(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の基板処理方法の一実施形態について、例えばSiにより構成される基板であるウエハWの表面の縦断側面を示した
図1、
図2の工程図を参照しながら説明する。先ず、ウエハWの表面をなすSi層11上にTiN(窒化チタン)膜12が形成される(
図1(a))。その後、TiN膜12上にSiN(窒化シリコン)膜13が形成される(
図1(b))。なお、本明細書では窒化シリコンについて、Si及びNの化学量論比に関わらずSiNと記載する。従ってSiNという記載には、例えばSi
3N
4が含まれる。続いて、このSiN膜13の表層が酸化されて、当該表層が限定的にSiONにより構成された酸化層14とされる(
図1(c))。
【0011】
その後、この酸化層14上にレジスト膜が形成され、当該レジスト膜が露光された後、現像されて、当該レジスト膜にレジストパターンが形成される。然る後、レジストパターンに沿ってSiN膜13及び酸化層14がエッチングされることによって、これらSiN膜13及び酸化層14に開口部15が形成される。また、この開口部15の形成の後か、あるいは開口部15の形成に並行してレジスト膜が除去される(
図2(d))。この
図2(d)に示すように、開口部15を介してTiN膜12がウエハWの表面に露出することで、ウエハWの表面には酸化層14及びTiN膜12が共に露出した状態となる。SiN膜13及び酸化層14は、被エッチング膜であるTiN膜12をエッチングするためのマスクであり、従って、開口部15は当該マスクに形成されるマスクパターンをなす。
【0012】
然る後、Cl(塩素)系ガスがエッチングガスとしてウエハWに供給され、TiN膜12がエッチングされて、当該TiN膜12に開口部16が形成され、例えばSi層11が露出する(
図2(e))。Cl系のガスとはClを含むガスであり、具体的には例えば、塩素(Cl
2)、塩化水素(HCl)、ジクロロシラン(DCS)、テトラクロロシラン(SiCl
4)、ヘキサクロロジシラン(Si
2Cl
6)、トリクロロシラン(SiHCl
3)、三塩化ホウ素(BCl
3)などである。
【0013】
上記のようにSiN膜13の表面部を酸化層14とした上で、Cl系ガスによるTiN膜12のエッチングを行う理由について詳しく説明する。SiN膜13を構成するSiとNとの結合エネルギーは4.5eVであり、SiとClとの結合エネルギーである4.21eVに近い値である。従って、仮に酸化層14を形成せずに上記のエッチングガスをウエハWに供給してTiN膜12をエッチングする場合、SiN膜13中におけるSiとNとの間の結合の切断、及びSiN膜13中におけるSiとエッチングガス中のClとの結合が比較的起りやすい。つまり、SiN膜13がSiCl
4となってウエハWからエッチングされやすいということである。
【0014】
しかし、酸化層14であるSiONにおけるSiとOとの間の結合エネルギーは8.29eVであり、SiとClとの結合エネルギーである4.21eVより大きい。従って酸化層14については上記のエッチングガスに含まれるClとの反応性が低いため、当該酸化層14はエッチングされ難い。従って、上記のように酸化層14を形成することで、当該SiN膜13がエッチングされることを防ぎつつ、TiN膜12をエッチングすることができる。つまり、酸化層14を形成することで、SiN膜に対するTiN膜のエッチングの選択比を大きくすることができる。
【0015】
なお、SiN膜13のすべてを酸化層14としてもよい。ただし、酸化されることでSiNの特性は変化する。一例を挙げると、フッ酸に対するエッチング耐性が低くなる。従って、SiN膜としての特性を担保しつつ、エッチングガスによるエッチングを防ぐためには、上記のようにSiN膜13の表層のみを酸化することが好ましい。例えば、
図1に示すように酸化層14の厚さをL1、酸化層14を形成する前のSiN膜の膜厚をL2とすると、L1/L2≦1/3となるように処理を行うことが好ましい。
【0016】
図3は、上記の一連の処理を行うシステム10のブロック図である。システム10は、成膜装置2、レジストパターン形成装置17及びエッチング装置7により構成されており、ウエハWはキャリアに格納された状態でこの順番に各装置を搬送されて処理を受ける。成膜装置2は、
図1(a)〜
図1(c)で説明したSiN膜13の形成と酸化層14との形成を行う。レジストパターン形成装置17は、ウエハWにレジストの塗布によるレジスト膜の形成、露光処理、現像処理を順番に行い、既述したように酸化層14上にレジストパターンを形成する。エッチング装置7は、
