)、酸化防止剤(B)、及びアルカリ土類金属系清浄剤(C)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量基準(100質量%)で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、更に好ましくは80質量%以上、より更に好ましくは85質量%以上、更になお好ましくは90質量%以上であり、また、通常100質量%以下、好ましくは99.9質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。
【0015】
以下、本実施形態の潤滑油組成物に配合される各成分について説明する。
<オレフィンオリゴマー(A)>
本実施形態の潤滑油組成物はオレフィンオリゴマー(A)を含有し、該オレフィンオリゴマー(A)の質量平均分子量が500以上5000以下であることを要する。
オレフィンオリゴマー(A)は、装置、例えば変速機の高温部において流動性を有し、生成したスラッジを洗い流す効果を有する。オレフィンオリゴマー(A)の分子量が500未満であると、高温領域で蒸発して、洗浄効果を十分に奏しない。オレフィンオリゴマー(A)の分子量が5000を超えると、高温領域での流動性が保たれず、スラッジを洗い流す効果を十分に発揮できない。
オレフィンオリゴマー(A)の質量平均分子量は、好ましくは600以上4500以下、より好ましくは700以上4000以下、さらに好ましくは800以上3000以下である。
【0016】
オレフィンオリゴマー(A)は、ポリオレフィン骨格を有し、分子量が500以上5000以下のものであれば特に限定されない。オレフィンオリゴマー(A)は、炭素数2以上5以下の不飽和炭化水素モノマーに由来する構成単位を有するものが好ましく、例えばプロピレンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、及びエチレン−プロピレンオリゴマー等のオレフィンオリゴマーを挙げることができる。中でもポリブテン−1が好適に用いられる。
オレフィンオリゴマー(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
オレフィンオリゴマー(A)は、本実施形態の潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.0mm2/s以上6.0mm2/s以下となる範囲で配合され得る。具体的には、本実施形態の潤滑油組成物における質量平均分子量が500以上5000以下のオレフィンオリゴマー(A)の含有量は、該潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.8質量%以上4.5質量%以下、より好ましくは1質量%以上4質量%以下、さらに好ましくは1.2質量%以上2.5質量%以下である。
【0018】
<酸化防止剤(B)>
本実施形態の潤滑油組成物は酸化防止剤(B)を含有し、該酸化防止剤(B)は、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む。本実施形態においては、酸化防止剤(B)としてフェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを併用することが必要であり、片方のみを使用した場合には、十分な酸化防止性能を得ることができない。
【0019】
フェノール系酸化防止剤(B−1)としては、フェノール構造を有する化合物であって、潤滑油組成物の酸化を抑制する効果を有する化合物であれば、特に限定されない。
フェノール系酸化防止剤(B−1)としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシメチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N’−ジメチルアミノメチル)フェノール、2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−アミル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2’−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、及びオクチル−3−(3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等を挙げることができる。
なお、本実施形態において、フェノール系酸化防止剤(B−1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
本実施形態で使用可能なアミン系酸化防止剤(B−2)は、特に限定されない。例えば、以下の一般式(B−2−1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

(式中、Ar1及びAr2はそれぞれ独立に、フェニル基、アルキル基で置換されたフェニル基、アラルキル基で置換されたフェニル基、ナフチル基、及びアルキル基で置換されたナフチル基から選択される炭素数6〜24のアリール基を示す)
【0021】
アミン系酸化防止剤(B−2)は、より具体的には、以下の一般式(B−2−2)で表されるフェニル−α−ナフチルアミン類、及び一般式(B−2−3)で表されるジフェニルアミン類から選択されることが好ましい。
【0022】
【化2】


