特許第6922923号(P6922923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6922923-積層体の製造方法 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6922923
(24)【登録日】2021年8月2日
(45)【発行日】2021年8月18日
(54)【発明の名称】積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/693 20060101AFI20210805BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20210805BHJP
   D06M 11/155 20060101ALI20210805BHJP
   D06M 11/64 20060101ALI20210805BHJP
   A41D 19/04 20060101ALI20210805BHJP
【FI】
   D06M15/693
   D06M13/184
   D06M11/155
   D06M11/64
   A41D19/04 B
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2018-542424(P2018-542424)
(86)(22)【出願日】2017年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2017033714
(87)【国際公開番号】WO2018061868
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2020年5月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-193427(P2016-193427)
(32)【優先日】2016年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】早坂 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】谷山 友哉
(72)【発明者】
【氏名】加藤 慎二
【審査官】 南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2015/0135403(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0262469(US,A1)
【文献】 特開2011−001662(JP,A)
【文献】 特開平10−005304(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0099689(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0143608(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0152273(US,A1)
【文献】 特開2014−111853(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 11/00−15/715
A41D 19/04
B32B 25/10
C08L 101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材に凝固剤溶液を付着させる凝固剤溶液付着工程と、
前記凝固剤溶液を付着させた前記繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体を凝固させることで、前記繊維基材上に重合体層を形成する凝固工程と、を備え、
前記凝固剤溶液として、溶媒中に、凝固剤としての金属塩0.2〜4.0重量%、および有機酸0.1〜7.0重量%を溶解または分散させてなるものを用いる積層体の製造方法。
【請求項2】
前記金属塩が多価金属塩である請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸がカルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシ基、チオール基の少なくとも一種類の基を有する有機酸である請求項1または2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記重合体ラテックスを構成する重合体がニトリルゴムである請求項1〜3のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記凝固工程において、前記重合体層のうち前記繊維基材に浸透した部分である浸透重合体層の厚みが、0.05〜0.6mmとなるように、前記重合体層を形成する請求項1〜4のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記凝固工程において、前記重合体層のうち前記繊維基材に浸透していない部分である表面重合体層の厚みが、0.05〜0.6mmとなるように、前記重合体層を形成する請求項1〜5のいずれかに記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる積層体を用いる保護手袋の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維基材上に重合体層を形成してなる積層体の製造方法に関するものである。また、本発明は、上記積層体を用いる保護手袋の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工場での製造作業、軽作業、工事作業、農作業等の様々な用途で、繊維製手袋をゴムや樹脂等により被覆することで、耐溶剤性、グリップ性、耐摩耗性等を向上させた保護手袋が作業用手袋として用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、少なくとも手首部に伸縮性糸が編み込まれ、該伸縮性糸上にゴムまたは樹脂を被覆させてなる保護手袋が開示されている。しかしながら、特許文献1の技術により得られる保護手袋は、伸縮性糸上に被覆したゴムまたは樹脂の影響により、作業用手袋として用いた場合の柔軟性が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−111853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、柔軟性および耐摩耗性に優れた積層体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような製造方法により得られた積層体を用いる保護手袋の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、繊維基材に重合体ラテックスを接触させることにより重合体を凝固させて重合体層を形成してなる積層体を製造する際において、重合体ラテックスの重合体を凝固させるための凝固剤溶液として、溶媒中に、凝固剤としての金属塩および有機酸をそれぞれ所定の割合で溶解または分散させてなるものを用いることにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、繊維基材に凝固剤溶液を付着させる凝固剤溶液付着工程と、前記凝固剤溶液を付着させた前記繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体を凝固させることで、前記繊維基材上に重合体層を形成する凝固工程と、を備え、前記凝固剤溶液として、溶媒中に、凝固剤としての金属塩0.2〜7.0重量%、および有機酸0.1〜7.0重量%を溶解または分散させてなるものを用いる積層体の製造方法が提供される。
