(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族化合物と、カルボニル化合物と、触媒とを反応溶媒中で混合し、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との付加縮合反応を60℃以上97℃以下で行い、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との付加縮合物を得る工程を有し、
前記付加縮合物を得る工程において、前記芳香族化合物1モルに対して前記カルボニル化合物を0.1モル以上0.999モル以下の量で混合し、
前記付加縮合物は、前記芳香族化合物由来の構成単位2個が、前記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物二量体と、前記芳香族化合物由来の構成単位3個以上が、それぞれ、前記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体とを含み、
前記芳香族化合物二量体と前記芳香族化合物多量体とのモル比が1:75乃至1:1000であり、
前記芳香族化合物がα−ナフトールであり、前記カルボニル化合物がホルムアルデヒドであることを特徴とする付加縮合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<付加縮合物の製造方法>
[付加縮合物]
本発明の製造方法で得られる付加縮合物は、芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物であって、上記付加縮合物は、上記芳香族化合物由来の構成単位2個が、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物二量体と、上記芳香族化合物由来の構成単位3個以上が、それぞれ、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体とを含み、上記芳香族化合物二量体と上記芳香族化合物多量体とのモル比が1:75乃至1:1000である。この芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は高速液体クロマトグラムのピーク面積の比率から算出される。上記モル比が上記範囲にあるため、重合体スケール付着防止剤として本発明の製造方法で得られる付加縮合物を用いた際に、十分なスケール付着防止性能を発揮できる。また、多数回の重合バッチを繰り返しても、重合体スケール付着防止剤、重合助剤及び未反応カルボニル化合物が原因となる堆積物が生成しないため、重合反応器ジャケットの総括伝熱係数低下を効果的に防止できる。なお、上記特許文献1に記載の重合体スケール付着防止剤では、十分なNS防止性能を発揮できない。
【0016】
ここで、具体的には、芳香族化合物は、付加縮合物中で芳香族化合物由来の構成単位(A)を構成する部分を有する。また、カルボニル化合物は、付加縮合物中でカルボニル化合物由来の構成単位(B)を構成する部分を有する。本明細書において、芳香族化合物二量体は、A−B−Aの構造を有する化合物を意味し、芳香族化合物多量体は、「A」と「B」とが交互に並んだA−B−A−…−B−Aの構造を有する化合物を意味する。
【0017】
また、本発明の製造方法で得られる付加縮合物は、通常、該付加縮合物を含む溶液として調製される。具体的には、この付加縮合物の溶液は、芳香族化合物と、カルボニル化合物と、触媒とを反応溶媒中で混合し、上記芳香族化合物と上記カルボニル化合物との付加縮合反応によって得られた付加縮合物の溶液である。上記付加縮合物の溶液において、付加縮合物のうち、芳香族化合物とカルボニル化合物とが2対1のモル比で反応して生成した芳香族化合物二量体と芳香族化合物三量体以上の付加縮合物との比が1:75乃至1:1000である。また、この比は、好ましくは1:80乃至1:1000であり、より好ましくは1:80乃至1:500であり、さらに好ましくは1:80乃至1:400である。
【0018】
なお、重合体スケール付着防止剤としては、特開2003−40907号公報(特許文献2)には、スチーム2段塗布のためのキノン系化合物縮合物を含有する第1塗布液及びポリりん酸を含む第2塗布液が知られている。この特許文献2に記載の重合体スケール付着防止剤を用いたエチレン性不飽和二重結合を有する単量体の重合体を製造する方法では、重合後のスケール付着量は少ないものの、重合中に付着したスケールが剥離しやすいために、重合で生成したポリ塩化ビニル(PVC)粒子によるスケールの掻き取りにより急激にフィッシュアイが増加する場合があるという問題があった。
【0019】
[芳香族化合物]
具体的には、芳香族化合物としては、ベンゼン誘導体、ナフタリン誘導体、多核芳香族化合物、非ベンゼン系芳香族化合物などが挙げられる。ベンゼン誘導体、ナフタリン誘導体、多核芳香族化合物、及び非ベンゼン系芳香族化合物に含まれる共役π結合は3〜20個であるものが好ましい。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。
【0020】
上記のベンゼン誘導体としては、フェノール類及びそれらの誘導体、例えば、フェノール、2−メチルフェノール、3−メチルフェノール、4−メチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール;芳香族アミン類及びそれらの誘導体、例えば、ピリジン、キノリン、カルバゾール、o−フェナントロリン、p−フェナントロリン、3,6−ジアミノアクリジン、3−アミノフェノチアジン、2−アミノフェナジン、フェノチアジン、2−ヒドロキシ−4−メチルキノリン;ニトロ及びニトロソ誘導体、例えば、ニトロベンゼン、フェナジン、フェナジンオキシド、1−フェニルアゾ−2−ナフトール、トリフノジオキサジン、4−ニトロキサントン;芳香族アルデヒド、例えば、ベンズアルデヒド、ベンゾフラビン;アルデヒド基以外に更に1種の置換基を有するベンゼン誘導体、例えば、1−ヒドロキシ−2,4−メチルフルオロン、3−フェニルクマロン、クマリン−3−カルボン酸エチルエステル、3−アセチルクマリン、5−クロロ−3−(4−ヒドロキシフェニル)アントラニル、3−ニトロアクリドン;アシル基以外に更に1種の置換基を有するベンゼン誘導体、例えば、キサントン、2−ベンゾイルキサントン、キサンテン、フルオレン;3種類以上異なった置換基を有するベンゼン、トルエン誘導体、例えば、7−アセトキシ−8−メトキシ−3−(2−ニトロフェニル)カルボステリル;アラルキル化合物、例えば、9−ベンジルアクリジン;ジアゾ化合物及びアゾ化合物、例えば、1,1’−アゾナフタリン、アゾキシフェノール等が挙げられる。
