(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)と、が積層されてなる、塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、
前記層(C)と前記層(S)との剥離を行い、前記剥離によって現れる、前記層(C)側の表面および前記層(S)側の表面のうち、少なくとも一方の表面粗さ(Ra)が、1〜15nmである、塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(S’)とをそれぞれペレット化し、
次いで、前記含フッ素ポリマー(C’)のペレットと、前記含フッ素ポリマー(S’)のペレットとをそれぞれ溶融押出し成形して、前記含フッ素ポリマー(C’)を含む前駆体層と、前記含フッ素ポリマー(S’)を含む前駆体層とが積層された前駆体膜を形成し、
次いで、前記前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させて、前記含フッ素ポリマー(C’)を含む前駆体層中の前記カルボン酸型官能基に変換できる基を変換して、前記カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)を形成し、かつ、前記含フッ素ポリマー(S’)を含む前駆体層中のスルホン酸型官能基に変換できる基を変換して、前記スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)を形成する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法であって、
以下の要件1および要件2の少なくとも一方を満たす、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
(要件1)前記ペレット化の際に、前記含フッ素ポリマー(C’)および前記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方の溶融物を、フィルターを通した後にペレット化する。
(要件2)前記溶融押出し成形の際に、前記含フッ素ポリマー(C’)のペレットおよび前記含フッ素ポリマー(S’)のペレットの少なくとも一方の溶融物を、フィルターを通した後に溶融押出し成形する。
前記要件1において脱気しながらペレット化する、または、前記要件2において脱気しながら溶融押出し成形する、請求項5に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、特に断りのない限り、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換膜」とは、イオン交換基を有するポリマーを含む膜である。
「イオン交換基」とは、この基に含まれるイオンの少なくとも一部を、他のイオンに交換しうる基であり、下記のカルボン酸型官能基、スルホン酸型官能基等が挙げられる。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(−COOH)、またはカルボン酸塩基(−COOM
1。ただし、M
1はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(−SO
3H)、またはスルホン酸塩基(−SO
3M
2。ただし、M
2はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「前駆体層」とは、イオン交換基に変換できる基を有するポリマーを含む層(膜)である。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
イオン交換容量の単位である「ミリ当量/グラム乾燥樹脂」は、「mEq/g」と簡略化して記載する場合がある。
【0011】
「含フッ素ポリマー」とは、分子中にフッ素原子を有する高分子化合物を意味する。
「パーフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたポリマーを意味する。パーフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は、塩素原子および臭素原子の一方または両方で置換されていてもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素−炭素不飽和二重結合を有する化合物を意味する。
「含フッ素モノマー」とは、分子中にフッ素原子を有するモノマーを意味する。
「パーフルオロモノマー」とは、モノマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたモノマーを意味する。
「構成単位」とは、ポリマー中に存在してポリマーを構成する、モノマーに由来する重合単位を意味する。例えば、構成単位が炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーの付加重合により生じる場合、このモノマーに由来する構成単位は、この不飽和二重結合が開裂して生じた2価の構成単位である。また、構成単位は、ある構成単位の構造を有するポリマーを形成した後に、この構成単位を化学的に変換、たとえば加水分解処理して得られた構成単位であってもよい。なお、場合により、個々のモノマーに由来する構成単位を、そのモノマー名に「単位」を付した名称で記載することがある。
【0012】
「補強部材」とは、イオン交換膜の強度を向上させるために用いられる部材を意味する。補強部材は、補強布に由来する部材である。
「補強布」とは、イオン交換膜の強度を向上させるための補強部材の原料として用いられる布を意味する。
「補強糸」とは、補強布を構成する糸であり、補強布をアルカリ性水溶液(例えば、濃度が32質量%の水酸化ナトリウム水溶液)に浸漬しても溶出することのない材料からなる糸である。
「犠牲糸」とは、補強布を構成する糸であり、補強布をアルカリ性水溶液に浸漬したときに、アルカリ性水溶液に溶出する材料からなる糸である。
「溶出孔」とは、犠牲糸がアルカリ性水溶液に溶出した結果、生成する孔を意味する。
「強化前駆体膜」とは、前駆体層中に補強布が含まれた膜を意味する。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0013】
イオン交換膜の乾燥時における各層の厚さは、イオン交換膜を90℃で2時間乾燥させた後、イオン交換膜断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて求める。また、層と層との間に補強部材が存在する場合には、補強部材を構成する補強糸および犠牲糸のいずれも存在しない位置において、その層の厚さを測定する。
「TQ値」とは、ポリマーの分子量に関係する値であって、容量流速:100mm
3/秒を示す温度を表す。容量流速は、ポリマーを3MPaの加圧下に一定温度のオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出するポリマーの量をmm
3/秒の単位で示した値である。TQ値が高いほど、高分子量である。
「イオン交換容量」は、次のようにして算出される値である。まず、イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの約0.5mgを、そのTQ値より約10℃高い温度にて平板プレスしてフィルム状にし、得られたフィルム状のサンプルを透過型赤外分光分析装置によって分析する。得られたスペクトルのCF
2ピーク、CH
3ピーク、OHピーク、CFピーク、SO
2Fピークの各ピーク高さを用いて、カルボン酸型官能基に変換できる基またはスルホン酸型官能基に変換できる基を有する構成単位の割合を算出し、これを加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマーにおけるカルボン酸型官能基またはスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合とし、イオン交換容量が既知のサンプルを検量線として用いてイオン交換容量を求める。なお、末端基が酸型またはカリウム型もしくはナトリウム型であるイオン交換基を有するフィルムに関しても、同様に測定が可能である。
【0014】
[イオン交換膜]
