特許第6927992号(P6927992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6927992少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6927992
(24)【登録日】2021年8月10日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/02 20060101AFI20210823BHJP
   C08F 8/32 20060101ALI20210823BHJP
   C08F 8/14 20060101ALI20210823BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20210823BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20210823BHJP
   C04B 103/40 20060101ALN20210823BHJP
【FI】
   C08L33/02
   C08F8/32
   C08F8/14
   C04B24/26 B
   C04B24/26 E
   C04B28/02
   C04B103:40
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-545482(P2018-545482)
(86)(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公表番号】特表2019-510103(P2019-510103A)
(43)【公表日】2019年4月11日
(86)【国際出願番号】EP2017054860
(87)【国際公開番号】WO2017157677
(87)【国際公開日】20170921
【審査請求日】2020年2月28日
(31)【優先権主張番号】16160520.9
(32)【優先日】2016年3月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506416400
【氏名又は名称】シーカ テクノロジー アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】オッタビオ ロンボラ
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−536976(JP,A)
【文献】 特表2003−528947(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0018947(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0217808(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0030087(US,A1)
【文献】 特表2007−529591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/02
C04B 24/26
C04B 28/02
C08F 8/14
C08F 8/32
C04B 103/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物を調製する方法であって、前記櫛形ポリマーは、エステル基及び/又はアミド基を介して結合された側鎖を有するポリマー主鎖をそれぞれ有し、前記方法は、以下を含む方法:
a)酸基を有する第1のベースポリマー及び酸基を有する第2のベースポリマーを少なくとも含有する反応混合物を提供及び/又は調製するステップ、ここで、前記2種のベースポリマーは化学的に異なる;
b)少なくとも1種の片側ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は少なくとも1種の片側アミノ末端側鎖化合物によって、前記2種のベースポリマーを共にエステル化及び/又はアミド化して、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを得るステップ
ここで、前記第1のベースポリマーが、ポリアクリル酸の形態であり、前記第2のベースポリマーが、ポリメタクリル酸の形態であることを特徴とする
【請求項2】
前記第1のベースポリマー及び前記第2のベースポリマーの数平均分子量(M)が、それぞれの場合で、500〜20000g/molの範囲にあることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)における前記第1のベースポリマーの前記第2のベースポリマーに対するモル比が、90:10〜10:90の範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記片側ヒドロキシル末端側鎖化合物が、α−アルコキシ−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを含むこと、及び/又は前記片側アミノ末端側鎖化合物が、α−アルコキシ−ω−アミノ−ポリオキシアルキレンを含むことを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記片側ヒドロキシル末端側鎖化合物が、以下の式(I)の化合物であり:
HO−R (I)
かつ/又は前記片側アミノ末端側鎖化合物が、以下の式(II)の化合物であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法:
N−R (II)
(式中、R及びRが、それぞれ独立して、C〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基、C〜C20アルキルアリール基又は式−[AO]−Rの基であり、ここで、A=C〜C−アルキレンであり、RがC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基又はC〜C20アルキルアリール基であり、かつn=2〜300)。
