特許第6913265号(P6913265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6913265半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6913265
(24)【登録日】2021年7月13日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2021-518973(P2021-518973)
(86)(22)【出願日】2020年11月12日
(86)【国際出願番号】JP2020042175
【審査請求日】2021年4月16日
(31)【優先権主張番号】特願2019-211498(P2019-211498)
(32)【優先日】2019年11月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595179228
【氏名又は名称】日鉄マイクロメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山田 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】小田 大造
(72)【発明者】
【氏名】江藤 基稀
(72)【発明者】
【氏名】大壁 巧
【審査官】 山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−115875(JP,A)
【文献】 特開2017−212457(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115241(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/108082(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60
C22C 5/06
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含み、残部がAg及び不可避不純物からなることを特徴とする半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
【請求項2】
前記ボンディングワイヤのワイヤ表面の結晶方位を測定した結果、前記ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率が、面積率で60%以上100%以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
【請求項3】
前記ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径が0.1μm以上3.1μm未満であることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記ボンディングワイヤがさらにB,P,Ca,Cu,Zrの1種以上を総計で15at.ppm以上450at.ppm未満含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子上の電極と外部リード等の回路配線基板を接続するために利用される半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部リードの間を接合する半導体装置用ボンディングワイヤとして、線径15〜50μm程度の細線が主として使用されている。ボンディングワイヤの接合方法は超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置、ボンディングワイヤをその内部に通して接続するキャピラリ冶具等が用いられる。ボンディングワイヤの接合プロセスは、以下の通りである。まず、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、ボールを形成した後に、150℃以上300℃未満の温度範囲で加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を接合(以下、ボール接合という)する。次にループを形成した後、外部リード側の電極にワイヤ部を接合(以下、ウェッジ接合という)することで完了する。ボンディングワイヤの接合相手である半導体素子上の電極には、Si基板上にAlを主体とする合金膜を成膜した電極、外部リード側の電極にはAgめっきを施した電極が用いられることが多い。
【0003】
半導体を用いた電子部品(以下、半導体デバイスという)は、スマートフォンやパソコン等の民生品用途から自動車の電子制御部品、カーナビゲーションシステム等の車載用途に至るまで、幅広い製品で使用されている。車載向け半導体デバイスは、自動運転化技術の発展等を背景に、今後も使用量が増加していくことが予想されている。
【0004】
将来的に使用量の増加が見込まれている車載向け半導体デバイスの一つに、車載向けメモリデバイスがあげられる。車載向けメモリデバイスの開発では、主に厳しい環境での使用に耐えるためのデバイスの長寿命化、記憶容量の大容量化が進められている。ボンディングワイヤの開発においても、これらの要求に対応する技術開発が求められている。
【0005】
ボンディングワイヤには、ボール形成性、ボール接合性、ウェッジ接合性、ループ形成性等の性能を満足することが求められる。そのうえで、ボンディングワイヤの用途に応じて要求される性能を付与する必要がある。
