特許第6914999号(P6914999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6914999-表面処理銅粉 図000003
  • 特許6914999-表面処理銅粉 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6914999
(24)【登録日】2021年7月16日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】表面処理銅粉
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20210727BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20210727BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   B22F1/00 L
   B22F1/02 F
   H01B5/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-131434(P2019-131434)
(22)【出願日】2019年7月16日
(65)【公開番号】特開2021-14633(P2021-14633A)
(43)【公開日】2021年2月12日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】特許業務法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】古澤 秀樹
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−116303(JP,A)
【文献】 特開昭60−035405(JP,A)
【文献】 特開平2−294414(JP,A)
【文献】 特開平2−294415(JP,A)
【文献】 特開2002−356702(JP,A)
【文献】 特開2003−105402(JP,A)
【文献】 特開2004−211108(JP,A)
【文献】 特開2010−015756(JP,A)
【文献】 特開2014−001443(JP,A)
【文献】 特開2017−101286(JP,A)
【文献】 特開2018−162474(JP,A)
【文献】 特許第4164009(JP,B2)
【文献】 鈴木茂, 一色実,高純度金属における自然酸化膜の評価と制御,まてりあ,日本,1998年,第37巻, 第3号,p.171〜174
【文献】 仲田進一,銅および銅合金の変色について,防蝕技術,日本,1959年,第8巻, 第7号,p.13〜19
【文献】 武井武,前処理を施した金属の表面状態,金属表面技術,日本,一般社団法人表面技術協会,1962年,第13巻, 第2号,p.1−5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00 − 8/00
B22F 9/00 − 9/30
C22C 1/04 − 1/05
C22C 33/02
H01B 1/00 − 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に酸化層を有する表面処理銅粉であって、
XPSスペクトルにおけるO1s、C1s、Cu2p3の光電子強度比から求められる前記酸化層の厚みが2.5〜9nmであり、
表面処理銅粉を、10ccのカップにガイドを取り付けて粉体を入れ、1000回タップさせて、ガイドを外して、10ccの容積を上回っている部分を摺り切り、容器に入っている粉体の重量を測定して得られた、固めかさ密度が2.9g/cm以下である、表面処理銅粉。
【請求項2】
酸化層が、亜酸化銅を含む層である、請求項1に記載の表面処理銅粉。
【請求項3】
亜酸化銅の層によって金属銅の表面が被覆されてなる、請求項1〜2のいずれかに記載の表面処理銅粉。
【請求項4】
比表面積が1.5m2-1以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理銅粉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅粉に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料として、銅粉のペーストが使用されるようになってきた。銅粉のペーストは、例えば、基材へ印刷又は塗布した後に、還元雰囲気で焼成して、配線の形成や電極の形成等に使用される。使用される電極層の薄膜化、及び配線の狭ピッチ化等に伴って、ペースト材料の銅粉には微粉化が求められている。
【0003】
