特許第6922423号(P6922423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922423
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】セラミック体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B28B 1/30 20060101AFI20210805BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20210805BHJP
【FI】
   B28B1/30
   B33Y10/00
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-105559(P2017-105559)
(22)【出願日】2017年5月29日
(65)【公開番号】特開2018-199287(P2018-199287A)
(43)【公開日】2018年12月20日
【審査請求日】2020年5月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)/革新的設計生産技術、フルイディック材料創製と3Dプリンティングによる構造化機能材料・デバイスの迅速開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】宍倉 朋子
(72)【発明者】
【氏名】生熊 崇人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 愼治
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−205303(JP,A)
【文献】 特表2000−510805(JP,A)
【文献】 特開2016−223005(JP,A)
【文献】 特開2012−102308(JP,A)
【文献】 特開2017−114117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
C04B 35/626
B33Y 10/00,70/00
C09D 11/30,11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒(A)と反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)とを含有するインクX液と、
前記反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と架橋反応を起こす化合物(C)を必須成分とするインクY液を、
同時に又は別々に、
支持体に層毎又は一度に供給し混合することにより硬化させる工程(I)を含み、
前記溶媒(A)が、20℃における蒸気圧が1500Pa以下であり、かつ、前記セラミック粒子(B)又は前記化合物(C)のいずれとも反応性を有しない溶媒である、
セラミック体の製造方法。
【請求項2】
前記工程(I)において、供給される方法が支持体に層毎に供給される工程である、請求項1に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項3】
前記工程(I)中、供給される方法が塗布である請求項1に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項4】
前記工程(I)中、供給される方法が印刷である請求項1に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒(A)の20℃における蒸気圧が1000Pa以下であることを特徴とする請求項1に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒(A)が、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物、N−メチル−2−ピロリドン及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物である請求項1に記載のセラミック体の製造方法。
【化1】
(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基、Rは水素原子、ベンジル基、フェニル基又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【化2】
(2)
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子、ベンジル基又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基、Rはメチル基又はエチル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【化3】
(3)
(式(3)中、Rはメチル基又はエチル基、Rはメチル基又はエチル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【請求項7】
セラミック体の各々の層が、溶媒を乾燥する工程を経ることなく、セラミックの表面修飾基がエネルギー線又は熱により分散媒である溶媒を内包して硬化することを特徴とする請求項1に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項8】
前記インクX液及び前記インクY液が、実質的にバインダー樹脂を含まないことを特徴とする請求項1〜7いずれか一項に記載のセラミック体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8で得られたセラミック体を乾燥又は焼結する工程を有する、セラミック焼結体の製造方法。
