特許第6925616号(P6925616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6925616シーリング材吐出装置およびシーリング材吐出装置本体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6925616
(24)【登録日】2021年8月6日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】シーリング材吐出装置およびシーリング材吐出装置本体
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20210812BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   B05C5/00 101
   B05C11/10
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-127435(P2017-127435)
(22)【出願日】2017年6月29日
(65)【公開番号】特開2019-10602(P2019-10602A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 正道
(72)【発明者】
【氏名】土屋 健介
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−023916(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0001017(US,A1)
【文献】 特表2008−518702(JP,A)
【文献】 特開2006−341197(JP,A)
【文献】 特開2007−260565(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0224831(US,A1)
【文献】 友原健治,サーボモータの基礎知識,日本ロボット学会誌,日本,2007年,Vol.25,No.7,pp.1033-1035
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00−21/00
B65D 83/00,
83/08−83/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のカートリッジ内にシーリング材が充填されてプランジャにより封止されたプランジャ付カートリッジの前記プランジャをピストンによって押圧することにより前記シーリング材を前記カートリッジの先端に設けられたノズルから吐出するシーリング材吐出装置であって、
モータの回転により前記ピストンを前記カートリッジの軸方向に移動させる移動手段と、
前記シーリング材を前記ノズルから吐出させる際、前記ピストンが第1速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第1段階制御を実行し、前記第1段階制御の実行中に前記モータのトルクが閾値以上に至ると、前記ピストンが前記第1速度よりも遅い第2速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第2段階制御を実行する制御手段と、
を備え
前記閾値は、前記第2段階制御の実行中に前記モータのトルク値が安定しているときの前記トルク値よりも大きい値である、
シーリング材吐出装置。
【請求項2】
請求項記載のシーリング材吐出装置であって、
前記シーリング材には、解凍後に時間の経過に従って硬化する材料が用いられており、
前記閾値は、前記シーリング材の解凍からの時間が長いほど大きくなる傾向に設定される、
シーリング材吐出装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のシーリング材吐出装置であって、
前記モータは、三相交流電力により駆動される交流サーボモータであり、
前記制御手段は、前記モータに取り付けられた回転位置センサおよび電流センサにより検出される回転子の回転位置および各相の相電流を用いて前記モータを制御し、更に、前記回転子の回転位置および前記相電流を用いて前記モータのトルクを推定する、
シーリング材吐出装置。
【請求項4】
筒状のカートリッジ内にシーリング材が充填されてプランジャにより封止されたプランジャ付カートリッジが装着され、前記プランジャ付カートリッジの前記プランジャをピストンによって押圧することにより前記シーリング材を前記カートリッジの先端に設けられたノズルから吐出させるシーリング材吐出装置本体であって、
モータの回転により前記ピストンを前記カートリッジの軸方向に移動させる移動手段と、
前記シーリング材を前記ノズルから吐出させる際、前記ピストンが第1速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第1段階制御を実行し、前記第1段階制御の実行中に前記モータのトルクが閾値よりも大きくなると、前記ピストンが前記第1速度よりも遅い第2速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第2段階制御を実行する制御手段と、
を備え
前記閾値は、前記第2段階制御の実行中に前記モータのトルク値が安定しているときの前記トルク値よりも大きい値である、
