特許第6927014号(P6927014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927014
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20210812BHJP
【FI】
   G01R15/20 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-241621(P2017-241621)
(22)【出願日】2017年12月18日
(65)【公開番号】特開2019-109114(P2019-109114A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2020年7月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二口 尚樹
【審査官】 青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−099291(JP,A)
【文献】 特開2011−242273(JP,A)
【文献】 特開2007−240202(JP,A)
【文献】 特開2004−239828(JP,A)
【文献】 特開2012−132889(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0285395(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00−17/22
G01R 33/09
G01R 19/00−19/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定層の磁化方向の向きがそれぞれ反対となるように直列に接続された第1及び第2の磁気検出素子と、直列に接続された前記第1及び第2磁気検出素子の両端間に直流電圧を印加する電圧源と、を有し、前記第1磁気検出素子と前記第2磁気検出素子との間の電圧を出力する電流センサであって、
前記第1及び第2の磁気検出素子に、前記磁化方向と垂直方向のバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段と、
前記バイアス磁界印加手段で印加するバイアス磁界の方向を反転させるバイアス磁界反転手段と、
前記バイアス磁界反転手段によるバイアス磁界の反転前後の出力の平均化処理を行う平均化処理部と、を備えた、
電流センサ。
【請求項2】
前記バイアス磁界反転手段は、所定の時間間隔ごとにバイアス磁界の方向を切り替えるように構成されている、
請求項1に記載の電流センサ。
【請求項3】
前記バイアス磁界印加手段は、前記第1及び第2磁気検出素子の近傍に設けられた1つのバイアスコイルと、前記バイアスコイルに直流電流を供給する電流源と、を有し、
前記バイアス磁界反転手段は、前記電流源からバイアスコイルに供給される直流電流の向きを反転させることで、バイアス磁界の方向を反転させる、
請求項1または2に記載の電流センサ。
【請求項4】
前記第1及び第2磁気検出素子の磁気抵抗変化率が同じである、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、異方性磁気抵抗(AMR(Anisotropic Magneto Resistive)効果を用いたAMR素子や巨大磁気抵抗(GMR(Giant Magneto Resistive))効果を用いたGMR素子など磁気抵抗効果素子を用いた電流センサが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、固定層の磁化方向の向きがそれぞれ反対となるように直列に接続された第1及び第2の磁気検出素子からなるハーフブリッジ構造の電流センサが記載されている。