(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(a)で用いられる合成石英ガラスインゴットのOH基濃度が、300〜1,200ppmである請求項1〜3のいずれか1項記載の合成石英ガラス基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体集積回路の高集積化はめざましい。この傾向に伴い、半導体素子製造時のリソグラフィプロセスでの露光光源の短波長化が進み、現在ではKrFエキシマレーザ(248.3nm)からArFエキシマレーザ(193.4nm)を使用するフォトリソグラフィが主流である。今後、更なる微細化およびレンズの高NA化のための液浸技術の導入とともに、製造時のスループットを向上させるため、光源となるArFエキシマレーザの高出力化が進むと思われる。
【0003】
このような光源の短波長化やレンズの高NA化に伴い、露光装置に使用されるレンズ、ウィンドウ、プリズム、フォトマスク用合成石英ガラス等の光学部品には、より高精度なものが求められている。特に、ArFエキシマレーザを主に用いるフォトマスク用合成石英ガラスに関しては、高く、均一な紫外線透過性、エキシマレーザの長時間照射に対する透過率の持続性およびその均一性、さらに偏光照明の採用によっては、面内の複屈折の低減等、多数の要求を満たす必要がある。
【0004】
合成石英ガラスにArF等のエキシマレーザ光照射を長時間行うと、いわゆるE’センタ(≡Si・)と呼ばれる波長214nmを中心とする吸収帯と、NBOHC(非架橋酸素ラジカル:≡Si−O・)と呼ばれる波長260nmを中心とする吸収帯が生成し、透過率低下を招く。合成石英ガラスの水素分子は、これらE’センタやNBOHC等の欠陥を修復する作用があり、この修復作用を有意に発現させるためには、水素分子を一定以上(3×10
16分子/cm
3以上)含有させる必要がある。また、エキシマレーザを含む紫外線を一定時間照射すると発生する赤色蛍光の防止の観点からも、水素分子は一定以上含まれることが好ましい。フォトマスク用合成石英ガラス基板においてはエキシマレーザの照射を受ける有効範囲内の光透過率の均一性が重要視されることから、エキシマレーザ耐性もまた基板面内に均一であることが好ましく、それ故、基板内の水素分子濃度を均一に調整することも必要とされる。
【0005】
合成石英ガラス中の水素分子濃度の調整は、主に水素ガス以外の雰囲気下で加熱を行い、合成石英ガラス中の水素分子を脱離させる脱水素処理、または水素ガス雰囲気内の加熱炉に合成石英ガラスを設置し、水素分子を加える水素ドープ処理によって行われる。例えば、特許文献1には、ブロック状の合成石英ガラスに水素ドープ処理を行い、合成石英ガラス中の水素分子濃度を5×10
17分子/cm
3程度含有させる方法が開示されている。
また、合成石英ガラスがフォトリソグラフィプロセスで用いられるマスク基板原料である場合、水素分子濃度の調整は合成石英ガラスブロックをスライスした基板状態で施される場合もある。例えば、特許文献2では、ブロック状の合成石英ガラスの状態でアニール処理を実施した後、ブロックをスライス加工して得られた基板にさらにアニール処理を施すことで、除歪し、最後に水素ドープ処理することで合成石英ガラス基板の水素分子濃度を調整する方法が開示されている。また、特許文献3では、スライスした円形の合成石英ガラスに水素ドープを施した後に、ヘリウム雰囲気下で一定時間加熱する脱水素処理によって水素分子濃度を調整する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されている方法は、ブロック状の合成石英ガラスを熱処理する方法であるため、アニール処理に1,000時間程、水素ドープ処理に1,500〜1,800時間程要し、生産性が低くなるという問題点がある。
その点、スライス基板で熱処理を行う特許文献2の方法は、ブロックで熱処理する場合に比べて、処理時間が短く済ませられる場合が多い。しかし、スライス基板で水素ドープ処理を行うと、水素分子濃度は基板表面から増加することから、基板表面の水素分子濃度は、基板内部の水素分子濃度に比べ、相当に高くなってしまう。基板表面の水素分子濃度が高すぎると、エキシマレーザの出力密度が高い照射条件(ArFやF
2等)では、エキシマレーザ出射側の表面および表面近傍での微小クラックの発生が避けられない可能性が高い。この微小クラックが発生した場合、エキシマレーザはそれによって散乱し、透過率が極端に低下するため、露光特性に著しい問題を引き起こす可能性がある。また、特許文献2の手法は、ブロックでアニール処理するため、処理時間が長くなり、生産性が低くなってしまうという問題もある。
