【実施例】
【0060】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0061】
(実施例1)
本実施例1では、ガラス基板上に酸化チタンナノ粒子体からなる酸化チタン粒子層を形成することで製造した電場増強基板において、発光体の発光強度の増強度を検討した。
【0062】
まず、酸化チタンナノ粒子体の製造方法について説明する。本実施例1では、アナターゼ型二酸化チタンの粉末を材料として、遊星ボールミル装置(ドイツ・フリッチュ社製、商品名:プレミアムラインP−7)を使用したボールミリング法により酸化チタンナノ粒子体を製造した。より具体的には、ジルコニア(ZrO
2)からなる容器に、アナターゼ型二酸化チタンの粉末と、ジルコニアからなる粉砕媒体(粉砕ボール、φ=3mm)とを入れ、さらに、上記容器に溶媒としてメタノールを入れて、遊星ボールミル装置を回転駆動させて、アナターゼ型二酸化チタンの粉末を粉砕した。回転時間は180分であり、回転速度は600rpmである。
【0063】
次に、上記のボールミリング法によって製造された酸化チタンナノ粒子体が分散したメタノールに水を加えて、上記酸化チタンナノ粒子体をメタノールと水との混合液中に分散させ 、該混合液をITOガラスの表面に塗布し、その後、それを乾燥させた。これにより、酸化チタンナノ粒子体からなる酸化チタン粒子層が形成された電場増強基板を製造した。
【0064】
ここで、電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaを所望の値にするために、上記混合液におけるメタノールと水との混合比率(混合液におけるメタノールと水との体積比)と、各混合比率の混合液を用いたときの算術平均高さSaとの関係を調べた。算術平均高さSaはレーザー顕微鏡を用いて評価した。レーザー顕微鏡としては、例えば、LEXTOLS4000 (OLYMPUS社製)のものを用いることができるが、特に限定されない。尚、この算術平均高さSaは、実施形態において定義したものであって、上述した数式に基づいて算出したものである。
【0065】
図3は、上記混合液におけるメタノールと水との混合比率と、電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaとの関係を示す。
図3に示すように、上記混合液におけるメタノールの割合が大きくなるにつれて、算術平均高さSaが低下することが分かる。これは、メタノールは水と比較してガラス基板に対する濡れ性が高いためと考えられる。すなわち、メタノールの割合が高いほど上記混合液がガラス基板全体に広がりやすくなるため、メタノールの割合が高いほど上記混合液中に分散された酸化チタンナノ粒子体が均一に広がって、表面の凹凸が小さくなったと考えられる。また、この結果から、メタノールと水との体積比が1:25〜1:50の範囲にあるときに、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaを0.3μm〜0.6μmにすることができることが確認された。
【0066】
尚、ガラス基板上に形成された酸化チタン粒子層において、酸化チタンナノ粒子体は、該酸化チタンナノ粒子体よりも径の小さいナノ粒子の集合体によって構成されていた。
【0067】
続いて、上記のように製造した電場増強基板の酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaと発光体の発光強度の増強度との関係を検討した。
【0068】
本実験例1では、発光体として有機色素分子であるクリスタルバイオレット(以下、省略してCVという)を用い、メタノールを溶媒として、濃度が3.6×10
−5MのCV溶液を調整した。この調整したCV溶液をステンレス製の薄膜セル状に置いた電場増強基板の上に満たした後に、電場増強基板の上にカバーガラスを置き、CVの蛍光スペクトルを測定した。励起光は、励起波長633nmのHe−Neレーザーを用い、対物レンズは100倍(N.A.0.6 SLMPLN 100xOlympus)を用いた。また、増強度を算出するために、電場増強基板を用いない場合のCVの蛍光スペクトル、電場増強基板を用いた場合のメタノールのスペクトル、及び、電場増強基板を用いない場合のメタノールのスペクトルをそれぞれ測定した。
【0069】
