特許第6925165号(P6925165)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 特許6925165-スパッタリングターゲット 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925165
(24)【登録日】2021年8月5日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20210812BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20210812BHJP
   C04B 35/053 20060101ALI20210812BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20210812BHJP
   G11B 5/851 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C23C14/06 L
   C04B35/053
   C04B35/52
   G11B5/851
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-100196(P2017-100196)
(22)【出願日】2017年5月19日
(65)【公開番号】特開2018-193598(P2018-193598A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2020年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】下宿 彰
(72)【発明者】
【氏名】高見 英生
【審査官】 山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−039965(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099832(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/029702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C04B 35/053
C04B 35/52
C23C 14/06
G11B 5/851
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分からなり、
MgO;
C;及び
不可避的不純物;、
比抵抗が1.1Ω・cm以下であ
相対密度が65%以上である、
スパッタリングターゲット。
【請求項2】
C量が20以上85mol%以下であるスパッタリングターゲット。
【請求項3】
相対密度が85%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
粒径5μm以上のC粒子が、1mm2あたり0から10000個であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
請求項1〜4のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
以下の粉末を混合する工程と、
MgO;並びに
粒径5μm以上のC粉末及び/又は粒径0.1μm以下のC粉末;
混合物を成形及び焼結する工程と
を含む、該方法。
【請求項6】
磁気媒体の製造方法であって、請求項1〜4のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行う工程を含む、該方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットに関する。より具体的には、MgO含有スパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年ハードディスクドライブ等の磁気記録は高容量化が進んでいる。これを実現すべく、L10構造を持つFePt相が超高密度記録媒体用材料として注目されている。この技術においては、FePt層を含む磁気記録層と基板との間に下地層を設け、この下地層が、FePt層の配向の促進及び保磁に寄与する。
【0003】
そしてFePt層を超高密度記録媒体用材料として使用する場合には、規則化したFePt磁性粒子を磁気的に孤立させた状態で出来るだけ高密度に方位をそろえて分散させるという技術の開発が求められている。FePt薄膜に磁気異方性を付与するためには、結晶方向を制御することが必要とされるが、これは単結晶基板を選択することで容易に可能となる。磁化容易軸を垂直に配向させるには、FePt層の下地層として酸化マグネシウム膜が適していることが報告されている。
【0004】
国際公開2013/099832号明細書においては、高純度化及び密度化の期待の要求にこたえるべく、原料粉の選択、焼結条件を最適に設定することを提案している。
【0005】