シーリング材吐出装置本体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーリング材吐出装置およびシーリング材吐出装置本体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のシーリング材吐出装置としては、カートリッジ内のシーリング材をピストン軸の先端部に設けられたプッシャーによって押圧することによりカートリッジに設けられたノズルから吐出するシーリング材吐出装置において、ピストン軸に接続されたスライダが設置されたボールねじにモータが接続されており、モータの回転に応じてピストン軸およびプッシャーが一体に軸方向に移動するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシーリング材吐出装置では、シーリング材の吐出開始の指令を受けると、第1期間において、第1速度でピストン軸をシーリング材の吐出方向に移動させた後に、第2期間において、第1速度よりも遅い第2速度でピストン軸をシーリング材の吐出方向に移動させる。これにより、第1期間においてカートリッジ内のシーリング材に圧力(予圧)をかけることができ、第1期間の終了後に速やかにシーリング材の吐出を開始させることができると共にその後に一定流量でシーリング材を吐出させ続けることができる。ここで、第1期間は、カートリッジに充填されているシーリング材の残量や粘度に基づくピストン軸の移動量として定められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−23916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたシーリング材吐出装置では、ノズルから吐出される紐状のシーリング材(ビード)の幅をできるだけ一定にするために、ピストン軸(ピストン)の移動速度を第1速度からそれよりも遅い第2速度に切り替える切替タイミングをどのように定めるかが課題となっている。上述のシーリング材吐出装置では、この切替タイミングを、シーリング材の残量や粘度に基づくピストン軸の移動量として定めているものの、ピストン軸の移動量とは異なるパラメータにより定めることも、技術の向上のために有用である。
【0005】
本発明のシーリング材吐出装置およびシーリング材吐出装置本体は、ピストンの移動速度を第1速度からそれよりも遅い第2速度に切り替える切替タイミングをピストンの移動量とは異なるパラメータにより定めることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシーリング材吐出装置およびシーリング材吐出装置本体は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のシーリング材吐出装置は、
筒状のカートリッジ内のシーリング材をピストンによって押圧することにより前記シーリング材を前記カートリッジの先端に設けられたノズルから吐出するシーリング材吐出装置であって、
モータの回転により前記ピストンを前記カートリッジの軸方向に移動させる移動手段と、
前記シーリング材を前記ノズルから吐出させる際、前記ピストンが第1速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第1段階制御を実行し、前記第1段階制御の実行中に前記モータのトルクが閾値よりも大きくなると、前記ピストンが前記第1速度よりも遅い第2速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第2段階制御を実行する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明のシーリング材吐出装置では、シーリング材をノズルから吐出させる際、ピストンが第1速度でカートリッジの先端側に移動するようにモータを制御する第1段階制御を実行し、第1段階制御の実行中にモータのトルクが閾値よりも大きくなると、ピストンが第1速度よりも遅い第2速度でカートリッジの先端側に移動するようにモータを制御する第2段階制御を実行する。即ち、第1段階制御から第2段階制御に切り替える切替タイミングをモータのトルクで定めるのである。このように、モータのトルクが閾値以上に至ったときに第1段階制御から第2段階制御に切り替えることにより、最初から第2段階制御を実行するものに比して、第2段階制御の実行開始から迅速にノズルからのシーリング材の吐出流量(ビードの幅)を安定させることができる。この効果を奏することを、本発明者は、実験により確認した。したがって、切替タイミングをピストンの移動量でなくモータのトルクで定めても、切替タイミングを適切に設定可能であると言える。
【0009】
こうした本発明のシーリング材吐出装置において、前記閾値は、前記第2段階制御の実行中に前記モータのトルク値が安定しているときの前記トルク値よりも大きい値であるものとしてもよい。こうすれば、第2段階制御の実行開始からより迅速にシーリング材の吐出流量(ビードの幅)およびモータのトルクを安定させることができる。
【0010】
また、本発明のシーリング材吐出装置において、前記シーリング材には、解凍後に時間の経過に従って硬化する材料が用いられており、前記閾値は、前記シーリング材の解凍からの時間が長いほど大きくなる傾向に設定されるものとしてもよい。これは、本発明者が実験により解凍後の時間が長いほどノズルからのシーリング材の吐出流量(ビードの幅)およびモータのトルクが安定しているときのモータのトルクの値が大きくなることを見出したためである。
【0011】
さらに、本発明のシーリング材吐出装置において、前記モータは、三相交流電力により駆動される交流サーボモータであり、前記制御手段は、前記モータに取り付けられた回転位置センサおよび電流センサにより検出される回転子の回転位置および各相の相電流を用いて前記モータを制御し、更に、前記回転子の回転位置および前記相電流を用いて前記モータのトルクを推定するものとしてもよい。こうすれば、モータのトルクの推定用に専用のセンサを設ける必要がないから、センサ数の増加を抑制することができる。
【0012】
本発明のシーリング材吐出装置本体は、