【0008】
上記微小クラックを抑制するためには、基板表面の水素分子濃度が5×10
17分子/cm
3以下である必要があるが、特許文献3に記載されている方法では、脱水素処理においてガラス表面部の水素分子濃度を低下させているものの、同時にガラス内部の水素分子濃度も3×10
16分子/cm
3未満まで低下しているため、満足なエキシマレーザ耐性と赤色蛍光発生抑制効果が得られない可能性が高い。また、特許文献3の水素ドープ処理および脱水素処理は、処理温度がガラス構造変化温度域の500〜600℃であるため、設定プログラムによっては複屈折悪化の原因となる構造欠陥を誘発する可能性もある。
したがって、エキシマレーザ照射による透過率の低下量抑制(耐光性)およびエキシマレーザ照射有効範囲における均一な耐光性、紫外線照射による赤色蛍光発生の抑制、エキシマレーザ照射時に発生する微小クラック発生の抑制をいずれも達成可能な合成石英ガラス基板を、より短時間の処理で製造可能な方法が求められている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、水素分子濃度が高度に制御された合成石英ガラス基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、合成石英ガラス板にアニール処理を行った後、水素ドープ処理を行って合成石英ガラス板内の水素分子濃度を調整し、さらに脱水素処理にて合成石英ガラス板表面の水素分子濃度を低下させることにより、より短時間の処理で水素分子濃度が高度に制御された合成石英ガラス基板を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、
1. (a)合成石英ガラスインゴットを熱間成型して合成石英ガラスブロックを得る工程、
(b)得られた前記合成石英ガラスブロックをスライスして合成石英ガラス板を得る工程、
(c)合成石英ガラス板を500〜1,250℃の範囲で15〜60時間アニール処理を行う工程、
(d)前記アニール処理後の合成石英ガラス板を、水素ガス雰囲気中、300〜450℃で20〜40時間水素ドープ処理を行う工程、
(e)前記水素ドープ処理された合成石英ガラス板を、200〜400℃で5〜10時間脱水素処理を行う工程、
を含むことを特徴とする合成石英ガラス基板の製造方法、
2. 前記工程(e)にて脱水素処理された合成石英ガラス板に紫外線を照射する工程を含む1の合成石英ガラス基板の製造方法、
3. 前記工程(c)にてアニール処理を行った合成石英ガラス板内の水素分子濃度が、2×10
16分子/cm
3以下である1または2の合成石英ガラス基板の製造方法、
4. 前記工程(a)で用いられる合成石英ガラスインゴットのOH基濃度が、300〜1,200ppmである1〜3のいずれかの合成石英ガラス基板の製造方法、
5. 合成石英ガラス基板の主表面の任意の点における主表面から厚み中心までの水素分子濃度の最小値が3×10
16分子/cm
3以上、水素分子濃度の最大値が1×10
18分子/cm
3以下であり、かつ合成石英ガラス基板の厚みをtとした場合に、合成石英ガラス基板の主表面からt/4の範囲の任意の点に水素分子濃度の極大点を有する合成石英ガラス基板、
6. 前記合成石英ガラス基板の主表面の水素分子濃度が、5×10
16〜5×10
17分子/cm
3である5の合成石英ガラス基板、
7. 前記合成石英ガラス基板の厚さ中心(t/2)の水素分子濃度が、3×10
16〜3×10
17分子/cm
3である5または6の合成石英ガラス基板、
8. 前記合成石英ガラス基板の同一厚さにおける面内の水素分子濃度の最大値と最小値の差が、5×10
16分子/cm
3以下である5〜7のいずれかの合成石英ガラス基板
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、短時間の熱処理で合成石英ガラス基板の複屈折を低下させることができる。また、合成石英ガラス基板内の水素分子濃度を均一に高く維持しつつ、基板表面の水素分子濃度のみが低下した合成石英ガラス基板を短時間で得ることができる。
本発明の製造方法で得られた合成石英ガラス基板は、エキシマレーザ照射による透過率の低下量抑制(耐光性)およびエキシマレーザ照射有効範囲における均一な耐光性を有すると共に、紫外線照射による赤色蛍光発生およびエキシマレーザ照射時に発生する微小クラック発生が抑制されるため、エキシマレーザ、特にArFエキシマレーザや、ArF液浸技術等にも使用される合成石英ガラス基板として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る合成石英ガラス基板の製造方法は、下記(a)〜(e)の工程を含むものである。