また、Varaprasadらは、MgO層とFePtC層との間に、MgO−C層を設けることを提案している。そして、MgO−C層の状態によって、MgO粒子とFePt粒子の1対1の成長を可能にすることが記載されている。また、MgO−C層の炭素濃度を制御することで、FePt粒子のサイズを制御できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2013/099832号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B.S.D.Ch.S.Varaprasad et al. AIP ADVANCES 7,056503(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、MgO−C層は、FePtの粒子成長に大きく寄与し、高容量化を促進することが期待されている。MgO−C層を形成するための技術としてスパッタリングが挙げられる。
【0009】
スパッタリングには、DCスパッタリング、RFスパッタリング等が挙げられる。この中で効率の良い手法はDCスパッタリングである。しかし、ターゲット材が絶縁性である場合、又は抵抗が大きい場合には、DCスパッタリングを適用することが困難である。特にMgO自体は絶縁性であるため、そのままではDCスパッタリングが困難である。実際、非特許文献1(Experimental欄)においては、共スパッタリングをおこなっており、MgOをRFスパッタ、CをDCスパッタリングしている。
【0010】
本発明は、以上の事情に鑑み、DCスパッタリングすることが可能なMgO−C含有スパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者が鋭意研究した結果、特定の炭素粉末を適切に配合することで、比抵抗が低くなり、DCスパッタリングが可能になることを見出した。こうした知見により、本発明は以下のように特定される。
【0012】
(発明1)
以下の成分からなり、
MgO;
C;及び
不可避的不純物;、
比抵抗が1.1Ω・cm以下である、
スパッタリングターゲット。
(発明2)
C量が20以上85mol%以下であるスパッタリングターゲット。
(発明3)
相対密度が65%以上であることを特徴とする発明1又は2に記載のスパッタリングターゲット。
(発明4)
粒径5μm以上のC粒子が、1mm2あたり0から10000個であることを特徴とする発明1〜3のいずれか1項記載のスパッタリングターゲット。
(発明5)
発明1〜4のスパッタリングターゲットの製造方法であって、
以下の粉末を混合する工程と、
MgO;並びに
粒径5μm以上のC粉末及び/又は粒径0.1μm以下のC粉末;
混合物を成形及び焼結する工程と
を含む、該方法。
(発明6)
磁気媒体の製造方法であって、発明1〜4のスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行う工程を含む、該方法。
【発明の効果】
【0013】
一側面において、本発明のターゲット材は、比抵抗が低く、これによりDCスパッタリングが可能となる。また、一側面において、特定のサイズの炭素を含めることで更に比抵抗が低くなり、一層効率的なDCスパッタリングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】C粒子の計測方法を説明するための電子顕微鏡写真及びEDS分析によるCの面分析像を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための具体的な実施形態について説明する。以下の説明は、本発明の理解を促進するためのものである。即ち、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0016】
1. ターゲット材の特性及び組成
(1)組成
本発明の一実施形態において、ターゲット材は、MgO、C及び不可避的不純物からなる。
【0017】
本発明の一実施形態において、MgOの含有量は、15〜80mol%、好ましくは、より好ましくは60mol%以下、更に好ましくは40mol%以下であってもよい。80mol%超になると比抵抗が高くなりDCスパッタリングが困難になる。15mol%未満だと、FePt層とMgO層との中間層としての機能が低下し好ましくない。
【0018】
本発明の一実施形態において、Cの合計含有量は、20〜85mol%、より好ましくは40mol%以上、更に好ましくは60mol%以上であってもよい。85mol%超になると、相対的にMgOの含有量が低くなり、FePt層とMgO層との中間層としての機能が低下し好ましくない。20mol%未満だと、FePt層の粒子の制御が困難となる。
【0019】
本発明の一実施形態において、上記以外の成分として、以下の元素を含んでもよい: Cu、Fe、Mn、Zn、Na、K、Pb、Cd及びこれらの組合せ。これらの元素は、本発明の目的を損なわない範囲で含むことができる。あるいは、本発明の一実施形態において、これらの元素は不可避的不純物として含まれてもよい。不可避的不純物としての含有量は、1000質量ppm以下、好ましくは500質量ppm以下(全ての不可避的不純物元素の合計量)である。下限値については特に規定されず、0質量ppm以上であってもよい。
