特許第6929239号(P6929239)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6929239
(24)【登録日】2021年8月12日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20210823BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20210823BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20210823BHJP
【FI】
   H01L21/304 622D
   C09K3/14 550D
   C09K3/14 550Z
   B24B37/00 H
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-67988(P2018-67988)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-179837(P2019-179837A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】浅田 真希
(72)【発明者】
【氏名】市坪 大輝
(72)【発明者】
【氏名】丹所 久典
(72)【発明者】
【氏名】土屋 公亮
【審査官】 中田 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−193772(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/148399(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/043504(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/129408(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C09K 3/14
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、塩基性化合物と、有機物と、水と、を含む研磨用組成物であって、
以下の条件により測定される、前記研磨用組成物の濃縮液の砥粒吸着パラメータが、15%未満である、研磨用組成物:
(1)前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(2)前記研磨用組成物の濃縮液に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、上澄み液を回収し、前記上澄み液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(3)前記C、前記Cおよび前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる前記砥粒の含有量A(重量%)から、下記式(1)により砥粒吸着パラメータを算出する。
【数1】
【請求項2】
前記有機物は水溶性高分子を含む、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記水溶性高分子は水酸基を有する高分子を含む、請求項2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記水酸基を有する高分子は、環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子を含み、
前記水酸基を有する高分子の総量に対し、前記オキシアルキレン単位を有する高分子の含有量が、1重量%以上20重量%以下である、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記水酸基を有する高分子は、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子およびヒドロキシエチルセルロースの少なくとも一方をさらに含む、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記オキシアルキレン単位を有する高分子の含有量と、前記ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子および前記ヒドロキシエチルセルロースの合計量との比(重量比)が、1:5〜1:10である、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記砥粒はコロイダルシリカを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することを含む、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および当該研磨用組成物を用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン、アルミニウム、ニッケル、タングステン、銅、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半導体、またはこれらの合金;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体ウェーハ材料は、平坦化などの種々の要求により研磨がなされ、各種分野で応用されている。
【0003】
なかでも、集積回路等の半導体素子の作製において、高平坦でキズや不純物の無い高品質な鏡面を持つミラーウェーハを作るため、シリコンウェーハを研磨する技術について様々な研究がなされている。
【0004】
研磨では、ウェーハ表面を高精度な鏡面に仕上げ、かつヘイズの少ないものとするため、砥粒に加え、研磨助剤を含有する研磨用組成物が用いられる。たとえば、特許文献1では、研磨材(砥粒)と、特定の高分子化合物と、水系媒体とを含む研磨液組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−15462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、研磨用組成物は、砥粒、研磨助剤等を比較的高濃度で混合した濃縮液の状態で保管・輸送され、当該濃縮液をそのまま、またはこれを希釈して得られた研磨用組成物を用いることで、シリコンウェーハの研磨が行われる。そして、特許文献1の技術によれば、このような濃縮液の保管安定性を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、上記のような研磨用組成物を用いてシリコンウェーハの研磨を行うと、同じ組成(同じ成分比率)を有する研磨用組成物を用いた場合であっても、使用するタイミングに依存して研磨レートが変化してしまうことがあった。すなわち、濃縮液の保管期間や使用のタイミングによっては、一定の研磨レートが得られず、研磨性能にバラつきが生じるという問題があった。
【0008】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、濃縮液の状態で長期間保管しても、安定して一定の研磨レートを維持することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、かような研磨用組成物を用いた研磨方法の提供もまた目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、砥粒と、塩基性化合物と、有機物と、水と、を含む研磨用組成物であって、以下の条件により測定される、前記研磨用組成物の濃縮液の砥粒吸着パラメータが、15%未満である、研磨用組成物によって解決される:
(1)前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(2)前記研磨用組成物の濃縮液に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、上澄み液を回収し、前記上澄み液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(3)前記C、前記Cおよび前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる前記砥粒の含有量A(重量%)から、下記式(1)により砥粒吸着パラメータを算出する。
【0010】
【数1】
