(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
芳香族基と前記芳香族基に結合した2以上のビニル基とを有する架橋性モノマーに由来する構造単位を含有する架橋ポリマーを含む多孔質ポリマー粒子の前記架橋ポリマーに結合する第1のグラフト鎖を、水酸基を有するラジカル重合性モノマーを含むモノマーの原子移動ラジカル重合によって形成させる工程と、
前記第1のグラフト鎖に、前記第1のグラフト鎖とは異なる、水酸基を有するポリマーである、第2のグラフト鎖を結合させる工程と、を備え、
前記第1のグラフト鎖が、水酸基を有するラジカル重合性モノマーに由来する構造単位を含有するポリマーであり、
前記第2のグラフト鎖が糖鎖又はその変性体である、
分離材を製造する方法。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には合成高分子を母体とする多孔質粒子、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とする粒子が用いられている。
【0003】
多孔質の合成高分子を母体とするイオン交換体の場合、塩濃度による体積変化が小さく、カラムに充填しクロマトグラフィーで用いたときの通液時の耐圧性が良いといった利点がある。しかし、このイオン交換体は、タンパク質等の分離において、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起きて、ピークの非対称化が発生する、あるいは、該疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できないという問題点を有していた。
【0004】
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着が殆どないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤するため、溶液のイオン強度による体積変化及び、遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も十分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
【0005】
親水性天然高分子の架橋ゲルが持つ欠点を克服するため、これをいわば“骨格”となる剛直な物質と組み合わせる試みがこれまでになされている。例えば米国特許第4965289号は、多孔性高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体を、ペプチド合成の分野で用いており、それにより反応性物質の負荷係数を高め、高収率の合成ができることを発明の効果としてあげている。しかもこの米国特許では硬質な合成高分子物質でゲルを包囲するため、カラムベッドの形態で使用しても、容積変化がなく、カラムを通過するフロースルーの圧力が変化しないという効果を上げている。しかし、この複合体の実施例に示された多孔性高分子は、その細孔容積が75%以上となっており、いわゆる“骨格”に相当する部分が少なく、強度が弱いという欠点を有している。また、この複合体は粉砕されたもので真球状ではないため、クロマトグラフィーで使用した場合、流体力学的にみて、効率的に不利である。具体例では細孔内のゲルとして合成高分子が記載されているのみである。
【0006】
米国特許第4335017号及び米国特許第4336161号は、セライト等の無機多孔質体にデキストラン、セルロースといった多糖などのキセロゲルを保持させ、このゲルには収着性能を付加するためにジエチルアミノメチル(DEAE)基等を付与した粒子を、ヘモグロビンの除去に使用している。その効果として、カラムでの通液性の良さがあげられているが、セライト等の無機物質は、一般にアルカリに不安定であるため使用条件が限定される。具体例として記載されているセライトは、不定形で、カラムに充填して使用する場合には圧力損失が大きいために、クロマトグラフィーの操作上不利である。
【0007】
米国特許第3966489号は、いわゆるマクロネットワーク構造のコポリマーの細孔を、モノマーから合成した架橋共重合体のゲルで埋めたハイブリッドコポリマーのイオン交換体を挙げている。架橋共重合体ゲルの架橋度が低いと、圧力損失、体積変化等の問題があるが、架橋共重体がハイブリッドコポリマーであることで通液特性が改善され、圧力損失が少なくなること、また、イオン交換容量が向上し、リーク挙動が改善されることが挙げられている。しかし、ハイブリッドコポリマーを形成する前のコポリマーは、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体であり、疎水性が高く、タンパク質等の生体高分子の分離に使用した場合、非特異吸着が起きるという欠点を有する。
【0008】
有機合成ポリマー基体の細孔内に巨大網目構造を有する親水性天然高分子の架橋ゲルを充填した複合化充填剤が提案されている(特開平1−254247号公報、米国特許第5114577号公報参照)。この充填剤において提案されている架橋ゲルは、イオン交換基がなく、分子篩効果を利用したゲルバーミエイションクロマトグラフィーに使用される。そのため、タンパク質の分離の場合等は分子量の殆ど等しいものの分離は不十分であった。
【0009】
特開2009−244067号公報ではメタクリル酸グリシジルとアクリル架橋モノマーにより構成される多孔質粒子が合成されている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
