特許第6927204号(P6927204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927204
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年8月25日
(54)【発明の名称】剥離層形成用組成物及び剥離層
(51)【国際特許分類】
   C08L 79/08 20060101AFI20210812BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20210812BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20210812BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20210812BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20210812BHJP
【FI】
   C08L79/08 A
   C08K5/20
   C08G73/10
   B32B27/34
   C09D179/08 A
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-519541(P2018-519541)
(86)(22)【出願日】2017年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2017019100
(87)【国際公開番号】WO2017204178
(87)【国際公開日】20171130
【審査請求日】2020年4月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-102445(P2016-102445)
(32)【優先日】2016年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江原 和也
(72)【発明者】
【氏名】進藤 和也
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−218056(JP,A)
【文献】 特表2015−522451(JP,A)
【文献】 特開平11−012358(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/152120(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00−13/08,
C08L1/00−101/14,
C08G73/00−73/26,
C09J7/00−7/50,
B32B27/34,
C09D 179/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるポリアミック酸と、有機溶媒とを含み、
上記式(1)で表されるポリアミック酸が、テトラカルボン酸二無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られたポリアミック酸であり、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分の仕込み比が、ジアミン成分1モルに対して、テトラカルボン酸二無水物成分1.05〜2.5モルであることを特徴とする剥離層形成用組成物。
【化1】
(式中、Xは、下記式(2)又は式(3)で表される芳香族基を表し、Yは、2価の芳香族基を表し、Zは、Xが下記式(2)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(4)又は式(5)で表される芳香族基を表し、Xが下記式(3)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(6)又は式(7)で表される芳香族基を表し、mは自然数を表す。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
上記Xが、下記式(8)〜(11)で表される芳香族基であり、上記Zが、Xが下記式(8)又は式(9)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(12)又は式(13)で表される芳香族基であり、Xが下記式(10)又は式(11)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(14)又は式(15)で表される芳香族基である請求項1記載の剥離層形成用組成物。
【化4】
【化5】
【請求項3】
上記Yが、ベンゼン環を1〜5個含む2価の芳香族基である請求項1又は2記載の剥離層形成用組成物。
【請求項4】
上記Yが、下記式(16)〜(18)から選ばれる少なくとも1種である請求項3記載の剥離層形成用組成物。
【化6】
(式中、R1〜R24は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。)
【請求項5】
上記R1〜R24が、水素である請求項4記載の剥離層形成用組成物。
【請求項6】
上記mが、100以下の自然数である請求項1〜5のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物。
【請求項7】
上記有機溶媒が、式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜6のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物。
【化7】
(式中、R25及びR26は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R27は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、bは、自然数を表す。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の剥離層形成用組成物により形成される剥離層。
【請求項9】
請求項8記載の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
上記樹脂基板が、ポリイミドからなる基板である請求項9記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離層形成用組成物及び剥離層に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスには薄型化及び軽量化という特性に加え、曲げることができるという機能を付与することが求められている。このことから、従来の重く脆弱で曲げることができないガラス基板に代わって、軽量なフレキシブルプラスチック基板を用いることが求められる。
特に、新世代ディスプレイでは、軽量なフレキシブルプラスチック基板(以下、樹脂基板と表記する)を用いたアクティブマトリクス型フルカラーTFTディスプレイパネルの開発が求められている。
