特許第6922904号(P6922904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6922904-フッ素樹脂の製造方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922904
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】フッ素樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/46 20060101AFI20210805BHJP
   B29B 7/72 20060101ALI20210805BHJP
   B29B 7/84 20060101ALI20210805BHJP
   B29C 48/154 20190101ALI20210805BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20210805BHJP
   B29C 48/47 20190101ALI20210805BHJP
   B29C 48/55 20190101ALI20210805BHJP
   B29C 48/76 20190101ALI20210805BHJP
   B29C 48/80 20190101ALI20210805BHJP
   B29C 48/92 20190101ALI20210805BHJP
   C08F 214/26 20060101ALI20210805BHJP
   C08F 6/00 20060101ALI20210805BHJP
   C08J 3/12 20060101ALN20210805BHJP
【FI】
   B29B7/46
   B29B7/72
   B29B7/84
   B29C48/154
   B29C48/40
   B29C48/47
   B29C48/55
   B29C48/76
   B29C48/80
   B29C48/92
   C08F214/26
   C08F6/00
   !C08J3/12CEW
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-520929(P2018-520929)
(86)(22)【出願日】2017年5月30日
(86)【国際出願番号】JP2017020126
(87)【国際公開番号】WO2017209133
(87)【国際公開日】20171207
【審査請求日】2020年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2016-109094(P2016-109094)
(32)【優先日】2016年5月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】中尾 卓也
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−505680(JP,A)
【文献】 米国特許第05932159(US,A)
【文献】 特開平10−034730(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/133634(WO,A1)
【文献】 特開2005−053995(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/014138(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/143069(WO,A1)
【文献】 特開2009−095978(JP,A)
【文献】 特許第3948473(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00− 7/94
B29C 48/00− 48/96
C08F 6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成形可能なフッ素樹脂を、下記二軸押出機を用いて下記条件で溶融混練処理して、処理後のフッ素樹脂の溶融容量流速α2(g/10分)が処理前のフッ素樹脂の溶融容量流速α1(g/10分)に対して下式(I)を満足する(ただし、2つの溶融容量流速測定における、荷重は49N、温度はフッ素樹脂の融点よりも20〜40℃高い同一温度、である。)フッ素樹脂を製造することを特徴とし、
前記二軸押出機によってフッ素樹脂を溶融混練処理する際に、前記二軸押出機内に脱揮助剤を導入しない、フッ素樹脂の製造方法。
式(I):α1<α2≦α1+14
二軸押出機:複数のスクリューエレメントをシャフトに装着したスクリューと、2本の前記スクリューを内蔵したバレルと、前記バレルに設けられた真空ベントとを備え、前記スクリューエレメントのうちミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの少なくとも一方が2個以上連続して配置された溶融ゾーンを1つ以上有する、二軸押出機。
溶融混練条件:二軸押出機の溶融ゾーンのうち最も上流側にある溶融ゾーンの温度が、処理されるフッ素樹脂の融点よりも25〜100℃高い温度であり、二軸押出機の真空ベントのベント口における真空度が−0.07MPa[gage]以下である、溶融混練条件。
【請求項2】
前記二軸押出機において、溶融ゾーンの数が1〜6個であり、真空ベントが前記最上流側の溶融ゾーンよりも下流側に位置し、前記溶融ゾーンにおけるスクリューの合計長さL(mm)と、前記バレルの内径D(mm)とが下式(II)を満足する、請求項1に記載の製造方法。
式(II):L/D≧3
【請求項3】
前記二軸押出機における下式(IV)から求めたせん断速度γが、1000秒−1以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
式(IV):γ=π×(D−2h)×N/(60×h)
ただし、γはせん断速度(秒−1)であり、πは3.14であり、Dは前記バレルの内径(mm)であり、Nは前記スクリューの回転数(rpm)であり、hは前記ニーディングエレメント中での最小チップクリアランス(mm)である。
【請求項4】
前記二軸押出機からのフッ素樹脂の吐出量Q(kg/分)と、前記スクリューの回転数N(rpm)と、前記バレルの内径D(mm)とが、下式(III)を満足するように溶融混練処理する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
式(III):Q/(N×D)<6.1×10−8
【請求項5】
前記溶融混練処理に供されるフッ素樹脂が、単量体の重合による製造から前記溶融混練処理に供されるまでに溶融を含む処理を施されていないフッ素樹脂である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記二軸押出機からフッ素樹脂をストランド状に押出し、切断して、ペレット形状の溶融混練処理されたフッ素樹脂とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記フッ素樹脂が、エチレンに基づく単位およびテトラフルオロエチレンに基づく単位を有する共重合体からなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記共重合体が、エチレンに基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位との合計に対する前記エチレンに基づく単位の割合が44〜50モル%である共重合体である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記共重合体が、さらに、エチレンおよびテトラフルオロエチレンと共重合可能な第3の単量体(ただし、第3の単量体は2種以上の単量体から構成されてもよい。)に基づく単位を有し、
