特許第6920413号(P6920413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6920413全固体二次電池及びその製造方法、並びに全固体二次電池用固体電解質膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6920413
(24)【登録日】2021年7月28日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】全固体二次電池及びその製造方法、並びに全固体二次電池用固体電解質膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20210805BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20210805BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20210805BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20210805BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20210805BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20210805BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   H01M10/052
   H01M10/0562
   H01M10/0585
   H01B1/06 A
   H01B1/08
   H01B1/10
   H01B13/00 501Z
【請求項の数】17
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-504570(P2019-504570)
(86)(22)【出願日】2018年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2018008328
(87)【国際公開番号】WO2018164051
(87)【国際公開日】20180913
【審査請求日】2019年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2017-42634(P2017-42634)
(32)【優先日】2017年3月7日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】特許業務法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】今井 真二
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/148824(WO,A1)
【文献】 特開2010−108882(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/010552(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0151335(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
H01B 1/08
H01B 1/10
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
該充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたものであって、
前記固体電解質層が、前記無機固体電解質材料と前記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
前記固体電解質層中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記充填材領域が有機バインダーを含有する、全固体二次電池。
【請求項2】
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
前記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料を含み、
1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たし、
前記固体電解質層が、前記無機固体電解質材料と前記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
前記固体電解質層中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記充填材領域が有機バインダーを含有する、全固体二次電池。
【請求項3】
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
該充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたものであって、
前記固体電解質層が、前記無機固体電解質材料と前記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
前記固体電解質層中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす粒度分布を有する、全固体二次電池。
【請求項4】
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
前記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料を含み、
1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たし、
前記固体電解質層が、前記無機固体電解質材料と前記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
前記固体電解質層中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす粒度分布を有する、全固体二次電池。
【請求項5】
前記電子絶縁性材料が硫黄及び/又は改質硫黄である、請求項1〜4のいずれか1項記載の全固体二次電池。
【請求項6】
前記充填材領域が、アルカリ金属を含む化合物及び/又はアルカリ土類金属を含む化合物を含有する、請求項1〜のいずれか1項記載の全固体二次電池。
【請求項7】
前記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質及び/又は酸化物系無機固体電解質である、請求項1〜のいずれか1項記載の全固体二次電池。
【請求項8】
前記充填材領域が、前記固体電解質層と正極活物質層との界面には存在しない、請求項1〜のいずれか1項記載の全固体二次電池。
【請求項9】
前記固体電解質層中、無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が15体積%未満である、請求項1〜8のいずれか1項記載の全固体二次電池。
【請求項10】
無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
該充填材領域は、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたものである、全固体二次電池用固体電解質膜であって、
該全固体二次電池用固体電解質膜が、前記無機固体電解質材料と前記電子絶縁性材料とを含む組成物の膜であり、かつ、正極活物質層上に直接配して使用されるものであり、
前記全固体二次電池用固体電解質膜中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす、全固体二次電池用固体電解質膜。
【請求項11】
無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
前記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料を含み、
1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たす、全固体二次電池用固体電解質膜であって、
該全固体二次電池用固体電解質膜が、前記無機固体電解質材料と前記電子絶縁性材料とを含む組成物の膜であり、かつ、正極活物質層上に直接配して使用されるものであり、
前記全固体二次電池用固体電解質膜中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす、全固体二次電池用固体電解質膜。
【請求項12】
前記電子絶縁性材料が硫黄及び/又は改質硫黄である、請求項10又は11記載の全固体二次電池用固体電解質膜。
【請求項13】
前記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質及び/又は酸化物系無機固体電解質である、請求項10〜12のいずれか1項記載の全固体二次電池用固体電解質膜。
【請求項14】
無機固体電解質材料と硫黄及び/又は改質硫黄とを含有する無機固体電解質組成物を用いて形成した層を加熱し、該層中の硫黄及び/又は改質硫黄を熱溶融させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することを含む、請求項1〜9のいずれか1項記載の全固体二次電池の製造方法。
【請求項15】
無機固体電解質材料を用いて形成した層の外部から該層の内部に向けて、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することを含む、全固体二次電池の製造方法であって、
該固体電解質層が、前記無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
該充填材領域が、前記硫黄及び/又は前記改質硫黄の熱溶融物を用いて形成されたものであり、
前記固体電解質層中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記硫黄及び前記改質硫黄の含有量の合計が2体積%以上である、全固体二次電池の製造方法。
【請求項16】
