(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6930378
(24)【登録日】2021年8月16日
(45)【発行日】2021年9月1日
(54)【発明の名称】半導体レーザ
(51)【国際特許分類】
H01S 5/223 20060101AFI20210823BHJP
【FI】
H01S5/223
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-210054(P2017-210054)
(22)【出願日】2017年10月31日
(65)【公開番号】特開2019-83268(P2019-83268A)
(43)【公開日】2019年5月30日
【審査請求日】2019年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】開 達郎
(72)【発明者】
【氏名】中尾 亮
(72)【発明者】
【氏名】松尾 慎治
(72)【発明者】
【氏名】相原 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】土澤 泰
【審査官】
高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−160524(JP,A)
【文献】
特開2015−220324(JP,A)
【文献】
特開平09−266355(JP,A)
【文献】
国際公開第00/016455(WO,A1)
【文献】
特開2008−211164(JP,A)
【文献】
特開2011−181584(JP,A)
【文献】
実開昭60−090862(JP,U)
【文献】
特表2017−514167(JP,A)
【文献】
特開2013−165095(JP,A)
【文献】
特開2015−069127(JP,A)
【文献】
国際公開第01/037049(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0012538(US,A1)
【文献】
特表2001−506372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00−5/50
G02B 6/12−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に形成された下部クラッド層と、
前記下部クラッド層の上方に形成された上部クラッド層と、
前記下部クラッド層と前記上部クラッド層との間に形成されたシリコンからなるシリコン層と、
前記下部クラッド層と前記上部クラッド層との間に形成された化合物半導体からなる化合物半導体層と、
前記化合物半導体層に形成されたレーザ部と
を備え、
前記レーザ部は、
活性層と、
前記下部クラッド層の上で前記活性層を挟んで前記化合物半導体層に形成されたp型領域およびn型領域と、
前記p型領域に接続する第1電極と、
前記n型領域に接続する第2電極と
を備え、
前記下部クラッド層および前記上部クラッド層の少なくとも一方は炭化シリコンから構成され、
前記基板からみて、前記シリコン層の上または下に前記化合物半導体層が配置され、
前記p型領域および前記n型領域は、前記基板に平行な方向で前記活性層を挟んでいる
ことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項2】
請求項1記載の半導体レーザにおいて、
前記シリコン層と前記化合物半導体層との間に形成された絶縁材料または半絶縁材料からなる分離層を備える
ことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項3】
請求項2記載の半導体レーザにおいて、
前記分離層は、炭化シリコンから構成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体レーザにおいて、
前記下部クラッド層は炭化シリコンから構成され、
前記下部クラッド層と前記シリコン層との間に形成された絶縁層を更に備えることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザにおいて、
前記上部クラッド層は炭化シリコンから構成され、
前記上部クラッド層の一部が前記基板に接触している
ことを特徴とする半導体レーザ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体レーザにおいて、
前記下部クラッド層は立方晶の炭化シリコンから構成され、
前記基板は単結晶シリコンから構成されていることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体レーザにおいて、
前記下部クラッド層および前記上部クラッド層の少なくとも一方を構成する炭化シリコンは、多結晶またはアモルファス状態であることを特徴とする半導体レーザ。
【請求項8】
請求項7記載の半導体レーザにおいて、
前記炭化シリコンは、重水素が含まれていることを特徴とする半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体から構成された半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
