(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
「結着樹脂」
本発明の結着樹脂は、ポリエステル樹脂(A)とアクリル系重合体(B)とを含む。
【0011】
<ポリエステル樹脂(A)>
ポリエステル樹脂(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)は、多価カルボン酸と多価アルコールを原料として用いて合成される。すなわち、(A)成分は、多価カルボン酸と多価アルコールとの反応物である。
【0012】
多価カルボン酸としては、2価のカルボン酸、3価以上のカルボン酸が挙げられる。
2価のカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、フタル酸、セバシン酸、イソデシル琥珀酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸、およびこれらの低級アルキルエステルまたは酸無水物などが挙げられる。これらジカルボン酸の低級アルキルエステルとしては、例えば、モノメチルエステル、モノエチルエステル、ジメチルエステル、ジエチルエステルなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、後述の3価以上のカルボン酸と併用してもよい。
【0013】
3価以上のカルボン酸としては、例えば例えばトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、およびこれらの酸無水物などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、2価のカルボン酸と併用してもよい。
【0014】
多価アルコールとしては、2価のアルコール、3価以上のアルコールが挙げられる。
2価のアルコールとしては、例えばエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のジオール類;ビスフェノールA、ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−ポリオキシエチレン−(2.0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2.4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3.3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン等のビスフェノールAアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、後述の3価以上のアルコールと併用してもよい。
【0015】
3価以上のアルコールとしては、例えばソルビトール、1,2,3,6−ヘキサテトラロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセリン、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、2価のアルコールと併用してもよい。
【0016】
(A)成分の原料として、本発明の目的を損なわない範囲であれば、多価カルボン酸および多価アルコールに加え、1価のカルボン酸や1価のアルコールを併用してもよい。
1価のカルボン酸としては、例えば、安息香酸、p−メチル安息香酸等の炭素数30以下の芳香族カルボン酸;ステアリン酸、ベヘン酸等の炭素数30以下の脂肪族カルボン酸;桂皮酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和二重結合を分子内に1つ以上有する不飽和カルボン酸などが挙げられる。
1価のアルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール等の炭素数30以下の芳香族アルコール;オレイルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の炭素数30以下の脂肪族アルコールなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
(A)成分は公知の重合方法により得られる。例えば、まず多価カルボン酸および多価アルコール等の原料を反応容器に投入し、加熱昇温して、エステル化反応またはエステル交換反応を行い、反応で生じた水またはアルコールを除去する。引き続き縮重合反応を行い、(A)成分を得る。
【0018】
エステル化反応、エステル交換反応、縮重合反応の際に用いる触媒としては、特に制限されないが、例えばチタンテトラアルコキシド、テトラブトキシチタン、酸化チタン、ジブチルスズオキシド、酢酸スズ、酢酸亜鉛、二硫化スズ、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、酢酸マグネシウム等の公知の重合触媒を用いることができる。
【0019】
