特許第6931709号(P6931709)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6931709ディスプレイ表面用保護フィルム、偏光板、及び画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6931709
(24)【登録日】2021年8月18日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】ディスプレイ表面用保護フィルム、偏光板、及び画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20210826BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20210826BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20210826BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   B32B27/00 Z
   B32B27/30 A
   G02B1/14
   G02B5/30
【請求項の数】7
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2019-543456(P2019-543456)
(86)(22)【出願日】2018年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2018028184
(87)【国際公開番号】WO2019058759
(87)【国際公開日】20190328
【審査請求日】2020年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2017-182976(P2017-182976)
(32)【優先日】2017年9月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-223096(P2017-223096)
(32)【優先日】2017年11月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内村 真
(72)【発明者】
【氏名】植木 啓吾
(72)【発明者】
【氏名】玉田 高
(72)【発明者】
【氏名】福重 裕一
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−049525(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/159727(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/093133(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/029860(WO,A1)
【文献】 特開2017−095734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
G02B 1/14
5/30
C08J 9/00−9/42
C09J 7/00−7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃吸収層と支持体とハードコート層とを有するディスプレイ表面用保護フィルムであって、
前記衝撃吸収層は、25℃において、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を有し、
前記tanδの極大値が0.1以上0.6以下であり、
前記衝撃吸収層の厚みが10〜100μmであ
前記衝撃吸収層が、メタクリル酸メチルとn−ブチルアクリレートのブロック共重合体を含む、
ディスプレイ表面用保護フィルム
ただし、前記tanδは貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である。
【請求項2】
前記tanδの極大値を示す周波数における前記衝撃吸収層の貯蔵弾性率が30MPa以上である請求項1に記載のディスプレイ表面用保護フィルム
【請求項3】
前記支持体が、セルロースエステル系樹脂フィルム又はポリイミド系樹脂フィルムである請求項1又は2に記載のディスプレイ表面用保護フィルム
【請求項4】
さらに無機酸化物層を有する請求項1〜のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルム
【請求項5】
前記ハードコート層が、重合性化合物の硬化物を含む請求項1〜のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルム
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルムが偏光子を有する偏光板。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルム又は請求項に記載の偏光板を有する画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、偏光板、及び画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
陰極管(CRT)を利用した表示装置、プラズマディスプレイ(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)、蛍光表示ディスプレイ(VFD)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、及び液晶ディスプレイ(LCD)のような画像表示装置では、表示面への傷付き等を防止するために、支持体(基材)上にハードコート層を有するハードコートフィルムを設けることが好適である。
たとえば、特許文献1及び2には、基材の一方の面にハードコート層を有し、他方の面にウレタン樹脂層を有するハードコートフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/141866号
【特許文献2】特開2016−60117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2では、ハードコートフィルムについて耐衝撃性及び耐擦傷性の向上について記載されているが、本発明者らの検討により、ハードコート層が他の物体と接触した状態で擦られた場合に、その物体の形状がハードコート層に転写されるという新たな問題があることを見出した。
たとえば、ディスプレイ表面にハードコートフィルムを備えたノートパソコン(ノートPC)を折りたたんだ状態で運搬する際に、外側から荷重がかかることによりディスプレイ表面にキーボードの跡が転写されてしまったり、異物をディスプレイとキーボード間に挟み込んでしまうことによりディスプレイ表面に凹みが発生したり、傷がついてしまったりする問題(以下、「キーボード写り」とも呼ぶ。)が生じることがある。また、たとえば、ディスプレイ表面にハードコートフィルムを備えたスマートフォンをケースに入れて運搬する際に、ケースに荷重がかかることによりケースの内側の形状がディスプレイ表面に転写されることがある。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みなされたものであり、ハードコート層を有する積層体であって、ハードコート層への他の物体の形状の転写を抑制することができる積層体、並びにこれを有する偏光板及び画像表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討を進めた結果、特定の周波数域にtanδの極大値を有する衝撃吸収層を有する積層体により、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、上記の課題は以下の手段により解決された。
[1]
衝撃吸収層と支持体とハードコート層とを有するディスプレイ表面用保護フィルムであって、
上記衝撃吸収層は、25℃において、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を有し、
上記tanδの極大値が0.1以上0.6以下であり、
上記衝撃吸収層の厚みが10〜100μmであ
上記衝撃吸収層が、メタクリル酸メチルとn−ブチルアクリレートのブロック共重合体を含む、
ディスプレイ表面用保護フィルム
ただし、上記tanδは貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である。
[2]
上記tanδの極大値を示す周波数における上記衝撃吸収層の貯蔵弾性率が30MPa以上である[1]に記載のディスプレイ表面用保護フィルム

上記支持体が、セルロースエステル系樹脂フィルム又はポリイミド系樹脂フィルムである[1]又は[2]に記載のディスプレイ表面用保護フィルム

さらに無機酸化物層を有する[1]〜[]のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルム

上記ハードコート層が、重合性化合物の硬化物を含む[1]〜[]のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルム

[1]〜[]のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルムが偏光子を有する偏光板。

[1]〜[]のいずれか1項に記載のディスプレイ表面用保護フィルム又は[]に記載の偏光板を有する画像表示装置。
本発明は、上記[1]〜[]に係るものであるが、本明細書には参考のためその他の事項についても記載した。
【0007】
<1>
衝撃吸収層と支持体とハードコート層とを有する積層体であって、
上記衝撃吸収層は、25℃において、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を有する、
積層体。
ただし、上記tanδは貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である。
<2>
上記tanδの極大値が0.1以上である<1>に記載の積層体。
<3>
上記tanδの極大値を示す周波数における上記衝撃吸収層の貯蔵弾性率が30MPa以上である<1>又は<2>に記載の積層体。
<4>
上記衝撃吸収層の厚みが10〜200μmである<1>〜<3>のいずれか1項に記載の積層体。
<5>
上記衝撃吸収層が、メタクリル酸メチルとn−ブチルアクリレートのブロック共重合体を含む<1>〜<4>のいずれか1項に記載の積層体。
<6>
さらに無機酸化物層を有する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の積層体。
<7>
上記ハードコート層が、重合性化合物の硬化物を含む<1>〜<6>のいずれか1項に記載の積層体。
<8>
<1>〜<7>のいずれか1項に記載の積層体が偏光子有する偏光板。
<9>
<1>〜<7>のいずれか1項に記載の積層体又は<8>に記載の偏光板を有する画像表示装置。
【0008】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの一方または両方の意味で用いられる。また、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基とメタクリロイル基の一方または両方の意味で用いられる。「(メタ)アクリル」は、アクリルとメタクリルの一方または両方の意味で用いられる。
【0009】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、特段の断りがない限り、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によってポリスチレン換算の分子量として計測することができる。このとき、GPC装置はHLC−8220(東ソー(株)製)を用い、カラムはG3000HXL+G2000HXLを用い、23℃で流量は1mL/minで、屈折率(RI)で検出することとする。溶離液としては、THF(テトラヒドロフラン)、クロロホルム、NMP(N−メチル−2−ピロリドン)、m−クレゾール/クロロホルム(湘南和光純薬(株)製)から選定することができ、溶解するものであればTHFを用いることとする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハードコート層を有する積層体であって、ハードコート層への他の物体の形状の転写を抑制することができる積層体、並びにこれを有する偏光板及び画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の積層体の構成を示す断面模式図である。
図2】無機酸化物層を有する本発明の積層体の構成の一実施形態を示す断面模式図である。
図3】衝撃吸収層の25℃における周波数とtanδの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
[積層体]
本発明の積層体は、
衝撃吸収層と支持体とハードコート層とを有する積層体であって、
衝撃吸収層は、25℃において、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を有する、
積層体である。
ただし、tanδ(損失正接)は貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比である。
【0014】
本発明の積層体の好ましい実施形態の一例を図1に示す。図1に示す積層体4Aは、支持体2Aと、この支持体2Aの片面に配されたハードコート層(以下、「HC層」とも称す。)1Aと、このHC層1Aが形成された面とは反対面に配された衝撃吸収層3Aとを有する積層体である。本発明の積層体の他の好ましい実施形態としては、衝撃吸収層と、この衝撃吸収層の片側に配された支持体と、この支持体が配された面とは反対側に配されたハードコート層とを有する積層体である。
【0015】
本発明の積層体は上記構成を有することにより、ハードコート層への他の物体の形状の転写を十分に抑制することができる。
ハードコート層への他の物体の形状の転写の例として、たとえばキーボード写りは、キーボードとディスプレイの接触時の衝撃、及び、接触後のキーボードによるディスプレイ表面への擦りによって発生するものと考えられる。輸送等によって発生する振動の周波数は、通常は、1〜10Hzの範囲であると考えられる(JIS Z0232、及びASTM D 4169等参照)。本発明では、25℃におけるtanδの極大値を10〜1013Hzの範囲に有する衝撃吸収層を、たとえば支持体を挟んでハードコート層の反対側に有する積層体とすることにより、上述の衝撃及び擦りを緩和することができ、ハードコート層への他の物体の形状の転写(たとえばキーボード写り)を抑制できるものと推定される。
なお、本発明の積層体は上記構成を有することにより、物体の落下に対する衝撃吸収性(落球耐性)にも優れる。
【0016】
本発明では、衝撃吸収層の25℃における周波数とtanδの関係について、下記の方法で周波数−tanδのグラフを作成し、tanδの極大値及び極大値を示す周波数を求めた。
(試料作成方法)
衝撃吸収層形成用材料を溶剤に溶解、または溶融させて得られた塗布液を、剥離処理が施された剥離シートの剥離処理面に、乾燥後の厚みが10〜50μmになるよう塗布、乾燥させた後、剥離シートから衝撃吸収層を剥離し衝撃吸収層の試験片を作成した。
(測定方法)
動的粘弾性測定装置((株)アイティー・エス・ジャパン会社製DVA−225)を用いて、あらかじめ温度25℃、相対湿度60%雰囲気下で2時間以上調湿した上記試験片について、「ステップ昇温・周波数分散」モードにおいて下記条件において測定を行った後、「マスターカーブ」編集にて25℃における周波数に対するtanδ、貯蔵弾性率E’および損失弾性率E’’のマスターカーブを得た。得られたマスターカーブからtanδの極大値及び極大値を示す周波数を求めた。
試料:5mm×30mm
つかみ間距離:20mm
設定歪み:0.10%
測定温度:−40℃〜40℃
昇温条件:2℃/min
【0017】