前記共重合体の全単位に対する前記第3の単量体に基づく単位の割合が、0.7〜2.4モル%である、請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記溶融容量流速α1および前記溶融容量流速α2を測定する際の温度が、297℃である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記溶融混練処理されたフッ素樹脂が下記残渣物を含有し、
下記残渣物の1質量%が分解する温度が115℃以上であり、
下記残渣物の5質量%が分解する温度が150℃以上であり、
下記残渣物の10質量%が分解する温度が180℃以上である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の製造方法。
残渣物:溶融混練処理されたフッ素樹脂を150℃の1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンに12時間浸漬した後、固形物を除去し、液体を減圧下に加熱して得られる残渣物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のフッ素樹脂の製造方法によってフッ素樹脂を得た後、前記フッ素樹脂を成形する、フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のフッ素樹脂の製造方法によってフッ素樹脂を得た後、前記フッ素樹脂を芯線のまわりに押し出して被覆層を形成する、電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低沸成分の少ないフッ素樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、耐熱性、難燃性、耐薬品性、耐候性、非粘着性、低摩擦性、低誘電特性等に優れることから、幅広い用途に用いられている。特に、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(以下、「FEP」とも記す。)およびエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、「ETFE」とも記す。)は、溶融成形が可能であるため、その用途は多岐にわたる。たとえば、ETFEは、膜構造物(プール、体育館、テニスコート、サッカー場、倉庫、集会場、展示場、園芸ハウス、農業用ハウス等)におけるフィルム、離型フィルム、電線の被覆層等の材料として用いられている。
【0003】
電子部品の高集積化、微細化が進むにつれ、離型フィルムには、フッ素樹脂に含まれる低沸成分に起因する、電子部品の汚染、離型フィルムの表面の荒れ等が少ないことが求められている。そのため、フッ素樹脂としては、低沸成分が少ないものが求められている。
低沸成分が少ないフッ素樹脂を製造する方法としては、たとえば、下記の方法が提案されている。
二軸押出機によってFEP等のフッ素樹脂を溶融混練する際に、二軸押出機内に窒素ガス等の脱揮助剤を導入し、二軸押出機のバレルに設けた真空ベントから脱揮助剤とともに低沸成分を排出する、フッ素樹脂の製造方法(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−095978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記フッ素樹脂の製造方法においては、低沸成分を充分に低減するために二軸押出機における溶融ゾーンの設定温度を高くする必要がある。そのため、フッ素樹脂を溶融混練する際にフッ素樹脂の分解が促進され、低沸成分を充分に低減できないことがある。特に、FEPよりも分解しやすいETFEを含むフッ素樹脂に適用した場合、低沸成分はむしろ増える傾向にある。
【0006】
本発明は、フッ素樹脂に含まれる低沸成分を充分に低減できるフッ素樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の態様を有する。
<1>溶融成形可能なフッ素樹脂を、下記二軸押出機を用いて下記条件で溶融混練処理して、処理後のフッ素樹脂の溶融容量流速α2(g/10分)が処理前のフッ素樹脂の溶融容量流速α1(g/10分)に対して下式(I)を満足する(ただし、2つの溶融容量流速測定における、荷重は49N、温度はフッ素樹脂の融点よりも20〜40℃高い同一温度、である。)フッ素樹脂を製造することを特徴とするフッ素樹脂の製造方法。
式(I):α1<α2≦α1+14
二軸押出機:複数のスクリューエレメントをシャフトに装着したスクリューと、2本の前記スクリューを内蔵したバレルと、前記バレルに設けられた真空ベントとを備え、前記スクリューエレメントのうちミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの少なくとも一方が2個以上連続して配置された溶融ゾーンを1つ以上有する、二軸押出機。
溶融混練条件:二軸押出機の溶融ゾーンのうち最も上流側にある溶融ゾーンの温度が、処理されるフッ素樹脂の融点よりも25〜100℃高い温度であり、二軸押出機の真空ベントのベント口における真空度が−0.07MPa[gage]以下である、溶融混練条件。
【0008】
<2>前記二軸押出機において、溶融ゾーンの数が1〜6個であり、真空ベントが前記最上流側の溶融ゾーンよりも下流側に位置し、前記溶融ゾーンにおけるスクリューの合計長さL(mm)と、前記バレルの内径D(mm)とが下式(II)を満足する、<1>の製造方法。
式(II):L/D≧3
<3>前記二軸押出機における下式(IV)から求めたせん断速度γが、1000秒−1以上である、<1>または<2>の製造方法。
式(IV):γ=π×(D−2h)×N/(60×h)
ただし、γはせん断速度(秒−1)であり、πは3.14であり、Dは前記バレルの内径(mm)であり、Nは前記スクリューの回転数(rpm)であり、hは前記ニーディングエレメント中での最小チップクリアランス(mm)である。
<4>前記二軸押出機からのフッ素樹脂の吐出量Q(kg/分)と、前記スクリューの回転数N(rpm)と、前記バレルの内径D(mm)とが、下式(III)を満足するように溶融混練処理する、<1>〜<3>のいずれかの製造方法。
式(III):Q/(N×D)<6.1×10−8
<5>前記溶融混練処理に供されるフッ素樹脂が、単量体の重合による製造から前記溶融混練処理に供されるまでに溶融を含む処理を施されていないフッ素樹脂である、<1>〜<4>のいずれかの製造方法。
<6>前記二軸押出機からフッ素樹脂をストランド状に押出し、切断して、ペレット形状の溶融混練処理されたフッ素樹脂とする、<1>〜<5>のいずれかの製造方法。
【0009】
<7>前記フッ素樹脂が、エチレンに基づく単位およびテトラフルオロエチレンに基づく単位を有する共重合体からなる、<1>〜<6>のいずれかの製造方法。
<8>前記共重合体が、エチレンに基づく単位とテトラフルオロエチレンに基づく単位との合計に対する前記エチレンに基づく単位の割合が44〜50モル%である共重合体である、<7>の製造方法。
<9>前記共重合体が、さらに、エチレンおよびテトラフルオロエチレンと共重合可能な第3の単量体(ただし、第3の単量体は2種以上の単量体から構成されてもよい。)に基づく単位を有し、前記共重合体の全単位に対する前記第3の単量体に基づく単位の割合が、0.7〜2.4モル%である、<7>または<8>の製造方法。
