特許第6916650号(P6916650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6916650-シリカエアロゲル粉体及びその製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6916650
(24)【登録日】2021年7月20日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】シリカエアロゲル粉体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/158 20060101AFI20210729BHJP
   A61K 8/04 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20210729BHJP
   A61K 8/06 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   C01B33/158
   A61K8/04
   A61K8/25
   A61K8/06
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-84437(P2017-84437)
(22)【出願日】2017年4月21日
(65)【公開番号】特開2018-177620(P2018-177620A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】三道 光喜
(72)【発明者】
【氏名】井上 利彦
(72)【発明者】
【氏名】石津 聡子
(72)【発明者】
【氏名】福寿 忠弘
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−218433(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/057086(WO,A1)
【文献】 特開2006−225226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/193
A61K 8/04
A61K 8/06
A61K 8/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の球状シリカエアロゲルからなり、
a)コールターカウンター法により測定された粒度分布において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含み、この粒子範囲の全粒子数に対する含有割合が50個数%以上であり、
b)BET法による比表面積が400〜1000m/gであり、
c)微小圧縮試験による、粒径5μmの粒子の10%変形時の圧縮強度が10MPa以上である、
ことを特徴とするシリカエアロゲル粉体。
【請求項2】
d)コールターカウンター法により測定された粒度分布における体積基準累積50%径(D50)値が1〜30μmである、請求項1記載のシリカエアロゲル粉体。
【請求項3】
e)TEM観察による、粒径が100nm以下である粒子の割合が60個数%以下である、請求項1または請求項2記載のシリカエアロゲル粉体。
【請求項4】
f)BJH法による細孔容積及び細孔半径のピークが各々2〜8ml/g、10〜50nmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリカエアロゲル粉体。
【請求項5】
g)吸油量が400ml/100g以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシリカエアロゲル粉体。
【請求項6】
(1)pH2.5〜3.5の水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)酸性域下にある前記シリカゾルを加熱によりゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離させる工程
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程
(6)W相に分散するゲル化体をシリル化処理する工程
(7)疎水性有機溶媒でゲル化体を抽出する工程
(8)ゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程
を上記順に含んでなる、
ことを特徴とするシリカエアロゲル粉体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のシリカエアロゲル粉体よりなる化粧品用添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲル粉体、詳しくは疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアロゲルは、高い空隙率を有する材料であり、吸油性に優れる。ここで言うエアロゲルとは、多孔質な構造を有し分散媒体として気体を伴う固体材料を意味し、特に空隙率60%以上の固体材料を意味する。なお、空隙率とは、見掛けの体積中に含まれている気体の量を体積百分率で表した値である。エアロゲルは、上記空隙率が高いことに起因して、優れた吸油性を有する。
【0003】
エアロゲルの製造方法としては、アルコキシシランを原料として加水分解し、重縮合して得られるゲル状化合物を、分散媒の超臨界状態で乾燥する方法がある(特許文献1)。また、ケイ酸アルカリ金属塩を原料とし、陽イオン交換樹脂を通過させるか、鉱酸を添加することでゾルを調製し、ゲル化させた後に、分散媒の超臨界条件で乾燥する方法も知られている(特許文献2及び3)。このような方法によって製造できるエアロゲル(シリカエアロゲル)は微細なシリカ骨格を有するため、高い空隙率を有するにも関わらず優れた機械的強度を示す。
【0004】
上記公知の製造方法においては、ゲル中の分散媒を超臨界条件下で乾燥除去することにより、乾燥収縮を抑制しつつ分散媒を気体に置換し、高い空隙率を有するシリカエアロゲルの製造を可能にしている。しかし、このものは、上記超臨界条件を実現するためにかかるコストが多大であるため、実際の用途はそのような高いコストに見合う特殊なものに限定される。そのため、コスト低減を目的とした常圧乾燥法が提案されている(例えば、特許文献4)。この場合、乾燥時に生じる収縮を抑制し、前記エアロゲルとしての多孔質な構造を保持するために、ゲル状化合物は乾燥前に疎水化しておくことが求められる。
【0005】
斯様なシリカエアロゲルの用途は様々であるが、中でも、化粧品材料として有用である。即ち、ファンデーションを例に挙げると、皮膚に塗布した際の、その外観持続性を向上させるための添加剤として、該シリカエアロゲルが用いられる。詳述すれば、シリカエアロゲルの多孔質な構造は、皮脂を良く吸収するため、皮膚が皮脂で濡れて光の正反射率を高まりテカリが生じることが防止できる。しかも、シリカエアロゲルは、前記疎水化して製造されたものであると、ファンデーション等の化粧品材料の有機成分と親和性が良くなり均一に分散するため、上記テカリ防止の外観持続性効果を一層に高める。
【0006】
また、これらシリカエアロゲルは、化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために、粒径は1〜数十μmで、且つ肌へのローリング性を向上させるために、その形状が球状であることが望ましい。こうした球状で適度な粒径を有するシリカエアロゲルの製造方法として、例えば次の方法が提案されている(特許文献5)。即ち、水性シリカゾルからなるW相を有機溶媒相に分散させ、W/Oエマルションを形成後、球状のW相をゲル化させ、次いで、解乳操作を施して該W相とO相とを分離させ、ゲル化体を抽出した後、これを疎水化して回収する方法である。ここで、上記W相のゲル化は、弱酸性ないし塩基性に調整した状態で行い、さらに、W相O相分離の解乳操作は、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、濾過、容積比の変化等を行うと説明されている。
【0007】
