(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記含フッ素粉体塗料が、さらに、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系、ベンゾフェノン系、およびシアノアクリレート系からなる群から選択される少なくとも1種の有機系紫外線吸収剤、または、無機系紫外線吸収剤を含む、請求項1に記載の塗装物品の製造方法。
前記含フッ素粉体塗料が、さらに、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、および、エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む、請求項1または2に記載の塗装物品の製造方法。
前記含フッ素重合体が、硬化性含フッ素重合体であり、かつ、前記含フッ素粉体塗料が、さらに硬化剤を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装物品の製造方法。
前記含フッ素重合体の190℃での溶融粘度が、前記フッ素原子を含まない硬化性重合体の190℃での溶融粘度よりも大きく、かつ、前記含フッ素重合体の190℃での溶融粘度が10Pa・s以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗装物品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における各用語の意味や使用法、測定法などは以下のとおりである。
「単位」とは、単量体の重合により直接形成される原子団と、単量体の重合によって形成される該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル法により分析して求められ、また、重合体の製造におけるそれぞれの単量体の仕込量からも決定できる。
「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
「塗膜」とは、粉体塗料から構成される塗装層を加熱溶融させて、冷却し、場合によっては硬化することにより形成される膜を意味する。
「溶融粘度」とは、回転式レオメータ(アントンパール・ジャパン社製、レオメータMCR302)を用いて、昇温速度:10℃/分の条件にて測定される値である。
「水酸基価」は、JIS K 1557−1:2007(ISO 14900:2001)に準じて測定される値である。
「酸価」は、JIS K 5601−2−1に準じて測定される値である。
「硬化開始温度」は、粘度・粘弾性測定装置(英弘精機社製品名「レオストレス6000」)により、昇温速度10℃/分の条件にて測定される値である。測定開始時の粘度に対して粘度が10倍になる温度を硬化開始温度とする。
【0012】
「安息角」は、粉体塗料を80℃で16時間以上真空乾燥させた後、「JIS R 9301−2−2 アルミナ粉末−第2部:物性測定方法−2:安息角」に準じて測定される値である。
「平均粒子径」は、レーザー回折式粒度分布測定機(Sympatec社製、Helos-Rodos)で測定される、50%体積平均粒子径(D50)である。
「重量平均分子量(Mw)」および「数平均分子量(Mn)」は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。
「融点」とは、示差走査熱量計を用いて求められる値である。
【0013】
本発明の塗装物品の製造方法は、フッ素原子を含まない硬化性粉体塗料(以下、単に硬化性粉体塗料ともいう。)から構成されている第1塗装層を基材の表面に形成し、次いで、含フッ素粉体塗料から構成されている第2塗装層を第1塗装層の表面に形成し、次いで、第1塗装層および第2塗装層を同時に加熱し、基材の表面に塗膜を形成することを特徴とする。
本発明者らは、特許文献1に記載の粉体塗料を用いた「1コート1ベーク方式」の場合、顔料が塗膜表面で剥き出しになりやすく、結果として塗膜の耐候性に課題が残ることを知見している。特に、基材の端部において、上記のような現象が生じやすい。
【0014】
本発明では、上記のように、フッ素原子を含まず顔料を含む第1塗装層を形成し、次いで、フッ素原子を含み顔料を含まない第2塗装層を形成し、次いで同時に加熱する、いわゆる「2コート1ベーク方式」により、上記問題が抑制できることを見出した。
また、本発明の製造方法より製造される塗装物品中に含まれる塗膜(第1塗装層から形成される第1塗膜、および、第2塗装層から形成される第2塗膜からなる複層膜。以下、本塗膜ともいう。)は、耐候性に優れると共に、耐アルカリ性、加工性、耐衝撃性、および、表面平滑性にも優れることを見出した。
【0015】
本発明の製造方法では、まず、フッ素原子を含まない硬化性重合体と硬化剤と顔料とを含む硬化性粉体塗料を基材の表面に塗装して、硬化性粉体塗料から構成されている第1塗装層を形成する。
【0016】
基材は、特に限定されず、基材の材質としては、無機物、有機物、有機無機複合材等が挙げられる。無機物としては、コンクリート、自然石、ガラス、金属(鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮、チタン等)等が挙げられる。有機物としては、プラスチック、ゴム、接着剤、木材等が挙げられる。有機無機複合材としては、繊維強化プラスチック、樹脂強化コンクリート、繊維強化コンクリート等が挙げられる。また、基材には、表面処理(化成処理等)が施されていてもよい。
基材は、金属が好ましく、アルミニウムまたはアルミニウム合金がより好ましい。アルミニウムまたはアルミニウム合金製の基材は、防食性に優れ、軽量で、建築外装部材等の建築材料用途に適している。基材の形状、サイズ等は、特に限定されない。
【0017】
基材として、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材を用いた場合、基材は、化成処理薬剤で表面処理されているのが好ましい。言い換えると、基材は、化成処理皮膜を基材の表面上に有する、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材が好ましい。
【0018】
化成処理薬剤は、環境保護の観点から、クロムを含まない化成処理薬剤が好ましく、本塗膜の基材への密着性の観点から、ジルコニウム系またはチタニウム系化成処理薬剤がより好ましい。
化成処理薬剤を用いた上記基材の処理方法としては、化成処理薬剤中に上記基材を浸漬する方法や、基材上に化成処理薬剤を塗布する方法等が挙げられる。