【0003】
そこで、樹脂フィルムを基板とした電子デバイスの製造方法が各種検討され始めており、新世代ディスプレイでは、既存のTFTディスプレイパネル製造用の設備が転用可能なプロセスの検討が進められている。特許文献1、2及び3では、ガラス基板上にアモルファスシリコン薄膜層を形成し、その薄膜層上にプラスチック基板を形成した後に、ガラス基板側からレーザーを照射してアモルファスシリコンを結晶化させ、その結晶化に伴い発生する水素ガスによりプラスチック基板をガラス基板から剥離する方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献4では、特許文献1〜3で開示された技術を用いて被剥離層(特許文献4において「被転写層」と記載されている)をプラスチックフィルムに貼りつけて液晶表示装置を完成させる方法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1〜4で開示された方法、特に特許文献4で開示された方法では、レーザー光を透過させるために透光性の高い基板を使用することが必須であること、基板を通過させ、更にアモルファスシリコンに含まれる水素を放出させるのに十分な、比較的大きなエネルギーのレーザー光の照射が必要とされること、レーザー光の照射によって被剥離層に損傷を与えてしまう場合があること、といった問題がある。
しかも、被剥離層が大面積である場合には、レーザー処理に長時間を要するため、デバイス作製の生産性を上げることが難しい。
【0006】
このような問題を解決する手段として、特許文献5では、現行のガラス基板を基体(以下、ガラス基体という)として用い、このガラス基体上に環状オレフィンコポリマーのようなポリマーを用いて剥離層を形成し、その剥離層上にポリイミドフィルム等の耐熱樹脂フィルムを形成後、そのフィルム上にITO透明電極やTFT等を真空プロセスで形成・封止後、最終的にガラス基体を剥離・除去する製造工程が採用されている。
【0007】
ところで、現在、TFTとしては、アモルファスシリコンTFTと比較して移動度が2倍速い低温ポリシリコンTFTが使用されている。この低温ポリシリコンTFTは、アモルファスシリコン蒸着後、400℃以上で脱水素アニールを行い、パルスレーザーを照射し、シリコンを結晶化させる必要がある(以下、これらをTFT工程という)が、上記脱水素アニール工程の温度は、既存のポリマーのガラス転移(以下Tg)以上である。
しかしながら、既存のポリマーは、Tg以上の温度に加熱された場合、密着性が高まることが知られており(例えば、特許文献6参照)、加熱処理後に剥離層と樹脂基板との密着性が高まり、樹脂基板を基体から剥離することが困難となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−125929号公報
【特許文献2】特開平10−125931号公報
【特許文献3】国際公開第2005/050754号
【特許文献4】特開平10−125930号公報
【特許文献5】特開2010−111853号公報
【特許文献6】特開2008−188792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その上に形成されたフレキシブル電子デバイスの樹脂基板を損傷せずに剥離可能であるとともに、上述したTFT工程等の比較的高温での加熱処理後でも、その剥離性が変化しない剥離層を与える、剥離層形成用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、分子鎖両末端に特定の芳香族基を有するポリアミック酸と有機溶媒とを含む組成物が、ガラス基板等の基体との優れた密着性及びフレキシブル電子デバイスに用いられる樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する剥離層を与えるだけでなく、該剥離層の適度な密着性と適度な剥離性がTFT工程での加熱処理後においても変わることなく、良好に維持されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
従って、本発明は下記の剥離層形成用組成物及び剥離層を提供する。
[1]下記式(1)で表されるポリアミック酸と、有機溶媒とを含むことを特徴とする剥離層形成用組成物。
【化1】
(式中、Xは、下記式(2)又は式(3)で表される芳香族基を表し、Yは、2価の芳香族基を表し、Zは、Xが下記式(2)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(4)又は式(5)で表される芳香族基を表し、Xが下記式(3)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(6)又は式(7)で表される芳香族基を表し、mは自然数を表す。)
【化2】
【化3】
[2]上記Xが、下記式(8)〜(11)で表される芳香族基であり、上記Zが、Xが下記式(8)又は式(9)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(12)又は式(13)で表される芳香族基であり、Xが下記式(10)又は式(11)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(14)又は式(15)で表される芳香族基である[1]記載の剥離層形成用組成物。
【化4】
【化5】
[3]上記Yが、ベンゼン環を1〜5個含む2価の芳香族基である[1]又は[2]記載の剥離層形成用組成物。
[4]上記Yが、下記式(16)〜(18)から選ばれる少なくとも1種である[3]記載の剥離層形成用組成物。
【化6】
(式中、R1〜R24は、互いに独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、ニトロ基、シアノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。)
[5]上記R1〜R24が、水素である[4]記載の剥離層形成用組成物。
[6]上記mが、100以下の自然数である[1]〜[5]のいずれかに記載の剥離層形成用組成物。
[7]上記有機溶媒が、式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種を含む[1]〜[6]のいずれかに記載の剥離層形成用組成物。
【化7】
(式中、R25及びR26は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基を表し、R27は、水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、bは、自然数を表す。)
[8][1]〜[7]のいずれかに記載の剥離層形成用組成物により形成される剥離層。