筒状のカートリッジ内にシーリング材が充填されてプランジャにより封止されたプランジャ付カートリッジが装着され、前記プランジャ付カートリッジ内の前記シーリング材をピストンによって押圧することにより前記シーリング材を前記カートリッジの先端に設けられたノズルから吐出させるシーリング材吐出装置であって、
モータの回転により前記ピストンを前記カートリッジの軸方向に移動させる移動手段と、
前記シーリング材を前記ノズルから吐出させる際、前記ピストンが第1速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第1段階制御を実行し、前記第1段階制御の実行中に前記モータのトルクが閾値よりも大きくなると、前記ピストンが前記第1速度よりも遅い第2速度で前記カートリッジの先端側に移動するように前記モータを制御する第2段階制御を実行する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0013】
この本発明のシーリング材吐出装置本体では、シーリング材をノズルから吐出させる際、ピストンが第1速度でカートリッジの先端側に移動するようにモータを制御する第1段階制御を実行し、第1段階制御の実行中にモータのトルクが閾値よりも大きくなると、ピストンが第1速度よりも遅い第2速度でカートリッジの先端側に移動するようにモータを制御する第2段階制御を実行する。即ち、第1段階制御から第2段階制御に切り替える切替タイミングをモータのトルクで定めるのである。このように、モータのトルクが閾値以上に至ったときに第1段階制御から第2段階制御に切り替えることにより、最初から第2段階制御を実行するものに比して、第2段階制御の実行開始から迅速にノズルからのシーリング材の吐出流量(ビードの幅)を安定させることができる。この効果を奏することを、本発明者は、実験により確認した。したがって、切替タイミングをピストンの移動量でなくモータのトルクで定めても、切替タイミングを適切に設定可能であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施例としてのシーリング材吐出装置20の構成の概略を示す構成図である。
図2】プランジャ30の断面を示す断面図である。
図3】ピストン40の一部の断面を示す断面図である。
図4】吸引ポンプ46の停止中および駆動中の様子の一例を示す説明図である。
図5】制御装置60により実行される制御ルーチンの一例をフローチャートである。
図6】ピストン前進制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
図7】第1実験を行なったときのモータ51のトルクの様子を示す説明図である。
図8】第1実験を行なったときのビードの様子を示す説明図である。
図9】第2実験および第1実験を行なったときのモータ51のトルクの様子を示す説明図である。
図10】第2実験および第1実験を行なったときのビードの様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0016】
図1は、本発明の一実施例としてのシーリング材吐出装置20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、プランジャ30の断面を示す断面図であり、図3は、ピストン40の一部(先端側)の断面を示す断面図である。
【0017】
シーリング材吐出装置20は、図1に示すように、カートリッジ24内にシーリング材(シーラント)28が充填されてプランジャ30により封止されたプランジャ付カートリッジ22と、プランジャ付カートリッジ22(カートリッジ24)を保護する保護ケース38と、プランジャ30をカートリッジ24の先端側(図1中、下側)に押圧可能なピストン40と、プランジャ30をピストン40側(図1中、上側)に吸引する吸引ポンプ46と、ピストン40をプランジャ付カートリッジ22(カートリッジ24)の軸方向に移動させる移動機構50と、装置全体の制御を行なう制御装置60と、を備える。ここで、プランジャ付カートリッジ22としては、例えば市販品が用いられる。このシーリング材吐出装置20は、航空機に搭載される燃料タンクの接合部などのシーリング所望範囲のシーリングに用いられる。なお、このシーリング材吐出装置20は、航空機産業における燃料タンク以外のシーリング所望範囲のシーリングに用いられるものとしてもよいし、航空機産業以外の産業におけるシーリング所望範囲のシーリングに用いられるものとしてもよい。
【0018】
カートリッジ24は、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン、ナイロンなどによって形成されている。このカートリッジ24は、一端側(図1中、上側)が開口する有底筒状に形成されており、半球状で中央に孔を有する底部25と、底部25の外面における孔の周囲からカートリッジ24の軸方向(図1中、軸方向)に延出するノズル取付部26と、底部25の外周から底部25の凸側とは反対側(図1中、上側)に延びる筒状の筒状部27と、を備える。カートリッジ24のノズル取付部26には、ノズル34が取り付けられている。このノズル34は、用途に応じた形状や大きさのものが用いられる。
【0019】
シーリング材28としては、冷凍保存が必要で且つ解凍後に時間の経過に従って粘度が高くなる(硬化する)材料、例えば、シリコン樹脂などが用いられる。プランジャ30は、例えばABS樹脂などによって変形可能に形成されている。このプランジャ30は、図2に示すように、一端側(図2中、上側)が開口する有底筒状に形成されており、半球状の底部31と、底部31の外周から底部31の凸側とは反対側(図2中、上側)に延びる筒状の筒状部32と、を備える。このプランジャ30は、図1に示すように、一端側(開口側)がカートリッジ24の基端側(図1中、上側)となるようにカートリッジ24内に配置され、カートリッジ24内にシーリング材28を封止する。
【0020】