また、同様の球状シリカエアロゲルの製造方法において、前記解乳操作を、エマルション中に水と水溶性有機溶媒を加えることで実施し、分離後のW相を加温してゲル化体を熟成させる方法も知られている(特許文献6)この場合、上記解乳操作前のW相のゲル化は実施例では全て塩基を加えてpHを調整することで行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4402927号公報
【特許文献2】特開平10−236817号公報
【特許文献3】特開平06−040714号公報
【特許文献4】特開平07−257918号公報
【特許文献5】特許第4960534号公報
【特許文献6】特開2014−210671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、前記方法で得られる球状シリカエアロゲルは、高多孔質な構造から化粧品用途において極めて有用ではあるものの、その粒子の圧縮強度の小ささから、更に改善の余地があった。即ち、球状シリカエアロゲルは化粧品用途に使用した場合、これが肌の皮孔やシワなど肌の凹部分に入り込み、化粧品を落とした際に、これが肌表面に部分的に残ると、化粧品を落とした後にかえって肌の粗を目立たせる問題がある。ただし、この肌の凹部分への入り込みは、球状シリカエアロゲルが前記適度な大きさであれば、それほど顕著に生じるものではないが、該粒径が小さくなると問題が顕在化し始める。
【0010】
而して上記従来法で得られた球状シリカエアロゲルは、前記粒子の圧縮強度が十分でないため、脆く壊れ易く、化粧品の製造工程や塗布時に一部粒子の破壊が生じ、その破砕片が肌の凹部分に入り込み、化粧崩れの際もこれが残存し、肌の粗を目立たせる問題を引き起こしていた。加えて、斯様に粒子が破壊され、化粧品に破砕片が多く含まれるようになると、その肌に対するローリング性も低下し触感の滑らかさも、大きく損なわれていた。
【0011】
以上の背景から本発明は、圧縮強度に優れ、化粧品用途に使用しても、粒子が壊れ難いことから、破砕片の肌の凹部分への入り込みや、ローリング性低下の問題が生じ難い、球状シリカエアロゲルからなる粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、その結果、球状シリカエアロゲルの製造方法において、W/Oエマルションを形成後、球状のW相を加温によりゲル化させ、O相とW相の2層分離後のW相に含まれるゲル化体の熟成を塩基性物質を添加することにより実施すれば、得られる球状シリカエアロゲルにおいて粒子の圧縮強度が大きく向上できる知見を得、これに基づいて該粒子の圧縮強度に優れる特異な球状シリカエアロゲルを初めて開発し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、疎水性の球状シリカエアロゲルからなり、
a)コールターカウンター法により測定された粒度分布において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含み、この粒子範囲の全粒子数に対する含有割合が50個数%以上であり、
b)BET法による比表面積が400〜1000m/gであり、
c)微小圧縮試験による、粒径5μmの粒子の10%変形時の圧縮強度が10MPa以上である、
ことを特徴とするシリカエアロゲル粉体である。
【0014】
本発明は、さらに、下記(1)〜(8)の工程を順に含んでなることを特徴とする疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の製造方法をも提供する。
(1)pH2.5〜3.5の水性シリカゾルを調製する工程、
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程、
(3)酸性域下にある前記シリカゾルを加熱によりゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程、
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離させる工程
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程
(6)W相に分散するゲル化体をシリル化処理する工程
(7)疎水性有機溶媒でゲル化体を抽出する工程
(8)ゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程
また、本発明は、上記疎水性の球状シリカエアロゲル粉体よりなる化粧品用添加剤も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシリカエアロゲル粉体を構成する、シリカエアロゲルは、疎水性を呈する球状の独立粒子を主成分とし、各粒子の圧縮強度が大きい。従って、負荷がかかっても形状を維持できるため、粒子が壊れた破片や粒子表面の一部が欠けて脱落した脱落片等が含有され難い。このため、充填性や分散性に優れ、化粧品用途に用いた場合、負荷がかかっても形状を維持できるため、使用時の肌へのローリング性に優れ、滑らかな触感が得られる。また、空隙率が高く優れた吸油性を有するためテカリ防止に優れる。
【0016】
斯様な圧縮強度の大きい性状は、上記化粧品材料の添加剤用途とだけでなく、他の用途でも加工時の負荷に対しても形状を維持できる効果が良好に発揮されるため、本発明のシリカエアロゲル粉体は、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料としても有用に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1で得られた疎水性シリカエアロゲル粉体のTEM画像
図2】比較例1で得られた疎水性シリカエアロゲル粉体TEM画像
図3】本発明の疎水性シリカエアロゲル粉末の製造方法の一実施形態を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の粉体は、疎水性の球状シリカエアロゲルにより構成されている。ここでいうシリカとは二酸化ケイ素のことであって、二酸化ケイ素で構成されている物質の総称を指し、SiOと表す。
【0019】
ここで、シリカエアロゲルが球状とは、シリカエアロゲル粒子の平均円形度が0.8以上であることを意味する。該平均円形度は0.85以上であることが好ましい。
【0020】
本発明の粉体は、斯様に球状シリカエアロゲルからなるため、化粧品に用いた場合、肌へのローリング性に優れる。なお上記「平均円形度」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、観察したSEM像を得、画像解析により個々の粒子について下記式(1)によって定義される値C(円形度)を求め、この円形度Cを2000個以上の粒子について相加平均値として出した値である。なお、この際、一個の凝集粒子を形成している粒子群は1粒子として計数する。
【0021】
【数1】
【0022】
[式(1)において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
該平均円形度が1に近くなるほど、粒子は真球に近い形状となる。
【0023】
本発明において、上記球状シリカエアロゲルは疎水性である。疎水性であることにより、経時劣化の原因となる水分の吸着が少なく、疎水性の樹脂との馴染みが向上するため疎水性の樹脂に分散させる場合に極めて有用である。また、エアロゲルが疎水性であることは、このものを超臨界乾燥および溶媒置換を伴わずに製造できるという観点からも、意義を有する。球状シリカエアロゲルの疎水化は、具体的には、該球状シリカエアロゲルをシリル化剤により処理することにより、その表面に有機シリル基が導入すること等により達成できる。
【0024】
ここで、シリカエアロゲルが、疎水性であるか否かは、当該粉末を純水と一緒に容器に入れ攪拌等を行うことにより極めて容易に確認できる。疎水性であれば、その粉末は水に分散することなく、かつ、静置すれば水を下層、粉末を上層とする2層に分かれた状態を取り戻す。
【0025】
また、疎水性、及びその程度についてはM値で評価することも可能である。なお、M値は、実施例に記載した測定方法にしたがって測定した値である。本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体のM値は30〜50vol%であることが好ましく、35〜50vol%であることがより好ましく、40〜50vol%であることが特に好ましい。