<10>前記溶融容量流速α1および前記溶融容量流速α2を測定する際の温度が、297℃である、<7>〜<9>のいずれかの製造方法。
【0010】
<11>前記溶融混練処理されたフッ素樹脂が下記残渣物を含有し、
下記残渣物の1質量%が分解する温度が115℃以上であり、
下記残渣物の5質量%が分解する温度が150℃以上であり、
下記残渣物の10質量%が分解する温度が180℃以上である、<1>〜<10>のいずれかの製造方法。
残渣物:溶融混練処理されたフッ素樹脂を150℃の1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンに12時間浸漬した後、固形物を除去し、液体を減圧下に加熱して得られる残渣物。
<12>前記二軸押出機によってフッ素樹脂を溶融混練処理する際に、前記二軸押出機内に脱揮助剤を導入しない、<1>〜<11>のいずれかの製造方法。
<13>前記<1>〜<12>のいずれかのフッ素樹脂の製造方法によってフッ素樹脂を得た後、前記フッ素樹脂を成形する、フィルムの製造方法。
<14>前記<1>〜<12>のいずれかの請フッ素樹脂の製造方法によってフッ素樹脂を得た後、前記フッ素樹脂を芯線のまわりに押し出して被覆層を形成する、電線の製造方法。
<15>溶融成形可能なフッ素樹脂であり、下記残渣物の1質量%が分解する温度が115℃以上であり、下記残渣物の5質量%が分解する温度が150℃以上であり、下記残渣物の10質量%が分解する温度が180℃以上である、フッ素樹脂。
残渣物:フッ素樹脂を150℃の1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンに12時間浸漬した後、固形物を除去し、液体を減圧下に加熱して得られる残渣物。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフッ素樹脂の製造方法によれば、フッ素樹脂に含まれる低沸成分を充分に低減できる。
本発明のフィルムの製造方法によれば、低沸成分が少ないフィルムを製造できる。
本発明の電線の製造方法によれば、被覆層における低沸成分が少ない電線を製造できる。
本発明のフッ素樹脂は、低沸成分が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例で用いた二軸押出機の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書における以下の用語の意味は下記の通りである。
樹脂の「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度をいう。
「溶融成形可能」であるとは、溶融流動性を示すことをいう。「溶融流動性を示す」とは、荷重49Nの条件下、樹脂の融点よりも20℃以上高い温度において、溶融容量流速が0.1〜1000g/10分となる温度が存在することをいう。
「溶融容量流速」は、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定されるメルトマスフローレート(MFR)をいう。
重合体における「単位」とは、単量体が重合することによって形成された該単量体1分子に由来する原子団を意味する。単位は、重合反応によって直接形成された原子団であってもよく、重合体を処理することによって該原子団の一部が別の構造に変換された原子団であってもよい。
「フッ素単量体」とは、分子内にフッ素原子を有する単量体をいう。
「非フッ素単量体」とは、フッ素単量体以外の単量体をいう。
二軸押出機における「溶融ゾーン」とは、スクリューエレメントのうちミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの少なくとも一方が2個以上連続して配置されたスクリューゾーンをいう。
【0014】
<フッ素樹脂>
本発明において、フッ素樹脂は含フッ素重合体からなり、不純物として少量の含フッ素重合体以外の成分を含む。なお、含フッ素重合体製造時に副生した低重合度の含フッ素重合体や重合後に解重合して生じた低重合度の含フッ素重合体は不純物とみなす。また、処理前のフッ素樹脂は、重合時ないし重合後に添加された添加物を、少量含有していてもよい。また、本発明におけるフッ素樹脂は、成形性に優れる点から、溶融成形可能なフッ素樹脂である。
本発明における溶融混練処理に供されるフッ素樹脂は、少なくとも、含フッ素重合体と不純物としての少量の後述する低沸成分を含み、本発明における溶融混練処理により該低沸成分の含有量が低減される。溶融混練処理に供されるフッ素樹脂は、単量体の重合によって製造され、重合系から取り出されたフッ素樹脂であってもよく、その後の任意の精製方法によって精製された精製物であってもよい。本発明における溶融混練処理に供されるフッ素樹脂としては、単量体の重合による製造から前記溶融混練処理に供されるまでに溶融を含む処理を施されていないフッ素樹脂であることが好ましい。
なお、本発明における溶融混練処理される前のフッ素樹脂を、以下「フッ素樹脂A」とも記す。また、フッ素樹脂Aから得られた、本発明における溶融混練処理されたフッ素樹脂を、以下「フッ素樹脂B」とも記す。
【0015】
フッ素樹脂Bに含まれる低沸成分の量は、フッ素溶媒への可溶分の分解温度から見積もることできる。すなわち、フッ素樹脂Bにおいて、フッ素樹脂Aよりも低沸成分が低減されたことは、下記残渣物の所定量が分解する温度が高くなることによって確認できる。なお、低沸成分の分解温度が高くなることは、低沸成分の中でも耐熱性が低く揮発性の高い成分が減少していることを示している。
フッ素樹脂Bから得られた下記残渣物の1質量%が分解する温度が、115℃以上であり、下記残渣物の5質量%が分解する温度が、150℃以上であり、下記残渣物の10質量%が分解する温度が、180℃以上であれば、フッ素樹脂Aに含まれていた低沸成分を充分に低減できたと言える。
残渣物:フッ素樹脂を150℃の1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンに12時間浸漬した後、固形物を除去し、液体を減圧下に加熱して得られる残渣物。
残渣物の所定量が分解する温度は、後述する実施例における方法によって測定される。
【0016】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)、ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」とも記す。)、フッ化ビニリデン(以下、「VdF」とも記す。)およびフッ化ビニルから選ばれる少なくとも1種のフッ素単量体に基づく単位を有する含フッ素重合体が挙げられる。かかる重合体は、単独重合体であってもよく、共重合体であってもよい。
含フッ素重合体は、非フッ素単量体に基づく単位をさらに有していてもよい。非フッ素単量体としては、たとえば、エチレン、プロピレン、無水イタコン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。含フッ素重合体が非フッ素単量体に基づく単位を有する場合、非フッ素単量体に基づく単位は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよい。
【0017】
溶融成形可能なフッ素樹脂としては、たとえば、ETFE、TFE/ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、TFE/ペルフルオロアルキルビニルエーテル/HFP共重合体(EPA)、FEP、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、CTFE/エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の含フッ素重合体からなるフッ素樹脂が挙げられる。