さらに、これらの評価を、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaがそれぞれ異なる電場増強基板(Sa=0.2μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、1.2μm)を用いて行い、それぞれの算術平均高さSaの場合におけるCVの発光強度の増強度を算出した。発光強度の増強度は、電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルの強度をI1、電場増強基板を用いない場合のCVの蛍光スペクトルの強度I2、電場増強基板を用いた場合のメタノールのスペクトルの強度をI3、及び、電場増強基板を用いない場合のメタノールのスペクトルの強度をI4として、以下の式で算出した。
【0070】
増強度=(I1−I3)/(I2−I4)
【0071】
以上のようにして測定した結果について、
図4及び
図5を参照しながら説明する。
【0072】
図4は、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.5μmの電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルと、上記電場増強基板を用いずに測定したCVの蛍光スペクトルとを示すグラフである。尚、電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルは、該電場増強基板の酸化チタン粒子層上の任意の10箇所で測定した平均値である。電場増強基板を用いずに測定した発光強度は極めて小さく、電場増強基板を用いた場合のCVの蛍光スペクトルと同じスケールで示すことが困難であったため、
図4のグラフの右上の部分に示している。
図4に示すように、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.5μmの電場増強基板を用いると、CVの発光強度を約480倍にまで増強できた。これは、金属ナノ粒子を用いる場合と比較して一桁大きい増強度である。
【0073】
また、
図5は、各算術平均高さSa(Sa=0.2μm、0.4μm、0.5μm、0.6μm、1.2μm)の酸化チタン粒子層を有する電場増強基板を用いた場合の、CVの発光強度の増強度を示すグラフである。
図5に示すように、CVの発光強度の増強度は、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmの間に極大値を持つような変化を示し、該算術平均高さSaが0.3μm〜0.6μmの範囲では250倍以上の増強度となることが確認できた。また、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaが0.5μmのときに、約500倍の増強度が確認できた。
【0074】
次に、上記のようなCVの発光強度の増強が、酸化チタンナノ粒子体により発生する局在電場によって生じているか否かを検討するために、Mieの散乱理論により、波長633nmの光に対する、溶液中の酸化チタンナノ粒子体の散乱効率Q
scaを算出して、これらを比較した。尚、散乱効率Q
scaは、散乱断面積を幾何的断面積で割ることによって求められる因子であり、散乱効率Q
scaが高いということは、強い散乱光が生じている意味する。強い散乱光が生じるということは、強い局在電場が生じていることを意味するため、散乱効率Q
scaの高さは、局在電場の強さ、すなわち、光の電場の増強効果の高さを表しているといえる。
【0075】
図6は、Mieの散乱理論により、波長633nmの光に対する、溶液中の酸化チタンナノ粒子体の散乱効率をシミュレーションにより算出した結果である。尚、
図6では、算術平均高さSaの代わりにパラメータとして酸化チタンナノ粒子体の径を用いている。ガラス基板上では、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaは、基本的に該酸化チタン粒子層を構成する酸化チタンナノ粒子体の径に依存するため、今回の場合、算術平均高さSaの代わりにパラメータとして酸化チタンナノ粒子体の径を用いたとしても特に問題はない。
【0076】
図6に示すように、酸化チタンナノ粒子体の径が0.3μm〜0.6μmの範囲で大きな散乱効率が得られ、酸化チタンナノ粒子体の径が0.3μmよりも小さい領域では、酸化チタンナノ粒子体の径が小さくなるに連れて散乱効率が低下し、酸化チタンナノ粒子体の径が0.6μmよりも大きい領域では、酸化チタンナノ粒子体の径が大きくなるに連れて散乱効率が低下するという結果が得られた。これは、CVの発光強度の増強度の変化とも相関する。この結果から、CVの発光強度の増強度の増大は、酸化チタンナノ粒子体により発生する局在電場によるものであると示唆された。したがって、酸化チタンナノ粒子体を用いた電場増強基板による光の電場の増光強化が、発光体の発光強度の増強に利用可能であることが確認された。
【0077】
(実施例2)
