(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
【0016】
<赤外線検出素子>
本実施形態に係る赤外線検出素子は、半導体基板と、半導体基板上に形成され、第1導電型を有する第1層と、第1層上に形成された受光層と、受光層上に形成され、第2導電型を有する第2層と、を備え、第1層は、Al
x(1)In
1−x(1)Sbを含む層と、膜厚がt
y(1)[nm]でありAl
y(1)In
1−y(1)Sbを含む層と、Al
x(2)In
1−x(2)Sbを含む層と、をこの順に有し、t
y(1)、x(1)、x(2)及びy(1)は、
0<t
y(1)≦2360×(y(1)−x(1))−240 (0.11≦y(1)−x(1)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1215×(y(1)−x(1))+427 (0.19<y(1)−x(1)≦0.33)、
0<t
y(1)≦2360×(y(1)−x(2))−240 (0.11≦y(1)−x(2)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1215×(y(1)−x(2))+427 (0.19<y(1)−x(2)≦0.33)、
0<x(1)<0.18、および、
0<x(2)<0.18
を満たすものである。
【0017】
ここで赤外線検出素子のSNRは、赤外線が入射したときに発生する光電流Ipと赤外線検出素子の素子抵抗R
0の平方根の積に比例する。すなわち、式(1)の様に表される。
【0019】
従って、Ipを低下させることなく、素子抵抗R
0を大きくすることで、赤外線検出素子のSNR特性の向上が実現する。
【0020】
赤外線検出素子を形成するダイオードを通る電流成分は、素子の内部を通る電流成分と、素子の側面を通る電流成分とに分けられる。これら両電流成分の大きさは、例えば非特許文献1に示すように素子のメサ形状のサイズの異なる複数の素子を作製し、電流密度の素子サイズおよび周囲長依存性から求めることができる。
【0021】
同様に赤外線検出素子の素子抵抗R
0は、素子の内部を通る電流に対する抵抗成分R
dと、素子の側面を通る電流に対する抵抗成分R
Sとに分けられる(式(2)参照)。非特許文献1と同様の手法を用いて、式(3)より1/(R
0・S)をL/Sに対してプロットすることで、切片と傾きから、赤外線検出素子の内部を通る電流に対するメサ形状の単位面積当たり抵抗率R
aと、赤外線検出素子の側面を通る電流に対するメサ形状の単位長さ当たり抵抗率αを求めることができる。
【0024】
上記のように、R
0は赤外線検出素子の抵抗である。また、R
dは赤外線検出素子の内部を通る電流に対する抵抗成分である。また、R
Sは赤外線検出素子の側面を通る電流に対する抵抗成分である。また、R
aは赤外線検出素子の内部を通る電流に対するメサ形状の単位面積当たり抵抗率である。また、αは赤外線検出素子の側面を通る電流に対するメサ形状の単位長さ当たり抵抗率である。ここで、Sは赤外線検出素子のメサ形状の面積である。また、Lは赤外線検出素子のメサ形状の周囲長である。
【0025】
このうち赤外線検出素子の内部を通る電流に対する単位面積当たり抵抗率R
a(以下、R
aとだけ表記することもある)は、拡散電流が十分に抑制されている場合、受光層でのキャリアの再結合電流の大きさによって決まる。再結合電流の大きさは、受光層内部に存在する欠陥を介したキャリア再結合電流に大きく依存しており、受光層の欠陥密度を低減することでキャリア再結合電流を抑制できる。したがって受光層の欠陥密度を低減することでR
aを向上し、結果として赤外線検出素子のSNRを向上することができる。
【0026】
受光層に含まれる欠陥のうち主なものとしては、半導体基板と基板上に積層する化合物半導体材料との間の格子定数差により発生する線欠陥すなわち転位が挙げられる。ここで積層する化合物半導体材料の厚さを厚くすればするほど、転位密度が小さくなることが知られている。これは主に転位が互いにぶつかり消滅するためである。しかしながら、膜厚を厚くすることは、成膜時間の増加や、素子形成プロセスの難度を上げることに繋がり、好ましくない。
【0027】
線欠陥すなわち転位の密度の低減に効果的な手法として、転位フィルタ層(例えば第一実施形態では、膜厚がt
y(1)でありAl
y(1)In
1−y(1)Sbを含む層)の導入が挙げられる。転位フィルタ層とは、線欠陥すなわち転位の密度低減を目的に母材に導入される、母材と格子定数が大きく異なる薄い層のことである。母材との転位フィルタ層との格子定数差により発生するミスフィット応力が、薄い転位フィルタ層に集中することで、転位が横方向に曲折する。複数の曲折した転位同士が衝突することで消滅するため、上層への転位の伝播が抑制される。転位フィルタ層は厚さが比較的薄いにもかかわらず転位を低減でき、成膜時間や素子形成プロセスの難度の増加が比較的小さい、好んで用いられる。
【0028】
転位フィルタ層において重要な設計要素は母材との格子定数差と転位フィルタ層の厚さおよびポアソン比などの弾性定数である。母材との格子定数差が大きくなるほど、また転位フィルタ層が厚くなるほどミスフィット応力が大きくなるため転位が曲折しやすくなるが、一定以上ミスフィット応力が大きくなると結晶が応力に耐えられず逆に転位を発生してしまう。このときの厚さを臨界膜厚と呼ぶ。臨界膜厚には理論式が存在するものの、理論値よりも厚い膜厚の場合においても転位を新たに発生することなく、転位を低減する例が報告されており(特許文献2)、転位の曲折に必要な厚さや転位が発生してしまう厚さは材料系に大きく依存する。このとき、ある条件における検討において、仮に新たな転位を発生していない場合には、次の検討においては転位フィルタ層を厚くする検討を行うことが一般的である。これは上述のように転位フィルタ層が厚くなるほど転位が曲折しやすくなるためである。
【0029】
赤外線検出素子の材料としては、比較的良好な質の結晶が得られるInSbやAlInSb、InGaSb、InAsSbなどを用いることができる。例えばAlInSbからなる母材に転位フィルタ層を導入する場合、素子形成プロセスの容易性の観点から、同一元素種であるAlInSbを含む転位フィルタ層を導入することが好ましい。
【0030】
また、Alの代わりにGaを用いることができ、GaInSbやAlGaInSbも母材や転位フィルタ層として好ましく用いることができる。二元系結晶であるAlSbとGaSbの格子定数や弾性定数は互いに近い値をとるために、これらとInSbとの混晶であるAlInSb混晶やGaInSb混晶における格子定数や弾性定数についても、Al組成とGa組成とが同じ場合には互いに近い値をとる。したがって、AlInSbの「Al組成」の値を、GaInSbにおける「Ga組成」、もしくはAlGaInSbにおける「Al組成とGa組成の和」と置き換えることで、所望のAlInSbに対して格子定数や弾性定数が極めて近い層を設計することが可能である。
【0031】
なお、母材と転位フィルタ層が何れもAlInSbである場合、母材のAlInSb層とはAl組成が異なるAlInSb層を転位フィルタ層として導入することで、格子定数差およびミスフィット応力を生じ転位を曲折することが可能になる。
【0032】
なお、本明細書において各々の層の「Al組成」とは、各々の層に含まれる全てのIII族元素に対するAl元素の数の割合を示す。同様に各々の層の「Ga組成」「In組成」についても、各々の層に含まれる全てのIII族元素に対するGa元素、In元素の数の割合を示す。
【0033】
本実施形態の赤外線検出素子によれば、第1層中で転位すなわち線欠陥が横方向に曲折するために第1層の上に位置する受光層の線欠陥密度が低減する。そして、受光層内における転位を介した欠陥性再結合が抑制されることによりR
aの向上が可能となる。
【0034】
なおここで、「半導体基板上に形成され、第1導電型を有する第1層」という表現における「上に」という文言は、半導体基板の上に第1層が形成されていることを意味するが、半導体基板と第1層の間に別の層がさらに存在する場合もこの表現に含まれる。その他の層同士の関係を表現する場合に「上の」という文言を使用する場合にも、同様の意味を有するものとする。
【0035】
またここで、「Al
x(1)In
