特許第6918522号(P6918522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6918522リチウムイオン電池スクラップの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6918522
(24)【登録日】2021年7月27日
(45)【発行日】2021年8月11日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池スクラップの処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20210729BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20210729BHJP
【FI】
   H01M10/54
   B09B3/00 303Z
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-41919(P2017-41919)
(22)【出願日】2017年3月6日
(65)【公開番号】特開2018-147734(P2018-147734A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡島 伸明
【審査官】 宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−207648(JP,A)
【文献】 特開2016−204676(JP,A)
【文献】 特開2017−036490(JP,A)
【文献】 特開2014−227565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
B09C1/00−1/10
C22B1/00−61/00
H01M10/52−10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池スクラップを加熱して処理する方法であって、
前記リチウムイオン電池スクラップが、ポリマーを含む電解質を有するポリマー含有電解質電池、及び、ポリマーを含まない電解質を有するポリマー非含有電解質電池を含み、
前記リチウムイオン電池スクラップ中の前記ポリマー非含有電解質電池の比率を、重量比で、20%以上70%以下として、前記ポリマー含有電解質電池をポリマー非含有電解質電池とともに加熱し、
加熱時に、前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池とを交互に重ねて、互いに接触した状態で配置する、リチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項2】
前記リチウムイオン電池スクラップ中のポリマー非含有電解質電池の比率を、重量比で、30%以上とする、請求項1に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項3】
加熱時に、前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱用容器内に配置することにより、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項4】
50℃/sec以上の昇温速度での前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池の温度の上昇範囲が300℃以下となるように、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱する、請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項5】
50℃/sec以上の昇温速度での前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池の温度の昇範200℃以下となるように、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【請求項6】
前記リチウムイオン電池スクラップの加熱処理に定置炉を用いる、請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池スクラップの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえばリチウムイオン電池スクラップから有価金属を回収する際に、酸浸出に先立って、リチウムイオン電池スクラップを加熱して処理する方法に関するものであり、特には、処理時間やコストの増大を抑制しつつ、有価金属の回収率向上を実現することのできる技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電子デバイスをはじめとして多くの産業分野で使用されているリチウムイオン電池は、マンガン、ニッケルおよびコバルトを含有するリチウム金属塩を正極活物質として用い、その正極活物質を含む正極材及び負極材の周囲を、アルミニウムを含む筐体で包み込んだものであり、近年は、その使用量の増加および使用範囲の拡大に伴い、電池の製品寿命や製造過程での不良により廃棄される量が増大している状況にある。
かかる状況の下では、大量に廃棄されるリチウムイオン電池スクラップから、上記のニッケルおよびコバルト等の有価金属を、再利用するべく比較的低コストで容易に回収することが望まれる。
【0003】
有価金属の回収のために、リチウムイオン電池スクラップを処理するには、はじめに、リチウムイオン電池スクラップを加熱・焙焼することによって、内部に含まれる有害な電解質(可燃性液体等)を除去して無害化するとともに、その後に破砕、篩別を順に行って、筐体や正極基材に含まれるアルミニウムをある程度除去する前工程を実施する。
次いで、前工程により得られる粉末状の正極材を酸浸出し、そこに含まれ得るリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウム等を溶液中に溶解させて、浸出後液を得る浸出工程を行う。
【0004】