【0019】
硬化性粉体塗料は、フッ素原子を含まない硬化性重合体と硬化剤と顔料とを含む。
フッ素原子を含まない硬化性重合体は、硬化性官能基を有する非フッ素系重合体(非フッ素系樹脂)である。
硬化性官能基とは、後述する硬化剤と反応し得る基であり、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アミノ基、スルホ基、アミド基、トリアルコキシシリル基、硫酸エステル基が挙げられる。
【0020】
フッ素原子を含まない硬化性重合体の190℃における溶融粘度は、本塗膜の耐候性の観点から、0.1〜10Pa・sが好ましく、0.6〜10Pa・sがより好ましく、1〜6Pa・sが特に好ましい。
フッ素原子を含まない硬化性重合体としては、本塗膜の加工性および耐衝撃性の観点から、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、および、エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のフッ素原子を含まない非フッ素系樹脂が好ましい。
【0021】
ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸に由来する単位(多価カルボン酸単位)と、多価アルコールに由来する単位(多価アルコール単位)とを有する重合体であり、多価カルボン酸単位と多価アルコール単位とはエステル結合で連結している。ポリエステル樹脂は、必要に応じて、これら2種の単位以外の単位(例えば、ヒドロキシカルボン酸(ただし多価カルボン酸を除く。)に由来する単位)を有していてもよい。
ポリエステル樹脂は、重合鎖の末端にカルボキシ基および水酸基の少なくとも一方を有するのが好ましい。
【0022】
なお、末端単位以外の単位は2価以上の単位からなり、線状重合体では、末端単位を除き、2価の単位のみからなる。すなわち、線状のポリエステル樹脂は、末端単位を除き、多価カルボン酸に由来する2価の単位、多価アルコールに由来する2価の単位等の2価の単位のみからなる。分岐状のポリエステル樹脂は少なくとも1個の3価以上の単位を有し、その3価以上の単位と末端単位以外は実質的に2価の単位のみからなる。3価以上の単位としては、3価以上の多価カルボン酸の3個以上のカルボキシ基からそれぞれ水酸基を除いた単位、3価以上の多価アルコールの3個以上の水酸基からそれぞれ水素原子を除いた単位、等が挙げられる。
【0023】
ポリエステル樹脂は、硬化剤と反応し得る硬化性官能基を有する。
ポリエステル樹脂の重合体鎖の末端単位の少なくとも一部は、1価の多価カルボン酸単位または1価の多価アルコール単位が好ましく、前者の場合はその単位が有するフリーのカルボキシ基が、後者の場合はその単位が有するフリーの水酸基が硬化性官能基として機能する。硬化性官能基を有する単位は末端単位以外の単位であってもよい。例えば、3つ以上の水酸基を有する多価アルコールに由来する2価の多価アルコール単位は、フリーの水酸基を有する単位である。よって、ポリエステル樹脂は上記硬化性官能基を有する2価以上の単位を有していてもよい。
【0024】
ポリエステル樹脂の水酸基価は、20〜100mgKOH/gが好ましく、20〜80mgKOH/gがより好ましい。ポリエステル樹脂の酸価は、0.5〜80mgKOH/gが好ましく、0.5〜50mgKOH/gがより好ましい。ポリエステル樹脂の水酸基価および酸価が上記範囲内にあれば、本塗膜の耐衝撃性により優れる。
ポリエステル樹脂のMnは、第1塗装層の溶融粘度を適度に低くできる観点から、5,000以下が好ましい。ポリエステル樹脂のMwは、第1塗装層の溶融粘度を適度に低くできる観点から、2,000〜20,000が好ましく、2,000〜10,000がより好ましい。
【0025】
多価カルボン酸は、炭素数8〜15の芳香族多価カルボン酸が好ましい。その具体例としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、フタル酸無水物が挙げられる。
多価アルコールは、第1塗膜と基材との密着性および第1塗膜の柔軟性が優れる点から、脂肪族多価アルコールまたは脂環族多価アルコールが好ましく、脂肪族多価アルコールがより好ましい。
多価アルコールは、炭素数2〜10の多価アルコールが好ましい。その具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、スピログリコール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールが挙げられる。
【0026】
(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリレートに基づく単位を有する重合体である。(メタ)アクリル樹脂は、カルボキシ基、水酸基、スルホ基等の硬化性官能基を有するのが好ましい。
エポキシ樹脂は、分子内にエポキシ基を2以上有する重合体である。エポキシ樹脂は、エポキシ基以外の他の反応性基をさらに有してもよい。エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0027】
硬化剤は、硬化性官能基と反応し、硬化性官能基を有する重合体同士を架橋し、硬化させる。
硬化剤は、硬化性官能基(水酸基、カルボキシ基等)と反応し得る反応性官能基を2以上有する。反応性官能基としては、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基、アルキル化メチロール基、ヒドラジド基、β−ヒドロキシアルキルアミド基等が挙げられる。
硬化剤は、ブロック化イソシアネート系、アミン系(メラミン樹脂、グアナミン樹脂、スルホアミド樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂等)、エポキシ系、β−ヒドロキシアルキルアミド系、またはトリグリシジルイソシアヌレート系が好ましい。
【0028】
ブロック化イソシアネート系硬化剤は、25℃にて固体であるのが好ましい。ブロック化イソシアネート系硬化剤は、脂肪族、芳香族または芳香脂肪族のジイソシアネートと、活性水素を有する低分子化合物とを反応させて得られたポリイソシアネートを、さらにブロック剤と反応させて得られるブロック化イソシアネート系硬化剤が好ましい。
【0029】
上記ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンイソホロンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
