特許第6927710号(P6927710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927710
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】フィルター
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20210823BHJP
   D04H 1/541 20120101ALI20210823BHJP
   D04H 1/76 20120101ALI20210823BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20210823BHJP
【FI】
   B01D39/16 E
   B01D39/16 A
   D04H1/541
   D04H1/76
   D04H3/14
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-23436(P2017-23436)
(22)【出願日】2017年2月10日
(65)【公開番号】特開2018-126721(P2018-126721A)
(43)【公開日】2018年8月16日
【審査請求日】2019年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507416827
【氏名又は名称】JNCフィルター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 修
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−097979(JP,A)
【文献】 特開平11−279922(JP,A)
【文献】 特開平04−215812(JP,A)
【文献】 特開2000−024427(JP,A)
【文献】 特開2001−149720(JP,A)
【文献】 特開2004−218595(JP,A)
【文献】 不織布の製造と応用,シーエムシー,2000年04月30日,34頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D39/00−41/04
B01D23/00−35/04
B01D35/08−37/08
D04H1/00−18/04
B01D46/00−46/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、濾過層と、表皮層と、を有するフィルターであって、
前記基材層は、不織布が多重に巻回され、熱圧着されてなる層であって、空隙率が61〜84%、かつ、0.5MPaの荷重を掛けたときの圧縮比が0.18以下であり、しかも、当該基材層の不織布を構成する繊維が、高融点成分と低融点成分との融点差が10℃以上である熱融着性複合繊維を含み、
前記濾過層は、厚み方向にも繊維が配向している不織布と、ネットとを積層した積層体が多重に巻回されてなる層であって、濾過層中の層間は接着されておらず、
前記表皮層は、不織布を含む層であって、表皮層を構成する不織布の平均繊維径は、前記濾過層を構成する不織布の平均繊維径の2〜20倍である、フィルター。
【請求項2】
前記基材層の不織布と前記表皮層の不織布とが、同一の不織布である、請求項1に記載のフィルター。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフィルターを有する、円筒型フィルター
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラリーや、固形分を含むゲル状流体を濾過するためのフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
スラリーや、固形分を含むゲル状流体を濾過するためのフィルターでは、必要な濾過精度を確保し、フィルターの使用可能時間や累積流量(濾過ライフ)を長くするために、多層構造を採用することが知られている。
【0003】