図2(d)、(e)で説明したようにSiN膜13及び酸化層14のエッチング、レジスト膜の除去、TiN膜12のエッチングを行う。
【0017】
続いて、成膜装置2について、
図4の縦断側面図及び
図5の横断平面図を参照しながら説明する。この成膜装置2は本発明の基板処理装置の一実施形態であり、上記のSiN膜13の形成をALD(Atomic Layer Deposition)によって行う。
図4中11は扁平な概ね円形の真空容器(処理容器)であり、側壁及び底部を構成する容器本体21Aと、天板21Bとにより構成されている。図中22は、真空容器21内に水平に設けられる円形の回転テーブルである。図中22Aは、回転テーブル22の裏面中央部を支持する支持部である。図中23は回転機構であり、成膜処理中において支持部22Aを介して回転テーブル22を、その周方向に平面視時計回りに回転させる。なお、
図4中のXは回転テーブル22の回転軸を表している。
【0018】
回転テーブル22の上面には、回転テーブル22の周方向(回転方向)に沿って6つの円形の凹部24が設けられており、各凹部24にウエハWが収納される。つまり、回転テーブル22の回転によって公転するように、各ウエハWは回転テーブル22に載置される。また、
図4中15はヒーターであり、真空容器21の底部において同心円状に複数設けられ、回転テーブル22に載置されたウエハWを加熱する。
図5中26は真空容器21の側壁に開口したウエハWの搬送口であり、図示しないゲートバルブによって開閉自在に構成される。図示しない基板搬送機構により、ウエハWは搬送口26を介して、真空容器21の外部と凹部24内との間で受け渡される。
【0019】
回転テーブル22上には、ガス給排気ユニット3と、プラズマ形成ユニット4Aと、プラズマ形成ユニット4Bと、プラズマ形成ユニット4Cと、が、回転テーブル22の回転方向下流側に向かい、当該回転方向に沿ってこの順に設けられている。ガス給排気ユニット3は、SiN膜13を形成するための原料ガスであるDCSガスをウエハWに供給するユニットである。プラズマ形成ユニット4A〜4Cは、回転テーブル22上に供給されたプラズマ形成用ガスをプラズマ化してウエハWにプラズマ処理を行うユニットである。プラズマ形成ユニット4Cは、ウエハWに吸着されたDCSガスを窒化してSiN膜13を形成するためのプラズマ処理を行い、プラズマ形成ユニット4A、4Bは、SiN膜13を改質するためのプラズマ処理を行う。また、これらプラズマ形成ユニット4A〜4Cは、上記の酸化層14を形成するためのプラズマ酸化処理も行う。
【0020】
上記のガス給排気ユニット3の構成について、縦断側面図である
図6及び下面図である
図7も参照しながら説明する。ガス給排気ユニット3は、平面視、回転テーブル22の中央側から周縁側に向かうにつれて回転テーブル22の周方向に広がる扇状に形成されており、ガス給排気ユニット3の下面は、回転テーブル22の上面に近接すると共に対向している。
【0021】
ガス給排気ユニット3の下面には、吐出部をなすガス吐出口31、排気口32及びパージガス吐出口33が開口している。図中での識別を容易にするために、
図7では、排気口32及びパージガス吐出口33に多数のドットを付して示している。ガス吐出口31は、ガス給排気ユニット3の下面の周縁部よりも内側の扇状領域34に多数配列されている。このガス吐出口31は、成膜処理時における回転テーブル22の回転中にDCSガスを下方にシャワー状に吐出して、ウエハWの表面全体に供給する。
【0022】
この扇状領域34においては、回転テーブル22の中央側から回転テーブル22の周縁側に向けて、3つの区域34A、34B、34Cが設定されている。夫々の区域34A、区域34B、区域34Cに設けられるガス吐出口31の夫々に独立してDCSガスを供給できるように、ガス給排気ユニット3には互いに区画されたガス流路35A、35B、35Cが設けられている。各ガス流路35A、35B、35Cの下流端は、各々ガス吐出口31として構成されている。
【0023】
そして、ガス流路35A、35B、35Cの各上流側は、各々配管を介してDCSガスの供給源36に接続されており、各配管にはバルブ及びマスフローコントローラにより構成されるガス供給機器37が介設されている。ガス供給機器37によって、DCSガス供給源36から供給されるDCSガスの各ガス流路35A、35B、35Cにおける下流側への給断及び流量が制御される。なお、後述するガス供給機器37以外の各ガス供給機器も、ガス供給機器37と同様に構成され、下流側へのガスの給断及び流量を制御する。