【0021】
ナフタリン誘導体としては、アルキル、アルケニル及びフェニルナフタリン類、例えば、2−メチルナフタリン、1−エチルナフタリン、2−エチルナフタリン、1,2−ジメチルナフタリン;ジナフチル類、例えば、1,1’−ジナフチル、1,2’−ジナフチル、2,2’−ジナフチル;ナフチルアリールメタン類、例えば、1−ベンジルナフタリン、2−ベンジルナフタリン、1−(α,α−ジクロールベンジル)ナフタリン、ジフェニル−α−ナフチルメタン、ジフェニル−β−ナフチルメタン、ジ−α−ナフチルメタン;ナフチルアリールエタン類、例えば、1,2−ジ−α−ナフチルエタン、1,2−ジ−β−ナフチルエタン;ヒドロナフタリン類、例えば、1,2−ジヒドロナフタリン、1,4−ジヒドロナフタリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタリン;ニトロナフタリンとその誘導体、例えば、ニトロメチルナフタリン、ニトロアルキルナフタリン、ニトロフェニルナフタリン、ハロニトロナフタリン、ハロジニトロナフタリン、ニトロソナフタリン、ジアミノナフタリン、トリアミノナフタリン、テトラアミノナフタリン;ハロゲン化ナフタリン類、例えば、1−フルオルナフタリン、1−クロールナフタリン、1−クロール−3,4−ジヒドロナフタリン;ナフチルヒドロキシルアミン、ナフチルピラジン及びナフチル尿素類、例えば、α−ナフチルヒドロキシルアミン、β−ナフチルチオヒドロキシルアミン、N−ニトロソ−α−ナフチルヒドロキシルアミン、α−ナフチルヒドラジン、1,2−ジベンゾカルバゾール;ナフタリン系アラルキル化合物、例えば、ジベンゾアントラセン、アセナフテン、ジフェニルナフチルクロールメタン、ニトロメチルナフタリン;ナフトアルデヒド類及びその誘導体、例えば、α−ナフトアルデヒド、2−(2,4−ジニトロフェニル)−1−(α−ナフチル)エチレン;アセトナフテン、ベンゾイルナフタリン類、例えば、(1,2又は5,6−)ジベンズアントラセン、2’−メチル−2,1’−ジナフチルケトン、2−メチル−1,1’−ジナフチルケトン、スチリル−2−ナフチルケトン;ナフトール類、例えば、1−ナフトール(α−ナフトール)、2−ナフトール、1,3−ジヒドロキシ−ナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン及び1,7−ジヒドロキシナフタレン、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−8−ナフトエ酸等が挙げられる。
【0022】
多核芳香族化合物としては、アントラセン類及びその誘導体、例えば、アントラセン、1,2−ジヒドロアントラセン、1−クロールアントラセン、1,4−ジクロールアントラセン、1−ニトロアントラセン、9,10−ジニトロアントラセン、1−アミノアントラセン、2−ジメチルアミノアントラセン、2−アニリノアントラセン、9−メチルアミノアントラセン、1,4−ジアミノアントラセン;フェナントレン類及びその誘導体、例えば、フェナントレン、9,10−ジヒドロフェナントレン、1,2,3,4−テトラヒドロフェナントレン、1−クロールフェナントレン;或いは、多核芳香族化合物及びその誘導体、例えば、ペンタセン、ヘキサセン、ベンゾフェナントレン、ベンゾ〔a〕アントラセン、ピレン、コロネン等が挙げられる。
【0023】
更に、非ベンゼン系芳香族化合物としては、例えば、アズレン、シクロデカペンタン、シクロテトラデカヘプタン、シクロオクタデカノナエン、シクロテトラコサドデカエン、ヘプタレン、フルバレン、セスキフルバレン、ヘプタフルバレン、ペリナフテン等が挙げられる。
【0024】
これらのうちで、温和な条件で経済的に反応可能であるという観点から、ナフトール類が好適に用いられる。また、芳香族化合物としては、下記一般式(1)で表される芳香族化合物がより好適に用いられ、α−ナフトールがさらに好適に用いられる。
【0026】
上記一般式(1)において、R
2、R
3は、それぞれ水素原子又は炭化水素基である。炭化水素基としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0027】
[カルボニル化合物]
カルボニル化合物としてはカルボニル基を有する有機化合物であれば特に制限なく使用することができる。カルボニル化合物としてはアルデヒド類(アルデヒド化合物)、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、テレフタルアルデヒド;ケトン類(ケトン化合物)、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、カルボニル化合物としては、下記一般式(2)で表されるアルデヒド化合物が好適に用いられる。
R
1−CHO (2)
【0028】
上記一般式(2)において、R
1は、水素原子又は炭化水素基(好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基)である。上記に例示したカルボニル化合物の中でも、工業的及び経済的観点からホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドがより好適である。
【0029】
[触媒]
触媒としてはブレンステッド酸、例えば、塩酸、硫酸、りん酸、クエン酸;ルイス酸、例えば、塩化アルミニウム、モノボラン、ジボラン、三フッ化ホウ素、アルミナ;塩基、例えばアンモニア、トリエチルアミン、アルカリ金属水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム)等が挙げられる。
【0030】
[反応溶媒]
反応溶媒としては反応温度、反応圧力で液体であれば特に制限なく使用する事ができる。反応溶媒としては例えば、水、又は、アルコール類、ケトン類、エステル類等の有機溶媒が挙げられ、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類及び酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類が挙げられる。
【0031】
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物はこれらの反応成分、反応溶媒中で、触媒存在下、通常、室温〜200℃で1〜100時間、好ましくは30〜150℃で2〜30時間反応させることにより製造される。或いは、芳香族化合物及びカルボニル化合物の各々を1種単独でも2種類以上組み合わせて使用してもよい。