特許文献1は、粘性流体の濾過において、濾過精度が差圧により変化したり、フィルター寿命が短くなる問題を解消したりするとともに、脈圧や高差圧が生じても柔らかいゲル状固形物を捕捉しうるフィルターを提案している。特許文献1の発明は、フィルターの主濾過層において、圧着処理して空隙率50〜80%とした第一の主濾過層と、圧着処理していない空隙率80%以上の第二の主濾過層とを有し、第二の主濾過不織布は、空隙率が第一の主濾過不織布の1.2倍以上となるように構成するものである。
【0004】
また、濾過後の乾燥時間の短縮や揮発した液体の凝縮量の減容化を図るために、フィルターに通される流体の固形分濃度は、高いことが好ましい。しかしながら、固形分濃度が高くなると、固形分である粉体粒子同士の相互作用が強まり、粘度が増加するなどして、流体の流動性が低下する傾向がある。このような流体では、粉体の粒子がフィルターを通過するときに、粉体の凝集(ブリッジ)が生じてみかけ粒径が増大することによって、フィルターの目詰まりが生じる問題が知られている。ブリッジの発生はフィルターの濾過ライフを縮めるだけでなく、濾過後の製品の歩留まり低下にも繋がるため、ブリッジの発生を抑止できるフィルターが検討されている。
【0005】
特許文献2は、多層構造のフィルター中の濾過層に着目し、濾過層を構成する不織布の厚み方向の繊維密度を疎密化すること、すなわち、濾過層において積層された不織布の層間に適度な間隙を付与することで、流体に含まれる粉体の分散を図り、ブリッジの形成を抑制することを提案している。特許文献2の発明は、さらに特定の構成によって他の層の細孔径も制御することで、ブリッジの発生を抑え、濾過精度にも優れたフィルターを提供しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-137121号公報
【特許文献2】特開2015-97979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、より高濃度あるいは高粘度の流体を濾過することが可能で、かつ濾過ライフの長いフィルターが求められている。すなわち本発明は、固形分を含む流体の濾過用フィルターであって、高濃度あるいは高粘度の流体に対しても濾過精度が高く、濾過ライフの長いフィルターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者は前記課題を解決するために検討を進め、基材層、濾過層及び表皮層の3層を有するフィルターにおいて、ブリッジの発生を抑止するためには、濾過層の構成に加えて、濾過層の下流側の層である基材層の構成が大きく影響することを見出した。そして、基材層の空隙率及び圧縮比を特定の範囲内にすることによって、高濃度あるいは高粘度の流体を濾過する場合にも濾過ライフが長く、濾過精度にも優れたフィルターが得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は以下の構成を有する。
[1]基材層と、濾過層と、表皮層と、を有するフィルターであって、
前記基材層は、不織布が多重に巻回され、熱圧着されてなる層であって、空隙率が0.61〜0.84、かつ、0.5MPaの荷重を掛けたときの圧縮比が0.18以下であり、
前記濾過層は、厚み方向にも繊維が配向している不織布とネットとを積層した積層体が多重に巻回されてなる層であって、濾過層中の層間は接着されておらず、
前記表皮層は、不織布を含む層であって、表皮層を構成する不織布の平均繊維径は、前記濾過層を構成する不織布の平均繊維径の2倍以上である、フィルター。
[2]前記基材層の不織布を構成する繊維が、高融点成分と低融点成分との融点差が10℃以上である熱融着性複合繊維を含む、[1]に記載のフィルター。
[3]前記表皮層の不織布を構成する繊維の平均繊維径が、前記濾過層を構成する繊維の平均繊維径の2〜20倍である、[1]又は[2]に記載のフィルター。
[4]前記基材層の不織布と前記表皮層の不織布とが、同一の不織布である、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のフィルター。
