(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは電子ビームに限るものでなく、イオンビーム等でもよい。
【0017】
図1に示す描画装置1は、マスクやウェーハ等の対象物に電子ビームを照射して所望のパターンを描画する描画部10と、描画部10による描画動作を制御する制御部60とを備える。描画部10は、電子ビーム鏡筒12及び描画室30を有した、マルチビーム描画装置の一例である。
【0018】
電子ビーム鏡筒12内には、電子銃14、照明レンズ16、成形アパーチャアレイ18、ブランキングアパーチャアレイ20、偏向器22、制限アパーチャ部材24、及び対物レンズ26が配置されている。描画室30内には、XYステージ32が配置される。XYステージ32には、XYステージ32の位置測定用のミラー34、描画対象の基板36であるマスクブランク、及びXYステージ32に照射されたビームのビーム電流を検出する検出器Fが配置されている。検出器Fは例えばファラデーカップを用いることができる。
【0019】
ブランキングアパーチャアレイ20は、移動部40に取り付けられている。移動部40には、例えば6自由度の運動(前後、左右、上下、ロール、ピッチ及びヨーの運動)を生成するモーションベースを用いることができる。移動部40により、ブランキングアパーチャアレイ20のX方向、Y方向、Z方向の位置や傾き等を調整することができる。
【0020】
図2に示すように、成形アパーチャアレイ18には、縦m列×横n列(m,n≧2)の開口(第1開口)18Aが所定の配列ピッチで形成されている。各開口18Aは、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。開口18Aの形状は、円形であっても構わない。これらの複数の開口18Aを電子ビームBの一部がそれぞれ通過することで、マルチビームMBが形成される。
【0021】
ブランキングアパーチャアレイ20は、成形アパーチャアレイ18の下方に設けられ、成形アパーチャアレイ18の各開口18Aに対応する開口(第2開口)20Aが形成されている。開口20Aの配列ピッチは、開口18Aの配列ピッチよりも狭くなっている。各開口20Aには、対となる2つの電極の組からなるブランカ(図示略)が配置される。ブランカの一方はグラウンド電位で固定されており、他方をグラウンド電位と別の電位に切り替える。各開口20Aを通過する電子ビームは、ブランカに印加される電圧によってそれぞれ独立に偏向される。このように、複数のブランカが、成形アパーチャアレイ18の複数の開口18Aを通過したマルチビームMBのうち、それぞれ対応するビームのブランキング偏向を行う。
【0022】
制御部60は、制御計算機62、偏向制御回路64、移動制御回路66、レンズ制御回路68及びステージ位置検出器70を有している。偏向制御回路64は、ブランキングアパーチャアレイ20及び偏向器22に接続されている。移動制御回路66は、移動部40に接続されている。
【0023】
描画部10では、照明レンズ16及び対物レンズ26によって電子光学系が構成されている。電子銃14(放出部)から放出された電子ビームBは、制限アパーチャ部材24に形成された中心の穴でクロスオーバーを形成するように、照明レンズ16により収束され、成形アパーチャアレイ18全体を照明する。
【0024】
電子ビームBが成形アパーチャアレイ18の複数の開口18Aを通過することによって、マルチビームMBが形成される。マルチビームMBは、ブランキングアパーチャアレイ20のそれぞれ対応するブランカ内を通過する。マルチビームMBの各ビームは、制限アパーチャ部材24に形成された中心の穴に向かって角度を持って進む。従って、マルチビームMB全体のビーム径及びマルチビームMBのビームピッチは、成形アパーチャアレイ18を通過時から徐々に小さくなっていく。
【0025】
マルチビームMBは、成形アパーチャアレイ18によって形成されるビームピッチよりも狭くなったピッチでブランキングアパーチャアレイ20を通過する。ブランキングアパーチャアレイ20を通過したマルチビームMBは、制限アパーチャ部材24に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ20のブランカにより偏向された電子ビームは、制限アパーチャ部材24の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ部材24によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ20のブランカによって偏向されなかった電子ビームは、制限アパーチャ部材24の中心の穴を通過する。
