(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919247
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】アルミニウム箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20210805BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20210805BHJP
C25D 1/20 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
C25D1/04
C25D1/00 B
C25D1/00 Z
C25D1/20
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-53963(P2017-53963)
(22)【出願日】2017年3月21日
(65)【公開番号】特開2018-154886(P2018-154886A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2019年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 篤志
(72)【発明者】
【氏名】松田 純一
【審査官】
大塚 美咲
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−031551(JP,A)
【文献】
特開2001−200388(JP,A)
【文献】
特開2012−246561(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C25D 1/00
C25D 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
めっき処理可能な所定の温度に加温された電気アルミニウムめっき液に、陰極ドラムの外周の一部および陽極部材を浸漬し、前記陰極ドラムと前記陽極部材との間に電流を印加するとともに、前記陰極ドラムを回転させることで、前記陰極ドラムの外周の電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、前記めっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を前記陰極ドラムから剥離することによる、アルミニウム箔の製造方法であって、回転する前記陰極ドラムを加熱されたガスを噴射することで加熱し、この時、加熱されたガスの噴射量が、電析領域の陰極ドラム軸方向の中央部よりも両端部の方が多くなるようにし、アルミニウム被膜が剥離された前記陰極ドラムの電析領域が前記めっき液に進入する際、前記電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、前記めっき液のめっき処理可能な温度に加熱された状態で進入するようにすることを特徴とするアルミニウム箔の製造方法。
【請求項2】
加熱されたガスの噴射量が、電析領域の陰極ドラム軸方向の中央部よりも両端部の方が多くなるようにすることを、電析領域の陰極ドラム軸方向に沿って加熱されたガスを供給するガス供給口を複数配置し、その配置ピッチをドラムの両端部に行くほど密にすることで行うことを特徴とする請求項1記載のアルミニウム箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気アルミニウムめっきを利用してアルミニウム箔(電解アルミニウム箔)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気アルミニウムめっきによって基材の表面に形成したアルミニウム被膜を基材から剥離することでアルミニウム箔を製造する方法は、圧延法では製造することができない薄さの箔を製造することができるといった利点がある。しかしながら、アルミニウムの電析電位は、水素発生の電位よりも卑であるため、銅やニッケルなどの他の金属と違って、水溶液からアルミニウムを電析することは不可能である。従って、電気アルミニウムめっきは、非水溶媒を用いためっき液を用いて行われる。電気アルミニウムめっき液としては、例えば、ジメチルスルホンなどのジアルキルスルホンを非水溶媒として用い、アルミニウム源として塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウムと、ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:R
1R
2R
3R
4N・X(R
1〜R
4は同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩などの含窒素化合物を少なくとも含むものが知られている(特許文献1)。こうしためっき液の中には、液温の変化によって冷えると液状性を失ったり固化したりするものがある。そうしためっき液を用いためっき処理は、めっき液を常時、めっき処理可能な温度に加温して行う必要がある。
【0003】
電解アルミニウム箔を工業的規模で製造する場合、基材の表面にアルミニウム被膜を形成する工程と当該被膜を基材から剥離する工程は、バッチ的に行うよりも、陰極ドラムを利用して連続的に行うことが望ましい。陰極ドラムを利用した電解アルミニウム箔の製造は、例えば、めっき処理可能な所定の温度に加温された電気アルミニウムめっき液に、陰極ドラムの外周の一部および陽極部材を浸漬し、陰極ドラムと陽極部材との間に電流を印加するとともに、陰極ドラムを回転させることで、陰極ドラムの外周の電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、めっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を陰極ドラムから剥離することによるものであり、例えば特許文献2に記載されているような電解金属箔製造装置を用いて行うことができる。
