【実施例】
【0059】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
【0060】
〔1〕刺激応答性高分子の合成
<No.P1に係る刺激応答性高分子の合成>
複数のアミノ基を有する高分子としてε−ポリリジン(EPL)を用いた。また、前記アミノ基に導入する吸着部位としてメルカプトベンゾチアゾール酢酸(MBTA、2−ベンゾチアゾリルチオ酢酸)を用いた。なお、MBTAは、抗体吸着能を有するチオフィリック系の化合物である。
【0061】
EPL(一丸ファルコス社製、ポリリジン10)の水/ジメチルホルムアミド(DMF)溶液(水:DMF=1:2(体積比))にMBTA(0.7当量)及び脱水縮合剤の4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(DMT−MM)(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌し、EPLのアミノ基とMBTAのカルボキシル基との反応によりアミド結合を形成することで、EPLにMBTAを導入した。得られた反応液に塩酸を加えて酸性とし、テトラヒドロフラン(THF)により透析し、生じた沈殿を濾別した後にエバポレーターで乾燥させることにより、No.P1に係る刺激応答性高分子(以下、サンプルナンバーに応じて「刺激応答性高分子P1」などと呼称する)を固体として得た。
【0062】
<刺激応答性高分子P2の合成>
刺激応答性高分子P1と同様に、EPLの水/DMF溶液にMBTA(0.6当量)及びDMT−MM(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌した。そして、刺激応答性高分子P1と同様の手順で生じさせた沈殿を濾別し、これをエバポレーターで乾燥させることにより、刺激応答性高分子P2を得た。
【0063】
<刺激応答性高分子P3の合成>
刺激応答性高分子P1と同様に、EPLの水/DMF溶液にMBTA(0.45当量)及びDMT−MM(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌した。そして、刺激応答性高分子P1と同様の手順で生じさせた沈殿を濾別し、これをエバポレーターで乾燥させることにより、刺激応答性高分子P3を得た。
【0064】
<刺激応答性高分子P4の合成>
刺激応答性高分子P1と同様に、EPLの水/DMF溶液にMBTA(0.3当量)及びDMT−MM(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌した。そして、刺激応答性高分子P1と同様の手順で生じさせた沈殿を濾別し、これをエバポレーターで乾燥させることにより、刺激応答性高分子P4を得た。
【0065】
<刺激応答性高分子P5の合成>
刺激応答性高分子P1と同様に、EPLの水/DMF溶液にMBTA(0.07当量)及びDMT−MM(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌した。そして、刺激応答性高分子P1と同様の手順で生じさせた沈殿を濾別し、これをエバポレーターで乾燥させることにより、刺激応答性高分子P5を得た。
【0066】
<刺激応答性高分子P6の合成>
刺激応答性高分子P1と同様に、EPLの水/DMF溶液にMBTA(0.9当量)及びDMT−MM(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌した。そして、刺激応答性高分子P1と同様の手順で生じさせた沈殿を濾別し、これをエバポレーターで乾燥させることにより、刺激応答性高分子P6を得た。
【0067】
<刺激応答性高分子P7の合成>
刺激応答性高分子P1と同様に、EPLの水/DMF溶液にMBTA(0.03当量)及びDMT−MM(1.2当量)を加え、室温で5時間攪拌した。そして、刺激応答性高分子P1と同様の手順で生じさせた沈殿を濾別し、これをエバポレーターで乾燥させることにより、刺激応答性高分子P7を得た。
【0068】
<刺激応答性高分子P1〜7の化学組成評価と分配係数>
刺激応答性高分子P1〜7の組成、吸着部位導入率、1分子当たりの吸着部位導入量及び分配係数CLogPを表1に示す。表1において、組成については、吸着部位の導入に用いた原料化合物を記載している。吸着部位導入率は、複数のアミノ基を有する高分子のアミノ基量に対し吸着部位により占有された割合を示している。吸着部位導入率は、
1H−NMR測定によって求めた。1分子当たりの吸着部位導入量は、用いたEPLの有するアミノ基数と吸着部位導入率の積によって求めた。また、化学構造式作画ソフトウェアChemDrawで刺激応答性高分子P1〜7の分配係数CLogPを算出した。
【0069】
【表1】
【0070】
〔2〕担体
No.C1〜9に係る担体(以下、サンプルナンバーに応じて「担体C1」などと呼称する)を用意した(表2参照)。なお、担体は、ポリスチレンやアクリル、メタクリレート系の樹脂担体、多糖類のSepharose担体、シリカ、磁性体の無機酸化物(磁性微粒子)などを用いた。また、誘電率の値が異なる有機溶媒相として、オクタノール(誘電率ε:10.3F/m)及びエタノール(誘電率ε:24.3F/m)を用意した。そして、各種担体をそれぞれこれらの有機溶媒相に分散させ、担体と溶媒とをよく混合させた。そして、各種担体の分散液3mLをガラス製シャーレ(長径=35mm)に展開し、室温で10分静置させた。その後、光学顕微鏡の倍率20倍のレンズで各種担体に焦点を合わせ、1サンプルにつき5箇所撮像した。得られた像(20mm×27mm)の視野中に観測される担体の凝集体部分を画像ソフトウェア(ImageJ)で二値化処理した。前記画像の凝集体部分を黒色に処理し、その他を白色に処理し、黒色で得られた凝集体部分の長さ、特に長軸の長さを1つの担体の担体径(直径)で割った値をφと定義した。そして、当該φの値に従って下記評価値1〜5までの5段階で分類した。φの値は、1つのサンプルにつき5箇所撮像した画像から得られた値の平均値を採用した。さらに、上記の実験を1つのサンプルに対して2回繰り返し、各回について求めた評価値の2回の平均値をその担体の評価値とした。
【0071】