衝撃吸収層は、25℃において、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を少なくとも1つ有していればよく、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を2つ以上有していてもよい。また、周波数10〜1013Hz以外の周波数の範囲に更にtanδの極大値を有していてもよく、その極大値が最大値であってもよい。
【0018】
衝撃吸収層は、25℃において、周波数10〜1013Hzの範囲にtanδの極大値を少なくとも1つ有することが好ましく、周波数10〜1012Hzの範囲にtanδの極大値を少なくとも1つ有することがより好ましく、周波数10〜1011Hzの範囲にtanδの極大値を少なくとも1つ有することが更に好ましい。
【0019】
衝撃吸収層の25℃におけるtanδの極大値は、衝撃吸収の観点から、0.1以上であることが好ましく、0.2以上であることがより好ましい。また、硬度の観点から、衝撃吸収層の25℃におけるtanδの極大値は、3.0以下であることが好ましい。
【0020】
tanδの極大値を示す周波数における衝撃吸収層の貯蔵弾性率(E’)は30MPa以上であることが好ましい。tanδの極大値を示す周波数における衝撃吸収層のE’が30MPa以上であることで、外部応力に対する変位量が大きくならず、変形による積層体及び上記積層体を前面板として用いたディスプレイの破損が起こりにくい。tanδの極大値を示す周波数における衝撃吸収層のE’は50MPa以上であることがより好ましい。また、衝撃吸収の観点から、tanδの極大値を示す周波数における衝撃吸収層のE’は特に上限はないが、10MPa以下が実用的である。
【0021】
以下、本発明の積層体を構成する各層の成分及び調製について、詳細を説明する。
【0022】
(1)衝撃吸収層
(衝撃吸収層の材質)
本発明の積層体が備える衝撃吸収層は、上述の周波数域にtanδの極大値を与えるものであれば、樹脂から構成されてもよいし、エラストマー(油展ゴムを含む)から構成されてもよい。衝撃吸収層は、積層体を画像表示装置の保護フィルム、偏光板又は前面板等として用いた際に、表示内容の視認性を確保できる透明性を有し、かつ、保護フィルム、偏光板又は前面板等への押さえ付け又は衝突等に由来する画像表示装置表面に積層された薄ガラスの破損を防ぐことができるものであることが好ましい。
【0023】
上記樹脂としては、1,2−ポリブタジエン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA、通常3質量%以上の酢酸ビニル単位を含有する)及びポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル樹脂((メタ)アクリレート樹脂等)、ビニルエステル樹脂(EVAを除く)、飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂(ポリフッ化ビニリデン等)、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、エポキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂及びケイ素樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂のうち、(メタ)アクリル樹脂等が好ましい。
【0024】
エラストマーとしては、共役ジエンの重合体若しくはブロック共重合体、アクリル系重合体若しくはブロック共重合体、スチレン系重合体若しくはブロック共重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体、共役ジエンの重合体若しくはブロック共重合体の水素添加物、芳香族ビニル化合物と共役ジエンとのブロック共重合体の水素添加物、エチレン・α−オレフィン系共重合体、極性基変性オレフィン系共重合体、極性基変性オレフィン系共重合体と金属イオン及び/又は金属化合物とよりなるエラストマー、アクロルニトリル−ブタジエン系ゴム等のニトリル系ゴム、ブチルゴム、アクリル系ゴム、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー(TPO)、熱可塑性ポリエステルエラストマー(TPEE)、ポリアミドエラストマー(TPAE)、ジエン系エラストマー(1,2−ポリブタジエン等)などの熱可塑性エラストマー、シリコーン系エラストマー、フッ素系エラストマーなどを挙げることができる。
これらのエラストマーのうち、アクリル系重合体若しくはブロック共重合体、スチレン系重合体若しくはブロック共重合体、シリコーン系エラストマーが好ましく、アクリル系ブロック共重合体、スチレン系ブロック共重合体が特に好ましい。アクリル系ブロック共重合体としては、メタクリル酸メチルとn−ブチルアクリレートのブロック共重合体(「PMMA−PnBA共重合体」とも呼ぶ)等が挙げられる。スチレン系ブロック共重合体としては、スチレンとイソプレン、またはブテンのブロック共重合体等が挙げられる。衝撃吸収層が含み得る樹脂又はエラストマーは公知の方法で合成してもよいし、市販品を用いてもよい。市販品としては、たとえば、クラリティLA2140e、クラリティLA2250、クラリティLA4285、HYBRAR5127、HYBRAR7311F((株)クラレ製、商品名)などが挙げられる。
【0025】
樹脂又はエラストマーの重量平均分子量は、溶剤への溶解性と硬度のバランスの観点から、10〜10が好ましく、5×10〜5×10がより好ましい。
【0026】
本発明の積層体が備える衝撃吸収層は、上述の周波数域にtanδの極大値を有するが、tanδがどの周波数域に極大値を有するかは、衝撃吸収層を構成する樹脂又はエラストマーの主鎖又は側鎖の運動性と関係していると推定される。したがって、同様の構造を有する樹脂又はエラストマーであれば、同様の周波数域にtanδの極大値を有するものと推定される。
【0027】
衝撃吸収層中の樹脂又はエラストマーの含有量は、衝撃吸収層の全質量に対して、50〜100質量%であることが好ましい。
【0028】
(添加剤)
衝撃吸収層は、上述の樹脂又はエラストマーのみを構成材料とすることもできるが、その他に更に添加剤を含有してもよい。添加剤としては、密着性改良剤、軟化剤、可塑剤、滑剤、架橋剤、架橋助剤、光増感剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、難燃剤、防菌又は防かび剤、耐候剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、造核剤、顔料、染料、有機フィラー、無機フィラー、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。また、上述の樹脂又はエラストマー以外の重合体を含有してもよい。
【0029】
衝撃吸収層に添加される密着性改良剤は、特に限定されないが、例えばロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、石油化学樹脂、水添石油化学樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、芳香族変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂、アルキルフェノール樹脂等を使用することができ、これらは、1種または2種以上を併用することができる。市販品としては、たとえば、スーパーエステルL、スーパーエステルA-18、スーパーエステルA-75、スーパーエステルA-100、スーパーエステルA-115、スーパーエステルA-125((株)荒川化学製、商品名)などが挙げられる。
【0030】
衝撃吸収層中の上記樹脂又はエラストマー以外の添加剤の含有量は、衝撃吸収層の全質量に対して、50質量%以下であることが好ましい。
【0031】
(衝撃吸収層の形成方法)
衝撃吸収層の形成方法には特に限定はなく、たとえば、コーティング法、キャスト法(無溶剤キャスト法及び溶剤キャスト法)、プレス法、押出法、射出成形法、注型法又はインフレーション法等が挙げられる。詳細には、上記衝撃吸収層形成用材料を溶媒に溶解又は分散させた液状物、又は上記衝撃吸収層形成用材料の溶融液を調製し、次いで、この液状物又は溶融液を後述の支持体の片方の面(ハードコート層形成面とは反対の面)に塗布し、その後、必要により溶媒の除去等をすることにより、衝撃吸収層が積層された積層体を作製することができる。
また、剥離処理が施された剥離シートの剥離処理面に上記液状物又は溶融液を塗布、乾燥し、衝撃吸収層を含むシートを形成し、このシートの衝撃吸収層を支持体と貼り合せることで、衝撃吸収層が積層された積層体を作製することもできる。
【0032】
衝撃吸収層が上述の樹脂で構成されている場合、衝撃吸収層は、架橋されていない樹脂により構成されていてもよいし、少なくとも一部が架橋された樹脂により構成されていてもよい。樹脂を架橋する方法については特に限定はなく、例えば、電子線照射、紫外線照射、及び架橋剤(例えば、有機過酸化物等)を用いる方法から選ばれる手段が挙げられる。樹脂の架橋を電子線照射により行う場合は、得られた衝撃吸収層(架橋前)に対し、電子線照射装置にて電子線を照射することにより、架橋を形成することができる。また、紫外線照射の場合は、得られた衝撃吸収層(架橋前)について、紫外線照射装置にて紫外線を照射することにより、必要に応じて配合された光増感剤の効果によって架橋を形成することができる。更に、架橋剤を用いる場合は、得られた衝撃吸収層(架橋前)について、通常、窒素雰囲気等、空気の存在しない雰囲気で加熱することにより、必要に応じて配合された有機過酸化物等の架橋剤、更には架橋助剤の効果によって架橋を形成することができる。
【0033】
(膜厚)
本発明の積層体が備える衝撃吸収層の膜厚(厚み)は、ハードコート層への他の物体の形状の転写の抑制の観点から、5μm以上であることが好ましく、8μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、25μm以上が特に好ましいまた、膜硬度の観点から、200μm以下であることが好ましい。
【0034】
(2)支持体
(支持体の材質)
本発明に用いられる支持体(以下、樹脂フィルムともいう)は、その材質は特に限定されない。
支持体は透明であることが好ましい。なお、本明細書で透明であるとは、可視光の透過率が80%以上であることをいい、好ましくは90%以上である。
樹脂フィルムは、例えば、アクリル系樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)系樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)系樹脂フィルム等のセルロースエステル系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタラート(PET)系樹脂フィルム、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエステル系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルム、および、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体フィルムを挙げることができ、アクリル系樹脂フィルム、セルロースエステル系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタラート系樹脂フィルム、ポリイミド系樹脂フィルムおよびポリカーボネート系樹脂フィルムから選択されるフィルムが好ましい。
透湿性の点から、セルロースエステル系樹脂フィルムがより好ましい。また、衝撃吸収性の観点から、ポリイミド系樹脂フィルムであることも好ましい。
尚、アクリル系樹脂フィルムとは、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物から形成される重合体または共重合体の樹脂フィルムをいう。アクリル系樹脂フィルムの例としては、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)フィルムが挙げられる。
樹脂の重量平均分子量は、10,000〜1000,000が好ましく、100,000〜1000,000がより好ましい。
【0035】
(樹脂フィルムの構成)
また、樹脂フィルムの構成も限定されず、単層でも、2層以上からなる積層フィルムであってもよい。2層以上の積層フィルムである場合、積層フィルムの積層数は、2〜10層が好ましく、2〜5層がより好ましく、2層または3層がさらに好ましい。3層以上の場合、外層と外層以外の層(コア層等)とは、異なる組成のフィルムが好ましい。また、外層同士は、同じ組成のフィルムが好ましい。
【0036】
(添加剤)
樹脂フィルムは、上述の樹脂の他に添加剤を含有してもよい。添加剤としては、後述のハードコート層の説明で記載する、無機粒子、マット粒子、紫外線吸収剤、含フッ素化合物、表面調整剤、レベリング剤等が挙げられる。
【0037】
(支持体の厚み)
支持体の膜厚としては、衝撃吸収性、落球耐性の観点から、80μm以上であることが好ましく、90μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることが特に好ましい。また、脆性の観点から、300μm以下が好ましく、200μm以下がさらに好ましい。
【0038】
(樹脂フィルムの製膜方法)
樹脂フィルムは、いずれの公知の方法で製膜してもよく、例えば溶融製膜法および溶液製膜法が挙げられる。
【0039】
(3)ハードコート層(HC層)
本発明の積層体は、ハードコート層(HC層)を有する。HC層は、支持体の片面に配されることが好ましい。
本発明に用いられるHC層は、HC層形成用硬化性組成物に活性エネルギー線を照射することにより硬化することで得ることができる。なお本明細書において、「活性エネルギー線」とは、電離放射線をいい、X線、紫外線、可視光、赤外線、電子線、α線、β線、γ線等が包含される。
【0040】
HC層の形成に用いられるHC層形成用硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射により硬化する性質を有する少なくとも一種の成分(以下、「活性エネルギー線硬化性成分」とも記載する。)を含む。活性エネルギー線硬化性成分としては、ラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物からなる群から選択される少なくとも一種の重合性化合物が好ましい。なお本明細書において、「重合性化合物」とは、1分子中に1個以上の重合性基を含む化合物である。重合性基とは、重合反応に関与し得る基である。また、重合反応としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合等の各種重合反応を挙げることができる。
本発明の積層体中のHC層は、重合性化合物の硬化物を含むことが好ましい。
【0041】
重合性化合物としては、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物が好ましい。エチレン性不飽和基とは、エチレン性不飽和二重結合を含有する官能基をいう。1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル〔例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート〕、上記のエステルのエチレンオキサイド変性体、ポリエチレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体、ビニルベンゼンおよびその誘導体〔例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン〕、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが挙げられる。
【0042】
また、重合性化合物としては、カチオン重合性基を有する化合物であってもよい。カチオン重合性基としては、好ましくは、含酸素複素環基およびビニルエーテル基を挙げることができる。なおカチオン重合性化合物は、1分子中に、1個以上の含酸素複素環基と1個以上のビニルエーテル基を含んでいてもよい。
【0043】