【0020】
ターゲット材の元素分析は、当分野で公知の手法で行うことができる。例えば、以下の手法で行うことができる。例えば、ターゲット材自身、又は焼結体の端材(ターゲット形状に加工する際に余った切れ端)を試料として利用することができる。まず、なるべくターゲット中心に近い箇所から採取した5g程度の試料を粉末化する。O及びCについては粉末を加熱しガス化した後に赤外吸光法(LECO社製、Oについては、TC600、Cについては、CSLS600)を用いて測定を行う。Mgなどの金属元素については粉末を酸などで溶解し、ICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製のSPS3100HV)を用いて分析をする。そして、Mgの量を測定することで、MgOの量を算出することができる。
【0021】
(2)比抵抗
一実施形態において、本発明のターゲット材は、比抵抗が、1.1Ω・cm以下、好ましくは0.2Ω・cm以下、更に好ましくは、0.03Ω・cm以下である。上記比抵抗であることにより、DCスパッタリングが可能となる。そして、DCスパッタリングが可能であることにより効率よく薄膜を生成することができる。下限値について特に規定されないが、典型的には0.001mΩ・cm以上である。本発明における比抵抗は、薄膜の場合も含めて、四探針法により測定した値とする。
【0022】
(3)相対密度
一実施形態において、本発明のターゲット材は、相対密度が65%以上、好ましくは、85%以上、更に好ましくは、90%以上である。これにより、スパッタ時のアーキングの発生が抑制される。相対密度が高いと、アーキングの発生が更に抑制される。上限値については、特に規定されないが、典型的には、100%以下、又は99%以下であってもよい。なお、本明細書で言及する相対密度は、実測密度と理論密度との比を指す。実測密度については、純水を溶媒として用いたアルキメデス法にて測定を行った値を指す。理論密度は、下記の通り、原料の単体密度それぞれに混合質量比を掛け、得られた値の総和とする。
理論密度=Σ{(成分nの理論密度×混合質量比)}
【0023】
(4)粒子の個数
一実施形態において、本発明のターゲット材は、直径5μm以上の粗大なC粒子の1平方mmあたりの個数が、0から10000個である。より好ましくは500〜7900個である。
【0024】
なお、上記C粒子の個数は、以下のように測定した値をさす:即ち、ターゲット材の一部又は焼結材の端材を試料として採取し、平坦な鏡面が得られるまで研磨する。そして、研磨した面をSEMで観察したときの二次電子像やEDSによる面分析画像(図1)の視野内において、粒子断面の面積を円に換算した時の直径を粒径とし、視野内で観察された5μm以上の粗大なC粒子の数を数える。次に、二次電子像やEDSによる面分析画像のスケールに基づき視野の面積を算出し、1mm2当たりのCの個数に換算する。
【0025】
2. ターゲット材の製造方法
(1)原料
一実施形態において、本発明のターゲット材は、原料として、MgO、及びC粉末を使用することができる。
【0026】
MgOについては、特に限定されず、一般的に入手可能な粉末を利用することができる。含有量については、上述した組成になるようMgOの量を調整すればよい。また、MgOについては、粉末の粒径は特に限定されないが、典型的には、1〜5μmの範囲の物を使用することができる。
【0027】
C粉末については、粗大C粉末及び/又は微細C粉末を用いることができる。なお、本明細書で述べる粗大C粉末は、粒径5μm以上の粗大なC粒子を指す。粗大C粉末の粒径の上限値については特に規定されないが、典型的には、30μm以下、より好ましくは、10μm以下である。
【0028】
また、本明細書で述べる微細C粉末は、粒径0.1μm以下の微細なC粒子を指す。微細C粉末の粒径の下限値については、特に限定されないが、典型的には、0.01μm以上、より好ましくは、0.05μm以上である。この微細C粉末を添加することで、ターゲット材の比抵抗を下げることができる。
【0029】
なお、本明細書で述べるMgO粉末及びC粉末の粒径は、レーザー回折法(HORIBA社製LA−920)によって測定されたメジアン径をさす。
【0030】
粗大C粉末の量は、特に限定されないが、好ましくは、0mol%〜85mol%、より好ましくは、40mol%以上である。粗大C粉末の量が0mol%である場合には、後述する微細C粉末を添加することが好ましい。
【0031】
微細C粉末の量は、特に限定されないが、好ましくは、0mol%〜80mol%、より好ましくは、40mol%以上である。微細C粉末の量が0mol%である場合には、上述する粗大C粉末を添加することが好ましい。
【0032】
(2)製造工程
MgO粉末及び所定のサイズのC粉末を混合する。原料粉末の混合処理は、特に限定されないが、典型的には乳鉢で混合することができる。この方法だと、C粉末の粒径サイズに大きく影響を与えることなく混合することができる。
【0033】