評価値5:φ=0.2μm以上8.3μm未満(所見:溶媒に対し担体が安定して良く分散している。)
評価値4:φ=8.3μm以上17μm未満(所見:担体をよく混合することによって溶媒に対し一部が分散し、小さな凝集体及び孤立した粒子の双方が混在している。)
評価値3:φ=17μm以上27μm未満(所見:溶媒に対し担体の一部が分散し、小さな凝集体を形成している。)
評価値2:φ=27μm以上40μm未満(所見:溶媒に対し担体がほとんど分散せず、大きな凝集体を形成している。)
評価値1:φ=40μm以上(所見:溶媒に対し担体が分散せず、大きな凝集体を形成している。)
【0072】
そして、上記の基準に沿って溶媒に分散させた際の担体の分散性を次のようにして評価した。そして、誘電率の値が異なるオクタノール(誘電率ε:10.3F/m)及びエタノール(誘電率ε:24.3F/m)に担体をそれぞれ分散させて求められる評価値(評価値ε
オクタノール、評価値ε
エタノール)から、以下の式(1)に従い、指標Aを定義した。
A=評価値ε
オクタノール−評価値ε
エタノール (1)
表2に担体C1〜9の材質と、平均粒子径(μm)、指標Aに関する評価結果を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
担体C1〜4、9(担体A群)と比較して、担体C5〜8(担体B群)はエタノールに良く分散し、オクタノールでは凝集体を形成した。そのため、担体B群は、より親水的であることが判明した。
【0075】
〔3〕実施例1〜9及び比較例1〜3に係る吸着材の調製と抗体吸着能評価
担体C1〜9と刺激応答性高分子P1〜7とを後記する表3の組合せで固定化して抗体の吸着能評価を行った。刺激応答性高分子P1〜7を担体C1〜9に固定化するため、担体C1〜9の官能基としてエポキシ基、カルボキシル基を使用した。また、必要な場合にはこれらの官能基を修飾した。
【0076】
<実施例1>
<担体C1(担体A群)上へ刺激応答性高分子P3を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=4:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P3の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P3の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径100μmのポリスチレン担体(テクノケミカル社製、ポリビーズ ポリスチレンシリーズ)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P3が担体C1に固定化された実施例1に係る吸着材を得た。
【0077】
<実施例1に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例1に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、以下の手順に従い実験を行った。具体的には、実施例1に係る吸着材を1mL分カラムに充填し、1質量%の所定のヒトIgGを含むpH7.4のリン酸緩衝液(PBS緩衝液)を5mL通液した。そして、カラムから溶出される溶液内のヒトIgG濃度をモニタリングして、10%の抗体溶液がカラムから漏れだす溶液量から抗体吸着能を算出した。ここでいう抗体吸着能とは、吸着材への動的抗体吸着容量(10%DBC)と定義する。その結果を後記表3及び
図4に示す。なお、
図4は、実施例1〜9及び比較例1〜3に係る各吸着材における指標Aと10%DBCとの関係を示すグラフである。
表3及び
図4に示すように、実施例1に係る吸着材1mLに対し、24mgの抗体が吸着することが確認された。実施例1に係る吸着材は、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったため、高効率で抗体を吸着できることが確認された。
【0078】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが0の担体C1と、分配係数CLogPが0.62の刺激応答性高分子P3とを組み合わせたとき、10%DBCは24mg/mLであり、市販品として流通する吸着材の最低限の機能20mg/mL以上が得られることが明らかとなった。これは、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったためと考えられた。
【0079】
<実施例2>
<担体C2(担体A群)上へ刺激応答性高分子P4を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=2:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P4の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P4の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径50μmのポリスチレン担体(テクノケミカル社製、ポリビーズ ポリスチレンシリーズ)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P4が担体C2に固定化された実施例2に係る吸着材を得た。
【0080】
<実施例2に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例2に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例2に係る吸着材1mLに対し、30mgの抗体が吸着することが確認された。
【0081】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが0.5の担体C2と、分配係数CLogPが0.19の刺激応答性高分子P4とを組み合わせたとき、10%DBCは30mg/mLと高い値が得られた。これは、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったためと考えられた。
【0082】
<実施例3>