無機固体電解質材料と硫黄及び/又は改質硫黄とを含有する無機固体電解質組成物を用いて形成した膜を加熱し、該膜中の硫黄及び/又は改質硫黄を熱溶融させ、次いで冷却することを含む、請求項10〜13のいずれか1項記載の全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法。
【請求項17】
無機固体電解質材料を用いて形成した膜の外部から該膜の内部に向けて、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却することを含む、全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法であって、
該固体電解質膜が、前記無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、該無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
該充填材領域が、前記硫黄及び/又は前記改質硫黄の熱溶融物を用いて形成されたものであり、
前記固体電解質膜中、前記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、前記硫黄及び前記改質硫黄の含有量の合計が2体積%以上である、全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池及びその製造方法に関する。また本発明は、全固体二次電池用固体電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、負極と、正極と、負極と正極との間に挟まれた電解質とを有し、両極間にリチウムイオンを往復移動させることにより充電と放電を可能とした蓄電池である。リチウムイオン二次電池には従来から、電解質として有機電解液が用いられてきた。しかし有機電解液は液漏れを生じやすく、また、過充電、過放電により電池内部で短絡が生じ発火するおそれもあり、信頼性と安全性のさらなる向上が求められている。
このような状況下、有機電解液に代えて、不燃性の無機固体電解質を用いた全固体二次電池の開発が進められている。全固体二次電池は負極、電解質及び正極のすべてが固体からなり、有機電解液を用いた電池の課題とされる安全性ないし信頼性を大きく改善することができ、また長寿命化も可能になるとされる。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、充電時には正極から負極へと電子が移動し、同時に正極を構成するリチウム酸化物等からリチウムイオンが放出され、このリチウムイオンは電解質を通って負極へと到達して負極に溜め込まれる。こうして負極に溜め込まれたリチウムイオンの一部は電子を取り込み金属リチウムとして析出する現象が生じる。この金属リチウムの析出物が充放電の繰り返しによりデンドライト状に成長してしまうと、やがて正極へと達し、内部短絡が生じて二次電池として機能しなくなってしまう。デンドライトは非常に細く、電解質として固体を用いる全固体二次電池においても、固体電解質層に生じた亀裂ないしピンホール等を通って成長する。したがって、全固体二次電池においてもデンドライトの成長をブロックすることは、電池を長寿命化する上で重要である。
デンドライトによる内部短絡の問題に対処すべく特許文献1には、固体電解質層中に単体硫黄を過剰に添加し、デンドライトの成長を単体硫黄によりブロックする技術が記載されている。特許文献1記載の技術では、固体電解質粉末に単体硫黄を均一に分散させた混合物を用いて固体電解質層を形成しているため、この固体電解質層は単体硫黄粉末と固体電解質粉末との混合物からなる形態である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2011/010552号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電解質として有機電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、正極、電解質及び負極からなる層構成の電池シートを軸心に巻きつけて電池シートをロール状(円筒型)の積層状態とし、これにより電池の高出力化が図られている。全固体二次電池においても、高出力化のために電池形状を円筒型にすることも検討されている。しかし、全固体二次電池を円筒型にする場合には、電解質層が固体であるがゆえに電解質層に亀裂、ピンホール等が生じやすい。その結果、デンドライトの成長による内部短絡の問題がより顕在化することになる。上記特許文献1記載の技術は、固体電解質層中に分散させた単体硫黄粉末によりデンドライトの成長をブロックするものであるが、固体電解質層中に単体硫黄粉末を混合するだけでは、固体電解質間の空隙を隙間なく埋めることは難しい。
【0006】
本発明は、固体電解質層に生じた亀裂、ピンホール等の空隙が十分に塞がれた、充放電サイクル特性に優れた全固体二次電池及びその製造方法を提供することを課題とする。また本発明は、固体電解質層に生じた亀裂、ピンホール等の空隙が十分に塞がれ、全固体二次電池の固体電解質層として用いることにより、充放電サイクル特性に優れた全固体二次電池を得ることを可能とする固体電解質膜及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、100℃においては固体であり、200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性の充填材と、固体電解質とを含む混合物を用いて膜を形成し、その後、この膜を加熱して充填材を熱溶融させることにより、毛細管現象を利用して膜中の微小の欠陥(空隙)に充填材を浸透させることができ、膜欠陥が十分に塞がれた形態の固体電解質膜が得られること、この固体電解質膜を全固体二次電池の固体電解質層として用いることにより、負極から析出して成長してくるデンドライトを効果的にブロックすることができ、内部短絡を十分に抑制できることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づきさらに検討を重ね、完成されるに至ったものである。
【0008】
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
〔1〕
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたものであって、
上記固体電解質層が、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
上記固体電解質層中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
上記充填材領域が有機バインダーを含有する、全固体二次電池。
〔2〕
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料を含み、
1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たし、
上記固体電解質層が、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
上記固体電解質層中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
上記充填材領域が有機バインダーを含有する、全固体二次電池。
〔3〕
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたものであって、
上記固体電解質層が、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
上記固体電解質層中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
上記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす粒度分布を有する、全固体二次電池。
〔4〕
固体電解質層が、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料を含み、
1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たし、
上記固体電解質層が、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含む組成物の層であり、かつ、正極活物質層上に直接配されてなり、
上記固体電解質層中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
上記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす粒度分布を有する、全固体二次電池。

上記電子絶縁性材料が硫黄及び/又は改質硫黄である、〔1〕〜〔4〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池。

上記充填材領域が、アルカリ金属を含む化合物及び/又はアルカリ土類金属を含む化合物を含有する、〔1〕〜〔〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池。

上記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質及び/又は酸化物系無機固体電解質である、〔1〕〜〔〕のいずれか1つ記載の全固体二次電池。

上記充填材領域が、上記固体電解質層と正極活物質層との界面には存在しない、〔1〕〜〔〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池。
〔9〕
上記固体電解質層中、無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が15体積%未満である、〔1〕〜〔8〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池。
〔10〕
無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域は、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたものである、全固体二次電池用固体電解質膜であって、