【0006】
車載向けメモリデバイスでは、長寿命化に向けて、メモリデバイスを構成する封止樹脂やボンディングワイヤを含む接続部材の改良が進められている。半導体デバイスの寿命を加速評価する手法として、高温放置試験、高温高湿試験、熱サイクル試験等が一般的に行われる。車載用途を想定した場合、特に高温放置試験における寿命(以下、高温寿命という)が所定期間以上であることが要求される。民生品用途では、130〜150℃の環境において、500時間程度の寿命が求められることが多いのに対し、車載用途では、220℃、600時間以上の高温寿命が求められる。高温放置試験では、ボール接合部の劣化が問題となることが多い。したがって、ボンディングワイヤにはこうした課題を解決し、高温寿命を改善することが求められている。
【0007】
車載向けメモリデバイスでは、大容量化に向けて、メモリチップの薄型化、多層化が進められている。メモリチップを多段積層しているメモリデバイスでは、メモリチップ1枚あたりの厚さを薄くして、メモリチップの積層数を増やすことによって、高容量化が図られている。現在使用されているメモリチップの厚さは30〜50μmが主流であり、将来的には20μm以下まで薄くなることが想定されている。ボンディングワイヤには、このような非常に薄いメモリチップ上の電極に対してボール接合を行っても、安定して良好な接合強度を得ることが求められている。
【0008】
これらの要求性能を総合的に満足するボンディングワイヤとして、Auを用いたワイヤ(以下、Auワイヤという)が有望であると考えられる。しかしながら、Auは高価であるため、安価な材料への代替が所望されている。安価な材料を用いたボンディングワイヤとして、例えばCuを用いたワイヤやAgを用いたワイヤ(以下、Agワイヤという)が開示されている。
【0009】
特許文献1では、芯材と被覆層(外周部)から成るボンディングワイヤであって、芯材にCu、被覆層にPdを使用する例が示されている。本技術を用いた場合、CuやPdはAuに比べて硬いため、ボール接合を行った際に、メモリチップが損傷することがあり、車載向けメモリデバイスに要求される性能を満足することができなかった。
【0010】
Agは電気抵抗が低く、Auと同等程度の軟質さを有することから、メモリデバイス向けのボンディングワイヤ材料として好適と考えられる。しかしながら、Agをボンディングワイヤの材料として用いると、高温寿命の長寿命化が困難であるという課題があった。高温寿命を長寿命化する技術として、Agを主体とするボンディングワイヤに合金元素を添加する技術が開示されている。
【0011】
特許文献2では、Pt、Pd、Cu、Ru、Os、Rh、Irの1種または2種以上を合計で0.1〜10重量%含み、Ptが10重量%以下、Pdが10重量%以下、Cuが5重量%以下、Ruが1重量%以下、Osが1重量%以下、Rhが1重量%以下、Irが1重量%以下であり、残部がAg及び不可避不純物からなることを特徴とするボンディングワイヤが開示されている。本技術により、200℃の高温放置試験において、ボール接合部、ワイヤ接合部、ワイヤ、リードの各部分を含む回路の電気抵抗の上昇が抑制できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第02/23618号
【特許文献2】特開平11−288962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
車載向けメモリデバイスに使用するボンディングワイヤには、電気伝導性、ボール形成性、ウェッジ接合性、ループ形成性等の基本特性を満足したうえで、高温寿命の長寿命化、メモリチップ上の電極にボール接合を行ったときのチップ損傷の低減、良好なボール接合強度を得ることが求められる。
【0014】
車載向けメモリデバイスには、220℃の高温放置試験において、600時間以上の高温寿命が求められる。純Ag(Ag純度:99.99wt.%以上)を原料に用いたAgワイヤを使用した場合、上記要求性能を満足できなかった。これは、ボール接合部でボールがAl合金電極から剥離し、電気的な接続が失われてしまうためであった。剥離の発生箇所を明らかにするため、走査型電子顕微鏡でボール接合部の接合界面を解析した結果、ボール接合部の接合界面にはAg−Al系金属間化合物が形成されていた。Ag−Al系金属間化合物はAgAl(μ相)とAgAl(ζ相)であり、剥離は、ボールとAgAlの界面で発生していた。
【0015】
ボール接合を行うと、AgのボールとAl合金電極の接合界面において、AgとAlが拡散して、主にAgAlが形成される。高温放置試験を行うと、初期の段階ではAgとAlの拡散が進行して、AgAlが成長していく。さらに高温放置試験を続けると、やがてAg−Al系金属間化合物の成長にAl合金電極が全て消費される。その後は、Al合金電極からAg−Al系金属間化合物へのAlの拡散が起こらなくなり、AgからAg−Al系金属間化合物への拡散が主体となる。そうすると、AgAlからAgAlへの相の変化が進み、AgAlが成長していく。高温放置試験の温度が高くなるほど、Ag−Al系金属間化合物の成長速度は速くなり、Al合金電極が全て消費されるまでに要する時間は短くなる。220℃のような厳しい高温条件では、拡散速度が速くなるため、AgAlが早い段階で成長し、比較的短時間で剥離に至ったと考えられる。
【0016】
特許文献2に開示されている技術を用いた場合、220℃の高温放置試験において高温寿命の改善が見られたものの、600時間経過する前にボール接合部でボールが電極から剥離してしまい、車載向けメモリデバイスに要求される性能を十分に満足するものではなかった。