フッ素樹脂としては、二軸押出機によって溶融混練される点から、融点を有するものが用いられる。フッ素樹脂の融点は、160〜325℃が好ましく、220〜320℃がより好ましく、250〜270℃がさらに好ましい。フッ素樹脂の融点が前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂を含む成形品の耐熱性に優れ、高温における剛性に優れる。フッ素樹脂の融点が前記範囲の上限値以下であれば、フッ素樹脂の成形性に優れる。
【0018】
フッ素樹脂としては、成形性に優れている点から、ETFEからなるフッ素樹脂が好ましい。
ETFEは、エチレンに基づく単位およびTFEに基づく単位を有する共重合体である。
ETFEとしては、ETFEを含む成形品の耐熱性、機械物性、耐薬品性がさらに優れる点から、エチレンに基づく単位(以下、単位(a1)とも記す)と、ETFEに基づく単位(以下、単位(a2)とも記す)と、エチレンおよびETFEと共重合可能な、エチレンおよびETFEを除くその他の第3の単量体に基づく単位(以下、単位(a3)とも記す)とを有する共重合体が好ましい。なお、第3の単量体は2種以上の単量体から構成されてもよく、その場合は2種以上の単量体を総称して第3の単量体といい、第3の単量体や第3の単量体に基づく単位の量は、2種以上の単量体等の総量をいう。
【0019】
第3の単量体としては、たとえば、下式(V)で表される化合物(以下、「FAE」とも記す。)等が挙げられる。
式(V):CH=CX(CF
ただし、XおよびYは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、nは、1〜10の整数である。)
第3の単量体としては、ETFEを含む成形品の機械物性および熱安定性がさらに優れる点から、FAEが好ましい。
【0020】
式(V)におけるXは、ETFEを含む成形品の柔軟性、伸度および強度がさらに優れる点から、水素原子が好ましい。
式(V)におけるYは、ETFEを含む成形品の耐熱性および耐薬品性がさらに優れる点から、フッ素原子が好ましい。
式(V)におけるnは、2〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、2、4または6がさらに好ましい。nが前記範囲の下限値以上であれば、ETFEを含む成形品の機械物性および熱安定性がさらに優れる。nが前記範囲の上限値以下であれば、FAEは重合反応性を充分に有する。
FAEの好ましい具体例としては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFF、CH=CF(CFH等が挙げられ、ETFEを含む成形品の機械物性および熱安定性がさらに優れる点から、CH=CH(CFF(以下、「PFBE」とも記す。)が好ましい。
FAEは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
単位(a1)と単位(a2)とのモル比((a1)/(a2))は、44/56〜50/50であり、44.5/55.5〜46/54が好ましい。(a1)/(a2)が前記範囲の下限値以上であれば、ETFEの融点が充分に高く、ETFEを含む成形品は耐熱性に優れ、高温での剛性に優れる。(a1)/(a2)が前記範囲の上限値以下であれば、ETFEを含む成形品の耐薬品性に優れる。
単位(a3)の割合は、ETFEを構成する全単位に対して、0.7〜2.4モル%が好ましく、0.9〜2.2モル%がより好ましい。単位(a3)の割合が前記範囲の下限値以上であれば、ETFEの成形品は高温での耐ストレスクラック性に優れる。単位(a3)の割合が前記範囲の上限値以下であれば、ETFEの融点が充分に高く、ETFEを含む成形品は耐熱性に優れ、高温での剛性に優れる。
【0022】
ETFEは、主鎖末端に塩素原子を有してもよく、有していなくてもよい。ETFEとしては、耐熱性の点から、主鎖末端に塩素原子を有しないものが好ましい。
主鎖末端に塩素原子を有しないETFEは、たとえば、単量体を重合する際に、連鎖移動剤として、アルコール類、ハイドロカーボン類、ハイドロフルオロカーボン類を用いることによって得られる。具体的には、特開2016−043566号公報の段落[0016]に記載されているように、連鎖移動剤としてアルコール類を用いた場合、アルコールの水酸基がETFEの主鎖末端に導入され、ETFEは、主鎖末端に水酸基からなる末端基を有する。ETFEの主鎖末端は、ETFEを赤外吸収スペクトル法で分析することによって確認できる。
【0023】
ETFEの融点は、160〜320℃が好ましく、245〜270℃がより好ましく、250〜265℃がさらに好ましい。ETFEの融点が前記範囲の下限値以上であれば、ETFEを含む成形品の耐熱性に優れ、高温での剛性に優れる。ETFEの融点が前記範囲の上限値以下であれば、フッ素樹脂の成形性に優れる。
ETFEの融点は、単位(a1)と単位(a2)とのモル比((a1)/(a2))、ETFEを構成する全単位のうちの単位(a3)の割合等を調整する方法等で制御できる。
ETFEは、たとえば、国際公開第2013/015202号の段落[0021]〜[0025]に記載された方法、国際公開第2016/006644の段落[0036]〜[0043]に記載された方法等によって製造できる。
【0024】
温度297℃、荷重49NにおけるETFEの溶融容量流速は、1〜100g/10分が好ましく、4〜42g/10分がより好ましい。ETFEの溶融容量流速が前記範囲の下限値以上であれば、ETFEの成形性に優れる。ETFEの溶融容量流速が前記範囲の上限値以下であれば、ETFEを含む成形品の機械物性、高温での耐ストレスクラック性に優れる。
なお、フッ素樹脂の溶融容量流速は、含フッ素重合体の分子量の尺度であり、含フッ素重合体を製造する際の連鎖移動剤の量を調整する方法等で制御できる。また、溶融容量流速が異なる2種以上の同種含フッ素重合体を併用することによっても調整できる。
【0025】
フッ素樹脂Aに含まれる低沸成分は、フッ素樹脂を溶融成形する際の温度にて揮発する成分である。
フッ素樹脂Aに含まれる低沸成分としては、未反応の単量体、低分子量の含フッ素重合体、重合溶媒等が挙げられる。
フッ素樹脂Aは、重合後の精製において使用された成分に由来する不純物や、本発明における処理を施す前に添加された添加剤が含まれる場合はその添加剤や該添加剤に含まれる副成分が含有されていることもある。このうち、低沸点の成分(たとえば、溶媒等)の含有量が本発明における処理により低減される。
【0026】
フッ素樹脂Aは、溶融混練処理の際にフッ素樹脂の物性を変化させることの少ない添加剤を少量含有していてもよい。該添加剤はそれ自身が溶融混練処理の際に低沸成分を発生しないものが好ましい。具体的には、たとえば、溶融混練処理の際にフッ素樹脂の分解等を抑制する非溶融性の安定剤(酸化銅等)が挙げられる。
フッ素樹脂Aが添加剤を含有する場合、添加剤の含有量は含フッ素重合体の100質量部に対して5質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。
【0027】
<二軸押出機>
本発明における二軸押出機は、2本のスクリューと、2本のスクリューを内蔵したバレルと、バレルに設けられた真空ベントと、バレルに設けられた原料供給口と、バレルの下流端に設けられたダイとを備える。
【0028】