重合温度は特に制限されないが、180〜280℃の範囲とするのが好ましい。重合温度が、180℃以上であれば生産性が良好となる傾向にあり、280℃以下であれば樹脂の分解や、臭気の要因となる揮発分の副生成を抑制できる傾向にある。重合温度は200℃以上がより好ましく、220℃以上がさらに好ましい。また、重合温度は270℃以下がより好ましい。
【0020】
多価アルコールの含有量は、得られる(A)成分の軟化温度(T4)とガラス転移温度(Tg)とのバランスが良好となることから、多価カルボン酸100モル部に対して180モル部以下が好ましく、70〜170モル部がより好ましく、80〜160モル部がさらに好ましく、90〜150モル部が特に好ましい。特に、多価アルコールの含有量が、90モル部以上であれば(A)成分の製造安定性が良好となる傾向にあり、150モル部以下であれば軟化温度に対してガラス転移温度が高くなりやすく、保存性がより良好となる傾向にある。
【0021】
生産性を高める観点から、(A)成分の原料として3官能以上のモノマーを用いること好ましい。3官能以上のモノマーとしては、多価カルボン酸の説明において先に例示した3価以上のカルボン酸、多価アルコールの説明において先に例示した3価以上のアルコールなどが挙げられる。3官能以上のモノマーとして、3価以上のカルボン酸と3価以上のアルコールとを併用してもよい。
3官能以上のモノマーの含有量は、多価カルボン酸100モル部に対して5〜50モル部が好ましく、5〜40モル部がより好ましく、5〜35モル部がさらに好ましい。3官能以上のモノマーの含有量が上記範囲内であれば、(A)成分の生産性を良好に維持しつつ、結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)およびゲル分率を所望の値に制御しやすくなる。
【0022】
(A)成分の軟化温度は、140℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。(A)成分の軟化温度が140℃以上であれば、結着樹脂の軟化温度も高まり、高温における耐熱性がより良好となる。(A)成分の軟化温度の上限値については特に制限されないが、本発明の結着樹脂をトナー用途や捺染用途に用いる場合、紙への印刷時の耐ホットオフセット性や、紙から布地への転写時の布地に対する樹脂移行性(耐布地樹脂移行性)が向上する観点から、(A)成分の軟化温度は170℃以下が好ましく、165℃以下がより好ましい。本発明の結着樹脂を捺染用途に用いる場合、(A)成分の軟化温度が170℃以下であれば紙と布地の剥離性も向上する。
【0023】
(A)成分の軟化温度は、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/分の等速昇温下の条件で測定し、サンプル1.0g中の1/2が流出したときの温度である。
(A)成分の軟化温度は、フローテスターを用いて測定することができる。
【0024】
<アクリル系重合体(B)>
アクリル系重合体(B)(以下、「(B)成分」ともいう。)は、熱可塑性でもよいし、熱硬化性でもよいが、熱可塑性が好ましい。すなわち、(B)成分としては、アクリル系熱可塑性重合体が好ましい。
(B)成分としては、構成成分として単官能の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位を含むのが好ましい。単官能の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは構成単位としてエステル基を含有するため、(A)成分との相溶性が良好となり、(A)成分と併用する効果が大きくなるからである。
ここで、「(メタ)アクリレート」はアクリレートおよびメタクリレートの総称である。
【0025】
単官能の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、シクロへキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等のなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
単官能の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(A)成分と反応しうる官能基(例えば、エポキシ基など)を有する単量体が好ましい。このような単量体としては、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
(B)成分として、例えばエポキシ基を有する単量体を構成単位として含むアクリル系重合体を用いる場合、(A)成分と混合すると(B)成分の一部が(A)成分の一部と反応すると考えられる。具体的には、(B)成分中のエポキシ基と(A)成分の末端のカルボキシ基またはヒドロキシ基とが反応し、下記一般式(1)または下記一般式(2)で表される化合物(反応生成物)が形成されると考えられる。すなわち、(B)成分として、(A)成分と反応しうる官能基を有する単量体を構成単位として含むアクリル系重合体を用いる場合、結着樹脂には、(A)成分と、(B)成分と、(A)成分および(B)成分の反応生成物とが含まれる。結着樹脂が(A)成分および(B)成分の反応生成物を含むことで、結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)がより高まり、高温における耐熱性がより向上する傾向にある。
