(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
半導体素子と、電極パターンが設けられ、前記半導体素子を搭載した積層基板と、前記半導体素子と前記電極パターンとを電気的に接続する配線と、前記積層基板を搭載した金属基板と、を有する半導体装置において、
前記電極パターンは、第1金属部および第2金属部を接合させた金属接合体であり、上面視で、前記第1金属部と前記第2金属部との界面の縦方向、横方向の両方向に、規則的な隙間が並んでおり、前記界面での前記隙間の割合は、50%以下であることを特徴とする半導体装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、研磨などで平滑化処理を行った絶縁基板上の薄い銅板と厚い銅板のいずれも表面が平坦でなく、緩く曲がりくねったうねりがある。
図15は、従来例にかかる金属接合体の接合前の状態を示す断面図である。
図15において、第1金属部31が厚い銅板であり、第2金属部32が薄い銅板であり、第1金属部31、第2金属部32の表面にうねり33が存在している。うねり33の高低差h3は、数μm程度、例えば、0.5μm〜10μmの範囲内である。
【0008】
ここで、
図16は、表面粗さと破断応力との関係を示すグラフである。
図16において、横軸は、表面粗さRaを示し、単位はnmである。また、縦軸は、破断応力を示し、単位はMPaである。ここで、表面粗さRaとは、表面の算術平均粗さ(Ra)のことである。また、破断応力とは、材料にせん断応力を与えていき、材料が破断する際の圧力である。
図16は銅板と銅板とを直接接合して、破断応力を測定した結果である。
【0009】
図16に示すように、銅板の表面粗さRaが12nmから300nmへと増加すると破断応力は67MPaから20MPaへと低下する。高低差h3が数μm程度は、表面粗さRaが200nm〜2000nm程度になり、破断応力は20MPa以下となる。実用的な接合強度を得るためには、20MPaより大きな破断応力は必要であり、絶縁基板上の薄い銅板と厚い銅板とを接合させても、十分な接合強度が得られないと推測される。
【0010】
図17は、従来例にかかる金属接合体の構成を示す断面図である。
図17は、
図15の第1金属部31と第2金属部32とに、矢印A(
図15参照)の方向に圧力を加えて、接合した結果である。
図17に示すように、第1金属部31の表面のうねりと第2金属部32の表面のうねりの影響で第1金属部31と第2金属部32とが局部的にしか接合されず、第1金属部31と第2金属部32との界面に隙間が多く存在し、第1金属部31と第2金属部32とが接触する面積が狭くなっている。
【0011】
このように、従来例では、例えば、第1金属部31と第2金属部32との界面において、隙間の割合(以下、隙間率)が50%より大きい。なお、隙間率は、第1金属部31と第2金属部32との界面における単位面積あたりの隙間の割合を百分率で表したものである。また、隙間率は、第1金属部31と第2金属部32とが接触する面積/(第1金属部31と第2金属部32とが接触する面積+第1金属部31と第2金属部32とが接触しない面積)と表現することもできる。このため、第1金属部31と第2金属部32との接合で、十分な接合強度が得られず、さらに、第2金属部32から第1金属部31への放熱特性も悪くなる。
【0012】
なお、第1金属部31および第2金属部32の表面にめっき、スパッタリング、蒸着等で平坦化材を積層する表面処理やCMP(化学機械研磨:Chemical Mechanical Polishing)仕上げにより、表面を平坦化することが可能である。この場合、第1金属部31と第2金属部32との接合で、十分な接合強度を得ることができる場合もあるが、製造プロセスが複雑になりコストがかかるという問題がある。
【0013】
例えば、半導体装置の絶縁基板上の薄い銅板に厚い銅板を接合させた場合、薄い銅板の表面と厚い銅板の表面にうねりがあるため、薄い銅板と厚い銅板との間に隙間が多く存在する。このため、銅板同士の十分な接合強度が得られず、さらに、銅板の放熱特性も悪くなる。
【0014】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、表面にうねりのある金属板を十分な接合強度で接合させ、放熱特性を向上できる金属接合体および金属接合体の製造方法を提供することを目的とする。さらに、この発明は、絶縁基板上に上記金属接合体を用いて放熱特性を向上した半導体装置および半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる金属接合体は、次の特徴を有する。第1金属部および第2金属部を接合させた金属接合体であって、
上面視で、前記第1金属部と前記第2金属部との界面