本発明における二軸押出機は、八の字の貫通孔が形成されたバレルのシリンダに通した2本のスクリューを同方向に回転させる同方向回転二軸押出機であってもよく、2本のスクリューを異方向に回転させる異方向回転押出機でもよい。二軸押出機としては、搬送能力、溶融・混練能力、分離(脱水)能力に優れ、また、連続的な樹脂の処理が可能であり、処理プロセスの効率化においても優れている点から、同方向回転二軸押出機が好ましい。
【0029】
2本のスクリューの噛み合わせは、非噛合型であってもよく、部分噛合型であってもよく、完全噛合型であってもよい。フッ素樹脂に含まれる低沸成分の低減にはスクリューによる混練度を大きくし、低沸成分の揮発効果を上げることが好ましい点から、完全噛合型が好ましい。
【0030】
スクリューとしては、後述する溶融ゾーンをスクリューの任意の位置に組み込むことができるものを用いる必要がある。よって、スクリューとしては、複数のスクリューエレメントをシャフトに装着したものが用いられる。
【0031】
スクリューエレメントは、軸直角方向に同一の断面形状を有する。スクリューエレメントにおいては、フライトの数を意味する条数と、軸直角方向の断面形状がシャフトを中心として回転する捩れ角とに応じて固有の機能が生じる。スクリューエレメントとしては、機能別に、ロータリーエレメント、ニーディングエレメント、ミキシングエレメントとが挙げられる。
【0032】
ロータリーエレメントは、シャフトを中心として連続的に回転する捩れ角を有し、搬送能力のあるスクリューエレメントである。
ニーディングエレメントは、捩れ角がない複数の板状のディスクで構成されるスクリューエレメントである。
ミキシングエレメントは、正ねじのフルフライトエレメントに切り欠きを形成したスクリューエレメント、または逆ねじのフルフライトエレメントに切り欠きを形成したスクリューエレメントである。ミキシングエレメントは、セルフクリーニング性を有していてもよく、セルフクリーニング性を有していなくてもよい。
本発明における二軸押出機のスクリューとしては、ロータリーエレメント、ニーディングエレメントおよびミキシングエレメントで構成されているものが好適に用いられる。
【0033】
本発明における二軸押出機は、スクリューエレメントのうちミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの少なくとも一方が2個以上連続して配置された溶融ゾーンの1個以上を有する。二軸押出機が溶融ゾーンを有ることによって、フッ素樹脂が溶融され、フッ素樹脂の表面積および表面更新効果が長くなる。そのため、フッ素樹脂に含まれる低沸成分の低減効果を上げることができる。
【0034】
また、二軸押出機が溶融ゾーンを有するため、2個以上連続して配置されたミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの少なくとも一方よって、フッ素樹脂の二軸押出機中での滞留時間が長くなる。そして、後述する設定温度の第1の溶融ゾーンをフッ素樹脂が通過する際には、スクリューによるせん断熱がフッ素樹脂に与えられ、フッ素樹脂が溶融された状態となるため、フッ素樹脂とスクリューとの間の密着性が向上し、ベントアップの発生が抑えられる。一方、溶融ゾーンがない場合、フッ素樹脂は未溶融または半溶融の状態になり、フッ素樹脂とスクリューとの間の密着性が低下し、ベントアップが発生しやすくなる。
【0035】
溶融ゾーンの数は、1〜6個が好ましく、2〜4個がより好ましい。溶融ゾーンの数が前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂に含まれる低沸成分が充分に揮発し、低沸成分を充分に低減できる。溶融ゾーンの数が前記範囲の上限値以下であれば、フッ素樹脂のスクリューによるせん断発熱または変形圧縮作用が抑えられ、フッ素樹脂の必要以上の分解が抑えられる。そのため、フッ素樹脂に含まれる低沸成分をさらに充分に低減できる。
【0036】
溶融ゾーンにおけるスクリューの合計長さL(mm)と、バレルの内径D(mm)とは、下式(II)を満足することが好ましい。
式(II):L/D≧3
L/Dは、3〜25が好ましく、6〜20がより好ましい。L/Dが前記範囲の下限値以上であれば、スクリューによるせん断発熱または変形圧縮によるフッ素樹脂の内部発熱が効果的に働く。L/Dが前記範囲の上限値以下であれば、スクリューによるフッ素樹脂への過度のせん断発熱および変形圧縮による内部発熱が抑制される。
【0037】
バレルは、複数のバレルブロックが直列に連結されたものである。
バレルブロックには、スクリューの断面形状に対応した貫通孔が形成されている。
【0038】
真空ベントは、フッ素樹脂が二軸押出機のスクリューによって溶融混練される際に、フッ素樹脂に含まれる低沸成分を除去することを目的に設置される。
真空ベントは、たとえば、真空ベントが付属したバレルブロックを用いることによって二軸押出機に設置できる。真空ベントは、複数のバレルブロックに設けてもよい。
【0039】
真空ベントは、溶融ゾーンのうち最も上流側にある第1の溶融ゾーンよりも下流側(フッ素樹脂の吐出方向側)に設けられることが好ましい。真空ベントが第1の溶融ゾーンよりも下流側に設けられていれば、フッ素樹脂に含まれる低沸成分を効率よく除去できる。
【0040】
溶融ゾーンが複数ある場合、真空ベントは、溶融ゾーンの間に設けられてもよく、すべての溶融ゾーンよりも下流側に設けられてもよい。フッ素樹脂に含まれる低沸成分を効率よく除去できる点から、すべての溶融ゾーンよりも下流側に設けられることがより好ましい。
【0041】
原料供給口が1個のみの場合、原料供給口は、第1の溶融ゾーンよりも上流側に設けられる。
原料供給口が複数ある場合、原料供給口のうち最も上流側にある第1の原料供給口は、第1の溶融ゾーンよりも上流側に設けられ、他の原料供給口は、第1の溶融ゾーンよりも下流側に設けられていてもよい。フッ素樹脂は、第1の原料供給口から供給されることが好ましく、他の成分は、第2の原料供給口以降から供給してもよい。
【0042】
フッ素樹脂をペレットとする場合、ダイとしては、フッ素樹脂を押出してストランドを形成できるものが好ましい。
ダイにおける吐出口の数は、1個であってもよく、複数個であってもよい。ダイとしては、複数本のストランドが形成され、生産性がよい点から、数個〜数十個の吐出口を有するものが好ましい。
【0043】
<フッ素樹脂の製造方法>
本発明のフッ素樹脂の製造方法は、フッ素樹脂を含むフッ素樹脂Aを二軸押出機によって溶融混練し、フッ素樹脂Aよりも低沸成分が低減されたフッ素樹脂Bを得る方法である。
【0044】
二軸押出機の原料供給口から投入されたフッ素樹脂Aは、溶融ゾーンを有する二軸押出機中で溶融混練され、フッ素樹脂Aから揮発した低沸成分は真空ベントから二軸押出機の外部に排出される。
【0045】
溶融ゾーンのうち最も上流側にある第1の溶融ゾーンの設定温度は、フッ素樹脂の融点+25℃以上であり、融点+50℃以上が好ましく、融点+60℃以上がより好ましい。また、第1の溶融ゾーンの設定温度は、フッ素樹脂の融点+100℃以下であり、融点+60℃以下が好ましく、融点+40℃以下がより好ましい。第1の溶融ゾーンの設定温度が前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂Aの溶融が促進され、スクリューによる重合体の分子鎖の切断による必要以上の分解が抑制される。第1の溶融ゾーンの設定温度が前記範囲の上限値以下であれば、熱によるフッ素樹脂の酸化分解が抑制される。
【0046】
真空ベントのベント口における真空度は、−0.07MPa[gage]以下であり、−0.08MPa[gage]以下が好ましく、−0.09MPa[gage]以下がより好ましい。真空度が前記範囲の上限値以下であれば、低沸成分の揮発効果に優れる。真空ベントのベント口における真空度の下限値は、特に限定されないが、フッ素樹脂の押出機内に滞留する時間が短い場合は、低沸成分の揮発効果を高いレベルで維持する必要がある点から、−0.099MPa[gage]が好ましい。