また、上記芳香族化合物二量体と上記芳香族化合物多量体とのモル比を上記の範囲に調整する観点から、上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物は、好ましくは室温〜97℃で1〜100時間、より好ましくは30〜95℃で2〜30時間反応させて製造することが望ましい。また、反応中、反応温度(最高到達温度)は、60〜97℃であることが好ましい。なお、この最高到達温度で好ましくは1〜100時間、より好ましくは2〜30時間反応させることが望ましい。
【0032】
上記縮合反応を行う媒体のpHは通常1〜14、好ましくは1〜10の範囲であり、pH調整剤は、特に制限はなく使用することができるが、縮合物の溶解性を良好に保つ点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を用いることが好適である。
【0033】
縮合反応を行う際の芳香族化合物とカルボニル化合物との比は、使用する芳香族化合物、カルボニル化合物、反応溶媒及び触媒の種類、反応時間、反応温度等により適宜選定され、通常、芳香族化合物1モルに対してカルボニル化合物を0.1〜10モル、好ましくは0.5〜3.0に設定することが好適である。また、芳香族化合物1モルに対してカルボニル化合物をさらに好ましくは0.1〜0.999モル、特に好ましくは0.5〜0.99モルに設定することが好適である。これにより、上記芳香族化合物二量体と上記芳香族化合物多量体とのモル比を上記の範囲に調整できる。
【0034】
このようにして、付加縮合物を含む溶液が得られる。この溶液中の付加縮合物は、上記芳香族化合物由来の構成単位2個が、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物二量体と、上記芳香族化合物由来の構成単位3個以上(好ましくは3個〜50個)が、それぞれ、上記カルボニル化合物由来の構成単位1個を介して結合している芳香族化合物多量体とを含み、上記芳香族化合物二量体と上記芳香族化合物多量体とのモル比が1:75乃至1:1000、好ましくは1:80乃至1:1000、より好ましくは1:80乃至1:500、さらに好ましくは1:80乃至1:400である。モル比の測定方法については、実施例において詳しく述べる。
【0035】
通常、付加縮合物には、芳香族化合物二量体とともに、芳香族化合物三量体(A−B−A−B−Aで表される化合物)から、芳香族化合物50量体(A−B−A−…−B−Aで表され、Aが50個含まれる化合物)までが含まれている。
【0036】
芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の重量平均分子量は200以上100,000以下であるものが好ましい。さらに好ましくは500以上10,000以下がよい。この場合の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量を意味し、以下の記載についても同様である。
【0037】
縮合反応終了後の付加縮合物を含む溶液は、そのまま、重合体スケール付着防止剤として用いてもよい。また、付加縮合物を含む溶液を重合体スケール付着防止剤として用いる場合、該溶液中において、付加縮合物は、0.1質量%以上15質量%以下の量で含まれていることが好ましい。なお、溶媒等を添加して、付加縮合物の量を調整することができる。
【0038】
付加縮合物を含む溶液を重合体スケール付着防止剤として用いる場合、縮合反応終了後の該溶液に、下記の成分を更に添加してもよい。
【0039】
[還元剤]
還元剤の添加によって、縮合反応によって得られる縮合反応生成物溶液の均一安定性が向上し、また、長期間保存してもゲル化物が生成することがなく、ゲル化物が重合体製品中に混入することが未然に防止されて製品の品質に影響が及ぶことがないという利点がある。更に、上記付加縮合物から得られるスケール防止性塗膜のスケール付着防止効果が向上するという利点もある。還元剤としては、亜硫酸塩、亜りん酸塩、亜硝酸塩、還元糖類、及び二酸化チオ尿素が挙げられる。
【0040】
亜硫酸塩としては、例えば、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム(Na
2S
2O
4)、ロンガリット等が挙げられる。
【0041】
亜りん酸塩としては、例えば、亜りん酸アンモニウム、亜りん酸ナトリウム、亜りん酸カリウム、亜りん酸カルシウム、亜りん酸ウラニル、亜りん酸コバルト、亜りん酸第一鉄、亜りん酸第二鉄、亜りん酸銅、亜りん酸バリウム、亜りん酸ヒドラジニウム、亜りん酸水素アンモニウム、亜りん酸水素ナトリウム、亜りん酸水素カリウム、亜りん酸水素カリウム、亜りん酸水素カルシウム、亜りん酸水素コバルト、亜りん酸水素第一銅、亜りん酸水素第二銅、亜りん酸水素第一鉄、亜りん酸水素第二鉄、亜りん酸水素鉛、亜りん酸水素バリウム、亜りん酸水素マグネシウム、亜りん酸水素マンガン、亜りん酸水素ヒドラジニウム等が挙げられる。
【0042】
亜硝酸塩としては、例えば、亜硝酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸カルシウム、亜硝酸亜鉛、亜硝酸銀、亜硝酸コバルトカリウム、亜硝酸コバルトナトリウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸セシウム、亜硝酸セリウム、亜硝酸第二銅、亜硝酸ニッケル、亜硝酸バリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸リチウム、亜硝酸ルビジウム等が挙げられる。
【0043】
還元糖類とは、遊離のアルデヒド基又はカルボニル基を有し、かつ還元性を示す糖類である。その例としては、マルトース、ラクトース、ぶどう糖(グルコース)等が挙げられる。
【0044】
これら還元剤は1種単独でも2種以上を組み合わせても使用することができる。また、上記に例示した還元剤の中でも、亜硫酸塩及び二酸化チオ尿素が好ましい。
【0045】
上記縮合反応において、縮合反応の開始前、縮合反応中及び縮合反応終了後の少なくとも1つの段階で、反応系もしくは付加縮合物の溶液に還元剤を添加することが考えられる。しかしながら、本発明においては、縮合反応の開始前に添加される芳香族化合物の0.05モル当量以上の還元剤を縮合反応の開始前の段階では反応系に添加しないことが好ましい。これにより、上記モル比を上記の範囲に調整できる。
【0046】