【0026】
このように、制限アパーチャ部材24は、ブランキングアパーチャアレイ20のブランカによってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに制限アパーチャ部材24を通過したビームが、1回分のショットのビームとなる。
【0027】
制限アパーチャ部材24を通過したマルチビームMBは、対物レンズ26により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となる。制限アパーチャ部材24を通過した各ビーム(マルチビーム全体)は、偏向器22によって同方向にまとめて偏向され、各ビームの基板36上のそれぞれの照射位置に照射される。
【0028】
なお、
図1の例では、偏向器22が制限アパーチャ部材24よりも光路の下流側に配置されるが、上流側に配置されてもよい。
【0029】
XYステージ32が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ32の移動に追従するように偏向器22によって制御される。XYステージ32の位置は、ステージ位置検出器70からミラー34に向けてレーザを照射し、その反射光を用いて測定される。XYステージ32の移動は図示しないステージ制御部により行われる。
【0030】
制御計算機62は、記憶装置(図示略)から描画データを読み出し、複数段のデータ変換処理を行って装置固有のショットデータを生成する。ショットデータには、各ショットの照射量及び照射位置座標等が定義される。
【0031】
制御計算機62は、ショットデータに基づき各ショットの照射量を偏向制御回路64に出力する。偏向制御回路64は、入力された照射量を電流密度で割って照射時間tを求める。そして、偏向制御回路64は、対応するショットを行う際、照射時間tだけブランカがビームONするように、ブランキングアパーチャアレイ20の対応するブランカに偏向電圧を印加する。
【0032】
また、制御計算機62は、ショットデータが示す位置(座標)に各ビームが偏向されるように、偏向位置データを偏向制御回路64に出力する。偏向制御回路64は、偏向量を演算し、偏向器22に偏向電圧を印加する。これにより、その回にショットされるマルチビームMBがまとめて偏向される。
【0033】
制御計算機62は、検出器Fから電流検出結果を取得する。
【0034】
ブランキングアパーチャアレイ20の取り付け誤差等により、成形アパーチャアレイ18で形成されたマルチビームMBのうち一部のビームが開口20Aを通過しなくなると、基板36上に結像すべきビームアレイの一部が欠損する。本実施形態では、移動部40によりブランキングアパーチャアレイ20の位置や姿勢を調整し、マルチビームMBが開口20Aを通過するようにアライメント(位置合わせ)を行う。
【0035】
ブランキングアパーチャアレイ20のアライメントにあたり、まず、マルチビームMBのうち一部のビームのみをONにし、残りのビームをOFFにする。そして、移動部40を用いて、ブランキングアパーチャアレイ20をXY方向に移動させ、検出器Fで都度ビーム電流を検出する。
【0036】
ブランキングアパーチャアレイ20を移動させることで、相対的には、ビームSBが開口20AをXY方向に走査するように移動する。
図3(a)(b)は、1本のビームSBに着目し、このビームSBが開口20AをXY方向に走査するように移動する様子の模式図である。ブランキングアパーチャアレイ20の移動と、検出器Fでの電流検出を交互に行う。これにより、
図4に示すような、ブランキングアパーチャアレイ20のXY座標に対する電流量の等高線マップ(電流量マップ)が作成される。電流量マップの中央側ほど電流量が高く、周縁側ほど電流量が低くなる。
【0037】
ONするビームを切り替えながら、このような電流量マップを作成する。例えば、
図5(a)〜(i)に示すようにONビーム領域(図中斜線部分)を順に切り替える。ここでは、マルチビームMBが16×16本のビームで構成され、9箇所のONビーム領域がそれぞれ4本のビームからなる例を示している。
図5(a)(c)(g)(i)では、正方形状のマルチビームの四隅をONビーム領域としている。