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、濃縮液の状態で長期間保管しても、安定して一定の研磨レートを維持することができる研磨用組成物が提供される。また、本発明によれば、かような研磨用組成物を用いた研磨方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、砥粒と、塩基性化合物と、有機物と、水と、を含む研磨用組成物であって、
以下の条件により測定される、前記研磨用組成物の濃縮液の砥粒吸着パラメータが、15%未満である、研磨用組成物である:
(1)前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(2)前記研磨用組成物の濃縮液に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、上澄み液を回収し、前記上澄み液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(3)前記C、前記Cおよび前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる前記砥粒の含有量A(重量%)から、下記式(1)により砥粒吸着パラメータを算出する。
【0013】
【数2】
【0014】
なお、上記CおよびCは、研磨用組成物の濃縮液の液温を25℃として測定される。
【0015】
シリコンウェーハの研磨に用いる研磨用組成物は、通常、砥粒、研磨助剤等を比較的高濃度で含む濃縮液の状態で保管・輸送される。そして、研磨時には、このような濃縮液を希釈し、研磨用組成物として用いることが一般的である。しかしながら、同じ組成(同じ成分比率)を有する研磨用組成物を用いた場合であっても、濃縮液の保管期間や使用のタイミングによっては、一定の研磨レートが得られないという問題があった。
【0016】
このような課題について本発明者らが鋭意検討を行ったところ、驚くべきことに、上記式(1)により算出される濃縮液の砥粒吸着パラメータを15%未満とすることにより、上記課題が解決されることを見出した。
【0017】
ここで、砥粒吸着パラメータは、その値が大きいほど、研磨用組成物の濃縮液に含まれる研磨助剤(主として有機物)の、砥粒に対する吸着性が高いことを示す。そして、本発明者らは、上記砥粒吸着パラメータが大きい場合、直ちに研磨助剤が砥粒に吸着するのではなく、砥粒に対する研磨助剤の吸着が徐々に進行するのではないかと考えた。すなわち、本発明者らは、濃縮液の状態で長期間にわたって保管すると、研磨助剤が経時的に砥粒表面を被覆し、液中に分散された(遊離した)研磨助剤の量が徐々に減少すると推測した。そして、この経時的な変化は希釈後の研磨助剤の砥粒への吸着性にも影響を及ぼすと考えられる。したがって、砥粒吸着パラメータが高い濃縮液は、保管期間の長短に依存して、砥粒表面に対する研磨助剤の被覆率が変化してしまう結果、研磨用組成物の研磨レートが変化してしまうと推測される。
【0018】
これに対し、本発明に係る研磨用組成物は、濃縮液の状態における砥粒吸着パラメータが15%未満という、小さい値を有する。このように、砥粒吸着パラメータが小さい値であると、砥粒に対して研磨助剤が非常に吸着しにくいと推測される。したがって、上述のような研磨助剤の経時的な吸着がそもそも生じないため、濃縮液を長期間にわたって保管しても、研磨用組成物の研磨レートが変化しにくくなる。さらには、本発明に係る研磨用組成物によれば、その保管期間の長短に関わらず、調製直後であっても、長期間保管した後であっても、同等の研磨レートを達成できる。
【0019】
なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下の範囲)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定する。
【0021】
[研磨用組成物]
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒と、塩基性化合物と、有機物と、水と、を含み、上記式(1)により算出される濃縮液の砥粒吸着パラメータが、15%未満である。
【0022】
このように、濃縮液の状態における砥粒吸着パラメータが15%未満であると、濃縮液中に含まれる研磨助剤(主として有機物)が砥粒に対して吸着しにくく、また、時間が経過しても砥粒への吸着が進行しにくい。よって、調製直後と、長期間保管した後との間で濃縮液中に含まれる研磨助剤(主として有機物)の砥粒に対する吸着状態が変化しにくい。その結果、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、濃縮液の状態、希釈液の状態のいずれであっても、研磨レートを一定に維持できると考えられる。
【0023】
したがって、研磨レートを一定に維持するという観点からは、砥粒吸着パラメータは、小さいほど好ましく、10%未満であると好ましく、8%未満であるとより好ましく、6%未満であるとより好ましく、5%以下であるとより好ましく、5%未満であるとより好ましく、3%未満であるとさらにより好ましく、1%未満であると特に好ましい。他方、その下限は特に制限されず、0%である。なお、砥粒吸着パラメータは、具体的には、実施例に記載の方法により測定される値である。
【0024】
本発明において、「研磨用組成物の濃縮液(濃縮液の状態における研磨用組成物)」とは、砥粒濃度が高い研磨液のことを意味し、具体的には砥粒の含有量が1重量%以上であるものである。当該濃縮液はそのまま研磨に用いてもよいし、研磨に使用する際に、水等の分散媒、若しくはこれに各成分の一部が含まれた溶液又は分散液等で希釈して(すなわち、希釈液の状態で)、研磨に用いてもよい。研磨用組成物の濃縮液中における砥粒の含有量(砥粒を二種以上用いる場合はその合計量)は、1重量%以上であれば特に制限されないが、2重量%以上であると好ましく、3重量%以上であるとより好ましく、5重量%以上であると特に好ましい。また、研磨用組成物の濃縮液中における砥粒の含有量は、特に制限されないが、保管安定性や濾過性等の観点から、50重量%以下であると好ましく、20重量%以下であるとより好ましく、10重量%以下であると特に好ましい。
【0025】
以下、本発明に係る研磨用組成物および当該研磨用組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0026】
(砥粒)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒を含む。砥粒は、研磨対象物の表面を機械的に研磨する働きを有する。
【0027】
砥粒の材質や性状は特に制限されず、研磨用組成物の使用目的や使用態様等に応じて適宜選択することができる。砥粒の例としては、無機粒子、有機粒子、および有機無機複合粒子が挙げられる。無機粒子の具体例としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化セリウム粒子、酸化クロム粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化マグネシウム粒子、二酸化マンガン粒子、酸化亜鉛粒子、ベンガラ粒子等の酸化物粒子;窒化ケイ素粒子、窒化ホウ素粒子等の窒化物粒子;炭化ケイ素粒子、炭化ホウ素粒子等の炭化物粒子;ダイヤモンド粒子;炭酸カルシウムや炭酸バリウム等の炭酸塩等が挙げられる。有機粒子の具体例としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子やポリ(メタ)アクリル酸粒子、ポリアクリロニトリル粒子等が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸を包括的に指す意味である。砥粒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記砥粒としては、無機粒子が好ましく、なかでも金属または半金属の酸化物からなる粒子が好ましい。特に好ましい砥粒としてシリカ粒子が挙げられる。シリカ粒子としてはコロイダルシリカ、フュームドシリカ、沈降シリカ等が挙げられる。
【0029】
シリカ粒子の中でも、コロイダルシリカおよびフュームドシリカが好ましく、スクラッチ低減の観点からコロイダルシリカが特に好ましい。すなわち、砥粒は、コロイダルシリカを含むと好ましい。
【0030】