[9][8]記載の剥離層を用いることを特徴とする、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造方法。
[10]上記樹脂基板が、ポリイミドからなる基板である[9]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の剥離層形成用組成物を用いることで、基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する剥離層を再現性よく得ることできる。特に、TFT工程での加熱処理後においても上記の密着性及び剥離性が良好に維持されることから、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、基体上に形成された樹脂基板や、更にその上に設けられる回路等に損傷を与えることなく、当該回路等とともに当該樹脂基板を、当該基体から分離することが可能となる。したがって、本発明の剥離層形成用組成物は、樹脂基板を備えるフレキシブル電子デバイスの製造プロセスの簡便化やその歩留り向上等に寄与し得る。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、より詳細に説明する。
本発明の剥離層形成用組成物は、下記式(1)で表されるポリアミック酸と、有機溶媒とを含むものである。
【0014】
【化8】
【0015】
上記式(1)において、Xは、下記式(2)又は式(3)で表される芳香族基を表し、Yは、2価の芳香族基を表し、Zは、Xが下記式(2)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(4)又は式(5)で表される芳香族基を表し、Xが下記式(3)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(6)又は式(7)で表される芳香族基を表し、mは自然数を表す。
【0016】
【化9】
【0017】
【化10】
【0018】
本発明において、剥離層とは、樹脂基板が形成される基体(ガラス基体等)直上に設けられる層である。その典型例としては、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、上記基体と、ポリイミド等の樹脂からなるフレキシブル電子デバイスの樹脂基板との間に当該樹脂基板を所定のプロセス中において固定するために設けられ、かつ、当該樹脂基板上に電子回路等の形成した後において当該樹脂基板が当該基体から容易に剥離できるようにするために設けられる剥離層が挙げられる。
【0019】
上記式(1)で表されるポリアミック酸は、所定のテトラカルボン酸二無水物成分と、ジアミン成分とを反応させることにより得られるものである。
上記テトラカルボン酸二無水物成分としては、ベンゼンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物を使用することができる。上記ジアミン成分としては、脂鎖、脂環、芳香族、芳香脂環族のいずれでもよいが、本発明では、得られる膜の剥離層としての機能を向上させる観点から、上記テトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンを含むジアミン成分とを反応させて得られるポリアミック酸が好ましく、上記テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させて得られる全芳香族ポリアミック酸がより好ましい。
【0020】
上記Xは、下記式(8)〜(11)で表される芳香族基が好ましい。
【化11】
【0021】
また、上記Zは、Xが上記式(8)又は式(9)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(12)又は式(13)で表される芳香族基が好ましく、Xが上記式(10)又は式(11)で表される芳香族基の時は、互いに独立して、下記式(14)又は式(15)で表される芳香族基が好ましい
【化12】
【0022】
上記Yは、ベンゼン環を1〜5個含む芳香族基が好ましく、下記式(16)〜(18)から選ばれる少なくとも1種で表される芳香族基がより好ましい。
【0023】
【化13】
【0024】
上記式(16)〜(18)において、R1〜R24は、互いに独立して、水素原子、水酸基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、又はハロゲン原子で置換されていてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基もしくは炭素数2〜20のヘテロアリール基を表す。
【0025】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1〜20のアルキル基の具体例としては、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル、シクロペンチル、n−ヘキシル、1−メチル−n−ペンチル、2−メチル−n−ペンチル、3−メチル−n−ペンチル、4−メチル−n−ペンチル、1,1−ジメチル−n−ブチル、1,2−ジメチル−n−ブチル、1,3−ジメチル−n−ブチル、2,2−ジメチル−n−ブチル、2,3−ジメチル−n−ブチル、3,3−ジメチル−n−ブチル、1−エチル−n−ブチル、2−エチル−n−ブチル、1,1,2−トリメチル−n−プロピル、1,2,2−トリメチル−n−プロピル、1−エチル−1−メチル−n−プロピル、1−エチル−2−メチル−n−プロピル、シクロヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル基、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、n−オクタデシル、n−ノナデシル、n−エイコサニル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数2〜20のアルケニル基の具体例としては、エテニル、n−1−プロペニル、n−2−プロペニル、1−メチルエテニル、n−1−ブテニル、n−2−ブテニル、n−3−ブテニル、2−メチル−1−プロペニル、2−メチル−2−プロペニル、1−エチルエテニル、1−メチル−1−プロペニル、1−メチル−2−プロペニル、n−1−ペンテニル、n−1−デセニル、n−1−エイコセニル基等が挙げられる。
【0027】
炭素数2〜20のアルキニル基の具体例としては、エチニル、n−1−プロピニル、n−2−プロピニル、n−1−ブチニル、n−2−ブチニル、n−3−ブチニル、1−メチル−2−プロピニル、n−1−ペンチニル、n−2−ペンチニル、n−3−ペンチニル、n−4−ペンチニル、1−メチル−n−ブチニル、2−メチル−n−ブチニル、3−メチル−n−ブチニル、1,1−ジメチル−n−プロピニル、n−1−ヘキシニル、n−1−デシニル、n−1−ペンタデシニル、n−1−エイコシニル基等が挙げられる。
【0028】
