特許第6927579号(P6927579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927579
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】リチウム鉄マンガン系複合酸化物
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20210823BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20210823BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20210823BHJP
【FI】
   C01G49/00 A
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-560382(P2017-560382)
(86)(22)【出願日】2017年1月4日
(86)【国際出願番号】JP2017000018
(87)【国際公開番号】WO2017119411
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2019年12月23日
(31)【優先権主張番号】特願2016-571(P2016-571)
(32)【優先日】2016年1月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マセセ タイタス ニャムワロ
(72)【発明者】
【氏名】鹿野 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】栄部 比夏里
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 博
(72)【発明者】
【氏名】佐野 光
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−313335(JP,A)
【文献】 特開平09−245836(JP,A)
【文献】 特開2009−176583(JP,A)
【文献】 特開2000−113889(JP,A)
【文献】 特開平08−298115(JP,A)
【文献】 特開平04−087268(JP,A)
【文献】 AMINE, K. et al.,Preparation and electrochemical investigation of LiMn2_xMexO4 (Me: Ni, Fe, and x= 0.5, 1 ) cathode materials for secondary lithium batteries,Journal of Power Sources,1997年,vol. 68,p.604-608,1. Introduction, 2. Experimental, 3. Structure and oxidation state of dopant
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式:
Li1+mFeMn2−x
[式中、mは0.5≦m≦2を示す。xは0<x≦1を示す。]
で表され、正方晶岩塩型構造を有する、リチウム鉄マンガン系複合酸化物。
【請求項2】
平均粒子径が0.01〜50μmである、請求項1に記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物。
【請求項3】
リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物を加熱する工程を含み、前記混合物中のリチウム、鉄及びマンガンの比率が、リチウム:鉄:マンガンを、1+m(0.5≦m≦2):x(0<x≦1):2−x(0<x≦1)である、請求項1又は2に記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
加熱温度が600℃以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物を含む、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極。
【請求項7】
さらに、導電助剤を含む、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のリチウムイオン二次電池用正極を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム鉄マンガン系複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー貯蔵デバイスの中で最も重要な位置を占めるものであり、近年では、プラグインハイブリッド用自動車電池等、その用途が拡大しつつある。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極に関し、現在、LiCoO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3などの正極活物質が主流となっている(非特許文献1及び2)。しかしながら、これらの正極活物質を含む正極材料には、コバルト、ニッケルなどの希少金属が大量に含まれているため高価であり、さらに、助燃性も強いため発熱事故等を引き起こす要因となっている。
【0004】
そこで、現在では、このような問題を解決可能な正極活物質として、自然界に豊富に存在する元素である鉄を利用し、強固なポリアニオン酸骨格により助燃性を大幅に抑制した鉄系ポリ(オキソ)アニオン材料、特にLiFePOが注目されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Solid State Ionics,3−4,171−174,1981
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc.,151(6),A914−A921,2004
【非特許文献3】J.Electrochem.Soc.,144(4),1188−1194,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、LiFePOは、1分子あたり1Li分しか可逆的に挿入及び脱離をすることができないため充放電容量が低く、高い充放電容量を達成するために1Li以上の脱離及び挿入が可能な正極活物質が求められている。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池用正極活物質として有用な新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した本発明の課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた。その結果、特定の組成を有するリチウム鉄マンガン系複合酸化物の合成に成功した。さらに、当該リチウム鉄マンガン系複合酸化物は、リチウムイオンの挿入及び脱離が可能であり、リチウムイオン二次電池用正極活物質として使用できる程度に高い理論充放電容量を示すことを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいてさらなる研究を重ねることにより本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、代表的には以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
組成式:
Li1+mFeMn2−x4
[式中、mは0<m≦2を示す。xは0<x≦1を示す。]
で表されるリチウム鉄マンガン系複合酸化物。
項2.
正方晶構造又は立方晶構造を有する、上記項1に記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物。
項3.
岩塩型構造を有する、上記項1又は2に記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物。
項4.
平均粒子径が0.01〜50μmである、上記項1〜3のいずれかに記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物。
項5.
リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物を加熱する工程を含む、上記項1〜4のいずれかに記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法。
項6.
加熱温度が600℃以上である、上記項5に記載の方法。
項7.
上記項1〜4のいずれかに記載のリチウム鉄マンガン系複合酸化物を含む、リチウムイオン二次電池用正極活物質。
項8.