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜(以下、「イオン交換膜」ともいう。)は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)と、が積層されてなるイオン交換膜であって、上記層(C)と上記層(S)との剥離を行い、上記剥離によって現れる、上記層(S)側の表面および上記層(C)側の表面のうち、少なくとも一方の表面粗さ(Ra)が、1〜15nmである。
本発明のイオン交換膜を用いれば、苛性品質に優れた塩化アルカリ水溶液を製造できる。この理由としては、以下のように考えられる。
【0015】
イオン交換膜を用いた塩化アルカリ水溶液の電気分解において、陽極側で発生した塩素イオンは、電気的な反発により陰極側に移動しにくい。しかし、層(S)と層(C)との間に剥離部分があると、剥離部分は電気的な影響を受けにくくなる。そのため、陽極側と陰極側との濃度勾配を駆動力として、剥離部分を介して塩素イオンが陰極側に移動しやすくなって、苛性品質が低下すると考えられる。
また、本発明者らは、このような剥離は層(S)と層(C)との剥離表面の表面粗さ(Ra)が大きいため引き起こされることを知見した。さらに、このような大きな表面粗さは、S層およびC層に含まれる不純物によって引き起こされると推測される。
そこで、各層を構成する含フッ素ポリマーのペレット化およびフィルム化の少なくとも一方を実施する際に、層(S)および層(C)の少なくとも一方を得るための含フッ素ポリマーの溶融物をフィルタリングすれば、上記不純物が取り除かれて、所定の表面粗さとなり、結果として、イオン交換膜の剥離箇所が少なくなり、優れた苛性品質の塩化アルカリ水溶液を製造できたと推測される。
【0016】
以下、本発明のイオン交換膜を
図1および
図2に基づいて説明するが、本発明は
図1および
図2の内容に限定されない。
図1に記載のイオン交換膜1は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーからなる電解質膜10が、補強部材20で補強されてなる。
【0017】
電解質膜10は、層(C)12と、層(S)14とからなる積層体である。層(S)14の中に補強糸を含む補強部材20が含まれている。
【0018】
(層(C))
層(C)12は、含フッ素ポリマー(C)を含む層であればよいが、電解性能の点から、含フッ素ポリマー(C)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(C)のみからなる層が好ましい。つまり、層(C)12は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層であるのが好ましい。
図1では、層(C)12は単層として示されているが、複数の層から形成される層であってもよい。層(C)12が複数の層から形成される場合、各層において、含フッ素ポリマー(C)を構成する構成単位の種類やカルボン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としてもよい。
【0019】
乾燥時の層(C)12の厚さ(層(C)12が複数の層から形成されている場合はその合計)は、1〜50μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、8〜35μmが特に好ましく、9〜22μmが最も好ましい。乾燥時の層(C)12の厚さが上記下限値以上であれば、苛性品質がより優れる。乾燥時の層(C)12の厚さが上記上限値以下であれば、電解電圧の上昇を抑制できる。
【0020】
層(C)12を構成する含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量は、0.5〜2.0mEq/gが好ましく、0.8〜2.0mEq/gがより好ましく、0.85〜1.10mEq/gが特に好ましく、0.95〜1.10mEq/gが最も好ましい。
なお、層(C)12が複数の層から形成されている場合は、層(C)12を構成するすべての含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量が上記の範囲であることが好ましい。
含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、塩化アルカリ水溶液を電解する際のイオン交換膜1の電気抵抗が低くなり、電解電圧が低いイオン交換膜1が得られる。含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量が上記上限値以下であれば、分子量の高いポリマーの合成が容易であり、また、ポリマーの過度の膨潤が抑制でき、電流効率が低下しにくいイオン交換膜1が得られる。
【0021】
含フッ素ポリマー(C)は、後述する塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法にて、後述する含フッ素ポリマーのカルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換して得るのが好ましい。
含フッ素ポリマー(C)の具体例としては、カルボン酸型官能基に変換できる基およびフッ素原子を有するモノマー(以下、「含フッ素モノマー(C’)」ともいう。)と、含フッ素オレフィンと、の共重合体(以下、「含フッ素ポリマー(C’)」ともいう。)を加水分解処理して、カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に変換した含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0022】
含フッ素モノマー(C’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来公知の化合物が用いられる。
含フッ素モノマー(C’)は、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(1)で表されるモノマーが好ましい。
【0023】
CF
2=CF−(O)
p−(CF
2)
q−(CF
2CFX)
r−(O)
s−(CF
2)
t−(CF
2CFX’)
u−A
1 ・・・(1)
【0024】
式(1)中、XおよびX’は、それぞれ独立して、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。A
1は、カルボン酸型官能基に変換できる基である。具体的には、−CN、−COF、−COOR
1(R
1は炭素数1〜10のアルキル基である。)、−COONR
2R
3(R
2およびR
3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である。)が挙げられる。pは、0または1である。qは、0〜12の整数である。rは、0〜3の整数である。sは、0または1である。tは、0〜12の整数である。uは、0〜3の整数である。ただし、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0025】
式(1)で表されるモノマーの具体例としては、下記の化合物が挙げられ、製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0〜1、t=0〜3、u=0〜1である化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2CF
2−COOCH
3。
含フッ素モノマー(C’)は、1種を単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
含フッ素オレフィンとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素数が2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。その具体例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレンが挙げられる。なかでも、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
含フッ素ポリマー(C’)の製造には、含フッ素モノマー(C’)および含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーの具体例としては、CF
2=CFR
f(R
fは炭素数2〜10のパーフルオロアルキル基である。)、CF
2=CF−OR
f1(R
