特許第6919192号(P6919192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919192
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】導電性高分子水溶液及びその用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 65/00 20060101AFI20210805BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20210805BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20210805BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20210805BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20210805BHJP
   H01B 5/16 20060101ALI20210805BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20210805BHJP
   C08G 61/12 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   C08L65/00
   C08L33/02
   C08K5/17
   H01B1/20 A
   H01B1/12 F
   H01B5/16
   H05B33/14 A
   H05B33/22 D
   C08G61/12
【請求項の数】10
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-246704(P2016-246704)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2017-222831(P2017-222831A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2019年11月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-70513(P2016-70513)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-118090(P2016-118090)
(32)【優先日】2016年6月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】松丸 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】兵頭 雅之
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−513219(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/14
C08K 3/00− 13/08
C08G 61/00− 61/12
H01B 1/00− 1/24
H01B 5/00− 5/16
H05B 33/00− 33/28
H01L 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位からなるポリチオフェン(A)を0.01〜10重量%含み、且つポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を0.001〜20重量%含む導電性高分子水溶液。
【化1】
【化2】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【化4】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
【請求項2】
ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)が、ポリアクリル酸水溶性樹脂、又はポリメタクリル酸水溶性樹脂(B)であることを特徴とする、請求項1に記載の導電性高分子水溶液。
【請求項3】
ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)の重量平均分子量が1千〜50万であることを特徴とする請求項2に記載の導電性高分子水溶液。
【請求項4】
さらにアミン化合物(C)を含み、かつpHが10以下である、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の導電性高分子水溶液。
【請求項5】
請求項1に記載の導電性高分子水溶液を乾燥させることを特徴とする導電性膜の製造方法。
【請求項6】
下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位からなるポリチオフェン(A)と、アクリル酸系水溶性樹脂(B)を含む膜。
【化5】
【化6】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【化8】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
【請求項7】
(B)の含有量が、(A)の1重量部に対して、0.05〜20重量部であることを特徴とする請求項6に記載の膜。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の膜を用いた有機エレクトロニクス素子。
【請求項9】
請求項6又は7に記載の膜を用いた有機光電変換素子。
【請求項10】
請求項6又は7に記載の膜を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な正孔輸送性と耐久性を両立した導電性高分子膜を作製できる新規な導電性高分子水溶液を提供すること、及びそれを用いた耐久性に優れた有機エレクトロニクス素子、有機光電発光素子、又は有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的としたものである。詳細には、高い導電性を有する特定の自己ドープ型導電性高分子と特定の水溶性樹脂を含むことを特徴とする新規な導電性組成物の水溶液であり、さらにはそれらを乾燥させて得られる導電性高分子膜及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等に代表されるπ共役系高分子に、電子受容性化合物をドーパントとしてドープした導電性高分子材料が開発され、例えば、帯電防止材、コンデンサの固体電解質、導電性塗料、電磁波シールド、エレクトロクロミック素子、電極材料、正孔注入材料、熱電変換材料、透明導電膜、化学センサ、アクチュエータ等への応用が検討されている。これらの導電性高分子材料の中でも、化学的安定性の面からポリチオフェン系導電性高分子材料が実用上有用である。
【0003】
ポリチオフェン系導電性高分子材料としては、(i)ドーパントとなるポリスチレンスルホン酸(PSS)の水溶液中で、3,4−エチレンジオキシチオフェン(EDOT)を重合させることで得られるPEDOT/PSS水分散体溶液や、(ii)水溶性の付与とドーピング作用を兼ね備えた置換基(スルホ基、スルホネート基等)を直接又はスペーサを介してポリマー主鎖中に有する、いわゆる自己ドープ型導電性高分子(例えば、スルホン化ポリアニリン、PEDOT−S等)等が知られている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
近年、導電性高分子の用途は、従来の帯電防止剤や固体電解コンデンサの固体電解質への利用のみならず、各種電子デバイス(液晶や有機ELデバイス、タッチパネルなど)に搭載される透明導電膜(透明電極など)に広がっている(例えば、特許文献1)。例えば、有機ELデバイス等の用途においては、陰極ITO上に塗布して平滑なアノード層を形成させるために導電性高分子が用いられている。当該目的用にPEDOT/PSSが適用可能であることが知られているが、当該PEDOT/PSSについては、PSSから分解、遊離したスルホン酸イオンが有機ELの陽極界面へマイグレーションし、消光現象を引き起こすことが見いだされており、実用化の課題となっていた(非特許文献3)。したがって、特に、デバイスの長寿命化の観点から、使用される導電性高分子組成物自体については化合物又は組成物自体の高い耐久性(固体や塗膜状態での耐熱性、耐湿性、耐電圧特性)が必要になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−514590号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of American Chemical Society,112,2801−2803(1990)
【非特許文献2】Advanced Materials,Vol.23(38)4403−4408(2011)
