特許第6915599号(P6915599)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6915599
(24)【登録日】2021年7月19日
(45)【発行日】2021年8月4日
(54)【発明の名称】熱伝導性シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20210727BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20210727BHJP
   C08K 3/02 20060101ALI20210727BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20210727BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20210727BHJP
   C08K 5/49 20060101ALI20210727BHJP
   C08K 5/33 20060101ALI20210727BHJP
   C08K 5/02 20060101ALI20210727BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20210727BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20210727BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08L83/05
   C08K3/02
   C08K3/10
   C08K5/01
   C08K5/49
   C08K5/33
   C08K5/02
   C08L83/04
   C09K5/14 E
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-167860(P2018-167860)
(22)【出願日】2018年9月7日
(65)【公開番号】特開2020-41024(P2020-41024A)
(43)【公開日】2020年3月19日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 謙一
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 亘
(72)【発明者】
【氏名】細田 也実
【審査官】 西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−256558(JP,A)
【文献】 特開2000−204259(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/188667(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/079309(WO,A1)
【文献】 特開2016−098337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖末端にのみ少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における動粘度が100〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン:(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して10〜99質量部、
(B)1分子中に少なくとも3個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における動粘度が100〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン(ただし、上記(A)成分を除く):(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して1〜90質量部、
(C)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは5〜100の正数である。)
で表される片末端3官能の加水分解性メチルポリシロキサン:(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して40〜400質量部、
(D)10W/m・℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して500〜3,000質量部、
(E)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に直結した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:{(E)成分のSi−H基の個数}/{(A)成分と(B)成分のアルケニル基の個数}が0.5〜1.5になる量、及び
(F)白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒:白金原子として(A)成分と(B)成分の合計量の0.1〜500ppm(質量)となる量
を含有する熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項2】
さらに、(G)アセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物及び有機クロロ化合物より選択される制御剤を、(A)成分と(B)成分の合計量に対して0.1〜5質量%含有する請求項1記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項3】
熱伝導性シリコーン組成物を150℃にて90分間加熱して作製した2mm厚シートでJIS K6251に記載の2号ダンベルの形状を作製し、これを用いて測定した伸びが100%以上である請求項1又は2記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【請求項4】