(式中、R1は、水素原子、又は炭素数1〜18のアルキル基を示す)
【0023】
【化3】


(式中、R2及びR3は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜18のアルキル基、又は炭素数7〜18のアラルキル基を示す)。
【0024】
具体的なアミン系酸化防止剤(B−2)としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系;4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系;テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのアルキル置換フェニル−α−ナフチルアミン;ジフェニルアミン、モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン、N−p−t−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。
なお、本実施形態において、アミン系酸化防止剤(B−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
酸化防止剤(B)として併用して用いるフェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)の具体例として、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、又はオクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートである(B−1)と、モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン、又はN−p−t−オクチルフェニル−1−ナフチルアミンである(B−2)との任意の組み合わせを挙げることができる。
本実施形態においては、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)の含有量は、潤滑油組成物の全量基準で、好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下、さらに好ましくは1質量%以上2質量%以下である。ここで、酸化防止剤(B)の含有量は、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)との合計量を示す。
酸化防止剤(B)の含有量が0.5質量%以上であれば、酸化防止効果が十分に発揮される。酸化防止効果の面から、酸化防止剤(B)の含有量の上限は3.0質量%で十分である。
また、アミン系酸化防止剤(B−2)に対するフェノール系酸化防止剤(B−1)の質量比[(B−2)/(B−1)]は、特に限定されないが、1/3〜3/1程度であることが好ましく、1/2〜2/1程度であることがより好ましい。
さらに、本実施形態において、酸化防止剤(B)中におけるフェノール系酸化防止剤(B−1)及びアミン系酸化防止剤(B−2)の合計含有量は、酸化防止剤(B)の全量基準で、好ましくは60質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、更に好ましくは80質量%以上100質量%以下、より更に好ましくは90質量%以上100質量%以下、更になお好ましくは99質量%以上100質量%以下である。
【0026】
上述した通り、本実施形態においては、酸化防止剤(B)としてフェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを併用することが必須であるが、本実施形態の効果を阻害しない範囲で他の酸化防止剤を含むことも除外しない。他の酸化防止剤としては、例えば、モリブデンアミン錯体系酸化防止剤を挙げることができる。
モリブデンアミン錯体系酸化防止剤としては、6価のモリブデン化合物、具体的には三酸化モリブデン及び/又はモリブデン酸とアミン化合物とを反応させてなるもの、例えば特開2003−252887号公報に記載の製造方法で得られる化合物を用いることができる。
【0027】
<アルカリ土類金属系清浄剤(C)>
本実施形態の潤滑油組成物はアルカリ土類金属系清浄剤(C)を含有し、該アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量が、潤滑油組成物の全量基準で、1700質量ppm以上2700質量ppm以下であることを要する。
アルカリ土類金属系清浄剤(C)は、油中に生成する劣化成分の酸中和作用により、スラッジの生成を抑制し、また生じたスラッジを分散させる清浄効果を有する。
潤滑油組成物の全量基準での、アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量が1700質量ppm未満であると、上述した中和作用が十分に発揮されず、酸化安定性及び耐熱性に劣る。アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量が2700質量ppmを超えると、組成物中の金属量が上昇してスラッジ生成の核となり、耐熱性に劣ることとなる。潤滑油組成物全量基準での、アルカリ土類金属系清浄剤(C)のアルカリ土類金属原子換算での含有量は、好ましくは1800質量ppm以上2600質量ppm以下、より好ましくは1900質量ppm以上2500質量ppm以下、さらに好ましくは2000質量ppm以上2500質量ppm以下である。
