【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度国立研究開発法人日本医療研究開発機構[医療機器開発推進研究事業]「症例別術前シミュレート型心臓カテーテルシミュレーターの開発研究」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
各社8FrIABカテーテルのモック回路内での応答性の比較検討,人工臓器 3,日本人工臓器学会,2000年 8月15日,第29巻 第3号,S-128
【文献】
岡田 昌義 Masayoshi OKADA,ショック Shock,日本臨床(別冊)領域別症候群シリーズ12 循環器症候群 I,2011年,p.67-77
【文献】
PJ-46 空気圧駆動式ウェラブル全人工心臓システムのための小型駆動装置の開発,人工臓器 第42巻第2号,富永 隆治 日本人工臓器学会,2013年,ポスター Poster Session,s-217頁
【文献】
人工心臓装着患者の生活の質を支える電気工学,電気学会全国大会講演論文集,2011年 3月18日,平成23年,S13-5 〜 S13-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液体が満たされた状態で心臓モデルが設置される容器に接続され、前記容器に満たされた液体を、容器に設けられた導入口及び排出口を介して循環することで前記心臓モデル内に拍動流を周期的に流入させ、前記心臓モデルに対してカテーテル操作のシミュレーションを実現するカテーテル・シミュレーター用拍動流生成ポンプであって、
往復運動するピストンを内部に備えるシリンダと、
前記ピストンを往復運動させる駆動モーターと、
前記駆動モーターの回転運動を前記ピストンの往復運動に変換するリンク機構と、
前記ピストンの押出運動によって、前記シリンダ内の液体を外部に押し出して前記容器の導入口と接続される押出管を介して前記心臓モデル内に流入させる押出口と、
前記ピストンの吸込運動によって、前記容器の排出口と接続される吸入管を介して前記容器内の液体を前記シリンダ内に吸い込む吸込口と、
前記心臓モデルに流入する拍動流の出力数が毎分20〜200回の範囲で前記駆動モーターの回転を制御する制御部と、
を有し、
前記吸込口には、ポンプの外部からの液体の流入を許容し、ポンプの外部への液体の流出を規制する一方向弁が配設され、
前記押出口には、ポンプの外部への液体の流出を許容し、ポンプの外部からの液体の流入については一部を許容するように、一部に開口が形成された傘状体を備えたアンブレラバルブが配設されていることを特徴とするカテーテル・シミュレーター用拍動流生成ポンプ。
前記ピストンの往復運動に伴って生じる循環流路内に異物除去機構を設置し、前記ピストンの吸込運動時に、液体に含まれる不純物を補足することを特徴とする請求項1又は2に記載のカテーテル・シミュレーター用拍動流生成ポンプ。
前記気泡排出孔に接続された気泡排出チューブの先端は、前記押出口から延びる流路に連結されていることを特徴とする請求項5に記載のカテーテル・シミュレーター用拍動流生成ポンプ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るカテーテル・シミュレーター用拍動流生成ポンプ(以下、「ポンプ」と称する)10の一使用形態を示す図である。
図1に示すように、前記ポンプ10は、吸込管51および押出管53を介して、カテーテル・シミュレーター用容器(以下、「容器」と称する)30に接続して使用する。
【0016】
前記容器30は、図に示すように、上方が開口した直方体形状(容量は6L程度)に形成されており、その一つの側壁には、排出口31及び導入口33が形成されている。これらの排出口31及び導入口33は、それぞれ前記ポンプ10の吸込管51及び押出管53が接続される部分であり、図に示すように、1つの側壁に併設されているが、必ずしも一つの側壁に形成されていなくても良い。また、前記容器30の上方の開口から前記押出管53を通す場合には、前記導入口33は必ずしも必要でない。
【0017】