【非特許文献3】PEDOTの特性・合成手法とデバイス応用(情報機構)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、PEDOT/PSSについては、徐々に分解してPSSからスルホン酸イオンが発生するなど、耐久性に課題がある。このため、スルホン酸イオンの遊離等の分解を抑えられる、消光現象を引き起こしにくい、表面抵抗の上昇が少ない等の特徴を有する高耐久性導電性高分子膜の要求が高まっている。また、これと同時に、導電性金属酸化物への良好な塗布性、低ダメージ性、高い平滑化能力を兼ね備えた導電性高分子水溶液が求められている。
【0008】
また、本発明の課題は、有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス素子等の高寿命化を達成できる、正孔輸送性と耐久性を兼ね備えた導電性高分子膜、及び当該膜を製造するための導電性高分子水溶液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、後述する一般式で表される繰り返し単位を有する自己ドープ型導電性高分子と、ポリアクリル酸系水溶性樹脂を含んでなる導電性高分子水溶液から作製される導電性高分子膜が、高い正孔輸送性と高い耐久性を有しており、更には、それらを使用して作製された有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、又は有機エレクトロルミネッセンス素子が優れた耐久性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下に示すとおりの導電性高分子水溶液の組成物、及び導電性高分子膜並びにそれを用いた有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
[1] 下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01〜10重量%含み、且つポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を0.001〜20重量%含む導電性高分子水溶液。
【0011】
【化1】
【0012】
【化2】
【0013】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【0014】
【化3】
【0015】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【0016】
【化4】
【0017】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
[2] ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)が、ポリアクリル酸水溶性樹脂、又はポリメタクリル酸水溶性樹脂(B)であることを特徴とする、[1]に記載の導電性高分子水溶液。
[3] ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)の重量平均分子量が1千〜50万であることを特徴とする[2]に記載の導電性高分子水溶液。
[4] さらにアミン化合物(C)を含み、かつpHが10以下である、[1]乃至[3]のいずれかに記載の導電性高分子水溶液。
[5] [1]に記載の導電性高分子水溶液を乾燥させることを特徴とする導電性膜の製造方法。
[6] 下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)と、アクリル酸系水溶性樹脂(B)を含む膜。
【0018】
【化5】
【0019】
【化6】
【0020】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【0021】
【化7】
【0022】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【0023】
【化8】
【0024】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
[7] (B)の含有量が、(A)の1重量部に対して、0.05〜20重量部であることを特徴とする[6]に記載の膜。
[8] [6]又[7]に記載の膜を用いた有機エレクトロニクス素子。
[9] [6]又[7]に記載の膜を用いた有機光電変換素子。
[10] [6]又[7]に記載の膜を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子。
【発明の効果】
【0025】
本発明の新規な導電性高分子水溶液から作製される導電性高分子膜は、従来公知の導電性高分子に比べて、高い正孔輸送性能と耐久性を有するという予想し得ない顕著な効果を奏する。このため、本発明の導電性高分子水溶液及びそれを用いた導電性高分子膜は、有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、有機エレクトロニクス素子の高耐久性化及び高性能化という予想し得ない顕著な効果を奏する。また、本発明の導電性高分子水溶液及びそれを用いた導電性高分子膜は、従来公知の導電性高分子水溶液に比べて、より低い温度の、及び/又はより短時間の焼成においても有機EL素子用正孔注入層として良好な性能を示すものであるため、有機EL素子製造における操作性や生産性に優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明は、下記式(1)で表される構造単位及び下記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01〜10重量%含み、且つポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を0.001〜20重量%含む導電性高分子水溶液である。
【0028】
【化9】
【0029】
【化10】
【0030】
[上記式(1)及び式(2)中、Lは下記式(3)又は式(4)を表し、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。]
【0031】
【化11】
【0032】
[上記式(3)中、lは6〜12の整数を表す。]
【0033】
【化12】
【0034】
[上記式(4)中、mは1〜6の整数を表す。Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。]
上記式(1)又は(2)中、Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アミン化合物の共役酸、又は第4級アンモニウムカチオンを表す。
【0035】
前記のアルカリ金属イオンとしては、例えば、Liイオン、Naイオン、Kイオンが好ましい。
【0036】
前記のアミン化合物の共役酸としては、アミン化合物にヒドロン(H)が付加してカチオン種になったものを示し、スルホン酸基と反応して共役酸を形成するアミン化合物であればよく、sp3混成軌道を有するN(Rで表されるアミン化合物[共役酸としては[NH(Rで表される。]、又はsp2混成軌道を有するアミン化合物(例えば、ピリジン類化合物、イミダゾール類化合物)等が挙げられる。
【0037】
置換基Rは、各々独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は置換基を有する炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0038】
炭素数1〜6のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0039】
置換基を有する炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、アミノ基、又はヒドロキシ基を有する炭素数1〜6のアルキル基が挙げられ、具体的には、トリフルオロメチル基、2−ヒドロキシエチル基等が例示される。
【0040】
これらのうち、置換基Rとしては、独立して、水素原子、メチル基、エチル基、2−ヒドロキシエチル基が好ましい。
【0041】
前記sp2混成軌道を有するアミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン化合物(例えば、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン)、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジアミン等が挙げられる。
【0042】
また、前記sp2混成軌道を有するアミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、イミダゾール化合物(例えば、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、1、2−ジメチルイミダゾール)、ピリジンピコリン、ルチジン等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、エタノールアミン化合物、イミダゾール化合物である。
