特許第6918342号(P6918342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918342
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】電場増強基板
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/02 20060101AFI20210729BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210729BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   H01L31/04 112C
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-92153(P2017-92153)
(22)【出願日】2017年5月8日
(65)【公開番号】特開2018-190597(P2018-190597A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉原 久未
【審査官】 酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−059195(JP,A)
【文献】 特開2015−092500(JP,A)
【文献】 特表2010−533358(JP,A)
【文献】 特開2014−035813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00−33/28
H01L 51/50−51/56
H01L 51/44
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光源からの光の電場を増強させるための電場増強基板であって、
基板と、
上記基板の表面に形成され、酸化チタンからなる複数のナノ粒子体により構成された酸化チタン粒子層とを備え、
上記酸化チタン粒子層は、上記発光源からの光が照射されたときに、局在電場を発生させて、該局在電場により上記発光源からの光の電場を増強する層であることを特徴とする電場増強基板。
【請求項2】
請求項1に記載の電場増強基板において、
酸化チタンからなる上記複数のナノ粒子体の各ナノ粒子体は、該ナノ粒子体よりも径が小さいナノ粒子が集合したナノ粒子集合体により構成されていることを特徴とする電場増強基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電場増強基板において、
上記酸化チタン粒子層は、該酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが、0.3μm〜0.6μmであることを特徴とする電場増強基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の電場増強基板において、
上記基板と上記酸化チタン粒子層とは、一体形成されたものであることを特徴とする電場増強基板。
【請求項5】
請求項4に記載の電場増強基板において、
酸化チタンからなる上記複数のナノ粒子体を、ペレット状に圧縮成型したものであることを特徴とする電場増強基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の電場増強基板において、
上記電場増強基板は、発光体の発光を増強させるための発光増強基板であることを特徴とする電場増強基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の電場を増大させるための電場増強基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光の電場の増強効果を用いたバイオセンサの高感度化や,有機EL素子等の発光強度の増強や、太陽電池の変換効率の上昇,光化学反応の効率上昇のために、光の電場を増強する方法が研究されている。特に、金属からなるナノ粒子を用いた光の電場の増強効果は、プラズモニクスという新領域の学問体系として注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属からなる第1のナノ粒子と、該第1のナノ粒子よりも粒径が小さくかつ金属からなる第2のナノ粒子とを備え、第2のナノ粒子同士が複数個数珠状に繋がったナノ粒子集合体の一方端を上記第1のナノ粒子の表面に接着させたナノ粒子体を用いると、10倍という極めて大きな増強度が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/125718号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のような、金属からなるナノ粒子体による光の電場の増強効果は、金属からなるナノ粒子に対して光を照射したときに、該ナノ粒子の表面に存在する自由電子と照射された光とが強く相互作用し、この自由電子と光の相互作用によって強い局在電場が生じることで引き起こされる。