含酸素複素環としては、単環であってもよく、縮合環であってもよい。また、ビシクロ骨格を有するものも好ましい。含酸素複素環は、非芳香族環であっても芳香族環であってもよく、非芳香族環であることが好ましい。単環の具体例としては、エポキシ環、テトラヒドロフラン環、オキセタン環を挙げることができる。また、ビシクロ骨格を有するものとしては、オキサビシクロ環を挙げることができる。なお含酸素複素環を含むカチオン重合性基は、1価の置換基として、または2価以上の多価置換基として、カチオン重合性化合物に含まれる。また、上記縮合環は、含酸素複素環の2個以上が縮合したものであっても、含酸素複素環の1個以上と含酸素複素環以外の環構造の1個以上が縮合したものであってもよい。上記の含酸素複素環以外の環構造としては、これらに限定されるものではないが、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環を挙げることができる。
【0044】
重合性化合物としては、カチオン重合性基とラジカル重合性基(好ましくはエチレン性不飽和基)とを両方有する化合物であってもよい。
【0045】
カチオン重合性基として含酸素複素環を含むカチオン重合性化合物の具体例としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(株式会社ダイセル製サイクロマーM100等の市販品)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ユニオンカーバイド製UVR6105、UVR6110およびダイセル化学製CELLOXIDE2021等の市販品)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート(例えば、ユニオンカーバイド製UVR6128)、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド(例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE2000)、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE2081)、1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタン(例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE3000)、7,7’‐ジオキサ‐3,3’‐ビス[ビシクロ[4.1.0]ヘプタン](例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE8000)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタンおよびジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル等を挙げることができる。
【0046】
HC層形成用硬化性組成物中の全固形分に対して、重合性化合物の含有量は、15〜99質量%であることが好ましく、30〜99質量%であることがより好ましい。なお、固形分とは溶媒以外の成分を表す。
【0047】
本発明に用いられるHC層は、下記のように、1層構造でも2層以上の積層構造であってもよい。
【0048】
1)1層構造
1層構造のHC層形成用硬化性組成物の好ましい態様としては、第一の態様として、1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物を少なくとも一種含むHC層形成用硬化性組成物を挙げることができる。エチレン性不飽和基とは、エチレン性不飽和二重結合を含有する官能基をいう。また、第二の態様として、少なくとも一種のラジカル重合性化合物と少なくとも一種のカチオン重合性化合物を含むHC層形成用硬化性組成物を挙げることができる。
【0049】
以下、第一の態様のHC層形成用硬化性組成物について説明する。
第一の態様のHC層形成用硬化性組成物に含まれる1分子中に2個以上のエチレン性不飽和基を有する重合性化合物としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル〔例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート〕、上記のエステルのエチレンオキサイド変性体、ポリエチレンオキサイド変性体やカプロラクトン変性体、ビニルベンゼンおよびその誘導体〔例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン〕、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが挙げられる。
【0050】
エチレン性不飽和基を有する重合性化合物の重合は、ラジカル光重合開始剤の存在下、活性エネルギー線の照射により行うことができる。ラジカル光重合開始剤としては、後述するラジカル光重合開始剤が好ましく適用される。また、HC層形成用硬化性組成物中の、エチレン性不飽和基を有する重合性化合物に対するラジカル光重合開始剤の含有量比については、後述するラジカル重合性化合物に対するラジカル光重合開始剤の含有量比の記載が好ましく適用される。
【0051】
次に、第二の態様のHC層形成用硬化性組成物について説明する。
第二の態様のHC層形成用硬化性組成物は、少なくとも一種のラジカル重合性化合物と少なくとも一種のカチオン重合性化合物を含む。好ましい態様としては、
アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むラジカル重合性化合物と;
カチオン重合性化合物と;
を含むHC層形成用硬化性組成物を挙げることができる。
【0052】
上記HC層形成用硬化性組成物は、ラジカル光重合開始剤とカチオン光重合開始剤とを含むことがより好ましい。第二の態様の好ましい一態様としては、
アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むラジカル重合性化合物と;
カチオン重合性化合物と;
ラジカル光重合開始剤と;
カチオン光重合開始剤と;を含むHC層形成用硬化性組成物を挙げることができる。以下において、本態様を、第二の態様(1)と記載する。
【0053】
第二の態様(1)において、上記のラジカル重合性化合物は、1分子中に2個以上のラジカル重合性基とともに、1分子中に1個以上のウレタン結合を含むことが好ましい。
【0054】
第二の態様の他の好ましい一態様では、
a)脂環式エポキシ基およびエチレン性不飽和基を含み、1分子中に含まれる脂環式エポキシ基の数が1個であり、かつ1分子中に含まれるエチレン性不飽和基の数が1個であり、分子量が300以下であるカチオン重合性化合物と;
b)1分子中に3個以上のエチレン性不飽和基を含むラジカル重合性化合物と;
c)ラジカル重合開始剤と;
d)カチオン重合開始剤と;
を含むHC層形成用硬化性組成物を挙げることができる。以下において、本態様を、第二の態様(2)と記載する。第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層は、好ましくは、HC層の全固形分を100質量%とした場合に、上記a)由来の構造を15〜70質量%、上記b)由来の構造を25〜80質量%、上記c)を0.1〜10質量%、上記d)を0.1〜10質量%含むことができる。また、一態様では、第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物は、このHC層形成用硬化性組成物の全固形分を100質量%とした場合に、上記a)を15〜70質量%含むことが好ましい。なお、「脂環式エポキシ基」とは、エポキシ環と飽和炭化水素環とが縮合した環状構造を有する1価の官能基をいうものとする。
【0055】
以下、第二の態様、好ましくは第二の態様(1)または第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物に含まれ得る各種成分について、更に詳細に説明する。
【0056】
−ラジカル重合性化合物−
第二の態様のHC層形成用硬化性組成物は、少なくとも一種のラジカル重合性化合物と少なくとも一種のカチオン重合性化合物を含む。第二の態様(1)におけるラジカル重合性化合物は、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含む。上記ラジカル重合性化合物は、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を、1分子中に、好ましくは例えば2〜10個含むことができ、より好ましくは2〜6個含むことができる。
【0057】
上記ラジカル重合性化合物としては、分子量が200以上1000未満のラジカル重合性化合物が好ましい。なお本発明および本明細書において「分子量」とは、多量体については、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography;GPC)によりポリスチレン換算で測定される重量平均分子量をいうものとする。重量平均分子量の具体的な測定条件の一例としては、以下の測定条件を挙げることができる。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、内径7.8mm×カラム長30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン
【0058】
上記ラジカル重合性化合物は、前述の通り、1分子中に1個以上のウレタン結合を含むことが好ましい。上記ラジカル重合性化合物の1分子中に含まれるウレタン結合の数は、好ましくは1個以上であり、より好ましくは2個以上であり、より好ましくは2〜5個であり、例えば2個であることができる。なお1分子中にウレタン結合を2個含むラジカル重合性化合物において、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基は、一方のウレタン結合のみに直接または連結基を介して結合していてもよく、2個のウレタン結合にそれぞれ直接または連結基を介して結合していてもよい。一態様では、連結基を介して結合している2個のウレタン結合に、それぞれアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基が1個以上結合していることが、好ましい。
【0059】
より詳しくは、上記ラジカル重合性化合物において、ウレタン結合とアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基は直接結合していてもよく、ウレタン結合とアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基との間に連結基が存在していてもよい。連結基としては、特に限定されるものではなく、直鎖または分岐の飽和または不飽和の炭化水素基、環状基、およびこれらの2つ以上の組み合わせからなる基、等を挙げることができる。上記炭化水素基の炭素数は、例えば2〜20程度であるが、特に限定されるものではなない。また、環状基に含まれる環状構造としては、一例として、脂肪族環(シクロヘキサン環など)、芳香族環(ベンゼン環、ナフタレン環など)、などが挙げられる。上記の基は、無置換であっても置換基を有していてもよい。なお、本発明および本明細書において、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1〜6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1〜6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。
【0060】
以上説明したラジカル重合性化合物は、公知の方法で合成することができる。また、市販品として入手することも可能である。例えば、合成方法の一例としては、アルコール、ポリオール、および/または水酸基含有(メタ)アクリル酸等の水酸基含有化合物とイソシアネートを反応させ、または必要に応じて、上記反応によって得られたウレタン化合物を(メタ)アクリル酸でエステル化する方法を挙げることができる。なお「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方または両方を意味するものとする。
【0061】
上記の1分子中に1個以上のウレタン結合を含むラジカル重合性化合物の市販品としては、下記のものに限定されるものではないが、例えば、共栄社化学社製UA−306H、UA−306I、UA−306T、UA−510H、UF−8001G、UA−101I、UA−101T、AT−600、AH−600、AI−600、BPZA−66、BPZA−100、新中村化学社製U−4HA、U−6HA、U−6LPA、UA−32P、U−15HA、UA−1100H、日本合成化学工業社製紫光UV−1400B、同UV−1700B、同UV−6300B、同UV−7550B、同UV−7600B、同UV−7605B、同UV−7610B、同UV−7620EA、同UV−7630B、同UV−7640B、同UV−6630B、同UV−7000B、同UV−7510B、同UV−7461TE、同UV−3000B、同UV−3200B、同UV−3210EA、同UV−3310EA、同UV−3310B、同UV−3500BA、同UV−3520TL、同UV−3700B、同UV−6100B、同UV−6640B、同UV−2000B、同UV−2010B、同UV−2250EAを挙げることができる。また、日本合成化学工業社製紫光UV−2750B、共栄社化学社製UL−503LN、大日本インキ化学工業社製ユニディック17−806、同17−813、同V−4030、同V−4000BA、ダイセルUCB社製EB−1290K、トクシキ製ハイコープAU−2010、同AU−2020等も挙げられる。
【0062】
以下に、上記の1分子中に1個以上のウレタン結合を含むラジカル重合性化合物の具体例を以下に示すが、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0063】
【化1】
【0064】
【化2】
【0065】
以上、1分子中に1個以上のウレタン結合を含むラジカル重合性化合物について説明したが、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むラジカル重合性化合物は、ウレタン結合を有さないものであってもよい。また、第二の態様(1)のHC層形成用硬化性組成物は、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むラジカル重合性化合物に加えて、かかるラジカル重合性化合物以外のラジカル重合性化合物の一種以上を含んでいてもよい。
【0066】
以下において、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含み、かつウレタン結合を1分子中に1個以上含むラジカル重合性化合物を、第一のラジカル重合性化合物と記載し、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むか否かに関わらず、第一のラジカル重合性化合物に当てはまらないラジカル重合性化合物を「第二のラジカル重合性化合物」と記載する。第二のラジカル重合性化合物は、ウレタン結合を1分子中に1個以上有していてもよく、有さなくてもよい。第一のラジカル重合性化合物と第二のラジカル重合性化合物とを併用する場合、それらの質量比は、第一のラジカル重合性化合物/第二のラジカル重合性化合物=3/1〜1/30であることが好ましく、2/1〜1/20であることがより好ましく、1/1〜1/10であることが更に好ましい。
【0067】
第二の態様(1)のHC層形成用硬化性組成物のアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むラジカル重合性化合物(ウレタン結合の有無を問わない)の含有量は、組成物全量100質量%に対して、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。また、第二の態様(1)のHC層形成用硬化性組成物のアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に2個以上含むラジカル重合性化合物(ウレタン結合の有無を問わない)の含有量は、組成物全量100質量%に対して、好ましくは98質量%以下であり、より好ましくは95質量%以下であり、更に好ましくは90質量%以下である。