の縦方向、横方向の両方向に、規則的な隙間が並んでおり、前記界面での前記隙間の割合は、50%以下である。
【0016】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる金属接合体は、次の特徴を有する。第1金属部および第2金属部を接合させた金属接合体であって、前記第1金属部と前記第2金属部との間に挟まれる
、両側に凹凸を有する中間金属部を備える。前記第1金属部と前記中間金属部との界面および前記第2金属部と前記中間金属部との界面に隙間が並んでおり、前記界面での前記隙間の割合は、50%以下である。
【0017】
また、この発明にかかる金属接合体は、上述した発明において、前記隙間は前記界面において、規則的に並んでいることを特徴とする。
【0018】
また、この発明にかかる金属接合体は、上述した発明において、前記第1金属部および前記第2金属部は、銅、銀、金または白金を含む金属からなることを特徴とする。
【0019】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる金属接合体は、次の特徴を有する。半導体装置は、半導体素子と、電極パターンが設けられ、前記半導体素子を搭載した積層基板と、前記半導体素子と前記電極パターンとを電気的に接続する配線と、前記積層基板を搭載した金属基板と、を有する。前記電極パターンは、第1金属部および第2金属部を接合させた金属接合体であり、前記第1金属部と前記第2金属部との界面
の縦方向、横方向の両方向に、規則的な隙間が並んでおり、前記界面での前記隙間の割合は、50%以下である。
【0020】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第2金属部の一方の面に凹凸形状を形成する第1工程を行う。次に、前記第2金属部の前記凹凸形状が形成された面と、第1金属部の
、うねりが存在する一つの面とを対向させ、加熱、加圧により前記凹凸形状の凸部を
塑性変形させることで、前記第1金属部と前記第2金属部とを接合させる第2工程を行う。
【0021】
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記第1工程より後、前記第2工程より前に、還元ガスを用いて前記第1金属部および前記第2金属部の酸化膜を除去する工程を、含むことを特徴とする。
【0022】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、次の特徴を有する。まず、中間金属部の両面に凹凸形状を形成する第1工程を行う。次に、第1金属部の一方の面と前記中間金属部の一方の面とを対向させ、第2金属部の一方の面と前記中間金属部の他方の面とを対向させ、加熱、加圧により前記凹凸形状の凸部を
塑性変形させることで、前記第1金属部と前記中間金属部、および前記第2金属部と前記中間金属部とを接合させる第2工程を行う。
【0023】
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記第1工程より後、前記第2工程より前に、還元ガスを用いて前記第1金属部、前記第2金属部および前記中間金属部の酸化膜を除去する工程を、含むことを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記還元ガスは、ギ酸または水素を含むことを特徴とする。
【0025】
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記凹凸形状の凸部の高さが、0.1〜20μmの範囲内にあることを特徴とする。
【0026】
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記凹凸形状の凸部の幅が、1〜200μmの範囲内にあることを特徴とする。
【0027】
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記凹凸形状の凸部の間隔が、1〜200μmの範囲内にあることを特徴とする。
また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記凹凸形状の凸部の間隔に対する前記凹凸形状の凸部の幅の比率は、0.5〜4の範囲内にあることを特徴とする。また、この発明にかかる金属接合体の製造方法は、上述した発明において、前記うねりの高低差は、0.5μm〜10μmの範囲内であることを特徴とする。
【0028】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、第2金属部の一方の面に凹凸形状を形成する第1工程を行う。次に、前記第2金属部の前記凹凸形状が形成された面と、積層基板上に設けられた第1金属部の
、うねりが存在する一つの面とを対向させ、加熱、加圧により前記凹凸形状の凸部を