上記項7に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む、リチウムイオン二次電池用正極。
項9.
さらに、導電助剤を含む、上記項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極。
項10.
上記項8又は9に記載のリチウムイオン二次電池用正極を含む、リチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウム鉄マンガン系複合酸化物は、一つ以上のリチウムイオンを脱離及び挿入することができるため、リチウムイオン二次電池用正極活物質として使用することができる。特に、本発明のリチウム鉄マンガン系複合酸化物を正極活物質として用いることにより、高い充放電容量を発揮するリチウムイオン二次電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られたLiFeMnOのX線回折パターンを示す図である。
図2】実施例1において焼成温度を800℃とした場合に得られたLiFeMnOのX線回折パターンと、他のリチウムマンガン系複合酸化物(LiNiMnO、LiCoMnO、及びLiMn)のX線回折パターンと比較した結果を示す図である。
図3】実施例1において焼成温度を800℃とした場合に得られたLiFeMnOの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す図である。
図4】実施例2で用いた試験用セルの断面図である。
図5】実施例2で行った充放電特性の測定結果(0.05Cレート;55℃)を示す図である。
図6】実施例2で行った充放電特性の測定結果(0.05Cレート;25℃)を示す図である。
図7】実施例2で行った充放電特性の測定結果(0.1Cレート)を示す図である。
図8】実施例2で行ったカーボンとPVDFのみの電極の充放電特性の測定結果を示す。
図9】実施例2で行ったレート特性の測定結果を示す図である。
図10】実施例2で行った充放電特性の測定結果(0.05Cレート)を示す図である。なお、放電から開始した結果である。
図11】比較例1で得られたLiFeMnOのX線回折パターンを示す図である。
図12】比較例1において焼成温度を800℃とした場合に得られたLiFeMnOの走査型電子顕微鏡(SEM)による観察結果を示す図である。
図13】比較例2で行った初期充放電特性の測定結果(0.05Cレート;55℃)を示す。
図14】比較例2で行った高次サイクルにおける充放電特性の測定結果(0.05Cレート;55℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、数値範囲を示す場合、当該数値範囲はいずれも両端の数値を含む。
【0013】
1.リチウム鉄マンガン系複合酸化物
本発明のリチウム鉄マンガン系複合酸化物は、組成式:
Li1+mFeMn2−x4
[式中、mは0<m≦2を示す。xは0<x≦1を示す。]
で表される化合物である。なお、以下において、当該化合物を「本発明の化合物」と記載する場合がある。
【0014】
上記組成式において、mは、0<m≦2であり、リチウムイオンの挿入及び脱離のし易さ、並びに容量及び電位の観点からは、0<m≦1.5が好ましく、0.5≦m≦1.5がより好ましく、0.75≦m≦1.25がさらに好ましい。xは、0<x≦1であり、リチウムイオンの挿入及び脱離のし易さ、並びに容量及び電位の観点からは、0.25≦x≦1が好ましく、0.5≦x≦1がより好ましく、0.75≦x≦1がさらに好ましい。
【0015】
本発明の化合物としては、具体的には、LiFeMnOが挙げられる。
【0016】
本発明の化合物の結晶構造は、正方晶構造又は立方晶構造であることが好ましく、正方晶構造であることがより好ましい。特に、本発明の化合物は、正方晶構造又は立方晶構造が主相であることが好ましく、正方晶構造が主相であることがより好ましい。本発明の化合物において、主相である結晶構造の存在量は特に限定的ではなく、本発明の化合物全体を基準として80mol%以上であることが好ましく、90mol%以上であることがより好ましい。このため、本発明の化合物は、単相の結晶構造からなる材料とすることもできるし、本発明の効果を損なわない範囲で、他の結晶構造を有する材料とすることもできる。なお、本発明の化合物の結晶構造は、X線回折測定により確認することができる。また、本発明の化合物が正方晶構造である場合、岩塩型構造であることが好ましい。
【0017】
本発明の化合物は、CuKα線によるX線回折図において、種々の位置にピークを有する。例えば、回折角2θが18〜20°、37〜39°、43〜45°、61〜68°、70〜77°、及び78〜82°等にピークを有することが好ましい。中でも、43〜45°に最も高いピークを、61〜68°に2番目に高いピークを有することが好ましい。
【0018】
本発明の化合物の平均粒子径は特に限定的ではなく、性能向上の観点から0.01〜50μmであることが好ましく、0.1〜50μmであることがより好ましく、0.5〜25μmであることがさらに好ましい。なお、本発明の化合物の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認することができる。
