(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913281
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】MoWターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20210727BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20210727BHJP
C22C 1/04 20060101ALN20210727BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C27/04 102
C22C27/04 101
!C22C1/04 D
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-120192(P2017-120192)
(22)【出願日】2017年6月20日
(65)【公開番号】特開2019-2064(P2019-2064A)
(43)【公開日】2019年1月10日
【審査請求日】2020年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福岡 淳
(72)【発明者】
【氏名】青木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 和也
(72)【発明者】
【氏名】上野 英
【審査官】
有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−307226(JP,A)
【文献】
国際公開第95/016797(WO,A1)
【文献】
特開平03−039464(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/018402(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B22F 1/00−8/00
C22C 1/04,27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Wを30〜40原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成を有し、X線回折法によりbccの(110)面におけるCoKα線源で測定されるW相の最大強度が47.35°≦回折角(2θ)≦47.45°の範囲にあるMoWターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング等の物理蒸着技術に用いられるMoWターゲット材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、平面表示装置の一種である、例えば薄膜トランジスタ(以下、「TFT」という。)型液晶ディスプレイ等には、ゲート電極上に形成されたゲート絶縁膜上に電子の移動度が大きい低温ポリシリコン膜を形成した低温ポリシリコン(以下、「LTPS」という。)TFTが採用されている。このLTPS TFTの製造では、例えば450℃以上の活性化熱処理といった高温プロセスが必須である。このため、ゲート電極は、変形や溶融が生じないように高温特性や耐食性等に優れる材料が要求されており、MoやMo合金といった高融点材料が適用されている。
【0003】
この高融点材料からなるゲート電極としては、例えば、特許文献1のように、Moに8.0〜20.0原子%未満の割合でWを含有させたMoWターゲット材の開示があり、このMoWターゲット材をスパッタリングして、MoW合金薄膜からなるゲート電極を形成する技術が提案されている。特許文献1に開示のあるMoWからなるゲート電極は、450℃以上の活性化熱処理に対しても変形も溶融もせず、ヒロックが形成されないという点で、平面表示装置の製造に有用な技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再公表2012/067030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によると、特許文献1に開示されるMoWターゲット材を用いて形成したMoW合金薄膜中のW含有量が過大となり、狙い組成に対してMoW合金薄膜の組成が乖離する、膜組成のずれという新たな問題が発生する場合があることを確認した。そして、この膜組成のずれという問題は、LTPSのTFT特性の不安定化に繋がり、平面表示装置の高精細化や信頼性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0006】
本発明の目的は、上記課題に鑑み、膜組成のずれを抑制し、安定したTFT特性が得られるMoW合金薄膜を形成可能なMoWターゲット材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、LTPS TFTのゲート電極として、MoW合金を採用したした際に、TFT特性の不安定化が、上記した膜組成のずれに起因するものであることを知見した。また、この膜組成のずれという問題は、MoWターゲット材中のWがマトリックスのMo相に拡散することにより発生することを確認した。
そして、本発明者は、膜組成のずれを抑制するためには、MoWターゲット材のX線回折法によるbccの(110)面におけるW相の最大強度位置を所定の回折角(2θ)の範囲に制御する必要があることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、Wを30〜40原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成を有し、X線回折法によりbccの(110)面におけるCoKα線源で測定されるW相の最大強度が47.30°<回折角(2θ)≦47.50°の範囲にあるMoWターゲット材である。
【0009】
前記回折角(2θ)は、47.35°≦回折角(2θ)≦47.45°の範囲であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のターゲット材を用いることにより、スパッタリング時の膜組成のずれを抑制できる。これにより、例えばLTPSにおける安定したTFT特性が得られるゲート電極を形成することができ、平面表示装置の製造に寄与する有用な技術となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】MoWターゲット材のbccの(110)面におけるW相のX線回折結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、例えば、LTPS TFTのゲート電極を形成するために、MoWターゲット材をスパッタリング装置のチャンバー内に配置してスパッタリングすると、ゲート電極となるMoW合金薄膜中のW含有量が過大となり、上記した膜組成のずれという新たな問題が発生する場合があることを確認した。そして、この問題は、MoWターゲット材に含まれるWの拡散度合いにより誘発されることを確認した。
【0013】
本発明のMoWターゲット材は、X線回折法によりbccの(110)面におけるCoKα線源で測定されるW相の最大強度の回折角(以下、「W相の2θ」という。)が47.30°<2θ≦47.50°の範囲にある。