この電流センサでは、両磁気検出素子に反対方向のバイアス磁界を印加することで、バイアス磁界と平行な方向の外部磁界(外乱)の影響を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−99291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電流センサでは、両磁気検出素子に逆方向のバイアス磁界を印加する必要があるため、バイアス磁界を印加する手段が復雑となりセンサ全体が大型化し易いという課題があり、更なる改良が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、小型で外乱の影響を受けにくい電流センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、固定層の磁化方向の向きがそれぞれ反対となるように直列に接続された第1及び第2の磁気検出素子と、直列に接続された前記第1及び第2磁気検出素子の両端間に直流電圧を印加する電圧源と、を有し、前記第1磁気検出素子と前記第2磁気検出素子との間の電圧を出力する電流センサであって、前記第1及び第2の磁気検出素子に、前記磁化方向と垂直方向のバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段と、前記バイアス磁界印加手段で印加するバイアス磁界の方向を反転させるバイアス磁界反転手段と、前記バイアス磁界反転手段によるバイアス磁界の反転前後の出力の平均化処理を行う平均化処理部と、を備えた、電流センサを提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型で外乱の影響を受けにくい電流センサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施の形態に係る電流センサの概略構成図である。
図2】センサ部とバスバとの位置関係を説明する図であり、(a)は、バスバを透視した平面図、(b)はその側面図である。
図3】(a)は磁気検出素子の原理を説明する説明図であり、(b)は外乱がない状態での磁気検出素子の被測定磁界に対する抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図4】(a)はバイアス磁界と外乱の方向が同じ方向であるときの固定層と自由層の磁化方向の角度の変化を説明する図であり、(b)は、バイアス磁界と同じ方向の外乱がある場合における磁気検出素子の被測定磁界に対する抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図5】(a)はバイアス磁界と外乱の方向が反対方向であるときの固定層と自由層の磁化方向の角度の変化を説明する図であり、(b)は、バイアス磁界と反対方向の外乱がある場合における磁気検出素子の被測定磁界に対する抵抗値の関係を示すグラフ図である。
図6】(a)はシミュレーションで供給するバイアス電流を示すグラフ図、(b)バイアス磁界の50%の外乱がある場合の、出力端子から出力される電圧Vmと、出力Voutとのシミュレーション結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る電流センサの概略構成図である。図2は、センサ部とバスバとの位置関係を説明する図であり、(a)は、バスバを透視した平面図、(b)はその側面図である。図1及び図2に示すように、電流センサ1は、センサ部2と、処理回路部3と、を有している。
【0012】
(センサ部2の説明)
まず、センサ部2について説明する。図2に示すように、センサ部2は、2つの磁気検出素子21を有するチップ20と、バイアス磁界印加手段4の一部であるバイアスコイル41と、を有している。
【0013】
ここでは、電流センサ1が、バスバ8を流れる電流を測定する場合を説明する。バスバ8は、銅やアルミニウム等の電気良導体からなる板状の導体である。センサ部2は、バスバ8の板厚方向において、バスバ8と対向するように配置される。
【0014】
チップ20は、電源端子22a、出力端子22b、及びグランド端子22cの3つの端子を有している。電源端子22aと出力端子22bとは、チップ20内で第1磁気検出素子21aを介して電気的に接続されており、出力端子22bとグランド端子22cとは、チップ20内で第2磁気検出素子21bを介して電気的に接続されている。第1及び第2磁気検出素子21a,21bは、被測定磁界がない場合の磁気抵抗、および磁気抵抗変化率(被測定磁界の強度変化に対する抵抗の変化率)が略同等とされる。
【0015】
電源端子22aには、後述する駆動用定電圧回路31に電気的に接続され、電源電圧Vccが入力される。グランド端子22cは、処理回路部3のグランドパターンに電気的に接続される等して接地される。出力端子22bから出力される電圧Vmが、センサ部2の出力となる。つまり、センサ部2では、両磁気検出素子21a,21bに一括して電源電圧Vccが印加され、第1磁気検出素子21aと第2磁気検出素子21bとの間の電圧が出力される。換言すれば、センサ部2では、電源電圧Vccが両磁気検出素子21a,21bで抵抗分圧された電圧Vmが、センサ部2の出力とされる。