f1は炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基である。)、CF
2=CFO(CF
2)
vCF=CF
2(vは1〜3の整数である。)が挙げられる。他のモノマーを共重合させれば、イオン交換膜1の可撓性や機械的強度を向上できる。
【0028】
含フッ素ポリマー(C)のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(C’)中の含フッ素モノマー(C’)に由来する構成単位の含有量を変化させて調整できる。含フッ素ポリマー(C)中のカルボン酸型官能基の含有量は、含フッ素ポリマー(C’)中のカルボン酸官能基に変換できる基の含有量と同一であるのが好ましい。
【0029】
含フッ素ポリマー(C)のTQ値の範囲は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、150〜350℃が好ましく、170〜300℃がより好ましく、200〜250℃が特に好ましい。
【0030】
(層(S))
層(S)14としては、含フッ素ポリマー(S)を含む層であればよいが、電解性能の点から、含フッ素ポリマー(S)以外の材料を含まない含フッ素ポリマー(S)のみからなる層が好ましい。つまり、層(S)14は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層であるのが好ましい。
図1に示すように、層(S)14中には、イオン交換膜1の機械的強度を高めるため、補強部材20(後述)が含まれている。層(S)14のうち、補強部材20より層(C)12側(電解装置中においては陰極側)に位置する層(すなわち、層(C)12と接する面を含む層)が層(Sa)14Aであり、補強部材20より層(C)12側とは反対側(電解装置中においては陽極側)に位置する層(すなわち、層(C)12と接する面とは反対側の面を含む層)が層(Sb)14Bである。
図1では、層(Sa)14Aおよび層(Sb)14Bはそれぞれ単層として示されているが、それぞれ複数の層から形成される層であってもよい。層(Sa)14Aおよび層(Sb)14Bの一方または両方が複数の層から形成される場合、それぞれの各層において、含フッ素ポリマー(S)を構成する構成単位の種類やスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合を異なる構成としてもよい。
【0031】
乾燥時の層(S)14の厚さ(層(S)14が複数の層から形成されている場合はその合計)は、30〜200μmが好ましく、55〜200μmがより好ましく、70〜120μmが特に好ましい。乾燥時の層(S)14の厚さが上記下限値以上であれば、イオン交換膜1の機械的強度が十分に高くなる。乾燥時の層(S)14の厚さが上記上限値以下であれば、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えられる。
【0032】
乾燥時の層(Sa)14Aの厚さ(層(Sa)14Aが複数の層から形成されている場合はその合計)は、30〜140μmが好ましく、40〜140μmがより好ましく、40〜90μmが特に好ましい。乾燥時の層(Sa)14Aの厚さが上記下限値以上であれば、イオン交換膜1の機械的強度が十分に高くなる。乾燥時の層(Sa)14Aの厚さが上記上限値以下であれば、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えられる。
【0033】
層(Sa)14Aを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、0.6〜2.5mEq/gが好ましく、0.9〜1.2mEq/gが特に好ましい。
層(Sa)14Aが複数の層から形成されている場合は、層(Sa)14Aを構成するすべての含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記の範囲であるのが好ましい。また、層(Sa)14Aは複数の層からなるのが好ましく、2層からなるのがより好ましい。別の態様として、層(Sa)14Aは単層であるのが好ましい。
層(Sa)14Aを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、塩化アルカリ水溶液を電解する際の電解電圧を低くできる。また、イオン交換容量が上記上限値以下の含フッ素ポリマー(S)は、重合時に含フッ素ポリマー(S)の分子量をより高くするのが容易になり、分子量の高い含フッ素ポリマー(S)を層(Sa)14Aに使用すれば、層(Sa)14Aの強度がより高くなる。
【0034】
乾燥時の層(Sb)14Bの厚さ(層(Sb)14Bが複数の層から形成されている場合はその合計)は、5〜100μmが好ましく、10〜50μmがより好ましく、10〜40μmが特に好ましい。乾燥時の層(Sb)14Bの厚さを上記下限値以上にすれば、補強部材20が電解質膜10の表面から適度な深さ位置に含まれ、補強部材20の剥離耐性が向上する。また、電解質膜10の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。乾燥時の層(Sb)14Bの厚さが上記上限値以下であれば、イオン交換膜1の電気抵抗を低く抑えられ、電解電圧の上昇を抑制できる。
【0035】
層(Sb)14Bを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、0.5〜2.5mEq/gが好ましく、0.6〜2.5mEq/gがより好ましく、0.9〜2.0mEq/gが特に好ましく、1.05〜2.00mEq/gが最も好ましい。
層(Sb)14Bが複数の層から形成されている場合は、少なくとも最も陽極側に位置する層を構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記範囲であるのが好ましく、層(Sb)14Bを構成する全ての含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記範囲であるのがより好ましい。また、別の態様としては、層(Sb)14Bが単層からなり、この層を構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記範囲であるのが好ましい。
層(Sb)14Bを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記下限値以上であれば、イオン交換膜の電気抵抗が低くなり、電解する際の電解電圧を低くできる。層(Sb)14Bを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量が上記上限値以下であれば、膜強度を維持でき、電解運転時あるいは膜装着時の膜破れを抑制できる。
【0036】
層(Sb)14Bを構成するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーの少なくとも一部は、スルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーに基づく構成単位を有するポリマーが好ましく、スルホン酸型官能基を2個有するモノマーに基づく構成単位を有するポリマーが好ましい。これにより、同じモノマー濃度において単位重量当たりのイオン交換基濃度を高められるので、スルホン酸型官能基を1個のみ有する構成単位を有するポリマーに比べて、少ないモノマー量でもより高いイオン交換能力を有する層(Sb)14Bが得られる。
【0037】
スルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーに基づく構成単位は、下式(U1)で示される構成単位が好ましい。
【0039】
式(U1)中、R
f1は、炭素原子−炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいパーフルオロアルキレン基である。上記パーフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
R
f2は、単結合または炭素原子−炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよいパーフルオロアルキレン基である。上記パーフルオロアルキレン基中の炭素数は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、20以下が好ましく、10以下がより好ましい。
rは0または1である。