【0024】
続いて、上記の排気口32及びパージガス吐出口33について説明する。排気口32及びパージガス吐出口33は、扇状領域34を囲むと共に回転テーブル22の上面に向かうように、ガス給排気ユニット3の下面の周縁部に環状に開口しており、パージガス吐出口33が排気口32の外側に位置している。回転テーブル22上における排気口32の内側の領域は、ウエハWの表面へのDCSの吸着が行われる吸着領域R0を構成する。パージガス吐出口33は、回転テーブル22上にパージガスとして例えばAr(アルゴン)ガスを吐出する。
【0025】
成膜処理中において、ガス吐出口31からの原料ガスの吐出、排気口32からの排気及びパージガス吐出口33からのパージガスの吐出が共に行われる。それによって、
図6中に矢印で示すように回転テーブル22へ向けて吐出された原料ガス及びパージガスは、回転テーブル22の上面を排気口32へと向かい、当該排気口32から排気される。このようにパージガスの吐出及び排気が行われることにより、吸着領域R0の雰囲気は外部の雰囲気から分離され、当該吸着領域R0に限定的に原料ガスを供給することができる。即ち、吸着領域R0に供給されるDCSガスと、後述するようにプラズマ形成ユニット4A〜4Cによって吸着領域R0の外部に供給される各ガス及びガスの活性種と、が混合されることを抑えることができるので、後述するようにウエハWにALDによる成膜処理を行うことができる。このようにガス給排気ユニット3は、原料ガスを回転テーブル22に供給する原料ガス供給部と、吸着領域R0の雰囲気と吸着領域R0の外側の雰囲気とを分離する分離機構とを構成する。
【0026】
図6中33A、33Bは、各々ガス給排気ユニット3に設けられる互いに区画されたガス流路であり、上記の原料ガスの流路35A〜35Cに対しても各々区画されて設けられている。ガス流路33Aの上流端は排気口32、ガス流路33Aの下流端は排気装置38に夫々接続されており、この排気装置38によって、排気口32から排気を行うことができる。また、ガス流路33Bの下流端はパージガス吐出口33、ガス流路33Bの上流端はArガスの供給源39に夫々接続されている。ガス流路33BとArガス供給源39とを接続する配管には、ガス供給機器30が介設されている。
【0027】
続いて、プラズマ化機構をなすプラズマ形成ユニット4Bについて、
図4、
図5を参照しながら説明する。プラズマ形成ユニット4Bは、後述するガスインジェクターから当該プラズマ形成ユニット4Bの下方に吐出されるプラズマ形成用のガスにマイクロ波を供給して、回転テーブル22上にプラズマを発生させる。プラズマ形成ユニット4Bは、上記のマイクロ波を供給するためのアンテナ41を備えており、当該アンテナ41は、誘電体板42と金属製の導波管43とを含む。
【0028】
誘電体板42は、平面視回転テーブル22の中央側から周縁側に向かうにつれて広がる概ね扇状に形成されている。真空容器21の天板21Bには上記の誘電体板42の形状に対応するように、概ね扇状の貫通口が設けられており、当該貫通口の下端部の内周面は貫通口の中心部側へと若干突出して、支持部44を形成している。上記の誘電体板42はこの貫通口を上側から塞ぎ、回転テーブル22に対向するように設けられており、誘電体板42の周縁部は支持部44に支持されている。
【0029】
導波管43は誘電体板42上に設けられており、天板21B上に延在する内部空間45を備える。図中46は、導波管43の下部側を構成するスロット板であり、誘電体板42に接するように設けられ、複数のスロット孔46Aを有している。導波管43の回転テーブル22の中央側の端部は塞がれており、回転テーブル22の周縁部側の端部には、マイクロ波発生器47が接続されている。マイクロ波発生器47は、例えば、約2.45GHzのマイクロ波を導波管43に供給する。
【0030】
このマイクロ波は、スロット板46のスロット孔46Aを通過して誘電体板42に至り、ガスインジェクターから誘電体板42の下方に供給されたプラズマ形成用ガスに供給され、当該誘電体板42の下方に限定的にプラズマが形成されて、ウエハWに処理が行われる。このように誘電体板42の下方はプラズマ形成領域をなしており、R2として示す。なお、プラズマ形成ユニット4A、4Cはプラズマ形成ユニット4Bと同様に構成されており、プラズマ形成ユニット4A、4Cにおけるプラズマ形成領域R2に相当する領域は、プラズマ形成領域R1、R3として夫々示している。プラズマ形成領域R1〜R3は第2の領域に、上記の吸着領域R0は第1の領域に夫々相当する。