1−x(1)Sbを含む層」という表現における「含む」という文言は、AlとInとSbを主に層内に含むことを意味するが、その他の元素を含む場合もこの表現に含まれる。具体的には、他の元素を少量(例えばAs、P、Ga、Nなどの元素を数%以下)加えるなどしてこの層の組成に軽微な変更を加える場合についてもこの表現に含まれることは当然である。その他の層の組成を表現する場合に「含む」という文言を使用する場合にも、同様の意味を有するものとする。
【0036】
以下、本実施形態に係る赤外線検出素子の各構成部について、例を挙げて説明する。
【0037】
<半導体基板>
本実施形態に係る赤外線検出素子における半導体基板は、この半導体基板上に後述の第1層を積層することができれば特に制限されない。一例としては、半導体基板としてGaAs基板、Si基板、InP基板、InSb基板が挙げられるがこの限りではない。化合物半導体の結晶成長が容易であるという観点から、GaAs基板が好ましい。
【0038】
半導体基板はドナー不純物やアクセプター不純物によるドーピングの制限はないが、導体基板上に形成した独立の複数の赤外検出素子を直列または並列に接続可能にする観点から、半絶縁性であることまたは化合物半導体層とは絶縁分離可能であることが望ましい。
【0039】
また半導体基板は化合物半導体単結晶を積層する観点から単結晶基板であることが望ましい。半導体基板の面方位は特に制限はないが、(001)、(111)、(101)等が望ましい。また、これらの面方位に対して1°から5°程度傾けた面方位を用いることも好ましい。
【0040】
半導体基板の表面は、真空中で加熱して酸化膜を除去しても良いし、有機物や金属等の汚染物質を除去したのち、酸やアルカリによる洗浄処理を行ってもよい。
【0041】
<第1層>
本実施形態に係る赤外線検出素子における第1層は、半導体基板上に形成され、第1導電型(n型、i型及びp型のいずれか)を有するものである。また第1層は、Al
x(1)In
1−x(1)Sb(0<x(1)<1)を含む層と、膜厚がt
y(1)でありAl
y(1)In
1−y(1)Sb(0<y(1)<1)を含む層と、Al
x(2)In
1−x(2)Sb(0<x(2)<1)を含む層と、をこの順に有し、
0<t
y(1)≦2360×(y(1)−x(1))−240 (0.11≦y(1)−x(1)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1215×(y(1)−x(1))+427 (0.19<y(1)−x(1)≦0.33)、
0<t
y(1)≦2360×(y(1)−x(2))−240 (0.11≦y(1)−x(2)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1215×(y(1)−x(2))+427 (0.19<y(1)−x(2)≦0.33)、
を満たすものである。
【0042】
(各層のAl組成の測定方法)
第1層が有する各層のAl組成は、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)法により以下のように求めた。測定にはCAMECA社製磁場型SIMS装置IMS 7fを用いた。この手法は、固体表面にビーム状の一次イオン種を照射することで、スパッタリング現象により深さ方向に掘り進めながら、同時に発生する二次イオンを検出することで、組成分析を行う手法である。なおここで、Al組成とは、各層に含まれる全13族元素に対するAl元素の比率を指す。
【0043】
具体的には、一次イオン種をセシウムイオン(Cs+)、一次イオンエネルギーを2.5keV、ビーム入射角を67.2°とし、検出二次イオン種としてマトリックス効果が小さいMCs+(Mは、Al、Ga、In、As、Sbなど)を検出した。
【0044】
この際、上述のような一定条件でスパッタリングを行い、目的とする層の深さまでスパッタリングを所定の時間行うことで、目的とする層の組成分析を行った。なお、目的とする層の深さは、後述の断面TEM測定により各層の厚さから求めることができる。SIMS分析のスパッタリング時間―深さの変換は、分析と同条件での一定時間スパッタリング深さを、例えば触針式の段差計を用いて測定しスパッタレートを求め、これを使って試料測定時のスパッタリング時間を深さに変換することで求めた。
【0045】
そして、各層におけるMCs+の信号強度から、Al組成を求めた。例えばAlInSb層の場合、Al組成は(AlCs+の信号強度)÷((AlCs+の信号強度)+(InCs+の信号強度))から求めた。
【0046】
なお、各層が深さ方向に均一な組成であっても、スパッタリングの影響により信号強度が深さ方向に分布を生じる場合があるが、この場合は最大の信号強度を各層の信号強度の代表値とする。
【0047】
なお、分析で求められるAl組成定量値は真値からのずれを伴い得る。この真値からのずれを補正するために、X線回折(XRD:X−ray Diffracton)法から得られる格子定数値を求めた別サンプルを用意し、Al組成値が既知である標準試料として用いて、第1層が有する各層のAl組成についての測定条件を用いてSIMS分析を行うことで、信号強度に対するAl組成の感度係数を求めた。第1層が有する各層のAl組成を、第1層が有する各層におけるSIMS信号強度に上記感度係数をかけることで求めた。
【0048】
ここで、別サンプルとしてはGaAs基板上に積層された膜厚800nmのAl
xIn
1−xSbを用いた。このサンプルについて、格子定数をスペクトリス株式会社製X線回折装置X’Pert MPDを用いてX線回折(XRD:X−ray Diffaction)法により以下のように求め、標準試料としてのAl組成xを求めた。
【0049】
X線回折による2θ−ωスキャンを行うことにより、基板表面の面方位に対応する面の面指数の2θ−ωスキャンにおけるピーク位置から、Al
xIn
1−xSbを含む層の基板表面に対する法線方向の格子定数を求め、該法線方向の格子定数からベガード則を用いてAl組成xを決定した。ここでは、Al
xIn
1−xSb層の異方的な歪みはないものとした。ベガード則は具体的には以下の式(4)で表される。
【0051】
ここでa
AlSbはAlSb、a
InSbはInSbの格子定数であり、a
AlInSbは上記のX線回折により求まるAl
xIn
1−xSbの格子定数である。a
AlSbには6.1355Åを、a
InSbには6.4794Åを使用した。SIMS測定に対する標準試料としては、0.10<x<0.15のものを用いた。
【0052】
第1の層が有する各層のAl以外の元素の組成についても、上記と同様の手法を用いることで測定可能である。
【0053】
例えば、Gaを含む場合のGa組成についても上記と同様の手法を用いることで測定可能である。
【0054】
この際には、別サンプルとしてGaAs基板上に積層された膜厚800nmのGa
gIn
1−gSbを用いる。Ga
gIn
1−gSbを用い、ベガード則は具体的には以下の式(5)で表される。
【0056】
ここで、a
GaSbはGaSb、a
InSbはInSbの格子定数であり、a
GaInSbは上記のX線回折により求まるAl
gIn
1−gSbの格子定数である。a
GaSbには6.0959Åを、a
InSbには6.4794Åを使用した。SIMS測定に対する標準試料としては、0.10<g<0.15のものを用いた。
【0057】
(各層の膜厚の測定方法)
第1層が有する各層の膜厚は断面TEM(TEM:Transmission Electron Spectroscopy)法により測定することが可能である。具体的には、およそ500nm以下の厚みの試料作成を日立ハイテクノロジーズ社製FIB装置(FB−2100)を用いてFIB法により行い、日立製STEM装置(HD−2300A)を用いて加速電圧200kVにて透過像で断面観察を行い各層の厚さを測定した。第1層以外の層の膜厚についても、同様の測定方法を用いることで測定可能である。
【0058】
線欠陥の曲折のために必要な応力を導入する観点から、Al
y(1)In
1−y(1)Sbを含む層の膜厚t
y(1)[nm]の下限値は2nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。
【0059】
