特許第6919938号(P6919938)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大学共同利用機関法人自然科学研究機構の特許一覧

<>
  • 特許6919938-超電導体の温度異常検出方法 図000002
  • 特許6919938-超電導体の温度異常検出方法 図000003
  • 特許6919938-超電導体の温度異常検出方法 図000004
  • 特許6919938-超電導体の温度異常検出方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6919938
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】超電導体の温度異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 6/02 20060101AFI20210805BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   H01F6/02
   G01R31/00
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2020-91876(P2020-91876)
(22)【出願日】2020年5月27日
【審査請求日】2020年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100165663
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 光宏
(72)【発明者】
【氏名】高畑 一也
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平3−96833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 6/02
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導体における温度異常の発生を検出する温度異常検出方法であって、
(A) 一端を密封し、他端に圧力計を備え、加熱下で所定の作動流体を過熱液体とできるよう内径が設定された細管内に、前記圧力計側に気液界面が存在するよう該作動流体を封入するステップと、
(B) 前記細管を検出対象となる超電導体に接触した状態で保持するステップと、
(C) 前記圧力計で検出される圧力のステップ状の変化に基づいて前記超電導体の温度異常を検出するステップとを備える温度異常検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の温度異常検出方法であって、
前記細管の内径は、1ミリメートル以下である温度異常検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の温度異常検出方法であって、
前記圧力計は、前記超電導体に対する冷却を要しない常温空間に設置されている温度異常検出方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載の温度異常検出方法であって、
前記工程(A)は、前記細管内に前記作動流体を、その飽和蒸気圧を上回る圧力で導入する温度異常検出方法。
【請求項5】
超電導体における温度異常の発生を検出する温度異常検出装置であって、
前記温度異常を検出するための所定の作動流体と、
前記超電導体に接触して配置されるための一端を密封した細管と、
前記細管の他端に設置された圧力計とを備え、
前記作動流体は、前記細管内に封入されており、
前記細管の内径は、加熱下で前記作動流体を過熱液体とできるよう設定されている温度異常検出装置。
【請求項6】
請求項5記載の温度異常検出装置であって、
前記細管は、前記密封された一端と圧力計との間に前記作動流体を導入するための分岐管を有しており、
該分岐管には、開閉するためのバルブと、
封入する前記作動流体の圧力を調整するための圧力調整器とを備える温度異常検出装置。
【請求項7】
請求項5または6記載の温度異常検出装置であって、