一実施形態に係る分離材は、多孔質ポリマー粒子と、多孔質ポリマー粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とから構成される。本明細書において、「多孔質ポリマー粒子の表面」は、多孔質ポリマー粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマー粒子の内部における細孔の表面も含む。
【0017】
(多孔質ポリマー粒子)
一実施形態に係る多孔質ポリマー粒子は、芳香族基及び前記芳香族基に結合した2以上のビニル基を有する架橋性モノマーに由来する構造単位を含有する架橋ポリマーを含む。多孔質ポリマー粒子は、例えば、架橋性モノマー、多孔化剤及び水性媒体を含む反応液中での懸濁重合等により合成することができる。架橋性モノマーとしては、特に限定されないが、スチレン系モノマー等のビニルモノマーを使用することができる。
【0018】
架橋性モノマー(又は多官能性モノマー)としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物(スチレン系モノマー)が挙げられる。これらの架橋性モノマーは、単独で使用しても2種類以上を併用してもよい。耐久性、耐酸、アルカリ性の観点よりジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
【0019】
単官能性モノマーを架橋性モノマーとともに重合してもよい。単官能性モノマーとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。耐酸、耐アルカリ性を有するスチレンが好ましい。カルボキシル基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
【0020】
多孔化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒が用いられる。多孔化剤の例としては、脂肪族或いは芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類が挙げられる。具体的には、多孔化剤は、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノールから選ぶことができる。これらは単独もしくは混合して用いることができる。
【0021】
多孔化剤の量は架橋性モノマー及びその他のモノマーの合計量に対して0〜300質量%であってもよい。多孔化剤の量で粒子の空孔率をコントロールできる。さらに多孔化剤の種類によって、孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
【0022】
溶媒として使用する水を多孔化剤とする場合は、モノマーに油溶性界面活性剤を溶解させることで、水を吸収し、粒子を多孔質化させることが可能である。
【0023】
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸及び鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル、例えば、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート及びヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸または鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル、例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート及びヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール及び鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル、及びこれらの乳化剤の混合物が挙げられる。好ましい乳化剤としては、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(登録商標)20、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるソルビタンモノラウレート)、ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(登録商標)、好ましくは純度約40%、より好ましくは約50%、最も好ましくは約70%を超えるソルビタンモノオレエート)、ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノオレエート)、ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート)、ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは約50%を超える、最も好ましくは約70%を超えるソルビタンモノミリステート)、ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル及びミリストイル)エーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
これらの乳化剤はモノマーに対して5〜80質量%の範囲で使用することが好ましい。乳化剤の量が5質量%以上である場合、水滴の安定性が良好となり、大きな単一孔の形成が抑制される傾向にある。乳化剤の量が80質量%以下である場合、重合後の粒子形状の安定性が良好となる傾向にある。
【0025】
水性媒体としては、水、又は、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれている。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