【請求項10】
2種以上のインクで構成される造形用インクセットであって、
溶媒(A)と反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)とを含有するインクX液と、
前記反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と架橋反応を起こす化合物(C)を必須成分とするインクY液と、を少なくとも有し、
前記溶媒(A)が、20℃における蒸気圧が1500Pa以下であり、かつ、前記セラミック粒子(B)又は前記化合物()のいずれとも反応性を有しない溶媒である、
造形用インクセット。
【請求項11】
前記溶媒(A)の20℃における蒸気圧が1000Pa以下であることを特徴とする請求項10に記載の造形用インクセット。
【請求項12】
前記溶媒(A)が、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物、N−メチル−2−ピロリドン及びジメチルスルホキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項10に記載の造形用インクセット。
【化4】
(1)
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基、Rは水素原子、ベンジル基、フェニル基又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【化5】
(2)
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子、ベンジル基又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基、Rはメチル基又はエチル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【化6】
(3)
(式(3)中、Rはメチル基又はエチル基、Rはメチル基又はエチル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【請求項13】
前記インクX液及び前記インクY液が、実質的にバインダー樹脂を含まないことを特徴とする請求項10に記載の造形用インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元形状の造形物(セラミック体)を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元の造形物を作製するには、形状を保持する技術が必要である。良く知られた方法としては、鋳型を用いて熱可塑性樹脂や溶融金属等を注入し成形する方法が一般的である。しかし、セラミック分散体を材料としてこの方法でセラミック体を作製するには、鋳型内で溶媒を乾燥させる工程が必要となり、事実上困難である。
【0003】
少量生産方式として近年注目を集めているのは、3Dプリンターである。インクジェット方式の3Dプリンターでは、光硬化性樹脂を含む溶液をインクジェットヘッドから吐出させた後、紫外線ランプにより硬化させる方法である。この方法は、ノズルを増やすことにより様々な材料を同時に供給できるため、複数の材料からなる造形物を作製できる。しかしながら、この方法では形状を保持するために、光硬化性樹脂が必須であるため、造形物中のセラミックの濃度は、その分だけ低下せざるを得ない。
【0004】
特許文献1においては、インクジェットプリンターを用いて、セラミックを含む懸濁液を層毎に印刷し、形成された複合層を乾燥及び硬化することによって、三次元形状セラミック体の製造プロセスが提案されている。このプロセスでは、水性ベーマイトゾル、低分子量アルコール、乾燥抑制剤、有機流動化剤を含む分散媒に50重量%〜80重量%のセラミック粒子を含む懸濁液をインクとして使用し、インクジェットで吐出後、乾燥及び焼結することにより三次元形状セラミック体を形成している。しかしながら、このプロセスは、水性ベーマイトゾル(アルミナ1水和物)を含有することが必須であり、アルミナを含まない造形物を作製することは不可能であった。また、形状を保持するためには、一層毎に、80℃で乾燥させなければならず、多層を積層して立体構造物を作製するには、多くの時間を要するという欠点があった。
【0005】
特許文献2においては、半導体酸化物0.1〜20重量部を含有することを特徴とする、厚さ10μmの厚膜形成が可能なインクジェット用インクを作製している。このインクは、バインダーを用いて、酸化物粒子を硬化させているが、酸化物粒子の濃度は20重量部までしか言及されていないため、それ以上の高濃度で実施可能であるかは不明である。また、厚さ10μmの厚膜を形成しているが、それ以上の厚さで造形できるかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2007/112885号公報
