特許第6922890号(P6922890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6922890モノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法、溶液組成物、及び重合性化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922890
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】モノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法、溶液組成物、及び重合性化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/16 20060101AFI20210805BHJP
   C07C 43/205 20060101ALI20210805BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20210805BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   C07C41/16
   C07C43/205 A
   C07C69/54 Z
   C07C67/08
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-503377(P2018-503377)
(86)(22)【出願日】2017年3月1日
(86)【国際出願番号】JP2017008141
(87)【国際公開番号】WO2017150622
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2019年10月28日
(31)【優先権主張番号】特願2016-38769(P2016-38769)
(32)【優先日】2016年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】桐木 智史
(72)【発明者】
【氏名】坂本 圭
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−140302(JP,A)
【文献】 特開昭58−144337(JP,A)
【文献】 特開2002−037759(JP,A)
【文献】 特開昭57−002230(JP,A)
【文献】 特開2002−308831(JP,A)
【文献】 磯部稔 ほか,フィーザー/ウィリアムソン 有機化学実験 原書8版,2005年,第5刷,第101頁−第109頁
【文献】 社団法人日本化学会,新実験化学講座9 分析化学II,1977年,第43頁
【文献】 HUANG,C. et al,Synthesis and evaluation of alkoxylated-ether diols of hydroquinone with different chain-lengths as,Journal of Polymer Research,2015年,Vol.22, No.9,p.1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
〔式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は、−C(=O)−R’で示される基を表し、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
で示されるハイドロキノン化合物と、下記式(II):
【化2】
〔式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表し、Xは脱離基を表す。〕
で示されるヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程(1)、及び、
前記工程(1)の後、二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はリン酸三カリウムと、塩化ナトリウム又は硫酸ナトリウムとを含む水溶液を用いて洗浄する工程(2a)、
を有する、下記式(III):
【化3】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるモノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法。
【請求項2】
下記式(I):
【化4】
〔式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は−C(=O)−R’で示される基を表し、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
で示されるハイドロキノン化合物と、下記式(II):
【化5】
〔式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表し、Xは脱離基を表す。〕
で示されるヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程(1)、及び、
前記工程(1)の後、二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はリン酸三カリウム、塩化ナトリウム又は硫酸ナトリウムとを含む水溶液を用いて洗浄する工程(2b)、
を有する、前記ハイドロキノン化合物と、下記式(III):
【化6】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるモノエーテル化体と、下記式(IV):
【化7】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるジエーテル化体とを含み、前記ハイドロキノン化合物、前記モノエーテル化体、及び、前記ジエーテル化体の合計に対する、前記ハイドロキノン化合物のモル百分率が5.0モル%以下であり、前記モノエーテル化体のモル百分率が85モル%以上であり、前記ジエーテル化体のモル百分率が10.0モル%以下である、溶液組成物の製造方法。
【請求項3】
前記疎水性エーテル系溶媒が、アニソール又はシクロペンチルメチルエーテルである、請求項1又は2に記載の溶液組成物の製造方法。
【請求項4】
下記式(I):
【化8】
〔式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は、−C(=O)−R’で示される基を表し、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
で示されるハイドロキノン化合物と、
下記式(III):
【化9】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。Rは、置換基を有していてもよいヘキサメチレン基を表す。〕
で示されるモノエーテル化体と、
下記式(IV):
【化10】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるジエーテル化体と、
疎水性エーテル系溶媒と、
を含み、
前記ハイドロキノン化合物、前記モノエーテル化体、及び、前記ジエーテル化体の合計に対する、前記ハイドロキノン化合物のモル百分率が5.0モル%以下であり、前記モノエーテル化体のモル百分率が85モル%以上であり、前記ジエーテル化体のモル百分率が10.0モル%以下である、溶液組成物。
【請求項5】
前記疎水性エーテル系溶媒が、アニソール又はシクロペンチルメチルエーテルである、請求項に記載の溶液組成物。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の製造方法により得られた溶液組成物、或いは、請求項4又は5に記載の溶液組成物に、下記式(V):
【化11】
〔式中、Yは、水素原子、メチル基、又は塩素原子を表す。〕
で示されるカルボン酸化合物、及び酸触媒を添加し、前記溶液組成物に含まれる、前記モノエーテル化体と、前記カルボン酸化合物とを反応させる工程(3)を有する、下記式(VI):
【化12】
〔式中、R〜R及びYは、前記と同じ意味を表す。〕
で示される重合性化合物の製造方法。
【請求項7】
前記溶液組成物が、請求項に記載の製造方法によって得られるものである、請求項に記載の重合性化合物の製造方法。
【請求項8】
前記カルボン酸化合物がアクリル酸である、請求項6又は7に記載の重合性化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性化合物の製造中間体となる、ハイドロキノン化合物のモノエーテル化体を高純度で含む溶液組成物を高収率で製造する方法、ハイドロキノン化合物のモノエーテル化体を含む溶液組成物、及び、前記溶液組成物を用いる重合性化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロキノン化合物をモノエーテル化して得られるモノエーテル化体は、重合性化合物の製造中間体等として有用である。
従来、ハイドロキノン化合物をモノエーテル化する方法として、例えば、非特許文献1、2には、塩基の存在下、水、アルコール、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の親水性溶媒中で、ハイドロキノン化合物とアルキルハライド等とを反応させる方法が開示されている。