【0026】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。
【0027】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0028】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0029】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤及び亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0030】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマーの重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0031】
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマー100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用するとよい。
【0032】
重合温度は、モノマー及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0033】
重合工程において、粒子の分散安定性を向上させるために、乳化液に分散安定剤を添加してもよい。
【0034】
分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。分散安定剤の添加量は、モノマー100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0035】
水中でモノマーが単独に乳化重合した粒子の発生を抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
【0036】
多孔質ポリマー粒子の平均粒径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは100μm以下である。多孔質ポリマー粒子の平均粒径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上であり、更に好ましくは50μm以上である。平均粒径が小さくなると、カラム充填後のカラム圧が増加する可能性がある。
【0037】
多孔質ポリマー粒子又は分離材の変動係数(C.V.)は通液性を向上させるためには5〜15%であることが好ましく、5〜10%であることがさらに好ましい。粒径の変動係数を低減する方法としてマイクロプロセスサーバー(日立製作所)等の乳化装置により単分散化する方法がある。
【0038】
多孔質ポリマー粒子又は分離材の平均粒径及び粒径の変動係数は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス製)を用いて、分散液中の粒子1万個の画像により平均粒径と粒径の変動係数を測定する。
【0039】
多孔質ポリマー粒子又は分離材の全体積(細孔容積を含む)に対する細孔容積の割合(空隙率)は、30%以上70%以下であってもよい。多孔質ポリマーの大部分の細孔の直径は、0.05μm以上0.6μm以下、すなわちマクロポアーであってもよい。言い換えると、多孔質ポリマー粒子又は分離材の細孔径分布におけるモード径は、0.05〜0.6μmであってもよい。さらに好ましくは、細孔容積が40%以上70%以下で、細孔径分布におけるモード径が0.05μm以上0.3μm未満である。細孔の直径又はモード径がこれより小さい場合、細孔に入れない物質が増える傾向がある。細孔の直径又はモード径がこれより大きい場合、表面積が小さくなる。これらは前出の多孔化剤により調整可能である。
【0040】
多孔質ポリマー粒子又は分離材の比表面積は、30m
2/g以上であることが好ましい。実用性を鑑みると、比表面積が35m
2/g以上であることがより好ましく、40m
2/g以上であることが更に好ましい。比表面積が小さいと分離する物質の吸着量が相対的に少なくなる傾向がある。
【0041】
多孔質ポリマー粒子又は分離材の、細孔径分布におけるモード径、比表面積、空隙率は水銀圧入測定装置(オートポア:島津製作所)にて測定した値である。これらは以下のようにして測定できる。約0.05gの試料を、標準5cc粉体用セル(ステム容積0.4cc)に採り、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm 相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees 、水銀表面張力485dynes/cm、に設定した。細孔径0.05〜5μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出した。
【0042】
(水酸基を有するポリマーを含む被覆層)
多孔質ポリマー粒子の、細孔内部を含む表面上に、水酸基を有するポリマーをグラフト鎖として導入して被覆層を形成することにより、非特異吸着を抑制することができ、動的吸着量を向上できる。被覆層が薄膜であることが、カラム圧の上昇を抑制することに寄与できる。また、官能基を導入した際のタンパク質吸着量が良好となる。
【0043】
第1のグラフト層は、多孔質ポリマー粒子の架橋ポリマーに結合した、水酸基を有するポリマーである、第1のグラフト鎖を含む。第1のグラフト鎖は、非特異吸着を効果的に防止するために、リビングラジカル重合である原子移動ラジカル重合(ATRP)によって、水酸基を有するラジカル重合性モノマーを重合させて多孔質ポリマー粒子の表面に導入されることが好ましい。すなわち、第1のグラフト鎖は、水酸基を有するラジカル重合性モノマーに由来する構造単位を含有するポリマーであることが好ましい。水酸基を有するラジカル重合性モノマーの例としては(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、糖単位を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。非特異吸着を防止する観点から水に溶解するモノマーを使用することが好ましい。