塑性変形させることで、前記第1金属部と前記第2金属部とを接合させ、電極パターンを形成する第2工程を行う。次に、前記積層基板に半導体素子を搭載する第3工程を行う。次に、前記積層基板を積層組立体に組み立てる第4工程を行う。次に、前記半導体素子と前記積層基板上の電極パターンとを電気的に接続する第5工程を行う。次に、前記積層組立体に樹脂ケースを組み合わせる第6工程を行う。
【0029】
上述した発明によれば、第1金属部または第2金属部に凹凸形状が設けられる。この凹凸形状が加圧、加熱により塑性変形することで、第1金属部と第2金属部との接触面積を増加させることができ、接合強度を向上できる。また、凹凸形状の凸部が塑性変形して表面のうねりの凹部に入り込み、凸部が隙間を埋めている。これにより、隙間の割合が従来よりも少なくなり、放熱特性が向上し、高耐熱性を有する。
【0030】
さらに、第1金属部と第2金属部とはギ酸環境下で加熱、加圧されている。このため、接触部は、酸化膜のない金属原子が露出しており、金属原子が直接結合しているため、接合強度が高く放熱特性も向上する。また、接触部に、はんだ等の低融点材料を用いていないことから、金属接合体は、再融解することがないため、高耐熱性の金属接合体を実現できる。
【0031】
上述した発明の半導体装置によれば、凹凸形状を形成した厚い銅板を、絶縁基板上の薄い銅板に接合することで、厚い銅板を形成することができる。これにより、絶縁基板上の薄い銅板と厚い銅板のめっき、スパッタ、蒸着等の表面処理や、はんだや銀焼結材等の中間金属層を必要としない安価な製造プロセスでパワー半導体モジュールの放熱特性を向上できる。
【発明の効果】
【0032】
本発明にかかる金属接合体および金属接合体の製造方法によれば、表面にうねりのある金属板を十分な接合強度で接合させ、放熱特性を向上できるという効果を奏する。また、本発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法によれば、絶縁基板上に上記金属接合体を用いることで放熱特性を向上できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる金属接合体、金属接合体の製造方法、半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0035】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる金属接合体の構成を示す断面図である。
図1に示すように、金属接合体は、直接接合された第1金属部1および第2金属部2から構成される。第1金属部1は、例えば、絶縁基板上の薄い銅板であり、第2金属部2は、薄い銅板と直接接合された厚い銅板である。金属接合体は、表面にうねり33が存在する第1金属部1と第2金属部2とを接合させているため、第1金属部1と第2金属部2との接触面において、隙間11が存在する。
【0036】
しかしながら、実施の形態1では、隙間11は規則的に設けられている。実施の形態1では、詳細は後述するように、第2金属部2の表面に凹凸形状が設けられている。なお、第1金属部1の表面に凹凸形状が設けられる形態であってもよい。この凹凸形状により、隙間11が形成される。
【0037】
ここで、
図2は、実施の形態1にかかる金属接合体の
図1の接合部Aの拡大図である。
図2に示すように、凹凸形状は、うねり33より凹凸のピッチ(凸部と凸部との間の間隔w1)が狭く形成されているため、表面のうねり33の凹部に入り込み、凸部がうねり33による隙間を埋めている。これにより、未結合部やボイドの少ない金属接合体となり、第1金属部1と第2金属部2との接触面において隙間率(隙間の割合)は従来例の場合よりも少なくなっている。具体的には、実施の形態1では、隙間率が50%以下となっている。このため、放熱特性が向上し、高耐熱性を有する。なお、隙間率については後述する。
【0038】
また、凹凸形状の凸部が接合時に加えられる圧力により凹凸形状の凸部が塑性変形して、第1金属部1と第2金属部2と接触部12が形成される。
図2に示すように凸部の先端がつぶれて、凸部の先端がうねり33と接するようになる。この接触部12により、第1金属部1と第2金属部2が接触する面積(以下、接触面積)を増加させることができる。このため、実施の形態1では、従来例のようにうねりがある表面同士を直接接合した場合より、接触部12の接触面積を増加させることができ、接合強度が向上する。従って、隙間率は50%以下がより好ましい。これ以下になると接合強度は20MPa以上となるためである。また、例えば、第2金属部2の表面に設けられた規則的な凹凸のピッチを有する凹凸形状に対応して、接合部において規則的な隙間11が形成される。つまり、隙間11は、第2金属部2等の表面に設けられた所定の凹凸形状のピッチに対応したピッチで規則的に形成される。しかし、一部の凸部は変形して隙間11が狭くなったり、無くなったりする場合もある。実際に、十分な接合強度が得られた接合部においては、60%以上の規則的な隙間を有している。