保護ケース38は、例えば、ステンレスなどによって形成されている。この保護ケース38は、一端側(図1中、上側)が開口する有底筒状に形成されており、半球状で中央に孔を有する底部38aと、底部38aの外周から底部38aの凸側とは反対側に延びる筒状の筒状部38bと、を備える。底部38aの孔は、ノズル34の外径よりも大きい値に定められている。底部38aや筒状部38bの内周面は、カートリッジ24の底部25や筒状部27の外周面に整合するように形成されている。筒状部38bにおいて、開口端部(図1中、上端部)の外径は、それ以外の部分の外径よりも小さい値に定められており、開口端部の外周には、雄ねじ部が形成されている。上述のプランジャ付カートリッジ22(カートリッジ24)は、この保護ケース38に図1の上側から挿入される。このとき、カートリッジ24の筒状部27の開口端面(図1中、上端面)と、保護ケース38の筒状部38bの開口端面(図1中、上端面)と、は面一になっている。保護ケース38は、ベース部材21に固定される。
【0021】
固定部材39は、環状の環状底部39aと、環状底部39aの外周部から環状で延出する環状壁部39bと、を備える。環状底部39aの内径は、カートリッジ24の筒状部27の内径に略等しい値に定められており、環状底部39aや環状壁部39bの外径は、保護ケース38における開口端部以外の部分の外径に略等しい値に定められている。環状壁部39bの内周には、保護ケース38の筒状部38bの雄ねじ部に螺合可能な雌ねじ部が形成されている。固定部材39と保護ケース38とは、固定部材39の環状壁部39bの雌ねじ部と保護ケース38の筒状部38bの雄ねじ部との螺合により、互いに固定される。そして、固定部材39の環状底部39aにより、プランジャ付カートリッジ22(カートリッジ24)が保護ケース38から抜けるのを抑止することができる。
【0022】
ピストン40は、例えば、アルミニウム合金などによって形成されており、その表面は、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂によりコーティングされたり、フッ素樹脂の粘着テープによりマスクされたりしている。このピストン40は、図3に示すように、その軸方向(図3中、上下方向)に貫通する貫通孔41を有すると共に、先端部(図3中、下端部)に、基端側から先端側に向かうにつれて外径が値R1からそれよりも小さい値R2まで徐々に小さくなるテーパ部42を有する。テーパ部42は、ピストン40の軸方向に対して傾斜角度θ1で外径が値R1からそれよりも小さく且つ値R2よりも大きい値R3まで徐々に小さくなる第1テーパ部43と、ピストン40の軸方向に対して傾斜角度θ1よりも大きい傾斜角度θ2で外径が値R3から値R2まで徐々に小さくなる第2テーパ部44と、をピストン40の基端側からこの順に有する。ここで、値R1は、プランジャ30の筒状部32の内径R0(図2参照)よりも大きい値に定められており、値R2,R3は、プランジャ30の筒状部32の内径R0よりも小さい値に定められている。このピストン40は、図1に示すように、先端側がプランジャ30側(図1中、下側)となるように配置される。ピストン40の第2テーパ部44の傾斜角度θ2を第1テーパ部43の傾斜角度θ1よりも大きくすることにより、ピストン40のテーパ部42の軸長(図1中、上下方向の長さ)を短くしつつ、プランジャ30の筒状部32の内周とピストン40のテーパ部42とが当接しているときにプランジャ30とピストン40とにより空間を形成することができる。
【0023】
吸引ポンプ46は、図1に示すように、ピストン40の基端(図1中、上端)における貫通孔41に整合する位置に取り付けられており、ピストン40の貫通孔41を介してプランジャ30を吸引できるようになっている。図4は、吸引ポンプ46の停止中および駆動中の様子の一例を示す説明図である。図4(a)は、吸引ポンプ46の停止中の様子を示し、図4(b)は、吸引ポンプ46の駆動中の様子を示す。図4(a)に示すように、プランジャ30の筒状部32の内周とピストン40のテーパ部42とが当接している状態で、吸引ポンプ46の駆動を開始すると、ピストン40の貫通孔41を介して、プランジャ30とピストン40とにより形成される空間が減圧され、図4(b)に示すように、プランジャ30の底部31が半球状からつぶれて筒状部32が広がると共に、プランジャ30の筒状部32の開口端周辺がピストン40の第1テーパ部43に沿って押し広げられる。後者は、ピストン40の第1テーパ部43の外径が、ピストン40の先端側に向かうにつれてプランジャ30の筒状部32の内径R0よりも大きい値R1から内径R0よりも小さいR3まで徐々に小さくなっているためである。こうしてプランジャ30の筒状部32の開口端周辺が押し広げられることにより、プランジャ30の筒状部32の開口端周辺の外周とカートリッジ24の内周との隙間をより狭くすることができる。また、プランジャ付カートリッジ22(カートリッジ24)は保護ケース38に挿通されているから、プランジャ30の筒状部32の開口端周辺が押し広げられてプランジャ30からカートリッジ24に作用する径方向外向きの力が大きくなっても、カートリッジ24の変形(プランジャ30により押圧される部分の拡径)を抑制することができる。
【0024】
移動機構50は、モータ51と、図示しない交流電源(例えば工業用電源など)からの電力を用いてモータ51を駆動する駆動回路52と、モータ51の回転軸に減速機53および伝達機構54を介して連結されたボールネジ55と、ボールネジ55に螺合されると共にピストン40に固定されたスライダ56と、ピストン40およびスライダ56がプランジャ付カートリッジ22(カートリッジ24)の軸方向(図1中、上下方向)に移動するのをガイドするガイドレール57と、を備える。モータ51や駆動回路52、減速機53、ガイドレール57は、ベース部材21に固定されており、ボールネジ55は、ベース部材21により回転自在に支持されている。