【0044】
第1のグラフト鎖は、多孔質ポリマー粒子の表面にATRP開始基を導入後、形成させることができる。ATRP開始基の導入方法は特に限定されないが、多孔質ポリマー粒子の架橋性ポリマーに二重結合が残存している場合は、臭酸、塩酸等を二重結合に反応させることでATRP開始基を導入することができる。多孔質ポリマー粒子の表面に水酸基がある場合、これを2−ブロモプロピオニルブロミドと反応させることにより、簡便にATRP開始基を導入することができる。簡便な方法として2−ブロモプロピオニルブロミドをドーパミンを反応させて得られる物質を使用して、多孔質ポリマー粒子の表面に膜を形成することによりATRP開始基を導入することもできる。
【0045】
ATRP法において用いられる触媒は、特に限定されず、ATRP法において通常使用されるものの中から幅広く選択できる。通常は遷移金属錯体が用いられる。遷移金属錯体は特に限定されず、幅広く選択できる。例えば、以下に例示する配位子群と遷移金属群から適宜それぞれ配位子と遷移金属を選び出して組み合わせることができる。
配位子群は、例えば、2,2’-Bipyridyl、4,4’-Dimethyl-2,2’-dipyridyl、4,4’-Di-tert-butyl-2,2’-dipyridyl、4,4’-Dinonyl-2,2’-dipyridyl、N-Butyl-2-pyridylmethanimine、N-Octyl-2-pyridylmethanimine、N-Dodecyl-N-(2-pyridyl-methylene)amine、N-Octadecyl-N-(2-pyridylmethylene)amine、N,N,N’,N’,N’-Pentamethyl-diethylenetriamine、Tris(2-pyridylmethyl)amine、1,1,4,7,10,10-Hexamethyltriethylene-tetramine、Tris[2-(dimethylamino)ethylamine、1,4,8,11-Tetraazacyclotetra-decane、1,4,8,11-Tetramethyl-1-4-8-11-tetraazacyclotetradecane及びN,N,N’N’-Tetrakis(2-pyridylmethyl)-ethylenediamineからなる。
遷移金属群は、例えば、CuCl、CuCl
2、CuBr、CuBr
2、TiCl
2、TiCl
3、TiCl
4、TiBr
4、FeCl
2、FeCl
3、FeBr
2、FeBr
3、CoCl
2、COBr
2、NiCl
2、NiBr
2、MoCl
3、MoCl
5及びRuCl
3からなる。遷移金属錯体は、好ましくは一価銅錯体である。一価銅錯体として、特に限定されないが、CuBr/ビピリジル(bpy)錯体を使用してもよい。
【0046】
ATRP法に溶媒を用いる場合、溶媒は、特に限定されないが、フリーラジカル重合にて使用されている溶媒であって、触媒がある程度均一に溶解できるものであれば使用可能である。例えば、水、エーテル類、アミド類、ニトリル類及びアルコール類からなる群より選択される少なくとも1種の溶媒、又はその溶媒をその他の溶媒と組み合わせて用いることができる。エーテル類としては、特に限定されないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール及びジメトキシベンゼン等が挙げられる。アミド類としては、特に限定されないが、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びN,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。ニトリル類としては、特に限定されないが、例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル及びベンゾニトリル等が挙げられる。アルコール類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール及びイソアミルアルコール等が挙げられる。溶媒としては、特に、水、エーテル類、アミド類及びアルコール類からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、水、アニソール又はDMFがより好ましい。
【0047】
上記の溶媒と組み合わせられ得る他の溶媒は、特に限定されないが、例えば、芳香族炭化水素である溶媒又はハロゲン化炭化水素であってもよい。芳香族炭化水素としては、特に限定されないが、例えば、ベンゼン及びトルエン等が挙げられる。ハロゲン化炭化水素としては、特に限定されないが、例えば、クロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム及びクロロベンゼン等が挙げられる。この場合、上記の重合溶媒の量を開始剤のモル量以上とするのが好ましい。
【0048】
下記式より算出される第1のグラフト鎖のグラフト密度σは、0.1chain/nm
2以上であることが、タンパク質の非特異吸着を防止する観点から好ましい。
σ=被覆量(g/粒子g)/数平均分子量Mn×アボガドロ数/粒子の比表面積(nm
2/g)
リビングラジカルにより導入されたグラフト鎖の数平均分子量は、グラフト鎖をアルカリ等により加水分解させた後、GPC等により測定することができる。