【0017】
車載向けメモリデバイスには、メモリチップ上の電極にボール接合を行ったときのチップ損傷を低減しつつ、ボール接合部において良好な接合強度を得ることが求められる。通常、Al合金電極の表面にはAl酸化膜が存在するため、Al酸化膜がAgとAlの拡散を阻害し、十分な接合強度が得られないことがあった。したがって、ボール接合において良好な接合強度を得るためには、ボール接合時にAl合金電極の表面に存在するAl酸化膜を破壊し、AgとAlを拡散させる必要がある。
【0018】
ボールが軟質過ぎる場合、Al合金電極表面のAl酸化膜を破壊するために、ボール接合を行う際の超音波の出力と荷重を高く設定する必要があった。そうすると、チップに対して強い力がかかり、チップが損傷してしまうことがあった。一方で、ボールが硬すぎる場合、ボール接合時に印加する超音波と荷重で十分にボールが変形せず、チップが損傷してしまうことがあった。
【0019】
チップ損傷の問題を解決するためには、ボール接合時の超音波の出力や荷重を低く設定し、接合を行うことが有効である。しかしながら、超音波の出力や荷重を低く設定すると、Al合金電極表面のAl酸化膜が十分破壊されず、ボール接合部において良好な接合強度を得ることが困難であった。以上から、車載向けメモリデバイスに使用されるワイヤには、ボール接合部において良好な接合強度を得ることとチップダメージを低減することを両立させることが求められる。
【0020】
車載向けメモリデバイスでは、高機能化に伴って、実装の高密度化が進んでいる。実装の高密度化に伴い、長いスパンでループを形成したときのループの高い直進性が求められる。以下、長いスパンで形成されたループを長スパンループという。高密度化した実装では、ループ同士の間隔が狭くなりループが僅かに倒れただけでもループ同士が接触し、短絡してしまう。ボンディングワイヤの接合では、短いスパンでのループと長スパンループを同じワイヤを使って形成することが一般的である。特に、長スパンループを形成した場合、ループが倒れやすくなる。したがって、ボンディングワイヤには長スパンループを形成した場合においても、安定して直進性の高いループを形成することが求められる。
【0021】
実装の高密度化に伴い、ワイヤ繰り出し性能の改善も求められる。実装の高密度化に伴い、ワイヤが細線化すると、ワイヤを繰り出す際に、ワイヤ軸方向にかかる張力によって、ワイヤが局部的に細くなってしまうことがあった。ループ部分でワイヤが局部的に細くなると、ループが部分的に湾曲してしまうことがあった。したがって、ボンディングワイヤには、ワイヤ繰り出し時のワイヤ変形を抑制することが求められる。
【0022】
また、実装の高密度化が進むと、メモリチップ上の電極の面積が小さくなるため、ボンディングワイヤの細線化が進行する。ボンディングワイヤの細線化によって課題となるのがウェッジ接合におけるワイヤ変形量の安定性である。ワイヤが細くなると、ウェッジ接合部の接合面積が減少するため、接合強度を得づらくなる。ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきが大きくなると、突発的に変形量が少なくなった場合、ウェッジ接合部において接合強度が不足し、ワイヤが電極から剥離してしまうことがあった。したがって、ボンディングワイヤには、安定して良好な接合強度を得るために、ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきを低減することが求められる。
【0023】
上記のように、車載向けメモリデバイス用途におけるワイヤにおいて、高温寿命の長寿命化、ボール接合時のチップ損傷の低減、ボール接合強度等の特性を向上させることが求められている。
【0024】
本発明は、車載向けメモリデバイス用途におけるワイヤの高温寿命の長寿命化、ボール接合時のチップ損傷の低減、ボール接合強度等の特性を向上させることができる半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に係る半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤは、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含み、残部がAg及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、車載向けメモリデバイス用途におけるワイヤの高温寿命の長寿命化、ボール接合時のチップ損傷の低減、ボール接合強度等の特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(ボンディングワイヤの構成)
本発明は、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含み、残部がAg及び不可避不純物とすることを特徴とする半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤである。以下、半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを単にボンディングワイヤとも称する。
【0028】
(高温寿命に対する有効性)
本実施形態に係るボンディングワイヤの高温寿命に対する有効性を説明する。
【0029】