【0043】
すなわち、アミン化合物の共役酸としては、導電性に優れる点で、アンモニウム、モノエタノールアミンの共役酸、ジエタノールアミンの共役酸、トリエタノールアミンの共役酸、又はイミダゾールの共役酸が好ましい。
【0044】
前記の第4級アンモニウムカチオンとしては、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムカチオン、テトラノルマルブチルアンモニウムカチオン、テトラノルマルヘキシルアンモニウムカチオンなどが挙げられる。入手の観点から好ましくは、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラエチルアンモニウムカチオンである。
【0045】
上記式(3)中、lは6〜12の整数を表し、好ましくは6〜8の整数である。
【0046】
上記式(4)中、Rは水素原子、炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基、又はフッ素原子を表す。
【0047】
炭素数1〜6の直鎖状若しくは分岐状アルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−へキシル基、2−エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0048】
式(4)のRについては、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0049】
上記式(4)中、mは1〜6の整数を表し、好ましくは、mは1〜4の整数であり、より好ましくは2である。
【0050】
上記式(2)で表される構造単位は、上記式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0051】
ドーピングにより絶縁体−金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。前者は、ドーピングにより導電性ポリマーの高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0052】
本発明におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは自己ドープ型高分子と呼ばれている。
【0053】
本発明のポリチオフェン(A)は、下記式(5)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させることで製造することができる。
【0054】
【化13】
【0055】
[上記式(5)中、Lは上記と同じ定義である。Mは、金属イオンを表わす。]
式(5)におけるMで表される金属イオンとしては、特に限定するものではないが、遷移金属イオン、貴金属イオン、非鉄金属イオン、アルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン、及びKイオン)、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
【0056】
重合後のポリマーは金属塩であるため、必要に応じて、得られたポリマーを酸処理することでMを水素イオンへ変換可能であり、さらにこれをアミン化合物と反応させることで、Mをアミン化合物の共役酸へ変換可能である。
【0057】
上記式(1)又は式(2)において、Lが上記式(3)で表される、本発明のポリチオフェンを得るためのチオフェンモノマーとしては、具体的には、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸ナトリウム、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸リチウム、6−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)ヘキサン−1−スルホン酸カリウム、8−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)オクタン−1−スルホン酸、8−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)オクタン−1−スルホン酸ナトリウム、及び8−(2,3−ジヒドロ−チエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)オクタン−1−スルホン酸カリウム等が例示される。
【0058】
上記式(1)又は式(2)において、Lが上記式(4)で表される、本発明のポリチオフェンを得るためのチオフェンモノマーとしては、具体的には、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロパンスルホン酸カリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−エチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−プロピル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ペンチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ヘキシル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソプロピル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソブチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−イソペンチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸カリウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸アンモニウム、3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブタンスルホン酸ナトリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−ブタンスルホン酸カリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−ブタンスルホン酸ナトリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−ブタンスルホン酸カリウム、4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−ブタンスルホン酸ナトリウム、及び4−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−フルオロ−1−ブタンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0059】
本発明においてポリチオフェン(A)の導電率は、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)として、10S/cm以上であることが好ましい。
【0060】
本発明は、前述した式(1)で表される構造単位及び式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)を0.01〜10重量%ことを特徴とする。当該ポリチオフェン(A)の濃度については、正孔注入材料で優れた性能を示す点で、0.02重量%5.0重量%であることが好ましく、0.05重量%3.0重量%であることがより好ましく、0.05重量%2.0重量%であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明におけるポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)は、特に限定するものではないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等のαβ不飽和カルボン酸化合物の単一重合物、又は共重合物を挙げることができる。前記単一重合物としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等が挙げられる。また前記の共重合物としては、少なくとも1種類のαβ不飽和カルボン酸モノマーを用いて共重合させたものであり、コモノマーとしては当該αβ不飽和カルボン酸モノマーと共重合可能なモノマーを用いることができる。当該共重合物としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリ(アクリル酸−メタクリル酸)共重合体、ポリ(アクリル酸―マレイン酸)共重合体等が挙げられる。当該共重合物については、ブロック共重合体であってもよいし、ランダム共重合体であってもよいし、交互重合体であってもよい。
【0062】