【0031】
また、
図5に示すように、回転テーブル22の回転方向に見て、プラズマ形成領域R1の下流側の端部、プラズマ形成領域R2の上流側端部、プラズマ形成領域R3の下流側端部には夫々ガスインジェクター51、52、53が設けられている。
図8は成膜装置2の周方向に沿った概略縦断側面図であり、この
図8も参照しながら説明する。なお、
図8中の点線の矢印は、各ガスインジェクター51〜53から吐出されるガスの流れを示している。
【0032】
ガスインジェクター51、52、53は、例えば先端側が閉じられた細長い管状体として構成され、真空容器21の側壁から中央部領域に向かって水平に伸び、回転テーブル22上のウエハWの通過領域と交差するように夫々設けられている。そして、ガスインジェクター51、52、53には、その長さ方向に沿ってガスの吐出口50が多数、横方向に開口している。回転テーブル22の回転方向に見て、ガスインジェクター51はプラズマ形成領域R1の上流側に向かうように当該プラズマ形成領域R1にガスを吐出し、ガスインジェクター52はプラズマ形成領域R2の下流側に向かうように当該プラズマ形成領域R2にガスを吐出し、ガスインジェクター53はプラズマ形成領域R3の上流側に向かうように当該プラズマ形成領域R3にガスを吐出する。
【0033】
図5中501、502は、ガスインジェクター51及びガスインジェクター52に夫々接続される配管であり、その上流側は合流して合流配管503をなし、ガス供給機器504を介してH
2(水素)ガス供給源54に接続されている。また、合流配管503においてガス供給機器504の下流側には配管505の下流端が接続されており、配管505の上流端はガス供給機器506を介してO
2(酸素)ガス供給源55に接続されている。従って、ガスインジェクター51、52からは、H2ガス、O2ガスが各々吐出される。ガスインジェクター51、52から吐出されるH2ガスは、上記のSiN膜13の改質を行うための改質用ガスであり、O2ガスは上記の酸化層14を形成するための酸化ガスである。
【0034】
図5中511はガスインジェクター53に接続される配管であり、その上流側はガス供給機器512を介してNH
3ガス供給源56に接続されている。このNH3ガスは、ウエハWに吸着したDCSガスと窒化反応してSiNを生成するための反応ガスである。また、配管511においてガス供給機器512の下流側には、配管513、514の下流端が接続されており、配管513の上流端はガス供給機器515を介してO2ガス供給源55に接続されている。配管514の上流端はガス供給機器516を介してH2ガス供給源54に接続されている。従って、ガスインジェクター53からは、上記の酸化ガスであるO2ガス、上記の改質用ガスであるH2ガス、NH3ガスが各々吐出される。従って、ガスインジェクター51〜53はO2ガスを吐出する酸化ガス供給部として構成されており、ガスインジェクター53についてはNH3ガスを吐出する窒化ガス供給部としても構成されている。
【0035】
プラズマ形成領域R2とプラズマ形成領域R3との間には、分離領域60が設けられている。この分離領域60の天井面は、プラズマ形成領域R2及びプラズマ形成領域R3の各々の天井面よりも低く設定されている。分離領域60は
図5に示すように平面的に見て、回転テーブル22の中央側から周縁側に向かうにつれて回転テーブル22の周方向に広がる扇状に形成されており、その下面は回転テーブル22の上面に対向すると共に近接し、分離領域60と回転テーブル22との間のコンダクタンスが抑えられている。
【0036】
また、
図5に示すように回転テーブル22の外側であって、プラズマ形成領域R1の上流側端部、プラズマ形成領域R2の下流側端部及びプラズマ形成領域R3の上流側端部の各々に臨む位置には、第1の排気口61、第2の排気口62及び第3の排気口63が夫々開口している。第1の排気口61は、第1のガスインジェクター51からプラズマ形成領域R1に吐出されたガスを排気する。第2の排気口62は、ガスインジェクター52から吐出されたプラズマ形成領域R2のガスを排気し、分離領域60の回転方向上流側近傍に設けられている。第3の排気口63は、ガスインジェクター53から吐出されたプラズマ形成領域R3のガスを排気し、分離領域60の回転方向下流側近傍に設けられている。
【0037】