前記容器30内には、液体が充填された状態で、シミュレーションの対象となる心臓モデル40が設置される。本実施形態の心臓モデル40は、実際の人体の心臓に近い弾力性を有し、カテーテルを挿入した後、その動向が把握できるように透明な材料、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、シリコンやこれらに類する材料、その他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を単独で、或いは複数組み合わせたもの等によって形成されており、
図1に示すように、前記導入口33に設けられた保持突起33aに差し込まれることによって設置される。この場合、心臓モデル40は、前記容器30内に充填された液体中に設置できる構成であれば良く、例えば、前記容器内にカテーテルを導入する導入管54、56、58、59の導入口に保持突起を設け、前記保持突起により設置したり、容器30内に専用のホルダを設け、前記ホルダによって設置される構成等としても良い。なお、心臓モデル40については、術式に対応して複数種類のものを準備しておいても良い。例えば、心臓本体の表面に冠動脈が形成されたタイプのものを設置することで、冠動脈に対するカテーテル操作をシミュレーションすることができる。
【0018】
前記心臓モデル40は、ポンプ10から押し出される液体を内部に流入する流入開口部と、流入した液体を心臓モデル外部へ流出させる流出開口部を有する。前記流入開口部は、心臓モデル内に液体を流入させる位置に形成されていれば良く、例えば、流入開口部を心臓モデル40の心尖部(心臓モデルの尾側の先端部)42に形成することが可能である。この場合、TAVI(経カテーテル的大動脈弁置換術)のシミュレーションを実施する際に、実際の臨床で行われるアプローチのひとつである心尖部アプローチ(患者の胸を一部切開して、さらに心尖部を直視下に穿刺することでカテーテルを挿入する手術法)を行うことができる。この際、導入口33に二股コック(二股に分かれた管)を接続することで、ポンプ10からの液体流入を遮ることなくカテーテルを心尖部42から挿入することができる。前記流出開口部は、心臓モデル40において、液体の流路上、シミュレーションの対象となる部位や血管より下流に形成され、容器30内に排出することが可能であれば良い。例えば、前記シミュレーション対象が冠動脈の場合(冠動脈が形成された心臓モデル)、冠動脈の先端(図示せず)に流出開口部を形成すると、冠動脈を通過した液体を先端から容器30内に排出できる。
【0019】
上記した構成において、
図1に示すように、心臓モデル40の心尖部42に形成された流入開口部を前記導入口33(保持突起33a)に差し込むと、前記ポンプ10から押し出された液体(拍動流)は、前記押出管53を通って、前記導入口33から心臓モデル40内に流入し、心臓モデル40内の部位、血管に到達する。これらの部位又は血管を通過した液体は、前記流出開口部から容器30内に排出される。次に、ポンプ10が吸込動作を行うと、前記容器30内の液体は、前記排出口31から前記吸込管51を通って、ポンプ10に循環する。このようにして前記ポンプ10が液体の押出・吸込を繰り返すことで、カテーテル・シミュレーター内に液体を循環させ、循環経路上にある心臓モデル40に拍動流を周期的に流入させることが可能となる。この際、前記心臓モデル40は、上述したように弾性素材により形成されているため、液体(拍動流)の流入時には膨張し、前記流出開口部より液体が排出されると、前記素材の復元力によって膨張前の状態に戻る。
【0020】
次に、
図2及び
図3を参照して、
図1に示すポンプ10の構成について説明する。本実施形態のポンプは、略直方体形状の筐体11を備えており、筐体11内に以下に詳述する駆動機構及び、気泡分離機構を有する液体流路部が設置されている。
図1に示すように、筐体11の上面には開閉可能な上面カバー11aが設けられており、上面カバー11aを閉塞することで、内部に埃やゴミ等が入り込まないようにしている。また、その大きさについては、容器30と同程度で容易にハンドリングできるように構成されている。
【0021】
前記駆動機構は、内部に空洞を有し、空洞内にピストン(図示せず)が設けられた略円筒状のシリンダ13、前記ピストンを往復運動させる駆動モーター(DCモーター)15、前記駆動モーター15の回転速度を減速すると共に、駆動モーター15からの動力伝達軸を90°回転して動力伝達するギアボックス17、及び、ギアボックス17とピストン(シリンダ13内)との間に配設させるリンク機構19を備えている。