【0008】
本発明の積層体の製造方法において、前記金属塩が多価金属塩であることが好ましい。
本発明の積層体の製造方法において、前記有機酸がカルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシ基、チオール基の少なくとも一種類の基を有する有機酸であることが好ましい。
本発明の積層体の製造方法において、前記重合体ラテックスを構成する重合体がニトリルゴムであることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、上記の製造方法により得られる積層体を用いる保護手袋の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、柔軟性および耐摩耗性に優れた積層体の製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、このような製造方法により得られた積層体を用いる保護手袋の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、繊維基材上に重合体層が形成されてなる積層体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の積層体の製造方法は、繊維基材に凝固剤溶液を付着させる凝固剤溶液付着工程と、前記凝固剤溶液を付着させた前記繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体を凝固させることで、前記繊維基材上に重合体層を形成する凝固工程と、を備え、前記凝固剤溶液として、溶媒中に、凝固剤としての金属塩0.2〜7.0重量%、および有機酸0.1〜7.0重量%を溶解または分散させてなるものを用いることを特徴とする。
【0013】
本発明で用いる繊維基材としては、繊維製のものであればよく、特に限定されないが、綿、毛、麻、羊毛などの天然繊維、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル、ナイロンなどの合成繊維などを素材として用いることができ、これらの中でも、ナイロンを用いることが好ましい。また、繊維基材は、編まれたものであってもよいし、縫製されたものであってもよく、織布であっても、不織布であってもよい。
【0014】
繊維基材の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1〜2.0mmである。繊維基材の線密度は、特に限定されないが、好ましくは50〜500デニールである。繊維基材のゲージ数は、特に限定されないが、好ましくは7〜18ゲージである。ここで、ゲージ数は、1インチの間にある編機の針の数をいう。
なお、繊維基材は、複数の繊維により構成されるため、特に、繊維基材が織布である場合には、通常、繊維が折り重なって厚み方向における繊維の重なり度合いが密になっている部分(重なり合っている繊維の数が多い部分)と、厚み方向における繊維の重なり度合いが疎になっている部分(重なり合っている繊維の数が少ない部分)とが存在し、これらの部分を含む層(基材層)によって、構成されることとなる。そのため、繊維基材は、そのミクロ構造においては、繊維の重なり度合いが密になっている部分と、繊維の重なり度合いが疎になっている部分とで、その厚みが異なる場合があるが、上記の繊維基材の厚みは、繊維基材について、繊維の重なり度合いが密になっている部分の厚みを、その厚みとした際の平均値として、求めることとする。
【0015】
本発明で用いる凝固剤溶液は、溶媒中に、凝固剤としての金属塩0.2〜7.0重量%、および有機酸0.1〜7.0重量%を溶解または分散させてなるものである。
【0016】
凝固剤溶液を構成する凝固剤としての金属塩としては、重合体ラテックス中の重合体を凝固させることができる金属塩であればよく、特に限定されず、金属種としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどの1価の金属;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉄、バリウム、ジルコニウム、銅などの2価の金属;アルミニウムなどの3価の金属;が挙げられる。また、塩種としては、硝酸、硫酸、塩酸などの無機酸;酢酸などの有機酸;などが挙げられる。これらの中でも、金属種としては多価の金属が好ましく、2価の金属がより好ましく、カルシウムが特に好ましい。また、塩種としては、硝酸または塩酸が好ましく、硝酸が特に好ましい。即ち、金属塩としては、多価金属塩が好ましく、2価金属の硝酸塩またはハロゲン化塩がより好ましい。
これらの金属塩の具体例としては、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸亜鉛等の硝酸塩;塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;等が挙げられ、これらの中でも、硝酸塩およびハロゲン化金属塩が好ましく、硝酸カルシウムおよび塩化カルシウムがより好ましく、硝酸カルシウムが特に好ましい。
これらの金属塩は、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
凝固剤溶液を構成する有機酸としては、特に限定されないが、カルボキシル基、スルホ基、ヒドロキシ基、チオール基の少なくとも一種類の基を有する有機酸が好ましい。具体的には、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸、プロピオン酸、安息香酸、乳酸、グルコン酸、コハク酸、フマル酸、アルキルベンゼンスルホン酸、脂肪族スルホン酸、ドデシルジフェニルエーテルスルホン酸等が挙げられ、これらの中でも、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、クエン酸、シュウ酸などのカルボキシル基を有する有機酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0018】
凝固剤としての金属塩および有機酸を溶解または分散させるための溶媒としては、特に限定されないが、水、もしくはメタノール、エタノール等のアルコール、またはこれらの混合物などを用いることができ、これらの中でも、アルコールが好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0019】
凝固剤溶液中における凝固剤としての金属塩の濃度は、0.1〜7.0重量%であり、好ましくは0.1〜6.0重量%、より好ましくは0.1〜4.0重量%、さらに好ましくは0.1〜2.0重量%である。また、凝固剤溶液中における有機酸の濃度は、0.2〜7.0重量%であり、好ましくは0.2〜5.0重量%、より好ましくは0.2〜3.0重量%である。
【0020】
そして、本発明の製造方法においては、このような凝固剤溶液を繊維基材に付着させ、凝固剤溶液を付着させた繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体を凝固させることで、繊維基材上に重合体層を形成するものである。
【0021】