220℃の高温放置試験における高温寿命を改善するためには、Ag−Al系金属間化合物の成長速度を低下させることが有効である。発明者らが鋭意検討した結果、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含むことで、220℃、600時間以上の高温放置試験後もボール接合部においてボールが電極から剥離せず、良好な接合状態を維持できることを見出した。220℃、600時間以上の高温放置試験後のサンプルについて、走査型電子顕微鏡を用いてボール接合部の断面観察を行った結果、AgAlを含むAg−Al系金属間化合物の成長が著しく抑制されていた。
【0030】
Ag−Al系金属間化合物の成長速度は、AgとAlの拡散によって律速される。ここで、In,Gaを第一元素群、Pd,Ptを第二元素群と定義すると、高温放置試験の初期段階でAg−Al接合界面に、第一元素群と第二元素群を含む合金層が形成されていた。上記合金層に含まれる第一元素群と第二元素群の濃度は、ワイヤ中に含まれる濃度よりも高い傾向が認められた。本実施形態に係るボンディングワイヤが、220℃の高温放置試験においてAg−Al系金属間化合物の成長速度を低下させた理由は、第一元素群と第二元素群を含む合金層がAgとAlの相互拡散を効果的に抑制したためと考えられる。
【0031】
ボンディングワイヤに含まれるIn,Gaの1種以上の濃度が総計で110at.ppm未満の場合、もしくはボンディングワイヤに含まれるPd,Ptの1種以上の濃度が総計で150at.ppm未満の場合は、220℃の高温試験において600時間未満でボール接合部においてボールが電極から剥離してしまった。これは、In,Gaの1種以上の総計濃度、もしくはPd,Ptの1種以上の総計濃度が低かったことにより、Ag−Al系金属間化合物の成長速度を低下させる効果が不十分であったためと考えられる。
【0032】
ボンディングワイヤに含まれるIn,Gaの1種以上の濃度が総計で500at.ppm以上、もしくはボンディングワイヤに含まれるPd,Ptの1種以上の濃度が総計で12000at.ppm以上の場合は、チップ損傷の発生頻度が増加したため、高温放置試験前の段階でボールの電極からの剥離が発生し、ボール接合を行った段階で実用が困難と判断した。
【0033】
(チップ損傷低減に対する有効性)
本実施形態に係るボンディングワイヤのチップ損傷低減に対する有効性を説明する。
【0034】
チップ損傷を低減するためには、ボールの硬さや変形能を適正な範囲内に制御することが有効である。発明者らが鋭意検討した結果、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含むことでチップ損傷を低減できることを見出した。
【0035】
これは、In,GaとPd,Ptが相乗的に作用した結果、ボールを構成する結晶粒の微細化の効果及び固溶強化の効果を利用することができ、ボールの硬さや変形能を適正な範囲に制御できたためと考えられる。
【0036】
ボンディングワイヤに含まれるIn,Gaの1種以上の濃度が総計で110at.ppm未満の場合、もしくはボンディングワイヤに含まれるPd,Ptの1種以上の濃度が総計で150at.ppm未満の場合は、ボール接合強度が不十分であった。これは、ボールが軟質過ぎてボール接合時にAl合金電極表面のAl酸化物の破壊が十分に起こらなかったためと考えられる。
【0037】
ボンディングワイヤに含まれるIn,Gaの1種以上の濃度が総計で500at.ppm以上の場合、もしくはボンディングワイヤに含まれるPd,Ptの1種以上の濃度が総計で12000at.ppm以上の場合は、チップ損傷の発生頻度が増加した。これは、ボールが硬質化し過ぎたことが原因と考えられる。
【0038】
(ボンディングワイヤの特性の向上)
以上より、車載向けメモリデバイスに求められる高温寿命の長寿命化、チップ損傷の低減、及び良好なボール接合強度を同時に実現するためには、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含むことが有効であることを見出した。
【0039】
さらに、In,Gaの好ましい濃度範囲は総計で400at.ppm以上500at.ppm未満であり、Pd,Ptの好ましい濃度範囲は総計で7000at.ppm以上12000at.ppm未満であることを見出した。これは、車載向けメモリデバイスに求められる高温寿命を長寿命化する効果が特に優れるためである。この理由は、In,Gaを好ましい濃度範囲とし、かつPd,Ptを好ましい濃度範囲とすることにより、AgAlを含むAg−Al系金属間化合物の成長が抑制される効果が顕著に表れたためと考えられる。
【0040】
本実施形態に係るボンディングワイヤは、車載向けメモリデバイスに要求される性能と低コスト化を同時に満足でき、Auワイヤの代替が可能であることが明らかになった。
【0041】
(濃度分析方法)
ボンディングワイヤに含まれる元素の濃度分析には、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置、またはICP質量分析装置を利用することができる。ボンディングワイヤの表面に酸素や炭素等の汚染物由来の元素が吸着している場合には、分析を行う前に酸洗を行っても良い。
【0042】
(ワイヤ表面の結晶方位)
本実施形態に係るボンディングワイヤは、さらにボンディングワイヤのワイヤ表面の結晶方位を測定した結果において、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率が、面積率で60%以上100%以下であることにより、長スパンループを形成した場合のループ直進性が改善できる。