【0019】
2.リチウム鉄マンガン系複合酸化物の製造方法
本発明の化合物の製造方法は、リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物を加熱する工程を含む。なお、以下において、本発明の化合物の製造方法を「本発明の製造方法」と記載する場合がある。
【0020】
本発明の製造方法において、リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物を得るための原料化合物としては、最終的に混合物中にリチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とが所定の比率で含まれていればよく、例えば、リチウム含有化合物、鉄含有化合物、マンガン含有化合物、酸素含有化合物等を用いることができる。
【0021】
リチウム含有化合物、鉄含有化合物、マンガン含有化合物、酸素含有化合物等の各化合物の種類については特に限定的ではなく、リチウム、鉄、マンガン、及び酸素の各元素を1種類ずつ含む4種類又はそれ以上の化合物を混合して用いることもでき、また、リチウム、鉄、マンガン及び酸素のうち、2種類又はそれ以上の元素を同時に含む化合物を原料の一部として用い、4種類未満の化合物を混合して用いることもできる。
【0022】
これらの原料化合物としては、リチウム、鉄、マンガン、及び酸素以外の金属元素(特に、希少金属元素)を含まない化合物が好ましい。また、原料化合物中に含まれるリチウム、鉄、マンガン、及び酸素の各元素以外の元素については、後述する加熱処理により離脱又は揮発していくものであることが好ましい。
【0023】
このような原料化合物の具体例としては以下の化合物が挙げられる。
【0024】
リチウム含有化合物としては、金属リチウム(Li);酸化リチウム(LiO);臭化リチウム(LiBr);フッ化リチウム(LiF);ヨウ化リチウム(LiI);シュウ酸リチウム(Li);水酸化リチウム(LiOH);硝酸リチウム(LiNO);塩化リチウム(LiCl);炭酸リチウム(LiCO)などが挙げられる。
【0025】
鉄含有化合物としては、金属鉄(Fe);酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)等の鉄酸化物;臭化鉄(II)(FeBr)、塩化鉄(II)(FeCl);水酸化鉄(II)(Fe(OH))、水酸化鉄(III)(Fe(OH))等の鉄水酸化物;炭酸鉄(II)(FeCO)、炭酸鉄(III)(Fe(CO)等の鉄炭酸塩;シュウ酸鉄(II)(FeC)等が挙げられる。
【0026】
マンガン含有化合物としては、金属マンガン(Mn);酸化マンガン(II)(MnO)、酸化マンガン(IV)(MnO)等のマンガン酸化物;水酸化マンガン(II)(Mn(OH))、水酸化マンガン(IV)(Mn(OH))等のマンガン水酸化物;炭酸マンガン(II)(MnCO)等のマンガン炭酸塩;シュウ酸マンガン(II)(MnC)等が挙げられる。
【0027】
酸素含有化合物としては、水酸化リチウム(LiOH);炭酸リチウム(LiCO);酸化鉄(II)(FeO)、酸化鉄(III)(Fe)等の鉄酸化物;水酸化鉄(II)(Fe(OH))、水酸化鉄(III)(Fe(OH))等の鉄水酸化物;炭酸鉄(II)(FeCO)、炭酸鉄(III)(Fe(CO)等の鉄炭酸塩;シュウ酸鉄(II)(FeC);酸化マンガン(II)(MnO)、酸化マンガン(IV)(MnO)等のマンガン酸化物;水酸化マンガン(II)(Mn(OH))、水酸化マンガン(IV)(Mn(OH))等のマンガン水酸化物;炭酸マンガン(II)(MnCO)等のマンガン炭酸塩;シュウ酸マンガン(II)(MnC)等が挙げられる。
【0028】
なお、これらの原料化合物は水和物を使用することもできる。
【0029】
また、本発明の製造方法において使用する原料化合物は、市販品を用いることもできるし、適宜合成して使用することもできる。各原料化合物を合成する場合の合成方法は特に限定的ではなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0030】
これら原料化合物の形状については特に制限されない。取り扱い易さ等の観点からは、粉末状であることが好ましい。また、反応性の観点からは、粒子が微細である方が好ましく、平均粒子径が1μm以下(好ましくは、10〜200nm程度、特に好ましくは60〜80nm程度)の粉末状であることがより好ましい。なお、原料化合物の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0031】
リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物は、上記した原料化合物のうち必要な材料を混合することにより得ることができる。
【0032】
各原料化合物の混合割合については特に限定的ではなく、最終生成物である本発明の化合物が有する組成となるように混合することが好ましい。原料化合物の混合割合は、原料化合物に含まれる各元素の比率が、生成される本発明の化合物中の各元素の比率と同一となるようにすることが好ましい。