上記のように分離領域60と回転テーブル22との間の隙間のコンダクタンスが小さいため、ガスインジェクター52から吐出されたH2ガスは、当該隙間を回転テーブル22の回転方向下流へ流れることが抑制され、上記のように配置された第2の排気口62から排気される。そして、そのようにコンダクタンスが小さいことから、ガスインジェクター53から吐出されたNH3ガス及びH2ガスについても当該隙間を回転テーブル22の回転方向下流へ流れることが抑制されて、上記のように配置された第3の排気口63から排気される。従って、ガスインジェクター52、53から吐出された各ガスは互いに混合されずに、第2の排気口62、第3の排気口63から夫々排気され、プラズマ形成領域R3におけるNH3ガスの濃度の低下が抑制される。
【0038】
図中64は排気装置であり、真空ポンプなどにより構成され、排気管を介して第1の排気口61、第2の排気口62及び第3の排気口63に接続されている。排気管に設けられる図示しない圧力調整部により各排気口61〜63による排気量が調整されることによって、真空容器21内の真空度が調整される。
【0039】
図4に示すように成膜装置2には、コンピュータからなる制御部20が設けられており、制御部20にはプログラムが格納されている。このプログラムについては、成膜装置2の各部に制御信号を送信して各部の動作を制御し、後述の処理が実行されるようにステップ群が組まれている。具体的には、回転機構23による回転テーブル22の回転数、各ガス供給機器による各ガスの流量及び給断、各排気装置38、64による排気量、マイクロ波発生器47からのアンテナ41へのマイクロ波の給断、ヒーター25への給電などが、プログラムによって制御される。ヒーター25への給電の制御は、即ちウエハWの温度の制御であり、排気装置64による排気量の制御は、即ち真空容器21内の圧力の制御である。このプログラムは、ハードディスク、コンパクトディスク、DVD、メモリカードなどの記憶媒体に格納され、制御部20にインストールされる。
【0040】
以下、成膜装置2による処理について
図9、
図10を参照しながら説明する。この
図9、
図10では真空容器21内に供給される各ガスの流れを点線の矢印により示している。また、図中の白抜きの矢印は、回転テーブル22の回転方向を示している。先ず、基板搬送機構によってキャリアから取り出された6枚のウエハWを、回転テーブル22の各凹部24に搬送する。このウエハWは
図1(a)に示したウエハWである。そして、真空容器21の搬送口26に設けられるゲートバルブを閉鎖して、当該真空容器21内を気密にする。凹部24に載置されたウエハWは、ヒーター25によって例えば200℃〜600℃、具体的には例えば450℃以下、より具体的には例えば250℃に加熱される。そして、第1〜第3の排気口61、62、63からの排気によって、真空容器21内を所定の圧力の真空雰囲気にすると共に、回転テーブル22が所定の回転数で回転する。
【0041】
そして、ガスインジェクター51、52からH
2ガスがプラズマ形成領域R1、R2に夫々供給され、ガスインジェクター53からNH
3ガス及びH2ガスがプラズマ形成領域R3に供給される。このように各ガスが供給される一方で、マイクロ波発生器47からマイクロ波が供給され、このマイクロ波によってプラズマ形成領域R1、R2にH
2ガスのプラズマが、プラズマ形成領域R3にNH3ガスのプラズマが夫々形成される。また、ガス給排気ユニット3においてはガス吐出口31からDCSガス、パージガス吐出口33からArガスが夫々吐出されると共に、排気口32から排気が行われる。
図9はこのように各部にガスが供給された状態を示している。
【0042】
回転テーブル22の回転によって、ウエハWが吸着領域R0に位置するとDCSガスが当該ウエハWの表面に供給されて吸着される。引き続き回転テーブル22が回転して、ウエハWがプラズマ形成領域R3に至ると、プラズマに含まれるNH
3ガスの活性種がウエハWに供給されてDCSガスと反応し、
図1(b)で示したSiN膜13が形成される。また、プラズマに含まれるH2ガスの活性種により、SiN膜13が改質される。さらに回転テーブル22が回転して、ウエハWがプラズマ形成領域R1、R2に至ると、プラズマに含まれるH
2ガスの活性種により、さらにSiN膜13が改質される。この改質について具体的に述べると、薄膜中に含まれるDCSガスに由来する塩素成分をH
2ガスの活性種の働きによって膜から脱離させ、より純粋な(緻密な)窒化膜となるようにしている。
【0043】