【0006】
しかしながら、特許文献1のような金属からなるナノ粒子体を、蛍光強度を増強させるために用いると、発光強度の増強度が数十倍程度にまで低下してしまうことが知られている。これは、蛍光を発する発光体内で励起された分子のエネルギーが金属ナノ粒子に移動することで、発光強度が低減する現象(消光)が発生するためである。
【0007】
このため、光の照射によって局在電場を発生させて、発光体の発光強度の増強にまで用いることができる金属以外の物質を用いた電場増強基板が求められている。
【0008】
また、電場増強基板は、上述したように有機EL素子や太陽電池など種々の用途があるため、電場増強基板に対して、発光強度の高い増強度に加えて、製造の容易性や加工の容易性も要求されている。さらに、電場増強基板には、発光強度の高い増強度を長期間に亘って安定して維持したいという要求もある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、発光体の消光を抑制して、光の電場の増強効果を発光体の発光強度の増強にまで用いることができかつ該光の電場の増強効果を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、製造の容易性を向上させることができる電場増強基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らの検討によると、酸化チタンのナノ粒子体は、光照射を受けると、該光照射により生成した散乱光を生じる局在電場を発生し、光の電場を増強させて、発光体の発光を強く増強することが分かった。
【0011】
そこで、上記課題を解決するために、発光源からの光の電場を増強させるための電場増強基板であって、基板と、上記基板の表面に形成され、酸化チタンからなる複数のナノ粒子体により構成された酸化チタン粒子層とを備え、上記酸化チタン粒子層は、上記発光源からの光が照射されたときに、局在電場を発生させて、該局在電場により上記発光源からの光の電場を増強する層である、というものとした。
【0012】
この構成によると、基板の表面に酸化チタンからなる複数のナノ粒子体により構成された酸化チタン粒子層を有しており、該酸化チタン粒子層は、光が照射されたときに局在電場を発生させるように構成されているため、光が照射されたときには、上記局在電場が発生し、光の電場を増強させることができる。
【0013】
また、酸化チタンは、価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップが3.0eV〜3.2eVと大きいため、励起された発光体のエネルギーが酸化チタンへ移動しにくく、発光体の消光を抑制することができる。よって、本発明の電場増強基板によると、発光体の消光を抑制して、発光体の発光強度を増強することができる。
【0014】
特にアナターゼ型酸化チタンは、間接遷移型半導体であるため、励起された発光体のエネルギーが酸化チタンへ移動することが防止され、発光体の消光をより効果的に抑制することができる。
【0015】
さらに、酸化チタンは、酸化物半導体であり、酸化することがないため、シリコン等の自然酸化をする物質を用いる場合と比較して、光の電場の増強効果を長期間に亘って安定して維持することができる。
【0016】
さらにまた、酸化チタンは、安価で安全な物質であることに加えて、加工が容易な物質であるため、電場増強基板の製造が非常に容易になる。
【0017】
これらのことから、本発明の電場増強基板では、光の電場の増強効果を発光体の発光強度の増強にまで用いることができかつ該光の電場の増強効果を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、製造の容易性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明者が、さらに検討を進めたところ、酸化チタンからなるナノ粒子体は、ナノ粒子一粒からなるものに限らず、該ナノ粒子体よりも径が小さいナノ粒子の集合体であっても、光の電場を増強して、発光体の発光強度を増強できることが分かった。
【0019】
すなわち、上記電場増強基板では、酸化チタンからなる上記複数のナノ粒子体の各ナノ粒子体は、該ナノ粒子体よりも径が小さいナノ粒子が集合したナノ粒子集合体により構成されていてもよい。
【0020】