図5(b)(d)(f)(h)では、正方形状のマルチビームの四辺の辺縁部の(辺方向の)中央部をONビーム領域としている。
図5(e)では、正方形状のマルチビームの中心部をONビーム領域としている。
【0038】
各ONビーム領域のビーム本数は4本に限定されず、検出器Fでビーム電流が検出できる本数であればよい。また、ONビーム領域の数は9箇所に限定されず、8箇所以下でもよいし、10箇所以上でもよい。
図5(a)〜(i)に示す9箇所をONビーム領域として選定しておくと、後述する処理によりブランキングアパーチャアレイ20の位置ずれが検出し易い。
【0039】
ONビーム領域を
図5(a)〜(i)に示すものとしたときに作成される電流量マップを、
図6に示すように、ONビーム領域の位置に合わせて並べる。例えば、
図6の左上の電流量マップが、ONビーム領域を
図5(a)に示すものとしたときに作成される電流量マップである。ブランキングアパーチャアレイ20のアライメントが理想的な状態である場合、
図6に示すように、どの電流量マップに着目しても、等高線の最高地点(輝度の重心)がXY座標に対して中央に位置する。
【0040】
図7(a)に示すように、ブランキングアパーチャアレイ20が理想位置よりも成形アパーチャアレイ18に近い場合、
図7(b)に示すように、マルチビームMBのうち周縁側のビームをONとした場合の電流量マップにおいて、等高線の最高地点が中央の電流量マップに近付く。
【0041】
図8(a)に示すように、ブランキングアパーチャアレイ20が理想位置よりも成形アパーチャアレイ18から遠い場合、
図8(b)に示すように、マルチビームMBのうち周縁側のビームをONとした場合の電流量マップにおいて、等高線の最高地点が中央の電流量マップから離れる。
【0042】
本実施形態では、全ての電流量マップにおいて、等高線の最高地点がマップ中心に位置するように、移動部40を用いてブランキングアパーチャアレイ20を動かす。例えば、
図7(b)に示すような電流量マップが得られた場合、ブランキングアパーチャアレイ20を下降させる。
図8(b)に示すような電流量マップが得られた場合、ブランキングアパーチャアレイ20を上昇させる。
【0043】
図9(a)に示すように、ブランキングアパーチャアレイ20が傾いている場合、電流量マップは
図9(b)に示すようなものとなる。すなわち、マルチビームMBのうちX方向の中央側のビームをONとした場合は、等高線の最高地点が中央に位置する。一方、マルチビームMBのうちX方向の端部側のビームをONとした場合は、等高線の最高地点がX方向にシフトする。等高線の最高地点のシフト量からブランキングアパーチャアレイ20の傾き角を求め、移動部40によりブランキングアパーチャアレイ20の傾きを補正することができる。
【0044】
図10に示すように、各電流量マップの等高線の最高地点が中央から同一方向に一様にずれている場合は、中央からのずれ量に基づいて、移動部40によりブランキングアパーチャアレイ20をX方向及び/又はY方向に移動する。
【0045】
図11はブランキングアパーチャアレイ20のアライメント方法を説明するフローチャートである。
【0046】
マルチビームMBのうち、特定の領域のみONにする(ステップS1)。移動制御回路66が移動部40を制御し、ブランキングアパーチャアレイ20をX方向及びY方向に移動させる(ステップS2)。これにより、各ビームが開口20AをXY方向に走査するように移動する。ブランキングアパーチャアレイ20を微小な距離移動させる毎に、検出器Fでビーム電流を検出する。
【0047】
制御計算機62が、検出器Fの検出結果と、ブランキングアパーチャアレイ20の移動量とに基づいて、電流量マップを作成する(ステップS3)。制御計算機62は、電流量マップから、ビーム位置を示す輝度の重心を算出する(ステップS4)。
【0048】
ONビーム領域を切り替えてステップS2〜S4の処理を繰り返し行う。全てのONビーム領域での処理を完了すると(ステップS5_Yes)、制御計算機62は、ONビーム領域毎のビーム位置を多項式フィッティングし、ブランキングアパーチャアレイ20が理想位置にある状態を基準としたビーム位置の倍率を算出する(ステップS6)。例えば、
図7(b)に示すような電流量マップが得られた場合、算出される倍率は基準値よりも小さくなる。一方、
図8(b)に示すような電流量マップが得られた場合、算出される倍率は基準値よりも大きくなる。
【0049】