【0043】
(ループ直進性)
長スパンループを形成したときのループ直進性を改善するためには、ループ部分のワイヤ軸方向に対する結晶方位の配向性の制御が有効である。発明者らが鋭意検討した結果、さらにボンディングワイヤのワイヤ表面の結晶方位を測定した結果において、前記ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率が、面積率で60%以上100%以下とすることで、長スパンループを形成したときのループ直進性が改善することを見出した。ここで、ワイヤ軸とは、ボンディングワイヤの中心を通り、ワイヤ長手方向に平行な軸である。
【0044】
長スパンループを形成したときのループ直進性が改善した理由は、In,Gaの1種以上とPd,Ptの1種以上を上記の濃度範囲で含むことによってワイヤのワイヤ軸方向の降伏応力が高められた効果と、ワイヤ軸方向の結晶方位の配向性を高めることよってワイヤ軸方向の降伏応力を高める効果が相乗的に作用したためと推定される。
【0045】
(結晶方位の測定方法)
本明細書におけるボンディングワイヤ表面の結晶方位の測定方法について説明する。本明細書において、ワイヤ表面の結晶方位とは、ワイヤ表面に存在するAg及びAgを主体とする合金部分の結晶方位と定義する。ワイヤ表面の結晶方位の測定には、後方散乱電子線回折(EBSD:Electron BackScattered Diffraction)法を利用することができる。EBSD法に用いる装置は、走査型電子顕微鏡とそれに備え付けた検出器によって構成される。EBSD法は、試料に電子線を照射したときに発生する反射電子の回折パターンを検出器面上に投影し、その回折パターンを解析することによって、各測定点の結晶方位を決定する手法である。EBSD法によって得られたデータの解析には専用ソフト(株式会社TSLソリューションズ製 OIM analysis等)を用いることができる。本実施形態では、ボンディングワイヤを試料台に固定し、一方向からワイヤ表面に電子線を照射して、結晶方位のデータを取得する。この方法を用いることにより、ワイヤ表面の結晶方位のうち、ワイヤ軸方向に対する結晶方位を決定することができる。
【0046】
本明細書において、特定の結晶方位の存在比率の値には平均面積率を用いる。ここで、存在比率とは測定領域に対する特定の結晶方位を有する領域の面積率とする。平均面積率は、EBSD法によって少なくとも5箇所以上の測定領域で測定して得られた存在比率の各値の算術平均とする。測定領域の選択にあたっては、測定データの客観性を確保することが好ましい。その方法として、測定対象のボンディングワイヤから、測定用の試料をワイヤ軸方向に対して、3m以上5m未満の間隔で取得し、測定に供することが好ましい。測定領域は、それぞれ、走査型電子顕微鏡の画像上において、円周方向の長さがワイヤの直径の25%以下、ワイヤ軸方向の長さが40μm以上100μm未満であることが好ましい。
【0047】
(平均結晶粒径及びワイヤ繰り出し性能)
本実施形態に係るボンディングワイヤは、さらにワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径が0.1μm以上3.1μm未満であることにより、ワイヤ繰り出し性能を改善できる。
【0048】
ボンディングワイヤを接合する際には、ワイヤをスプールと呼ばれる円柱状の冶具に巻取った状態から少量ずつ繰り出す。繰り出しを行うときにはワイヤに引張応力がかかるため、ワイヤが変形して線径が細くなる可能性がある。このような現象を防ぐためには、ワイヤ軸に垂直な方向に対する機械的特性を適切に制御する必要がある。
【0049】
発明者らが鋭意検討した結果、ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径が0.1μm以上3.1μm未満であることで高い繰り出し性能が得られることを見出した。
【0050】
これは、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含むことによってワイヤ軸に垂直な方向の降伏応力が高められた効果と、ワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径を適正な範囲に制御することでワイヤ軸に垂直な方向の降伏応力が高められた効果とが、相乗的に作用したためと推定される。
【0051】
(ワイヤ断面の露出方法及び平均結晶粒径を求める方法)
ワイヤの断面を露出させる方法は、例えば、機械研磨、イオンエッチング法等を利用することができる。平均結晶粒径を求める方法は、EBSD法を用いることができる。EBSD法では隣り合う測定点間の結晶方位差を求める。これにより、結晶粒界を判定することができる。結晶粒界は方位差が15度以上のものを大傾角粒界と定義し、大傾角粒界に囲まれた領域を1つの結晶粒とした。結晶粒径は、専用の解析ソフトによって面積を算出し、その面積を円と仮定したときの直径とした。測定領域の選択にあたっては、測定データの客観性を確保することが好ましい。その方法として、測定対象のボンディングワイヤから、測定用の試料をワイヤ軸方向に対して、1m以上3m未満の間隔で取得し、測定に供することが好ましい。結晶粒径の値は、3箇所の測定領域で測定した値の算術平均とする。測定領域は、断面全体が含まれる領域とすることが好ましい。
【0052】
(ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつき)