ここで、好ましい研磨対象物であるシリコンウェーハの表面は、一般に、ラッピング工程とポリシング工程とを経て高品質な鏡面に仕上げられる。そして、上記ポリシング工程は、通常、予備研磨工程(予備ポリシング工程、仕上げ研磨工程より前のポリシング工程)と仕上げ研磨工程(ファイナルポリシング工程)とを含む複数の研磨工程により構成されている。たとえば、シリコンウェーハを大まかに研磨する段階(たとえば、予備研磨工程)では加工力(研磨力)の高い研磨用組成物が使用され、より繊細に研磨する段階(たとえば、仕上げ研磨工程)では研磨力の低い研磨用組成物が使用される傾向にある。このように、使用される研磨用組成物は、研磨工程ごとに求められる研磨特性が異なるため、研磨用組成物に含まれる砥粒の粒子径およびその含有量は、その研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、それぞれ異なったものが採用されうる。
【0031】
このとき、砥粒の粒子径の増大によって、研磨対象物の表面を機械的に研磨しやすくなり、研磨レートが向上する傾向がある。一方、砥粒の粒子径の減少によって、ヘイズが低減しやすくなる傾向がある。
【0032】
予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、10nm以上が好ましく、より好ましくは20nm以上であり、さらに好ましくは30nm以上である。また、予備研磨工程に用いられる砥粒の平均一次粒子径は、100nm以下が好ましく、より好ましくは80nm以下であり、さらに好ましくは60nm以下である。
【0033】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均一次粒子径は、特に制限されないが、5nm以上が好ましく、より好ましくは10nm以上であり、さらに好ましくは15nm以上であり、特に好ましくは20nm以上である。また、仕上げ研磨工程に用いられる砥粒の平均一次粒子径は、60nm以下が好ましく、より好ましくは50nm以下であり、さらに好ましくは40nm以下である。
【0034】
また、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、特に制限されないが、20nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましく、60nm以上であることがさらに好ましい。また、予備研磨工程に用いられる砥粒の平均二次粒子径は、250nm以下であることが好ましく、180nm以下であることがより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。
【0035】
仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましく、40nm以上であることがさらにより好ましく、45nm以上であることが特に好ましい。また、仕上げ研磨工程に用いられる砥粒の平均二次粒子径は、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましく、80nm以下であることがさらに好ましく、70nm以下がさらにより好ましい。
【0036】
なお、砥粒の平均一次粒子径の値は、たとえば、BET法により測定される比表面積から算出される。砥粒の比表面積の測定は、たとえば、マイクロメリテックス社製の「Flow SorbII 2300」を用いて行うことができる。また、砥粒の平均二次粒子径は、たとえば動的光散乱法により測定され、たとえば、日機装株式会社製の「ナノトラック(登録商標)UPA−UT151」を用いて測定することができる。
【0037】
また、上述のように、使用される研磨用組成物は、研磨工程ごとに求められる研磨特性が異なるため、研磨用組成物中の砥粒の含有量についても、その研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、異なったものが採用されうる。
【0038】
このとき、砥粒の含有量の増加によって、研磨対象物の表面に対する研磨レートが向上する傾向がある。一方、砥粒の含有量の減少によって、研磨用組成物の分散安定性が向上し、かつ、研磨された面の砥粒の残渣が低減する傾向がある。
【0039】
本発明の一形態に係る研磨用組成物中における砥粒の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、特に制限されないが、0.001重量%以上であることが好ましく、0.01重量%以上であることがより好ましく、0.1重量%以上であることがさらに好ましく、0.15重量%以上であることが特に好ましい。また、研磨用組成物中における砥粒の含有量は、50重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは0.8重量%以下であり、特に好ましくは0.6重量%以下であり、最も好ましくは0.5重量%以下である。
【0040】
なお、上記研磨液として用いる際の好ましい砥粒の含有量の調整は、前述した研磨用組成物の濃縮液を水等の分散媒や、これに任意の研磨助剤が含まれた溶液又は分散液などを用いて希釈することで行うことが好ましい。
【0041】
(塩基性化合物)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、塩基性化合物を含む。ここで塩基性化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該研磨用組成物のpHを上昇させる機能を有する化合物を指す。塩基性化合物は、研磨対象物の面をエッチングにより化学的に研磨する働き、および砥粒の分散安定性を向上させる働きを有する。また、塩基性化合物は、pH調整剤として用いることができる。
【0042】
塩基性化合物の具体例としては、第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩、第四級アンモニウム化合物、アンモニアまたはその塩、アミンなどが挙げられる。
【0043】
第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩において、第2族元素としては、特に制限されないが、アルカリ土類金属を好ましく用いることができ、たとえば、カルシウムなどが挙げられる。また、アルカリ金属としては、カリウム、ナトリウムなどが挙げられる。塩としては、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、酢酸塩などが挙げられる。第2族元素またはアルカリ金属の水酸化物または塩としては、たとえば、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、および炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0044】
第四級アンモニウム化合物としては、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウムなどの水酸化物、塩化物、炭酸塩、炭酸水素塩、硫酸塩、およびリン酸塩などの塩が挙げられる。具体例としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム;炭酸テトラメチルアンモニウム、炭酸テトラエチルアンモニウム、炭酸テトラブチルアンモニウムなどの炭酸テトラアルキルアンモニウム;塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウムなどの塩化テトラアルキルアンモニウム等が挙げられる。
【0045】
他のアンモニウム塩としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどが挙げられる。
【0046】
アミンの具体例としては、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、モノエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、無水ピペラジン、ピペラジン六水和物、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、N−メチルピペラジン、グアニジンなどが挙げられる。
【0047】
塩基性化合物は、その期待される機能に応じて好ましい化合物を選択することができる。また、塩基性化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
ここで、予備研磨工程に用いられる研磨用組成物中における塩基性化合物としては、研磨レート向上の観点から、水酸化テトラメチルアンモニウムなどの水酸化第四級アンモニウム化合物、アンモニアを用いることが好ましい。また、予備研磨工程に用いられる塩基性化合物としては、研磨レート向上の観点から、炭酸塩または炭酸水素塩などを含むことが好ましく、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸ナトリウム、または炭酸水素ナトリウムなどを含むことが好適である。取り扱いのしやすさという観点から、水酸化第四級アンモニウム、アンモニアがさらに好ましい。