微細な(例えばサブミクロンサイズの)金属粉は、単体金属の融点よりもはるかに低い温度で焼結が始まる。コスト及びマイグレーションの観点から、なかでも銅粉が注目されている。
【0004】
銅粉のペーストが高品質の配線や電極を形成するためには、銅粉の酸化をできるだけ防止しなければならないと従来は考えられていた。しかし、近年では、主に還元雰囲気下の焼成で使用される場合を想定して、銅粉の表面に積極的に酸化層を形成して、この形成を制御することによって、優れた特性の銅粉のペーストを得ようとする試みがなされるようになってきた。
【0005】
特許文献1は、銅粉の粒子表面に均一な銅酸化物の層を積極的に形成する技術を開示しており、これによって銅粉の焼結温度を低下させるとしている。
【0006】
特許文献2は、金属粉を加熱して酸化させる技術を開示している。
【0007】
特許文献3は、金属粉に脂肪酸類を付着させて、酸化銅層を脂肪酸で保護する技術を開示している。
【0008】
特許文献4は、銅粉のペーストの印刷特性を向上させるために、タップ密度値5.1g/cm3以上の銅粉を用いる技術を開示している。
【0009】
特許文献5は、不均化法による銅粉の製造方法を開示している。
【0010】
特許文献6は、化学還元法による銅粉の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2011−094236号公報
【特許文献2】特開2003−105402号公報
【特許文献3】特開2013−136840号公報
【特許文献4】特開2007−332391号公報
【特許文献5】特許第6297018号公報
【特許文献6】特許第4164009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者の検討によれば、特許文献1及び特許文献2に開示された技術によって製造された金属粉は、加熱によって酸化された後に必要となる解砕作業が難しいものとなり、金属粉が凝集したものとなってしまう恐れの大きいものであった。
【0013】
また、本発明者の検討によれば、特許文献3に開示された技術によって製造された金属粉は、使用されている脂肪酸類によって金属粉の凝集が促進されてしまい、金属粉が凝集したものとなってしまう恐れの大きいものであった。
【0014】
そして、本発明者の検討によれば、このように酸化層を付与された金属粉が凝集して、凝集体が形成されてしまうと、この金属粉凝集体を比較的低温の還元雰囲気で焼成した場合に、凝集体の内部まで十分に還元されない場合が生じてしまうこと、この結果として、焼結が不十分な部分が生じて、焼結体の比抵抗が高くなってしまうことがわかった。さらに、金属粉凝集体が混入すると、これに起因して塗膜粗さが粗くなってしまうことがわかった。このような金属粉凝集体を含むペーストを焼成して、配線材として用いた場合は、例えば、高周波における伝送損失が大きくなる等の不具合が予想される。
【0015】
そこで、銅粉表面に酸化層を備えた銅粉であって、酸化層の形成に伴う上記問題を解消した銅粉が求められていた。したがって、本発明の目的は、銅粉のペーストとした場合に、ペーストの塗膜の表面粗さが低減され、比較的低温で焼結した場合のペースト焼結体の比抵抗が低減された、銅粉表面に酸化層を備えた銅粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意研究の結果、後述する銅粉によって、上記目的を達成できることを見いだして、本発明に到達した。
【0017】
したがって、本発明は、次の(1)を含む。
(1)
表面に酸化層を有する表面処理銅粉であって、
XPSスペクトルにおけるO1s、C1s、Cu2p3の光電子強度比から求められる前記酸化層の厚みが2〜20nmであり、
表面処理銅粉のかさ密度が3m2-1以下である、表面処理銅粉。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、銅粉表面に酸化層を備えた銅粉を得ることができ、この銅粉によれば、銅粉のペーストとした場合に、印刷されたペーストの塗膜の表面粗さが低減されたものとすることができ、このペーストの塗膜の焼結体はその比抵抗が低減されたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、実施例4による表面処理銅粉に対するXPS分析で得られたチャートである。
図2図2は、実施例4による表面処理銅粉に対するスパッタ深さと酸素の原子濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施の態様をあげて詳細に説明する。本発明は以下にあげる具体的な実施の態様に限定されるものではない。
【0021】
[銅粉表面に酸化層を備えた表面処理銅粉]