本実施形態に係るボンディングワイヤは、さらにB,P,Ca,Cu,Zrの1種以上を総計で15at.ppm以上450at.ppm未満含むことにより、ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきを低減できる。
【0053】
ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきを低減するためには、ワイヤ軸方向の機械的特性のばらつきを低減することが有効である。本発明者らが鋭意検討した結果、さらにB,P,Ca,Cu,Zrの1種以上を総計で15at.ppm以上450at.ppm未満含むことで、ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきが低減できることを見出した。
【0054】
これは、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含むことによってワイヤ軸方向の降伏応力が高められた効果と、B,P,Ca,Cu,Zrの1種以上を総計で15at.ppm以上450at.ppm未満含まれることによってワイヤが主に固溶強化によってワイヤ軸方向の降伏応力が高められる効果とが、相乗的に作用したためと考えられる。ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきにはワイヤ表面の影響よりもワイヤ内部の影響が大きいと推定されることから、上記の添加元素を添加することが有効と考えられる。
【0055】
上記のように、B,P,Ca,Cu,Zrの1種以上の総計濃度を15at.ppm以上450at.ppm未満とすることで、ワイヤ軸方向の降伏応力を高める効果があり、ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきを低減できるが、B,P,Ca,Cu,Zrの1種以上を総計濃度8at.ppm以上15at.ppm未満含む場合でも、In,Gaの1種以上とPd,Ptの1種以上とを上記の濃度範囲で含む場合は、ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のばらつきについて実用上問題ないことが確認できた。
【実施例】
【0056】
(ボンディングワイヤの製造)
本発明の実施例に係るボンディングワイヤの製造方法を説明する。原材料となるAgは純度が99.9at.%以上で、残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。In,Ga,Pd,Pt,B,P,Ca,Cu,Zrは、純度が99.9at.%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。ボンディングワイヤに用いるAg合金は、カーボンるつぼに加工した直径がφ3mm以上φ6mm未満の溝に、Ag原料と合金化したい原料を装填し、高周波加熱炉を用いて溶解することにより製造した。溶解時の炉内の雰囲気は、Arガス雰囲気とした。溶解時の最高到達温度は1050℃以上1300℃未満の範囲とした。溶解後の冷却方法は炉冷とした。溶解後のインゴットの表面が硫化していた場合や、有機物等が吸着していた場合には、必要に応じて脱脂、酸洗を行った。
【0057】
溶解によって得られたφ3mm以上φ6mm未満の円柱状のインゴットに対し、ダイスを用いて伸線加工等を行い、φ20μmのワイヤを作製した。伸線加工時には、ワイヤとダイスの接触界面における潤滑性を確保するため、市販の潤滑液を用いた。伸線加工時のダイス1個あたりの減面率は、10.5%以上14.5%未満とした。ここで、減面率とは、伸線加工を行う前のワイヤの断面積に対する、伸線加工によって減少したワイヤの断面積の比率を百分率で表した値である。伸線加工時のワイヤ送り速度は20m/分以上300m/分未満とした。伸線加工後のワイヤは、最終的に破断伸びが9%以上15%未満となるよう最終熱処理を実施した。最終熱処理はワイヤを連続的に掃引しながら行った。最終熱処理中の雰囲気はArガス雰囲気とした。最終熱処理の熱処理温度は、370℃以上650℃未満、熱処理時間は0.1秒以上1.5秒未満とした。
【0058】
(結晶方位の存在比率の制御)
ボンディングワイヤのワイヤ表面の結晶方位を測定した結果、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率を面積率で60%以上100%以下に制御するために、ダイス1個あたりの減面率を12.0%以上13.5%未満の範囲に制御することが有効であった。
【0059】
この手法が有効である理由について説明する。ダイス1個あたりの減面率を大きくすることにより、ワイヤ表面に<100>結晶方位が発達し易くなる。また、伸線加工によって発達した<100>結晶方位は、その後、最終熱処理を行った後も大部分が引き継がれる。したがって、最終熱処理後のワイヤ表面の結晶方位は、伸線加工時の結晶方位を制御することによって制御することができる。なお、ダイス1個あたりの減面率が12.0%よりも小さい場合は、上記<100>結晶方位の存在比率が60%未満であった。ダイス1個あたりの減面率が13.5%以上の場合は、伸線加工中のワイヤの断線発生頻度が増加したため評価を中止した。
【0060】
(平均結晶粒径の制御)
ワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径を0.1μm以上3.1μm未満に制御するためには、例えば、伸線加工でφ20μmに到達する前の線径(以下、中間線径という)で、材料中に導入された加工ひずみを取り除くために必要な熱処理条件で熱処理(以下、中間熱処理という)を実施することが有効である。
