特許第6924511号(P6924511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6924511
(24)【登録日】2021年8月4日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】質量分析方法と質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20210812BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20210812BHJP
【FI】
   H01J49/42
   G01N27/62 V
   G01N27/62 Z
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-542040(P2019-542040)
(86)(22)【出願日】2018年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2018033423
(87)【国際公開番号】WO2019054325
(87)【国際公開日】20190321
【審査請求日】2019年11月27日
(31)【優先権主張番号】特願2017-177729(P2017-177729)
(32)【優先日】2017年9月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】朱 彦北
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−526723(JP,A)
【文献】 特表2016−507151(JP,A)
【文献】 特開2003−249431(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/173911(WO,A1)
【文献】 特開2017−026620(JP,A)
【文献】 特開2015−052561(JP,A)
【文献】 特開2010−054423(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0260684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的イオンと干渉イオンが導入される反応セルと、
前記反応セルに接続されたオゾン発生部と、
前記反応セルで前記目的イオンがオゾンと反応して生じ、前記目的イオンと酸素を含む目的イオン生成物が、質量電荷比に応じて、前記干渉イオンから分離される質量分離部と、
前記質量分離部で分離された前記目的イオン生成物の信号強度を計測する計測部と、
を有する質量分析装置。
【請求項2】
目的イオンと干渉イオンが導入される反応セルと、
前記反応セルに接続されたオゾン発生部と、
前記目的イオンが、質量電荷比に応じて、前記反応セルで前記干渉イオンがオゾンと反応して生じた干渉イオン生成物から分離される質量分離部と、
前記質量分離部で分離された前記目的イオンの信号強度を計測する計測部と、
を有する質量分析装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
質量電荷比に応じて、前記目的イオンおよび前記干渉イオンを各種イオンから分離して前記反応セルに導入する他の質量分離部をさらに有する質量分析装置。
【請求項4】
目的イオンおよび干渉イオンにオゾンを供給し、前記目的イオンとオゾンの反応生成物であり、前記目的イオンと酸素を含む目的イオン生成物を得る反応工程と、
質量電荷比に応じて、前記目的イオン生成物を前記干渉イオンから分離する質量分離工程と、
前記質量分離工程で分離された前記目的イオン生成物の信号強度を計測する計測工程と、
を有する質量分析方法。
【請求項5】
目的イオンおよび干渉イオンにオゾンを供給し、前記干渉イオンとオゾンとの反応生成物である干渉イオン生成物を得る反応工程と、
質量電荷比に応じて、前記干渉イオン生成物を前記目的イオンから分離する質量分離工程と、
前記質量分離工程で分離された前記干渉イオン生成物の信号強度を計測する計測工程と、
を有する質量分析方法。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記目的イオンがCsイオンとBaイオンの一方で、前記干渉イオンがCsイオンとBaイオンの他方である質量分析方法。
【請求項7】
請求項4または5において、
前記目的イオンがSrイオンとRbイオンの一方で、前記干渉イオンがSrイオンとRbイオンの他方である質量分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学分析手法の一種である質量分析法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
質量分析法は、分析対象である目的イオンの質量数mと電荷zの比、すなわち質量電荷比m/zに基づいて分析する手法である。目的イオンと同程度の質量電荷比を有する非目的イオンは干渉イオンとなる。目的イオンを正確に分析するためには、非目的イオンの干渉を除去しなければならない。高分解能質量分析計を用いれば、目的イオンを干渉イオンから分離できる。しかし、目的イオンと干渉イオンの質量電荷比がわずかに違う場合では、高分解能質量分析計を用いても、これらの分離が困難である。