本発明による表面処理銅粉は、表面に酸化層を有する表面処理銅粉であって、XPSスペクトルにおけるO1s、C1s、Cu2p3の光電子強度比から求められる前記酸化層の厚みが2〜20nmであり、表面処理銅粉のかさ密度が3m2-1以下である。
【0022】
このような表面処理銅粉とすることで、銅粉のペーストとした場合に、印刷されたペーストの塗膜の表面粗さが低減されたものとすることができ、このペーストの塗膜の焼結体はその比抵抗が低減されたものとなっている。
【0023】
[酸化層]
本発明による表面処理銅粉は、表面に酸化層を有している。好適な実施の態様において、この酸化層は、金属銅の酸化物の層であり、好適な酸化物として、亜酸化銅をあげることができる。
【0024】
[酸化層の厚み]
酸化層の厚みは、実施例において後述する手段によって、測定して算出することができる。すなわち、実施例において後述した手段に基づいて、XPSスペクトルにおけるO1s、C1s、Cu2p3の光電子強度比から求めることができる。好適な実施の態様において、この手段によって測定した酸化層の厚みは、例えば2〜20nm、好ましくは2.0〜18.5nmとすることができ、あるいは5.0〜23nmとすることができ、あるいは6.0〜18.5nmとすることができ、あるいは2.0〜9.0nmとすることができる。
【0025】
好適な実施の態様において、本発明による表面処理銅粉は、表面処理銅粉を含むペーストを調製した場合において、このペーストによって得られた塗膜の表面粗さが、低減されたものであると同時に、ペーストを焼結して得られる焼結体の比抵抗が、極めて低減されたものとなっている。この理由は不明ではあるが、上記酸化層の厚みが上記範囲となることによって、ペースト中での分散性が良好であると同時に、優れた焼結性を実現するものとなっていると、本発明者は考察している。優れた焼結性は、上記範囲の酸化層の厚みとなることで、焼結時に十分に還元され、還元不良部分が生じることなく、表面処理銅粉の間の焼結起点として、良好に振る舞うことによって実現されていると、本発明者は考察している。
【0026】
[固めかさ密度]
好適な実施の態様において、本発明に係る銅粉は、タップ密度(固めかさ密度)を、例えば3g/cm3以下、好ましくは2.9g/cm3以下、好ましくは2.8g/cm3以下とすることができる。上記の上限よりもタップ密度(固めかさ密度)を小さくすることによって、ペースト中における銅粉の分散性を良好なものとすることができる。好適な実施の態様において、このタップ密度(固めかさ密度)は、例えば1.0g/cm3以上、好ましくは1.7g/cm3以上とすることができる。上記のように低減された固めかさ密度を備えたことを指して、本発明では低充填性と表現することがある。
【0027】
タップ密度は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。すなわち、ホソカワミクロン(株)製のパウダテスタPT−Xを使って測定することができる。具体的には10ccのカップにガイドを取り付けて粉体を入れ、1000回タップさせて、ガイドを外して、10ccの容積を上回っている部分を摺り切り、容器に入っている粉体の重量を測定し、固めかさ密度を求めることができる。
【0028】
好適な実施の態様において、本発明による表面処理銅粉は、表面処理銅粉を含むペーストを調製した場合において、このペーストによって得られた塗膜の表面粗さが、低減されたものとなっている。この理由は不明ではあるが、タップ密度(固めかさ密度)が低いことが関係していると本発明者は考察している。すなわち、かさ密度の低さ(低充填性)が、溶剤や樹脂等のペーストの組成物の侵入を促して、良好な分散性を実現し、これによって塗膜の均一性が実現されたのではないかと、本発明者は考察している。
【0029】
[比表面積]
好適な実施の態様において、本発明に係る表面処理銅粉は、BET比表面積を、例えば1.5m2-1以上、好ましくは1.9m2-1以上50m2-1以下、さらに好ましくは1.9m2-1以上20m2-1以下、さらに好ましくは1.9m2-1以上5.0m2-1以下とすることができる。BET比表面積は、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。
【0030】
[高分子]
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉は、その製造方法に依存して、酸化層の表面に、さらに、多糖類、天然ゴム類、高分子タンパクの中から選ばれる1種以上の高分子が付着していてもよく、その層が形成されていてもよい。好適な天然ゴム類として、例えばアラビアゴムをあげることができる。
【0031】
[表面処理銅粉の製造]