通信用光デバイスとして、Si基板上に化合物半導体によるデバイスを集積する技術が注目されている。例えば、SOI(silicon-on-insulator)基板の上の表面シリコン層の上に化合物半導体によるレーザを形成する技術が報告されている(非特許文献1参照)。この技術では、光吸収が小さなSi層の上に厚さ200〜300nmのInP層に埋め込みヘテロ(buried heterostructure;BH)構造のレーザを形成している。
【0003】
上述した半導体レーザは、
図4の断面図に示すように、基板301の上に形成された下部クラッド層302と、下部クラッド層302の上に形成されたシリコン層303と、シリコン層303の上に形成された絶縁層304と、絶縁層304の上に形成されたInP層305と、InP層305の上に形成された上部クラッド層306と、InP層305に形成されたレーザ部307とを備える。
【0004】
レーザ部307は、InP層305に埋め込まれた活性層308と、図示しない共振器と、下部クラッド層302の上で活性層308を挟んで形成されたp型領域309およびn型領域310と、第1電極311と、第2電極312とを備える。
【0005】
このように、シリコン層303の上にレーザ部307を配置することで、レーザ部307の発振領域における光の損失を低減することができる。特許文献1の技術では、シリコン層303にスラブ型のコア321による光導波路を設けることで、上述した光の損失を、より低減するようにしている。このような構成とすることで、シリコン層303に形成した光回路の上で、高出力、挟線幅レーザを実現することが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T. Aihara, T. Hiraki, K. Hasebe, T. Fujii, K. Takeda, H. Nishi, T. Tsuchizawa, T. Kakitsuka, and S. Matsuo, "Silicon nanowire waveguide integrated membrane buried heterostructure lasers", C6.2, CSW 2017, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した半導体レーザでは、InP層305に形成されるレーザ部307の小型化に伴い抵抗が増大し、電流注入による発熱量が大きくなる。特に、厚い下部クラッド層302と上部クラッド層306を備える基板301の上では、レーザ部307からの放熱性が悪く、活性層308における温度上昇が極めて大きくなる。これにより、レーザの光出力が飽和することが問題となる。
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、化合物半導体層におけるレーザの部分の温度上昇が防げるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体レーザは、基板の上に形成された下部クラッド層と、下部クラッド層の上方に形成された上部クラッド層と、下部クラッド層と上部クラッド層との間に形成されたシリコンからなるシリコン層と、下部クラッド層と上部クラッド層との間に形成された化合物半導体からなる化合物半導体層と、化合物半導体層に形成されたレーザ部とを備え、レーザ部は、活性層と、下部クラッド層の上で活性層を挟んで化合物半導体層に形成されたp型領域およびn型領域と、p型領域に接続する第1電極と、n型領域に接続する第2電極とを備え、下部クラッド層および上部クラッド層の少なくとも一方は炭化シリコンから構成されている。
【0010】
上記半導体レーザにおいて、シリコン層と化合物半導体層との間に形成された絶縁材料または半絶縁材料からなる分離層を備えるようにしてもよい。また、分離層は、炭化シリコンから構成してもよい。
【0011】
上記半導体レーザにおいて、上部クラッド層を炭化シリコンから構成する場合、上部クラッド層の一部が基板に接触しているようにするとよい。
【0012】
上記半導体レーザにおいて、下部クラッド層は炭化シリコンから構成した場合、下部クラッド層とシリコン層との間に形成された絶縁層を更に備えるようにしてもよい。
【0013】
上記半導体レーザにおいて、下部クラッド層を立方晶の炭化シリコンから構成する場合、基板は単結晶シリコンから構成するとよい。
【0014】
上記半導体レーザにおいて、下部クラッド層および上部クラッド層の少なくとも一方を構成する炭化シリコンは、多結晶またはアモルファス状態としてもよい。この場合、炭化シリコンは、重水素が含まれているとよい。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、クラッドを炭化シリコンから構成するようにしたので、化合物半導体層におけるレーザの部分の温度上昇が防げるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態1における半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態2における半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施の形態3における半導体レーザの構成を示す断面図である。