具体的には、本発明の製造方法においては、上記凝固剤溶液を繊維基材に付着させ、これにより得られた凝固剤溶液を付着させた繊維基材に、重合体ラテックスを接触させることにより、重合体ラテックスの一部が繊維基材内部に浸透しながら、重合体ラテックス中の重合体の凝固が進行することで、重合体層が形成されることとなる。そのため、本発明の製造方法により得られる積層体は、図1に示すように、繊維基材の表面上に重合体層が形成されるとともに、重合体層の一部が繊維基材を構成する繊維の隙間まで浸透したものとなる。なお、図1は、本発明の製造方法により得られる積層体の断面図を示す図であり、図1においては、重合体層のうち、繊維基材の隙間に浸透した部分を浸透重合体層とし、また、重合体層のうち、繊維基材の表面上に形成された部分を表面重合体層として示している。また、図1においては、繊維基材の断面について、分かりやすくするために簡略的に示しているが、実際の繊維基材の断面はこのような形状に限定されない。図1においては、繊維基材を構成する繊維が、紙面に対して垂直な方向に向かって、1層になるように並んでいる状態を例示しているが、繊維基材を構成する繊維は、折り重なって、2層以上になるように並んでいてもよい。繊維基材を構成する繊維は、単繊維(上記の天然繊維や合成繊維などから取り出される一本一本)であってもよいし、複数の単繊維からなる撚糸であってもよい。なお、本発明においては、重合体層を、適宜、浸透重合体層および表面重合体層からなるものとして説明するが、通常、これら浸透重合体層および表面重合体層は、一体として形成されることとなる。
【0022】
そして、本発明によれば、重合体ラテックスの重合体を凝固させるための凝固剤溶液として、上述したように、凝固剤としての金属塩および有機酸を含有し、かつ、これら凝固剤としての金属塩および有機酸を所定の含有割合としたものを用いるものであり、これにより、繊維基材の表面上にある程度の厚みの重合体層を形成しつつ、かつ、当該重合体層の一部を繊維基材に適度に浸透させることができ、これにより得られる積層体の柔軟性および耐摩耗性を高度にバランスさせることができ、これにより、たとえば、作業用手袋などの保護手袋として好適なものとすることができる。
【0023】
すなわち、本発明においては、凝固剤溶液を付着させた繊維基材に、重合体ラテックスを接触させた際に、凝固剤溶液中の凝固剤としての金属塩の作用による重合体ラテックス中の重合体の凝固速度を、凝固剤溶液中の有機酸の作用により適切に調整することができ、これにより、重合体ラテックスを繊維基材中に適切に浸透させながら、重合体の凝固を進行させることできるものである。そして、これにより、図1に示すように、繊維基材の表面上にある程度の厚みの重合体層を形成することができるとともに、当該重合体層の一部を繊維基材に浸透させることができるため、浸透重合体層の厚みと、表面重合体層の厚みとがそれぞれ適度なものとなり、これにより、得られる積層体を作業用手袋などの保護手袋として用いた場合に、柔軟性および耐摩耗性に優れたものとなる。
【0024】
特に、本発明によれば、凝固剤溶液中の凝固剤としての金属塩の含有割合を大きくした場合においても(たとえば、凝固剤溶液中の凝固剤としての金属塩の含有割合を0.5重量%超とした場合においても)、凝固剤溶液中の有機酸の作用により、重合体層の一部を繊維基材中に適切に浸透させることができ、結果として、得られる積層体における、重合体層のうち繊維基材に浸透した部分の作用により、重合体層の剥離を有効に防止することができ、これにより積層体の耐摩耗性を特に向上させることが可能となるものである。
【0025】
なお、凝固剤溶液中における凝固剤としての金属塩の含有割合が多すぎると、重合体ラテックス中の重合体の凝固速度が上昇し、重合体ラテックスが繊維基材に十分に浸透する前に重合体の凝固が進んでしまうため、形成される重合体層のうち、繊維基材の表面上に形成される表面重合体層の厚みが厚くなりすぎてしまい、得られる積層体の柔軟性が低下してしまうとともに、形成される重合体層のうち、繊維基材中に浸透して形成される浸透重合体層の厚みが薄くなりすぎてしまい、重合体層が繊維基材から剥離しやすくなってしまうため、積層体の耐摩耗性が低下してしまう。一方、凝固剤溶液中における凝固剤としての金属塩の含有割合が少なすぎると、重合体ラテックス中の重合体の凝固速度が低下し、重合体ラテックスが繊維基材に浸透しすぎてしまうため、重合体層が繊維基材の裏面まで到達する裏抜けが発生してしまい、これにより、積層体の生産性が低下したり、得られる積層体を保護手袋として使用した場合の使用感に劣るものとなったりする。
【0026】
凝固剤溶液中における有機酸の含有割合が少なすぎると、重合体ラテックス中の重合体の凝固速度が低下し、重合体ラテックスが繊維基材に浸透しすぎてしまうため、重合体層が繊維基材の裏面まで到達する裏抜けが発生してしまい、これにより、積層体の生産性が低下したり、得られる積層体を保護手袋として使用した場合の使用感に劣るものとなったりする。一方、凝固剤溶液中における有機酸の含有割合が多すぎると、重合体ラテックス中の重合体の凝固速度が上昇し、重合体ラテックスが繊維基材に十分に浸透する前に重合体の凝固が進んでしまうため、形成される重合体層のうち、繊維基材の表面上に形成される表面重合体層の厚みが厚くなりすぎてしまい、得られる積層体の柔軟性が低下してしまうとともに、形成される重合体層のうち、繊維基材中に浸透して形成される浸透重合体層の厚みが薄くなりすぎてしまい、重合体層が繊維基材から剥離しやすくなってしまうため、積層体の耐摩耗性が低下してしまう。
【0027】
本発明の製造方法で用いる重合体ラテックスとしては、特に限定されないが、得られる積層体を柔軟性により優れるものとすることができるという点より、重合体としてゴム状重合体を含有するものを用いることが好ましく、ゴム状重合体としては、天然ゴム;ブタジエンやイソプレンなどの共役ジエンを重合または共重合してなる共役ジエン系ゴム;等が挙げられ、これらの中でも、共役ジエン系ゴムが好ましい。共役ジエン系ゴムとしては、ニトリルを共重合してなるいわゆるニトリルゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム等が挙げられ、これらの中でも、ニトリルゴムが特に好ましい。
【0028】
ニトリルゴムとしては、特に限定されないが、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体および必要に応じて用いられる共重合可能なその他の単量体を共重合したものを用いることができる。
【0029】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、特に限定されないが、ニトリル基を有し、炭素数が、好ましくは3〜18であるエチレン性不飽和化合物を用いることができる。このようなα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、ハロゲン置換アクリロニトリルなどが挙げられ、これらの中でも、アクリロニトリルが特に好ましい。なお、これらのα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
ニトリルゴムにおけるα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、全単量体単位に対して、好ましくは10〜45重量%、より好ましくは20〜40重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られる積層体の耐溶剤性を向上させることができ、かつ、風合いを向上させることができる。
【0031】
また、ニトリルゴムとしては、得られる重合体層にゴム弾性を付与するという観点より、共役ジエン単量体単位を含有するものが好ましい。
【0032】