【0049】
また、仕上げ研磨工程に用いられる研磨用組成物中における塩基性化合物としては、研磨後の研磨対象物に付着して残らないという観点から、アルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属を含まないものが好ましい。よって、塩基性化合物としては、たとえば、水酸化第四級アンモニウム、アミン、アンモニアであることが好ましく、取り扱いのしやすさという観点から、水酸化第四級アンモニウム、アンモニアがさらに好ましく、アンモニアが最も好ましい。
【0050】
本発明の一形態に係る研磨用組成物が濃縮液の状態である場合、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、0.02重量%以上であることが好ましく、0.06重量%以上であるとより好ましい。塩基性化合物の含有量を増加させることによって、高い研磨レートが得られ易くなる。また、この場合、研磨用組成物中の塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、保管安定性や濾過性等の観点から、10重量%以下であると好ましく、5重量%以下であるとより好ましく、3重量%以下であると特に好ましく、1重量%以下であると最も好ましい。
【0051】
本発明の一形態に係る研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、特に制限されないが、0.001重量%以上であると好ましく、0.003重量%以上であるとより好ましく、0.005重量%以上であると特に好ましい。また、研磨用組成物中における塩基性化合物の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、保管安定性や濾過性等の観点から、10重量%以下であると好ましく、5重量%以下であるとより好ましく、3重量%以下であるとより好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.2重量%以下であると特に好ましく、0.1重量%以下であると最も好ましい。
【0052】
なお、仕上げ研磨工程に近づくにつれて、塩基性化合物の含有量を段階的に少なくしていくとよい。一例を示すと、予備研磨用組成物の塩基性化合物の含有量が最も多く、仕上げ研磨用組成物における塩基性化合物の含有量の好ましくは2倍以上20倍以下の範囲である。
【0053】
(有機物)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、有機物を含む。有機物は、研磨対象物のヘイズを低減する働き、砥粒の分散性を向上させる働き、研磨用組成物を増粘させる働き等を有する。
【0054】
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、上述の通り、濃縮液の状態における砥粒吸着パラメータが15%未満である。ここで、砥粒吸着パラメータは、以下で説明するように、研磨用組成物中に含まれる各成分の種類や含有量に依存するが、なかでも、研磨用組成物に含まれる有機物の種類や含有量に大きく依存する傾向がある。特に、研磨対象物のヘイズの低減や、より効果的に増粘するという観点から、研磨用組成物に含まれる有機物は、水溶性高分子を含むと好ましい。なお、本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味し、「高分子」とは、重量平均分子量が1,000以上である(共)重合体をいう。重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定される値を採用する。
【0055】
水溶性高分子の重量平均分子量は、特に制限されないが、1,500以上であることが好ましく、2,000以上であることがより好ましい。また、水溶性高分子の重量平均分子量は、研磨用組成物の保管安定性の観点から、1,000,000以下であることが好ましく、800,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることがさらに好ましい。
【0056】
水溶性高分子としては、分子中に、カチオン基、アニオン基およびノニオン基から選択される少なくとも一種の官能基を有するものを使用することができる。具体的な水溶性高分子としては、分子中に水酸基、カルボキシル基、アシルオキシ基、スルホ基、第四級アンモニウム構造、複素環構造、ビニル構造、ポリオキシアルキレン構造などを含むものが挙げられる。水溶性高分子は、上記置換基および構造を単独で含んでいてもよく、二種以上を含んでいてもよい。また、水溶性高分子は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
本発明の一形態に係る研磨用組成物が濃縮液の状態である場合、研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量は、砥粒の分散性を高め、安定性を向上させるという観点から、0.002重量%以上であることが好ましく、0.02重量%以上であるとより好ましく、0.2重量%以上であると特に好ましい。また、この場合、研磨用組成物中の水溶性高分子の含有量は、保管安定性や濾過性等の観点から、5重量%以下であると好ましく、3重量%以下であるとより好ましく、1重量%以下であると特に好ましく、0.8重量%以下であると最も好ましい。
【0058】
本発明の一形態に係る研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、特に制限されないが、砥粒の分散性を高め、安定性を向上させるという観点から、0.0001重量%以上であることが好ましく、0.001重量%以上であるとより好ましく、0.005重量%以上であると特に好ましく、0.0075重量%以上であると最も好ましい。また、研磨用組成物中における水溶性高分子の含有量は、保管安定性や濾過性等の観点から、5重量%以下であると好ましく、3重量%以下であるとより好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.8重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であると特に好ましく、0.1重量%以下であると最も好ましい。
【0059】
また、水溶性高分子の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物中に含まれる砥粒100重量部に対し、0.1重量部以上であると好ましく、0.5重量部以上であるとより好ましく、1重量部以上であるとさらにより好ましく、3重量部以上であると特に好ましい。また、砥粒吸着パラメータを小さくし、経時的な研磨レートの変動を抑制するという観点から、水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物中に含まれる砥粒100重量部に対し、20重量部以下であると好ましく、10重量部以下であるとより好ましく、5重量部以下であるとさらにより好ましく、5重量部未満であると特に好ましい。
【0060】
以上より、研磨用組成物中に含まれる砥粒100重量部に対し、水溶性高分子の含有量が、0.1重量部以上20重量部以下であると好ましく、0.5重量部以上10重量部以下であるとより好ましく、1重量部以上5重量部以下であるとさらにより好ましく、3重量部以上5重量部未満であると特に好ましい。
【0061】
なお、上記において、水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物が水溶性高分子を二種以上含む場合には、その合計量を指す。
【0062】
・水酸基を有する水溶性高分子
ヘイズを抑制するという観点から、水溶性高分子は、水酸基を有すると好ましい。すなわち、水溶性高分子は、水酸基を有する高分子(水酸基を有する水溶性高分子)を含むと好ましい。
【0063】
本発明の一形態に係る研磨用組成物が濃縮液の状態である場合、研磨用組成物中の水酸基を有する高分子の含有量は、砥粒の分散性を高め、安定性を向上させるという観点から、0.002重量%以上であることが好ましく、0.02重量%以上であるとより好ましく、0.1重量%以上であるとさらに好ましく、0.2重量%以上であると特に好ましい。また、この場合、研磨用組成物中の水酸基を有する高分子の含有量は、保管安定性や濾過性等の観点から、5重量%以下であると好ましく、3重量%以下であるとより好ましく、1重量%以下であると特に好ましく、0.8重量%以下であると最も好ましい。