炭素数6〜20のアリール基の具体例としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、1−アントリル、2−アントリル、9−アントリル、1−フェナントリル、2−フェナントリル、3−フェナントリル、4−フェナントリル、9−フェナントリル基等が挙げられる。
【0029】
炭素数2〜20のヘテロアリール基の具体例としては、2−チエニル、3−チエニル、2−フラニル、3−フラニル、2−オキサゾリル、4−オキサゾリル、5−オキサゾリル、3−イソオキサゾリル、4−イソオキサゾリル、5−イソオキサゾリル等の含酸素ヘテロアリール基;2−チアゾリル、4−チアゾリル、5−チアゾリル、3−イソチアゾリル、4−イソチアゾリル、5−イソチアゾリル基等の含硫黄ヘテロアリール基;2−イミダゾリル、4−イミダゾリル、2−ピリジル、3−ピリジル、4−ピリジル、2−ピラジル、3−ピラジル、5−ピラジル、6−ピラジル、2−ピリミジル、4−ピリミジル、5−ピリミジル、6−ピリミジル、3−ピリダジル、4−ピリダジル、5−ピリダジル、6−ピリダジル、1,2,3−トリアジン−4−イル、1,2,3−トリアジン−5−イル、1,2,4−トリアジン−3−イル、1,2,4−トリアジン−5−イル、1,2,4−トリアジン−6−イル、1,3,5−トリアジン−2−イル、1,2,4,5−テトラジン−3−イル、1,2,3,4−テトラジン−5−イル、2−キノリニル、3−キノリニル、4−キノリニル、5−キノリニル、6−キノリニル、7−キノリニル、8−キノリニル、1−イソキノリニル、3−イソキノリニル、4−イソキノリニル、5−イソキノリニル、6−イソキノリニル、7−イソキノリニル、8−イソキノリニル、2−キノキサニル、5−キノキサニル、6−キノキサニル、2−キナゾリニル、4−キナゾリニル、5−キナゾリニル、6−キナゾリニル、7−キナゾリニル、8−キナゾリニル、3−シンノリニル、4−シンノリニル、5−シンノリニル、6−シンノリニル、7−シンノリニル、8−シンノリニル基等の含窒素ヘテロアリール基等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、R1〜R24は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜20のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜20のヘテロアリール基が好ましく、水素原子、フッ素原子、シアノ基、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜10のアルキル基、ハロゲン原子で置換されていてもよいフェニル基がより好ましく、水素原子、フッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基がより一層好ましく、水素原子が最適である。
【0031】
上記mは、自然数であればよいが、100以下の自然数が好ましく、2〜100の自然数がより好ましい。
【0032】
以下、上記式(1)で表される構造を有するポリアミック酸の合成に使用できるテトラカルボン酸二無水物成分、ジアミン成分及び芳香族カルボン酸成分について詳述する。
【0033】
上記テトラカルボン酸二無水物成分としては、ベンゼンテトラカルボン酸二無水物及びビフェニルテトラカルボン酸二無水物を使用することができる。
【0034】
その具体例としては、ピロメリット酸二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,2’,3,3’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−2,3,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、得られる膜の剥離層としての機能を向上させる観点から、ピロメリット酸二無水物及びビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物を好適に使用することができる。
【0035】
一方、芳香族ジアミンとしては、分子内に芳香環に直結する2個のアミノ基を有していれば、特に限定されるものではないが、ベンゼン環を1〜5個含む芳香族ジアミンが好ましい。
【0036】
上記の構造を有する芳香族ジアミンの具体例としては、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン(m−フェニレンジアミン)、1,2−ジアミノベンゼン(o−フェニレンジアミン)、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,6−ジメチル−m−フェニレンジアミン、2,5−ジメチル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジメチル−p−フェニレンジアミン、2,4,6−トリメチル−1,3−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、5−トリフルオロメチルベンゼン−1,3−ジアミン、5−トリフルオロメチルベンゼン−1,2−ジアミン、3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン−1,2−ジアミン等のベンゼン環が1個のジアミン;1,2−ナフタレンジアミン、1,3−ナフタレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、1,6−ナフタレンジアミン、1,7−ナフタレンジアミン、1,8−ナフタレンジアミン、2,3−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、4,4’−ビフェニルジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル−4,4’−ジアミン、3,3’,5,5’−テトラフルオロビフェニル−4,4’−ジアミン、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、2−(3−アミノフェニル)−5−アミノベンズイミダゾール、2−(4−アミノフェニル)−5−アミノベンゾオキゾール等のベンゼン環が2個のジアミン;1,5−ジアミノアントラセン、2,6−ジアミノアントラセン、9,10−ジアミノアントラセン、1,8−ジアミノフェナントレン、2,7−ジアミノフェナントレン、3,6−ジアミノフェナントレン、9,10−ジアミノフェナントレン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、4,4’’−ジアミノ−p−ターフェニル、4,4’’−ジアミノ−m−ターフェニル等のベンゼン環が3個のジアミン等を挙げることができるが、これらに限定されない。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