上記全固体二次電池用固体電解質膜が、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含む組成物の膜であり、かつ、正極活物質層上に直接配して使用されるものであり、
上記全固体二次電池用固体電解質膜中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす、全固体二次電池用固体電解質膜。
〔11〕
無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、100℃において固体でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料を含み、
1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たす、全固体二次電池用固体電解質膜であって、
上記全固体二次電池用固体電解質膜が、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含む組成物の膜であり、かつ、正極活物質層上に直接配して使用されるものであり、
上記全固体二次電池用固体電解質膜中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記電子絶縁性材料の含有量が2体積%以上であり、
前記無機固体電解質材料が大粒径の粒子と小粒径の粒子とを有し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす、全固体二次電池用固体電解質膜。
〔12〕
上記電子絶縁性材料が硫黄及び/又は改質硫黄である、〔10〕又は〔11〕記載の全固体二次電池用固体電解質膜。
〔13〕
上記無機固体電解質材料が硫化物系無機固体電解質及び/又は酸化物系無機固体電解質である、〔10〕〜〔12〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池用固体電解質膜。
14
無機固体電解質材料と硫黄及び/又は改質硫黄とを含有する無機固体電解質組成物を用いて形成した層を加熱し、この層中の硫黄及び/又は改質硫黄を熱溶融させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することを含む、〔1〕〜〔9〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池の製造方法。
15
無機固体電解質材料を用いて形成した層の外部から上記層の内部に向けて、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することを含む、全固体二次電池の製造方法であって、
上記固体電解質層が、上記無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、上記無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、上記硫黄及び/又は上記改質硫黄の熱溶融物を用いて形成されたものであり、
上記固体電解質層中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記硫黄及び上記改質硫黄の含有量の合計が2体積%以上である、全固体二次電池の製造方法。
16
無機固体電解質材料と硫黄及び/又は改質硫黄とを含有する無機固体電解質組成物を用いて形成した膜を加熱し、この膜中の硫黄及び/又は改質硫黄を熱溶融させ、次いで冷却することを含む、〔10〕〜〔13〕のいずれか1つに記載の全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法。
17
無機固体電解質材料を用いて形成した膜の外部から上記層の内部に向けて、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却することを含む、全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法であって、
上記固体電解質膜が、上記無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、上記無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有し、
上記充填材領域が、上記硫黄及び/又は上記改質硫黄の熱溶融物を用いて形成されたものであり、
上記固体電解質膜中、上記無機固体電解質材料の含有量100体積%に対し、上記硫黄及び上記改質硫黄の含有量の合計が2体積%以上である、全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法。
【0009】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の全固体二次電池は、充電時に負極から成長するデンドライトを効果的にブロックすることができ、内部短絡を十分に抑制することができる。また本発明の全固体二次電池用固体電解質膜は、全固体二次電池の固体電解質層として用いることにより、全固体二次電池の充電時に負極から成長するデンドライトを効果的にブロックすることができ、電池の内部短絡を十分に抑制することを可能とする。
また本発明の全固体二次電池の製造方法によれば、充電時に負極から成長するデンドライトを効果的にブロックすることができ、内部短絡を十分に抑制することができる全固体二次電池を得ることができる。また本発明の全固体二次電池用固体電解質膜の製造方法によれば、全固体二次電池の固体電解質層として用いることにより全固体二次電池の充電時に負極から成長するデンドライトを効果的にブロックすることができ、電池の内部短絡を十分に抑制することを可能とする全固体二次電池用固体電解質膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池の基本構造を模式化して示す縦断面図である。
図2】本発明の好ましい実施形態に係る円筒型全固体二次電池を模式化して示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の全固体二次電池は、固体電解質層中の無機固体電解質同士の間の空隙が特定の電子絶縁性材料により十分に塞がれており、固体電解質層の厚み方向に向けたデンドライトの成長を効果的にブロックすることができる。
本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0013】
[全固体二次電池]
図1は、本発明の全固体二次電池の一実施形態について、電池を構成する各層の積層状態を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に積層してなる構造を有しており、隣接する層同士は直に接触している。このような構造を採用することで、充電時には、負極側に電子(e)が供給され、同時に正極活物質を構成するアルカリ金属又はアルカリ土類金属がイオン化して固体電解質層3を通過(伝導)して移動し、負極に蓄積される。例えばリチウムイオン二次電池であれば、負極にリチウムイオン(Li)が蓄積されることになる。
一方、放電時には、負極に蓄積された上記のアルカリ金属イオンないしアルカリ土類金属イオンが正極側に戻され、作動部位6に電子を供給することができる。図示した全固体二次電池の例では、作動部位6に電球を採用しており、放電によりこれが点灯するようにされている。
【0014】
また、本発明の全固体二次電池は、負極活物質層2を有さずに、固体電解質層3と負極集電体1とが直に接する形態とすることも好ましい。この形態の全固体二次電池では、充電時に負極に蓄積したアルカリ金属イオンないしアルカリ土類金属イオンの一部が電子と結合し、金属として負極集電体表面に析出する現象を利用する。すなわち、この形態の全固体二次電池は、負極表面に析出した金属を負極活物質層として機能させるものである。例えば金属リチウムは、負極活物質として汎用されている黒鉛に比べて10倍以上の理論容量を有するとされている。したがって、負極に金属リチウムを析出させてこの析出した金属リチウムに固体電解質層を押しつけた形態とすることにより、集電体表面に金属リチウムの層を形成することができ、高エネルギー密度の二次電池を実現することが可能になるとされる。
また、負極活物質層を取り除いた形態の全固体二次電池は、電池の厚さが薄くなるために、電池をロール状に巻いた形態とする場合には、固体電解質層の亀裂等の発生をより抑えることが可能になる利点もある。
なお、本明細書において負極活物質層を有しない形態の全固体二次電池とは、あくまで電池製造における層形成工程において負極活物質層を形成しないことを意味し、上記の通り、充電により固体電解質層と負極集電体との間に負極活物質層が形成されるものである。
【0015】
図2に示す円筒型全固体二次電池は、図1の層構成を円筒型の形態で実現したものである。この円筒型全固体二次電池は、図1の層構成を基本単位とする発電要素が軸心22の周りに積層状に形成されている。すなわち、負極集電体21d、負極活物質層21e、固体電解質層21a、正極活物質層21c及び正極集電体21bがこの順に積層された発電要素が複層化された形態を採る。この円筒型全固体二次電池において、隣接する2つの発電要素は集電体1つを共有する形態となる。すなわち、図2に示すように一の集電体の両面に負極活物質層が設けられ、また別の集電体の両面に正極活物質層が設けられた形態となる。また、円筒型全固体二次電池は、必要により電池カバー23を備えていてもよい。
図2に示すような積層構造とすることにより、電池を高出力化することが可能となる。
【0016】
本発明の全固体二次電池において、正極活物質層、固体電解質層、負極活物質層の厚さは特に限定されない。一般的な電池の寸法を考慮すると、上記各層の厚さは10〜1000μmが好ましく、20μm以上500μm未満がより好ましい。
【0017】
本明細書において、正極活物質層と負極活物質層とを合わせて電極層と称することがある。正極活物質層には正極活物質が含有され、負極活物質層には負極活物質が含有される。正極活物質及び負極活物質のいずれかを示すのに、あるいは両方を合わせて示すのに、単に活物質または電極活物質と称することがある。固体電解質層は通常は正極活物質及び/又は負極活物質を含まない。固体電解質層を構成する無機固体電解質、あるいは固体電解質層を構成する無機固体電解質と活物質との組み合わせを無機固体電解質材料という。