【0064】
本発明の一形態に係る研磨用組成物中における水酸基を有する高分子の含有量は、特に制限されないが、砥粒の分散性を高め、安定性を向上させるという観点から、0.0001重量%以上であることが好ましく、0.001重量%以上であるとより好ましく、0.005重量%以上であるとさらにより好ましく、0.0075重量%以上であると最も好ましい。また、研磨用組成物中における水酸基を有する高分子の含有量は、保管安定性や濾過性等の観点から、5重量%以下であると好ましく、3重量%以下であるとより好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.8重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であると特に好ましく、0.1重量%以下であると最も好ましい。
【0065】
また、水酸基を有する高分子の含有量は、特に制限されないが、研磨用組成物中に含まれる砥粒100重量部に対し、0.1重量部以上であると好ましく、0.5重量部以上であるとより好ましく、1重量部以上であるとさらに好ましく、1.5重量部以上であると特に好ましく、3重量部以上であると最も好ましい。また、水酸基を有する高分子の含有量は、研磨用組成物中に含まれる砥粒100重量部に対し、20重量部以下であると好ましく、10重量部以下であるとより好ましく、6重量部以下であるとさらに好ましく、5重量部以下であると特に好ましく、5重量部未満であると最も好ましい。
【0066】
以上より、研磨用組成物中に含まれる砥粒100重量部に対し、水酸基を有する高分子の含有量が、0.1重量部以上20重量部以下であると好ましく、0.5重量部以上10重量部以下であるとより好ましく、0.5重量部以上6重量部以下であるとより好ましく、1重量部以上5重量部以下であるとさらに好ましく、1.5重量部以上5重量部以下であると特に好ましく、3重量部以上5重量部未満であると最も好ましい。
【0067】
なお、上記において、水酸基を有する高分子の含有量は、研磨用組成物が水酸基を有する高分子の含有量を二種以上含む場合には、その合計量を指す。
【0068】
水酸基を有する高分子は、凝集物の低減や洗浄性向上、研磨対象物のヘイズの低減などの観点から、環状構造を有さず、オキシアルキレン単位をさらに有する高分子(「環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子」または、「ポリオキシアルキレン構造を有する高分子」とも称する)を含んでいると好ましい。かような高分子としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体、EOとPOとのランダム共重合体などが挙げられる。EOとPOとのブロック共重合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体などでありうる。上記トリブロック体には、PEO−PPO−PEO型トリブロック体およびPPO−PEO−PPO型トリブロック体が含まれる。通常は、PEO−PPO−PEO型トリブロック体がより好ましい。EOとPOとのブロック共重合体またはランダム共重合体において、該共重合体を構成するEOとPOとのモル比(EO/PO)は、水への溶解性や洗浄性などの観点から、1より大きいことが好ましく、2以上であることがより好ましく、3以上(たとえば5以上)であることがさらに好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、特に制限されないが、水酸基を有する高分子の総量(総重量)に対し、0.5重量%以上であると好ましく、1重量%以上であるとより好ましく、5重量%以上であるとさらにより好ましく、10重量%以上であると特に好ましい。また、環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、水酸基を有する高分子の総量(総重量)に対し、30重量%以下であると好ましく、20重量%以下であるとより好ましく、15重量%以下であるとさらにより好ましく、15重量%未満であると特に好ましい。
【0070】
以上より、水酸基を有する高分子の総量(総重量)に対し、環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子の含有量が、0.5重量%以上30重量%以下であると好ましく、1重量%以上20重量%以下であるとより好ましく、5重量%以上15重量%以下であるとさらにより好ましく、10重量%以上15重量%未満であると特に好ましい。
【0071】
水酸基を有する高分子は、上記環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子以外に、他の水酸基を有する高分子をさらに含みうる。かような他の水酸基を有する高分子としては、水酸基を有するものであれば特に制限されないが、例えば、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子、セルロース誘導体、デンプン誘導体等が挙げられる。
【0072】
なかでも、他の水酸基を有する高分子は、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子およびセルロース誘導体の少なくとも一方を含むと好ましい。これらの高分子を含む研磨用組成物は、研磨対象物のヘイズを低減させやすい。
【0073】
「ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子」とは、一分子中にビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−により表される構造部分;以下「VA単位」ともいう。)を有する高分子をいう。また、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子は、VA単位に加え、非ビニルアルコール単位(ビニルアルコール以外のモノマーに由来する構造単位、以下「非VA単位」ともいう。)を含む共重合体であってもよい。非VA単位の例としては、特に制限されず、エチレンに由来する構造単位等が挙げられる。ビニルアルコールに由来する構造単位を含むポリマーは、非VA単位を含む場合、一種類の非VA単位のみを含んでもよく、二種類以上の非VA単位を含んでもよい。なお、VA単位と非VA単位との含有比率(モル比)は特に制限されず、例えば、VA単位:非VA単位(モル比)は、1:99〜99:1であると好ましく、95:5〜50:50であるとより好ましい。
【0074】
ビニルアルコールに由来する構造単位を含むポリマーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール・エチレン共重合体等が挙げられる。
【0075】
「セルロース誘導体」とは、セルロースの持つ水酸基の一部が他の異なった置換基に置換されたものをいう。セルロース誘導体としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース誘導体およびプルラン等が挙げられる。
【0076】
砥粒吸着パラメータを制御しやすいという観点から、水酸基を有する高分子は、上記環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子に加え、他の水酸基を有する高分子として、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)の少なくとも一方をさらに含むと好ましい。また、同様の観点から、水酸基を有する高分子は、他の水酸基を有する高分子として、ポリビニルアルコール(PVA)およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)の少なくとも一方をさらに含むことが好ましい。なお、他の水酸基を有する高分子は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
ポリビニルアルコールが含まれる場合、当該ポリビニルアルコールの鹸化度は、特に制限されないが、80%以上100%以下であることが好ましく、90%以上100%以下であることがより好ましく、95%以上100%以下であることがさらにより好ましく、98%以上100%以下であることが特に好ましい。
【0078】