【0016】
図3に示すように、磁気検出素子21は、磁化方向が固定された固定層210と、磁化方向が変化する自由層211と、固定層210と自由層211とを分離する非磁性層(導電層)212とが積層されて構成されている。磁気検出素子21を用いて磁界強度を測定する際には、固定層210の磁化方向が被測定磁界の方向と一致するように(平行に)磁気検出素子21を配置し、かつ、固定層の磁化方向と垂直な方向にバイアス磁界を印加する。
【0017】
すると、自由層211は、被測定磁界とバイアス磁界とを合成した合成磁界に沿った方向に磁化され、固定層210の磁化方向と、自由層211の磁化方向とが所定の角度θをなす。磁気検出素子21では、この角度θ、すなわち固定層210と自由層211の磁化方向の角度差に応じて、抵抗が変化する。外乱がない状態での磁気検出素子21の被測定磁界に対する抵抗値の関係は、図3(b)のようになる。
【0018】
図3(b)に示すように、被測定磁界の方向が固定層210の磁化方向と同じ(平行)、すなわち図3(b)の縦軸より右の領域の場合、その大きさが大きくなるにしたがって(θが0度に近づくにしたがって)磁気検出素子21の抵抗値はある値に漸近しつつ小さくなる。逆に、被測定磁界の方向が固定層210の磁化方向と反対(反平行)、すなわち図3(b)の縦軸より左の領域の場合、その大きさが大きくなるにしたがって(θが180度に近づくにしたがって)磁気検出素子21の抵抗値はある値に漸近しつつ大きくなる特性を示す。
【0019】
一方、磁気検出素子21の磁化方向を図3(a)とは反対方向になるように磁気検出素子21を配置し、かつ、固定層の磁化方向と垂直な方向にバイアス磁界を印加した場合、外乱がない状態での磁気検出素子21の被測定磁界に対する抵抗値の関係は、図3(b)の縦軸に対して反転した特性になる。すなわち、被測定磁界の方向が固定層210の磁化方向と同じ(平行)、すなわち図3(b)の縦軸より左の領域の場合、その大きさが大きくなるにしたがって(θが0度に近づくにしたがって)磁気検出素子21の抵抗値はある値に漸近しつつ大きくなる。逆に、被測定磁界の方向が固定層210の磁化方向と反対(反平行)、すなわち図3(b)の縦軸より右の領域の場合、その大きさが大きくなるにしたがって(θが180度に近づくにしたがって)磁気検出素子21の抵抗値はある値に漸近しつつ大きくなる特性を示す。
【0020】
図2に戻り、第1及び第2の磁気検出素子21a,21bは、固定層210の磁化方向の向き(黒塗り矢印にて示す)がそれぞれ反対となるようにチップ20内で配置されている。また、電流センサ1では、バスバ8を流れる電流により発生する磁界の方向に対して、両磁気検出素子21a,21bは、固定層210の磁化方向の向きが平行または反平行(平行でかつ同じ向きまたは反対向き)となるように、チップ20を配置する。
【0021】
バスバ8を電流が流れておらず被測定磁界がゼロである場合には、両磁気検出素子21a,21bの抵抗値が同じ値となるため、出力端子22bから出力される電圧VmはVcc/2となる。他方、バスバ8に電流が流れ図2(a)内矢印で示す方向に被測定磁界が大きくなると、図2の例では、第1磁気検出素子21aの抵抗が小さく、第2磁気検出素子21bの抵抗が大きくなり、出力端子22bから出力される電圧VmはVcc/2よりも大きくなる。逆に、バスバ8に電流が流れ図2(a)で示す方向とは逆方向に被測定磁界の大きさが大きくなると、第1磁気検出素子21aの抵抗が大きく、第2磁気検出素子21bの抵抗が小さくなり、出力端子22bから出力される電圧VmはVcc/2より小さくなる。よって、この電圧Vmから、磁界を演算し、バスバ8を流れる電流の方向と大きさを求めることができる。磁界または電流の方向はVmがVcc/2より大きいか小さいかで判別でき、磁界または電流の大きさはVmとVcc/2の差の絶対値から算出できる。
【0022】
バイアスコイル41は、自身を流れる電流によりバイアス磁界を発生させ、発生させたバイアス磁界をチップ20の両磁気検出素子21a,21bに印加するためのものである。バイアスコイル41は、例えば、磁気検出素子21a,21bの製造工程と同じ薄膜プロセスによって形成される。ここでは、渦巻き状の導体パターンからなるバイアスコイル41を形成する場合を示しているが、バイアスコイル41の具体的な形状はこれに限定されない。バイアスコイル41の両端は、後述する極性切替部51を介して、バイアス用定電流源42に電気的に接続されている。