【0003】
反応セル技術または衝突セル技術では、目的イオンまたは干渉イオンと反応ガス分子を反応させて、目的イオンまたは干渉イオンを別の物質に変換することによって、目的イオンを干渉イオンから分離できる。例えば、目的イオンが32で干渉イオンが16の場合、どちらも質量電荷比が32である。そこで、3216の共存下で、3216を反応させて、323216に変換する。そして、質量電荷比が48と32に基づいて321616から分離すれば、目的イオンが正確に分析できる。反応セル技術では、高分解能質量分析計よりも高い分離効果が得られる。しかしながら、反応セル技術では、既存の反応ガスを利用して十分な反応性が得られない場合がある。例えば、非特許文献1によるとBaとOは反応しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Gas-phase ion-molecule reactions for resolution of atomic isobars: AMS and ICP-MS perspectives, International Journal of Mass Spectrometry, 2006, 255-256, p.312-327
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、活性化された反応ガスを目的イオンまたは干渉イオンと反応させ、目的イオンを干渉イオンから分離して、目的イオンの正確な分析ができる質量分析方法と質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の質量分析装置は、目的イオンと干渉イオンが導入される反応セルと、反応セルに接続されたオゾン発生部と、反応セルで目的イオンがオゾンと反応して生じた目的イオン生成物が、質量電荷比に応じて、干渉イオンから分離される質量分離部と、質量分離部で分離された目的イオン生成物の信号強度を計測する計測部とを有する。
【0007】
本発明の他の質量分析装置は、目的イオンと干渉イオンが導入される反応セルと、反応セルに接続されたオゾン発生部と、目的イオンが、質量電荷比に応じて、反応セルで干渉イオンがオゾンと反応して生じた干渉イオン生成物から分離される質量分離部と、質量分離部で分離された目的イオンの信号強度を計測する計測部とを有する。
【0008】
本発明の質量分析方法は、目的イオンおよび干渉イオンにオゾンを供給し、目的イオンとオゾンの反応生成物である目的イオン生成物を得る反応工程と、質量電荷比に応じて、目的イオン生成物を干渉イオンから分離する質量分離工程と、質量分離工程で分離された目的イオン生成物の信号強度を計測する計測工程とを有する。
【0009】
本発明の他の質量分析方法は、目的イオンおよび干渉イオンにオゾンを供給し、干渉イオンとオゾンとの反応生成物である干渉イオン生成物を得る反応工程と、質量電荷比に応じて、干渉イオン生成物を目的イオンから分離する質量分離工程と、質量分離工程で分離された干渉イオン生成物の信号強度を計測する計測工程とを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、質量分析法において、質量電荷比が干渉イオンと同程度の目的イオンを、干渉イオンから高精度で分離できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る質量分析装置の原理図。
図2】質量電荷比に対するBaイオンおよびBaイオン生成物の信号強度を示すグラフ(実施例1)。
図3】質量電荷比に対するCsイオンおよびCsイオン生成物の信号強度を示すグラフ(実施例2)。
図4】質量電荷比に対するSrイオンおよびSrイオン生成物の信号強度を示すグラフ(実施例3)。
図5】質量電荷比に対するRbイオンおよびRbイオン生成物の信号強度を示すグラフ(実施例4)。
図6】Mの信号強度に対するMOの信号強度の比を示すグラフ(実施例5)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る質量分析装置の原理を示している。この質量分析装置は、イオンレンズと、第一の質量分離部であるQMS1と、反応セルと、オゾン発生部であるオゾン発生器と、第二の質量分離部であるQMS2と、計測部を備える検出器を有している。イオンレンズは、各種イオンを収束して、QMS1に導入する。QMS1は、質量電荷比m/zに応じて、質量電荷比が同程度の目的イオンおよび干渉イオンを、各種イオンから分離して反応セルに導入する。
【0013】
反応セルは、QMS1で分離された目的イオンと干渉イオンが導入される。オゾン発生器は反応セルに接続されており、取り込んだ酸素ガスOをオゾンOに変換して反応セルに供給する。反応セルでは、目的イオンがOと反応して目的イオン生成物が生じる。なお、目的イオン生成物は、目的イオンと酸素以外の元素を含んでいてもよい。例えば、目的イオン138Ba(m/z=138)がOと反応すると、138Ba16(m/z=155)や138Ba1416(m/z=200)等の目的イオン生成物が得られる。このように、反応セルに不可避的に存在するHやNも目的イオン生成物の構成元素となり得る。