熱伝導率が4.0W/mK以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率を有し、加熱硬化後に高い伸びを有する熱伝導性シリコーン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LSIやICチップ等の電子部品は、使用中の発熱及びそれに伴う性能の低下が広く知られており、これを解決するための手段として様々な放熱技術が用いられている。例えば、発熱部の付近にヒートシンク等の冷却用途の部材を配置し、両者を密接させることで冷却部材へと効率的な伝熱を促して冷却部材を冷却することにより、発熱部の放熱を効率的に行うことが知られている。その際、発熱部材と冷却部材との間に隙間があると、熱伝導性の低い空気が介在することにより、伝熱が効率的でなくなるために発熱部材の温度が十分に下がらなくなってしまう。このような現象を防止するために、発熱部材と冷却部材の間の空気の介在を防ぐ目的として、熱伝導率が良く、部材の表面に追随性のある放熱材料、放熱シートや放熱グリースが用いられる(特許第2938428号公報、特許第2938429号公報、特許第3952184号公報:特許文献1〜3)。その中でも、放熱グリースは、実装時の厚みを薄くして使用することができるために熱抵抗の観点から、高い性能を発揮する。
【0003】
放熱グリースの中には部材間に挟まれたのちに、加熱硬化して使用するようなタイプもある。放熱グリースは熱伝導性を向上させるために多量のフィラーを配合しているが、その結果として加熱硬化後の伸びが低下してしまう。伸びが低下してしまうと、材料に柔軟性がなくなってしまい、稼働時の“そり”に追従できなくなってしまう点が懸念される。追従できなくなると、部材と放熱グリースの間に空隙が発生してしまうため放熱特性が悪化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2938428号公報
【特許文献2】特許第2938429号公報
【特許文献3】特許第3952184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、高い熱伝導率を有し、加熱硬化後に高い伸びを有する熱伝導性シリコーン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、分子鎖末端にケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する成分と、上記以外の1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する成分を特定量配合することにより、高熱伝導率を維持しながら硬化後の伸びが高い熱伝導性シリコーン組成物が得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記熱伝導性シリコーン組成物を提供する。
1.(A)分子鎖末端にのみ少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における動粘度が100〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン:(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して10〜99質量部、
(B)1分子中に少なくとも3個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における動粘度が100〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン(ただし、上記(A)成分を除く):(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して1〜90質量部、
(C)下記一般式(1)
【化1】
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは5〜100の正数である。)
で表される片末端3官能の加水分解性メチルポリシロキサン:(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して40〜400質量部、
(D)10W/m・℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材:(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して500〜3,000質量部、
(E)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に直結した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン:{(E)成分のSi−H基の個数}/{(A)成分と(B)成分のアルケニル基の個数}が0.5〜1.5になる量、及び
(F)白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒:白金原子として(A)成分と(B)成分の合計量の0.1〜500ppm(質量)となる量
を含有する熱伝導性シリコーン組成物。
2.さらに、(G)アセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物及び有機クロロ化合物より選択される制御剤を、(A)成分と(B)成分の合計量に対して0.1〜5質量%含有する1記載の熱伝導性シリコーン組成物。
3.熱伝導性シリコーン組成物を150℃にて90分間加熱して作製した2mm厚シートでJIS K6251に記載の2号ダンベルの形状を作製し、これを用いて測定した伸びが100%以上である1又は2記載の熱伝導性シリコーン組成物。
4.熱伝導率が4.0W/mK以上である1〜3のいずれかに記載の熱伝導性シリコーン組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物は、高い熱伝導率を有し、加熱硬化後に高い伸びを有するため、稼働によってそりが発生する部材周辺の熱伝導性用、具体的には半導体素子周辺の熱伝導性用途に有用である。
【0009】
[(A)成分]
(A)成分は、分子鎖末端にのみ少なくとも2個、好ましくは2〜6個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における動粘度が100〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサンであり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(A)オルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよく、またこれら2種以上の異なる粘度の混合物でもよい。