そしてその後、浸出後液に溶解している各金属元素を分離させる回収工程を行う。ここでは、浸出後液に浸出しているそれぞれの金属を分離させるため、浸出後液に対し、分離させる金属に応じた複数段階の溶媒抽出もしくは中和等を順次に施し、さらには、各段階で得られたそれぞれの溶液に対して、逆抽出、電解、炭酸化その他の処理を施す。具体的には、まずアルミニウムを回収し、続いてマンガン、そしてコバルト、その後にニッケルを回収して、最後に水相にリチウムを残すことで、各有価金属を回収することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年は、リチウムイオン電池の正極と負極の間でリチウムイオンを流すための電解質にポリマーを使用した、いわゆるリチウムイオンポリマー電池が、使用に際する発火の危険性が低いという利点等から実用化されるに至っている。
【0006】
しかるに、このようなリチウムイオンポリマー電池は、使用後等に廃棄され、これから有価金属を回収しようとした場合、上記の前工程の加熱時に、ポリマーを含む当該電解質が難燃性であることに起因して燃焼温度が上昇し難く、燃焼が不十分となる。それにより、加熱後でもコバルト等の有価金属がアルミニウム箔から剥がれにくく、有価金属がアルミニウム箔に密着した状態が維持されるので、篩別工程にてコバルト等の分配率が低下する。
一方、有価金属をアルミニウム箔から剥がしやすくするには、燃焼温度が上昇し難いリチウムイオンポリマー電池を長時間にわたって加熱することが必要になり、処理時間及びコストが増大するという問題がある。
【0007】
この発明は、このような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、リチウムイオンポリマー電池等のポリマー非含有電解質電池を加熱して処理するに当り、処理時間及びコストの増大を抑制しつつ、有価金属の回収率向上に寄与することができるリチウムイオン電池スクラップの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は、これまでのポリマーを含まない電解質を有するリチウムイオン電池の電解液成分が可燃性であることから、加熱時に昇温速度が速く、温度上昇が急激に起こり、さらに燃焼温度が高くなりやすい点に着目し、このようなポリマーを含まない電解質を有するポリマー非含有電解質電池とともに、先述のリチウムイオンポリマー電池のようなポリマーを含む電解質を有するポリマー含有電解質電池を加熱することで、ポリマー含有電解質電池を十分に燃焼させることができると考えた。
【0009】
なお、ポリマー非含有電解質電池は、それ単独で加熱すると、燃焼温度が高くなり過ぎることにより、アルミニウム箔が脆化・粉末化しやすく、その後の破砕時にアルミニウム箔が粉砕されやすくなるので、篩別の際にアルミニウム箔を篩上に残して取り除くことが困難となる。そして、このようにアルミニウムが篩下に得られる正極材に多く混入すると、回収工程でアルミニウムの分離・除去のための処理が必要になり、それによるコストが嵩むという問題がある。
これに対し、上述したように、ポリマー非含有電解質電池を、ポリマー含有電解質電池とともに加熱することにより、ポリマー含有電解質電池の難燃性の電解質によってポリマー非含有電解質電池の燃焼温度の上昇が抑制される結果として、昇温速度および最高到達温度を適切な範囲に制御できて、両電池を有効に加熱処理することができると考えられる。
【0010】
上記の知見の下、この発明のリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、リチウムイオン電池スクラップを加熱して処理する方法であって、前記リチウムイオン電池スクラップが、ポリマーを含む電解質を有するポリマー含有電解質電池、及び、ポリマーを含まない電解質を有するポリマー非含有電解質電池を含み、前記リチウムイオン電池スクラップ中の前記ポリマー非含有電解質電池の比率を、重量比で、20%以上70%以下として、前記ポリマー含有電解質電池をポリマー非含有電解質電池とともに加熱し、加熱時に、前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池とを交互に重ねて、互いに接触した状態で配置することにある。
【0011】
ここでは特に、前記リチウムイオン電池スクラップ中のポリマー非含有電解質電池の比率を、質量比で、好ましくは20%以上とし、より好ましくは30%以上とする。
【0013】
また好ましくは、加熱時に、前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱用容器内に配置することにより、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池の筐体に火炎が直接的に当たることを防ぎながら、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱する。
【0014】
また、加熱時には、50℃/sec以上の昇温速度での前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池の温度の昇範300℃以下、特に200℃以下となるように、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を加熱することが好ましい。
なお、前記リチウムイオン電池スクラップ加熱処理には、定置炉を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、ポリマー含有電解質電池をポリマー非含有電解質電池とともに加熱することにより、それらの燃焼温度の大小を利用して、昇温速度および最高温度を適切な範囲に制御することができる。
その結果として、ポリマー含有電解質電池を単独で加熱する場合に比して、有価金属の回収率を向上させつつ、処理時間の短縮化及びコストの低減を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1の試料温度及び炉内温度を示すグラフである。
図2】実施例1のポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を示すグラフである。
図3】実施例2の試料温度及び炉内温度を示すグラフである。