【請求項6】
前記片側ヒドロキシル末端側鎖化合物が、式HO−[AO]−Rの化合物を含み、及び/又は前記片側アミノ末端側鎖化合物が、式HN−[AO]−Rの化合物を含み、ここで、A=C〜Cアルキレンであり、RがC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基又はC〜C20アルキルアリール基であり、かn=2〜300であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ベースポリマーの遊離酸基の、前記櫛形ポリマーの結合した側鎖の数に対する比が、0.5〜12の範囲になるまで、前記エステル化及び/又はアミド化ステップが継続されることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)及び/又はb)の前及び/又はに、塩基及び/又は酸が添加されること、並びにステップb)における前記エステル化及び/又はアミド化が、少なくとも80℃の温度にて行われることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
鉱物バインダー及び請求項1〜のいずれか一項に記載の方法によって得られるポリマー混合物を混合することを含む、バインダー組成物の製造方法。
【請求項10】
水を添加して、請求項に記載の方法によって得られるバインダー組成物を硬化することを含む、成形物品の製造方法。
【請求項11】
鉱物バインダー組成物のための分散剤としての、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法によって得られるポリマー混合物の使用。
【請求項12】
鉱物バインダー組成物のスランプ寿命を延長するための、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法によって得られるポリマー混合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル基及び/又はアミド基を介して結合された側鎖を有するポリマー主鎖をそれぞれ有する、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有する、ポリマー混合物を調製する方法に関する。本発明はさらに、本発明の方法によって得られるポリマー混合物に、鉱物バインダー組成物に、及びこれから得られる成形物品に関する。さらなる態様は、鉱物バインダー組成物におけるポリマー混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
高流動化剤又は減水剤として作用する分散剤は、建物建設業界で、例えばコンクリート、モルタル、セメント、石膏及び石灰において用いられる種類のバインダー組成物の重要な混和剤である。このような分散剤を用いることは周知である。このような高流動化剤又は分散剤は一般に、混合水に、又は固体形態でバインダー組成物に混和される有機ポリマーである。凝固前のバインダー組成物の粘稠性は、結果として有利に調節される。より詳細には、降伏点及び粘度が低下して、この低下によって作業性が改善される。含水率の低下は、硬化したバインダー組成物の強度を向上させるように作用する。
【0003】
用いられる分散剤には、特に、高流動化剤として知られる、ポリアルキレン側鎖を有するα,β−不飽和モノカルボン酸及びポリカルボン酸から形成された櫛形ポリマーが含まれる。この種の化合物は、例えば欧州特許第1138697B1号明細書(Sika AG)に記載されている。
【0004】
この種の櫛形ポリマーを含有するバインダー組成物は所望の作業性を示すことが多いが、一部の例では作業性が急速に著しく低下し、これによりバインダー組成物を使用するための時間窓が狭くなる。しかし、使用可能期間がより長いことが望ましい、又はより長いことが必要とされる用途は多い。
【0005】
作業性を向上させ、及び/又はスランプ寿命を延長しようとして、多くの方法が推奨され、バインダー組成物に添加するための特定の混和剤及びポリマーが開発されているが、これらの対策の多くは、製造するのに複雑であり、使用するのに不便であり、コストがかかり過ぎ、又は高流動化性能に関して確信を与えることができない。
【0006】
したがって、上述の欠点がなく、非常に簡単かつ安価に製造できる代わりの分散剤が引き続き求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、バインダー組成物の作業性寿命を非常に長くすることが可能であり、同時に良好な高流動化性能をもたらす分散剤を提供することである。分散剤は、特に鉱物バインダー組成物、例えばコンクリート組成物又はモルタル組成物に利用可能であるものとする。本発明のさらなる目的は、この種の分散剤を調製するための、非常に簡便で低コストの方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
我々は驚くべきことに、これらの目的が、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有し、本発明の下記の態様1に記載の方法によって得られたポリマー混合物によって達成されることを見出した。したがって、本発明の核心にあるのは、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物を得るための、少なくとも2種の化学的に異なる、酸基を有するベースポリマーと、少なくとも1種の片側ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は少なくとも1種の片側アミノ末端側鎖化合物とのポリマー類似反応である。
