特許第6927063号(P6927063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6927063ABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927063
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】ABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20210812BHJP
   C01B 13/32 20060101ALI20210812BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210812BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210812BHJP
【FI】
   C01G23/00 C
   C01B13/32
   B82Y40/00
   B82Y30/00
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-8537(P2018-8537)
(22)【出願日】2018年1月23日
(65)【公開番号】特開2019-127403(P2019-127403A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清森 歩
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−051913(JP,A)
【文献】 特開2003−183287(JP,A)
【文献】 特開2013−177558(JP,A)
【文献】 特開2003−047831(JP,A)
【文献】 有機合成化学協会誌,2000年,Vol.58, No.10,p.926-933
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
C01B 13/00−13/36
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第一の金属Aのアルコキシド、第二の金属Bのアルコキシド、オルガノシラノールおよび有機溶媒を混合して溶液を得る工程、並びに
(b)前記工程(a)で得られた溶液を加熱することによりABO3型ペロブスカイトの微結晶を生成させる工程
を含み
前記オルガノシラノールが、トリオルガノシラノールであり、
このトリオルガノシラノールの脱水縮合反応速度が、トリメチルシラノールより遅く、トリイソプロピルシラノールより速いABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法。
【請求項2】
前記第一の金属Aが、周期表の第2族金属から選ばれ、前記第二の金属Bが、周期表の第4族金属から選ばれる請求項記載のABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ABO3型ペロブスカイト構造は、チタン酸カルシウム鉱物に代表される三元系金属酸化物の安定な結晶構造の一つである。
ペロブスカイト構造を有する金属酸化物としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、ニオブ酸カリウム、ランタンガレート、ビスマスフェライトおよびそれらの固溶体等の単純ペロブスカイトや、Pb(Ni1/3Nb2/3)O3のような金属原子AやBを他の金属原子に置き換えた複合ペロブスカイトなど、様々なものが存在することが知られている。
【0003】
これらのABO3型ペロブスカイト構造を有する化合物は、強誘電性や圧電性、酸化物イオン伝導性等の性質を示すことから工業的に利用価値が高い。
例えば、チタン酸バリウムは、強誘電体材料として知られており、高い比誘電率を有することから積層セラミックコンデンサ(MLCC)に使用されている。
MLCCが搭載される電子デバイスは小型化・高性能化が進んでおり、それに伴ってMLCCの小型大容量化が求められている。そのために種々の技術開発が行われており、誘電体層の薄層化もその一つである。薄層化による絶縁劣化特性を低下させないため、誘電体層一層あたりの結晶粒界の数を多くする必要があることから、結晶粒子径を小さくすること(小径化)が求められる。
小径化により、塗工により形成される誘電体シートの均一性や平滑性が向上し、誘電体の高充填も可能となるが、一般的なセラミックス粒子の固相合成では、小径化とともに結晶性が低下し、結果として比誘電率が低下する傾向にある。したがって、セラミックス粒子の小径化と結晶性を両立させることが重要である。
【0004】
セラミックス微結晶粒子の合成法としては、いくつかの方法が知られている。
例えば、チタン酸バリウムの固相合成法は、酸化チタンと炭酸バリウムを高温で反応させる方法であり、古くから工業的に利用されているが、ナノメートルサイズの微結晶粒子を得るのは困難である。
一方、金属化合物の溶液を使用する液相合成法としては、水熱法、ゾルゲル法、シュウ酸塩熱分解法、アルコキシド法などが知られている。これらの液相法では固相法と比較して組成の均一性や粒度分布の均一性が優れている。
例えば、特許文献1や非特許文献1には、水熱条件下においてチタン酸バリウムナノ結晶を合成する方法が報告され、非特許文献2には、チタン酸ストロンチウムナノ結晶を合成する方法が報告され、非特許文献3には、ゾルゲル法によるチタン酸バリウム薄膜の合成方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−188334号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chemistry of Materials、2010年、pp.1946−1948