【特許文献2】特開2012−102308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、高純度なセラミック体の製造方法を提供すること、及び、ベーマイトゾルやバインダー成分を必須とすることなくかつ乾燥工程を必須とすることもなく、前記セラミック体の製造方法に適用可能である高純度で高濃度なセラミック粒子分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、種々検討した結果、特定の溶媒中に分散させたセラミックナノ粒子をその粒子の表面修飾基を用いて硬化させることで、樹脂等のバインダーや目的とするセラミック体の主成分以外の無機物を必須成分とすることのない高純度なセラミック体を、溶媒を内包したまま、造形できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち本発明は、溶媒(A)と反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)とを含有するインクX液と、前記反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と架橋反応を起こす化合物(C)を必須成分とするインクY液を、同時に又は別々に、支持体に層毎又は一度に供給し混合することにより硬化させる工程(I)を含み、前記溶媒(A)が、20℃における蒸気圧が1500Pa以下であり、かつ、前記セラミック粒子(B)又は前記化合物(C)のいずれとも反応性を有しない溶媒である、セラミック体の製造方法に関する。
【0010】
また、本発明は、前記方法で得られたセラミック体を乾燥又は焼結する工程を有する、セラミック焼結体の製造方法に関する。
また、本発明は、前記した本発明の製造方法に用いるインクセットに関する。即ち、該インクセットは、溶媒(A)と反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)とを含有するインクX液と、前記反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と架橋反応を起こす化合物(C)を必須成分とするインクY液の2種以上のインクからなり、前記溶媒(A)が、20℃における蒸気圧が1500Pa以下であり、かつ、前記セラミック粒子(B)又は前記化合物(C)のいずれとも反応性を有しない溶媒である、造形用インクセットである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の造形用インクセットは、特許文献1及び特許文献2で開示されたベーマイトゾルやバインダー成分を必須とすることなく、溶媒中にセラミックを分散しているため、温度に対する粘度の変化が緩やかであり、セラミック分散体の温度安定性が高い。また、溶媒とセラミック微粒子が主成分であり、その他の成分は必須ではないため、高純度のセラミック微粒子分散体を調製できる。さらにこの分散体を、上記した本発明のセラミック体の製造方法中の工程に用いて作製したセラミック体から、乾燥または焼結等により溶媒を除去することで高純度のセラミック焼結体を製造することができる。さらに、本発明の分散体は、溶媒に分散する表面修飾基を有する粒子であれば、セラミックの種類を問わず応用可能であるため、多種の機能を有するセラミックを用いた造形物の製造に応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のインクセットを、同時に又は別々に、支持体に層毎又は一度に供給し混合することにより硬化させる工程を含むことを特徴とするセラミック体の製造方法に関する。
このような本発明のインクセットは、インクを混合することだけで硬化が可能である。
硬化を促進するためにエネルギー線又は熱刺激を用いることもできる。また本発明のインクセットは、特定の溶媒を用いたことにより、溶媒を内包したままセラミック粒子がネットワーク構造を形成しやすく、三次元形状の硬化物をより好適に作製することができる。発明者らは、このような性質を見出し、これに注目し、造形物であるセラミック体の製造方法(有機成分を除去する前の形状保持方法)及びセラミック焼結体(有機成分を乾燥又は焼結により除去することで得られるセラミック体)の製造方法に、本インクセットを適用することにより、上述のような効果を得て課題解決に至ったものである。
【0013】
本発明のインクセットを用いれば、インクを硬化させた場合に硬化物中に溶媒を残存させることができる(溶媒を内包したまま硬化できる)ことから、溶媒の揮発によるひずみが生じにくく、粒子間のネットワークを作りやすいため、三次元形状の硬化物を好適に作製することができる。
【0014】
インクY液には、必要に応じ、粘度を調整する目的で溶媒(D)を混合してもよい。
【0015】
インクX液とインクY液とを同時に又は別々に、支持体に層毎又は一度に供給し混合することにより硬化させて製造する硬化物において、硬化物中に残存する溶媒(A)及び溶媒(D)の合計量が、硬化前の該溶媒の合計重量の80重量%以上残存することが好ましく、90重量%以上残存することがより好ましい。このような結果を得るためには、用いる溶媒(A)及び溶媒(D)は、20℃における蒸気圧が1500Pa以下の溶媒であることが好ましく、20℃における蒸気圧が1000Pa以下の溶媒であることがより好ましい。この範囲内であれば、粒子間のネットワークのひずみが生じにくく、硬化時の粒子間のネットワークをより好適に作製することが可能である。
【0016】
そのような要件を満たす溶媒(A)及び溶媒(D)の一例として、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物、3−メトキシブチルアセテート、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,3−オクチレングリコール、2−エチルブタノール、酢酸2−エチルヘキシル、酢酸3−メチルブチル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸ブチル、フタル酸ジブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、ノナン、デカン、ドデカン、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