【0025】
ここで、モータ51は、交流サーボモータとして構成されており、駆動回路52からの三相交流電力を受けて回転駆動される。駆動回路52は、交流電源からの交流電力を直流電力に変換するコンバータや、コンバータからの直流電力を三相交流電力に変換してモータ51に供給するインバータを備える。伝達機構54は、減速機53の出力側に取り付けられたプーリ54aと、ボールネジ55の一端(図1中、上端)に取り付けられたプーリ54bと、プーリ54aおよびプーリ54bに掛け渡されたベルト54cと、を備える。
【0026】
この移動機構50では、モータ51が第1方向に回転すると、減速機53や伝達機構54を介してボールネジ55が第1方向に回転し、スライダ56およびピストン40がカートリッジ24の先端側(図1中、下側)に移動する。また、モータ51が第1方向とは反対の第2方向に回転すると、減速機53および伝達機構54を介してボールネジ55が第1方向とは反対の第2方向に回転し、スライダ56およびピストン40がカートリッジ24から離間する側(図1中、上側)に移動する。以下、モータ51やボールネジ55の第1方向の回転を「正回転」といい、第2方向の回転を「負回転」という。
【0027】
制御装置60は、CPUやROM、RAM、入出力ポートなどを有するコンピュータとして構成されている。制御装置60には、操作者が各種指示を行なうための入力装置70からの信号や、各種センサからの信号(例えば、モータ51の回転子の回転位置を検出する回転位置センサ51aからのモータ51の回転子の回転位置θmや、モータ51の各相に流れる電流センサ51bからの各相の相電流Iu,Iv,Iwなど)が入力ポートを介して入力されている。制御装置60からは、吸引ポンプ46への制御信号や駆動回路52への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。入力装置70としては、各種スイッチや、キーボード、マウスなどを挙げることができる。
【0028】
ここで、シーリング材吐出装置20では、プランジャ付カートリッジ22や保護ケース38を除く部分、具体的には、ピストン40や吸引ポンプ46、移動機構50、ベース部材21、制御装置60が装置本体に相当する。そして、シーリング材吐出装置20は、プランジャ付カートリッジ22に保護ケース38が取り付けられたものが装置本体に取り付けられて用いられる。なお、保護ケース38を用いないもの、即ち、プランジャ付カートリッジ22が装置本体に直接取り付けられるものとしてもよい。
【0029】
次に、こうして構成された実施例のシーリング材吐出装置20の動作、特に、航空機に搭載される燃料タンクの接合部などのシーリング所望範囲をシーリング材吐出装置20を用いてシーリングする際の動作について説明する。なお、実施例では、シーリング材吐出装置20のベース部材21は、ロボットアームなどの図示しない位置調節装置に取り付けられ、この位置調節装置によりベース部材21の位置(ノズル34の位置)が調節されるものとした。この位置調節装置も、制御装置60により制御されるものとした。
【0030】
シーリング所望範囲をシーリングする際には、操作者による入力装置70の操作により、シーリング所望範囲(例えば、開始位置および終了位置や、開始位置から終了位置までの経路)が設定され、シーリング開始(シーリング材28の吐出開始)が指示される。そして、制御装置60は、シーリング開始が指示されると、位置調節装置を制御して、ノズル34がシーリング所望範囲の開始位置に対向するようにベース部材21の位置を調節し、その後に図5の制御ルーチンを実行する。
【0031】
図5の制御ルーチンが実行されると、制御装置60は、吸引ポンプ46の駆動を開始し(ステップS100)、その後にピストン40をカートリッジ24の先端側に移動させる(前進させる)ピストン前進制御の実行を開始する(ステップS110)。このピストン前進制御は、モータ51が正回転するように駆動回路52を制御することにより行なわれる。なお、ピストン前進制御の詳細については後述する。モータ51を正回転させると、ボールネジ55が正回転し、スライダ56およびピストン40がカートリッジ24の先端側(図1中、下側)に移動する。この際に、ピストン40によりプランジャ30がカートリッジ24の先端側に押圧され、プランジャ30によりカートリッジ24内のシーリング材28がカートリッジ24の先端側に押圧されてノズル34から吐出される。実施例では、吸引ポンプ46によるプランジャ30の吸引により、プランジャ30の筒状部32の開口端周辺が押し広げられて、プランジャ30の筒状部32の開口端付近の外周とカートリッジ24の内周との隙間がより狭くなっているから、プランジャ30がカートリッジ24の先端側に移動する際に、この隙間からシーリング材28が漏れるのをより抑制することができる。これにより、プランジャ30の移動量とノズル34からのシーリング材28の実吐出流量との関係をより理想的な関係に近づけることができ、所望の吐出流量と実吐出流量とのズレをより小さくすることができる。特に、航空機の製造産業などでは、シーリング所望範囲のシーリング精度(シーリング材28の厚みや幅の精度)が要求されることから、所望の吐出流量と実吐出流量とのズレをより小さくすることの意義が大きい。また、実施例では、ピストン40の表面がフッ素樹脂によりコーティングされている或いはフッ素樹脂の粘着テープによりマスクされているから、隙間からシーリング材28が漏れたときでも、ピストン40を清掃する際に、その清掃を容易にすることができる。
【0032】
このようにしてノズル34からシーリング材28を吐出させる際には、位置調節装置を制御して、ノズル34がシーリング所望範囲の延在方向に沿って移動するようにベース部材21を移動させる。これにより、シーリング所望範囲の延在方向に沿ってシーリングを行なうことができる。