Mは水素原子、アルカリ金属または第4級アンモニウムカチオンである。
式(U1)で示される単位としては、式(U1−1)で示される単位が好ましい。
【0041】
R
f3は炭素数1〜6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基であり、R
f4は単結合または炭素原子−炭素原子間に酸素原子を含んでいてもよい炭素数1〜6の直鎖状のパーフルオロアルキレン基である。rおよびMの定義は、上述した通りである。
【0042】
含フッ素ポリマー(S)は、後述する塩化アルカリ電解用イオン交換膜を得る工程にて、後述するスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換して得られるのが好ましい。
含フッ素ポリマー(S)の具体例としては、スルホン酸型官能基に変換できる基およびフッ素原子を有するモノマー(以下、「含フッ素モノマー(S’)」ともいう。)と、含フッ素オレフィンと、の共重合体(以下、「含フッ素ポリマー(S’)」ともいう。)を加水分解処理して、スルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に変換した含フッ素ポリマーが挙げられる。
【0043】
含フッ素モノマー(S’)としては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来公知の化合物が用いられる。
含フッ素モノマー(S’)としては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(2)で表される化合物または下式(3)で表される化合物が好ましい。
【0044】
CF
2=CF−O−R
f1−A
2 ・・・(2)
CF
2=CF−R
f1−A
2 ・・・(3)
式(2)および式(3)中、R
f1の定義は、式(U1)におけるR
f1と同じである。A
2は、スルホン酸型官能基に変換できる基であり、その具体例としては、−SO
2F、−SO
2Cl、−SO
2Brが挙げられる。
【0045】
式(2)で表される化合物の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。式中のwは、1〜8の整数であり、xは、1〜5の整数である。
CF
2=CF−O−(CF
2)
w−SO
2F
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−(CF
2)
w−SO
2F
CF
2=CF−[O−CF
2CF(CF
3)]
x−SO
2F
【0046】
式(3)で表される化合物の具体例としては、CF
2=CF−(CF
2)
w−SO
2F、CF
2=CF−CF
2−O−(CF
2)
w−SO
2Fが挙げられる。式中のwは、1〜8の整数である。
【0047】
含フッ素モノマー(S’)としては、工業的な合成が容易である点から、下記の化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−O−CF
2CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−O−CF
2CF
2CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−SO
2F
CF
2=CF−CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−CF
2CF
2CF
2−SO
2F
CF
2=CF−CF
2−O−CF
2CF
2−SO
2F
含フッ素モノマー(S’)は、1種を単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
層(Sb)14Bがスルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーに基づく構成単位を有するポリマーを含む場合には、含フッ素モノマー(S’)として、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基に変換できる基を2個以上有するモノマーを使用できる。このようなモノマーとしては、上述の式(U1)の構成単位が得られるモノマーが好ましい。式(U1)の構成単位が得られるモノマーとしては、下式(m1)で表される化合物が好ましい。
【0050】
式(m1)中、R
f1、R
f2、rの定義はそれぞれ、式(U1)中のR
f1、R
f2、rと同じであり、A
2の定義は、式(2)および式(3)のA
2と同じである。
【0051】
式(m1)で表される化合物としては、式(m1−1)で表される化合物が好ましい。
【0053】
式(m1−1)中のR
f3、R
f4、rの定義は、式(U1−1)のR
f3、R
f4、rと同じであり、A
2の定義は、式(2)および式(3)のA
2と同じである。
【0054】
式(m1−1)で表される化合物の具体例としては、以下が挙げられる。
【0056】
スルホン酸型官能基を2個以上有するモノマーを使用することにより、同じモノマー濃度において単位重量当たりのイオン交換基濃度を高められるため、ポリマー分子量を低下させずに層(Sb)14Bを構成するポリマーのイオン交換容量を容易に高くできる。その結果、優れた苛性品質を維持したまま、透水量が高く、電解電圧が低い膜が得られる。
【0057】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示した化合物が挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
含フッ素ポリマー(S’)の製造には、含フッ素モノマー(S’)および含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示した化合物が挙げられる。他のモノマーを共重合させれば、イオン交換膜1の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、含フッ素ポリマー(S’)中の全構成単位(100モル%)のうち30モル%以下が好ましい。
【0059】
含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、含フッ素ポリマー(S’)中の含フッ素モノマー(S’)に由来する構成単位の含有量を変化させて調整できる。含フッ素ポリマー(S)中のスルホン酸型官能基の含有量は、含フッ素ポリマー(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基の含有量と同一であるのが好ましい。
【0060】
含フッ素ポリマー(S’)のTQ値の範囲は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、150〜350℃が好ましく、170〜300℃がより好ましく、200〜250℃が特に好ましい。
【0061】
層(Sa)14Aが複数の層からなる場合、例えば2層からなる場合は、
図2に示すように、層(C)12と接する層が層(Sa−1)14Aaであり、層(Sb)14Bと接する層が層(Sa−2)14Abである。この場合、層(Sa−1)14Aaは、層(C)12との接着性の観点から、層(Sa−1)14Aaを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量は、層(Sa−2)14Abを構成する含フッ素ポリマー(S)のイオン交換容量よりも低いのが好ましく、0.01〜0.5mEq/g低いのがより好ましく、0.03〜0.3mEq/g低いのが特に好ましい。
層(Sa−1)14Aaのイオン交換容量は、0.5〜2.5mEq/gが好ましく、0.6〜2.5mEq/gがより好ましく、0.9〜1.2mEq/gが特に好ましく、0.9〜1.05mEq/gが最も好ましい。乾燥時の層(Sa−1)14Aaの厚さは、接着性に寄与する程度の適度な厚さがあればよく、1〜100μmが好ましく、10〜50μmが特に好ましい。
【0062】
(表面粗さ(Ra))
イオン交換膜1において、層(C)12を層(S)14から剥離させた際に現れる、層(C)12側の表面および層(S)14側の表面のうち、少なくとも一方の表面粗さ(Ra)が、1〜15nmである。これにより、上述の効果(苛性品質に優れた塩化アルカリ水溶液が得られること)が発揮される。
層(C)12側の表面および層(S)14側の表面のうち、一方の表面粗さが1〜15nmであれば上述の効果が発揮されるが、その効果がより発揮される点から、層(C)12側の表面および層(S)14側の表面の両方が、上記表面粗さ(Ra)を満たすのが好ましい。