前記ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)としては、導電性高分子の耐久性に優れる点で、ポリアクリル酸水溶性樹脂、ポリメタクリル酸水溶性樹脂、又はアクリル酸共重合水溶性樹脂(B)であることが好ましく、ポリアクリル酸水溶性樹脂又はポリメタクリル酸水溶(B)性樹脂であることがより好ましい。
【0063】
本発明のポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)の分子量としては、特に限定されないが、1千〜100万、より好ましくは1千〜50万である。
【0064】
本発明は、ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を0.001〜20重量%含むことを特徴とする。当該ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)の濃度については、正孔注入材料で優れた性能を示す点で、0.01重量%15.0重量%であることが好ましく、0.1重量%10重量%であることがより好ましく、0.5重量%5.0重量%であることがさらに好ましい。
【0065】
なお、本発明の導電性高分子水溶液において、ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)と前記式(1)で表される構造単位及び前記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)の重量比については、特に限定するものではないが、(B)/(A)で表される重量比が0.05〜20を満たすものが好ましく、0.1〜15を満たすものがより好ましく、3〜12を満たすものがより好ましい。
【0066】
本発明の導電性高分子水溶液のpHは10以下であることが好ましく、9以下であることがより好ましい。さらに、本発明の導電性高分子水溶液のpHは、1.5以上9.5以下の範囲が好ましく、1.5以上9以下の範囲内がより好ましい。ここで、pHを調整する手順としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリチオフェン(A)とポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)等を混合した後、アミン化合物(C)を添加することにより調整することができる。また、ポリチオフェン(A)の水溶液に予めアミン化合物(C)を添加することによってpH調整しておいても良い。また、pHが2以下の酸性領域で使用する場合には、必ずしもアミンを添加する必要はない。
【0067】
アミン化合物(C)としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル−プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、ヘキシルアミン、アミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、3−メチルアミノ−1,2−プロパンジオール、3−ジメチルアミノ−1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジアミン、イミダゾール、N−メチルイミダゾール、1、2−ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、ルチジン等が挙げられる。添加する際には、ニートでも水溶液でも良い。
【0068】
本発明の導電性高分子水溶液については、高分子型非イオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、又はシリコーン系界面活性剤等で例示される界面活性剤(D)を含有していてもよい。
【0069】
前記高分子型非イオン界面活性剤としては、特に限定するものではないが、ポリビニルピロリドン及びポリビニルピロリドンの共重合体等が挙げられる。本発明に使用されるポリビニルピロリドンの平均分子量は1千〜200万であり、好ましくは1万〜150万である。ポリビニルピロリドンの共重合体としては、特に限定するものではないが、親水性部と疎水性部をポリマー鎖中に併せ持つものが好ましく、例えば、ポリビニルピロリドンをポリビニルアルコールにグラフトしたコポリマーや、[ビニルピロリドン−酢酸ビニル]ブロック共重合体、[ビニルピロリドン−メチルメタクリレート]共重合体、[ビニルピロリドン−ノルマルブチルメタクリレート]共重合体、[ビニルピロリドン−アクリルアミド]共重合体などが例示できる。
【0070】
前記両性界面活性剤としては特に限定するものではないが、例えば、ベタイン型両性界面活性剤が挙げられる。ベタイン型両性界面活性剤としては特に限定するものではないが、例えば、アルキルジメチルベタイン、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。
【0071】
前記フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキル基を有するものであれば特に限定されないが、パーフルオロアルカン、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸、又はパーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物などが挙げられる。
【0072】
前記シリコーン系界面活性剤としては特に限定されないが、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルエステル変性ポリジメチルシロキサン、ヒドロキシル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アクリル基含有ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、パーフルオロポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、又はシリコーン変性アクリル化合物などが挙げられる。
【0073】
フッ素系界面活性剤やシリコーン系界面活性剤はレベリング剤として塗膜の平坦性を改善するのに有効である。
【0074】
また、上記以外の界面活性剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アセチレングリコール型界面活性剤が挙げられる。
【0075】
本発明において、界面活性剤(D)は、水への溶解度が80℃において0.01重量%以上であることが好ましく、30℃において0.01重量%以上であることがより好ましく、10℃において0.01重量%以上であることがさらに好ましく、且つHLBが7〜20の範囲である界面活性剤であることが好ましい。
【0076】
また、グリフィン法HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)は界面活性剤の親水性を表す数値である。値が大きいほど親水性が大きいことを示し、次式で表される。
【0077】
非イオン界面活性剤のグリフィン法HLB
=(親水基部分の分子量)/(界面活性剤の分子量)×100/5
=(親水基重量)/(疎水基重量+親水基重量)×100/5
=(親水基の重量%)/5
なお、本発明において、界面活性剤(D)としてより好ましくは、アセチレングリコール型界面活性剤、又は高分子型非イオン界面活性剤である。
【0078】
界面活性剤(D)の導電性高分子水溶液への添加方法は、固体で添加しても良く、あらかじめ水溶液として調整したものを添加しても良い。その際、導電性高分子水溶液に単独で添加してもよいし、2種以上を混合して添加してもよい。
【0079】
本発明の導電性高分子水溶液が界面活性剤(D)を含む場合、当該導電性高分子水溶液は、ポリチオフェン(A)を0.1〜10重量%、ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を0.001〜50重量%、界面活性剤(D)0.001〜10重量%含むことが好ましい。
【0080】
本発明の導電性高分子水溶液は、さらにアルコール及び水溶性樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の水溶性化合物(E)を含んでもよい。
【0081】
アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、1価のアルコール、2価のアルコール、3価のアルコール、及び糖アルコールからなる群より選択される少なくとも一種のアルコールが挙げられる。
【0082】
1価のアルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等が挙げられるが、操作性の点から、エタノールが好ましい。2価アルコールとしては、特に限定するものではないが、入手の観点から、エチレングリコールが好ましい。3価アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、グリセロールが好ましい。糖アルコールとしては、特に限定するものではないが、例えば、エリトリトール、ソルビトール、アラビトール等が好ましい。より好ましくはソルビトールである。