[5][1]〜[4]のいずれか1項に記載のフィルターを有する、円筒型フィルター。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高濃度で粘性を有するスラリーや固形分を含む流体に対しても、濾過精度に優れるとともに、粉体の凝集(ブリッジ)が発生しにくく、濾過ライフの長いフィルターを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のフィルターは、基材層と、濾過層と、表皮層と、を有するフィルターであって、基材層は不織布が多重に巻回され、熱圧着されてなる層であって、空隙率が0.61〜0.84、かつ、0.5MPaの荷重を掛けたときの圧縮比が0.18以下であり、濾過層は、厚み方向にも繊維が配向している不織布とネットとを積層した積層体が多重に巻回されてなる層であって、濾過層中で不織布の層がネットによって数層に分割されており、また、表皮層は、不織布を含む層であって、表皮層を構成する不織布の平均繊維径は、前記濾過層を構成する不織布の平均繊維径の2倍以上であるという構成を有する。
【0012】
本発明のフィルターは、平型、円筒型などさまざまな形とすることができる。特に、円筒型にすると、耐圧強度が高くなり、また、濾材部分のみ交換するいわゆるカートリッジフィルターとして使う場合には、フィルター容器の設計がしやすくなるため好ましい。
【0013】
<濾過層>
本発明のフィルターの濾過層は、基材層と表皮層の間に存在し、厚み方向にも繊維が配向している不織布とネットとを積層した積層体が多重に巻回されている。ここで、「厚み方向にも繊維が配向している不織布」とは、不織布の厚み方向(濾過する流体の流れ方向)と面方向(濾過する流体の垂直方向)との両方に繊維配向が分布している不織布を意味し、典型的には、構成繊維が曲率を持っている不織布を意味する。厚み方向にも繊維が配向している不織布は、空隙率が高く、弾性を有し、嵩高いという特徴を有する。このため、流体の圧力損失が低減され、高濃度で粘性を有する流体であっても滞留することなく濾過を行える。また、このような不織布とネットとを積層することで、実質的な濾過機能を担う濾過層不織布の間に適度な間隙が形成される。そのため濾過層内での流体ないし流体内の固形分の流動性が向上して、ブリッジの形成が抑制される。また、濾過層中の不織布の間に間隙を有することで、不織布の重層による細孔の狭小化や閉塞が回避されるため、濾過精度に優れる。さらに、濾過層中を構成する不織布の層がネットによって数層に分割されていることによって、濾過層内で不織布中の繊維がわずかに動くことができ、流体や流体中の固形分の流動性がさらに向上するとともに、ネットによって濾過層の形状が保持されるため、濾過性能が安定的に発揮される。
【0014】
構成繊維の曲率は、構成繊維の直径に対し、50〜500倍の範囲であることが好ましい。この値が500倍以下であることで、厚み方向の繊維の配向が十分なものとなり、前記の効果を得やすくなる。この値が50倍以上であることで、フィルターの円周方向の繊維の配向が十分なものとなる。
【0015】
一般的には、高空隙で嵩高な不織布は厚み方向の圧縮で容易に潰れる場合が多いが、本発明の濾過層に用いる不織布は、繊維を厚み方向にも配向させることで、厚み方向に対する強度を得ることができる。
【0016】
このような不織布は、安定した性能を維持するために、不織布中の繊維の交点で、繊維同士が融着及び/又は接着していることが好ましい。このことから、不織布を構成する繊維として熱融着性複合繊維が好ましく利用できる。熱融着性複合繊維の種類は、特に限定されず、公知の複合繊維を使用することができる。熱融着性複合繊維としては、融点差を有する2種類以上の成分からなる複合繊維が使用でき、具体的には、高融点成分と低融点成分とからなる複合繊維が例示できる。複合繊維の高融点成分としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン6,6、ポリ-L-乳酸などの熱可塑性樹脂が例示でき、複合繊維の低融点成分としては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなどのポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート共重合体、ポリ-DL-乳酸、プロピレン共重合体、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が例示できる。