【0030】
活性水素を有する低分子化合物としては、水、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン、ソルビトール、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソシアヌレート、ウレチジオン、水酸基を含有する低分子量ポリエステル、ポリカプロラクトン等が挙げられる。
【0031】
ブロック剤としては、アルコール系化合物(メタノール、エタノール、ベンジルアルコール等)、フェノール系化合物(フェノール、クレゾーン等)、ラクタム系化合物(カプロラクタム、ブチロラクタム等)、オキシム系化合物(シクロヘキサノン、オキシム、メチルエチルケトオキシム等)等が挙げられる。
【0032】
顔料は、光輝顔料、防錆顔料、着色顔料および体質顔料からなる群から選択される少なくとも1種の顔料が好ましい。
光輝顔料は、塗膜に光輝性を付与できる顔料である。光輝顔料としては、アルミニウム粉、ニッケル粉、ステンレス粉、銅粉、ブロンズ粉、金粉、銀粉、雲母粉、グラファイト粉、ガラスフレーク、鱗片状酸化鉄粉等が挙げられる。
【0033】
防錆顔料は、基材の腐食(錆)や変質を防止するための顔料である。防錆顔料としては、環境への負荷が少ない無鉛防錆顔料が好ましい。無鉛防錆顔料としては、シアナミド亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムマグネシウム、モリブデン酸亜鉛、ホウ酸バリウム、シアナミド亜鉛カルシウム等が挙げられる。
【0034】
着色顔料は、塗膜を着色するための顔料である。着色顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、ジオキサジン等が挙げられる。
【0035】
体質顔料は、塗膜の硬度を向上させ、かつ塗膜の厚さを増すための顔料である。体質顔料は、建築外装部材等の塗装物品を切断した場合に、本塗膜の切断面をきれいにできる観点からも配合するのが好ましい。体質顔料としては、タルク、硫酸バリウム、マイカ、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0036】
顔料は、本塗膜の外観および耐候性の観点から、酸化チタン(酸化チタン粒子)を含む酸化チタン顔料が好ましい。なかでも、酸化チタンの表面にZr、Si、およびAlからなる群から選択される少なくとも1種の原子が存在するのが好ましい。例えば、酸化チタンが上記原子を含む材料によって表面処理された顔料であってもよい。なお、顔料は、樹脂で被覆されていてもよい。
顔料は、粒子状であるのが好ましい。顔料の平均粒子径は、顔料の用途によって適宜設定できるが、通常、0.15〜0.5μmである。
【0037】
硬化性粉体塗料には、さらに、他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、紫外線吸収剤、硬化触媒、光安定剤(ヒンダードアミン系光安定剤等)、つや消し剤(超微粉合成シリカ等)、可塑剤、界面活性剤(ノニオン系、カチオン系、またはアニオン系)、レベリング剤、表面調整剤(塗膜の表面平滑性を向上させる。)、脱ガス剤(粉体に巻き込まれる空気、硬化剤からの気体、水分等を塗膜外へ排出する作用がある。なお、通常は、固体だが、溶融すると非常に低粘度になる。)、充填剤、熱安定剤、増粘剤、分散剤、帯電防止剤、防錆剤、シランカップリング剤、防汚剤、低汚染化処理剤等が挙げられる。
【0038】
硬化性粉体塗料は、本塗膜の耐候性の観点から、紫外線吸収剤を含むのが好ましい。
紫外線吸収剤としては、有機系、および、無機系のいずれの紫外線吸収剤も使用できる。紫外線吸収剤は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
有機系紫外線吸収剤としては、サリチル酸エステル系、ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系等が挙げられる。
有機系紫外線吸収剤としては、分子量が200〜1,000である化合物が好ましい。分子量が200以上であれば、塗膜を形成する過程で揮発しにくく、塗膜中に残存できる。分子量が1,000以下であれば、塗膜中に分散しやすい。
【0039】
無機系紫外線吸収剤としては、紫外線吸収性酸化物(酸化亜鉛、酸化セリウム等)を含むフィラー型無機系紫外線吸収剤等が挙げられる。
無機系紫外線吸収剤は、酸化亜鉛と酸化チタンの複合粒子、酸化セリウムと酸化チタンの複合粒子、酸化亜鉛と酸化セリウムの複合粒子、酸化チタンと酸化亜鉛と酸化セリウムの複合粒子が好ましい。
【0040】
硬化性粉体塗料中におけるフッ素原子を含まない硬化性重合体の含有量は、硬化性粉体塗料の硬化性の観点から、硬化性粉体塗料の全質量に対して、40〜90質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。
硬化性粉体塗料中における硬化剤の含有量は、硬化性粉体塗料の硬化性の観点から、上記硬化性重合体100質量部に対して、1〜50質量部が好ましく、3〜30質量部がより好ましい。また、硬化性粉体塗料中における顔料の含有量は、硬化性粉体塗料の耐候性の観点から、上記硬化性重合体100質量部に対して、20〜200質量部が好ましく、50〜150質量部がより好ましい。
【0041】
上記硬化性粉体塗料の硬化開始温度は、本塗膜の耐候性の観点から、150〜220℃が好ましい。
硬化性粉体塗料の安息角は、本発明の効果がより優れる観点から、30〜50°が好ましく、35〜45°がより好ましい。
硬化性粉体塗料に含まれる粉体の平均粒子径は、本塗膜の表面平滑性、厚み均一性および加工性の観点から、10〜50μmが好ましく、12〜45μmがより好ましい。
【0042】
硬化性粉体塗料は、公知の方法で製造できる。具体的には、まず、フッ素原子を含まない硬化性重合体と、硬化剤と、顔料と、必要に応じて添加される他の成分とを、ミキサーで混合して混合物を得る。次いで、得られた混合物を1軸押出機、2軸押出機、遊星ギア等で溶融混練し、得られた混練物を粉砕機で粉砕する。その後、必要に応じて、粉砕により得られた粉砕物を分級する。これにより粉体塗料が得られる。各成分は、あらかじめ粉砕して粉末状にしておくのが好ましい。混練物は、冷却後、ペレットとしておくのが好ましい。
【0043】
本発明の塗装物品の製造方法では、まず、上述した硬化性粉体塗料を基材の表面に塗装して、硬化性粉体塗料から構成されている第1塗装層を形成する。