共役ジエン単量体単位を形成する共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、クロロプレンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエン及びイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。なお、これらの共役ジエン単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
共役ジエン単量体単位の含有割合は、ニトリルゴムを構成する全単量体単位に対して、好ましくは40〜80重量%、より好ましくは52〜78重量%である。共役ジエン単量体単位の含有割合を上記範囲にすることにより、得られる積層体について、耐溶剤性を向上させることができ、かつ、保護手袋として用いた場合における風合いを向上させることができる。
【0034】
また、ニトリルゴムは、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成する単量体、および共役ジエン単量体単位を形成する単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体を含んでいてもよい。
【0035】
このような共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体としては、特に限定されないが、たとえば、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体などが挙げられる。
【0036】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸およびその無水物;マレイン酸メチル、イタコン酸メチル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物;などが挙げられる。
【0037】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0038】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、(メタ)アクリル酸−2−リン酸エチル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などが挙げられる。
【0039】
これらの共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体は、アルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもでき、また、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体のなかでも、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。
【0040】
本発明で用いる重合体ラテックスを構成する重合体中における、共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体の含有量は、重合体中の全単量体単位に対して、好ましくは2〜8重量%である。共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体単位の含有量を上記範囲にすることにより、繊維基材上に形成する重合体層の成形性を優れたものとすることができ、かつ、得られる積層体を保護手袋として用いた場合における風合いを向上させることができる。
【0041】
重合体ラテックスを構成する重合体は、上述したエチレン性不飽和ニトリル単量体単位、共役ジエン単量体単位、および共重合可能なその他のエチレン性不飽和酸単量体単位に加えて、さらに他の単量体単位を含有していてもよい。
【0042】
他の単量体単位を形成する他の単量体としては、共役ジエン単量体、エチレン性不飽和ニトリル単量体単位、およびエチレン性不飽和酸単量体と共重合可能な単量体であればよく、特に限定されないが、たとえば、以下の単量体が挙げられる。
【0043】
すなわち、他の単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、モノメチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等の芳香族ビニル単量体;アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド等のエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン単量体;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;酢酸アリル、酢酸メタリル、塩化アリル、塩化メタリル等の(メタ)アリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン;などを挙げることができ、これらの中でも、得られる積層体の強度をより高めることができるという観点より、芳香族ビニル単量体が好ましい。これらの他の単量体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
重合体ラテックスを構成する重合体中の他の単量体単位の含有量は、繊維基材から重合体層が剥離してしまうことを防止する観点、作業用手袋として用いた場合の作業時の疲労を抑制する観点、および作業用手袋として着用した場合における溶剤ガスの透過を抑制する観点から、重合体中の全単量体単位に対して、好ましくは26重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは7重量%以下、特に好ましくは5重量%以下である。
【0045】
本発明で用いる重合体ラテックスとしては、特に限定されず、たとえば上記の単量体を含有してなる単量体混合物を重合して得られる重合体のラテックスであればよく、前記単量体混合物を乳化重合して得られるラテックス、前記単量体混合物を溶液重合して得られる重合体溶液を転相乳化して得られるラテックス、などを用いることができる。
乳化重合して得られるラテックスを用いる場合には、乳化重合に用いる単量体混合物の組成を調節することにより、得られる共重合体の組成を容易に調節することができるようになる。乳化重合の方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0046】
上記の単量体の混合物を乳化重合するには、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。これら重合副資材の添加方法は特に限定されず、初期一括添加法、分割添加法、連続添加法などいずれの方法でもよい。
【0047】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および両性界面活性剤などが挙げられ、これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、高級アルコールの硫酸エステル塩、α−オレフィンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が好ましい。
乳化剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.5〜10重量部、より好ましくは1〜8重量部である。
【0048】
