特許第6913772号(P6913772)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6913772
(24)【登録日】2021年7月14日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】安定同位体濃縮装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/04 20060101AFI20210727BHJP
【FI】
   B01D59/04
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-2358(P2020-2358)
(22)【出願日】2020年1月9日
(65)【公開番号】特開2021-109145(P2021-109145A)
(43)【公開日】2021年8月2日
【審査請求日】2020年12月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 勇斗
(72)【発明者】
【氏名】神邊 貴史
【審査官】 小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−104756(JP,A)
【文献】 特開平11−19401(JP,A)
【文献】 特開平6−205901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 59/04
B01D 3/00−3/42
F25J 3/00−3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留によって安定同位体を濃縮する安定同位体濃縮装置であって、
複数の蒸留塔が直列に接続された蒸留塔群と、
前記蒸留塔群のうち、一の蒸留塔に原料を供給する原料供給ラインと、
前記蒸留塔群のうち、前記一の蒸留塔よりも後段に位置する他の蒸留塔から製品を導出する製品導出ラインと、を備え、
前記一の蒸留塔が棚段塔であり
記他の蒸留塔が充填塔であり
前記蒸留塔群は、前記一の蒸留塔を含む1以上の棚段塔からなる棚段塔群と、前記他の蒸留塔を含む1以上の蒸留塔からなる充填塔群と、を有し、
前記棚段塔群の後段に前記充填塔群が位置する、安定同位体濃縮装置。
【請求項2】
前記棚段塔は、濃縮対象の安定同位体の塔底濃度が天然存在比以上であり、20原子%以下である、請求項に記載の安定同位体濃縮装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定同位体濃縮装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自然界に極僅かに存在する安定同位体を分離する方法として、熱拡散分離、遠心分離、レーザ分離、化学交換分離、蒸留分離などがある。これらの中でも、蒸留分離は、軽元素の同位体の大量生産に向いており、たとえば工業的な酸素の安定同位体分離方法として、水の蒸留分離や酸素の蒸留分離等に採用されている。
【0003】
蒸留による安定同位体の分離の特徴として、起動時間が長い点が挙げられる。起動時間とは、蒸留塔全体に製品濃度までの濃度分布ができるまでに必要な時間をいい、装置の運転を開始してから製品を採取できるまでの時間である。起動時間に寄与する要素として、液ホールドアップ量が挙げられる。安定同位体の濃縮では、起動時間が長いために製造コストが高くなるという課題がある。
【0004】
蒸留による安定同位体の分離のもう一つの特徴として、分離係数が極めて1に近く、高濃度の安定同位体を得るために、数千程度の理論段数が必要となる点が挙げられる。蒸留塔の高さには制限があるため、蒸留塔を複数に分割し、これらの複数の蒸留塔を直列に接続することが必要となる。なお、安定同位体は天然存在比が小さいため、原料の供給量に対して製品の回収量が非常に小さい。そのため、複数の蒸留塔のうち、原料を供給する塔の塔径が最も大きくなり、回収部・濃縮部となる末端の塔に近づくにつれて、塔内の製品の濃度が高くなることから塔径を小さくできる(ステップカスケード)。これにより、設備コストの削減だけでなく、液ホールドアップ量が減少するため、起動時間の短縮にもつながる。
【0005】