回転テーブル22の回転が続けられ、ウエハWが吸着領域R0、プラズマ形成領域R1、プラズマ形成領域R2、プラズマ形成領域R3を順に繰り返し移動し、DCSガスの供給、H
2ガスの活性種の供給、NH
3ガス及びH
2ガスの活性種の供給が繰り返し行われ、SiNが堆積することでSiN膜13の膜厚が上昇すると共に改質が進行する。そしてSiN膜13の膜厚(
図1(b)中のL2)が所望の大きさとなると、ガス給排気ユニット3における各ガスの吐出及び排気が停止する。その一方で、ガスインジェクター51、52からプラズマ形成領域R1、R2へのH2ガスの供給が停止すると共に、これらのガスインジェクター51、52からプラズマ形成領域R1、R2へO
2ガスが供給される。また、ガスインジェクター53からプラズマ形成領域R3へのNH
3ガス及びH
2ガスの供給が停止すると共に、当該ガスインジェクター53からプラズマ形成領域R3へO
2ガスが供給される。
図10は、このように各部にガスが供給された状態を示している。このとき、ウエハWは例えば200℃〜600℃、具体的には例えば450℃以下、より具体的には例えば250℃に加熱されている。
【0044】
このようにプラズマ形成領域R1〜R3に供給されたO
2ガスは、当該プラズマ形成領域R1〜R3に供給されるマイクロ波によってプラズマ化される。回転テーブル22の回転によってウエハWは、このO
2ガスのプラズマに曝され、SiN膜13の表面が酸化されることで、
図1(c)で示した酸化層14が形成される。酸化が進行して酸化層14の厚さ(
図1(c)中のL3)が所定の厚さとなると、プラズマ形成領域R1〜R3へのO
2ガスの供給及びマイクロ波の供給が各々停止する。然る後、ウエハWは、基板搬送機構によって成膜装置2から搬出される。
【0045】
ところで上記の成膜装置2による処理では、O
2ガスのプラズマにより酸化層14を形成しているが、この酸化層14の形成はプラズマを用いずに行ってもよい。例えば、ヒーター25によりウエハWの温度を比較的高くした状態で、各ガスインジェクター51〜53からO
2ガスを吐出し、SiNとO
2とを反応させることで酸化層14を形成することができる。また、酸化層14の形成に用いる酸化ガスとしてはSiNを酸化できるものであればよいのでO
2ガスであることには限られず、O
3(オゾン)ガスであってもよいし、NO(一酸化窒素)ガスであってもよい。また、上記のようにSiN膜13の形成と酸化層14の形成とを行った後、酸化層14上にさらにSiN膜13を形成し、このSiN膜13の表面を酸化して酸化層14としてもよい。つまり、上下方向に見て、SiN膜13、酸化層14が交互に繰り返し積層される構成としてもよい。
【0046】
ところで、SiN膜13及び酸化層14の形成を行う装置としては上記の構成例には限られず、例えば真空容器21内に設けられたステージにウエハWを一枚ずつ搭載してガス処理を行う枚様式の装置であってもよい。また、縦方向に配列された複数枚のウエハWを保持する基板保持具を格納する縦型の真空容器を備え、当該真空容器内に成膜用のガス、酸化ガスを夫々供給して一括して複数枚のウエハWにガス処理を行うことができる装置を用いてSiN膜13及び酸化層14の形成を行ってもよい。さらに、SiN膜13の形成はALDで行うことに限られずCVD(Chemical Vapor Deposition)で行ってもよい。
【0047】
また、SiN膜13の形成処理と酸化層14の形成処理とは別々の真空容器21内で行ってもよい。ただし、SiN膜13の形成後、酸化層14の形成前にSiN膜の表面が大気雰囲気に曝されると、この大気雰囲気によってSiN膜13の表面に緻密性の低い酸化層が形成されてしまうおそれが有り、そのような酸化層が形成されると、上記のようにO
2のプラズマによる酸化処理を行っても緻密性の高い酸化層を形成できないおそれが有る。従って、SiN膜13の形成後、酸化層14を形成するまではウエハWを真空雰囲気から搬出しないことが好ましい。上記の成膜装置2は、そのように酸化層14を形成するまで、ウエハWが真空雰囲気から搬出されないため好ましい。なお、SiN膜13の形成後、真空雰囲気の搬送路を介して成膜装置2の真空容器21とは別の真空容器にウエハWを搬送して、搬送先の真空容器内で酸化処理を行ってもよい。
【0048】
続いて、上記のエッチング装置7の一例を説明しておく。