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉は、実施例において後述する方法によって製造することができる。しかし、本発明の表面処理銅粉の製造方法は、実施例において後述する方法に限られるものではない。「表面処理銅粉」とは、表面処理された状態に至った銅粉であり、具体的には、処理されることによって本発明に係る特定事項を備えるに至った銅粉である。
【0032】
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉は、湿式法によって製造された銅粉を、スラリーのpHが4〜9の範囲になるまで、デカンテーションで水洗を繰り返し、固液分離して得られた銅粉とpH8〜14のアルカリ水溶液と接触させるpH処理工程、を含む方法によって製造することができる。
【0033】
[pH処理工程]
好適な実施の態様において、pH処理工程は、上記pHのアルカリ水溶液と接触させることによって行われる。好適な実施の態様において、接触としては、例えば、湿式法によって製造された銅粉を、上記水溶液中で撹拌することによって行うことができる。撹拌は、例えば、公知の手段によって行うことができ、例えばホモジナイザー、回転羽根、超音波照射、ミキサー、及び撹拌子を用いて撹拌することができる撹拌の時間は、例えば5分以上48時間以内、好ましくは20分以上36時間以内、さらに好ましくは60分以上24時間以内とすることができる。好適な実施の態様において、攪拌する間に維持する温度としては、例えば10〜50℃、好ましくは10〜35℃とすることができる。好適な実施の態様において、接触としては、例えば、湿式法によって製造された銅粉に対して、上記水溶液を通液することによって行うことができる。アルカリ水溶液との接触は、例えばバッチ式で1回行ってもよく、あるいは複数回行うこともできる。アルカリ水溶液と接触させた後の銅粉は、公知の手段によって固液分離して、ケーキとして得ることができる。好適な実施の態様において、アルカリ水溶液と接触させた後の銅粉を、純水で洗浄することができる。
【0034】
好適な実施の態様において、純水による洗浄は、公知の手段によって行うことができるが、例えば、固液分離して得られたケーキに対して純水を通液することによって行うことができる。
【0035】
好適な実施の一態様において、pH処理工程は、銅粉に上述の高分子を付着させた後に行なうことができる。これにより、銅粉に緩やかに酸化層を形成することができる。好適な実施の一態様において、pH処理工程は、銅粉に上述の高分子を付着させる前に行なうことができる。これにより、銅粉に短時間に酸化層を形成することができる。
【0036】
[アルカリ水溶液]
好適な実施の態様において、湿式法によって製造された銅粉と接触させるアルカリ水溶液のpHは、例えばpH8〜14、あるいはpH8〜12、pH10〜13.5とすることができる。上記pHへと調整されたアルカリ水溶液としては、例えばアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、分子末端にアミノ基を含む有機物の水溶液、あるいはこれらの混合水溶液を使用することができる。
【0037】
[乾燥]
好適な実施の態様において、pH処理された銅粉は、その後に乾燥される。乾燥は、公知の手段によって行うことができ、例えば60〜300℃、好ましくは60〜150℃で、窒素雰囲気あるいは真空雰囲気で乾燥することができる。このようにして得られた銅粉は、しばしば乾燥ケーキの形態として得られる。
【0038】
[解砕]
好適な実施の態様において、pH処理されて次に乾燥された銅粉は、その後に解砕される。解砕は、公知の手段で行うことができ、例えば乳棒、乳鉢、ミキサーを使用することができる。本発明によれば、このような簡易な手段による粗解砕によって十分に解砕されて、二次粒子が十分に低減されたものとなっている。ただし、解砕手段としては、さらに強力な解砕手段を採用することを除外するものではなく、例えばヘンシェルミキサーのような機械的な解砕や、ジェットミル解砕を行ってもよい。
【0039】
好適な実施の態様において、解砕の後の処理として、解砕された粒子を分級してもよい。分級に使用できる手段としては、特に制約はなく、公知の手段を使用することができる。このような手段として、例えば、篩の通過、気流式分級、湿式分級をあげることができる。分級の目安として、例えば目開き10〜100μmの篩を通過するという目安をあげることができる。
【0040】
[銅粉ペースト]
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉は、この銅粉を含む銅粉ペーストの態様として好適に使用することができる。銅粉ペーストは、例えば表面処理銅粉を、バインダー樹脂、有機溶剤と混練して調製することができる。