【0004】
しかしながら、こうした装置を用いた場合でも、製造されたアルミニウム箔に、時として焼け(箔が黒ずんでしまう現象)や欠損が発生することが、本発明者らの検討により判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5403053号公報
【特許文献2】特開平6−93490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、箔の焼けや欠損の発生を防止することができる、電解アルミニウム箔の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、陰極ドラムを利用して、冷えると液状性を失ったり固化したりする電気アルミニウムめっき液を、めっき処理可能な温度に加温してアルミニウム箔を製造した際に、箔に焼けや欠損がなぜ発生するのかについて調べ、次の事実を突き止めた。用いるめっき液のめっき処理可能な所定の温度、例えば60℃〜140℃の範囲内の温度に加温されためっき液中に位置する陰極ドラムの外周の電析領域は、加温されためっき液によって加熱された状態にあるが、当該部分は、陰極ドラムの回転によって気層中に移動すると、放熱によって冷却される。当該部分が、例えば用いるめっき液のめっき処理可能な温度を下回る温度にまで冷却され、その状態で、陰極ドラムのさらなる回転によって再びめっき液に進入すると、当該部分とめっき液との間に大きな温度差が生じる。この温度差により、両者の間での電極界面抵抗が不安定になることが原因で、アルミニウムの安定な電析が阻害され、結果として箔の焼けや欠損の発生を引き起こす。また、陰極ドラムの外周の電析領域の陰極ドラム軸方向の両端部は、陰極ドラムの回転軸や側面部分からの抜熱量が多いため(とりわけ軸方向の寸法が1000mmを超える陰極ドラムや、直径が300mm以上の側面部分の面積が大きい陰極ドラムなど)、その中央部よりも冷却の程度が大きいことで、箔の焼けや欠損は当該両端部において顕著に発生する。
【0008】
上記の知見に基づいてなされた本発明は、請求項1記載の通り、めっき処理可能な所定の温度に加温された電気アルミニウムめっき液に、陰極ドラムの外周の一部および陽極部材を浸漬し、前記陰極ドラムと前記陽極部材との間に電流を印加するとともに、前記陰極ドラムを回転させることで、前記陰極ドラムの外周の電析領域にアルミニウムを電析させてアルミニウム被膜を形成し、前記めっき液の液面からせり上がったアルミニウム被膜を前記陰極ドラムから剥離することによる、アルミニウム箔の製造方法であって、回転する前記陰極ドラムを
加熱されたガスを噴射することで加熱し、
この時、加熱されたガスの噴射量が、電析領域の陰極ドラム軸方向の中央部よりも両端部の方が多くなるようにし、アルミニウム被膜が剥離された前記陰極ドラムの電析領域が前記めっき液に進入する際、前記電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、前記めっき液のめっき処理可能
な温度に加熱された状態で進入するようにすることを特徴とする
。
また、請求項
2記載のアルミニウム箔の製造方法は、請求項
1記載のアルミニウム箔の製造方法において、加熱されたガスの噴射量が、電析領域の陰極ドラム軸方向の中央部よりも両端部の方が多くなるようにすることを、電析領域の陰極ドラム軸方向に沿って加熱されたガスを供給するガス供給口を複数配置し、その配置ピッチをドラムの両端部に行くほど密にすることで行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、陰極ドラムが回転することで、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの外周の電析領域が、めっき処理可能な所定の温度に加温されためっき液に進入する際、当該部分とめっき液との間の温度差がないか、あっても僅かである。従って、両者の間の温度差に起因して、アルミニウムの電析が不安定になることを回避することができることで、製造されるアルミニウム箔に焼けや欠損が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の方法によって電解アルミニウム箔を製造するために利用することができる、電解アルミニウム箔製造装置の一例の内部構造を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の電解アルミニウム箔の製造方法において、回転する陰極ドラムを加熱し、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域がめっき液に進入する際、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱された状態で進入するようにする方法は、特段限定されるものではない。その一例を挙げれば、めっき液に進入する直前の、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱する方法がある。
【0012】
図1は、めっき液に進入する直前の、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱することができる加熱手段を備えた電解アルミニウム箔製造装置の一例の内部構造を模式的に示す正面図である。