【0022】
前記シリンダ13の内部空洞は、前記ピストンによって空間が二つに分割されており、ピストンが動くことによって、各分割空間の容積の割合が変化する。前記ピストンは液体の通過を遮断するように配設され、ピストンが、前記シリンダの底面開口部13aから前記リンク機構19側に向かって移動する(吸込運動)と、前記底面開口部13aから液体が吸い込まれ、ピストンと底面開口部13a、シリンダの側壁によって囲まれた空間に液体が充填される。引き続き、ピストンが、リンク機構19側から、前記底面開口部13aに向かって移動(押出運動)すると、前記充填された液体は底面開口部13aから押し出される。
【0023】
前記ギアボックス17内には、上記したように、駆動モーター15の回転速度を減速すると共に、駆動モーターの回転軸を90°変換するギアトレイン(図示せず)が設置されており、駆動モーター15の回転駆動力は、駆動モーターの回転軸と垂直に交差する出力軸17aに伝達される。出力軸17aは、ギアボックス17の両側に突出しており、一方側は前記リンク機構19に連結され、他方側には、出力軸17aの回転速度を検出するセンサ機構60が設置されている。
【0024】
前記リンク機構19は、ギアボックス17からの出力軸17aの回転運動をピストンの直線的な往復運動(吸込、押出運動)に変換する機能を備えている。
図4に示すように、前記リンク機構19は、前記出力軸17aに固定される回転板21、前記回転板21の偏心した位置に設けられる突起21a、前記突起21aに一端23aが連結されたリンク棒23、前記リンク棒23の他端23bを回転可能に軸支する断面コ字形のジョイント25、前記ジョイント25とピストン(シリンダ13内)を連結するシャフト27を備えている。
【0025】
上記した構成において、前記駆動モーター15の回転駆動により出力軸17aが回転駆動されると、前記回転板21上の突起21aに固定されたリンク棒23の一端23aは、前記回転板21の円周上を回転する。この回転により、前記リンク棒23の他端23bは、連結された前記ジョイント25、前記シャフト27を介して、シリンダ13内のピストンを往復動させる。例えば、前記突起21aが、前記回転板21の円周上において、前記シリンダ13と最も離れた位置(
図4において最も左側)にある場合、前記リンク棒23もシリンダ13から最も離れた状態となり、前記ピストンはシリンダ13内で最も左側(以下、「位置X」と称する)に引っ張られ、前記シリンダ13内の液体の量が最大となる。この状態から、前記突起21aが180°回転し、前記シリンダ13に最も近い位置(
図4において最も右側)に移動すると、前記リンク棒23もシリンダ13に最も近い状態となり、前記ピストンはシリンダ13内で最も右側(以下、「位置Y」と称する)に押し出され、前記シリンダ13内の液体の量は最小となる。
【0026】
次に、上記したセンサ機構60について、
図4を参照して説明する。センサ機構60は、出力軸17aの一端であって、ギアボックス17に対し、リンク機構19と反対側に配設される。前記センサ機構60は、回転軸17aに固定される光検出用回転板62、前記回転板62から突出されるように固定される突出板62a、前記突出板62aの通過を検出する光検出素子64を備えている。光検出素子64は、二箇所(それぞれ64a、64b)に配設され、回転する前記突出板62aの通過を180°の回転間隔で検出できるように設置されている。具体的には、前記光検出素子64aは、ピストンが上記した位置Xに達した際に前記突出板62aの通過を検出し、前記光検出素子64bは、ピストンが上記した位置Yに達した際に前記突出板62aの通過を検出するように配設される。すなわち、本実施形態では、前記光検出素子64a、64bは、ピストンの押出、吸込運動の開始時をそれぞれ検出可能な位置に設置されている。
【0027】