【0041】
好適な実施の態様において、ペーストに使用されるバインダー樹脂としては、Tgが50〜200℃であるバインダー樹脂であれば特に制限なく使用することができる。銅微粒子は非酸化性雰囲気下又は還元性雰囲気下で焼成されるので、バインダー樹脂としては熱分解温度の低いバインダー樹脂が好ましい。好適なバインダー樹脂として、例えば、セルロース系樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリルメタクリル共重合樹脂ブチラール樹脂、ロジンをあげることができる。バインダー樹脂として、特にアクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリルメタクリル共重合樹脂又はロジンが好ましい。特に窒素雰囲気でTG測定(熱重量測定)をした場合、250〜350℃での重量減少が30%以上であるバインダー樹脂を好適に使用することができる。本発明で得られる銅微粒子は有機溶剤のみとあわせてペーストにすることも可能ではあるが、ペーストにバインダー樹脂を添加した場合でも、バインダー樹脂が完全に分解、燃焼しない温度で焼成しても銅微粒子間の焼結が進行するという特徴がある。ペーストで厚い塗膜を得たい場合はバインダー樹脂量を増加することで、印刷性を損なわずに厚膜を形成することが可能である。
【0042】
[ペースト塗膜の表面粗さRa]
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉を含む銅粉ペーストを印刷した後に、乾燥した塗膜の表面粗さRaは、例えば0.01〜0.4μmの範囲、好ましくは0.01〜0.3μmの範囲、好ましくは0.04〜0.2μmの範囲、好ましくは0.04〜0.15μmの範囲、好ましくは0.04〜0.10μmの範囲とすることができる。乾燥塗膜の表面粗さRaは、公知の手段によって測定することができ、具体的には、実施例において後述する手段と条件によって、測定することができる。このような塗膜を焼結して形成された焼結体は、電子回路や電子部品において、電極層、及び導電層等として、好適に使用できるものとなっている。
【0043】
[焼結体]
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉を含む銅粉ペーストは、これを印刷あるいは塗工した後に、焼結して、焼結体とすることができる。好適な実施の態様において、得られた焼結体は、その表面が滑らかなものとなっていると同時に、優れた比抵抗を備えたものとなっている。表面が滑らかになることは塗膜内で銅粉が均一に充填(分散)されていることを示唆していると考えられ、これにより粉体間の焼結が促進され、低比抵抗が実現したと発明者は考えている。
【0044】
好適な実施の態様において、焼結体を調製するための焼結は、公知の条件によって行うことができ、例えば200〜1000℃の範囲の温度で、還元性雰囲気下において、0.1〜10時間の加熱によって、焼結することができる。
【0045】
[焼結体の比抵抗]
好適な実施の態様において、本発明の表面処理銅粉を含む銅粉ペーストの塗膜の焼結体は、優れた比抵抗を備えたものとなっている。比抵抗の測定は、実施例において後述する手段によって測定することができる。好適な実施の態様において、比抵抗の値は、例えば15μΩcm以下、好ましくは14μΩcm以下、例えば2〜12μΩcmの範囲、好ましくは5〜14μΩcmの範囲とすることができる。
【0046】
本発明の表面処理銅粉を含む銅粉ペーストの塗膜の焼結体の比抵抗が、このように低減されたものとなっている理由は不明であるが、表面処理銅粉の酸化層の厚みが上記範囲となることによって、焼結時に十分に還元され、還元不良部分が生じることなく、かつ、表面処理銅粉の間の焼結起点として、良好に振る舞うことによって、全体として優れた比抵抗を呈するものとなったと、本発明者は考察している。
【0047】
[湿式法によって製造された銅粉]
好適な実施の態様において、pH処理工程に供される銅粉は、湿式法によって製造された銅粉である。湿式法には、例えば、いわゆる不均化法といわゆる化学還元法が含まれる。
【0048】