【0010】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等の炭素数2〜6のものが例示されるが、合成のしやすさ、コストの面からビニル基が好ましい。ケイ素原子に結合する残余の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基等が挙げられ、さらにクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の置換炭化水素基が挙げられる。これらのうち、合成のしやすさ、コストの面からメチル基が好ましい。
【0011】
(A)成分のオストワルド計により測定した25℃における動粘度は、10〜100,000mm2/sの範囲であり、500〜100,000mm2/sの範囲が好ましい。上動粘度が10mm2/s未満であると、組成物からのオイルブリードが激しくなり、100,000mm2/sを超えると、組成物の粘度が上昇する。
【0012】
[(B)成分]
(B)1分子中に少なくとも3個、好ましくは3〜30個のケイ素原子に結合したアルケニル基を有し、25℃における動粘度が100〜100,000mm2/sのオルガノポリシロキサン(ただし、上記(A)成分を除く)であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。(B)オルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよく、またこれら2種以上の異なる粘度の混合物でもよい。具体的には、末端のケイ素原子以外のケイ素原子にアルケニル基が結合するものである。分子鎖末端にはアルケニル基を有していてもいなくてもよく、アルケニル基を有する場合、片末端でも両末端でもよい。
【0013】
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、1−ブテニル基、1−ヘキセニル基等の炭素数2〜6のものが例示されるが、合成のしやすさ、コストの面からビニル基が好ましい。ケイ素原子に結合する残余の有機基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基等が挙げられる。さらにクロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等の置換炭化水素基が挙げられる。これらのうち、合成のしやすさ、コストの面からメチル基が好ましい。
【0014】
(B)成分のオストワルド計により測定した25℃における動粘度は、10〜100,000mm2/sの範囲であり、500〜100,000mm2/sの範囲が好ましい。上動粘度が10mm2/s未満であると、組成物からのオイルブリードが激しくなり、100,000mm2/sを超えると、組成物の粘度が上昇してしまう。
【0015】
(A)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して10〜99質量部であり、20〜99質量部が好ましく、30〜96質量部がより好ましい。
(B)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して1〜90質量部であり、1〜80質量部が好ましく、4〜70質量部がより好ましい。
(B)成分が10質量部未満だと、組成物が加熱硬化後に十分硬化せず、90質量部を超えると、加熱硬化後の伸びが低下するおそれがある。
【0016】
[(C)成分]
(C)成分は下記一般式(1)
【化2】
(式中、R1は炭素数1〜6のアルキル基であり、aは5〜100の正数である。)
で表される片末端3官能の加水分解性メチルポリシロキサンであり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0017】
一般式(1)で表される片末端3官能の加水分解性メチルポリシロキサンのaは5〜100の正数であり、10〜60が好ましい。aが5未満だと、組成物のオイルブリードがひどくなり信頼性が悪くなるおそれがあり、100を超えると濡れ性が十分でないおそれがある。
【0018】
(C)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して40〜400質量部であり、40〜350質量部が好ましい。上記量が40質量部未満だと、十分な濡れ性を発揮できず、400質量部を超えるとオイルブリードが激しくなり、信頼性が悪くなる。
【0019】
[(D)成分]
(D)成分は10W/m・℃以上の熱伝導率を有する熱伝導性充填材であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。熱伝導性充填材としては、熱伝導率が10W/m・℃以上、好ましくは15W/m・℃以上のものが使用される。充填材のもつ熱伝導率が10W/m・℃未満だと、熱伝導性シリコーン組成物の熱伝導率そのものが小さくなるためである。かかる熱伝導性充填材としては、アルミニウム粉末、銅粉末、銀粉末、鉄粉末、ニッケル粉末、金粉末、錫粉末、金属ケイ素粉末、窒化アルミニウム粉末、窒化ホウ素粉末、酸化アルミニウム(アルミナ)粉末、ダイヤモンド粉末、カーボン粉末、インジウム粉末、ガリウム粉末、酸化亜鉛粉末等が挙げられる。
【0020】
(D)成分の平均粒径は0.1〜100μmの範囲が好ましく、0.1〜80μmがより好ましい。平均粒径が0.1μm未満だと、得られる組成物が伸展性に乏しいものになり、100μmを超えると、熱抵抗が大きくなってしまい性能が低下するおそれがある。なお、本発明において、平均粒径はレーザ回折・散乱法による体積基準の体積平均径であり、例えば、日機装(株)製マイクロトラックMT3300EXにより測定できる。なお、(D)成分が混合物の場合、平均粒径は混合物の平均粒径となる。(D)成分の形状は、不定形でも球形でも如何なる形状でもよい。
【0021】
(D)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して500〜3,000質量部であり、800〜2,800質量部が好ましく、800〜2,500質量部がより好ましい。上記量が、500質量部未満だと、組成物の熱伝導率が低くなってしまい、3,000質量部を超えると、組成物の粘度が上昇し、伸展性の乏しいものになる。
【0022】
[(E)成分]
本発明の(E)成分は1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に直結した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本発明の(E)成分は、架橋により組成を網状化するためにSi−H基を少なくとも1分子中に2個、好ましくは2〜20個有することが必要である。