また、本発明者が、さらに検討を進めたところ、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmのときに、特に発光体の発光が増強されることが分かった。
【0021】
すなわち、上記電場増強基板において、上記酸化チタン粒子層は、該酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが、0.3μm〜0.6μmであることが望ましい。
【0022】
このことにより、光の電場の増強効果による、発光体の発光強度の高い増強度をより安定して維持することができる。
【0023】
上記電場増強基板の一実施形態では、上記基板と上記酸化チタン粒子層とは、一体形成されたものである。
【0024】
この構成によると、例えば、酸化チタンからなる複数のナノ粒子体を圧縮して固めれば、本発明の電場増強基板を得ることができるため、製造の容易性を一層向上させることができる。
【0025】
上記基板と上記酸化チタン粒子層とが一体形成された電場増強基板の一実施形態では、酸化チタンからなる上記複数のナノ粒子体を、ペレット状に圧縮成型したものである。
【0026】
すなわち、本発明者の検討によると、酸化チタンからなる上記複数のナノ粒子体をペレット状に圧縮成型すると、発光体の発光強度の高い増強度が、電場増強基板全体において、再現性良く得られることが分かった。よって、電場増強基板を上記の構成とすることにより、電場増強基板全体において、光の電場の増強効果による、発光強度の増強度の高い再現性を得ることができる。
【0027】
上記電場増強基板の他の実施形態では、上記電場増強基板は、発光体の発光を増強させるための発光増強基板である。
【0028】
すなわち、発光増強基板では発光体の消光を適切に抑制する必要がある。これに対して、本発明の電場増強基板によると、発光体の消光を抑制して、発光体の発光強度を増強することができるため、発光体の発光強度を適切に増強することができる。また、酸化チタンは、酸化物半導体であり、酸化することがないため、シリコン等の自然酸化をする物質を用いる場合と比較して、発光強度の高い増強度を長期間に亘って安定して維持することもできる。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明に係る電場増強基板によると、基板の表面に形成され、酸化チタンからなる複数のナノ粒子体により構成された酸化チタン粒子層を有し、該酸化チタン粒子層は、光が照射されたときに局在電場を発生させるように構成されているため、光の電場の増強効果を発光体の発光強度の増強にまで用いることができかつ該光の電場の増強効果を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、製造の容易性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態1に係る電場増強基板を用いた発光増強基板の模式図を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態2に係る電場増強基板を用いた発光増強基板の模式図を示す断面図である。
図3】本発明の実施例1におけるメタノールと水との体積比と、製造された電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaとの関係を示す図である。
図4】本発明の実施例1における電場増強基板を用いた場合と用いていない場合とにおけるクリスタルバイオレット溶液の蛍光スペクトルを示す図である。
図5】本発明の実施例1におけるクリスタルバイオレット溶液の発光強度の増強度と、電場増強基板の酸化チタン粒子層の算術平均高さとの関係を示す図である。
図6】本発明の実施例1における溶液中の酸化チタンナノ粒子体の粒径と、散乱効率との関係を示す図である。
図7】本発明の実施例2におけるペレット状の電場増強基板の表面のSEM像を示す図である。
図8】本発明の実施例2におけるペレット状の電場増強基板において、複数の電場増強基板をそれぞれ用いた場合のクリスタルバイオレット溶液の発光強度の増強度を示す図である。
図9】本発明の実施例2におけるペレット状の電場増強基板において、1つの電場増強基板の酸化チタン粒子層上における任意の複数の箇所でそれぞれ測定した、クリスタルバイオレット溶液の発光強度の増強度を示す図である。