【0028】
アルカリ土類金属系清浄剤(C)としては、以下に詳述するアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート、及びアルカリ土類金属サリシレートからなる群から選択される少なくとも1種を用いることができ、2種以上の混合物であってもよい。中でも、アルカリ土類金属スルホネートが耐熱性の面で好ましい。
アルカリ土類金属スルホネートとしては、分子量300〜1,500、好ましくは400〜700のアルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等を挙げることができる。中でもカルシウム塩を用いることが好ましい。アルカリ土類金属フェネートとしては、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等を挙げることができ、中でもカルシウム塩が特に好ましい。アルカリ土類金属サリシレートとしては、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩等を挙げることができ、中でもカルシウム塩が好ましい。
アルカリ土類金属系清浄剤(C)を構成するアルキル基の炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは6〜18であり、アルキル基は直鎖でも分枝でもよい。また、上記アルキル基は、1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基のいずれであってもよい。
また、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属フェネート及びアルカリ土類金属サリシレートは、中性、塩基性及び過塩基性のいずれであっても良い。中性アルカリ土類金属塩としては、例えば、前記のアルキル芳香族スルホン酸、アルキルフェノール、アルキルフェノールサルファイド、アルキルフェノールのマンニッヒ反応物、アルキルサリチル酸等を直接、マグネシウム及び/又はカルシウムのアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属塩基と反応させる、又は一度ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートを挙げることができる。塩基性アルカリ土類金属塩としては、例えば、上記中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートと過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性アルカリ土類金属スルホネート、塩基性アルカリ土類金属フェネート及び塩基性アルカリ土類金属サリシレートを挙げることができる。過塩基性アルカリ土類金属塩としては、例えば、炭酸ガスの存在下で上記中性アルカリ土類金属スルホネート、中性アルカリ土類金属フェネート及び中性アルカリ土類金属サリシレートをアルカリ土類金属の炭酸塩又はホウ酸塩を反応させることにより得られる過塩基性アルカリ土類金属スルホネート、過塩基性アルカリ土類金属フェネート及び過塩基性アルカリ土類金属サリシレートを挙げることができる。アルカリ土類金属系清浄剤(C)は、通常、軽質潤滑油基油等で希釈された状態で市販されており、また入手可能であるが、一般的に、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが好ましい。
【0029】
本実施形態のアルカリ土類金属系清浄剤(C)の金属比に特に制限はなく、通常20以下のものを1種または2種以上混合して使用できる。上記金属比は、好ましくは3以下、より好ましく1.5以下、特に好ましくは1.2以下であることが、酸化安定性や塩基価維持性、及び高温における耐熱性に優れるため好ましい。
なお、ここでいう金属比とは、金属系清浄剤における金属元素の価数×金属元素含有量(mol%)/せっけん基含有量(mol%)で表され、金属元素とはカルシウム、マグネシウム等、せっけん基とはスルホン酸基、フェノール基及びサリチル酸基等を意味する。
【0030】
アルカリ土類金属系清浄剤(C)は上記した中性、塩基性、過塩基性のいずれであっても良く、例えば通常10mgKOH/g以上500mgKOH/g以下、好ましくは15mgKOH/g以上450mgKOH/g以下の塩基価を有するアルカリ土類金属系清浄剤(C)を挙げることができ、1種または2種以上併用することができる。本実施形態においては、塩基性や過塩基性のものがより好ましく、150mgKOH/g以上450mgKOH/g以下の塩基価を有することが好ましい。150mgKOH/g以上450mgKOH/g以下の塩基価を有することにより、より優れた酸化安定性を発揮しつつ、耐熱性にも優れる。なお、本明細書でいうアルカリ土類金属系清浄剤(C)の塩基価とは、JISK 2501:2003:過塩素酸法で測定したものを示す。アルカリ土類金属系清浄剤(C)の塩基価は、より好ましくは200mgKOH/g以上450mgKOH/g以下、さらに好ましくは250mgKOH/g以上400mgKOH/g以下である。
【0031】