【0039】
さらに、後述するように、第1金属部1と第2金属部2との接触面は、還元ガス、例えばギ酸(CH
2O
2)環境下で加熱、加圧されている。このため、接触部12は、酸化膜のない金属原子が露出しており、金属原子が直接結合しているため、接合強度が高く放熱特性も向上している。従って、還元ガスが接合界面の細部まで行きわたるように、最終的な隙間率は、5%以上がより好ましい。
【0040】
また、凹凸形状の凹部による隙間11は、外部と通じる空乏となり、還元ガスが第1金属部1と第2金属部2との界面全面に到達して、還元ガスによる還元性が向上し、酸化膜が減少するため、接合強度が向上する。
【0041】
また、第1金属部1と第2金属部2の金属は、加熱、加圧で塑性変形させるため、あまり硬くない金属であることが好ましい。また、酸化膜が作られると、金属原子が直接結合できず、接合強度、放熱特性が劣化するため、酸化膜が作成されにくい金属であることが好ましい。また、直接結合した際に、互いの原子が相互に入ると、接合強度、放熱特性が向上するため、互いの原子が相互に拡散しやすい金属であることが好ましい。このため、第1金属部1と第2金属部2の金属は、同じ金属であることが好ましい。具体的には、第1金属部1と第2金属部2は、銅、銀(Ag)、金(Au)または白金(Pt)を含む金属であることが好ましい。また、第1金属部1と第2金属部2は、銅であることがより好ましい。なお、銅の場合、銅を主成分とし、80wt%以上が好ましい。この範囲であれば、純銅の場合と同様の効果を有する。また、銀、金、白金も銅と同様である。以降では銅板について記すがこれに限定されるものではない。
【0042】
また、実施の形態1では、第1金属部1と第2金属部2とを接合する形態を示したが、2つより多くの金属部を接合してもよい。金属部を積層する層を増やすことで、金属部の厚さを厚くすることができる。
【0043】
(実施の形態1にかかる金属接合体の製造方法)
次に、実施の形態1にかかる金属接合体の製造方法について説明する。
図3〜
図6は、実施の形態1にかかる金属接合体の製造途中の状態を示す断面図である。まず、直径w11の孔13が規則的に並んでいる膜厚h1のSUS(Stainless Used Steel)製の多孔板4と、第2金属部2とを用意する。
図8は、
図3における多孔板の詳細を示す上面図である。多孔板4では、例えば、開口率が50%程度になるように孔13が設けられる。ここまでの状態が
図3に記載される。
【0044】
次に、第2金属部2に多孔板4をプレスすることで、第2金属部2の表面に凹凸形状を形成する。凹凸形状の凸部14は、直径w11の円状の孔13より形成されるため、円柱状の凸部14の直径w21は孔13の直径w11と同程度になり、凸部14の高さh2は多孔板4の膜厚h1と同程度になる。また、プレスによって形成された凸部14は角が取れているため、中央部が先に第1金属部1と接触して、塑性変形しやすくなり接触面積が増える。なお、凸部は柱体であればよく、四角柱などの角柱状でもよく、底面の形状は、四角などの多角形でも楕円でもよい。また、凸部は板状の金属部平面に垂直に形成されることが好ましいが、斜角柱のように傾いていてもよい。
【0045】
ここで、凹凸形状の凸部14の高さh2は、表面のうねり33の凹部(
図1参照)に入り込むだけの高さであることが好ましい。高さh2が大きすぎると隙間11の割合が増えるため、熱伝導率が低下し、接合強度が悪化する。このため、例えば、凹凸形状の凸部14の高さh2は、0.1〜20μmの範囲内にあることが好ましい。
【0046】
また、凹凸形状の凸部14の幅w21は、小さい方が塑性変形しやすく、凹凸形状の凸部14の間隔w22は、小さい方が凸部14の数が増え、接触面積が増えるため好ましい。このため、例えば、凹凸形状の凸部14の幅w21、凹凸形状の凸部の間隔w22は、どちらも1〜200μmの範囲内にあることが好ましい。また、プレスではなく、エッチングにより第2金属部2に凸部14と凹部15とを形成してもよい。ここまでの状態が
図4に記載される。なお、第2金属部2の表面にもうねりは残存していてもよい。
【0047】
次に、第1金属部1と接合する第2金属部2を用意し、圧力を加えることができる治具に、第1金属部1と第2金属部2との間にギャップを開けた状態で配置する。ここまでの状態が
図5に記載される。
図5は、半導体装置の積層基板に関するものであるが、第1金属部と第2金属部との接合においても同様である。なお、半導体装置の積層基板においては、絶縁基板5の両面に第1金属部1が設けられているが、片面だけの場合であってもよい。ここで、
図7は、実施の形態1にかかる金属接合体の製造途中の状態の