W相の2θが47.30°以下の場合は、MoWターゲット材中のWがMo相に拡散してしまう。このようなMoWターゲット材を用いてスパッタリングを行なうと、Mo相に拡散したWが、純W相に比べて過多に基板へスパッタリングされてしまうため、膜組成にずれが生じる。このため、本発明のMoWターゲット材は、W相の2θを47.30°超とする。そして、上記と同様の理由から、本発明のMoWターゲット材は、W相の2θを47.35°以上にすることが好ましく、47.37°以上がより好ましい。
【0014】
一方、W相の2θが47.50°を超えると、Mo相へのWの拡散が抑制されるものの、純W相から基板へのスパッタリングが過少となり、膜組成にずれが生じる。このため、本発明では、W相の2θを47.50°以下にする。そして、上記と同様の理由から、本発明のMoWターゲット材は、W相の2θを47.45°以下にすることが好ましく、47.42°以下がより好ましい。
【0015】
本発明のMoWターゲット材は、Wを30〜40原子%含有し、残部がMoおよび不可避的不純物からなる組成を有する。Wの含有量は、LTPS TFTのゲート電極としてMoW合金を使用した際に、低抵抗性やエッチャントに対する耐エッチング性等の特性を維持することが可能で、高い移動度を具備する平面表示装置を製造することが可能な範囲として規定するものである。そして、上記と同様の理由から、Wの含有量は、33〜37原子%の範囲が好ましい。
【0016】
以下に、本発明のMoWターゲット材の製造方法の一例を説明する。
本発明のMoWターゲット材は、例えば、Mo粉末とW粉末を原料粉末として用意し、この原料粉末を混合した後に加圧容器に充填し、この加圧容器を加圧焼結して焼結体を作製し、この焼結体に機械加工を施して得ることができる。ここで、原料粉末に用いるMo粉末は、平均粒径(累積粒度分布のD50、以下「D50」という。)が5〜9μmのMo粉末や、このMo粉末とD50が20〜70μmのMo粉末を混合した混合Mo粉末を用いることで、Mo相の偏析を抑制しつつ安定化させ、WがMo相に拡散することを抑制できる点で好ましい。また、原料粉末に用いるW粉末は、D50が1〜6μmのW粉末を用いることで、WがMo相に拡散せず単独で存在する組織を得ることができる点で好ましい。
そして、本発明のMoWターゲット材を得るには、上記の原料粉末を加圧焼結をする前に、上記の加圧容器を400〜500℃に加熱して真空脱気してから封止をすることで、次工程の加圧焼結でMo相にWが拡散することを抑制できる点で好ましい。
【0017】
加圧焼結は、例えば、熱間静水圧プレスやホットプレスを適用することが可能であり、1000〜1500℃、80〜160MPa、1〜15時間の条件で行なうことが好ましい。これらの条件の選択は、得ようとするMoWターゲット材の成分、サイズ、加圧焼結設備等に依存する。例えば、熱間静水圧プレスは、低温高圧の条件が適用しやすく、ホットプレスは、高温低圧の条件が適用しやすい。本発明では、長辺が2m以上の大型のMoWターゲット材を得ることが可能な熱間静水圧プレスを用いることが好ましい。
【0018】
ここで、焼結温度は、1000℃以上にすることで、焼結を促進させ、緻密な焼結体を得ることができる点で好ましい。一方、焼結温度は、1500℃以下にすることで、焼結体の結晶の成長を抑制し、Wの拡散が抑制された均一で微細な組織を得ることができる点で好ましい。
また、加圧力は、80MPa以上にすることで、焼結を促進させ、緻密な焼結体を得ることができる点で好ましい。一方、加圧力は、160MPa以下にすることで、汎用の加圧焼結装置を用いることができる点で好ましい。
また、焼結時間は、1時間以上にすることで、焼結を促進させ、緻密な焼結体を得ることができる点で好ましい。一方、焼結時間は、15時間以下にすることで、製造効率を阻害することなく、Wの拡散が抑制された緻密な焼結体を得ることができる点で好ましい。
【実施例】
【0019】
先ず、D50が6μmのMo粉末とD50が3μmのW粉末とを、原子%で65%Mo−35%Wとなるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、上記で用意した混合粉末を、軟鋼製の加圧容器に充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、温度1250℃、圧力145MPa、5時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、本発明例1となるMoWターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0020】
また、D50が6μmのMo粉末と、D50が30μmのMo粉末と、D50が3μmのW粉末とを、原子%で65%Mo−35%Wとなるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、上記で用意した混合粉末を、軟鋼製の加圧容器に充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、温度1250℃、圧力145MPa、5時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、本発明例2となるMoWターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0021】
また、D50が6μmのMo粉末と、D50が3μmのW粉末と、D50が200μmのMoW粉末とを、原子%で65%Mo−35%Wとなるように、クロスロータリー混合機で混合して混合粉末を用意した。
次に、上記で用意した混合粉末を、軟鋼製の加圧容器に充填して、脱気口を有する上蓋を溶接した。そして、この加圧容器を450℃の温度で真空脱気をして封止をした後、温度1250℃、圧力145MPa、5時間の条件で熱間静水圧プレス処理を行ない、比較例となるMoWターゲット材の素材となる焼結体を得た。
【0022】
上記で得た各焼結体について、株式会社リガク製のX線回折装置(型式:RINT2000)で、線源にCoを用いて回折最大強度を測定した。そして、得られた最大強度の内、bccの(110)面におけるW相のX線回折結果を
図1に示す。そして、W相の最大強度の位置、すなわち回折角(2θ)を表1に示す。
また、上記で得た各焼結体を、それぞれ、直径180mm×厚さ7mmとなるように機械加工してMoWターゲット材を作製した。そして、これらのMoWターゲット材をキヤノンアネルバ株式会社製のDCマグネトロンスパッタ装置(型式:C3010)のチャンバー内にそれぞれ配置して、Arガス圧0.5Pa、投入電力500Wの条件で、ガラス基板上に厚さ300nmのMoW合金薄膜を形成した。
上記で得た各MoW合金薄膜の膜組成を、Cameca社製の二次イオン質量分析(SIMS)装置(型式:IMS−4F)で測定した。その結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
表1および
図1の結果から、本発明のMoWターゲット材は、W相の2θが47.30°<2θ≦47.50°の範囲内にあり、得られたMoW合金薄膜の組成が狙い組成に対して、1原子%の誤差範囲であり、本発明の有用性が確認できた。
一方、W相の2θが47.30°<2θ≦47.50°の範囲外である比較例となるターゲット材は、得られたMoW合金薄膜の組成が狙い組成に対して、3原子%もずれていることが確認された。