また、第二の態様(1)のHC層形成用硬化性組成物の第一のラジカル重合性化合物の含有量は、組成物全量100質量%に対して、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、更に好ましくは70質量%以上である。一方、第一のラジカル重合性化合物の含有量は、組成物全量100質量%に対して、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、90質量%以下であることが更に好ましい。
【0068】
第二のラジカル重合性化合物は、一態様では、好ましくは、ラジカル重合性基を1分子中に2個以上含み、ウレタン結合を持たないラジカル重合性化合物である。第二のラジカル重合性化合物に含まれるラジカル重合性基は、好ましくはエチレン性不飽和基であり、一態様では、ビニル基が好ましい。他の一態様では、エチレン性不飽和基は、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基であることが好ましい。即ち、第二のラジカル重合性化合物は、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に1個以上有し、かつウレタン結合を持たないことも好ましい。また、第二のラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性化合物として、一分子中に、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基の1個以上と、これら以外のラジカル重合性基の1個以上と、含むこともできる。
第二のラジカル重合性化合物の1分子中に含まれるラジカル重合性基の数は、好ましくは、少なくとも2個であり、より好ましくは3個以上であり、更に好ましくは4個以上である。また、第二のラジカル重合性化合物の1分子中に含まれるラジカル重合性基の数は、一態様では、例えば10個以下であるが、10個超であってもよい。また、第二のラジカル重合性化合物としては、分子量が200以上1000未満のラジカル重合性化合物が好ましい。
【0069】
第二のラジカル重合性化合物としては、例えば以下のものを例示できる。ただし本発明は、下記例示化合物に限定されるものではない。
【0070】
例えば、ポリエチレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール300ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール600ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば長瀬産業製デナコールDA−811等)、ポリプロピレングリコール200ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール400ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール700ジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(EO;Ethylene Oxide)・プロピレンオキシド(PO;Propylene Oxide)ブロックポリエーテルジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば日本油脂製ブレンマーPETシリーズ等)、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA EO付加型ジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば東亜合成製M−210、新中村化学工業製NKエステルA−BPE−20等)、水添ビスフェノールA EO付加型ジ(メタ)アクリレート(新中村化学工業製NKエステルA−HPE−4等)、ビスフェノールA PO付加型ジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば共栄社化学製ライトアクリレートBP−4PA等)、ビスフェノールA エピクロルヒドリン付加型ジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えばダイセルUCB製エピクリル150等)、ビスフェノールA EO・PO付加型ジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば東邦化学工業製BP−023−PE等)、ビスフェノールF EO付加型ジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば東亜合成製アロニックスM−208等)、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、およびそのエピクロルヒドリン変性品、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、およびそのカプロラクトン変性品、1,4− ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレートモノステアレート、トリメチロールプロパンアクリル酸・安息香酸エステル、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば東亜合成製アロニックスM−215等)等の2官能(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0071】
また、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン変性品、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン変性品、イソシアヌル酸EO変性トリ(メタ)アクリレート(市販品として、例えば東亜合成製アロニックスM−315等)、トリス(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、フタル酸水素−(2,2,2−トリ−(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチル、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン変性品等の3官能(メタ)アクリレート化合物;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン変性品、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリレート化合物;ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル変性品等の5官能(メタ)アクリレート化合物;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル変性品、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、およびそのEO、PO、エピクロルヒドリン、脂肪酸、アルキル変性品等の6官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
第二のラジカル重合性化合物は2種以上併用してもよい。この場合、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物“DPHA”(日本化薬製)などを好ましく用いることができる。
【0072】
また、第二のラジカル重合性化合物として、重量平均分子量が200以上1000未満のポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートも好ましい。市販品では、ポリエステル(メタ)アクリレートとして、荒川化学工業製の商品名ビームセット700シリーズ、例えばビームセット700(6官能)、ビームセット710(4官能)、ビームセット720(3官能)等が挙げられる。また、エポキシ(メタ)アクリレートとしては、昭和高分子製の商品名SPシリーズ、例えばSP−1506、500、SP−1507、480、VRシリーズ、例えばVR−77、新中村化学工業製商品名EA−1010/ECA、EA−11020、EA−1025、EA−6310/ECA等が挙げられる。
【0073】
また、第二のラジカル重合性化合物の具体例としては、下記化合物を挙げることもできる。
【0074】
【化3】
【0075】
第二の態様の好ましい一態様である第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物は、b)1分子中に3個以上のエチレン性不飽和基を含むラジカル重合性化合物を含む。b)1分子中に3個以上のエチレン性不飽和基を含む化合物を、以下において「b)成分」とも記載する。
b)成分としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、ビニルベンゼンおよびその誘導体、ビニルスルホン、(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。中でも、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に3個以上含むラジカル重合性化合物が好ましい。具体例としては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルであって、1分子中に3個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物を挙げることができる。より詳しくは、例えば、(ジ)ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(ジ)ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性リン酸トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、(ジ)ペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート、カプロラクトン変性トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリペンタエリスリトールトリアクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサトリアクリレート、1,2,4−シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、等が挙げられる。なお上記の「(ジ)ペンタエリスリトール」とは、ペンタエリスリトールとジペンタエリスリトールの一方または両方の意味で用いられる。
【0076】
更に、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に3個以上含む樹脂も好ましい。
アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に3個以上含む樹脂としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、アルキド系樹脂、スピロアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリチオールポリエン系樹脂、多価アルコール等の多官能化合物等の重合体等も挙げられる。
【0077】
アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に3個以上含むラジカル重合性化合物の具体例としては、特開2007−256844号公報段落0096に示されている例示化合物等を挙げることができる。
更に、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を1分子中に3個以上含むラジカル重合性化合物の具体例としては、日本化薬製KAYARAD DPHA、同DPHA−2C、同PET−30、同TMPTA、同TPA−320、同TPA−330、同RP−1040、同T−1420、同D−310、同DPCA−20、同DPCA−30、同DPCA−60、同GPO−303、大阪有機化学工業製V#400、V#36095D等のポリオールと(メタ)アクリル酸のエステル化物を挙げることができる。また紫光UV−1400B、同UV−1700B、同UV−6300B、同UV−7550B、同UV−7600B、同UV−7605B、同UV−7610B、同UV−7620EA、同UV−7630B、同UV−7640B、同UV−6630B、同UV−7000B、同UV−7510B、同UV−7461TE、同UV−3000B、同UV−3200B、同UV−3210EA、同UV−3310EA、同UV−3310B、同UV−3500BA、同UV−3520TL、同UV−3700B、同UV−6100B、同UV−6640B、同UV−2000B、同UV−2010B、同UV−2250EA、同UV−2750B(日本合成化学製)、UL−503LN(共栄社化学製)、ユニディック17−806、同17−813、同V−4030、同V−4000BA(大日本インキ化学工業製)、EB−1290K、EB−220、EB−5129、EB−1830,EB−4358(ダイセルUCB製)、ハイコープAU−2010、同AU−2020((株)トクシキ製)、アロニックスM−1960(東亜合成製)、アートレジンUN−3320HA、UN−3320HC、UN−3320HS、UN−904、HDP−4T等の3官能以上のウレタンアクリレート化合物、アロニックスM−8100、M−8030、M−9050(東亜合成製)、KBM−8307(ダイセルサイテック製)の3官能以上のポリエステル化合物なども好適に使用することができる。
また、b)成分としては、一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0078】
前述の通り、第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層は、好ましくは、HC層の全固形分を100質量%とした場合に、上記a)由来の構造を15〜70質量%、上記b)由来の構造を25〜80質量%、上記c)を0.1〜10質量%、上記d)を0.1〜10質量%含むことができる。b)由来の構造は、HC層の全固形分を100質量%とした場合に、40〜75質量%含有されることが好ましく、60〜75質量%含有されることがより好ましい。また、第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物は、このHC層形成用硬化性組成物の全固形分を100質量%とした場合に、b)成分を40〜75質量%含むことが好ましく、60〜75質量%含むことがより好ましい。
【0079】
−カチオン重合性化合物−
第二の態様のHC層形成用硬化性組成物は、少なくとも一種のラジカル重合性化合物と少なくとも一種のカチオン重合性化合物を含むことが好ましい。カチオン重合性化合物としては、カチオン重合可能な重合性基(カチオン重合性基)を有するものであれば、何ら制限なく用いることができる。また、1分子中に含まれるカチオン重合性基の数は、少なくとも1個である。カチオン重合性化合物は、カチオン重合性基を1分子中に1個含む単官能化合物であっても、2個以上含む多官能化合物であってもよい。多官能化合物に含まれるカチオン重合性基の数は、特に限定されるものではないが、例えば1分子中に2〜6個である。また、多官能化合物の1分子中に2個以上含まれるカチオン重合性基は、同一であってもよく、構造が異なる二種以上であってもよい。
【0080】
また、カチオン重合性化合物は、一態様では、カチオン重合性基とともに、1分子中に1個以上のラジカル重合性基を有することも好ましい。そのようなカチオン重合性化合物が有するラジカル重合性基については、ラジカル重合性化合物についての上述の記載を参照できる。好ましくは、エチレン性不飽和基であり、エチレン性不飽和基は、より好ましくは、ビニル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれるラジカル重合性基である。ラジカル重合性基を有するカチオン重合性化合物の1分子中のラジカル重合性基の数は、少なくとも1個であり、1〜3個であることが好ましく、1個であることがより好ましい。
【0081】
カチオン重合性基としては、好ましくは、含酸素複素環基およびビニルエーテル基を挙げることができる。なおカチオン重合性化合物は、1分子中に、1個以上の含酸素複素環基と1個以上のビニルエーテル基を含んでいてもよい。