図7に示すエッチング装置7は、容量結合プラズマを形成してエッチング処理を行う。図中71は接地された処理容器である。処理容器71内は、排気機構79によって内部が排気されることで、所望の圧力の真空雰囲気とされる。図中72はウエハWが載置される載置台であり、ウエハWを加熱するための図示しないヒーターが埋設されている。載置台72は、処理容器71の底面上に電気的に接続されて配置されており、下部電極としての役割を果たし、アノード電極として機能する。
【0049】
載置台72の上方にはこの載置台72の上面と対向するように、シャワーヘッド73が設けられている。図中74は絶縁部材であり、シャワーヘッド73と処理容器71とを絶縁する。シャワーヘッド73には、プラズマ発生用の高周波電源75が接続されており、シャワーヘッド73はカソード電極として機能する。図中76はガス供給部であり、既述の各膜のエッチングに用いられるエッチングガスを独立して、シャワーヘッド73内に設けられる拡散空間77に供給する。拡散空間77に供給されたエッチングガスは、シャワーヘッド73の吐出口からウエハWに供給される。このようにウエハWにエッチングガスが供給されるときに高周波電源75がオンになり、電極間に電界が形成されてエッチングガスがプラズマ化することで、ウエハW表面における膜のエッチングが行われる。
図2(e)で説明したようにTiN膜12をエッチングするときには、上記のガス供給部76からエッチングガスとしてCl(塩素)系のガスがシャワーヘッド73に供給されて、処理が行われる。
【0050】
ただし、TiN膜12をエッチングするにあたっては、Cl系のガスの代わりに、F(フッ素)を含むSF6(六フッ化硫黄)、C4F8(オクタフルオロシクロブタン)、CF4(四フッ化炭素)などのF系のガスや、Br(臭素)を含むHBr(臭化水素)などのBr系のガスについても用いることができる。そして、これらのF系のガス及びBr系のガスをエッチングガスとして用いる場合も、上記のように酸化層14を形成することでSiN膜13のエッチングを抑えることができる。従って、エッチングガスとしては、ハロゲン単体あるいはハロゲン化合物を含むハロゲンガスを用いることができる。なお、ハロゲン単体あるいはハロゲン化合物を含むとは、これらのハロゲン単体やハロゲン化合物を不純物として含むという意味では無く、主成分として含むという意味である。
【0051】
また、TiN膜12を被エッチング膜としてエッチングする例を示したが、被エッチング膜としてはハロゲン単体あるいはハロゲン化合物によってエッチングされる膜であればよく、例えばTiNの代わりにTaN(窒化タンタル)が被エッチング膜であってもよい。なお、被エッチング膜のエッチングは、エッチングガスをプラズマ化せずに行ってもよい。
ところで、SiN膜13としては、例えばホウ素や炭素など、Si及びN以外の元素が添加されたものであってもよい。従って、当該SiN膜13を酸化して形成される酸化層14についても、これらホウ素や炭素を含んでいてもよい。
【0052】
なお、上記のようにTiN膜12のエッチングを行うにあたり、SiN膜13の下方にTiN膜12が位置していることには限られない。TiN膜12がSiN膜13上に位置してウエハWの表面に露出し、TiN膜12に開口部が形成され、当該開口部を介してSiN膜13が露出する構成を有するウエハWに対してエッチングを行い、TiN膜12を除去するような場合においても本発明を適用することができる。つまり開口部を介して露出するSiN膜13の表面を酸化しておくことで、SiN膜13がエッチングされることを防ぐことができる。この場合、酸化はTiN膜を成膜する前に行ってもよいし、TiN膜12に開口部を形成してSiN13を露出させた後に行ってもよい。なお、本発明は以上に述べた実施形態に限定されるものではなく、各実施形態は適宜変更したり組み合わせたりすることが可能である。
【0053】
[評価試験]
以下、本発明に関連して行われた評価試験について説明する。
・評価試験1
評価試験1として上記の成膜装置2を用いて、
図9で説明したように各ガスの供給及びプラズマの形成を行い、ウエハWにSiN膜13を形成した。然る後、
図10で説明したように各ガスの供給及びプラズマの形成を行い、SiN膜13の表面を酸化処理した。そして、SiMS(二次イオン質量分析法)により、ウエハWの表面からの各深さにおける酸素濃度を測定した。また比較試験1として、評価試験1と同様にSiN膜13を形成し、
図10で説明した酸化処理を行わずに評価試験1と同様にSIMSを行い、酸素濃度を測定した。
【0054】
図12のグラフは、評価試験1の結果を実線で、比較試験1の結果を点線で夫々示している。グラフの縦軸は酸素濃度(単位:atoms/cm