【0009】
本発明のポリマー混合物を鉱物バインダー組成物に用いると、従来の櫛形ポリマーに匹敵する減水が実現し、同時に作業性又はスランプ寿命がかなり延長/改善される。このことが驚くべきであるのは、本発明とは逆に、個別に/単独で調製され、続いて互いに混合されただけの、匹敵する櫛形ポリマーの混合物は、特にスランプ寿命に関して、本発明によって得たポリマー混合物の性能を著しく下回っているためである。
【0010】
さらなる独立的態様は、本発明のさらなる実施形態に関する。従属的態様は、本発明の特に好ましい実施形態に関する。
本発明の態様として、以下の態様を挙げることができる:
《態様1》
少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物を調製する方法であって、前記櫛形ポリマーは、エステル基及び/又はアミド基を介して結合された側鎖を有するポリマー主鎖をそれぞれ有し、前記方法は、以下を含む方法:
a)酸基を有する第1のベースポリマー及び酸基を有する第2のベースポリマーを少なくとも含有する反応混合物を提供及び/又は調製するステップ、ここで、前記2種のベースポリマーは化学的に異なる;
b)少なくとも1種の片側ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は少なくとも1種の片側アミノ末端側鎖化合物によって、前記2種のベースポリマーを共にエステル化及び/又はアミド化して、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを得るステップ。
《態様2》
前記第1及び第2のベースポリマーが、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸並びに/又はアクリル酸及びメタクリル酸から形成されたコポリマーからそれぞれ選択されることを特徴とする、態様1に記載の方法。
《態様3》
前記第1のベースポリマーが、ポリアクリル酸の形態であり、前記第2のベースポリマーが、ポリメタクリル酸の形態であることを特徴とする、態様に記載の方法。
《態様4》
前記第1のベースポリマー及び前記第2のベースポリマーの数平均分子量(M)が、それぞれの場合で、500〜20000g/mol、特に500〜10000g/mol、より好ましくは3000〜5000g/molの範囲にあることを特徴とする、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
《態様5》
ステップa)における前記第1のベースポリマーの前記第2のベースポリマーに対するモル比が、90:10〜10:90、特に75:25〜25:75、好ましくは60:40〜40:60の範囲にあることを特徴とする、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
《態様6》
前記片側ヒドロキシル末端側鎖化合物が、α−アルコキシ−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを含むこと、及び/又は前記片側アミノ末端側鎖化合物が、α−アルコキシ−ω−アミノ−ポリオキシアルキレンを含むことを特徴とする、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
《態様7》
前記片側ヒドロキシル末端側鎖化合物が、以下の式(I)の化合物であり:
HO−R (I)
かつ/又は前記片側アミノ末端側鎖化合物が、以下の式(II)の化合物であることを特徴とする、態様1〜6のいずれか一項に記載の方法:
N−R (II)
(式中、R及びRが、それぞれ独立して、C〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基、C〜C20アルキルアリール基又は式−[AO]−Rの基であり、ここで、A=C〜C−アルキレンであり、RがC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基又はC〜C20アルキルアリール基であり、かつn=2〜300)。
《態様8》
前記片側ヒドロキシル末端側鎖化合物が、式HO−[AO]−Rの化合物を含み、及び/又は前記片側アミノ末端側鎖化合物が、式HN−[AO]−Rの化合物を含み、ここで、A=C〜Cアルキレンであり、RがC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基又はC〜C20アルキルアリール基であり、かn=2〜300であることを特徴とする、態様1〜7のいずれか一項に記載の方法。
《態様9》
前記ベースポリマーの遊離酸基の、前記櫛形ポリマーの結合した側鎖の数に対する比が、0.5〜12、好ましくは1〜12、より好ましくは1.5〜5又は2〜4の範囲になるまで、前記エステル化及び/又はアミド化ステップが継続されることを特徴とする、態様1〜8のいずれか一項に記載の方法。
《態様10》
ステップa)及び/又はb)の前及び/又はに、塩基及び/又は酸が、特に触媒として添加されること、並びにステップb)における前記エステル化及び/又はアミド化が、少なくとも80℃、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは120〜200℃、最も好ましくは160〜180℃の温度にて行われることを特徴とする、態様1〜9のいずれか一項に記載の方法。
《態様11》
態様1〜10のいずれか一項に記載の方法によって得られる、ポリマー混合物。
《態様12》
鉱物バインダー並びに態様11に記載のポリマー混合物を含有する、バインダー組成物。
《態様13》
水の添加後に態様12に記載のバインダー組成物を硬化することによって得られる、成形物品。
《態様14》
鉱物バインダー組成物のための分散剤としての、態様11に記載のポリマー混合物の使用。
《態様15》