【0026】
また、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体が疎水性であることを示す指標の一つとして、炭素含有量を挙げることができる。疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体に含まれる炭素含有量は、表面処理剤に由来するものであって、1000〜1500℃程度の温度において、空気中、若しくは酸素中で酸化処理した際に発生する二酸化炭素の量を定量することにより、測定することができる。
【0027】
本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体は疎水性であり、上記炭素含有量が、5〜12質量%であることが好ましく、6〜10質量%であることがより好ましい。炭素含有量が多いほど、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体をファンデーション用の添加剤として用いた場合に、汗による化粧崩れを防止することができるため好ましいが、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体において、一般的な疎水化処理により12質量%を超えて大きなものを得ることは難しい。
【0028】
本発明の粉体は、上記疎水性の球状シリカエアロゲルにおいて、下記a)〜c)の性状を満足する点に特徴を有する。
a)コールターカウンター法により測定された粒度分布において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含み、この粒子範囲の全粒子数に対する含有割合が50個数%以上であり、
b)BET法による比表面積が400〜1000m/gであり、
c)微小圧縮試験による、粒径5μmの粒子の10%変形時の圧縮強度が10MPa以上である
ここで、a)コールターカウンター法により測定された粒度分布は、1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を主成分として含む必要がある。具体的には、上記粒径範囲のものを、50個数%以上、好適には60個数%以上含むことが求められる。該1〜10μmの粒径範囲の粒子は、球状シリカエアロゲルを化粧品に配合した際に、滑らかな触感を得るために適切な粒径になる。また、粒径が上記10μmを超えて大きくなると、肌に塗布した粒子の自重による重力が、肌への付着力よりも勝るようになり、肌から落下し易くなる。そして斯様に肌に塗布した粒子が離脱すると、外観した際のムラの発生原因になる。他方で、粒径が上記1μmよりも小さくなると、肌の皮孔やシワなど肌の凹部分に入り込み、化粧崩れの際も凹部分に入り込んだ粒子は落下しにくいので、これが肌の粗を目立たせる原因となる。これらから前記1〜10μmの粒径範囲の粒子を過半数含むことが求められる。
【0029】
さらに、本発明の粉体において、前記疎水性の球状シリカエアロゲルは、
d)コールターカウンター法により測定された粒度分布における体積基準累積50%径(D50)値が1〜30μmであるのが、上記a)1〜10μmの粒径範囲に関する要件と同じ理由により好ましい。特に、該体積基準累積50%径(D50)値は1〜10μmであるのがより好ましい。
【0030】
また、本発明において、前記b)球状シリカエアロゲルのBET法による比表面積は、400〜1000m/gである。該球状シリカエアロゲルの比表面積が大きいほど、独立粒子の多孔質構造(網目構造)を構成する一次粒子の粒径が小さいことを示し、化粧品の添加剤として用いた際に増粘効果が高まる。増粘効果が高いと皮膚または頭髪等に塗布した際、液垂れを防止することが可能である。したがって、上記比表面積は500m/g以上であることが好ましく、550m/g以上であることがより好ましい。
【0031】
一方、球状シリカエアロゲルの比表面積は、大きくなりすぎると細孔容積が小さくなり、吸油量が小さくなることから、850m/g以下であることが好ましく、700m/g以下であることがより好ましい。通常、比表面積が1000m/gを超えて大きいエアロゲルを得ることは困難である。
【0032】
なお、本発明において、当該BET法による比表面積は、測定対象のサンプルを、1kPa以下の真空下において、150℃の温度で2時間以上乾燥させ、その後、液体窒素温度における窒素の吸着側のみの吸着等温線を取得し、BET法により解析して求めた値であり、解析時の分圧(P/P)の範囲は0.1〜0.25である。
【0033】
本発明の粉体において最大の特徴は、前記好適性状の球状シリカエアロゲルにおいて、その粒子の圧縮強度が顕著に大きく、負荷がかかっても壊れ難い点にある。このため、エアロゲルの製造過程、保管時にかかる負荷や、さらに前記化粧品用途に使用した際のその製造工程や塗布時に負荷にも破壊が生じ難く、前記破砕片に起因しての諸問題の発生が高度に抑制できる。
【0034】
ここで、球状シリカエアロゲルの粒子の圧縮強度は、前記a)で規定した粒度分布の主成分になる1〜10μmの粒径範囲の粒子の内、5μmの粒子の当該強度で代表させて特定する。即ち、本発明において前記球状シリカエアロゲルは、c)微小圧縮試験による、粒径5μmの粒子の10%変形時の圧縮強度が10MPa以上、より好ましくは20MPa以上である。なお、上記粒径が5μmである粒子とは、粒径が4.5μm以上5.5μm未満の粒子をいう。
【0035】
エアロゲル粒子は、1次粒子が3次元網目構造を形成してなる2次粒子であって、該粒子の圧縮強度は、上記3次元網目構造の強度に大きく依存する。同一条件で製造した場合、3次元網目構造は同様に成長するため、3次元網目構造の強度は通常、同程度となる。一方で該エアロゲル粒子の圧縮強度は、粒径が大きくなるほど低くなる傾向がある。したがって、本発明では、上記粒径が5μmの粒子に代表させて、球状エアロゲル粒子の圧縮強度を特定したが、該5μm粒子で圧縮強度に優れることは、粒径が異なる他の粒子においてもこの値は、各粒径毎で相対的に高強度のものになっており、斯くして粉体全体で評価しても優れた圧縮強度を有するものになっている。
【0036】
該圧縮強度は、大きければ大きいほど加工時の負荷等により粒子が崩れることなく球形状を維持することができるため好ましいが、高い空隙率を有する本発明の疎水性球状シリカエアロゲルの場合、その上限は通常、35MPa程度である。
【0037】
本発明において、球状シリカエアロゲルにおける、上記粒径5μmの粒子の10%変形時圧縮強度は、以下の方法により測定する。即ち、球状シリカエアロゲルから粒径が5μmの粒子を無作為に10個選び、各々の粒子について微小圧縮試験機を用いて10%変形時の圧縮強度を測定し、各測定値を平均して求める。なお、測定条件は、負荷速度4.5mN/秒、負荷保持時間5秒で実施した。上記微小圧縮試験機として、株式会社島津製作所微小圧縮試験機MZCT−W510−Jを好適に用いることができる。
【0038】
本発明の粉体において、これを構成する前記球状シリカエアロゲルは、上記のとおり圧縮強度が大きく、負荷による粒子の破片が生じ難いため、通常、微小粒子の含有量が少ない状態にある。好適には、
e)TEM観察による、粒径が100nm以下である粒子(以下において、「ナノ粒子」ということがある)の割合が60個数%以下である。これらナノ粒子は、前述の通り破砕片で、異形のものがほとんどである。前記球状シリカエアロゲルにおいて、粒径が100nmを越える粒子で異形のものはほとんど観察されないため、こうした異形なナノ粒子は、化粧品に配合された際には、特に肌表面に部分的に残り易いため、その含有量が少ないことは有益である。このため、前記ナノ粒子の含有割合は30個数%以下であることがより好ましく、20個数%であることが最も好ましい。
【0039】
なお、上記粒径が100nm以下である粒子は、粒径が小さいためコールターカウンター法では通常検出できない。従って、本発明において、該ナノ粒子の含有割合は、TEM(透過型電子顕微鏡)観察により算出する。具体的には、加速電圧200KV、倍率5000倍の条件で、無作為に150個以上のシリカエアロゲル粒子が観察できるようTEM観察し、その視野を撮影する。この場合、シリカエアロゲル粒子として視認できる粒径の下限値は30nmである。
【0040】