図5の部分Bの拡大図である。
図7に示すように、第1金属部1の表面にはうねり33が存在し、矢印Aの方向に圧力が加えられる。
【0048】
次に、ギャップにギ酸、水素(H
2)等の還元ガス(気体)を導入し、第1金属部1と第2金属部2の表面の酸化膜を除去して、新生面を出す。なお、この際の雰囲気の圧力(ガス圧)は、大気圧あるいは減圧環境下でもよい。次に、第1金属部1と第2金属部2に加圧、加熱を行うことにより、第1金属部1と第2金属部2とを接合する。加熱は、例えば、ヒータにより第1金属部1と第2金属部2とを150℃〜300℃程度の温度にする。圧力として、局所的に銅の塑性変形圧力を超えるように例えば10MPa〜50MPaの圧力をかける。ここまでの状態が
図6に記載される。以上のようにして、
図1に示す金属接合体が製造される。なお、第1金属部1の厚さは、第2金属部2の厚さより厚くても、同等でもかまわない。導電性板同士を接合し、電極パターンとして厚い導電性板が形成される。また、第2金属部2の代わりに第1金属部1に凹凸形状が形成されていても、両方に凹凸形状が形成されていてもかまわない。
【0049】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、第1金属部または第2金属部に凹凸形状が設けられる。この凹凸形状が加圧、加熱により塑性変形することで、第1金属部と第2金属部との接触面積を増加させることができ、接合強度を向上できる。また、凹凸形状の凸部が塑性変形して表面のうねりの凹部に入り込み、凸部が隙間を埋めている。これにより、隙間の割合が従来よりも少なくなり、放熱特性が向上し、高耐熱性を有する。
【0050】
さらに、第1金属部と第2金属部とはギ酸等の還元ガス雰囲気環境下で加熱し、加熱しながら加圧されている。なお、加圧する際には、還元ガス雰囲気でなくともよい。このため、接触部は、酸化膜のない金属原子が露出しており、金属原子が直接結合しているため、接合強度が高く放熱特性も向上する。また、接触部に、はんだ等の低融点材料を用いていないことから、金属接合体は、再融解することがないため、高耐熱性の金属接合体を実現できる。
【0051】
(実施の形態1の半導体装置)
図9は、実施の形態1にかかる金属接合体を用いたパワー半導体モジュールの構成を示す断面図である。
図9に示すように、パワー半導体モジュールは、パワー半導体チップ21と、絶縁基板22と、電極パターン23と、金属基板24と、端子ケース25と、金属端子26と、金属ワイヤ27と、蓋28と、封止材29と、を備える。
【0052】
パワー半導体チップ21は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)またはダイオード等のパワー半導体チップであり、絶縁基板22上に搭載される。なお、セラミック基板等の絶縁基板22のおもて面および裏面に銅などの電極パターン23が備えられた基板を積層基板と称する。積層基板は、金属基板24にはんだ接合されている。金属基板24には、端子ケース25が接着剤で接着されている。端子ケース25は、ポリフェニレンサルファイド(PPS:Poly Phenylene Sulfide)等の熱可塑性樹脂で、外部に信号を取り出す金属端子26を固定するためインサート成形されている。金属端子26は、積層基板上にはんだ付けで固定され、蓋28を貫通して外部に突き出ている。金属ワイヤ27は、パワー半導体チップ21と金属端子26とを電気的に接続している。蓋28は、端子ケース25と同一の熱可塑性樹脂で構成されている。封止材29は、積層基板の沿面およびパワーチップを搭載した基板上のパワー半導体チップ21を絶縁保護する封止樹脂として、端子ケース25内に充填されている。
【0053】
実施の形態1の半導体装置では、絶縁基板22のおもて面の電極パターン23が実施の形態1の金属接合体により構成されていることが好ましい。おもて面の電極パターン23を厚くすることでパワー半導体チップ21の熱を拡散することができる。このように、おもて面の電極パターン23は、薄い金属板と厚い金属板とを直接接合したものであり、実施の形態1の金属接合体と同様の効果を有している。例えば、実施の形態1の半導体装置では、おもて面の電極パターン23の薄い金属板と厚い金属板との界面の隙間率が50%以下となっている。これにより、実施の形態1の半導体装置の放熱特性が向上し、高耐熱性を有する。
【0054】
また、実施の形態1の半導体装置では、絶縁基板22の裏面の電極パターン23が実施の形態1の金属接合体により構成されていることが好ましい。また、おもて面および裏面の電極パターン23の厚さを同じにすることで、絶縁基板22のそりを無くすことができる。また、実施の形態1の半導体装置では、電極パターン23と金属基板24の接合体も実施の形態1の金属接合体により構成することもできる。なお、上述したように、電極パターン23は第1金属部1と第2金属部2を直接接合して形成されるが、第1金属部1の厚さは、第2金属部2の厚さより厚くても、同等でもかまわない。
