特許第6919992号(P6919992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6919992
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】伸縮性膜及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20210805BHJP
   C08F 299/06 20060101ALI20210805BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20210805BHJP
   C08G 18/38 20060101ALI20210805BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   C08J5/18CFF
   C08F299/06
   C08F290/06
   C08G18/38 093
   C08G18/67 010
【請求項の数】5
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-231036(P2017-231036)
(22)【出願日】2017年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-123304(P2018-123304A)
(43)【公開日】2018年8月9日
【審査請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2017-14685(P2017-14685)
(32)【優先日】2017年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 修
(72)【発明者】
【氏名】久保田 透
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特許第2624060(JP,B2)
【文献】 特開平09−316085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08F 290/06
C08F 299/06
C08G 18/38
C08G 18/67
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鎖に珪素数3〜11の分岐型シロキサン結合を有し、主鎖にウレタン結合を有する樹脂を含有する伸縮性膜であって、
前記樹脂が、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物の硬化物であることを特徴とする伸縮性膜。
【化3】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。R12は水素原子又はメチル基である。p、qは1分子中の単位数であり、1≦p≦100、1≦q≦3の範囲である。)
【請求項2】
前記樹脂が、重量平均分子量が500以上のものであることを特徴とする請求項1に記載の伸縮性膜。
【請求項3】
前記伸縮性膜が、JISK6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が40〜500%のものであることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の伸縮性膜。
【請求項4】
前記伸縮性膜が、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか一項に記載の伸縮性膜。
【請求項5】
伸縮性膜を形成する方法であって、
下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を製膜し、加熱及び/又は光照射によって硬化させることを特徴とする伸縮性膜の形成方法。
【化5】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。m、nは1〜5の整数である。R12は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、p、qは1分子中の単位数であり、1≦p≦100、1≦q≦3の範囲である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性と強度と撥水性を兼ね備えた伸縮性膜及びその形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
【0003】
ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けて常時体の状態をモニタリングする形態が示される。このようなウェアラブルデバイスは、通常、体からの電気信号を検知するための生体電極、電気信号をセンサーに送るための配線、センサーとなる半導体チップと電池からなる。また、通常、肌に粘着するための粘着パッドも必要である。生体電極及びこの周りの配線や粘着パッドの構造については、特許文献1に詳細に記載されている。特許文献1に記載のウェアラブルデバイスは、生体電極の周りにシリコーン系粘着膜が配置され、生体電極とセンサーデバイスの間は伸縮性のウレタン膜で被覆された蛇腹の形の伸縮可能な銀配線で結ばれている。
【0004】
ウレタン膜は伸縮性と強度が高く、伸縮配線の被覆膜として優れた機械特性を有している。しかしながら、ウレタン膜には加水分解性があるため、加水分解によって伸縮性と強度が低下するという欠点がある。一方で、シリコーン膜には加水分解性がないものの、強度が低いという欠点がある。
【0005】
そこで、ウレタン結合とシロキサン結合の両方をポリマー主鎖に有するシリコーンウレタンポリマーが検討されている。このポリマーの硬化物は、シリコーン単独よりは高強度で、ポリウレタン単独よりは低加水分解性である。しかしながら、このポリマーの硬化物では、ポリウレタン単独の強度、シリコーン単独の撥水性には及ばず、シリコーンとポリウレタンの中間の強度と撥水性しか得られない。