好適な実施の態様において、不均化法による銅粉の製造方法として、例えば特許文献5(特許第6297018号)に開示された方法を使用することができる。好適な実施の態様において、不均化法による銅粉の製造方法として、例えば、アラビアゴムの添加剤を含む水性溶媒中に亜酸化銅を添加してスラリーを作製する工程、スラリーに希硫酸を5秒以内に一度に添加して不均化反応を行う工程、を含む製造方法をあげることができる。好適な実施の態様において、上記スラリーは、室温(20〜25℃)以下に保持するとともに、同様に室温以下に保持した希硫酸を添加して、不均化反応を行うことができる。好適な実施の態様において、上記スラリーは、7℃以下に保持するとともに、同様に7℃以下に保持した希硫酸を添加して、不均化反応を行うことができる。好適な実施の態様において、希硫酸の添加は、pH2.5以下、好ましくはpH2.0以下、さらに好ましくはpH1.5以下となるように、添加することができる。好適な実施の態様において、スラリーへの希硫酸の添加は、5分以内、好ましくは1分以内、さらに好ましくは30秒以内、さらに好ましくは10秒以内、さらに好ましくは5秒以内となるように、添加することができる。好適な実施の態様において、上記不均化反応は10分間で終了するものとすることができる。好適な実施の態様において、上記スラリー中のアラビアゴムの濃度は、0.229〜1.143g/Lとすることができる。上記亜酸化銅としては、公知の方法で使用された亜酸化銅、好ましくは亜酸化銅粒子を使用することができ、この亜酸化銅粒子の粒径等は不均化反応によって生成する銅粉の粒子の粒径等とは直接に関係がないので、粗粒の亜酸化銅粒子を使用することができる。この不均化反応の原理は次のようなものである:
Cu2O+H2SO4 → Cu↓+CuSO4+H2
【0049】
このようにして得られた銅粉は、洗浄した後に、スラリーの形態で、上記pH処理工程に供してもよく、いったん乾燥した銅粉の形態とした後に、上記pH処理工程に供してもよい。
【0050】
好適な実施の態様において、化学還元法による銅粉の製造方法として、例えば特許文献6(特許第4164009号)に開示された方法を使用することができる。好適な実施の態様において、化学還元法による銅粉の製造方法として、例えば、アラビアゴム2gを2900mLの純水に添加した後、硫酸銅125gを添加し撹拌しながら、80%ヒドラジン一水和物を360mL添加して、ヒドラジン一水和物の添加後〜3時間かけて室温から60℃に昇温し、更に3時間かけて酸化銅を反応させて、反応終了後、得られたスラリーをヌッチェでろ過し、次いで純水及びメタノールで洗浄し、更に乾燥させて銅粉を得ることができる。このように得られた乾燥した銅粉を、上記pH処理工程に供してもよく、スラリーの形態のままで、上記pH処理工程に供してもよい。
【0051】
[好適な実施の態様]
本発明は次の(1)以下の実施態様を含む。
(1)
表面に酸化層を有する表面処理銅粉であって、
XPSスペクトルにおけるO1s、C1s、Cu2p3の光電子強度比から求められる前記酸化層の厚みが2〜20nmであり、
表面処理銅粉のかさ密度が3m2-1以下である、表面処理銅粉。
(2)
酸化層が、亜酸化銅を含む層である、(1)に記載の表面処理銅粉。
(3)
亜酸化銅の層によって金属銅の表面が被覆されてなる、(1)〜(2)のいずれかに記載の表面処理銅粉。
(4)
比表面積が1.5m2-1以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の表面処理銅粉。
【0052】
したがって、本発明は、上記の表面処理銅粉を含み、低充填性処理銅粉、低充填性銅粉、低充填性表面処理銅粉を含む。
【実施例】
【0053】
以下に実施例をあげて、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
[銅粉ケーキの調整]
30Lの容器に硫酸銅五水和物を3.9kg、純水を8.8L入れて、ウォーターバスで70℃に加温しながら回転羽根で200rpmで撹拌し、硫酸銅水溶液を調整した。ここに28%アンモニア水を水溶液のpHが8.5に達するまでに添加した。さらに撹拌しながら、80gL-1のアラビアゴム水溶液を100g添加した後、25%ヒドラジン水溶液を6Lを1Lmin-1の速度で添加し、滴下終了後1時間撹拌した。静置して生じた上澄み液を捨て、そこに純水を10L加え、300rpmで10分撹拌した。同じように静置して生じた上澄み液を捨て、そこに純水を10L加え、pHが7.0±0.2になるように希硫酸を添加し、300rpmで10分撹拌した。このスラリーを吸引濾過で固液分離し、ろ紙上に残ったケーキの上にさらに純水を10Lかけて吸引濾過を行った。
【0055】
[銅粉ケーキの調製後の処理]
回収された銅粉ケーキ1100g(湿質量)を、pH8へ調製したアンモニア水2L中に投入して、攪拌した。攪拌は、30℃で1時間行った。その後、吸引ろ過によって固液分離して、pH処理された銅粉のケーキを得た。得られたケーキを、ろ過後の純水のpHが8を下回ることを目安として純水によって洗浄した。
洗浄後の銅粉のケーキを、100℃で窒素雰囲気下で乾燥して、pH処理された銅粉の乾燥ケーキを得た。
得られた乾燥ケーキを、乳棒と乳鉢によって解砕し、目開き37μmの篩に通して、後述するペーストに供される銅粉を得た。
【0056】
[実施例2〜5、比較例1、4]