なお、「縮合反応の開始前」とは、上記両反応原料等の溶液の調製後に、室温から所定の反応温度まで反応系の温度を昇温させる工程が終了する時点の前を意味する。具体的には、室温から50℃まで反応系の温度を昇温させる工程が終了する時点の前を意味する。また、「縮合反応中」とは、反応系の温度が所定の反応温度に達した以後であって、かつ、反応系中に未反応の反応原料が残存しており縮合反応が完了していない段階を意味する。更に、「縮合反応終了後」とは、縮合反応が完了した後であって、かつ、付加縮合物が溶液の状態で存在している段階を意味する。なお、カルボニル化合物が芳香族化合物に付加する反応は50℃以上で急速に進行すると考えられる。
【0047】
この還元剤を使用する場合、その使用量は、付加縮合物100質量部に対して、通常0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜3質量部程度である。
【0048】
[水溶性高分子]
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液には、塗膜の親水性を高めてスケール付着防止性能を向上させるために、アニオン性高分子化合物、両性高分子化合物、カチオン性高分子化合物、ノニオン性高分子化合物及びヒドロキシル基含有高分子等の水溶性高分子を添加することができる。水溶性高分子を添加する場合、水溶性高分子のK値については塗膜の親水性を高める性能が十分で、かつ溶媒への溶解性に問題のない範囲のK値とすることが好適である。具体的には、水溶性高分子のK値〔Fikentscherの式に基づくK値(25℃)〕が10以上200以下であることが好ましく、80以上150以下であることがより好ましい。水溶性高分子の含有量については、溶液の粘度上昇により取扱いに問題が出ない範囲内の量とすることが好適である。具体的には、水溶性高分子の含有量が0.001質量%以上50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上30質量%以下である。
【0049】
[pH調整剤]
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液のpHについては、使用される化合物の種類により適宜選択することができる。pH調整が必要な場合、pH調整剤として、酸及びアルカリ化合物を適宜使用することができる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、二りん酸、myo−イノシトール−1,2,3,4,5,6−六りん酸等が例示される。アルカリ化合物としては、LiOH、NaOH、KOH、Na
2CO
3、Na
2HPO
4等のアルカリ金属化合物やNH
3、メチルアミン、エチルアミン、エチレンジアミン等のアミン系化合物が例示される。pHを調整した場合、pHの範囲は6〜14が好ましく、更に8〜13が好ましい。
【0050】
重合反応器に使用する上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液には、本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、上述した成分以外の他の成分を必要に応じて添加することができるが、該溶液中において0質量%以上50質量%以下の範囲で添加することが好ましい。具体的には、無機コロイド、アルカリ金属ケイ酸塩、酸化防止剤等が挙げられる。
【0051】
<重合反応器及び重合体の製造方法>
重合反応器は、単量体を重合する際に使用される重合反応器であって、上記単量体が接触する容器内壁面表面に上記付加縮合物が付着している。通常、上記付加縮合物を含む溶液を重合反応器の内壁表面に塗布し、塗膜として、上記付加縮合物を付着させる。なお、特に重合反応器の容量は問わない。
【0052】
ここで、上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液を塗布するために用いられる装置の一例として
図1の概略図を示し、
図1を参照しながら、上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液を塗布する工程について説明する。
【0053】
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液の塗布方法については、特に制限はないが、例えば窒素、空気、水蒸気をキャリアとして用いてノズルから噴射し、金属板表面や重合反応器の内壁面等に上記塗布液を塗布することが好適である。また、基材である金属板や重合反応器内壁面の材質についても、特に制限はないが、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼、ニッケル合金、チタン合金、アルミ合金を用いることができる。特に、耐食性と価格的合理性との両立の点から、ステンレス鋼を採用することが好適である。金属板や重合反応器内壁面の表面は、機械研磨や電解研磨等の研磨を施してもよく、必要に応じてメッキを施してもよい。
【0054】
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液を重合反応器内面に塗布する塗布方法については、例えば、下記の塗布工程が採用される。
【0055】
[塗布工程]
(スチームによる重合反応器内壁面等の予熱)
図1を参照して、重合反応器1に取り付けられたジャケット2に熱水等を通し、重合反応器内壁面の温度を20℃以上、好ましくは30〜95℃に予め加熱する。この重合反応器1の上部には、下方向きの塗布ノズル3が設けられている。塗布ノズル3には、重合反応器1の外部からスチーム及び塗布液を供給するライン4が接続されている。ライン4には、スチーム供給ライン5、第1塗布液供給ライン6及び第2塗布液供給ライン7がバルブV1,V2,V3を介して接続されている。必要に応じて、上記塗布ノズル3から、スチーム(水蒸気又は過熱水蒸気)を重合反応器1内に吹き込み、特に図示してはいないがバッフル及び撹拌翼等も予め加熱する。この装置では、スチームはスチーム供給器8から流量計9を経てライン5,4を通り塗布ノズル3に供給される。
【0056】
(1段目塗布)
スチームを塗布ノズル3に供給し、第1塗布液タンク10内に収納された芳香族化合物−カルボニル化合物付加縮合物の溶液を含む第1塗布液をポンプ11又はアスピレーターバルブ(図示せず)によりライン6,4を介して塗布ノズル3に供給する。なお、図中のPは圧力計を示す。芳香族化合物−カルボニル化合物付加縮合物の溶液を含む第1塗布液は、スチームに運ばれ、重合反応器1の内壁面、バッフル表面及び撹拌翼表面等の重合中に単量体が接触する表面に塗布され、第1塗布層を形成する。スチーム(G)と塗布液(L)との混合割合(L/G)は、質量基準の流量比で、好ましくは0.01〜1.0であり、より好ましくは0.02〜0.3である。
【0057】
(2段目塗布、必要に応じて省略することができる)