(a)合成石英ガラスインゴットを熱間成型して合成石英ガラスブロックを得る工程
(b)得られた合成石英ガラスブロックをスライスして合成石英ガラス板を得る工程
(c)合成石英ガラス板を500〜1250℃の範囲で15〜60時間アニール処理を行う工程
(d)アニール処理後の合成石英ガラス板を、水素ガス雰囲気中、300〜450℃で20〜40時間水素ドープ処理を行う工程
(e)水素ドープ処理された合成石英ガラス板を、200〜400℃で5〜10時間脱水素処理を行う工程
【0015】
(1)工程(a)
本発明で用いられる合成石英ガラスとしては、例えば、シラン化合物やシロキサン化合物等のシリカ原料化合物を、酸水素火炎によって気相加水分解または酸化分解して生じるシリカ微粒子をターゲット上に堆積させてガラス化したものを用いることができる。この場合、シリカ微粒子をターゲット上に堆積させると共に、これを溶融ガラス化する直接法や、発生したシリカ微粒子をターゲット上に堆積後、加熱ガラス化する間接法のいずれの方法で製造したものでもよい。
合成石英ガラスインゴットのOH基濃度は、複屈折の低減または紫外線透過率低下防止の観点から、好ましくは300〜1,200ppm、より好ましくは400〜900ppm、より一層好ましくは450〜800ppmである。合成石英ガラスインゴットのOH基濃度は、赤外分光光度計(例えば、(株)島津製作所製 分光光度計SolidSpec−3700)を用いて、OH基の吸収を測定して算出する。
【0016】
合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の調整は、直接法の場合には、合成石英ガラスインゴット製造時のシリカ原料化合物量、使用する酸水素量、バーナ形状を制御する等の方法により行うことができる。一方、間接法の場合には、シリカ微粒子堆積時のシリカ原料化合物量、使用する酸水素量、バーナ形状を制御することや、シリカ微粒子をガラス化する温度より低温の水蒸気雰囲気下で熱処理する等の方法により行うことができる。
得られた合成石英ガラスインゴットは、表面に付着した不純物や表面近傍に存在する泡を円筒研削により除去し、表面に付着した汚れをフッ酸に浸漬させて洗浄除去することが好ましい。合成石英ガラスインゴットの表面を予め洗浄してから熱処理することにより、ArFエキシマレーザ用フォトマスク用光学部材として使用する場合、ArFエキシマレーザに対する透過率を高く維持することができる。
その後、合成石英ガラスインゴットを真空溶解炉にて、高純度カーボン製の型材を使用し、例えば、温度1,700〜1,900℃で30〜120分間保持し、円柱状の合成石英ガラスインゴットを所望の形状の合成石英ガラスブロックに熱間成型する。
【0017】
(2)工程(b)
工程(a)で得られた合成石英ガラスブロックをスライス、必要に応じて面取り加工することにより、所定の大きさ、例えば152mm×152mm、厚さ7mm程の粗面状の合成石英ガラス板を作製する。この合成石英ガラス板の厚みは、各熱処理時の生産性、効率性や、水素ドープ処理時の基板面内水素ドープ均一性の観点から、好ましくは6.5〜10mm、より好ましくは6.9〜7.5mmである。
【0018】
(3)工程(c)
工程(b)で得られた合成石英ガラス板にアニール処理を行う。アニール処理は、例えば、電気炉内に合成石英ガラス板を設置して大気圧下で行うことができる。ここでの合成石英ガラス板の設置方法は特に制限されない。
アニール処理の温度は、通常500〜1,250℃であるが、より好ましくは500〜1,200℃、より一層好ましくは500〜1,100℃である。500℃未満であると、複屈折を低下させることができない場合があり、一方、1,250℃を超えると、Na、Cu、Fe等の金属不純物が外部環境から拡散し易くなるので、合成石英ガラスの紫外線透過率低下を招く場合がある。
また、アニール処理の時間は、通常15〜60時間であるが、好ましくは30〜50時間である。15時間未満であると、合成石英ガラス基板の複屈折を十分に低下できない場合がある。一方、60時間を超えると、Na、Cu、Fe等の金属不純物の拡散により、合成石英ガラスの紫外線透過率低下を招く場合がある。
【0019】
アニール処理の処理プログラムは特に制限されるものではなく、例えば、以下に示す処理プログラムに従ってアニール処理を行うことにより、合成石英ガラス板の複屈折を効率的に低下させることができる。