図10】ペレット状の電場増強基板の材料と、発光強度の増強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0032】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る電場増強基板を用いた発光増強基板1を示す。この発光増強基板1は、クリスタルバイオレットなどの発光体の発光を増強するために用いられる基板である。本実施形態において発光体とは、外部からの刺激により、当該発光体を構成する分子、原子又はイオン等の電子状態が基底状態から励起状態に励起された後、再び基底状態に遷移する際に、基底状態と励起状態とのエネルギーの差分を光として外部に照射するものをいう。発光体からの発光としては、所定波長の光に発光体が励起されることによる発光(フォトルミネセンス)に限らず、例えば、電場印加により発光体が励起されることによる発光(エルクトロルミネセンス)や、化学反応により発光体が励起されることによる発光(ケミルミネセンス)等であってもよい。
【0033】
上記発光増強基板1は、基板2と、該基板2の表面に形成され、酸化チタン、特に二酸化チタンからなる複数の酸化チタンナノ粒子体3により構成された酸化チタン粒子層4とを備えている。
【0034】
基板2は、ガラスや樹脂等からなる基板で構成されている。尚、後述する条件を満たすような酸化チタン粒子層4を表面に形成することができるのであれば、基板の材料として、ガラスや樹脂に限らず種々の材料を採用することができる。
【0035】
酸化チタン粒子層4は、光を照射したときに散乱光を生じる局在電場を発生させることができるように構成されており、具体的には、酸化チタン粒子層4の表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmになるように形成されている。酸化チタン粒子層4の表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmであれば、酸化チタン粒子層の厚みは特に限定されない。尚、本実施形態1の酸化チタン粒子層4において、複数の酸化チタンナノ粒子体3は基板2の表面全体を覆っている必要はなく、酸化チタンナノ粒子体3同士の間に隙間が形成されていてもよい。また、複数の酸化チタンナノ粒子体3を所定の形状に圧縮成型したものを基板2上に断続的に配置することで、酸化チタン粒子層4が形成されていてもよい。さらに、酸化チタン粒子層4を構成する酸化チタンナノ粒子体3は、酸化チタンのナノ粒子一粒で構成されていてもよいし、酸化チタンナノ粒子体3よりも径の小さいナノ粒子の集合体によって構成されていてもよい。
【0036】
ここで、算術平均高さSaとは、表面の平均の高さに対して、表面の各点における凹凸の高さの絶対値を算術平均した値である。より具体的には、表面の平均の高さをμ、評価領域の面積をMN、評価領域中の粒子体(ここでは、酸化チタンナノ粒子体)の高さをz(x,y)として、以下の数式により算出される値をいう。
【0037】
【数1】
【0038】
ここで、表面の平均の高さをμは以下の式で算出される値である。
【0039】
【数2】
【0040】
この算術平均高さSaは、例えばレーザー顕微鏡によって、酸化チタン粒子層4の表面を測定した結果から算出することができる。
【0041】
また、酸化チタン粒子層4の表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmになりさえすれば、酸化チタン粒子層4を形成する酸化チタンナノ粒子体3の粒径は特に限定されないが、例えば、酸化チタン粒子層4が、上記酸化チタンナノ粒子体3の層一層のみで形成される場合であっても、表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmになるように、酸化チタンナノ粒子体3の粒径を300nm〜600nmとすることが望ましい。
【0042】
酸化チタンナノ粒子体3を形成する材料としては、酸化チタン粒子層4の表面の算術平均高さSaを0.3μm〜0.6μmにすることができれば、例えば、ルチル型二酸化チタン、アナターゼ型二酸化チタン、ブルッカイト型二酸化チタン、スリランカイト型(αPbO2型又はType-II型ともいう)二酸化チタン、アモルファス型二酸化チタンを用いることができる。また、上記の種々の二酸化チタンのうちから選択した二種類以上の二酸化チタンが混在したもの、又は、上記の種々の二酸化チタンの全てが混在したもの等を用いることができる。
【0043】
次に、本実施形態1に係る発光増強基板1の製造方法について説明する。
【0044】
先ず、酸化チタンナノ粒子体3を生成する。酸化チタンナノ粒子体3の生成方法は、酸化チタンを材料としてれば、種々の方法を採用することができ、例えばボールミリング法を用いることができる。ボールミリング法を用いると、酸化チタンの粉末から容易に酸化チタンナノ粒子体3を生成することができる。また、ボールミリング法では、ボールミル装置の回転数、粉砕時間、及び容器に入れる溶媒(例えば、水やメタノール)等を調整することにより、酸化チタンナノ粒子体3の径を容易に調整することが可能である。
【0045】