【
図4】
図4は、引用文献1に示された半導体レーザの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1における半導体レーザについて
図1を参照して説明する。この半導体レーザは、基板101の上に形成された下部クラッド層102と、下部クラッド層102の上に形成されたシリコンからなるシリコン層103と、シリコン層103の上に形成された化合物半導体からなる化合物半導体層105と、化合物半導体層105の上に形成された上部クラッド層106と、化合物半導体層105に形成されたレーザ部107とを備える。
【0019】
なお、下部クラッド層102と上部クラッド層106との間にシリコン層103および化合物半導体層105が配置されていればよく、例えば、基板101の側から見て、化合物半導体層105の上にシリコン層103が配置されるようにしてもよい。また、実施の形態1では、シリコン層103と化合物半導体層105との間に、絶縁材料または半絶縁材料からなる分離層104を備えるようにしている。
【0020】
ここで、下部クラッド層102および上部クラッド層106の少なくとも一方が、炭化シリコン(SiC)から構成されている。なお、レーザ部107は、活性層108と、図示しない共振器と、下部クラッド層102の上で活性層108を挟んで化合物半導体層105に形成されたp型領域109およびn型領域110とを備える。また、p型領域109には、第1電極111が電気的に接続し、n型領域110は第2電極112が電気的に接続している。
【0021】
なお、実施の形態1では、シリコン層103にスラブ型のコア121による光導波路構造を設けている。レーザ部107の下にシリコン層103を設けることで、レーザ部107の発振領域における光の損失を低減することができる。加えて、上述したように、コア121による光導波路構造を設けることで、上述した光の損失がより低減できるようになる。ここで、分離層104は形成しなくてもよいが、この場合、コア121とする両脇のシリコン層103に、空間を設けるようにすればよい。
【0022】
上述したように、実施の形態1によれば、下部クラッド層102および上部クラッド層106の少なくとも一方を、SiCから構成したので、レーザ部107が形成されている化合物半導体層105において、レーザ部107の発振動作により発生した熱は、放熱性のよいSiCから構成したクラッドを介して外方へ散逸されるようになる。
【0023】
例えば、下部クラッド層102をSiCから構成した場合、化合物半導体層105で発生した熱は、放熱性の良いシリコン層103およびSiCからなる下部クラッド層102を介して基板101へ散逸される。この構成では、基板101直下にヒートシンクやペルチェ素子を配置する。
【0024】
また、上部クラッド層106をSiCから構成した場合、化合物半導体層105で発生した熱は、放熱性のよい上部クラッド層106を介して散逸される。この構成では、上部クラッド層106の直上にヒートシンクやペルチェ素子を配置する。
【0025】
また、下部クラッド層102および上部クラッド層106の両者をSiCから構成してもよい。この構成は、最も放熱効率が良いものとなる。また、分離層104をSiCから構成してもよい。
【0026】
また、下部クラッド層102をSiCから構成する場合、基板101を単結晶シリコンから構成し、下部クラッド層102を立方晶のSiCから構成するとよい。例えば、主表面を単結晶シリコンの(111)面とした基板101であれば、基板101の主表面上に、単結晶の3C−SiCを結晶成長することが可能となる。
【0027】
また、多結晶やアモルファスのSiCから下部クラッド層102や上部クラッド層106を構成してもよい。この構成とすることで、エピタキシャル成長や基板接合などを用いることなく、安価なCVD(Chemical Vapor Deposition)法による堆積プロセスにより、下部クラッド層102や上部クラッド層106をSiCから構成することができる。
【0028】
また、CVD法などによりSiCを堆積する場合、重水素が含まれるようにするとよい。例えば、SiCの膜中に水素が含まれると、C−Hボンドが形成されるようになる。このC−Hは、光通信で一般的に用いられている波長域(1.3〜1.6μm)に吸収を持つため、水素を多く含むSiCで光導波路構造を作ると光損失が高い。CVD法でSiCを形成する場合、シラン(SiH
4)やエチレン(C
2H
4)などの原料ガスの代わりに、重水素化シラン(SiD
4)や重水素化エチレン(C
2D
4)などの原料ガスを用い、SiC中に、水素の代わりに重水素が含まれるようにするとよい。
【0029】
このようにすることで、SiC中には、水素ではなく重水素が含まれる状態となり、C−Dボンドが含まれることになる。この結果、SiCにおける光吸収波長がシフトするため、光通信波長域において光損失のない光導波路構造が作製できる。また、Hの同位体であるDへの変更は、屈折率など他の膜特性にはほとんど影響はないため、設計変更なく同じ作製方法でSiCによる低損失な光導波路構造を作製できる。