塗装方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。なかでも、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法が好ましい。
なお、静電塗装法により、硬化性粉体塗料を基材の表面に静電塗装する際の印加電圧(V1)は、−100〜−20kVが好ましく、−80〜−30kVがより好ましい。
第1塗装層の厚さは、20〜1,000μmが好ましく、20〜500μmがより好ましく、20〜300μmが特に好ましい。
【0044】
本発明の塗装物品の製造方法では、第一塗装層を形成したのに次いで、含フッ素重合体を含み顔料を含まない含フッ素粉体塗料を第1塗装層の表面に塗装して、含フッ素粉体塗料から構成されている第2塗装層を形成する。
含フッ素粉体塗料は、含フッ素重合体を含み、顔料を含まない。
含フッ素重合体としては、硬化性官能基を有する硬化性含フッ素重合体、または、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFともいう。)が好ましい。硬化性官能基の定義は、上述の通りである。
硬化性官能基を有する硬化性含フッ素重合体としては、水酸基およびカルボキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する硬化性含フッ素重合体が好ましい。
【0045】
硬化性含フッ素重合体を含む粉体塗料から形成された塗膜は、防汚性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性により優れる。また、PVDFを含む粉体塗料から形成された塗膜は、柔軟性や耐衝撃性により優れる。硬化性含フッ素重合体とPVDFとは、併用してもよい。
上記含フッ素重合体は、公知のラジカル重合法で製造でき、重合形態としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合等を採用できる。
【0046】
硬化性含フッ素重合体は、本塗膜の耐衝撃性の観点から、水酸基およびカルボキシ基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有するのが好ましい。つまり、硬化性含フッ素重合体は、フルオロオレフィンに基づく単位と、フルオロオレフィンと共重合可能な、水酸基を有する単量体(以下、単量体1ともいう。)およびカルボキシ基を有する単量体(以下、単量体3ともいう。)からなる群から選択される少なくとも一種に基づく単位と、フルオロオレフィン、単量体1、および単量体3以外の単量体(以下、単量体2ともいう。)に基づく単位と、を有する。
【0047】
フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたオレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。
フルオロオレフィンは、CF
2=CF
2、CF
2=CFCl、CF
2=CFCF
3およびCF
2=CH
2からなる群から選択される1種以上が好ましく、CF
2=CF
2またはCF
2=CFClがより好ましい。フルオロオレフィンは、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
フルオロオレフィンと共重合させる単量体は、フルオロオレフィン以外のフッ素原子を有する単量体であってもよいが、フッ素原子を有しない単量体が好ましく、フッ素原子を有しないビニル系単量体がより好ましい。ビニル系単量体とは、炭素−炭素二重結合を有する重合性化合物であり、フルオロオレフィンとの交互共重合性に優れる単量体である。
ビニル系単量体としては、ビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、オレフィン等が挙げられる。
【0049】
単量体1は、水酸基を有するビニル系単量体であり、具体例としては、アリルアルコール、ヒドロキシアルキルビニルエーテル(2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、シクロヘキサンジオールモノビニルエーテル等)、ヒドロキシアルキルアリルエーテル(2−ヒドロキシエチルアリルエーテル等)、ヒドロキシアルカン酸ビニル(ヒドロキシプロピオン酸ビニル等)、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等)が挙げられる。単量体1は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
単量体3は、カルボキシ基を有するビニル系単量体であり、具体例としては、CH
2=CHCOOH、CH(CH
3)=CHCOOH、CH
2=C(CH
3)COOHおよび式CH
2=CH(CH
2)
n1COOHで表される化合物(ただし、n1は1〜10の整数を示す。)が挙げられる。単量体3は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、単量体1および単量体3は、どちらか一方のみを含んでもよく、両方を含んでもよい。
【0051】
単量体2は、単量体1および単量体3以外のビニル系単量体であり、単量体2としては、水酸基およびカルボキシ基を有さない、ビニルエーテル、アリルエーテル、カルボン酸ビニルエステル、カルボン酸アリルエステル、オレフィン等が挙げられる。
ビニルエーテルの具体例としては、シクロアルキルビニルエーテル(シクロヘキシルビニルエーテル等)、アルキルビニルエーテル(ノニルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル等)が挙げられる。
アリルエーテルの具体例としてはアルキルアリルエーテル(エチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等)が挙げられる。
【0052】
カルボン酸ビニルエステルの具体例としては、カルボン酸(酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等)のビニルエステルが挙げられる。また、分枝鎖状のアルキル基を有するカルボン酸のビニルエステルとして、市販されているベオバ−9、ベオバ−10(いずれもシェル化学社製、商品名)等を用いてもよい。
カルボン酸アリルエステルの具体例としては、カルボン酸(酢酸、酪酸、ピバリン酸、安息香酸、プロピオン酸等)のアリルエステルが挙げられる。
オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、イソブチレンが挙げられる。