なお、下記一般式(1)で表される化合物は、(B)成分中のエポキシ基と(A)成分の末端のカルボキシ基とが反応した化合物であり、下記一般式(2)で表される化合物は、(B)成分中のエポキシ基と(A)成分の末端のヒドロキシ基とが反応した化合物である。
【0028】
式(1)中、R
1は炭化水素基であり、R
2は水素原子または炭化水素基であり、R
3およびR
4はそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、R
5はポリエステル樹脂から末端のカルボキシ基を除いた残基である。
式(2)中、R
6は炭化水素基であり、R
7は水素原子または炭化水素基であり、R
8およびR
9はそれぞれ独立して、水素原子またはメチル基であり、R
10はポリエステル樹脂から末端のヒドロキシ基を除いた残基である。
【0029】
(B)成分は、単官能の(メタ)アクリル酸アルキルエステル50〜100質量部と、これと共重合可能な他のビニル単量体を必要に応じて50質量部以下とを含む合計100質量部を重合して得ることができる。
【0030】
他のビニル単量体として、例えばスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デンシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−フェニルスチレン、3,4−ジシクロスチレン等のスチレン系モノマー;不飽和ジカルボン酸ジエステル(具体的にはマレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル等)、不飽和モノカルボン酸(具体的には(メタ)アクリル酸、ケイヒ酸等)、不飽和ジカルボン酸(具体的にはマレイン酸、フマル酸、イタコン酸等)、不飽和ジカルボン酸モノエステル(具体的にはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル等)等のカルボン酸含有ビニル系モノマー;(メタ)アクリロニトリル;(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ここで、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸およびメタクリル酸の総称であり、「(メタ)アクリロニトリル」はアクリロニトリルおよびメタクリロニトリルの総称であり、「(メタ)アクリルアミド」はアクリルアミドおよびメタクリルアミドの総称である。
【0031】
さらに、他のビニル単量体として、多官能性ビニル単量体を使用することもできる。多官能性ビニル単量体としては、例えばジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、メタクリル酸アリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(B)成分を製造するための重合法としては、乳化重合法による一段重合もしくは逐次多段重合が好ましい。ただし、特にこれに制限されることはなく、例えば、乳化重合後最外層重合体の重合時に、懸濁重合系に転換させる乳化懸濁重合によっても製造できる。
(B)成分の製造においては、例えば、乳化重合法によって製造した重合体ラテックスを、各種凝固剤により分離回収し、あるいはスプレードライにより固形分を分離回収し、その重合体粉末を得ることができる。
【0033】
(B)成分の平均粒子径は、500μm以下が好ましい。(B)成分の平均粒子径が500μm以下であれば、粒子径を単分散に制御しやすい。(B)成分の平均粒子径の下限値については特に制限されないが、粒子として分離する際の生産性が向上する観点から、(B)成分の平均粒子径は0.01μm以上が好ましい。
平均粒子径が500μm以下の粒子径のうち、5μmより大きい粒子を得たい場合は懸濁重合法を用いるのが好ましく、5μm以下の粒子を得たい場合は、乳化重合法や分散重合等を選択するのが好ましい。乳化剤の影響でトナーの保存安定性が低位になる場合は、乳化剤フリー重合を用いてもよい。
(B)成分の平均粒子径とは、レーザ回折法を用いて測定した体積分布基準での累積50%に相当する粒子径のことである。具体的には、以下のように測定する。
【0034】
(B)成分の粒度分布を、レーザ回折型粒径測定機(堀場製作所社製、「LA−920」)を用いて測定する。該装置の操作マニュアルに従い、測定用フローセルを用いて、セル内に蒸留水を加え、相対屈折率を1.20に選択設定し、粒径基準を体積基準にし、光軸の調整、光軸の微調整、ブランク測定を実施する。次に透過率70〜90%の範囲になる濃度まで(B)成分を添加し、超音波処理を強度5で1分間実施し、樹脂粒子の粒度分布測定を実施する。測定した粒度分布から、体積分布基準の累積50%に相当する粒子径(メジアン径)を平均粒子径とする。
【0035】