【0049】
被覆層を構成する第2のグラフト鎖は、第1のグラフト鎖に結合した、水酸基を有するポリマーである。ただし、このポリマーは、第1のグラフト鎖を構成するポリマーとは異なるポリマーである。第2のグラフト鎖によって形成される層(第2のグラフト層)は、タンパク質吸着層として機能することができる。第2のグラフト鎖は、水酸基を多く有するポリマーであることが好ましく、例えば、糖鎖(多糖類)又はその変性体であることが好ましい。糖鎖(多糖類)としてはデキストラン、プルラン、アガロース、キトサン等が挙げられる。第2のグラフト鎖を形成する水溶性ポリマーの重量平均分子量は1万〜100万程度であってもよい。第2のグラフト層を形成させる方法として、第1のグラフト鎖に第2のグラフト鎖を形成する水酸基を有するポリマーと反応性を有する官能基(エポキシ基、グリシジル基等)を導入し、その官能基と水酸基を有するポリマーとを多孔質ポリマー粒子の表面又は細孔内で反応させる方法がある。水酸基を有するポリマーの溶媒としては、水酸基を有するポリマーを溶解することの出来るものであれば、何でも使用できるが、通常、水、アルコール類(メタノール、エタノール)のような親水性溶媒が最も一般的である。溶媒に溶解させる水酸基を有するポリマーの濃度は、5〜20mg/mlが好ましい。水酸基を有するポリマーの溶液を、多孔質ポリマー粒子の細孔内に含浸させる。含浸は、水酸基を有するポリマーの溶液に多孔質ポリマー粒子を加えて一定時間攪拌する方法により行うことができる。攪拌時間は多孔質ポリマー粒子の表面状態によっても変わるが、1〜12時間で、水酸基を有するポリマーの濃度が多孔質ポリマー粒子の内部と外部で平衡状態となる。その後、反応触媒、加熱等により反応を開始させる。反応終了後、粒子を濾別し、ついで水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応の水酸基を有するポリマー、懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマー粒子の細孔内に水酸基を有する第2のグラフト鎖が形成された分離材が得られる。グラフト量は、熱分解の重量減少、密度計等で測定することができる。
【0050】
上述の式より算出される第2のグラフト鎖のグラフト密度は、0.1chain/nm
2以下であることが好ましい。
【0051】
(イオン交換基の導入)
グラフト鎖を含む被覆層に、イオン交換基、リガンド(プロテインA)を、水酸基を介して導入することにより、分離材をイオン交換精製、アフィニティ精製に使用することができる。
【0052】
イオン交換基を導入するために、ハロゲン化アルキル基を有する化合物を用いることができる。その例としては、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩、ジエチルアミノエチルクロライドといった1級、2級、3級アミン、又は4級アンモニウム塩のハロゲン化物及びその塩酸塩等が挙げられる。ハロゲン化物としては臭化物、塩化物が好ましい。ハロゲン化アルキル基含有化合物の種類により付与されたイオン交換基が決定される。ハロゲン化アルキル基含有化合物の使用量としては、イオン交換基を付与する粒子重量に対して0.2%以上であってもよい。
【0053】
イオン交換基を導入する反応を促進するために、有機溶媒を用いるのが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類を用いることができる。通常、多孔質ポリマー粒子及び被覆層を有する粒子を、湿潤状態で濾過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置する。通常、水−有機溶媒混合系で、ハロゲン化アルキル基含有化合物を添加し反応させる。この反応は温度40〜90℃で還流下、0.5〜12時間行うのが好ましい。
【0054】
弱塩基性基であるアミノ基は、ハロゲン化アルキル基含有化合物のうち、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミノクロライド、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミノクロライド、モノ(又はジ−)アルキル−モノ(又はジ−)アルカノールアミノクロライド(但し、0内が同時に示されることはない。)等の2級又は3級アミノハロゲナイド等を反応させることにより得られる。これらのアミンの使用量は、粒子の質量に対して0.2質量%以上であってもよい。反応条件は、例えば40〜90℃で0.5〜12時間である。
【0055】
強塩基性基の四級アンモニウム基をイオン交換基として導入する方法の例としては、まず上述の様に3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリンのハロゲン化アルキル基含有化合物を反応させ4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。4級アンモニウムクロライド等の4級アミノハロゲナイド等を上述の1〜3級アミノクロライドの様に複合体に反応させてもよい。
【0056】
イオン交換基として弱酸性基であるカルボキシル基を導入する方法の例としては、該ハロゲン化アルキル基含有化合物としてモノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応する方法がある。カルボン酸又はそのナトリウム塩の使用量はイオン交換基を導入する粒子の質量に対して0.2%以上であってもよい。
【0057】