前記駆動モーター15の回転状態は、制御部70によって制御される。上述したように、駆動モーター15の回転運動は、前記リンク機構19によって、ピストンの往復運動に変換されるため、ピストンの往復運動の速度は、前記制御部70によって制御可能となっている。上述したように、ピストンの1押出運動により、拍動流が1回出力されるため、制御部によって駆動モーターの回転速度を制御することによって、前記拍動流の出力数を、毎分20〜200回の範囲で制御可能である。
【0028】
実際の人体の心臓は、拍動1回で、拍動流が1回生成されるため、前記拍動流の出力数は、心臓の拍動数(心拍数)に相当する。この場合、実際の心臓に対するカテーテル操作をシミュレーションするに際しては、想定し得る人体の拍動を考慮すると、心拍数20〜200bpm(beat per minute)であれば十分であり、実際の心臓手術では、心拍数が40〜100bpm程度の範囲で行なわれることが殆どと考えられるため、ポンプ10の能力としては、毎分20〜200回の拍動流を心臓モデルに送り込める仕様であれば良く、ポンプの負荷を考慮した場合、少なくとも毎分40〜150回の拍動流を心臓モデルに送り込めるものであれば効果的なシミュレーションを行うことが可能となる。また、ポンプについては最大圧力300mmHg程度の仕様であれば、設置される心臓モデルに対して、実際の人体の血流(血圧)に応じた液体の流れを再現することが可能である。
【0029】
前記拍動流の出力数は、前記筐体11の側面に設けられた調整ダイヤル72によって、シミュレーション内容に応じ、20〜200bpmの範囲で最適な値を選択可能である。また、前記ダイヤル72をシミュレーション中に操作することにより、様々な拍動数におけるカテーテル操作を連続的に実施することも出来る。
【0030】
前記拍動流の出力数は、前記ピストンの押出、吸込速度のうち一方、または両方を変化させることによって可変するモード(駆動モーター15の回転速度を可変させる可変モード)、及び、ピストンの押出速度と吸込速度が同一となるよう、駆動モーター15を等速回転するモード(正弦モード)とすることが可能であるが、本実施形態においては、人体の実際の拍動流により近い状態を再現するため、ピストンの押出速度(押出時間;1回の拍動流を生成する時間)を一定とし、吸込速度(吸込時間)を変化させることによって、拍動流の出力数を制御している。すなわち、人体において、心臓は300ms程度で1回収縮し、拍動流が1回生成されるため、本実施例においても、300msで1回の拍動流が押し出されるように、ピストンの押出速度を一定としている。この場合、拍動流の出力数が大きくなると、駆動モーター15の正弦モードでは押出速度を一定に維持することができなくなることから、押出速度は一定のまま、吸込速度のみが速くなるように駆動モータを制御する。
【0031】
前記ピストンの押出速度、吸込速度は、上述した光検出素子64a、64bの検出信号に基づき、制御部70が駆動モーター15の回転速度を制御することによって、個別に設定される。上述したように、光検出素子64a、64bにより、ピストンの押出、吸込運動の開始時が検出されるため、光検出素子64aの検出信号から光検出素子64bの検出信号を検知するまでがピストンの押出運動期、光検出素子64bの検出信号から光検出素子64aの検出信号を検知するまでがピストンの吸込運動期となる。従って、これらの検出信号に基づいて、制御部70は、ピストンの押出、吸込運動の速度が異なるように、前記駆動モーター15の回転速度を変化させることが可能となり、これにより、人体の拍動流により近い状態を再現できる。具体的には、例えば、実際の心臓の手術中において一般的な拍動数(60bpm程度)による拍動流を生成するのであれば、駆動モーター15の押出時間と吸引時間の比率は、3:7程度とされる。
【0032】
次に、
図2、
図3および
図5を参照し、前記シリンダ13の底面開口部13aから前記ポンプ10の外部との間の液体流路部について説明する。前記液体流路部は、前記底面開口部13aを保持するシリンダ保持板80、外部(心臓モデル側)からの液体を吸い込む吸込口86aおよび液体を外部に押し出す押出口86bが形成された外部接続板86を有する。前記吸込口86aおよび押出口86bには、一方向弁が設けられており、前記吸込口86aは、ポンプ10の外部からの液体の流入を許容し、外部への流出を規制するように、前記押出口86bは、ポンプ10の外部への液体の流出を許容し、外部からの流入を規制するように、それぞれ構成されている。一方向弁としては、例えば後述するアンブレラ・バルブ100(