三元系以上の混晶においては混晶比が小さいほど良好な質の結晶が得られることを鑑み、比較的良好な質の結晶が得られるという観点からや素子形成プロセスの容易性の観点から、0<x(1)<0.25が好ましく、0<x(1)<0.18がより好ましい。さらに好ましくは0<x(1)<0.09が望ましく、x(2)についても同様の範囲が好ましい。
【0060】
また第1層はV族元素としてAsを含んでも構わないが、結晶成長中に過剰なAs元素を照射する必要があり結晶成長中の表面原子の拡散を阻害し結晶性の悪化につながることから、全V族元素に対するAs原子の割合は3%以下であることが好ましい。
【0061】
また、Al
y(1)In
1−y(1)Sbを含む層に均一に応力をかけるという観点から、|x(1)−x(2)|<0.10であることが好ましく、|x(1)−x(2)|<0.03であることがより好ましい。
【0062】
またAl
x(1)In
1−x(1)Sbを含む層の膜厚t
x(1)としては、ミスフィット応力の吸収の観点からt
x(1)≧200nmであることが好ましく、t
x(1)≧300nmであることがより好ましい。Al
x(2)In
1−x(2)Sbを含む層の膜厚t
x(2)についても同様の範囲が好ましい。
【0063】
また成膜時間の増加や、素子形成プロセスの容易性の観点から、t
x(1)≦700nmであることが好ましく、より好ましくはt
x(1)≦600nmであることが特に好ましい。t
x(2)についても同様の範囲が好ましい。
【0064】
上述のように、転位フィルタ層Al
y(1)In
1−y(1)Sbが厚くなるほど、また転位フィルタ層Al
y(1)In
1−y(1)Sbと母材層Al
x(1)In
1−x(1)Sbとの格子定数差が大きくなるほど転位が曲折しやすくなる。しかしながら、赤外線検出素子に用いられる転位フィルタ層としては、転位フィルタ層Al
y(1)In
1−y(1)Sbが厚くなることは好ましくない。これは、成膜時間の増加や、赤外線検出素子形成プロセスの難度を上げることに繋がるためである。以上の観点から、赤外線検出素子に用いられる転位フィルタ層としては、母材との格子定数差を大きくとったうえで、膜厚が薄いことが好ましい。
【0065】
例えば膜厚t
y(1)[nm]は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。また、膜厚t
y(1)[nm]臨界膜厚の6倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましい(後述の
図5)。
【0066】
ここで、臨界膜厚はy(1)−x(1)の関数であり、以下の式(6)〜式(8)で与えられるものである。以下では臨界膜厚hcを求める方法について説明する。
【0067】
式(6)はダブルヘテロ構造の中間層の臨界膜厚に関するMatthewsの式を示している(特許文献2)。
【0068】
式(6)において、hcは中間層に相当するAl
y(1)In
1−y(1)Sbの臨界膜厚、fは格子不整合度、νはポアソン比、bはバーガーズベクトルの大きさ、αは転位線の方向とバーガーズベクトルの角度、λは転位フィルタ層とバッファ層との界面とすべり面とがなす角を示す。
【0069】
これらのパラメータは考慮する転位の種類により異なるが、ここではAlInSbを含む閃亜鉛鉱構造に一般的な60°転位を考え、b=a/√2、cosα=1/2、cosλ=1/2を用いる。これらを式(6)に代入して整理することで、式(7)が得られる。ポアソン比は0.35を用いた。格子定数aは転位フィルタ層に相当するAl
y(1)In
1−y(1)Sbの格子定数を用いた。
【0070】
転位フィルタ層に相当するAl
y(1)In
1−y(1)Sbの組成y(1)、バッファ層に相当するAl
x(1)In
1−x(1)Sbの組成x(1)、を用いると、べガード則(式(4))を用いることにより、各々の層の格子定数を求めることができ、さらに格子不整合度fを求めることができる(式(8))。これらの式により、臨界膜厚hcを求めることができる。このときのAl組成差と臨界膜厚hcの関係を
図5に示す。
【0072】
また後述の実施例で示すように、第1層におけるt
y(1)、x(1)、x(2)及びy(1)は、
0<t
y(1)≦6901×(y(1)−x(1))−1087 (0.16≦y(1)−x(1)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−2673×(y(1)−x(1))+699 (0.19<y(1)−x(1)≦0.25)、
0<t
y(1)≦6901×(y(1)−x(2))−1087 (0.16≦y(1)−x(2)≦0.19)、および、
0<t
y(1)≦−2673×(y(1)−x(2))+699 (0.19<y(1)−x(2)≦0.25)
を満たすことが好ましく、
より好ましくは
0<t
y(1)≦1993×(y(1)−x(1))−242 (0.13≦y(1)−x(1)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1040×(y(1)−x(1))+324 (0.19<y(1)−x(1)≦0.29)、
0<t
y(1)≦1993×(y(1)−x(2))−242 (0.13≦y(1)−x(2)≦0.19)、および、
0<t
y(1)≦−1040×(y(1)−x(2))+324 (0.19<y(1)−x(2)≦0.29)
を満たすことが好ましく、
さらに好ましくは 0<t
y(1)≦3067×(y(1)−x(1))−472 (0.16≦y(1)−x(1)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1188×(y(1)−x(1))+322 (0.19<y(1)−x(1)≦0.25)、
0<t
y(1)≦3067×(y(1)−x(2))−472 (0.16≦y(1)−x(2)≦0.19)、および、
0<t
y(1)≦−1188×(y(1)−x(2))+322 (0.19<y(1)−x(2)≦0.25)
を満たすことがより好ましい。
【0073】
また第1層は、Al
x(i)In
1−x(i)Sb(0≦x(i)≦1)を含む層と、膜厚がt
y(i)[nm]でありAl
y(i)In
1−y(i)Sb(0≦y(i)≦1)を含む層と、をこの順にn層ずつ順次積層された積層構造を有することが好ましい。
【0074】
ここで繰り返し回数nについては、線欠陥密度低減の観点からn≧2であることが好ましく、n≧3であることがより好ましい。
【0075】
また成膜時間の増加や素子形成プロセスの容易性の観点から、n≦6であることが好ましく、n≦5であることがより好ましい。
【0076】
また後述の実施例で示すように、第1層は、1からn(2≦n≦6)までの整数iについて、Al
x(i)In
1−x(i)Sbを含む層と、膜厚がt
y(i)[nm]でありAl
y(i)In
1−y(i)Sbを含む層と、をこの順にn層ずつ順次積層された積層構造と、膜厚がt
y(n)[nm]でありAl
y(n)In
1−y(n)Sbを含む層の直上にAl
x(n+1)In
1−x(n+1)Sbを含む層と、を有し、t
y(i)、x(i)、x(i+1)及びy(i)は、
0<t
y(i)≦2360×(y(i)−x(i))−240 (0.11≦y(i)−x(i)≦0.19)、
0<t
y(i)≦−1215×(y(i)−x(i))+427 (0.19<y(i)−x(i)≦0.33)、
0<t
y(i)≦2360×(y(i)−x(i+1))−240 (0.11≦y(i)−x(i+1)≦0.19)、
0<t
y(i)≦−1215×(y(i)−x(i+1))+427 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.33)、
0<x(i)<0.18、および、
0<x(i+1)<0.18
を満たすことが好ましい。
【0077】
ここでt
y(i)については上述のt
y(1)と同様の範囲が好ましく、x(i)、x(i+1)については、上述のx(1)と同様の範囲が好ましい。
【0078】
また後述の実施例で示すように、第1層のt
y(i)、x(i)、x(i+1)及びy(i)は、
0<t
y(i)≦6901×(y(i)−x(i))−1087 (0.16≦y(i)−x(i)≦0.19)、
0<t
y(i)≦−2673×(y(i)−x(i))+699 (0.19<y(i)−x(i)≦0.25)、
0<t