(式(1)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基、Rは水素原子、ベンジル基、フェニル基又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【0019】
【化2】
【0020】
(式(2)中、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子、ベンジル基又は炭素数1〜12の分岐していても良いアルキル基、Rはメチル基又はエチル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【0021】
【化3】
【0022】
(式(3)中、R、Rは、各々独立にメチル基又はエチル基である。また、nは1〜4の整数である。)
【0023】
溶媒(A)及び溶媒(D)のより好適な例としては、式(1)で表される化合物、式(2)で表される化合物、式(3)で表される化合物、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。これらは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
溶媒(A)及び溶媒(D)は同一でもよいし、別の種類でも構わない。
【0025】
本発明のインクセットは、反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と、反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と架橋反応を起こす化合物(C)とが反応して、ネットワーク構造を形成し、上記したような溶媒を内包したまま硬化すると考えられる。このような硬化システムを見出したことにより、従来必須成分と考えられてきたバインダー樹脂を使用しなくても形状保持が可能となり、高純度なセラミック体を得ることができる。すなわちバインダー成分を実質的に含有しないインクセットを用いた造形が可能である。なお、「実質的に含有しない」とは、バインダー成分を、例えば光硬化性能を十分発揮させるような従来本分野で使用されてきたような量で含有しないことを意味し、不可避的混入または他の目的のため微量に加えることまでも排除することを意味するものではない。
【0026】
ネットワーク構造を形成するための架橋反応は、エポキシ基とチオール基の反応、エポキシ基とアミノ基の反応、エポキシ基とカルボキシル基の反応、アミノ基とイソシアネート基の反応、イソシアネート基と水酸基の反応などが挙げられる。
【0027】
上記反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)を製造するためには、セラミックの表面に配位及び/又は結合可能であり、上記架橋反応が可能な反応性基をもつ反応性化合物(α)でセラミック粒子を修飾すればよい。反応性化合物(α)は、単一成分で、または、その2種類以上を混合して用いることができる。
【0028】
反応性化合物(α)としては、例えばエポキシ基、アミノ基、反応性二重結合を持った官能基(メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基など)、イソシアネート基、水酸基、チオール基、カルボキシル基を含有する反応性化合物が挙げられる。
【0029】
エポキシ基を含有する反応性化合物の例としては、エピクロロヒドリン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0030】
反応性二重結合を持った官能基を含有する反応性化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2−(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アククリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
アミノ基を含有する反応性化合物の例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0032】
また、上記セラミック粒子(B)は、上記反応性化合物(α)以外にも、セラミックの表面に配位及び/又は結合可能であれば反応性官能基を持たない化合物(β)(以下、化合物(β)と表記する場合がある)で、さらに修飾されていてもよい。化合物(β)は、セラミック粒子の溶媒中での分散性を向上させるために有効である。化合物(β)の例としては、酢酸、吉草酸、ヘキサン酸、へプタン酸、2−エチルヘキサン酸、オクタン酸、2−メチルへプタン酸、4−メチルオクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ネオデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、シクロヘキサノール、1−ブタノール、2−ブタノール、オレインアルコール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられる。これらは、1種のみを用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
本発明においてセラミック粒子(B)の表面修飾方法は、通常、セラミック粒子を修飾するために採用される方法を用いればよく、その方法は特に限定されるものではない。例えば、金属酸化物等のセラミックナノ粒子を窒素雰囲気下、反応槽に入れ攪拌しながら、反応性化合物(α)や化合物(β)を噴霧した後に100〜150℃で1時間以上加熱攪拌し修飾する乾式法や、セラミック粒子(B)をスラリー化し、反応性化合物(α)及び化合物(β)を加え、熱を加えながら攪拌して修飾する湿式法どちらを用いても良い。また、ゾルゲル法や超臨界水熱合成法でセラミックナノ粒子を合成する時に表面修飾を行なっても良い。