特許文献1には、蒸留による安定同位体の濃縮装置において、起動時間を短縮するために液ホールドアップ量の少ない充填塔として、規則充填物を充填した充填塔を採用する。これにより、液ホールドアップ量をより低減し、起動時間の短縮に成功している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−188240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方で、塔径を小さくするためには、前塔よりも塔径を小さくする塔においてコンデンサ及びリボイラをそれぞれ設ける必要があり、コンデンサとリボイラの数の増加によって動力が増加する。このように、起動時間を短縮させるためにはコンデンサ及びリボイラに必要な動力を増加させる必要があり、起動時間の短縮と、設備コスト及び電力の低減とはトレードオフの関係にあるという課題がある。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、起動時間の短縮と、設備コスト及び電力の低減とのバランスに優れる安定同位体濃縮装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 蒸留によって安定同位体を濃縮する安定同位体濃縮装置であって、
複数の蒸留塔が直列に接続された蒸留塔群と、
前記蒸留塔群のうち、一の蒸留塔に原料を供給する原料供給ラインと、
前記蒸留塔群のうち、前記一の蒸留塔よりも二次側に位置する他の蒸留塔から製品を導出する製品導出ラインと、を備え、
前記一の蒸留塔が棚段塔であり、前記他の蒸留塔が充填塔である、安定同位体濃縮装置。
[2] 前記蒸留塔群は、
前記一の蒸留塔を含む1以上の棚段塔からなる棚段塔群と、
前記他の蒸留塔を含む1以上の蒸留塔からなる充填塔群と、を有し、
前記棚段塔群の二次側に前記充填塔群が位置する、前記[1]に記載の安定同位体濃縮装置。
[3] 前記棚段塔は、濃縮対象の安定同位体の塔底濃度が天然存在比以上であり、20原子%以下である、前記[1]又は[2]に記載の安定同位体濃縮装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の安定同位体濃縮装置は、起動時間の短縮と、設備コスト及び電力の低減とのバランスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
図2】本発明の試験例に係る安定同位体濃縮装置を示す系統図である。
図3】本発明の試験例に係る安定同位体濃縮装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について、添付の図面を参照し、実施形態を示して詳細に説明する。
なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0013】
<安定同位体濃縮装置>
図1は、本発明の実施形態に係る安定同位体濃縮装置の主要部を示す系統図である。
本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、複数の蒸留塔が直列(カスケード方式)で接続された蒸留塔群と、複数のコンデンサ21と、複数のリボイラ22と、原料供給ライン30と、製品導出ライン31と、を備える。
【0014】
以下、蒸留塔群の上流側末端からn番目の蒸留塔を第nの蒸留塔という。
第1の蒸留塔1〜第nの蒸留塔nは、塔番号の順で、カスケード接続されている。
第1の蒸留塔1〜第nの蒸留塔nは、冷却された安定同位体を低温で蒸留することで、塔頂側に沸点の低い安定同位体を濃縮し、塔底側に沸点の高い安定同位体を濃縮するようになっている。原料が供給される第1の蒸留塔が最も塔径が大きく、末端に向かって徐々に塔径が小さくなっている。
【0015】
第1の蒸留塔1〜第j−1の蒸留塔j−1はそれぞれ棚段が設けられた蒸留塔(以下、「棚段塔」という)となっており、第jの蒸留塔j〜第nの蒸留塔nはそれぞれ規則充填物が充填された蒸留塔(以下、「充填塔」という)となっている。
なお、図1では、第1の蒸留塔1〜第nの蒸留塔nのうち、棚段塔であり、原料である安定同位体が供給される塔(一の蒸留塔)である第1の蒸留塔1、棚段塔から充填塔に切り替わる最初の塔である第jの蒸留塔j、及び製品を採取する塔(他の蒸留塔)である第nの蒸留塔nのみを図示している。
【0016】
ところで、上述したように蒸留塔には、主に棚段塔と充填塔との2種類があり、それぞれ以下の特徴を有する。
【0017】
(棚段塔の特徴)
・設備費: 塔径が大きい場合に安い
・圧力損失: 大きい
・液ホールドアップ量: 多い
・段間隔: 空気分離装置などの蒸留塔では100mm程度
【0018】
(充填塔の特徴)
・設備費: 塔径が小さい場合に安い
・圧力損失: 小さい
・液ホールドアップ量: 少ない
・H.E.T.P.(理論段相当高さ): 蒸留性能の高いもので200mm程度