中でも、得られる膜の剥離層としての機能を向上させる観点から、芳香環上、又は芳香環及びそれに縮合する複素環上にメチル基等の置換基を有しない芳香族ジアミンが好ましい。具体的には、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2−(3−アミノフェニル)−5−アミノベンズイミダゾール、2−(4−アミノフェニル)−5−アミノベンゾオキゾール、4,4’’−ジアミノ−p−ターフェニル等が好ましい。
【0038】
また、得られる剥離層の柔軟性、耐熱性等を向上させる観点から、本発明のジアミン成分は、芳香族ジアミン以外のジアミンを含んでもよく、その好ましい一例としては、式(S)で表されるジアミンが挙げられる。
【0039】
【化14】
【0040】
式(S)中、各Lは、互いに独立して、炭素数1〜20のアルカンジイル基、炭素数2〜20のアルケンジイル基又は炭素数2〜20のアルキンジイル基を表し、各R’は、互いに独立して、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基又は炭素数2〜20のアルキニル基を表す。
【0041】
このようなアルカンジイル基、アルケンジイル基及びアルキンジイル基の炭素数は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下である。
【0042】
中でも、Lとしては、得られるポリアミック酸の有機溶媒への溶解性と得られる膜の耐熱性のバランスを考慮すると、アルカンジイル基が好ましく、−(CH2n−基(n=1〜10)がより好ましく、−(CH2n−基(n=1〜5)がより一層好ましく、更に入手容易性を考慮すると、トリメチレン基が更に好ましい。
【0043】
その他、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基の具体例としては、上記と同様のものが挙げられる。
中でも、R’としては、得られるポリアミック酸の有機溶媒への溶解性と得られる膜の耐熱性のバランスを考慮すると、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましい。
【0044】
入手容易性、得られる膜の剥離層としての機能等を考慮すると、式(S)で表されるジアミンとしては、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンが最適である。なお、式(S)で表されるジアミンは、市販品として入手できるし、公知の方法(例えば、国際公開第2010/108785号に記載の方法)で合成することもできる。
【0045】
更に、得られる剥離層に悪影響を与えない限りにおいて、上記芳香族ジアミンとともに、その他のジアミンを併用してもよい。
その他のジアミンの具体例としては、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン、3(4),8(9)−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、2,5(6)−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、1,3−ジアミノアダマンタン、3,3’−ジアミノ−1,1’−ビアダマンチル、1,6−ジアミノジアマンタン(1,6−アミノペンタシクロ[7.3.1.14,12,02,7.06,11]テトラデカン)等の脂環式ジアミン;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン等が挙げられる。
【0046】
本発明において、全ジアミン成分中の芳香族ジアミンの量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、より一層好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上である。また、特に、芳香族ジアミンとともに式(S)で表されるジアミンを用いる場合、芳香族ジアミン及び式(S)で表されるジアミンの合計量中の芳香族ジアミンの量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上、更に好ましくは97モル%以上である。このような使用量を採用することで、基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する膜を再現性よく得ることができる。
【0047】
ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分の仕込み比は、目的とする分子量や分子量分布、ジアミンやテトラカルボン酸二無水物の種類の種類等を考慮して適宜決定されるため一概に規定できないが、上記(1)のポリアミック酸を得るため、ジアミン成分のモル数に対してテトラカルボン酸二無水物成分のモル数を多めにすることが好ましい。具体的なモル比としては、ジアミン成分1モルに対して、テトラカルボン酸二無水物成分1.05〜2.5モルが好ましく、1.07〜1.5モルがより好ましく、1.1〜1.3モルがより一層好ましい。
【0048】
以上説明したジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分とを反応させることで、本発明の剥離層形成用組成物に含まれる上記式(1)のポリアミック酸を得ることができる。
【0049】
ポリアミック酸の合成において用いる有機溶媒は、反応に悪影響を及ぼさない限り特に限定されるものではないが、その具体例としては、m−クレゾール、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、3−エトキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、3−プロポキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、3−イソプロポキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、3−sec−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、3−tert−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピルアミド、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なお、有機溶媒は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
ポリアミック酸の合成時の反応温度は、用いる溶媒の融点から沸点までの範囲で適宜設定すればよく、通常0〜100℃程度であるが、得られるポリアミック酸の溶液中でのイミド化を防いでポリアミック酸単位の高含有量を維持する観点から、好ましくは0〜70℃程度、より好ましくは0〜60℃程度、更に好ましくは0〜50℃程度とすることができる。反応時間は、反応温度や原料物質の反応性に依存するため一概に規定できないが、通常1〜100時間程度である。