具体的には、最高温度まで、好ましくは50℃/hr以上、より好ましくは100℃/hr以上の速度で昇温してアニール処理する。最高温度は、好ましくは1,060〜1,250℃、より好ましくは1,080〜1,200℃である。最高温度の保持時間は、合成石英ガラス板の変形を抑制する観点から、好ましくは0.5時間以下、より好ましくは0.05〜0.25時間である。その後、950〜1,080℃の温度まで−7.5〜−30℃/hrで冷却後、冷却時の熱履歴の影響や合成石英ガラス板内の温度分布の均一性を考慮して、950〜1,080℃の温度にて、7〜15時間保持することが好ましい。
続いて、500℃まで−25〜−85℃/hr以下で徐冷する。この徐冷工程は、アニール処理時間の短縮または効率的な複屈折低下の観点から、2段階に分けて行うことが好ましい。具体的には、950〜1,080℃の温度から850℃までは、好ましくは−25〜−45℃/hr、より好ましくは−30〜−40℃/hrで徐冷する第一の徐冷工程と、850℃〜500℃までは、好ましくは−25〜−85℃/hr、より好ましくは−35〜−75℃/hr、より一層好ましくは−45〜−75℃/hrの速度で徐冷する第二の徐冷工程からなる手法で徐冷する。
【0020】
アニール処理を行った後の合成石英ガラス板の最大水素分子濃度は、好ましくは2×10
16分子/cm
3以下、より好ましくは1×10
16分子/cm
3以下である。アニール処理は比較的高温で処理するため、合成石英ガラス板内の水素分子が脱離する。その結果、アニール処理を行った後の合成石英ガラス板は、水素分子濃度分布にばらつきを有し、次工程の水素ドープ処理後の合成石英ガラス板の水素分子濃度分布に影響するため、上記範囲が好ましい。なお、アニール処理を行った後の合成石英ガラス板の水素分子濃度は、2×10
16分子/cm
3以下であればその下限は特に制限されないが、好ましくは検出下限(例えば、1.0×10
16分子/cm
3)である。
水素分子濃度の測定は、顕微ラマン分光光度計を用いたラマン分光光度法によって行う。顕微ラマン分光光度計の検出器の感度には日間差があるため、測定前に標準試料を用いて校正を行う。
水素分子濃度の測定は、0.1mmΦの単位で測定可能である。そのため、本明細書中で記述する水素分子濃度は、合成石英ガラス板内を0.1mmΦ単位で測定した際のその測定点における水素分子濃度を言う。また、上記水素分子濃度の最大値は、合成石英ガラス板内を0.1mmΦ単位で測定した際の水素分子濃度の最大値を言う。
【0021】
(4)工程(d)
次に、工程(c)にてアニール処理を行った合成石英ガラス板に対して、水素ドープ処理を行う。水素ドープ処理は、例えば、水素置換可能な加熱電気炉に合成石英ガラス板を設置して行うことができる。水素分子は、合成石英ガラス板に対して仕込み方や位置に関わらず均等にドープされるため、水素ドープ処理における基板の置き方や仕込み枚数は特に制限されない。
炉内の水素分子濃度は、水素ドープ処理の効率性、安全性の観点から、好ましくは98vol%以上、より好ましくは99vol%以上である。処理温度到達時の炉内圧力は、絶対圧で好ましくは0.1〜0.2MPa、より好ましくは0.1〜0.15MPaである。
また、処理温度は、通常300〜450℃であるが、好ましくは350〜400℃である。300℃未満であると、水素ドープ処理に時間がかかり、生産性が悪くなる場合があり、一方、450℃を超えると、ガラス構造変化温度域に相当するため、複屈折率悪化の原因となる構造欠陥を誘発する場合がある。
【0022】
合成石英ガラス板への水素ドープ処理時間は、上記処理温度において、通常20〜40時間であるが、好ましくは24〜40時間である。20時間未満であると、所望の値まで水素分子濃度を増加させることができなくなる場合があり、一方、40時間を超えると、金属不純物拡散による透過率低下および複屈折の悪化を誘発する場合がある。
このような水素ドープ処理を行った後の合成石英ガラス板の水素分子濃度は、特に限定されるものではないが、エキシマレーザ等の紫外線照射に対する満足な耐性や、赤色蛍光防止の観点から、好ましくは3×10
16〜1×10
18分子/cm
3、より好ましくは5×10
16〜8×10
17分子/cm
3、より一層好ましくは1×10
17〜5×10
17分子/cm
3である。
また、合成石英ガラス板の同一厚さにおける面内の水素分子濃度の最大値と最小値の差も特に限定されるものではないが、エキシマレーザ等の紫外線照射有効範囲内の耐性差を小さくする観点から、好ましくは5×10
17分子/cm
3以内、より好ましくは2×10
17分子/cm
3以内、より一層好ましくは5×10
16分子/cm
3以内、さらに好ましくは3×10
16分子/cm
3以内である。
【0023】
(5)工程(e)