引き続き、スチームを流した状態で第2塗布液タンク12内に収納された助剤を含む第2塗布液をポンプ13によりライン7,4を介して塗布ノズル3に供給し、上記の第1塗布層上に塗布し、第2塗布層(特に図示せず)を形成する。1段目塗布と同様、この2段目塗布においても、塗布と同時に第2塗布層が形成される。この2段目塗布においても、スチーム(G)と塗布液(L)との混合比(L/G)については、質量基準の流量比で、好ましくは0.01〜1.0であり、より好ましくは0.02〜0.3である。
なお、二段階塗布としては、第1塗布液と第2塗布液は同一組成でも、上記塗布液の組成範囲であれば、異なっていてもよい。なお、第1塗布液または第2塗布液あるいは第1塗布液及び第2塗布液に付加縮合物を含むことが好ましい。
【0058】
(水洗)
スチーム及び塗布液の供給を止めた後、水タンク14に収納された洗浄水により重合反応器1内の水洗を行う。洗浄水はV4を開放することでポンプ15によりライン16を介してノズル17から重合反応器1内に供給される。但し、品質への影響が少なければ水洗は行う必要はない。
【0059】
[助剤]
上記の塗布方法では本発明の目的及び効果を損なわない範囲で、第二塗布液に助剤を必要に応じて添加することができるが、該溶液中において0質量%以上50質量%以下の範囲で添加することが好ましい。具体的には水溶性高分子、例えば、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリ酢酸ビニル、ポリ−N−ビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース;酸、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、りん酸、二りん酸、o−イノシトール−1,2,3,4,5,6−六りん酸、クエン酸;酸の塩、例えば、りん酸二水素ナトリウム、りん酸水素二ナトリウム、りん酸三アンモニウム、りん酸水素カルシウム、二りん酸二水素二ナトリウム、二りん酸二水素カルシウム;塩基、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、エチレンジアミン;無機コロイド、例えば、コロイダルシリカ等が添加できる。
【0060】
上記の塗布方法のように、上述した芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液を、キャリアとして水蒸気を使用して重合反応器1の内壁面に塗布形成してもよい。この場合、キャリアとして使用される水蒸気は、通常の水蒸気であっても過熱水蒸気であってもよく、特に、0.1〜3.5MPaGの圧力を有するものが好ましく、より好ましくは0.28〜2.0MPaGの圧力を有するものである。水蒸気の温度は、好ましくは120〜270℃であり、より好ましくは140〜230℃である。なお、上記水蒸気の圧力及び温度の値は、水蒸気が塗布液と混合される前、例えば、
図1においてスチーム供給ライン5内において測定される値を示す。また、芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液の塗布時間については、十分有効な塗膜が形成でき、かつ経済的な時間の範囲内とすることが好ましく、具体的には、1秒以上600秒以下、より好ましくは10秒以上300秒以下である。
【0061】
上記の塗布に用いられる重合反応器は、重合反応中に単量体が接触する内壁面の表面に芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液が塗布されるものであり、内容積が1m
3以上であることが好ましく、特に、生産性の観点から、内容積が10〜600m
3であることが好適である。この重合反応器としては、ジャケット、コイル、バッフル、重合反応中に単量体を凝縮させるためのリフラックスコンデンサ、内部ジャケットの中から1種又は2種以上組み合わせて備えてもよく、重合反応器内を効率的に冷却し得る点から、少なくとも重合反応中に単量体を凝縮させるためのリフラックスコンデンサを備えていることが好適である。
【0062】
上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液は、オレフィン系重合体を製造する工程において上記重合反応器内に塗布され、特に、エチレン性不飽和基含有単量体を重合する工程の中で好適に用いられる。上記エチレン性不飽和基含有単量体の具体例としては、例えば、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸及びこれらのエステル又は塩;マレイン酸、フマル酸及びこれらのエステル又は酸無水物;ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;スチレン;アクリロニトリル;ビニルエーテル等が挙げられる。特に、上記重合反応器内に塗布される芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液は、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン、或いは、これらを主体とし他の単量体も含む単量体混合物を、水性媒体中において懸濁重合又は乳化重合に供することにより、エチレン性不飽和基含有単量体の重合体、共重合体又は上記単量体混合物の共重合体を製造する工程の中で好適に用いられる。
【0063】
また、上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液は、従来から公知の重合体スケールの付着防止性能を有する塗膜に対して高い溶解能を有する単量体、例えば、α−メチルスチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、酢酸ビニル等の重合に適用しても、高い耐久性を示すものであるので、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル等の重合体ビーズ又はラテックスの製造、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)等の合成ゴムの製造(なお、これらの合成ゴムは通常乳化重合によって製造される。)、ABS樹脂の製造に際しても好適に適用することができる。
【0064】