重合開始剤としては、特に限定されないが、ラジカル開始剤が好ましい。ラジカル開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などが挙げられ、これらの中でも、無機過酸化物または有機過酸化物が好ましく、無機過酸化物がより好ましく、過硫酸塩が特に好ましい。これらの重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合開始剤の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜2重量部、より好ましくは0.05〜1.5重量部である。
【0049】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、たとえば、α−メチルスチレンダイマー;t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物;などが挙げられ、これらの中でも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。これらの分子量調整剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
分子量調整剤の使用量は、その種類によって異なるが、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜1.5重量部、より好ましくは0.2〜1.0重量部である。
【0050】
乳化重合は、通常、水中で行なわれる。水の使用量は、使用する全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部、より好ましくは100〜200重量部である。
【0051】
乳化重合に際し、必要に応じて、上記以外の重合副資材をさらに用いてもよい。重合副資材としては、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等が挙げられ、これらの種類、使用量とも特に限定されない。
【0052】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。
また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0053】
乳化重合する際の重合温度は、特に限定されないが、通常、0〜95℃であり、好ましくは5〜70℃である。重合時間は、特に限定されないが、通常、5〜40時間程度である。
【0054】
以上のように単量体を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、通常、80重量%以上であり、好ましくは90重量%以上である。
【0055】
重合停止剤は、通常、乳化重合において使用されているものであれば、特に限定されないが、その具体例としては、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸及びそのアルカリ金属塩等のヒドロキシアミン化合物;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム;ハイドロキノン誘導体;カテコール誘導体;ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸及びこれらのアルカリ金属塩等の芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸化合物;等が挙げられる。
重合停止剤の使用量は、特に限定されないが、通常、使用する全単量体100重量部に対して、0.05〜2重量部である。
【0056】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整してもよい。
【0057】
重合体ラテックスを構成する重合体の粒子の重量平均粒子径は、通常、30〜1000nm、好ましくは50〜500nm、より好ましくは70〜200nmである。重合体の粒子の重量平均粒子径を上記範囲にすることにより、重合体ラテックスの粘度が適度なものとなって重合体ラテックスの取扱性が向上するとともに、重合体層を成形する際の成形性が向上して均質な重合体層を有する積層体が得られるようになる。
【0058】
重合体ラテックスの固形分濃度は、通常、20〜65重量%であり、好ましくは30〜60重量%、より好ましくは35〜55重量%である。この重合体ラテックスの固形分濃度を上記範囲にすることにより、ラテックスの輸送効率を向上させることができ、かつ、重合体ラテックスの粘度が適度なものとなって重合体ラテックスの取扱性が向上する。
【0059】
重合体ラテックスのpHは、通常、5〜13であり、好ましくは7〜10、より好ましくは7.5〜9である。重合体ラテックスのpHを上記範囲にすることにより、機械的安定性が向上して重合体ラテックスの移送時における粗大凝集物の発生を抑制することができ、かつ、重合体ラテックスの粘度が適度なものとなって重合体ラテックスの取扱性が向上する。
【0060】
さらに、本発明で用いる重合体ラテックスには、架橋剤、架橋促進剤、酸化亜鉛、および粘度調整剤等を添加することができる。すなわち、本発明で用いる重合体ラテックスは、これらが添加された組成物(ラテックス組成物)であってもよい。以下における重合体ラテックスについての説明は、重合体ラテックスとしてラテックス組成物を用いた場合においても同様である。
【0061】
架橋剤としては、硫黄系架橋剤を用いることが好ましい。硫黄系架橋剤としては、特に限定されないが、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、カプロラクタムジスルフィド、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらの架橋剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
硫黄系架橋剤の添加量は、重合体ラテックス中の全固形分100重量部に対して、好ましくは0.01〜5重量部、より好ましくは0.05〜3重量部、特に好ましくは0.1〜2重量部である。硫黄系架橋剤の添加量を上記範囲にすることにより、得られる積層体について、耐溶剤性を向上させることができ、かつ、保護手袋として用いた場合における風合いを向上させることができる。
【0063】
硫黄系架橋剤は、硫黄系架橋剤を溶媒に分散させた分散液として添加することが好ましい。分散液として重合体ラテックスに添加することにより、得られる重合体層におけるき裂、ピンホールの発生、および凝集物の付着等の欠陥が少ない積層体が得られる。
【0064】
硫黄系架橋剤の分散液の調製方法としては、特に限定されないが、硫黄系架橋剤に溶媒を添加し、ボールミルやビーズミルなどの湿式粉砕機で粉砕攪拌する方法が好ましい。
【0065】
硫黄系架橋剤として硫黄を使用する場合には、架橋促進剤(加硫促進剤)や、酸化亜鉛を併用することが好ましい。
【0066】