さらに、前記圧力計の圧力がステップ状に変化したときに前記超電導体への通電を停止する制御装置を備える温度異常検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導体に生じた温度異常を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、一定の臨界温度を超えると超電導性を失う性質を有している。超電導体に通電する際に、何らかの原因で局所的に臨界温度を超え常伝導状態が生じることがある。かかる現象をクエンチという。クエンチが生じると、超電導体の抵抗が局所的に増大するため、局所的な加熱を生じることがあり、熱応力による破損や焼損に至ることもある。かかる状態を回避するため、超電導体の利用においては、クエンチを早期に検出することが重要な課題の一つとなっている。
クエンチを検出するための技術として、超電導体の抵抗を電圧として検出する方法も知られているが、局所的な温度異常では検出すべき電圧が小さいことや、電磁的なノイズの影響を受けやすいことなどが課題となっていた。別の技術として、特許文献1は、超電導コイルに対して、超流動ヘリウムなどの作動流体を密封した密封管を沿わせて配置し、クエンチ発生時の熱によって作動流体に生じる蒸気圧の変化を検出する方法を開示している。他にも、電流・電圧等の計測によってクエンチを検出する方法などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−096833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1においては、蒸気圧の変化によってクエンチの発生が検出可能とされているものの、現実には、蒸気圧の変化は精度良く安定して検出することができず、クエンチの発生も検出できるとは限らなかった。特に、長距離離れた地点で、クエンチを検出しようとしても、蒸気圧の変化を捉えることは非常に困難であることが確認された。
また、蒸気圧の変化は、作動流体全体の温度上昇に依存して生じるものであるから、局所的な変化に対して検出までに時間遅れが生じるという課題もあった。さらに、特許文献1の方法では、管の両端に設置された2つの圧力計を用いるとされているが、現実には、双方の圧力計で検出される作動流体の圧力が交互に揺れ動く現象が生じ、かえって安定した検出を阻害することがあった。従って、超電導体のクエンチを安定して精度良く検出できる方法は見つかっていなかった。かかる課題は、必ずしもクエンチの発生に限らず、超電導体の温度異常の検出一般に共通の課題であった。
本発明は、かかる課題に鑑み、超電導体における温度異常を精度良く検出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
超電導体における温度異常の発生を検出する温度異常検出方法であって、
(A) 一端を密封し、他端に圧力計を備え、加熱下で所定の作動流体を過熱液体とできるよう内径が設定された細管内に、前記圧力計側に気液界面が存在するよう該作動流体を封入するステップと、
(B) 前記細管を検出対象となる超電導体に接触した状態で保持するステップと、
(C) 前記圧力計で検出される圧力のステップ状の変化に基づいて前記超電導体の温度異常を検出するステップとを備える温度異常検出方法と構成することができる。
【0006】
超電導体にクエンチが発生するなど種々の要因で温度異常が生じると、熱伝達によって細管に封入された作動流体が加熱される。一般に作動流体は十分に細い管内で静止した状態で加熱されると、沸点以上に加熱された液体、即ち過熱液体となる。そして、過熱液体が、さらに加熱されると、ある時点で爆発的な沸騰、いわゆる突沸に至り蒸気となるのである。この蒸気が発生すると、作動流体は一気に体積が膨張するため、細管内の気液界面を移動させ、気相部分を圧縮する。この体積膨張は、爆発的に生じるため、気相の圧縮に伴う圧力上昇は、ステップ関数的に急激に上昇する。従って、この圧力変化を検出することにより、超電導体の温度異常を検出することができる。
【0007】
特に、特許文献1が蒸気圧を検出しているのに対して、本発明では、突沸によって気相に生じる圧力変化を検出している点で大きく相違する。突沸という爆発的な現象による顕著な圧力変化を検出するため、比較的容易に、かつ精度良く検出することが可能となる。しかも、局所的な温度異常であっても顕著な圧力変化が生じるため、精度良く検出できる利点がある。
【0008】
また、本発明では、一端を密封している点も、検出に大きく作用している。即ち、一端を密封しているからこそ、突沸による体積変化が、細管の両端に分散することなく、圧力計のある気相側にのみ顕著に表れるのである。
【0009】
これらの作用により、本発明では、上述した温度異常の検出を達成することができる。圧力は細管内の液体の中を音速で伝わるため、本発明は、遠方の温度異常も瞬時に検出できる利点がある。例えば、数キロメートルの長さのある超電導送電ケーブルに発生した温度異常の検出も可能となる。