【0053】
フルオロオレフィンに基づく単位の含有割合は、硬化性含フッ素重合体が含む全単位のうち、30〜70モル%が好ましく、40〜60モル%がより好ましい。該含有割合が30モル%以上であれば、本塗膜の耐候性がより優れ、70モル%以下であれば、本塗膜の防汚性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性がより優れる。
【0054】
単量体1に基づく単位および単量体3に基づく単位の含有割合は、硬化性含フッ素重合体が含む全単位のうち、0.5〜20モル%が好ましく、1〜15モル%がより好ましい。該含有割合が0.5モル%以上であれば、本塗膜の防汚性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性がより優れ、20モル%以下であれば、本塗膜の耐擦り傷性が優れる。
なお、硬化性含フッ素重合体は、単量体1および単量体3の少なくとも一方に基づく単位を含めばよく、両方を含んでもよい。つまり、単量体1および単量体3に基づく単位の合計が、上記範囲内であればよい。
【0055】
単量体2に基づく単位の含有割合は、硬化性含フッ素重合体が含む全単位のうち、20〜60モル%が好ましく、30〜50モル%がより好ましい。該含有割合が20モル%以上であれば、硬化性含フッ素重合体のガラス転移温度が適切となり、粉体塗料を製造しやすい。該含有割合が60モル%以下であれば、本塗膜のブロッキングがより抑制され、柔軟性により優れる。
【0056】
硬化性含フッ素重合体のMnは、3,000〜50,000が好ましく、5,000〜30,000がより好ましい。該Mnが3000以上であれば、本塗膜の耐水性、耐塩水性が優れる。該Mnが50000以下であれば、本塗膜の表面平滑性が優れる。
硬化性含フッ素重合体の水酸基価および酸価の少なくとも一方は、本塗膜の硬化性および耐衝撃性の観点から、5〜100mgKOH/gが好ましく、10〜80mgKOH/gがより好ましい。
【0057】
硬化性含フッ素重合体がカルボキシ基を有する場合、硬化性含フッ素重合体は、有機溶媒中、水酸基を有する硬化性含フッ素重合体の水酸基と、酸無水物と、を反応させてエステル結合およびカルボキシ基を形成させて得てもよい。また、水酸基を有する硬化性含フッ素重合体と酸無水物とを溶融混練し、水酸基を有する硬化性含フッ素重合体の水酸基と酸無水物とを反応させてエステル結合およびカルボキシ基を形成させて得てもよい。
【0058】
酸無水物としては、二塩基性酸無水物が挙げられる。二塩基性酸無水物としては、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸(ヘキサヒドロ無水フタル酸)、無水cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水フタル酸、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水1,8−ナフタル酸、無水マレイン酸等が挙げられる。
【0059】
PVDFは、フッ化ビニリデンに基づく単位からなる重合体である。該Mwは、本塗膜の柔軟性の観点から、100,000〜500,000が好ましく、150,000〜400,000がより好ましい。該Mnは、50,000〜400,000が好ましく、100,000〜300,000がより好ましい。
PVDFの融点は、100〜250℃が好ましく、140〜200℃がより好ましい。
【0060】
上述した含フッ素重合体の190℃における溶融粘度は、本塗膜の耐候性の観点から、上述したフッ素原子を含まない硬化性重合体の190℃における溶融粘度よりも大きいのが好ましい。また、上記含フッ素重合体の溶融粘度は、本塗膜の耐候性の観点から、5〜10Pa・s以下が好ましく、6〜10Pa・sがより好ましい。
【0061】
上述したように、フッ素原子を含まない硬化性重合体の190℃での溶融粘度が0.1Pa・s以上であれば、190℃において、第1塗装層が適度な厚さを保持しながら溶融し、基材上に好適にぬれ広がる。さらに、含フッ素重合体の190℃での溶融粘度が、フッ素原子を含まない硬化性重合体の190℃での溶融粘度よりも大きければ、190℃において、第1塗装層に第2塗装層が追従し、好適に密着する。その上で、含フッ素重合体の190℃での溶融粘度が、10Pa・s以下であれば、含フッ素重合体の粒子が均一な塗膜となる。このようにして形成された本塗膜は、基材と第1塗装層、および、第1塗装層と第2塗装層の密着性が良好であり、かつ空隙のない均一な塗膜であるので、耐候性に優れる。
【0062】
含フッ素粉体塗料には、顔料が含まれない。なお、顔料が含まれないとは、実質的に顔料が含まれないことを意味する。具体的には、顔料が含まれないとは、含フッ素粉体塗料の全質量に対して、顔料の含有量が1.0質量%以下であることを意味し、0.1質量%以下がより好ましく、0質量%がより好ましい。
第2塗装層を形成する含フッ素粉体塗料が顔料を含まなければ、顔料が塗膜表面で剥き出しにならず、本塗膜の耐候性が優れる。
【0063】
含フッ素粉体塗料には、上述した含フッ素重合体以外の成分が含まれていてもよい。つまり、含フッ素粉体塗料には、顔料以外の、上述した硬化性粉体塗料に含まれてもよい成分が含まれていてもよい。
特に、含フッ素粉体塗料には、本塗膜の柔軟性および層間密着性の観点から、含フッ素重合体以外の重合体(ポリエステル樹脂、メタ(アクリル)樹脂、エポキシ樹脂等)が含まれるのが好ましい。
また、含フッ素粉体塗料には、上述した紫外線吸収剤が含まれるのが好ましい。含フッ素粉体塗料に含まれる紫外線吸収剤としては、本塗膜の劣化を効果的に抑制する観点から、ヒドロキシフェニルトリアジン系が好ましい。含フッ素粉体塗料に紫外線吸収剤が含まれると、耐候性がより向上し、特に、第1塗膜と第2塗膜との膜間における剥離を抑制できる。
また、含フッ素粉体塗料には、硬化剤が含まれていてもよい。特に、含フッ素重合体が硬化性含フッ素重合体である場合、含フッ素粉体塗料には硬化剤が含まれるのが好ましい。
硬化剤としては、上述した通りであり、なかでも、イソシアネート基、ブロック化イソシアネート基、アルコキシシリル基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、エポキシ基、アルキル化メチロール基、ヒドラジド基、および、β−ヒドロキシアルキルアミド基からなる群から選択される少なくとも1種の、水酸基またはカルボキシ基と反応する基を1分子中に2以上有する硬化剤が好ましい。