強酸性基であるスルホン酸基の導入方法の例としては、複合体に対してエビクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、さらに亜硫酸ナトリウム又は重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に該複合体を添加し、30〜90℃で1〜10時間反応させる方法がある。
【0058】
イオン交換基を導入する他の方法としては、アルカリ性雲囲気下で粒子を1,3−プロパンスルトンと反応させる方法がある。1.3−プロパンスルトンの量は、粒子の質量に対して0.4質量%以上であってもよい。反応条件は、例えば0〜90℃で0.5〜12時間である。一般には、水酸化ナトリウム水溶液に、水酸基を有する水溶性高分子で被覆した多孔質ポリマー粒子を投入し、水−有機溶媒混合系で、ハロゲン化アルキル基含有化合物と反応させる方法が挙げられる。ハロゲン化アルキル基含有化合物の使用量は、水溶性高分子の質量対して例えば0.2質量%以上である。この反応は温度40〜90℃、還流下で、0.5〜12時間行うのが好ましい。
【0059】
(分離材)
イオン交換基が導入された分離材は、タンパク質を静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、分離材を溶液から濾別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。分離材は、カラムクロマトグラフィーにおけるカラム充填剤としても有用である。カラムは、通常、管状体と、該管状体内に充填された分離材(カラム充填剤)とを備える。
【0060】
一実施形態に係る分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性の物質が好ましい。生体高分子の具体例は、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質等のタンパク質、生体中に存在する酵素、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA、及び生理活性を有するペプチドを含む。生体高分子の分子量は200万以下、さらに好ましくは50万以下である。タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、イオン交換基の性質及び条件を選ぶことができる。この点に関して、例えば、特開昭60−169427号公報を参照することができる。
【0061】
第1及び第2のグラフト鎖を含む被覆層を形成後、細孔内にイオン交換基、リガンドを導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子、合成ポリマーからなる粒子の持つそれぞれの利点をあわせ持った特性を示すことができる。この性能は、従来の技術では発揮されなかったものである。イオン交換体の骨格となる多孔質体は、上記のような方法で作られる多孔質ポリマー粒子であるため、耐久性、耐アルカリ性が強い。また、水酸基を有するポリマーによって被覆層を形成することにより非特異吸着も起こりにくく、タンパク質の脱吸着がしやすい。さらにイオン交換体は、同一流速下でのタンパク質等の吸着容量(動的吸着容量)が大きい点でも従来のイオン交換樹脂に比べて好ましい性質を有する。
【0062】
分離材の粒径は、通常、10〜300μmが好ましい。分取用又は工業用のクロマトグラフィーの充填剤として使用される場合、カラム内圧の極端な増加を避けるために、分離材の粒径が50〜100μmであることが好ましい。
【0063】
カラムでタンパク質の分離を行う場合、カラムに通液されるタンパク質溶液等の通液速度は、一般に400cm/h以下の範囲である。これに対して、一実施形態に係る分離材は、800cm/h以上の通液速度でも高い吸着容量で使用できる。ここでの通液速度とはφ7.8×300mmのステンレスカラムに充填剤を充填し、液を流した際の通液速度を意味する。
【0064】
本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーの充填剤として使用した場合、使用する溶出液の性質に依らず、カラム内での体積変化が殆どないという、操作性における優れた効果を発揮し得る。
【0065】
本実施形態の分離材は、前述の方法に製造することができる。すなわち、本実施形態の分離材の製造方法は、芳香族基と前記芳香族基に結合した2以上のビニル基とを有する架橋性モノマーに由来する構造単位を含有する架橋ポリマーを含む多孔質ポリマー粒子の前記架橋ポリマーに結合する第1のグラフト鎖を、水酸基を有するラジカル重合性モノマーを含むモノマーの原子移動ラジカル重合によって形成させる工程と、前記第1のグラフト鎖に、前記第1のグラフト鎖とは異なる、水酸基を有するポリマーを結合させる工程と、を備えるものであってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
1.分離材
(実施例1)多孔質ポリマー粒子1の合成
500mLの三口フラスコに、純度96%のジビニルベンゼン(DVB960)16g、乳化剤(商品名:スパン80)6g、及び過酸化ベンゾイル0.64gを、ポリビニルアルコール水溶液(濃度0.5質量%)に加え、マイクロプロセスサーバーを使用して液を乳化した。形成された乳化液において、連続相としてのポリビニルアルコール水溶液中に、ジビニルベンゼン、乳化剤及び過酸化ベンゾイルを含むモノマー相が分散していた。得られた乳化液を、フラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら攪拌機を用いて約8時間撹拌した。ジビニルベンゼンの重合により生成した粒子を、ろ過により取り出し、アセトンで洗浄して、多孔質ポリマー粒子1を得た。
【0068】
第1のグラフト層の形成