撮影する視野の数は、球状シリカエアロゲル粒子の平均粒径や、一視野あたりの試料密度等によって異なるが、およそ50程度である。得られた画像において、粒径が100nmを越える球状シリカ粒子の数(A)と、該画像中に存在するナノ粒子の数(B)を数え、その割合を下記式より算出する。
ナノ粒子の割合(%)=B/(A+B)×100
この他、本発明において、前記球状シリカエアロゲルの、BJH法による細孔容積は2〜8ml/gであることが好ましい。細孔容量が大きい程、優れた吸油性能が得られるため好ましい。下限値は、より好ましくは2.5ml/g以上、特に好ましくは4ml/g以上である。また上限は6ml/g以下であることがより好ましい。細孔容積が2ml/g以下である場合には、優れた吸油性能を得ることはできない。また、8ml/gを超えて大きなものを得ることは、通常、困難である。
【0041】
本発明において、BJH法による、球状シリカエアロゲルの細孔容積は、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法(Barrett, E. P.; Joyner, L. G.; Halenda, P. P., J. Am. Chem. Soc. 73, 373 (1951)により、解析して得られたものである(以下において、「BJH細孔容積」ということがある)。本方法により測定される細孔は、半径1〜100nmの細孔であり、この範囲の細孔の容積の積算値が本発明における細孔容積となる。
【0042】
本発明において、前記球状シリカエアロゲルの、BJH法による細孔半径のピークが、通常10〜50nmの範囲にあることが好ましい。なお、該細孔半径のピークも、前記BET比表面積測定の際と同様に吸着等温線を取得し、BJH法により解析して得られたものである。該細孔半径のピークは、細孔半径の対数による累積細孔容積(体積分布曲線)が最大のピーク値をとる細孔半径の値である。
【0043】
さらに、通常において、前記球状シリカエアロゲルは、前述のとおり、比表面積、細孔容積共に大きいことから、吸油量が高い。具体的には、400mL/100g以上であることが好ましく、550mL/100g以上であることがより好ましく、650mL/100g以上であることが特に好ましい。吸油量は大きいほど、化粧品用途に用いた際のテカリ防止効果が得られるため、好ましい。吸油量の上限は特に限定されるものではないが、最大で700mL/100g程度である。
【0044】
なお、本発明において、当該吸油量の測定は、JIS K6217−4「オイル吸収量の求め方」記載の方法により行うものとする。
【0045】
以下、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の代表的な製造方法について述べる。
【0046】
<2.疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の製造方法>
本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の製造方法は、前述した本発明で規定した性質を有する疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体が製造できればよく、特に限定されない。
【0047】
本発明者らの検討によれば、以下に述べる方法により好ましく製造することができる。
【0048】
以下、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の製造方法は、図3に示すように、次の8工程を順に有することが好ましく、特にW相分離工程後に塩基性物質を加えて熟成する工程を有することを特徴とする。
(1)pH2.5〜3.5の水性シリカゾルを調製する工程(水性シリカゾル調整工程S1);
(2)該水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/O型エマルションを形成させる工程(エマルション形成工程S2);
(3)酸性域下にある前記シリカゾルを加熱によりゲル化させて、前記W/O型エマルションをゲル化体の分散液へと変換する工程(ゲル化工程S3);
(4)該分散液を、O相とW相の2層に分離させる工程(W相分離工程S4);
(5)W相に塩基性物質を加えて、該W相に分散するゲル化体を熟成する工程(ゲル化体熟成工程S5);
(6)W相に分散するゲル化体をシリル化処理する工程(シリル化処理工程S6);
(7)疎水性有機溶媒でゲル化体を抽出する工程(ゲル化体抽出工程S7);
(8)ゲル化体を回収し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得る工程(ゲル化体回収工程S8);
である。以下、各工程について順に説明する。
【0049】
(水性シリカゾル調整工程S1)
水性シリカゾル調整工程(1)(以下、「S1」と略記することがある。)について説明する。
【0050】
シリカゾルの原料として、安価であることからケイ酸アルカリ金属塩等を使用する方法を好適に採用することができる。該ケイ酸アルカリ金属塩としては、ケイ酸カリウム、ケイ酸ナトリウム等が挙げられ、組成式は、下記の式(3)で示される。
m(MO)・n(SiO) (3)
[式(3)中、m及びnはそれぞれ独立に正の整数を表し、Mはアルカリ金属原子を示す。]
上記のシリカゾル調製の原料のなかでも、入手が容易であるケイ酸ナトリウムが特に好適である。
【0051】
以下、原料としてケイ酸アルカリ金属塩等を使用する方法を例に説明する。
【0052】
本発明の水性シリカゾルを調製するための原料として、ケイ酸アルカリ金属塩を用いる場合には、塩酸、硫酸等の鉱酸で中和することによってシリカゾルを調製することが好ましく、具体的には、酸の水溶液に対して、該水溶液を撹拌しながらケイ酸アルカリ金属塩の水溶液を添加する方法や、酸の水溶液とケイ酸アルカリ金属塩の水溶液とを配管内で衝突混合させる方法が挙げられる(例えば特公平4−54619号公報参照)。
【0053】
本発明において、調整したシリカゾルのpHを酸性域とする。具体的には調製したシリカゾルのpHが2.5〜3.5となるよう、酸の量を調整する。
【0054】
上記の方法により作成したシリカゾルの濃度としては、ゲル化が比較的短時間で完了し、またシリカ粒子の骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制でき、大きな細孔容量を得られやすい点で、シリカ分の濃度(SiO換算濃度)として50g/L以上とすることが好ましい。その一方で、シリカ粒子の密度を相対的に小さくして、良好な細孔容積を得、また吸油量を多くできやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、100g/L以下とすることがより好ましい。更に好ましくは90〜100g/Lである。
【0055】
上記の方法により調製した水性シリカゾルの濃度は、ゲル化が比較的短時間で完了し、またエアロゲルの骨格構造の形成を十分なものとして乾燥時の収縮を抑制できるという点で、シリカ分の濃度(SiO換算濃度)として20g/L以上とすることが好ましく、40g/L以上とすることがより好ましく、50g/L以上とすることが特に好ましい。一方、エアロゲルの密度を相対的に小さくし、大きな細孔容量を得て、シリカ骨格自体による熱伝導(固体伝導)を低減することにより、良好な断熱性能が得られやすい点で、160g/L以下とすることが好ましく、120g/L以下とすることがより好ましく、100g/L以下とすることが特に好ましい。
【0056】
水性シリカゾルの濃度を上記下限値以上とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を8mL/g以下とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを50nm以下とすることが容易になる。また、水性シリカゲルの濃度を上記上限値以下とすることにより、エアロゲルのBJH法による細孔容積を2mL/g以上とすることが容易になるほか、エアロゲルのBJH法による細孔半径のピークを10nm以上とすることが容易になる。

(エマルション形成工程S2)