【0033】
リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物を調製するための方法としては特に限定的ではなく、各原料化合物を均一に混合できる方法を採用することができる。例えば、乳鉢混合、メカニカルミリング処理、共沈法、各原料化合物を溶媒中に分散させた後に混合する方法、各原料化合物を溶媒中で一度に分散させて混合させる方法などを採用することができる。これらの中でも、乳鉢混合を採用することにより簡便な方法によって混合物を得ることができ、また、共沈法を採用することにより均一な混合物を得ることができる。
【0034】
また、混合手段としてメカニカルミリング処理を行う場合、メカニカルミリング装置としては、例えば、ボールミル、振動ミル、ターボミル、ディスクミル等を用いることができ、中でもボールミルが好ましい。また、メカニカルミリング処理を行う場合には、混合と加熱を同時に行うことが好ましい。
【0035】
混合時及び加熱時の雰囲気は不活性雰囲気であれば特に限定的ではなく、例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気、水素ガス雰囲気などを採用することができる。また、真空等の減圧下で混合及び加熱を行ってもよい。
【0036】
リチウムと、鉄と、マンガンと、酸素とを含む混合物を加熱する際に、加熱温度としては特に限定的ではなく、得られる本発明の化合物の結晶性及び電極特性(容量及び電位)をより向上させる観点から、600℃以上とすることが好ましく、700℃以上とすることがより好ましく、800℃以上とすることがさらに好ましく、900℃以上とすることが特に好ましい。なお、加熱温度の上限については特に限定的ではなく、本発明の化合物の製造を容易に行うことができる程度の温度(例えば、1500℃程度)であればよい。換言すると、加熱温度としては、600〜1500℃とすることが好ましく、700〜1500℃とすることがより好ましく、800〜1500℃とすることがさらに好ましく、900〜1500℃とすることが特に好ましい。
【0037】
3.リチウムイオン二次電池用正極活物質
本発明の化合物は、上記した組成及び結晶構造を有しているため、リチウムイオンを挿入及び脱離できることから、リチウムイオン二次電池用正極活物質として用いることができる。従って、本発明は、上記した本発明の化合物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質を包含する。なお、以下において、本発明の化合物を含むリチウムイオン二次電池用正極活物質を「本発明の正極活物質」と記載する場合がある。
【0038】
本発明の正極活物質は、上記した本発明の化合物と炭素材料(例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラックなどの材料)とが複合体を形成していてもよい。これにより、焼成時に炭素材料が粒子成長を抑制するため、電極特性に優れた微粒子のリチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることが可能となる。この場合、炭素材料の含有量は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質中に好ましくは1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%、特に好ましくは5〜15質量%である。
【0039】
本発明の正極活物質は、上記した本発明の化合物を含有している。本発明の正極活物質は、上記した本発明の化合物のみで構成されていてもよいし、本発明の化合物の他に不可避不純物を含んでいてもよい。このような不可避不純物としては、上記した原料化合物などを挙げられる。不可避不純物の含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲で、10mol%以下、好ましくは5mol%以下、より好ましくは2mol%以下である。
【0040】
4.リチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池は、上記した本発明の化合物を正極活物質として使用すること以外は、基本的な構造は、公知の非水電解液(非水系)リチウムイオン二次電池用正極及び非水電解液(非水系)リチウムイオン二次電池と同様の構成を採用することができる。例えば、正極、負極、及びセパレータを、当該正極及び負極がセパレータによって互いに隔離されるように電池容器内に配置することができる。その後、非水電解液を当該電池容器内に充填した後、当該電池容器を密封することなどによって本発明のリチウムイオン二次電池を製造することができる。なお、本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウム二次電池であってもよい。本明細書において、「リチウムイオン二次電池」は、リチウムイオンをキャリアイオンとする二次電池を意味し、「リチウム二次電池」は、負極活物質としてリチウム金属又はリチウム合金を使用する二次電池を意味する。