【0083】
また、水溶性樹脂としては、特に限定するものではないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ(N−ビニルアセトアミド)、水溶性ポリエステル、又は水溶性ポリウレタン等が好ましい。なおこれらの水溶性樹脂については、金属量低減の観点から、顆粒状、膜状の陽イオン交換樹脂、ゼータ電位を利用した金属除去フィルター処理を行ったものを用いることが好ましい。
【0084】
水溶性樹脂の分子量は、水溶性が良好であれば特に制限されないが、好ましくはMw=1千〜200万、より好ましくは1万〜150万、更に好ましくはMw=1千〜25万、更に好ましくは1千〜5万の範囲である。
【0085】
本発明の導電性高分子水溶液が水溶性化合物(E)を含む場合、当該水溶性高分子水溶液は、ポリチオフェン(A)を0.1〜10重量%、ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を0.001〜50重量%、界面活性剤(D)を0.001〜10重量%、及び水溶性化合物(E)を0.001〜10重量%含むことが好ましい。
【0086】
本発明の導電性高分子水溶液を調製する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明のポリチオフェン(A)の水溶液又は固体と、ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)と、必要に応じて界面活性剤(D)と、必要に応じて水溶性化合物(E)と、必要に応じて水と、必要に応じてその他添加剤を使用するができる。これらを任意の順で混合することにより本発明の導電性高分子水溶液を調製することができる。
【0087】
ここで、混合する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温〜加温下で行うことができる。好ましくは0℃以上100℃以下が好ましい。
【0088】
混合する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でも良い。
【0089】
本発明の導電性高分子水溶液を混合する際には、スターラーチップ、攪拌羽根等による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0090】
本発明の導電性高分子水溶液の濃度調整は、配合比で調整しても良いし、配合後に濃縮により調整しても良い。濃縮の方法は、減圧下に溶媒を留去する方法であっても、限外ろ過膜を利用する方法であっても良い。
【0091】
本発明の導電性高分子水溶液の中のポリチオフェン(A)の濃度は0.001重量%以上であれば特に限定するものではないが、好ましくは0.01重量%〜10重量%の範囲である。なお、本願発明のポリチオフェン(A)とポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)を含む導電性高分子水溶液は、塗布後、乾燥・脱水されるため、前記の濃度範囲で良好な均一膜を得ることができる。
【0092】
本発明の導電性高分子水溶液中の固形分の粒径は、特に限定するものではないが、小さいほど水溶性が良好であり、導電性や成膜時の均一な膜形成の観点からも望ましい。例えば、室温又は加温下で調製した導電性高分子水溶液の固形分濃度が10重量%以下の場合、固形分の粒子径(D50)が0.02μm以下であれば、水溶性がより良好となる。
【0093】
本発明の導電性高分子水溶液の粘度(20℃)は、200mPa・s以下であれば特に限定されないが、好ましくは100mPa・s以下、さらに好ましくは50mPa・s以下である。
【0094】
本発明の導電性高分子水溶液から導電性高分子膜を形成する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、本発明の導電性高分子水溶液を、支持体に塗布し乾燥することで支持体上に導電性高分子膜が簡便に得られる。
【0095】
支持体としては、本発明の導電性高分子水溶液が塗布可能なものであれば特に限定するものではないが、例えば、高分子基材又は無機基材が挙げられる。高分子基材としては、例えば、熱可塑性樹脂、不織布、紙、レジスト膜基板等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート等が挙げられる。不織布としては、例えば、天然繊維、合成繊維、又はガラス繊維製のいずれでもよい。紙としては一般的なセルロースを主成分とするものでよい。無機基材としては、ガラス、ITOなどの金属酸化物、セラミックス、酸化アルミニウム、酸化タンタル等が挙げられる。
【0096】
導電性高分子水溶液の塗布方法としては、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ディスペンサ法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、インクジェット法等が挙げられる。好ましくはバーコート法、スピンコート法である。
【0097】
塗膜の乾燥温度は、均一な導電性高分子膜が得られる温度及び基材の耐熱温度以下であれば特に限定するものではないが、室温〜300℃の範囲であり、好ましくは室温〜250℃の範囲であり、さらに好ましくは室温〜200℃の範囲である。
【0098】
乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下のいずれであってもよい。高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0099】
得られる導電性高分子膜の膜厚としては特に限定するものではないが、10−3〜10μmの範囲が好ましい。より好ましくは10−3〜10−1μmである。この導電性高分子膜の導電率としては特に限定するものではないが高い方が好ましい。また、導電性高分子膜の導電率は添加する界面活性剤又は水溶性樹脂の種類や添加量により変化するので一義的には決められないが、得られる導電性高分子膜の表面抵抗値としては特に限定するものではないが、1.0E+11Ω/□以下が好ましく、より好ましくは1.0E+9Ω/□以下であり、さらに好ましくは1.0E+7Ω/□以下である。表面抵抗値を測定する際の印加電圧は特に限定されないが、10V又は500Vで測定する。
【0100】
本発明の導電性高分子膜は、例えば、有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス素子として使用される。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子の正孔注入材料、正孔輸送材料、バッファー層として極めて有用である。有機エレクトロルミネッセンス素子については、蛍光発光性の有機EL素子だけでなく、消費電力の少ない燐光発光性の有機EL素子でも本発明の導電性高分子膜を適用可能である。
【0101】
なお、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、前記導電性高分子膜を備えていれば、素子構造は特に限定されない。
【0102】
本発明の導電性高分子膜については、膜の耐久性に優れる点で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂(B)と前記式(1)で表される構造単位及び前記式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A)の重量比、すなわち(B)/(A)で表される重量比が、0.05〜20を満たすものが好ましく、0.1〜15を満たすものがより好ましく、3〜12を満たすものがより好ましい。
【実施例】
【0103】
以下に本発明に関する実施例を示す。
【0104】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
[NMR測定]
装置:VARIAN製、Gemini−200
[表面抵抗率測定]
装置:三菱化学社製ロレスタGP MCP−T600
装置:三菱化学社製ハイレスタUX MCP−HT8000
[膜厚測定]
装置:BRUKER社製 DEKTAK XT
[粘度測定]
コンプリート型粘度計/BROOKFIELD VISCOMETER DV−1 Prime
導電率[S/cm]=10/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])
[自己ドープ型導電性高分子の導電率測定]
本発明の導電性高分子水溶液0.5mlを25mm角の無アルカリガラス板に塗布し、温で一晩乾燥した後、ホットプレート上で120℃にて20分、さらに160℃にて10分加熱して導電性高分子膜を得た。膜厚及び表面抵抗値から、以下の式に基づき算出した。
【0105】
合成例1.
3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム[下記式(6)で表される化合物]の合成.