また、細管と圧力計という非常に簡易な構成で実現できる利点もある。
【0010】
本発明は、この他、超電導コイル、これらを活用した超電導磁石、超電導モータに適用してもよい。超電導コイルでは、超電導体が巻回されており、その内部で温度異常が生じた場合などは非常に検出が困難となるが、本発明によれば、細管を沿わせることが可能な部位であれば、コイル内部であっても支障なく温度異常を検出することが可能となる。
さらに、本発明では、圧力を検出するため、超電導体の抵抗による電圧を検出する場合のように電磁的なノイズの影響を受けるおそれがないという利点もある。
【0011】
本発明において、作動流体は、超電導体が使用される温度では液体、超電導体の加熱によって過熱限界まで達する種々の液体を利用することができる。作動流体の例を挙げれば、液体水素(過熱限界温度28K)、液体ネオン(過熱限界温度38K)、液体窒素(過熱限界温度110K)、液体アルゴン(過熱限界温度130K)、液体酸素(過熱限界温度134K)、液体メタン(過熱限界温度170K)、液体クリプトン(過熱限界温度187K)、液体キセノン(過熱限界温度257K)などが挙げられる。このように液体の種類によって、過熱限界温度は決まっているから、検出すべき温度範囲と同等の過熱限界温度となるものを選択すればよい。
例えば、作動流体として液体窒素を利用する場合を考える。液体窒素の過熱限界温度は110K(摂氏マイナス163℃)であり、沸点の77K付近で使われる高温超電導機器に利用すれば、約30℃(=110−77)の温度異常を検出することが可能となる。
【0012】
本発明において、細管は、種々の素材で形成することができる。超電導体からの熱伝達を考慮すると、金属製とすることが好ましい。
【0013】
本発明において、
前記細管の内径は、1ミリメートル以下であるものとしてもよい。
【0014】
細管の内径は、作動流体を過熱状態にすることができる範囲で任意に設定可能であり、作動流体に応じて決めればよい。もっとも、内径を1ミリメートル以下にすると、再現性良く、過熱状態、突沸現象が確認できた。この点で、上記内径とすることが好ましい。
【0015】
本発明において、
前記圧力計は、前記超電導体に対する冷却を要しない常温空間に設置されているものとしてもよい。
【0016】
こうすることにより、極低温で作動する圧力計を用いる必要がなく、また圧力計測も容易になるという利点がある。本発明では、細管内に、作動流体が全て液体で封入されているのではなく、気液界面を生じているため、かかる配置が可能となるものである。
【0017】
本発明において、
前記工程(A)は、前記細管内に前記作動流体を、その飽和蒸気圧を上回る圧力で導入するものとしてもよい。
【0018】
超電導体は、低温状態で利用されるため、導入した作動気体は、この低温領域に到達すると液化する。この結果、低温領域と常温領域の間に気液界面ができることになる。そして、圧力調整器によって飽和蒸気圧より上回る圧力で作動流体を導入すると、液化した作動流体は過冷却状態となり、液体の蒸発が止まる。上記態様によれば、このように過冷却状態の作動流体の液体と、その気相とが分離し静止した状態を比較的容易に得ることが可能となる利点がある。
上記態様において、作動流体を導入する圧力は任意に決めることができるが、液面の蒸発を防止できれば良いから、飽和蒸気圧を若干上回る程度で構わない。
【0019】
本発明において、上述した種々の特徴は必ずしも全てを備えている必要はなく、適宜、その一部を省略したり組み合わせたりしてもよい。また、本発明は、上述した温度異常検出方法に限らず、以下に示すように、温度異常検出装置として構成することもできる。
【0020】
例えば、
超電導体における温度異常の発生を検出する温度異常検出装置であって、
前記温度異常を検出するための所定の作動流体と、
前記超電導体に接触して配置されるための一端を密封した細管と、
前記細管の他端に設置された圧力計とを備え、
前記作動流体は、前記細管内に封入されており、
前記細管の内径は、加熱下で前記作動流体を過熱液体とできるよう設定されている温度異常検出装置としてもよい。
【0021】
上記温度異常検出装置によれば、先に述べた温度異常検出方法を実現することができる。上記温度異常検出装置に対しても、先に説明した種々の特徴を適宜、適用することも可能である。
【0022】
また、上記温度異常検出装置においては、