アルカリ土類系金属清浄剤(C)に含まれるアルカリ土類金属原子としては、ベリリウム原子、マグネシウム原子、カルシウム原子、ストロンチウム原子、及びバリウム原子から選択される1種又は2種以上が挙げられるが、高温耐熱性の向上の観点から、カルシウム、マグネシウム、又はバリウムが好ましく、カルシウム又はマグネシウムがより好ましく、カルシウムがさらに好ましい。 アルカリ土類金属系清浄剤(C)としては、カルシウムスルホネートを好適に用いることができる。
【0032】
<質量平均分子量が5000を超える重合体(D)>
本実施形態における潤滑油組成物は、質量平均分子量が5000を超える重合体(D)を含有してもよい。但し、該重合体(D)を含有する場合には、オレフィンオリゴマー(A)100質量部に対して、重合体(D)の含有量が50質量部未満であることが好ましい。オレフィンオリゴマー(A)100質量部に対する割合が上記範囲であれば、例えば変速機の高温部における耐熱性を保つことができる。また、重合体(D)の量が上記範囲であれば、高分子化合物のせん断等に起因する、実車走行中等における粘度低下を限りなく低減することができる。重合体(D)の含有量は、オレフィンオリゴマー(A)100質量部に対して、30質量部未満であることがより好ましく、20質量部未満であることがさらに好ましい。重合体(D)の質量平均分子量は、好ましくは120,000以下、より好ましくは50,000以下、さらに好ましくは40,000以下である。
重合体(D)は特に限定されず、一般的に流動点降下剤として用いられるポリメタクリレート等を挙げることができる。本実施形態の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤を含まなくとも、高温においても安定した油膜強度を保つことができるため、粘度指数向上剤を含む必要がない。また仮に、粘度指数向上剤に分類される重合体(D)を含有する場合にも、上記質量比の範囲内とすることで、優れたせん断安定性を実現する。
【0033】
<ジチオリン酸亜鉛(E)>
本実施形態における潤滑油組成物は、ジチオリン酸亜鉛(E)を含有していてもよい。ジチオリン酸亜鉛(E)としては、以下の一般式(E−1)で示されるものが使用される。
【0034】
【化4】

(式中、R4〜R7は、それぞれ独立に、炭素数1〜24の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、及び炭素数1〜24の直鎖状、分岐状又は環状のアルケニル基から選ばれる基を示す)
【0035】
一般式(E−1)において、R4〜R7は、それぞれ独立に、炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状のアルキル基、又は炭素数1〜24の直鎖状、分岐状、環状のアルケニル基を示し、互いに異なってもよいし、同一であってもよいが、製造上の容易さの観点から、同一であるものが好ましい。
4〜R7は、直鎖状であることが好ましく、またR4〜R7は、アルキル基であることが好ましい。
【0036】
4〜R7におけるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基及びテトラコシル基が挙げられ、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。また、アルケニル基としては、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基,トリデセニル基,テトラデセニル基,ペンタデセニル基,ヘキサデセニル基,ヘプタデセニル基,オクタデセニル基,ノナデセニル基,イコセニル基,ヘンイコセニル基,ドコセニル基,トリコセニル基,テトラコセニル基が挙げられるが、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、二重結合の位置も任意である。
【0037】
本実施形態の潤滑油組成物がジチオリン酸亜鉛(E)を含有する場合には、その含有量は、組成物全量基準で、通常0.05質量%以上5質量%以下、好ましくは0.1質量%以上3質量%以下、より好ましくは1質量%以上2.5質量%以下である。ジチオリン酸亜鉛(E)の含有量が上記範囲であれば、例えばMTF(手動変速機油)として用いた場合に、変速時に摩擦係数(μ)を向上させることができ、シフトフィーリングを良好にすることができる。
【0038】
<基油>
本実施形態で用いる基油は、鉱油及び合成油のいずれであってもよく、鉱油と合成油との混合油を用いてもよい。
鉱油としては、例えば、パラフィン系原油、混合系原油、ナフテン系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化改質等の精製処理を1以上施した精製油及びワックス;等が挙げられる。
【0039】
本実施形態においては、スラッジ生成を抑制する観点から、API(米国石油協会)の基油カテゴリーにおいて、グループ2又は3に分類される鉱油が好ましい。またより酸化安定性を良くするために、グループ3に分類されるものがより好ましい。なお、グループ2に分類される基油は、飽和分90%以上、硫黄分が0.03%以下、及び粘度指数が80〜120未満である。グループ3に分類される基油は、飽和分90%以上、硫黄分が0.03%以下、及び粘度指数が120以上である。
硫黄分は、JIS K2541−6:2013に準拠して測定した値であり、飽和分は、ASTM D 2007に準拠して測定した値である。さらに、粘度指数はJISK 2283:2000に準拠して測定した値である。
【0040】