窒素雰囲気下、100mlナス型フラスコに60%水素化ナトリウム 0.437g(10.9mmol)、トルエン 37mlを仕込んだ後、(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b][1,4]ジオキシン−2−イル)メタノール 1.52g(8.84ml)を添加した。その後、反応液を還流温度に昇温させ同温度で1時間攪拌した。その後、2,4−ブタンスルトン 1.21g(8.89mmol)とトルエン 10mlとからなる混合液を滴下し、同温度で2時間攪拌した。冷却後、得られた反応液をアセトン 160mlに滴下し再沈を行った。得られた粉末を濾過し、真空乾燥させることで1.82gの淡黄色粉末を収率62%で得た。NMR測定から、これが下記式(6)で表される3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムであることを確認した。
【0106】
【化14】
【0107】
1H−NMR(DO)δ(ppm);6.67(s,2H),4.54−4.60(m,1H),4.45(dd,1H,J=12.0,2.2Hz),4.26(dd,1H,J=12.0,6.8Hz),3.90−3.81(m,4H),3.10−3.18(m,1H),2.30−2.47(m,1H),1.77−1.92(m,1H),1.45(d,3H)
13C−NMR(D2O)δ(ppm);14.91,31.22,53.13,66.18,69.18,73.29,73.36,100.81,100.94,140.88,141.06
合成例2.
ポリチオフェン(A)[下記式(7)又は下記式(8)で表される構造単位を含む重合体]の合成.
500mlセパラブルフラスコに、合成例1に準じて合成した3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム 10g(30mmol)と水 150gを加えた。溶解後、室温下、無水塩化鉄(III) 2.94g(18.1mmol)を加えて20分攪拌した。その後、過硫酸ナトリウム 14.5g(60.4mmol)と水 100gからなる混合溶液を反応液温度が30℃以下を保持しながら滴下した。室温で3時間攪拌したのち、反応液を800gのアセトンに滴下させ黒色のNa型のポリマーを析出させた。ポリマーを濾過・真空乾燥することで、18.0gの3−[(2,3−ジヒドロチエノ[3,4−b]−[1,4]ジオキシン−2−イル)メトキシ]−1−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウムの粗ポリマーを得た。
【0108】
次に、この粗ポリマー 14.5gに水を加え2重量%溶液に調製した水溶液 700gを、陽イオン交換樹脂Lewatit MonoPlus S100(H型) 200mlを充填したカラムに通液(空間速度=1.1)することによりH型のポリマー水溶液を738g得た。更に、本ポリマー水溶液をクロスフロー式限外ろ過(ろ過器=ビバフロー200、分画分子量=5,000、透過倍率=5)により精製することにより下記式(7)又は式(8)で表される構造単位を含む重合体の濃群青色水溶液 698gを得た。本ポリマー水溶液に含まれるポリマー量は0.74重量%であった。又、鉄イオン、及びナトリウムイオンを、各々44ppm、及び12ppm(対ポリマー)含有していた。
【0109】
【化15】
【0110】
【化16】
【0111】
合成例3.
ポリチオフェン(A)[下記式(9)又は下記式(10)で表される構造単位を含む重合体]の合成.
合成例2に準じて得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体]水溶液を攪拌下、50重量%のN,N―ジメチルアミノエタノール水溶液を前記水溶液がpH7.8になるまで添加し、次いで固形分が2重量%になるように水を蒸発させてポリマー水溶液を得た。本ポリマー水溶液の導電率は119S/cmだった。
【0112】
【化17】
【0113】
【化18】
【0114】
実施例1.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を2.0重量%含む水溶液 11.25gに、ポリアクリル酸(分子量100,000)を2.0重量%含む水溶液 15.00g、水 3.750gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−01を調合した。水溶液HIM−01の組成は、導電性高分子(A)が0.70重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が0.93重量%であった。
【0115】
実施例2.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を2.0重量%含む水溶液 14.00gに、ポリアクリル酸(分子量100,000)を2.0重量%含む水溶液 14.00gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−02を調合した。水溶液HIM−02の組成は、導電性高分子(A)が0.80重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が0.80重量%であった。
【0116】
実施例3.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を2.0重量%含む水溶液 11.25gに、ポリアクリル酸(分子量100,000)を20重量%含む水溶液 5.620g、水 13.13gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−03を調合した。水溶液HIM−03の組成は、導電性高分子(A)が0.32重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が1.60重量%であった。
【0117】
実施例4.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を2.0重量%含む水溶液 11.25gに、ポリアクリル酸(分子量100,000)を20重量%含む水溶液 9.000g、水 9.750gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−04を調合した。水溶液HIM−04の組成は、導電性高分子(A)が0.26重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が2.07重量%であった。
【0118】
実施例5.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を2.0重量%含む水溶液 11.25gに、ポリアクリル酸(分子量100,000)を20重量%含む水溶液 11.25g、水 7.500gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−05を調合した。水溶液HIM−05の組成は、導電性高分子(A)が0.23重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が2.30重量%であった。
【0119】
実施例6(導電率測定)
実施例1で調製したポリチオフェン系化合物を含有する水溶液HIM−01を孔径0.4μmのフィルターでろ過し、スピンコート法(1000rpm、180秒)によって25mm角の無アルカリガラス板に塗布し、180℃で30分間乾燥し、膜厚70nm薄膜を得た。膜厚及び表面抵抗率から、以下の式に基づき導電率を算出した。なお、表面低効率は三菱化学社製ハイレスターUP MCP−HT450を用いて測定した。
導電率[S/cm]=10^4/(表面抵抗率[Ω/□]×膜厚[μm])。
【0120】
その結果、得られた薄膜の導電率は1S/cmであった。
【0121】
実施例7(導電率測定)
実施例6において、水溶液HIM−01の代わりに実施例2で調製した水溶液HIM−02を用いた他は、実施例6と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0122】
実施例8(導電率測定)
実施例6において、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から150℃に変更した以外は、実施例6と同様に素子を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0123】
実施例9(導電率測定)
実施例6において、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から130℃に変更した以外は、実施例6と同様に素子を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0124】
実施例10(導電率測定)
実施例8において、水溶液HIM−01の代わりに実施例3で調製した水溶液HIM−03を用いた他は、実施例8と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1
に示した。
【0125】
実施例11(導電率測定)
実施例8において、水溶液HIM−01の代わりに実施例4で調製した水溶液HIM−04を用いた他は、実施例8と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0126】
実施例12(導電率測定)
実施例8において、水溶液HIM−01の代わりに実施例5で調製した水溶液HIM−05を用いた他は、実施例8と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0127】
比較例1(導電率測定)
実施例6において、水溶液HIM−01の代わりに、PEDOT:PSS溶液(ヘレウス社製Clevios P VP AI4083)を用いた他は、実施例6と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0128】
実施例23.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を1.0重量%含む水溶液 11.25gに、ポリアクリル酸(分子量100,000)を20重量%含む水溶液 11.25g、水 7.500gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−06を調合した。水溶液HIM−06の組成は、導電性高分子(A)が0.09重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が1.85重量%であった。
【0129】
実施例24.