図4】実施例2のポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を示すグラフである。
図5】実施例3の試料温度及び炉内温度を示すグラフである。
図6】実施例3のポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を示すグラフである。
図7】比較例1の試料温度及び炉内温度を示すグラフである。
図8】比較例1のポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係るリチウムイオン電池スクラップの処理方法は、リチウムイオン電池スクラップを加熱して処理する方法であって、前記リチウムイオン電池スクラップが、ポリマーを含む電解質を有するポリマー含有電解質電池、及び、ポリマーを含まない電解質を有するポリマー非含有電解質電池を含み、前記ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池とを混合させて加熱する。
【0018】
(リチウムイオン電池)
この発明で対象とするリチウムイオン電池スクラップは、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用され得るリチウムイオン電池の廃棄物等である。より具体的には、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたものであり、このようなリチウムイオン電池スクラップを対象とすることにより、資源の有効活用を図ることができる。
この発明の実施形態では、リチウムイオン電池スクラップとして具体的に、ポリマーを含む電解質を有するポリマー含有電解質電池と、ポリマーを含まない電解質を有するポリマー非含有電解質電池とを用いる。これら以外の種類のリチウムイオン電池をさらに用いてもよい。
【0019】
この発明でいう「電解質」とは、電気伝導性を有し、正極と負極との間でリチウムイオン等のイオンを行き来させる物質を意味し、液体状、固体状、ゲル状等のその形態は問わない。
ポリマー非含有電解質電池の電解質は一般に、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた溶液である。リチウム塩としては、たとえば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、Li[PF3(C2CF53]等を挙げることができ、また有機溶媒としては、たとえば、propylene carbonate(PC)、ethylene carbonate(EC)、diethyl carbonate(DEC)、dimethyl carbonate(DMC)、ethyl methyl carbonate(EMC)等を挙げることができる。
【0020】
ポリマー含有電解質電池の電解質は通常、上記の溶液を、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のポリマーに含浸させてゲル化したもの、ポリアクリルニトリル(PAN)などの溶液自体が高分子化しているもの、ポリマー自体に電導性を持たせたもの等があり、かかるポリマー含有電解質電池は、リチウムイオンポリマー電池と称されることもある。電解質の少なくとも一部にポリマーが含まれるものであれば、ポリマー非含有電解質電池との混合加熱による燃焼温度の制御の効果を得ることができる。
【0021】
ポリマー非含有電解質電池は、たとえば、周囲がアルミニウムを含む筐体で包み込まれたラミネート型のものが一般的であるが、これに限らず、缶型等のものであってもよい。
ポリマー非含有電解質電池の筐体としては、たとえば、アルミニウムのみからなるものや、アルミニウム及び鉄、アルミラミネート等を含むものがある。
なお、最近ではラミネート技術を利用したポリマー含有電解質電池も製造されるようになってきているため、ポリマー含有電解質電池もまた、ポリマー非含有電解質電池と同様に、周囲がアルミニウムを含む筐体で包み込まれたラミネート型のものであることが一般的であるが、これに限らず、缶型等のものであってもよい。
【0022】
上述したポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池のいずれであっても、一般的なリチウムイオン電池と同様に、内部に、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの一種の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質や、正極活物質が有機バインダー等によって塗布されて固着されたアルミニウム箔(正極基材)を含むものとすることができる。またその他に、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池には、銅、鉄等が含まれる場合がある。
【0023】
ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池は、その電極構造が、たとえば巻回型もしくは積層型等であり、全体の形態としては、円筒型、角型等がある。角型の場合、実質的に正方形もしくは長方形状の平面輪郭形状を有するものとすることができ、この場合、加熱処理前の寸法として、たとえば、縦が40mm〜80mm、横が35mm〜65mm、厚みが4mm〜5mmのものを対象とすることができるが、この寸法のものに限定されない。
【0024】
(加熱工程)
加熱工程では、先に述べたポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を混合させて加熱する。
【0025】
ポリマー非含有電解質電池だけを燃焼させると、その電解質の成分が可燃性であることに起因して昇温速度が速くなり、急激に温度上昇し、さらに燃焼温度が高くなりやすい。特にここでは、スパイク状の急激な温度上昇による最高温度の超越が生じることもある。それにより、アルミニウムを含む筺体やアルミニウム箔が脆化・粉末化して、これらが後述の粉砕工程で粉砕されやすくなり、アルミニウムを後述の篩別工程で篩上に残して取り除くことが困難となる。