合成油としては、ポリオールエステル、二塩基酸エステル(例えば、ジトリデシルグルタレート等)、三塩基酸エステル(例えば、トリメリット酸2−エチルヘキシル)、リン酸エステル等の各種エステル;ポリフェニルエーテル等の各種エーテル;ポリアルキレングリコール;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;フィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTL(Gas−To−Liquids)ワックス)を異性化することで得られる合成油等が挙げられる。
【0041】
本実施形態において、これらの基油は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本実施形態で用いる基油の100℃における動粘度は、好ましくは2.0mm2/s以上30mm2/s以下、より好ましくは2.5mm2/s以上25mm2/s以下、さらに好ましくは3.0mm2/s以上20mm2/s以下である。
【0042】
本実施形態で用いる基油の粘度指数としては、温度変化による粘度変化を抑えると共に、省燃費性を向上させた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、更に好ましくは120以上である。
なお、2種以上の基油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0043】
また、本実施形態において、基油の含有量は、組成物の全量基準で、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上であり、また、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0044】
<その他添加剤>
本実施形態の変速機用潤滑油組成物は、摩擦調整剤、分散剤、消泡剤等の添加剤を含有してもよい。但し、流動点降下剤については、質量平均分子量が5000を超える重合体(D)に分類され、その他添加剤には含まれない。
添加剤の配合量は、組成物全量基準で、好ましくは10質量%以下、より好ましくは7.5質量%以下、さらに好ましくは5.0質量%以下である。
【0045】
<潤滑油組成物の物性>
本実施形態の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、4.0mm2/s以上6.0mm2/s以下である。100℃における動粘度が4.0mm2/s未満であると、油膜強度が低下し、耐焼付き性、耐摩耗性、及び耐疲労性低下等につながる。100℃における動粘度が6.0mm2/sを超えると、撹拌抵抗が大きくなり、省燃費の点で好ましくない。
本実施形態の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、より好ましくは4.5mm2/s以上5.8mm2/s以下であり、さらに好ましくは4.6mm2/s以上5.5mm2/s以下である。
【0046】
<用途,潤滑方法,変速機>
本実施形態の潤滑油組成物は、変速機油用途で好適に用いることができる。
本実施形態の潤滑油組成物は、低粘度でありつつ、実車走行時における粘度低下を抑制し、かつ耐熱性と酸化安定性とに優れる。そのため、小型軽量化された変速機において、例えばシンクロメッシュ機構におけるスラッジの付着を抑制し、良好なシフトフィーリングが得られる。また、シンクロナイザーリング動作を良好に保つことができる。そのため、本実施形態は、上述の潤滑油組成物を用いた潤滑方法及び使用方法も提供し得る。
また、本実施形態は、上述の潤滑油組成物を充填した変速機も提供し得る。
【0047】
<潤滑油組成物の製造方法>
本実施形態の潤滑油組成物は、基油に、質量平均分子量が500以上5000以下のオレフィンオリゴマー(A)、フェノール系酸化防止剤(B−1)とアミン系酸化防止剤(B−2)とを含む酸化防止剤(B)、及びアルカリ土類金属系清浄剤(C)をそれぞれ配合する潤滑油組成物の製造方法であって、アルカリ土類金属系清浄剤(C)を、前記潤滑油組成物の全量基準で、アルカリ土類金属原子換算での含有量が1700質量ppm以上2700質量ppm以下となるように配合することにより製造することができる。
【実施例】
【0048】
次に実施例により本実施形態をより具体的に説明するが、本実施形態はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0049】
<各測定方法>
(1)質量平均分子量(Mw)
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法により、標準ポリスチレン換算にて測定した。具体的には、以下の装置及び条件下で測定した。
・GPC装置:Waters 1515 Isocratic HPLC Pump + Waters 2414 Refractive Index Detector(いずれもWaters社製)
・カラム:「TSKgel SuperMultiporeHZ−M」(東ソー社製)を2本連結したもの
・カラム温度:40℃
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/min
・検出器:屈折率検出器
(2)動粘度
JIS K2283:2000に準拠し、各温度における動粘度を測定した。
(3)潤滑油組成物中のカルシウム原子の含有量、窒素原子の含有量、リン原子の含有量及び硫黄原子の含有量