図7参照)を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0033】
図6は液体流路部の別の実施形態を示す。この実施形態において、外部接続板86は第1外部接続板86A、第2外部接続板86B、第3外部接続板86Cを含む構成であって、第1外部接続板86Aは第1吸込口86a1および第1押出口86b1を備え、第2外部接続板86Bは第1吸込口86a1と連通する第2吸込口86a2および、第1押出口86b1と連通する第2押出口86b2を備える。第2吸込口86a2、第2押出口86b2にはそれぞれ一方向弁として機能するアンブレラバルブ100が設けられる。第3外部接続板86Cは、第2吸込口86a2と連通する第3吸込口86a3および、第2押出口86b2と連通する第3吸込口86a3を備え、第3吸込口86a3に吸込管51、第3吸込口86a3に押出管53が接続される。
【0034】
前記アンブレラバルブ100について
図7を参照して説明する。
図7(a)に示すように、アンブレラバルブ100は複数(図では5つ)の開口102aを具備する略円板状の本体102、及び前記本体102の略中心に形成された開口102bに嵌め込み接続される傘状体104を有する。傘状体104は柔軟性を有する材料で形成されており、
図7(b)に示すように、本体102との間に僅かな隙間が空くように開口102bに挿入接続されて本体と一体化される。ここで傘状体104は、開口102bに挿入される先端に凸部104bを具備する等、挿入後に本体102に固定されると共に、後述するように液体に押圧された場合にもその接続が維持されるように構成される。なお、傘状体104は
図7(a)に示すように開口104aを有していてもよい。開口104aを有する場合の効果については後述する。
【0035】
次に、傘状体104が開口104aを有しない場合のアンブレラ・バルブ100の作用効果について、
図7(b)及び
図7(c)を参照して説明する。アンブレラ・バルブ100は、本体102側から傘状体104側への液体の流れを許容し(
図7(b))、傘状体104側から本体102側への流れを規制する(
図7(c))。具体的には、本体102側(図の左側)からアンブレラ・バルブ100に液体が流入した場合、液体は本体102の開口102aを通過し、その流入圧力によって傘状体104を軸方向に移動させることで生じる 隙間Gを通って傘状体104の外周から流出し、傘状体104の外側(図の右側)へ達する。一方、
図7(c)に示すように傘状体104側(図の右側)からアンブレラバルブ100に液体が流入した場合には、傘状体104は柔軟性を有するため液体の流入圧力によって本体102に押し付けられて密着し、複数の開口102aを塞ぐ。これによって、液体は開口102aを通過することができず、傘状体104側から本体102側への流れは規制される。
【0036】
このように一方向弁として機能するアンブレラ・バルブ100を前記第2吸込口86a2に設ける場合には、本体102が吸込管51側(容器30側)、傘状体104がシリンダ13側となるように配設する。また、前記第2押出口86b2にアンブレラバルブ100を設ける場合、本体102がシリンダ13側、傘状体104が押出管53側(容器30側)となるように配設する。
【0037】
図7(a)に示すように、前記第2押出口86b2に設けられるアンブレラバルブ100の傘状体104の一部に開口104aを形成し、複数の開口102aの一部と連通するにようにしても良い。この場合、
図7(d)に示すように、ポンプ10の吸込動作時に傘状体104側から液体が流入し、傘状体104が液体の流入圧力によって本体102に押し付けられて密着した場合であっても、液体の一部が開口104aと連通した開口102aを介して通過可能となる。
【0038】