【0023】
ケイ素原子に結合するSi−H基以外の残余の有機基としては、非置換又は置換の炭素数1〜12、特に炭素数1〜6の脂肪族不飽和結合を含まない1価炭化水素基であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基等が挙げられる。また2−グリシドキシエチル基、3−グリシドキシプロピル基、4−グリシドキシブチル基等のエポキシ置換炭化水素基等が挙げられる。
【0024】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、直鎖状、分岐状及び環状のいずれであってもよく、またこれらの混合物であってもよい。なお、オルガノハイドロジェンポリシロキサン中のケイ素原子数は、10〜200個が好ましく、10〜180個がより好ましい。
【0025】
(E)成分としては、例えば、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位と(CH32SiO単位からなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32SiO単位と(CH3)HSiO単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH33SiO1/2単位と(CH32SiO単位と(CH3)HSiO単位からなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH3)HSiO単位からなる共重合体、(CH32HSiO1/2単位と(CH32SiO単位と(CH3)HSiO単位からなる共重合体、(CH33SiO1/2単位と(CH32HSiO1/2単位と(CH3)HSiO単位からなる共重合体、(CH3)HSiO単位からなる環状共重合体、(CH3)HSiO単位と(CH32SiO単位からなる環状共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
(E)成分の配合量は、(E)成分のSi−H基の個数}/{(A)成分と(B)成分のアルケニル基の個数}が0.5〜1.5になる量であり、0.7〜1.3が好ましい。この比率が0.5未満だと、組成物の硬化が不十分となり、1.5を超えると、架橋密度が高くなりすぎてしまい、伸びが低下する。
【0027】
[(F)成分]
(F)成分は、白金及び白金化合物からなる群より選択される触媒であり、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。この触媒は、(A)成分及び(B)成分のアルケニル基と(E)成分のSi−H基との間の付加反応の促進成分である。この(F)成分は、例えば、白金の単体、塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−アルコール錯体、白金配位化合物等が挙げられる。
【0028】
(F)成分の配合量は、白金原子として(A)成分と(B)成分の合計量の0.1〜500ppm(質量)となる量であり、0.1〜400ppmが好ましい。白金原子として0.1ppmより少ないと触媒としての効果がなく、500ppmを超えても効果が増大することがなく、不経済である
【0029】
本発明の組成物には、さらに(G)成分として、(F)成分の触媒活性を抑制する目的で、1−エチニル−1−シクロヘキサノール等のアセチレン化合物、窒素化合物、有機りん化合物、オキシム化合物及び有機クロロ化合物より選択される制御剤を配合することができる。(G)成分の制御剤は、室温でのヒドロシリル化反応の進行を抑え、シェルフライフ、ポットライフを延長させるものである。制御剤としては公知のものを使用することができ、これらは組成物への分散性を良くするためにトルエン等で希釈して使用してもよい。
【0030】
(G)成分を配合する場合、(G)成分の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量に対して0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜4質量%がより好ましい。この量が、0.1質量%未満だと、十分なシェルフライフ、ポットライフが得られないおそれがあり、5質量%を超えると、硬化速度が低下するおそれがある。
【0031】
[(H)成分]
本発明の組成物には、上記(A)〜(G)成分以外に必要に応じて、劣化を防ぐために酸化防止剤や、下記一般式(2)
【化3】
(式中、R2は水素原子又は炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、R3は1価の有機基である。)
で表されるベンゾトリアゾール誘導体を配合することができる。これは、上記(F)の触媒と相互作用することにより、組成物の耐熱性が向上する(熱伝導性シリコーン組成物の硬化後の高温エージング時の硬度上昇を抑制する。)。
【0032】
ここで、上記式(2)中、R2は水素原子又は炭素数1〜6の1価炭化水素基であり、炭素数1〜6の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。R2は、合成上の面から水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0033】
3は1価の有機基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基等の炭素数1〜10の1価炭化水素基等が挙げられる。また、下記式で示される基等が挙げられる。
【化4】
[式中、R4は炭素数1〜15、特に炭素数1〜10のアルキル基等の1価炭化水素基、又は−(CH2b−Si(OR53〔R5は炭素数1〜4、特に炭素数1〜3のアルキル基又はSiR63基(R6は炭素数1〜4、特に炭素数1〜3のアルキル基)であり、bは1〜6、特に1〜3の整数である。〕であり、*は結合手を示す。]
【0034】
ここで、R4の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2−フェニルエチル基、2−フェニルプロピル基等のアラルキル基等が例示できる。また、R5、R6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜4、特に炭素数1〜3のものが挙げられる。
【0035】
具体的なベンゾトリアゾール誘導体の例を下記に示す。
【化5】
(式中、nは0〜6の整数を示す。)
【0036】
【化6】
(式中、mは1〜6の整数を示す。)
【0037】
【化7】