上記の単量体の1種又は2種以上の重合については、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、溶液重合等のいずれの重合形式で行われても、或いは、乳化剤、安定剤、滑剤、可塑剤、pH調整剤、連鎖移動剤等のいずれの添加剤の存在下で行われても、重合体スケールの付着防止目的・効果を達成することができる。例えば、ビニル系単量体の懸濁重合や、乳化重合では、重合系に必要に応じて種々の添加剤が加えられる。このような添加剤としては、例えば、部分けん化ポリビニルアルコール、メチルセルロース等の懸濁安定剤;ラウリル硫酸ナトリウム等のアニオン性乳化剤;ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のノニオン性乳化剤;三塩基性硫酸鉛、ステアリン酸カルシウム、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズメルカプチド等の安定剤;トリクロロエチレン、メルカプタン類等の連鎖移動剤;各種pH調整剤等が挙げられ、このような添加剤が重合系に存在しても重合体スケールの付着を効果的に防止することができる。
【0065】
また、上記芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液は、重合開始剤の種類に影響されることなく、いずれの重合開始剤を使用した場合でも所望の重合体スケールの付着防止効果を発揮することができる。上記の重合開始剤としては、例えば、t−プチルパーオキシネオデカノエート、ビス(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、α−クミルパーオキシネオデカノエート、クメンハイドロパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、t−ブチルパーオキシピバレート、ビス(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、ジベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、α,α’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ジ−2−エチルヘキシルジパーオキシイソフタレート、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等を例示することができる。
【0066】
なお、上記重合開始剤を使用して各種単量体の重合を行う際の他の条件については、従来から通常に行われる通りで良く、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はない。上記重合開始剤を使用して各種単量体の重合を行う例として、懸濁重合、溶液重合及び塊状重合の場合を例に挙げて、典型的な重合条件を以下に具体的に説明するが、本発明は、これらの重合条件等により限定されるものではない。
【0067】
懸濁重合の場合には、まず、水及び分散剤を重合器に仕込み、その後、重合開始剤を仕込む。次に、重合器内を排気して約0.001〜101kPa・G(約0.01〜760mmHg)に減圧もしくは大気圧にした後、重合器の内圧が、通常、49〜2940kPa・G(0.5〜0.5kgf/cm
2・G)となる量の単量体を仕込み、その後、30〜150℃の反応温度で重合する。重合中には、必要に応じて、水、分散剤及び重合開始剤の一種又は二種以上を添加する。また、重合時の反応温度は、重合される単量体の種類によって異なり、例えば、塩化ビニルの重合の場合には30〜80℃で行い、スチレンの重合の場合には50〜150℃で重合を行う。重合は、重合器の内圧が0〜686kPa・G(0〜7kgf/cm
2・G)に低下した時に、或いは重合器外周に付設された冷却用ジャケット内に流入及び流出させる冷却水の入口温度と出口温度との差がほぼなくなった時(即ち、重合反応による発熱がなくなった時)に、完了したとみなされる。重合の際に仕込まれる水、分散剤及び開始剤の量は、通常、単量体100質量部に対して水20〜500質量部、分散剤0.01〜30質量部及び重合開始剤0.01〜5質量部である。
【0068】
溶液重合の場合、重合媒体として水の代わりに、例えば、トルエン、キシレン、ピリジン等の有機溶媒を使用し、必要に応じて分散剤が用いられる。その他の重合条件は、一般的には、懸濁重合についての上記重合条件と同様である。
【0069】
塊状重合の場合、重合反応器内を約0.001〜101kPa・G(約0.01〜760mmHg)の圧力に排気又は大気圧にした後、その重合反応器内に単量体及び重合開始剤を仕込み、−10〜250℃の反応温度で重合する。例えば、塩化ビニルの重合の場合には30〜80℃で重合を行うことができ、スチレンの重合の場合には50〜150℃で重合を行うことができる。
【0070】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0071】
[実施例]
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0072】
・合成例1
窒素を流して十分窒素置換しておいた反応器に脱イオン水615mLを仕込み、反応器内を35℃に昇温して撹拌しながら予備昇温を行った。水酸化ナトリウム24.2g及びα−ナフトール112.5gを添加した。37重量パーセントホルムアルデヒド水溶液60gを添加した。30分間撹拌した後、上記反応器内を78℃に昇温して、該反応器内の混合物を3時間反応させた後、40℃まで冷却した。更に脱イオン水815mL、N−メチルピロリドン200g及び亜二チオン酸ナトリウム15gを添加した。このようにして縮合物No.1の溶液を得た。
この縮合物No.1の溶液に、水酸化ナトリウム4.45g、50重量パーセントmyo−イノシトール−1,2,3,4,5,6−六りん酸水溶液13.3g及び脱イオン水155mLの混合溶液を添加し、90分間撹拌した。このようにして塗布液No.11の溶液を得た。芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は1:341で、pHは12.6、Mwは1900であった。
【0073】
・合成例2
亜二チオン酸ナトリウム15gを反応終了後に一括添加するのではなく1.5gをα−ナフトールの添加前に添加し、反応中(78℃に昇温後1.5時間後)に13.5gを添加した以外は合成例1と同じ方法で縮合物No.2及び塗布液No.12を得た。芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は1:133で、pHは12.5、Mwは1600であった。
なお、合成例2においては、縮合反応の開始前に添加される芳香族化合物の0.05モル当量以上の還元剤は、縮合反応の開始前の段階では反応系に添加されていない。
【0074】
・合成例3