【0034】
本発明で用いる反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)を作製するためのセラミック粒子は単一であっても良いし、2種以上のセラミックの混合物、固溶体もしくは複合酸化物であっても良い。単一のセラミックの例としては、SiO、Al、TiO、ZrO、In、ZnO、SnO、La、Y、CeO、MgO、Siなどが挙げられ、固溶体または複合酸化物の例としては、ITO、ATO、BaTiO、CaTiO、MgAl、Al−ZrO、Y3-ZrO、ベーマイト及び/またはMgO及び/またはCaO等で安定化したZrO、Al、Y、HfO、CeO、Al−ZrO、Al、Y、Fe、他の希土類酸化物で安定化したSiなどが挙げられる。
【0035】
架橋反応を起こす化合物(C)は、反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)と架橋反応を起こす化合物であればいずれのものでもよい。
【0036】
架橋反応を起こす化合物(C)としては、反応性官能基で修飾されたセラミック粒子(B)に応じて、ポリチオール、ポリアミン、ポリイソシアネート、ポリオールなどを選択することができる。架橋反応を起こす化合物(C)の分子量に特に制限はなく、分子量が低い化合物、オリゴマー化合物、ポリマーのいずれでも構わない。
【0037】
インクX液とインクY液を混合したときのセラミック粒子(B)の含有量は、5vol%以上70vol%以下であり、好ましくは5vol%以上60vol%以下である。前記濃度範囲であれば、粒子間の距離が近く、ネットワーク構造が十分に形成されるため、溶媒を内包した硬化物を安定的に作製することができる。
【0038】
インクX液及びインクY液には、必要に応じ、架橋反応を促進するために触媒を混合して用いることができる。
【0039】
本発明において、インクX液及びインクY液には、界面活性剤を配合してもよい。界面活性剤は、主に表面張力などの調製のために用いることができる。界面活性剤の種類は特に限定されないが、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を用いることができる。
【0040】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0041】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等を挙げることができ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーが好ましい。
【0042】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウムハライド系界面活性剤、アルキルピリジニウムハライド系界面活性剤、アルキルイミダゾリンハライド系界面活性剤等が挙げられる。
【0043】
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系界面活性剤、アルキルイミダゾリニウムベタイン系界面活性剤、レシチン系界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
その他の界面活性剤として、ポリシロキサンオキシエチレン付加物のようなシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテルのようなフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチンのようなバイオサーファクタント等も使用することができる。
【0045】
これらの界面活性剤は、単独で用いることもできるし、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0046】
本発明の三次元形状セラミック体の製造においては、インクX液とインクY液の少なくとも2種の造形用インクを、同時に又は別々に、支持体に層毎又は一度に供給し混合することにより硬化し、一回で又は積層することによりセラミック体を製造する。
本発明における支持体とは、硬化前のインク混合液を保持できるものであればどのような形状、材質でもよく、例えば黒鉛板、プラチナ板、金属板、セラミック板、ガラス板等の平面支持体や、これらの材質でできた容器等の立体的な支持体などが挙げられる。
また、本発明における供給とは、インクを支持体に接液させることであり、また、硬化したインクの上にさらに、新しいインクを接液させることである。供給の方法に制限はないが、塗布、滴下、印刷、ディッピングなどが挙げられる。
【0047】
インクX液とインクY液を混合させて架橋反応によって硬化させる際の温度に関しては特に制限はない。インクの粘度や作業性を考慮すると室温以上が好ましい。
【0048】
硬化速度を速める目的で、加熱を行っても良いし、エネルギー線による刺激を与えても良い。
【0049】
インクX液、インクY液は必要に応じて、2液以上に分割しても構わない。
【0050】
インクX液、インクY液を、同時に又は別々に、支持体に層毎又は一度に供給し混合する際に、インクX液とインクY液の硬化反応を阻害しない程度に、他のインク液を混合しても構わない。
【0051】
以下、本発明における実施態様の一例を下記するが、これらに限定されるわけではない。
具体的なセラミック体の製造法の例としては、インクを別々に少量ずつ支持体上に供給し、支持体上でインクを混合させることにより硬化させて積層する3D−インクジェット法や、容器に満たしたインクX液の中に支持体を設置し、インクY液の液滴を噴射して所望の形に硬化させ、支持体を上または下に移動させることにより、段階的に三次元形状を作製する材料噴射法等が挙げられる。