【0041】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、上記した本発明の化合物を含む正極活物質を正極集電体に担持した構造を採用することができる。例えば、上記した本発明の化合物、導電助剤、及び必要に応じて結着剤を含有する正極材料を、正極集電体に塗布することにより製造することができる。
【0042】
導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維、カーボンナノファイバー、黒鉛、コークス類等の炭素材料を用いることができる。導電助剤の形状は特に限定的ではなく、例えば、粉末状等を採用することができる。
【0043】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂を用いることができる。
【0044】
正極材料中の各種成分の含有量としては特に限定的ではなく、広い範囲内から適宜決定することができる。例えば、上記した本発明の化合物を50〜95体積%(特に、70〜90体積%)、導電助剤を2.5〜25体積%(特に、5〜15体積%)、及び結着剤を2.5〜25体積%(特に、5〜15体積%)含有することが好ましい。
【0045】
正極集電体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、白金、モリブデン、ステンレス等が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。
【0046】
なお、正極集電体に対する正極材料の塗布量は特に限定的ではなく、リチウムイオン二次電池の用途等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0047】
負極を構成する負極活物質としては、例えば、リチウム金属;ケイ素;ケイ素含有Clathrate化合物;リチウム合金;M(M:Co、Ni、Mn、Sn等、M:Mn、Fe、Zn等)で表される三元又は四元酸化物;M(M:Fe、Co、Ni、Mn等)、M(M:Fe、Co、Ni、Mn等)、MnV、M(M:Sn、Ti等)、MO(M:Fe、Co、Ni、Mn、Sn、Cu等)等で表される金属酸化物;黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン、グラフェン;上記した炭素材料;Li、Li、Li16などのような有機系化合物等が挙げられる。
【0048】
リチウム合金としては、例えば、リチウム及びアルミニウムを構成元素として含む合金、リチウム及び亜鉛を構成元素として含む合金、リチウム及び鉛を構成元素として含む合金、リチウム及びマンガンを構成元素として含む合金、リチウム及びビスマスを構成成分として含む合金、リチウム及びニッケルを構成元素として含む合金、リチウム及びアンチモンを構成元素として含む合金、リチウム及びスズを構成元素として含む合金、リチウム及びインジウムを構成元素として含む合金;金属(スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル等)とカーボンを構成元素として含むMXene系合金、MBC系合金(M:Sc、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta等)等の四元系層状炭化又は窒化化合物等が挙げられる。
【0049】
負極は、負極活物質から構成することもでき、また、負極活物質、導電助剤、及び必要に応じて結着剤を含有する負極材料が負極集電体上に担持する構成を採用することもできる。負極材料が負極集電体上に担持する構成を採用する場合、負極活物質、導電助剤、及び必要に応じて結着剤を含有する負極合剤を、負極集電体に塗布することで製造することができる。
【0050】
負極が負極活物質から構成する場合、上記の負極活物質を電極に適した形状(板状等)
に成形して得ることができる。
【0051】
また、負極材料が負極集電体上に担持する構成を採用する場合、導電助剤及び結着剤の種類、並びに負極活物質、導電助剤及び結着剤の含有量は上記した正極のものを適用することができる。負極集電体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等が挙げられる。前記負極集電体の形状としては、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。なお、負極集電体に対する負極材料の塗布量は、リチウムイオン二次電池の用途等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0052】
セパレータとしては、電池中で正極と負極とを隔離し、かつ電解液を保持して正極と負極との間のイオン伝導性を確保することができる材料からなるものであれば制限はない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、末端アミノ化ポリエチレンオキシド等のポリオレフィン樹脂;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。
【0053】
非水電解液は、リチウムイオンを含む電解液が好ましい。このような電解液としては、例えば、リチウム塩の溶液、リチウムを含む無機材料で構成されるイオン液体等が挙げられる。