亜二チオン酸ナトリウム15gを反応終了後に一括添加するのではなく1.5gをα−ナフトールの添加前に添加し、反応終了後に13.5gを添加した以外は合成例1と同じ方法で縮合物No.3及び塗布液No.13を得た。芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は1:199で、pHは12.2、Mwは1900であった。
なお、合成例3においては、縮合反応の開始前に添加される芳香族化合物の0.05モル当量以上の還元剤は、縮合反応の開始前の段階では反応系に添加されていない。
【0075】
・合成例4
亜二チオン酸ナトリウム15gを反応終了後ではなくα−ナフトールの添加前に添加した以外は合成例1と同じ方法で縮合物No.4及び塗布液No.14を得た。芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は1:52で、pHは12.4、Mwは1300であった。
【0076】
・合成例5
反応器に脱イオン水930mL及びエタノール50mLを仕込み、撹拌しながら重量平均分子量280万のポリN−ビニル−2−ピロリドン10gを添加した。ポリN−ビニル−2−ピロリドンの溶解を目視で確認した後、二りん酸二水素カルシウム水溶液(脱イオン水20mLに二りん酸二水素カルシウム500mgを溶解したもの)を加え5時間撹拌した。このようにして塗布液No.21の溶液を得た。
【0077】
・比較例1
窒素を流して十分窒素置換しておいた反応器に耐圧反応器に1−ナフトール36.0kg(250モル)と1規定NaOH水溶液180L(NaOH含量7.2kg(180モル))とを仕込み、撹拌しながら、70℃に昇温した。次に、反応混合物にホルムアルデヒドを溶解した水溶液19.75kg(ホルムアルデヒド1.92重量%含有)を1.5時間かけて一定速度で滴下した。前記滴下が終了するまでの間、反応器の内温が80℃を越えないように調節した。次に、3時間かけて反応混合物の撹拌を続け、この間に温度を60℃にまで低下させた。次に、反応混合物を98℃に昇温し、98℃で1.5時間反応させた。その後、反応混合物を冷却し縮合物No.5を得た。
この縮合物No.5の溶液に、水酸化ナトリウム4.45g、50重量パーセントmyo−イノシトール−1,2,3,4,5,6−六りん酸水溶液13.3g及び脱イオン水155mLの混合溶液を添加し、90分間撹拌した。このようにして塗布液No.15の溶液を得た。芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は1:1であった。
【0078】
・比較例2
窒素を流して十分窒素置換しておいた反応器に、イオン交換水1L、1−ナフトール180g、及び触媒として水酸化ナトリウム38gを仕込み、次いでオイルバスにて70℃に加温し、窒素気流下で37%ホルムアルデヒド水溶液102gを徐々に滴下した。滴下終了後、12%イソアスコルビン酸ナトリウム水溶液400gを配合し、60℃に冷却し、3時間反応させた。次に、98℃に昇温し、1.5時間反応させて縮合物No.6を得た。
その後、反応混合物に水を加えて固形分を5%に調整し、塗布液No.16を得た。芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比は1:34000であった。
【0079】
<塗布>
スチーム1段塗布
重合器1として、内容積2m
3のステンレス製重合器を用いた。予めジャケット2に熱水を通水して重合器1の内壁面を45℃に加熱しておく。バルブV1を開き、0.717MPaG(171.4℃)のスチームを240kg/hの流量で60秒間、重合器内に吹込み、器内を予熱後、バルブV2を開き、表1に記載の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液含有第一塗布液を120mL/minの流量で120秒間、上記スチームをキャリアとして利用して塗布する。その後、バルブV1、V2を閉じる。ジャケット2への熱水の通水を停止する。
【0080】
スチーム2段塗布
重合器1として、内容積2m
3のステンレス製重合器を用いた。予めジャケット2に熱水を通水して重合器1の内壁面を45℃に加熱しておく。バルブV1を開き、0.717MPaG(171.4℃)のスチームを240kg/hの流量で60秒間、重合器内に吹込み、器内を予熱後、バルブV2を開き、表1に記載の芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液含有第一塗布液(下塗り用)を120g/minの流量で120秒間、上記スチームをキャリアとして塗布して第一層を形成する。その後、バルブV2を閉じる。次にバルブV3を開き、表1に記載の助剤含有第二塗布液(上塗り用)を285g/minの流量で40秒間、第一層上に上記スチームキャリアを利用して第二層を塗布する。その後、バルブV1、V3を閉じる。ジャケット2への熱水の通水を停止する。
【0081】
<重合>
上記<塗布>を行った重合器に、脱イオン水200重量部、部分けん化ポリビニルアルコール0.020重量部及び2−ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:メトローズ、信越化学工業社製、メトキシル基置換度[セルロースのグルコース環単位中の水酸基がメトキシル基で置換された平均個数]:1.9、2−ヒドロキシプロポキシル基置換度[セルロースのグルコース環単位当たりに付加したヒドロキシアルコキシル基のモル数]:0.25)0.026重量部を投入して、該重合器内を50mmHgになるまで脱気した後塩化ビニル単量体(VCM)100重量部を仕込み、続いて、重合器内の反応混合物を攪拌しながら、t−ブチルパーオキシネオデカネート0.03重量部をポンプで圧入した。その後、上記ジャケットに熱水を通じて重合器内を52℃まで昇温して、次に、該ジャケットに冷却水を通して重合器内の温度を52℃に保持して重合を行わせた。
仕込んだ原材料を攪拌しながら、ジャケット2に熱水を通水して昇温し、内温が52℃に到達した時点でジャケット2に冷却水を通して内温を52℃に維持し重合を行った。器内の圧力が5kgf/cm
2・G(0.49MPa・G)に降圧した時点で重合を終了した。未反応単量体を回収した後、反応混合物であるスラリーを重合器から取り出し、脱水乾燥して塩化ビニル重合体を得た。
【0082】
<芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の組成の測定>
芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の組成は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、以下の条件で測定した。