【非特許文献2】Nanoscale、2010年、pp.2080−2083
【非特許文献3】日本セラミックス協会学術論文誌、1990年、743−748頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水熱法ではヒドロキシ基が残存して結晶性が低下したり、また高温かつ高圧での反応が必須であるため危険をともなう。
一方、ゾルゲル法、シュウ酸塩熱分解法、アルコキシド法等の焼成を必要とする合成方法では、得られる粒子の結晶性が焼成温度に依存するため、結晶性の高い粒子を得るためには高温での焼成が必要である。
このように、固相法も含め、一般にセラミックス粒子の合成には大量のエネルギーが投入される。
したがって、セラミックス粒子の小径化と高結晶性を両立できるとともに、さらに省エネルギー化できる製造方法が求められている。
【0008】
本発明は、エネルギー消費の少ないABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、二種類の金属アルコキシドとオルガノシラノールから有機溶媒中で溶液が得られることを見出すともに、この溶液を温和な条件で加熱することにより、ABO3型ペロブスカイト微結晶が効率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、
1. (a)第一の金属Aのアルコキシド、第二の金属Bのアルコキシド、オルガノシラノールおよび有機溶媒を混合して溶液を得る工程、並びに
(b)前記工程(a)で得られた溶液を加熱することによりABO3型ペロブスカイトの微結晶を生成させる工程
を含むABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法、
2. 前記オルガノシラノールが、トリオルガノシラノールであり、
このトリオルガノシラノールの脱水縮合反応速度が、トリメチルシラノールより遅く、トリイソプロピルシラノールより速い1のABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法、
3. 前記第一の金属Aが、周期表の第2族金属から選ばれ、前記第二の金属Bが、周期表の第4族金属から選ばれる1または2のABO3型ペロブスカイト微結晶の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は、ABO3型ペロブスカイトの微結晶を簡便な方法で合成することができる省エネルギープロセスであり、当該製造方法を用いることにより、ABO3型ペロブスカイト微結晶を、比較的低温かつ常圧の条件下で簡便に合成することができる。
本発明の製造方法により得られた微結晶は、粒径が小さく、高い結晶性を有しているため、MLCC等の誘電体、ピエゾ素子等の圧電体の他、酸化物固体電解質、熱電変換材料等の用途に利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1で得られた固体の粉末X線回折スペクトルである。
図2】実施例1で得られた固体の走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の製造方法について、具体的に説明する。
本発明の製造方法では、工程(a)において第一の金属Aのアルコキシド、第二の金属Bのアルコキシドおよびオルガノシラノールを有機溶媒中で混合して溶液を得る。
【0014】
[金属アルコキシド]
本発明の製造方法において、原料として金属アルコキシドを使用する。
金属アルコキシドとしては、様々なものを用いることができ、その具体例としては、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド等の周期表の第1族金属アルコキシド;マグネシウムエトキシド、カルシウムイソプロポキシド、ストロンチウムイソプロポキシド、バリウムイソプロポキシド、バリウム(2−メトキシエトキシド)等の第2族金属アルコキシド;イットリウムイソプロポキシド、ランタンイソプロポキシド、セリウム(2−メトキシエトキシド)等の第3族金属アルコキシド;チタンメトキシド、チタンエトキシド、チタンイソプロポキシド、チタンブトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムtert−ブトキシド、ハフニウムエトキシド、ハフニウムイソプロポキシド等の第4族金属アルコキシド;ニオブエトキシド、ニオブプロポキシド、ニオブブトキシド、ニオブペントキシド、タンタルエトキシド等の第5族金属アルコキシド;アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、ガリウムエトキシド、ガリウムイソプロポキシド、インジウムイソプロポキシド等の第13族金属アルコキシド;スズメトキシド、スズtert−ブトキシド等の第14族金属アルコキシド;アンチモンメトキシド、アンチモンブトキシド、ビスマスイソプロポキシド等の第15族金属アルコキシド等が挙げられる。
【0015】
本発明の製造方法では、金属Aおよび金属Bの二種類の金属アルコキシドを組み合わせて用いる。
第一の金属Aと第二の金属Bの組み合わせからペロブスカイト構造が得られるかどうかは、結晶構造のライブラリー検索を行うと判定でき、より具体的には、電荷のバランスとイオン半径のバランスによりABO3型ペロブスカイト結晶構造をとるかどうかを推定することができる。