架橋促進剤(加硫促進剤)としては、特に限定されないが、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸、ジブチルジチオカルバミン酸、ジ−2−エチルヘキシルジチオカルバミン酸、ジシクロヘキシルジチオカルバミン酸、ジフェニルジチオカルバミン酸、ジベンジルジチオカルバミン酸などのジチオカルバミン酸類およびそれらの亜鉛塩;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛、2−メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド、2−(2,4−ジニトロフェニルチオ)ベンゾチアゾール、2−(N,N−ジエチルチオ・カルバイルチオ)ベンゾチアゾール、2−(2,6−ジメチル−4−モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、2−(4′−モルホリノ・ジチオ)ベンゾチアゾール、4−モルホリニル−2−ベンゾチアジル・ジスルフィド、1,3−ビス(2−ベンゾチアジル・メルカプトメチル)ユリアなどが挙げられ、これらの中でも、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾール亜鉛が好ましい。これらの架橋促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋促進剤の使用量は、重合体ラテックス中の全固形分100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部である。
【0067】
また、酸化亜鉛の使用量は、重合体ラテックス中の全固形分100重量部に対して、好ましくは5重量部以下、より好ましく0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部である。
【0068】
また、重合体ラテックスの粘度を所望の範囲とするために、重合体ラテックスには、粘度調整剤を添加することが好ましい。粘度調整剤としては、特に限定されないが、カルボキシメチルセルロース系増粘剤、ポリカルボン酸系増粘剤および多糖類系増粘剤などが挙げられる。また、重合体ラテックスの粘度は、好ましくは500〜8,000mPa・s、より好ましくは2,500〜7,000mPa・sである。特に、重合体ラテックスをラテックス組成物の状態(たとえば、上述した架橋剤、架橋促進剤、酸化亜鉛、および粘度調整剤等が重合体ラテックスに添加された状態)で用いる場合には、このようなラテックス組成物の粘度を上記範囲とすることが好ましい。
【0069】
重合体ラテックスには、上述したように架橋剤、架橋促進剤、酸化亜鉛、および粘度調整剤等を添加することができるが、さらに、必要に応じて、老化防止剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、湿潤剤、増粘剤、分散剤、顔料、染料、充填材、補強材、pH調整剤などの各種添加剤を所定量添加することもできる。
【0070】
架橋剤を添加していない状態の重合体ラテックスの固形分濃度は上述した範囲に制御することが好ましいが、架橋剤を添加した重合体ラテックス(架橋剤が添加されてなるラテックス組成物)の固形分濃度は、好ましくは5〜40重量%、より好ましくは10〜25重量%である。また、架橋剤を添加した重合体ラテックス(架橋剤が添加されてなるラテックス組成物)の表面張力は、好ましくは25〜40mN/mである。
【0071】
本発明の製造方法では、まず、上記した繊維基材に上記した凝固剤溶液を付着させ、次いで、凝固剤溶液を付着させた繊維基材に、重合体ラテックスを接触させて重合体を凝固させることで、繊維基材上に重合体層を形成することにより、繊維基材と重合体層からなる積層体を得るものである。
【0072】
凝固剤溶液を繊維基材に付着させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、繊維基材を凝固剤溶液に浸漬させる方法が挙げられる。
【0073】
繊維基材を凝固剤溶液に浸漬させる場合における浸漬時間は、特に限定されないが、好ましくは30〜1秒間、より、好ましくは10〜1秒間である。
【0074】
また、繊維基材を凝固剤溶液に付着させる際には、繊維基材を、所望の形状の成形用型に被せた状態で、凝固剤溶液に浸漬させることが好ましい。
【0075】
繊維基材を被せる成形用型としては、特に限定されないが、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものを用いることができる。成形用型の形状は、最終製品の形状に合わせて、所望の形状とすればよい。たとえば、積層体を保護手袋として使用する場合には、繊維基材を被せる成形用型として、手首から指先までの形状を有する成形用型など、各種の手袋用の成形用型を用いることが好ましい。
【0076】
また、本発明の製造方法においては、凝固剤溶液を繊維基材に付着させた後、乾燥を行うことで、凝固剤溶液に含まれている溶媒を除去することが好ましい。この際の乾燥温度は、特に限定されず、用いる溶媒に応じて選択すればよいが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜70℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは600〜1秒間、より好ましくは300〜5秒間である。
【0077】
次いで、このようにして凝固剤溶液を付着させた繊維基材に、重合体ラテックスを接触させることで、重合体ラテックス中の重合体を凝固させて、繊維基材上に重合体層を形成する。
【0078】
凝固剤溶液が付着した繊維基材に重合体ラテックスを接触させる方法としては、特に限定されないが、たとえば、凝固剤溶液が付着した繊維基材を、重合体ラテックスに浸漬させる方法などが挙げられる。
【0079】
また、凝固剤溶液が付着した繊維基材を重合体ラテックスに浸漬させる際には、凝固剤溶液が付着した繊維基材を、所望の形状の成形用型に被せた状態で、重合体ラテックスに浸漬させることが好ましい。この際においては、予め繊維基材を所望の形状の成形用型に被せた状態で、上述したように繊維基材に凝固剤溶液を付着させて、その後、凝固剤溶液が付着した繊維基材を、成形用型に被せたまま、重合体ラテックスに浸漬させることが好ましい。
【0080】
また、本発明の製造方法においては、凝固剤溶液が付着した繊維基材を重合体ラテックスに浸漬させた後、乾燥を行うことが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10〜80℃、より好ましくは15〜80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは120分間〜5秒間、より好ましくは60分間〜10秒間である。
【0081】
なお、重合体ラテックスとして、架橋剤を添加したものを用いる場合には、重合体ラテックスとして、予め熟成(前加硫ともいう。)させたものを用いてもよい。
【0082】
熟成させる際の温度条件は、特に限定されないが、好ましくは20〜50℃である。また、熟成させる際の時間は、繊維基材と重合体層との剥離を防止する観点、得られる積層体を保護手袋として用いた場合における耐摩耗性を向上させる観点、および該保護手袋を作業用手袋として用いた場合における溶剤ガスの透過を抑制する観点から、好ましくは4時間以上120時間以下、より好ましくは24時間以上72時間以下である。熟成時間を上記範囲にすることにより、得られる積層体において、重合体層が繊維基材に適度に浸透することで、繊維基材と重合体層との剥離が防止され、得られる積層体の耐摩耗性が向上するとともに、積層体を保護手袋として用いた場合における溶剤ガスの透過を有効に抑制することができる。
【0083】
さらに、重合体ラテックスとして、架橋剤を添加したものを用いる場合には、凝固剤溶液が付着した繊維基材を重合体ラテックスに浸漬させた後、繊維基材に付着した重合体ラテックスを加熱することにより、重合体ラテックスを構成する重合体を架橋させることが好ましい。
【0084】