y(i)≦6901×(y(i)−x(i+1))−1087 (0.16≦y(i)−x(i+1)≦0.19)、および、
0<t
y(i)≦−2673×(y(i)−x(i+1))+699 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.25)
を満たすことが好ましく、
より好ましくは、
0<t
y(i)≦1993×(y(i)−x(i))−242 (0.13≦y(i)−x(i)≦0.19)、
0<t
y(i)≦−1040×(y(i)−x(i))+324 (0.19<y(i)−x(i)≦0.29)、
0<t
y(i)≦1993×(y(i)−x(i+1))−242 (0.13≦y(i)−x(i+1)≦0.19)、および、
0<t
y(i)≦−1040×(y(i)−x(i+1))+324 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.29)
を満たすことがより好ましく、
さらに好ましくは
0<t
y(i)≦3067×(y(i)−x(i))−472 (0.16≦y(i)−x(i)≦0.19)、
0<t
y(i)≦−1188×(y(i)−x(i))+322 (0.19<y(i)−x(i)≦0.25)、
0<t
y(i)≦3067×(y(i)−x(i+1))−472 (0.16≦y(i)−x(i+1)≦0.19)、および、
0<t
y(i)≦−1188×(y(i)−x(i+1))+322 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.25)
を満たすことがより好ましい。このとき、互いに異なる層のAl
y(i)In
1−y(i)Sbについて、Al組成y(i)の値は同一の値をとることもできるし、異なる値をとることもできる。
【0079】
第1層の材料としては、上述のAl
x(1)In
1−x(1)Sbを含む層と、膜厚がt
y(1)でありAl
y(1)In
1−y(1)Sbを含む層と、Al
x(2)In
1−x(2)Sbを含む層と、をこの順に有する積層構造の他に、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、InSb、InPの単体もしくは混晶の単層もしくは積層構造などを有してもよい。
【0080】
また前述の半導体基板がGaAs基板である場合、第1層のうち、GaAs基板と接する層は良好な質の結晶性の確保の観点からInSbからなる層であることが好ましい。
【0081】
第1層はドナー不純物やアクセプター不純物によりn型やp型にドーピングされていることが好ましいが、第1導電型を有するのであれば必ずしもドープされていなくてもよい。第1層がドープされている場合、ドープ濃度は金属との接触抵抗の低減の観点から1×10
18[cm
−3]以上が好ましく、また結晶性確保の観点から1×10
19[cm
−3]以下であることが望ましい。
【0082】
第1導電型は、赤外検出素子のバーシュタインモス効果による赤外線透過率の向上の観点から、n型の導電型であることが好ましい。
【0083】
第1層と受光層が直接接する場合には、拡散電流低減の観点から、第1層のうち受光層と接する層の材料は、受光層よりもバンドギャップの大きいものであることが好ましい。
【0084】
<受光層>
本実施形態に係る赤外線検出素子における受光層は、第1層上に形成される層である。受光層の材料は、波長が2μm以上の赤外線に相当するバンドギャップを有する化合物半導体であれば特に制限されない。例えば、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、InSb、InPの単体もしくは混晶の単層またはそれらの積層構造などが挙げられる。
【0085】
特に比較的良好な質の結晶が得られるという観点から、受光層の材料としてはAl
zIn
1−zSbが好ましい。この場合Al組成zは、2.0μmから7.0μmまでの波長に対応可能という観点から、0より大きく0.25より小さいことが好ましく、特にAl組成zが小さい方が良好な結晶性が得られるという観点から、0より大きく、0.18より小さいことがより好ましい。さらに好ましくは0.09より小さいことが好ましい。また良好な質の結晶を得る観点から、第1層のうちAl
x(1)In
1−x(1)Sbを含む層と格子定数が近いことが好ましい。
【0086】
受光層の導電型はn型、i型及びp型のいずれでもよい。また受光層へのドーピングとしては、ノンドープ(不純物を含まないこと)でもよく、ドナー不純物やアクセプター不純物によりn型やp型にドーピングされていてもよい。
【0087】
また欠陥による欠陥性再結合の抑制の観点から、受光層の線欠陥密度が3.0×10
8[本/cm
2]以下であることが好ましい。受光層の線欠陥密度については、平面TEMによる観察を行うことで測定可能である。具体的には、試料作成を日立製FIB装置(FB−2100)を用いてFIB法により加工を行い、日立製STEM装置(HD−2300A)を用いて平面TEM像観察を行い、30μm
2以上の面積の連続した視野の線欠陥の本数を計測し、単位面積当たりの線欠陥の本数を求めることで、線欠陥密度の算出を行うことができる。
【0088】
入射された赤外線を十分に吸収するという観点から、受光層の膜厚[nm]の下限値は100nm以上であることが好ましく、200nm以上であることがより好ましい。また、成膜時間の増加や、素子形成プロセスの容易性の観点から、受光層の膜厚の上限値は4000nm以下であることが好ましく、3000nm以下であることがより好ましい。
【0089】
<第2層>
本実施形態に係る赤外線検出素子における第2層は、受光層上に形成され、第2導電型(n型、i型及びp型のいずれか)を有する層である。
【0090】
第2層は、第1層が有する第1導電型とは反対の導電型であることが好ましい。例えば第1層がn型であれば第2層はp型であることが好ましく、第1層がp型であれば第2層はn型であることが好ましい。
【0091】
また前述の通り、第1層はn型であることが好ましいため、第2層はp型であることが好ましい。
【0092】
第2層はドナー不純物やアクセプター不純物によりn型やp型にドーピングされていることが好ましいが、第2導電型を有するのであれば必ずしもドープされていなくてもよい。
【0093】
第2層がドープされている場合、そのドープ濃度は金属との接触抵抗の低減の観点から1×10
18[cm
−3]以上が好ましく、また結晶性確保の観点から1×10
19[cm
−3]以下であることが好ましい。
【0094】
第2層の材料は化合物半導体であれば特に制限されない。例えば、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、InSb、InPの単体もしくは混晶の単層もしくは積層構造などが挙げられる。
【0095】
第2層と受光層が直接接する場合には、拡散電流低減の観点から、第2層のうち受光層と接する層の材料は、受光層よりもバンドギャップの大きいものであることが好ましい。
【0096】
本発明の実施形態において、各化合物半導体層(第1層、受光層及び第2層等)は各種の成膜方法を用いて形成することが可能である。例えば、分子線エピタキシー(MBE)法や有機金属気相エピタキシー(MOVPE)法などが好ましい方法である。これらの方法を用いて、半導体基板上に各化合物半導体層を形成することができる。各化合物半導体層の形成工程では、各化合物半導体層を構成する各層の形成途中で半導体基板を成膜装置から一旦、大気中に取り出してもよい。
【0097】
素子形成プロセス時のダメージを防ぐ観点から、第2層の膜厚[nm]の下限値は30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。成膜時間の増加や、素子形成プロセスの容易性の観点から、第2層の膜厚の上限値[nm]は2000nm以下であることが好ましく、1000nm以下であることがより好ましい。
【0098】
<積層構造>
本発明の実施形態において、赤外線検出素子は次のような積層構造を有する。
【0099】
第1層20は、1からnまでの整数iについて、厚さt
x(i)でありAl
x(i)In
1−x(i)Sbを含むバッファ層X(i)と、厚さt
y(i)でありAl
y(i)In
1−y(i)Sbを含む転位フィルタ層Y(i)と、をこの順にn層ずつ順次積層された構造を有し、その直上に厚さt