熱融着性複合繊維の高融点成分と低融点成分の融点差は、特に限定されないが、熱融着の加工温度幅を広くするためには、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。また、複合の形態は特に限定されないが、同心鞘芯型、偏心鞘芯型、並列型、海島型、放射状型などの複合形態を採用することができる。また、熱融着性複合繊維の断面形状も特に限定されないが、例えば、円、楕円、三角、四角、U型、ブーメラン型、八葉型などの異型、中空など、いずれの断面形状であってもよい。複合繊維として、例えば、PE/PP複合繊維、PE/PET複合繊維などが挙げられる。また、濾過物の特性や目的によって、フッ素系繊維やガラス繊維などの特殊繊維が混紡されていてもよい。
【0017】
本発明のフィルターの濾過層に用いる、厚み方向にも繊維が配向している不織布を構成する繊維の繊維径は、0.1〜200μmの範囲であることが好ましく、1〜100μmの範囲の繊維径であることがより好ましく、15〜60μmの範囲の繊維径であることが最も好ましい。0.1〜200μmの範囲の繊維径とすることで、得られる不織布は、嵩高性と弾性に優れる。細い繊維径の繊維を使用すれば、捕集効率は向上するが濾過ライフ(寿命)が短くなる傾向がある。そのため、15〜60μmの範囲の繊維径とすることで、濾過ライフと濾過精度のバランスが特に良好となる。
【0018】
厚み方向にも繊維が配向している不織布を構成する繊維の繊維径の分布は、狭いほど好ましい。具体的には、「繊維径の標準偏差÷平均値」の値が、0.3以下であることが好ましく、0.1以下であることが好ましく、0.08以下であることがさらに好ましい。繊維径分布を狭くするほど、濾過精度に優れたフィルターとなる。
【0019】
厚み方向にも繊維が配向している不織布の目付は、繊維の材質、繊維径や粒子捕集効率との関係で、ある程度規定されるが、例えば、5〜40g/mのものを用いることができ、より好ましくは、10〜30g/mのものである。目付が5〜40g/mであれば、濾過層の厚みと平均細孔径を調整するための選択範囲が広がるので、好ましい。
【0020】
不織布の繊維を厚み方向にも配向させる方法としては、例えば、不織布を構成する繊維として複合繊維を用いること、特に、繊維断面が非対称形である繊維、具体的には偏心鞘芯型複合繊維や並列型複合繊維を用いることができる。複合繊維の2つの成分として、熱収縮率が大きく異なるものを用いることで、いわゆるバイメタル効果により加熱工程で繊維に捲縮がかかるので、繊維の一部が厚み方向にも配向するようになる。
【0021】
不織布の繊維を厚み方向にも配向させる別の方法としては、不織布を構成する繊維として機械捲縮を有する短繊維を用い、その繊維同士をカード機で交絡させてウェブとし、得られたウェブを加熱処理して不織布とする方法がある。繊維の持つ機械捲縮と、カード機による交絡により、繊維の一部が厚み方向にも配向するようになる。
【0022】
厚み方向にも繊維が配向している不織布を構成する繊維は、長繊維、短繊維のいずれも用いることができるが、前記の効果を発揮するためには短繊維が望ましい。
【0023】
不織布中の繊維同士の交点を融着させる方法としては、繊維を熱風で加熱する方法、繊維を遠赤外線ヒーターで加熱する方法などが挙げられる。不織布の中で熱融着の程度を均質にするためには、繊維を熱風で加熱する方法が望ましい。
【0024】
また、濾過層に用いられるネットは、厚み方向にも繊維が配向している不織布間に挿入されて間隙を作り出すとともに、濾過層の形態を保持し、耐圧を維持・向上させるために用いられる。そのため、ネットは、50〜300μmの範囲の繊維径のモノフィラメントを用いることが好ましく、60〜280μmの範囲の繊維径のモノフィラメントを用いることがより好ましい。さらに、ネットの目合いは1〜5mmの範囲とすることが好ましく、1〜4mmの範囲とすることがより好ましい。この範囲のネットを用いることで、捕集効率に影響を与えず、かつフィルターの強度が確保されるため、より濾過ライフの長いフィルターを得ることができる。