エマルション形成工程S2(以下、単に「S2」ということがある。)は、S1によって得た水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させてW/Oエマルションを形成する工程である。すなわち、上記水性シリカゾルを分散質、疎水性溶媒を分散媒としてエマルションを形成させる。このようなW/Oエマルションを形成することにより、分散質であるシリカゾルは表面張力等により球状になるので、該球状形状で疎水性溶媒中に分散しているシリカゾルをゲル化させることにより、球状のゲル化体を得ることができる。このように、W/Oエマルションを形成するエマルション形成工程S2を経ることにより、0.8以上の高い円形度を有するエアロゲルを製造することが可能になる。
【0057】
当該疎水性溶媒としては、水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる程度の疎水性を有した溶媒であればよい。そのような溶媒としては、例えば、炭化水素類やハロゲン化炭化水素類等の有機溶媒を使用することが可能である。より具体的にはヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロプロパン等が挙げられる。これらの中でも、適度な粘度を有するヘプタンを特に好適に用いることができる。なお必要に応じて、複数の溶媒を混合して用いてもよい。また水性シリカゾルとW/Oエマルションを形成できる範囲であれば、低級アルコール類などの親水性溶媒を併用する(混合溶媒として使用する)ことも可能である。
【0058】
使用する疎水性溶媒の量は、エマルションがW/O型となる程度の量であれば特に限定されることはない。ただし、一般的には、水性シリカゾル1体積部に対して疎水性溶媒が1〜10体積部程度となる量を使用する。
【0059】
本発明において、上記のW/Oエマルションを形成する際には、界面活性剤を添加することが好ましい。使用する界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、及びノニオン系界面活性剤のいずれも使用することが可能である。これらの中でも、W/Oエマルションを形成しやすい点で、ノニオン系界面活性剤が好ましい。本発明においては、シリカゾルが水性であるため、界面活性剤の親水性及び疎水性の程度を示す値であるHLB値が3以上6以下の界面活性剤を好適に用いることができる。なお本発明において「HLB値」とは、グリフィン法によるHLB値を意味する。
【0060】
上述したように、本発明においては、W/Oエマルションの液滴の形状によってエアロゲル粒子の形状がほぼ定められる。上記範囲内のHLB値を有する界面活性剤を使用することにより、W/Oエマルションを安定して存在させることが容易になるので、エアロゲルを、前記粒度分布に関するa)要件を満足する均一なものにでき、さらに前記d)要件の体積基準累積50%径(D50)値を満足させ易くできる。好適に用いることのできる界面活性剤の具体的としては、ソルビタンモノオレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノセスキオレート等が挙げられる。
【0061】
界面活性剤の使用量は、W/Oエマルションを形成させる際の一般的な量と変わるところがない。具体的には、水性シリカゾル100mlに対して0.05g以上10g以下の範囲を好適に採用することができる。界面活性剤の使用量が多いと、W/Oエマルションの液滴がより微細になり易く、逆に界面活性剤の使用量が少ないと、W/Oエマルションの液滴がより大きくなり易い。したがって界面活性剤の使用量を増減することにより、エアロゲルの平均粒径を調整することが可能である。
【0062】
W/Oエマルションを形成する際に、水性シリカゾルを疎水性溶媒中に分散させる方法としては、W/Oエマルションの公知の形成方法を採用することができる。工業的な製造の容易性などの観点からは、機械乳化によるエマルション形成が好ましく、具体的には、ミキサー、ホモジナイザー等を使用する方法を例示できる。好適には、ホモジナイザーを用いることができる。分散しているシリカゾル液滴の平均粒径の値が本発明のエアロゲルの前記粒度分布に関するa)要件を満足し、さらに前記d)要件の体積基準累積50%径(D50)値を満足させ易いよう、分散強度及び時間を調整することが好ましい。
【0063】
W/Oエマルション中のシリカゾル液滴の平均粒径とエアロゲルの平均粒径とは概ね対応関係にあるからである。同時に、このようにエマルション中のシリカゾル液滴の粒径を十分小さくすることにより、シリカゾル液滴の形状が乱されにくくなるので、より高い円形度を有する球状のエアロゲルを得ることが一層容易になる。

(ゲル化工程S3)
ゲル化工程S3(以下、単に「S3」ということがある。)は、上記S2におけるW/Oエマルションの形成に引き続き、水性シリカゾルの液滴が疎水性溶媒中に分散している状態において水性シリカゾルをゲル化させる工程である。上記水性シリカゾルの液滴は前記酸性域下にあり、これに分散質としてシリカの1次粒子が分散ししている。該工程でのゲル化により、該1次粒子が3次元網目構造を形成し、2次粒子を形成する。
【0064】
通常、シリカゾルをゲル化する手段として、高温に加熱する手法や、或いは塩基性物質を加えてシリカゾルのpHを弱酸性ないし塩基性に調整する手法が用いられている。本発明のゲル化工程では、加熱によりゲル化を行うことが圧縮強度の大きいシリカエアロゲルを得る上で重要である。斯様に加熱によりゲル化を行うことにより、圧縮強度の大きいシリカエアロゲルが得られる理由として、加熱によりゲル化が均一に進行するためではないかと考えている。
【0065】
ここで、W/Oエマルションに塩基性物質を加えてゾルをのゲル化を行ったのでは、分散するW相の液滴において、加えられた塩基性物質が、該W相液滴の分散媒として存在するO相に阻まれて、エマルション全体に均一に行き渡り難くなる。従って、ゲル化は不均一に進行する部分が生じ、これが得られる球状シリカエアロゲルの熟成不足にも影響し、前記圧縮強度の低下を引き起こすのではないかと推察される。
【0066】
本発明において、ゲル化温度は、50℃〜80℃にすることが好ましく、60℃〜70℃にすることがより好ましい。ゲル化温度が上記範囲を超えて高いと比表面積が低くなり、低いとゲル化が十分に進行しない。
【0067】
ゲル化温度に調整した後、ゲル化が開始するまでの時間は、pHやゲル化温度、及びシリカゾルの濃度にもよるが、一般にはpHが低く、ゲル化温度が低く、シリカゾルの濃度が薄いほど、同時間は長くなる傾向がある。例えばpH3,温度70℃、シリカゾル中のシリカ濃度(SiO換算)が80g/Lの場合には、60分程度である。
【0068】
ゲル化時間(ゲル化が開始して、ゲル化が終了するまでの時間)は、pHやゲル化温度、及びシリカゾルの濃度に依存するため一概には言えないが、一般にはpHが低く、ゲル化温度が低く、シリカゾルの濃度が薄いほど、同時間は長くなる傾向がある。通常、30分〜24時間とすることが好ましく、5〜12時間とすることがより好ましい。具体的には、pH3、ゲル化温度60℃であれば12時間とすることが好ましく、pH3、ゲル化温度70℃であれば5時間とすることが好ましい。また、ゾルのpHが低いほど、また、温度が低いほど、ゲル化に要する時間が長くなる。
【0069】
これらの好適な条件でゲル化を行うことによりエアロゲル粒子の強度を向上し、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体におけるナノ粒子の割合を低減することができる。これは、ゲル化条件を最適化することで、1次粒子がより強固に結合した2次粒子を形成するためと考えている。

(W相分離工程S4)
W相分離工程S4(以下、単に「S4」ということがある。)は、前記ゲル化体の分散液をO相とW相に分離する工程であり、該分離操作は一般的には解乳とも呼ばれている操作である。解乳後、前記工程S3により得られたゲル化体は、W相側に分散して存在する。
【0070】
当該W相分離方法としては、公知の方法を採用することが可能であるが、具体的には、水溶性有機溶媒の添加、塩の添加、遠心力の付与、酸の添加、濾過、容積比の変化(水又は疎水性溶媒の添加)等から選ばれる一つ、あるいは複数を組み合わせて実施することができる。好適には、一定量の水溶性有機溶媒を、必要に応じて水と共にエマルション中に加えてO相とW相に分離することができる。この工程を経ると、一般に、上層がO相(有機層)、下層がW相(水層)となる。