次に、生成した酸化チタンナノ粒子体3を基板2の上に配設する。酸化チタンナノ粒子体3を基板2の上に配設する方法としては、例えば、酸化チタンナノ粒子体3を溶媒に分散させて、該分散液を基板2の表面に塗布し、その後、乾燥させる方法がある。
【0046】
以上のようにして、本実施形態1に係る発光増強基板1が製造される。
【0047】
尚、使用するボールミル装置は、特に限定されないが、例えば、ドイツ・フリッチュ社製の遊星ボールミル装置(商品名:プレミアムラインP−7)等を使用することができる。また、ボールミル装置の容器及び該容器に収容させる粉砕媒体は、その材質は特に限定されず、例えば、ステンレス製、ジルコニア(ZrO)製、タングステンカーバイト(WC)製、及び、アルミナ(AlO)製のもの等を使用することができる。
【0048】
したがって、本実施形態1では、電場増強基板(発光増強基板1)は、基板2と、該基板2の表面に形成され、酸化チタンからなる複数のナノ粒子体(酸化チタンナノ粒子体3)により構成された酸化チタン粒子層4とを備え、該酸化チタン粒子層4は、光が照射されたときに局在電場を発生させるように構成されているため、光が照射されたときには、局在電場が発生し、該局在電場によって発光体が励起されるため、光の電場を増強することができる。
【0049】
また、酸化チタンは、価電子帯と伝導帯との間のバンドギャップが3.0eV〜3.2eVと大きいため、励起された発光体のエネルギーが酸化チタンへ移動しにくいため、発光体の消光を抑制することができる。これにより、発光体の発光強度を適切に増強することができる。
【0050】
特にアナターゼ型二酸化チタンは、間接遷移型半導体であるため、励起された発光体のエネルギーが酸化チタンへ移動することが防止され、発光体の消光をより効果的に抑制することができる。
【0051】
さらに、酸化チタンは、酸化物半導体であり、酸化することがないため、シリコン等の自然酸化する物質を用いる場合と比較して、光の電場の増強効果を長期間に亘って安定して維持することができる。
【0052】
さらにまた、酸化チタンは、安価で安全な物質であることに加えて、加工が容易な物質であるため、電場増強基板の製造が非常に容易になる。
【0053】
これらのことから、本実施形態1に係る電場増強基板(発光増強基板1)は、光の電場の増強効果を発光体の発光強度の増強にまで用いることができかつ該光の電場の増強効果を長期間に亘って安定して維持することができるとともに、製造の容易性を向上させることができる。
【0054】
(実施形態2)
図2は、本実施形態2に係る電場増強基板を用いた発光増強基板101を示す。本実施形態2に係る発光増強基板101は、基板102が酸化チタン粒子層104と一体形成されている点で上記実施形態1とは異なる。
【0055】
具体的には、上記実施形態1では、酸化チタン粒子層は、ガラスや樹脂等からなる基板2の上に形成されていたが、本実施形態2では、基板102自体が、酸化チタンナノ粒子体103を圧縮することで形成されており、該基板102の表面部分に酸化チタン粒子層104が形成されている。尚、このように、発光増強基板101を構成すると、図2に示すように、酸化チタンナノ粒子体103が基板102の表面全体を覆うようになる。
【0056】
本実施形態2に係る発光増強基板101の製造方法としては、先ず、酸化チタンナノ粒子体103を生成する。酸化チタンナノ粒子体103の生成方法は、ボールミリング法等を採用することができる。また、本実施形態2の発光増強基板101では、乳鉢を用いて酸化チタンの粉末を粉砕することで、酸化チタンナノ粒子体103を生成してもよい。
【0057】
次に、酸化チタンナノ粒子体103からなる粉末をプレス装置等で圧縮して板状に成形する。以上により、発光増強基板101を製造することができる。詳しくは後述するが、上記のようにプレス装置等を用いて発光増強基板101を製造すると、酸化チタン粒子層104の表面の算術平均高さSaは0.3μm〜0.4μm程度になる。
【0058】
この実施形態2に係る電場増強基板(発光増強基板101)でも、酸化チタン粒子層104に、光を照射したときには、該酸化チタン粒子層104に散乱光を生じる局在電場が発生するため、光の電場が強く増強される。また、酸化チタンを用いることにより、発光体の消光が抑制されるため、発光体の発光強度を適切に増強することができる。
【0059】
また、本実施形態2に係る電場増強基板(発光増強基板101)では、酸化チタンナノ粒子体103からなる粉末を圧縮して板状に成形するだけで製造することができるため、製造の容易性を一層向上させることができる。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0061】
(実施例1)
本実施例1では、ガラス基板上に酸化チタンナノ粒子体からなる酸化チタン粒子層を形成することで製造した電場増強基板において、発光体の発光強度の増強度を検討した。