【0033】
続いて、シーリング終了条件(シーリング材28の吐出停止条件)が成立したか否かを判定し(ステップS120)、シーリング終了条件が成立していないと判定したときには、上述のピストン前進制御を実行しながらシーリング終了条件が成立するのを待つ。ここで、シーリング終了条件としては、例えば、ノズル34がシーリング所望範囲の終了位置に対向した条件や、操作者による入力装置70の操作によりシーリング終了が指示された条件を挙げることができる。
【0034】
ステップS120でシーリング終了条件が成立すると、ピストン前進制御の実行を終了し(ステップS130)、ピストン40をカートリッジ24から離間する側に所定量L0だけ移動させる(後退させる)ピストン後退制御を実行し(ステップS140)、その後に吸引ポンプ46の駆動を終了して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。なお、シーリング終了条件が成立すると、これらと並行して、位置調節装置の制御を終了する、或いは、位置調節装置を制御してベース部材21を待機位置まで移動させる。
【0035】
ここで、ピストン後退制御は、モータ51が所定量L0に対応する所定回転量S0だけ負回転するように駆動回路52を制御することにより行なわれる。モータ51を負回転させると、ボールネジ55が負回転し、スライダ56およびピストン40がカートリッジ24から離間する側(図1中、上側)に移動する。実施例では、プランジャ30がピストン40側に吸引されているから、ピストン40がカートリッジ24から離間する側に移動する際には、プランジャ30もピストン40に追従して移動する。これにより、プランジャ30がピストン40に追従して移動しないものに比して、シーリング材28が充填された空間(カートリッジ24とプランジャ30とにより形成される空間)の圧力を低減し、ノズル34からのシーリング材28の吐出を停止する際のキレ(吐出のオンオフの応答性)を良好にすることができる。ここで、所定量L0は、シーリング材28の性状などによって異なるものであり、ノズル34からのシーリング材28の吐出を停止する際のキレを良好にできると共にシーリング材28が充填された空間の圧力が低減しすぎない程度のピストン40の移動量として予め実験や解析により定めた値を用いることができる。
【0036】
次に、図5の制御ルーチンのピストン前進制御の詳細について、図6のピストン前進制御ルーチンを用いて説明する。図6のピストン前進制御ルーチンでは、制御装置60は、最初に、ピストン40を比較的大きい所定速度V1でカートリッジ24の先端側に移動させる(前進させる)第1段階制御の実行を開始する(ステップS200)。そして、第1段階制御の実行中にモータ51のトルクTmが閾値Tmref以上に至ると(ステップS210,S220)、第1段階制御の実行を終了し(ステップS230)、ピストン40を所定速度V1よりも小さい所定速度V2でカートリッジ24の先端側に移動させる(前進させる)第2段階制御の実行を開始する(ステップS240)。そして、第2段階制御の実行中にシーリング終了条件(シーリング材28の吐出終了条件)が成立すると(ステップS250)、第2段階制御の実行を終了して(ステップS260)、本ルーチンを終了する。
【0037】
ここで、第1段階制御は、ピストン40が所定速度V1でカートリッジ24の先端側に移動する(前進する)ようにモータ51の目標回転数Nm*を設定し、モータ51が目標回転数Nm*で回転するように駆動回路52を制御することにより行なわれる。第2段階制御は、ピストン40が所定速度V2でカートリッジ24の先端側に移動するようにモータ51の目標回転数Nm*を設定し、モータ51が目標回転数Nm*で回転するように駆動回路52を制御することにより行なわれる。駆動回路52の制御は、回転位置センサ51aからのモータ51の回転子の回転位置θmと電流センサ51bからのモータ51の各相の相電流Iu,Iv,Iwとを用いてパルス幅変調制御(PWM制御)により行なわれる。所定速度V1,V2は、それぞれ、ノズル34からのシーリング材28の吐出流量が安定しているときにおけるシーリング材28の吐出流量が所望流量Q1,Q2となる速度が用いられる。所望流量Q2は、カートリッジ24やノズル34の形状、シーリング所望範囲に塗布すべきビードの所望幅や所望厚み、位置調節装置によるベース部材21(ノズル34)の移動速度などに基づいて定められ、例えば、150cc/分や200cc/分、250cc/分などの値が用いられる。所望流量Q1は、例えば、所望流量Q2の2倍や3倍、4倍などの値が用いられる。
【0038】
モータ51のトルクTmは、回転位置センサ51aからのモータ51の回転子の回転位置θmと電流センサ51bからのモータ51の各相の相電流Iu,Iv,Iwとに基づいて推定するものとした。閾値Tmrefは、第2段階制御の実行中にモータ51のトルクTmが安定しているときのそのトルクTm(以下、「安定トルクTmst」という)よりも大きい値として定められ、例えば、安定トルクTmstに対して10%や20%、30%など大きい値が用いられる。
【0039】
ここで、第1段階制御から第2段階制御に切り替えるタイミングをモータ51のトルクTm(閾値Tmref)で定める理由について説明する。本発明者は、市販品のプランジャ付カートリッジ22を用いて第1実験を行なった。第1実験では、プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後に、それぞれ、位置調節装置によりベース部材21(ノズル34)を所定速度Vsetで水平方向(図1中、横方向)に移動させながら第2段階制御だけを実行した。この第1実験では、1セット(プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後)当たり1本のプランジャ付カートリッジ22を用いた。