【0071】
上記の水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールは、後述のシリル化処理の際にも、処理の効率を高める上で効果があるため、好適に用いることができる。
【0072】
上記の水溶性有機溶媒の添加量は、エマルション形成時に用いた界面活性剤の種類および量によって調整することが好ましい。例えば、W/O型エマルジョンの界面活性剤としてソルビタンモノオレエートを用いた場合には、O相の量に対して質量で0.1〜0.4倍程度の水溶性有機溶媒を加え、必要に応じて撹拌後、静置することにより、好適にO相とW相に分離することができる。また、上記水溶性有機溶媒と供に、水も、O相の量に対して質量で0.6〜0.9倍程度の添加量で加えるのが好ましい。また、該分離操作を行う際の温度は特に限定されないが、通常は、20〜70℃程度で行うことができる。

(ゲル化体熟成工程S5)
ゲル化体熟成工程S5(以下、単に「S5」ということがある。)は、S4工程を経てO相と層分離されたW相(ゲル化体が分散)に塩基性物質を加えてW相のpHを弱酸性ないし塩基性に調整し、ゲルの熟成を行うことで実施する。本製造方法において、係る手法でのゲルの熟成は重要であり、前記ゲル化工程S3での加温により、該W相に分散するゲル化体は均一に形成されているが、加温だけでは3次元網目構造は十分に発達させることはできていないため、ここで分離されたW相に対して塩基性物質を加え、分散するゲル化体全体に均一に上記pH調整の効果を及ぼす。これにより各ゲル化体において、ゲル化反応(脱水縮合反応)がさらに進行し、十分に熟成されたエアロゲルが得られる。
【0073】
前記W相に対する塩基性物質を加えることで、酸性域下にあるW相のpHは上昇して、弱酸性ないし塩基性が呈される状態になるが、具体的には、W相のpHは4.5〜10とすることが好ましく、4.5〜8.0とすることがより好ましく、4.5〜5.5とすることが特に好ましい。上記塩基性物質としては、アンモニア、苛性ソーダ、アルカリ金属ケイ酸塩等を用いることができる。中でも苛性ソーダを用いることがpH調整を容易に行うことができるため、好ましい。
【0074】
上記目的のpHとするのに必要な塩基性物質の量は予め決定しておくことが好ましい。S4より得られたW相のpHは、通常は、S1で調整されたゾルと同等になっているから、該ゾルを一定量分取し、該分取したゾルのpHをpHメーターにより測定しながら、塩基性物質を該分取したゾルに加え、目的のpHが達成される塩基性物質の量を測定することにより、その配合量を決定することができる。
【0075】
また、上記ゲルの熟成は、熟成温度を室温〜80℃程度で保持することによって行うことができる。熟成時間は、W相のpHと熟成温度によって適宜設定すればよいが、0.5〜12時間程度である。具体的には、pH5・60℃であれば6時間熟成することが好ましく、pH5・70℃であれば3時間熟成することが好ましい。
(W相回収工程S5−2)
上記S5行程により、前記2層に分離する内のW相では分散するゲル化体が熟成する。而して、後述するように、次工程のシリル化処理工程S6では、該W相に分散するゲル化体をシリル化処理することになるが、その処理効率を向上させるため、先だって該W相について、層分離するO相から回収することが望ましい。このW相回収工程(以下単に「S5−2」と略記することがある)において、W相の具体的回収方法は特に限定されないが、前記S5より得られたO相とW相の分離溶媒から、例えばデカンテーション等でO相を除去し、W相を回収することができる。
【0076】
ここで、完全にO相を除去する必要はないが、当該W相に含まれるゲル化体をシリル化処理する工程において、効率的にシリル化処理を行うためにはW相に含まれるO相の割合はなるべく少ない方が良く、W相中に含まれる量としては、20wt%以下が好ましく、さらに好ましくは10wt%以下である。
【0077】
なお、該W相回収工程は、S4工程で2層に分離した後、シリル化処理の前に行えばよいが、S2で界面活性剤を用いた場合、S5のゲル化体熟成工程を経た後に該W相回収工程を設けることにより、W相に含まれる界面活性剤がO相に移り、O相を除去することにより界面活性剤も除去できることから、S5工程の後に設けることが好ましい。

(シリル化処理工程S6)
本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の製造方法においては、上記W相回収工程の後にシリル化剤を用いてゲル化体をシリル化処理することが必要である(シリル化処理工程S6。以下単に「S6」と略記することがある。)。シリル化処理に得られる球状シリカエアロゲルは疎水性を呈するものになり、後に施される、ゲル化体回収工程S8で、該ゲル化体を乾燥する際に収縮が抑制されて、エアロゲルとしての多孔質な構造を保持した粉体を得ることを可能にさせる。
【0078】
本発明において使用可能なシリル化剤としては金属酸化物(ここではシリカである。)表面に存在するヒドロキシ基:
M−OH (4)
[式(4)中、Mは金属原子を表す。式(4)においてはMの残りの原子価は省略されている。]
と反応し、これを
(M−O−)(4−n)SiR (5)
[式(5)中、nは1〜3の整数であり、Rは炭化水素基であり、nが2以上である場合には、複数のRは同一でも相互に異なっていてもよい。]へと変換することが可能なシリル化剤を一例として挙げることができる。このようなシリル化剤を用いてシリル化処理を行うことにより、エアロゲル粉体表面のヒドロキシ基が疎水性のシリル基でエンドキャッピングされて不活性化されるので、表面ヒドロキシ基相互間での脱水縮合反応を抑制できる。よって、臨界点未満の条件で乾燥を行っても乾燥収縮を抑制できるので、2mL/g以上のBJH細孔容積を有する金属酸化粉末を得ることが可能になる。
【0079】
上記のシリル化剤としては、以下の一般式(6)〜(7)で示される化合物が知られている。
SiX(4−n) (6)
[式(6)中、nは1〜3の整数を表し;Rは炭化水素基等の疎水基を表し;Xはヒドロキシ基を有する化合物との反応においてSi原子との結合が開裂して分子から脱離可能な基(脱離基)を表す。nが2以上のとき複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、nが2以下のとき複数のXは同一でも異なっていてもよい。]
【0080】
【化1】
【0081】
[式(7)中、Rはアルキレン基を表し;R及びRは各々独立に炭化水素基を表し;R及びRは各々独立に水素原子又は炭化水素基を表す。]
【0082】
【化2】
【0083】
[式(8)中、R及びRは各々独立に炭化水素基を表し、mは3〜6の整数を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、複数のRは同一でも異なっていてもよい。]
上記式(6)において、Rは炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基であり、より好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0084】
Xで示される脱離基としては、塩素、臭素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;−NH−SiRで示される基(式中、Rは式(6)におけるRと同義である)等を例示できる。
【0085】
上記式(6)で示されるシリル化剤を具体的に例示すると、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、モノメチルトリメトキシシラン、モノメチルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。反応性が良好である点で、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、トリクロロメチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン及び/又はヘキサメチルジシラザン、ヘキサメチルジシロキサンが特に好ましい。
【0086】
脱離基Xの数(4−n)に応じて、エアロゲル粉体骨格上のヒドロキシ基と結合する数は変化する。例えば、例えば、nが2であれば:
(M−O−)SiR (9)