上記表面粗さ(Ra)は、1〜15nmであり、上述の効果がより発揮される点から、1〜10nmが好ましく、3〜9nmが特に好ましい。
一方で、上記表面粗さ(Ra)が1nm未満の場合、層(C)12と層(S)14とのアンカー効果が小さくなって、両層の界面での剥離箇所(未接着部分)が多くなると推測される。その結果、塩化アルカリ水溶液の苛性品質が低下すると考えられる。
また、上記表面粗さ(Ra)が15nmを超える場合、表面荒れによって、両層の界面での剥離箇所(未接着部分)が多くなると推測される。その結果、塩化アルカリ水溶液の苛性品質が低下すると考えられる。
【0063】
本発明における上記表面粗さ(Ra)は、次のようにして測定される値に基づき算出され、詳細は後述する実施例に記載の通りである。
まず、イオン交換膜1を25℃のイオン交換水に浸漬させた後、湿潤状態で剥離試験機を用いて、層(C)12と層(S)14との界面で剥離を行う。剥離後の層(C)12側および層(S)14側の少なくとも一方の表面について、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面粗さ(Ra)を複数個所測定した後、表面粗さ(Ra)の算術平均値を層毎に算出する。得られた算術平均値を、層(C)12側の表面または層(S)14側の表面の表面粗さ(Ra)とする。
【0064】
(補強部材)
補強部材20は、層(S)14中に含まれている。補強部材20は、電解質膜10を補強する材料であり、補強布に由来する。補強布は、経糸と緯糸とからなり、経糸と緯糸が直交しているのが好ましい。
図1に示すように、補強布は、補強糸22と犠牲糸24とからなるのが好ましい。
【0065】
補強糸22は、強化前駆体膜(後述)をアルカリ性水溶液に浸漬しても溶出しない材料からなる糸である。強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬して、補強布から犠牲糸24が溶出した後も、補強部材20を構成する糸として溶解せずに残存し、イオン交換膜1の機械的強度や寸法安定性の維持に寄与する。
補強糸22としては、パーフルオロカーボンポリマーを含む糸が好ましく、PTFEを含む糸がより好ましく、PTFEのみからなるPTFE糸が特に好ましい。
【0066】
犠牲糸24は、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬した場合、その少なくとも一部が溶出する糸である。犠牲糸24は、モノフィラメントであっても、マルチフィラメントであってもよい。
犠牲糸24としては、PETのみからなるPET糸、PETおよびポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」ともいう。)の混合物からなるPET/PBT糸、PBTのみからなるPBT糸、またはポリトリメチレンテレフタレート(以下、「PTT」ともいう。)のみからなるPTT糸が好ましく、PET糸が特に好ましい。
【0067】
イオン交換膜1においては、
図1に示すように、犠牲糸24の一部が残存し、犠牲糸24のフィラメント26の溶解残りの周りに溶出孔28が形成されている。これにより、製造後から塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の前までのイオン交換膜1の取り扱いや、コンディショニング運転の際の電解槽への設置時において、イオン交換膜1にクラック等の破損が発生しにくくなる。
【0068】
電解槽にイオン交換膜1を配置する前に、犠牲糸24の一部が残存しても、電解槽にイオン交換膜1を配置した後、塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の際に残存する犠牲糸24がアルカリ性水溶液に溶出し、その大部分、好ましくは全部が除去される。そのため、イオン交換膜1を用いた塩化アルカリ電解の本運転の時点では、電気抵抗に影響を及ぼさない。電解槽にイオン交換膜1を配置した後は、イオン交換膜1に外部から大きな力が作用しないため、犠牲糸24が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されても、イオン交換膜1にクラック等の破損が発生しにくい。
なお、
図1では、犠牲糸24の一部が残存している態様を示したが、犠牲糸24の全てが溶出していてもよい。
【0069】
(無機物粒子層)
イオン交換膜1は、少なくとも一方の最表面において、無機物粒子と、バインダーとを含む無機物粒子層(図示せず)をさらに有するのが好ましい。無機物粒子層は、イオン交換膜1の最表面の少なくとも一方の面に設けられるのが好ましく、両面に設けられるのがより好ましい。
塩化アルカリ電解により生じるガスがイオン交換膜1の表面に付着すると、塩化アルカリ電解の際に電解電圧が高くなる。無機物粒子層は、塩化アルカリ電解により生じるガスのイオン交換膜1の表面への付着を抑制し、電解電圧の上昇を抑制するために設けられる。
【0070】
無機物粒子は、塩化アルカリ水溶液に対する耐食性に優れ、親水性を有するのが好ましい。具体的には、第4族元素または第14族元素の酸化物、窒化物および炭化物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、SiO
2、SiC、ZrO
2、またはZrCがより好ましく、ZrO
2が特に好ましい。
無機物粒子の平均粒子径は、0.01〜10μmが好ましく、0.01〜1.5μmがより好ましく、0.5〜1.5μmが特に好ましい。平均粒子径が上記下限値以上であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。平均粒子径が上記上限値以下であれば、無機物粒子の脱落耐性に優れる。
【0071】
バインダーは、塩化アルカリ水溶液に対する耐食性に優れ、親水性を有するのが好ましく、カルボン酸基またはスルホン酸基を有する含フッ素ポリマーがより好ましく、スルホン酸基を有する含フッ素ポリマーが特に好ましい。含フッ素ポリマーは、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーのホモポリマーであってもよく、カルボン酸基またはスルホン酸基を有するモノマーと、このモノマーと共重合可能なモノマーとのコポリマーであってもよい。
【0072】
無機物粒子層における無機物粒子およびバインダーの合計質量に対する、バインダーの質量比(以下、「バインダー比」ともいう。)は、0.1〜0.5が好ましい。バインダー比が上記下限値以上であれば、無機物粒子の脱落耐性に優れる。バインダー比が上記上限値以下であれば、高いガス付着抑制効果が得られる。
【0073】
[イオン交換膜の製造方法]
本発明のイオン交換膜の製造方法(以下、「本製造方法」ともいう。)は、
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(S’)とをそれぞれペレット化し、
次いで、上記含フッ素ポリマー(C’)のペレットと、上記含フッ素ポリマー(S’)のペレットとそれぞれを溶融押出し成形して、上記含フッ素ポリマー(C’)を含む前駆体層(C’)と、上記含フッ素ポリマー(S’)を含む前駆体層(S’)とが積層された前駆体膜を形成し、
次いで、上記前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させて、上記前駆体層(C’)中の上記カルボン酸型官能基に変換できる基を変換して、上記カルボン酸型官能基を有する層(C)を形成し、かつ、上記前駆体層(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基を変換して、上記スルホン酸型官能基を有する層(S)を形成する、イオン交換膜の製造方法であって、
以下の要件1および要件2の少なくとも一方を満たす。
(要件1)上記ペレット化の際に、上記含フッ素ポリマー(C’)および上記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方の溶融物を、フィルターを通した後にペレット化する。
(要件2)上記溶融押出し成形の際に、上記含フッ素ポリマー(C’)のペレットおよび上記含フッ素ポリマー(S’)のペレットの少なくとも一方の溶融物を、フィルターを通した後に溶融押出し成形する。
【0074】