【0082】
含酸素複素環としては、単環であってもよく、縮合環であってもよい。また、ビシクロ骨格を有するものも好ましい。含酸素複素環は、非芳香族環であっても芳香族環であってもよく、非芳香族環であることが好ましい。単環の具体例としては、エポキシ環、テトラヒドロフラン環、オキセタン環を挙げることができる。また、ビシクロ骨格を有するものとしては、オキサビシクロ環を挙げることができる。なお含酸素複素環を含むカチオン重合性基は、1価の置換基として、または2価以上の多価置換基として、カチオン重合性化合物に含まれる。また、上記縮合環は、含酸素複素環の2個以上が縮合したものであっても、含酸素複素環の1個以上と含酸素複素環以外の環構造の1個以上が縮合したものであってもよい。上記の含酸素複素環以外の環構造としては、これらに限定されるものではないが、シクロヘキサン環等のシクロアルカン環を挙げることができる。
【0083】
以下に、含酸素複素環の具体例を示す。ただし、本発明は、下記具体例に限定されるものではない。
【0084】
【化4】
【0085】
カチオン重合性化合物には、カチオン重合性基以外の部分構造が含まれていてもよい。そのような部分構造は、特に限定されるものではなく、直鎖構造であっても、分岐構造であっても、環状構造であってもよい。これら部分構造には、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子が1個以上含まれていてもよい。
【0086】
カチオン重合性化合物の好ましい一態様としては、カチオン重合性基として、またはカチオン重合性基以外の部分構造として、環状構造を含む化合物(環状構造含有化合物)を挙げることができる。環状構造含有化合物に含まれる環状構造は、1分子中に、例えば1個であり、2個以上であってもよい。環状構造含有化合物に含まれる環状構造の数は、1分子中に、例えば1〜5個であるが、特に限定されるものではない。1分子中に2個以上の環状構造を含む化合物は、同一の環状構造を含んでいてもよく、構造の異なる二種以上の環状構造を含んでいてもよい。
【0087】
上記環状構造含有化合物に含まれる環状構造の一例としては、含酸素複素環を挙げることができる。その詳細は、先に記載した通りである。
【0088】
カチオン重合性化合物の1分子中に含まれるカチオン重合性基の数(以下、「C」と記載する。)によって分子量(以下、「B」と記載する。)を除して求められるカチオン重合性基当量(=B/C)は、例えば300以下であり、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と樹脂フィルムとの密着性向上の観点からは、150未満であることが好ましい。一方、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層の吸湿性の観点からは、カチオン重合性基当量は、50以上であることが好ましい。また、一態様では、カチオン重合性基当量を求めるカチオン重合性化合物に含まれるカチオン重合性基は、エポキシ基(エポキシ環)であることができる。即ち、一態様では、カチオン重合性化合物は、エポキシ環含有化合物である。エポキシ環含有化合物は、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と樹脂フィルムとの密着性向上の観点からは、1分子中に含まれるエポキシ環の数によって分子量を除して求められるエポキシ基当量が、150未満であることが好ましい。また、エポキシ環含有化合物のエポキシ基当量は、例えば50以上である。
【0089】
また、カチオン重合性化合物の分子量は500以下であることが好ましく、300以下であることが更に好ましい。上記範囲の分子量を有するカチオン重合性化合物は、樹脂フィルムへ浸透しやすい傾向があり、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と樹脂フィルムとの密着性向上に寄与することができると推察している。
【0090】
第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物は、a)脂環式エポキシ基およびエチレン性不飽和基を含み、1分子中に含まれる脂環式エポキシ基の数が1個であり、かつ1分子中に含まれるエチレン性不飽和基の数が1個であり、分子量が300以下であるカチオン重合性化合物を含む。以下において、上記a)を、「a)成分」と記載する。
【0091】
エチレン性不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等を含むラジカル重合性基が挙げられ、中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基およびC(O)OCH=CHが好ましく、アクリロイル基およびメタクリロイル基がより好ましい。1分子中の脂環式エポキシ基とエチレン性不飽和基の数は、それぞれ1個であることが好ましい。
【0092】
a)成分の分子量は、300以下であり、210以下であることが好ましく、200以下であることがより好ましい。
【0093】
a)成分の好ましい一態様としては、下記一般式(1)で表される化合物を挙げることができる。
【0094】
【化5】
【0095】
一般式(1)中、Rは単環式炭化水素または架橋炭化水素を表し、Lは単結合または2価の連結基を表し、Qはエチレン性不飽和基を表す。
【0096】
一般式(1)中のRが単環式炭化水素の場合、単環式炭化水素は脂環式炭化水素であることが好ましく、中でも炭素数4〜10の脂環基であることがより好ましく、炭素数5〜7個の脂環基であることが更に好ましく、炭素数6個の脂環基であることが特に好ましい。好ましい具体例としては、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基を挙げることができ、シクロヘキシル基がより好ましい。
【0097】
一般式(1)中のRが架橋炭化水素の場合、架橋炭化水素は、2環系架橋炭化水素(ビシクロ環)、3環系架橋炭化水素(トリシクロ環)が好ましい。具体例としては、炭素数5〜20個の架橋炭化水素が挙げられ、例えば、ノルボルニル基、ボルニル基、イソボルニル基、トリシクロデシル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンタニル基、トリシクロペンテニル基、トリシクロペンタニル基、アダマンチル基、低級(例えば炭素数1〜6)アルキル基置換アダマンチル基等が挙げられる。
【0098】
Lが2価の連結基を表す場合、2価の連結基は、2価の脂肪族炭化水素基が好ましい。2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜6の範囲であることが好ましく、1〜3の範囲であることがより好ましく、1であることが更に好ましい。2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基が好ましく、直鎖状または分岐状のアルキレン基がより好ましく、直鎖状のアルキレン基が更に好ましい。
【0099】
Qとしては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基等を含むエチレン性不飽和基が挙げられ、中でも、アクリロイル基、メタクリロイル基およびC(O)OCH=CHが好ましく、アクリロイル基およびメタクリロイル基がより好ましい。
【0100】
a)成分の具体例としては、特開平10−17614号公報段落0015に例示されている各種化合物、下記一般式(1A)または(1B)で表される化合物、1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン等を挙げることができる。中でも、下記一般式(1A)または(1B)で表される化合物がより好ましい。なお、下記一般式(1A)で表される化合物は、その異性体も好ましい。
【0101】
【化6】
【0102】
【化7】
【0103】
一般式(1A)、(1B)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Lは炭素数1〜6の2価の脂肪族炭化水素基を表す。
【0104】
一般式(1A)および(1B)中のLで表される2価の脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜6の範囲であり、1〜3の範囲であることがより好ましく、炭素数1であることが更に好ましい。2価の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状、分岐状または環状のアルキレン基が好ましく、直鎖状または分岐状のアルキレン基がより好ましく、直鎖状のアルキレン基が更に好ましい。
【0105】
第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層は、好ましくは、HC層の全固形分を100質量%とした場合に、上記a)由来の構造を15〜70質量%含むことが好ましく、18〜50質量%含むことがより好ましく、22〜40質量%含むことが更に好ましい。また、第二の態様(2)のHC層形成用硬化性組成物は、a)成分を、HC層形成用硬化性組成物の全固形分を100質量%とした場合に、15〜70質量%含むことが好ましく、18〜50質量%含むことがより好ましく、22〜40質量%含むことが更に好ましい。
【0106】
上記環状構造含有化合物に含まれる環状構造の他の一例としては、含窒素複素環を挙げることができる。含窒素複素環含有化合物は、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と樹脂フィルムとの密着性向上の観点から好ましいカチオン重合性化合物である。含窒素複素環含有化合物としては、イソシアヌレート環およびグリコールウリル環からなる群から選ばれる含窒素複素環を1分子中に1個以上有する化合物が好ましい。中でも、イソシアヌレート環を含む化合物(イソシアヌレート環含有化合物)は、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と樹脂フィルムとの密着性向上の観点から、より好ましいカチオン重合性化合物である。これは、イソシアヌレート環が樹脂フィルムを構成する樹脂との親和性に優れるためと、本発明者らは推察している。この点からは、アクリル系樹脂フィルムを含む樹脂フィルムがより好ましく、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と直接接する表面がアクリル系樹脂フィルム表面であることが更に好ましい。
【0107】
また、上記環状構造含有化合物に含まれる環状構造の他の一例としては、脂環構造を挙げることができる。脂環構造としては、例えば、シクロ環、ジシクロ環、トリシクロ環構造を挙げることができ、具体例としては、ジシクロペンタニル環、シクロヘキサン環等を挙げることができる。
【0108】
以上説明したカチオン重合性化合物は、公知の方法で合成することができる。また、市販品として入手することも可能である。
【0109】
カチオン重合性基として含酸素複素環を含むカチオン重合性化合物の具体例としては、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(株式会社ダイセル製サイクロマーM100等の市販品)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ユニオンカーバイド製UVR6105、UVR6110およびダイセル化学製CELLOXIDE2021等の市販品)、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート(例えば、ユニオンカーバイド製UVR6128)、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド(例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE2000)、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE2081)、1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4,1,0]ヘプタン(例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE3000)、7,7’‐ジオキサ‐3,3’‐ビス[ビシクロ[4.1.0]ヘプタン](例えば、ダイセル化学製CELLOXIDE8000)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタンおよびジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル等を挙げることができる。
【0110】
また、カチオン重合性基としてビニルエーテル基を含むカチオン重合性化合物の具体例としては、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジビニルエーテル、ノナンジオールジビニルエーテル、シキロヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル等が挙げられる。ビニルエーテル基を含むカチオン重合性化合物としては、脂環構造を有するものも好ましい。
【0111】
更に、カチオン重合性化合物としては、特開平8−143806号公報、特開平8−283320号公報、特開2000−186079号公報、特開2000−327672号公報、特開2004−315778号公報、特開2005−29632号公報等に例示されている化合物を用いることもできる。
【0112】
以下に、カチオン重合性化合物の具体例として以下に例示化合物を示すが、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0113】
【化8】
【0114】
【化9】
【0115】
【化10】
【0116】
また、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層と樹脂フィルムとの密着性向上の観点からは、HC層形成用硬化性組成物の好ましい態様としては、下記態様を挙げることができる。下記態様の1つ以上を満たすことがより好ましく、2つ以上を満たすことが更に好ましく、3つ以上を満たすことがいっそう好ましく、すべて満たすことがよりいっそう好ましい。なお1つのカチオン重合性化合物が、複数の態様を満たすことも好ましい。例えば、含窒素複素環含有化合物が、カチオン重合性基当量150未満であること等を、好ましい態様として例示できる。
(1)カチオン重合性化合物として、含窒素複素環含有化合物を含む。好ましくは、含窒素複素環含有化合物が有する含窒素複素環は、イソシアヌレート環およびグリコールウリル環からなる群から選択される。含窒素複素環含有化合物は、より好ましくは、イソシアヌレート環含有化合物である。更に好ましくは、イソシアヌレート環含有化合物は、1分子中に1つ以上のエポキシ環を含むエポキシ環含有化合物である。
(2)カチオン重合性化合物として、カチオン重合性基当量が150未満のカチオン重合性化合物を含む。好ましくは、エポキシ基当量が150未満のエポキシ基含有化合物を含む。
(3)カチオン重合性化合物が、エチレン性不飽和基を含む。
(4)カチオン重合性化合物として、1分子中に1個以上のオキセタン環を含むオキセタン環含有化合物を、他のカチオン重合性化合物とともに含む。好ましくは、オキセタン環含有化合物は、含窒素複素環を含まない化合物である。
【0117】
上記HC層形成用硬化性組成物のカチオン重合性化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物との合計含有量100質量部に対して、好ましくは10質量部以上であり、より好ましくは15質量部以上であり、更に好ましくは20質量部以上である。また、上記HC層形成用硬化性組成物のカチオン重合性化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物とカチオン重合性化合物との合計含有量100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましい。