しかしながら、非特許文献1、2に記載の反応条件を用いてハイドロキノン化合物のモノエーテル化を試みると、目的のモノエーテル化体を高収率かつ高純度で得られないという問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、特許文献1には、水と、実質的に水不溶性の有機溶媒との二相系で、ジヒドロキシ化合物と特定のエーテル化剤とを反応させ、ジヒドロキシ化合物をモノエーテル化することが提案されている。また、特許文献1には、前記二相系に、水及び前記有機溶媒の両方に混和し得る溶媒(共溶媒)を添加することで、反応転化率が向上すると記載されている。
しかしながら、ハイドロキノン化合物とヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、特許文献1に記載の反応条件下で反応させると、ハイドロキノン化合物のジエーテル化体が多量に副生し、目的のモノエーテル化体を高純度で得ることが困難な場合があった。
【0004】
そこで、本出願人は、ハイドロキノン化合物とヒドロキシル基含有エーテル化剤とを用いるエーテル化反応について鋭意検討し、アルカリ性水溶液と疎水性有機溶媒とからなる二相系で、ハイドロキノン化合物とヒドロキシル基含有エーテル化剤とを反応させることで、高収率かつ高純度でモノエーテル化体を製造することができることを見出した(例えば、特許文献2参照)。
しかし、さらに効率よく重合性化合物を製造するために、その製造中間体であるモノエーテル化体を、より高純度で効率的に得る方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−172246号公報
【特許文献2】特開2015−140302号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Journal of Polymer Science,Part A:Polymer Chemistry,30(8),1681−1691,1992
【非特許文献2】Journal of Applied Physics,97(12),123519/1−123519/8,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、より効率よく、高収率、高純度で、重合性化合物の製造中間体として有用な、ハイドロキノン化合物のモノエーテル化体を含む溶液組成物を製造する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記モノエーテル化体を含む溶液組成物、及び、前記溶液組成物を用いる重合性化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、ハイドロキノン化合物とヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒との二相系溶媒中で反応させた後、得られる有機相を、水酸化ナトリウムと塩化ナトリウムとを含む水溶液を用いて洗浄すると、高純度なモノエーテル化体を含む溶液組成物を効率よく得ることができることを見出した。そして、この知見を一般化することにより、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、下記〔1〕〜〔6〕の溶液組成物の製造方法、〔7〕、〔8〕の溶液組成物、及び、〔9〕〜〔11〕の重合性化合物の製造方法が提供される。
【0010】
〔1〕下記式(I):
【化1】
〔式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は、−C(=O)−R’で示される基を表し、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
で示されるハイドロキノン化合物と、下記式(II):
【化2】
〔式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表し、Xは脱離基を表す。〕
で示されるヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程(1)、及び、
前記工程(1)の後、二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、又は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のリン酸塩と、中性無機塩とを含む水溶液を用いて洗浄する工程(2a)、
を有する、下記式(III):
【化3】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるモノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法。
【0011】
〔2〕前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムである、〔1〕に記載の溶液組成物の製造方法。
【0012】
〔3〕下記式(I):
【化4】
〔式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は−C(=O)−R’で示される基を表し、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
で示されるハイドロキノン化合物と、下記式(II):
【化5】
〔式中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表し、Xは脱離基を表す。〕
で示されるヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程(1)、及び、
前記工程(1)の後、二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、アルカリと中性無機塩とを含む水溶液を用いて洗浄する工程(2b)、
を有する、前記ハイドロキノン化合物と、下記式(III):
【化6】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるモノエーテル化体と、下記式(IV):
【化7】
(式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。)
で示されるジエーテル化体とを含み、前記ハイドロキノン化合物、前記モノエーテル化体、及び、前記ジエーテル化体の合計に対する、前記ハイドロキノン化合物のモル百分率が5.0モル%以下であり、前記モノエーテル化体のモル百分率が85モル%以上であり、前記ジエーテル化体のモル百分率が10.0モル%以下である、溶液組成物の製造方法。
【0013】
〔4〕前記疎水性エーテル系溶媒が、アニソール又はシクロペンチルメチルエーテルである、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の溶液組成物の製造方法。
【0014】
〔5〕前記中性無機塩が、塩化ナトリウム又は硫酸塩である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の溶液組成物の製造方法。
【0015】
〔6〕前記中性無機塩が硫酸ナトリウムである、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の溶液組成物の製造方法。
【0016】
〔7〕下記式(I):
【化8】
〔式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は、−C(=O)−R’で示される基を表し、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕
で示されるハイドロキノン化合物と、
下記式(III):
【化9】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表す。〕
で示されるモノエーテル化体と、
下記式(IV):
【化10】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
で示されるジエーテル化体と、
疎水性エーテル系溶媒と、
を含み、
前記ハイドロキノン化合物、前記モノエーテル化体、及び、前記ジエーテル化体の合計に対する、前記ハイドロキノン化合物のモル百分率が5.0モル%以下であり、前記モノエーテル化体のモル百分率が85モル%以上であり、前記ジエーテル化体のモル百分率が10.0モル%以下である、溶液組成物。
【0017】
〔8〕前記疎水性エーテル系溶媒が、アニソール又はシクロペンチルメチルエーテルである、〔7〕に記載の溶液組成物。
【0018】
〔9〕〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の製造方法により得られた溶液組成物、或いは、〔7〕又は〔8〕に記載の溶液組成物に、下記式(V):
【化11】
〔式中、Yは、水素原子、メチル基、又は塩素原子を表す。〕
で示されるカルボン酸化合物、及び酸触媒を添加し、前記溶液組成物に含まれる、前記モノエーテル化体と、前記カルボン酸化合物とを反応させる工程(3)を有する、下記式(VI):
【化12】
〔式中、R〜R及びYは、前記と同じ意味を表す。〕
で示される重合性化合物の製造方法。
【0019】
〔10〕前記溶液組成物が、〔6〕に記載の製造方法によって得られるものである、〔9〕に記載の重合性化合物の製造方法。
【0020】