という結合が生じることになる。また、nが3であれば:
M−O−SiR (10)
という結合が生じることになる。このようにヒドロキシ基がシリル化されることにより、シリル化処理がなされる。
【0087】
上記式(7)において、Rはアルキレン基であり、好ましくは炭素数2〜8のアルキレン基であり、特に好ましくは炭素数2〜3のアルキレン基である。
【0088】
上記式(7)において、R及びRは各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(6)におけるRと同様の基を挙げることができる。Rは水素原子又は炭化水素基を示し、炭化水素基である場合には、好ましい基としては、式(6)におけるRと同様の基を挙げることができる。この式(7)で示される化合物(環状シラザン)でゲル化体を処理した場合には、ヒドロキシ基との反応によりSi−N結合が開裂するので、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には
(M−O−)SiR (11)
という結合が生じることになる。このように上記式(7)の環状シラザン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
【0089】
上記式(7)で示される環状シラザン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシラザン、オクタメチルシクロテトラシラザン等が挙げられる。
【0090】
上記式(8)において、R及びRは各々独立に炭化水素基であり、好ましい基としては、式(6)におけるRと同様の基を挙げることができる。mは3〜6の整数を示す。この式(8)で示される化合物(環状シロキサン)でゲル化体を処理した場合、ゲル化体中のエアロゲル粉体骨格表面上には、
(M−O−)SiR (12)
という結合が生じることになる。このように上記式(8)の環状シロキサン類によっても、ヒドロキシ基がシリル化され、シリル化処理がなされる。
【0091】
上記式(8)で示される環状シロキサン類を具体的に例示すると、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等が挙げられる。
【0092】
上記のシリル化処理の際に使用する処理剤の量としては、処理剤の種類にもよるが、ヘキサメチルジシロキサンを処理剤として用いる場合には、シリカ100重量部に対して10〜150重量部が好適である。より好ましくは20〜130重量部であり、更に好ましくは30〜120重量部である。
【0093】
上記のシリル化処理の条件は、S5工程で分離したW相に対して、シリル化処理剤を加え、一定時間反応させることにより行うことができる。例えばシリル化処理剤としてジメチルジクロロシランを用い、処理温度を50℃とした場合には、4〜12時間程度以上保持することで行うことでき、オクタメチルシクロテトラシロキサンを用い、処理温度を70℃とした場合には6〜12時間程度以上保持することで行うことができる。
【0094】
また、シリル化処理剤としてオクタメチルシロクテトラシロキサン等の環状シロキサン類を用いる場合には、塩酸を添加することで溶液のpHを0.3〜1.0とすることが、反応の効率を高める上で好ましい。
【0095】
当該シリル化処理工程においては、W相中への処理剤の溶解度を高めて、反応の効率を高める目的で、水溶性有機溶媒を加えることが好ましい。この水溶性有機溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。このうち、イソプロピルアルコールを好適に用いることができる。
【0096】
上記水溶性有機溶媒は、W相中の濃度が、20〜80wt%程度になるように加えることが好ましい。S4工程において、W相を分離する際に水溶性有機溶媒を加えた場合には、本S6工程においてもそのまま使用することが可能である。
【0097】
(ゲル化体抽出工程S7)
ゲル化体抽出工程(7)においては、上記S6におけるシリル化処理の後にゲル化体を疎水性有機溶媒中に抽出する(ゲル化体抽出工程S7。以下単に「S7」と略記することがある。)。ゲル化体抽出に用いる疎水性有機溶媒の選定基準としては、後の乾燥工程の際、乾燥収縮を起こさないために表面張力が小さいことが挙げられる。具体的にはヘキサン、ヘプタン、ノナン、デカン、ジクロロメタン、メチルエチルケトン、トルエン等を用いることができ、好適にはヘキサン、ヘプタン、デカン、トルエンを用いることが出来る。
【0098】
上記の疎水性有機溶媒への抽出を行った後に、ゲル化体に含まれる塩分や、疎水性有機溶媒中に含まれる硫酸塩等を除去するために、当該有機溶媒を水或いはアルコールの水溶液で洗浄を行うことが好ましい。この洗浄操作は、公知の方法で行うことができる。洗浄効率を上げる上では、数10wt%程度のイソプロピルアルコールの水溶液を用いることが好ましい。また、疎水性有機溶媒の沸点を超えない範囲で、高温にすることが洗浄効率を高める上では好ましい。通常は、45〜70℃の範囲で行うことができる。

(ゲル化体回収工程S8)
ゲル化体回収工程(8)においては、上記S7におけるゲル化体抽出工程において得られた疎水性有機溶媒に分散しているゲルを濾別し、疎水性有機溶媒を除去(すなわち乾燥)する(ゲル化体回収工程S8。以下単に「S8」と略記することがある。)。乾燥する際の温度は、溶媒の沸点以上で、表面処理剤の分解温度以下であることが好ましく、圧力は常圧ないし減圧下で行うことが好ましい。
【0099】
製造方法においては、上記S1からS8を経ることにより、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得ることができる。即ち、特願2013−087989に開示されている方法とは異なり、格段に圧縮強度が優れ、ナノ粒子の割合が小さいという特徴を発現する。
【0100】
本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を上述の方法により製造した場合には、疎水性を示すが、表面の疎水基を熱分解することにより、親水性に変えることも可能である。例えば、非酸化性雰囲気(窒素雰囲気など)下において、400〜700℃の温度で、好ましくは500〜600℃の温度で1〜8時間程度保持することで、その表面の疎水基を熱分解することが可能である。
【0101】
本発明に関する上記説明では、疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体、及び疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体の製造方法を主に例示したが、本発明は当該形態に限定されるものではない。
(物性、及び用途)
本発明の粉体はこれを構成する疎水性の球状シリカエアロゲルにおいて、化粧品用添加剤として適度な粒度分布及び比表面積にあり、しかも圧縮強度が高く粒子が壊れにいため、同用途、具体的にはファンデーションの添加剤として利用した際に、外観保持性に優れ、滑らかな触感が得られる。加えて、シリカエアロゲルとして、吸油量が高く、皮膚及び頭皮表面の脂分を効率良く吸収し、また、疎水性を呈し汗をはじく効果もあることから、上記ファンデーション以外の、ペースト、クリームタイプのメイクアップ・スキンケア化粧料、さらにはデオドラント用品、整髪料などの化粧品としても好適に用いることができる。
【0102】
無論、前記適度な粒子性状を備え、高い圧縮強度を有することを生かして、断熱性付与剤、艶消し剤等の各種用途材料にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を具体的に説明するため、実施例を示す。ただし本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。なお、実施例及び比較例の評価は以下の方法で実施した。
【0104】
<評価方法>
実施例1〜7及び比較例1で製造した疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体に対して、以下の項目について試験を行った。
【0105】
(圧縮強度)
株式会社島津製作所製微小圧縮試験機(MZCT−W510−J)を用い、該試験器に付属の「試料の大きさ測定機能(顕微鏡)」で粒径が5μmの粒子を無作為に10個選択し、負荷速度4.5mN/秒、負荷保時時間5秒の測定条件で10%変形時の圧縮強度を個々の粒子について測定し、平均した。