また、上記HC層形成用硬化性組成物のカチオン重合性化合物の含有量は、第一のラジカル重合性化合物の含有量とカチオン重合性化合物との合計含有量100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、更に好ましくは1質量部以上である。一方、カチオン重合性化合物の含有量は、第一のラジカル重合性化合物の含有量とカチオン重合性化合物との合計含有量100質量部に対して、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
なお本発明および本明細書において、カチオン重合性基とラジカル重合性基をともに有する化合物は、カチオン重合性化合物に分類し、HC層形成用硬化性組成物における含有量を規定するものとする。
【0118】
−重合開始剤−
HC層形成用硬化性組成物は重合開始剤を含むことが好ましく、光重合開始剤を含むことがより好ましい。ラジカル重合性化合物を含むHC層形成用硬化性組成物は、ラジカル光重合開始剤を含むことが好ましく、カチオン重合性化合物を含むHC層形成用硬化性組成物は、カチオン光重合開始剤を含むことが好ましい。ラジカル光重合開始剤又はカチオン重合開始剤は一種のみ用いてもよく、構造の異なる二種以上を併用してもよい。
【0119】
上記HC層形成用硬化性組成物の重合開始剤の含有量は、重合性化合物の重合反応を良好に進行させる範囲で適宜調整すればよく、特に限定されるものではない。上記HC層形成用硬化性組成物に含まれる重合性化合物100質量部に対して、例えば0.1〜20質量部の範囲であり、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0120】
−HC層形成用硬化性組成物に任意に含まれ得る成分−
HC層形成用硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射により硬化する性質を有する少なくとも一種の成分を含み、任意に少なくとも一種の重合開始剤を含むことができ、含むことが好ましい。それらの詳細は、先に記載した通りである。
次に、HC層形成用硬化性組成物に任意に含まれ得る各種成分について説明する。
【0121】
(i)無機粒子
HC層形成用硬化性組成物は、平均一次粒径が2μm未満の無機粒子を含むことができる。無機粒子の平均一次粒径は、10nm〜1μmの範囲であることが好ましく、10nm〜100nmの範囲であることがより好ましく、10nm〜50nmの範囲であることが更に好ましい。
無機粒子および後述のマット粒子の平均一次粒径については、透過型電子顕微鏡(倍率50万〜200万倍)で粒子の観察を行い、無作為に選択した粒子(一次粒子)100個を観察し、それらの粒径の平均値をもって平均一次粒径とする。
【0122】
上記無機粒子としては、シリカ粒子、二酸化チタン粒子、酸化ジルコニウム粒子、酸化アルミニウム粒子などが挙げられる。中でもシリカ粒子が好ましい。
【0123】
上記無機粒子は、HC層形成用硬化性組成物に含まれる有機成分との親和性を高めるために、その表面が有機セグメントを含む表面修飾剤で処理されていてもよい。表面修飾剤としては、無機粒子と結合を形成するか無機粒子に吸着し得る官能基と、有機成分と高い親和性を有する官能基を同一分子内に有するものが好ましい。無機粒子に結合または吸着し得る官能基を有する表面修飾剤としては、シラン系表面修飾剤、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム等の金属アルコキシド表面修飾剤や、リン酸基、硫酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等のアニオン性基を有する表面修飾剤が好ましい。有機成分との親和性の高い官能基としては、有機成分と同様の親疎水性を有する官能基、有機成分と化学的に結合し得る官能基等が挙げられる。中でも、有機成分と化学的に結合し得る官能基等が好ましく、エチレン性不飽和基または開環重合性基がより好ましい。
【0124】
好ましい無機粒子表面修飾剤は、金属アルコキシド表面修飾剤またはアニオン性基とエチレン性不飽和基もしくは開環重合性基を同一分子内に有する重合性化合物である。これら表面修飾剤によって無機粒子と有機成分とを化学的に結合させることによりHC層の架橋密度を高めることができ、その結果、前面板の硬度(更にはこの前面板を含む液晶パネルの硬度)を向上させることができる。
【0125】
上記表面修飾剤の具体例としては、以下の例示化合物S−1〜S−8が挙げられる。
S−1 HC=C(X)COOCSi(OCH
S−2 HC=C(X)COOCOTi(OC
S−3 HC=C(X)COOCOCOC10OPO(OH)
S−4 (HC=C(X)COOCOCOC10O)POOH
S−5 HC=C(X)COOCOSO
S−6 HC=C(X)COO(C10COO)
S−7 HC=C(X)COOC10COOH
S−8 CHCH(O)CHOCSi(OCH
(Xは、水素原子またはメチル基を表す)
【0126】
表面修飾剤による無機粒子の表面修飾は、溶液中で行うことが好ましい。無機粒子を機械的に分散する際に、一緒に表面修飾剤を存在させるか、無機粒子を機械的に分散した後に表面修飾剤を添加して攪拌するか、または、無機粒子を機械的に分散する前に表面修飾を行って(必要により、加温、乾燥した後に加熱、またはpH(power of hydrogen)変更を行う)、その後に分散を行ってもよい。表面修飾剤を溶解する溶媒としては、極性の大きな有機溶媒が好ましい。具体的には、アルコール、ケトン、エステル等の公知の溶媒が挙げられる。
【0127】
無機粒子の含有量は、HC層形成用硬化性組成物の全固形分を100質量%とした場合に、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。無機粒子の一次粒子の形状は、球形、非球形を問わないが、無機粒子の一次粒子は球形であることが好ましく、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層中において球形の2〜10個の無機粒子(一次粒子)が連結した非球形の2次粒子以上の高次粒子として存在することが更なる硬度向上の観点からより好ましい。
【0128】
無機粒子の具体的な例としては、ELCOM V−8802(日揮触媒化成製の平均一次粒径15nmの球形シリカ粒子)、ELCOM V−8803(日揮触媒化成製の異形シリカ粒子)、MiBK−SD(日産化学工業製平均一次粒径10〜20nmの球形シリカ粒子)、MEK−AC−2140Z(日産化学工業製の平均一次粒径10〜20nmの球形シリカ粒子)、MEK−AC−4130(日産化学工業製の平均一次粒径45nmの球形シリカ粒子)、MiBK−SD−L(日産化学工業製の平均一次粒径40〜50nmの球形シリカ粒子)、MEK−AC−5140Z(日産化学工業製の平均一次粒径85nmの球形シリカ粒子)等を挙げることができる。中でも、日揮触媒化成製ELCOM V−8802が、更なる硬度向上の観点から好ましい。
【0129】
(ii)マット粒子
HC層形成用硬化性組成物は、マット粒子を含むこともできる。マット粒子とは、平均一次粒径が2μm以上の粒子をいうものとし、無機粒子であっても有機粒子であってもよく、または無機及び有機の複合材料の粒子であってもよい。マット粒子の形状は、球形、非球形を問わない。マット粒子の平均一次粒径は、2〜20μmの範囲であることが好ましく、4〜14μmの範囲であることがより好ましく、6〜10μmの範囲であることが更に好ましい。
【0130】
マット粒子の具体例としては、例えばシリカ粒子、TiO粒子等の無機粒子、架橋アクリル粒子、架橋アクリル−スチレン粒子、架橋スチレン粒子、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子等の有機粒子を挙げることができる。中でも、マット粒子が有機粒子であることが好ましく、架橋アクリル粒子、架橋アクリル−スチレン粒子、架橋スチレン粒子であることがより好ましい。
【0131】
マット粒子は、HC層形成用硬化性組成物を硬化したHC層における単位体積あたりの含有量として、0.10g/cm以上であることが好ましく、0.10g/cm〜0.40g/cmであることがより好ましく、0.10g/cm〜0.30g/cmであることがより好ましい。
【0132】
(iii)紫外線吸収剤
HC層形成用硬化性組成物は、紫外線吸収剤を含有することも好ましい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物、トリアジン化合物を挙げることができる。ここでベンゾトリアゾール化合物とは、ベンゾトリアゾール環を有する化合物であり、具体例としては、例えば特開2013−111835号公報段落0033に記載されている各種ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を挙げることができる。トリアジン化合物とは、トリアジン環を有する化合物であり、具体例としては、例えば特開2013−111835号公報段落0033に記載されている各種トリアジン系紫外線吸収剤を挙げることができる。HC層中の紫外線吸収剤の含有量は、例えばHC層に含まれる樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部程度であるが、特に限定されるものではない。また、紫外線吸収剤については、特開2013−111835号公報段落0032も参照できる。なお本発明および本明細書における紫外線とは200〜380nmの波長帯域に発光中心波長を有する光をいうものとする。
【0133】
(iv)含フッ素化合物
HC層形成用硬化性組成物は、レベリング剤および防汚剤等の含フッ素化合物を含有することも好ましい。
レベリング剤としては、含フッ素ポリマーが好ましく用いられる。例えば、特許5175831号に記載されているフルオロ脂肪族基含有ポリマーが挙げられる。またフルオロ脂肪族基含有ポリマーを構成する、一般式(1)で表されるフルオロ脂肪族基含有モノマーの含有量が全重合単位の50質量%以下のフルオロ脂肪族基含有ポリマーをレベリング剤として用いることもできる。
HC層が防汚剤を含むと、指紋や汚れの付着を低減し、また、付着した汚れの拭き取りを容易にすることができる。また、表面のすべり性を向上させる事により耐擦性をより向上させることも可能になる。
防汚剤は、含フッ素化合物を含有することが好ましい。含フッ素化合物は、パーフルオロポリエーテル基および重合性基(好ましくは、ラジカル重合性基)を有することが好ましく、パーフルオロポリエーテル基および重合性基を有し、かつ重合性基を一分子中に複数有することがさらに好ましい。このような構成とすることにより、耐擦性改良という効果をより効果的に発揮させることができる。
尚、本明細書では、防汚剤が、重合性基を有する場合であっても、上記重合性化合物1〜3および上記他の重合性化合物には当てはまらないものとして扱う。
上記含フッ素化合物は、モノマー、オリゴマーおよびポリマーのいずれであってもよいが、オリゴマー(含フッ素オリゴマー)であることが好ましい。
なお、後述の(vi)その他の成分に記載するリベリング剤および防汚剤も、上記に加えて含有することができる。
【0134】
本発明で用いることができる防汚剤については、上記の他、特開2012−088699号公報の段落0012〜0101に記載の材料を用いることができ、この公報の内容は本明細書に組み込まれる。
以上説明した防汚剤としては、公知の方法で合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。市販品としては、DIC社製のRS−90、RS−78などを好ましく用いることができる。
【0135】
HC層形成用硬化性組成物が、含フッ素化合物を含有する場合の含有量は、HC層形成用硬化性組成物の固形分の0.01〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましく、0.1〜2質量%がさらに好ましい。
HC層形成用硬化性組成物は、防汚剤を、1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含まれている場合、その合計量が上記範囲となることが好ましい。
また、HC層形成用硬化性組成物は、防汚剤を実質的に含まない構成とすることもできる。
【0136】
(v)溶媒
HC層形成用硬化性組成物は、溶媒を含むことも好ましい。溶媒としては、有機溶媒が好ましく、有機溶媒の1種または2種以上を任意の割合で混合して用いることができる。有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;トルエン、キシレン等の芳香族類;プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類;ジアセトンアルコール等が挙げられる。これらの中でも、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよび酢酸メチルが好ましく、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよび酢酸メチルを任意の割合で混合して用いることがより好ましい。このような構成とすることにより、耐擦性、打抜き性および密着性により優れた反射防止積層体が得られる。
【0137】
HC層形成用硬化性組成物中の溶媒量は、上記組成物の塗布適性を確保できる範囲で適宜調整することができる。例えば、重合性化合物および光重合開始剤の合計量100質量部に対して、溶媒を50〜500質量部とすることができ、好ましくは80〜200質量部とすることができる。
また、HC形成用硬化性組成物の固形分は、10〜90質量%であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましく、65〜75質量%であることが特に好ましい。
【0138】
(vi)その他の成分
HC層形成用硬化性組成物は、上記成分に加えて、公知の添加剤の一種以上を任意の量で含むことができる。添加剤としては、表面調整剤、レベリング剤、重合禁止剤、ポリロタキサン等を挙げることができる。それらの詳細については、例えば特開2012−229412号公報の段落0032〜0034を参照できる。また、市販の防汚剤または公知の方法で調製可能な防汚剤を含むこともできる。ただし添加剤はこれらに限らず、HC層形成用硬化性組成物に一般に添加され得る各種添加剤を用いることができる。
【0139】
HC層形成用硬化性組成物は、以上記載した各種成分を同時に、または任意の順序で順次混合することにより調製することができる。調製方法は特に限定されるものではなく、調製には公知の攪拌機等を用いることができる。
【0140】
2)2層以上の積層構造
積層体は、図1におけるHC層1Aが、少なくとも、第1のHC層、および第2のHC層を樹脂フィルム2A側から順に有する態様も好ましい。
樹脂フィルム2Aの表面に、第1のHC層が位置していても、間に他の層を有していてもよい。同様に、第1のHC層の表面に、第2のHC層が位置していても、間に他の層を有していてもよい。第1のHC層と第2のHC層の密着性を高める観点からは、第1のHC層の表面に第2のHC層が位置する、すなわち、両層は、膜面の少なくとも一部において接している方が好ましい。
【0141】
また、第1のHC層および第2のHC層は、それぞれ、1層であっても、2層以上であってもよいが、1層が好ましい。
さらに、詳細を後述するとおり、本発明の反射防止積層体をタッチパネルに用いる場合、上記第2のHC層が画像表示素子の前面側となるように反射防止積層体を配置することが好ましいが、反射防止積層体表面の耐擦性、打抜き性を優れたものにするためには、上記第2のHC層が反射防止積層体の表面側、特に、最表面に配置されることが好ましい。
【0142】
<第1のHC層、第1のHC層形成用硬化性組成物>
本発明に用いられる第1のHC層は、第1のHC層形成用硬化性組成物から形成される。
第1のHC層形成用硬化性組成物は、ラジカル重合性基を有する重合性化合物1と、同一分子内にカチオン重合性基とラジカル重合性基を有し、かつ重合性化合物1とは異なる重合性化合物2とを含有し、第1のHC層形成用硬化性組成物に含まれる重合性化合物中、重合性化合物2の含有量が51質量%以上である。
【0143】
(重合性化合物)
重合性化合物1としては、前述のラジカル重合性化合物の記載が好ましく適用され、重合性化合物2としては、前述のカチオン重合性化合物におけるa)成分の記載が好ましく適用される。
また、第1のHC層形成用硬化性組成物は、重合性化合物1とも重合性化合物2とも異なる他の重合性化合物を有していてもよい。