(B)成分としては市販品を用いることができ、例えば、三菱レイヨン株式会社製の商品名:メタブレンP−1900、P−1901などが挙げられる。
【0036】
ポリエステル樹脂(A)/アクリル系重合体(B)で表される質量比(以下、「A/B比」ともいう。)は、99.9/0.1〜92/8であり、99.9/0.1〜94/6が好ましい。(A)成分が多すぎると、結着樹脂の軟化温度が低下する傾向にある。一方、(A)成分が少なすぎると(A)成分と(B)成分とを混練機等を用いて混練して結着樹脂を製造する際に、混練機内で混合物が固化してしまい、結着樹脂を取り出しにくくなる。A/B比が上記範囲内であれば、結着樹脂の生産性を良好に維持しつつ、結着樹脂の軟化温度を所望の値に制御しやすくなる。
【0037】
<製造方法>
結着樹脂は、(A)成分と(B)成分とを混合することで得られる。
(A)成分と(B)成分との混合には、公知の混練機を用いることができる。混練機の具体例としては、単軸押出機、2軸押出機、連続密閉式混合機、ギア押出機、ディスク押出機、ロールミル押出機、スタティックミキサー等の連続溶融混合装置;バンバリーミキサー、ブラベンダーミキサー、ハーケミキサー等のバッチ密閉式溶融混合装置などが挙げられる。
【0038】
(A)成分と(B)成分とを混合する際の混合温度は、100〜200℃が好ましい。混合温度が上記範囲内であれば、混合時の生産性低下を抑制できる。
【0039】
<物性>
結着樹脂の軟化温度は130℃以上であり、140℃以上が好ましい。結着樹脂の軟化温度が130℃以上であれば、高温における耐熱性が良好となる。結着樹脂の軟化温度の上限値については特に制限されないが、本発明の結着樹脂をトナー用途や捺染用途に用いる場合、紙への印刷時の耐ホットオフセット性や、紙から布地への転写時の耐布地樹脂移行性が向上する観点から、結着樹脂の軟化温度は240℃以下が好ましく、230℃以下がより好ましい。本発明の結着樹脂を捺染用途に用いる場合、結着樹脂の軟化温度が240℃以下であれば紙と布地の剥離性も向上する。
結着樹脂の軟化温度は、(A)成分の軟化温度やA/B比を調整することで制御できる。例えば、(A)成分として軟化温度が140〜170℃のポリエステル樹脂を用い、A/B比を上記範囲内とすることで、結着樹脂の軟化温度を130〜240℃に容易に制御できる。
【0040】
結着樹脂の軟化温度は、1mmφ×10mmのノズルにより、荷重294N(30Kgf)、昇温速度3℃/分の等速昇温下の条件で測定し、サンプル1.0g中の1/2が流出したときの温度である。
結着樹脂の軟化温度は、フローテスターを用いて測定することができる。
【0041】
結着樹脂のゲル分率は、結着樹脂の総質量に対して5〜40質量%が好ましく、10〜35質量%がより好ましい。結着樹脂のゲル分率が上記範囲内であれば、高温における耐熱性がより良好となる。
結着樹脂のゲル分率は、(A)成分や(B)成分の組成により調整できる。
【0042】
結着樹脂のゲル分率は、以下のようにして求められる。
まず、結着樹脂約0.5gを100mLの三角フラスコ内に秤量し(X1(g))、テトラヒドロフラン(THF)を50mL加え、結着樹脂を溶解する。
別途、ガラスフィルターに6〜7分目までセライトを充填し、充分に乾燥した後に、乾燥したガラスフィルターを秤量する(X2(g))。
次いで、乾燥したガラスフィルター内に、結着樹脂が溶解したTHF溶液を移して吸引濾過する。フィルター内に溶剤が残らないように吸引続けた後に、真空乾燥機で充分にガラスフィルターを乾燥して、乾燥したガラスフィルターを秤量し(X3(g))、下記式(i)に従ってゲル分率(THF不溶解分)を算出する。
ゲル分率(質量%)={(X3−X2)/X1}×100 ・・・(i)
【0043】
<作用効果>
以上説明した本発明の結着樹脂は、(A)成分と(B)成分とを特定に質量比で含み、かつ、軟化温度が130℃以上であるので、高温における耐熱性に優れる。具体的には、本発明の結着樹脂は、200℃における貯蔵弾性率(G’)が150Pa以上になりやすく、高温における耐熱性に優れる。特に、結着樹脂中に上述した(A)成分および(B)成分との反応生成物が含まれていれば、結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)が高まる傾向にあり、高温における耐熱性がより向上する。結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)は1,000Pa以上が好ましい。また、結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)の上限値については特に制限されないが、本発明の結着樹脂をトナー用途や捺染用途に用いる場合、紙への印刷時の耐ホットオフセット性や、紙から布地への転写時の耐布地樹脂移行性が向上する観点から、結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)は10,000Pa以下が好ましく、8,000Pa以下がより好ましい。本発明の結着樹脂を捺染用途に用いる場合、結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)が10,000Pa以下であれば紙と布地の剥離性も向上する。