本製造方法によれば、上記要件1または要件2を満たすことで、上記含フッ素ポリマー(C’)および上記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方に含まれる固体不純物(例えば、塵や埃等のゴミ、ポリマー由来の副生物、プロセス由来の金属異物など)が取り除かれる。すなわち、上記含フッ素ポリマー(C’)および上記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方が、フィルターによる溶融濾過を経て精製されるので、上述した所定の表面粗さ(Ra)を満たすイオン交換膜が得られる。
【0075】
上記要件1では、脱気しながらペレット化するのが好ましい。また、上記要件2では、脱気しながら溶融押出し成形するのが好ましい。
要件1または要件2において、脱気を実施することで、上記含フッ素ポリマー(C’)および上記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方に含まれる液体不純物および気体不純物(例えば、重合時の残存モノマー、水分など)が取り除かれる。すなわち、上記含フッ素ポリマー(C’)および上記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方から、脱気によって液体不純物および気体不純物が取り除かれるので、上述した所定の表面粗さ(Ra)を満たすイオン交換膜がより得られやすくなる。
【0076】
(ペレットの製造)
上記含フッ素ポリマー(C’)のペレットおよび上記含フッ素ポリマー(S’)のペレットの製造方法の一例を以下に示す。
まず、ポリマー(含フッ素ポリマー(C’)または含フッ素ポリマー(S’))を公知の溶融押出し機に供給して、ポリマーの溶融物を得る。次に、ポリマーの溶融物を押出し機のノズルから押し出し、これを冷却してストランドを得た後、得られたストランドを所定サイズに切断して、ポリマーのペレットを得る。
ポリマーの溶融温度は、150〜350℃が好ましく、200〜300℃が特に好ましい。
上記ペレットの製造方法では、いわゆるストランドカット法を用いた場合を示したが、水中カット法、ホットカット法等を用いてもよい。
【0077】
ここで、ペレット化の際に、上記含フッ素ポリマー(C’)および上記含フッ素ポリマー(S’)の少なくとも一方の溶融物をフィルターに通すのが好ましく、本発明の効果がより発揮される点から、両方のポリマーの溶融物をフィルターに通すのが特に好ましい。
フィルターは、例えば、ペレット製造用の溶融押出し機におけるノズル近傍に配置できる。
フィルターの目開き(径)は、上記表面粗さ(Ra)を所定範囲にするのが容易になる点から、0.026〜0.87mmが好ましく、0.026〜0.32mmがより好ましく、0.026〜0.132mmが特に好ましい。
フィルターは、上記表面粗さ(Ra)を所定範囲にするのが容易になる点から、20〜500メッシュのメッシュフィルターが好ましく、50〜500メッシュのメッシュフィルターが好ましく、120〜500メッシュのメッシュフィルターがより好ましい。ここで、「メッシュ」とは、1インチあたりのメッシュフィルターの目の数を意味する。
フィルターの材質は、熱耐性の点から、金属が好ましい。
【0078】
ポリマー(含フッ素ポリマー(C’)または含フッ素ポリマー(S’))を公知の溶融押出し機に供給する際に、少なくとも一方の溶融物を脱気することが好ましく、本発明の効果がより発揮される点から、両方のポリマーの溶融物を脱気するのが特に好ましい。
脱気は、例えば、ペレット製造用の溶融押出し機のベント孔に接続された吸引ポンプ等を用いて実施される。
脱気の際におけるゲージ圧は、上記表面粗さを所定の範囲にするのが容易になる点から、−0.1〜−0.02MPaが好ましく、−0.1〜−0.06MPaがより好ましい。
上記表面粗さを所定の範囲にするのが容易になる点から、目開きが0.026〜0.87mmの範囲内にあるフィルターを用いる場合には、ゲージ圧−0.1〜−0.02MPa(好ましくは−0.1〜−0.06MPa)の範囲内で脱気を行うのが好ましい。
【0079】
(前駆体膜の製造)
次に、前駆体層(C’)と前駆体層(S’)とが積層された前駆体膜の製造方法の一例を以下に示す。
まず、含フッ素ポリマー(C’)のペレットと、含フッ素ポリマー(S’)のペレットとを、公知のフィルム製造用の溶融押出し機に供給して、含フッ素ポリマー(C’)のペレットの溶融物と、含フッ素ポリマー(S’)のペレットの溶融物とをそれぞれ得る。
次いで、上記各ペレットの溶融物を溶融押出し機のノズル(例えば、Tダイ)からそれぞれ押し出して(共押し出し法による溶融押出し成形)、含フッ素ポリマー(C’)を含む前駆体層(C’)と、含フッ素ポリマー(S’)を含む前駆体層(S’a)とを有する積層膜を得る。また、別途、単層押し出し法によって、含フッ素ポリマー(S’)を含む前駆体層(S’b)からなる膜を得る。
次いで、前駆体層(S’b)からなる膜、補強部材、および上記積層膜を、この順に配置し、例えば、積層ロールまたは真空積層装置を用いてこれらを積層する。この際、上記積層膜は、前駆体層(S’a)側が補強部材に接するように配置する。このようにして、前駆体層(S’b)、補強部材、前駆体層(S’a)、前駆体層(C’)の順に積層されてなる前駆体膜(強化前駆体膜)を得る。
ペレットの溶融温度は、150〜350℃が好ましく、200〜300℃が特に好ましい。
【0080】
なお、層(Sa)を2層以上とする場合には、別途スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる膜を得て、補強部材と上記積層膜の間に層(Sa)が複数の層からなるように積層してもよい。
【0081】
ここで、上記溶融押出し成形の際に、含フッ素ポリマー(C’)のペレットの溶融物および含フッ素ポリマー(S’)のペレットの溶融物の少なくとも一方をフィルターに通すのが好ましく、本発明の効果がより発揮される点から、両方のペレットの溶融物をフィルターに通すのが特に好ましい。
フィルターは、例えば、フィルム製造用の溶融押出し機におけるノズル近傍に配置できる。
溶融押出し成形の際に使用するフィルターの好適態様は、ペレット製造時に使用する上記フィルターと同様である。
ペレット製造時のフィルタリング(要件1)と溶融押出し成形時のフィルタリング(要件2)は、少なくとも一方を実施すればよいが、本発明の効果がより発揮される点から、両方を実施するのが好ましい。
【0082】
上記溶融押出し成形の際に、含フッ素ポリマー(C’)のペレットの溶融物および含フッ素ポリマー(S’)のペレットの溶融物の少なくとも一方を脱気することが好ましく、本発明の効果がより発揮される点から、両方のペレットの溶融物を脱気することが特に好ましい。
脱気は、例えば、フィルム製造用の溶融押出し機のベント孔に接続された吸引ポンプ等を用いて実施される。
脱気の際におけるゲージ圧は、上記表面粗さを所定の範囲にするのが容易になる点から、−0.1〜−0.02MPaが好ましく、−0.1〜−0.06MPaがより好ましい。
上記表面粗さを所定の範囲にするのが容易になる点から、目開きが0.026〜0.87mmの範囲内にあるフィルターを用いる場合には、ゲージ圧−0.1〜−0.02MPa(好ましくは−0.1〜−0.06MPa)の範囲内で脱気を行うのが好ましい。
ペレット製造時の脱気と溶融押出し成形時の脱気は、少なくとも一方を実施すればよいが、本発明の効果がより発揮される点から、両方を実施するのが好ましい。
【0083】
(アルカリ水溶液との接触)
次に、上記前駆体膜(強化前駆体膜)を用いたイオン交換膜の製造方法の一例を示す。
上記強化前駆体膜とアルカリ水溶液とを接触させて、上記前駆体層(C’)中のカルボン酸型官能基に変換できる基を変換して、カルボン酸型官能基を有する層(C)を形成し、かつ、上記前駆体層(S’)中のスルホン酸型官能基に変換できる基を変換して、上記スルホン酸型官能基を有する層(S)を形成して、イオン交換膜を得る。この際に、強化前駆体膜に含まれる犠牲糸の少なくとも一部が、アルカリ水溶液の作用により加水分解することで溶出する。
【0084】
アルカリ水溶液との接触によって、前駆体層(C’)は
図1に示す層(C)12に、前駆体層(S’)は
図1に示す層(S)14に、それぞれ変換される。なお、上述したように、前駆体層(S’)が前駆体層(S’a)および前駆体層(S’b)を有する場合には、前駆体層(S’a)は
図1における層(Sa)14Aに、前駆体層(S’b)は
図1における層(Sb)14Bに、それぞれ変換される。