【0051】
このようにして得られる上記式(1)のポリアミック酸の重量平均分子量は、通常5,000〜500,000程度であるが、得られる膜の剥離層としての機能を向上させる観点から、好ましくは10,000〜200,000程度、より好ましくは30,000〜150,000程度である。なお、本発明において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定によるポリスチレン換算値である。
【0052】
本発明で好適に用いることのできるポリアミック酸の具体例としては、下記式で示されるものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0053】
【化15】
(式中、mは上記と同じ意味を表す。)
【0054】
本発明の剥離層形成用組成物は、有機溶媒を含むものである。この有機溶媒としては、上記反応の反応溶媒の具体例と同様のものを使用し得るが、上記式(1)のポリアミック酸をよく溶解し、均一性の高い組成物を調製しやすいことから、特に下記の式(S1)で表されるアミド類、式(S2)で表されるアミド類及び式(S3)で表されるアミド類から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0055】
【化16】
【0056】
上記式中、R25及びR26は、互いに独立して、炭素数1〜10のアルキル基を表す。R27は、水素原子、又は炭素数1〜10のアルキル基を表す。bは自然数を表すが、1〜5の自然数が好ましく、1〜3の自然数がより好ましい。
炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、上記と同様のものが挙げられる。
【0057】
上記式(S1)〜(S3)で表される有機溶媒の具体例としては、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルブタンアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン等が挙げられるが、中でも、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの有機溶媒は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
なお、単独ではポリアミック酸を溶解させない溶媒であっても、ポリアミック酸が析出しない範囲であれば、組成物の調製に用いることができる。特に、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸n−プロピル、乳酸n−ブチル、乳酸イソアミル等の低表面張力を有する溶媒を適度に混在させることができる。これにより、基板への塗布時に塗膜均一性が向上することが知られており、本発明においても好適に用いることができる。
【0059】
本発明の剥離層形成用組成物は通常の方法で調製することができる。調製方法の好ましい一例としては、上記で説明した方法によって得られた目的とするポリアミック酸を含む反応溶液をろ過し、得られたろ液の濃度を上述した有機溶媒を用いて所定の濃度とすればよい。このような方法を採用することで、得られる組成物から製造される剥離層の密着性、剥離性等の悪化の原因となり得る不純物の混入を低減できるだけでなく、効率よく剥離層形成用組成物を得ることができる。
【0060】
本発明の剥離層形成用組成物における上記式(1)のポリアミック酸の濃度は、作製する剥離層の厚み、組成物の粘度等を勘案して適宜設定するものではあるが、通常1〜30質量%程度、好ましくは1〜20質量%程度である。このような濃度とすることで、0.05〜5μm程度の厚さの剥離層を再現性よく得ることができる。上記式(1)のポリアミック酸の濃度は、ポリアミック酸の原料であるジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物成分の使用量を調整する、単離した上記式(1)のポリアミック酸を溶媒に溶解させる際にその量を調整する等して調整することができる。
【0061】
また、本発明の剥離層形成用組成物の粘度は、作製する剥離層の厚み等を勘案して適宜設定するものではあるが、特に0.05〜5μm程度の厚さの膜を再現性よく得ることを目的とする場合、通常、25℃で10〜10,000mPa・s程度、好ましくは20〜5,000mPa・s程度である。
【0062】
ここで、粘度は、市販の液体の粘度測定用粘度計を使用して、例えば、JIS K7117−2に記載の手順を参照して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。好ましくは、粘度計としては、円錐平板型(コーンプレート型)回転粘度計を使用し、好ましくは同型の粘度計で標準コーンロータとして1°34’×R24を使用して、組成物の温度25℃の条件にて測定することができる。このような回転粘度計としては、例えば、東機産業株式会社製TVE−25Lが挙げられる。
【0063】
なお、本発明の剥離層形成用組成物は、上記式(1)のポリアミック酸及び有機溶媒の他に、例えば膜強度を向上させるために、架橋剤等を含んでいてもよい。
【0064】
以上説明した本発明の剥離層形成用組成物を基体に塗布し、得られた塗膜を加熱して上記式(1)のポリアミック酸を熱イミド化することで、基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有する、ポリイミド膜からなる剥離層を得ることができる。
【0065】
このような本発明の剥離層を基体上に形成する場合、剥離層は基体表面の一部に形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。基体表面の一部に剥離層を形成する態様としては、基体表面のうち所定の範囲にのみ剥離層を形成する態様、基体表面の全体にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状に剥離層を形成する態様等がある。なお、本発明において、基体とは、その表面に本発明の剥離層形成用組成物が塗られるものであって、フレキシブル電子デバイス等の製造に用いられるものを意味する。
【0066】
基体(基材)としては、例えば、ガラス、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ、メラミン、トリアセチルセルロース、ABS、AS、ノルボルネン系樹脂等)、金属(シリコンウエハ等)、木材、紙、スレート等が挙げられる。本発明では、特に剥離層が十分な密着性を有することから、ガラス基体を好適に使用することができる。なお、基体表面は、単一の材料で構成されていてもよく、2以上の材料で構成されていてもよい。2以上の材料で基体表面が構成される態様としては、基体表面のうちのある範囲が一の材料で構成され、その余の範囲が他の材料で構成されている態様、基体表面の全体にドットパターン、ラインアンドスペースパターン等のパターン状にある材料がその他の材料中に存在する態様等がある。