【0018】
<固体電解質層>
本発明の全固体二次電池は、固体電解質層が無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、この無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域とを有する。この充填材領域は、デンドライトが貫通可能な固体電解質層中の亀裂ないしピンホール等を塞いでデンドライトの成長をブロックするものである。本発明において「無機固体電解質材料間の空隙を塞ぐ充填材領域を有する」とは、固体電解質層中に存在する無機固体電解質材料間の空隙のうち少なくとも一部が特定の充填材により塞がれ、この充填材により埋められた充填材領域がデンドライトの成長をブロック可能な状態にあることを意味する。
【0019】
(充填材領域)
本発明において充填材領域は、単に粒子状の充填材が存在しているのではなく、無機固体電解質材料間の形状に沿って、事実上隙間なく、充填材である電子絶縁性材料が存在している。このような電子絶縁性材料の充填を実現するために、上記電子絶縁性材料としては、100℃において固体(すなわち融点が100℃越え)である一方、200℃以下の温度領域において熱溶融する物性のものを用いる。「200℃以下の温度領域で熱溶融する」とは、1気圧下において、200℃以下の温度領域で熱溶融することを意味する。このような電子絶縁性材料を用いることにより、無機固体電解質粉末と電子絶縁性材料とを含む混合物を用いて層を形成した後、電子絶縁性材料が溶融する温度まで容易に加熱することができ、この加熱により、溶融した充填材を毛細管現象によって無機固体電解質材料間の空隙へと移動させることができる。その後冷却して充填材を固化させることにより、無機固体電解質材料間の形状に沿って事実上隙間なく、充填材を埋め込んだ状態を作り出すことができる。
すなわち、本発明の全固体二次電池において、固体電解質層の充填材領域は、100℃において固体状でかつ200℃以下の温度領域で熱溶融する電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成されたもの(すなわち熱溶融凝固物で形成されたもの)である。
ここで「電子絶縁性」とは、電子を通過させない性質をいう。本発明において「電子絶縁性材料」という場合、測定温度25℃において導電率が10−9S/cm以下の材料であることが好ましい。
【0020】
本発明において、充填材領域は電子絶縁性材料の他に、デンドライトの成長をブロック可能な他の材料を含んでもよい。すなわち、本発明において「電子絶縁性材料の熱溶融物を用いて形成された」とは、電子絶縁性材料のみを用いて形成された形態の他、電子絶縁性材料と、電子絶縁性材料以外の他の材料とを組合せて用いて形成された形態を含む意味である。他の材料として、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ホウ素、酸化セリウム、ダイヤモンド、ゼオライト等を挙げることができる。他の材料は通常は微粒子であり、その体積平均粒子径は1μm以下が好ましく、700nm以下がより好ましい。これらの材料を充填材領域に存在させることにより、熱溶融物が毛細管現象によって固体電解質間の隙間に染み込みやすくなり、デンドライトのブロック作用をより高めることができる。
充填材領域が電子絶縁性材料に加えて他の材料を含む場合、固体電解質層中において、無機固体電解質材料の含有量100質量部に対し、他の材料の含有量を15質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0021】
上記のような、無機固体電解質材料間の形状に沿って事実上隙間なく、電子絶縁性材料を含む充填材が埋め込まれた状態は、充填材領域のうち一辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FR(この充填材領域FRの外周(電解質領域との境界)のすべてが5μmの正方領域内に収まることを意味する)を、固体電解質層の厚み方向に向けて平面視観察(固体電解質層の厚み方向に対して垂直な面を観察)した場合に、FRの面積FA(μm)と、FRの外周長さFL(μm)との比が、FL/FA≧0.81を満たすことが好ましい。
この平面視観察では、固体電解質層を、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)を用いて倍率5000倍で観察して、1辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを無作為に10個選抜する。これら10個の各充填材領域FRにおけるFL/FAを決定し、決定した10個のFL/FAの平均が0.81以上である場合に、FL/FA≧0.81を満たすものとする。なお、1つの、1辺が5μmの正方領域内において、測定する充填材領域の数は1つとする。FL/FA≧0.81を満たすことは、充填材領域が単なる粒子(球状)ではなく、充填材領域の外周が無機固体電解質材料間の形状に追従していることを示す指標となる。
FL/FAは1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましい。また、FL/FAは通常は100以下であり、50以下であってもよく、20以下であってもよく、10以下であってもよい。
【0022】
本発明において、固体電解質層の充填材領域を構成する電子絶縁性材料は、デンドライトの成長をブロックするために、固体状態においてデンドライトよりも硬い材料であることが好ましい。
上記電子絶縁性材料としては、硫黄、改質硫黄、ヨウ素、硫黄とヨウ素の混合物等を挙げることができ、なかでも硫黄及び/又は改質硫黄を好適に用いることができる。充填材として用いうる硫黄は単体硫黄(硫黄そのもののほか多量体で存在するものも含む。)を意味する。
また、改質硫黄は、硫黄と改質剤とを混練して得られるものである。例えば、純硫黄と改質添加剤であるオレフィン系化合物とを混練し、硫黄の一部を硫黄ポリマーに改質した改質硫黄を得ることができる。充填材領域に硫黄ないし改質硫黄が存在することにより、この充填材領域へと成長してきたデンドライト(アルカリ金属ないしアルカリ土類金属)を物理的にブロックすることができる。
また、デンドライトと硫黄とが接触することにより、デンドライトと硫黄との反応も生じ得る。例えば金属リチウムのデンドライトと硫黄とが接触すると、2Li+S→LiSの反応が生じ、デンドライトの成長が止まる。このような反応が生じると、充填材領域中には反応生成物も共存した状態となる。この反応生成物はデンドライト金属よりも硬い電子絶縁性の化合物であるため、デンドライトの成長をブロックすることができる。すなわち、上記充填材領域は、上記の反応により生じたアルカリ金属を含む化合物及び/又はアルカリ土類金属を含む化合物を含有する形態であることも好ましい。このような形態をとることにより、充填材領域の体積が広がり、充填材領域と電解質領域との間にわずかに残っていた空隙をより確実に塞ぐ効果も期待できる。
【0023】
上記充填材領域は、有機バインダーを含有してもよい。有機バインダーを含有することにより、例えば全固体二次電池の製造を、電池シートを巻き取りながら製造するような場合においても、固体電解質と基材となる電極層や集電体との密着性を高めて固体電解質層の欠陥の発生を抑えることが可能となる。また、有機バインダーは、無機固体電解質同士の結着性等も高めることができ、よりまとまりのある層構成とすることができるため好ましい。
【0024】
− 有機バインダー −
上記有機バインダーとしては有機ポリマーが挙げられる。例えば、以下に述べる樹脂からなる有機バインダーが好ましく使用される。
【0025】
含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVdF−HFP)が挙げられる。
炭化水素系熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素添加スチレンブタジエンゴム(HSBR)、ブチレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレンが挙げられる。
アクリル樹脂としては、各種の(メタ)アクリルモノマー類、(メタ)アクリルアミドモノマー類、およびこれら樹脂を構成するモノマーの共重合体(好ましくは、アクリル酸とアクリル酸メチルとの共重合体)が挙げられる。
また、そのほかのビニル系モノマーとの共重合体(コポリマー)も好適に用いられる。例えば、(メタ)アクリル酸メチルとスチレンとの共重合体、(メタ)アクリル酸メチルとアクリロニトリルとの共重合体、(メタ)アクリル酸ブチルとアクリロニトリルとスチレンとの共重合体が挙げられる。本願明細書において、コポリマーは、統計コポリマーおよび周期コポリマーのいずれでもよく、ブロックコポリマーが好ましい。
その他の樹脂としては例えばポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース誘導体樹脂等が挙げられる。
これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
上記有機バインダーは、強い結着性を示す(集電体からの剥離抑制および、固体界面の結着によるサイクル寿命の向上)ため、上述のアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂、含フッ素樹脂および炭化水素系熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
上記有機バインダーは、粒子表面への濡れ性や吸着性を高めるため、極性基を有することが好ましい。極性基とは、ヘテロ原子を含む1価の基、例えば、酸素原子、窒素原子および硫黄原子のいずれかと水素原子が結合した構造を含む1価の基が好ましく、具体例としては、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、リン酸基およびスルホ基等が挙げられる。
【0028】
上記有機バインダーの平均粒子径は、通常10nm〜30μmが好ましく、10〜1000nmのナノ粒子がより好ましい。
【0029】
上記有機バインダーの重量平均分子量(Mw)は10,000以上が好ましく、20,000以上がより好ましく、30,000以上がさらに好ましい。上限としては、1,000,000以下が好ましく、200,000以下がより好ましく、100,000以下がさらに好ましい。