架橋のための加熱温度は、好ましくは60〜160℃、より好ましくは80〜150℃である。加熱温度を上記範囲にすることにより、架橋反応に要する時間を短くして積層体の生産性を向上させることができるとともに、過剰な加熱による重合体の酸化劣化を抑制して、得られる積層体の物性を向上させることができる。架橋のための加熱時間は、加熱温度に応じて適宜選択すればよいが、通常、5〜120分である。
【0085】
本発明の製造方法においては、以上のようにして、凝固剤溶液を付着させた繊維基材に重合体ラテックスを接触させることにより、重合体ラテックスの一部が繊維基材に浸透しながら、重合体ラテックス中の重合体が凝固し、これにより繊維基材上に重合体層が形成され、積層体が得られる。そのため、得られる積層体は、図1に示すように、重合体ラテックスの重合体の一部が繊維基材に浸透した状態で凝固して重合体層が形成され、柔軟性および耐摩耗性に優れたものとなる。
【0086】
なお、本発明の製造方法においては、繊維基材上に重合体層を形成した後、重合体層を20〜80℃の温水に0.5〜60分程度浸漬することにより、重合体層から水溶性不純物(乳化剤、水溶性高分子、凝固剤など)を除去しておくことが好ましい。重合体ラテックスとして、架橋剤を添加したもの(架橋剤が添加されてなるラテックス組成物)を用いる場合には、このような重合体層を温水に浸漬させる処理は、重合体層の重合体を架橋させた後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、重合体層の重合体を架橋させる前に行なうのが好ましい。
【0087】
また、繊維基材を成形用型に被せた状態で重合体層を形成した場合には、重合体層が形成された繊維基材を、成形用型から取り外すことによって、積層体を得ることができる。成形用型から取り外す方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。
【0088】
積層体を成形用型から取り外した後には、さらに60〜120℃の温度で、10〜120分の加熱処理(後架橋工程)を行ってもよい。また、積層体の内側および/または外側の表面に、塩素化処理やコーティング処理などによる表面処理層を形成してもよい。
【0089】
このような本発明の製造方法により得られる積層体としては、積層体を構成する重合体層のうち、繊維基材に浸透した部分の厚み、すなわち、図1で示す浸透重合体層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.6〜0.05mm、より好ましくは0.55〜0.1mm、さらに好ましくは0.5〜0.2mmである。浸透重合体層の厚みを上記範囲とすることにより、得られる積層体を保護手袋として用いた場合における耐摩耗性がより向上する。なお、浸透重合体層は、図1に示すように、繊維基材に浸透した部分を示すものであるため、厚みの上限は、繊維基材全体に浸透した際の厚みとなり、繊維基材自体の厚みと同等の値となる。たとえば、繊維基材として、厚みが0.6mmであるものを用いた場合には、浸透重合体層の厚みの上限(重合体層が繊維基材全体に浸透した場合における浸透重合体層の厚み)は、0.6mmとなる。
【0090】
また、本発明の製造方法により得られる積層体においては、重合体層のうち、繊維基材に浸透していない部分の厚み、すなわち、図1で示す表面重合体層の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.6〜0.05mm、より好ましくは0.5〜0.1mm、さらに好ましくは0.45〜0.12mmである。表面重合体層の厚みを上記範囲とすることにより、得られる積層体を保護手袋として用いた場合における柔軟性がより向上する。
【0091】
重合体層における浸透重合体層と表面重合体層との厚みの比率は、特に限定されないが、表面重合体層の厚みに対する浸透重合体層の厚みの比(浸透重合体層の厚み/表面重合体層の厚み)で、好ましくは5〜0.2、より好ましくは2〜0.3である。表面重合体層の厚みに対する浸透重合体層の厚みの比を上記範囲にすることにより、得られる積層体を保護手袋として用いた場合に、柔軟性および耐摩耗性を高度にバランスさせることができる。
【0092】
また、重合体層の全体の厚み、すなわち、浸透重合体層および表面重合体層の合計の厚みは、特に限定されないが、好ましくは1.0〜0.05mmである。
【0093】
本発明によれば、重合体ラテックスの重合体を凝固させるための凝固剤溶液として、上述したように、溶媒中に、凝固剤0.2〜7.0重量%、および有機酸0.1〜7.0重量%を溶解または分散させてなるものを用いることにより、図1に示すように、繊維基材の表面上にある程度の厚みの重合体層が形成されるとともに、当該重合体層の一部が繊維基材に適度に浸透した積層体が得られる。そのため、本発明によれば、得られる積層体は、柔軟性および耐摩耗性に優れたものとなり、作業用手袋、特に家庭用、農業用、漁業用および工業用等の保護手袋として好適に用いることができる。
【実施例】
【0094】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限られるものではない。以下において、特記しない限り、「部」は重量基準である。物性および特性の試験または評価方法は以下のとおりである。
【0095】
表面重合体層の厚み、浸透重合体層の厚みおよび積層体全体の厚み
実施例及び比較例で製造した積層体について、中指の先から12cmの掌部分の重合体層が積層された断面を、光学顕微鏡(キーエンス社製VHX−200)を用いて観察して、表面重合体層の厚み、浸透重合体層の厚み、および積層体全体の厚みを測定した。具体的な測定方法について図1を参照して説明すると、表面重合体層の厚みは、繊維基材の表面から、重合体層の表面までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。また、浸透重合体層の厚みは、繊維基材の表面から、浸透した重合体の最深部までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。さらに、積層体全体の厚みは、重合体層の表面から、繊維基材の裏面までの距離を、10カ所測定し、測定結果の数平均値を算出することにより求めた。
【0096】
柔軟性
実施例および比較例で製造した手袋を10人にそれぞれ着用してもらい下記の評価基準で評価した。
5:非常に柔らかい
4:柔らかい
3:やや柔らかい
2:硬い
1:非常に硬い
【0097】
耐摩耗性
摩耗試験はEN388に記載の方法に則って、マーチンデール式摩耗試験機(STM633:SATRA社製)を用いて評価を実施した。具体的には、実施例および比較例で製造した積層体について、所定の加重をかけながら摩擦を繰り返し、破損までの摩擦回数を得た。破損に至るまでの摩擦回数に従い、レベル0からレベル4までのレベルに分けられ、レベルが高いほど耐摩耗性に優れる。
LEVEL 4:回転数8,000回転
LEVEL 3:回転数2,000回転以上、8,000回転未満
LEVEL 2:回転数500回転以上、2,000回転未満
LEVEL 1:回転数100回転以上、500回転未満
LEVEL 0:回転数100回転未満
【0098】
裏抜け
実施例及び比較例で製造した積層体について、繊維基材に浸透した重合体層が繊維基材の裏面まで到達しているか否かを目視にて確認し、以下の基準で評価した。
無し:重合体層が繊維基材の裏面まで到達していなかった。
有り:重合体層が繊維基材の裏面まで到達していた。
【0099】
酢酸臭
実施例及び比較例で製造した積層体を被験者10人が着用し、キーボード入力操作の軽作業を1時間行い、1時間の作業後に酢酸の臭気による不快感を覚えた人の人数をカウントし、以下の基準により評価した。
無し:不快感を覚えた人数が0人であった。