【0067】
本発明の剥離層形成用組成物を基体に塗布する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(凸版、凹版、平版、スクリーン印刷等)等が挙げられる。
【0068】
イミド化するための加熱温度は、通常50〜550℃の範囲内で適宜決定されるものではあるが、好ましくは150℃超〜510℃である。加熱温度をこのようにすることで、得られる膜の脆弱化を防ぎつつ、イミド化反応を十分に進行させることが可能となる。加熱時間は、加熱温度によって異なるため一概に規定できないが、通常5分〜5時間である。また、イミド化率は、50〜100%の範囲であればよい。
【0069】
本発明における加熱態様の好ましい一例としては、50〜150℃で5分間〜2時間加熱した後に、そのまま段階的に加熱温度を上昇させて最終的に150℃超〜510℃で30分〜4時間加熱する手法が挙げられる。特に、50〜150℃で5分間〜2時間加熱した後に、150℃超〜350℃で5分間〜2時間、最後に350℃超〜450℃で30分〜4時間加熱することが好ましい。
【0070】
加熱に用いる器具は、例えばホットプレート、オーブン等が挙げられる。加熱雰囲気は、空気下であっても不活性ガス下であってもよく、また、常圧下であっても減圧下であってもよい。
【0071】
剥離層の厚さは、通常0.01〜50μm程度、生産性の観点から好ましくは0.05〜20μm程度である。なお、所望の厚さは、加熱前の塗膜の厚さを調整することによって実現する。
【0072】
以上説明した剥離層は、基体、特にガラス基体との優れた密着性及び樹脂基板との適度な密着性と適度な剥離性を有し、更に、特にTFT工程等における加熱処理の前後においてもこれらの特性に変化を生じることなく、性能が安定している。それ故、本発明の剥離層は、フレキシブル電子デバイスの製造プロセスにおいて、当該デバイスの樹脂基板に損傷を与えることなく、当該樹脂基板を、その樹脂基板上に形成された回路等とともに、基体から剥離させるために好適に用いることができる。
【0073】
以下、本発明の剥離層を用いたフレキシブル電子デバイスの製造方法の一例について説明する。
本発明の剥離層形成用組成物を用いて、上述の方法によって、ガラス基体上に剥離層を形成する。この剥離層の上に、樹脂基板を形成するための樹脂溶液を塗布し、この塗膜を加熱することで、本発明の剥離層を介して、ガラス基体に固定された樹脂基板を形成する。この際、剥離層を全て覆うようにして、剥離層の面積と比較して大きい面積で、基板を形成する。樹脂基板としては、フレキシブル電子デバイスの樹脂基板として代表的なポリイミドからなる樹脂基板が挙げられ、それを形成するための樹脂溶液としては、ポリイミド溶液やポリアミック酸溶液が挙げられる。当該樹脂基板の形成方法は、常法に従えばよい。
【0074】
次に、本発明の剥離層を介して基体に固定された当該樹脂基板の上に、所望の回路を形成し、その後、例えば剥離層に沿って樹脂基板をカットし、この回路とともに樹脂基板を剥離層から剥離して、樹脂基板と基体とを分離する。この際、基体の一部を剥離層とともにカットしてもよい。
【0075】
なお、特開2013−147599号公報では、これまで高輝度LEDや三次元半導体パッケージ等の製造において使用されてきたレーザーリフトオフ法(LLO法)をフレキシブルディスプレイの製造に適用することが報告されている。上記LLO法は、回路等が形成された面とは反対の面から、特定の波長の光線、例えば、波長308nmの光線をガラス基体側から照射することを特徴とするものである。照射された光線は、ガラス基体を透過し、ガラス基体近傍のポリマー(ポリイミド)のみがこの光線を吸収して蒸発(昇華)する。その結果、ディスプレイの性能を決定づけることとなる、樹脂基板上に設けられた回路等に影響を与えることなく、ガラス基体から樹脂基板を選択的に剥離することが可能となる。
【0076】
本発明の剥離層形成用組成物は、上記LLO法の適用が可能となる特定波長(例えば308nm)の光線を十分に吸収するという特徴を持つため、LLO法の犠牲層として用いることができる。そのため、本発明に組成物を用いて形成した剥離層を介してガラス基体に固定された樹脂基板の上に、所望の回路を形成し、その後、LLO法を実施して308nmの光線を照射すると、該剥離層のみがこの光線を吸収して蒸発(昇華)する。これにより、上記剥離層が犠牲となり(犠牲層として働く)、ガラス基体から樹脂基板を選択的に剥離することが可能となる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
[1]化合物の略語
p−PDA:p−フェニレンジアミン
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
【0078】
[2]重量平均分子量及び分子量分布の測定方法
ポリマーの重量平均分子量(以下Mwと略す)及び分子量分布の測定は、日本分光(株)製GPC装置(カラム:Shodex製 KD801及びKD805;溶離液:ジメチルホルムアミド/LiBr・H2O(29.6mM)/H3PO4(29.6mM)/THF(0.1wt%);流量:1.0mL/分;カラム温度:40℃;Mw:標準ポリスチレン換算値)を用いて行った。
【0079】
[3]ポリマーの合成
以下の方法によって、ポリアミック酸を合成した。
なお、得られたポリマー含有反応液からポリマーを単離せず、後述の通りに、反応液を希釈することで、樹脂基板形成用組成物又は剥離層形成用組成物を調製した。
【0080】
<合成例S1 ポリアミック酸(S1)の合成>
p−PDA3.218g(30mmol)をNMP88.2gに溶解させた。得られた溶液にBPDA8.581g(29mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは107,300、分子量分布は4.6であった。
【0081】
<合成例L1 ポリアミック酸(L1)の合成>
p−PDA4.47g(41.4mmol)をNMP132gに溶解させた。得られた溶液に、BPDA13.53g(46.0mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは75,400、分子量分布3.3であった。
【0082】
<合成例L2 ポリアミック酸(L2)の合成>
p−PDA5.55g(51.4mmol)をNMP132gに溶解させた。得られた溶液に、PMDA12.45g(57.1mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは76,400、分子量分布2.2であった。
【0083】
<合成例L3 ポリアミック酸(L3)の合成>