多孔質ポリマー粒子1を10g、チオグリセロール0.1mmol、及びα,α’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)1mmolをDMF100mLに加え、液を70℃で12時間攪拌した。その後、液から取り出した粒子をアセトンで洗浄した。洗浄後のポリマー粒子10g、イソブチリルブロマイド1g、DMF50g、及びトリエチルアミン0.5gを混合し、混合物を室温で3時間攪拌した。その後、液から取り出した粒子をアセトンで洗浄して、Br開始基が導入された粒子を得た。この粒子10gを、グリセリンモノメタクリレート(GMA)13g、2臭化銅670mg、トリスジメチルアミノエチルアミン335mg、及びDMF80gを含む反応液に添加し、窒素バブリングを行った。そこに、1190mgのアスコルビン酸を溶解させたエタノール200gを添加し、ATRPによるグリセリンモノメタクリレートの重合を5時間かけて行った。重合後の粒子をろ過し、DMFにて洗浄し、グリセリンモノメタクリレートの重合体であるグラフト鎖によって形成された第1のグラフト層を有する多孔質ポリマー粒子を得た。粒子の質量の変化から、多孔質ポリマー粒子1gに対する第1のグラフト層の質量の割合(mg/粒子g、グラフト量)を求めた。グラフト鎖の分子量は、3Nの水酸化ナトリウム水溶液4gに粒子1gを分散し、25℃で3時間攪拌して、加水分解によって分離したグラフト鎖のポリマーが溶解した上澄みを回収した。次に、この鎖状ポリマーの溶液に、溶液のpHが7になるまで1Mの塩酸を加え中和した。得られた水溶液を用いたGPCにより数平均分子量を算出したところ数平均分子量は12500であった。この数平均分子量を使用し、グラフト密度を算出した。
【0069】
得られた粒子10gを0.4M水酸化ナトリウム水溶液350gに分散させ、そこにエピクロロヒドリンを10g添加し、溶液を室温にて12時間攪拌した。粒子をろ過してから、加熱された濃度2質量%のドデシル硫酸ナトリウム水溶液、及び水で洗浄し、エポキシ基が導入された粒子を得た。
【0070】
第2のグラフト層の形成
エポキシ基が導入された第1のグラフト層を有する多孔質ポリマー粒子10gを、濃度10質量%のデキストラン(重量平均分子量(Mw):50万)の水溶液100mLに投入し、1時間攪拌した。そこに1Mの水酸化ナトリウム水溶液100mLを加え、18時間攪拌することで、エポキシ基との反応により、第2のグラフト層を形成するグラフト鎖としてデキストランを導入した。これにより、第1のグラフト層及び第2のグラフト層を有する分離材を得た。粒子の質量の変化から、多孔質ポリマー粒子1gに対する第2のグラフト層の質量の割合(mg/粒子g、グラフト量)を求めた。
【0071】
(実施例2)
スパン80の量を7gに変更したこと以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマー粒子2を合成した。多孔質ポリマー粒子2を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
【0072】
(実施例3)
スパン80の量を8gに変更したこと以外は実施例1と同様にして多孔質ポリマー粒子3を合成した。多孔質ポリマー粒子3を用いて、実施例1と同様に分離材を作製した。
【0073】
(実施例4)
グリセリンモノメタクリレートに代えてヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)をモノマーとして使用して第1のグラフト層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、分離材を作製した。
【0074】
(実施例5)
グリセリンモノメタクリレートに代えてヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)をモノマーとして使用して第1のグラフト層を形成したこと以外は実施例1と同様にして、分離材を作製した。
【0075】
(比較例1)
実施例1において第2のグラフト層を形成する前の粒子を分離材として用いた。
【0076】
(比較例2)
アガロース水溶液(濃度2質量%)100mLに水酸化ナトリウム4g、及びグリシジルフェニルエーテル0.14gを加え、これらを70℃で12時間、反応させて、アガロースにフェニル基が導入されたアガロース(変性アガロース)を生成させた。生成した変性アガロースをイソプロピルアルコールで再沈殿させてから、洗浄した。
濃度20mg/mLの変性アガロース水溶液に、多孔質ポリマー粒子1を、粒子1g当たり変性アガロース水溶液が70mLとなる濃度で投入した。55℃で24時間の攪拌により、多孔質ポリマー粒子1に変性アガロースを吸着させた。吸着後、ろ過によって取り出した粒子を、熱水で洗浄した。粒子へのアガロースの吸着量はろ液中の変性アガロースの濃度から算出した。
細孔内部を含む表面に変性アガロースが吸着した粒子を、濃度0.64Mのエチレングリコールジグリシジルエーテル、及び濃度0.4Mの水酸化ナトリウム0.4Mを含む水溶液に、粒子1g当たり水溶液35mLの濃度で加え、24時間、室温にて攪拌した。その後、粒子を濃度2質量%の加熱したドデシル硫酸ナトリウム水溶液、及び純水で順次洗浄した。洗浄後の粒子をそのまま分離材として用いた。
【0077】
(比較例3)
市販のイオン交換クロマトグラフィー担体(Capto DEAE(GEヘルスケア製)を、そのまま分離材(多孔質ポリマー粒子4)として用いた。
【0078】
(比較例4)多孔質ポリマー粒子5の合成