【0064】
なお、含フッ素粉体塗料としては、本塗膜の耐候性の観点から、硬化性含フッ素重合体と硬化剤とを含み顔料を含まないことが好ましい。
含フッ素粉体塗料中における含フッ素重合体の含有量は、含フッ素粉体塗料の取り扱い性の観点から、含フッ素粉体塗料の全質量に対して、40〜100質量%が好ましく、50〜90質量%がより好ましい。
含フッ素粉体塗料に硬化剤が含まれる場合、硬化剤の含有量は、含フッ素粉体塗料の硬化性の観点から、含フッ素粉体塗料が含む含フッ素重合体の全質量に対して、1〜50質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。
【0065】
含フッ素重合体が硬化性含フッ素重合体の場合、含フッ素粉体塗料の硬化開始温度は、本塗膜の耐候性の観点から、150〜200℃が好ましい。また、硬化性粉体塗料の硬化開始温度と含フッ素粉体塗料の硬化開始温度との差の絶対値は、第1塗膜と第2塗膜との界面剥離がより抑制される観点から、30℃以下が好ましい。
【0066】
含フッ素粉体塗料の安息角は、本発明の効果がより優れる観点から、30〜50°が好ましく、35〜45°がより好ましい。また、硬化性粉体塗料の安息角と含フッ素粉体塗料の安息角との差の絶対値は、本発明の効果がより優れる観点から、20°以内が好ましく、10°以内がより好ましい。
【0067】
含フッ素粉体塗料に含まれる粉体の平均粒子径は、本塗膜の表面平滑性、厚み均一性および加工性の観点から、10〜50μmが好ましく、12〜45μmがより好ましい。
含フッ素粉体塗料の製造方法は、硬化性粉体塗料と同様の製造方法を適用できる。
【0068】
含フッ素粉体塗料を第1塗装層の表面に塗装して、含フッ素粉体塗料から構成されている第2塗装層を形成する場合の塗装方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。なかでも、粉体塗装ガンを用いた静電塗装法が好ましい。
なお、静電塗装法により、含フッ素粉体塗料を第1塗装層の表面に静電塗装する際の印加電圧(V2)は、−100〜−20kVが好ましく、−80〜−30kVがより好ましい。
【0069】
また、光沢が高い塗膜が得られる観点から、硬化性粉体塗料の静電塗装の際の印加電圧(V1)に対して、含フッ素粉体塗料の静電塗装の際の印加電圧(V2)が、印加電圧(V1)±100kVの範囲にあるのが好ましく、印加電圧(V1)±50kVの範囲にあるのがより好ましい。つまり、印加電圧V2が、(印加電圧(B1)−100kV)〜(印加電圧(B1)+100kV)の範囲にあるのが好ましく、(印加電圧(B1)−50kV)〜(印加電圧(B1)+50kV)の範囲にあるのがより好ましい。
第2塗装層の厚さは特に限定されず、20〜1000μmが好ましく、20〜500μmがより好ましく、20〜300μmが特に好ましい。
【0070】
本発明の塗装物品の製造方法では、基材の表面に第1塗装層および第2塗装層をこの順に形成した後、第1塗装層および第2塗装層を同時に加熱し、本塗膜を形成する。具体的には、基材上の第1塗装層および第2塗装層に対して加熱処理(加熱溶融処理)を施し、粉体塗料の溶融物からなる溶融状態の溶融膜を形成した後、これを冷却して固化して、本塗膜を形成する。
第1塗装層中においては、硬化性重合体と硬化剤との反応が進行する。また、第2塗装層に硬化性含フッ素重合体と硬化剤とが含まれる場合、硬化性含フッ素重合体と硬化剤との反応が進行する。
【0071】
粉体塗料(硬化性粉体塗料および含フッ素粉体塗料)を溶融し、その溶融状態を所定時間維持するための加熱温度(以下、焼付け温度ともいう。)と加熱維持時間(以下、焼付け時間ともいう。)は、粉体塗料の原料成分の種類や組成、所望する膜厚等により適宜設定される。焼付け温度は、通常100〜300℃であり、本塗膜の耐候性の観点から、200℃以下が好ましい。また、焼付け時間は、通常1〜60分間である。
【0072】
本発明によれば、上記手順により、耐候性に優れる塗装物品が得られる。なお、塗装物品には、上記基材、基材上に配置された塗膜が含まれる。塗膜には、硬化性粉体塗料から形成されている第1塗膜、および、第1塗膜上に配置された、含フッ素粉体塗料から形成されている第2塗膜が含まれる。
第1塗膜および第2塗膜の膜厚は、それぞれ、20〜1000μmが好ましく、20〜500μmがより好ましく、20〜300μmが特に好ましい。
【0073】
塗装物品としては、建築外装部材(屋根、アルミニウムコンポジットパネル、カーテンウォール用アルミニウムパネル、カーテンウォール用アルミニウムフレーム、アルミニウムウィンドウフレーム等)、道路資材(信号機、電柱、道路標示のポール、ガードレール等)、自動車の車体や部品(バンパー、ワイパーブレード、タイヤホイール等)、家電製品(エアコンの室外機、温水器の外装等)、風力発電用ブレード、太陽電池バックシート、太陽熱発電用集熱鏡の裏面、ナス電池外装、発電機等が挙げられる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0075】
<粉体塗料の調製に用いた各成分>
ポリエステル樹脂A1:ダイセル・オルネクス社製、CRYLCOAT(商品名)4890−0、水酸基価:30mgKOH/g、溶融粘度:5.25Pa・s(190℃)
ポリエステル樹脂A2:ダイセル・オルネクス社製、CRYLCOAT(商品名)4842−3、酸価:36mgKOH/g、溶融粘度:1.83Pa・s(190℃)
ポリエステル樹脂A3:DSM社製、Uralac(商品名)P6504、水酸基価:40mgKOH/g、溶融粘度:3.06Pa・s(190℃)
ポリエステル樹脂A4:DSM社製、Uralac(商品名)P1680、水酸基価:30mgKOH/g、溶融粘度:0.88Pa・s(190℃)
ポリエステル樹脂A5:日本ユピカ社製、ユピカコート(商品名)GV−110、水酸基価:49mgKOH/g、溶融粘度:2.95Pa・s(190℃)
ポリエステル樹脂A6:日本ユピカ社製、ユピカコート(商品名)GV−740、水酸基価:50mgKOH/g、溶融粘度:1.69Pa・s(190℃)
ポリエステル樹脂A7:TOYOBO社製、バイロン(商品名)220、水酸基価:50mgKOH/g、溶融粘度:0.55Pa・s(190℃)
なお、上記ポリエステル樹脂A1〜A7は、フッ素原子を含まない硬化性重合体に該当する。
【0076】
含フッ素重合体B1:旭硝子社製、ルミフロン(登録商標)LF710F、水酸基価:50mgKOH/g、溶融粘度:7.38Pa・s(190℃)、Mn:10000(硬化性含フッ素重合体に該当)