〔11〕前記カルボン酸化合物がアクリル酸である、〔9〕又は〔10〕に記載の重合性化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ハイドロキノン化合物とヒドロキシル基含有エーテル化剤とを用いて、ハイドロキノン化合物のモノエーテル化体を高純度で含む溶液組成物を、効率よく製造することができる。
本発明の溶液組成物を用いることにより、重合性化合物を効率よく製造することができる。
本発明の製造方法により得られる重合性化合物は、重合性液晶化合物の製造中間体として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を、1)モノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法(A)及び(B)、2)溶液組成物、並びに、3)重合性化合物の製造方法、に項分けして詳細に説明する。
なお、本明細書中、「置換基を有していてもよい」とは、「無置換又は置換基を有する」を意味する。
【0023】
1)モノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法(A)
本発明の第1形態は、下記の工程(1)及び工程(2a)を有する、下記式(III)で示されるモノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法(A)である。
・工程(1):下記式(I)で示されるハイドロキノン化合物と、下記式(II)で示されるヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程
・工程(2a):前記工程(1)の後、二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、又は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のリン酸塩と、中性無機塩とを含む水溶液を用いて洗浄する工程
【0024】
〈工程(1)〉
本発明において、工程(1)は、式(I)で示されるハイドロキノン化合物と、式(II)で示されるヒドロキシル基含有エーテル化剤とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程である。
【化13】
【0025】
本発明に用いるハイドロキノン化合物は、前記式(I)で示される化合物(以下、「ハイドロキノン化合物(I)」ということがある。)である。
式(I)中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、−C(=O)−O−R’で示される基、又は、−C(=O)−R’で示される基を表す。また、R’は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。
【0026】
前記R〜Rの、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
また、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基の炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。これらの炭素数1〜6のアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;等が挙げられる。
【0027】
前記R’の、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基の、アルキル基及びその置換基としては、それぞれ、R〜Rの、炭素数1〜6のアルキル基及びその置換基として示したものと同様のものが挙げられる。
【0028】
これらの中でも、用いるハイドロキノン化合物(I)としては、R〜Rが、それぞれ独立して、水素原子、又は炭素数1〜6のアルキル基であるものが好ましく、R〜Rすべてが水素原子であるものがより好ましい。
【0029】
本発明に用いるヒドロキシル基含有エーテル化剤は、前記式(II)で示される化合物(以下、「ヒドロキシ基含有エーテル化剤(II)」ということがある。)である。
式(II)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基を表し、Xは脱離基を表す。
【0030】
前記Rの、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキレン基の、炭素数1〜20のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基等が挙げられる。これらの炭素数1〜20のアルキレン基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;等が挙げられる。
【0031】
前記Xの脱離基は特に限定されず、有機化学の分野における一般的な脱離基が挙げられる。例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;−OSOR”(R”は、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基を表す。)で示される基;等が挙げられる。
R”の、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基の、アルキル基及びその置換基としては、それぞれ、上記R〜Rの、炭素数1〜6のアルキル基及びその置換基として示したものと同様のものが挙げられる。
R”の、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基の炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等が挙げられる。これらの炭素数6〜20のアリール基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;等が挙げられる。
【0032】
これらの中でも、本発明においては、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)としては、Rが炭素数1〜10のアルキレン基であり、Xがハロゲン原子であるものが好ましく、Rがヘキサメチレン基であり、Xが塩素原子であるものが特に好ましい。
【0033】
ハイドロキノン化合物(I)とヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)の使用割合は、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)1モルに対して、ハイドロキノン化合物(I)が、好ましくは1.0モル以上、より好ましくは1.1モル以上であり、好ましくは2.0モル以下、より好ましくは1.5モル以下である。
ハイドロキノン化合物(I)の使用割合が少なすぎると、ジエーテル化体の生成量が多くなり、モノエーテル化体の収率及び純度が低下する傾向がある。一方、ハイドロキノン化合物(I)の使用割合が多すぎると、得られる溶液組成物中のハイドロキノン化合物(I)の存在量を十分に低減させることが困難になるおそれがある。
【0034】
工程(1)におけるハイドロキノン化合物(I)とヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)との反応(ハイドロキノン化合物(I)のモノエーテル化反応)は、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒との二相系で行われる。
二相系で反応を行うことにより、モノエーテル化体の更なるエーテル化反応を抑制して、ジエーテル化体の生成量を低減することができる。また、アルカリ性水溶液を用いることで、反応の進行に伴って生成する酸を中和し、ハイドロキノン化合物(I)のモノエーテル化を効率よく行うことができる。
【0035】
アルカリ性水溶液は、金属炭酸塩、金属炭酸水素塩、及び金属水酸化物等の無機塩基を水に溶解させることで得られる。用いる水は、蒸留水等の不純物を含まないものが好ましい。
金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウム;炭酸カルシウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;等が挙げられる。
金属炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸水素マグネシウム;炭酸水素カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸水素塩;等が挙げられる。
金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;等が挙げられる。
これらの無機塩基は、一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、無機塩基としては、モノエーテル化体が収率よく得られることから、金属水酸化物が好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムがより好ましい。
【0036】
アルカリ性水溶液中の無機塩基の含有量は、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)1モルに対して、好ましくは1.00モル以上、より好ましくは1.05モル以上であり、好ましくは2.00モル以下、より好ましくは1.30モル以下である。