鉱物バインダー組成物のスランプ寿命を延長するための、態様11に記載のポリマー混合物の使用。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の態様は、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物を調製する方法であって、櫛形ポリマーは、エステル基及び/又はアミド基を介して結合された側鎖を有するポリマー主鎖をそれぞれ有し、本方法は、
a)酸基を有する第1のベースポリマー及び酸基を有する第2のベースポリマーを少なくとも含有する反応混合物を提供及び/又は調製するステップであって、2種のベースポリマーは化学的に異なるステップ、
b)少なくとも1種の片側ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は少なくとも1種の片側アミノ末端側鎖化合物によって、2種のベースポリマーを共にエステル化及び/又はアミド化して、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを得るステップ
を含む方法に関する。
【0012】
用語「櫛形ポリマー」は本明細書において、多数の側鎖が共有結合によって結合されたベースポリマー(「主鎖」、「ポリマー主鎖」又は「主鎖」としても既知)を含むため、分子構造全体が櫛に似ているポリマーを示す。本発明の櫛形ポリマーは、ベースポリマーにエステル基及び/又はアミド基によって結合した側鎖を有する。しかし、任意選択的に、これらの側鎖以外に、他の基を介してベースポリマーに結合したさらなる側鎖がさらにあってよい。
【0013】
用語「酸基」は特に、pH>10、特にpH>12においてアニオン形態又は負に帯電した形態である官能基を示す。これらの基は、特にプロトン供与体基である。この酸基は、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基及び/又はホスホン酸基であることが特に好ましい。カルボン酸基が特に好ましい。酸基は、脱プロトン化形態のアニオンとして、又は対イオン及び/若しくはカチオンを有する塩としても存在し得る。
【0014】
原則として、異なる酸基が同じベースポリマーに同時に結合され得る。しかし、通例、ベースポリマーは1種類の酸基を有する。
【0015】
本発明の方法は原則として、官能基、例えば酸基を含むベースポリマーを片側反応性側鎖化合物と反応させて櫛形構造のポリマーを形成するという、いわゆる櫛形ポリマーの「ポリマー類似調製」に基づいている。しかし、既存の調製方法と対照して、本発明は少なくとも2種の化学的に異なるベースポリマーを同時に利用する。このことにより、ポリマー類似反応によって、ポリマー主鎖又はベースポリマーが異なる、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーが生成する。対照的に、少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーの側鎖は、少なくとも部分的に又は完全に同一であり得る。
【0016】
片側ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は片側アミノ末端側鎖化合物は、特に反対側の末端でエンドキャップされている。より詳細には、ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は片側アミノ末端側鎖化合物は、ヒドロキシル基又はアミノ基以外に、エステル化反応及び/又はアミド化反応において反応することができるさらなる官能基を有していない。すなわち、片側ヒドロキシル末端側鎖化合物及び/又は片側アミノ末端側鎖化合物は、特に片側反応性化合物である。このことにより、2種類のベースポリマーの間で架橋反応の発生が防止される。
【0017】
第1のベースポリマー及び/又は第2のベースポリマーは、より詳細にはポリカルボン酸、ポリリン酸、ポリホスホン酸及び/又はポリスルホン酸から選択される。列挙した酸は、中性形で及び/又は塩として存在し得る。塩の場合、酸の酸基は、部分的に及び/又は完全に脱プロトン化状態にある。
【0018】
第1及び第2のベースポリマーそれぞれが、ポリカルボン酸から選択されることが特に好ましい。本明細書で特に好ましいのは、不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸及び/又はメタクリル酸から形成されたポリカルボン酸である。この種のベースポリマーは、市販品としてただちに入手可能であり、調製の際に反応管理が比較的容易な形態をもたらす。加えて、本発明の方法はそれにより、鉱物バインダーにおける持続分散効果を有する有利なポリマー混合物を提供する。しかし、特定の用途では、他のベースポリマー、例えば不飽和ジカルボン酸、例えばマレイン酸又はマレイン酸無水物から形成されたポリカルボン酸も好適に用いられ得る。
【0019】
特に好ましい実施形態において、第1及び第2のベースポリマーは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸並びに/又はアクリル酸及びメタクリル酸から形成されたコポリマーからそれぞれ選択される。
【0020】
とりわけ有利な実施形態において、第1のベースポリマーはポリアクリル酸の形態であるが、第2のベースポリマーはポリメタクリル酸の形態である。
【0021】
第1のベースポリマー及び第2のベースポリマーの数平均分子量(M)は、特にそれぞれの場合で、500〜20000g/mol、特に500〜10000g/mol、より好ましくは3000〜5000g/molの範囲にある。これにより、鉱物バインダーにおいて特に良好な分散効果が与えられる。
【0022】
重量平均分子量(M)及び数平均分子量(M)は、本明細書において、ポリエチレングリコール(PEG)を標準として使用するゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって求められる。この技術はそれ自体、当業者に既知である。