【0006】
また、一方で、ポリウレタンとシリコーンとをブレンドした材料が検討されている。例えば、特許文献2や特許文献3には、反応性がないシリコーンと、架橋性のポリウレタンとをブレンドした材料が記載されている。このような材料で膜を形成すると、硬化後のポリウレタンの膜表面にシリコーンが浮いてきて(ブリードアウト)、膜表面の撥水性が向上する。しかし、シリコーンが架橋していないため、膜表面のシリコーンが剥がれ落ち、撥水性が低下しやすいという問題がある。また、表面が存在しないとシリコーンは膜表面に浮いてこないために、両側をシートで挟み込んで圧縮成型した場合は撥水性が高くない。
【0007】
また、シロキサンを側鎖に有するポリウレタンを合成するためのジオール材料が提案されている。特許文献4,5には、側鎖にシリコーンが付いているポリウレタンを形成するためのジオール化合物が示されている。ここで示されている側鎖シリコーン基は、シロキサンの末端がジオール化合物に結合している直鎖のシリコーンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−033468号公報
【特許文献2】特開2011−194757号公報
【特許文献3】特開2013−139534号公報
【特許文献4】特許第2583412号
【特許文献5】特許第2624060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような背景から、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつシリコーンと同程度の優れた撥水性を有する伸縮性膜及びその形成方法の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた伸縮性膜及びその形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、伸縮性膜であって、側鎖に珪素数3〜11の分岐型シロキサン結合を有し、主鎖にウレタン結合を有する樹脂を含有する伸縮性膜を提供する。
【0012】
このようなものであれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れた伸縮性膜となる。
【0013】
このとき、前記樹脂が、下記一般式(1)で示される構造を有するものであることが好ましい。
【化1】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。)
【0014】
このようなものであれば、より優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にもより優れた伸縮性膜となる。
【0015】
またこのとき、前記樹脂が、下記一般式(2)で示されるジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物との反応物であることが好ましい。
【化2】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。)
【0016】
このように、本発明の伸縮性膜に含有される樹脂は、上記のようなジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物との反応物であることが好ましい。
【0017】
またこのとき、前記樹脂が、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物の硬化物であることが好ましい。
【化3】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。R12は水素原子又はメチル基である。p、qは1分子中の単位数であり、1≦p≦100、1≦q≦3の範囲である。)
【0018】
このように、本発明の伸縮性膜に含有される樹脂は、上記のような末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物の硬化物であることが好ましい。
【0019】
またこのとき、前記樹脂が、重量平均分子量が500以上のものであることが好ましい。
【0020】
このようなものであれば、本発明の伸縮性膜に好適に用いることができる。
【0021】
またこのとき、前記伸縮性膜が、JISK6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が40〜500%のものであることが好ましい。
【0022】
このような伸縮率であれば、伸縮配線の被覆膜として特に好適に用いることができる。
【0023】
またこのとき、前記伸縮性膜が、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることが好ましい。
【0024】
本発明の伸縮性膜は、特にこのような用途に好適に用いることができる。
【0025】
また、本発明では、上記の伸縮性膜を形成する方法であって、下記一般式(2)で示されるジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物とを混合し、該混合物を製膜し、加熱によって硬化させる伸縮性膜の形成方法を提供する。
【化4】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。)
【0026】
このような伸縮性膜の形成方法であれば、ポリウレタンと同程度又はそれ以上の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面は高い撥水性を有する伸縮性膜を容易に形成することができる。
【0027】