実施例2〜5、比較例1、4として、pHの値、及び処理時間を変更して、実施例1と同様に銅粉ケーキを調整した。得られた銅粉ケーキを、各所定pHへと調整されたアンモニア水中へ投入して、30℃で各所定時間の攪拌を行って、実施例1と同様に、pH処理された銅粉の乾燥ケーキを得た。その後、実施例1と同様にして、後述するペーストに供される銅粉を得た。ただし、各実施例及び比較例において、調整したアンモニアの各pH値と、30℃での各攪拌時間は、実施例1からそれぞれ表1の値へと変更して、処理を行った。各実施例及び比較例におけるpHの値、及び処理時間を、表1にまとめて示す。
【0057】
[実施例6]
実施例1の製粉に関する手順において、アラビアゴム水溶液の濃度を20gL-1、ヒドラジンの添加速度を0.5Lmin-1とした以外は実施例1と同じ操作を行った。
【0058】
[比較例2]
実施例1の手順において、製粉後の水洗、酸洗、水洗を経て吸引濾過後に回収された銅粉ケーキを、100℃で窒素雰囲気下で乾燥して、乾燥ケーキを得た。
この乾燥ケーキを乳棒と乳鉢によって解砕し、目開き37μmの篩に通して、銅粉を得た。
得られた銅粉を、特許文献2(特開2003−105402号公報)に記載の条件に従い、ホットプレート上で大気中、200℃、2時間で加熱処理した。これによって表面に酸化膜が形成された銅粉を得た。
得られた銅粉を乳棒と乳鉢によって解砕し、目開き37μmの篩を通らなかったため、目開き88μmの篩を通し、後述するペーストに供される銅粉を得た。
【0059】
[比較例3]
実施例1の手順において、製粉後の水洗、酸洗、水洗を経て吸引濾過後に回収された銅粉ケーキを、苛性ソーダでpH8に調整したアルカリ水溶液5Lに分散させ、回転羽根で撹拌した。ここにオレイン酸を5g添加し、1時間撹拌した。吸引濾過でケーキを回収し、回収ケーキを赤外水分計で含水率が1%を下回るまで室温25℃下で大気乾燥して乾燥ケーキを得た。
得られた乾燥ケーキを乳棒と乳鉢によって解砕し、目開き37μmの篩を通らなかったため、目開き105μmの篩を通し、後述するペーストに供される銅粉を得た。
【0060】
[酸化層厚みの測定]
実施例1〜6及び比較例1〜4によって得られたペーストに供される銅粉を、試料容器に底面が見えないくらいに敷き詰め、ハンドプレスで敷き詰めた銅粉層をならし、アルバック・ファイ株式会社製PHI 5000 Versa Probe IIを用いて以下の条件でXPS分析を行った。この結果を後述するように解析して、乾燥銅粉の表面に存在する酸化層の厚みを、それぞれ求めた。
到達真空度:8.2×10-8Pa
励起源:単色化AlKα
出力:24.9W
X線ビーム径:100μmφ
入射角:90度
取り出し角:45度
中和銃あり
スパッタ条件:
イオン種:Ar+
加速電圧:2kV
レート:3.6nm/min(SiO2換算)
【0061】
図1に、実施例4によって得られたペーストに供される銅粉に対するXPS分析によって得られたチャートを示す。横軸は結合エネルギー(eV)であり、縦軸は光電子強度である。
最初に、図1のチャートにおいて、930eVから960eVのCu 2pの光電子スペクトルに着目した。CuOに起因するピークではなく、Cu2Oに起因するピークが認められたことから、銅粉表面には酸化物の層が存在していること、その酸化物はCu2Oであることと、判定した。
【0062】
同様に、実施例1〜3,5,6、及び比較例1〜4の銅粉表面にもCu2Oを含む層が存在していることを確認した。
図2に、実施例4の銅粉に対する酸素濃度(原子濃度%)の深さ方向濃度プロファイルを示す。横軸はスパッタ深さ(nm)であり、縦軸は酸素濃度(原子濃度%)である。
より具体的には、各深さ位置毎に、XPSスペクトルにおけるO1s、C1s、Cu2p3の光電子強度比(これら3つの合計光電子強度に対するO1sの光電子強度の割合)を酸素濃度として算出した。
算出された酸素濃度の傾きがマイナス1を上回る深さ位置を、銅層と酸化層との境界位置、即ち、酸化層の厚みであると定義した。
【0063】
一例として、図2に示される実施例4の銅粉の酸化層の具体的な厚みの算出方法について説明する。
まず、最表層のデータ(スパッタ深さ0nm相当)を除くプロットを累乗近似(各プロットデータを対数変換した上で直線回帰として最小二乗法を適用)し、該近似曲線の接線の傾きが−1を上回った位置を酸化層の厚みであると判定した。
yを酸素濃度、xをスパッタ深さとすると、累乗近似を行なうとy=34.857×x^(−0.407)となる。各地点における傾きは−0.407×34.857×x^(−1.407)であるから、傾きが−1を上回るのは6.8nmであった。
【0064】