このようにして、ポンプ10の吸込動作時に第2押出口86b2からも液体の一部をポンプ10に吸い込ませる(第2押出口86b2においてポンプ10の外部からの液体の流入を完全に遮断しないようにする)ことによって、前記心臓モデル40内の液体の流れをより現実に近い状態に再現できるようになる。人体においては、拡張期に大動脈側から心臓方向に戻る血流により大動脈弁が閉鎖される。例えば、TAVIのシミュレーションを実施するために、大動脈弁を有する心臓モデル40を容器30内に設置した場合、心臓本体側側から大動脈側に送り出された液体の一部が、大動脈側から心臓本体側へ戻るる流れを作ることができるため、大動脈と心臓本体の経路上に形成された大動脈弁がこの逆向きの流れによって閉じる状態をより忠実に再現できるようになる。
【0039】
その結果、TAVIのシミュレーションにおいて、ステントバルブ留置後に、人工弁によって大動脈弁が正常に開閉するかどうかの確認が行えるようになり、実際の施術と同様の一連の模擬が実施可能となる。また、実際の施術同様に造影剤等を投入し液体の流れを把握する場合には、大動脈側から心臓本体側へ戻る流れを視認可能となり、その流れと共に大動脈弁が閉じる状態を確認できるようになるため、より現実の施術に近い状態でシミュレーション可能となる。
【0040】
また、戻る液体はポンプから送り出された液体全体の一部であるため、大部分の液体は心臓本体側から大動脈側へ駆出されることとなり、大動脈より分枝する鎖骨下動脈や内頚動脈冠動脈、冠動脈の開口部より排出されることになる。このように、従来の生理的な血流を模擬した液体の動きが再現されるため、例えば、実際の施術同様に造影剤等を投入した場合にも、実際の施術と同様に冠動脈造影を再現することができ、TAVIのシミュレーションにおいても、手技の過程における冠動脈入口部とステントバルブの位置や、ステントバルブ留置後の冠動脈の流れが維持されているかを確認することができる。
【0041】
なお、本実施形態においては、前記本体102の5つの開口102aのうち、一つの開口分に相当する形状及び面積の開口104aを傘状体104に形成したが(
図7(a))、これに限定されるものではない。アンブレラバルブ100が一方向弁として機能することによってポンプ10と心臓モデル40、及び容器30を循環する液体の流れを生成すると共に、心臓モデル内に液体を送り出す押出口の一部から液体が吸い込まれるように(開口102aの一部と連通するように)開口104aが形成されていれば良い。本実施形態では、吸込口、押出口にそれぞれ設けられたアンブレラ・バルブ100の開口102aの面積は同一であって、傘状体104に形成した開口104aの面積は、開口102aの一つ分と同一面積である。ポンプ10に吸い込まれる流量を1とした場合、吸込口から吸い込まれる流量は開口102aの5つ分のため5/6、押出口から吸い込まれる流量は開口102aの一つ分のため1/6相当と言える。なお、吸込口から吸い込む流量は、安定して大動脈弁が閉じるように設定すればよい。例えば、開口104aの大きさや数を変えることで、最適な状態に安定することができる。
【0042】
図5に示すように前記シリンダ保持板80と外部接続板86の間には、液体が貯留される貯留部82が設けられている。前記貯留部82は板状の部材であって、内部に液体が貯留される略山型の空洞Sおよび、液体中の気泡を分離する気泡分離機構90が形成されている。前記気泡分離機構90は必ずしも必要ではないが、一般に、液体を循環させるカテーテル・シミュレーターにおいては、液体中の気泡によって、シミュレーションの対象となる心臓モデル等が見えにくくなる課題があり、その対処法として有効である。
【0043】
図5の気泡分離機構90は、前記貯留部82に設けられており、空洞Sに流入した気泡を上部に案内する傾斜面82b、前記傾斜面82bの頂部に形成された気泡排出孔82c、前記気泡排出孔82cに接続された気泡排出チューブ84を有し、
図1、
図3に示すように、前記気泡排出チューブ84の先端は前記押出管53(押出口86bから延びる流路)に接続されている。前記気泡排出チューブ84は長くても良く、例えば、前記駆動モーター15に複数回巻き付けてから前記押出管53に導入すると、駆動モーター15を冷却する効果をもたせることもできる(図示せず)。なお、気泡排出チューブ84には、押出管53側のみに気泡を通過させる一方向弁、例えばダックビルバルブ(図示せず)を配設しておくことが好ましく、これにより、吸込み動作時に気泡排気チューブ内に残ったエアを吸い戻すことを防止することができる。また、前記貯留部82の下部に開口82aを設け、開口82aにチューブを接続すると、シミュレーション終了後に前記空洞Sに残存した液体を排出することが可能となる。