【0025】
ネットを構成するモノフィラメントは、熱可塑性樹脂からなることが好ましく、単一構成繊維、複合繊維、混繊繊維が利用できる。モノフィラメントに使用できる熱可塑性樹脂は、溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂であれば特に限定されず、単一の熱可塑性樹脂を用いても、2種類以上の熱可塑性樹脂の混合物を用いてもよい。モノフィラメントが複合繊維の場合、例えば、熱融着性複合繊維で例示したような熱可塑性樹脂の組み合わせが使用できる。モノフィラメントが熱融着性複合繊維の場合、複合繊維を構成する樹脂のうち低融点の熱可塑性樹脂が繊維表面の少なくとも一部を覆っており、この低融点の熱可塑性樹脂により、熱融着性複合繊維同士が熱融着してなるネットを用いることもできる。モノフィラメントに熱融着性複合繊維を用いると、ネットの交点が接着し、ネットの強度が上がるため、成形されたフィルターの強度もさらに高くなり、ネットを用いた効果を得やすくなる。熱可塑性樹脂としては、例えば、PE、PP、PET、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,12等が挙げられ、PP又はナイロンが特に好ましい。
【0026】
本発明のフィルターの濾過層は、少なくとも、上記の厚み方向にも繊維が配向している不織布と上記のネットとを積層した積層体を、多重に巻回して形成される。不織布とネットとの積層順は特に制限されないが、不織布とネットとを各1枚ずつ、すなわち、不織布とネットとが1層ずつ交互になるように巻くことが好ましい。このように形成された濾過層は、不織布の間に目の粗いネットが挟み込まれた構造になる。巻回の回数は目的とするフィルターのサイズや濾過性能に応じて適宜設定でき、特に制限されないが、例えば濾過層の厚みが5〜30mm程度になるように巻回することができる。
【0027】
また、必要に応じて、濾過層中に、厚み方向にも繊維が配向している不織布とネット以外に、さらなる不織布やネット等が積層されていてもよい。例えば、上記の不織布とネットに加えて、基材層と同じ不織布や、上記の不織布よりも目の粗いメルトブロー不織布を挿入して3層構造の積層体を巻回し、濾過層の保形性や捕集効率を向上させることができる。メルトブロー不織布を用いる場合、基材層や表皮層に用いるのと同じメルトブロー不織布を好ましく用いることができる。
【0028】
<基材層>
基材層は、円筒形フィルターにおける円筒の内側、濾過される流体の下流側にあたる層であって、フィルターの強度を確保する機能を有する。本発明のフィルターの基材層は、不織布が多重に巻回され、熱圧着されてなる層であり、0.5MPaの荷重を掛けた場合の圧縮比が0.18以下であるという特徴を有する。圧縮比は、継続的な外からの荷重に対する変形しやすさを表す指標であり、0.5MPaの荷重を掛けた場合の圧縮比が0.18以下であれば、フィルター使用時の変形がほとんどないため好ましい。圧縮比の具体的な測定及び算出方法は、実施例において詳述される。
【0029】
また、本発明のフィルターの基材層は、空隙率が0.61〜0.84の範囲であるという特徴を有する。従来、濾過層の下流側に位置する基材層は、濾過層を補強するものと考えられており、濾過層よりも孔径の大きな層とすれば、濾過ライフには影響しないものと考えられていた。しかしながら本発明では、基材層が濾過ライフに大きく影響を与えることを見出し、基材層の圧縮比を0.18以下として強度を確保し、かつ、空隙率を0.61〜0.84の範囲とすれば、濾過ライフの長いフィルターが得られることが確認された。特定の理論に拘束されるものではないが、圧縮比と空隙率とを前記の範囲とすることによって、濾過層を通過した流体が基材層で滞留することがなく、基材層内でのブリッジ発生が抑制されるものと考えられている。空隙率が0.61以上であれば、通液性が十分となり、空隙率が0.84以下であれば、高温や薬液使用時に基材層が変形する恐れがない。
【0030】