【0030】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2における半導体レーザついて
図2を参照して説明する。この半導体レーザは、基板101の上に形成された下部クラッド層102と、下部クラッド層102の上に形成されたシリコン層103と、シリコン層103の上に形成された化合物半導体層105と、化合物半導体層105の上に形成された上部クラッド層106と、化合物半導体層105に形成されたレーザ部107とを備える。実施の形態2でも、シリコン層103と化合物半導体層105との間に分離層104を備えるようにしている。
【0031】
また、レーザ部107は、活性層108と、図示しない共振器と、下部クラッド層102の上で活性層108を挟んで化合物半導体層105に形成されたp型領域109およびn型領域110とを備える。また、p型領域109には、第1電極111が電気的に接続し、n型領域110は第2電極112が電気的に接続している。また、シリコン層103にスラブ型のコア121による光導波路構造を設けている。
【0032】
上述した構成は、前述した実施の形態1と同様である。実施の形態2では、下部クラッド層102が、SiCから構成され、加えて、下部クラッド層102とシリコン層103との間に絶縁層113を備える。絶縁層113は、例えば、酸化シリコンなどの絶縁材料から構成すればよい。このように絶縁層113を設けることで、シリコン層103と、SiCからなる下部クラッド層102との界面の欠陥密度を低減することが可能となる。ただし、絶縁層113は、放熱性を妨げない程度に薄く形成することが重要となる。例えば、絶縁層113を酸化シリコンから構成する場合、厚さを100nm以下とすることが好ましい。
【0033】
[実施の形態3]
次に、本発明の実施の形態3における半導体レーザついて
図3を参照して説明する。この半導体レーザは、基板101の上に形成された下部クラッド層102と、下部クラッド層102の上に形成されたシリコン層103と、シリコン層103の上に形成された化合物半導体層105と、化合物半導体層105の上に形成された上部クラッド層206と、化合物半導体層105に形成されたレーザ部107とを備える。実施の形態3でも、シリコン層103と化合物半導体層105との間に分離層104を備えるようにしている。
【0034】
また、レーザ部107は、活性層108と、図示しない共振器と、下部クラッド層102の上で活性層108を挟んで化合物半導体層105に形成されたp型領域109およびn型領域110とを備える。また、p型領域109には、図示しない第1電極が電気的に接続し、n型領域110は図示しない第2電極が電気的に接続している。また、シリコン層103にスラブ型のコア121による光導波路構造を設けている。
【0035】
上述した構成は、前述した実施の形態1と同様である。実施の形態3では、SiCから構成した上部クラッド層206の一部を、接触領域101aにおいて、基板101に接触させている。例えば、レーザ部107以外の領域で、下部クラッド層102,シリコン層103,分離層104に基板101に到達する貫通孔を形成し、この後、SiCを堆積して上部クラッド層206を形成すればよい。この構成とすることで、下部クラッド層102および上部クラッド層206の両方を介して散逸される熱が、いずれも基板101のp側のヒートシンクやペルチェ素子に伝導させることが可能となる。
【0036】
なお、上部クラッド層206は、前述した実施の形態と同様に、多結晶またはアモルファス状態の炭化シリコンから構成してもよく、この場合、重水素が含まれていてもよい。
【0037】
以上に説明したように、本発明によれば、クラッドを炭化シリコンから構成するようにしたので、化合物半導体層におけるレーザの部分の温度上昇が防げるようになる。
【0038】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。例えば、化合物半導体層は、InPなどの化合物半導体から構成すればよい。また、活性層は、InGaAs、InGaAsP、InGaAlAs、InGaAsSbなどの化合物半導体から構成されたバルク構造としてもよく、また、多重量子井戸構造としてもよい。
【0039】
また、上述では、基板平面方向に、活性層を挟んでp型領域およびn型領域を配置したが、これに限るものではなく、基板平面の法線方向に、活性層を挟んでp型領域およびn型領域を配置してもよい。また例えば、レーザ部は、外部共振器型、DBR(Distributed Bragg Reflector)型、DFB(Distributed Feedback)型のいずれであってもよい。
【符号の説明】
【0040】
101…基板、102…下部クラッド層、103…シリコン層、104…分離層、105…化合物半導体層、106…上部クラッド層、107…レーザ部、108…活性層、109…p型領域、110…n型領域、111…第1電極、112…第2電極、121…コア。