【実施例】
【0019】
実施例1
図1に示すような誘導結合プラズマタンデム四重極質量分析計(ICP−QMS/QMS)(アジレント社、Agilent−8800型ICP−QMS/QMS装置)の反応セルにO
3を供給できるようにして、以下のようにして元素分析を行った。m/z=138のイオンが通過するようにQMS1を、m/z=2〜260のイオンが通過するようにQMS2をそれぞれ設定した。質量分析用のバリウム標準液と硝酸を混合して、バリウムが1mg/kg、硝酸が2質量%となるような試料液を作製した。
【0020】
反応セルにO
3を含む反応ガスまたはO
2を1.0mL/分で供給しながら、この試料液をこの装置に投入した。なお、O
3を含む反応ガスは、オゾン発生器にO
2を供給して、O
3の濃度を約10質量%にしたものである。すなわち、O
3を含む反応ガスは、約10質量%のO
3と約90質量%のO
2の混合ガスである。オゾン発生器の稼働と非稼働を切り替えることによって、反応セルにO
3とO
2の混合ガス(以下、実施例1から実施例4で単に「O
3」と記載することがある)またはO
2のみ(以下、実施例1から実施例4で単に「O
2」と記載することがある)をそれぞれ供給した。
【0021】
検出部で計測した信号強度を
図2に示す。なお、
図2では、2質量%硝酸水溶液の信号強度を引いた値を示している。また、
図2では、m/z=2〜260のうち、信号強度が高いm/zを選択して示している。これらは、実施例2から実施例4でも同様である。
図2に示すように、O
2を供給した場合では、
138Ba
+(m/z=138)の高い信号強度が観測された。これに対して、O
3を供給した場合では、
138Ba
+(m/z=138)の信号強度がかなり減少した。O
3が高い反応性を備えているからだと考えられる。
【0022】
なお、下記に示すように、反応セルに導入された
138Ba
+(m/z=138)は、O
3と反応をしてBaイオン生成物を生成し、質量電荷比が大きく変化した。
138Ba
+ →
138Ba
16O
+ (m/z=154)
138Ba
+ →
138Ba
16O
1H
+ (m/z=155)
138Ba
+ →
138Ba
14N
16O
3+ (m/z=200)
138Ba
+ →
138Ba
14N
16O
51H
+ (m/z=218)
【0023】
実施例2
m/z=133のイオンが通過するようにQMS1を設定したことを除いて、実施例1と同様にして、セシウム標準液を含有する試料液の元素分析を行った。その結果を
図3に示す。
図3に示すように、O
3とO
2のいずれを供給した場合でも、
133Cs
+(m/z=133)の高い信号強度が観測された。一方、他の質量電荷比では、信号強度が極めて低かった。
【0024】
実施例1と実施例2より、BaイオンはO
3と反応してBaイオン生成物となって質量電荷比が大きく変化したのに対して、CsイオンはO
3とほとんど反応せずに質量電荷比が変化しなかった。したがって、質量電荷比が同程度のBaイオンとCsイオンが混在する反応セルにO
3を供給すれば、Baイオンの質量電荷比が大きく変化し、質量電荷比に応じて、Csイオンから分離できる。分離されたBaイオン生成物を分析することによって、Csイオンをほとんど含まないBaイオンの分析結果が得られる。これに代えて、CsイオンをBaイオン生成物から分離して、Baイオンをほとんど含まないCsイオンの分析結果を得てもよい。また、反応セルにO
2を供給しても、BaイオンとCsイオンを質量電荷比に応じて精度よく分離できないことも確認できた。
【0025】
実施例3
m/z=88のイオンが通過するようにQMS1を設定したことを除いて、実施例1と同様にして、ストロンチウム標準液を含有する試料液の元素分析を行った。その結果を
図4に示す。
図4に示すように、O
2を供給した場合では、
88Sr
+(m/z=88)の高い信号強度が観測された。これに対して、O