3)を示している。この縦軸において、隣接する目盛りと目盛りとの間の酸素濃度の量は、各目盛り間において同じであり、上側の目盛りほど酸素濃度が大きいことを示す。また、上側の目盛りほど酸素濃度が大きいことを示している。グラフの横軸は、ウエハWの表面からの深さ(単位:nm)を示している。グラフに示されるように、深さが0nmより大きく20nm以下の範囲において、酸素濃度について評価試験1の方が大きい。従って、この評価試験1からはO
2ガスのプラズマにSiN膜13を曝すことで、SiN膜13の表面は酸化され、酸化層14を形成することができることが確認された。
【0055】
・評価試験2
評価試験2としてTiN膜12が表面に形成されたウエハWに、TiN膜12の一部のみが被覆されるように複数の試験片を置き、
図11に示したものと同様のエッチング装置を用いて、TiN膜12が10nmエッチングされるようにプラズマエッチング処理を行い、各試験片のエッチング量を測定した。さらに、各試験片について、エッチング選択比を測定した。このエッチング選択比は、試験片のエッチング量/TiN膜12のエッチング量(=10nm)である。
【0056】
上記の複数の試験片のうちの4つを試験片1〜4とする。試験片1の表面は、成膜装置2によりウエハWを250℃に加熱して処理を行うことで形成されたSiN膜13により構成されている。ただし、このSiN膜13の表面には酸化層14が形成されていない。試験片2の表面は、成膜装置2によりウエハWを250℃に加熱して処理を行うことで形成されたSiN膜13により構成されており、このSiN膜13の表面には酸化層14が形成されている。試験片3の表面は、成膜装置2によりウエハWを450℃に加熱して処理を行うことで形成されたSiN膜13により構成されている。このSiN膜13の表面には、試験片1と同様に酸化層14が形成されていない。試験片4の表面は、ウエハWを550℃に加熱してCVDを行うことで成膜したSiN膜13により構成されている。
【0057】
上記のプラズマエッチング処理条件について述べると、使用したエッチングガスはCl
2ガスとArガスとの混合ガスである。エッチング処理中の処理容器71内の圧力は10mTorrである。また、高周波電源75への供給電力は135MWであり、ウエハWの加熱温度は40℃であり、エッチング処理時間は15秒である。
【0058】
図13では、棒グラフにより各試験片のエッチング量を、丸のプロットでエッチング選択比について夫々示している。この
図13から明かなように、酸化層14を形成した試験片2については、酸化層14を形成していない試験片1、3、4よりも試験片のエッチング量が小さく、エッチング選択比が大きい。酸化層14の有無についてのみ異なる試験片1、2を比較すると、試験片2のエッチング選択比は、試験片1のエッチング選択比の27倍であった。なお、この評価試験2では、上記の試験片1〜4以外にも、ホウ素、炭素、酸素のうちの1つまたは複数の元素が添加され、酸化層は形成していないSiN膜を試験片として用いて上記のエッチング量、エッチング選択比を取得しており、これらの試験片のエッチング量よりも試験片2のエッチング量は小さく、また、これらの試験片のエッチング選択比よりも試験片2のエッチング選択比が大きかった。従って、この評価試験2からは、酸化層14を形成することでSiN膜13のエッチングを抑制することができるという本発明の効果が確認された。
【0059】
・評価試験3
評価試験3として、ウエハWにSiN膜13、酸化層14の形成を行い、評価試験2で説明したエッチングを行った。このエッチングを行う前、行った後で夫々TEM(透過型電子顕微鏡)により、ウエハWの縦断側面を撮像した。また、比較試験3として、ウエハWにSiN膜13の形成を行い、酸化層14を形成せずに評価試験2で説明したエッチングを行った。この比較試験3においてもエッチングの前後で夫々TEMによりウエハWの縦断側面を撮像した。
【0060】
評価試験3のウエハWについて、エッチング前はSiN膜13の厚さが20.3nmであり、エッチング後はSiN膜13の厚さは19.8nmであった。また、エッチング前においてはSiN膜13上には酸化層14が形成されていることが確認された。比較試験3のウエハWについて、エッチング前はSiN膜13の厚さが22.3nmであり、エッチング後はSiN膜13の厚さが16.4nmであった。このように評価試験3のウエハWは、比較試験3のウエハWに比べてSiN膜13のエッチング量が抑制されており、この評価試験3からも本発明の効果が確認された。