【0023】
(処理回路部3の説明)
処理回路部3は、両磁気検出素子21に直流電圧(電源電圧Vcc)を印加する電圧源としての駆動用定電圧回路31と、バイアスコイル41に電流を供給する電流源としてのバイアス用定電流源42と、を有している。駆動用定電圧回路31は、その出力がセンサ部2の電源端子22aに電気的に接続され、電源端子22aとグランド端子22c間、すなわち直列に接続された第1及び第2磁気検出素子21a,21bの両端間に、直流の電源電圧Vccを印加する。
【0024】
バイアス用定電流源42は、バイアスコイル41に直流電流を供給するためのものである。本実施の形態では、このバイアス用定電流源42とバイアスコイル41とで、バイアス磁界印加手段4が構成されている。バイアス磁界印加手段4は、第1及び第2の磁気検出素子21a,21bに、固定層210の磁化方向と垂直方向のバイアス磁界を印加するものである。
【0025】
また、処理回路部3は、バイアス磁界反転手段5としての極性切替部51を有している。バイアス磁界反転手段5は、バイアス磁界印加手段4で印加するバイアス磁界の方向を反転させるものである。本実施の形態では、バイアス磁界反転手段5は、バイアス用定電流源42からバイアスコイル41に供給される直流電流(以下、バイアス電流という)の向きを反転させる極性切替部51を有しており、この極性切替部51でバイアス電流の向きを反転させることで、バイアス磁界の方向を反転させるように構成されている。
【0026】
また、本実施の形態では、バイアス磁界反転手段5は、所定の時間間隔ごとにバイアス磁界の方向を切り替えるように構成されている。具体的には、処理回路部3にクロック信号を生成するクロック生成部7を搭載し、このクロック生成部7から入力されるクロック信号を切り替え信号として、所定の時間間隔(つまり所定の周波数)で、バイアス電流の向きを反転させるように極性切替部51を構成した。バイアス電流を切り替える周波数は、例えば10kHz以上100kHz以下であるとよい。所定の時間間隔ごとにバイアス磁界の方向を切り替えることで、バスバ8を流れる電流の時間変化を検出可能となる。
【0027】
極性切替部51は、例えば1つ以上のスイッチと、スイッチの開閉制御を行うスイッチ制御部と、から構成される。極性切替部51の具体的な構成は特に限定するものではない。極性切替部51は、バイアス用定電流源42とバイアスコイル41間に挿入される。換言すれば、バイアス用定電流源42とバイアスコイル41とが、極性切替部51を介して電気的に接続される。
【0028】
さらに、処理回路部3は、バイアス磁界反転手段5によるバイアス磁界の反転前後の出力の平均化処理を行う平均化処理部6を有している。平均化処理部6は、センサ部2の出力端子22bに電気的に接続され、出力端子22bから出力される電圧Vmの平均化処理を行う。本実施の形態では、平均化処理部6は、クロック生成部7からのクロック信号を受信し、極性切替部51の切り替えと同期して電圧Vmのサンプリングを行う。平均化処理部6は、例えば、所定数のサンプルの総和(積分)をサンプル数で除することで、所定の期間における電圧Vmの平均値を演算し、演算した電圧Vmの平均値を、出力Voutとして出力する。出力Voutは、アナログ信号(電圧信号)であってもよいし、デジタル信号であってもよい。このVoutから、磁界を演算し、バスバ8を流れる電流の方向と大きさを求めることができる。磁界または電流の方向はVoutがVcc/2より大きいか小さいかで判別でき、磁界または電流の大きさはVoutとVcc/2の差の絶対値から算出できる。なお、平均化処理部6で平均化処理を行う具体的な構成はこれに限定されず、例えば平均化処理を積分回路等を用いたアナログ処理により行うように構成してもよい。
【0029】
(電流センサ1における外乱抑制の原理)
まず、図4(a)に示すように、バイアス磁界と外乱の方向が同じ方向である場合を考える。ここでは、両磁気検出素子21a,21bの固定層210の磁化方向は両磁気検出素子21a,21bの配列方向において外側に向かう方向とし、被測定磁界の向きが第2磁気検出素子21b側から第1磁気検出素子21aに向かう方向とする。なお、図4(a)では、固定層210の磁化方向を黒塗り矢印、バイアス磁界の方向を白抜き矢印、被測定磁界の方向をハッチング矢印にてそれぞれ示している。