次に、混合粉末を金型に充填し、面圧400〜1000kgf/cm2、1〜3分保持の条件で一軸プレスして、成型体を得る。面圧400kgf/cm2未満であると十分な密度の成形体を得ることができない。また、過度な面圧を加えても成形体の密度はある一定の値以上は向上しにくくなること、及び一軸プレスでは原理的に成形体内に密度分布が生じやすく、焼結時の変形や割れの原因となることから、1000kgf/cm2超の面圧は生産上特に必要とされない。
【0034】
次に、成形体を温度1300〜1500℃、保持時間5〜24時間、大気雰囲気又は酸素雰囲気で焼結を行い、焼結体を得ることができる。また成形・焼結工程においては、上述した方法以外にも、HP(ホットプレス)やHIP(熱間等方圧加圧法)を用いることができる。ホットプレスの条件は特に限定されないが、温度1300〜1500℃、圧力を、200〜500kgf/cm2の条件で行うことができる。
【0035】
以上のようにして得られた焼結体は、研削、研磨などの機械加工によりターゲットの形状に加工することができる。
【0036】
更には、ボンディング剤によりバッキングプレートと焼結体を結合させることで、スパッタリングターゲットを作成することができる。
【0037】
3. ターゲット材の使用
上記方法で得られたターゲット材は、比抵抗が充分に低い。従って、生産性の高いDCスパッタリングなどで利用することができる。
【0038】
また、一実施形態において、本発明は、上記ターゲット材を用いた、磁気媒体の製造方法を含む。例えば、前記製造方法は、基板(例:シリコン/ガラス基板)の上にMgOを含む層(典型的にはMgOから成る層)を形成する工程を含む。層を形成する際には、当分野で公知の技術を利用することができ、例えば、スパッタリングなどが挙げられる。
【0039】
更に前記製造方法は、本発明のターゲット材を用いてDCスパッタリングを行う工程を含むことができる。これにより、上述したMgOを含む層の上に、MgO−C層を形成することができる。スパッタリングの条件は特に限定されないが、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paで行うことができる。
【0040】
更に前記製造方法は、Fe及びPtを含む層(典型的にはFe−Pt−C層)を形成する工程を含むことができる。層を形成する際には、当分野で公知の技術を利用することができ、例えば、スパッタリングなどが挙げられる。
【0041】
以上の方法で、基板と、磁気記録層Fe及びPtを含む層(典型的にはFe−Pt−C層)と、下地層(MgOを含む層(典型的にはMgOから成る層))と、中間層(本発明のスパッタリングターゲットの組成と同じ組成を有するMgO−C層)を含む磁気媒体が製造される。
【実施例】
【0042】
表1に記載の条件に従って、MgO原料粉と、粒径5〜20μmのC粉末(粗粒C)と、粒径0.1μmのC粉末(微細粒C)とを乳鉢で混合した。得られた造粒粉を金型プレスで成形することにより、スパッタリングターゲットの成形体を得た。該成形体を、ホットプレス焼結(1300〜1400℃、330kgf/cm2)して焼結体を得た。その後、四探針法により比抵抗を測定した。更に、アルキメデス法に基づいて相対密度を測定した。また、焼結体を加工した際の余りを用いて研磨し、SEM観察及びEDS分析を行い、1mm2あたりの粗粒Cの個数を測定した。その後、スパッタパワー:0.5kW、Arガス圧:5Paの条件でDCスパッタリングを行った。アーキングが発生しないものをスパッタ可とし、それ以外をスパッタ不可と判定した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例1〜12のスパッタリングターゲットでは、いずれも比抵抗が充分低くなっていた。従って、DCスパッタリングが可能であった。また、相対密度も充分高く、アーキングの発生も十分抑制できた。また、実施例3〜6を比較し、或いは、実施例7〜8を比較し、或いは実施例10〜11を比較することにより、微細C粉末を添加することで、比抵抗を低下させることができることが示された。
【0045】
一方で、比較例1〜2では、C粉末の量が少なく、比抵抗が大きすぎてDCスパッタリングを行うことができなかった。比較例3は、MgO自体の量が不充分であったため、焼結しなかった。
【0046】
本明細書において、「又は」や「若しくは」という記載は、選択肢のいずれか1つのみを満たす場合や、全ての選択肢を満たす場合を含む。例えば、「A又はB」「A若しくはB」という記載の場合、Aを満たしBを満たさない場合と、Bを満たしAを満たさない場合と、Aを満たし且つBを満たす場合のいずれも包含することを意図する。
【0047】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明してきた。上記実施形態は、本発明の具体例に過ぎず、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、上述の実施形態の1つに開示された技術的特徴は、他の実施形態に提供することができる。また、特定の方法については、一部の工程を他の工程の順序と入れ替えることも可能であり、特定の2つの工程の間に更なる工程を追加してもよい。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって規定される。
図1