続いて、工程(d)にて水素ドープ処理を行った合成石英ガラス板に対し、脱水素処理を行う。通常、水素ドープ処理を行った合成石英ガラス基板の表面部の水素分子濃度は、基板内部の水素分子濃度に比べて高い場合が多く、エキシマレーザ等の紫外線照射時に基板表面付近に微小クラックが発生する虞がある。そのため、エキシマレーザ等の紫外線照射に対する耐性を維持し、かつ微小クラックを抑制するために、基板内部の水素分子濃度は維持したまま、基板表面部の水素分子濃度を5×10
16〜5×10
17分子/cm
3まで低下させるべく、脱水素処理を行う。
脱水素処理は、例えば、加熱電気炉に合成石英ガラス板を設置して行うことができるが、その際、合成石英ガラス板の置き方、仕込み枚数は特に制限されない。炉内の雰囲気ガス種およびその濃度は合成石英ガラスの物性に影響を及ぼさない限り、特に制限されない。
脱水素処理の処理温度は、通常200〜400℃であるが、好ましくは250〜350℃である。200℃未満であると、合成石英ガラス板から水素分子が脱離しない場合があり、一方、400℃を超えると、ガラス構造変化温度域に相当するため、複屈折率悪化の原因となる構造欠陥を誘発する場合がある。
処理温度到達時の炉内圧力は、特に限定されるものではないが、絶対圧で好ましくは0.1〜0.2MPa、より好ましくは0.1〜0.13MPaである。
脱水素処理の処理時間は、好ましくは5〜10時間、より好ましくは6〜8時間である。5時間未満であると、合成石英ガラス板表面の脱水素が不十分となる場合があり、一方、10時間を超えると、合成石英ガラス板内部の水素分子濃度も低下する場合がある。
【0024】
(6)工程(f)
さらに、ArFエキシマレーザの波長193.4nmでの初期透過率を向上させるため、必要に応じて紫外線を照射することができる。紫外線照射には、例えば、低圧水銀ランプ、水銀キセノンランプ、エキシマランプ等を用いることができる。照射時間は、好ましくは5〜72時間、より好ましくは12〜48時間である。
その後、ラッピング加工、研磨加工と従来と同様の研磨加工工程を経て、所定の大きさ、例えば152mm×152mm、厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を製造することができる。
【0025】
このようにして得られた合成石英ガラス基板の任意の点における主表面から厚さ中心までの水素分子濃度の最小値は、3×10
16分子/cm
3以上であり、好ましくは5×10
16分子/cm
3以上である。また、上記範囲における水素分子濃度の最大値は、1×10
18分子/cm
3以下であり、好ましくは7×10
17分子/cm
3以下であり、より好ましくは3×10
17分子/cm
3以下である。水素分子濃度が3×10
16分子/cm
3未満である場合、エキシマレーザ等の紫外線照射に対する満足な耐性が得られなくなり、さらに、赤色蛍光抑制効果も得られなくなる。一方、水素分子濃度が1×10
18分子/cm
3を超える場合、紫外線照射時に生成した欠陥を水素分子が修復し、それによって生成したOH基が波長180nm以下の光透過性を阻害するため、満足なエキシマレーザ耐性が得られなくなる。
【0026】
また、このようにして得られた合成石英ガラス基板は、
図2に示されるように、その厚みをtとした場合に、合成石英ガラス基板の主表面からt/4、好ましくは主表面からt/8の範囲の任意の点に、水素分子濃度の極大点を有する。
エキシマレーザを合成石英ガラス基板の主表面に照射すると、主表面の水素分子が消費される。そのため、主表面よりも水素分子濃度が高い点が主表面より下層の内部に存在することにより、内部から主表面に向かって水素分子が供給され、エキシマレーザ耐性を保つことができる。これにより、微小クラックを抑制しつつ、満足なエキシマレーザ耐性を効果的に保つことができる。しかし、水素分子濃度の極大点が主表面からt/4の任意の点より下層の内部に存在すると、主表面への水素分子濃度の供給が効果的に行われず、エキシマレーザ耐性が有意に保てなくなる。
なお、極大点の有無およびその位置は、合成石英ガラス基板の任意の点における主表面から厚み中心(t/2)まで深さ方向に向かって0.1mmΦピッチで水素分子濃度の測定を行い、その際の最大値を極大点とし、この極大点が存在する基板の厚さにより極大点の位置を特定する。
【0027】
合成石英ガラス基板の主表面の水素分子濃度は、エキシマレーザ照射に対する満足な耐性や微小クラック発生抑制の観点から、好ましくは5×10
16〜5×10
17分子/cm
3、より好ましくは8×10
16〜3×10
17分子/cm
3、より一層好ましくは8×10