【0023】
上記のベースポリマーは、様々な供給元から市販されている。さらに、列挙したベースポリマーは、従来の方法で、対応するモノマー、例えばアクリル酸及び/又はメタクリル酸からフリーラジカル開始剤及び/又は連鎖移動剤の存在下で、連鎖成長付加重合によって得られる。
【0024】
ステップa)における第1のベースポリマーの第2のベースポリマーに対するモル比は、90:10〜10:90、特に75:25〜25:75、好ましくは60:40〜40:60の範囲にある。50:50のモル比は、本明細書で特に好適であることが見出されている。
【0025】
バインダー組成物における分散性能は、ベースポリマーのモル比を変化させることによって、選択した要求事項に精密に合せることができる。
【0026】
片側ヒドロキシル末端側鎖化合物は、使用される場合、特にモノヒドロキシ化合物又は遊離ヒドロキシル基を1個有する化合物である。同様に、片側アミノ末端側鎖化合物は、使用される場合、モノアミン化合物又は遊離アミノ基を1個有する化合物である。アミノ基は、好ましくは第1級アミノ基又は第2級アミノ基、特に第1級アミノ基である。
【0027】
特に、片側ヒドロキシル末端側鎖化合物は式(I)の化合物である。
HO−R (I)
【0028】
片側アミノ末端側鎖化合物は、有利には、式(II)の化合物である。
N−R (II)
【0029】
これらの式において、R及びRは、それぞれ独立してC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基、C〜C20アルキルアリール基又は式−[AO]−Rの基であり、式中、A=C〜Cアルキレンであり、RはH、C〜C20−アルキル基、C〜C20シクロアルキル基又はC〜C20アルキルアリール基であり、n=2〜300である。特に、RはC〜C20アルキル基、C〜C20シクロアルキル基又はC〜C20アルキルアリール基である。
【0030】
nは有利には、=5〜150、好ましくは10〜100、より好ましくは15〜75又は20〜60である。詳細な一実施形態において、nは=5〜25又は7〜15である。
【0031】
好ましい一実施形態において、片側ヒドロキシル末端側鎖化合物はα−アルコキシ−ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレンを含み、及び/又は片側アミノ末端側鎖化合物はα−アルコキシ−ω−アミノ−ポリオキシアルキレンを含む。最も好ましくは、片側アミノ末端側鎖化合物は、α−アルコキシ−ω−アミノ−オキシエチレン−オキシプロピレンコポリマーを含む。
【0032】
側鎖化合物の重量平均分子量(M)は、特にそれぞれの場合において、100〜10000g/mol、特に200〜7000g/mol、詳細には350〜5000g/mol、とりわけ400〜3000g/mol又は500〜2000g/molである。
【0033】
極めて特に好ましい実施形態において、片側ヒドロキシル末端側鎖化合物は式HO−[AO]−Rの化合物を含み、及び/又は片側アミノ末端側鎖化合物は式HN−[AO]−Rの化合物を含み、式中、A、R及びnはそれぞれ上で定義した通りである。
【0034】
本発明の好ましい一実施形態において、側鎖化合物中の全[AO]単位の総数のうち、エチレンオキシド単位は少なくとも30mol%、好ましくは50〜100mol%、特に80〜100mol%又は90〜100mol%の割合を構成する。詳細な一実施形態において、側鎖中に存在するアルキレンオキシド単位は、すべてもっぱらエチレンオキシド単位である。
【0035】
式HO−[AO]−Rに従う片側ヒドロキシル末端側鎖化合物において、置換基Aは特にCアルキレンである。
【0036】
式HN−[AO]−Rの片側アミノ末端側鎖化合物において、置換基Aは好ましくはCアルキレン及びCアルキレンの混合物である。
【0037】
ステップb)で使用する側鎖化合物は、様々な供給元から市販されている(例えばSigma−Aldrich Chemie GmbH、スイス;Huntsman、スイス)。
【0038】
当業者には、エステル化反応が反応物質の濃度及びpHに依存する平衡反応であることが既知である。したがって、使用した出発物質の量及びpHは、効率的な反応が後続するように、互いに相対的に設定される。
【0039】
ステップb)の反応における反応混合物のpHは、やや酸性の、特に3〜6又は3〜5.5の範囲にあることが好ましい。ステップb)の反応におけるpHは、3を超える、特に3.5を超えることが好ましい。
【0040】
特に触媒として又はpHを設定するために、塩基及び/又は酸をステップa)及び/又はb)の前及び/又は間に添加することが好ましい。
【0041】
有利な塩基は、金属カルボン酸塩、金属水酸化物、金属炭酸塩、チオシアン酸塩及び亜リン酸塩から選択できる。本発明の好ましい一実施形態において、塩基の金属は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、特にナトリウム又はカリウムである。本発明の好ましい一実施形態において、カルボン酸塩は、炭酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、クエン酸塩、アジピン酸塩、マレイン酸塩又は酒石酸塩である。カルボン酸塩は、カルボン酸ナトリウム又はカルボン酸カリウム、特に酢酸塩又はギ酸塩であることが好ましい。カリウム塩を使用することが好ましい。
【0042】
塩基は、反応混合物中のベースポリマーの酸基を少なくとも部分的に中和及び/又は脱プロトン化するために使用され得る。ステップa)の反応混合物中のベースポリマーの脱プロトン化酸基の中和度及び/又は割合は、ベースポリマー中に存在するすべての酸基に対して、好ましくは2%〜50%、好ましくは4%〜30%、より好ましくは5%〜20%又は5%〜15%である。