含フッ素重合体B2:PVDF、溶融粘度:1500Pa・s(190℃)Mw:250000
【0077】
酸化チタン顔料:デュポン社製、Ti-Pure(商品名)R960、酸化チタン含有量:89質量%
【0078】
硬化剤1:ブロック化イソシアネート系硬化剤(EVONIK社製、ベスタゴン(商品名) B1530)
硬化剤2:グリシジルエステル系硬化剤(HUNTSMAN社製、Araldite(商品名)PT910)
硬化剤3:トリアジン骨格含有3官能性エポキシ系硬化剤(日産化学工業社製、TEPIC−SP)
硬化剤4:β−ヒドロキシアルキルアミド系硬化剤(Primid(商品名)XL552)
アルミニウム顔料:東洋アルミニウム社製、製品名「PCF7620A」、被覆物質:アクリル樹脂
硬化触媒:ジブチルスズジラウレートのキシレン溶液(10000倍希釈品)
紫外線吸収剤:BASF社製、Tinuvin(商品名)405(ヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤)
光安定剤:BASF社製、Tinuvin(商品名)111FDL
脱ガス剤:ベンゾイン
表面調整剤:ビックケミー社製、BYK(商品名)−360P
可塑剤:1,4−シクロヘキサンジメタノールジベンゾエート(VELSICOL社製、Benzoflex(商品名)352、融点:118℃、分子量:352)
【0079】
[製造例1〜11:ポリエステル粉体塗料の製造]
表1、表2に記載の各成分を、高速ミキサを用いて、粉末状態で混合した。得られた混合物を、2軸押出機(サーモプリズム社製、16mm押出機)を用いて120℃のバレル設定温度にて溶融混練し、ペレットを得た。得られたペレットを、粉砕機を用いて25℃で粉砕し、150メッシュを用いて得られた粉砕物を分級し、平均粒子径約40μmの粉体塗料A1〜A11をそれぞれ得た。なお、表1、表2に記載の各成分の量は、正味量である。
なお、表1および表2中の「含フッ素粉体塗料の硬化開始温度との差(℃)」は、ポリエステル粉体塗料の硬化開始温度と、後述する含フッ素粉体塗料のうち粉体塗料B1との硬化開始温度との差を表す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
[製造例12:含フッ素粉体塗料の製造]
含フッ素重合体B1(52.0g)、硬化剤1(13.0g)(INDEX=1)、脱ガス剤(0.4g)、表面調整剤(1.0g)、紫外線吸収剤(0.1g)、および、可塑剤(3.0g)を、高速ミキサを用いて、粉末状態で混合した。2軸押出機を用いて、120℃のバレル設定温度にて、得られた混合物を溶融混練し、ペレットを得た。得られたペレットを、粉砕機を用いて25℃で粉砕し、次いで、得られた粉砕物を150メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径約40μmの粉体塗料B1(安息角:35.2°、硬化開始温度:177℃)を得た。
【0083】
[製造例13:含フッ素粉体塗料の製造]
含フッ素重合体B1(27.5g)、ポリエステル樹脂A1(27.5g)、硬化剤1(18.0g)(INDEX=1)、脱ガス剤(0.6g)、表面調整剤(1.0g)、紫外線吸収剤(0.1g)、および、可塑剤(3.0g)を、高速ミキサを用いて、粉末状態で混合した。2軸押出機を用いて、120℃のバレル設定温度にて、得られた混合物を溶融混練し、ペレットを得た。得られたペレットを、粉砕機を用いて25℃で粉砕し、次いで、得られた粉砕物を150メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径約40μmの粉体塗料B2(安息角:37.1°、硬化開始温度:177℃)を得た。
【0084】
[製造例14〜16:含フッ素粉体塗料の製造]
含フッ素重合体B1を含フッ素重合体B2に変更し、硬化剤1を添加しない以外は製造例12と同様にして、平均粒子径約40μmの粉体塗料B3(安息角:35.0°)を得た。
また、紫外線吸収剤を添加しない以外は製造例12と同様にして、平均粒子径約40μmの粉体塗料B4(安息角:35.2°、硬化開始温度:177℃)を得た。
また、酸化チタン顔料(35g)を添加する以外は製造例12と同様にして、平均粒子径約40μmの粉体塗料B5(安息角:35.1°、硬化開始温度:177℃)を得た。
【0085】
[製造例17:含フッ素粉体塗料の製造]
製造例1に記載の成分、および、製造例12に記載の成分から紫外線吸収剤を除いた成分を、高速ミキサを用いて、粉末状態で混合した。得られた混合物を2軸押出機を用いて、120℃のバレル設定温度にて溶融混練し、ペレットを得た。得られたペレットを、粉砕機を用いて25℃で粉砕し、次いで、得られた粉砕物を150メッシュの篩を用いて分級し、平均粒子径約40μmの粉体塗料B6(安息角:37.2°、硬化開始温度:177℃)を得た。
【0086】
[製造例18:化成処理皮膜付きアルミニウム板(基材)の製造]
処理剤(日本シー・ビー・ケミカル社製、製品名「ケミクリーナー514A」)をイオン交換水で希釈して調製した処理浴(濃度:30g/L、温度:55℃)中に、サイズ150mm×70mm、厚み2mmのアルミニウム板(JIS A6063S−T5)を5分間浸漬して、アルミニウム板表面に脱脂処理を施した。その後、25℃のイオン交換水を用いて、脱脂処理が施されたアルミニウム板を1分間洗浄した。
次いで、処理液(日本シー・ビー・ケミカル社製、製品名「シービー B−21dL」)をイオン交換水で希釈して調製した処理浴(濃度:250g/L、温度:25℃)中に、脱脂処理が施されたアルミニウム板を3分間浸漬して、アルミニウム板表面に酸エッチング処理を施した。エッチング量は、3.5g/m
2であった。その後、25℃のイオン交換水を用いたアルミニウム板の1分間洗浄を2回実施した。
次いで、化成処理剤(日本シー・ビー・ケミカル社製、製品名「ケミボンダ−5507」)をイオン交換水で希釈して調製した処理浴(濃度:50g/L、温度:45℃)中に、酸エッチング処理が施されたアルミニウム板を2分間浸漬して、アルミニウム板にジルコニウム系化成処理を施し、アルミニウム板上に化成処理皮膜を形成した。その後、25℃のイオン交換水を用いたアルミニウム板の1分間洗浄を2回実施した。その後、70℃のオーブン中で、アルミニウム板を5分間乾燥させ、化成処理皮膜付きアルミニウム板を作製した。
【0087】
<例1:塗装物品(塗膜付きアルミニウム板)の製造>