前記細管は、前記密封された一端と圧力計との間に前記作動流体を導入するための分岐管を有しており、
該分岐管には、開閉するためのバルブと、
封入する前記作動流体の圧力を調整するための圧力調整器とを備えるものとしてもよい。
【0023】
こうすることにより、圧力調整器で作動流体の圧力を調整しながら導入した上で、バルブによって封入することが可能となる。即ち、作動流体を、その飽和蒸気圧を上回る圧力で細管内に封入するという態様を比較的容易に実現することが可能となる。
【0024】
また、温度異常検出装置においては、
さらに、前記圧力計の圧力がステップ状に変化したときに前記超電導体への通電を停止する制御装置を備えるものとしてもよい。
【0025】
こうすることにより、温度異常を検出した時点で、速やかに超電導体への通電を停止することができ、さらなる温度異常の発生を抑止することができる。
制御回路は、例えば、コンピュータに上記機能を実現するコンピュータプログラムをインストールしてソフトウェア的に構築することもできるし、専用のハードウェアによって構成することも可能である。
【0026】
本発明は、
前記超電導体は、高温超電導体である場合に特に有用性が高い。
【0027】
高温超電導体とは、一般に77ケルビンよりも臨界温度が高い物質を言う。高温超電導体では、従来、クエンチによる温度異常を検出する有効な技術がほとんど見いだされていなかったが、本発明によれば、クエンチの検出が可能である。また、高温超電導体では、その性質上、クエンチを検出できる頃には、焼損が生じるほどに常伝導部分が拡大してしまうという問題が生じ得るため、早期のクエンチ検出が特に重要となるが、かかる点についても、本発明によれば速やかに検出することができるため、有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】実施例としての温度異常検出装置の構成を示す説明図である。
図2】温度異常検出の原理を示す説明図である。
図3】温度異常検出の実験結果を示す説明図である。
図4】温度検出の作業工程および圧力監視処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施例について説明する。
図1は、実施例としての温度異常検出装置の構成を示す説明図である。温度異常検出装置は、超電導体1において、クエンチなどによって発生する温度異常を検出するための装置である。超電導体1としては、超電導送電ケーブル、超電導コイル、超電導磁石、超電導モータなどが挙げられるが、これらに限られるものではない。また、本実施例では、超電導体1は、77ケルビン以上で動作する高温超電導体とした。これよりも低温の超電導体を対象としても差し支えない。
【0030】
超電導体1には、細管10が沿わせてある。細管10は、超電導体1に発生した温度異常の熱が効率的に伝達されるよう、超電導体1に隙間なく沿わせるとともに、接着等されていることが好ましい。
細管10は、ステンレスその他の金属で形成されており、本実施例では、内径1ミリメートル以下である。細管10の内径は、後述する作動流体に過熱状態を生じさせることができる範囲で任意に決めればよい。内径1ミリメートル以下としておけば、過熱状態が生じやすいことが確認されている。
【0031】
細管10の一端は、キャップ11で密封されている。溶接など他の方法で密封しても良い。
細管10の他端には、圧力計12が設置されている。圧力計12は、超電導体1に温度異常が生じたときに細管10内で生じる圧力変化を検出するためのものであり、これが検出可能な計測範囲、分解能を有するものを利用する必要がある。超電導体1は、低温状態に維持されているが、圧力計12は常温領域に設置されている。
細管10の圧力計12の手前には、圧力が異常に上昇した場合に備え、分岐10bが設けられており、過剰な圧力を逃がすための安全弁15が取り付けられている。
細管10には、さらに分岐10aが設けられており、バルブ13、圧力調整器14が取り付けられている。細管10内を予め真空にするための真空ポンプをさらに設けても良い。
【0032】
本実施例では、細管10内に温度異常を検出するための作動流体として液体窒素を封入した。液体窒素は、沸点77K、過熱限界温度110Kという流体である。本実施例では、後述する通り作動流体が過熱状態で生じる突沸を利用して温度異常を検出する。従って、液体窒素を作動流体として用いる場合は、超電導体1の通常状態の運転時の温度(77K)から約30℃の温度上昇を検出することができることになる。このように、作動流体は、検出すべき温度に応じて、それと同等の過熱限界温度を有する流体を選択すればよい。