【0062】
まず、酸化チタンナノ粒子体の製造方法について説明する。本実施例1では、アナターゼ型二酸化チタンの粉末を材料として、遊星ボールミル装置(ドイツ・フリッチュ社製、商品名:プレミアムラインP−7)を使用したボールミリング法により酸化チタンナノ粒子体を製造した。より具体的には、ジルコニア(ZrO)からなる容器に、アナターゼ型二酸化チタンの粉末と、ジルコニアからなる粉砕媒体(粉砕ボール、φ=3mm)とを入れ、さらに、上記容器に溶媒としてメタノールを入れて、遊星ボールミル装置を回転駆動させて、アナターゼ型二酸化チタンの粉末を粉砕した。回転時間は180分であり、回転速度は600rpmである。
【0063】
次に、上記のボールミリング法によって製造された酸化チタンナノ粒子体が分散したメタノールに水を加えて、上記酸化チタンナノ粒子体をメタノールと水との混合液中に分散させ 、該混合液をITOガラスの表面に塗布し、その後、それを乾燥させた。これにより、酸化チタンナノ粒子体からなる酸化チタン粒子層が形成された電場増強基板を製造した。
【0064】
ここで、電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaを所望の値にするために、上記混合液におけるメタノールと水との混合比率(混合液におけるメタノールと水との体積比)と、各混合比率の混合液を用いたときの算術平均高さSaとの関係を調べた。算術平均高さSaはレーザー顕微鏡を用いて評価した。レーザー顕微鏡としては、例えば、LEXTOLS4000 (OLYMPUS社製)のものを用いることができるが、特に限定されない。尚、この算術平均高さSaは、実施形態において定義したものであって、上述した数式に基づいて算出したものである。
【0065】
図3は、上記混合液におけるメタノールと水との混合比率と、電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaとの関係を示す。図3に示すように、上記混合液におけるメタノールの割合が大きくなるにつれて、算術平均高さSaが低下することが分かる。これは、メタノールは水と比較してガラス基板に対する濡れ性が高いためと考えられる。すなわち、メタノールの割合が高いほど上記混合液がガラス基板全体に広がりやすくなるため、メタノールの割合が高いほど上記混合液中に分散された酸化チタンナノ粒子体が均一に広がって、表面の凹凸が小さくなったと考えられる。また、この結果から、メタノールと水との体積比が1:25〜1:50の範囲にあるときに、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaを0.3μm〜0.6μmにすることができることが確認された。
【0066】
尚、ガラス基板上に形成された酸化チタン粒子層において、酸化チタンナノ粒子体は、該酸化チタンナノ粒子体よりも径の小さいナノ粒子の集合体によって構成されていた。
【0067】
続いて、上記のように製造した電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaと発光体の発光強度の増強度との関係を検討した。
【0068】
本実験例1では、発光体として有機色素分子であるクリスタルバイオレット(以下、省略してCVという)を用い、メタノールを溶媒として、濃度が3.6×10−5MのCV溶液を調整した。この調整したCV溶液をステンレス製の薄膜セル状に置いた電場増強基板の上に満たした後に、電場増強基板の上にカバーガラスを置き、CVの蛍光スペクトルを測定した。励起光は、励起波長633nmのHe−Neレーザーを用い、対物レンズは100倍(N.A.0.6 SLMPLN 100xOlympus)を用いた。また、増強度を算出するために、電場増強基板を用いない場合のCVの蛍光スペクトル、電場増強基板を用いた場合のメタノールのスペクトル、及び、電場増強基板を用いない場合のメタノールのスペクトルをそれぞれ測定した。
【0069】
さらに、これらの評価を、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaがそれぞれ異なる電場増強基板(Sa=0.2μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、1.2μm)を用いて行い、それぞれの算術平均高さSaの場合におけるCVの発光強度の増強度を算出した。発光強度の増強度は、電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルの強度をI1、電場増強基板を用いない場合のCVの蛍光スペクトルの強度I2、電場増強基板を用いた場合のメタノールのスペクトルの強度をI3、及び、電場増強基板を用いない場合のメタノールのスペクトルの強度をI4として、以下の式で算出した。