【0019】
従来の安定同位体濃縮装置では、起動時間を短縮する観点から、液ホールドアップ量の少ない充填塔が多く採用されている(例えば、特許文献1)。
これに対して、棚段塔を採用することで、同じ塔高さで比較をすれば棚段塔のほうが約2倍の理論段数を稼ぐことができ、2本の蒸留塔を1本とすることで設備コストおよび動力の削減が可能となる。一方で、起動時間の長期化が懸念される。
【0020】
しかしながら、上述したように起動時間とは蒸留塔全体に製品濃度までの濃度分布ができるまでに必要な時間であるため、蒸留塔内の濃度分布で、安定同位体の天然存在比と差が小さい部分、つまり原料を供給する塔、または原料を供給する塔に近い塔であれば濃度分布ができるまでの時間は短いことが予想される。また、原料を供給する塔、または原料を供給する塔に隣接する塔では塔径が大きいために必要な動力も大きく、この部分の2塔を1塔とできることは動力削減への寄与が大きい。
【0021】
そこで、本実施形態の安定同位体濃縮装置100では、カスケード接続された複数の蒸留塔のうち、少なくとも原料を供給する塔に棚段塔を採用し、棚段塔以外の塔で規則充填物を充填した充填塔を採用する。
【0022】
具体的には、上述したように、第1の蒸留塔1〜第j−1の蒸留塔j−1は棚段塔となっており、第jの蒸留塔j〜第nの蒸留塔nは充填塔となっている。すなわち、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、1以上の棚段塔からなる棚段塔群(第1の蒸留塔1〜第j−1の蒸留塔j−1)と、1以上の充填塔からなる充填塔群(第jの蒸留塔j〜第nの蒸留塔n)とを有する。なお、棚段塔群が一次側、充填塔群が二次側となるように位置している。また、棚段塔群は、原料を供給する第1の蒸留塔1を含み、充填塔群は、製品を採取(導出)する第nの蒸留塔nを含む。
【0023】
ここで、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、各蒸留塔において濃縮対象の安定同位体の塔底濃度が天然存在比〜20%の範囲で棚段塔を使用する。すなわち、第1の蒸留塔1〜第j−1の蒸留塔j−1では、濃縮対象の安定同位体の塔底濃度が天然存在比以上であり、20原子%以下である。そして、濃縮対象の安定同位体の塔底濃度が20原子%を超える第jの蒸留塔jにおいて、棚段塔から充填塔に切り替わる。
【0024】
なお、原料を供給する塔は必ずしも第1塔である必要はなく、原料を供給する塔の前段に回収部となる蒸留塔が位置してもよい。
また、製品を採取する塔についても必ずしも最終塔(第n塔)である必要はなく、蒸留塔群の中間にあってもよい。
さらに、棚段塔の段間隔は100mm程度であることが望ましく、充填物のH.E.T.P.よりも広い段間隔であることは適さない。
【0025】
コンデンサ21は、各蒸留塔(第1の蒸留塔1〜第nの蒸留塔n)に対して、それぞれ1つ、あるいは数塔おきに設けられている。
コンデンサ21は、各蒸留塔の塔頂部の異なる位置に両端が接続された循環ライン32に設けられている。コンデンサ21は、蒸留塔内を上昇した気体を熱交換することで液化させ、再び蒸留塔内を下降させる機能を有する。
【0026】
リボイラ22は、各蒸留塔に対して、それぞれ1つ、あるいは数塔おきに設けられている。
リボイラ22は、各蒸留塔の塔底部の異なる位置に両端が接続された循環ライン33に設けられている。リボイラ22は、蒸留塔内を下降した液体を熱交換することで気化させ、再び蒸留塔内を上昇させる機能を有する。
【0027】
原料供給ライン30は、一端が第1の蒸留塔1の中間部に接続されている。原料供給ライン30は、安定同位体を第1の蒸留塔(一の蒸留塔)1の中間部に供給するための経路である。原料供給ライン30には、バルブが設けられている。
蒸留塔の中間部とは、蒸留塔の塔頂部および塔底部以外の位置を示す。
原料供給ライン30から供給される安定同位体の純度は、99.999%以上の高純度であることが望ましい。
【0028】
最終塔を除き、安定同位体の重成分の濃度が高められた各蒸留塔における塔底の蒸気の一部は、経路34によりバルブ23を経由して、次塔の塔頂に供給される。流れの推進力はある蒸留塔の塔底とその次塔の塔頂の圧力差である。次塔の塔頂に供給された蒸気は、その塔内の上昇蒸気とともにコンデンサ21で液化され、その塔の塔頂に還流される。
【0029】
また、第1の蒸留塔1を除き、安定同位体の軽成分の濃度が高められた各蒸留塔における塔頂付近の還流液の一部は、経路35によりバルブ24を経由して、前塔の塔底に供給される。流れの推進力は還流液の液頭圧である。前塔の塔底に供給された還流液は、その塔内の還流液とともにリボイラ22で気化され、その塔の塔底に還流される。