【0054】
リチウム塩としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム、過塩素酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム等のリチウム無機塩化合物;ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム、ビス(パフルオロエタンスルホニル)イミドリチウム、安息香酸リチウム、サリチル酸リチウム、フタル酸リチウム、酢酸リチウム、プロピオン酸リチウム、グリニャール試薬等のリチウム有機塩化合物等が挙げられる。
【0055】
また、溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメトルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート化合物;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどのラクトン化合物;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メトキシメタン、グライム、ジメトキシエタン、ジメトキメタン、ジエトキメタン、ジエトキエタン、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル化合物;アセトニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド;N−プロピル−N−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。
【0056】
また、上記非水電解液の代わりに固体電解質を使用することもできる。固体電解質としては、例えば、Li10GeP12、Li11、LiLaZr12、La0.51Li0.34TiO2.94等のリチウムイオン伝導体等が列挙される。
【0057】
このような本発明のリチウムイオン二次電池は、本発明の化合物が用いられているので、酸化還元反応(充放電反応)に際し、より高い電位及びエネルギー密度を確保することができ、しかも、安全性(ポリアニオン骨格)及び実用性に優れる。したがって、本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、小型化及び高性能化が求められるデバイス等に好適に用いることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0059】
実施例1:LiFeMnOの合成
原料粉体として、LiCO(レアメタリック社製;99.9%(3N))、Fe・2HO(純正化学社製;99.9%(3N))、及びMnO(レアメタリック社製;99.99%(4N))を用いた。LiCO、Fe・2HO、及びMnOをリチウム:鉄:マンガン(モル比)が2:1:1となるように秤量し、ジルコニアボール(15mmΦ×10個)と共にクロム鋼製容器に入れ、アセトンを加えて遊星ボールミル(Fritsch社製、商品名:P−6)にて、400rpmで24時間粉砕混合した。その後、減圧下でアセトンを除去した後、回収した粉末を手押しでペレット成型し、アルゴン気流下にて600℃、700℃、800℃、900℃、又は1000℃で1時間焼成した。このとき、昇温速度を400℃/hとした。また、冷却速度は300℃まで100℃/hとし、以降は自然冷却により室温まで放冷した。得られた各生成物(LiFeMnO)を粉末X線回折(XRD)により確認した。結果を図1に示す。
【0060】
なお、粉末X線回折(XRD)測定には、X線回折測定装置(リガク社製、商品名:RINT2200)を使用し、X線源はモノクロメーターで単色化されたCuKαを使用した。測定条件は、管電圧を5kV、管電流を300mAとしてデータ収集を行った。このとき、強度を約10000カウントとなるよう、走査速度を設定した。また、測定に使用する試料は粒子が均一となるように十分に粉砕した。構造解析には、リートベルト解析を行い、解析プログラムにはJANA−2006を使用した。
【0061】
図1から、焼成温度が600℃以上である場合には、少なくとも2θ値30〜65°に複数の主要ピークが見られることが確認された。これらのピークは、単相のLiFeMnOに対応することから、生成物として単相のLiFeMnOが得られていることが分かった。また、前記2θ値35〜65°に見られるピークは、焼成温度が高いほど強いピークとなっていることから、焼成温度は高い方が好ましいことが分かった。
【0062】
また、図1から、得られたLiFeMnOの結晶は、粉末X線回折によるX線回折パターンにおいて、2θで表される回折角度が18〜20°、37〜39°、43〜45°、61〜68°、70〜77°、及び78〜82°にピークを有することが分かった。当該結果から、得られたLiFeMnOの結晶は、正方晶構造(空間群P4/nbm)を有し、格子定数がa=b=3.596〜3.610Å、c=14.366〜14.498Å、α=β=γ=90°であり、単位格子体積(V)が187.2〜187.5Åである結晶であることが分かった。また、c/a=3.9950であることから、得られたLiFeMnOの結晶は、岩塩型構造を有することが分かった。