使用機器:
液体クロマトグラフ装置(株式会社島津製作所製、
汎用HPLC Prominence)
システムコントローラー CBM−20A
送液ユニット LC−20AD(×2台)
オンライン脱気装置 DGU−20A3
オートサンプラ SIL−20ACHT
カラムオーブン CTO−20A
UV‐VIS検出器 SPD−20A
カラム:
(1)ガードカラム
Waters PuresilTM C18 Guard Column,100Å,5μm,3.9mm×20mm×1本
(2)分析カラム
Waters HPLC COLUMNS
μ−Bondasphere DeltaPak C18 Column,100Å,5μm,3.9mm×150mm×1本
溶離液A:蒸留水1Lあたり酢酸2mLを添加した溶液
溶離液B:アセトニトリル1Lあたり酢酸1mLを添加した溶液
溶離液A+溶離液Bの流量:1.0mL/分
溶離液グラジエント条件:
まず、溶離液Bの割合を溶離液全量に対して40体積%から100体積%に30分かけて直線的に濃度を変化させる。次に溶離液Bの割合を溶離液全量に対して100体積%のまま10分間保持した。
カラムオーブン温度:40℃
検出波長:288nm
試料注入量:20μL
【0083】
試料調製:
アセトニトリルを10.0mL計量し、更に0.5N塩酸を20μL添加して混合した後、撹拌しながら芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液を20μL添加し十分混合した。更に試料を孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレンフィルタで濾別し、濾液を直ちに測定する。
【0084】
ピークの保持時間:(芳香族化合物が1−ナフトール、カルボニル化合物がホルムアルデヒドの場合)
芳香族化合物とカルボニル化合物とが2対1のモル比で反応して生成した芳香族化合物二量体(異性体3種);12.3分、12.7分、未検出
芳香族化合物三量体以上の芳香族化合物多量体;13分〜40分までの全ピーク
【0085】
芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体との比;
1:(13分〜40分までの全ピーク面積)/(12.3分のピーク面積+12.7分のピーク面積)
【0086】
<芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の重量平均分子量の測定>
芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の重量平均分子量は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、以下の条件で測定した。
使用機器:
液体クロマトグラフ装置(株式会社島津製作所製、
汎用HPLC Prominence)
システムコントローラー CBM−20A
送液ユニット LC−20AD
オンライン脱気装置 DGU−20A3
オートサンプラ SIL−20ACHT
カラムオーブン CTO−20A
UV‐VIS検出器 SPD−20A
カラム:
(1)ガードカラム
Phenogel Linear/Mixed,5μm,4.6mm×30mm×1本
(2)分析カラム
Phenogel 5μm,50Å,4.6mm×300mm×1本
Phenogel 5μm,1000Å,4.6mm×300mm×1本
溶離液:テトラヒドロフラン(安定剤不含)
溶離液流量:1.0mL/分
カラムオーブン温度:60℃
検出波長:290nm
試料注入量:10μL
標準ポリスチレン:Mp=1.20×10
3、2.94×10
3、6.18×10
3、1.26×10
4、1.65×10
4、5.51×10
4の6種
【0087】
試料調製:
テトラヒドロフランを10.0mL計量し、更に0.5N塩酸を20μL添加して混合した後、撹拌しながら芳香族化合物とカルボニル化合物との付加縮合物の溶液を20μL添加し十分混合した。試料を孔径0.45μmのポリテトラフルオロエチレンフィルタで濾別し、濾液を直ちに測定した。
【0088】
ピークの保持時間:(芳香族化合物が1−ナフトール、カルボニル化合物がホルムアルデヒドの場合)
1−ナフトール;7.2分
芳香族化合物二量体以上の芳香族化合物多量体;7.0分までの全ピーク
【0089】
7.0分までに溶出した全てのピークから標準ポリスチレン換算で重量平均分子量(Mw)を算出した。
【0090】
<蓄積性>
以下の基準によって評価した。
◎:NS剤蓄積による重合反応器ジャケットの総括伝熱係数の低下が無く、1年を超えて缶内清掃の必要が無い。
〇:NS剤蓄積による重合反応器ジャケットの総括伝熱係数の低下があり、6か月を超えて1年以内に30%以上低下するため缶内清掃が必要となる。
×:NS剤蓄積による重合反応器ジャケットの総括伝熱係数の低下が著しく、6か月以内に30%以上低下するため缶内清掃が必要となる。
ここで、重合反応器ジャケットの総括伝熱係数は、以下の式により求めた。
【0092】
U:重合反応器ジャケットの総括伝熱係数(kcal/m
2・h・℃)
Ti:重合反応器ジャケット冷却水の入口温度(℃)
To:重合反応器ジャケット冷却水の出口温度(℃)
T:重合反応器内の重合温度(℃)
F:重合反応器ジャケット冷却水の流量(m
3/h)
A:重合反応器ジャケットの伝熱面積(m
3)
【0093】
蓄積性の評価結果について、表1に示す。
【0095】
上記結果の中で塗布液No.11を使用した場合には1段塗布、2段塗布に関わらず3年を超えて缶内清掃の必要が無く、塗布液No.13を使用した場合には1段塗布、2段塗布に関わらず2年を超えて缶内清掃の必要が無かった。
合成例1、2、3の方法であれば、縮合反応を行う際の芳香族化合物とカルボニル化合物との比又は反応温度(最高到達温度)は、上記実施例以外の比率又は温度であっても、上述した好ましい範囲内であれば、塗布液No.11、12、13と同等の効果が認められた。
【解決手段】付加縮合物の製造方法は、芳香族化合物と、カルボニル化合物と、触媒とを反応溶媒中で混合し、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との付加縮合反応を60℃以上97℃以下で行い、前記芳香族化合物と前記カルボニル化合物との付加縮合物を得る工程を有し、前記付加縮合物を得る工程において、前記芳香族化合物1モルに対して前記カルボニル化合物を0.1モル以上0.999モル以下の量で混合し、前記付加縮合物は、芳香族化合物二量体と芳香族化合物多量体とのモル比が1:75乃至1:1000である。