【0070】
増強度=(I1−I3)/(I2−I4)
【0071】
以上のようにして測定した結果について、図4及び図5を参照しながら説明する。
【0072】
図4は、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.5μmの電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルと、上記電場増強基板を用いずに測定したCVの蛍光スペクトルとを示すグラフである。尚、電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルは、該電場増強基板の酸化チタン粒子層上の任意の10箇所で測定した平均値である。電場増強基板を用いずに測定した発光強度は極めて小さく、電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルと同じスケールで示すことが困難であったため、図4のグラフの右上の部分に示している。図4に示すように、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.5μmの電場増強基板を用いると、CVの発光強度を約480倍にまで増強できた。これは、金属ナノ粒子を用いる場合と比較して一桁大きい増強度である。
【0073】
また、図5は、各算術平均高さSa(Sa=0.2μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、1.2μm)の酸化チタン粒子層を有する電場増強基板を用いた場合の、CVの発光強度の増強度を示すグラフである。図5に示すように、CVの発光強度の増強度は、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmの間に極大値を持つような変化を示し、該算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmの範囲では250倍以上の増強度となることが確認できた。また、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.5μmのときに、約500倍の増強度が確認できた。
【0074】
次に、上記のようなCVの発光強度の増強が、酸化チタンナノ粒子体により発生する局在電場によって生じているか否かを検討するために、Mieの散乱理論により、波長633nmの光に対する、溶液中の酸化チタンナノ粒子体の散乱効率Qscaを算出して、これらを比較した。尚、散乱効率Qscaは、散乱断面積を幾何的断面積で割ることによって求められる因子であり、散乱効率Qscaが高いということは、強い散乱光が生じている意味する。強い散乱光が生じるということは、強い局在電場が生じていることを意味するため、散乱効率Qscaの高さは、局在電場の強さ、すなわち、光の電場の増強効果の高さを表しているといえる。
【0075】
図6は、Mieの散乱理論により、波長633nmの光に対する、溶液中の酸化チタンナノ粒子体の散乱効率をシミュレーションにより算出した結果である。尚、図6では、算術平均高さSaの代わりにパラメータとして酸化チタンナノ粒子体の径を用いている。ガラス基板上では、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaは、基本的に該酸化チタン粒子層を構成する酸化チタンナノ粒子体の径に依存するため、今回の場合、算術平均高さSaの代わりにパラメータとして酸化チタンナノ粒子体の径を用いたとしても特に問題はない。
【0076】
図6に示すように、酸化チタンナノ粒子体の径が0.3μm〜0.6μmの範囲で大きな散乱効率が得られ、酸化チタンナノ粒子体の径が0.3μmよりも小さい領域では、酸化チタンナノ粒子体の径が小さくなるに連れて散乱効率が低下し、酸化チタンナノ粒子体の径が0.6μmよりも大きい領域では、酸化チタンナノ粒子体の径が大きくなるに連れて散乱効率が低下するという結果が得られた。これは、CVの発光強度の増強度の変化とも相関する。この結果から、CVの発光強度の増強度の増大は、酸化チタンナノ粒子体により発生する局在電場によるものであると示唆された。したがって、酸化チタンナノ粒子体を用いた電場増強基板による光の電場の増光強化が、発光体の発光強度の増強に利用可能であることが確認された。
【0077】
(実施例2)
本実施例2では、酸化チタンナノ粒子体からなる粉末をペレット状に圧縮成型した電場増強基板において、発光体の発光強度の増強度を検討した。
【0078】
本実施例2では、ルチル型二酸化チタンの粉末を、アルミナ乳鉢を用いて粉砕し、該粉砕後の粉末をハンドプレス機によって約70kg/cm〜130kg/cmの圧力でペレット状に圧縮成型して、電場増強基板を製造した。これにより、基板と酸化チタン粒子層とが一体成形されたペレット状の電場増強基板が製造された。以下の説明では、上記のようにして製造した、酸化チタンを用いたペレット状の電場増強基板を、単にTiOペレット型基板という。