500mLの三口フラスコに、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート11.2g、エチレングリコールジメタクリレート4.8g、スパン80を5g、及び過酸化ベンゾイル0.64gを、ポリビニルアルコール水溶液(濃度0.5質量%)に加え、マイクロプロセスサーバーを使用して液を乳化し、連続相としてのポリビニルアルコール水溶液中にモノマー相が分散している乳化液を形成させた。得られた乳化液を、フラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら攪拌機を用いて約8時間撹拌した。2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート及びエチレングリコールジメタクリレートの重合により生成した粒子を、ろ過により取り出し、アセトンで洗浄して、多孔質ポリマー粒子5を得た。
洗浄後の多孔質ポリマー粒子4の4gを、デキストラン(重量平均分子量15万)1g、水酸化ナトリウム0.6g、及び水素化ホウ素ナトリウム0.15gを蒸留水に溶解させて得たデキストラン溶液6gに加えて、多孔質ポリマー粒子4の細孔内にデキストラン溶液を含浸させた。得られたデキストラン溶液が含浸した多孔質ポリマー粒子を、濃度1質量%のエチルセルロースのトルエン溶液1Lに加え、攪拌により、分散及び懸濁させた。得られた懸濁液中に、エピクロルヒドリン5mLを加え、懸濁液を50℃で6時間攪拌して、デキストランを架橋させた。反応終了後、生成したゲル状物を、ろ過により懸濁液から分離し、トルエン、エタノール、及び蒸留水で順次洗浄して、分離材の粒子を得た。後述のイオン交換基の導入において、実施例1と同様にアミノ基を導入した。
【0079】
(多孔質ポリマー粒子の粒径)
各多孔質ポリマー粒子1〜5の粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、平均粒径及び粒径の変動係数(C.V.値)を算出した。結果を表1に示す。
【表1】
【0080】
2.評価(タンパク質の非特異吸着能評価)
濃度120mg/mLのBSA、及び0.5MのNaClを含む濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLを準備した。そこに、実施例及び比較例の各分離材の粒子0.5gを投入し、24時間時間、室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で取得した上澄み液をろ過し、ろ液のBSA濃度を分光光度計で測定した。得られたBSA濃度から、分離材に吸着したBSAの量を算出した。BSAの濃度は分光光度計により280nmの吸光度から確認した。吸着量が5mg以下である場合を「A」、5〜10mgである場合を「B」、10mg以上である場合を「C」とした。
【0081】
(イオン交換基の導入)
実施例及び比較例の各分離材20gを、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩を所定量溶解させた水溶液100mLに分散させ、70℃で10分攪拌した。そこに、70℃に加温した5MのNaOH水溶液100mLを添加し、1時間反応させた。反応終了後、粒子を濾過により取り出し、水/エタノール(体積比8/2)の混合液で2回洗浄して、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有する分離材(DEAE変性分離材)を得た。得られた分離材の粒子の細孔径分布におけるモード径、及び比表面積を、水銀圧入法にて測定した。
【0082】
(カラム特性評価)通液性
DEAE変性分離材をエタノールに分散して、濃度30質量%のスラリーを調製した。このスラリーをφ7.8×300mmのステンレスカラムに15分かけて充填した。その後、充填剤が充填されたカラム(充填カラム)に流速を変えながら水を流し、流速とカラム圧との関係を記録し、カラム圧0.3MPaの時点の流速を測定した。
【0083】
動的吸着量
20mmol/LのTris−塩酸緩衝液(pH8.0)を充填カラムに10カラム容量流した。その後、濃度2mg/mLでBSAを含む20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を充填カラムに流し、UVによりカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで液を流し、その後、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10% breakthroughにおける動的吸着量を以下の式を用いて算出した。
q
10=c
fF(t
10−t
0)/V
Bq
10:10%breakthroughにおける動的結合容量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度F:流速(mL/min)
V
B:ベッド体積(mL)
t
10:10%breakthroughにおける時間
t
0:BSA注入開始時間
【0084】
CIP特性評価
「動的吸着量」の評価と同様の方法で、カラム中にて分離材にBSAを吸着させた。その後、0.5M NaCl/0.05M Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)を6カラム容量分流して、BSAを分離材から脱離させた。さらに0.5MのNaOH水溶液を3カラム容量分流して、分離材を洗浄した。この吸着、脱離及び洗浄のサイクルを100回行い、1回目のサイクルにおけるBSA吸着量に対する、100サイクル後のBSA吸着量の減少率を記録した。BSA吸着量の減少率が15%以内である場合を「A」、15〜40%である場合を「B」、40%以上である場合を「C」とした。
【0085】
【表2】
【0086】
【表3】
【0087】
表2及び表3の結果からも分かる通り、第1及び第2のグラフト層を多孔質ポリマー粒子表面に設けることにより動的吸着量を大幅に向上することができるとともに、非特異吸着が殆ど無く、良好な通液性を示す分離材を合成することができた。