【0044】
結着樹脂の貯蔵弾性率は、25mmφのパラレルプレートを用い、厚さ1mm、周波数1Hz、歪1%、昇温速度3℃/分の条件で、80℃から240℃まで測定したときの200℃における貯蔵弾性率である。
結着樹脂の貯蔵弾性率は、回転型レオメーターを用いて測定することができる。
【0045】
<用途>
本発明の結着樹脂は、トナー材料、捺染材料、コーティング材料、接着剤、フィルム等の用途に用いることができる。特に、トナー用途および捺染用途に好適である。
【0046】
「トナー」
本発明のトナーは、上述した本発明の結着樹脂を含む。
本発明の結着樹脂の含有量は、トナーの総質量に対して5〜95質量%が好ましい。
【0047】
本発明のトナーは、本発明の結着樹脂以外に、着色剤と、必要に応じて任意成分とを含む。
着色剤としては、トナーに用いられる公知の顔料等の着色剤が挙げられる。
任意成分としては、トナーに用いられる公知の各種添加剤が挙げられ、具体的には、荷電制御剤、離型剤、流動改質剤などが挙げられる。
また、トナーは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、本発明の結着樹脂以外の樹脂(例えば、スチレン系樹脂、環状オレフィン樹脂、エポキシ樹脂等)などを含んでいてもよい。
【0048】
本発明のトナーを製造する方法としては特に制限されないが、本発明の結着樹脂と、着色剤と、必要に応じて任意成分とを混合した後、2軸押出機などで溶融混練し、粗粉砕、微粉砕、分級を行い、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法(粉砕法);本発明の結着樹脂と、着色剤と、必要に応じて任意成分とを溶剤に溶解・分散させ、水系媒体中にて造粒した後に溶剤を除去し、洗浄、乾燥してトナー粒子を得て、必要に応じて無機粒子の外添処理等を行って製造する方法(ケミカル法)などが挙げられる。
【0049】
なお、粉砕法では、予め(A)成分と(B)成分とを混合して結着樹脂を調製しておいてから、着色剤および必要に応じて任意成分と混合してもよいし、(A)成分と(B)成分と着色剤と必要に応じて任意成分とを混合してもよい。生産性低下を抑制しつつ、染料昇華を抑制できる観点から、混合時や溶融混練時の温度は100〜200℃が好ましい。
ケミカル法では、予め(A)成分と(B)成分とを混合して結着樹脂を調製しておいてから、着色剤および必要に応じて任意成分と共に溶剤に溶解・分散させてもよいし、(A)成分と(B)成分と着色剤と必要に応じて任意成分とを溶剤に溶解・分散させてもよい。
【0050】
本発明のトナーは、磁性1成分現像剤、非磁性1成分現像剤、2成分現像剤の何れの現像剤としても使用できる。
本発明のトナーを磁性1成分現像剤として用いる場合、トナーは磁性体を含有する。磁性体としては、トナーに用いられる公知の磁性体が挙げられる。
本発明のトナーを2成分現像剤として用いる場合、本発明のトナーはキャリアと併用して用いられる。キャリアとしては、トナーに用いられる公知のキャリアが挙げられる。
【0051】
本発明のトナーは、上述した本発明の結着樹脂を含むので、高温における耐熱性に優れる。特に、本発明の結着樹脂の軟化温度が240℃以下であれば、紙への印刷時の耐ホットオフセット性にも優れる。
【0052】
「捺染用組成物」
本発明の捺染用組成物は、上述した本発明の結着樹脂を含む。
本発明の結着樹脂の含有量は、捺染用組成物の総質量に対して5〜95質量%が好ましい。
【0053】
本発明の捺染用組成物は、本発明の結着樹脂以外に、着色剤と、必要に応じて任意成分とを含む。
着色剤としては、捺染用トナーに用いられる公知の染料等の着色剤が挙げられる。
任意成分としては、捺染用トナーに用いられる公知の各種添加剤が挙げられ、具体的には、荷電制御剤、離型剤、流動改質剤などが挙げられる。
また、捺染用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、本発明の結着樹脂以外の樹脂(例えば、スチレン系樹脂、環状オレフィン樹脂、エポキシ樹脂等)などを含んでいてもよい。
【0054】
本発明の捺染用組成物を製造する方法としては特に制限されず、例えばトナーの説明において先に例示した粉砕法、ケミカル法などが挙げられる。
【0055】
本発明の捺染用組成物は、上述した本発明の結着樹脂を含むので、高温における耐熱性に優れる。特に、本発明の結着樹脂の軟化温度が240℃以下であれば、紙への印刷時の耐ホットオフセット性、紙から布地への転写時の耐布地樹脂移行性、昇華性や、紙と布地の剥離性にも優れる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
[測定・評価方法]
<軟化温度の測定>
ポリエステル樹脂、アクリル系重合体および結着樹脂の軟化温度は、フローテスター(株式会社島津製作所製、「CFT−500D」)を用いて、1mmφ×10mmのノズル、荷重294N、昇温速度3℃/minの等速昇温下で、樹脂サンプル1.0g中の1/2量が流出したときの温度を測定し、これを軟化温度とした。