【0061】
(中間熱処理)
中間熱処理の目的は、伸線加工によって材料に導入されたひずみの一部を一旦取り除くことにある。これにより、中間線径から最終線径であるφ20μmに達するまでに材料中に導入されるひずみ量を一定の範囲内に制御することができる。最終熱処理によって得られる再結晶粒の大きさは、主に最終線径に達するまでに材料中に導入されたひずみ量に依存する。したがって、中間熱処理を行う線径や熱処理条件を制御することで、最終熱処理後の結晶粒径を精度良く制御することが可能となる。ワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径を0.1μm以上3.1μm未満の範囲に制御するための中間熱処理方法とその条件の一例を以下に示す。
【0062】
中間熱処理はワイヤを連続的に掃引する方法を用いることができる。この方法を用いてφ150μm以上220μm未満の線径で、380℃以上420℃未満の温度範囲で中間熱処理を行うことが有効である。中間熱処理時の熱処理時間は0.1秒以上1.5秒未満とすることが有効である。中間熱処理の雰囲気は酸化や硫化を防ぐためにArガス雰囲気等の不活性雰囲気とすることが望ましい。
【0063】
(ボンディングワイヤの評価方法)
次にボンディングワイヤの評価方法及び評価結果について説明する。評価に用いるボンディングワイヤの線径はφ20μmとした。リードフレームにはCu合金製のものを用いた。半導体素子にはSiを使用したチップを用いた。半導体素子上の電極には、組成がAl−1%Si−0.5%Cu、厚さが1.5μmのものを用いた。外部電極には上記リードフレームにAgをめっきしたものを用いた。ボンディングワイヤの接合には市販のワイヤボンダー(K&S社製IConn)を用いた。本評価に用いたボールの直径は34μm以上36μm未満の範囲とした。ボールを形成する際は、N+5%Hガスを0.4L/min以上0.6L/min未満の流量で流した。
【0064】
(高温寿命の評価方法)
高温寿命の評価方法について説明する。ボール接合の条件は、一般的なAgワイヤの接合条件を用いた。上記の条件で144箇所の半導体素子上の電極に対し、ボール接合を行った後、ボール接合部、ウェッジ接合部及びループ部全体が覆われるようにエポキシ系の樹脂で封止した。続いて、上記手順により作製したサンプルを恒温炉内に放置した。高温放置試験の試験条件は220℃、600時間以上とした。恒温炉内の雰囲気は大気雰囲気とした。高温放置試験後のサンプルについて、断面研磨を行い、ボール接合部を露出させた。無作為に抽出したボール接合部を10箇所観察し、ボールが電極から剥離しているかどうかを調べた。上記の評価において、600時間経過した時点で、1箇所でも剥離が発生していれば実用上問題があると判断し0点、全ての箇所で剥離が発生していなければ、実用上問題ないと判断し1点とした。さらに、800時間経過した時点で、全ての箇所で剥離が生じていなければ、優れていると判断し2点とした。評価結果は、表2−1、表2−2及び表2−3の「高温寿命(220℃)」の欄に表記した。0点が不合格であり、1点、2点は合格である。
【0065】
(ボール接合時のチップ損傷の評価方法)
ボール接合時のチップ損傷の評価方法について説明する。ボール接合時のチップ損傷の評価は、チップ損傷の発生を加速評価するために、通常のボール接合の条件よりも厳しい条件で行った。具体的には、チップの厚さを20μmとし、超音波の出力を一般的な条件の1.5倍、荷重の条件を一般的な条件の1.3倍とした。チップ損傷の有無の確認は、ボール接合を行ったボール接合部の断面を機械研磨によって露出させ、チップに割れ等の損傷が発生しているかどうかを調べた。チップ損傷の有無の確認には走査型電子顕微鏡を用いた。5箇所のチップを観察し、1箇所でも損傷が認められた場合は実用上問題があると判断し0点とした。5箇所ともチップの損傷が認められなければ、実用上問題ないと判断し1点とした。評価結果は、表2−1、表2−2及び表2−3の「ボール接合時のチップ損傷」の欄に表記した。0点が不合格であり、1点は合格である。
【0066】
(ボール接合部の接合強度の評価方法)
ボール接合部の接合強度の評価方法について説明する。ボール接合部の接合強度評価は、一般的な接合条件でボール接合を行い、ボール接合部のシェア強度の測定値によって評価した。接合強度の測定には、市販の微小シェア強度試験機を用いた。ボール接合部のシェア強度試験によって得られた接合強度の値が12gf以下であった場合は不良と判定した。無作為に選択した20箇所のボール接合部のシェア強度を測定した結果、不良が3箇所以上であれば実用上問題があると判断し0点、不良が2箇所以下であれば実用上問題ないと判断し1点とした。評価結果は、表2−1、表2−2及び表2−3の「ボール接合部の接合強度」の欄に表記した。0点が不合格であり、1点は合格である。
【0067】
(長スパンのループを形成したときのループ直進性の評価方法)
長スパンのループを形成したときのループ直進性の評価方法について説明する。ループの形成条件は、長スパンループを意識して、通常のループ形成条件よりも厳しい条件であるループ長15.0mm、ループ高さ0.5mmとした。接合した144本のボンディングワイヤのループ部分を光学顕微鏡で観察し、隣接するボンディングワイヤが接触した箇所があれば不良と判定した。不良が3箇所以上あれば実用上問題があると判断し0点、不良が1箇所もしくは2箇所であれば実用上問題ないと判断し1点、不良が全く発生しなければ特に優れていると判断し2点とした。評価結果は、表2−1、表2−2及び表2−3の「長スパンのループを形成したときのループ直進性」の欄に表記した。0点が不合格であり、それ以外が合格である。