ステップS6で算出した倍率が所定の範囲から外れている場合、ブランキングアパーチャアレイ20の移動が必要と判定し(ステップS7_Yes)、算出した倍率に基づいてブランキングアパーチャアレイ20をZ方向に移動する(ステップS8)。
【0050】
ブランキングアパーチャアレイ20のZ方向移動量はあらかじめ取得しておいた調整係数を用いて決定される。例えば、ブランキングアパーチャアレイ20を実際にΔZだけ動かした場合の倍率の変化量ΔMを測定し、調整係数ΔZ/ΔMをあらかじめ取得しておく。ステップS8におけるブランキングアパーチャアレイ20の移動量は、ΔZ/ΔM×(補正したい倍率)で決定される。
【0051】
調整係数ΔZ/ΔMは、照明レンズ16の収束角から計算により求めてもよい。
【0052】
また、上述したようなブランキングアパーチャアレイ20の傾きやXY方向ずれの有無を検出し、検出した傾きやXY方向ずれを補正するようにブランキングアパーチャアレイ20を動かす。ブランキングアパーチャアレイ20の移動後、ステップS1〜S7の処理を再度実行する。
【0053】
このように、本実施形態によれば、ONビーム領域を切り替えながらブランキングアパーチャアレイ20を走査し、得られた電流量マップからブランキングアパーチャアレイ20の位置や姿勢のずれを検出することができる。6自由度の運動を生成する移動部40がブランキングアパーチャアレイ20を動かし、検出した位置や姿勢のずれを補正することで、成形アパーチャアレイ18で形成されたマルチビームMB(マルチビームの全てのビーム)が開口20Aを通過し、基板36上に結像するビームアレイの形状が良好なものとなる。
【0054】
上記実施の形態において、成形アパーチャアレイ18の開口18Aの位置誤差や、照明レンズ16、対物レンズ26の収差等の影響により、
図12に示すように、各電流量マップの輝度の重心がばらばらに位置することがある。このような場合は、各電流量マップの輝度の重心と電流量マップの中心とのずれ量を計算し、ずれ量の平均値だけブランキングアパーチャアレイ20を移動する。
【0055】
ブランキングアパーチャアレイ20の移動後も、輝度の重心とマップ中心とのずれ量が大きい電流量マップがある場合、この電流量マップに対応する領域のビームを製品実描画では使用しないように設定してもよい。
【0056】
上記実施形態では、検出器Fにファラデーカップを使用し、所定の領域のビームのみをONにして、ONビームのビーム電流を検出する構成について説明したが、検出器Fを、マルチビームのうち少なくとも1本のビームを通過させる検査アパーチャと、検査アパーチャを通過したビームのビーム電流を検出する電流検出器とで構成してもよい。電流検出器の検出結果が制御計算機62に通知される。
【0057】
この場合、全てのビームをONにし、偏向器22を用いて、マルチビームを検査アパーチャ上でXY方向にスキャンし、検査アパーチャを通過したビームのビーム電流を検出する。制御計算機62は、電流検出器により検出されたビーム電流を輝度に変換し、偏向器22の偏向量に基づいてビーム画像を作成する。成形アパーチャアレイ18で形成されたマルチビームMBの全てのビームが開口20Aを通過する場合、
図13に示すようなビーム画像が作成される。
【0058】
移動部40を用いて、ブランキングアパーチャアレイ20をXY方向に移動させる。ブランキングアパーチャアレイ20を所定の距離ずつ移動する毎に、マルチビームでの検査アパーチャのスキャン、ビーム電流の検出及びビーム画像の作成を行う。
【0059】
ブランキングアパーチャアレイ20が理想的な状態にある場合、ブランキングアパーチャアレイ20のXY方向の位置に合わせてビーム画像を並べると、
図14に示すようなものとなる。
【0060】
図15(a)に示すように、成形アパーチャアレイ18で形成されるマルチビームMBのX方向のビームピッチがブランキングアパーチャアレイ20の開口ピッチよりも大きくなっている場合、
図15(b)に示すようなビーム画像が得られる。制御計算機62は、ビーム画像の特徴に基づいて、ブランキングアパーチャアレイ20の位置や姿勢、レンズ収差等を制御する。
【0061】
上記実施形態では移動部40によりブランキングアパーチャアレイ20の位置や姿勢を調整する例について説明したが、成形アパーチャアレイ18の位置や姿勢を調整してもよい。
【0062】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。