本実施例2では、酸化チタンナノ粒子体からなる粉末をペレット状に圧縮成型した電場増強基板において、発光体の発光強度の増強度を検討した。
【0078】
本実施例2では、ルチル型二酸化チタンの粉末を、アルミナ乳鉢を用いて粉砕し、該粉砕後の粉末をハンドプレス機によって約70kg/cm
2〜130kg/cm
2の圧力でペレット状に圧縮成型して、電場増強基板を製造した。これにより、基板と酸化チタン粒子層とが一体成形されたペレット状の電場増強基板が製造された。以下の説明では、上記のようにして製造した、酸化チタンを用いたペレット状の電場増強基板を、単にTiO
2ペレット型基板という。
【0079】
本実施例2では、10個のTiO
2ペレット型基板を作成して、各TiO
2ペレット型基板の発光強度の増強度を測定した。さらに、本実施例2では、上記10個のTiO
2ペレット型基板のうちから1個のTiO
2ペレット型基板を抜き出し、該ペレット型基板の酸化チタン粒子層上の任意の10点でそれぞれ発光強度の増強度の測定を行った。全ての発光強度の増強度の測定は、上記実施例1と同様の方法で行った。
【0080】
図7は、10個のTiO
2ペレット型基板のうちの1つTiO
2ペレット型基板の表面(すなわち酸化チタン粒子層)を走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観測したものである。各酸化チタンナノ粒子体は、酸化チタンのナノ粒子一粒により形成されており、その粒径は300nm程度であった。また、10個のTiO
2ペレット型基板の表面(つまり、酸化チタン粒子層の表面)の算術平均高さSaを測定したところ、各TiO
2ペレット型基板同士でのバラツキは小さく、該算術平均高さSaは、約0.35μmであった。
【0081】
図8は、10個のTiO
2ペレット型基板のそれぞれで発光強度の増強度を測定した結果である。
図8に示すように、各TiO
2ペレット型基板の発光強度の増強度は360倍前後であった。この結果は、上記実施例1で説明した、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaと発光強度の増強度と関係と対応している。また、この結果から、各TiO
2ペレット型基板間において発光強度の増強度のばらつきが非常に小さいことが確認できた。
【0082】
また、
図9は、上記10個のTiO
2ペレット型基板のうちから抜き出した1個のTiO
2ペレット型基板において、該TiO
2ペレット型基板の酸化チタン粒子層上の任意の10点でそれぞれ発光強度の増強度の測定を行った結果である。
図9に示すように、各点の発光強度の増強度は350倍前後であった。この結果も、上述の各TiO
2ペレット型基板で測定したときと同様に、上記実施例1で説明した、酸化チタン粒子層の表面の算術平均高さSaと発光強度の増強度と関係と対応している。また、この結果から、1個のTiO
2ペレット型基板においても発光強度の増強度のばらつきが非常に小さいことが確認できた。
【0083】
これらのことから、TiO
2ペレット型基板では、増強度の高い再現性が得られることが確認できた。すなわち、酸化チタンナノ粒子体からなる粉末をペレット状に圧縮成型するだけで、発光強度の増強度が大きくかつバラツキが小さい電場増強基板が容易に得られることが確認できた。また、ルチル型二酸化チタンからなる酸化チタンナノ粒子体を用いた電場増強基板でも、発光強度の高い増強度が得られることが確認された。
【0084】
次に、シリコンナノ粒子体を用いてペレット型の電場増強基板(以下、Siペレット型基板という)を作成して、該Siペレット型基板による発光強度の増強度と、本実施例2の酸化チタンナノ粒子体を用いたTiO
2ペレット型基板による発光強度の増強度とを比較した。
【0085】
上記Siペレット基板は、本実施例2のTiO
2ペレット型基板と同様に、シリコンの粉末を、アルミナ乳鉢を用いて粉砕し、該粉砕後の粉末をハンドプレス機(JASCO社製、商品名:MP−1)によってペレット形状に圧縮成型して、Siペレット型基板を製造した。
【0086】
Siペレット型基板による発光強度の増強度の測定は、上記実施例1と同様の方法で行った。
【0087】
図10は、TiO
2ペレット型基板による発光強度の増強度とSiペレット型基板による発光強度の増強度とを示す。TiO
2ペレット型基板による発光強度の増強度は上述したように350倍程度であった。一方で、Siペレット型基板による発光強度の増強度は、1よりも小さい値となった。ここから、ペレット型の基板のように基板と粒子層とが一体になるように圧縮成型された電場増強基板においては、二酸化チタンを用いた方が、シリコンを用いる場合と比較して大きな増強度が得られることが確認された。