【0040】
図7図8は、それぞれ、第1実験を行なったときのモータ51のトルクTm,ビードの様子を示す説明図である。図7図8中、プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後のそれぞれについて、「Ti0」は、ピストン40およびベース部材21(ノズル34)の移動を開始したタイミングであり、「Ti20」、「Ti40」、「Ti60」、「Ti80」は、ビードの幅Wbが安定した(安定し始めた)タイミングであり、「Tm20」、「Tm40」、「Tm60」、「Tm80」は、ビードの幅Wbが安定した(安定し始めた)ときのトルクである(上述の安定トルクTmst相当のトルクとなる)。なお、図8において、プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後のビードが最も短い(タイミングTi0からビードが形成され始めるまでの時間(距離)が最も長い)のは、カートリッジ24内のシーリング材28がノズル34から吐出されるまでに時間を要したためであると考えられる。また、プランジャ付カートリッジ22の解凍から40分後や60分後、80分後のビードの開始位置で幅Wbが比較的大きくなっているのは、直前回の終了時にノズル34に残ったシーリング材28(残渣)が吐出されたためであると考えられる。
【0041】
図7および図8から、プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後のそれぞれで、ピストン40の移動を開始してからの時間の経過に従って、モータ51のトルクTmおよびビードの幅Wb(ノズル34からのシーリング材28の吐出流量)が増加して安定に至ることが分かった。また、プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後のそれぞれで、モータ51のトルクTmとビードの幅Wbとの間には相関関係があり、これらのうちの一方が安定に至ると他方も安定に至ることが分かった。さらに、プランジャ付カートリッジ22の解凍からの時間が長いほど、モータ51のトルクTmおよびビードの幅Wbが短時間で安定に至ると共にモータ51の安定トルクTmstが大きくなることが分かった。これは、解凍からの時間が長いほどシーリング材28の粘度が大きくなるためであると考えられる。
【0042】
次に、本発明者は、市販品のプランジャ付カートリッジ22を用いて第2実験を行なった。第2実験では、プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後に、それぞれ、位置調節装置によりベース部材21(ノズル34)を所定速度Vsetで水平方向(図1中、横方向)に移動させながら第1段階制御、第2段階制御を順に実行した(図6のピストン前進制御ルーチンを実行した)。この第2実験でも、第1実験と同様に、1セット(プランジャ付カートリッジ22の解凍から20分後、40分後、60分後、80分後)当たり1本のプランジャ付カートリッジ22を用いた。
【0043】
図9図10は、それぞれ、第2実験および第1実験を行なったときのモータ51のトルクTm,ビードの様子を示す説明図である。図9中、「Ti0」は、ピストン40およびベース部材21(ノズル34)の移動を開始したタイミングであり、「Ti1」は、第2実験においてモータ51のトルクTmが閾値Tmref以上に至って第1段階制御から第2段階制御に切り替えたタイミングである。図9から、第2実験の場合に第1実験の場合よりも、モータ51のトルクTmが迅速に増加し、第2段階制御の開始からモータ51のトルクTmが迅速に安定することが分かった。また、図10から、第2実験の場合に第1実験の場合よりも、ビードの幅Wbがより一定になることが分かった。
【0044】
このように、第1段階制御を実行してその実行中にモータ51のトルクTmが閾値Tmref以上に至ったときに第1段階制御から第2段階制御に切り替えることにより、第1段階制御を実行せずに最初から第2段階制御を実行するものに比して、第2段階制御の実行開始から迅速にモータ51のトルクTmおよびビードの幅Wbを安定させることができる。したがって、第1段階制御から第2段階制御に切り替える切替タイミングを、カートリッジ24の残量や粘度に基づくピストン40の移動量でなく、モータ51のトルクTm(閾値Tmref)で定めても、適切に定めることができると言える。また、第2段階制御を実行する前に第1段階制御を実行することにより、シーリング材28が充填された空間(カートリッジ24とプランジャ30とにより形成される空間)の圧力を迅速に増加させることができ、ビードの幅Wbが徐々に増加する時間(距離)を短くする或いは略無しにすることができる。そして、モータ51の制御に必要なセンサ(回転位置センサ51aおよび電流センサ51b)を用いてモータ51のトルクTmを推定するから、モータ51のトルクTmの推定用に専用のセンサを設ける必要がなく、センサ数の増加を抑制することができる。
【0045】
以上説明した実施例のシーリング材吐出装置20では、シーリング材28をノズル34から吐出する際には、第1段階制御を実行し、その実行中にモータ51のトルクTmが閾値Tmref以上に至ると、第2段階制御を実行する。このように、モータ51のトルクTmが閾値Tmref以上に至ったときに第1段階制御から第2段階制御に切り替えることにより、最初から第2段階制御を実行するものに比して、第2段階制御の実行開始から迅速にノズル34からのシーリング材28の吐出流量(ビードの幅)を安定させることができる。したがって、切替タイミングをピストン40の移動量でなくモータ51のトルクTm(閾値Tmref)で定めても、切替タイミングを適切に設定可能であると言える。
【0046】