図1に示す電解アルミニウム箔製造装置1は、蓋部1a、電解槽1b、陰極ドラム1c、陽極部材1d、ガイドロール1e、箔引出し口1f、ガス供給口1g、ヒータ電源1h、ヒータ1i、めっき液循環装置1j、天井部1k、撹拌流ガイド1m、撹拌羽根1n、図略の直流電源を備えている。陰極ドラム1cは、チタンから構成され、電解槽1bに貯留されためっき液Lに一部が浸漬するように配設されている。陽極部材1dは、アルミニウムから構成され、めっき液Lの液中において陰極ドラム1cの外周の電析領域に対向して配設されている(アルミニウムの純度は99.0%以上が望ましい)。陰極ドラム1cと陽極部材1dは、直流電源に接続されており、両者に通電しながら、陰極ドラム1cを一定速度で回転させることで、陰極ドラム1cのめっき液Lに浸漬した電析領域にアルミニウム被膜が形成される。通電中、めっき液Lは、ヒータ電源1hに接続されたヒータ1iにより所定のめっき処理温度に加温されて保持される。同時に、めっき液Lは、撹拌羽根1nの回転により撹拌され、撹拌流ガイド1mによって陰極ドラム1cと陽極部材1dとの間にめっき液Lの均質な流れを発生させることで、陰極ドラム1cの電析領域に均質なアルミニウム被膜を形成することができる。
【0013】
陰極ドラム1cをさらに回転させると、陰極ドラム1cの電析領域に形成されたアルミニウム被膜は、めっき液Lの液面からせり上がるとともに、陰極ドラム1cの新たにめっき液Lに浸漬した電析領域に新たなアルミニウム被膜が形成される。めっき液Lの液面からせり上がったアルミニウム被膜は、その端部がガイドロール1eに誘導されて陰極ドラム1cから剥離されることで、電解アルミニウム箔Fとして装置の側面に設けた箔引出し口1fから装置の外部に引き出される。こうして陰極ドラム1cの電析領域へのアルミニウム被膜の形成と当該被膜の陰極ドラム1cからの剥離を連続的に行い、装置の外部に引き出された電解アルミニウム箔Fは、箔の表面に付着しているめっき液を除去するためにすぐに水洗された後に乾燥され、各種の用途に供される。
【0014】
電解アルミニウム箔製造装置1は、めっき液Lに進入する直前の、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラム1cの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を、ガス供給口1gから加熱されたガスGを噴射することで、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱することができる。ガスGは、例えば窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスが望ましい。ガスGの加熱の程度は、用いるめっき液Lのめっき処理可能な温度に応じて適宜設定すればよい。
【0015】
上述した通り、陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の両端部は、陰極ドラムの回転軸や側面部分からの抜熱量が多いため、その中央部よりも冷却の程度が大きいが、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱されていれば、両端部の温度が中央部の温度よりも低くても構わない。しかしながら、より均質なアルミニウム箔を製造するためには、両端部の温度が中央部の温度と同じであること、即ち、陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が均一な温度になるように加熱することが望ましい。陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が均一な温度になるように加熱する方法としては、ガス供給口1gからの加熱されたガスGの噴射量を、中央部よりも両端部の方が多くなるようにする方法が挙げられる。陰極ドラムの回転軸や側面部分に断熱材を設置したり、軸方向の寸法が短縮された陰極ドラム(例えば軸方向の寸法が1000mm以下のもの)を採用したりすることも効果的である。また、さらにより均質なアルミニウム箔を製造するためには、めっき液に進入する直前の、陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を、その温度が、めっき液のめっき処理温度と同じ乃至略同じになるように加熱することが望ましい。
【0016】
なお、回転する陰極ドラムを加熱し、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域がめっき液に進入する際、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱された状態で進入するようにする方法は、陰極ドラムの電析領域の陰極ドラム軸方向の全域を、陰極ドラムの頂点で加熱する方法であってもよい。気層中に位置するアルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域のうち、最も冷却されて温度が低下する箇所は、めっき液の液面から最も遠い箇所、即ち、陰極ドラムの頂点である。従って、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域がめっき液に進入する際、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱された状態で進入するようにするためには、陰極ドラムの頂点を加熱することが効果的である。陰極ドラムの頂点を加熱することで、陰極ドラムの頂点にあった電析領域は、陰極ドラムの回転によってめっき液に近づくにつれて、めっき液からの輻射熱によりさらに加熱され、めっき液に進入する。
【0017】
気層中に位置する陰極ドラムの電析領域が、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱された状態で、めっき液に進入するようにするために、陰極ドラムの頂点を加熱する程度は、陰極ドラムの材質や寸法(軸方向の寸法や周方向の寸法、ドラムの厚みなど)に加え、その表面にアルミニウム被膜を形成するためのめっき処理条件、例えば、印加する電流や陰極ドラムの回転速度などに応じて適宜決定することができる。しかしながら、工業的規模で陰極ドラムの電析領域にアルミニウム被膜を形成することを想定した場合、具体的には、例えば、直径が300mm〜3000mmであって、熱伝導率が約17W/mKのチタンから構成される陰極ドラムを、0.02rpm〜0.3rpmの回転速度で回転させながら、100mA/cm