また、本発明では、上記の伸縮性膜を形成する方法であって、下記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を製膜し、加熱及び/又は光照射によって硬化させる伸縮性膜の形成方法を提供する。
【化5】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。R12は水素原子又はメチル基である。p、qは1分子中の単位数であり、1≦p≦100、1≦q≦3の範囲である。)
【0028】
本発明の伸縮性膜の形成方法では、このように熱硬化と光硬化とを組み合わせることもできる。
【発明の効果】
【0029】
以上のように、本発明の伸縮性膜であれば、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面は主鎖がシロキサン結合のシリコーンと同程度かそれ以上の優れた撥水性を有する高撥水性な伸縮性膜となる。ポリウレタンとシリコーンとをブレンドし、ベークによって膜表面にシリコーンを偏在させることによって撥水性を上げる方法では、表面が存在しないとシリコーンが表面に浮いてこないために、例えば両面をシートで挟みながらの密閉状態では撥水性が向上しない。また、シリコーンの表面偏在を加速させるために沸点が100〜200℃の範囲の溶剤をブレンドしておく必要があり、無溶剤で製膜することができないなど、組成物や製膜プロセスに制限が生じる。一方、本発明の伸縮性膜は、分岐型のシリコーンが側鎖に付いたウレタン樹脂をベースとしているため、側鎖に付いた分岐型のシリコーンが少量で効率的に伸縮性膜の撥水性を高め、主鎖のウレタンが伸縮性膜の伸縮性と強度を高めることができる。また、側鎖のシリコーンが常に表面側を向いているので、例えば両面をシートで挟みながらの密閉した状態で膜を形成しても撥水性が高いものとなる。このような伸縮性膜を導電性配線に接触させたり、導電性配線の片側か両面を被覆したりして得られる伸縮性配線膜であれば、伸縮性及び強度に優れるだけでなく、表面の撥水性にも優れたものとなる。従って、本発明の伸縮性膜であれば、ウェアラブルデバイスにおいて、生体電極とセンサーを接続する配線部だけでなく、生体電極やセンサー全てを載せることができる伸縮性膜として特に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の伸縮性膜で覆った状態の心電計を示す断面図である。
図2図1の心電計を生体電極側から見た概略図である。
図3】本発明の伸縮性膜で覆う前の状態の心電計を示す断面図である。
図4図3の心電計を生体電極側から見た概略図である。
図5】心電計を基板上に接触させて、本発明の伸縮性膜で覆った状態を示す断面図である。
図6】本発明の伸縮性膜上に生体電極、粘着部、及び配線を形成し、さらにセンターデバイスを接続した状態を示す断面図である。
図7図6の配線とセンターデバイスを本発明の伸縮性膜で覆った状態を示す断面図である。
図8】布上に本発明の伸縮性膜を形成し、その上に配線と電極を形成し、さらにセンターデバイスを接続した状態を示す断面図である。
図9図8の配線とセンターデバイスを本発明の伸縮性膜で覆った状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
上述のように、ポリウレタンは十分な伸縮性と強度を有するが、撥水性が低く、加水分解によって強度と伸縮性が低下するという欠点があり、シリコーンは撥水性が高いが強度が低いという欠点があった。また、ウレタン結合とシロキサン結合の両方を主鎖に有するシリコーンウレタンポリマーの硬化物では、強度や撥水性がポリウレタンとシリコーンの中間であり、ポリウレタン単独の強度や、シリコーン単独の撥水性には及ばないという問題があった。さらに、ポリウレタンとシリコーンとをブレンドし、ベークによって膜表面にシリコーンを偏在させることによって撥水性を上げて膜を形成する方法では、膜表面の強度は弱く、また、表面が存在しないとシリコーンが表面に浮いてこないために、例えば両面をシートで挟みながらの密閉状態では撥水性が向上しないという欠点があった。加えて、この方法では、シリコーンの表面偏在を加速させるために沸点が100〜200℃の範囲の溶剤をブレンドしておく必要があり、無溶剤で製膜することができない等、組成物や製膜プロセスに制限が生じる欠点もあった。このような背景から、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の強度も十分に高く、かつシリコーンと同程度かそれ以上の優れた撥水性と表面硬度を有する伸縮性膜及びその形成方法の開発が求められていた。
【0032】
そこで、本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、撥水性が高い短鎖長の分岐型シロキサンを側鎖に有し、主鎖にウレタン結合を有する樹脂をベースとした、高い撥水性を有しつつ伸縮性と強度とに優れた膜であれば、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面はシリコーン同等又はそれ以上の優れた撥水性の伸縮性膜となるため、ウェアラブルデバイスにおける伸縮配線の被覆膜として特に好適なものとなることを見出し、本発明を完成させた。
【0033】
即ち、本発明者らは、側鎖に短鎖長の分岐型シロキサンを有し、主鎖にウレタン結合を有する樹脂による膜が、ポリウレタンと同等の伸縮性と強度を有し、高い撥水性を有し、伸縮性の生体電極被覆用膜として有効であることを知見した。
【0034】
即ち、本発明は、伸縮性膜であって、側鎖に珪素数3〜11の分岐型シロキサン結合を有し、主鎖にウレタン結合を有する樹脂を含有する伸縮性膜である。
【0035】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
<伸縮性膜>
本発明の伸縮性膜は、樹脂の硬化物であり、この樹脂は側鎖に珪素数3〜11の分岐型シロキサン結合(短鎖長の分岐型シロキサン)を有し、主鎖にウレタン結合を有する。