【0043】
ステップb)において触媒として有効である好適な酸は、3以下、特に1以下のpKを有することが好ましい。好ましい酸は、例えば硫酸及び/又はp−トルエンスルホン酸である。
【0044】
ステップb)における反応は、反応混合物の含水率にも依存する。一般に含水率が低いと、反応が促進される。例えば出発物質が水溶液又は分散液の形態で提供されるため、反応混合物の含水率が高すぎる場合には、反応を行う前に水の一部を除去するべきである。ステップa)及び/又はb)において、加熱によって含水率を低下させて蒸留水を除去することが好ましい。
【0045】
ステップb)におけるエステル化及び/又はアミド化は、特に少なくとも80℃、好ましくは少なくとも100℃、より好ましくは120〜200℃、最も好ましくは160〜180℃の温度にて行う。好ましい温度は例えば175℃である。特にステップb)において100℃を超える温度が好ましいのは、これにより水が十分に除去されるためである。
【0046】
片側ヒドロキシル末端側鎖化合物の使用量及び/又は片側アミノ末端側鎖化合物の使用量は、ベースポリマーの所望のエステル化度及び/又はアミド化度が得られるように設定される。
【0047】
特に好ましい一実施形態において、ステップb)は、片側ヒドロキシル末端側鎖化合物を用いたエステル化反応を少なくとも行うことを含む。これにより、エステル基を介して結合された側鎖を有する櫛形ポリマーを含むポリマー混合物が得られる。
【0048】
特に、ステップb)で使用するすべての側鎖化合物の総数に対する片側ヒドロキシル末端側鎖化合物の割合は、50〜100mol%、特に75〜100mol%、好ましくは95〜100mol%又は99〜100mol%である。これにより、エステル基を介して結合した側鎖をかなりの割合で有する櫛形ポリマーが得られる。このことは、バインダー組成物における高度に持続的な高流動化効果を得るために、本明細書において有利であることがわかった。
【0049】
ステップb)における側鎖化合物の変換並びに/又はエステル化及び/若しくはアミド化反応の進捗は、従来の方法で、例えば液体クロマトグラフィー、特に高速液体クロマトグラフィー(HPLC;UPLC)によって監視され得る。
【0050】
特に、エステル化ステップ及び/又はアミド化ステップは、形成された櫛形ポリマー中のベースポリマー上の遊離酸基の、結合した側鎖の数に対する比が0.5〜12、好ましくは1〜12、より好ましくは1.5〜5又は2〜4の範囲になるまで継続される。
【0051】
エステル化反応及び/又はアミド化反応は、ベースポリマーの酸基と反応することが可能であるさらなる化合物の存在下で行われ得る。さらなる化合物の例は、追加のアミン又はアルコール、例えばC〜C20アルキルアルコール又はさらなるモノアミン若しくはジアミン、好ましくはモノアミンである。2種以上の異なるさらなる化合物も用いられ得る。
【0052】
第2の態様において、本発明は、上記の方法によって得られるような少なくとも2種の異なる櫛形ポリマーを含有するポリマー混合物を提供する。
【0053】
第3の態様は、鉱物バインダー並びに上記の方法によって得られるようなポリマー混合物を含有するバインダー組成物に関する。バインダー組成物は特に、モルタル組成物、コンクリート組成物又はセメント質組成物である。
【0054】
表現「鉱物バインダー」は、水和反応において水と反応して、固体水和物又は水和物相を形成するバインダーを意味すると理解されるものである。鉱物バインダーは、例えば水硬性バインダー(例えばセメント若しくは水硬性石灰)、潜在水硬性バインダー(例えばスラグ)、ポゾランバインダー(例えばフライアッシュ)又は非水硬性バインダー(石膏若しくはしっくい)であり得る。「セメント質バインダー」は、本明細書において、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも20重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、またより好ましくは少なくとも65重量%のセメントクリンカーを含むバインダー又はバインダー組成物である。セメントクリンカーは、好ましくはポルトランドセメントクリンカーである。本文脈におけるセメントクリンカーは、特に粉砕セメントクリンカーを意味すると理解されるものである。
【0055】
特に、鉱物バインダー又はバインダー組成物は、水硬性バインダー、好ましくはセメントを含有する。35重量%以上のセメントクリンカー含有率を有するセメントが、特に好ましい。セメントは、より詳細には、タイプCEM I、CEM II及び/又はCEM IIIA(EN 197−1規格による)のセメントである。水硬性バインダーに帰せられる、全鉱物バインダーの割合は、好ましくは少なくとも5重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、またより好ましくは少なくとも35重量%、またなおより好ましくは少なくとも65重量%である。さらに有利な実施形態において、鉱物バインダーは、95重量%以上の水硬性バインダー、特にセメントクリンカーを含む。
【0056】
しかし、バインダー又はバインダー組成物が他のバインダーを含有する又は他のバインダーからなることも有利であり得る。これらは特に、潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダーである。好適な潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダーの例として、スラグ、フライアッシュ及び/又はシリカダストが挙げられる。バインダー組成物は同様に、不活性物質、例えば石灰石、石英粉及び/又は顔料を含有し得る。有利な一実施形態において、鉱物バインダーは、5〜95重量%、好ましくは5〜65重量%、より好ましくは15〜35重量%の潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダーを含有する。スラグ及び/又はフライアッシュは、有利な潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダーである。