合成例2で得られたポリチオフェン(A)[前記式(7)又は前記式(8)で表される構造単位を含む重合体][導電率54S/cm]を1.0重量%含む水溶液 11.25gに、ポリアクリル酸(分子量250,000)を20重量%含む水溶液 11.25g、水 7.500gを加えてよく攪拌混合した後、さらに所定の膜厚となるように適宜水で希釈して水溶液HIM−07を調合した。水溶液HIM−07の組成は、導電性高分子(A)が0.08重量%で、ポリアクリル酸系水溶性樹脂が1.67重量%であった。
【0130】
実施例25(導電率測定)
実施例6において、水溶液HIM−01の代わりに実施例23で調製した水溶液HIM−06を用い、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から210℃に変更した他は、実施例6と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0131】
実施例26(導電率測定)
実施例25において、スピンコート膜の乾燥温度を210℃から240℃に変更した他は、実施例25と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0132】
実施例27(導電率測定)
実施例25において、水溶液HIM−06の代わりに実施例24で調製した水溶液HIM−07を用いた他は、実施例25と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0133】
実施例28(導電率測定)
実施例27において、スピンコート膜の乾燥温度を210℃から240℃に変更した他は、実施例27と同様に薄膜を作製して導電率を算出した。評価結果を表1に示した。
【0134】
【表1】
【0135】
実施例13(素子の作製と評価)
厚さ200nmのITO透明電極(陽極)を積層したガラス基板をアセトンおよび純水による超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる沸騰洗浄を行った。さらに紫外線オゾン洗浄を行った。
【0136】
実施例1で調製したポリチオフェン系化合物を含有する水溶液HIM−01を孔径0.4μmのフィルターでろ過し、スピンコート法(1000rpm、180秒)によって塗布し、180℃で30分間乾燥した。その結果、70nmの正孔注入層が成膜された。
【0137】
次に、真空蒸着装置へ設置後、1.0×10−4Pa以下になるまで真空ポンプにて排気した。続いて、正孔輸送層用材料であるN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)を真空蒸着法により50nmの膜厚で成膜し、正孔輸送層を形成した。更に、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3)を真空蒸着法により50nmの膜厚で成膜し、発光層兼電子輸送層を形成した。
【0138】
引き続き、陰極としてLiFを1nm、アルミニウムを100nm成膜して金属電極を形成した。なお、それぞれの膜厚は触針式膜厚測定計(DEKTAK)で測定した。
【0139】
更に、窒素雰囲気下、封止用のガラス板をUV硬化樹脂で接着し、評価用の有機EL素子とした。
【0140】
このように作製した素子に10mA/cmの電流を印加し、駆動電圧を測定した。また、一定電流印加して初期輝度を1000cd/mとし、輝度が初期輝度の70%まで低下した時間をLT70として評価した。なお、LT70の値が大きい程、耐久性が良好であることを意味する。評価結果を表2に示した。
【0141】
実施例14(素子の作製と評価)
実施例13において、水溶液HIM−01の代わりに実施例2で調製した水溶液HIM−02を用いた他は、実施例13と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0142】
実施例15(素子の作製と評価)
実施例13において、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から150℃に変更した以外は、実施例13と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0143】
実施例16(素子の作製と評価)
実施例13において、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から130℃に変更した以外は、実施例13と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0144】
実施例17(素子の作製と評価)
実施例15において、水溶液HIM−01の代わりに実施例3で調製した水溶液HIM−03を用いた他は、実施例15と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0145】
実施例18(素子の作製と評価)
実施例15において、水溶液HIM−01の代わりに実施例4で調製した水溶液HIM−04を用いた他は、実施例15と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0146】
実施例19(素子の作製と評価)
実施例15において、水溶液HIM−01の代わりに実施例5で調製した水溶液HIM−05を用いた他は、実施例15と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0147】
比較例2(素子の作製と評価)
実施例13において、水溶液HIM−01の代わりに、PEDOT:PSS溶液(ヘレウス社製Clevios P VP AI4083)を用いた他は、実施例13と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0148】
なお、実施例13〜実施例19における測定結果については、比較例2の測定値を100として規格化して表示した。駆動電圧は発光に必要な電圧を表し、低ければ低いほど産業利用上優れる。LT70は発光素子寿命を表し、高ければ高いほど長寿命で産業利用上優れる。
【0149】
実施例29(素子の作製と評価)