上記他の重合性化合物は、カチオン重合性基を有する重合性化合物であることが好ましい。上記カチオン重合性基としては、重合性化合物2a)成分で述べたカチオン重合性基と同義であり、好ましい範囲も同様である。特に、本発明では、他の重合性化合物として、カチオン重合性基を含む、含窒素複素環含有化合物が好ましい。このような化合物を用いることにより、樹脂フィルムと第1のHC層の密着性をより効果的に向上させることができる。含窒素複素環としては、イソシアヌレート環およびグリコールウリル環からなる群から選ばれる含窒素複素環が例示され、イソシアヌレート環がより好ましい。他の重合性化合物が有するカチオン性基の数は、1〜10が好ましく、2〜5がより好ましい。また、他の重合性化合物として、カチオン重合性基と含窒素複素環構造を有する重合性化合物を用いる場合、樹脂フィルムは、アクリル系樹脂フィルムを含む樹脂フィルムが好ましい。このような構成とすることにより、樹脂フィルムと第1のHC層の密着性がより向上する傾向にある。
他の重合性化合物の具体例としては、前述の例示化合物が挙げられるが、本発明は前述の具体例に限定されるものではない。
<第2のHC層、第2のHC層形成用組成物>
第2のHC層は、第2のHC層形成用硬化性組成物から形成される。
第2のHC層形成用硬化性組成物は、ラジカル重合性基を有する重合性化合物3を90質量%以上含有する。重合性化合物3としては、前述のラジカル重合性化合物の記載が好ましく適用される。
【0144】
(その他)
その他、前述の、重合開始剤、無機粒子、マット粒子、紫外線吸収剤、含フッ素化合物、溶媒およびその他の成分の記載を好ましく適用することができる。
特にHC層1Aが、第1のHC層、および第2のHC層を樹脂フィルム2A側から順に有する態様においては、第1のHC層を形成するHC層形成用硬化性組成物は、溶媒を含むことが好ましく、第2のHC層を形成するHC層形成用硬化性組成物は、防汚剤を含むことが好ましい。
【0145】
(HC層の厚み)
HC層の厚みは、膜の変形を抑制することでキーボード写りを低減する観点からは5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。また、HC層形成時の体積収縮によって発生するカールを抑制する観点から40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。
【0146】
−HC層の形成方法−
HC層形成用硬化性組成物を、樹脂フィルム上に直接、または易接着層等の他の層を介して、塗布し、活性エネルギー線を照射することにより、HC層を形成することができる。塗布は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ダイコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法等の公知の塗布方法により行うことができる。なおHC層は、二種以上の異なる組成の組成物を同時または逐次塗布することにより二層以上(例えば二層〜五層程度)の積層構造のHC層として形成することもできる。
【0147】
塗布されたHC層形成用硬化性組成物に対して活性エネルギー線照射を行うことにより、HC層を形成できる。例えば、HC層形成用硬化性組成物がラジカル重合性化合物、カチオン重合性化合物、ラジカル光重合開始剤およびカチオン光重合開始剤を含む場合、ラジカル重合性化合物およびカチオン重合性化合物の重合反応を、それぞれラジカル光重合開始剤、カチオン光重合開始剤の作用により開始させ進行させることができる。照射する光の波長は、用いる重合性化合物および重合開始剤の種類に応じて決定すればよい。光照射のための光源としては、150〜450nm波長帯域の光を発する高圧水銀ランプ、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、ケミカルランプ、無電極放電ランプ、LED(Light Emitting Diode)等を挙げることができる。また、光照射量は、通常、30〜3000mJ/cmの範囲であり、好ましくは100〜1500mJ/cmの範囲である。光照射の前および後の一方または両方において、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理は、温風の吹き付け、加熱炉内への配置、加熱炉内での搬送等により行うことができる。HC層形成用硬化性組成物が溶媒を含む場合、加熱温度は、溶媒を乾燥除去できる温度に設定すればよく、特に限定されるものではない。ここで加熱温度とは、温風の温度または加熱炉内の雰囲気温度をいうものとする。
【0148】
(4)無機酸化物層(AR層)
本発明の積層体は、さらに無機酸化物層(AR層)を有していてもよく、たとえば、ハードコート層の支持体を有する側の面とは反対側の面に、無機酸化物層(AR層)を有する態様が挙げられる。
AR層を有する積層体の一態様として、図2に示すように、AR層5A、HC層1A、樹脂フィルム2A、衝撃吸収層3Aがこの順に積層された構成を有する本発明の積層体4Bが挙げられる。
本発明の積層体におけるAR層は、反射防止層としての機能を有する層であり、例えば、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、化学蒸着(CVD)法などのドライコーティング方法で形成できる。膜厚均一性が高く、ピンホール等の欠陥が少ないため、視認性に優れ、緻密であり、耐擦傷性などの機械特性に優れた薄膜の形成が可能である、スパッタリング法を用いることが好ましい。中でも、より高い成膜速度と高い放電安定性により高生産性を可能とすることから、中周波領域の電圧印加により成膜を行うデュアル・マグネトロン・スパッタリング(DMS)法が最適である。
なお、スパッタリング法を採用した場合、AR層の積層時の圧力は、0.1〜0.6Paであることが好ましい。その理由は、十分なスパッタリング率および膜密度を得ることができることによる。
【0149】
AR層は、高屈折率層及び低屈折率層のいずれであってもよく、また、単層であっても、複層であってもよい。
AR層が複層の場合、AR層は高屈折率層及び低屈折率層が交互に積層された層であることが好ましく、AR層の最外層(すなわち、HC層に対して最も反対側に配される層)は低屈折率層であることが好ましい。なかでも、AR層は、高屈折率層及び低屈折率層が交互に積層された4層以上の積層体であって、AR層の最外層が低屈折率層であることが好ましく、AR層の最内層(すなわち、HC層に対して最も近い側に配される層)は高屈折率層であることがより好ましい。
【0150】
高屈折率層を構成する材料としては、インジウム、錫、チタン、亜鉛、ジルコニウム、ニオブ、マグネシウム、ビスマス、セリウム、タンタル、アルミニウム、ゲルマニウム、カリウム、アンチモン、ネオジウム、ランタン、トリウム及びハフニウム等の金属、及び、これら金属の2種類以上からなる合金、並びに、これらの酸化物、弗化物、硫化物及び窒化物などが挙げられる。具体的には、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム、酸化タンタル、酸化亜鉛、酸化インジウム及び酸化セリウム等が挙げられるがこれに限られるものではない。また、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要はなく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。中でも、スパッタリング法を用いる場合は、作製した薄膜のピンホールの少なさから、酸化ニオブが適している。
【0151】
低屈折率層を構成する材料としては、酸化珪素、弗化マグネシウム、弗化バリウム、弗化カルシウム、弗化ハフニウム及び弗化ランタン等の材料が挙げられるが、これらに限定されるものでない。また、複数積層する場合、必ずしも同じ材料を選択する必要なく、目的にあわせて、適宜選択すればよい。特に、光学特性、機械強度、コスト及び成膜適性の面などから、酸化珪素が最適な材料である。なお、ここでいう酸化珪素(SiO)とは、主に二酸化珪素(SiO)を示すものである。ただし、酸素が欠乏及び/又は増加することにより、SiOのxは1.8〜2.2の範囲で推移するものである。
【0152】
AR層の総膜厚は、100〜300nmが好ましい。十分な反射性能を得る点から上記下限値以上であることが好ましく、生産性の点から上記上限値以下が好ましい。
【0153】
(5)その他の層
本発明の積層体は、上記の樹脂フィルム、衝撃吸収層、HC層及びAR層以外に、必要に応じて、防汚層及び粘着層等のその他の層を有してもよい。
【0154】
(防汚層)
本発明の積層体は、AR層の最外層に、防汚層を有してもよい。防汚層は、真空蒸着法により成膜したフッ素化合物を含む層であることが好ましく、反応性官能基と結合している珪素原子を2つ以上有するフッ素含有珪素化合物を用いて構成された層であることがより好ましい。ここで、反応性官能基とは、AR層の最外層と反応し、結合しうる基を意味する。また、反応性官能基を有するフッ素含有珪素化合物を用い、この反応性官能基同士が反応することにより防汚層が形成されることも好ましい。
防汚層を設けることにより、表面に汚れが付きにくくなり、更に、汚れが付いた場合の拭き取り性能を向上することができる。ここで、防汚層の成膜方法は特に限定されないが、真空蒸着法による成膜方法が好ましい。この方法によれば、連続的に成膜した場合にも、膜厚の均一性良く、成膜することが可能である。
【0155】
この際、十分な防汚性能を有するためには、少なくとも、水滴接触角が100°以上であることが好ましい。これにより、表面の汚れのふき取り性を向上させることができる。更に、摩擦係数も下がるため、より耐擦傷性能も向上させることもできる。また、防汚層は、スチールウール#0000を使用し、荷重1.5kg/cmで、温度25℃、相対湿度55%の環境下で、10往復擦っても傷が付かないことが耐傷性の点から特に好ましい。
【0156】
[積層体を含む物品]
本発明の積層体を含む物品としては、家電業界、電気電子業界、自動車業界、住宅業界をはじめとする様々な産業界において、ハードコート層への他の物体の形状の転写の抑制(たとえばキーボード写りの抑制)が求められる各種物品を挙げることができる。具体例としては、ノートPC、タッチセンサ、タッチパネル、液晶表示装置等の画像表示装置、自動車の窓ガラス、住居の窓ガラス等を挙げることができる。これら物品に、本発明の積層体を設けることにより、ハードコート層への他の物体の形状の転写(たとえばキーボード写り)が十分に抑制された物品を提供することが可能となる。また、AR層を有する積層体を用いた場合においては、反射防止機能も付与できる。本発明の積層体は、画像表示装置用の保護フィルム、偏光板又は前面板に用いられる積層体として好ましく用いられ、より好ましくはノートPCの画像表示素子の保護フィルム、偏光板又は前面板に用いられる積層体として用いられる。
本発明の積層体を用いることができるノートPCは特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0157】
<<画像表示装置>>
本発明の積層体を有する画像表示装置は、例えば、本発明の積層体を有する保護フィルム、偏光板又は前面板と、画像表示素子とを有する。
画像表示装置としては、液晶表示装置(Liquid Crystal Display;LCD)、プラズマディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、陰極管表示装置およびタッチパネルのような画像表示装置に用いることができる。
液晶表示装置としては、TN(Twisted Nematic)型、STN(Super−Twisted Nematic)型、TSTN(Triple Super Twisted Nematic)型、マルチドメイン型、VA(Vertical Alignment)型、IPS(In Plane Switching)型、OCB(Optically CompensatedBend)型等が挙げられる。
画像表示装置は、脆性が改良されハンドリング性に優れ、表面平滑性やシワによる表示品位を損なう事が無く、湿熱試験時の光漏れを低減できることが好ましい。
すなわち、本発明の積層体を有する画像表示装置は、画像表示素子が液晶表示素子であることが好ましい。液晶表示素子を有する画像表示装置としては、ソニーエリクソン社製、エクスペリアPなどを挙げることができる。
【0158】
<<偏光板>>
本発明の偏光板は、本発明の積層体が偏光子を有して構成される。本発明の積層体において、衝撃吸収層と支持体とハードコート層をこの順で有し、衝撃吸収層の支持体を有する側とは反対側の面に、偏光子を有してもよいし、衝撃吸収層と支持体とハードコート層をこの順で有し、ハードコート層の支持体を有する側とは反対側の面に、偏光子を有してもよい。
より具体的には、偏光子とその両側に配置された保護フィルムとからなる偏光板の、その保護フィルムの一方又は両方として、本発明の積層体を用いることができる。本発明の積層体を用いることにより、荷重に伴うキーボード写りが十分に抑制された偏光板を提供可能になる。また、AR層を有する積層体を用いた場合においては、反射防止機能も付与できる。
<<衝撃吸収層が設けられる位置>>
本発明の積層体を有する画像表示装置において、衝撃吸収層が設けられる位置は特に限定されず、例えば、下記の態様が挙がられる。
機能層/支持体/衝撃吸収層
機能層/支持体/衝撃吸収層/保護フィルム
機能層/支持体/衝撃吸収層/保護フィルム/偏光子/保護フィルム
機能層/支持体/衝撃吸収層/偏光子/保護フィルム
機能層/支持体/偏光子/衝撃吸収層/保護フィルム
機能層/支持体/偏光子/保護フィルム/衝撃吸収層
機能層/支持体/衝撃吸収層/粘着剤/保護フィルム/偏光子/保護フィルム
機能層/支持体/偏光子/保護フィルム/粘着剤/衝撃吸収層
機能層/支持体/位相差フィルム/衝撃吸収層
機能層/支持体/位相差フィルム/粘着剤/衝撃吸収層
機能層/支持体/位相差フィルム/衝撃吸収層/保護フィルム
機能層/支持体/位相差フィルム/衝撃吸収層/保護フィルム/偏光子/保護フィルム
機能層/支持体/位相差フィルム/粘着剤/保護フィルム/衝撃吸収層/偏光子/保護フィルム
機能層/支持体/位相差フィルム/粘着剤/保護フィルム/衝撃吸収層/粘着剤/偏光子/保護フィルム
【0159】
一方の保護フィルムとして本発明の積層体を用い、他方の保護フィルムには、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよい。この場合、その他方の保護フィルムには、溶液製膜法で製造され、かつ10〜100%の延伸倍率でロールフィルム形態における幅方向に延伸したセルロースアセテートフィルムを用いることが好ましい。
【0160】
また、偏光子の2枚の保護フィルムのうち、本発明の積層体以外のフィルムが、光学異方性層を含んでなる光学補償層を有する光学補償フィルムであることも好ましい態様である。光学補償フィルム(位相差フィルム)は、液晶表示画面の視野角特性を改良することができる。光学補償フィルムとしては、公知のものを用いることができるが、視野角を広げるという点では、特開2001−100042号公報に記載されている光学補償フィルムが好ましい。
【0161】
偏光子には、ヨウ素系偏光子、2色性染料を用いる染料系偏光子やポリエン系偏光子がある。ヨウ素系偏光子および染料系偏光子は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
また偏光子としては、公知の偏光子や、偏光子の吸収軸が長手方向に平行でも垂直でもない長尺の偏光子から切り出された偏光子を用いてもよい。偏光子の吸収軸が長手方向に平行でも垂直でもない長尺の偏光子は以下の方法により作製される。
すなわち、連続的に供給されるポリビニルアルコール系フィルムなどのポリマーフィルムの両端を保持手段により保持しつつ張力を付与して延伸して、少なくともフィルム幅方向に1.1〜20.0倍に延伸する。その後、フィルム両端の保持装置の長手方向進行速度差が3%以内で、フィルム両端を保持する工程の出口におけるフィルム搬送方向とフィルムの実質延伸方向とのなす角が20〜70°傾斜するように、フィルム搬送方向を、フィルム両端を保持させた状態で屈曲させてなる延伸方法によって製造することができる。特にフィルム両端を保持する工程の出口におけるフィルム搬送方向とフィルムの実質延伸方向とのなす角を45°傾斜させてなる延伸方法が、生産性の観点から好ましく用いられる。