3を供給した場合では、
88Sr
+(m/z=88)の信号強度がかなり減少した。
88Sr
+がO
3と反応して、Srイオン生成物となって質量電荷比が大きく変化したことがわかった。
【0026】
実施例4
m/z=85のイオンが通過するようにQMS1を設定したことを除いて、実施例1と同様にして、ルビジウム標準液を含有する試料液の元素分析を行った。その結果を
図5に示す。
図5に示すように、O
3とO
2のいずれを供給した場合でも、
85Rb
+(m/z=85)の高い信号強度が観測された。一方、他の質量電荷比では、信号強度が極めて低かった。
【0027】
実施例3と実施例4より、SrイオンはO
3と反応してSrイオン生成物となって質量電荷比が大きく変化したのに対して、RbイオンはO
3とほとんど反応せずに質量電荷比が変化しなかった。したがって、質量電荷比が同程度のSrイオンとRbイオンが混在する反応セルにO
3を供給すれば、Srイオンの質量電荷比が大きく変化し、質量電荷比に応じて、Rbイオンから分離できる。分離されたSrイオン生成物を分析することによって、Rbイオンをほとんど含まないSrイオンの分析結果が得られる。なお、RbイオンをSrイオン生成物から分離して、Srイオンをほとんど含まないRbイオンの分析結果を得てもよい。また、反応セルにO
2を供給しても、SrイオンとRbイオンを質量電荷比に応じて精度よく分離できないことも確認できた。
【0028】
実施例5
図1に示す質量分析計のオゾン発生器と反応セルの間の反応ガス導入管にN
2導入管を接続した。オゾン発生器に流量0.35mL/分でO
2を供給し、反応ガス導入管に流量0.7mL/分でN
2を供給した。オゾン発生器を稼働したときには、O
3、O
2、およびN
2の混合ガス(以下、本実施例で単に「O
3」と記載することがある)が反応セルに導入され、オゾン発生器を稼働しなかったときには、O
2とN
2の混合ガス(以下、本実施例で単に「O
2」と記載することがある)が反応セルに導入された。
【0029】
反応セルにO
3またはO
2を供給しながら、
52Cr
+、
55Mn
+、
56Fe
+、
59Co
+、
60Ni
+、
72Ge
+、または
77Se
+の各元素イオンM
+を含む試料液をこの装置に投入し、QMS1経由で反応セルにM
+をそれぞれ導入した。反応セルにO
3とO
2のどちらを供給したときでも、反応セルでM
+の一部が酸化物イオンMO
+となった。すなわち、例えば
52Cr
+の一部が
52Cr
16O
+となった。そして、QMS2を通過したM
+とMO
+の信号強度を検出器でそれぞれ計測した。
【0030】
各元素Mについて、検出器で測定されたM
+の信号強度に対するMO
+の信号強度の比、つまり、MO
+の信号強度/M
+の信号強度(以下単に「MO
+/M
+」と記載することがある)を
図6に示す。なお、MO
+は、
52Cr
16O
+、
55Mn
16O
+、
56Fe
16O
+、
59Co
16O
+、
60Ni
16O
+、
72Ge
16O
+、または
77Se
16O
+を示している。
図6に示すように、反応セルにO
3を供給したときのMO
+/M
+は、反応セルにO
2を供給したときのMO
+/M
+の約2倍〜8倍だった。
【0031】
これらの結果から、本発明の質量分析装置または質量分析方法を用いることによって、
52Cr
+、
55Mn
+、
56Fe
+、
59Co
+、
60Ni
+、
72Ge
+、または
77Se
+を分析するときに、これらの各元素イオンと、これらの各元素イオンと同程度の質量電荷比を有する他の元素イオンを分離できる。すなわち、本発明の質量分析装置または質量分析方法を用いることによって、
2Cr
+、
55Mn
+、
56Fe
+、
59Co
+、
60Ni
+、
72Ge
+、または
77Se
+の分析感度の向上が期待できる。