【0044】
上記した構成において、ピストンの押出運動によって前記空洞Sに液体が流入すると、液体と共に流入した気泡は、前記傾斜面82bに沿って上方に移動する。上方に沿って移動し、傾斜面82bの頂部に達した気泡は、気泡排出孔82cから外部に排出され、前記気泡排出チューブ84を通過し、前記押出管53に流入する。一方、前記空洞Sに流入した液体のうち、気泡を含まない大部分は、開口面積がより大きい開口部である前記押出口86bに流出する。このようにして、気泡は前記気泡排出孔82cへ、液体の大部分は前記押出口86bへ流出することとなり、液体から気泡を分離し、収集された気泡をポンプ10の外部(押出管55)へ排出可能となる。このようにして、気泡はポンプ作動直後に、そのほとんどが押出管53、および心臓モデル40を通じて容器30へと排出され、空気中へと放出される。また、ポンプ作動中に何らかの原因で前記空洞S内に気泡が流入した時に備え、その気泡が押出管53、および心臓モデル40へ達しないようにするために、前記気泡分離チューブ84に、例えばクリップのような閉鎖機構を備えてもよい。
【0045】
なお、シミュレーション終了後に前記空洞Sに残存した液体を排出可能にする開口82aについては、
図6に示すように貯留部82の下部中央に設けても良く(開口82d)、第1外部接続板86Aと第2外部接続板86Bの下部中央にも開口82dと対応する位置に開口86d1及び86d2を形成して、開口86d2から残存した液体を排出するようにしても良い。その場合には、空洞Sの形状を
図6のような菱形にすると、残存した液体を開口82dに効率的に集約でき、開口86d2に接続したチューブ等(図示せず)から排出できる。
【0046】
次に、上記の気泡分離機構90を有する拍動流生成ポンプ10の使用方法について説明する。
まず、前記ポンプ10と前記容器30とを、前記吹込管51及び押出管53を介して接続し、その後、容器30に液体を充填する。前記心臓モデル40は未設置のまま、この状態でポンプ10を作動し液体を循環させると、前記吹込管51、押出管53等の内部に残存していた空気による気泡を除去することができる。
【0047】
具体的には、これらの残存気泡は、ポンプ10の吸い込みによって前記気泡分離機構90に流入し、上述したように、前記気泡分離チューブ84を通って前記押出管53に流出する。前記気泡は、前記押出管53から前記導入口33に流入し、心臓モデル40が設置されずに開口となっている導入口33から前記容器30内部に排出され、容器30内の液体の表面に達して、外気中に放出される。このようにして、気泡を除去後、前記心臓モデル40を前記容器30内に設置する。心臓モデル40を設置する際は、心臓モデル40内部に残存した空気が、気泡として残存しないように、心臓モデル40を液体中に沈めて空気を抜き、液体中で、前記容器30の保持突起33a等に接続すれば良い。
【0048】
以上の準備を行い、前記ポンプ10を再び作動させ、液体を循環させると、前記ポンプ10から前記心臓モデル40に気泡が除去された拍動流が押し出される。この状態で、前記カテーテル導入管54、56、58、59からカテーテルを導入し、前記心臓モデル40に対してカテーテル手技のシミュレーションを実施する。前記カテーテル導入管54、56、58、59は、シミュレーションの内容に応じて、選択的に使用する。すなわち、カテーテルを導入する血管が、腕、足、動脈、静脈等の症例に応じて、適切なテーテル導入管を選択しシミュレーションを実施することが可能である。また、心臓モデル40は、シミュレーションの目的となる種々の疾患に応じて適したものを選択し、切替えて接続することができる。例えば、心臓表面に沿う冠動脈のシミュレーションを実施する場合、表面に冠動脈を有し、冠動脈に拍動流が流入するように形成された心臓モデルを用いる。冠動脈タイプの場合、ポンプを押し出したときに心臓モデルが膨張し、この時に冠動脈部分に液体が流れ込むことから、実際の心臓の拍動と同じ状態でシミュレーションを行うことが可能となる。すなわち、実際の心臓は、収縮するときに血液を送り出すが、冠動脈に血液が流入するのは、主に心臓が拡張するとき(拡張期)であるため、冠動脈タイプのシミュレーションでは、膨張時に冠動脈に液体が流れ込むことから、実際の心臓の動きと同じ状態で練習することができる。