有り:不快感を覚えた人数が1人以上であった。
【0100】
実施例1
配合剤の分散液の調製
コロイド硫黄(細井化学工業社製)1.0部、分散剤(花王社製、商品名「デモールN」)0.5部、5%水酸化カリウム水溶液(和光純薬工業社製)0.0015部、水1.0部を、ボールミル中で48時間粉砕攪拌し、固形分濃度50重量%の分散液を得た。
【0101】
また、上記のコロイド硫黄に代えてジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(大内新興化学工業社製、以下、「ZnDBC」ということがある。)を用いた分散液についても、同様に調製した。さらに、上記のコロイド硫黄に代えて、酸化亜鉛(正同化学工業社製)を用いた分散液についても、同様に調製した。
【0102】
重合体ラテックスの調製
重合反応器に、共役ジエン単量体として1,3−ブタジエン(以下、「BD」ということがある。)65部、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル(以下、「AN」ということがある。)30部、エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体としてメタクリル酸(以下、「MAA」ということがある。)5部、t−ドデシルメルカプタン0.4部、イオン交換水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β−ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム塩0.5部、過硫酸カリウム0.3部およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム塩0.05部を仕込み、重合温度を30〜40℃に保持して重合を行い、重合転化率が94%に達するまで反応させて、重合体ラテックスを得た。
【0103】
得られた重合体ラテックスから未反応単量体を除去した後、重合体ラテックスのpHおよび固形分濃度を調整して、固形分濃度40%、pH8の実施例1に係るディップ成形用ラテックスを得た。
【0104】
(ディップ成形用ラテックス組成物の調製)
上記のディップ成形用ラテックスに、10%アンモニア水溶液を添加して、pHを9.5に調整するとともに、ディップ成形用ラテックス中の共重合体100部に対して、それぞれ固形分換算で、コロイド硫黄1.0部(上記硫黄分散液として添加)、ZnDBC0.5部、酸化亜鉛2.0部となるように、各配合剤の水分散液を添加した。なお、各配合剤の水分散液の添加の際には、ディップ成形用ラテックスを撹拌した状態で、所定の量をゆっくり添加した。添加物が均一に混合された後に、粘度調整剤としてアロン(東亜合成(株)製)を添加して組成物の粘度を3,000mPa・sに調整し、ディップ成形用ラテックス組成物を得た。
【0105】
凝固剤溶液の調製
凝固剤としての硝酸カルシウム1.0重量%、および有機酸としての酢酸3.0重量%をそれぞれメタノールに溶解させてなるメタノール溶液を、凝固剤溶液として調製した。
【0106】
積層体(保護手袋)の製造
まず、上述したディップ成形用ラテックス組成物に対して、温度30℃、48時間の条件で、熟成(前加硫ともいう。)を施した。次いで、手袋形状の繊維基材(材質:ナイロン、線密度:300デニール、ゲージ数:13ゲージ、厚み:0.8mm)を被せたセラミックス手袋型を、上記の凝固剤溶液に5秒間浸漬し、凝固剤溶液から引き上げた後、温度30℃、1分間の条件で乾燥させた。その後、セラミックス手袋型を、上記のディップ成形用ラテックス組成物に5秒間浸漬し、ディップ成形用ラテックス組成物から引き上げた後、温度30℃、30分間の条件で乾燥させ、次いで温度70℃、10分間の条件で乾燥させることで、繊維基材上に重合体層を形成した。その後、重合体層を形成したセラミックス手袋型を、60℃の温水に90秒間浸漬して、重合体層から水溶性の不純物を溶出させた後、温度30℃、10分間の条件で乾燥させ、さらに温度125℃、30分間の条件で熱処理を行う事で、重合体層中の重合体に架橋処理を施した。次いで、重合体層が形成された繊維基材をセラミックス手袋型から剥がすことで、積層体(保護手袋)を得た。得られた積層体について、上述した方法に従い、表面重合体層の厚み、浸透重合体層の厚みおよび積層体全体の厚み、柔軟性、耐摩耗性、裏抜けならびに酢酸臭の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1においては、表面重合体層の厚み、および浸透重合体層の厚みの合計値を、重合体層全体の厚みとして示した。
【0107】
実施例2〜5
実施例1で用いた凝固剤溶液に代えて、硝酸カルシウム0.2重量%および酢酸3.0重量%のメタノール溶液(実施例2)、硝酸カルシウム7.0重量%および酢酸3.0重量%のメタノール溶液(実施例3)、硝酸カルシウム1.0重量%および酢酸0.1重量%のメタノール溶液(実施例4)、ならびに硝酸カルシウム1.0重量%および酢酸7.0重量%のメタノール溶液(実施例5)を、それぞれ調製して凝固剤溶液として使用した以外は、実施例1と同様にして、積層体(保護手袋)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0108】
実施例6
実施例1で用いた凝固剤溶液に代えて、硝酸カルシウム4.8重量%および酢酸3.0重量%のメタノール溶液を調製して凝固剤溶液として使用した以外は、実施例1と同様にして、積層体(保護手袋)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0109】
比較例1〜5
実施例1で用いた凝固剤溶液に代えて、硝酸カルシウム1.0重量%のみを溶解させたメタノール溶液(比較例1)、酢酸3.0重量%のみを溶解させたメタノール溶液(比較例2)、硝酸カルシウム0.1重量%のみを溶解させたメタノール溶液(比較例3)、硝酸カルシウム10.0重量%のみを溶解させたメタノール溶液(比較例4)、ならびに硝酸カルシウム10.0重量%および酢酸8.0重量%のメタノール溶液(比較例5)を、それぞれ調製して凝固剤溶液として使用した以外は、実施例1と同様にして、積層体(保護手袋)を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1に示すように、重合体ラテックス(ディップ成形用ラテックス組成物)中の重合体を凝固させるための凝固剤溶液として、溶媒中に、凝固剤0.2〜7.0重量%、および有機酸0.1〜7.0重量%を溶解または分散させてなるものを用いて得られた積層体は、いずれも、柔軟性および耐摩耗性に優れ、しかも、裏抜けおよび酢酸臭が確認されないものであった(実施例1〜6)。
一方、凝固剤の含有割合が上記範囲であっても、有機酸を含有しない凝固剤溶液を用いて得られた積層体は、柔軟性に劣るものであった(比較例1)。
有機酸の含有割合が上記範囲であっても、凝固剤を含有しない凝固剤溶液を用いて得られた積層体は、柔軟性に劣り、しかも裏抜けが発生してしまうものであった(比較例2)。
凝固剤の含有割合が小さすぎであり、かつ、有機酸を含有しない凝固剤溶液を用いて得られた積層体は、柔軟性に劣り、しかも裏抜けが発生してしまうものであった(比較例3)。
凝固剤の含有割合が大きすぎであり、かつ、有機酸を含有しない凝固剤溶液を用いて得られた積層体は、柔軟性および耐摩耗性に劣るものであった(比較例4)。
凝固剤の含有割合および有機酸の含有割合がいずれも大きすぎる凝固剤溶液を用いて得られた積層体は、耐摩耗性に劣り、しかも酢酸臭が確認されてしまうものであった(比較例5)。
図1