上記充填材領域が有機バインダーを含む場合、固体電解質層中の有機バインダーの含有量として、1〜10質量%が好ましく、2〜5質量%がより好ましい。
【0030】
本発明の全固体二次電池において、固体電解質層の充填材領域は、固体電解質層と正極活物質層との界面には存在しないことが好ましい。電子絶縁性材料(例えば硫黄及び/又は改質硫黄)と正極活物質層とが接触すると、電池容量が低下する場合がある。
本発明において、充填材領域が固体電解質層と正極活物質層との界面に存在しない、とは、充填材領域が固体電解質層と正極活物質層との界面に事実上存在しないことを意味する。すなわち、電池容量を大きく低下させないレベルで、充填材領域が固体電解質層と正極活物質層との界面に存在する形態を排除するものではない。
【0031】
本発明の二次電池を構成する固体電解質層中、後述する無機固体電解質材料の含有量を100体積%とした場合、電子絶縁性材料の含有量は15体積%未満が好ましく、12体積%未満がより好ましく、10体積%未満であることも好ましい。電子絶縁性材料をこのような含有量とすることにより、イオンの伝導性をあまり損なわずに、デンドライトの成長を効果的にブロックすることができる。固体電解質層中の無機固体電解質材料の含有量を100体積%とした場合、電子絶縁性材料の含有量は、通常は2体積%以上であり、5体積%以上が好ましく、7体積%以上がより好ましい。
【0032】
(電解質領域)
本発明の固体電解質層を構成する無機固体電解質材料は、無機固体電解質であるか、あるいは無機固体電解質と活物質との混合物であり、通常は無機固体電解質からなる。無機固体電解質の好ましい形態について以下に説明する。なお、活物質については後述する。
【0033】
無機固体電解質とは、無機の固体電解質のことであり、固体電解質とは、その内部においてイオンを移動させることができる固体状の電解質のことである。主たるイオン伝導性材料として有機物を含むものではないことから、有機固体電解質(ポリエチレンオキシド(PEO)などに代表される高分子電解質、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)などに代表される有機電解質塩)とは明確に区別される。また、無機固体電解質は定常状態では固体であるため、通常カチオンおよびアニオンに解離または遊離していない。この点で、電解液やポリマー中でカチオンおよびアニオンが解離または遊離している無機電解質塩(LiPF、LiBF、LiFSI、LiClなど)とも明確に区別される。無機固体電解質は周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有するものであれば特に限定されず電子伝導性を有さないものが一般的である。
【0034】
本発明において、無機固体電解質は、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有する。上記無機固体電解質は、この種の製品に適用される固体電解質材料を適宜選定して用いることができる。無機固体電解質として、一般的には(i)硫化物系無機固体電解質及び/又は(ii)酸化物系無機固体電解質が用いられる。
【0035】
(i)硫化物系無機固体電解質
硫化物系無機固体電解質は、硫黄原子(S)を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。硫化物系無機固体電解質は、元素として少なくともLi、SおよびPを含有し、リチウムイオン伝導性を有しているものが好ましいが、目的または場合に応じて、Li、SおよびP以外の他の元素を含んでもよい。
例えば下記式(I)で示される組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が挙げられる。

a1b1c1d1e1 式(I)

式中、LはLi、NaおよびKから選択される元素を示し、Liが好ましい。Mは、B、Zn、Sn、Si、Cu、Ga、Sb、Al及びGeから選択される元素を示す。Aは、I、Br、Cl及びFから選択される元素を示す。a1〜e1は各元素の組成比を示し、a1:b1:c1:d1:e1は1〜12:0〜5:1:2〜12:0〜10を満たす。a1はさらに、1〜9が好ましく、1.5〜7.5がより好ましい。b1は0〜3が好ましい。d1はさらに、2.5〜10が好ましく、3.0〜8.5がより好ましい。e1はさらに、0〜5が好ましく、0〜3がより好ましい。
【0036】
各元素の組成比は、下記のように、硫化物系無機固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0037】
硫化物系無機固体電解質は、非結晶(ガラス)であっても結晶化(ガラスセラミックス化)していてもよく、一部のみが結晶化していてもよい。例えば、Li、PおよびSを含有するLi−P−S系ガラス、またはLi、PおよびSを含有するLi−P−S系ガラスセラミックスを用いることができる。
硫化物系無機固体電解質は、例えば硫化リチウム(LiS)、硫化リン(例えば五硫化二燐(P))、単体燐、単体硫黄、硫化ナトリウム、硫化水素、ハロゲン化リチウム(例えばLiI、LiBr、LiCl)及び上記Mであらわされる元素の硫化物(例えばSiS、SnS、GeS)の中の少なくとも2つ以上の原料の反応により製造することができる。
【0038】
Li−P−S系ガラスおよびLi−P−S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは60:40〜90:10、より好ましくは68:32〜78:22である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高いものとすることができる。具体的には、リチウムイオン伝導度を好ましくは1×10−4S/cm以上、より好ましくは1×10−3S/cm以上とすることができる。上限は特にないが、1×10−1S/cm以下であることが実際的である。
【0039】
具体的な硫化物系無機固体電解質の例として、原料の組み合わせ例を下記に示す。たとえばLiS−P、LiS−P−LiCl、LiS−P−HS、LiS−P−HS−LiCl、LiS−LiI−P、LiS−LiI−LiO−P、LiS−LiBr−P、LiS−LiO−P、LiS−LiPO−P、LiS−P−P、LiS−P−SiS、LiS−P−SiS−LiCl、LiS−P−SnS、LiS−P−Al、LiS−GeS、LiS−GeS−ZnS、LiS−Ga、LiS−GeS−Ga、LiS−GeS−P、LiS−GeS−Sb、LiS−GeS−Al、LiS−SiS、LiS−Al、LiS−SiS−Al、LiS−SiS−P、LiS−SiS−P−LiI、LiS−SiS−LiI、LiS−SiS−LiSiO、LiS−SiS−LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。ただし、各原料の混合比は問わない。このような原料組成物を用いて硫化物系無機固体電解質材料を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法、溶液法および溶融急冷法を挙げられる。常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化を図ることができるからである。
【0040】
(ii)酸化物系無機固体電解質
酸化物系無機固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0041】
具体的な化合物例としては、例えばLixaLayaTiO〔xa=0.3〜0.7、ya=0.3〜0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbbmbnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccczcnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦1、0≦zd≦2、0≦ad≦1、1≦md≦7、3≦nd≦13)、Li(3−2xe)eexeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子または2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO−LiSO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4−3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2−xhSiyh3−yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。またLi、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。
【0042】
無機固体電解質の粒子径(体積平均粒子径)は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、無機固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。無機固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析−動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0043】
本発明において無機固体電解質材料は、大粒径の粒子とそれより小粒径の粒子とが混在し、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす粒子が存在する粒度分布を有することが好ましい。このような粒度分布を有することにより、上述のFL/FAをより高めることができる。すなわち、無機固体電解質材料間の空隙をより低減することができ、かつ、この空隙に充填材が、より隙間なく充填された形態とすることができる。
【0044】
<正極活物質層>
上記正極活物質層4は、上述した無機固体電解質と、正極活物質とを含有する。
正極活物質の好ましい形態について説明する。
【0045】
(正極活物質)