p−PDA2.73g(25.2mmol)をNMP88gに溶解させた。得られた溶液に、BPDA9.27g(31.5mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは45,000、分子量分布3.9であった。
【0084】
<比較合成例B1 ポリアミック酸(B1)の合成>
p−PDA20.8g(192mmol)をNMP425gに溶解させた。得られた溶液に、BPDA54.2g(184mmol)を加え、窒素雰囲気下、23℃で24時間反応させた。得られたポリマーのMwは69,200、分子量分布2.2であった。
【0085】
[4]樹脂基板形成用組成物の調製
[調製例1]
合成例S1で得られた反応液をそのまま樹脂基板形成用組成物として用いた。
【0086】
[5]剥離層形成用組成物の調製
[実施例1−1]
合成例L1で得られた反応液に、BCSとNMPを加え、ポリマー濃度が5質量%、BCSが20質量%となるように希釈し、剥離層形成用組成物を得た。
【0087】
[実施例1−2〜1−3]
合成例L1で得られた反応液の代わりに、それぞれ合成例L2〜L3で得られた反応液を用いた以外は、実施例1−1と同様の方法で、剥離層形成用組成物を得た。
【0088】
[比較例1−1]
合成例L1で得られた反応液の代わりに、比較合成例B1で得られた反応液を用いた以外は、実施例1−1と同様の方法で、剥離層形成用組成物を得た。
【0089】
[6]剥離層及び樹脂基板の作製
[実施例2−1]
スピンコータ(条件:回転数3,000rpmで約30秒)を用いて、実施例1−1で得られた剥離層形成用組成物を、ガラス基体としての100mm×100mmガラス基板(以下同様)の上に塗布した。
そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で10分間加熱し、その後、オーブンを用いて、300℃で30分間加熱し、加熱温度を400℃まで昇温(10℃/分)し、更に400℃で30分間加熱し、ガラス基板上に厚さ約0.1μmの剥離層を形成し、剥離層付きガラス基板を得た。なお、昇温の間、膜付き基板をオーブンから取り出すことはせず、オーブン内で加熱した。
【0090】
バーコーター(ギャップ:250μm)を用いて、上記で得られたガラス基板上の剥離層(樹脂薄膜)の上に樹脂基板形成用組成物を塗布した。そして、得られた塗膜を、ホットプレートを用いて80℃で30分間加熱し、その後、オーブンを用いて、140℃で30分間加熱し、加熱温度を210℃まで昇温(2℃/分、以下同様)し、210℃で30分間、加熱温度を300℃まで昇温し、300℃で30分間、加熱温度を400℃まで昇温し、400℃で60分間加熱し、剥離層上に厚さ約20μmのポリイミド基板を形成し、樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。昇温の間、膜付き基板をオーブンから取り出すことはせず、オーブン内で加熱した。
【0091】
[実施例2−2〜2−3]
実施例1−1で得られた剥離層形成用組成物の代わりに、それぞれ実施例1−2〜1−3で得られた剥離層形成用組成物を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で、剥離層及びポリイミド基板を作製し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0092】
[比較例2−1]
実施例1−1で得られた剥離層形成用組成物の代わりに、比較例1−1で得られた剥離層形成用組成物を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で、剥離層及びポリイミド基板を作製し、剥離層付きガラス基板及び樹脂基板・剥離層付きガラス基板を得た。
【0093】
[7]剥離性の評価
上記実施例2−1〜2−3及び比較例2−1で得られた剥離層付きガラス基板について、剥離層とガラス基板との剥離性を、下記手法にて確認した。なお、下記の試験は、同一のガラス基板で行った。
<樹脂薄膜のクロスカット試験剥離性評価>
実施例2−1〜2−3及び比較例2−1で得られた剥離層付きガラス基板上の剥離層をクロスカット(縦横1mm間隔、以下同様)し、100マスカットを行った。すなわち、このクロスカットにより、1mm四方のマス目を100個形成した。
そして、この100マスカット部分に粘着テープを張り付けて、そのテープを剥がし、以下の基準(5B〜0B,B,A,AA)に基づき、剥離の程度を評価した。結果を表1に示す。
<判定基準>
5B:0%剥離(剥離なし)
4B:5%未満の剥離
3B:5〜15%の剥離
2B:15〜35%未満の剥離
1B:35〜65%未満の剥離
0B:65%〜80%未満の剥離
B:80%〜95%未満の剥離
A:95%〜100%未満の剥離
AA:100%剥離(すべて剥離)
【0094】
<樹脂基板の初期剥離力の評価>
実施例2−1〜2−3及び比較例2−1で得られた樹脂基板・剥離層付きガラス基板の樹脂基板を、カッターを用いて25mm幅の短冊状にカットした。そして、カットした樹脂基板の先端にセロハンテープを貼り付け、これを試験片とした。この試験片を、(株)アトニック製プッシュプルテスターを用いて剥離角度が90°となるように剥離試験を行い、下記の基準に基づいて剥離力を評価した。結果を表1に示す。
<判定基準>
4b:剥離しない
3b:1.00(N/25mm)以上の剥離力
2b:0.80〜1.00(N/25mm)未満の剥離力
1b:0.60〜0.80(N/25mm)未満の剥離力
0b:0.40〜0.60(N/25mm)未満の剥離力
b:0.30〜0.40(N/25mm)未満の剥離力
a:0.20〜0.30(N/25mm)未満の剥離力
aa:0.20(N/25mm)未満の剥離力
【0095】
<高温処理を行った樹脂基板の剥離力の評価>
初期剥離力を評価した実施例2−1〜2−3及び比較例2−1の樹脂基板・剥離層付きガラス基板の樹脂基板を、オーブンを用いて、400℃で6時間加熱し、TFT工程と同様の高温処理を行った。そして、初期剥離力評価と同様に、樹脂基板の90°剥離試験を行った。得られた剥離力を、初期剥離力と同様の基準に基づいて評価した。
<剥離力変化量の評価>
高温処理前の剥離力と、高温処理後の剥離力との変化量を、以下の式より算出した。そして、下記の基準に基づいて、剥離力変化量の程度を評価した。結果を表1に記載した。
変化量(%)={(高温処理後の剥離力)−(高温処理前の剥離力)}/(高温処理前の剥離力)×100
○:40%未満の剥離力変化量(良好に剥離)
△:40〜70%未満の剥離力変化量
×:70〜100%未満の剥離力変化量
××:100%以上の剥離力変化量(剥離力の悪化)
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示される通り、実施例の剥離層は、高温処理後も剥離力に変化がないことがわかる。
一方、比較例2−1の剥離層は、ガラス基板との密着性に優れ、かつ、樹脂基板との剥離性に優れているが、高温処理後に剥離力が悪化していることがわかる。