【0030】
製品導出ライン31は、濃縮された安定同位体成分を製品として第nの蒸留塔(他の蒸留塔)nから導出するための経路である。製品導出ライン31は、一端が第nの蒸留塔nの塔底部寄りの部分に接続されている。製品は、高濃度(例えば99%以上)に濃縮された安定同位体成分である。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の安定同位体濃縮装置100によれば、カスケード接続された複数の蒸留塔のうち、少なくとも原料を供給する第1の蒸留塔1に棚段塔を採用し、棚段塔以外の塔で規則充填物を充填した充填塔を採用する。これにより、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、起動時間の短縮と、設備コスト及び電力の低減とのバランスに優れる。
【0032】
以上、実施形態を示して本発明の安定同位体濃縮装置を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
【0033】
例えば、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、複数のコンデンサ21を経て熱媒体流体を循環させる熱媒体流体循環ラインを備える構成であってもよい。この熱媒体流体循環ラインを循環する熱媒体流体によって、各コンデンサ21において熱交換が行われる構成であってもよい。
【0034】
また、本実施形態の安定同位体濃縮装置100は、複数のリボイラ22を経て熱媒体流体を循環させる熱媒体流体循環ラインを備える構成であってもよい。この熱媒体流体循環ラインを循環する熱媒体流体によって、各リボイラ22において熱交換が行われる構成であってもよい。
【実施例】
【0035】
以下、試験例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0036】
(試験例1−1)
試験例1−1では、図2に示す安定同位体濃縮装置200を用いて、18Oの濃縮を行った。
安定同位体濃縮装置200は、基本的な構成は安定同位体濃縮装置100と同様である。蒸留塔群は12本の蒸留塔で構成されており、第1の蒸留塔1は棚段塔、第2〜12の蒸留塔2〜12は規則充填物が充填された充填塔である。コンデンサの寒冷源には液化窒素を用いており、液化窒素供給ライン38より各コンデンサに液化窒素が供給される。リボイラの熱源にはガス窒素を用いており、ガス窒素供給ライン39より各リボイラにガス窒素が供給される。また、安定同位体濃縮装置200は、同位体スクランブラ20を備えている。同位体濃縮ガス抜出ライン36は、一端が第9の蒸留塔9の中間部分に接続され、他端が同位体スクランブラ20に接続されており、酸素の一部または全部を抜出し、同位体スクランブラ20に供給するようになっている。同位体スクランブラ20にて同位体交換反応がされた酸素は、同位体濃縮ガス返送ライン37より第9の蒸留塔9の中間部分に返送される。
【0037】
供給する原料高純度酸素の流量と組成は、表1に示すとおりであった。
なお、第1の蒸留塔1の段間隔は100mmとした。
また、第2の蒸留塔〜第12の蒸留塔12の充填物はH.E.T.P.が200mmのものを採用した。
【0038】
装置の安定時における、棚段塔の最終塔である第1の蒸留塔1の塔底部から送出される酸素ガス中の18Oの存在割合は0.9原子%であった。
また、第12の蒸留塔12の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は表2に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は1480kWであった。安定同位体濃縮装置200の起動時間は150日であった。その結果、起動までに必要な電力量は、5328MW・hであった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
(試験例1−2)
試験例1−2では、図3に示す安定同位体濃縮装置300を用いて、18Oの濃縮を行った。
安定同位体濃縮装置300は、蒸留塔の本数が13本であり、第1の蒸留塔1が規則充填物を充填した充填塔であること以外は安定同位体濃縮装置200とほぼ同様である。同位体スクランブラ20は第10の蒸留塔10の中間部に接続されている。
第1の充填塔1〜第13の蒸留塔13の充填物はH.E.T.P.が200mmのものを採用した。