x(n+1)でありAl
x(n+1)In
1−x(n+1)Sbを含むバッファ層X(n+1)が積層されてなる構造を含む。ここで述べた「順次積層された」とは、「X(i)層の直上にY(i)層が積層されてなり、Y(i)層の直上にX(i+1)層が積層されてなる」ことを示す。
【0100】
ここで、Y(i)層は転位フィルタ層としての機能を、X(i)層はミスフィット応力を吸収するバッファ層としての機能を果たし、Y(i)層にミスフィット応力を与えることでX(i)層とY(i)層の界面およびY(i)層とX(i+1)層との界面において転位を曲折する。
【0101】
したがってY(i)層は、X(i)およびX(i+1)層との組成差が大きくなるほど、ミスフィット応力が大きくなるため転位が曲折しやすくなる。一方で、Y(i)層のX(i)およびX(i+1)層との組成差が大きくなりすぎると、大きくなりすぎたミスフィット応力に結晶が耐えられず逆に転位を発生してしまう。
【0102】
またY(i)層の厚さt
y(i)が厚くなるほどミスフィット応力が大きくなるため転位が曲折しやすくなる。一方、Y(i)層の厚さt
y(i)が厚くなりすぎると一定以上ミスフィット応力が大きくなり結晶が応力に耐えられず逆に転位を発生してしまう。上記、Y(i)層のX(i)との組成差、Y(i)層とX(i+1)層との組成差、およびY(i)層の厚さt
y(i)は互いに独立ではなく、前述の通り好適な範囲が存在する。
【0103】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。また、本発明の実施形態は、以下で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0104】
図2は、本発明に係る赤外線検出素子100の第一実施形態の構成を示す断面図である。赤外線検出素子100は、半導体基板10の上に化合物半導体層50が積層された構造を有する。化合物半導体層50は、第1層20、受光層30および第2層40がこの順に積層された構造を有する。第一実施形態において、第1層20は、厚さt
x(1)でありAl
x(1)In
1−x(1)Sbを含む層X(1)であるバッファ層23を有する。また、第1層20は、厚さt
y(1)でありAl
y(1)In
1−y(1)Sbを含む層Y(1)である転位フィルタ層24を有する。また、第1層20は、厚さt
x(2)でありAl
x(2)In
1−x(2)Sbを含む層X(2)であるバッファ層25を有する。第一実施形態において、第1層20は、バッファ層23および転位フィルタ層24をこの順に1層(一組)積層された構造を有し、その直上にバッファ層25が積層されてなる構造を含む。
【0105】
ここで、第1層20は、更にInSbを含むバッファ層(InSb層21)と、バリア層22と、を有する。
図2に示すように、第1層20は、InSb層21の直上にバッファ層23が積層される構造を有する。また、第1層20は、バッファ層25の直上にバリア層22が積層される構造を有する。
【0106】
図3は、本発明に係る赤外線検出素子100の第二実施形態の構成を示す断面図である。第二実施形態において、第1層20は、上記の積層構造の繰り返し回数nを2とした場合の構造を有する。
図3において、第一実施形態の赤外線検出素子100と同じ要素には同じ符号が付されており、説明を省略する。
【0107】
第二実施形態において、第1層20は、厚さt
y(2)でありAl
y(2)In
1−y(2)Sbを含む層Y(2)である転位フィルタ層26を有する。また、第1層20は、厚さt
x(3)でありAl
x(3)In
1−x(3)Sbを含む層X(3)であるバッファ層27を有する。第1層20は、バッファ層23および転位フィルタ層24と、バッファ層25および転位フィルタ層26と、をこの順に2層(二組)順次積層された構造を有し、その直上にバッファ層27が積層されてなる構造を含む。また、第二実施形態において、第1層20は、バッファ層27の直上にバリア層22が積層される構造を有する。
【0108】
図4は、本発明に係る赤外線検出素子100の第三実施形態の構成を示す断面図である。第三実施形態において、第1層20は、上記の積層構造の繰り返し回数nを3とした場合の構造を有する。
図4において、第二実施形態の赤外線検出素子100と同じ要素には同じ符号が付されており、説明を省略する
【0109】
第三実施形態において、第1層20は、厚さt
y(3)でありAl
y(3)In
1−y(3)Sbを含む層Y(3)である転位フィルタ層28を有する。また、第1層20は、厚さt
x(4)でありAl
x(4)In
1−x(4)Sbを含む層X(4)であるバッファ層29を有する。第1層20は、バッファ層23および転位フィルタ層24と、バッファ層25および転位フィルタ層26と、バッファ層27および転位フィルタ層28と、をこの順に3層(三組)順次積層された構造を有し、その直上にバッファ層29が積層されてなる構造を含む。また、第三実施形態において、第1層20は、バッファ層29の直上にバリア層22が積層される構造を有する。
【0110】
以上、本発明の第一実施形態、第二実施形態および第三実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。例えば、積層構造の繰り返し回数nは2または3に限定されるものではなく、4〜6の範囲で選択されてもよい。また、上記実施形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0111】
またAlの代わりにGaを用いても、上述の通り、AlSbと近い格子定数を取るGaSbを形成でき、層内に応力を発生することができるため、本発明に係る赤外線検出素子のその他の実施形態として、
半導体基板と、
半導体基板上に形成され、第1導電型を有する第1層と、
第1層上に形成された受光層と、
受光層上に形成され、第2導電型を有する第2層と、を備え、
第1層は、Al
x(1)Ga
p(1)In
1−x(1)−p(1)Sbを含む層と、膜厚がt
y(1)[nm]でありAl
y(1)Ga
q(1)In
1−y(1)−q(1)Sbを含む層と、Al
x(2)Ga
p(2)In
1−x(2)−p(2)Sbを含む層と、をこの順に有し、
t
y(1)、x(1)、x(2)、y(1)p(1)、p(2)、およびq(1)は、
0<t
y(1)≦2360×(y(1)+q(1)−x(1)−p(1))−240 (0.11≦y(1)+q(1)−x(1)−p(1)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1215×(y(1)+q(1)−x(1)−p(1))+427 (0.19<y(1)+q(1)−x(1)−p(1)≦0.33)、
0<t
y(1)≦2360×(y(1)+q(1)−x(2)−p(2))−240 (0.11≦y(1)+q(1)−x(2)−p(2)≦0.19)、
0<t
y(1)≦−1215×(y(1)+q(1)−x(2)−p(2))+427 (0.19<y(1)+q(1)−x(2)−p(2)≦0.33)、
0<x(1)+p(1)<0.18、
0<x(2)+p(2)<0.18、および
0<q(1)/(y(1)+q(1))≦1
を満たす層を含む形態をとることができる。
【0112】
この実施形態に係る赤外線検出素子においても、第1層中で転位すなわち線欠陥が横方向に曲折するために第1層の上に位置する受光層の線欠陥密度が低減する。そして、受光層内における転位を介した欠陥性再結合が抑制されることによりR
aの向上が可能となる。この効果は後述の実施例21及び22で確認することができており、母材及び転位フィルタ層がAlInSbを含む形態と同様のR
aが実現されている。なお、母材及び転位フィルタ層がAlInSbを含む形態に関して上記で説明されている種々の好ましい形態などについては、「Al組成」を「Al組成及びGa組成の和」と読み替えることで、本実施形態の赤外線検出素子にも適用可能である。
【実施例】
【0113】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、その発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変更可能であることは言うまでもない。
【0114】
<実施例1>