一方、ポリマー含有電解質電池だけを燃焼させると、その電解質が難燃性であることによって、燃焼温度が上昇し難く、燃焼が不十分となる。この場合、コバルト等の有価金属がアルミニウム箔から十分に剥がれず、後述の回収工程でのコバルト等の分配率が低下する。
【0026】
これに対し、この発明の実施形態のように、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を混合させて加熱することにより、昇温速度および最高温度を適切の範囲に制御することができるので、ポリマー非含有電解質電池のアルミニウム箔の脆化・粉末化が抑制されるとともに、ポリマー含有電解質電池の未燃焼化が防止される。その結果として、アルミニウムを篩別工程で有効に除去することができ、またコバルト等をアルミニウム箔から効果的に剥離させることができる。
【0027】
ポリマー非含有電解質電池を単独で加熱処理する場合に比して処理時間を有効に短縮させるとの観点より、リチウムイオン電池スクラップに含まれるポリマー非含有電解質電池の比率ないし割合は、重量比で、20%以上とすることが好ましく、特に30%以上とすることがより一層好ましい。
一方、ポリマー非含有電解質電池の比率が多すぎると、燃焼温度が急上昇して、アルミニウムの脆化等による微細化に起因して、その後の有価金属の回収でアルミニウムの除去が問題となることが懸念される。それ故に、リチウムイオン電池スクラップ中のポリマー非含有電解質電池の比率ないし割合は、重量比で、70%以下とすることが好適である。
【0028】
また、より具体的には、昇温速度および最高温度をさらに適切にコントロールするため、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池との混合比率は、50:50〜78:22とすることが好ましく、特に60:40〜78:22とすることがより一層好ましい。ポリマー非含有電解質電池の割合が多すぎると、その電解質の量も多くなって、急激な温度上昇を十分に抑制できないことが懸念される。一方、ポリマー含有電解質電池の割合が多すぎると、難燃性のポリマーを含む電解質が多く存在することにより、燃焼が十分に行われないおそれがある。
【0029】
ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を混合させて加熱するに当っては、ポリマー非含有電解質電池とポリマー含有電解質電池とを交互に重ねて、互いに接触した状態で配置することが好適である。このように重ねて交互に配置することで、ポリマー含有電解質電池へ熱を逃がすことができやすくなる。
【0030】
またここでは、火炎により焼却対象物を焼却処理する通常の焼却炉、たとえば定置炉を用いることが、特殊な設備を用いる場合に比して設備コストの増大を抑えることができる点で有利である。
但し、このような焼却炉内で、上述したような筐体を有するポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池の筐体に火炎を直接的に当てて、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を加熱すると、筺体およびアルミニウム箔、銅箔が酸化・脆化する。この場合、加熱工程後にポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を破砕する際に、脆化した筺体、箔もまた細かく粉砕されやすくなるので、篩下に回収される粉末状の正極材に、筺体等に含まれるアルミニウムが多く混入する。それにより、後にアルミニウムを回収する作業及びコストが増大する。
【0031】
これに対処するため、この実施形態では、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池に火炎が直接的に当たることを防ぐ目的で、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を加熱用容器内に配置し、その加熱用容器ごと焼却炉内に投入して、ポリマー非含有電解質電池とポリマー含有電解質電池を加熱する。
それにより、加熱用容器により、その内部に配置されたポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池の筺体に、火炎が当たることを防ぐことができるので、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池の筺体、箔の酸化が防止されて、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池を有効に焙焼することができる。その結果として、加熱工程の終了まで、筐体でポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池のそれぞれの周囲が包み込まれた状態が維持されることから、破砕・篩別時に筐体、箔の細粒化を防止して、篩上にこれらを取り除くことを容易かつ確実に行うことができる。
【0032】
加熱用容器は、焼却炉内の高温に耐え得るものであれば、様々な材質及び形状のものを用いることが可能である。加熱用容器は、たとえば鋼鉄その他の鉄製のものとして、リチウムイオン電池の加熱処理における焼却炉内の温度に対する耐熱性を有するものとすることができる。
加熱に伴ってポリマー非含有電解質電池等からは、液体状の電解質の気化に起因するガスが発生するところ、このガスが加熱用容器から外部に排出されることができなければ、ガスによる爆発のおそれがある。それ故に、加熱用容器は密閉しないことが望ましい。加熱用容器に、ガス抜きのための隙間を設けることもできる。
【0033】
またこの加熱工程では、加熱時に、ポリマー非含有電解質電池およびポリマー含有電解質電池の昇温速度が、バーナーによる昇温傾向に対して、急上昇する温度範囲として300℃以下となるように、リチウムイオン電池を加熱することが好適である。つまり、この温度が300℃を超える場合、試料温度がAlの融点以上となる可能性がある。したがって、さらに好ましくは、この温度を200℃以下とする。
一方、昇温速度が遅すぎると、加熱処理時間が長くなり、実際処理時のボトルネックとなり得る。したがって、上記の温度範囲は、たとえば200℃以上、好ましくは250℃以上とすることができる。