静電塗装機(小野田セメント社製、GX3600C)を用いて、上記で作製された化成処理皮膜付きアルミニウム板の化成処理皮膜の一面に、粉体塗料A1を静電塗装して(印加電圧:−30kV)、粉体塗料A1から構成されている第1塗装層を形成した。次いで、粉体塗料B1を、第1塗装層の表面に静電塗装し(印加電圧:−60kV)、粉体塗料B1から構成されている第2塗装層を形成して、異なる2層の粉体塗装層を有するアルミニウム板を得た。
次いで、このアルミニウム板を、200℃で20分間保持したのち、25℃まで冷却し、膜厚55〜65μmの第1塗膜(ポリエステル塗膜)と、膜厚55〜65μmの第2塗膜(含フッ素塗膜)とを有する塗膜付きアルミニウム板(塗装物品に該当)を得た。得られた塗膜付きアルミニウム板を試験片として、各種評価を行った。結果を表3に示す。
【0088】
<例2〜例15>
粉体塗料の種類および印加電圧を後述する表3〜5に示すように変更した以外は、例1と同様の手順に従って、塗膜付きアルミニウム板を製造し、各種評価を行った。結果を表3〜5にまとめて示す。
【0089】
<例16>
静電塗装機を用いて、上記で作製された化成処理皮膜付きアルミニウム板の化成処理皮膜の一面に、粉体塗料B6を静電塗装して(印加電圧:−60kV)、粉体塗料B6から構成されている塗装層を有するアルミニウム板を得た。
次いで、このアルミニウム板を、200℃で20分間保持したのち、25℃まで冷却し、ポリエステル樹脂および含フッ素重合体を含む膜厚55〜65μmの塗膜を有するアルミニウム板を得た。得られた塗膜付きアルミニウム板を試験片として、各種評価を行った。結果を表5に示す。
【0090】
<評価方法>
(1.塗膜断面観察)
塗膜付きアルミニウム板を切断し、塗膜の断面を走査電子顕微鏡により観察し、以下の基準に従って評価した。
「○」:含フッ素塗膜の層と、ポリエステル塗膜の層との界面がきれいに形成できている。
「△」:一部、含フッ素塗膜の層と、ポリエステル塗膜の層との界面が形成されているが、所々、含フッ素塗膜の層とポリエステル塗膜の層とが混じり合っており界面形成が見られない。
「×」:含フッ素塗膜の層と、ポリエステル塗膜の層との界面は全く形成されていない。
なお、測定条件は以下の通りである。
試験機:日本電子社製「JSM−5900LV」、加速電圧:10,000倍
測定前処理:JEOL社製オートファインコーター「JFC−1300」による、20mV、45秒の白金コート。
【0091】
(2.耐アルカリ性)
塗膜付きアルミニウム板中の塗膜上に10質量%水酸化ナトリウム水溶液を10滴置き、時計皿で蓋をし、1週間静置した。その後、イオン交換水を用いて塗膜を水洗し、乾燥させて、塗膜の状態を目視により観察し、以下の基準に従って評価した。
「○」:ふくれや塗膜の変色、消失等は確認されなかった。
「△」:ふくれや塗膜の変色、消失等が部分的に確認された。
「×」:ふくれや塗膜の変色、消失等が全面に確認された。
【0092】
(3.加工性)
JIS K 5600−5−1(耐屈曲性、円筒形マンドレル法)に準拠し、塗膜付きアルミニウム板を用いて、加工性の評価を実施した。
具体的には、円筒形マンドレル屈曲試験器(オールグッド社製)、および、2mmのマンドレルを使用し、加工性の評価を実施し、以下の基準に従って評価した。
「○」:塗膜の割れ、および、塗膜の剥離は見られなかった。
[△]:塗膜付きアルミニウム板の端部に、塗膜の割れが若干確認された。
「×」:塗膜の加工部の全面に、塗膜の割れ、または、塗膜の剥離が確認された。
【0093】
(4.耐衝撃性(耐おもり落下性))
JIS K 5600−5−3(デュポン式)に準拠し、塗膜付きアルミニウム板を用いて、耐衝撃性(耐おもり落下性)の評価を実施した。なお、試験は、500gのおもりを用いて、落下高さ70cmにて実施し、以下の基準に従って評価した。
「○」:塗膜の割れ、および、塗膜の剥離は見られなかった。
[△]:塗膜付きアルミニウム板の端部に、塗膜の割れが若干確認された。
「×」:塗膜の全面に、塗膜の割れ、または、塗膜の剥離が確認された。
【0094】
(5.塗膜の表面平滑性)
塗膜付きアルミニウム板中の塗膜の表面平滑性を、PCI(パウダーコーティングインスティチュート)による平滑性目視判定用標準板を用いて判定した。
標準板は、1〜10の10枚あり、数字が大きくなるに従い、平滑性に優れる。
【0095】
(6.耐候性1)
沖縄県那覇市の屋外に、塗膜付きアルミニウム板を設置し、設置直前と、3年後における塗膜表面の光沢を、PG−1M(光沢計:日本電色工業社製)を用いて測定した。
設置直前の光沢の値を、100%としたときの、3年後の光沢の値の割合を光沢保持率(単位:%)として算出し、以下の基準に従って耐候性を評価した。すなわち、JIS K 5600−1−7に準拠して測定、計算した。
GR(%)=(G1/G0)×100
GR:光沢保持率、G1:試験後の塗膜表面の鏡面光沢度、G0:試験前の塗膜表面の鏡面光沢度
「○」:光沢保持率が80%以上あり、塗膜の変色は見られなかった。
[△]:光沢保持率が60%以上80%未満であり、塗膜の変色は見られなかった。
「×」:光沢保持率が60%未満であったか、塗膜の変色が見られた。
【0096】
(7.耐候性2)
キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製)を用い、含フッ素塗膜が剥離するまでの時間を測定した。なお、通常は水を噴霧するが、本試験では、水を噴霧する代わりに、1%の過酸化水素水を使用して試験を行った。
<試験条件>
相対湿度:70%RH、温度:50℃、光源:80W/m
2(波長:300〜400nm)。
<判定基準>
「〇」:100時間超で剥離が初めて生じた。
「△」:60時間超、100時間以下で剥離が初めて生じた。
「×」:60時間以下で剥離が初めて生じた。
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
上記表3〜5に示すように、本発明の製造方法によれば、耐候性に優れる塗膜を有する塗装物品を製造ができた。このことは、ポリエステル樹脂、含フッ素重合体、および酸化チタン顔料を一度に静電塗装して塗膜を形成した例15(1コート1ベーク方式にて製造された塗膜)との比較からも顕著である。また、得られた塗膜中においては、ポリエステル塗膜と含フッ素粉塗膜とが2層分離していることが確認された。
なお、例6および例1〜5との比較より、ポリエステル樹脂の190℃での溶融粘度が0.6Pa・s以上の場合、塗膜の耐候性がより優れることが確認された。
【0101】
なお、2016年7月26日に出願された日本特許出願2016−146449号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。