(式中、lは1〜6の整数であり、R7は炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のトリアルキルシリル基である。)
【0038】
これらのうち、最も好適なものを下記に示す。
【化8】
【化9】
【化10】
【0039】
成分(H)の配合量は、成分(F)の白金原子1molに対し、2〜1,000molが好ましく、2〜500molがより好ましい。
【0040】
[製造方法]
本発明の組成物は、例えば、上記必須成分及び任意成分を、トリミックス、ツウィンミックス、プラネタリミキサー(何れも井上製作所(株)製混合機の登録商標)ウルトラミキサー(みずほ工業(株)製混合機の登録商標)、ハイビスディスパーミックス(特殊機化工業(株)製混合機の登録商標)等の混合機にて混合することにより得ることができる。
【0041】
[熱伝導性シリコーン組成物の物性]
本発明の組成物の回転粘度計により測定した25℃における絶対粘度は、100〜800Pa・sが好ましく、100〜600Pa・sがより好ましい。
【0042】
本発明の組成物の熱伝導率は4.0W/mK以上が好ましく、4.5W/mK以上がより好ましい。上限は特に限定されず、200W/mK以下とすることもできる。
【0043】
[硬化物]
得られた熱伝導性シリコーン組成物を硬化物とする際の加熱温度は、80〜170℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。時間は50〜120分間が好ましく、50〜90分間がより好ましい。
【0044】
[硬化物物性]
熱伝導性シリコーン組成物を150℃にて90分間加熱して作製した2mm厚シートでJIS K6251に記載の2号ダンベルの形状を作製し、これを用いて測定した伸びは100%以上が好ましく、110%以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、500%とすることもできる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
本発明に関わる効果に関する試験は次のように行った。
【0046】
〔粘度〕
熱伝導性シリコーン組成物の絶対粘度は、マルコム粘度計(タイプPC−1TL)を用いて25℃で測定した。
【0047】
〔熱伝導率〕
熱伝導性シリコーン組成物を3cm厚の型に流し込み、キッチン用ラップをかぶせて京都電子工業(株)製のModel QTM−500で測定した。
【0048】
〔初期硬度〕
熱伝導性シリコーン組成物を150℃にて90分間加熱して2mm厚シートを作製した。このシートを用いて、JIS K6251に記載の2号ダンベルの形状を作製し、ダンベルを10mm厚み以上になるように重ねてアスカーC硬度計を用いて硬度を測定した。
【0049】
〔硬化後伸び(切断時伸び)〕
熱伝導性シリコーン組成物を150℃にて90分間加熱して2mm厚シートを作製した。このシートでJIS K6251に記載の2号ダンベルの形状を作製して測定を行った。
【0050】
〔熱抵抗測定〕
15mm×15mm×1mmtのSiチップと15mm×15mm×1mmtのNiプレートの間に、熱伝導性シリコーン組成物を挟み込み、150℃のオーブンに90分間装入して熱伝導性シリコーン組成物を加熱硬化させ、熱抵抗測定用の試験片を作製した。さらにその後ヒートサイクル試験(−55℃⇔125℃)を1,000サイクル実施して熱抵抗の変化を観察した。なお、この熱抵抗測定はナノフラッシュ(ニッチェ社製、LFA447)によって行った。
【0051】
本発明の熱伝導性シリコーン組成物を調製する成分を下記に示す。
[(A)成分]
A−1:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン
A−2:両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖され、25℃における動粘度が30,000 mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0052】
[(B)成分]
B−1:分子鎖内にメチルビニルシリル基を8つ持ち、25℃における動粘度が600mm2/sのジメチルポリシロキサン
B−2:分子鎖内にメチルビニルシリル基を15個持ち、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された25℃における動粘度が800mm2/sのジメチルポリシロキサン
B−3:分子鎖内にメチルビニルシリル基を1つ持ち、両末端がジメチルビニルシリル基で封鎖された25℃における動粘度が30,000mm2/sのジメチルポリシロキサン
【0053】
[(C)成分]
C−1:
((CH33SiO1/2)((CH32SiO)30((OCH33SiO1/2
【0054】
[(D)成分]
下記のアルミニウム粉末又は酸化アルミニウム(アルミナ)粉末と酸化亜鉛粉末を5リットルプラネタリーミキサー(井上製作所(株)製)を用いて下記(表1)の混合(質量)比で室温にて15分間混合し、D−1,D−2を得た。
平均粒径12μmのアルミニウム粉末(熱伝導率:236W/m・℃)
平均粒径10μmの酸化アルミニウム(アルミナ)粉末(熱伝導率:27W/m・℃)
平均粒径0.6μmの酸化亜鉛粉末(熱伝導率:25W/m・℃)
【0055】
【表1】
【0056】
[(E)成分]
下記式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン(なお、括弧内に示される各シロキサン単位の結合順序は、下記に制限されるものではない。)
E−1:
【化11】
E−2:
【化12】
E−3:
【化13】
E−4:
【化14】
【0057】
[(F)成分]
F−1:白金−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のA−1溶液、白金原子として1質量%含有
【0058】
[(G)成分]
G−1:1−エチニル−1−シクロヘキサノール
【0059】
[(H)成分]
H−1:下記式で表される耐熱向上剤:
【化15】
【0060】
(A)〜(H)を以下のように混合して実施例及び比較例のシリコーン組成物を得た。
5リットルプラネタリーミキサー(井上製作所(株)社製)に成分(A)を取り、表2,表3に示す配合量で成分(B)、(C)、(D)を加え、170℃で1時間混合した。常温になるまで冷却し、次に成分(E)、(F)、(G)、(H)成分を表2,表3に示す配合量で加えて均一になるように混合した。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】