【0037】
[樹脂]
本発明の伸縮性膜における樹脂は、側鎖に珪素数3〜11の分岐型シロキサン結合を有し、主鎖にウレタン結合を有するものである。このような樹脂としては、下記一般式(1)で示される構造を有するものが好ましい。
【化6】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。)
【0038】
上記一般式(1)で示される構造を有する樹脂は、下記一般式(2)で示されるジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物(以下、イソシアネート化合物とも言う)とを反応させることによって得られる反応物であることが好ましい。
【化7】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。)
【0039】
上記一般式(2)で示される、短鎖長のシロキサンがペンダントされたジオール化合物は、例えばグリセリンモノアリルエーテルと、シロキサン鎖中にSiH基を有する短鎖長のシロキサン化合物とを白金触媒中で反応させることによって得ることができる。このようなジオール化合物としては、具体的には、下記のものを例示することができる。
【0040】
【化8】
【0041】
【化9】
【0042】
【化10】
(式中、m’+n’=10である。)
【0043】
ここで、上記ジオール化合物は、珪素数3〜11のシロキサン結合を有する。珪素数が11を超えた場合は、伸縮性膜の強度が低下する。撥水性を上げるには、珪素数3〜11の短鎖長のシロキサンで十分である。
【0044】
さらには、上記一般式(1)で示される構造を有する樹脂は、下記一般式(3)で示される末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を硬化させることによって得られる硬化物であることが好ましい。
【化11】
(式中、R、R、R、R、R、及びRは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、又は3,3,3−トリフルオロプロピル基であり、Rは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、又はトリアルキルシロキシ基である。R、R10は単結合、メチレン基、又はエチレン基であり、R及びR10の炭素数の合計が1又は2である。Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖状のアルキル基であり、R11は水素原子又はメチル基である。Aは炭素数1〜4の直鎖状、分岐状のアルキレン基であり、m、nは1〜5の整数である。R12は水素原子又はメチル基である。p、qは1分子中の単位数であり、1≦p≦100、1≦q≦3の範囲である。)
【0045】
上記一般式(2)で示されるジオール化合物と反応させるイソシアネート基を有する化合物としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0046】
【化12】
【0047】
【化13】
(式中、sは1以上の整数である。)
【0048】
上記のイソシアネート基を有する化合物のうち、特に、(メタ)アクリレート基を有する化合物を上記一般式(2)で示されるジオール化合物と反応させることにより、上記一般式(3)で示される末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を得ることができる。
【0049】
上記のイソシアネート基を有する化合物は、上記一般式(2)で示されるジオール化合物(シリコーンペンダントジオール)との反応性が高いために、これをコントロールすることが困難な場合がある。また、イソシアネート基を有する化合物は、保管中に大気中の水分と反応してイソシアネート基が失活してしまうことがあるため、保管には湿度を十分に防ぐ等十分な注意を要する。そこで、これらの事象を防ぐために、イソシアネート基が置換基で保護されたブロックイソシアネート基を有する化合物が用いられることがある。
【0050】
ブロックイソシアネート基は、加熱によってブロック基が脱保護してイソシアネート基となるものであり、具体的には、アルコール、フェノール、チオアルコール、イミン、ケチミン、アミン、ラクタム、ピラゾール、オキシム、β−ジケトン等で置換されたイソシアネート基が挙げられる。
【0051】
ブロックイソシアネート基の脱保護温度を低温化させるために、触媒を添加することもできる。この触媒としては、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫、ビスマス塩、2−エチルヘキサン酸亜鉛や酢酸亜鉛等のカルボン酸亜鉛が知られている。
【0052】
特に、特開2012−152725号公報では、カルボン酸としてα,β−不飽和カルボン酸亜鉛をブロックイソシアネート解離触媒として含むことによって、脱保護反応の低温化が可能であることが示されている。
【0053】
また、上記一般式(2)で示されるジオール化合物、イソシアネート基を有する化合物に加えて、複数のヒドロキシ基を有する化合物を加えることもできる。このようなヒドロキシ基を有する化合物を添加することによって鎖長延長や分子間架橋が行われる。
【0054】
複数のヒドロキシ基を有する化合物としては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0055】
【化14】
【0056】
【化15】
【0057】
【化16】
【0058】
また、アミノ基を有する化合物を添加することもできる。イソシアネート基とアミノ基が反応すると、尿素結合が形成される。ウレタン結合と尿素結合の部分はハードセグメントと呼ばれ、これらの水素結合によって強度が高まる。従って、ウレタン結合だけでなく、これに尿素結合を加えることによって強度を高めることが可能である。