【0079】
本実施例2では、10個のTiOペレット型基板を作成して、各TiOペレット型基板の発光強度の増強度を測定した。さらに、本実施例2では、上記10個のTiOペレット型基板のうちから1個のTiOペレット型基板を抜き出し、該ペレット型基板の酸化チタン粒子層上の任意の10点でそれぞれ発光強度の増強度の測定を行った。全ての発光強度の増強度の測定は、上記実施例1と同様の方法で行った。
【0080】
図7は、10個のTiOペレット型基板のうちの1つTiOペレット型基板の表面(すなわち酸化チタン粒子層)を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観測したものである。各酸化チタンナノ粒子体は、酸化チタンのナノ粒子一粒により形成されており、その粒径は300nm程度であった。また、10個のTiOペレット型基板の表面(つまり、酸化チタン粒子層の表面)の算術平均高さSaを測定したところ、各TiOペレット型基板同士でのバラツキは小さく、該算術平均高さSaは、約0.35μmであった。
【0081】
図8は、10個のTiOペレット型基板のそれぞれで発光強度の増強度を測定した結果である。図8に示すように、各TiOペレット型基板の発光強度の増強度は360倍前後であった。この結果は、上記実施例1で説明した、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaと発光強度の増強度と関係と対応している。また、この結果から、各TiOペレット型基板間において発光強度の増強度のばらつきが非常に小さいことが確認できた。
【0082】
また、図9は、上記10個のTiOペレット型基板のうちから抜き出した1個のTiOペレット型基板において、該TiOペレット型基板の酸化チタン粒子層上の任意の10点でそれぞれ発光強度の増強度の測定を行った結果である。図9に示すように、各点の発光強度の増強度は350倍前後であった。この結果も、上述の各TiOペレット型基板で測定したときと同様に、上記実施例1で説明した、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaと発光強度の増強度と関係と対応している。また、この結果から、1個のTiOペレット型基板においても発光強度の増強度のばらつきが非常に小さいことが確認できた。
【0083】
これらのことから、TiOペレット型基板では、増強度の高い再現性が得られることが確認できた。すなわち、酸化チタンナノ粒子体からなる粉末をペレット状に圧縮成型するだけで、発光強度の増強度が大きくかつバラツキが小さい電場増強基板が容易に得られることが確認できた。また、ルチル型二酸化チタンからなる酸化チタンナノ粒子体を用いた電場増強基板でも、発光強度の高い増強度が得られることが確認された。
【0084】
次に、シリコンナノ粒子体を用いてペレット型の電場増強基板(以下、Siペレット型基板という)を作成して、該Siペレット型基板による発光強度の増強度と、本実施例2の酸化チタンナノ粒子体を用いたTiOペレット型基板による発光強度の増強度とを比較した。
【0085】
上記Siペレット基板は、本実施例2のTiOペレット型基板と同様に、シリコンの粉末を、アルミナ乳鉢を用いて粉砕し、該粉砕後の粉末をハンドプレス機(JASCO社製、商品名:MP−1)によってペレット形状に圧縮成型して、Siペレット型基板を製造した。
【0086】
Siペレット型基板による発光強度の増強度の測定は、上記実施例1と同様の方法で行った。
【0087】
図10は、TiOペレット型基板による発光強度の増強度とSiペレット型基板による発光強度の増強度とを示す。TiOペレット型基板による発光強度の増強度は上述したように350倍程度であった。一方で、Siペレット型基板による発光強度の増強度は、1よりも小さい値となった。ここから、ペレット型の基板のように基板と粒子層とが一体になるように圧縮成型された電場増強基板においては、二酸化チタンを用いた方が、シリコンを用いる場合と比較して大きな増強度が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明は、有機ELディスプレイ、太陽電池及びバイオセンサなど、発光体の発光の増強を必要とするものに対して有用である。
【符号の説明】
【0089】
1,101 発光増強基板(電場増強基板)
2,102 基板
3,103 酸化チタンナノ粒子体
4,104 酸化チタン粒子層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10