【0047】
本発明においては、下記温度および下記荷重におけるフッ素樹脂Bの溶融容量流速α2(g/10分)は、同一温度、同一荷重におけるフッ素樹脂Aの溶融容量流速α1(g/10分)に対して、下式(I)を満足する。
式(I):α1<α2≦α1+14
温度:フッ素樹脂の融点よりも20〜40℃高い同一の特定温度。
荷重:49N。
【0048】
融点+20℃におけるα1とα2の差(以下、その差を「α2−α1」で表す)の値と、融点+40℃におけるα2−α1の値はほぼ同じであるため、本発明においては、溶融容量流速の測定温度を融点+20〜40℃の範囲から任意に選択できる。
フッ素樹脂がETFEである場合等は、α1およびα2は、温度:297℃、荷重:49Nにおける値であることが好ましい。
【0049】
α2−α1は、0超〜14であり、1.3〜10が好ましく、1.3〜7がより好ましく、4〜7がさらに好ましい。α2−α1が前記範囲内であれば、下記の理由から、フッ素樹脂に含まれる低沸成分の低減効果が高くなる。ただし、上記式(I)を満足するのみのフッ素樹脂では充分ではなく、前記二軸押出機を使用し、前記溶融混練条件を満足する製造方法で製造されたものでなければ低沸成分の低減効果は充分とはいえない。
通常、α2−α1が大きくなれば、フッ素樹脂Aを溶融混練する前後で、重合体の分子鎖の切断が進んでいることを意味する。α2−α1が前記範囲の下限値未満の場合、フッ素樹脂Aを溶融混練する際のスクリューによるフッ素樹脂Aの混練度が小さいことを意味し、スクリューによるせん断発熱、スクリューによる更新効果が小さく、フッ素樹脂Aに含まれる低沸成分の低減効果が不充分となる。一方、α2−α1が前記範囲の上限値を超える場合、スクリューによるフッ素樹脂Aの混練度が大きくなりすぎ、せん断発熱が大きくなることによって重合体の分子鎖の切断が促進される。そのため、低沸成分の低減効果が低下する。
【0050】
本発明においては、二軸押出機からのフッ素樹脂Bの吐出量Q(kg/分)と、スクリューの回転数N(rpm)と、バレルの内径D(mm)とが、下式(III)を満足するように溶融混練処理することが好ましい。
式(III):Q/(N×D)<6.1×10−8
Q/(N×D)は、1.0×10−8〜5.1×10−8が好ましく、3.8×10−8〜5.1×10−8がより好ましい。Q/(N×D)が前記範囲内となるように溶融混練処理すれば、スクリューの回転によるフッ素樹脂Aのせん断発熱および表面更新効果によって、低沸成分の除去が促進される。一方、Q/(N×D)が前記範囲の下限値未満の場合、スクリューによるフッ素樹脂Aの混練度が高くなり、せん断発熱が高くなることによって、フッ素樹脂の熱分解が促進される。Q/(N×D)が前記範囲の上限値を超える場合、スクリューによるフッ素樹脂Aの混練度が下がり、スクリューによるせん断発熱および表面更新効果が充分に得られなくなり、低沸成分の除去が不充分となる。
【0051】
本発明においては、下式(IV)から求めたせん断速度γは、1000秒−1以上が好ましく、1000秒−1以上5000秒−1未満がより好ましく、1500秒−1以上3000秒−1未満がさらに好ましい。
式(IV):γ=π×(D−2h)×N/(60×h)
ただし、γはせん断速度(秒−1)であり、πは3.14であり、Dはバレルの内径(mm)であり、Nはスクリューの回転数(rpm)であり、hはニーディングエレメント中での最小チップクリアランス(mm)である。
せん断速度γが前記範囲の下限値以上であれば、スクリューのせん断によるフッ素樹脂Aの表面更新効果が上がることによって、低沸成分の除去効果がさらに優れる。せん断速度γが前記範囲の上限値未満であれば、スクリューのせん断によるせん断発熱が低減されるため、フッ素樹脂の熱分解が抑制される。
【0052】
スクリューの回転数Nは、200〜450rpmが好ましく、250〜400rpmがより好ましい。スクリューの回転数Nが前記範囲内であれば、スクリューのせん断によるフッ素樹脂の分解を抑えつつ、フッ素樹脂Aの表面更新回数が多くなるため、低沸成分の揮発効果が上がる。
【0053】
フッ素樹脂Bは、前記二軸押出機から吐出され、通常適宜の形状に成形される。成形されたフッ素樹脂の形状としてはペレット状、粒状、粉体状等が挙げられる。特に、成形用素材として汎用される形状であるペレット形状が好ましい。たとえば、溶融状態のフッ素樹脂Bを二軸押出機の吐出口に取り付けられたダイから押し出してストランドとし、次いでペレタイザによって切断して、ペレットとする。
以下、フッ素樹脂Bのペレットの製造について説明する。
【0054】
溶融状態のフッ素樹脂Bを押し出す条件は、特に制限はなく、公知の条件を適宜採用できる。
ストランドの直径は、1〜10mmが好ましく、1〜6mmがより好ましく、2〜5mmがさらに好ましい。ストランドの直径が前記範囲の下限値以上であれば、ストランドが細すぎることなく、ペレタイザで切断される前にストランドが切れにくい。ストランドの直径が前記範囲の上限値以下であれば、ストランドが太すぎることなく、冷却に時間がかからず、所望の品質、形状のペレットを得やすい。ペレットの形状が不均一の場合、ペレットを成形する際に、成形機においてペレットの供給が不安定となるおそれがある。
【0055】
ダイから吐出された直後のストランドの温度は、フッ素樹脂の融点+10℃以上150℃未満が好ましく、融点+20〜130℃がより好ましく、融点+30〜100℃がさらに好ましい。ストランドの温度が前記範囲の下限値以上であれば、ダイの吐出口からのメルトフラクチャが低減されることによって、ストランドの安定性が増す。ストランドの温度が前記範囲の上限値以下であれば、フッ素樹脂の分解が抑えられる。
【0056】
ストランドの搬送手段は、ストランドを搬送できるものであればよく、特に制限はない。搬送手段としては、ベルトコンベア、メッシュコンベア、ネットコンベア、ペレタイザによる引き取り等が挙げられる。
【0057】
ストランドは、冷却されることが好ましい。ストランドは、空冷してもよく、水冷してもよい。空冷方法としては、送風機等を用いる方法、搬送手段によって搬送する際に放冷する方法等が挙げられる。水冷方法としては、容器に充填された水等の冷却用溶液にストランドを浸す方法、冷却用溶液をストランドに吹き付ける方法等が挙げられる。
【0058】
冷却後のストランドの温度(すなわち、切断時のストランドの温度)は、35〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましく、70〜120℃がさらに好ましい。冷却後のストランドの温度が前記範囲の下限値以上であれば、ストランドの弾性率が高くなりすぎず、ペレタイザにかかる負荷が小さくなり、ストランドカッタのベアリングを傷める等の設備故障が抑えられる。冷却後のストランドの温度が前記範囲の上限値以下であれば、ストランドの弾性率が低くなりすぎず、ペレタイザによるストランドの切断性がよくなる。
【0059】
ペレタイザは、ストランドを切断してペレットにするものである。ペレタイザは、通常、ストランドカッタを備えており、ストランドカッタによって冷却されたストランドを切断してペレットにする。
ストランドカッタは、たとえば、固定刃および回転刃を備える。ストランドが固定刃と回転刃とに挟まれることによって所定の長さに切断され、ペレットが得られる。
【0060】
回転刃としては、通常、中心軸方向の長さが80〜550mmであり、直径が160〜360mmであるものが好適に用いられる。