無機塩基の含有量が少なすぎると、モノエーテル化体の収率が低下したり、反応速度が遅くなったり、未反応のヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)が多量に残存したりするおそれがある。一方、無機塩基の含有量が多すぎると、反応後に中和する工程が別途必要になる。
【0037】
アルカリ性水溶液の使用量は、ハイドロキノン化合物(I)が溶解する量であれば、特に制限されない。
アルカリ性水溶液の使用量は、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)1質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
アルカリ性水溶液の使用量が多すぎると、反応速度が遅くなったり、生産性が低下したりするおそれがある。一方、アルカリ性水溶液の使用量が少なすぎると、原料化合物等が析出したり、溶液の粘度が上昇して反応速度が低下したりするおそれがある。
【0038】
本発明に用いる疎水性エーテル系溶媒は、25℃の水100gに対する溶解度が、10g/100g−HO以下のエーテル系溶媒である。
疎水性エーテル系溶媒は、目的物であるモノエーテル化体(III)の溶解性が高い。よって、疎水性エーテル系溶媒を使用すれば、反応終了後において、反応混合物が、溶媒、目的物、水の三相に分離することがなく、未反応原料のハイドロキノン化合物(I)を多く含む水相と、目的物を多く含む有機相の二相となり、分液操作を簡便に行うことが可能となる。これにより、得られる溶液組成物中のモノエーテル化体(III)のモル百分率を高めることができる。
【0039】
疎水性エーテル系溶媒としては、アニソール、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、クレジルメチルエーテル、1,2−ジメトキシベンゼン等のアリールエーテル系溶媒;シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、シクロヘキシルメチルエーテル等のシクロアルキルエーテル系溶媒;ジエチルエーテル、エチルイソアミルエーテル、エチル−t−ブチルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジイソアミルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジベンジルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等のアルキルエーテル系溶媒;1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、疎水性エーテル系溶媒としては、水と共沸しない、もしくは水との共沸点が80℃以上のものが、高温下で反応を短時間で行うことができるため好ましい。また、モノエーテル化体(III)を選択的に得られ易いこと、経済的に優れること等の理由から、アリールエーテル系溶媒又はシクロアルキルエーテル系溶媒がより好ましく、アニソール、又はシクロペンチルメチルエーテルが特に好ましい。
【0040】
疎水性エーテル系溶媒の使用量は、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)1質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
疎水性エーテル系溶媒の使用量が多すぎると、反応速度が遅くなったり、生産性が低下したりするおそれがある。一方、疎水性エーテル系溶媒の使用量が少なすぎると、疎水性エーテル系溶媒を用いる効果が得られにくくなり、モノエーテル化体を選択的に合成することが困難になるおそれがある。
【0041】
本発明において、ハイドロキノン化合物(I)とヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)との反応は、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に行われる。
ここで、「相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下」とは、相間移動触媒や親水性有機溶媒が反応系内に実質的に存在していないことを意味する。具体的には、例えば、相間移動触媒と親水性有機溶媒との総量が、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒の合計に対して、0.01質量%以下、好ましくは0.001質量%以下の場合をいう。
「相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下」で反応を行うことにより、より効率よく二相系で反応を行うことができ、モノエーテル化体(III)を選択的に合成することができる。
【0042】
相間移動触媒としては、有機合成化学における公知の触媒が挙げられる。例えば、テトラメチルアンモニウムブロミド、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、テトラプロピルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウムハライド類;テトラブチルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロミド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド等の第4級ホスホニウムハライド類;15−クラウン−5,18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジベンゾ−24−クラウン−8、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6等のクラウンエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のポリオキシアルキレングリコール類;等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
親水性有機溶媒とは、25℃の水100gに対する溶解度が、10g/100g−HOを超える有機溶媒をいう。
親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノ−ル、イソプロパノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の親水性エーテル系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;等が挙げられる。
【0044】
ハイドロキノン化合物(I)はアルカリ条件下で非常に酸化されやすい性質を有する。従って、ハイドロキノン化合物(I)とヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)との反応は、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0045】
また、ハイドロキノン化合物(I)の酸化を抑制するため、反応液に還元剤を添加することも好ましい。
用いる還元剤としては、亜硫酸ナトリウム(無水物)、亜硫酸ナトリウム七水和物、チオ硫酸ナトリウム(無水物)、チオ硫酸ナトリウム五水和物等が挙げられる。
還元剤の使用量は、ハイドロキノン化合物(I)1質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
還元剤を添加することで、反応器内や溶媒中に溶け込んでいる空気を脱気しなくても、酸化による反応液の着色を大幅に抑制することができる。
【0046】
ハイドロキノン化合物(I)とヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)との反応は、具体的には、以下の方法により行うことができる。
まず、所定の反応器に、不活性雰囲気下、ハイドロキノン化合物(I)、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)、アルカリ性水溶液、疎水性エーテル系溶媒、及び、所望により還元剤を所定量入れる。これらの添加順序は特に限定されない。アルカリ性水溶液は、予め調製したものを反応器に入れても、蒸留水と無機塩基とを別々に反応器に加え、反応器内でアルカリ性水溶液を調製するようにしてもよい。
また、無機塩基(又はアルカリ性水溶液)やヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)は、最初に全量を反応器に添加してもよいし、反応器に少量ずつ複数回に分けて添加してもよい。
【0047】
反応温度は特に限定されないが、通常、20℃以上200℃以下であり、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上であり、好ましくは150℃以下、より好ましくは120℃以下である。沸点まで反応温度を上げても反応が遅い場合は、オートクレーブ等を用いて加圧条件下で反応を行い、より高い反応温度で反応を行ってもよい。
反応時間は、反応温度等にもよるが、通常、1時間以上24時間以下である。
反応の進行状況は公知の分析手段(例えば、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)により確認することができる。
【0048】
〈工程(2a)〉