【0059】
樹脂としては、重量平均分子量が500以上のものであることが好ましい。このようなものであれば、本発明の伸縮性膜に好適に用いることができる。また、樹脂の重量平均分子量の上限値としては、500,000以下が好ましい。
【0060】
なお、本発明の伸縮性膜は、JISK6251に規定される引っ張り試験で伸縮率が40〜500%のものであることが好ましい。このような伸縮率であれば、伸縮配線の被覆膜として特に好適に用いることができる。
【0061】
また、本発明の伸縮性膜は、伸縮性を有する導電性配線に接触する膜として用いられるものであることが好ましい。本発明の伸縮性膜は、特にこのような用途に好適に用いることができる。
【0062】
以上説明したような、本発明の伸縮性膜であれば、ポリウレタンと同程度の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面はシリコーンと同程度の優れた撥水性を有する伸縮性膜となる。
【0063】
<伸縮性膜の形成方法>
本発明では、上述の伸縮性膜を形成する方法であって、上記一般式(2)で示されるジオール化合物と、イソシアネート基を有する化合物とを混合し、該混合物を製膜し、加熱によって硬化させる伸縮性膜の形成方法を提供する。
【0064】
このような伸縮性膜の形成方法の一例としては、例えば上記一般式(2)で示されるジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物と、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物と、場合によってはアミノ基を有する化合物とを混合し、この混合物を剥離用基板上に塗布して膜を形成して加熱硬化させる方法が挙げられる。
【0065】
この方法においては、イソシアネートとアルコールの反応によって、ウレタン結合を形成しながら高分子量化することで、ポリマーネットワークが形成される。ヒドロキシ基やイソシアネート基が3つ以上の化合物を添加すると架橋反応が進行するため、伸縮性は低下するが、膜強度は高まる。従って、ヒドロキシ基やイソシアネート基が2つあるいは3つの化合物の添加量を調整することによって、硬度、伸縮性、強度の調整を行うことができる。また、硬化後に基板から膜を剥がすことによって、独立した伸縮性膜を得ることができる。
【0066】
また、本発明の分岐シリコーンペンダントのポリウレタンベースの伸縮性膜の形成方法として、複数のヒドロキシ基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物と上記一般式(2)で示されるジオール化合物を混合させて加熱などでこれを硬化するワンショット法を挙げることが出来る。ワンショット法は生産性が高いメリットがあるが、未反応のヒドロキシ基やイソシアネート基が残存し、強度や伸縮性が低下する場合がある。
【0067】
複数のヒドロキシ基を有する化合物とイソシアネートを有する化合物を予め混合して、その後に追加で複数のヒドロキシ基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物と上記一般式(2)で示される化合物を混合させて硬化させるプレポリマー法を挙げることも出来る。この場合はヒドロキシ基とイソシアネート基が十分に反応しているため、残存イソシアネート基の割合が低く、高強度高伸縮な膜を形成することが出来る。プレポリマーを準備するときに複数のヒドロキシ基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物だけでなく、これに一般式(2)で示されるジオール化合物も混合することも出来る。プレポリマーを準備する場合は、混合するイソシアネート基を過剰にしておき、プレポリマーの末端をイソシアネートにしておくことが好ましい。
【0068】
前記ウレタン(メタ)アクリレートポリマーを合成し、これにラジカル発生剤を添加し、光照射や熱によって発生したラジカルで架橋させて伸縮性膜を形成することも出来る。
超高分子量のウレタンポリマーを合成し、これを加熱によってシート状に成形する方法も挙げることが出来る。このような熱可塑性のウレタンはTPU(Thermoplastic Polyurethane)と呼ばれ、ウレタンポリマー間の水素結合によって強度を保っている。TPUは架橋していないが、ウレタンの強い水素結合によって高い強度を有する。一方、膜の伸縮を繰り返し行うと膜が変形して強度が低下していく欠点も有する。これは、分子間水素結合の位置が、伸縮を繰り返すことによって熱変形したときのように掛け変わって行くためである。
【0069】
(メタ)アクリレートの重合によって架橋したウレタン膜は、強度的にはTPU膜に比べると劣るものの、ウレタンの水素結合だけでなくアクリル架橋の共有結合によって強度を保っているので熱による変形はなく、伸縮の繰り返し試験に置いても強度の低下が少ない特徴を有する。
【0070】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂やTPU用ウレタン樹脂としては、重量平均分子量が500以上のものであることが好ましい。このようなものであれば、本発明の伸縮性膜に好適に用いることができる。また、樹脂の重量平均分子量の上限値としては、500,000以下が好ましい。
【0071】
混合物中におけるヒドロキシ基とイソシアネート基のモル数の割合としては、ヒドロキシ基とイソシアネート基が同モル数あるいはヒドロキシ基の方が多い、即ちヒドロキシ基のモル数をイソシアネート基のモル数で割った数値が1以上であることが好ましい。イソシアネート基の方が少なければ、余剰のイソシアネート基が水と反応して炭酸ガスが発生することはなくなるため、膜内に発泡による穴が生じてしまう恐れがない。発泡ウレタンを作製するときにはイソシアネート基を過剰にするが、本発明の伸縮性膜では、高強度の特性が必要であるために、膜内に発泡の穴は存在しないことが好ましい。