【0033】
作動流体としての液体窒素は、圧力調整器14から導入される。圧力調整器14は、液体窒素を、その飽和蒸気圧よりも若干高い圧力に調整して導入する。圧力計12は常温領域に設置されているから、細管10内に導入された液体窒素は、いずれかの箇所で気化し、気相を形成する。一方、圧力調整器14で、飽和蒸気圧よりも高い圧力に調整されているから、全てが気化してしまうことはなく、図示するように、細管10内のいずれかの箇所で、液面(気相と液相との境界面)を形成する。温度異常の検出精度を確保する目的からは、少なくとも超電導体1に接触している流域では、作動流体が液体となっているよう、導入時の圧力を調整することが好ましい。
【0034】
圧力計12の出力は、制御装置20に入力される。制御装置20は、細管10内の圧力がステップ状に変化したのを検知すると、超電導体1に温度異常が発生したものと判断し、その通電を停止する処理を行う。これと併せて、音声での警報、警告表示、所定の宛先に対する緊急メールの送信などの警告処理を行ってもよい。
制御装置20は、内部にCPU、メモリを有するコンピュータに上記機能を実現するためのコンピュータプログラムをインストールすることでソフトウェア的に構築してもよいし、ASICその他専用のハードウェアによって構築してもよい。
【0035】
図1には本実施例における温度異常検出装置の構成例を示した。温度異常検出装置は、例えば、超電導体1に対して、異なる作動流体を封入した細管10を並列に設けても良い。こうすることにより、多段階での温度異常検出を実現することもできる。
【0036】
図2は、温度異常検出の原理を示す説明図である。図1の温度異常検出装置の構成を模式的に示した。超電導体の中央に作動流体を封入した細管が描かれているが、細管の周囲を超電導体が被覆しているということではなく、両者が単に接触していることを表している。
【0037】
超電導体にクエンチが発生するなど種々の要因で図示するように局所温度上昇が生じると、熱伝達によって細管に封入された作動流体が加熱される。作動流体は十分に細い管内で静止した状態で加熱されると、沸点以上に加熱された液体、即ち過熱液体となる。そして、過熱液体が、さらに加熱されると、ある時点で、図示するように、爆発的な沸騰、いわゆる突沸に至り蒸気となるのである。この蒸気が発生すると、液体窒素の場合は一気に約20倍に体積が膨張するため、図中の矢印Aのように、細管内の液相を移動させ、さらに矢印Bのように液面を押し上げ、気相部分を圧縮する。この体積膨張は、爆発的に生じるため、気相の圧縮に伴う圧力上昇は、ステップ関数的に急激に上昇する。圧力計は、この圧力変化を検出することにより、超電導体の温度異常を検出することができる。
突沸による作動流体および液面の移動、気相の圧縮は、局所的な温度上昇が生じた部分と気相とが離れている場合でも、細管内をほぼ音速で伝わるため、瞬時に温度異常の発生を検出することができる。本実施例の温度異常検出装置は、かかる原理によって、超電導体の温度異常の発生を検出することができるのである。
【0038】
図3は、温度異常検出の実験結果を示す説明図である。
図3(a)には、実験装置を模式的に示した。温度異常検出装置の細管に対応するものとして、外径1/16インチ(1.59mm)、内径0.99mm、長さ16mのステンレス製配管をコイル状に巻いたものを用いた。一端は、キャップで密封してある。他端には、圧力計を取り付けてある。また、超電導体による温度異常を模擬的に発生させるため、密封してある端に近い箇所にヒーターを取り付けた。
【0039】
ステンレス製配管は、超電導体に沿わせている状態を模擬するため、大部分が液体窒素を充填したデュワー内に浸漬されている。圧力計は、デュワー外部の室温空間に設置されている。また、デュワー外部には、図1で説明したのと同様、安全弁を取り付けた分岐、およびガス導入バルブと圧力調整器を取り付けた分岐が設けられている。圧力調整器に至る分岐には、さらに、真空ポンプも設置されている。
【0040】
図3(a)の実験装置においても、作動流体として液体窒素を用いた。まず、ステンレス製配管内を真空ポンプによって真空にする。その後、圧力調整器で飽和蒸気圧よりも若干高い0.15MPaで窒素ガスを導入する。こうすることで、ステンレス製配管内の窒素ガスの一部が液化し、管内に液面が形成される。管内の圧力が一定となった後、ガス導入バルブを閉めた。こうすることで、ステンレス製配管内に作動流体としての液体窒素を封入した温度異常検出装置が構成される。