工程(2a)は、前記工程(1)の後、得られた二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物、又は、アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属のリン酸塩(以下、これらの水酸化物及びリン酸塩を纏めて「アルカリ金属の水酸化物等」ということがある。)と、中性無機塩とを含む水溶液(以下、単に「洗浄水溶液」ということがある。)を用いて洗浄する工程である。
【0049】
洗浄水溶液の調製に用いるアルカリ金属の水酸化物等としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩;リン酸カルシウム等のアルカリ土類金属のリン酸塩;等が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果がより得られやすい観点から、アルカリ金属の水酸化物又はアルカリ金属のリン酸塩が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三カリウムがより好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが更に好ましい。
【0050】
アルカリ金属の水酸化物等の使用量は、特に限定されないが、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)に対して過剰に使用したハイドロキノン化合物(I)のモル数(使用したハイドロキノン化合物(I)のモル数から、使用したヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)のモル数を差し引いたモル数)に対して、好ましくは0.2モル当量以上、より好ましくは0.4モル当量以上であり、好ましくは1.0モル当量以下、より好ましくは0.8モル当量以下である。
【0051】
中性無機塩は、水に溶解させて得られる水溶液がほぼ中性を示す無機塩である。本発明で用いる中性無機塩は、水に易溶であることが好ましく、例えば、25℃の水1000gに対して50g以上溶解する無機塩であることがより好ましい。具体的には、中性無機塩としては、25℃の水1Lに50g溶解させたときの水溶液のpHが、5.0以上8.0以下のものが挙げられる。
また、中性無機塩は、無水物であってもよいし、例えば、硫酸ナトリウム五水和物のような水和物であってもよい。
【0052】
中性無機塩の具体例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物;塩化マグネシウム、臭化マグネシウム等のマグネシウムハロゲン化物;塩化カルシウム等のアルカリ土類金属ハロゲン化物;硫酸ナトリウム等のアルカリ金属硫酸塩;硫酸マグネシウム;硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等のアルカリ金属硝酸塩;ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のアルカリ金属ホウ酸塩;等が挙げられる。
これらの中性無機塩は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
これらの中でも、入手容易性や水に対する溶解性の観点から、アルカリ金属ハロゲン化物又は硫酸塩が好ましく、塩化ナトリウム又は硫酸塩がより好ましく、塩化ナトリウム又はアルカリ金属硫酸塩が更に好ましく、塩化ナトリウム又は硫酸ナトリウムが特に好ましい。
塩化ナトリウムとしては、特に制限されず、工業塩、並塩、食塩、岩塩、海塩、天然塩、塩田塩等を使用することができる。塩化ナトリウムの純度は、通常93質量%以上、好ましくは95質量%以上である。
【0054】
また、塩化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物を用いると、後述する重合性化合物を製造する工程で、ハロゲン化水素が発生して副生成物が生成するおそれがある。従って、より高純度な重合性化合物(VI)を含む溶液組成物を得る観点からは、ハロゲンを含まない硫酸塩を用いるのが好ましい。
すなわち、工程(2a)において、ハロゲンを含まない中性無機塩を用いて洗浄することで、本発明の製造方法(A)により得られる溶液組成物を用いて重合性化合物(IV)を含む溶液組成物を製造した際に、下記式(VII)で示される化合物(以下、「化合物(VII)」ということがある。)の含有量が0.1質量%以下である、高純度の重合性化合物(VI)を含む溶液組成物を得ることができる。
【化14】
〔式中、R〜R及びYは、前記と同じ意味を表し、halはハロゲン原子を表す。〕
【0055】
中性無機塩の使用量は特に限定されないが、洗浄水溶液1質量部中、通常0.03質量部以上0.5質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下である。
このような範囲の量の中性無機塩を用いることにより、有機相中に残るハイドロキノン化合物(I)をより選択的に水相に移動させ、分液操作によりハイドロキノン化合物(I)を除去しやすくすることができる。
【0056】
洗浄水溶液の使用量は、工程(1)で用いたヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)1質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下である。
【0057】
洗浄水溶液を用いて有機相を洗浄する工程(2a)においても、前記工程(1)と同様に、空気による酸化を抑制するため、還元剤を添加してもよい。使用できる還元剤としては、工程(1)で例示したのと同様のものが挙げられる。
工程(2a)における還元剤の使用量は、工程(1)で用いたハイドロキノン化合物(I)1質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.02質量部以上であり、好ましくは0.2質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0058】
工程(1)で得られた二相系反応液を分液して得られる有機相の、上記洗浄水溶液での洗浄方法は、特に制約されない。
例えば、前記有機相に、洗浄水溶液、及び所望により還元剤を加え、全容を、0℃以上80℃以下、好ましくは50℃以上70℃以下にて、数分から数時間、好ましくは10分から2時間撹拌し、1〜60分ほど静置した後に、分相した水相を抜き出すことによって行うことができる。
得られる有機相は、前記式(III)で表されるモノエーテル化体(以下、「モノエーテル化体(III)」ということがある。)を含む溶液組成物である。
【0059】
得られる溶液組成物中には、通常、モノエーテル化体(III)の他、未反応原料のハイドロキノン化合物(I)、下記式(IV)で示されるジエーテル化体(以下、「ジエーテル化体(IV)」ということがある。)が含まれる。
【化15】
〔式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。〕
【0060】
得られる溶液組成物中における、ハイドロキノン化合物(I)、モノエーテル化体(III)、ジエーテル化体(IV)の合計に対する、前記ハイドロキノン化合物(I)のモル百分率は、好ましくは5.0モル%以下、より好ましくは4.0モル%以下であり、モノエーテル化体(III)のモル百分率は、好ましくは85モル%以上、より好ましくは87.0モル%以上であり、ジエーテル化体(IV)のモル百分率は、好ましくは10.0モル%以下、より好ましくは9.5モル%以下である。
【0061】
2)モノエーテル化体を含む溶液組成物の製造方法(B)
本発明の第2形態は、下記の工程(1)及び工程(2b)を有する、溶液組成物の製造方法(B)である。そして、製造方法(B)で得られる溶液組成物は、ハイドロキノン化合物(I)、モノエーテル化体(III)、及び、ジエーテル化体(IV)を含み、ハイドロキノン化合物(I)と、モノエーテル化体(III)と、ジエーテル化体(IV)との合計に対する、前記ハイドロキノン化合物(I)のモル百分率が5.0モル%以下であり、モノエーテル化体(III)のモル百分率が85モル%以上であり、ジエーテル化体(IV)のモル百分率が10.0モル%以下である。
【0062】
・工程(1):前記ハイドロキノン化合物(I)と、前記ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)とを、アルカリ性水溶液と疎水性エーテル系溶媒とからなる二相系で、相間移動触媒及び親水性有機溶媒の非存在下に反応させる工程
・工程(2b):前記工程(1)の後、二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、アルカリと中性無機塩とを含む水溶液を用いて洗浄する工程
【0063】
〈工程(1)〉
工程(1)は、前記製造方法(A)の項で説明したのと同様にして行うことができる。
【0064】
〈工程(2b)〉
工程(2b)は、前記工程(1)の後、得られた二相系反応液の水相を分液により分離除去し、有機相を、アルカリと中性無機塩とを含む水溶液を用いて洗浄する工程である。
これにより、ハイドロキノン化合物(I)、モノエーテル化体(III)、及び、ジエーテル化体(IV)を含み、前記ハイドロキノン化合物(I)のモル百分率が5.0モル%以下、好ましくは4.0モル%以下であり、モノエーテル化体(III)のモル百分率が85モル%以上、好ましくは87.0モル%以上であり、ジエーテル化体(IV)のモル百分率が10.0モル%以下、好ましくは9.5モル%以下である溶液組成物を得ることができる。
【0065】