<担体C3(担体A群)上へ刺激応答性高分子P4を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=2:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P4の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P4の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径30μmのアクリル担体(Soken社製、MXシリーズ)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P4が担体C3に固定化された実施例3に係る吸着材を得た。
【0083】
<実施例3に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例3に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例3に係る吸着材1mLに対し、32mgの抗体が吸着することが確認された。
【0084】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが0.5の担体C3と、分配係数CLogPが0.19の刺激応答性高分子P4とを組み合わせたとき、10%DBCは32mg/mLと高い値が得られた。これは、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったためと考えられた。
【0085】
<実施例4>
<担体C4(担体A群)上へ刺激応答性高分子P5を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=1:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P5の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P5の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径100μmのメタクリレート担体(東ソー社製、Toyoperal AF−Carboxy 650M)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P5が担体C4に固定化された実施例4に係る吸着材を得た。
【0086】
<実施例4に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例4に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例4に係る吸着材1mLに対し、23mgの抗体が吸着することが確認された。
【0087】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが1.0の担体C4と、分配係数CLogPが−0.46の刺激応答性高分子P5とを組み合わせたとき、10%DBCは23mg/mLであり、市販品として流通する吸着材の最低限の機能20mg/mL以上が得られることが明らかとなった。これは、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったためと考えられた。
【0088】
<実施例5>
<担体C5(担体B群)上へ刺激応答性高分子P1を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=5:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P1の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P1の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径100μmのSepharose担体(GEヘルスケア社製、CM Sepharose 4 Fast Flow)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P1が担体C5に固定化された実施例5に係る吸着材を得た。
【0089】
<実施例5に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例5に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例5に係る吸着材1mLに対し、38mgの抗体が吸着することが確認された。
【0090】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが−2.5の担体C5と、分配係数CLogPが1.3の刺激応答性高分子P1とを組み合わせたとき、10%DBCは38mg/mLと高効率に抗体を吸着することが確認された。これは、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったためと考えられた。
【0091】
<実施例6>
<担体C6(担体B群)上へ刺激応答性高分子P3を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=4:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P3の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P3の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径100μmのシリカ担体(AGCエスアイテック社製、M.S.GEL、Dグレード)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P3が担体C6に固定化された実施例6に係る吸着材を得た。
【0092】
<実施例6に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例6に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例6に係る吸着材1mLに対し、37mgの抗体が吸着することが確認された。