【0162】
ポリマーフィルムの延伸方法については、特開2002−86554号公報の段落0020〜0030の記載を適用することができる。
【実施例】
【0163】
以下に、実施例に基づき本発明についてさらに詳細に説明する。なお、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。以下の実施例において組成を表す「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
実施例1は、参考例1に読み替えるものとする。
【0164】
<1−1.樹脂フィルム(厚み100μmのTACフィルム)の作製>
外層/コア層/外層の3層のセルロースアシレートの積層フィルムを、以下の方法により作製した。
(1)コア層セルロースアシレートドープ液の調製
下記の組成物をミキシングタンクに投入して撹拌し、コア層セルロースアシレートドープ溶液を調製した。
【0165】
(コア層セルロースアシレートドープ液)
・アセチル置換度2.88、重量平均分子量260,000のセルロースアセテート 100質量部
・下記式(A−1)で表されるフタル酸エステルオリゴマー 10質量部
・下記式(A−2)で表される化合物 4質量部
・下記式(A−3)で表される紫外線吸収剤(BASF社製) 2.7質量部
・光安定剤(BASF社製、商品名:TINUVIN123) 0.18質量部
・N−アルケニルプロピレンジアミン3酢酸(ナガセケムテックス社製、商品名:テークランDO) 0.02質量部
・メチレンクロライド(第1溶媒) 430質量部
・メタノール(第2溶媒) 64質量部
【0166】
使用した化合物を以下に示す。
下記構造のフタル酸エステルオリゴマー(A−1)の重量平均分子量は750である。
【0167】
【化11】
【0168】
【化12】
【0169】
【化13】
【0170】
(2)外層セルロースアシレートドープ液の調製
上記のコア層セルロースアシレートドープ液90質量部に下記の無機粒子含有組成物を10質量部加え、外層セルロースアシレートドープ液を調製した。
【0171】
(無機粒子含有組成物)
平均一次粒径20nmのシリカ粒子(日本アエロジル社製、商品名:AEROSIL R972) 2質量部
メチレンクロライド(第1溶媒) 76質量部
メタノール(第2溶媒) 11質量部
コア層セルロースアシレートドープ液 1質量部
【0172】
(3)樹脂フィルムの作製
外層セルロースアシレートドープ液がコア層セルロースアシレートドープ液の両側に配されるように、外層セルロースアシレートドープ液、コア層セルロースアシレートドープ液、および外層セルロースアシレートドープ液の3種を、流延口から表面温度20℃の流延バンド上に同時に流延した。
流延バンドとして幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。流延バンドは、厚みが1.5mm、表面粗さが0.05μm以下になるように研磨した。その材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有する流延バンドを用いた。流延バンドの全体の厚みムラは0.5%以下であった。
得られた流延膜に、風速が8m/s、ガス濃度が16%、温度が60℃の急速乾燥風を流延膜表面に当てて初期膜を形成した。その後、流延バンド上部の上流側からは140℃の乾燥風を送風した。また下流側からは120℃の乾燥風および60℃の乾燥風を送風した。
残留溶媒量を約33質量%にした後、バンドから剥ぎ取った。次いで、得られたフィルムの幅方向の両端をテンタークリップで固定し、溶媒残留量が3〜15質量%のフィルムを、横方向に1.06倍延伸しつつ乾燥した。その後、熱処理装置のロール間を搬送することにより、更に乾燥し、厚さが100μm(外層/コア層/外層=3μm/94μm/3μm)であるTACフィルムを作製した。
【0173】
(4)樹脂フィルム(厚みの異なるTACフィルム)の作製
上記と同様の方法で、但し、それぞれ厚みが80μm(外層/コア層/外層=3μm/74μm/3μm)、200μm(外層/コア層/外層=3μm/194μm/3μm)となるように調整し、厚みの異なるTACフィルムを作製した。
【0174】
<1−2.樹脂フィルム(厚み50μmのPIフィルム)の作製>
(1)ポリイミド粉末の製造
攪拌器、窒素注入装置、滴下漏斗、温度調節器及び冷却器を取り付けた1Lの反応器に、窒素気流下、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)832gを加えた後、反応器の温度を25℃にした。ここに、ビストリフルオロメチルベンジジン(TFDB)64.046g(0.2mol)を加えて溶解し、溶液を得た。得られた溶液を25℃に維持しながら、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)31.09g(0.07mol)とビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)8.83g(0.03mol)を投入し、一定時間撹拌して反応させた。その後、塩化テレフタロイル(TPC)20.302g(0.1mol)を添加して、固形分濃度13質量%のポリアミック酸溶液を得た。次いで、このポリアミック酸溶液にピリジン25.6g、無水酢酸33.1gを投入して30分撹拌し、さらに70℃で1時間撹拌した後、常温に冷却した。ここにメタノール20Lを加え、沈澱した固形分を濾過して粉砕した。その後、100℃下、真空で6時間乾燥させて、111gの固形分粉末のポリイミドを得た。
【0175】
(2)樹脂フィルムの作成
100gの固形分粉末のポリイミドを670gのN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)に溶かして13質量%の溶液を得た。得られた溶液をステンレス板に加熱後の厚さが50μmになるように流延し、130℃の熱風で30分乾燥させた。その後フィルムをステンレス板から剥離して、フレームにピンで固定し、フィルムが固定されたフレームを真空オーブンに入れ、100℃から300℃まで加熱温度を徐々に上げながら2時間加熱し、その後、徐々に冷却した。冷却後のフィルムをフレームから分離した後、最終熱処理工程として、さらに300℃で30分間熱処理して、厚み50μmのポリイミドフィルムを作製した。
【0176】
(3)樹脂フィルム(厚みの異なるPIフィルム)の作製
上記と同様の方法で厚さ80μmのポリイミドフィルムを作製した。
【0177】
<2−1.ハードコート層(HC層)形成用硬化性組成物の調製>
下記表1に示す配合で各成分を混合し、孔径10μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して、HC層形成用硬化性組成物B−1〜B−4を調製した。
【0178】
【表1】
【0179】
上記表1中において、配合比は質量部で記載する。また、「−」はその成分を含有しないことを示す。
表1に記載した各化合物の詳細を以下に示す。
【0180】
<ラジカル重合性化合物>
KAYARAD DPHA:ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの混合物(日本化薬社製、商品名)
ライトエステル2EG:ジエチレングリコールジメタクリレート(共栄社化学社製、商品名)
【0181】
<カチオン重合性化合物>
サイクロマーM100:3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタクリレート(ダイセル社製、商品名)
【0182】
<シリカ粒子>
MEK−AC−2140Z:(日産化学工業(株)製、平均一次粒径10〜20nmの球形シリカ粒子、商品名)
【0183】
<重合開始剤>
Irg184:1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(α−ヒドロキシアルキルフェノン系のラジカル光重合開始剤、BASF社製、商品名:IRGACURE184)
CPI−100P:トリアリールスルホニウム塩系の光カチオン重合開始剤(サンアプロ社製、商品名)
【0184】
<含フッ素化合物>
RS90:ラジカル重合性基を有する含フッ素オリゴマー(DIC社製)
【0185】
<溶媒>
MEK:メチルエチルケトン
MIBK:メチルイソブチルケトン
【0186】
<3−1.衝撃吸収層形成用塗布液C-1〜C−5の調製>
下記表2に示す組成で各成分を混合し、孔径10μmのポリプロピレン製フィルターでろ過して、衝撃吸収層形成用組成物C−1〜C−4を調製した。
【0187】
【表2】
【0188】
上記表2中において、「−」はその成分を含有しないことを示す。
表2に記載した化合物の詳細を以下に示す。
【0189】
<エラストマー>
クラリティLA2140e、クラリティLA2250、クラリティLA4285:PMMA−PnBA共重合体エラストマー((株)クラレ製、商品名)
バイロンUR2300:ウレタン変性ポリエステル(東洋紡(株)製、商品名)
ハイブラー7311:スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体の水素添加物((株)クラレ製、商品名)
【0190】
[実施例1]
<4.積層体の作製>
<4−1.ハードコート層(HC層)の形成>
上記で作製した厚み100μmのTACフィルムの一方の表面上に、HC層形成用硬化性組成物B−1を塗布し、硬化させて厚み10μmのHC層を形成し、HC層付き樹脂フィルムを作製した。
塗布および硬化の方法は、具体的には、次の通りとした。特開2006−122889号公報の実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で、搬送速度30m/分の条件でHC層形成用硬化性組成物を塗布し、雰囲気温度60℃で150秒間乾燥した。その後、更に窒素パージ下、酸素濃度約0.1体積%で160W/cmの空冷メタルハライドランプ(アイグラフィックス製)を用いて、照度300mW/cm、照射量600mJ/cmの紫外線を照射して、塗布したHC層形成用硬化性組成物を硬化させてHC層を形成した後、巻き取りを行った。
【0191】
<4−2.衝撃吸収層の形成>
HC層を形成した支持体のHC層と反対面に、衝撃吸収層形成用組成物C−1を塗布し、乾燥させて衝撃吸収層を形成した。
塗布および乾燥の方法は、具体的には、次の通りとした。特開2006−122889号公報の実施例1記載のスロットダイを用いたダイコート法で、搬送速度30m/分の条件で衝撃吸収層形成用組成物を乾燥後の膜厚が50μmになるように塗布し、雰囲気温度120℃で120秒間乾燥させ、実施例1の積層体を作製した。
【0192】
[実施例2、3]
衝撃吸収層形成用組成物C−1に代えて衝撃吸収層形成用組成物C−2、C−3を使用した以外は実施例1と同様にして、実施例2、3の積層体を作製した。
【0193】
[実施例4〜6]
衝撃吸収層の膜厚をそれぞれ10μm、25μm、100μmとした以外は実施例2と同様にして、実施例4〜6の積層体を作製した。
【0194】
[実施例7、8、13、14]
厚み100μmのTACフィルムに代えて、それぞれ厚み80μm、200μmのTACフィルム、厚み50μm、80μmのPIフィルムを使用した以外は実施例2と同様にして、実施例7、8、13、14の積層体を作製した。
【0195】
[実施例9〜11]
HC層形成用硬化性組成物B−1に代えてHC層形成用硬化性組成物B−2〜B−4を使用した以外は実施例2と同様にして、実施例9〜11の積層体を作製した。
【0196】
[実施例12]
HC層の厚みを5μmに変更した以外は実施例2と同様にして、実施例12の積層体を作製した。
【0197】
[実施例15、16]
HC層付き樹脂フィルムのHC層上に、無機酸化物層(AR層)を形成した以外は、実施例2、10と同様にして、実施例15、16の積層体を作製した。
AR層の形成は具体的には、スパッタリング法にて、任意の成膜圧力条件下、層構成をHC層側からNb/SiO/Nb/SiO、各層の膜厚がそれぞれ15nm/25nm/105nm/85nmとなるように成膜を実施した。
【0198】
[比較例1]
衝撃吸収層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の積層体を作製した。
【0199】
[比較例2]
衝撃吸収層形成用組成物C−1に代えて衝撃吸収層形成用組成物C−4を使用した以外は実施例1と同様にして、比較例2の積層体を作製した。
【0200】
[比較例3]
衝撃吸収層形成用組成物C−1に代えて厚み25μmの粘着剤(綜研化学社製、商品名:SK−2057)を2枚積層したこと、及び、衝撃吸収層形成用組成物C−1に代えて衝撃吸収層形成用組成物C−5を使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の積層体を作成した。
【0201】
(貯蔵弾性率、損失弾性率の測定並びにtanδの極大値及び極大値を示す周波数の導出)
衝撃吸収層の25℃における貯蔵弾性率、損失弾性率、tanδの極大値、及び極大値を示す周波数は、上述の方法により測定、導出した。
【0202】
なお、得られた各試料の25℃における周波数に対するtanδの依存性につきグラフ化したものを図3に示す。
【0203】
<試験>
上記で作製した積層体について、以下の試験を行った。試験結果を下記表3にまとめて記載する。
【0204】
(ハードコート層への他の物体の形状の転写(キーボード写り))
作成した光学フィルム(積層体)の衝撃吸収層側とガラス板(横280mm×縦180mm×厚み0.5mm)が向い合うようにして厚み20μmの粘着剤(綜研化学社製、商品名:SK−2057)を介して、ゴムローラーで2kgの荷重を掛けながら貼り合わせた。
上記の積層体を貼り合わせたガラス板を、ガラス板がノートブック((株)Apple製 Macbook)のディスプレイに接するようにテープ等で固定し、振動試験機((株)IMV、m060)にノートPCを閉じた状態で載せ、ノートPC上に重り10kgを載せ、ノートPCがX−Y方向に移動しないように固定した後、JIS Z0232記載のランダム振動試験レベル1条件にてZ軸方向に180分振動させた。なお、X−Y方向とは積層体の面内方向を指し、Z軸方向とは積層体の面内方向に直交する方向を指す。
振動終了後、サンプルを取り出しキーボードによる傷付き、凹み程度を下記指標に従って評価した。
A:凹み又は傷がまったく視認できない。
B:凹み又は傷がわずかに視認されるが使用上問題ない。
C:凹み又は傷が一部視認される使用上問題ない。
D:視認できる凹み又は傷が一部に発生し使用上問題がある。
E:視認できる凹み又は傷が全面に発生し使用上問題がある。
【0205】
(落球耐性)
ガラス板(Corning社製、商品名:イーグル XG、厚み0.4mm)と、上記で作製した積層体とを、衝撃吸収層側とガラス板が向かい合うようにして、厚み20μmの粘着剤(綜研化学社製、商品名:SK−2057)を介して、ゴムローラーで2kgの荷重を掛けながら貼り合わせた。
ステンレスからなる基台の上に、上記の積層体を貼り合わせたガラス板を、ガラス板が基台に接するように設置し、次いで、鉄球(直径3.3cm、質量150g)を、所定高さから落下させ、上記の積層体のHC層(AR層が形成された積層体においてはAR層)と鉄球が接触するように衝突させた。
その後、ガラス板を観察し、ひびや割れなどが観察されなかった高さの中で一番高い値を耐衝撃高さ(cm)とした。
【0206】
【表3】
【0207】
表3に記載するように、実施例の積層体は、ハードコート層への他の物体の形状の転写(キーボード写り)が十分に抑制され、また落球耐性にも優れていた。
衝撃吸収層を有しない比較例1の積層体は、ハードコート層への他の物体の形状の転写(キーボード写り)及び落球耐性のいずれにも劣った。また、tanδの極大値が本発明の所定の周波数領域にない、ウレタン系樹脂からなる衝撃吸収層や、アクリル系粘着剤を有する比較例2、3の積層体は、落球耐性には問題ないが、ハードコート層への他の物体の形状の転写(キーボード写り)は抑制できなかった。
【0208】
本発明の積層体を、偏光板に用いた際には、上記偏光板はハードコート層への他の物体の形状の転写(キーボード写り)を十分に抑制することができ、また優れた落球耐性を示すと考えられる。
【符号の説明】
【0209】
1A:ハードコート層(HC層)
2A:支持体
3A:衝撃吸収層
4A、4B:積層体
5A:無機酸化物層(AR層)

図1
図2
図3