例えば
図3に示すように、半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)上に、MBE装置を用いて
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層23)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層24)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層25)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層26)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層27)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(バリア層22)、
ノンドープのAl
0.08In
0.92Sb層(受光層30)を1μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50を形成した。
【0115】
次いで、化合物半導体層50上にレジストパターンを形成し、エッチングを施すことで、メサ構造を作製した。さらに各検出素子が電気的に独立となるように、メサ構造どうしの間に、酸化ケイ素からなる絶縁溝を形成し、メサ構造及び絶縁溝を含む化合物半導体層50全面に、絶縁層として窒化ケイ素を形成した。この絶縁層の一部にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを覆うように、チタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部を形成し、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を得た。同様の手法により、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を、各々の赤外線検出素子の1つ当たりのメサ構造の面積および周囲長が異なるようにして複数独立に作製した。
【0116】
受光層30のうち、第2層40を構成するp層に近い側の0.3μmの中から測定試料を作成し、平面TEMにより線欠陥密度観察を行ったところ、線欠陥密度は1.1×10
8[本/cm
2]であった。後述の比較例と比べて、欠陥密度が低減していることがわかる。
【0117】
<実施例2〜12、18〜20>
表1および表2に従って、転位フィルタ層24(Y(1)層)と転位フィルタ層26(Y(2)層)のAl組成y(i)等を変えた。
【0118】
<実施例13、14>
表2に従って、受光層30のAl組成zとバッファ層23(X(1)層)、25(X(2)層)、27(X(3)層)のAl組成等を変えた。バリア層のAl組成は0.26とした。
【0119】
<実施例15>
表2に従って、受光層30のAl組成zとバッファ層23(X(1)層)、25(X(2)層)、27(X(3)層)のAl組成等を変えた。バリア層のAl組成は0.33とした。
【0120】
<実施例16>
例えば
図2に示すように、半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)上に、MBE装置を用いて
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.75μmと(バッファ層23)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層24)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.75μmと(バッファ層25)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(バリア層22)、
ノンドープのAl
0.08In
0.92Sb層(受光層30)を1μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50を形成した。
【0121】
このとき、Al
x(i)In
1−x(i)Sb(0<x(i)<1)を含む層と、膜厚がt
y(i)[nm]でありAl
y(i)In
1−y(i)Sb(0<y(i)<1)を含む層との積層構造繰り返し数回数nは1に相当する。
【0122】
次いで、化合物半導体層50上にレジストパターンを形成し、エッチングを施すことで、メサ構造を作製した。さらに各検出素子が電気的に独立となるように、メサ構造どうしの間に、酸化ケイ素からなる絶縁溝を形成し、メサ構造及び絶縁溝を含む化合物半導体層50全面に、絶縁層として窒化ケイ素を形成した。この絶縁層の一部にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを覆うように、チタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部を形成し、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を得た。同様の手法により、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を、各々の赤外線検出素子の1つ当たりのメサ構造の面積および周囲長が異なるようにして複数独立に作製した。
【0123】
<実施例17>
例えば
図4示すように、半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)上に、MBE装置を用いて
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層23)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層24)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.333μmと(バッファ層25)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層26)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.333μmと(バッファ層27)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層28)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.333μmと(バッファ層29)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(バリア層22)、
ノンドープのAl
0.08In
0.92Sb層(受光層30)を1μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50を形成した。
【0124】
このとき、Al
x(i)In
1−x(i)Sb(0<x(i)<1)を含む層と、膜厚がt
y(i)[nm]でありAl
y(i)In
1−y(i)Sb(0<y(i)<1)を含む層との積層構造繰り返し数回数nは3に相当する。
【0125】
次いで、化合物半導体層50上にレジストパターンを形成し、エッチングを施すことで、メサ構造を作製した。さらに各検出素子が電気的に独立となるように、メサ構造どうしの間に、酸化ケイ素からなる絶縁溝を形成し、メサ構造及び絶縁溝を含む化合物半導体層50全面に、絶縁層として窒化ケイ素を形成した。この絶縁層の一部にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを覆うように、チタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部を形成し、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を得た。同様の手法により、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を、各々の赤外線検出素子の1つ当たりのメサ構造の面積および周囲長が異なるようにして複数独立に作製した。
【0126】
<実施例21>