供給する原料高純度酸素の流量と組成は、安定同位体濃縮装置200と同様に表1に示すとおりである。
【0042】
装置の安定時における、第13の蒸留塔13の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は表3に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は2020kWであった。安定同位体濃縮装置300の起動時間は149日であり、起動までに必要な電力量は、7223MW・hであった。
【0043】
【表3】
【0044】
(検証1)
試験例1−1では、試験例1−2と同等の製品濃度と起動時間であった。
一方で、試験例1−1では、必要な熱交換量が試験例1−2に比べて約3割削減でき、必要な塔数も1塔削減できた。
この結果より、本発明の試験例1−1によれば、起動時間を長期化することなく、設備コスト及び動力を低減できることがわかった。
【0045】
(試験例2−1)
試験例2−1では、10本の蒸留塔で構成されており、第1の蒸留塔〜第3の蒸留塔3は棚段塔、第4の蒸留塔〜第10の蒸留塔10は規則充填物が充填された充填塔である安定同位体濃縮装置を用いて、18Oの濃縮を行った。蒸留塔の総塔数と、棚段塔、充填塔の本数構成が異なること以外は、安定同位体濃縮装置200とほぼ同様である。
供給する原料高純度酸素の流量と組成は、安定同位体濃縮装置200と同様に表1に示すとおりであった。
【0046】
装置の安定時における、棚段塔の最終塔である第3の蒸留塔3の塔底部から送出される酸素ガス中の18Oの存在割合は19.4原子%であった。
また、第10の蒸留塔10の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は表4に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は1315kWであった。起動時間は168日であり、起動までに必要な電力量は、5302MW・hであった。
【0047】
【表4】
【0048】
(試験例2−2)
試験例2−2では、9本の蒸留塔で構成されており、第1の蒸留塔〜第4の蒸留塔4は棚段塔、第5の蒸留塔〜第9の蒸留塔9は規則充填物が充填された充填塔である安定同位体濃縮装置を用いて、18Oの濃縮を行った。蒸留塔の総塔数と、棚段塔、充填塔の本数構成が異なること以外は安定同位体濃縮装置200とほぼ同様である。
供給する原料高純度酸素の流量と組成は、安定同位体濃縮装置200と同様に表1に示すとおりであった。
【0049】
装置の安定時における、棚段塔の最終塔である第4の蒸留塔4の塔底部から送出される酸素ガス中の18Oの存在割合は49.7原子%であった。
また、第9の蒸留塔9の塔底部から送出される酸素ガスの安定同位体分子の存在割合は表5に示す通りであった。
また、コンデンサおよびリボイラの総熱交換量は1285kWであった。起動時間は194日であり、起動までに必要な電力量は、5983MW・hであった。
【0050】
【表5】
【0051】
(検証2)
棚段塔を使用する本数を増加させると起動時間が伸びることが分かり、濃縮対象物の塔底濃度が20%までの範囲で棚段塔を使用する場合であれば、起動までの動力を低減できた。
一方で、濃縮対象物の塔底濃度が20原子%を超える範囲で棚段塔を使用する場合、試験例2−2のように起動までの動力が増加した。また、後段の蒸留塔ほど塔径が小さいため、削減できる設備コストも小さくなった。
この結果より、本発明では、濃縮対象物の塔底濃度が20原子%までの範囲で棚段塔を使用することが望ましいことがわかった。
【0052】
上記の結果は酸素に限らず他の安定同位体にも適用できる。例えば、炭素や水素の安定同位体濃縮においても棚段塔を使用する本数を増加させると起動時間が伸びることになり、濃縮対象物の塔底濃度が20原子%までの範囲で棚段塔を使用する場合であれば、起動までの動力を低減できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、極低温流体の蒸留を行うための蒸留装置であって、複数の蒸留塔をカスケード接続した蒸留塔群を備える蒸留装置を用いて、自然界には極僅かしか存在しない安定同位体原子を濃縮する安定同位体濃縮装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1、j−1、j、n・・・蒸留塔
21・・・コンデンサ
22・・・リボイラ
30・・・原料供給ライン
31・・・製品導出ライン
100〜700・・・安定同位体濃縮装置
図1
図2
図3