【0049】
以上のように、上述したカテーテル・シミュレーション用拍動流生成ポンプ10によれば、拍動流は、前記ポンプ10内に備えられたシリンダ11内部のピストンの往復運動によって生成されるため、カテーテル・シミュレータ内に、拍動流生成のための電磁弁、電磁弁コントローラー等の部品を必要としない。また、制御部70によって、ピストンの押出、吸込運動の速度が異なるように、ピストンを駆動させるモーター15の速度を制御することにより、人体により近い状態の拍動流を毎分20〜200の範囲で出力することが可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態の前記ポンプ10は、ポンプ自身によって、液体中の気泡を収集、分離し、シミュレーションの実施前に、気泡をシミュレーター外部に除去することができる。このため、気泡による影響を低減した状態でシミュレーションを実施できる。
【0051】
なお、気泡による影響をより一層抑えるには、循環させる液体についても、事前処理を行うことが望ましい。特に、液体としてアルコールを含んだ水溶液を用いる場合、気泡が発生し易い状態となる。このため、アルコールを水に溶解させる前に、水を一度沸騰させて常温にゆっくり戻したり、蒸気圧の手前まで減圧する等の措置を行なうか、或いは、水とアルコールを混ぜて泡が出てきた際に超音波洗浄機などで強制的に泡を発生させる等の対策を講じることで、気泡の発生を抑制することができる。
【0052】
また、上述した実施形態では、ポンプ10によって循環する液体内に浮遊するゴミなどの異物(不純物)を除去する機構を設けることが好ましい。このような異物除去機構は、例えば前記ポンプ10のピストンの往復運動に伴って発生する循環流路内に設置されるフィルタ部材によって構成することが可能である。以下、
図8(a)(b)を参照して、このようなフィルタ部材の一例を示す。
【0053】
本実施形態のフィルタ部材200は、円筒状の本体210と、本体210に着脱される円筒状の着脱部220とを備えている。前記本体210の軸方向両側には、雄ネジ部211,212が形成されており、一方の雄ネジ部211に、前記着脱部220に形成された雌ネジ部221が螺合することで本体210と着脱部220は一体化されるようになっている。前記着脱部220には、液体が通過する網状部(フィルタとしての機能を有する)225が組み込まれており、液体内に浮遊する異物(不純物)を捉えることが可能となっている。また、前記本体210の中間部分には、径方向に張り出した突起(操作部)213が形成されており、この部分を掴んで操作することで、フィルタ部材200を循環流路内の所定の位置に容易に着脱できるようにしている。
【0054】
このようなフィルタ部材200は、循環流路のいずれかの部分に設置することが可能である。例えば、
図1に示した排出口31部分に雌ネジ部を有する突起を容器内に突出するように設けておき、この突起に、前記本体210の雄ネジ部212を螺合することで循環流路内に設置することが可能である。このような異物除去機構を備えることにより、循環流路内の液体に含まれる不純物がピストンの吸込運動時に補足され、フィルタ部材の手前に生ずる渦によりフィルタ部材手前で一塊となるため、簡単に除去することができる。勿論、このようなフィルタ部材は、ポンプ側の吸込口86aや押出口86bの部分に設置したり、或いは、吸込管51、押出管53の端部に設置してもよく、さらには、螺合して設置する以外にも、循環流路内に圧入するようにして設置する構成であってもよい。
【0055】
以上、本発明に係るカテーテル・シミュレーション用拍動流生成ポンプの一例を示したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。例えば、シリンダの形状やリンク機構の構成、気泡分離機構の配設位置等については、適宜変形することが可能である。また、本実施形態では、容器30の容量を6L程度にして、ポンプとともに卓上でシミュレーションができる大きさを考慮しているが、使用される容器30の大きさや形状については限定されることはなく、ポンプ10についても、更に、大型化したものを用いても良い。