上記各成分の含有量は、以下の方法により測定した。
(3−1)カルシウム原子(Ca)の含有量及びリン原子(P)の含有量
JPI−5S−38−92に準拠して測定した。
(3−2)窒素原子(N)の含有量
JIS K2609:1998に準拠して測定した。
(3−3)硫黄原子(S)の含有量
JIS K2541−6:2013に準拠して測定した。
【0050】
<評価方法>
(I)パネルコーキング試験
Federal test method 791B・3462に準拠し、パネル温度300℃、油温100℃の条件下で、スプラッシュ時間15秒、停止時間45秒のサイクルで3時間試験した。試験終了後、パネルに付着したコーキング物の重量(mg)を測定した。
(II)酸化安定性
JIS K2514−1:2013に準拠するISOT試験(165.5℃)にて、試験油(潤滑油組成物)に触媒として銅片と鉄片を入れて、試験油を強制劣化させ、96時間後の塩基価(過塩素酸法)を測定した。試験後の塩基価の値が高いほど、塩基価維持性が高く、より長期間使用可能なロングドレイン油であることを示す。また、上記ISOT試験後に、n−ペンタン不溶解分(A法)を測定した。
(III)せん断安定性
JIS K2283:2000に準拠して、試験前とせん断試験後の100℃の動粘度を測定し、下記式によりせん断安定性を算出した。また、せん断試験は、超音波A法(JPI−5S−29−06)に基づき、超音波照射時間60分、室温、油量30ccの測定条件で行った。せん断安定試験の超音波の出力電圧は、標準油30ccに超音波を10分間照射した後、100℃の動粘度低下率が25%となる出力電圧とした。
せん断安定性(%)={([試験前の動粘度]−[試験後の動粘度])/[試験前の動粘度]}×100
【0051】
実施例1〜6及び比較例1〜7
表1及び2に示す各成分を配合して、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。各実施例及び比較例で調製した潤滑油組成物について、各種試験前の酸価、40℃動粘度、100℃動粘度、カルシウム、窒素、リン及び硫黄量の測定を行った上で、上記(I)〜(III)に示す試験を行った。これらの結果も表に合わせて示す。
【0052】
【表1】


【表2】

【0053】
上記実施例及び比較例の各配合材料は以下のとおりである。
<配合材料>
(1)基油
・API基油カテゴリーのグループIIIに分類される鉱油(40℃における動粘度:18.9mm2/s,100℃における動粘度:4.2mm2/s,粘度指数:128)
(2)オレフィンオリゴマー
成分(A)
・オリゴマー1:質量平均分子量(Mw)が940のポリブテン−1
・オリゴマー2:質量平均分子量(Mw)が2300のポリブテン−1
成分(A)以外のオレフィンオリゴマー
・オリゴマー3:質量平均分子量(Mw)が10000のデセンオリゴマー
・オリゴマー4:質量平均分子量(Mw)が12000のエチレン−プロピレン
・オリゴマー5:質量平均分子量(Mw)が17000のエチレン−プロピレン
(3)酸化防止剤(B)
フェノール系酸化防止剤(B−1)
・酸化防止剤(B−1−A):オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート
・酸化防止剤(B−1−B):ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]
アミン系酸化防止剤(B−2)
・酸化防止剤(B−2−C):モノブチルフェニルモノオクチルフェニルアミン
・酸価防止剤(B−2−D):N−p−t−オクチルフェニル−1−ナフチルアミン
(4)アルカリ土類金属系清浄剤(C)
・過塩基性カルシウムスルホネート(塩基価:400mgKOH/g,JISK 2501:2003:過塩素酸法で測定)
(5)ジチオリン酸亜鉛(E)
・ジヘキシルジチオリン酸亜鉛(n−ヘキシル基)
(6)その他添加剤:硫黄系極圧剤、分散剤、無灰系摩擦調整剤及び消泡剤
【0054】
表1より、実施例1〜6の潤滑油組成物は、低い100℃動粘度を有すると共に、耐熱性及び酸化安定性に優れることがわかる。また、せん断により粘度低下を引き起こす粘度指数向上剤等の分子量の高い重合体を必要としないため、せん断試験後であっても粘度低下率が低く、実車走行時における粘度低下を十分に抑制することができることがわかる。
一方、表2より、以下のことがわかる。比較例1から、潤滑油組成物の全量基準での、成分(C)のカルシウム原子換算での含有量が本実施形態に満たないと、酸化安定性に劣ることがわかる。比較例2のように、潤滑油組成物の全量基準での、成分(C)のカルシウム原子換算での含有量が高すぎると、スラッジ量が高くなり耐熱性に劣ることがわかる。比較例3〜5のようにオレフィンオリゴマーとして本願範囲外の質量平均分子量のものを用いると、耐熱性に劣ることがわかる。特に、比較例5では、オリゴマーが質量平均分子量17,000のものを用いているためせん断安定性に劣る。比較例6及び7から、酸化防止剤(B)としてフェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤とを併用しない場合には、やはり耐熱性に劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、低粘度化を達成しつつ、実車走行時における粘度低下を抑制し、また装置の小型軽量化に伴う耐熱性及び酸化安定性の向上を達成する潤滑油組成物を提供することができる。