【0055】
(実施の形態1の半導体装置の製造方法)
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法について説明する。まず、絶縁基板22に薄い銅板(第1金属部)を高温で接合する。次に、例えば、実施の形態1にかかる金属接合体の製造方法と同様の方法で、厚い銅板(第2金属部)の一方の表面に凹凸形状を形成する。次に、凹凸形状が形成された厚い銅板の表面と薄い銅板の表面を対向させ、圧力を加えることができる治具に、薄い銅板と厚い銅板との間にギャップを開けた状態で配置する。なお、上述の凹凸を形成された銅板は、絶縁基板上の銅板より薄くても同等でも構わない。直接接合の作用は同じである。
【0056】
次に、ギャップにギ酸、水素等の還元ガスを導入し、薄い銅板と厚い銅板との表面の酸化膜を除去して、新生面を出す。次に、加圧、加熱を行うことにより、薄い銅板と厚い銅板とを接合する。この接合により、絶縁基板22上に電極パターン23が形成される。
【0057】
次に、はんだ等の接合材を用いて、パワー半導体チップ21を絶縁基板22上の電極パターン23に接合することで、絶縁基板22にパワー半導体チップ21を実装する。次に、パワー半導体チップ21と、絶縁基板22上の電極パターン23とを、金属ワイヤ27で電気的に接続する。次に、金属ワイヤ27が接続された電極パターン23に金属端子26を取り付ける。次に、はんだ等の接合材を用いて、これらを金属基板24に接合して、パワー半導体チップ21、絶縁基板22および金属基板24からなる積層組立体を組み立てる。また、金属ワイヤ27の代わりに、金属端子を接合してもよい。
【0058】
次に、この積層組立体に端子ケース25を接着する。次に、端子ケース25内にエポキシ樹脂などの硬質樹脂等の封止材29を充填する。この後、所定の条件で熱処理を行って硬化させる。次に、封止材29が外に漏れないようにするため、蓋28を取り付ける。以上のようにして、本発明の実施の形態1にかかるパワー半導体モジュールを製造することができる。
【0059】
以上、説明したように、実施の形態1の半導体装置によれば、凹凸形状を形成した厚い銅板を、絶縁基板上の薄い銅板に接合することで、厚い銅板を形成することができる。これにより、絶縁基板上の薄い銅板と厚い銅板のめっき、スパッタ、蒸着等の表面処理や、はんだや銀焼結材等の中間金属層を必要としない安価な製造プロセスでパワー半導体モジュールの放熱特性を向上できる。
【0060】
(実施の形態2)
図10は、実施の形態2にかかる金属接合体の構成を示す断面図である。
図10に示すように、金属接合体は、直接接合された第1金属部1、中間金属層3および第2金属部2から構成される。第1金属部1は、例えば、絶縁基板上の薄い銅板であり、第2金属部2は、厚い銅板である。中間金属層3は薄い銅板である。金属接合体は、表面にうねり33が存在する第1金属部1と中間金属層3、および中間金属層3と表面にうねり33が存在する第2金属部2とを接合させているため、第1金属部1と中間金属層3、および中間金属層3と第2金属部2との接触面において、隙間11が存在する。
【0061】
しかしながら、実施の形態2では、実施の形態1と同様に隙間11は規則的に設けられている。中間金属層3の両方の表面に凹凸形状が設けられている。この凹凸形状により、隙間11が形成される。
【0062】
実施の形態2の凹凸形状は、実施の形態1と同様の形状にすることで、第1金属部1と中間金属層3と接触面、および中間金属層3と第2金属部2との接触面において隙間11の割合を従来例の場合よりも少なくすることができる。具体的には、実施の形態1と同様に、隙間率が50%以下となっている。このため、放熱特性が向上し、高耐熱性を有する。なお、第1金属部1の厚さは、第2金属部2の厚さより厚くても、同等でもかまわない。
【0063】
また、凹凸形状が接合時に加えられる圧力により変形して、第1金属部1と中間金属層3との接触部12、中間金属層3と第2金属部2との接触部12が形成される。この接触部12により、実施の形態1と同様に、第1金属部1と中間金属層3とが接触する面積、中間金属層3と第2金属部2とが接触する面積(以下、接触面積)を増加させることができ、接合強度が向上する。
【0064】
また、実施の形態2でも実施の形態1と同様に、第1金属部1と中間金属層3との接触面、および中間金属層3と第2金属部2との接触面は、ギ酸環境下で加熱、加圧されており、実施の形態1と同様に、接合強度が高く放熱特性も向上している。
【0065】