【0093】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが−3.0の担体C6と、分配係数CLogPが0.62の刺激応答性高分子P3とを組み合わせたとき、10%DBCは37mg/mLと高効率に抗体を吸着することが確認された。これは、担体と刺激応答性高分子の組合せが良かったためと考えられた。
【0094】
<実施例7>
<担体C7(担体B群)上へ刺激応答性高分子P1を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=5:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P1の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P1の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径50μmのシリカ担体(AGCエスアイテック社製、M.S.GEL、EP−DMグレード)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P1が担体C7に固定化された実施例7に係る吸着材を得た。
【0095】
<実施例7に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例7に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例7に係る吸着材1mLに対し、48mgの抗体が吸着することが確認された。
【0096】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが−3.5の担体C7と、分配係数CLogPが1.3の刺激応答性高分子P1とを組み合わせたとき、10%DBCは48mg/mLと高効率に抗体を吸着することが確認された。これは、親水的かつ平均粒子径が小さい担体と、疎水的ではあるが、吸着部位として導入した低分子化合物(MBTA)の導入量が多い刺激応答性高分子との組合せが良かったためと考えられた。
【0097】
<実施例8>
<担体C8(担体B群)上へ刺激応答性高分子P2を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=5:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P2の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P2の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径3μmの磁性担体(タカラバイオ社製、Magnospere MS300/Carboxyl)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P2が担体C8に固定化された実施例8に係る吸着材を得た。
【0098】
<実施例8に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例8に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例8に係る吸着材1mLに対し、27mgの抗体が吸着することが確認された。
【0099】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが−1.0の担体C8と、分配係数CLogPが1.1の刺激応答性高分子P2とを組み合わせたとき、10%DBCは27mg/mLであり、市販製品と同等以上に抗体を吸着できることが確認された。
【0100】
<実施例9>
<担体C5(担体B群)上へ刺激応答性高分子P2を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=5:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P2の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P2の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径100μmのSepharose担体(GEヘルスケア社製、CM Sepharose 4 Fast Flow)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P2が担体C5に固定化された実施例9に係る吸着材を得た。
【0101】
<実施例9に係る吸着材の抗体吸着能評価>
実施例9に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、実施例9に係る吸着材1mLに対し、26mgの抗体が吸着することが確認された。
【0102】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが−2.5の担体C5と、分配係数CLogPが1.1の刺激応答性高分子P2とを組み合わせたとき、10%DBCは26mg/mLであり、市販品と同等程度の抗体吸着能が得られることが確認された。
【0103】
なお、実施例9に係る吸着材と実施例5に係る吸着材とを比較すると、これらは担体及び刺激応答性高分子の組成が近いにも関わらず、10%DBCは実施例5に係る吸着材の方が優れていた。このことから、担体に対してより最適な分配係数CLogPを有する刺激応答性高分子を固定化すると大幅に10%DBCを向上できると考えられた。
【0104】
<比較例1>
<担体C3(担体A群)上へ刺激応答性高分子P6を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=5:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P6の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P6の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径30μmのアクリル担体(Soken社製、MXシリーズ)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P6が担体C3に固定化された比較例1に係る吸着材を得た。