16〜2×10
17分子/cm
3である。
また、合成石英ガラス基板の厚さ中心(t/2)の水素分子濃度は、エキシマレーザ照射に対する満足な耐性や、主表面からt/4の範囲の任意の地点に存在する水素分子濃度の極大点の効果を十分に発揮するために、好ましくは3×10
16〜3×10
17分子/cm
3、より好ましくは5×10
16〜2×10
17分子/cm
3である。
さらに、合成石英ガラス基板の同一厚さにおける面内の水素分子濃度の最大値と最小値の差は、合成石英ガラス基板のエキシマレーザ照射面の耐性差を抑制する観点から、好ましくは5×10
16分子/cm
3以下であり、より好ましくは3×10
16分子/cm
3以下であり、より一層好ましくは2×10
16分子/cm
3以下である。
【0028】
合成石英ガラス基板内の水素分子は、基板外周部から基板中心部に向かって拡散し、ドープされる。そのため、基板中心部が最小となり、基板の水素分子濃度は基板外周部が最大となる。したがって、合成石英ガラス基板の水素分子濃度の最小値および最大値は、
図1の中心Bと端Cにそれぞれ存在する。そのため、この二点の厚み方向の平均水素分子濃度を測定すれば同一厚さにおける最大値と最小値の差を評価することが可能である。ここで、平均水素分子濃度は、主表面から厚み中心(t/2)まで深さ方向に向かって0.1mmΦピッチで測定を行い、その各点における測定値を合計し、測定点数で割ることにより算出することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、水素分子濃度、複屈折、初期透過率、OH基濃度、微小クラックおよび赤色蛍光は、それぞれ以下に示す方法にて測定した。
〔水素分子濃度〕
水素分子濃度は、顕微ラマン分光光度計(Renishaw社製 inViaシリーズ)を用いて、レーザラマン分光光度法により測定した。合成石英ガラス板または基板の水素分子濃度は、
図1に示されるように、152mm角(152mm×152mm)の合成石英ガラス板または基板Aの中心Bおよび端C(合成石英ガラス基板の隅から5mm内側の点)の主表面から厚み中心(t/2)まで、深さ方向に向かって0.1mmΦピッチで測定した。
〔複屈折率〕
複屈折率は、複屈折率測定装置(UNIOPT社製 ABR−10A)を用いて、室温(25℃)で測定した。測定は、合成石英ガラス基板を10mm間隔で測定し、その最大値を測定値とした。なお、測定光源にはHe−Neレーザを使用し、測定値に1.5を乗じることにより、波長193.4nmにおける複屈折率値とした。
〔初期透過率〕
透過率測定装置(VARIAN社製 Cary400)を用いて、紫外分光光度法により波長193.4nmにおける初期透過率を測定した。
〔ArFエキシマレーザ照射による透過率低下量〕
ArFエキシマレーザ(193.4nm)を、1mJ/cm
2/pulseにて、1×10
6Shots照射時の透過率低下量を測定した。
〔OH基濃度〕
赤外分光光度計((株)島津製作所製 SolidSpec−3700)を用いて、OH基の吸収を測定し、下記式に基づくOH基濃度とOH基の吸収との関係示す検量線から、OH基濃度を求めた。
OH基濃度(ppm)={(4522cm
-1における吸光度)/サンプル厚さ(cm)}×4400
なお、合成石英ガラスインゴットのOH基濃度の最小値および最大値は、合成石英ガラスインゴットから取得した輪切りサンプルのOH基濃度を測定し、最も低い値をそのインゴットのOH基濃度の最小値とし、最も高い値をそのインゴットのOH基濃度の最大値と定めた。
〔微小クラック〕
ArFエキシマレーザ(193.4nm)を、10mJ/cm
2/pulseにて照射し、150Shots照射時に透過率低下が1.0%以上のものを微小クラック有りと、1.0%未満のものを微小クラック無しと判断した。
〔赤色蛍光〕
Xeエキシマランプ(172nm)にて照度10mW/cm
2で合計10分間合成石英ガラス基板全面に照射した後、UVトランスイルミネータにより、暗所で目視検査した。
【0030】
[実施例1]
OH基濃度の最小値が440ppm、最大値が840ppmの合成石英ガラスインゴットを真空溶解炉にてカーボン製型材の中に据え、アルゴンガス雰囲気下、温度1,780℃で40分間加熱して、160mm×160mm×350mmLの合成石英ガラスブロックに成型した。
合成石英ガラスブロックの表面を研削、研磨等で調整した後、スライス、面取り処理を行い、152mm×152mm×厚さ7.00mmの合成石英ガラス板を得た。