基材層は、安定した性能を維持するために、繊維の交点で繊維同士が融着及び/又は接着した不織布を用いることが好ましい。このことから、基材層の不織布を構成する繊維として、熱融着性繊維が好ましく利用できる。熱融着性繊維の種類は、特に限定されず、公知の繊維を使用することができる。具体的な熱融着性繊維としては、濾過層に用いる熱融着性繊維の説明で例示したものと同様のものを用いることができ、高融点成分と低融点成分とを含む熱融着性複合繊維、高融点成分繊維と低融点成分繊維との混繊であることが好ましい。この場合、高融点成分と低融点成分の融点差は、特に限定されないが、熱融着の加工温度幅を広くするためには、10℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。例えば、ポリプロピレンを芯成分、ポリエチレンを鞘成分とする鞘芯型複合繊維、ポリプロピレン繊維とプロピレン共重合体繊維との混繊を好ましく用いることができる。
【0031】
本発明の基材層に用いられる不織布としては、メルトブロー不織布、スルーエア不織布などを用いることができ、特に制限されない。メルトブロー不織布を用いる場合、メルトブロー不織布を構成する繊維の種類やその製造方法は特に限定されず、公知の繊維や製造方法を使用することができる。例えば、メルトブロー不織布は、熱可塑性樹脂を溶融押出し、メルトブロー紡糸口金から紡出し、さらに高温高速の気体によって繊維流としてブロー紡糸し、捕集装置で繊維をウェブとして捕集し、得られたウェブを熱処理し、繊維同士を熱融着させることで製造できる。メルトブロー紡糸で用いる高温高速の気体は、通常、空気、窒素ガス等の不活性気体が使用される。気体の温度は200〜500℃、圧力は0.1〜6.5kgf/cmの範囲が一般に用いられる。
【0032】
基材層を構成する不織布の平均繊維径は、濾過層を構成する不織布の平均繊維径の2倍以上、さらに好ましくは3倍以上であることが好ましい。この値が2倍以上であることで、濾過層を通過して流れ出てくる粒子が、基材層で捕集されるのを防ぐことができる。
【0033】
基材層を構成する不織布の材質は、特に制限されるものではないが、濾過層を構成する不織布に含まれる材質を使うことで、耐薬品性が濾過層と同程度になるため好ましい。
【0034】
基材層を構成する不織布の目付は、繊維の材質、繊維径との関係で、ある程度規定されるが、例えば、5〜50g/mの目付を用いることができ、30〜45g/mの目付を用いることがより好ましい。この範囲の目付であれば、基材層の外径調整及び基材層の強度設計の調節の観点から好適である。
【0035】
基材層の巻き数や厚みは、目的とするフィルターの大きさや所望の強度に応じて設定され、特に制限されないが、例えば基材層の厚みを5〜50mm程度とすることができる。基材層の不織布は巻回と同時に、或いは、巻回された後に熱圧着によって層間が接着される。
【0036】
<表皮層>
表皮層はフィルターの最も外側(濾過液の上流側)に位置する層であり、特に大粒径の凝集物や夾雑物が濾過層内に侵入しないようにブロックするほか、濾過層を保護し、フィルター形態を保持することを主な目的とする層である。表皮層は不織布を含む層であり、不織布からなる層であることが好ましい。
【0037】
表皮層に用いる不織布は特に制限されないが、その平均繊維径が、濾過層を構成する不織布の平均繊維径の2倍以上であることが好ましく、2倍から20倍であることがより好ましく、さらに好ましくは3倍から10倍である。この値が2倍以上であることで、表皮層の過度の目詰まりを防ぐことができる。また、この値が20倍以下であることで、表皮層に濾過層の前濾過の効果を持たせることができる。また、表皮層に用いる不織布として、基材層に用いる不織布と同一の不織布であることも好ましい。なお、同一の不織布であるとは、繊維の材質(組成)、繊維径、不織布の構成、目付等が共通する、実質的に同一の不織布と考えられる不織布を意味している。基材層と表皮層とで同一の不織布を用いることで、製品品質がより安定なフィルターを得ることができ、製造工程のコストにおいても有利である。
【0038】