(コールターカウンター法による粒度分布の測定、体積基準累積50%径、及び1〜10μmの粒径範囲の粒子の含有割合)
シリカエアロゲル粉末をエタノールに添加し、30分超音波分散を行った。得られたシリカエアロゲル粒子のエタノール分散液をベックマン・コールター株式会社製精密粒度分布測定装置Multisizer3を用い、50μmのアパチャーチューブを使用して、体積基準の粒度分布を測定した。得られた粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認するとともに、該粒度分布曲線から、体積基準累積50%径及び1〜10μmの粒径範囲の粒子の含有割合(個数%)を算出した。
【0106】
(ナノ粒子の割合)
シリカエアロゲル粉末が付着したメッシュをTEM試料台に固定し、日本電子株式会社製のTEM(透過電子顕微鏡)を用いて、加速電圧200KV、観察倍率5000倍で観察し、無作為に選択した球状シリカエアロゲル粒子が150個以上となるよう、50〜60視野程度撮影した。TEMで観察する試料は、予め、ピンセットに取ったTEM観察用メッシュ1枚をシリカエアロゲル粉末の入った容器内部にくぐらせメッシュにエアロゲル粉末を付着させた後、メッシュに付着した余分な粒子をブロアーで吹き飛ばすことにより調整した。
【0107】
得られた画像において、粒径が100nmを越える粒子の数(A)と、該画像中に存在するナノ粒子の数(B)を数え、その割合を下記式より算出した。
【0108】
ナノ粒子の割合(個数%)=B/(A+B)×100
(比表面積、細孔容積及び吸油量)
BET比表面積、及びBJH細孔容積の測定は、上述の定義に従って日本ベル株式会社製BELSORP−maxにより行った。吸油量の測定は、JIS K6217−4「オイル吸収量の求め方」により行った。
【0109】
(M値)
疎水性シリカエアロゲルは水には浮遊するが、メタノールには完全に懸濁する。このことを利用し、以下の方法によって測定したM値を、シリカエアロゲル表面疎水基による疎水化処理の指標とした。
【0110】
シリカエアロゲル0.2gを容量200mLのビーカー中の50mlの水に加え、マグネティックスターラーで攪拌した。これに、ビュレットを使用してメタノールを加え、シリカエアロゲルの全量がビーカー内の溶媒に濡れて懸濁した時点を終点として、滴下した。この際、メタノールが直接試料に触れないように、チューブで溶液内に導いた。終点におけるメタノール−水混合溶媒中のメタノールの容量%を疎水度(M値)とした。
M値 = メタノール滴下量 / (メタノール滴下量+50ml)
(平均円形度)
シリカエアロゲル粉末について日立ハイテクノロジーズ製SEM(S−5500)を用いて、加速電圧3.0kV、二次電子検出、倍率1000倍で観察した。得られたSEM画像を画像解析することにより、下記式によりシリカエアロゲル粒子の円形度を算出した。なお、平均円形度は、2000個以上のシリカエアロゲル粒子について円形度を算出し平均した。
【0111】
C=4πS/L
[上記式において、Sは当該粒子が画像中に占める面積(投影面積)を表す。Lは画像中における当該粒子の外周部の長さ(周囲長)を表す。]
(炭素含有量)
エレメンター・ジャパン株式会社製の元素分析装置(vario MICRO cube)を用い、炭素含有量を測定した。
【0112】
<実施例1>
(S1:水性シリカゾル調整工程)
硫酸100gを撹拌羽で撹拌しながら、珪酸ナトリウム100gを徐々に添加し、水性シリカゾルを調整した。このとき、pHは3.0であった。
【0113】
(S2:エマルション形成工程)
S1で調整した水性シリカゾル108gを分取し、160gのヘプタンを加え、ソルビタンモノオレエートを1.6g添加した。この溶液をホモジナイザー(IKA製、T25BS1)を用いて、9000回転/分の条件で2.5分撹拌することで、W/Oエマルションを形成させた。
【0114】
(S3:ゲル化工程)
得られたエマルションを撹拌羽で撹拌しながら、70℃、6時間かけてゲル化した。
【0115】
(S4:W相分離工程)
イソプロピルアルコール40gとイオン交換水60gを加えて、攪拌羽で攪拌しながらO相とW相を分離した。
【0116】
(S5:ゲル化体熟成工程)
続けて、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を1.60g添加した。このとき、W相のpHは5.0であった。70℃、3時間かけて、ゲル化体の熟成を行った。
【0117】
(S5−2:W相回収工程)
デカンテーションにより、O相を除去することで、W相を回収した。
【0118】
(S6:シリル化処理工程)
得られたW相に35%塩酸を10g、ヘキサメチルジシロキサンを12g添加し、撹拌しながら70℃のウォーターバスで12時間保持することにより、シリル化処理を行った。
【0119】
(S7:ゲル化体抽出工程)
シリル化処理後、攪拌羽で攪拌しながら48%水酸化ナトリウム水溶液を7.14g添加し、中和処理を行った。続いて、ヘプタン100gを加え、ゲル化体を抽出し、イオン交換水100gで2回洗浄を行った。
【0120】
(S8:ゲル化体回収工程)
得られたシリル化後のゲル化体を吸引濾過機により濾別した。ゲル化体の乾燥を真空圧力下、150℃で16時間以上加熱することで、本発明の疎水性の球状シリカエアロゲルからなる粉体を得た。
【0121】
得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0122】
<実施例2>
S3のゲル化を70℃、24時間とし、S5のゲル化体熟成を70℃、3時間とする以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0123】
<実施例3>
S2のホモジナイザーの条件を11000回転/分、3分とし、S3のゲル化を70℃、5時間、S5のゲル化体熟成を70℃、2.5時間とする以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0124】
<実施例4>
S2のホモジナイザーの条件を11000回転/分、3分とし、S3のゲル化を70℃、24時間、S5のゲル化体熟成を70℃、2.5時間とする以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0125】
<実施例5>
S3のゲル化を70℃、24時間とし、S5のゲル化体熟成を70℃、2.5時間とした以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0126】
<実施例6>
S3のゲル化を70℃、5時間とし、S5のゲル化体熟成を70℃、3時間とした以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0127】
<実施例7>
S2のホモジナイザーの条件を5000回転/分、3分とし、S3のゲル化を70℃、5時間、S5のゲル化体熟成を70℃、2.5時間とする以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0128】
<比較例1>
S2でW/Oエマルションを形成した後、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を1.60g添加してW相のpHを5.0に調整した。その後、イソプロピルアルコール40gとイオン交換水60gを加えて、O相とW相を分離し、70℃で3時間かけてゲル化体熟成工程(S5)を行った。ゲル化体熟成後、デカンテーションにより、O相を除去し、W相回収工程(S5−2)を行った以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0129】
<比較例2>
S5で0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加せずに、W相のpHを3.0のまま熟成した以外は、実施例1の操作と同様に行った。得られたシリカエアロゲル粉体のコールターカウンター法による粒度分布曲線において1〜10μmの粒径範囲に渡って粒子を含んでいることを確認した。その他物性を表1に示す。
【0130】
【表1】
図1
図2
図3