本発明における別の製造法の例としては、規定された寸法を有する型の中に一度にインクX液とインクY液を供給してインクを混合し、硬化させる方法も可能である。規定された寸法を有する型とは、例えば、シャーレなどの容器、寒天などで作製した型やプリンターで印刷した型等が挙げられる。
【0052】
本発明の三次元形状セラミック体の製造においては、セラミック粒子の表面修飾基を利用して硬化させるため、所望の表面修飾基を付与することができる粒子であれば、セラミックの種類は限定されない。さらに、有機部分を焼結等により除去することで、理論上目的とする無機成分の純度が100%のセラミックの造形物(セラミック焼結体)を作製できる。また、本発明により製造可能な造形物の種類は特に制限がなく、教育、玩具の分野における人物、動植物等を模した模型、工業分野における各種製品、動作確認や嵌合せ、質感、サイズ感の確認のための試作段階の模型等、躯体の構造確認、見本の作製等のような建築分野におけるミニチュア、医療用分野における臓器、骨等のモデル、義手、歯冠、人工骨等の製造などさまざまな造形物作製に適用可能である。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
<インクX液の調製>
エポキシ基修飾シリカMEK分散液(株式会社アドマテックス製 アドマナノYA010CMDV 20wt%含有)をエバポレーターを用いて、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル(DGEME:蒸気圧 91Pa/20℃、分子量:148)に溶媒置換し、エポキシシリカDGEME分散液39.7wt%(22.8vol%)を調製し、インクX−1液を得た。得られたインク中のシリカ粒子の平均分散粒子径は10nmであった。
<インクY液の調製>
インクY−1液として、4官能チオールであるペンタエリスリトールテトラキス(カレンズMTPE1 昭和電工株式会社)を用いた。
<硬化試験>
インクX−1液 2gをシャーレ(φ4cm)に量りとり、インクY−1液0.09gを加え混合後50℃で30分間静置した。混合した際のエポキシ基修飾シリカの体積濃度は21.6vol%であった。静置後、溶媒を内包した板状の硬化物が得られた。硬化前に含まれていた溶媒量に対する硬化後の溶媒残存量は99%以上であった。
【0055】
本発明で用いた測定方法及び用いた測定装置は以下の通りである。
<平均分散粒子径の分析>
測定装置:大塚電子株式会社製 ゼータ電位・粒径測定システムELS−Z
<紫外線照射装置>
ヘレウス株式会社製 無電極UVランプシステム F600V−10
<超音波ホモジナイザー>
ヒールッシャー製 UP−400S(400W) チップH7φ7mm
【0056】
実施例2
<インクX液の調製>
実施例1で調製したインクX−1液を用いた。
<インクY液の調製>
インクY−2液として、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノール(以下、TAPと表記する)を用いた。
<硬化試験>
インクX−1液 1.6gをシャーレ(φ4cm)に量りとり、インクY−2液 0.44gを加え混合し30分間静置した。混合した際のエポキシ基修飾シリカの体積濃度は17.2vol%であった。静置後、溶媒を内包した板状の硬化物が得られた。硬化前に含まれていた溶媒量に対する硬化後の溶媒残存量は99%以上であった。
【0057】
実施例3
<インクX液の調製>
アミノ基修飾シリカ(日本アエロジル株式会社製 AEROSIL NA−50H 粒径30nm)をN−メチル−2−ピロリドン(NMP:蒸気圧 39Pa/20℃、分子量:99.1)中で超音波ホモジナイザーを用いて分散し、21wt%(11vol%)のインクX−2液を調製した。得られたインク中のシリカ粒子の平均分散粒子径は195.4nmであった。
<インクY液の調製>
インクY−3液として、ポリイソシアネート(DIC株式会社製 DN−980)を用いた。
<硬化試験>
インクX−2液 0.26gをあらかじめ寒天で作製した円柱(内径0.5cm、高さ1.5cm)に注入し、上からインクY−3液 0.016gを加え12時間静置した。混合した際のアミノ基修飾シリカの体積濃度は10.3vol%であった。静置後、溶媒を内包した1.5cmの円柱状の硬化物が得られた。硬化前に含まれていた溶媒量に対する硬化後の溶媒残存量は99%以上であった。
【0058】
実施例4
<インクX液の調製>
実施例3で調製したインクX−2液を用いた。
<インクY液の調製>
インクY−4液として、ポリイソシアネート(DIC株式会社製 DN−902S)を用いた。
<硬化試験>
インクX−2液 2.9gをガラス瓶に測りとり、インクY−4液 0.06gを加え攪拌後、この混合液をシャーレ(φ4cm)に1g量りとり室温で12時間静置した。混合した際のアミノ基修飾シリカの体積濃度は10.8vol%であった。静置後、溶媒を内包した硬化物が得られた。硬化前に含まれていた溶媒量に対する硬化後の溶媒残存量は99%以上であった。
【0059】
比較例1
<インクX液の調製>
エポキシ基修飾シリカMEK分散液(株式会社アドマテックス製 アドマナノYA010CMDV 20wt%含有)をエバポレーターで濃縮し、25.0wt%(10.9vol%)のインクX−5液を得た。
<インクY液の調製>
実施例1で調製したインクY−1液を用いた。
<硬化試験>
インクX−5液 2gをシャーレ(φ4cm)に量りとり、インクY−1液 0.14gを加え、混合後50℃で30分間静置した。混合した際のアミノ基修飾シリカの体積濃度は10.2vol%であった。その結果、薄い膜が生成したが、溶媒はほぼ揮発した。硬化前に含まれていた溶媒量に対する硬化後の溶媒残存量は14.3%)であった。
以上の結果を下表にまとめて示す。
【0060】
【表1】