例えば
図3に示すように、半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)上に、MBE装置を用いて
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層23)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Ga
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層24)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層25)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Ga
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層26)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層27)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(バリア層22)、
ノンドープのAl
0.08In
0.92Sb層(受光層30)を1μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50を形成した。
【0127】
次いで、化合物半導体層50上にレジストパターンを形成し、エッチングを施すことで、メサ構造を作製した。さらに各検出素子が電気的に独立となるように、メサ構造どうしの間に、酸化ケイ素からなる絶縁溝を形成し、メサ構造及び絶縁溝を含む化合物半導体層50全面に、絶縁層として窒化ケイ素を形成した。この絶縁層の一部にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを覆うように、チタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部を形成し、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を得た。同様の手法により、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を、各々の赤外線検出素子の1つ当たりのメサ構造の面積および周囲長が異なるようにして複数独立に作製した。
【0128】
<実施例22>
例えば
図3に示すように、半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)上に、MBE装置を用いて
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層23)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.13Ga
0.14In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層24)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層25)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.13Ga
0.14In
0.73Sb層を0.02μmと(転位フィルタ層26)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層27)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(バリア層22)、
ノンドープのAl
0.08In
0.92Sb層(受光層30)を1μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50を形成した。
【0129】
次いで、化合物半導体層50上にレジストパターンを形成し、エッチングを施すことで、メサ構造を作製した。さらに各検出素子が電気的に独立となるように、メサ構造どうしの間に、酸化ケイ素からなる絶縁溝を形成し、メサ構造及び絶縁溝を含む化合物半導体層50全面に、絶縁層として窒化ケイ素を形成した。この絶縁層の一部にコンタクトホールを形成し、コンタクトホールを覆うように、チタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部を形成し、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を得た。同様の手法により、同一面積および同一の周囲長のメサ構造を有するダイオードが複数個直列接続された赤外線検出素子を、各々の赤外線検出素子の1つ当たりのメサ構造の面積および周囲長が異なるようにして複数独立に作製した。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
<比較例1>
比較例は、ダブルバリアの構造を有する。比較例1では、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(バッファ層23相当)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(バリア層22相当)、
ノンドープのAl
0.08In
0.92Sb層(受光層30相当)を2μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.27In
0.73Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層相当)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.08In
0.92Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層相当)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50に対応する構造を形成した。
【0133】
<比較例2>
比較例は、ダブルバリアの構造を有する。比較例2では、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.04In
0.96Sb層を0.5μmと(バッファ層23相当)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.26In
0.74Sb層を0.02μmと(バリア層22相当)、
ノンドープのAl
0.04In
0.96Sb層(受光層30相当)を2μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.26In
0.74Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層相当)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.04In
0.96Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層相当)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50に対応する構造を形成した。
【0134】
<比較例3>
比較例は、ダブルバリアの構造を有する。比較例3では、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層21を0.5μmと、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.13In
0.87Sb層を0.5μmと(バッファ層23相当)、
Snを7×10
18[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.33In
0.67Sb層を0.02μmと(バリア層22相当)、
ノンドープのAl
0.13In
0.87Sb層(受光層30相当)を2μmと、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型l
0.33In
0.67Sb層を0.02μmと(第2層40を構成するバリア層相当)、