また、中間金属層3の凹凸形状の隙間11の高さ、隙間の幅、隙間の間隔は、実施の形態1と同様の大きさであり、第1金属部1、第2金属部2および中間金属層3は、実施の形態1と同様の金属である。前記中間金属層3の板厚は、0.1mmから2mmが好ましい。この範囲において、中間金属層3自体が変形し、第1金属部1および第2金属部2の接合面の形状(うねりやそりなど)に追従し易いからである。
【0066】
第1金属部1と第2金属部2および中間金属層3は、実施の形態1の材料と同様の金属を用いることができる。具体的には、銅、銀、金または白金を含む金属であることが好ましい。そして、第1金属部1と第2金属部2および中間金属層3の金属は、同じ金属であることが好ましい。また、第1金属部1と第2金属部2およびは、銅であることがより好ましい。
【0067】
また、実施の形態2では、第1金属部1と第2金属部2との間に中間金属層3を接合する形態を示したが、2つより多くの金属部を接合してもよい。この場合、すべての金属部の間に、中間金属層3を設けなくてもよい。例えば、3つの金属部を接合する場合、金属部−金属部−中間金属層−金属部であってもよい。
【0068】
(実施の形態2にかかる金属接合体の製造方法)
次に、実施の形態2にかかる金属接合体の製造方法について説明する。
図11は、実施の形態2にかかる金属接合体の製造途中の状態を示す断面図である。まず、実施の形態1と同様の多孔板4と、中間金属層3とを用意する。
【0069】
次に、中間金属層3に多孔板4をプレスすることで、中間金属層3の表面に凸部14と凹部15とを形成する。この際、中間金属層3の両面に凸部14と凹部15とを形成するが、同時に形成してもよく、別々に形成してもよい。凸部14の形状は実施の形態1と同様でよい。なお、中間金属層3の片側の面の凸部14の少なくとも一部は、他方の面の凸部14と対向するように設けられることが好ましい。凸部14が互い違いに形成されると、圧力が均一に伝わりづらいためである。
【0070】
次に、第1金属部1と第2金属部2を用意し、圧力を加えることができる治具に、第1金属部1と中間金属層3との間、および中間金属層3と第2金属部2との間にギャップを開けた状態で配置する。この状態が
図11に記載される。
【0071】
次に、ギャップにギ酸、水素等の還元ガスを導入し、第1金属部1、第2金属部2および中間金属層3の表面の酸化膜を除去して、新生面を出す。次に、加圧、加熱を行うことにより、第1金属部1、第2金属部2および中間金属層3を接合する。ここで、加圧、加熱の条件は実施の形態1と同様でよい。以上のようにして、
図10に示す金属接合体が製造される。
【0072】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、中間金属層に凹凸形状が設けられる。この凹凸形状が加圧、加熱により塑性変形することで、接触部の接触面積を増加させることができ、接合強度を向上できる。また、凹凸形状の凸部が塑性変形して表面のうねりの凹部に入り込み、凸部が隙間を埋めている。これにより、隙間の割合が従来よりも少なくなり、放熱特性が向上し、高耐熱性を有する。また、実施の形態2では、中間金属層が第1金属部、第2金属部のそりに追従できるため、そりが大きい場合に特に効果的である。
【0073】
さらに、第1金属部、第2金属部および中間金属層はギ酸環境下で加熱、加圧されている。このため、接触部は、酸化膜のない金属原子が露出しており、金属原子が直接結合しているため、接合強度が高く放熱特性も向上する。
【0074】
実施の形態2の半導体装置は、電極パターン23が実施の形態2にかかる金属接合体であることを除いて、他の構成要素は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。また、実施の形態2の半導体装置の製造方法も、電極パターン23の製造方法が、実施の形態2にかかる金属接合体の製造方法であることを除いて、他の製造工程は実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0075】
(実施例)
以下、実施例について説明する。実施例において、直径100μmの孔13が開口率50%で並んでいる、膜厚100μmのSUS製の多孔板4と、膜厚1mmの第2金属部2とを用意した。第2金属部2に多孔板4をプレスすることで、第2金属部2の表面に高さ15μmの凸部14と凹部15とを形成した。
【0076】
この後、実施例ではギ酸を導入して、280℃の温度で30分間処理することで、表面酸化膜を除去した。この後、280℃の温度で、15kNの圧力を加えることにより、第1金属部1と第2金属部2とを接合した。ここで、
図12は、実施例にかかる金属接合体の接合部の観察結果を模式的に示す上面図である。
図13は、従来例にかかる金属接合体の接合部の観察結果を模式的に示す上面図である。
【0077】
図12は、第1金属部1と第2金属部2との接合部をSAT(Scanning Acoustic Tomograph:超音波探傷装置)で0.5μm以上の隙間を観察した像である。また、