実施例のシーリング材吐出装置20では、閾値Tmrefとして、一律の値を用いるものとしたが、プランジャ付カートリッジ22の解凍からの経過時間や、カートリッジ24内のシーリング材28の残量などに基づいて設定するものとしてもよい。プランジャ付カートリッジ22の解凍からの経過時間に基づいて閾値Tmrefを設定する場合、プランジャ付カートリッジ22の解凍からの時間が長いほどモータ51の安定トルクTmstが大きくなること(図7参照)を考慮して、プランジャ付カートリッジ22の解凍からの時間が長いほど大きくなるように閾値Tmrefを設定することが考えられる。
【0047】
実施例のシーリング材吐出装置20では、モータ51のトルクTmは、回転位置センサ51aからのモータ51の回転子の回転位置θmと電流センサ51bからのモータ51の各相の相電流Iu,Iv,Iwとに基づいて推定するものとしたが、トルクを検出するトルクセンサを設けて、そのトルクセンサにより検出するものとしてもよい。
【0048】
実施例のシーリング材吐出装置20では、モータ51として、交流サーボモータを用いるものとしたが、これ限定されるものではなく、他のモータを用いるものとしてもよい。
【0049】
実施例のシーリング材吐出装置20では、シーリング材28として、冷凍保存が必要で且つ解凍後に時間の経過に従って粘度が高くなる(硬化する)材料を用いるものとした。しかし、シーリング材28として、常温保存が可能で且つノズル34からの吐出後に(空気に触れると)時間の経過に従って粘度が高くなる(硬化する)材料、例えば、エポキシ樹脂やポリウレタンなどを用いるものとしてもよい。
【0050】
実施例のシーリング材吐出装置20では、プランジャ30の底部31は、半球状に形成されるものとしたが、この形状に限定されるものではなく、例えば、円錐台状などに形成されるものとしてもよい。また、プランジャ30は、底部31と筒状部32とを有する有底筒状に形成されるものとしたが、この形状に限定されるものではなく、例えば、筒状部32を有さずに底部31だけを有する半球状や、円柱状などに形成されるものとしてもよい。
【0051】
実施例のシーリング材吐出装置20では、ピストン40のテーパ部42は、第1テーパ部43と第2テーパ部44とを備えるものとしたが、第1テーパ部43だけを備えるものとしてもよい。また、ピストン40は、テーパ部42を備えるものとしたが、このテーパ部42を備えないものとしてもよい。
【0052】
実施例のシーリング材吐出装置20では、ピストン40の表面は、フッ素樹脂によりコーティングされたりフッ素樹脂の粘着テープによりマスクされたりするものとしたが、フッ素樹脂によるコーティングもフッ素樹脂の粘着テープによるマスクもされないものとしてもよい。
【0053】
実施例のシーリング材吐出装置20では、カートリッジ24内にシーリング材28が充填されてプランジャ30により封止されたプランジャ付カートリッジ22と、ピストン40と、吸引ポンプ46と、を備えるものとした。しかし、吸引ポンプ46を備えずに、プランジャ付カートリッジ22のプランジャ30と、ピストン40と、を接合などにより一体にするものとしてもよい。
【0054】
実施例のシーリング材吐出装置20では、伝達機構54は、減速機53の出力側に取り付けられたプーリ54aと、ボールネジ55の一端に取り付けられたプーリ54bと、プーリ54aおよびプーリ54bに掛け渡されたベルト54cと、を備えるものとしたが、減速機53の出力側に取り付けられた第1ギヤと、ボールネジ55の一端に取り付けられると共に第1ギヤに噛合する第2ギヤと、を備えるものとしてもよい。
【0055】
実施例のシーリング材吐出装置20では、移動機構50は、減速機53および伝達機構54を介してモータ51の回転軸とボールネジ55とを連結するものとしたが、(A)減速機53および伝達機構54を介さずにモータ51の回転軸とボールネジ55とを連結するものとしてもよいし、(B)伝達機構54を介さずに、減速機53だけを介してモータ51の回転軸とボールネジ55とを連結するものとしてもよいし、(C)減速機53を介さずに、伝達機構54だけを介してモータ51の回転軸とボールネジ55とを連結するものとしてもよい。(A)や(B)の場合、モータ51の回転軸とボールネジ55とを同軸に配置すればよいと考えられる。
【0056】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、カートリッジ24が「カートリッジ」に相当し、シーリング材28が「シーリング材」に相当し、ピストン40が「ピストン」に相当し、ノズル34が「ノズル」に相当し、移動機構50が「移動手段」に相当し、制御装置60が「制御手段」に相当する。
【0057】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0058】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、シーリング材吐出装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0060】
20 シーリング材吐出装置、21 ベース部材、22 プランジャ付カートリッジ、24 カートリッジ、25 底部、26 ノズル取付部、27 筒状部、28 シーリング材、30 プランジャ、31 底部、32 筒状部、34 ノズル、38 保護ケース、40 ピストン、41 貫通孔、42 テーパ部、43 第1テーパ部、44 第2テーパ部、46 吸引ポンプ、50 移動機構、51 モータ、51a 回転位置センサ、51b 電流センサ、52 駆動回路、53 減速機、54 伝達機構、54a,54b プーリ、54c ベルト、55 ボールネジ、56 スライダ、57 ガイドレール、60 制御装置、70 入力装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10