後述するBET比表面積から求められる粒子サイズが0.2μm程度であるのに対して、X線照射エリア(分析エリア)は100μmφなので、XPSで得られる情報は粒子一つに関する情報というよりも複数の粒子にわたる全体的な情報とみるのが妥当である。そして、試料容器に敷き詰められた粉体全体をスパッタしてゆくことで深さ方向の情報が得られる。まず、容器の最上面に存在する粒子の酸化銅がスパッタされ、スパッタ深さが容器底面に向かうにつれて、当該粒子の金属銅が露出し、当該金属銅がスパッタされる。とはいえ、当該粒子の上面の酸化銅が削り取られて金属銅が露出しても、当該粒子の側面の酸化銅は依然として露出し続ける。また、同時に、当該粒子以外の粒子の上面の酸化銅もスパッタされることになるから、全体としては、金属銅と酸化銅とが同時に検出され続ける。結果として、酸化銅が検出されない状態となることはなく、金属銅だけが検出される状態になることはない。そこで、上述のように対数グラフの傾きが「−1」となったスパッタ深さの位置が、酸素濃度の減少に対する深さ方向への移動の寄与が十分に小さくなった位置と判定して、この位置を酸化銅層と金属銅層の境界位置に対応すると規定した。
【0065】
[かさ密度の測定]
実施例1〜6及び比較例1〜4によって得られた乾燥銅粉に対して、次の条件でタップ密度を測定した。
ホソカワミクロン(株)パウダテスタPT−Xを使って測定した。10ccのカップにガイドを取り付けて粉体を入れ、1000回タップさせて、ガイドを外して、10ccの容積を上回っている部分を摺り切り、容器に入っている粉体の重量を測定し、タップ密度(固めかさ密度)を求めた。
【0066】
[比表面積の測定]
実施例1〜6及び比較例1〜4によって得られた乾燥銅粉のBET比表面積を、BELSORP−miniII(マイクロトラックベル社)を用いて、JIS Z8830:2013に準拠して測定した。より具体的には、銅粉を真空中で200℃、5時間脱気した後、比表面積を測定した。
【0067】
[安息角の測定]
実施例1〜6及び比較例1〜4によって得られた乾燥銅粉の安息角を、ホソカワミクロン(株)パウダテスタPT−Xを用いて、JIS R9301−2−2:1999に準拠して測定した。より具体的には、710μmの篩に銅粉を通した後、100gの銅粉を落とした。これにより形成された山を側面から撮影し、山の底辺の内角を安息角として求めた。
【0068】
[ペースト塗膜の表面粗さRa]
ジヒドロターピネオールとアクリル樹脂ビークル(固形分35%、残部ジヒドロターピネオール、互応化学KFA−2000)をジヒドロターピネオール:アクリル樹脂(固形分)が14:1の比率となるように秤量し、自転公転ミキサーで5分撹拌した。実施例1〜6及び比較例1〜4によって得られた乾燥銅粉と上記撹拌物との比率が85:1(重量比)となるように混合し、さらに自転公転ミキサーで5分撹拌した。得られた混合物を、ロール径80mmのロール間ギャップを5μmとした3本ロールに5パス通し、ペーストを得た。ロール材質は3本ともアルミナロールである。得られたペーストを25μmギャップのアプリケーターを使って5cm/秒の移動速度でスライドガラス上に塗膜し、120℃、10分で乾燥させた。得られた塗膜の塗工方向のRaをJIS B 0601−2001に従って触針式粗さ計で計測し、5点平均で算出した。
【0069】
[比抵抗の測定]
上記表面粗さRaの測定のために調整したペーストを、スクリーン版(ステンレスメッシュ、線径18μm、紗厚38μm、オープニング33μm、開口率42%)を使って、スライドガラス上に、幅5mm、長さ20mmのラインを3本印刷した。3vol%水素(残部窒素)中で銅の融点よりもはるかに低い250℃で、30分間焼成し、焼成体を得た。得られた焼成体の抵抗をロレスターGXで測定し、3次元測定装置で焼成体の厚みを算出し、抵抗値と焼成体断面積、焼成体長さから焼成体の比抵抗を求めた。
【0070】
[結果]
実施例1〜6及び比較例1〜4について、上記の測定の結果を、表1にまとめて示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示されるように、本願発明の実施例による表面処理銅粉は、それを銅粉ペーストとして印刷した塗膜の表面粗さが低減されたものとなっており、同時にこの塗膜を焼成した焼成体の比抵抗が低減されたものとなっていた。表面粗さの低減は、単なる平滑性の目安を超えて、塗膜に含まれる金属粉凝集体の少なさを表現する目安となっており、塗膜内部の空隙の少なさを表現する目安ともなっており、塗膜の焼成体における比抵抗の少なさのみならず、高周波特性の優秀性を表現するものとなると、本発明者は考察している。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、銅粉ペーストに好適に使用可能な表面処理銅粉を提供する。本発明は産業上有用な発明である。
図1
図2