【0057】
特に好ましい一実施形態において、鉱物バインダーは、水硬性バインダー、特にセメント又はセメントクリンカー並びに潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダー、好ましくはスラグ及び/又はフライアッシュを含有する。潜在水硬性バインダー及び/又はポゾランバインダーの割合は、より好ましくは5〜65重量%、より好ましくは15〜35重量%であるが、水硬性バインダーは少なくとも35重量%、詳細には少なくとも65重量%を構成する。
【0058】
鉱物バインダーは、好ましくは水硬性バインダー、特にセメント、好ましくはポルトランドセメントである。
【0059】
さらに好ましい実施形態において、バインダー組成物は、固体骨材、特に砂利、砂及び/又は分級岩をさらに含有する。対応する組成物は、例えばモルタル混合物又はコンクリート混合物として用いることができる。
【0060】
特にバインダー組成物は、好ましくは、0.25〜0.8、特に0.3〜0.6、好ましくは0.35〜0.5の範囲の水の鉱物バインダーに対する重量比で水をさらに含有する。この種のバインダー組成物は、モルタル混合物又はコンクリート混合物として直接使用可能である。
【0061】
バインダー組成物の割合として、ポリマー混合物は、ポリマー混合物中の鉱物バインダー及び櫛形ポリマーに対して、特にわずかな0.001〜10重量%、特に0.01〜5重量%、とりわけ0.1〜1重量%を含む。
【0062】
ポリマー混合物は、液体組成物の形態で、特に水溶液として用いられることが好ましい。
【0063】
しかし、本発明のポリマー混合物は、固体状態で、例えばフレーク、粉末、チップ、ペレット、細粒又はシートとして用いることもできる。この種の固体混和剤は、ただちに輸送及び貯蔵することができる。固体状態のポリマー混合物は、セメント組成物のいわゆるドライミックスの構成成分部分であり得て、例えば長期にわたって貯蔵可能であり、通例、袋詰めされるか、又はサイロに貯蔵されて、その形態で使用される。このようなドライミックスは、長期貯蔵後でも使用可能であり、自由流動性である。
【0064】
本発明のポリマー混合物は、水と同時に、水の直前及び/又は直後にバインダー組成物に添加され得る。水溶液又は分散液の形態での、特に混合水として又は混合水の一部としての添加は、本明細書では特に好適であることが判明している。水溶液は、より詳細には、続いて水と混合することによって調製される。しかし、本発明のポリマー混合物はまた、例えばセメントクリンカーからセメントへの粉砕操作の前又は間に、バインダー組成物に添加され得る。
【0065】
本発明のポリマー混合物は、好ましくは分散剤として、特に高流動化分散剤及び/又は減水分散剤として用いられる。具体的には、ポリマー混合物は、このポリマー混合物を用いて調製されたバインダー組成物の作業性及び/若しくは流動性を改善するために、並びに硬化生成物の安定性を改善するためにも用いられる。特に本発明は、長期作業性を有するバインダー組成物を提供する。すなわち、バインダー組成物は、水及びポリマー混合物の添加後に、ポリマー混合物を含有しない匹敵するバインダー組成物よりも長期間にわたって、作業可能な状態のままである。
【0066】
特に、ポリマー混合物はバインダー組成物の流動性を向上させる。好ましくは、ポリマー混合物の混和によって、ポリマー混合物を含まない同じ組成物とすべて比較して、流動値が少なくとも5%、特に10%を超えて、またより好ましくは15%を超えて若しくは25%を超えて上昇する。問題の流動値は、実施例に記載されているように求められ得る。
【0067】
本発明のポリマー混合物は、分散剤として、又はさらなる成分と組合せて分散剤の構成成分部分として用いることができる。さらなる構成成分は、他の高流動化剤、例えばポリカルボキシレートエーテル(PCE)、リグノスルホネート、スルホン化ナフタレン−ホルムアルデヒド濃縮物若しくはスルホン化ナフタレン−ホルムアルデヒド濃縮物、又は硬化促進剤、硬化遅延剤、収縮低減剤、消泡剤、気泡形成剤若しくは泡形成剤であり得る。ポリマー混合物の割合は、ポリマー混合物中の分散剤及び櫛形ポリマーの総重量に対して、通例、5〜100重量%の範囲、特に20〜100重量%の範囲である。
【0068】
本発明は、水の添加後に本発明のバインダー組成物を凝固及び硬化させることによって得られる成形物品も提供する。本発明の目的のために、用語「成形物品」は、形状を得た任意の三次元固体物品を意味するとして理解されるものであり、例としては可動式土木用部材、建物及び建物の部品、床材及びコーティングがある。
【0069】
本発明のさらなる態様は、鉱物バインダーに関連した、上記のようなポリマー組成物のための各種使用に関する。ポリマー混合物は、以下の用途又は目的に特に好適であることがわかっている。
−鉱物バインダー組成物又は鉱物バインダー向けの、特に水硬性凝固バインダー、好ましくはセメント質バインダー向けの、より好ましくはポルトランドセメント向けの流動化剤及び/又は高流動化剤としての、ポリマー混合物の使用。
−作業性寿命を延長するための、鉱物バインダーを含有する組成物における又は鉱物バインダー組成物におけるポリマー混合物の使用。この使用は、とりわけ水硬性凝固バインダー、好ましくはセメント質バインダー、特にポルトランドセメントにおけるものである。
−作業性を向上させるための、鉱物バインダーを含有する組成物における又は鉱物バインダー組成物におけるポリマー混合物の使用。この使用は、とりわけ水硬性凝固バインダー、好ましくはセメント質バインダー、特にポルトランドセメントにおけるものである。