正極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入および放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、遷移金属酸化物や、有機物、硫黄などのLiと複合化できる元素や硫黄と金属の複合物などでもよい。
中でも、正極活物質としては、遷移金属酸化物を用いることが好ましく、遷移金属元素M(Co、Ni、Fe、Mn、CuおよびVから選択される1種以上の元素)を有する遷移金属酸化物がより好ましい。また、この遷移金属酸化物に元素M(リチウム以外の金属周期律表の第1(Ia)族の元素、第2(IIa)族の元素、Al、Ga、In、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Si、PまたはBなどの元素)を混合してもよい。混合量としては、遷移金属元素Mの量(100mol%)に対して0〜30mol%が好ましい。Li/Maのモル比が0.3〜2.2になるように混合して合成されたものが、より好ましい。
遷移金属酸化物の具体例としては、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物、(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物、(MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物、(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物および(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物等が挙げられる。
【0046】
(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiCoO(コバルト酸リチウム[LCO])、LiNi(ニッケル酸リチウム)LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム[NCA])、LiNi1/3Co1/3Mn1/3(ニッケルマンガンコバルト酸リチウム[NMC])およびLiNi0.5Mn0.5(マンガンニッケル酸リチウム)が挙げられる。
(MB)スピネル型構造を有する遷移金属酸化物の具体例として、LiMn(LMO)、LiCoMnO4、LiFeMn、LiCuMn、LiCrMnおよびLiNiMnが挙げられる。 (MC)リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、LiFePOおよびLiFe(PO等のオリビン型リン酸鉄塩、LiFeP等のピロリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類ならびにLi(PO(リン酸バナジウムリチウム)等の単斜晶ナシコン型リン酸バナジウム塩が挙げられる。
(MD)リチウム含有遷移金属ハロゲン化リン酸化合物としては、例えば、LiFePOF等のフッ化リン酸鉄塩、LiMnPOF等のフッ化リン酸マンガン塩およびLiCoPOF等のフッ化リン酸コバルト類が挙げられる。
(ME)リチウム含有遷移金属ケイ酸化合物としては、例えば、LiFeSiO、LiMnSiOおよびLiCoSiO等が挙げられる。
本発明では、(MA)層状岩塩型構造を有する遷移金属酸化物が好ましく、LCO、LMO、NCA又はNMCがより好ましい。
【0047】
正極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。正極活物質の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は特に限定されない。例えば、0.1〜50μmとすることができる。正極活物質を所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機を用いればよい。焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。正極活物質粒子の体積平均粒子径(球換算平均粒子径)は、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定することができる。
【0048】
上記正極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極活物質層を形成する場合、正極活物質層の単位面積(cm)当たりの正極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0049】
正極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10〜95質量%が好ましく、30〜90質量%がより好ましく、50〜85質量がさらに好ましく、55〜80質量%が特に好ましい。
【0050】
<負極活物質層>
上記負極活物質層2は、上述した無機固体電解質と、負極活物質とを含有する。なお、上述した通り、本発明の全固体二次電池は負極活物質層を予め形成しない形態とすることも好ましい。
負極活物質の好ましい形態について説明する。
【0051】
(負極活物質)
負極活物質は、可逆的にリチウムイオンを挿入および放出できるものが好ましい。その材料は、上記特性を有するものであれば、特に制限はなく、炭素質材料、酸化錫等の金属酸化物、酸化ケイ素、金属複合酸化物、リチウム単体およびリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、並びに、Sn、Si、AlおよびIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、炭素質材料又はリチウム複合酸化物が信頼性の点から好ましく用いられる。また、金属複合酸化物としては、リチウムを吸蔵および放出可能であることが好ましい。その材料は、特には制限されないが、構成成分としてチタン及び/又はリチウムを含有していることが、高電流密度充放電特性の観点で好ましい。
【0052】
負極活物質として用いられる炭素質材料とは、実質的に炭素からなる材料である。例えば、石油ピッチ、アセチレンブラック(AB)等のカーボンブラック、黒鉛(天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛等)、及びPAN(ポリアクリロニトリル)系の樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。さらに、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA(ポリビニルアルコール)系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維および活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカーならびに平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0053】
負極活物質として適用される金属酸化物及び金属複合酸化物としては、特に非晶質酸化物が好ましく、さらに金属元素と周期律表第16族の元素との反応生成物であるカルコゲナイトも好ましく用いられる。ここでいう非晶質とは、CuKα線を用いたX線回折法で、2θ値で20°〜40°の領域に頂点を有するブロードな散乱帯を有するものを意味し、結晶性の回折線を有してもよい。
【0054】
上記非晶質酸化物及びカルコゲナイドからなる化合物群の中でも、半金属元素の非晶質酸化物、及びカルコゲナイドがより好ましく、周期律表第13(IIIB)族〜15(VB)族の元素、Al、Ga、Si、Sn、Ge、Pb、SbおよびBiの1種単独あるいはそれらの2種以上の組み合わせからなる酸化物、ならびにカルコゲナイドが特に好ましい。好ましい非晶質酸化物及びカルコゲナイドの具体例としては、例えば、Ga、SiO、GeO、SnO、SnO、PbO、PbO、Pb、Pb、Pb、Sb、Sb、SbBi、SbSi、Bi、SnSiO、GeS、SnS、SnS、PbS、PbS、Sb、SbおよびSnSiSが好ましく挙げられる。また、これらは、酸化リチウムとの複合酸化物、例えば、LiSnOであってもよい。
【0055】
負極活物質はチタン原子を含有することも好ましい。より具体的にはLiTi12(チタン酸リチウム[LTO])がリチウムイオンの吸蔵放出時の体積変動が小さいことから急速充放電特性に優れ、電極の劣化が抑制されリチウムイオン二次電池の寿命向上が可能となる点で好ましい。
【0056】
本発明においては、Si系の負極を適用することもまた好ましい。一般的にSi負極は、炭素負極(黒鉛およびアセチレンブラックなど)に比べて、より多くのLiイオンを吸蔵できる。すなわち、単位質量あたりのLiイオンの吸蔵量が増加する。そのため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点がある。
【0057】
負極活物質の形状は特に制限されないが粒子状が好ましい。負極活物質の粒子径(体積平均粒子径)は、0.1〜60μmが好ましい。所定の粒子径にするには、通常の粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、遊星ボールミルおよび旋回気流型ジェットミルや篩などが好適に用いられる。粉砕時には水、あるいはメタノール等の有機溶媒を共存させた湿式粉砕も必要に応じて行うことができる。所望の粒子径とするためには分級を行うことが好ましい。分級方法としては特に限定はなく、篩、風力分級機などを必要に応じて用いることができる。分級は乾式および湿式ともに用いることができる。負極活物質粒子の平均粒子径は、前述の正極活物質の体積平均粒子径の測定方法と同様の方法により測定することができる。
【0058】
上記焼成法により得られた化合物の化学式は、測定方法として誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法、簡便法として、焼成前後の粉体の質量差から算出できる。
【0059】
上記負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
負極活物質層を形成する場合、負極活物質層の単位面積(cm)当たりの負極活物質の質量(mg)(目付量)は特に限定されるものではない。設計された電池容量に応じて、適宜に決めることができる。
【0060】