回転刃が備える刃の数は、複数であればよく、特に制限はない。
回転刃が備える刃の材質としては、WC−Co系合金、TiN−Ni系合金、TiC−Ni系合金、Feを主成分とする合金属類等が挙げられる。
回転刃の周速度は、10〜30m/秒が好ましく、12〜25m/秒がより好ましく、13〜20m/秒がさらに好ましい。
【0061】
<フッ素樹脂Bの用途>
本発明の製造方法によって得られたフッ素樹脂Bは、成形時のガスの発生量が少なく、およびガスに起因する成形品の汚染が少ない点から、フィルム、電線の被覆層、他の成形品等の成形材料として好適に用いられる。
フッ素樹脂Bには、目的に応じて種々の特性を発現させるために、各種添加剤を配合して成形に供することができる。
添加剤としては、金属酸化物(酸化銅、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化ニッケル、酸化コバルト等)、顔料・染料、摺動性付与剤、導電性付与物質、繊維強化剤、熱伝導性付与剤、フィラー、フッ素樹脂以外の樹脂、改質剤、結晶核剤、発泡剤、発泡核剤、架橋剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。添加剤の含有量は、成形品に付与する特性に応じて適宜設定される。
【0062】
添加剤のうち、粒子状の非溶融性添加剤(金属酸化物、顔料・染料、摺動性付与剤、導電性付与物質、繊維強化剤、熱伝導性付与剤、フィラー等)の平均粒子径は、0.1〜30μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましい。粒子状の添加剤のBET比表面積は、5〜60m/gが好ましく、10〜30m/gがより好ましい。粒子状の添加剤の平均粒子径が前記範囲の上限値以下である、またはBET比表面積が前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂を含む成形品の耐ストレスクラック性に優れる。
平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
BET比表面積は、窒素ガス吸着BET法によって測定した値である。
【0063】
フィルムは、フッ素樹脂Bを成形することによって製造される。
フィルムは、半導体装置、発光ダイオード等における封止材の離型フィルムとして好適に用いられる。離型フィルムは、たとえば、プリプレグまたは耐熱フィルムを介して基板に銅張積層板または銅箔を熱プレスし、プリント配線基板、フレキシブルプリント基板または多層プリント配線板を製造する際に、熱プレス板と、プリント配線基板、フレキシブルプリント基板または多層プリント配線板との接着を防ぐために用いられる。また、熱硬化性接着剤を介して、銅回路を形成した基板にカバーレイフィルムを熱プレスにより接着し、フレキシブルプリント基板を製造する際に、熱プレス板とカバーレイフィルムとの接着、またはカバーレイフィルム同士の接着を防ぐために用いられる。
離型フィルムの他の用途としては、キャストフィルム製造用離型フィルム、ICチップ製造用離型フィルム等が挙げられる。
離型フィルム以外の用途としては、太陽電池用保護フィルム、キャリアフィルム、電子基板用層間絶縁フィルム、鋼板ラミネート用フィルム、包装用フィルム、農業ハウス用フィルム、食品フィルム、ダイヤフラムポンプのダイヤフラム、パッキン、ベルトコンベア等が挙げられる。
【0064】
電線は、フッ素樹脂Bを芯線のまわりに押し出して被覆層を形成することによって製造される。
電線は、高温使用下での低溶出性および低アウトガス性が要求される小型または大容量電子機器用電線、医療用電線、航空機用電線、高電圧電線、架空送電線、高周波帯通信電線、電気ヒータ電線、光学式または電極式のセンサ用の電線等に好適に用いられる。
【0065】
他の成形品としては、各種部品、たとえば、電子部品、航空機部品、車両部品等が挙げられる。また、チューブ、ホース、タンク、シール等が挙げられる。具体的な用途としては、特開2016−049764号公報の段落[0059]に記載されたものが挙げられる。
【0066】
以上説明した本発明のフッ素樹脂の製造方法にあっては、溶融混練処理の前後における溶融容量流速の関係が前記式(I)を満足するため、フッ素樹脂に含まれる低沸成分の低減効果が高い。また、真空ベントのベント口における真空度が、−0.07MPa[gage]以下であるため、低沸成分の揮発効果に優れる。そのため、第1の溶融ゾーンの設定温度を比較的低い範囲、具体的には、フッ素樹脂の融点+25〜100℃にすることができ、フッ素樹脂の分解が抑制され、フッ素樹脂の分解による低沸成分の増加が抑えられる。以上のことから、フッ素樹脂に含まれる低沸成分を充分に低減できる。
また、以上説明した本発明のフッ素樹脂の製造方法にあっては、フッ素樹脂に含まれる低沸成分の低減効果が高いため、二軸押出機内に脱揮助剤(不活性ガス(空気、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素等)、水等)を導入する必要がない。
【実施例】
【0067】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
例1〜6は実施例であり、例7〜11は比較例である。
【0068】
(単位の割合)
フッ素樹脂における各単位の割合は、溶融NMR分析、フッ素含有量分析および赤外吸収スペクトル分析によって測定したデータから算出した。
【0069】
(フッ素樹脂の融点)
示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、DSC7020)を用い、フッ素樹脂を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、フッ素樹脂の融解ピークの最大値に対応する温度(℃)を融点とした。
【0070】
(フッ素樹脂の溶融容量流速)
テクノセブン社製のメルトフローテスタを用い、温度:297℃、荷重:49Nの条件で、直径:2.1mm、長さ:8mmのオリフィス中にフッ素樹脂を押し出すときの押出速度(g/10分)を求め、これを溶融容量流速とした。
【0071】
(残渣物の分解温度)
耐圧容器内に、フッ素樹脂の30.0gおよび1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンの300.0gを入れ、熱風循環型のオーブンにて150℃で12時間加熱した。室温まで冷却した後、内容物をフィルタに通し、ろ液をナスフラスコに移した。エバポレータによってろ液を50℃で減圧乾燥させ、残渣物を得た。1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンに溶解するフッ素樹脂は、分子量がおよそ10万以下のものである。分子量はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)によって確認される。
残渣物について、熱重量・示差熱装置(セイコーインスツル社製、TG/DTA7200)を用いて熱重量(TG)測定を行い、TG曲線から、残渣物の1質量%が分解する温度、残渣物の5質量%が分解する温度、および残渣物の10質量%が分解する温度を求めた。
【0072】
(フッ素樹脂(A−1)の製造)