2〜5000mA/cm
2の電流を印加することで、陰極ドラムの電析領域にアルミニウム被膜を形成することを想定した場合、陰極ドラムの頂点とめっき液との間の温度差が40℃以内になるように、陰極ドラムの頂点を加熱することが望ましい。
【0018】
また、回転する陰極ドラムを加熱し、アルミニウム被膜が剥離された陰極ドラムの電析領域がめっき液に進入する際、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域が、めっき液のめっき処理可能な温度に加熱された状態で進入するようにする方法は、空洞である陰極ドラムの内面にヒータ線などを貼付し、ドラム全体を内側から加熱する方法や、装置の上部内面にヒータ線などを貼付し、陰極ドラムの頂点をその上方から加熱する方法、陰極ドラムの頂点の上方に加熱ランプを設置して加熱する方法などであってもよい。
【0019】
陰極ドラムの電析領域にアルミニウム被膜を形成することを開始するにあたっては、めっき液をめっき処理可能な所定の温度まで加熱するとともに、静止した状態の陰極ドラムのめっき液に進入する直前の電析領域を、めっき液のめっき処理可能な温度まで加熱した後、陰極ドラムを回転させるとともに、所定の電流を印加することで、電解アルミニウム箔の製造開始当初における箔の焼けや欠損の発生を効果的に防止することができる。
【0020】
本発明の方法が採用される電気アルミニウムめっき液は、自体公知のものであってよく、例えば特許文献1に記載の、ジメチルスルホンなどのジアルキルスルホンを非水溶媒として用い、アルミニウム源として塩化アルミニウムなどのハロゲン化アルミニウムと、ハロゲン化アンモニウム、第一アミンのハロゲン化水素塩、第二アミンのハロゲン化水素塩、第三アミンのハロゲン化水素塩、一般式:R
1R
2R
3R
4N・X(R
1〜R
4は同一または異なってアルキル基、Xは第四アンモニウムカチオンに対するカウンターアニオンを示す)で表される第四アンモニウム塩などの含窒素化合物を少なくとも含むものが挙げられる。用いるめっき液のめっき処理可能な温度は、めっき液の組成や融点、陰極ドラムの表面にアルミニウム被膜を形成するためのめっき処理条件などに応じて適宜設定されるものであり、アルミニウムの電析が安定な温度範囲を意味する。アルミニウムの電析の安定性は、例えば、製造されたアルミニウム箔を目視し、粒状電析、焼け、欠損、着色などの不具合の有無を検査するという当業者にとって慣用的な方法で評価することができる。上記の通り、用いるめっき液のめっき処理可能な温度は、めっき液の組成や融点、めっき処理条件などに応じて適宜設定されるものであるが、例えば特許文献1に記載のめっき液の場合、その下限温度と上限温度は、通常、60℃〜140℃の範囲内の温度である。
【0021】
本発明の方法によって焼けや欠損の発生が防止されて製造される電解アルミニウム箔は、例えば、アルミニウムの含量が98.00mass%以上、厚みが1μm〜20μmのものであってよい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定して解釈されるものではない。
【0023】
図1に示す電解アルミニウム箔製造装置を用い、直径が330mmで軸方向の寸法が700mmの外周を有し、チタンから構成される陰極ドラムを、0.1rpmの回転速度で回転させながら、1000mA/cm
2の電流を印加することで、陰極ドラムの外周の電析領域にアルミニウム被膜を形成し、形成されたアルミニウム被膜を陰極ドラムから剥離することで、電解アルミニウム箔を製造した。電気アルミニウムめっき液は、ジメチルスルホン10molに対して3.8molの無水塩化アルミニウムと0.1molのトリメチルアミン塩酸塩を混合して調製した融点が25℃以下のものを、約110℃に加温して用いた。このめっき液のめっき処理可能な温度は、60℃〜140℃の範囲内の温度であった(製造されたアルミニウム箔を目視し、粒状電析、焼け、欠損、着色などの不具合の有無を検査するアルミニウムの電析の安定性評価による)。
【0024】
まず、陰極ドラムの軸方向に沿って複数配置したガス供給口1gから、ガスを供給することなく、電解アルミニウム箔の製造を開始したところ、製造された電解アルミニウム箔に焼けや欠損が散見された。気層中に位置する陰極ドラムの電析領域がめっき液に進入する直前の、当該部分の温度を測定したところ、電析領域の陰極ドラム軸方向の両端が、60℃に達していなかった。また、このときの陰極ドラムの頂点の温度は70℃を下回っていた。
【0025】
次に、陰極ドラムの軸方向に沿って複数配置したガス供給口1gから、約100℃に加熱した窒素ガスを供給しながら(ガス供給口1gの配置ピッチをドラムの両端部に行くほど密にすることで両端部の加熱を強化)、電解アルミニウム箔の製造を開始したところ、製造された電解アルミニウム箔に焼けや欠損は散見されなかった。気層中に位置する陰極ドラムの電析領域がめっき液に進入する直前の、当該部分の温度を測定したところ、電析領域の陰極ドラム軸方向の全域にわたって、めっき処理温度である約110℃であった。また、このときの陰極ドラムの頂点の温度は70℃を超えていた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、箔の焼けや欠損の発生を防止することができる、電解アルミニウム箔の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0027】
1 電解アルミニウム箔製造装置
1a 蓋部
1b 電解槽
1c 陰極ドラム
1d 陽極部材
1e ガイドロール
1f 箔引出し口
1g ガス供給口
1h ヒータ電源
1i ヒータ
1j めっき液循環装置
1k 天井部
1m 撹拌流ガイド
1n 撹拌羽根
F 電解アルミニウム箔
G ガス
L めっき液