【0072】
本発明の伸縮性膜における樹脂を、上記のようにアルコール基のモル数がイソシアネート基より多い状態で形成すると、ポリマー末端においては、上記一般式(2)で示されるジオール化合物の片側にのみウレタン結合が形成され、上記一般式(1)で示される構造のような両側にウレタン結合が形成された構造とならない部分が生じる場合がある。この場合、ポリマー末端が下記一般式(1’)で示される構造になる。
【化17】
(式中、R〜R11、A、m、及びnは前記と同様である。)
【0073】
加熱温度は室温から200℃の範囲が用いられる。好ましくは40〜160℃の範囲で、時間は5秒から60分の範囲である。加熱硬化させるときに、剥離膜で膜の片側を覆う場合と、膜の両側を覆う場合があり、ロールで巻き取りながらの硬化の場合は片側、枚葉硬化の場合は両側の方が好ましいが、この限りではない。
【0074】
また、上記一般式(3)で示される、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を製膜し、加熱及び/又は光照射によって硬化させることにより、伸縮性膜を形成することもできる。具体的には、上記一般式(2)で示されるジオール化合物に、保護又は未保護のイソシアネート化合物、鎖長延長や架橋のための複数のヒドロキシ基を有する化合物を混合し、重合させて、ポリマー末端を(メタ)アクリレートとしたウレタンポリマーを用いて伸縮性膜を形成することもできる。この場合は、(メタ)アクリレートをラジカルで反応させて架橋する。ラジカル架橋する方法としては、ラジカル発生剤の添加が望ましい。ラジカル発生剤としては、熱分解によってラジカルを発生させる熱ラジカル発生剤、光照射によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤がある。
【0075】
熱ラジカル発生剤としてはアゾ系ラジカル発生剤、過酸化物系ラジカル発生剤が挙げられ、アゾ系ラジカル発生剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等が挙げられる。過酸化物系ラジカル発生剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバロエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等が挙げられる。
【0076】
光ラジカル発生剤としては、アセトフェノン、4,4’−ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2−ベンゾイル安息香酸、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4−ベンゾイル安息香酸、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール、2−ベンゾイル安息香酸メチル、2−(1,3−ベンゾジオキソール−5−イル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−1,3,5−トリアジン、2−ベンジル−2−(ジメチルアミノ)−4’−モルホリノブチロフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサンテン−9−オン、ジフェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、1,4−ジベンゾイルベンゼン、2−エチルアントラキノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、2−ヒドロキシ−4’−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−メチルプロピオフェノン、2−イソニトロソプロピオフェノン、2−フェニル−2−(p−トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン(BAPO)、カンファーキノンを挙げることができる。
【0077】
なお、熱又は光ラジカル発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1〜50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0078】
また、複数の(メタ)アクリレートやチオールを有する架橋剤を添加することもできる。これにより、ラジカル架橋の効率を向上させることができる。
【0079】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を用いて伸縮性膜を形成する場合、熱硬化と光硬化とを組み合わせて硬化させることもできる。例えば、ベースとなる伸縮性膜は熱硬化で形成しておいて、その上の伸縮性膜は光硬化で形成することもできる。光硬化のメリットは、加熱が必ずしも必要ではないことと、短時間で硬化が可能なことである。デメリットは、光が届かない部分の硬化ができないことである。熱硬化と光硬化とを組み合わせることによって、それぞれの長所を生かした硬化方法を選択することができる。
【0080】
伸縮性膜を形成するには、組成物を平板基板上や、ロール上に塗布する方法が挙げられる。組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート、バーコート、ロールコート、フローコート、ディップコート、スプレーコート、ドクターコート等が挙げられる。また、塗布膜厚が1μm〜2mmとなるように塗布することが好ましい。
【0081】
凹凸がある部品の封止には、ロールコートやスプレーコーティング等の方法や、スクリーン印刷等で必要な部分だけに塗布する方法が好ましい。なお、種々のコーティングや印刷を行うために、混合溶液の粘度を調整する必要がある。低粘度にする場合は、有機溶剤を混合し、高粘度にするときは、シリカ等の充填剤を混合する。