水酸基を有する高分子が、上記環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子(OA単位を有する高分子)に加え、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子(VA単位を有する高分子)およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)の少なくとも一方をさらに含む場合、環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子の含有量と、ビニルアルコールに由来する構造単位を有する高分子およびヒドロキシエチルセルロース(HEC)の合計量との比(重量比)([OA単位を有する高分子]:[VA単位を有する高分子+HECの合計重量]の重量比)は、好ましくは1:3〜1:20であり、さらにより好ましくは1:5〜1:15であり、特に好ましくは1:5〜1:10である。
【0079】
・他の水溶性高分子(水酸基を有さない水溶性高分子)
さらに、水溶性高分子は、水酸基を有する高分子に加え、他の水溶性高分子(水酸基を有さない高分子)を含んでいてもよい。かような他の水溶性高分子としては、窒素原子を有するものが好ましい。窒素原子を有する水溶性高分子は、砥粒に対する吸着性を有するが、砥粒のメカニカル作用を緩衝し、研磨対象物のヘイズを低減させることができる。
【0080】
窒素原子を有する水溶性高分子としては、例えば、ポリN−アクリロイルモルホリン(PACMO)、ポリN−ビニルピロリドン(PVP)、ポリN−ビニルイミダゾール(PVI)、ポリN−ビニルカルバゾール、ポリN−ビニルカプロラクタム、ポリN−ビニルピペリジン等が挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0081】
なかでも、研磨対象物のヘイズを低減させるという観点から、水溶性高分子が水酸基を有する高分子に加え、他の水溶性高分子(水酸基を有さない高分子)を含む場合、当該他の水溶性高分子として、ポリN−アクリロイルモルホリン(PACMO)を含むことが好ましい。
【0082】
水溶性高分子が、水酸基を有する高分子に加え、他の水溶性高分子(好ましくは、窒素原子を有する水溶性高分子、より好ましくは、ポリN−アクリロイルモルホリン(PACMO))を含む場合、研磨用組成物中の当該他の水溶性高分子の含有量は特に制限されないが、例えば、以下の範囲であると好ましい。
【0083】
本発明の一形態に係る研磨用組成物が濃縮液の状態である場合、研磨用組成物中の他の水溶性高分子の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、砥粒の分散性を高め、安定性を向上させるという観点から、0.002重量%以上であることが好ましく、0.02重量%以上であるとより好ましい。また、この場合、研磨用組成物中の他の水溶性高分子の含有量は、保管安定性や濾過性等の観点から、3重量%以下であると好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であると特に好ましく、0.3重量%以下であると最も好ましい。
【0084】
本発明の一形態に係る研磨用組成物中における他の水溶性高分子の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、特に制限されないが、砥粒の分散性を高め、安定性を向上させるという観点から、0.0001重量%以上であることが好ましく、0.001重量%以上であるとより好ましく、0.005重量%以上であると特に好ましい。また、研磨用組成物中における他の水溶性高分子の含有量(二種以上用いる場合はその合計量)は、保管安定性や濾過性等の観点から、3重量%以下であると好ましく、1重量%以下であるとより好ましく、0.5重量%以下であるとより好ましく、0.3重量%以下であるとより好ましく、0.1重量%以下であると特に好ましく、0.01重量%以下であると最も好ましい。
【0085】
(水)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、水を含む。水は、他の成分を溶解させる溶媒または分散させる分散媒としての働きを有する。
【0086】
水は、シリコンウェーハの汚染や他の成分の作用を阻害するのを防ぐ観点から、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0087】
分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0088】
ここで、分散媒は、水のみであることが好ましい。
【0089】
(他の成分)
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、砥粒、塩基性化合物、有機物、および水以外に、本発明の効果が著しく妨げられない範囲で、界面活性剤、キレート剤、防腐剤、防カビ剤等他の成分を含んでいてもよい。
【0090】
(砥粒吸着パラメータの制御)
本発明において、研磨用組成物の濃縮液の砥粒吸着パラメータは、研磨用組成物中における砥粒、塩基性化合物、有機物(主として水溶性高分子)の含有量(濃度)や温度を変更することで制御することができる。この際、上記各成分の含有量として、上述の好ましい含有量を採用することで、また、各成分の特徴や含有量に応じ組成物温度とその温度での保持時間を変化させることで、砥粒吸着パラメータを所望の範囲内に制御することが容易となる。
【0091】
[研磨用組成物の形態等]
本発明の一形態に係る研磨用組成物は、一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。多液型は、研磨用組成物の一部または全部を任意の混合比率で混合した液の組み合わせである。
【0092】
また、本発明の一形態に係る研磨用組成物は、そのまま研磨に使用してもよいし、濃縮液の状態の研磨用組成物を希釈した後に使用してもよい。このときの希釈倍率は、特に制限されないが、例えば、体積基準で2倍以上100倍以下であると好ましく、5倍以上50倍以下であるとより好ましく、10倍以上40倍以下であると特に好ましい。また、希釈方法としては、特に制限されず、水等の分散媒を加えて希釈する方法が挙げられ、あるいは多液型の研磨用組成物の場合は、水と構成成分の一部を含有する水溶液とで希釈する方法を採用してもよい。たとえば、研磨用組成物の濃縮液を保管および/または輸送した後に、使用時に希釈して研磨用組成物を調製することができる。すなわち、ここに開示される技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨液(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨液として用いられる濃縮液(研磨液の原液)との双方が包含される。
【0093】
研磨用組成物(希釈液・濃縮液)のpHは、アルカリ性であると好ましく、そのpHは、8以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましく、9.2以上であることがさらに好ましく、9.5以上であることが特に好ましい。研磨用組成物のpHが高くなると、研磨レートが向上する傾向にある。一方、研磨用組成物(希釈液・濃縮液)のpHは、12以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、10.5以下であることがさらに好ましい。研磨用組成物のpHが低くなると、表面の精度が向上する傾向にある。
【0094】
以上より、研磨用組成物(希釈液・濃縮液)のpHは、8以上12以下の範囲であると好ましく、9以上11以下の範囲であるとより好ましく、9.2以上10.5以下であるとさらに好ましく、9.5以上10.5以下の範囲であると特に好ましい。特に、研磨対象物がシリコンウェーハである場合、研磨用組成物のpHは、上記範囲であると好ましい。
【0095】
研磨用組成物のpHの調整には、公知のpH調整剤を用いてもよいし、上記塩基性化合物を用いてもよい。
【0096】
なお、研磨用組成物(希釈液・濃縮液)のpHは、pHメーターを使用して測定することができる。標準緩衝液を用いてpHメーターを3点校正した後に、ガラス電極を研磨用組成物に入れる。そして、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより研磨用組成物のpHを把握することができる。例えば、pHメーターは、堀場製作所製のpHガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番F−23)を使用することができる。標準緩衝液は、(1)フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、(2)中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、(3)炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃)を用いることができる。