−無機固体、特に鉱物バインダー又は充填材用の粉砕助剤としての、ポリマー混合物の使用。例えばセメント、石灰、スラグ及び/又は石膏はここに関係している。
【0070】
本発明のさらに有利な実施形態は、後続の実施例から明らかとなる。
【実施例】
【0071】
1.測定方法
エステル化及び/又はアミド化反応の変換/進捗は、UPLC(超高速液体クロマトグラフィー)を使用して測定した。最初に、ポリマーについて、また側鎖についても、較正曲線を作成する。
【0072】
具体的には、以下の装置を使用した。
装置:Acquity UPLC with UV and light scattering detector(Waters製、米国)
カラム:Acquity UPLC BEH300 C18 1.7μm 2.1×100mm(Waters製)
【0073】
2.調製例
2.1 ポリマー混合物M−1
機械式スターラーシステム、温度監視システム、加熱マントル及び真空ポンプを装着した1500mlの反応容器に、最初に、それぞれ平均分子量が約5000g/molであるポリアクリル酸水溶液490gと、ポリメタクリル酸水溶液615gも投入した。これに50%硫酸12g、メチルポリエチレングリコール(MPEG 500、M=500g/mol;1分子当たりエチレンオキシド単位≒11.3個)1250g及びJeffamin(商標)M2070(α−メトキシ−ω−アミノ−オキシエチレン−オキシプロピレンコポリマー;M=2000g/mol;Huntsman製)10gを添加した。水を蒸発除去しながら、反応混合物を175℃まで加熱した。175℃で30分間撹拌した後、反応を80ミリバールの減圧下で所望の変換に達するまで実施し、これには約2時間を要した。次にUPLCを使用して、MPEG及びポリマー含有率を測定した。このようにして、約95%のポリマー含有率及び約5%の残存MPEG含有率を求めた。次に溶融物を冷却し、水で希釈して固形含有率を40〜50%とした。
【0074】
2.2 参考ポリマーRP−1
機械式スターラーシステム、温度監視システム、加熱マントル及び真空ポンプを装着した1500mlの反応容器に、最初に平均分子量が約5000g/molであるポリメタクリル酸水溶液615gを投入した。これに硫酸、メチルポリエチレングリコール(MPEG 500、M=500g/mol;1分子当たりエチレンオキシド単位≒11.3個)625g及びJeffamin(商標)M2070 5gを添加した。その後、ポリマー混合物M−1の手順を反復した。約4.5時間後、ポリマー含有率が約95%、残存MPEG含有率が約5%としてそれぞれ測定された。次に溶融物を冷却し、水で希釈して固形含有率を40〜50%とした。
【0075】
2.3 参考ポリマーRP−2
機械式スターラーシステム、温度監視システム、加熱マントル及び真空ポンプを装着した1500mlの反応容器に、最初に平均分子量が約5000g/molであるポリアクリル酸水溶液490gを投入した。これに硫酸、メチルポリエチレングリコール(MPEG 500、M=500g/mol;1分子当たりエチレンオキシド単位≒11.3個)625g及びJeffamin(商標)M2070 5gを添加した。その後、ポリマー混合物M−1の手順を反復した。約3時間後、ポリマー含有率が約95%、残存MPEG含有率が約5%としてそれぞれ測定された。次に溶融物を冷却し、水で希釈して固形含有率を40〜50%とした。
【0076】
2.4 参考混合物RM−1
50重量%の参考ポリマーRP−1を50重量%の参考ポリマーRP−2と混合することによって、参考混合物を調製した。
【0077】
3.モルタル試験
3.1 モルタル混合物
使用したモルタル混合物は、表1に記載した乾燥組成物を有する。
【0078】
【表1】
【0079】
混合物にモルタル、砂、充填材及びセメントをHobartミキサで1分間ドライミックスした。混合水(水のセメントに対する重量比(w/c)=0.40)を、ポリマー混合物及び/又はポリマー(セメント含有率及び櫛形ポリマーの含有率に対して0.2重量%)と事前に混和して又は事前に混和せずに30秒以内に添加し、さらに2.5分間混合した。総ウェット混合時間は、それぞれの場合で3分間であった。
【0080】
3.2 試験手順
本発明による及び参考試料のポリマー混合物の分散効果を求めるために、新しいモルタルの流動値(ABM)をそれぞれの場合で様々な時間において測定した。流動値(ABM)をEN 1015−3規格に従って求めた。
【0081】
3.3 結果
表2に、実施したモルタル試験(T1〜T4)及び得られたそれぞれの結果を示す。試験Rは、比較を目的として実施した、ポリマーを添加しないブランク試験である。
【0082】
【表2】
【0083】
試験の比較により、2種類の異なるベースポリマーを用いて本発明に従って調製され、試験T1に適用されたポリマー混合物M−1が、単一のベースポリマーを主成分とするポリマー(試験T2及びT3)よりも、明らかにより長期間持続する高流動化性能を実現することが示されている。具体的には、本発明のM−1ポリマー混合物を含む新しいモルタルは、混合後210分まで作業可能である(流動値>150mm)。本発明に従わないRP−1及びRP−2添加剤では、作業可能であるのは、混合後最長で150分だけである(試験T2及びT3)。その後、モルタルは実際には、もはや作業不能である。
【0084】
本発明に従わない、RP−1及びRP−2添加剤を続いて混合することによって調製した参考混合物RM−1が高流動化効果の維持について(試験T1)、本発明のM−1ポリマー混合物を下回ることが、試験T4によって示されていることも、注目に値する。さらに、本発明の方法は、調製時間に関しても明らかにより優位である。
【0085】
要するに、本発明の方法によって得られるポリマー混合物が、特に高い高流動化効果を示し、その上、この効果を比較的に長期間にわたって維持する、驚くほど効果的な分散剤となることに留意する必要がある。