【0063】
さらに、焼成温度を800℃とした場合に得られたLiFeMnOと、他の既知のリチウムマンガン系複合酸化物(LiNiMnO、LiCoMnO、及びLiMn)とのX線回折パターンを比較した結果を図2に示す。なお、LiNiMnO、LiCoMnO、及びLiMnは、原料化合物を変更したこと以外は上記と同様の方法で合成した試料である。また、LiFeMnO、LiNiMnO、LiCoMnO、及びLiMn、並びにその他の鉄マンガン系複合酸化物(KFeMnO、NaFeMnO、MgFeMnO、LiFeMnO)の各格子定数の比較を下記表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
図2から、LiFeMnOと、他のリチウムマンガン系複合酸化物(LiNiMnO、LiCoMnO、及びLiMn)とは、全く異なるX線回折パターンを示すことが確認された。
【0066】
さらに、焼成温度を800℃とした場合に得られたLiFeMnOを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。結果を図3に示す。なお、図3中、スケールバーは7.69μmを示す。図3から、粒子径約1〜20μmのLiFeMnOが得られていることが分かった。
【0067】
実施例2:充放電特性の測定
充放電測定を行うために、上記実施例1において焼成温度800℃の場合に得られたLiFeMnO、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びアセチレンブラック(AB)が体積比85:7.5:7.5となるようにめのう乳鉢で混合し、得られたスラリーを正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ20μm)上に塗布し、これを直径8mmの円形に打ち抜き、正極とした。また、試料が正極集電体から剥がれないようにするため、30〜40mPaで圧着した。
【0068】
負極には14mmφで打ち抜いた金属リチウムを使用し、セパレータは18mmφで切り抜いた多孔質膜(商品名:celgard 2500)を2枚使用した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:2で混合した溶媒に支持電解質としてLiPFを1mol/dmの濃度で溶解した電解液(岸田化学社製)を使用した。電池の作製は、金属リチウムを使用すること、及び電解液に水分が混入した場合に抵抗増分増加の要因となること等の理由により、アルゴン雰囲気下のグローブブックス内で行った。セルは、図4に示すCR2032型コインセルを用いた。定電流充放電特性の測定は、0.05Cレート又は0.1Cレートで、電圧切り替え器を用い、電流10mA/g、上限電圧4.8V、下限電圧1.5Vに設定し、充電より開始した。また、充放電測定は、55℃恒温槽内にセルを入れた状態又は室温(25℃)で行った。0.05Cレート(55℃)での充放電特性の測定結果(各サイクルと放電容量との関係)を図5に、0.05Cレート(25℃)での充放電特性の測定結果(各サイクルと放電容量との関係)を図6に、0.1Cレート(55℃)での充放電特性の測定結果(各サイクルと放電容量との関係)を図7に示す。なお、Cレートとは電極活物質から理論容量分の充放電を1時間で行うのに必要な電流密度のことをいう。
【0069】
図5に示すように、0.05Cレート(55℃)において初期充電容量は280mAh/g(約1.9Li分)であり、LiFeMnOの理論容量は約285mAh/gであることから、理論容量に極めて近い値が得られたことが分かった。また、平均作動電圧は2.8Vであり、かつ可逆的に引き出せる充放電容量は約250mAh/g(約1.8Li分)である。これは700Wh/kgに相当するエネルギー密度であり、LiFeMnOは高容量・高エネルギー密度を有する正極活物質として大いに期待される。また、図6から、室温においてはせいぜい1Li分の容量しか可逆的に脱離・挿入しないことが確認された。当該結果から、LiFeMnOは、作動温度を上げることによって性能を最大に引き出せることが分かった。さらに、図7から、0.1Cレートにおいて初期放電と高次サイクルに良好なサイクル特性が得られることが分かった。また、0.1Cレートにおいて引き出せる容量は約200mAh/gであることが分かった。
【0070】
また、LiFeMnOを用いないこと以外は上記と同様にして正極を作製し、上記と同様の条件によりC/20レート(55℃)で充放電試験を行った。結果を図8に示す。
【0071】
図8から、LiFeMnOを用いない電極では充放電容量が得られないことが確認された。図5図8とを比較することにより、図5において示された高い充放電容量は、LiFeMnOに由来するものであることが分かった。
【0072】
さらに、LiFeMnOのレート特性を検討した。具体的には、0.05Cレートで充電を行った後、0.05Cレート、0.1Cレート、又は0.2Cレートにおける初回放電容量を測定した。結果を図9に示す。
【0073】