電荷については、例えば、Aイオンが一価でありBイオンが五価、Aイオンが二価でありBイオンが四価、Aイオンが三価でありBイオンが三価、となるような組み合わせを選択すればよい。
また、イオン半径については、AイオンおよびBイオン、並びに酸素イオンのイオン半径からゴールドシュミットの寛容性因子を計算すればよい。なお、金属アルコキシドのアルコキシド部分は反応に影響を与えないため、任意である。
このように金属Aのアルコキシドと金属Bのアルコキシドは様々な組み合わせが可能であるが、なかでも第2族金属アルコキシドと第4族金属アルコキシドの組み合わせが好ましい。
第一の金属Aのアルコキシドと、第二の金属Bのアルコキシドはどちらか一方を過剰にして反応を行うことも可能であるが、モル比1:1で反応を行うことが好ましい。
【0016】
[オルガノシラノール]
本発明の製造方法では、工程(a)において金属アルコキシドとオルガノシラノールを反応させる。
シラノールはケイ素にヒドロキシ基が結合した化合物であり、金属アルコキシドのアルコキシ基と交換反応が起こる。原料である金属アルコキシドは金属シロキシドに変換されて有機溶媒に可溶となり、均一で透明な溶液が得られる。このことにより金属Aと金属Bとを原子レベルで混合させることができる。
【0017】
シラノールはアルコールと異なり脱水縮合してシロキサン結合を形成しやすい化合物であるが、シラノールの脱水縮合により水が生成すると、原料の金属アルコキシドと反応して不溶性の金属酸化物が形成され、金属Aと金属Bとを原子レベルで混合させることができなくなる。
また、生成した金属シロキシドは、工程(b)において加熱により溶液中で分解し、ABO3型ペロブスカイト型金属酸化物の結合とともにシロキサン結合が形成される。
【0018】
本発明で使用されるオルガノシラノールに含有されるヒドロキシ基以外のケイ素の置換基としては、アルキル基(メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、テキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、アリール基(フェニル基、トリル基等)、アラルキル基(ベンジル基等)等の炭化水素基が好ましく、これらの置換基はハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)で置換されていてもよい。
また、取扱いの観点から、オルガノシラノールは室温で安定に存在する化合物が好ましい。室温で安定に存在するオルガノシラノールとしては、二官能のジオルガノジシラノールや一官能のトリオルガノシラノールが知られており、なかでもトリオルガノシラノールが好ましく、ケイ素原子が3つの炭化水素基で置換されたシラノールがより好ましく、トリアルキルシラノールがより一層好ましい。
【0019】
上記の本発明の製造方法に関わる化学反応の観点から、本発明で用いるシラノールは脱水縮合反応速度が適切な値であることが好ましく、より具体的には、脱水縮合反応速度がトリメチルシラノールより遅く、トリイソプロピルシラノールより速いトリオルガノシラノールが好適である。
トリオルガノシラノールの脱水縮合速度は、Shimizuらのケイ素上の置換基の立体効果を表す定数を用いて考察し、相対的に比較することができる(Chemistry Letters、1993年、pp.1807−1810)。
【0020】
例えば、トリメチルシラノールとトリエチルシラノールを比較する場合、トリメチルシリルクロロシランとトリエチルシリルクロロシランの加水分解速度を比較すると、トリエチルシリルクロロシランが小さく(1/100)、クロロシランの加水分解とシラノールの脱水縮合はどちらも求核置換反応であることから、トリエチルシラノールの脱水縮合速度はトリメチルシラノールよりも小さいと推定できる。
【0021】
本発明の製造方法において好適に使用できるトリオルガノシラノールの具体例としては、ジメチルエチルシラノール、ジメチルブチルシラノール、ジメチルヘキシルシラノール、ジメチルオクチルシラノール、トリエチルシラノール、tert−ブチルジメチルシラノール、メチルジイソプロピルシラノール、tert−アミルジメチルシラノール、エチルジイソプロピルシラノール、テキシルジメチルシラノール、トリイソプロピルシラノール、プロピルジイソプロピルシラノール、3−クロロプロピルジイソプロピルシラノール、メチルジ−sec−ブチルシラノール、1−メチルシクロヘキシルジメチルシラノール、ブチルジイソプロピルシラノール、tert−ブチルジイソプロピルシラノール、エチルジ−sec−ブチルシラノール、フェニルジエチルシラノール、テキシルジエチルシラノール、イソプロピルジイソブチルシラノール、ペンチルジイソプロピルシラノール、シクロペンチルジイソプロピルシラノール、プロピルジ−sec−ブチルシラノール、イソプロピルジ−sec−ブチルシラノール、アリルジ−sec−ブチルシラノール、3−クロロプロピルジ−sec−ブチルシラノール、3−アセトキシプロピルジ−sec−ブチルシラノール、フェニルイソプロピルエチルシラノール、メチルジシクロペンチルシラノール、ヘキシルジイソプロピルシラノール、シクロヘキシルジイソプロピルシラノール、フェニルジイソプロピルシラノール、ブチルジ−sec−ブチルシラノール、sec−ブチルジイソブチルシラノール、エチルジシクロペンチルシラノール、ベンジルジイソプロピルシラノール、プロピルジシクロペンチルシラノール、イソプロピルジシクロペンチルシラノール、アリルジシクロペンチルシラノール、3−クロロプロピルジシクロペンチルシラノール、3−アセトキシプロピルジシクロペンチルシラノール、メチルジフェニルシラノール、オクチルジイソプロピルシラノール、2−エチルヘキシルジイソプロピルシラノール、エチルジフェニルシラノール、デシルジイソプロピルシラノール、ブチルジフェニルシラノール、tert−ブチルジフェニルシラノール、ドデシルジイソプロピルシラノール、トリ−m−トリルシラノール、オクタデシルジイソプロピルシラノール等が挙げられる。これらのオルガノシラノールは単独で使用してもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0022】