得られた合成石英ガラス板を大気中、常圧の電気炉内に5枚を平置きで重ねて設置し、アニール処理を行った。具体的には、1,100℃まで108℃/hrで昇温し、1,100℃で5分間保持した後、980℃まで−15℃/hrの速度で冷却し、980℃で10時間保持した後、さらに850℃まで−30℃/hrの速度で徐冷し、500℃まで−50℃/hrの速度で徐冷した後に、電気炉の電源を落とし、室温まで冷却した。なお、複屈折は重ねた合成石英ガラス板群の上から3枚目を測定した。また、アニール処理後の合成石英ガラス板の水素分子濃度は、検出下限(1.0×10
16分子/cm
3)であった。
アニール処理を行った合成石英ガラス板を420mmΦ×2,000mmLの処理空間を有する水素炉に平置きで設置し、水素炉内を水素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度到達時に炉内圧力が0.11MPaの微加圧になるように圧力を調節した。その後、炉内温度を400℃まで昇温し、400℃で24時間水素ドープ処理を行った。そして、水素炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
水素ドープ処理を行った合成石英ガラス板を電気炉に平置きで設置し、炉内を窒素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度である350℃に到達時に炉内圧力が大気圧になるように圧力を調整した。その後、350℃まで昇温した後、350℃で8時間脱水素処理を行った。そして、電気炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
脱水素処理を行った合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0031】
[実施例2]
実施例1と同様の方法でアニール処理まで行った合成石英ガラス板を、420mmΦ×2000mmLの処理空間を有する水素炉に平置きで設置し、水素炉内を水素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度到達時に炉内圧力が0.11MPaの微加圧になるように圧力を調節した。その後、炉内温度を400℃まで昇温し、400℃で40時間水素ドープ処理を行った。そして、水素炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
水素ドープ処理を行った合成石英ガラス基板を電気炉に平置きで設置し、炉内を窒素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度である350℃に到達時に炉内圧力が大気圧になるように圧力を調整した。その後、350℃まで昇温した後、350℃で8時間脱水素処理を行った。そして、電気炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
脱水素処理を行った合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0032】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でアニール処理まで行った合成石英ガラス板を、420mmΦ×2000mmLの処理空間を有する水素炉に平置きで設置し、水素炉内を水素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度到達時に炉内圧力が0.11MPaの微加圧になるように圧力を調節した。その後、炉内温度を350℃まで昇温し、350℃で32時間水素ドープ処理を行った。そして、水素炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
水素ドープ処理を行った合成石英ガラス板を電気炉に平置きで設置し、炉内を窒素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度である350℃に到達時に炉内圧力が大気圧になるように圧力を調整した。その後、350℃まで昇温した後、350℃で8時間脱水素処理を行った。そして、電気炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
脱水素処理を行った合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0033】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で水素ドープ処理まで行った合成石英ガラス板を電気炉に平置きで設置し、炉内を窒素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度である250℃に炉内圧力が大気圧になるように圧力を調整した。その後、250℃まで昇温した後、250℃で8時間脱水素処理を行った。そして、電気炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