【0014】
反応セルにOを供給しても目的イオンとほとんど反応しない場合でも、反応セルにOを供給することによって、目的イオンがOと反応して目的イオン生成物が得られる。なお、オゾン発生器が窒素ガスNとOを取り込んで、NOを反応セルに供給してもよい。NOも目的イオンと干渉イオンの一方と反応して、その一方のイオンの質量電荷比を変化させると考えられる。質量電荷比が同程度の目的イオンと干渉イオンの組み合わせとして、CsイオンとBaイオン、BaイオンとCsイオン、SrイオンとRbイオン、およびRbイオンとSrイオン等がそれぞれ例示される。QMS2では、目的イオン生成物が、質量電荷比に応じて、干渉イオンから分離される。検出器では、QMS2で分離された目的イオン生成物の信号強度を計測する。本実施形態に係る質量分析装置は、通常の質量分析装置の反応セルにオゾン発生器を接続して作製してもよい。
【0015】
なお、本実施形態では、質量電荷比が同程度の目的イオンと干渉イオンを反応セルに存在させ、反応セルで目的イオンをOと反応させて目的イオン生成物を得る。そして、目的イオン、すなわち干渉イオンと質量電荷比が大きく異なるようになった目的イオン生成物を、質量電荷比に応じて干渉イオンから分離し、分離された目的イオン生成物の信号強度を計測することで目的イオンを分析する。これに代えて、反応セルで干渉イオンをOと反応させて干渉イオン生成物を得て、干渉イオン、すなわち目的イオンと質量電荷比が大きく異なるようになった干渉イオン生成物から、質量電荷比に応じて目的イオンを分離し、分離された目的イオンを分析してもよい。
【0016】
すなわち、本発明の他の実施形態に係る質量分析装置は、目的イオンと干渉イオンが導入される反応セルと、反応セルにオゾンを供給するオゾン発生部であるオゾン発生器と、目的イオンが、質量電荷比に応じて、反応セルで干渉イオンがオゾンと反応して生じた干渉イオン生成物から分離される質量分離部であるQMS2と、QMS2で分離された目的イオンの信号強度を計測する計測部を備える検出器を有する。
【0017】
本発明の実施形態に係る質量分析方法は、各実施形態の質量分析装置を使用してもよいし、使用しなくてもよい。本実施形態の質量分析方法は、反応工程と、質量分離工程と、計測工程とを備えている。反応工程では、目的イオンおよび干渉イオンにオゾンを供給し、目的イオンとオゾンの反応生成物である目的イオン生成物を得る。質量分離工程では、質量電荷比に応じて、目的イオン生成物を干渉イオンから分離する。計測工程では、質量分離工程で分離された目的イオン生成物の信号強度を計測する。なお、各実施形態の質量分析装置を使用する場合、反応工程、質量分離工程、および計測工程は、反応セル、QMS2、および検出器でそれぞれ行われる。
【0018】
この方法に代えて、目的イオンおよび干渉イオンにオゾンを供給し、干渉イオンとオゾンとの反応生成物である干渉イオン生成物を得て、質量電荷比に応じて目的イオンを干渉イオン生成物から分離し、分離された目的イオンの信号強度を計測してもよい。本実施形態の質量分析方法では、質量電荷比が同程度の目的イオンと干渉イオンの一方をOと反応させて、この一方の質量電荷比を大きく変えるので、目的イオンを干渉イオンから高精度で分離できる。このため、目的イオンに干渉イオンがほとんど混入していない状態で、目的イオンの分析が可能となる。
【実施例】
【0019】
実施例1
図1に示すような誘導結合プラズマタンデム四重極質量分析計(ICP−QMS/QMS)(アジレント社、Agilent−8800型ICP−QMS/QMS装置)の反応セルにOを供給できるようにして、以下のようにして元素分析を行った。m/z=138のイオンが通過するようにQMS1を、m/z=2〜260のイオンが通過するようにQMS2をそれぞれ設定した。質量分析用のバリウム標準液と硝酸を混合して、バリウムが1mg/kg、硝酸が2質量%となるような試料液を作製した。
【0020】
反応セルにOを含む反応ガスまたはOを1.0mL/分で供給しながら、この試料液をこの装置に投入した。なお、Oを含む反応ガスは、オゾン発生器にOを供給して、Oの濃度を約10質量%にしたものである。すなわち、Oを含む反応ガスは、約10質量%のOと約90質量%のOの混合ガスである。オゾン発生器の稼働と非稼働を切り替えることによって、反応セルにOとOの混合ガス(以下、実施例1から実施例4で単に「O」と記載することがある)またはOのみ(以下、実施例1から実施例4で単に「O」と記載することがある)をそれぞれ供給した。
【0021】
検出部で計測した信号強度を図2に示す。なお、図2では、2質量%硝酸水溶液の信号強度を引いた値を示している。また、図2では、m/z=2〜260のうち、信号強度が高いm/zを選択して示している。これらは、実施例2から実施例4でも同様である。図2に示すように、Oを供給した場合では、138Ba(m/z=138)の高い信号強度が観測された。これに対して、Oを供給した場合では、138Ba(m/z=138)の信号強度がかなり減少した。Oが高い反応性を備えているからだと考えられる。
【0022】
なお、下記に示すように、反応セルに導入された138Ba(m/z=138)は、Oと反応をしてBaイオン生成物を生成し、質量電荷比が大きく変化した。
138Ba138Ba16 (m/z=154)