【0082】
有機溶剤としては、大気圧での沸点が115〜200℃の範囲の有機溶剤が好ましい。具体的には、2−オクタノン、2−ノナノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン、メチルアセトフェノン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸アミル、酢酸ブテニル、酢酸イソアミル、酢酸フェニル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、蟻酸イソアミル、吉草酸メチル、ペンテン酸メチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0083】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を加熱によって硬化させる場合、加熱硬化は、例えば、ホットプレートやオーブン中あるいは遠赤外線の照射によって行うことができる。加熱条件は、30〜150℃、10秒〜60分間が好ましく、50〜120℃、30秒〜20分間がより好ましい。ベーク環境は大気中でも不活性ガス中でも真空中でもかまわない。
【0084】
末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物を光照射によって硬化させる場合、光照射による硬化は、波長200〜500nmの光で行うことが好ましい。光源としては、例えば、ハロゲンランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、LED等を用いることができる。また、電子ビームの照射であってもよい。照射量は、1mJ/cm〜100J/cmの範囲とすることが好ましい。
【0085】
また、一般式(1)に示される構造を有する樹脂を繊維化した後に、これを編んで伸縮性の布や、不織布とすることで、伸縮性膜を形成することも出来る。又は一般式(1)に示される構造を有する樹脂によってポリエステルや綿のコーティングを行うことも出来、これによって布や不織布とすることで、伸縮性膜を得ることも出来る。
【0086】
更には、一般式(1)に示される構造を有する樹脂は、ウレタンゲルとすることも出来る。架橋密度を低くすることによって、高撥水かつ高伸縮、高弾性、低硬度なゲルを形成できる。柔らかいゲルは心地よい感触で、かつ汗や水を弾く性能を有する。
【0087】
以上説明したような、本発明の伸縮性膜の形成方法であれば、ポリウレタンと同程度又はそれ以上の優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面は高い撥水性を有する伸縮性膜を容易に形成することができる。
【0088】
ここで、図1〜9に本発明の伸縮性膜の応用例を示す。図1は、本発明の伸縮性膜で覆った状態の心電計を示す断面図であり、図2図1の心電計を生体電極側から見た概略図である。また、図3は、本発明の伸縮性膜で覆う前の状態の心電計を示す断面図であり、図4図3の心電計を生体電極側から見た概略図であり、図3,4の心電計は特許文献1に記載のものである。図3,4に示されるように、心電計1は、3つの生体電極2が電気信号を通電する配線3によって繋がれ、センターデバイス4に接続されている。
【0089】
配線3としては、金、銀、白金、チタン、ステンレス等の金属やカーボン等の導電性材料が用いられる。なお、伸縮性を出すために、特許文献1に記載のように蛇腹形状の配線とすることもできるし、伸縮性フィルム上に前述の導電性材料の粉やワイヤー化した導電性材料を貼り付けたり、前述の導電性材料を含有する導電インクを印刷したり、導電性材料と繊維が複合された導電性布を用いたりして配線を形成しても良い。
【0090】
心電計1は肌に貼り付ける必要があるので、図3,4では、生体電極2が肌から離れないようにするために生体電極2の周りに粘着部5を配置している。なお、生体電極2が粘着性を有するものである場合は、周辺の粘着部5は必ずしも必要ではない。
【0091】
この心電計1を、図1に示されるように、本発明の伸縮性膜である伸縮性膜6により覆う。ただし、図2に示されるように、生体電極2と粘着部5は肌に接着する必要があるため、これらは伸縮性膜6では覆わない。
【0092】
心電計1を伸縮性膜6で覆う際には、心電計1の表裏を同時に覆うこともできるが、片方ずつ覆うこともできる。なお、肌に接触する生体電極2と粘着部5は覆わないでおく必要があるために、例えば図5に示されるように、剥離性のある基板7上に粘着部5を接触させるように心電計1を置いて伸縮性膜材料で覆い、光や熱によって硬化させて伸縮性膜6を形成した後に、基板7から剥がすことで図1に示すような伸縮性膜6で覆われた心電計1を得ることもできる。
【0093】
また、図6に示すように、伸縮性膜6上に生体電極2、粘着部5、及び配線3を形成してセンターデバイス4を接続し、その上に図7に示すように伸縮性膜材料を塗布して硬化させ、伸縮性膜6’を形成する方法を挙げることもできる。この場合、剥離性のある基板7上に形成した伸縮性膜6上に、生体電極2、粘着部5、及び配線3を形成しても良い。
【0094】
さらに、図8に示すように、布8上に伸縮性膜6を形成し、その上に生体電極2と配線3を形成してセンターデバイス4と接続し、その上に図9に示すように伸縮性膜6’を形成して配線3とセンターデバイス4を覆うこともできる。
【0095】
なお、図5図7図9のように、凹凸がある部品に伸縮性膜を形成する場合は、上記したように、ロールコートやスプレーコーティング等の方法や、スクリーン印刷などで必要な部分だけに塗布する方法が好ましい。
【0096】