実施例13において、水溶液HIM−01の代わりに実施例23で調製した水溶液HIM−06を用い、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から210℃に変更した他は、実施例13と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0150】
実施例30(素子の作製と評価)
実施例29において、スピンコート膜の乾燥温度を210℃から240℃に変更した他は、実施例29と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0151】
実施例31(素子の作製と評価)
実施例29において、水溶液HIM−06の代わりに実施例24で調製した水溶液HIM−07を用いた他は、実施例29と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0152】
実施例32(素子の作製と評価)
実施例31において、スピンコート膜の乾燥温度を210℃から240℃に変更した他は、実施例31と同様に素子を作製して駆動電圧およびLT70を測定した。評価結果を表2に示した。
【0153】
なお、実施例29〜実施例32における測定結果については、比較例2の測定値を100として規格化して表示した。駆動電圧は発光に必要な電圧を表し、低ければ低いほど産業利用上優れる。LT70は発光素子寿命を表し、高ければ高いほど長寿命で産業利用上優れる。
【0154】
【表2】
【0155】
従って、本発明のポリチオフェン系化合物及びポリアクリル酸系水溶性樹脂を含有する導電性高分子水溶液は、従来公知の導電性高分子組成物に比べて、高温プロセスだけでなく、低温プロセスでも、耐久性が高い有機ルミネッセンス素子を提供することができる。
【0156】
実施例20(素子の作製と評価)
厚さ150nmのITO透明電極(陽極)を積層したガラス基板をアセトンおよび純水による超音波洗浄、イソプロピルアルコールによる沸騰洗浄を行った。さらに紫外線オゾン洗浄を行った。
【0157】
実施例4で調製したポリチオフェン系化合物を含有する水溶液HIM−04を孔径0.4μmのフィルターでろ過し、スピンコート法(4000rpm、30秒)によって塗布し、180℃で30分間乾燥した。その結果、40nmの正孔注入層が成膜された。
【0158】
次に、真空蒸着装置へ設置後、1.0×10−4Pa以下になるまで真空ポンプにて排気した。続いて、正孔輸送層用材料であるN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)を真空蒸着法により40nmの膜厚で成膜し、正孔輸送層を形成した。更に、燐光ドーパント材料であるトリス(2−フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))とホスト材料である4,4’−ビス(N−カルバゾリル)ビフェニル(CBP)を重量比が0.07:1になるように蒸着速度1〜2Å/秒で共蒸着し、30nmの発光層とした。
【0159】
次に、BAlq(ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(p−フェニルフェノラト)アルミニウム)を蒸着法により10nmの膜厚で成膜し、電子ブロック層とした後、さらにAlq(トリス(8−キノリノラト)アルミニウム)を蒸着法により30nmの膜厚で成膜し、電子輸送層とした。引き続き、陰極として8−ヒドロキシキノリノラト−リチウムを1nm、アルミニウムを150nm成膜して金属電極を形成した。窒素雰囲気下、封止用のガラス板をUV硬化樹脂で接着し、評価用の有機EL素子とした。
【0160】
このように作製した素子に13.8mA/cmの電流を印加し、駆動電圧、電流効率を測定した。また、一定電流印加して初期輝度を3000cd/mとし、輝度が初期輝度の50%まで低下した時間をLT50として評価した。評価結果を表3に示した。
【0161】
実施例21(素子の作製と評価)
実施例20において、スピンコート膜の乾燥温度を180℃から150℃に変更した以外は、実施例20と同様に素子を作製して駆動電圧、電流効率およびLT50を測定した。評価結果を表3に示した。
【0162】
実施例22(素子の作製と評価)
実施例21において、スピンコート膜の乾燥時間を30分から15分に変更した以外は、実施例21と同様に素子を作製して駆動電圧、電流効率およびLT50を測定した。評価結果を表3に示した。
【0163】
比較例3(素子の作製と評価)
実施例20において、水溶液HIM−01の代わりに、PEDOT:PSS溶液(ヘレウス社製Clevios P VP AI4083)を用いた他は、実施例20と同様に素子を作製して駆動電圧、電流効率およびLT50を測定した。評価結果を表3に示した。
【0164】
なお、実施例20〜実施例22における測定結果については、比較例3の測定値を100として規格化して表示した。電流効率は、単位電流量に対する輝度を表し、高ければ高いほど、産業利用上優れる。
【0165】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明の導電性高分子水溶液は、さらに本導電性高分子水溶液は、良好な正孔輸送性(注入性)と耐久性を有する高分子膜を形成可能であり、それらを用いた有機エレクトロニクス素子、有機光電変換素子、有機エレクトロルミネッセンス素子は素子寿命が改善された耐久性のある素子が作製可能である。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子においては、蛍光発光性の有機EL素子だけでなく、消費電力の少ない燐光発光性の有機EL素子も提供することができる。
【0167】
この水溶液は、また、ガラスや金属などの基材以外にも、高分子基材への濡れ性が良く、ハジキや斑なく塗布が可能である。従って、各種基材への導電性コーティング剤(帯電防止剤)、固体電解コンデンサの固体電解質(陰極材料)などに使用できる。またこの導電性高分子膜で被覆された高分子基材からなる被覆物品は、帯電防止フィルム、固体電解コンデンサの固体電解質、巻回型アルミ電解コンデンサ用のセパレータへの利用が可能である。その他、エレクトロクロミック素子、透明電極、透明導電膜、熱電変換材料、化学センサ、アクチュエータ、電磁波シールド材、有機ELや太陽電池等の電極材料であるITO等の金属酸化物の表面コーティング材等への応用も期待できる。