オルガノシラノールの使用量は、金属アルコキシドを置換して可溶化できればよく、典型的には二種類の金属アルコキシドの合計モル数に対して好ましくは3〜10当量、より好ましくは5〜6当量である。アルコキシ基が残存する場合には工程(b)においてシロキサンでなくアルコキシシランが生成するため、金属アルコキシドのアルコキシ基がすべてシロキシ基となる必要はないが、半分以上のアルコキシ基がシロキシ基に変換されていることが望ましい。
【0023】
[有機溶媒]
本発明の製造方法では、工程(a)において金属アルコキシドとオルガノシラノールとの反応時に有機溶媒を使用して透明均一な溶液を得る。
使用する有機溶媒の種類は、透明均一な溶液が得られる限りにおいて任意であり、例えば、テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールブチルメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン等の炭化水素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒等が挙げられるが、これらのなかでも溶解性の観点からエーテル系溶媒を使用することが好ましい。なお、有機溶媒は、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用することもできる。
有機溶媒の使用量は、透明均一な溶液が得られる限りにおいて任意であるが、通常、金属アルコキシドの濃度が好ましくは0.1〜10mol/L、より好ましくは0.3〜1mol/Lとなる量で使用する。
本発明の製造方法において、反応には水を使用しないため、使用する有機溶媒に含まれる水の含有量は少ないことが好ましい。具体的には、水の含有量は100ppm以下が好ましく、50ppm以下がより好ましい。水の含有量の下限値は限定されないが、通常1ppm未満であれば実質的に水は含有されないとみなすことができる。水の含有量は、例えばカールフィッシャー法により測定することができる。
【0024】
[反応温度、圧力]
本発明の製造方法において工程(a)の反応は、好ましくは0〜60℃、より好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは15〜30℃の室温付近の温度で行われる。工程(a)の反応温度が低すぎると透明均一な溶液が得られにくく、反応温度が高すぎると工程(a)と工程(b)の反応が同時に進行し、結晶化が不十分になったり組成が不均一になったりすることがある。
工程(b)は、工程(a)で得られた溶液を加熱する工程であり、好ましくは80〜200℃、より好ましくは100〜180℃、さらに好ましくは120〜180℃の温度で行われる。工程(b)の反応温度が低いとペロブスカイト結晶の成長速度が不十分となり、反応温度が高すぎると結晶化度が不十分となることがある。
【0025】
反応の圧力は任意であるが、安全性を考慮すると常圧で行うことが好ましい。
工程(b)の反応温度に合わせて適切な有機溶媒を選択することにより、工程(a)および工程(b)をともに常圧で行うことができる。
【0026】
[ペロブスカイト粒子]
本発明の製造方法により得られたペロブスカイト微結晶粒子は、通常、工程(b)の終了後に凝集して沈澱するので、これを濾過や遠心分離等の従来公知の方法で反応系から取り出すことができる。
なお、副生成物は可溶性であるので、必要であれば有機溶媒で洗浄し、乾燥することによってペロブスカイト微結晶粒子が得られる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却器、およびゴムセプタムを備えた100mLの四つ口丸底フラスコを窒素置換し、外気に開放された還流冷却器の上部に窒素を通気させて空気や水分を遮断した。
このフラスコ内に、ストロンチウムジイソプロポキシド292mg(1.419mmol、Strem Chemicals)、トリエチレングリコールジメチルエーテル2.838mL(モレキュラーシーブにより脱水されたもの)、およびチタンテトライソプロポキシド403mg(1.419mmol、関東化学(株)製)を仕込み、25℃で1時間撹拌した。続いて、セプタムを通じてtert−ブチルジメチルシラノール1.126g(8.514mmol)を添加し、25℃で1時間撹拌したところ、淡黄色の透明な溶液が得られた。
この溶液を80℃で1時間加熱し、さらに150℃で40時間加熱撹拌すると白色の固体が析出した。1,2−ジメトキシエタン5mLを加えて室温で1時間撹拌した後、固体を濾過し、濾取した固体を1,2−ジメトキシエタンで2回洗浄し、80℃で真空加熱乾燥することで、わずかに黄色みがかった白色固体が得られた。この固体の粉末X線回折(XRD)スペクトルを図1に、走査電子顕微鏡(SEM)像を図2に示す。
XRDの結果から、得られた固体はチタン酸ストロンチウムの微結晶であり、結晶子の大きさは約7nmであった。またSEMから微結晶が100〜200nmの大きさに凝集していることがわかった。
図1
図2