この合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0034】
[実施例5]
実施例1と同様の方法で脱水素処理まで行った合成石英ガラス板にラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0035】
[比較例1]
OH基濃度の最小値が440ppm、最大値が840ppmの合成石英ガラスインゴットを真空溶解炉にてカーボン製型材の中に据えて、温度1,780℃、アルゴンガス雰囲気下で40分間加熱して、160mm×160mm×210mmLの合成石英ガラスブロックに成型した。次に、合成石英ガラスブロックのバリ除去後、40mmの厚みにスライスした。
得られた合成石英ガラスブロックを大気中、常圧の電気炉内に設置し、アニール処理を行った。具体的には、温度1,150℃まで5時間で昇温し、5時間保持した。900℃まで−2℃/hrの降温速度で徐冷し、さらに200℃まで−5℃/hrの降温速度で徐冷後、電気炉の電源を落とした。室温まで冷却後、電気炉のドアを開放して合成石英ガラスブロックを取り出した。なお、アニール処理後の合成石英ガラス板の水素分子濃度は、検出下限(1.0×10
16分子/cm
3)であった。このブロックの6面を平面研削機にて直角度処理および表面処理を実施し、6インチ角に仕上げ、ブロックの中央から、152mm×152mm×厚さ7.00mmの合成石英ガラス板を切り出した。
得られた合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0036】
[比較例2]
比較例1と同様の方法でアニール処理まで行った合成石英ガラスブロックの6面を平面研削機にて直角度処理および表面処理を実施し、6インチ角に仕上げ、スライス、面取り、ラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0037】
[比較例3]
実施例1と同様の方法で水素ドープ処理まで行った合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス基板を得た。
【0038】
[比較例4]
実施例1と同様の方法で水素ドープ処理まで行った合成石英ガラス板を電気炉に平置きで設置し、炉内を窒素ガス雰囲気(99vol%)に置換し、処理温度である400℃に到達時に炉内圧力が大気圧になるように圧力を調整した。その後、400℃まで昇温し、400℃で16時間脱水素処理を行った。その後、電気炉の加熱を止め、自然冷却で室温まで冷却した。
この合成石英ガラス板に低水銀ランプによる紫外線照射を24時間実施した後、さらにラッピング加工、研磨加工を実施し、152mm×152mm×厚さ6.35mmの合成石英ガラス研磨基板を得た。
【0039】
上記各実施例および比較例で得られた合成石英ガラス基板の水素分子濃度(最大値、最小値および平均値)、主表面からt/4の範囲における極大点の有無、波長193.4nmにおける複屈折並びに初期透過率、ArFエキシマレーザ照射による透過率低下量を測定し、微小クラックの有無および赤色蛍光の有無を確認した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示される通り、本発明の製造方法で得られた実施例1〜5の合成石英ガラス基板は、複屈折が低く、初期透過率が高く、ArFエキシマレーザ照射による透過率低下量も小さく、紫外線照射時の欠陥も見られないことがわかる。
一方、比較例1および2で得られた合成石英ガラス基板は、実施例と同等の複屈折および初期透過率等を示したが、アニール処理に実施例の7倍もの時間を費やした。また、実施例と同等の水素分子濃度にもかかわらず、極大点が無いために、ArFエキシマレーザ照射による透過率低下量が実施例よりも大きくなった。
比較例3で得られた合成石英ガラス基板は、脱水素処理を行わなかったため、表面の水素分子濃度が高く、エキシマレーザ照射時に微小クラックが発生した。
比較例4では、脱水素処理に16時間が費やされているが、このように10時間を超えて脱水素処理を行うと、合成石英ガラス基板の主表面および内部の水素分子が多く脱離するため、極大点を有しているにもかかわらず、エキシマレーザ照射による透過率低下量が大きくなり、また、紫外線照射時に赤色蛍光も発生した。