内容積が430Lの撹拌機付き重合槽内を脱気した。重合槽内に、CF(CFHの418.2kg、PFBEの2.12kg、メタノールの3.4kgを入れ、撹拌しながら66℃まで昇温した。重合槽内に、TFE/エチレン=84/16(モル比)の混合ガスを、重合槽内の圧力が1.5MPa[gage]になるまで導入した。重合槽内に、50質量%のtert−ブチルペルオキシピバレートのCF(CFH溶液の26gおよびCF(CFHの4974gを混合した溶液を注入し、重合を開始した。重合中は、重合槽内の圧力が1.5MPa[gage]となるようにTFE/エチレン=54/46(モル比)の混合ガス、および該混合ガスの100モル%に対して1.4モル%に相当する量のPFBEを連続的に導入した。TFE/エチレン混合ガスの34kgを仕込んだ後、重合槽を冷却し、残留ガスをパージし、重合を終了させた。
【0073】
重合槽内のスラリーを850Lの造粒槽へ移し、340Lの水を加えて撹拌しながら加熱することによって、溶媒および未反応の単量体を除去し、造粒物を得た。造粒物を150℃で5時間乾燥して、フッ素樹脂(A−1)の34kgを得た。
フッ素樹脂(A−1)に含まれる重合体におけるエチレンに基づく単位(a1)とTFEに基づく単位(a2)とのモル比((a1)/(a2))は、45.0/55.0(モル比)であり、単位(a3)の割合は、フッ素樹脂を構成する重合体の全単位に対して、1.7モル%であった。
フッ素樹脂(A−1)の融点は、261℃であった。
フッ素樹脂(A−1)の溶融容量流速は、6.8g/10分であった。
【0074】
(フッ素樹脂(A−2)の製造)
TFE/エチレンのモル比を変更した以外は、フッ素樹脂(A−1)と同様にしてフッ素樹脂(A−2)の34kgを得た。
フッ素樹脂(A−2)に含まれる重合体におけるエチレンに基づく単位(a1)とTFEに基づく単位(a2)とのモル比((a1)/(a2))は、45.5/54.5(モル比)であり、単位(a3)の割合は、フッ素樹脂を構成する重合体の全単位に対して、1.7モル%であった。
フッ素樹脂(A−2)の融点は、261℃であった。
フッ素樹脂(A−2)の溶融容量流速は、4.6g/10分であった。
【0075】
(二軸押出機)
二軸押出機として、完全噛合型同方向回転二軸押出機(テクノベル社製、KZW32TW)を用意した。
スクリューの全体の長さLとバレルの内径Dとの比L/D:45、
バレルの内径D:32mm、
ニーディングエレメント中での最小チップクリアランスh:0.267mm、
バレルブロックの数:8個、
真空ベント(真空脱気装置):水封式真空ポンプ(神港精機社製、SW−25AS、最大排気速度:450L/分)、
ストランドダイヘッド:テクノベル社製、STD321(ダイにおける吐出口の口径:4mm、吐出口の数:4個)。
【0076】
(ペレット化)
冷却水槽として、テクノベル社製のSCB250−2000(幅:250mm×深さ:250mm×長さ:2000mm)を用意した。
ペレタイザとして、テクノベル社製のSCP−302(回転刃の直径:100mm、回転刃の中心軸方向の長さ:100mm、回転刃が備える刃の数:10枚)を用意した。
【0077】
(例1)
図1は、例1で用いた二軸押出機を示す概略構成図である。
二軸押出機10は、2本のスクリュー(図示略)と、2本のスクリューを内蔵したバレル12と、バレル12に設けられた真空ベント14と、バレル12に設けられた原料供給口16と、バレル12の下流端に設けられたストランドダイヘッド18とを備える。
バレル12は、上流側から第1のバレルブロックC1、第2のバレルブロックC2、第3のバレルブロックC3、第4のバレルブロックC4、第5のバレルブロックC5、第6のバレルブロックC6、第7のバレルブロックC7、および第8のバレルブロックC8を順に備える。
真空ベント14は、第8のバレルブロックC8に設けられている。
原料供給口16は、第1のバレルブロックC1に設けられている。
二軸押出機10は、第3のバレルブロックC3の一部に第1の溶融ゾーンZ1を有し、第4のバレルブロックC4の一部から第5のバレルブロックC5の一部にかけて第2の溶融ゾーンZ2を有し、第7のバレルブロックC7の一部に第3の溶融ゾーンZ3を有する。溶融ゾーン以外のスクリューエレメントは、すべてロータリーエレメントである。各溶融ゾーンにおけるスクリューエレメント(ミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの合計)の数、溶融ゾーンの合計のL/Dを表1に示す。
【0078】
二軸押出機10の原料供給口16からフッ素樹脂(A−1)を投入し、二軸押出機10中でフッ素樹脂(A−1)を溶融混練した。溶融混練の条件(各バレルブロックC1〜C8の設定温度、ヘッドの設定温度、ダイの設定温度、真空ベントのベント口における真空度、二軸押出機からのフッ素樹脂の吐出量Q、スクリューの回転数N、Q/(N×D)、せん断速度γ)を表1に示す。
【0079】
二軸押出機10によってフッ素樹脂(A−1)を溶融混練して得られた、フッ素樹脂(A−1)よりも低沸成分が低減されたフッ素樹脂Bをストランドダイヘッド18から押し出してストランドとした。ストランドを冷却水槽で水冷した後、ペレタイザによって切断し、ペレットを得た。引き取り速度は10〜20m/minの範囲で調整した。フッ素樹脂Aの溶融容量流速α1およびフッ素樹脂Bの溶融容量流速α2、α2−α1、残渣物の分解温度を表1に示す。
【0080】
(例2〜11)
二軸押出機における溶融ゾーンの数、各溶融ゾーンの位置、各溶融ゾーンにおけるスクリューエレメント(ミキシングエレメントおよびニーディングエレメントの合計)の数、溶融ゾーンの合計のL/Dを表1または表2に示すように変更し、溶融混練条件を表1または表2に示すように変更し、フッ素樹脂Aとして表1または表2に示す種類のものを用いた以外は、例1と同様にして、例2〜11のペレットを得た。結果を表1または表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
例7は、二軸押出機が真空ベントを備えていなかったため、低沸成分を充分に除去できなかった。そのため、残渣物の分解温度が低かった。すなわちフッ素樹脂Bの低沸成分を充分に低減できなかった。
例8は、α2−α1が14を超えたため、フッ素樹脂の分子鎖の切断が進んだ。そのため、残渣物の分解温度が低かった。すなわちフッ素樹脂Bの低沸成分を充分に低減できなかった。
例9は、真空ベントのベント口における真空度が−0.07MPa[gage]超であったため、低沸成分を充分に除去できなかった。そのため、残渣物の分解温度が低かった。すなわちフッ素樹脂Bの低沸成分を充分に低減できなかった。
例10は、二軸押出機が溶融ゾーンを有していなかったため、ベントアップが発生し、フッ素樹脂Bを得ることができなかった。
例11は、第1の溶融ゾーンの設定温度がフッ素樹脂の融点+25℃未満であったため、フッ素樹脂Aの溶融が促進されず、スクリューによるフッ素樹脂の分子鎖の切断による必要以上の分解が発生した。そのため、残渣物の分解温度が低かった。すなわちフッ素樹脂Bの低沸成分を充分に低減できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の製造方法で得られたフッ素樹脂は、膜構造物におけるフィルム、離型フィルム、電線の被覆層等として有用である。
なお、2016年05月31日に出願された日本特許出願2016−109094号の明細書、特許請求の範囲、要約書および図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0085】
10 二軸押出機、12 バレル、14 真空ベント、16 原料供給口、18 ストランドダイヘッド、C1 第1のバレルブロック、C2 第2のバレルブロック、C3 第3のバレルブロック、C4 第4のバレルブロック、C5 第5のバレルブロック、C6 第6のバレルブロック、C7 第7のバレルブロック、C8 第8のバレルブロック、Z1 第1の溶融ゾーン、Z2 第2の溶融ゾーン、Z3 第3の溶融ゾーン。
図1