【0058】
<ゲル分率の測定>
結着樹脂のゲル分率は、以下のようにして測定した。
測定サンプル約0.5gを100mLの三角フラスコ内に秤量し(X1(g))、THF50mLを加え、70℃に設定したウォーターバスに3時間浸漬し、測定サンプルをTHFに溶解させた。
別途、ガラスフィルター1GP100に6〜7分目までセライト545をきつく充填し、105℃の乾燥機で3時間以上乾燥して、乾燥したガラスフィルターを秤量した(X2(g))。
次いで、乾燥したガラスフィルター内に、測定サンプルが溶解したTHF溶液を移して、吸引ろ過した。アセトンを用いて三角フラスコの壁に残存した内容物すべてをガラスフィルター内に移し、ガラスフィルター内はアセトンを流して可溶解分は吸引瓶に落とし、フィルター内に溶剤が残らないように吸引続けた後に、80℃の真空乾燥機で1時間以上乾燥して、乾燥したガラスフィルターを秤量し(X3(g))、下記式(i)に従ってゲル分率(THF不溶解分)を算出した。
ゲル分率(質量%)={(X3−X2)/X1}×100 ・・・(i)
【0059】
<耐熱性の評価>
回転型レオメーター(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、「HAAKE MARSIII」)を用いて、200℃における結着樹脂の貯蔵弾性率(G’)を測定した。測定条件は以下の通りである。貯蔵弾性率(G’)が高い程、高温における耐熱性に優れることを意味する。
・ジオメトリー:25mmφパラレルプレート
・GAP:1mm
・周波数:1Hz
・ひずみ:0.01
・測定温度:80〜240℃(3℃/minで昇温)
【0060】
<生産性の評価>
結着樹脂の製造において、ポリエステル樹脂(A)とアクリル系重合体(B)とを混練機にて混練する際の状態を目視にて判断し、以下の評価基準にて生産性を評価した。
○:混練物が固化せず、結着樹脂を混練機から取り出せる。
×:混練物が固化し、結着樹脂を混練機から取り出せない。
【0061】
[ポリエステル樹脂(A)の製造]
以下に示すようにして、A−1〜A−5を製造した。
表1に示す仕込み組成の多価カルボン酸と、多価アルコールと、触媒とを蒸留塔備え付けの反応容器に投入した。なお、ビスフェノールAアルキレンオキシド付加物として、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド誘導体(PO2.3モル付加体)を用いた。
次いで、反応容器中の攪拌翼の回転数を200rpmに保ち、昇温を開始し、反応系内の温度が265℃になるように加熱し、この温度を保持してエステル化反応を行った。反応系からの水の留出がなくなりエステル化反応が終了した後、反応系内の温度を230℃に保持し、反応系内を約40分かけて減圧し、真空度を133Paとし、反応系から多価アルコールを留出させながら縮合反応を行った。
反応とともに反応系の粘度が上昇し、粘度上昇とともに真空度を上昇させ、攪拌翼のトルクが所望の軟化温度を示す値となるまで縮合反応を実施した。そして、所定のトルクを示した時点で撹拌を停止し、反応系を常圧に戻し、窒素により加圧して反応物を取り出し、ポリエステル樹脂(A−1)〜(A−5)を得た。なお、ポリエステル樹脂(A−1)〜(A−5)の重合終点は、重合途中でサンプリングを実施し、軟化温度測定により決定した。
得られたポリエステル樹脂(A)について軟化温度を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
[アクリル系重合体(B)]
アクリル系重合体(B)として、以下に示す化合物を用いた。
・B−1:グリシジルメタクリレートの単独重合体(三菱レイヨン株式会社製、「P−1900」、軟化温度140℃)。
・B−2:グリシジルメタクリレートの単独重合体(三菱レイヨン株式会社製、「P−1901」、軟化温度170℃)。
【0064】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
表2、3に示す配合組成に従い、ポリエステル樹脂(A)とアクリル系重合体(B)とを二軸混練機で溶融混練し、結着樹脂を得た。
得られた結着樹脂について、軟化温度およびゲル分率を測定し、耐熱性および生産性を評価した。これらの結果を表2、3に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
表2の結果から明らかなように、各実施例で得られた結着樹脂は、貯蔵弾性率(G’)が210Pa以上と高く、高温における耐熱性に優れていた。また、生産性も良好であった。
一方、表3の結果から明らかなように、アクリル系重合体(B)を含まず、軟化温度が130℃未満である比較例1の結着樹脂は、耐熱性に劣っていた。
軟化温度が130℃未満である比較例2の結着樹脂は、耐熱性に劣っていた。
アクリル系重合体(B)の割合が少なく、軟化温度が130℃未満である比較例3の結着樹脂は、耐熱性に劣っていた。
アクリル系重合体(B)の割合が多い比較例4の場合、混練中に混練機内で混練物が固化してしまい、結着樹脂を取り出すことができなかった。よって耐熱性は評価できなかった。