【0105】
<比較例1に係る吸着材の抗体吸着能評価>
比較例1に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、比較例1に係る吸着材1mLに対し、4mgの抗体が吸着することが確認された。
【0106】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが0.5の担体C3と、分配係数CLogPが1.9の刺激応答性高分子P6を組み合わせたとき、10%DBCは4mg/mLと低い値を示した。この結果から、疎水性の担体と疎水的な刺激応答性高分子の組合せでは、担体と刺激応答性高分子との間の相互作用が高まり、十分量の抗体吸着能が得られなかったと考えられた。
【0107】
<比較例2>
<担体C5(担体B群)上へ刺激応答性高分子P7を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=1:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P7の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P7の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径100μmのSepharose担体(GEヘルスケア社製、CM Sepharose 4 Fast Flow)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P7が担体C5に固定化された比較例2に係る吸着材を得た。
【0108】
<比較例2に係る吸着材の抗体吸着能評価>
比較例2に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、比較例2に係る吸着材1mLに対し、6mgの抗体が吸着することが確認された。
【0109】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが−2.5の担体C5と、分配係数CLogPが−0.69の刺激応答性高分子P7とを組み合わせたとき、10%DBCは6mg/mLと低い値を示した。このことから、親水性の担体と、吸着部位として導入した低分子化合物(MBTA)の導入量が少なく、より親水的な刺激応答性高分子との組合せでは、十分量の抗体を吸着できないことが確認された。
【0110】
<比較例3>
<担体C9(担体A群)上へ刺激応答性高分子P3を固定化した吸着材の調製>
THF/水混合溶液(THF:水=4:1(体積比))を溶媒として用い、刺激応答性高分子P3の1質量%溶液を調製した。この刺激応答性高分子P3の溶液と、カルボキシル基を表面に有する平均粒子径45μmのメタクリレート担体(積水化成品社製、テクポリマー、MBX−40)と、DMT−MM(10当量)とから得られた懸濁液を室温で一晩振盪させた。その後、THF/水混合溶媒で洗浄し、刺激応答性高分子P3が担体C9に固定化された比較例3に係る吸着材を得た。
【0111】
<比較例3に係る吸着材の抗体吸着能評価>
比較例3に係る吸着材の吸着部位の抗体吸着能を評価するため、実施例1に係る吸着材と同様の手順で同様の実験を行った。その結果を後記表3及び
図4に示す。
表3及び
図4に示すように、比較例3に係る吸着材1mLに対し、15mgの抗体が吸着することが確認された。
【0112】
以上の結果から、分散度を示す指標Aが1.5の担体C9と、分配係数CLogPが0.62の刺激応答性高分子P3とを組み合わせたとき、10%DBCは15mg/mLであり、市販品の基準である20mg/mLと比較して僅かに劣った。このことから、吸着能が出ることが確認されている刺激応答性高分子であっても、指標Aが1.5以上であるような疎水性の担体との組み合わせ次第では、抗体の吸着能が僅かに低減することが判明した。比較例3に係る吸着材と実施例4に係る吸着材とを比較して、吸着材について、抗体の高効率吸着をかなえる担体の指標Aは1.0以下とするのがよいと考えられた。
【0113】
【表3】
【0114】
以上の結果から、従来用いるのが困難であった疎水性の担体A群の担体を用いた場合であっても、分配係数CLogPが−0.46以上1.3以下である刺激応答性高分子を組み合わせることで10%DBCを高められることが分かった。また、親水性の担体B群に属する担体を用いた場合は、分配係数CLogPが−0.46以上1.3以下である刺激応答性高分子を用いて吸着材を製造することで高DBCが得られることが分かった。すなわち、本発明によれば、担体の前記指標Aが1.0以下であり、刺激応答性高分子の分配係数CLogPが−0.46以上1.3以下の範囲にある最適な組み合わせとすることによって、吸着部位として低分子化合物を用いることができるとともに、従来よりも多くの種類の担体を用いることができ、かつ、標的物質の吸着容量が高い吸着材とこれを用いたカラム及び精製装置とを提供できることが分かった。
【0115】
このことから、本発明では、医薬品や分析試薬向けの抗体を生産する抗体生産性が優れる吸着材とこれを用いたカラム及び精製装置とを提供できる。そして、本発明によれば、抗体の吸着効率向上をかなえる低分子化合物を用いた吸着材による抗体の精製を可能にする。従って、本発明によれば、抗体医薬品及び分析試薬等の低コスト製造や生産性向上を実現できる。そのため、本発明によれば、従来治療が困難であったリュウマチや癌治療等に用いる治療用抗体はもちろん、分析、試験で用いられる生化学試薬や臨床検査試薬中の抗体をも含めて高効率に生産、提供が可能となるため、医療技術の進歩に大きく貢献できる。
【0116】
以上、本発明に係る吸着材、カラム、精製装置及び吸着材の製造方法について実施形態及び実施例により詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。