表皮層の巻き数や厚みは特に制限されないが、巻き数や厚みが大きくなると、濾過液が濾過層に達する以前に表皮層内でブリッジを形成するという不具合が生じることがあるので、なるべく薄い表皮層とすることが好ましい。例えば、メルトブロー不織布を1〜5回、好ましくは1〜2回巻回して、熱圧着して形成することが好ましい。
【0039】
本発明のフィルターの基材層、濾過層、表皮層の不織布を構成する繊維はいずれも、本発明の効果を妨げない範囲で機能剤を含んでいてもよく、機能剤としては、抗菌剤、消臭剤、帯電防止剤、平滑剤、親水剤、撥水剤、酸化防止剤、耐候剤などを例示できる。また、繊維は、その表面を繊維仕上げ剤で処理されていてもよく、これによって親水性や撥水性、制電制、表面平滑性、耐摩耗性などの機能を付与することができる。
【0040】
<フィルターの製造方法>
本発明のフィルターは、基材層用の不織布を巻回し、その上に濾過層用の不織布及びネットを巻回し、さらにその上に表皮層用の不織布を巻回することで製造できる。具体的には、例えば、基材層用の不織布であるメルトブロー不織布をまず熱圧着させながら円柱状の鉄棒に巻き取って、コアとなる基材層を形成する。続いて、濾過層用の不織布であるスルーエア不織布及びネットを順に挿入し、加熱することなく巻き上げて濾過層を形成する。最後に、メルトブロー不織布を1〜2回巻回して、熱圧着させて表皮層を形成することができる。
【0041】
上記製造方法において基材層を形成する温度は、巻き取り部分(円柱状の鉄棒)において基材層用の不織布が溶融し、圧着される温度であればよい。また製造ラインの速度は特に制限されないが、濾過層の形成時は、不織布にかかるテンションは10N以下であることが好ましく、テンションを掛けずに巻き上げることが好ましい。
【0042】
上記のように製造されるフィルターは、適切な大きさに切断し、両端にエンドキャップを貼付して円筒型フィルターとして好適に用いられる。また、上記の製造方法は概要のみであり、上記の工程以外に必要に応じて、熱処理、冷却、薬剤処理、成型、洗浄等の公知の工程を実施することができる。使用においては、スラリーや固形分を含むゲル状流体が、円筒型フィルターの外側(表皮層側)から濾過槽を経て内側(基材層側)に通過するようセットされる。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は、例示を目的としたものに過ぎない。本発明の範囲は、本実施例に限定されない。
実施例中に示した物性値の測定方法や定義は次のとおりである。
【0044】
1)不織布の目付
250mm×250mmに切断した不織布の重量を測定し、単位面積当たりの重量(g/m)を求め、これを目付とした。
2)層の空隙率
層の外径、内径、長さ、重量を測定し、次式を使って空隙率を求めた。
(層の見かけ体積)=π{(層の外径)2-(層の内径)2}×(層の長さ)/4
(層の真体積)=(層の重量)/(層の原料の比重)
(層の空隙率(%))={1-(層の真体積/層の見かけ体積)}×100
3)圧縮比
基材層を20mm×20mmに切断し、元の厚さを測定し、続いて、この小片に0.5MPaの荷重を掛けたときの、小片の厚さを測定した。測定した厚さと下記式を用いて、圧縮比を算出した。
圧縮比=(初期厚さ−荷重を掛けた時の厚さ)÷(初期厚さ)
4)捕集効率(濾過精度)
次の試験粉体及び方法に従って初期捕集性能として捕集効率を測定した。試験粉体はJIS Z 8901 試験用粉体に記載の7種を使用した。JIS7種粉体を速度0.2g/minで水中に添加した試験流体を30L/minの流量でフィルターに通し、フィルター前後の粒子数を測定した。粒子数はパーティクルセンサー(KS-63 リオン製)を用い、パーティクルカウンター(KL-11 リオン製)を使用して測定した。捕集効率は以下の定義式によって求めた。
捕集効率(%)=(1-フィルター通過後の粒子径30μmの粒子数/フィルター通過前の粒子径30μmの粒子数)×100
5)濾過ライフ