また、層(Sa)14Aが複数の層からなる場合、例えば2層からなる場合は、
図2に示すように、層(Sa−1)14Aaおよび層(Sa−2)14Abが層(Sa)14Aを構成し、層(Sb)14Bと共に層(S)14を構成する。
【0085】
前駆体膜(強化前駆体膜)とアルカリ水溶液とを接触させる方法としては、前駆体膜をアルカリ水溶液中に浸漬する方法、前駆体膜の表面にアルカリ水溶液をスプレー塗布する方法等が挙げられる。
アルカリ水溶液の温度は、30〜100℃が好ましく、40〜100℃が特に好ましく、45〜100℃がさらに好ましい。強化前駆体膜とアルカリ水溶液との接触時間は、3〜100分が好ましく、5〜50分が特に好ましい。
【0086】
アルカリ水溶液は、アルカリ金属水酸化物、水溶性有機溶剤および水を含むのが好ましい。
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが挙げられる。
本明細書において、水溶性有機溶剤とは、水に容易に溶解する有機溶剤のことをいい、具体的には、水1000ml(20℃)に対する溶解性が、0.1g以上の有機溶剤が好ましく、0.5g以上の有機溶剤が特に好ましい。水溶性有機溶剤は、非プロトン性有機溶剤、アルコール類およびアミノアルコール類が挙からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むのが好ましく、非プロトン性有機溶剤を含むのが特に好ましい。水溶性有機溶剤は、1種を単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
非プロトン性有機溶剤の具体例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)およびN−エチル−2−ピロリドンが挙げられ、これらの中でもジメチルスルホキシドが好ましい。
アルコール類の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、メトキシエトキシエタノール、ブトキシエタノール、ブチルカルビトール、ヘキシルオキシエタノール、オクタノール、1−メトキシ−2−プロパノールおよびエチレングリコールが挙げられる。
アミノアルコール類の具体例としては、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、1−アミノ−3−プロパノール、2−アミノエトキシエタノール、2−アミノチオエトキシエタノール、および、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールが挙げられる。
【0088】
アルカリ金属水酸化物の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、5〜50質量%が特に好ましい。
水溶性有機溶剤の含有量は、アルカリ水溶液(100質量%)中、1〜60質量%が好ましく、3〜55質量%がより好ましく、4〜50質量%が特に好ましい。
水の濃度は、アルカリ水溶液(100質量%)中、39〜80質量%が好ましい。
【0089】
アルカリ水溶液との接触によって、カルボン酸型官能基に変換できる基およびスルホン酸型官能基に変換できる基をそれぞれ、カルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基(以下、「イオン交換基」ともいう。)に変換した後に、必要に応じて、イオン交換基の対カチオンを交換する塩交換を行ってもよい。塩交換では、たとえば、イオン交換基の対カチオンを、カリウムからナトリウムに交換する。塩交換は、公知の方法を採用できる。
【0090】
前駆体膜(強化前駆体膜)とアルカリ水溶液との接触後に、アルカリ水溶液を除去する処理を行ってもよい。アルカリ水溶液を除去する方法としては、例えば、アルカリ水溶液で接触させた前駆体膜を水洗する方法が挙げられる。
【0091】
[電解装置]
本発明の塩化アルカリ電解装置は、陰極と陽極とを備える電解槽と、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜と、を有し、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜が、上記陰極と上記陽極とを区切るように上記電解槽内に配置されており、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の上記層(C)が上記陰極側に配置され、かつ、上記塩化アルカリ電解用イオン交換膜の上記層(S)が上記陽極側に配置されている。
本発明の塩化アルカリ電解装置によれば、上述した塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有するので、苛性品質に優れた水酸化アルカリが得られる。
【0092】
本発明の塩化アルカリ電解装置の一態様について、模式図である
図3を例にして説明する。塩化アルカリ電解装置100は、陰極112および陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極112側の陰極室116と、陽極114側の陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着されるイオン交換膜1とを有する。
図1に示すように、イオン交換膜1は、層(C)12および層(S)14からなる電解質膜10と、層(S)中に配置された補強部材20と、を有する。イオン交換膜1は、層(C)12が陰極112側、層(S)14が陽極114側となるように電解槽110内に装着する。陰極112は、イオン交換膜1に接触させて配置してもよく、イオン交換膜1との間に間隔をあけて配置してもよい。
【0093】
陰極室116を構成する材料は、水酸化アルカリおよび水素に耐性がある材料が好ましく、その具体例としては、ステンレス、ニッケルが挙げられる。陽極室118を構成する材料は、塩化アルカリおよび塩素に耐性がある材料が好ましく、その具体例としては、チタンが挙げられる。
【0094】
陰極の基材を構成する材料は、水酸化アルカリおよび水素に対する耐性や、加工性等の点から、ステンレス、ニッケルが好ましい。陰極の基材の表面は、例えば、ラネーニッケルでコーティングされるのが好ましい。
陽極の基材を構成する材料は、塩化アルカリおよび塩素に対する耐性や、加工性等の点から、チタンが好ましい。陽極の基材の表面は、例えば、酸化ルテニウムまたは酸化イリジウムでコーティングされるのが好ましい。
【0095】
[水酸化アルカリの製造方法]
本発明の水酸化アルカリの製造方法は、本発明の塩化アルカリ電解装置を用いた塩化アルカリの電解によって実施される。本発明の塩化アルカリ電解装置によって行われる以外は、公知の態様を採用できる。
例えば、塩化ナトリウム水溶液を電解して水酸化ナトリウム水溶液を製造する場合は、塩化アルカリ電解装置100の陽極室118に塩化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116に水酸化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度を所定濃度(例えば32質量%)に保ちながら、塩化ナトリウム水溶液を電解する。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0097】
[表面粗さ]
後述する実施例および比較例の各イオン交換膜を、20mm(TD方向)×100mm(MD方向)のサイズに切り出した。なお、MD方向(Machine Direction)とは、イオン交換膜の製造において、前駆体膜、およびイオン交換膜が搬送される方向である。TD(Transverse Direction)とはMD方向と垂直の方向である。
次に、切り出したイオン交換膜を、25℃のイオン交換水に浸漬させた。
その後、上記溶液からイオン交換膜を取り出して、イオン交換膜が湿潤状態のまま、ピンセットを用いて、イオン交換膜の端部から、MD方向に30mmまで層(C)を剥離させた。
そして、剥離試験機(製品名「TENSILON RTC−120A」、オリエンテック社製)を用いて、チャック間距離が20mmとなるように、上部チャックに層(C)、下部チャックに層(S)を固定して、引張速度50mm/分で上下方向に50mm剥離させた。剥離試験機を用いた剥離によって現れる層(S)から、5mm角を切り出して、表面粗さ測定用のサンプルとした。