図9から、0.1Cレートにおいて得られる容量は225mAh/gであり、0.2Cレートにおいて得られる容量は100mAh/gであった。これらの結果から、LiFeMnOは、良好なレート特性を示すことが分かった。
【0074】
また、0.05Cレートで、放電から開始したこと以外は上記と同様にして電流充放電特性の測定を行った。結果を図10に示す。
【0075】
図10から、初期放電後、LiFeMnOから引き出せる容量は約360mAh/gであった。当該結果から、LiFeMnOを初回放電する、即ち、さらにリチウムを挿入すると、より高い容量が得られることが分かった。従って、LiFeMnOは、高容量の正極活物質として大いに期待される。
【0076】
比較例1:LiFeMnOの合成
原料粉体としてLiCO(レアメタリック社製;99.9%(3N))、Fe(純正化学、99.9%(3N))、及びMnO(レアメタリック、99.99%(4N))を用いた。LiCO、Fe及びMnOをリチウム:鉄:マンガン(モル比)が1:1:となるように秤量し、めのう乳鉢で約30分混合して原料混合物を得た。その後、原料混合物をジルコニアボール(15mmΦ×10個)と共にクロム鋼製容器に入れ、アセトンを加えて遊星ボールミル(Fritsch;P−6)にて、400rpmで6時間粉砕混合した。その後、減圧下でアセトンを留去したのち、回収した粉末を40MPaでペレット成型し、空気中、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃、又は900℃で3時間焼成した。その後は自然冷却により室温まで放冷した。得られた各生成物を実施例1と同様にして粉末X線回折(XRD)により確認した。結果を図11に示す。
【0077】
図11から、得られたLiFeMnOの結晶は、立方晶(空間群Fd−3m)を有し、格子定数がa=b=c=8.286〜8.306Å、α=β=γ=90°であり、単位格子体積(V)が568.9〜573.0Åである結晶であることが分かった。また、c/a=1であることから、得られたLiFeMnOの結晶は、スピネル型構造を有することが分かった。
【0078】
さらに、焼成温度を800℃とした場合に得られたLiFeMnOを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。結果を図12に示す。なお、図12中、スケールバーは1.53μmを示す。図12から、粒子径約0.3〜3μmのLiFeMnOが得られていることが分かった。
【0079】
比較例2:充放電特性の測定
充放電測定を行うために、上記比較例1において焼成温度800℃の場合に得られたLiFeMnO、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、及びアセチレンブラック(AB)が体積比85:7.5:7.5となるようにめのう乳鉢で混合し、得られたスラリーを正極集電体であるアルミニウム箔(厚さ20μm)上に塗布し、これを直径8mmの円形に打ち抜き、正極とした。また、試料が正極集電体から剥がれないようにするため、30〜40mPaで圧着した。
【0080】
負極には14mmφで打ち抜いた金属リチウムを使用し、セパレータは18mmφで切り抜いた多孔質膜(商品名:celgard 2500)を2枚使用した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)を体積比1:2で混合した溶媒に支持電解質としてLiPFを1mol/dmの濃度で溶解した電解液(岸田化学社製)を使用した。電池の作製は、金属リチウムを使用すること、及び電解液に水分が混入した場合に抵抗増分増加の要因となること等の理由により、アルゴン雰囲気下のグローブブックス内で行った。セルは、図4に示すCR2032型コインセルを用いた。定電流充放電特性の測定は、0.05Cレートで、電圧切り替え器を用い、電流10mA/g、上限電圧4.8V、下限電圧1.5Vに設定し、充電より開始した。また、充放電測定は、55℃恒温槽内にセルを入れた状態で行った。0.05Cレート(55℃)での初期充放電特性の測定結果(各サイクルと放電容量との関係)を図13に、0.05Cレート(55℃)での高次サイクルにおける充放電特性の測定結果(各サイクルと放電容量との関係)を図14に示す。なお、Cレートとは電極活物質から理論容量分の充放電を1時間で行うのに必要な電流密度のことをいう。
【0081】
図13に示すように、スピネル型LiFeMnOの0.05Cレートにおける初期充放電容量は130mAh/gであることが確認された。実施例1で得られた岩塩型LiFeMnOと比較すると、スピネル型LiFeMnOの初期充放電容量は、岩塩型LiFeMnOよりも大きく劣ることが分かった。
【0082】
さらに、図14から、スピネル型LiFeMnOは、比較的安定な作動特性を有するものの、抽出できる容量は岩塩型岩塩型LiFeMnOに比して大きく劣ることが分かった。
【符号の説明】
【0083】
1 リチウムイオン二次電池
2 負極端子
3 負極
4 電解液が含浸されたセパレータ
5 絶縁パッキング
6 正極
7 正極缶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14