【0097】
[研磨用組成物の製造方法]
本発明の一形態に係る研磨用組成物の製造方法は、例えば、各成分を水中で撹拌混合することにより得ることができる。ただし特にこの方法に制限されない。また、混合温度や混合時間は特に制限されないが、それらを変化させ砥粒吸着パラメータを制御できる。
【0098】
[研磨対象物]
本発明の一形態に係る研磨用組成物を用いて研磨する研磨対象物は、特に制限されず、種々の材質および形状を有する研磨対象物の研磨に適用され得る。研磨対象物の材料は、たとえば、シリコン材料、アルミニウム、ニッケル、タングステン、鋼、タンタル、チタン、ステンレス鋼等の金属もしくは半金属、またはこれらの合金;石英ガラス、アルミノシリケー卜ガラス、ガラス状カーボン等のガラス状物質;アルミナ、シリカ、サファイア、窒化ケイ素、窒化タンタル、炭化チタン等のセラミック材料;炭化ケイ素、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム等の化合物半導体基板材料;ポリイミド樹脂等の樹脂材料;等が挙げられる。また、研磨対象物は、上記材料のうち、複数の材料により構成されていてもよい。
【0099】
これらの中でも、本発明の一形態に係る研磨用組成物の効果がより顕著に得られることから、シリコン材料であることが好ましい。すなわち、本発明の一形態に係る研磨用組成物が、シリコン材料の研磨に用いられることが好ましい。
【0100】
また、シリコン材料は、シリコン単結晶、アモルファスシリコンおよびポリシリコンからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含むことが好ましい。シリコン材料としては、本発明の効果をより顕著に得ることができるとの観点から、シリコン単結晶またはポリシリコンであることがより好ましく、シリコン単結晶であることが特に好ましい。すなわち、研磨対象物は、単結晶シリコン基板であると好ましい。
【0101】
さらに、研磨対象物の形状は特に制限されない。本発明の一形態に係る研磨用組成物は、たとえば、板状や多面体状等の、平面を有する研磨対象物の研磨に好ましく適用され得る。
【0102】
[研磨方法]
本発明の他の形態としては、上記研磨用組成物を用いて研磨対象物(好ましくは、シリコン材料であり、より好ましくは単結晶シリコン基板)を研磨することを含む、研磨方法が提供される。すなわち、本発明の他の形態として、砥粒と、塩基性化合物と、有機物と、水と、を含む研磨用組成物を用いた研磨方法であって、以下の条件により測定される、前記研磨用組成物の濃縮液の砥粒吸着パラメータが、15%未満である研磨用組成物を用いて研磨することを含む、研磨方法が提供される:
(1)前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(2)前記研磨用組成物の濃縮液に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、上澄み液を回収し、前記上澄み液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(3)前記C、前記Cおよび前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる前記砥粒の含有量A(重量%)から、下記式(1)により砥粒吸着パラメータを算出する。
【0103】
【数3】
【0104】
なお、上記CおよびCは、研磨用組成物の濃縮液の液温を25℃として測定される。
【0105】
本発明に係る研磨用組成物は、濃縮液の状態で長期間保管しても、安定して一定の研磨レートを維持することができる。例えば、本発明に係る研磨用組成物は、濃縮液の状態で10℃以上20℃未満、または20℃以上30℃未満、または30℃以上45℃以下で保管した後であっても、安定して一定の研磨レートを維持することができる。なお、保管期間の上限も特に制限されるものではなく、例えば、1年以下であれば、特に一定の研磨レートを維持しやすい。
【0106】
上述のように、本発明に係る研磨用組成物は、濃縮液の状態で長期間保管しても、安定して一定の研磨レートを維持することができる。したがって、本発明の一形態に係る研磨方法によれば、安定した研磨レートで研磨対象物を研磨することができる。
【0107】
また、本発明の一形態に係る研磨方法は、上記式(1)により得られる砥粒吸着パラメータが15%未満である研磨用組成物の濃縮液を希釈して研磨用組成物を調製することをさらに含むことができる。このとき、希釈方法は特に制限されず、例えば、[研磨用組成物の形態等]の項に記載の希釈方法を好ましく用いることができる。
【0108】
さらに、本発明に係る研磨用組成物は、上述のように、単結晶シリコン基板の研磨に特に好ましく使用される。よって、本発明のさらに他の形態として、上記研磨用組成物を用いてシリコンウェーハを研磨することを含む、研磨方法が提供される。
【0109】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を用いることができる。
【0110】
前記研磨パッドとしては、一般的な不織布タイプ、ポリウレタンタイプ、スウェードタイプ等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0111】
研磨条件は、研磨用組成物が使用される研磨工程の段階に依存して、適宜設定される。
【0112】
予備研磨工程では、通常10rpm以上100rpm以下程度であり、好適には15rpm以上50rpm以下程度である。この際、上部回転定盤と下部回転定盤との回転速度は別であってもよいが、通常はウェーハに対して同じ相対速度に設定される。また、仕上げ研磨工程では、片面研磨装置が好適に使用でき、通常10rpm以上100rpm以下程度であり、好適には20rpm以上50rpm以下程度であり、より好適には25rpm以上50rpm以下程度である。このような回転速度であると、研磨対象物の表面のヘイズレベルを顕著に低減することができる。
【0113】
研磨対象物は、通常、定盤により加圧されている。この際の圧力は、適宜選択することができるが、予備研磨工程では、通常5kPa以上30kPa以下程度が好ましく、10kPa以上25kPa以下程度であることがより好ましい。また、仕上げ研磨工程の場合、通常5kPa以上30kPa以下程度が好ましく、10kPa以上20kPa以下程度であることがより好ましい。このような圧力であると、研磨対象物の表面のヘイズレベルを顕著に低減することができる。
【0114】
研磨用組成物の供給速度も定盤のサイズに応じて適宜選択することができるが、経済性を考慮すると、予備研磨工程の場合、通常0.1L/分以上5L/分以下程度が好ましく、好適には0.2L/分以上2L/分以下程度である。仕上げ研磨工程の場合、通常0.1L/分以上5L/分以下程度が好ましく、好適には0.2L/分以上2L/分以下程度である。かような供給速度により、研磨対象物の表面を効率よく研磨し、研磨対象物の表面のヘイズレベルを顕著に低減することがでる。
【0115】
研磨用組成物の研磨装置における保持温度としても特に制限はないが、研磨レートの安定性、ヘイズレベルの低減といった観点から、いずれも通常15℃以上40℃以下程度が好ましく、18℃以上25℃以下程度がより好ましい。
【0116】
上記の研磨条件(研磨装置の設定)に関しては単に一例を述べただけであり、上記の範囲を外れてもよいし、適宜設定を変更することもできる。このような条件は当業者であれば適宜設定可能である。
【0117】
さらに、研磨後に洗浄・乾燥を行うことが好ましい。これら操作の方法や条件は特に制限されず、公知のものが適宜採用される。たとえば、研磨対象物を洗浄する工程として、SC−1洗浄を行うと好ましい。「SC−1洗浄」とは、たとえばアンモニアと過酸化水素水との混合液(たとえば40℃以上80℃以下)を用いて行う洗浄方法である。SC−1洗浄を行い、たとえばシリコンウェーハの表面を薄くエッチングすることにより、このシリコンウェーハ表面のパーティクルを除去することができる。
【0118】
[研磨対象物の研磨レートの安定化方法]
本発明のさらに他の形態として、上記研磨用組成物を用いて研磨対象物(好ましくは、シリコン材料であり、より好ましくは単結晶シリコン基板)を研磨することを含む、研磨対象物の研磨レートの安定化方法が提供される。すなわち、本発明の他の形態として、砥粒と、塩基性化合物と、有機物と、水と、を含む研磨用組成物を用いた研磨対象物の研磨レートの安定化方法であって、以下の条件により測定される、前記研磨用組成物の濃縮液の砥粒吸着パラメータが、15%未満である、研磨用組成物を用いて研磨することを含む、研磨対象物の研磨レートの安定化方法が提供される:
(1)前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(2)前記研磨用組成物の濃縮液に対して遠心分離処理を行って前記砥粒を沈降させ、上澄み液を回収し、前記上澄み液に含まれる全有機炭素量C(重量ppm)を求める;
(3)前記C、前記Cおよび前記研磨用組成物の濃縮液に含まれる前記砥粒の含有量A(重量%)から、下記式(1)により砥粒吸着パラメータを算出する。
【0119】
【数4】
【0120】
なお、上記CおよびCは、研磨用組成物の濃縮液の液温を25℃として測定される。
【0121】
本発明に係る研磨用組成物は、濃縮液の状態で長期間保管しても、安定して一定の研磨レートを維持することができる。したがって、本発明の一形態に係る研磨対象物の研磨レートの安定化方法によれば、安定した研磨レートで研磨対象物を研磨することができる。なお、上記研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する方法の詳細は、上記[研磨方法]の項に記載の通りであるため、説明を省略する。
【実施例】
【0122】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下において、特記しない限り、操作および物性などの測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で測定した。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「重量%」および「重量部」を意味する。
【0123】
[重量平均分子量の測定]
実施例および比較例で用いた水溶性高分子の重量平均分子量を、GPC法を用いて以下の条件にて測定した。
【0124】
≪GPC測定条件≫
装置:東ソー株式会社製 HLC−8320GPC
カラム:TSK−gel GMPWXL
溶媒:100mM 硝酸ナトリウム水溶液/アセトニトリル=10〜8/0〜2
試料濃度:0.1重量%
流量:1mL/min
注入量:200μL
測定温度:40℃
分子量換算:ポリエチレングリコール換算
検出器:示差屈折計(RI)。
【0125】
[研磨用組成物(濃縮液)の調製]
(実施例1〜2および比較例1〜2)
下記表1に示される組成となるように、以下の材料を脱イオン水(DIW)中で混合することにより、pHが約10である実施例1〜2および比較例1〜2の研磨用組成物(濃縮液)をそれぞれ調製した(混合温度:約20〜25℃、混合時間:約15分)。なお、研磨用組成物(濃縮液)(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社堀場製作所製 商品名:LAQUA(登録商標))により確認した。このとき、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液 pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液 pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液 pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物(濃縮液)に挿入し、2分以上経過し、安定した後の値を測定した。
【0126】
・砥粒(コロイダルシリカ)
・塩基性化合物(アンモニア水(29重量%)、表1に記載の値はアンモニア量換算)
・水溶性高分子
PEO−PPO−PEO:PEO−PPO−PEO型トリブロック体
(重量平均分子量:3,000)
HEC:ヒドロキシエチルセルロース(重量平均分子量:260,000)
PVA:ポリビニルアルコール(重量平均分子量:70,000、鹸化度98%以上)
PACMO:ポリN−アクリロイルモルホリン(重量平均分子量:400,000)
PVP:ポリN−ビニルピロリドン(重量平均分子量:17,000)
poly(VA−co−VP):ポリビニルアルコール・ポリN−ビニルピロリドン ランダム共重合体(重量平均分子量:2,300、PVA:PVP(モル比)=90:10)。
【0127】
なお、表1において、「OA単位を有する高分子(環状構造なし)の含有量」は、水酸基を有する高分子の総量に対する、環状構造を有さないオキシアルキレン単位を有する高分子の含有量(単位:重量%)を示し、「砥粒に対する水溶性高分子の量」は、砥粒100重量部に対する水溶性高分子の含有量(単位:重量部)を示す。
【0128】
[砥粒吸着パラメータの測定]
(1)上記各実施例および比較例で得られた研磨用組成物(濃縮液)について、全有機炭素計(株式会社島津製作所製、TOC−L)を用いて、製造直後(調製後、24時間以内)の研磨用組成物(濃縮液、液温25℃)中の全有機炭素量(TOC)C(重量ppm)を測定した;
(2)上記各実施例および比較例で得られた、製造直後(調製後、24時間以内)の研磨用組成物(濃縮液)を下記の遠心分離条件で遠心分離し、上澄み液を回収した。当該上澄み液(液温25℃)について、上記(1)と同様に、上澄み液中の全有機炭素量(TOC)C(重量ppm)を測定した:
≪遠心分離条件≫
遠心分離機:ベックマン・コールター株式会社製、Avanti(登録商標) HP−30I
回転数:26000rpm
遠心分離時間:30分間
温度:25℃。
【0129】
(3)上記(1)および(2)で得られたC、C(重量ppm)および研磨用組成物(濃縮液)中の砥粒含有量A(重量%)から、下記式(1)に基づき、水溶性高分子(研磨用組成物(濃縮液)に含まれる全水溶性高分子)の砥粒に対する吸着性を算出した。得られた砥粒吸着パラメータを、以下の表1に示す。
【0130】
【数5】
【0131】
[研磨レート(R.R)の測定]
単結晶シリコンウェーハ(直径:200mm、p型、結晶方位<100>、COPフリー)を、2重量%のHF(フッ化水素)水溶液に30秒間浸漬し、脱イオン水でリンスを行うことで、前処理を行った。
【0132】
次いで、上記各実施例および比較例で得られた研磨用組成物(濃縮液)を、所定の日数で保管した後、脱イオン水(DIW)を用いて20倍(体積基準)に希釈し、研磨用組成物(希釈液)を得て、当該各研磨用組成物(希釈液)を用いて下記研磨条件で研磨した。
【0133】
≪研磨条件≫
研磨機:枚葉研磨機 PNX−322(株式会社岡本工作機械製作所製)
研磨パッド:POLYPAS(登録商標) 27NX(スウェードタイプ、厚さ約1.5mm、密度約0.4g/cm、圧縮率約20%、圧縮弾性率約90%、硬度約40°、平均開孔径約45μm、開孔率約25%、フジボウ愛媛株式会社製)
研磨荷重:15kPa
プラテン(定盤)回転数:30rpm
ヘッド(キャリア)回転数:30rpm
研磨用組成物(希釈液)の供給速度(掛け流し):0.4L/分
研磨時間:600秒
定盤冷却水の温度:20℃
研磨用組成物(希釈液)の保持温度:20℃。
【0134】
研磨後、シリコンウェーハを、NHOH(29%):H(31%):脱イオン水(DIW)=1:1:12(体積比)の洗浄液に5分間浸漬することにより洗浄した(SC−1洗浄)。その後、超音波発振器を作動した状態で脱イオン水に浸漬し、スピンドライヤーにて乾燥した。研磨前後の重量差およびシリコンの比重から、研磨レート(R.R.)を算出した。以下の表1には、各研磨用組成物について、濃縮液の調製後1日経過した時点で希釈(20倍(体積基準))して得られた研磨用組成物(希釈液)による研磨レートを100とした相対値を示す。また、以下の表1では、各研磨用組成物(濃縮液)について、濃縮液の調製後の経過日数(濃縮液の状態での保管日数)ごとに、研磨レートの相対値を示す。なお、濃縮液の保管は、室温(25℃)で行った。当該研磨レートの相対値は100に近いほど好ましく、95〜110の範囲内であると、実用的であると判断される。
【0135】
【表1】
【0136】
表1の実施例1〜2に係る研磨用組成物(濃縮液)は、長期間保管しても、これを希釈して得られる研磨用組成物の研磨レートがほとんど変化することなく、一定の研磨レートを維持していた。
【0137】
一方、比較例1〜2に示されるように、研磨用組成物(濃縮液)の砥粒吸着パラメータが15%を超える場合には、長期間保管すると、これを希釈して得られる研磨用組成物の研磨レートが変化してしまうという結果であった。このように、砥粒吸着パラメータが15%を超えると、研磨用組成物(濃縮液)中に含まれる有機物(主として水溶性高分子)の砥粒に対する吸着状態が変化してしまう結果、上記結果となったものと推測される。