上記サンプルを原子間力顕微鏡(AFM)の金属試料ディスク上にカーボンテープで固定して、10μm角で異なる2箇所の表面粗さ(Ra)を測定し、これの算術平均値をサンプルの表面粗さ(Ra)とした。なお、原子間力顕微鏡および測定条件の概要は、以下の通りである。
原子間力顕微鏡:製品名「CyPher S」、Oxford Instruments社製
測定モード:AC−airモード
プローブ:AC160TS−C3(オリンパス社製、曲率半径:7nm、バネ定数:26N/m)
【0098】
[苛性品質]
イオン交換膜を、層(C)が陰極に面するように、有効通電面積が1.5dm
2(電解面サイズが縦150mm×横100mm)の試験用電解槽内に配置し、陽極としてはチタンのパンチドメタル(短径4mm、長径8mm)に酸化ルテニウムと酸化イリジウムと酸化チタンの固溶体を被覆したものを用い、陰極としてはSUS304製パンチドメタル(短径5mm、長径10mm)にルテニウム入りラネーニッケルを電着したものを用い、電極と膜が直接接し、ギャップが生じないように設置した。
陽極室に供給する塩化ナトリウム濃度が40〜50g/Lとなるように調整しながら、温度90℃、電流密度8kA/m
2の条件で1日運転した後、陽極室に供給する塩化ナトリウム濃度が200g/Lとなるように調整しながら、温度90℃、電流密度6kA/m
2の条件で7日間運転して、塩化ナトリウム水溶液の電解を実施した。得られた水酸化ナトリウム水溶液中の塩化ナトリウム濃度(ppm)をチオシアン酸水銀(II)吸光光度法により測定した。
なお、水酸化ナトリウム水溶液中の塩化ナトリウム濃度が低いほど、苛性品質に優れる。
【0099】
[実施例1]
TFEと、下式(X)で表されるカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.08mEq/g)(以下、「ポリマーC」ともいう。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2CF
2−COOCH
3 ・・・(X)
得られたポリマーCをペレット製造用の溶融押出し機に供給して、−0.1MPaのゲージ圧で脱気しながらポリマーCを溶融させた。そして、ポリマーCの溶融物を、溶融押出し機に設けられた金属メッシュフィルター(関西金網株式会社製、500メッシュ、目開き0.026mm)に通した後、これを溶融押出し機から押し出し、冷却して、ストランドを得た。続いて、ストランドを切断して、ポリマーCのペレットを得た。
【0100】
TFEと、下式(Y)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.10mEq/g)(以下、「ポリマーS1」ともいう。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−SO
2F ・・・(Y)
得られたポリマーS1をペレット製造用の溶融押出し機に供給して、−0.1MPaのゲージ圧で脱気しながらポリマーS1を溶融させた。そして、ポリマーS1の溶融物を、溶融押出し機に設けられた金属メッシュフィルター(関西金網株式会社製、500メッシュ、目開き0.026mm)に通した後、これを溶融押出し機から押し出し、冷却して、ストランドを得た。続いて、ストランドを切断して、ポリマーS1のペレットを得た。
【0101】
その後、ポリマーCのペレットおよびポリマーS1のペレットをフィルム製造用の溶融押出し機に供給して、−0.1MPaのゲージ圧で脱気しながらポリマーCのペレットおよびポリマーS1のペレットをそれぞれ溶融させた。そして、ポリマーCのペレットの溶融物およびポリマーS1のペレットの溶融物をそれぞれ、溶融押出し機に設けられた金属メッシュフィルター(関西金網株式会社製、500メッシュ、目開き0.026mm)に通した後、共押し出し法によってフィルム状に成形し、ポリマーCからなる前駆体層(C’)(厚さ:12μm)およびポリマーS1からなる前駆体層(S’a)(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムAを製造した。
【0102】
TFEと、式(Y)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解後のイオン交換容量:1.10mEq/g)(以下、「ポリマーS2」ともいう。)を合成した。
ポリマーS2を溶融押し出し法によりフィルム状に成形し、ポリマーS2からなる前駆体層(S’b)(厚さ:30μm)のフィルムBを得た。
【0103】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに2000回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。5デニールのPETフィラメントを6本引き揃えた30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を犠牲糸とした。補強糸1本と犠牲糸2本とが交互に配列されるように平織りし、補強布(補強糸の密度:27本/インチ、犠牲糸の密度:108本/インチ)を得た。
【0104】
上記で得た、フィルムA、フィルムBおよび補強布を用いて、
図1の態様に対応するイオン交換膜1を、以下のように製造した。
フィルムB、補強布、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムAの前駆体層(C’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。強化前駆体膜における各層の厚さは、前駆体層(C’)が12μm、前駆体層(S’a)が68μm、前駆体層(S’b)が30μmであった。なお、前駆体層(S’a)および前駆体層(S’b)が前駆体層(S’)を構成する。
【0105】
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%および水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層(S’)の上層側(すなわち、前駆体層(S’b))にロールプレスにより転写し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/m
2とした。
【0106】
片面に無機物粒子層を形成した強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシドおよび30質量%の水酸化カリウムの水溶液に95℃で15分間処理を行った。
これにより、ポリマーCの−COOCH
3、ならびにポリマーS1およびポリマーS2の−SO
2Fを加水分解してイオン交換基に変換し、前駆体層(C’)を層(C)に、前駆体層(S’a)を層(Sa)に、層(S’b)を層(Sb)とした膜を得た。
【0107】
イオン交換基の対カチオンをカリウムからナトリウムに交換する塩交換処理を、10質量%水酸化ナトリウムを用いて行った。
【0108】
ポリマーS1の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。この分散液を、上記膜の層(C)側に噴霧し、無機物粒子層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、3g/m
2とした。
このようにして、実施例1のイオン交換膜を得た。
【0109】
[実施例2〜7、比較例1〜4]
ペレット製造時およびフィルム製造時における金属メッシュフィルムと、脱気の際におけるゲージ圧を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜7および比較例1〜4のイオン交換膜を得た。なお、比較例3では、ペレット製造時およびフィルム製造時においても、金属メッシュフィルムを使用せず、脱気も行わなかった。比較例4では、ペレット製造時およびフィルム製造時においても、金属メッシュフィルムを使用しなかった。
【0110】
上記のようにして得られた実施例および比較例のイオン交換膜を用いて、上述の方法にしたがって表面粗さ(Ra)および苛性品質を測定した。結果を表1に示す。
【0111】
【表1】
【0112】
表1に示す通り、層(S)を層(C)から剥離させた際に現れる層(S)側の表面および層(C)側の表面のうち、少なくとも一方の表面粗さ(Ra)が、1〜15nmであるイオン交換膜を使用すれば、苛性品質に優れた塩化アルカリ水溶液を製造できる。
これに対して、上記表面粗さ(Ra)が上記範囲外であるイオン交換膜を使用すると、製造された塩化アルカリ水溶液の苛性品質が劣っていた。