Znを3×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.13In
0.87Sb層を0.5μmと(第2層40を構成するp層相当)、
を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体層50に対応する構造を形成した。
【0135】
比較例1について、受光層のうち、p層に近い側の0.3μmの中から測定試料を作成し、平面TEMにより線欠陥密度観察を行ったところ、線欠陥密度は3.5×10
8[本/cm
2]であった。
【0136】
<R
aの比較>
上記実施例1〜22及び比較例1〜3により形成した赤外線検出素子について、赤外線検出素子の内部を通る電流に対するメサ形状の単位面積当たり抵抗率R
aを比較した。具体的には構成するメサ構造の面積および周囲長が異なる複数の赤外線検出素子について、順方向に5nVの電圧を印加した際に流れる電流値を測定し、続いて逆方向に5nVの電圧を印加した際に流れる電流値を測定し、両者の電流値の絶対値が互いに10%以上差を含まないことを確認した。これらの電流値を基に、順方向の素子抵抗と逆方向の素子抵抗を求め、これらの平均値をダイオードの段数で割り返すことで、ダイオード1段当たりの素子抵抗R
0を得た。各々のサイズおよび周囲長のダイオードについて得られたR
0を、各々の素子のメサ面積Sと周囲長Lを用いて、1/(R
0・S)をL/Sに対してプロットし、切片からR
aを求めた。ここで、R
aは比較例1により形成した赤外線検出素子のR
aを1としている。
【0137】
転位フィルタ層を含みt
y(i)、y(i)、x(i)、x(i+1)が下記の関係式(A)〜(D)を満たす実施例1〜12および18〜20の構造では、比較例1の構造と比べて3.0倍以上の大きいR
aを得ることができることが確認された。
0<t
y(1)≦2360×(y(i)−x(i))−240 (0.11≦y(i)−x(i)≦0.19) … 式(A)
0<t
y(1)≦−1215×(y(i)−x(i))+427 (0.19<y(i)−x(i)≦0.33) … 式(B)
0<t
y(1)≦2360×(y(i)−x(i+1))−240 (0.11≦y(i)−x(i+1)≦0.19) … 式(C)
0<t
y(1)≦−1215×(y(i)−x(i+1))+427 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.33) … 式(D)
【0138】
ここで、
図1は実施例1〜9および18〜20の組成および膜厚と線欠陥密度との関係を示す。
図1の横軸はy(i)とx(i)との差分を示す。ここで、実施例1〜9および18〜20のx(i)とx(i+1)とは同じ組成である。そのため、
図1の横軸はy(i)とx(i+1)との差分でもある。また、
図1の縦軸は転位フィルタ層Y(i)の膜厚を示す。実施例1〜9および18〜20のいくつかは、黒い四角形で
図1にプロットされている。上記の式(A)〜式(D)は
図1に示される関係から算出されたものである。上記の式(A)および式(C)は、
図1の直線1001に対応する。また、上記の式(B)および式(D)は、
図1の直線1002に対応する。
【0139】
なお、前述のように、積層する化合物半導体材料の厚さを厚くすればするほど、転位密度が小さくなることが知られている。したがって積層した化合物半導体層の厚さの異なる実施例10、11、12については他の実施例1〜9、18〜20とは単純にR
aの比較ができない。
【0140】
ここで、実施例1、3、4、5、7、8、9、18、19、20においては、比較例1と比べて4.0倍以上の大きいRaを得ることができる。このとき、下記の関係式(I)〜(L)が満たされる。
0<t
y(1)≦6901×(y(i)−x(i))−1087 (0.16≦y(i)−x(i)≦0.19) … 式(I)
0<t
y(1)≦−2673×(y(i)−x(i))+699 (0.19<y(i)−x(i)≦0.25) … 式(J)
0<t
y(1)≦6901×(y(i)−x(i+1))−1087 (0.16≦y(i)−x(i+1)≦0.19) … 式(K)
0<t
y(1)≦−2673×(y(i)−x(i+1))+699 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.25) … 式(L)
【0141】
上記の式(I)〜式(L)は
図1に示される関係から算出されたものである。上記の式(I)および式(K)は、
図1の直線1021に対応する。また、上記の式(J)および式(L)は、
図1の直線1022に対応する。
【0142】
下記の関係式(M)〜(P)を満たす実施例1、3、4、5、7、8、18、19、20については、比較例1と比べて5.0倍以上の大きいR
aを得ることができることが確認された。
0<t
y(1)≦1993×(y(i)−x(i))−242 (0.13≦y(i)−x(i)≦0.19) … 式(M)
0<t
y(1)≦−1040×(y(i)−x(i))+324 (0.19<y(i)−x(i)≦0.29) … 式(N)
0<t
y(1)≦1993×(y(i)−x(i+1))−242 (0.13≦y(i)−x(i+1)≦0.19) … 式(O)
0<t
y(1)≦−1040×(y(i)−x(i+1))+324 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.29) … 式(P)
【0143】
上記の式(M)〜式(P)は
図1に示される関係から算出されたものである。上記の式(M)および式(O)は、
図1の直線1031に対応する。また、上記の式(N)および式(P)は、
図1の直線1032に対応する。
【0144】
下記の関係式(E)〜(H)を満たす実施例1、3、4、5、7、8については、比較例1と比べて5.2倍以上の大きいR
aを得ることができることが確認された。
0<t
y(1)≦3067×(y(i)−x(i))−472 (0.16≦y(i)−x(i)≦0.19) … 式(E)
0<t
y(1)≦−1188×(y(i)−x(i))+322 (0.19<y(i)−x(i)≦0.25) … 式(F)
0<t
y(1)≦3067×(y(i)−x(i+1))−472 (0.16≦y(i)−x(i+1)≦0.19) … 式(G)
0<t
y(1)≦−1188×(y(i)−x(i+1))+322 (0.19<y(i)−x(i+1)≦0.25) … 式(H)
【0145】
上記の式(E)〜式(H)は
図1に示される関係から算出されたものである。上記の式(E)および式(G)は、
図1の直線1011に対応する。また、上記の式(F)および式(H)は、
図1の直線1012に対応する。
【0146】
実施例1、16、17は、第1層の厚さが同じであり、転位フィルタ構造の繰り返し数のみが異なるものである。このとき、繰り返し数が増加するにつれて、R
aが大きくなることがわかる。
【0147】
実施例21、22は転位フィルタ層にGaを含む例であり、これらにおいても比較例1に対してそれぞれ6.3倍、6.4倍と大きいR
aが得られていることがわかる。
【0148】
<R
aの比較>
上記実施例13、14及び比較例2により形成した赤外線検出素子について、上記実施例1〜12及び比較例1と同様にしてR
aを求めた。ここで、R
aは比較例2により形成した赤外線検出素子のR
aを1としている。ここで、実施例1〜12、18〜20及び比較例1と、実施例13、14及び比較例2とでは、受光層のAl組成、すなわち受光層のバンドギャップが異なり、受光層のキャリア濃度が異なるため、単純に比較することができない。したがって、実施例13、14については、比較例2をR
aの比較対象としている。
【0149】
同様に、上記実施例15及び比較例3により形成した赤外線検出素子について、上記実施例1〜12及び比較例1と同様にしてR
aを求めた。
【0150】
実施例13、14においては、比較例2と比べてそれぞれ3.6倍、2.6倍と大きいR
aが得られている。同様に、実施例15においては、比較例3と比べて5.0倍と大きいRaが得られている。実施例13は転位フィルタ層を含みt
y(i)、y(i)、x(i)、x(i+1)が上記の関係式(A)〜(P)を満たすものであり、このとき受光層のAl組成zが変わってもR
aが増加することが示された。