工程(2b)において、有機相を洗浄する水溶液に使用するアルカリは、特に制限されない。なかでも、アルカリとしては、水への溶解度が高く、強いアルカリ性を示す、金属水酸化物が好ましく、アルカリ金属の水酸化物がより好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムがさらに好ましい。このようなアルカリを用いることで、前記組成を有する溶液組成物を効率よく製造することができる。
【0066】
アルカリの使用量は、特に限定されないが、ヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)に対して過剰に使用したハイドロキノン化合物(I)のモル数(使用したハイドロキノン化合物(I)のモル数から、使用したヒドロキシル基含有エーテル化剤(II)のモル数を差し引いたモル数)に対して、好ましくは0.2モル当量以上、より好ましくは0.4モル当量以上であり、好ましくは1.0モル当量以下、より好ましくは0.9モル当量以下、更に好ましくは0.8モル当量以下である。
【0067】
有機相を洗浄する水溶液に使用する中性無機塩は、前記製造方法(A)の項で説明したのと同様のものが挙げられ、塩化ナトリウム又は硫酸塩が好ましく、塩化ナトリウム又はアルカリ金属硫酸塩がより好ましく、塩化ナトリウム又は硫酸ナトリウムが更に好ましい。工程(2b)において、アルカリ金属硫酸塩を用いて洗浄することで、副生成物である、前記式(VII)で示される化合物の含有量が、得られる反応生成物中、0.1質量%以下である、高純度の重合性化合物(VI)を得ることができる。
なお、中性無機塩の使用量は特に限定されないが、有機相を洗浄する水溶液1質量部中、通常0.03質量部以上0.5質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以上0.3質量部以下である。
【0068】
本発明の製造方法(B)によれば、高純度のモノエーテル化体を含む溶液組成物を、効率よく得ることができる。
本発明の製造方法(B)により得られる溶液組成物に含まれるモノエーテル化体(III)は、重合性液晶化合物の製造中間体として有用である。例えば、後述するように、得られた溶液組成物を用いて、モノエーテル化体(III)と式(V)で示されるカルボン酸化合物を反応させることで、高純度の重合性化合物を得ることができる。さらに、この重合性化合物を用いて、高純度の重合性液晶化合物を効率よく製造することができる。
【0069】
3)溶液組成物
本発明の第3形態は、ハイドロキノン化合物(I)、モノエーテル化体(III)、ジエーテル化体(IV)、及び、疎水性エーテル系溶媒を含み、ハイドロキノン化合物(I)、モノエーテル化体(III)、及びジエーテル化体(IV)の合計に対する、ハイドロキノン化合物(I)のモル百分率が、0モル%超5.0モル%以下、好ましくは0モル%超4.0モル%以下であり、モノエーテル化体(III)のモル百分率が、85.0モル%以上100.0モル%未満、好ましくは87.0モル%以上100.0モル%未満であり、ジエーテル化体(IV)のモル百分率が、0モル%超10.0モル%以下、好ましくは0モル%超9.5モル%以下である、溶液組成物である。
【0070】
前記疎水性エーテル系溶媒は、本発明の溶液組成物の製造方法の項で例示したのと同様のものが挙げられる。
本発明の溶液組成物は、上述した本発明の溶液組成物の製造方法(A)、(B)を用いて好ましく製造することができる。
本発明の溶液組成物は、後述する重合性化合物の製造原料として有用である。
【0071】
4)重合性化合物の製造方法
本発明の第4形態は、本発明の溶液組成物の製造方法により得られた溶液組成物に、式(V)で示されるカルボン酸化合物(以下、「カルボン酸化合物(V)」ということがある。)、及び酸触媒を添加し、前記溶液組成物に含まれるモノエーテル化体(III)と、カルボン酸化合物(V)とを反応させる工程(3)を有する、下記式(VI)で示される重合性化合物(以下、「重合性化合物(VI)」ということがある。)の製造方法である。
【化16】
【0072】
ここで、上記式中、R〜Rは、前記と同じ意味を表す。Yは、水素原子、メチル基、又は塩素原子を表し、水素原子が好ましい。
【0073】
工程(3)は、アルコール性水酸基を有するモノエーテル化体(III)と、カルボキシル基を有するカルボン酸化合物(V)との脱水縮合反応により、重合性化合物(VI)を得る工程である。
【0074】
本発明においては、前記工程(2)(製造方法(A)の工程(2a)又は製造方法(B)の工程(2b)のいずれかを示す。以下にて同じ。)において、中性無機塩として、硫酸塩、好ましくはアルカリ金属硫酸塩、より好ましくは硫酸ナトリウムを用いて洗浄して得られる溶液組成物を用いるのが好ましい。塩素等のハロゲンを含まない中性無機塩を用いて洗浄することで、前記化合物(VII)の生成を抑え、より高純度の重合性化合物(VI)を得ることができ、結果として、高純度の重合性化合物(VI)を含む溶液組成物を得ることができるからである。
【0075】
用いる溶液組成物とカルボン酸化合物(V)との使用割合は、溶液組成物中のモノエーテル化合物(III)とカルボン酸化合物(V)とのモル比〔モノエーテル化合物(III):カルボン酸化合物(V)〕が、好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは1:2〜1:4となる量である。
【0076】
用いる酸触媒としては、特に制限されないが、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸等の鉱酸;リンタングステン酸等のヘテロポリ酸;メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸;アンバーリスト(登録商標)、アンバーライト(登録商標)、ダウエックス(登録商標)等のスルホン酸型強酸性イオン交換樹脂;スルホン化テトラフルオロエチレン樹脂等のスルホン酸型フッ素化アルキレン樹脂;モルデナイト、ゼオライト等無機固体酸;等の従来公知のものが挙げられる。
酸触媒の使用量は特に限定されないが、通常、モノエーテル化体(III)1モルに対して、0.05モル以上0.6モル以下、好ましくは0.1モル以上0.4モル以下である。
【0077】
脱水縮合反応は、前記溶液組成物に、カルボン酸化合物(V)及び酸触媒のみを添加して行うことができるが、さらに溶媒を添加して行ってもよい。
用いる溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;テトラヒドロフラン、1,3−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;及び、これらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
これらの中でも、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、トルエンがより好ましい。
溶媒の使用量は特に限定されないが、疎水性エーテル系溶媒1質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
【0078】
脱水縮合反応は、目的物を収率良く得る観点から、生成する水を系外に除去しながら行うことが好ましい。生成する水を系外に除去しながら反応を行う方法としては、例えば、ディーンスターク管等の水分除去装置を用いて、水を系外に除去しながら反応を行う方法;反応系にモレキュラーシーブ等の脱水剤を共存させて反応で生じた水を除去しながら反応を行う方法;ベンゼン等との共沸により水を系外に除去しながら反応を行う方法;オルトエステル、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等を用いて系内で生じた水を化学的に補足しながら反応を行う方法;等が挙げられる。
【0079】
また、より効率よく目的物を得る観点から、脱水縮合反応を開始する前においても、あらかじめ、水を除去しておくことが好ましい。
【0080】
脱水縮合反応は、カルボン酸化合物(V)と重合性化合物(VI)とを安定化する(重合を防止する)ために、重合禁止剤の存在下で行ってもよい。用いる重合禁止剤としては、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT)、2,2’−メチレンビス(6−t−ブチル−p−クレゾール)、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリス(ノニルフェニル)等が挙げられる。
重合禁止剤を用いる場合、その使用量は、モノエーテル化体(III)100質量部に対して、通常、0.1質量部以上10質量部以下、好ましくは、0.5質量部以上5質量部以下である。
【0081】
脱水縮合反応の反応温度は特に限定されないが、通常0℃以上150℃以下、好ましくは20℃以上120℃以下、より好ましくは40℃以上80℃以下である。
共沸により水を系外に除去しながら脱水縮合反応を行う場合、所望の反応温度で共沸するように、反応器内を加圧、もしくは減圧しながら反応を行うことも好ましい。
【0082】
反応時間は反応温度等にもよるが、通常1時間以上24時間以下である。
反応の進行状況は公知の分析手段(例えば、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー)により確認することができる。
【0083】