負極活物質の、固体電解質組成物中における含有量は、特に限定されず、固形分100質量%において、10〜80質量%であることが好ましく、20〜80質量%がより好ましい。
【0061】
正極活物質または負極活物質を含む電極表面は硫黄またはリンで表面処理されていてもよい。また、正極活物質または負極活物質の粒子表面は、上記表面被覆の前後において活性光線または活性気体(プラズマ等)により表面処理を施されていても良い。
【0062】
本発明の全固体二次電池において、固体電解質層、正極活物質層及び負極活物質層には、リチウム塩、導電助剤、バインダー(上記充填材領域に含まれ得る有機バインダーが好ましい)、分散剤等が含まれていることも好ましい。
【0063】
〔集電体(金属箔)〕
正極集電体5及び負極集電体1は、電子伝導体が好ましい。
本発明において、正極集電体及び負極集電体のいずれか、又は、両方を合わせて、単に、集電体と称することがある。
正極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、ニッケルおよびチタンなどの他に、アルミニウムまたはステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたもの(薄膜を形成したもの)が好ましく、その中でも、アルミニウムおよびアルミニウム合金がより好ましい。
負極集電体を形成する材料としては、アルミニウム、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケルおよびチタンなどの他に、アルミニウム、銅、銅合金またはステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、アルミニウム、銅、銅合金およびステンレス鋼がより好ましい。
【0064】
集電体の形状は、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。
集電体の厚みは、特に限定されないが、1〜500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0065】
本発明において、負極集電体、負極活物質層、固体電解質層、正極活物質層及び正極集電体の各層の間又はその外側には、機能性の層や部材等を適宜介在ないし配設してもよい。また、各層は単層で構成されていても、複層で構成されていてもよい。
【0066】
<全固体二次電池の製造>
本発明において、全固体二次電池は、固体電解質層を本発明で規定する形態とすること以外は、常法により製造することができる。本発明の全固体二次電池の製造方法の一例を以下に示すが、本発明の全固体二次電池の製造方法はこれらの形態に限定されるものではない。
【0067】
基材(例えば、集電体となる金属箔)上に、正極活物質層を構成する成分を含む組成物(正極用組成物)を塗布して正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極シートを作製する。次いで、この正極活物質層の上に、少なくとも上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含有する組成物を塗布して層を形成する。次いでこの層の上に負極集電体を重ねる。次いでこの積層体を、電子絶縁性材料が熱溶融する温度(この温度は好ましくは200℃以下である)まで加熱し、電子絶縁性材料の溶融物を毛細管現象により無機固体電解質材料間の隙間に浸透させる。この毛細管現象により、固体電解質粒子の表層に存在する電子絶縁性材料が層内部の空隙へと移動するため、固体電解質層から正極活物質層への充填材の過剰な染み出しを防ぐことができる。
その後、冷却して充填材を固化することにより、無機固体電解質材料間の空隙の少なくとも一部が塞がれた固体電解質層を形成することができる。
こうして、正極活物質層と負極集電体との間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることができる。必要によりこれを筐体に封入して所望の全固体二次電池とすることができる。また、固体電解質層の上に、負極活物質層と負極集電体と順次重ねることにより、正極活物質層と負極活物質層との間に固体電解質層が挟まれた構造の全固体二次電池を得ることもできる。
また、各層の形成方法を逆にして、負極集電体上に、負極活物質層、固体電解質層及び正極活物質層を形成し、正極集電体を重ねて、全固体二次電池を製造することもできる。また、基材/負極活物質層からなる2層構造の積層体と、基材/正極活物質層/固体電解質層からなる3層構造の積層体とを調製し、これらを重ねあわせて本発明の全固体二次電池を得ることもできる。また基材/正極活物質層からなる2層構造の積層体と、基材/負極活物質層/固体電解質層からなる3層構造の積層体とを調製し、これらを重ねあわせて本発明の全固体二次電池を得ることもできる。
【0068】
固体電解質層の形成において上記電子絶縁性材料を溶融させるための加熱は、上記無機固体電解質材料と上記電子絶縁性材料とを含有する組成物を用いて層を形成した後であれば、全固体二次電池の製造工程のどの段階で加熱してもよい。また、層形成自体(塗布工程自体)を上記電子絶縁性材料の溶融温以上の温度で行うこともでき、この場合は電子絶縁性材料を溶融させるための加熱工程を別途設ける必要はない。
また、少なくとも無機固体電解質材料を塗布して形成した層に、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することもできる。
【0069】
すなわち、本発明の全固体二次電池の製造方法の好ましい実施形態では、無機固体電解質材料と硫黄及び/又は改質硫黄とを含有する無機固体電解質組成物を用いて形成した層を加熱し、固体電解質層中の硫黄及び/又は改質硫黄を熱溶融させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することを含むものである。本発明において電子絶縁性材料を溶融するために「層を加熱する」形態は、上記電子絶縁性材料を含む層を、この電子絶縁性材料の溶融温度以上の温度に曝すことを意味する。したがって、充填材の溶融温度以上の温度で製膜を行う場合、製膜後、さらに加熱する必要はないのであるが、本発明においては、製膜自体を溶融温度以上の高温で行い、その後に別途加熱処理を行わない形態も、「層を加熱する」形態に含むものとする。このことは、後述する本発明の固体電解質膜の製造においても同様である。
【0070】
また、本発明の全固体二次電池の製造方法の別の好ましい実施形態は、無機固体電解質材料を用いて形成した層中に、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却して固体電解質層を形成することを含むものである。
【0071】
(各層の形成方法)
本発明の全固体二次電池の製造において、各層の形成方法は特に限定されず、適宜に選択できる。例えば、塗布(好ましくは湿式塗布)、スプレー塗布、スピンコート塗布、ディップコート、スリット塗布、ストライプ塗布およびバーコート塗布が挙げられる。
各層形成用の塗布液を塗布した後に乾燥処理を施してもよいし、重層塗布した後に乾燥処理をしてもよい。乾燥温度は特に限定されない。下限は30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。このような温度範囲で加熱することで、(C)分散媒を除去し、固体状態にすることができる。また、温度を高くしすぎず、全固体二次電池の各部材を損傷せずに済むため好ましい。これにより、全固体二次電池において、優れた総合性能を示し、かつ良好な結着性を得ることができる。
【0072】
形成した固体電解質層、又は作製した全固体二次電池は、加圧することが好ましい。加圧方法としては油圧シリンダープレス機等が挙げられる。加圧力としては、特に限定されず、一般的には50〜1500MPaの範囲であることが好ましい。
また、塗布した固体電解質組成物は、加圧と同時に加熱することが好ましい。加熱温度としては、特に限定されず、一般的には30〜300℃の範囲である。無機固体電解質のガラス転移温度よりも高い温度でプレスすることもできる。
加圧は塗布溶媒又は分散媒をあらかじめ乾燥させた状態で行ってもよいし、溶媒又は分散媒が残存している状態で行ってもよい。
【0073】
加圧中の雰囲気としては、特に限定されず、大気下、乾燥空気下(露点−20℃以下)および不活性ガス中(例えばアルゴンガス中、ヘリウムガス中、窒素ガス中)などいずれでもよい。
プレス時間は短時間(例えば数時間以内)で高い圧力をかけてもよいし、長時間(1日以上)かけて中程度の圧力をかけてもよい。全固体二次電池用シート以外、例えば全固体二次電池の場合には、中程度の圧力をかけ続けるために、全固体二次電池の拘束具(ネジ締め圧等)を用いることもできる。
プレス圧はシート面等の被圧部に対して均一であっても異なる圧であってもよい。
プレス圧は被圧部の面積や膜厚に応じて変化させることができる。また同一部位を段階的に異なる圧力で変えることもできる。
プレス面は平滑であっても粗面化されていてもよい。
【0074】
また、電池をシート状に形成し、この電池シートを軸心の外周にロール状に巻いた状態とした円筒型とし、この円筒型電池の最外層から軸心方向に圧力をかける形態とすることもできる。
【0075】
(初期化)
上記のようにして製造した全固体二次電池は、製造後又は使用前に初期化を行うことが好ましい。初期化の方法は特に限定されず、例えば、プレス圧を高めた状態で初充放電を行い、その後、全固体二次電池の一般使用圧力になるまで圧力を開放することにより行うことができる。
【0076】
<全固体二次電池の用途>
本発明の全固体二次電池は種々の用途に適用することができる。適用態様には特に限定はないが、例えば、電子機器に搭載する場合、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、コードレスフォン子機、ページャー、ハンディーターミナル、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、電気シェーバー、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、メモリーカードなどが挙げられる。その他民生用として、自動車、電動車両、モーター、照明器具、玩具、ゲーム機器、ロードコンディショナー、時計、ストロボ、カメラ、医療機器(ペースメーカー、補聴器、肩もみ機など)などが挙げられる。更に、各種軍需用、宇宙用として用いることができる。また、太陽電池と組み合わせることもできる。