【0068】
(ワイヤ繰り出し性能の評価方法)
ワイヤ繰り出し性能の評価方法について説明する。ワイヤ繰り出し性能は、接合前のワイヤの直径に対する接合後のワイヤの直径の比率によって評価した。接合前のワイヤの直径はφ20μmである。接合後のワイヤの直径は、接合したワイヤのループ部分を走査型電子顕微鏡によって観察した結果を用いた。上記比率が95%以下であれば実用上問題があると判断し0点、上記比率が95%超97%以下であれば実用上問題がないと判断し1点、上記比率が97%超であれば特に優れていると判断し2点とした。評価結果は、表2−1、表2−2及び表2−3の「ワイヤ繰り出し性能」の欄に表記した。0点が不合格であり、それ以外が合格である。
【0069】
(ウェッジ接合におけるワイヤ変形量の評価方法)
ウェッジ接合におけるワイヤ変形量の評価方法について説明する。ウェッジ接合時のステージの温度は180℃とした。超音波や荷重の条件は一般的なAgワイヤの接合で使用する条件を用いた。無作為に選択した10箇所の変形量を測定し、その標準偏差によって評価した。変形量の測定は、超音波の印加方向に平行な方向と垂直な方向について行った。上記の評価において、平行な方向、垂直な方向の片方もしくは両方の方向の変形量の標準偏差が1.2μm以上であれば実用上問題があると判断し0点、両方の方向の変形量の標準偏差が0.6μm以上1.2μm未満であれば、実用上問題ないと判断し1点、両方の方向の変形量の標準偏差が0.6μm未満であれば、特に優れていると判断し2点とした。また、ウェッジ接合におけるワイヤ変形量のうち、超音波の印加方向に垂直な方向の変形量がワイヤの直径の1.6倍未満の場合は、十分なワイヤ接合部の接合強度が得られない可能性が高いことから、実用上問題があると判断し0点とした。評価結果は、表2−1、表2−2及び表2−3の「ウェッジ接合におけるワイヤ変形量」の欄に表記した。0点が不合格であり、それ以外が合格である。
【0070】
(評価結果の説明)
表1−1及び表1−2は、本実施例に係わるボンディングワイヤの組成、ワイヤ表面においてワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率(%)、ワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径(μm)をまとめて示す。表1−3は比較例を示している。表2−1及び表2−2は、表1−1及び表1−2に示す各実施例に対応する評価結果をまとめて示す。表2−3は、表1−3に示す各比較例に対応する評価結果をまとめて示す。
【0071】
実施例No.1〜45のボンディングワイヤは、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含んでいる。実施例No.1〜45のボンディングワイヤは、車載向けメモリデバイスに要求される高温寿命の長寿命化、チップ損傷の低減、及び良好なボール接合強度を同時に実現できることを確認した。これに対し比較例のNo.1〜12に示すように、In,Gaの濃度やPd,Ptの濃度が上記の範囲外の場合には十分な効果が得られないことを確認した。
【0072】
実施例No.1〜5、7〜10、12、13、15〜19、21〜30、33〜35、38〜45は、ボンディングワイヤのワイヤ軸方向に対して角度差が15度以下である<100>結晶方位の存在比率が、面積率で60%以上100%以下であり、長スパンループを形成したときの優れたループ直進性が得られることを確認した。実施例6、11、14、20、31、32、36、37は上記の面積率が60%未満であり、ループ直進性は実用上問題のない範囲であった。
【0073】
実施例No.1〜23、26〜45は、ボンディングワイヤのワイヤ軸に垂直な方向の断面における平均結晶粒径が0.1μm以上3.1μm未満であり、優れたワイヤ繰り出し性能が得られることを確認した。実施例24、25は上記の平均結晶粒径が0.1μm未満あるいは3.1μm以上であり、ワイヤ繰り出し性能は実用上問題のない範囲であった。
【0074】
実施例No.26〜30、36〜45は、B,P,Ca,Cu,Zrの1種以上を総計で15at.ppm以上450at.ppm未満含み、ウェッジ接合時のワイヤ変形量のばらつきが小さく特に優れていた。実施例1〜25、31〜35のB,P,Ca,Cu,Zrの1種以上の総計の含有率は15at.ppm未満であり、ウェッジ接合時のワイヤ変形量のばらつきは実用上問題のない範囲であった。
【0075】
【表1-1】
【0076】
【表1-2】
【0077】
【表1-3】
【0078】
【表2-1】
【0079】
【表2-2】
【0080】
【表2-3】

【要約】
車載向けメモリデバイス用途におけるワイヤの高温寿命の長寿命化、ボール接合時のチップ損傷の低減、ボール接合強度等の特性を向上させることができる半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤを提供することを目的とする。本発明に係る半導体装置用Ag合金ボンディングワイヤは、In,Gaの1種以上を総計で110at.ppm以上500at.ppm未満含み、かつPd,Ptの1種以上を総計で150at.ppm以上12000at.ppm未満含み、残部がAg及び不可避不純物からなることを特徴とする。