反応終了後においては、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望により、反応生成物を、蒸留法、カラムクロマトグラフィー法、再結晶化法等の公知の分離・精製手段により精製して、目的とする重合性化合物(VI)を効率よく単離することができる。例えば、反応後の溶液にアルカリ水溶液を加えて中和操作を行い、水相を除去し、有機相を水洗浄した後、有機相に貧溶媒を加えて結晶を析出させることにより、目的とする重合性化合物(VI)を単離することができる。
【0084】
目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトル等の分析手段を用いることにより同定し、確認することができる。
【0085】
本発明において、再結晶や再沈殿により重合性化合物(VI)の単離を行う場合、貧溶媒としては、ヘキサンやトルエン等の炭化水素系溶媒が好ましい場合が多い。そのような場合は、結晶をろ過する工程で静電気着火を起こす危険があり、安全性を向上させるために、帯電防止剤を添加することが好ましい。
用いる帯電防止剤としては、炭化水素系溶媒に溶解することが必要であり、例えば燃料油用の帯電防止剤が挙げられる。具体的には、帯電防止剤としては、イノスペック社製の、STADIS−450やSTADIS−425が挙げられる。
【0086】
帯電防止剤の使用量は、通常、溶媒の総重量に対して10ppm以上5000ppm以下である。溶媒の導電率を安全の目安とされている、10−9S/m以上とすることが好ましい。
【0087】
本発明により得られる重合性化合物(VI)は、重合性液晶化合物の製造中間体として有用である(例えば、国際公開第2008/133290号等参照)。本発明の重合性化合物の製造方法によれば、前記ハイドロキノン化合物(I)及びジエーテル化体(IV)の含有量が少なく、モノエーテル化体(III)の含有量が大きい溶液組成物をそのまま出発原料として用いることができるため、純度の高い重合性化合物(VI)を、簡便に効率よく合成することができる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0089】
以下の実施例及び比較例において、溶液組成物の組成は高速液体クロマトグラフィーにより分析した。
このとき、ハイドロキノン化合物(I)と、モノエーテル化体(III)と、ジエーテル化体(IV)とのモル百分率は、高純度の標準物質を用いて検量線を作成して、それぞれ算出した。
また、以下の実施例において、6−[(4−ヒドロキシフェニル)オキシ]ヘキシルアクリレートの純度は、高速液体クロマトグラフィー分析によるピーク面積の割合から求めた。
【0090】
<高速液体クロマトグラフィーの測定条件>
高速液体クロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
装置:アジレント社製、1200シリーズ
溶離液:アセトニトリル(液A)と0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(液B)の混合液
保持条件:液Aと液Bの容積比(液A:液B)が50:50で3分間保持した後、液Aと液Bの容積比を、50:50から95:5まで、7分間で連続的に変化させ、液Aと液Bの容積比が95:5で10分間保持した。
カラム:ZORBAX Bonus―RP(4.6mmφ×250mm長)(Agilent社製 880668―901)
温度:40℃
流速:1ml/分
検出UV波長:280nm
【0091】
(合成例1)工程(1)後における有機相の液組成分析
冷却器及び温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、ハイドロキノン104.77g(0.9515mol)、6−クロロヘキサノール100g(0.7320mol)、蒸留水500g、アニソール100gを加えた。全容を攪拌しながら、さらに、水酸化ナトリウム35.13g(0.8784mol)を、内容物の温度が40℃を超えないように20分かけて少量ずつ加えた。水酸化ナトリウムの添加終了後、内容物を加熱し、還流条件下(99℃)で10時間反応を行った。
反応終了後、反応液の温度を60℃に下げて10分間静置した後、分液操作により水相を除いた。残った有機相を高速液体クロマトグラフィーで分析した。
その結果、有機相中に含まれる、ハイドロキノン(Ia)とモノエーテル化体(IIIa)とジエーテル化体(IVa)の3成分のモル百分率(モル%)は、ハイドロキノン(Ia):モノエーテル化体(IIIa):ジエーテル化体(IVa)=17.1:77.0:5.9であった。
【化17】
【0092】
以上の結果から、反応後の有機相中には、ハイドロキノン(Ia)が17モル%程度も含まれているおり、ハイドロキノン(Ia)の含有量を低減するためには、更なる精製操作が必要なことがわかる。
【0093】
本発明の製造方法における工程(1)後に得られる有機相は、非常に酸化されやすい性質があり、空気と接触させると数秒で溶液の色が黒く変化する。また、50℃程度まで冷却すると結晶が析出するため、60℃程度の加温状態でしか均一溶液の状態を保てない。
そこで、工程(1)後の有機相として、下記モデル溶液(1)を調製し、このものを用いて、以下の検討を行った。
【0094】
(合成例2)モデル溶液(1)の調製
冷却器及び温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、ハイドロキノン104.77g(0.9515mol)、6−クロロヘキサノール100g(0.7320mol)、蒸留水500g、o−キシレン100gを加えた。全容を攪拌しながら、さらに、水酸化ナトリウム35.13g(0.8784mol)を、内容物の温度が40℃を超えないように20分かけて少量ずつ加えた。水酸化ナトリウムの添加終了後、内容物を加熱し、還流条件下(96℃)で12時間反応を行った。
反応終了後、反応液の温度を80℃に下げ、蒸留水200gを加えた後、反応液を10℃に冷却することで、結晶を析出させた。析出した結晶をろ過により固液分離し、得られた結晶を蒸留水500gで洗浄し、真空乾燥することで、褐色結晶(1)123.3gを得た。
【0095】
この褐色結晶(1)を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、褐色結晶(1)に含まれるハイドロキノン(Ia)とモノエーテル化体(IIIa)とジエーテル化体(IVa)の3成分のモル百分率(モル%)は、ハイドロキノン(Ia):モノエーテル化体(IIIa):ジエーテル化体(IVa)=1.3:90.6:8.1であった。
【0096】
得られた褐色結晶(1)5.0g、ハイドロキノン0.524g(4.76mmol)、及び、アニソール5.0gをサンプル瓶に加え、60℃に加熱して均一溶液を調製した。この溶液をモデル溶液(1)とする。
モデル溶液(1)を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、ハイドロキノン(Ia)、モノエーテル化体(IIIa)、及び、ジエーテル化体(IVa)の3成分のモル百分率(モル%)は、ハイドロキノン(Ia):モノエーテル化体(IIIa):ジエーテル化体(IVa)=18.9:74.6:6.5であった。
このモデル溶液(1)の組成は、合成例1で得た前記工程(1)後における有機相の液組成とほぼ同じである。
【0097】
〔実施例1〜3、比較例1〜9〕
撹拌子の入った容量50ccのサンプル瓶に、合成例2で得たモデル溶液(1)、蒸留水25.0g、塩化ナトリウム1.0g、及び、下記第1表に示す添加剤(4.76mmol)を加えた。この溶液を、60℃に加熱した水浴に浸して15分間撹拌した。その後、撹拌を停止し、60℃で10分間静置して分液した後、有機相を分取した。
得られた有機相(溶液組成物)を、高速液体クロマトグラフィーで分析し、ハイドロキノン(Ia)、モノエーテル化体(IIIa)、ジエーテル化体(IVa)の3成分の合計に対する、ハイドロキノン(Ia)、モノエーテル化体(IIIa)、ジエーテル化体(IVa)それぞれのモル百分率(モル%)を算出した。
分析結果を下記表1に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
表1から、以下のことがわかる。
添加剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸三カリウムを使用して洗浄した実施例1〜3は、添加剤として、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、亜硫酸ナトリウムを用いた比較例1〜4に比して、有機相中に含まれるハイドロキノン(Ia)の含有量が低減している。
一方、添加剤として、有機塩基であるアミン化合物を用いた比較例5〜7、添加剤として、中性又は酸性の水溶液を用いた比較例8〜9では、いずれの場合も、ハイドロキノン(Ia)の低減量が小さいことがわかる。
【0100】
〔実施例4〜11〕
撹拌子の入った容量50ccのサンプル瓶に、合成例2で得たモデル溶液(1)、蒸留水25.0g、及び、亜硫酸ナトリウム0.300g(2.38mmol)を加えた。この溶液に、下記第2表に示す量の水酸化ナトリウムと中性無機塩を加えた。次いで得られた溶液を、60℃に加熱した水浴に浸して、全容を15分間撹拌した。その後、60℃で10分間静置して分液し、有機相及び水相をそれぞれ得た。有機相及び水相のそれぞれを高速液体クロマトグラフィーで分析し、ハイドロキノン(Ia)、モノエーテル化体(IIIa)、ジエーテル化体(IVa)の3成分の合計に対する、ハイドロキノン(Ia)、モノエーテル化体(IIIa)、ジエーテル化体(IVa)それぞれのモル百分率(モル%)を算出した。