【0030】
バイアス磁界と外乱の方向が同じ方向(平行)である場合、バイアス磁界と外乱が互いに強め合う。そのため、外乱が無い場合(図示破線矢印)と比較して、固定層210の磁化方向に対する合成磁界の傾きが大きくなる。このとき両磁気検出素子21a,21bの抵抗値は図4(b)のように変化する。すなわち、被測定磁界が正の場合、磁気検出素子21aの抵抗値は外乱がない場合(破線で表示)に比べ大きくなり、磁気検出素子21bの抵抗値は外乱がない場合に比べ小さくなる。その結果、両磁気検出素子21a,21bの抵抗の差は外乱がない場合と比べて小さくなり、出力端子22bから出力される電圧Vmは外乱がない場合と比べて小さくなる。逆に、被測定磁界が負の場合、磁気検出素子21aの抵抗値は外乱がない場合に比べ小さくなり、磁気検出素子21bの抵抗値は外乱がない場合に比べ大きくなる。その結果、両磁気検出素子21a,21bの抵抗の差は外乱がない場合と比べて小さくなり、出力端子22bから出力される電圧Vmは外乱がない場合と比べて大きくなる。したがって、被測定磁界が負から正まで全体を見ると、被測定磁界の変化に対する出力変化(つまり感度)は、外乱がない場合と比べ小さくなる。
【0031】
他方、図5(a)に示すように、バイアス磁界と外乱の方向が反対方向(反平行)である場合、バイアス磁界が外乱の影響を受けて弱められる。そのため、外乱が無い場合(図示破線矢印)と比較して、固定層210の磁化方向に対する合成磁界の傾きが小さくなる。このとき両磁気検出素子21a,21bの抵抗値は抵抗変化量の関係が図5(b)のように変化する。すなわち、被測定磁界が正の場合、磁気検出素子21aの抵抗値は外乱がない場合(破線で表示)に比べ小さくなり、磁気検出素子21bの抵抗値は外乱がない場合に比べ大きくなる。その結果、両磁気検出素子21a,21bの抵抗の差は外乱がない場合と比べて大きくなり、出力端子22bから出力される電圧Vmは外乱がない場合と比べて大きくなる。逆に、被測定磁界が負の場合、磁気検出素子21aの抵抗値は外乱がない場合に比べ大きくなり、磁気検出素子21bの抵抗値は外乱がない場合に比べ小さくなる。その結果、両磁気検出素子21a,21bの抵抗の差は外乱がない場合と比べて大きくなり、出力端子22bから出力される電圧Vmは外乱がない場合と比べて小さくなる。したがって、被測定磁界が負から正まで全体を見ると、被測定磁界の変化に対する出力変化(つまり感度)は、外乱がない場合と比べ大きくなる。
【0032】
このように、バイアス磁界と平行な方向の外乱が存在すると、バイアス磁界と外乱の方向が同じか否かによって、出力される電圧Vmが変動する。本実施の形態では、これらを平均した値を出力Voutとすることによって、外乱の影響を低減している。
【0033】
バイアス磁界と平行な方向にバイアス磁界の50%の大きさの外乱が存在するとし、図6(a)に示すようにバイアス電流を所定の時間間隔で反転させた場合に、バイアス磁界の2倍の大きさの被測定磁界を計測する際の出力端子22bから出力される電圧Vmと、電圧Vmの平均化処理を行った出力Voutとをシミュレーションにより求めた。結果を図6(b)に示す。
【0034】
図6(b)に示すように、外乱があると、バイアス磁界と外乱の方向が同じか否かによって、感度の変動を介して出力される電圧Vmが変動するが、電圧Vmの平均をとることで、外乱の影響を抑制した出力Voutが得られる。なお、図6(b)では、外乱が存在しない場合の出力Voutが任意単位で0.50となるように縦軸が設定されている。本実施の形態で得られる出力Voutは、外乱が存在しない場合に比べてわずかに小さい値になっているものの、精度が高い検出結果が得られている。具体的には、シミュレーションの結果、本実施の形態によれば、バイアス磁界の反転及び平均化処理を行わない場合と比較して、検出誤差を1/10程度に抑制できることが確認された。
【0035】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る電流センサ1では、バイアス磁界印加手段4で印加するバイアス磁界の方向を反転させるバイアス磁界反転手段5と、バイアス磁界反転手段5によるバイアス磁界の反転前後の出力の平均化処理を行う平均化処理部6と、を備えている。