次の粉体及び方法に従って、累積粉体添加量に対するフィルター前後の差圧変化を測定した。試験粉体はJIS Z 8901 試験用粉体に記載の7種を使用した。循環水量30L/minの水中に速度0.2g/minで前記試験粉体を添加した試験流体をフィルターに通液し、累積粉体添加量に対するフィルター前後の圧力差変化を追跡した。そして、圧力差が初期圧力差の2倍になった時点を濾過ライフとして、その時点の粉体添加量を記録した。また、圧力差が初期圧力差の2倍になった時点のフィルター外観を目視で観察した。
【0045】
[実施例1]
基材層用の不織布として、目付が50g/mであり、平均繊維径190μmのプロピレン共重合体/ポリプロピレンの同心鞘芯型複合メルトブロー不織布を用いた。濾過層用の不織布として、ポリプロピレン/ポリエチレンの偏心鞘芯型複合繊維(平均繊維径30μm)からなる、目付が30g/mのスルーエア不織布を用いた。ネットとして、ポリプロピレンモノフィラメント(平均繊維径250μm)からなる、目合いが2.0mmであるネットを用いた。中芯(鉄棒)を予め150℃に加熱し、この中芯に基材層に用いるメルトブロー不織布を接着させ、巻き取った。さらに150℃で加熱を続けながら6mを巻き取り、基材層を形成した。続いて、基材層用の不織布と同じ不織布、濾過層用の不織布、ネットを3層重ねた状態で2m巻き取り、濾過層を形成した。続いて、基材層用の不織布と同じ不織布を1m巻き取り、表皮層を形成し、円筒型フィルターを製造した。
【0046】
[実施例2]
濾過層用の不織布として、ポリプロピレン/ポリエチレンの偏心鞘芯型複合繊維(平均繊維径22μm)からなる、目付が30g/mのスルーエア不織布を用いた。それ以外は、実施例1と同じ方法で、円筒型フィルターを製造した。
【0047】
[実施例3]
基材層用の不織布として、目付が50g/mであり、平均繊維径150μmのプロピレン共重合体/ポリプロピレンの同心鞘芯型複合メルトブロー不織布を用いた。それ以外は、実施例1と同じ方法で、円筒型フィルターを製造した。
【0048】
[実施例4]
基材層用不織布として、目付が50g/mであり、平均繊維径120μmのプロピレン共重合体・ポリプロピレン同心鞘芯型複合メルトブロー不織布を用いた。それ以外は、実施例1と同じ方法で、円筒型フィルターを製造した。
【0049】
[比較例1]
基材層用不織布として、目付が50g/mであり、平均繊維径190μmのポリプロピレン単一成分のメルトブロー不織布を用いた。それ以外は、実施例1と同じ方法で、円筒型フィルターを製造した。
【0050】
[比較例2]
基材層用不織布として、目付が50g/mであり、平均繊維径190μmのポリプロピレン単一成分のメルトブロー不織布を用いた。そして、基材層を形成する際の巻き取り温度を150℃から165℃に変えた。それ以外は、実施例1と同じ方法で、円筒型フィルターを製造した。
【0051】
実施例1〜4及び比較例1,2について、円筒型フィルターの材料、物性値及び性能について表1にまとめを示す。
【表1】
【0052】
表1に示されるとおり、実施例1〜4の円筒型フィルターはいずれもフィルター差圧が初期の2倍に達するまでの累積粉体添加量が多い、すなわち濾過ライフが長かった。また、実施例1〜4の円筒型フィルターはいずれも、粒径30μmの粒子を60%以上捕集でき、必要な濾過精度を有していた。実施例の円筒型フィルターは基材層の空隙率が高くかつ圧縮比が低いため、濾過時に基材層の圧縮が起こらず、比較例の円筒型フィルターよりも長い濾過ライフが得られ、また、粒径30μmの捕集効率も比較例1と比較して高かった。一方、圧縮比は低いが空隙率の低い比較例2は、実施例と比較して濾過ライフが短かった。また、圧力差が初期圧力差の2倍になった時点での比較例2の円筒型フィルターの外観に、明らかな収縮が認められ、このフィルターが高濃度、あるいは高粘度の流体の濾過に適さないことが示された。実施例1〜4のフィルターの外観にはこのような収縮が認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のフィルターは、粉体の凝集(ブリッジ)の発生が抑制されるため濾過ライフが長く、濾過精度にも優れる。本発明のフィルターは、低濃度〜高濃度(10ppm〜70%)の微粒子(粉体)を含む懸濁液、スラリー、ゲル状流体から凝集物や夾雑物を除去し、粒径が一定以下の微粒子を得るために用いる濾過フィルターとして好適に用いられる。