また、図6図9のように、伸縮性膜6の上に伸縮性膜6’を形成する場合、上記一般式(3)で示される化合物を用いれば、伸縮性膜6を熱硬化で形成しておいて、その上の伸縮性膜6’を光硬化で形成することもできる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。なお、重量平均分子量(Mw)はGPCによるポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。
【0098】
伸縮性膜形成用組成物に配合したシリコーンペンダントジオール化合物1〜8、比較シリコーンペンダントジオール化合物1、イソシアネート化合物1〜4、ヒドロキシ化合物1〜7を以下に示す。
【0099】
【化18】
【0100】
【化19】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0101】
【化20】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0102】
伸縮性膜形成用組成物に、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物として配合したシリコーンペンダントウレタン(メタ)アクリレート1〜8、シリコーンペンダントメタクリレート1、比較ウレタン(メタ)アクリレート1を以下に示す。
【0103】
【化21】
【0104】
【化22】
【0105】
【化23】
【0106】
【化24】
(式中の繰り返し数は平均値を示し、t+tは平均20であり、tは平均10である。)
【0107】
伸縮性膜形成用組成物に添加剤として配合した光ラジカル発生剤1〜3、熱ラジカル発生剤1,2を以下に示す。
光ラジカル発生剤1:4,4’−ジメトキシベンジル
光ラジカル発生剤2:2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン
光ラジカル発生剤3:(±)−カンファーキノン
熱ラジカル発生剤1:2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオン酸)ジメチル
熱ラジカル発生剤2:アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
【0108】
伸縮性膜形成用組成物に配合した有機溶剤を以下に示す。
有機溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)
【0109】
[実施例、比較例]
表1に記載の組成で、シリコーンペンダントジオール化合物、イソシアネート化合物、ヒドロキシ化合物、添加剤を混合し、伸縮性膜形成用組成物(伸縮性膜材料1−1〜1−9、比較伸縮性膜材料1−1)を調製した。脱気後、ポリエチレン基板上に、伸縮性膜材料1−1〜1−9、比較伸縮性膜材料1−1をバーコート法で塗布し、130℃で20分間ベークして基板上に伸縮性膜(Film1−1〜1−9、比較Film1−1)を作製した。また、伸縮性膜形成用組成物におけるヒドロキシ基とイソシアネート基のモル数の比を表1に併せて示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表2に記載の組成で、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物、光ラジカル発生剤1〜3、熱ラジカル発生剤1,2、及び有機溶剤を混合し、伸縮性膜形成用組成物(伸縮性膜材料2−1〜2−7、比較伸縮性膜材料2−1)を調製した。ポリエチレン基板上に、調製した伸縮性膜形成用組成物をバーコート法で塗布し、伸縮性膜材料2−1〜2−5、比較伸縮性膜材料2−1の場合は、窒素雰囲気下1,000Wのキセノンランプで500mJ/cmの光を照射して組成物塗布膜を硬化させ、伸縮性膜(Film2−1〜2−5、比較Film2−1)を作製した。伸縮性膜材料2−6、2−7の場合は、ポリエチレン基板上に、調製した伸縮性膜形成用組成物をバーコート法で塗布し、窒素雰囲気下で120℃、20分間ベークして伸縮性膜(Film2−6、2−7)を作製した。
【0112】
【表2】
【0113】
(膜厚・接触角・伸縮率・強度の測定)
硬化後の伸縮性膜における膜厚、及び表面の水の接触角を測定した。また、伸縮性膜表面の水の接触角を測定した後に、伸縮性膜を基板から剥がし、JISK6251に準じた方法で伸縮率と強度を測定した。結果を表3に示す。
【0114】
【表3】
【0115】
表3に示されるように、短鎖長の分岐型シリコーンがペンダントされたジオール化合物をイソシアネート化合物と反応させた実施例1−1〜1−9や、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物として短鎖長の分岐型シリコーンがペンダントされたものを用いた実施例2−1〜2−7における伸縮性膜は、水の接触角が高く、即ち撥水性が高く、同時に伸縮性と強度に優れた伸縮性膜が得られた。
【0116】
一方、末端に(メタ)アクリレート基を有する化合物として、シロキサン結合を有さないものを用いた比較例2−1の伸縮性膜は、実施例1−1〜1−9,2−1〜2−7に比べて水の接触角が低く、即ち撥水性が低く、強度にも劣っていた。また、直鎖のシリコーンがペンダントされたジオール化合物をイソシアネート化合物と反応させた比較例1−1の伸縮性膜は、水の接触角は高いものの、強度が劣っていた。
【0117】
以上のことから、本発明の伸縮性膜であれば、優れた伸縮性と強度を有し、かつ膜表面の撥水性にも優れるため、ウェアラブルデバイス等に用いられる伸縮性の配線を覆う膜として優れた特性を有していることが明らかとなった。
【0118】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0119】
1…心電計、 2…生体電極、 3…配線、 4…センターデバイス、
5…粘着部、 6,6’…伸縮性膜、 7…基板、 8…布。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9