【0077】
なかでも、高容量かつ高レート放電特性が要求されるアプリケーションに適用することが好ましい。例えば、今後大容量化が予想される蓄電設備等においては高い安全性が必須となりさらに電池性能の両立が要求される。また、電気自動車などは高容量の二次電池を搭載し、家庭で日々充電が行われる用途が想定される。本発明によれば、このような使用形態に好適に対応してその優れた効果を発揮することができる。
【0078】
[全固体二次電池用固体電解質膜]
本発明の全固体二次電池用固体電解質膜(以下、単に「本発明の電解質膜」という。)は、本発明の全固体二次電池の固体電解質層として好適に用いることができる。すなわち、本発明の電解質膜は、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料の間を埋める充填材領域とを有し、この充填材領域を構成する上記電子絶縁性材料は、固体電解質膜形成時に熱溶融状態として充填されたもの(固体電解質膜形成時における熱溶融履歴を有するもの)である。
また、本発明の電解質膜は、無機固体電解質材料に占有された電解質領域と、無機固体電解質材料の間を埋める充填材領域とを有し、上記充填材領域のうち一辺が5μmの正方領域内に収まる充填材領域FRを平面視観察した場合に、FRの面積FAと、FRの外周長さFLとの比が、FL/FA≧0.81を満たすことが好ましい。
本発明の電解質膜の好ましい形態は、上述した本発明の全固体二次電池を構成する固体電解質層の好ましい形態と同じである。
【0079】
<全固体二次電池用固体電解質膜の製造>
本発明の電解質膜は、無機固体電解質材料と硫黄及び/又は改質硫黄とを含有する無機固体電解質組成物を用いて形成した膜を加熱し、この膜中の硫黄及び/又は改質硫黄を溶融させ、次いで冷却して硫黄及び/又は改質硫黄を固化することにより形成することができる。
また、本発明の電解質膜は、無機固体電解質材料を用いて形成した膜中に、熱溶融状態にある硫黄及び/又は改質硫黄を含浸させ、次いで冷却して硫黄及び/又は改質硫黄を固化することにより形成することができる。
本発明の電解質膜は、例えば、基材上に形成された状態で得ることができる。また、基材上に電解質膜を形成した後、基材を剥離して電解質膜単体としてもよい。
【実施例】
【0080】
本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0081】
[参考例1] 無機固体電解質の合成
アルゴン雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、硫化リチウム(LiS、Aldrich社製、純度>99.98%)4.84g、五硫化二リン(P、Aldrich社製、純度>99%)7.80gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入した。LiS及びPはモル比でLiS:P=75:25である。メノウ製乳鉢上において、メノウ製乳棒を用いて、5分間混合した。
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを66個投入し、上記混合物全量を投入し、アルゴン雰囲気下で容器を完全に密閉した。フリッチュ社製遊星ボールミルP−7に容器をセットし、25℃で、回転数510rpmで20時間メカニカルミリングを行うことで黄色粉体の硫化物系無機固体電解質(Li/P/Sガラス、以下「LPS」ともいう。)12.4gを得た。
得られたLPSの体積平均粒子径を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(商品名、HORIBA社製)を用いて測定した結果、8μmであった。また、このLPSは、大粒径の粒子の粒子径と、それより小粒径の粒子の粒子径との関係が、[大粒径粒子の粒子径]>4×[小粒径粒子の粒子径]を満たす関係にある粒子を有するものであった。
【0082】
[参考例2] 硫黄と無機固体電解質との混合物の調製
アルゴン雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、硫黄(S、Aldrich社製、純度>99.98%)を0.8g、上記LPSを6.2g、それぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入した。硫黄及びLPSは質量比でLPS:S=88:12、体積比でLPS:S=100:11である。メノウ製乳鉢上において、メノウ製乳棒を用いて、10分間混合した。
【0083】
[参考例3] 硫黄とアルミナと無機固体電解質との混合物の調製
アルゴン雰囲気下(露点−70℃)のグローブボックス内で、硫黄(S、Aldrich社製、純度>99.98%)1.2g、酸化アルミニウムナノ粒子(Al、純度>99%、粒子サイズ500nm、EMジャパン社製)0.6gをそれぞれ秤量し、メノウ製乳鉢に投入し、メノウ製乳棒を用いて10分間混合した。次いで、上記LPSを8.2g秤量し、上記乳鉢に投入して、メノウ製乳棒を用いて10分間混合した。LPS:アルミナ:硫黄は質量比で82:6:12、LPS:Sは体積比で100:11である。
【0084】
[製造例] 全固体二次電池の製造
<全固体二次電池用正極シートの作製>
ジルコニア製45mL容器(フリッチュ社製)に、直径5mmのジルコニアビーズを180個投入し、上記で合成したLPS2.0gと、スチレンブタジエンゴム(商品コード182907、アルドリッチ社製)0.1gと、分散媒としてオクタン22gとを投入した。その後に、この容器をフリッチュ社製遊星ボールミルP−7にセットし、温度25℃で、回転数300rpmで2時間攪拌した。その後、正極活物質LiNi0.85Co0.10Al0.05(ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム)7.9gを容器に投入し、再びこの容器を遊星ボールミルP−7にセットし、温度25℃、回転数100rpmで15分間混合を続けた。このようにして、正極用組成物を得た。
次に、集電体となる厚み20μmのアルミ箔状に、上記で得られた正極用組成物をベーカー式アプリケーターにより塗布し、80℃2時間加熱して、正極用組成物を乾燥させた。その後、ヒートプレス機を用いて、所定の密度になるように乾燥させた正極層用組成物を加熱(120℃)しながら加圧(600MPa、1分)した。このようにして、膜厚110μmの正極活物質層を有する全固体二次電池用正極シートを作製した。
【0085】
<全固体二次電池の製造>
上記参考例2又は3で調製した混合物を、常温トルエン中で分散し固形分20質量%の塗布液を得た。この塗布液を、常温で上記の正極シート上にバーコート塗布し、120℃で乾燥して、膜厚100μmの固体電解質層を得た。
次いで、負極集電体となるSUS箔を固体電解質層の上に重ね、全固体二次電池用積層体を形成した。
この積層体に、拘束部材となる拘束板とネジを使い、トルクレンチでネジの締付力を調整し、所定の拘束圧を印加した。
その後、拘束圧のかかった状態の積層体を、ホットプレート上で150℃、1時間の加熱処理に付し、充填材である硫黄を熱溶融させた。
その後、自然冷却して、拘束圧を8MPaに調整して、実施例1の全固体二次電池とした。
【0086】
下表に示す条件に変更したこと以外は、実施例1の全固体二次電池と同様にして実施例2、及び比較例1〜3の全固体二次電池を得た。
【0087】
[試験例1] FL/FAの測定
上記の固体電解質層を、SEM−EDX装置を用い、クライオホルダーを用いることで凍結し、冷却した状態で測定を行った。
まず断面SEM像を倍率5000倍で撮影した。
次に、同じ断面のEDX像を元素Pと元素Sについて取得した。電解質領域と充填材領域(硫黄)の対応づけを、下記のようにP(リン)とS(硫黄)の有無で実施した。

電解質領域:P有り、S有り
充填材領域:P無し、S有り

断面SEM画像において、充填材領域として同定された各領域のうち、5μmの正方領域内(5μm×5μm)に収まる領域(充填材領域として同定された領域のうち、外周(電解質領域との境界)がすべて、5μmの正方領域内に収まる領域)を無作為に10領域選抜し、それらの領域のFL(周長)とFA(面積)を測定した。これらの測定値に基づき決定した各領域のFL/FAの平均(10領域のFL/FAの平均)を算出した。
なお、下表中、「SEM−EDX観察によるFRの状態」のカラムにおいて、「空隙」とは、断面SEM画像内に観察される、P無しかつS無しの領域を意味する。
【0088】
[試験例2] 充放電サイクル特性試験
上記で作製した各全固体二次電池を用いて、下記条件により充放電を行い、充放電サイクル特性試験を実施した。
(条件)
30℃、電流密度0.09mA/cm(0.05Cに相当)、4.2V、一定電流条件で充放電
【0089】
内部短絡が生じた場合は充電が完了しないため、50時間で充電を終了させ、放電させた。内部短絡の有無は、充電時の急激な電圧降下の有無により判断した。
下記評価基準に基づき、充放電サイクル特性を評価した。
−充放電サイクル特性評価基準−
A:3サイクル以上でも短絡なし
B:2サイクル以上3サイクル未満で短絡
C:1サイクル以上2サイクル未満で短絡
D:1サイクル未満で短絡
結果を下表に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
上記表に示される通り、固体電解質層を構成する無機固体電解質の粒子間を、充填材により埋めることにより、短絡を効果的に抑制できることがわかる。
【0092】
本発明をその実施態様とともに説明したが、我々は特に指定しない限り我々の発明を説明のどの細部においても限定しようとするものではなく、添付の請求の範囲に示した発明の精神と範囲に反することなく幅広く解釈されるべきであると考える。
【0093】
本願は、2017年3月7日に日本国で特許出願された特願2017−042634に基づく優先権を主張するものであり、これはここに参照してその内容を本明細書の記載の一部として取り込む。
【符号の説明】
【0094】
10 全固体二次電池
1 負極集電体
2 負極活物質層
3 固体電解質層
4 正極活物質層
5 正極集電体
6 作動部位
21a 固体電解質層
21b 正極集電体
21c 正極活物質層
21d 負極集電体
21e 負極活物質層
22 軸心
23 電池カバー
図1
図2