なおここで、「急上昇」とは、50℃/sec以上の温度上昇速度とすることができる。
【0034】
(浸出工程及び回収工程)
上記の加熱工程の後、所要に応じて破砕及び篩別することにより、アルミニウムが十分に除去された粒状ないし粉状等の正極材を含む篩別物を得ることができる。
その後、この粒状ないし粉状の正極材を含む篩別物を、硫酸等の酸性溶液に添加して浸出させて得た浸出後液から、浸出後液中に溶解しているニッケル、コバルト、マンガン等を回収する。具体的には、たとえば、溶媒抽出又は中和により、はじめにマンガンを分離させて回収し、次いでコバルトを、その後にニッケルを順次に分離させて回収し、最後に水相にリチウムを残す。
【0035】
ここでは、上述した加熱工程にて、ポリマー非含有電解質電池とポリマー含有電解質電池とを混合させて加熱することで、昇温速度および最高温度を適切な範囲に制御できる結果として、浸出後液に溶解した金属に、アルミニウムがほとんど含まれなくなることから、回収工程でのアルミニウムの分離除去に要する処理を簡略化ないし省略することができる。それにより、処理能率の向上および処理コストの低減を実現することができる。
また、上述した加熱工程ならびに破砕及び篩別により、アルミニウム箔からコバルト等が十分に剥離されるので、回収工程でのコバルト等の分配率を大きく高めることができる。
【実施例】
【0036】
次に、この発明のリチウムイオン電池の処理方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は、単なる例示を目的としたものであり、それに限定されることを意図するものではない。
下記の実施例1〜3および比較例1のように、ポリマー非含有電解質電池とポリマー含有電解質電池との混合比率を変化させた試料を準備し、これらを加熱して破砕した後に篩別する試験を行い、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率をそれぞれ求めた。
【0037】
(実施例1)
試料として、ポリマー含有電解質電池を101.5g、ポリマー非含有電解質電池を128.4g準備した。ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池との混合比率は、44:56である。これらを混合させて焼却炉内で加熱した。その際の試料温度及び炉内温度を図1に示す。その後、篩別を行って篩下を確認したところ、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの篩下の各金属の品位は、篩別サイズに応じて、表1、2のそれぞれに示すとおりであった。
ポリマー含有電解質電池(ポリマー)とポリマー非含有電解質電池(ラミネート)のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を、図2に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
(実施例2)
試料として、ポリマー含有電解質電池を126.4g、ポリマー非含有電解質電池を85.6準備した。ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池との混合比率は、60:40である。これらを混合させて焼却炉内で加熱した。その際の試料温度及び炉内温度を図3に示す。その後、篩別を行って篩下を確認したところ、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの篩下の各金属の品位は、篩別サイズに応じて、表3、4のそれぞれに示すとおりであった。
ポリマー含有電解質電池(ポリマー)とポリマー非含有電解質電池(ラミネート)のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を、図4に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
(実施例3)
試料として、ポリマー含有電解質電池を150.0g、ポリマー非含有電解質電池を42.5g準備した。ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池との混合比率は、78:22である。これらを混合させて焼却炉内で加熱した。その際の試料温度及び炉内温度を図5に示す。その後、篩別を行って篩下を確認したところ、ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池のそれぞれの篩下の各金属の品位は、篩別サイズに応じて、表5、6のそれぞれに示すとおりであった。
ポリマー含有電解質電池(ポリマー)とポリマー非含有電解質電池(ラミネート)のそれぞれの、篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を、図6に示す。
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
(比較例1)
試料として、ポリマー含有電解質電池のみを準備した。ポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池との混合比率は、100:0である。これを焼却炉内で加熱した。その際の試料温度及び炉内温度を図7に示す。その後、篩別を行って篩下を確認したところ、篩下の各金属の品位は、篩別サイズに応じて、表7に示すとおりであった。
篩下におけるアルミニウム品位、アルミニウムに対するリチウムの比および、コバルト分配率を、図8に示す。
【0047】
【表7】
【0048】
以上の結果より、比較例1でポリマー含有電解質電池のみを加熱した場合、図7に示すように、炉内温度に対して試料温度の上昇が緩慢で、多くの処理時間を要したのに対し、実施例1〜3でポリマー含有電解質電池とポリマー非含有電解質電池を混合して加熱した場合、図1、3、5に示すように、試料温度が急増し、処理時間を短縮できたことが解かる。また、この傾向は、ポリマー非含有電解質電池の割合が多くなるほど顕著になることが明らかである。
よって、この発明によれば、処理時間及びコストの増大を有効に抑制できることが解かった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8