【0036】
これにより、バイアス磁界と平行な方向の外乱が存在する場合であっても、外乱の影響を抑制し、出力誤差を大幅に低減し検出精度の向上を図ることが可能になる。また、電流センサ1では、従来技術のようにバイアス磁界の向きが異なる2つのバイアスコイル等を用いる必要がなく、1つのバイアスコイル41で供給する電流の向きを変えるのみでよいため、センサ部2を小型化することが可能になる。つまり、本実施の形態によれば、小型で外乱の影響を受けにくい電流センサ1を実現できる。
【0037】
さらに、センサ部2を小型化できるので、チップ20のチップサイズを小さくすることができ、低コスト化を図ることも可能になる。さらにまた、チップ20のチップサイズを小さくすることで、製造時の薄膜プロセスで生じる2つの磁気検出素子21の特性の差を小さくすることが可能になり、2つの磁気検出素子21の特性の差による誤差(オフセット等)を抑制することが可能になる。なお、チップ20のチップサイズが大きくなると製造上のばらつきが大きくなり、2つの磁気検出素子21間の距離が離れていると、特性の差が大きくなりやすい。
【0038】
また、電流センサ1では、バイアス磁界を印加する構造が従来と比べて簡単になるので、コストの低減が図れる。なお、本実施の形態ではバイアス磁界印加手段4としてバイアスコイル41を用いたが、バイアス磁界を印加する構造はこれに限定されない。例えば、チップ20の近傍にバイアス磁界印加用の電流路(バスバ等)を通し、その電流路を流れる電流により発生する磁界をバイアス磁界として用いることもできる。この場合、電流路を流れる電流の向きを反転させることで、バイアス磁界の方向を反転させることができる。また、チップ20の近傍に配置された永久磁石によって、バイアス磁界を印加してもよい。この場合永久磁石を回転あるいは移動させること等によって、バイアス磁界を反転させることができる。
【0039】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0040】
[1]固定層の磁化方向の向きがそれぞれ反対となるように直列に接続された第1及び第2の磁気検出素子(21a,21b)と、直列に接続された前記第1及び第2磁気検出素子(21a,21b)の両端間に直流電圧を印加する電圧源(31)と、を有し、前記第1磁気検出素子(21a)と前記第2磁気検出素子(21b)との間の電圧を出力する電流センサ(1)であって、前記第1及び第2の磁気検出素子(21a,21b)に、前記磁化方向と垂直方向のバイアス磁界を印加するバイアス磁界印加手段(4)と、前記バイアス磁界印加手段(4)で印加するバイアス磁界の方向を反転させるバイアス磁界反転手段(5)と、前記バイアス磁界反転手段(5)によるバイアス磁界の反転前後の出力の平均化処理を行う平均化処理部(6)と、を備えた、電流センサ(1)。
【0041】
[2]前記バイアス磁界反転手段(5)は、所定の時間間隔ごとにバイアス磁界の方向を切り替えるように構成されている、[1]に記載の電流センサ(1)。
【0042】
[3]前記バイアス磁界印加手段(4)は、前記第1及び第2磁気検出素子(21a,21b)の近傍に設けられた1つのバイアスコイル(41)と、前記バイアスコイル(41)に直流電流を供給する電流源(42)と、を有し、前記バイアス磁界反転手段(5)は、前記電流源(42)からバイアスコイル(41)に供給される直流電流の向きを反転させることで、バイアス磁界の方向を反転させる、[1]または[2]に記載の電流センサ(1)。
【0043】
[4]前記第1及び第2磁気検出素子(21a,21b)の磁気抵抗変化率が同じである、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の電流センサ(1)。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1…電流センサ
2…センサ部
20…チップ
21…磁気検出素子
210…固定層
211…自由層
21a…第1磁気検出素子
21b…第2磁気検出素子
3…処理回路部
31…駆動用定電圧回路(電圧源)
4…バイアス磁界印加手段
41…バイアスコイル
42…バイアス用定電流源(電流源)
5…バイアス磁界反転手段
51…極性切替部
6…平均化処理部
7…クロック生成部
8…バスバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6