図13は、比較のため、従来例の第1金属部31と第2金属部32との接合部をSATで観察した像である。
図12、
図13において、黒い部分が第1金属部と第2金属部が接触している部分であり、白い部分が接触していない部分である。
図12の実施例の場合、黒い点の凸部だけでなくその周りも接触して、接触していない白い部分が少なくなっている。これに対して、
図13の従来例の場合、接触していない白い部分の面積が大きく、さらに
図13では、面積の広い白い部分16が2つ存在している。このため、実施例では、第1金属部31と第2金属部32とが良好に接合し、接合強度が高く、放熱特性も良好である。これに対して、従来例では、第1金属部31と第2金属部32とが十分に接合していなく、接合強度が低く、放熱特性も悪いことがわかる。なお、隙間率(隙間の割合)は、接合部における接触していない部分(0.5μm以上の隙間)の面積の割合であり、上記SATで観察した像から求める。なお、SATの像は接合面を上部より観察したものである。また、1mm四方を10箇所観察した平均を隙間率とした。
【0078】
図14は、実施例にかかる金属接合体の接合部の円柱状の凸部の幅(直径)、高さ、間隔と接合強度および隙間率との関係を示す表である。
図14において、Wは凹凸形状の円柱状の凸部の幅(直径)であり、
図4の凸部14の幅w21に対応する。また、Dは凹凸形状の凸部の間隔であり、
図4の凸部14の間隔w22に対応する。また、hは凹凸形状の凸部の高さであり、
図4の凸部14の高さh2に対応する。それぞれの単位はμmである。粗密(W/D)は間隔Dに対する幅Wの比率であり、この値が大きいほど、単位面積あたりの凸部の数(密度)が小さくなる。
【0079】
また、接合強度は、金属接合体の接合部の強度をせん断強度試験にて測定して、20MPa以上の時は、◎として、15〜20MPa時は、○とした。これは、接合強度が15MPa以上でないと、金属接合体をパワー半導体モジュールに用いる際の熱応力で、接合部にクラック等が生じる場合があるためである。また、隙間率は上述のSATの評価により求めた。
【0080】
図14において、実施例1〜4は、W、Dを100μmとして、hを0.1μm、1μm、10μm、20μmとして接合強度を評価した結果である。この場合、理論上は粗密(W/D)は全て1になり、凸部の密度は一定となる。また、凸部の縦横比(アスペクト比)h/Wは、0.001、0.01、0.1、0.2となり、全体の面積に対する凸部の面積の割合は、一定となる。
図14に示すように、実施例1〜4では、接合強度は全て◎となり、隙間率は50%以下で、良好な接合強度を示した。
【0081】
また、
図14において、実施例5〜7は、Dを100μm、hを10μmとして、Wを5μm、50μm、200μmとして接合強度を評価した結果である。この場合、粗密(W/D)は、0.05、0.5、2となり、凸部の縦横比(アスペクト比)h/Wは、2、0.2、0.05となり、全体の面積に対する凸部の面積の割合は、0.2%、10.1%、40.4%となる。
図14に示すように、実施例5では、接合強度は○であったが、実施例6、7では、接合強度は◎になり、良好な接合強度を示した。
【0082】
また、
図14において、実施例8〜11は、Wを100μm、hを10μmとして、Dを5μm、25μm、50μm、200μmとして接合強度を評価した結果である。この場合、粗密(W/D)は、20、4、2、0.5となり、凸部の縦横比(アスペクト比)h/Wは、全て0.1と一定となり、全体の面積に対する凸部の面積の割合は、82.5%、58%、40.3%、10.1%となる。
図14に示すように、実施例8では、接合強度は○であったが、実施例9〜11では、接合強度は◎になり、良好な接合強度を示した。なお、第1金属部または第2金属部の初期の表面のうねりは、うねり曲線要素の平均高さWzで評価し、Wzは0.1から10μmにおいて、上述の結果を得た。なお、WzはJIS−B0601−2001に記載の方法で測定し、高周波成分カットオフフィルタのカットオフ値λcを0.25mmとした。なお、良好な接合強度を得られた接合部には、第2金属部2表面の所定の凹部のピッチに対応した隙間11が形成されており、接合面において、前記所定の凹部の個数に対する規則的な隙間11の個数の割合(規則化度合)は60%以上であった。
【0083】
以上の結果から、実施例5のように、幅Wが小さいと凸部の面積の割合が小さくなり、接触面積が少なくなるため、接合強度が若干悪化することがわかる。また、実施例8のように、間隔Dが小さいと凸部の面積の割合が大きくなり、凸部間の隙間が少なくなるため、隙間率は小さいが接合強度が若干悪化すると推定される。また、上述の実施例の条件で作成した積層基板を用いた半導体装置は、ヒートサイクル試験などの信頼性試験においても良好な結果を示した。