分析結果を下記表2に示す。
また、過剰に使用したハイドロキノン化合物のモル数に対する水酸化ナトリウムの量および有機相の洗浄に用いた水溶液1質量部中の中性無機塩の量を算出して表2に示した。なお、モデル溶液(1)の調製に当たりハイドロキノンの酸化分を補うために添加したハイドロキノン0.524g(4.76mmol)は、過剰に使用したハイドロキノン化合物のモル数の算出には用いなかった。即ち、過剰に使用したハイドロキノン化合物のモル数は、0.0089mol(=[0.9515mol(3つ口反応器に投入したハイドロキノン量)−0.7320mol(3つ口反応器に投入した6−クロロヘキサノール量)]×5g(モデル溶液(1)の調製に使用した褐色結晶量)÷123.3g(3つ口反応器で得られた褐色結晶量))として、過剰に使用したハイドロキノン化合物のモル数に対する水酸化ナトリウムの量を求めた。また、有機相の洗浄に用いた水溶液1質量部中の中性無機塩の量の算出に当たり、有機相の洗浄に用いた水溶液の量は、蒸留水、亜硫酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび中性無機塩の合計量とした。
【0101】
【表2】
【0102】
表2から、用いる水酸化ナトリウム量(アルカリ量)と中性無機塩量を最適化することで、より高選択的にハイドロキノンを水相に移動させ、有機相中の目的物であるモノエーテル化体の割合を増加させることが可能であることがわかる。
すなわち、含まれるハイドロキノン(Ia)の量に対応してアルカリ量を調整し、4成分〔ハイドロキノン(Ia)、ハイドロキノン(Ia)のアルカリ塩、モノエーテル化体(IIIa)、モノエーテル化体(IIIa)のアルカリ塩〕を、有機相と水相の間で理想的な平衡状態とするため、中性無機塩量によって水溶液の溶解性を調整する、という2つの事柄が重要であることがわかった。
また、実施例11から、この操作で使用できる中性無機塩は塩化ナトリウムに限定されず、硫酸ナトリウムに代表される硫酸塩も可能であることもわかる。
【0103】
〔実施例12〕
冷却器及び温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、ハイドロキノン104.77g(0.9515mol)、6−クロロヘキサノール100g(0.7320mol)、亜硫酸ナトリウム4.61g(0.0366mol)、蒸留水300g、アニソール100gを加えた。全容を攪拌しながら内容物を加熱し、還流条件下(99℃)で、30質量%水酸化ナトリウム水溶液117.11g(0.8784mol)を5時間かけて滴下し、その後、還流条件下でさらに10時間反応を行った。
【0104】
反応終了後、反応液の温度を60℃に下げて撹拌を停止させ、60℃で15分間静置して分液した後、水相を抜き出した。得られた有機相に、亜硫酸ナトリウム4.61g(0.0366mol)、蒸留水450g、30質量%水酸化ナトリウム水溶液17.57g(0.1318mol)、及び、硫酸ナトリウム75gを加えて、全容を60℃で30分間撹拌し、15分間静置して分液し、水相を抜き出した。
得られた有機相(溶液組成物)を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、ハイドロキノン(Ia)と、モノエーテル化体(IIIa)と、ジエーテル化体(IVa)との3成分のモル百分率(モル%)は、ハイドロキノン(Ia):モノエーテル化体(IIIa):ジエーテル化体(IVa)=1.4:92.7:5.9であった。
【0105】
上記溶液組成物に、2,6−ジ(t−ブチル)−4−メチルフェノール(BHT)1.61g(0.0073mol)とトルエン50gを加え、反応器に、ディーンスターク管を取り付け、冷却管上部に減圧ポンプからの配管を備え付けた。溶液を加熱撹拌した状態で減圧を開始し、溶液温度が60〜65℃の間で還流条件となるように、減圧度を調整(反応器内圧:10〜30kPa)しながら、ディーンスターク管から水を除去することで、系内を脱水した。
その後、反応器内を窒素で常圧まで戻し、アクリル酸145.05g(2.0129mol)、メタンスルホン酸17.59g(0.1830mol)を順次加え、再度、減圧を開始した。反応液温度が60〜65℃の間で還流条件となるように、減圧度を調整(反応器内圧:8〜10kPa)しながら、生成する水を除去し、脱水反応を行った。メタンスルホン酸の添加後、4時間反応を続けた。
【0106】
次いで、反応液を40℃に冷却し、蒸留水100gを加え、25質量%炭酸カリウム水溶液435.00g(0.7869mol)を30分間かけて滴下した。その後、塩化ナトリウム50gとn−ヘキサン50gをさらに加え、40℃で30分撹拌した後に、分液により有機相を分取した。得られた有機相に蒸留水500gと塩化ナトリウム150gを加え、40℃で分液し、有機相を分取した。得られた有機相に、蒸留水400gと塩化ナトリウム40gを加え、40℃で分液し、有機相を分取した。得られた有機相に、吸着剤(共和化学工業社製、商品名;キョーワード700SEN−S)3.0gを加え、全容を25℃で30分撹拌した後、ろ過した。
【0107】
得られたろ液に、BHT0.81g(0.0037mol)を加えた後、溶液を15℃まで冷却した。そこへ、種晶0.02gを添加し、n−ヘキサン350gを1.5時間かけて滴下し、結晶を析出させた。その後、溶液を10℃に冷却して、帯電防止剤(イノスペック社製、商品名;STADIS−450)0.6gを加え、ろ過により結晶を分取した。得られた結晶を、トルエン66.7g、n−ヘプタン133.3g、及び、帯電防止剤(イノスペック社製、商品名;STADIS−450)0.2gとの混合液で洗浄し、真空乾燥することで、6−[(4−ヒドロキシフェニル)オキシ]ヘキシルアクリレートを白色固体として119.8g得た(6−クロロヘキサノール基準の収率;62%、純度95.7%)。
目的物の構造はH−NMRで同定した。結果を以下に示す。
【0108】
H−NMR(500MHz,DMSO−d,TMS,δppm):8.87(s,1H)、6.72(d,2H,J=9.0Hz)、6.65(d,2H,J=9.0Hz)、6.32(dd,1H,J=1.5Hz、17.5Hz)、6.17(dd,1H,J=10.0Hz、17.5Hz)、5.93(dd,1H,J=1.5Hz、10.0Hz)、4.11(t,2H,J=6.5Hz)、3.83(t,2H,J=6.5Hz)、1.56−1.72(m,4H)、1.31−1.47(m,4H)
【0109】
〔実施例13〕
実施例12において、有機相を水溶液で洗浄する際に用いた硫酸ナトリウムを、塩化ナトリウムに変更したこと以外は、実施例12と同様に操作を行った。
【0110】
得られた有機相の溶液組成物を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、ハイドロキノン(Ia)と、モノエーテル化体(IIIa)と、ジエーテル化体(IVa)との3成分のモル百分率(モル%)は、ハイドロキノン(Ia):モノエーテル化体(IIIa):ジエーテル化体(IVa)=1.7:92.0:6.3であった。
得られた溶液組成物を用いて、実施例12と同様に、アクリル酸とのエステル化反応と、精製操作とを実施して、6−[(4−ヒドロキシフェニル)オキシ]ヘキシルアクリレートを白色固体として116.5g得た(6−クロロヘキサノール基準の収率;60%、純度94.5%)。
【0111】
得られた白色固体を高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、不純物として最も多い成分(不純物の中でピーク面積が一番大きい成分)のピーク面積は、0.6面積%であった。そこで、白色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー〔展開溶媒;トルエン:酢酸エチル=9:1(容積比)〕と、分取GPC装置(日本分析工業社製、製品名:LC908−C60)を用いて精製し、不純物として最も多い成分を単離した。
構造をH−NMRで同定した結果、不純物として最も多い成分は、下記式(VIIa)で示される化合物(以下、「化合物(VIIa)」という。)であることがわかった。H−NMRの結果を以下に示す。
【化18】
【0112】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):6.78(d,2H,J=9.0Hz)、6.76(d,2H,J=9.0Hz)、4.91(s,1H)、4.14(t,2H,J=6.5Hz)、3.89(t,2H,J=6.5Hz)、3.76(t,2H,J=6.5Hz)、2.79(t,2H,J=6.5Hz)、1.65−1.79(m,4H)、1.41−1.50(m,4H)
【0113】
実施例12では、化合物(VIIa)の存在は確認されていない。
実施例12と実施例13とでは、中性無機塩として使用した「硫酸ナトリウム」と「塩化ナトリウム」の使用したことのみが相違している。よって、実施例13では、有機相の洗浄で使用した塩化ナトリウムを含む水溶液の一部がエステル化反応に混入し、エステル化反応の酸触媒であるメタンスルホン酸と塩化ナトリウムとが反応して塩酸が発生し、その塩酸がアクリル基に付加したことが、化合物(VIIa)の生成原因と考えられる。
実施例12および13より、重合性化合物の使用用途によっては、化合物(VIIa)の存在が問題となることがあり、そのような場合には、中性無機塩として、ハロゲンを含まない硫酸ナトリウム等の硫酸塩を使用することが好ましいことが分かる。