【0041】
この状態で、ヒーターにステップ状に通電し、超電導体の温度異常を模擬的に生じさせた。図3(b)は、ヒーターの温度、および圧力計の圧力の測定結果の時間変化を示すグラフである。破線が温度変化を示し、実線が圧力変化を示している。
加熱を開始してから約25秒後に約110Kに達した時点で、圧力が0.16MPaから0.29MPaまでステップ状に増大していることが確認される。ステンレス配管内に作動流体として封入された液体窒素の過熱限界温度は110Kであるから、この圧力変化は、作動流体に生じた突沸によるものと言える。こうして、図2で示した温度異常検出の原理が確認された。
図示する通り、突沸によって生じる圧力変化は、急激なものであり、また、温度が110Kに達した直後に発生していることから、温度異常が生じた後、ほとんど時間遅れなく、精度良く温度異常を検出可能であると言える。
【0042】
図4は、温度検出の作業工程および圧力監視処理のフローチャートである。
左側に、検出前に行う検出準備工程を示した。これらの工程は、温度異常検出装置の設置工程でもあり、作業員が行うものである。
まず、この工程では、真空ポンプで細管10内を真空にする(ステップS10)。そして、飽和蒸気圧よりも若干高い圧力で作動流体を導入する(ステップS11)。本実施例では、窒素を導入することになる。窒素は、導入時は気体であっても差し支えない。細管10内で液化するからである。
作動流体の導入が完了すると、バルブを閉鎖する(ステップS12)。こうすることで、細管10の内部に作動流体が気相と液相に別れて安定して封入された状態となる。
かかる状態が準備できたら、超電導体1の運転を開始する(ステップS13)。
【0043】
図の右側には、圧力監視処理のフローチャートを示した。制御装置20が実施する処理であり、超電導体1の運転中に継続して行う処理である。
この処理を開始すると、制御装置20は、圧力計の出力する圧力を読み込む(ステップS20)。そして、先に図3で示したようなステップ状の変化の有無を判断する(ステップS21)。
ステップ状の変化が生じていないときは、異常なしと判断し、上記処理(ステップS20、S21)を繰り返し実行する。
【0044】
ステップ状の変化を検出したときは、温度異常が発生したものと判断し、制御装置20は、超電導体1の運転を停止する信号を出力する(ステップS24)。これと併せて、種々の警報処理を行っても良い。
【0045】
以上で説明した実施例の温度異常検出装置およびそれによって実現される温度異常検出方法によれば、超電導体1に発生した温度異常を、遅れなく精度良く検出することができる。また、細管に圧力計という簡易な構成でこれを実現することができる。さらに、突沸という現象を利用しているため、数キロにわたる遠方で生じた温度異常も遅れなく、精度良く検出することが可能である。
そして、制御装置20を備えることにより、温度異常が検出されたときには、速やかに超電導体の運転を停止することが可能である。
【0046】
本実施例は、上述の種々の特徴を必ずしも全て備えている必要はなく、その一部を適宜、省略したり組み合わせたりしてもよい。
また、本発明は、実施例の装置構成および処理に限らず、種々の変形例を構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、超電導体に生じた温度異常を検出するために利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
10 細管
10a 分岐
10b 分岐
11 キャップ
12 圧力計
13 バルブ
14 圧力調整器
15 安全弁
20 制御装置


【要約】
【課題】 超電導体に生じたクエンチを速やかに精度良く検出可能とする。
【解決手段】 超電導体1に金属製の内径1mm以下の細管10を、超電導体1に隙間なく沿わせて配置する。細管10の一端は、キャップ11で密封し、他端には圧力計12を設置する。細管10内には温度異常を検出するための作動流体として液体窒素を封入する。超電動体1に温度異常が生じると、熱伝達によって細管10に封入された作動流体が加熱され、過熱液体となるが、さらに加熱され突沸に至ると、蒸気となり、一気に体積が膨張する。この結果、細管内の気液界面を移動させ、気相部分を圧縮するため、気相部分の圧力がステップ関数的に上昇する。この圧力変化を検出することにより、超電導体の温度異常を検出することができる。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4