138Ba138Ba16 (m/z=155)
138Ba138Ba1416 (m/z=200)
138Ba138Ba1416 (m/z=218)
【0023】
実施例2
m/z=133のイオンが通過するようにQMS1を設定したことを除いて、実施例1と同様にして、セシウム標準液を含有する試料液の元素分析を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、OとOのいずれを供給した場合でも、133Cs(m/z=133)の高い信号強度が観測された。一方、他の質量電荷比では、信号強度が極めて低かった。
【0024】
実施例1と実施例2より、BaイオンはOと反応してBaイオン生成物となって質量電荷比が大きく変化したのに対して、CsイオンはOとほとんど反応せずに質量電荷比が変化しなかった。したがって、質量電荷比が同程度のBaイオンとCsイオンが混在する反応セルにOを供給すれば、Baイオンの質量電荷比が大きく変化し、質量電荷比に応じて、Csイオンから分離できる。分離されたBaイオン生成物を分析することによって、Csイオンをほとんど含まないBaイオンの分析結果が得られる。これに代えて、CsイオンをBaイオン生成物から分離して、Baイオンをほとんど含まないCsイオンの分析結果を得てもよい。また、反応セルにOを供給しても、BaイオンとCsイオンを質量電荷比に応じて精度よく分離できないことも確認できた。
【0025】
実施例3
m/z=88のイオンが通過するようにQMS1を設定したことを除いて、実施例1と同様にして、ストロンチウム標準液を含有する試料液の元素分析を行った。その結果を図4に示す。図4に示すように、Oを供給した場合では、88Sr(m/z=88)の高い信号強度が観測された。これに対して、Oを供給した場合では、88Sr(m/z=88)の信号強度がかなり減少した。88SrがOと反応して、Srイオン生成物となって質量電荷比が大きく変化したことがわかった。
【0026】
実施例4
m/z=85のイオンが通過するようにQMS1を設定したことを除いて、実施例1と同様にして、ルビジウム標準液を含有する試料液の元素分析を行った。その結果を図5に示す。図5に示すように、OとOのいずれを供給した場合でも、85Rb(m/z=85)の高い信号強度が観測された。一方、他の質量電荷比では、信号強度が極めて低かった。
【0027】
実施例3と実施例4より、SrイオンはOと反応してSrイオン生成物となって質量電荷比が大きく変化したのに対して、RbイオンはOとほとんど反応せずに質量電荷比が変化しなかった。したがって、質量電荷比が同程度のSrイオンとRbイオンが混在する反応セルにOを供給すれば、Srイオンの質量電荷比が大きく変化し、質量電荷比に応じて、Rbイオンから分離できる。分離されたSrイオン生成物を分析することによって、Rbイオンをほとんど含まないSrイオンの分析結果が得られる。なお、RbイオンをSrイオン生成物から分離して、Srイオンをほとんど含まないRbイオンの分析結果を得てもよい。また、反応セルにOを供給しても、SrイオンとRbイオンを質量電荷比に応じて精度よく分離できないことも確認できた。
【0028】
実施例5
図1に示す質量分析計のオゾン発生器と反応セルの間の反応ガス導入管にN導入管を接続した。オゾン発生器に流量0.35mL/分でOを供給し、反応ガス導入管に流量0.7mL/分でNを供給した。オゾン発生器を稼働したときには、O、O、およびNの混合ガス(以下、本実施例で単に「O」と記載することがある)が反応セルに導入され、オゾン発生器を稼働しなかったときには、OとNの混合ガス(以下、本実施例で単に「O」と記載することがある)が反応セルに導入された。
【0029】
反応セルにOまたはOを供給しながら、52Cr55Mn56Fe59Co60Ni72Ge、または77Seの各元素イオンMを含む試料液をこの装置に投入し、QMS1経由で反応セルにMをそれぞれ導入した。反応セルにOとOのどちらを供給したときでも、反応セルでMの一部が酸化物イオンMOとなった。すなわち、例えば52Crの一部が52Cr16となった。そして、QMS2を通過したMとMOの信号強度を検出器でそれぞれ計測した。
【0030】
各元素Mについて、検出器で測定されたMの信号強度に対するMOの信号強度の比、つまり、MOの信号強度/Mの信号強度(以下単に「MO/M」と記載することがある)を図6に示す。なお、MOは、52Cr1655Mn1656Fe1659Co1660Ni1672Ge16、または77Se16を示している。図6に示すように、反応セルにOを供給したときのMO/Mは、反応セルにOを供給したときのMO/Mの約2倍〜8倍だった。
【0031】
これらの結果から、本発明の質量分析装置または質量分析方法を用いることによって、52Cr55Mn56Fe59Co60Ni72Ge、または77Seを分析するときに、これらの各元素イオンと、これらの各元素イオンと同程度の質量電荷比を有する他の元素イオンを分離できる。すなわち、本発明の質量分析装置または質量分析方法を用いることによって、Cr55Mn56Fe59Co60Ni72Ge、または77Seの分析感度の向上が期待できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6