特許第6932103号(P6932103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6932103磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6932103
(24)【登録日】2021年8月19日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/70 20060101AFI20210826BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20210826BHJP
   G11B 5/71 20060101ALI20210826BHJP
   G11B 5/714 20060101ALI20210826BHJP
   G11B 5/842 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   G11B5/70
   G11B5/706
   G11B5/71
   G11B5/714
   G11B5/842 Z
【請求項の数】9
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2018-64776(P2018-64776)
(22)【出願日】2018年3月29日
(65)【公開番号】特開2019-175532(P2019-175532A)
(43)【公開日】2019年10月10日
【審査請求日】2020年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴士
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/148092(WO,A1)
【文献】 特開2007−281410(JP,A)
【文献】 特開2017−157252(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/198514(WO,A1)
【文献】 特開2017−139044(JP,A)
【文献】 特開2014−216034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/70
G11B 5/706
G11B 5/71
G11B 5/714
G11B 5/842
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性支持体と、
前記非磁性支持体の少なくとも一方の面上に設けられ、下記の式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子及び結合剤を含む磁性層と、を有し、
前記磁性層の表面において測定される接触角は、1−ブロモナフタレンに対して30.0°以上45.0°未満の範囲であり、かつ、水に対して80.0°以上95.0°以下の範囲である磁気記録媒体。
【化1】


式(1)中、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0≦a<2を満たす。
【請求項2】
前記磁性層は、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群より選択される少なくとも一種の潤滑剤を含む、請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径が、7nm〜25nmである請求項1又は請求項2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物が、下記の式(6)で表される化合物である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
【化2】

式(6)中、Xは、Co、Ni、Mn及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
【請求項5】
前記XがCo及びMnから選ばれる金属元素であり、YがTiであり、ZがGa及びAlから選ばれる金属元素である請求項4に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液にアルカリ剤を添加する工程と、
前記アルカリ剤を添加した後に加水分解性基を有するシラン化合物を添加し、前駆体粒子分散液を得る工程と、
前記前駆体粒子分散液から前駆体粒子を取り出す工程と、
前記前駆体粒子を800℃〜1400℃の温度範囲内で熱処理して、熱処理粒子を得る工程と、
前記熱処理粒子をアルカリ水溶液に添加し、液温80℃以上で処理する工程と、
を含む、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ水溶液は、金属化合物の含有濃度が8モル/L以上16モル/L以下である水溶液である請求項6に記載のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ水溶液は、金属化合物の含有濃度が10モル/L以上13モル/L以下である水溶液である請求項6に記載のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項6〜請求項8のいずれか1項に記載の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いて磁性層形成用組成物を調製する工程と、
非磁性支持体上に前記磁性層形成用組成物を付与して磁性層形成用組成物層を形成する工程と、
形成された前記磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程と、
磁場配向処理された前記磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成する工程と、
を含む磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープ等の磁気記録媒体への信号の記録再生は、通常、磁気記録媒体をドライブ内で走行させ、磁性層表面と磁気ヘッドとを接触させて摺動することにより行われる。磁性層表面と磁気ヘッドとを繰り返し摺動すると、摩擦が増大するため、磁性層の一部が削れて磁気ヘッドが汚れる。
【0003】
上記の状況から、磁性層表面の摩擦の増大を抑え、かつ、磁気ヘッドの汚れを抑えるために、磁性層及び非磁性層に潤滑剤を含有させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ところが、単純に潤滑剤を使用することで摩擦を低減しようとすると、磁性層表面に存在する潤滑剤の量が多くなる。そして、磁性層表面から磁気ヘッドに潤滑剤が付着し、逆に磁気ヘッドが潤滑剤によって汚れてしまう結果を招く。
【0004】
そこで、磁性層表面の摩擦の増大を抑えるため、磁性層表面において測定される接触角が1−ブロモナフタレンに対して45.0°〜55.0°の範囲であり、かつ水に対して90.0°〜100.0°の範囲である磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2では、磁気材料として、強磁性六方晶バリウムフェライト粉末を用い、潤滑剤に加えて1−ブロモナフタレン接触角を調整可能な接触角調整剤として、疎水性鎖を有する含窒素ポリマー等が磁性層に添加されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−298332号公報
【特許文献2】特開2016−051493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、磁気記録媒体の高性能化に伴い、磁気記録媒体に用いられる磁気材料として、ナノサイズの粒子でありながら、非常に高い保磁力を発現するイプシロン酸化鉄(ε−Fe)の結晶構造体が注目されている。
【0007】
しかしながら、本発明者は、ε−Feの結晶構造体を含む磁性層に磁気ヘッドを繰り返し摺動すると、信号ノイズ比(SNR:Signal to Noise Ratio)が低下する場合があることを見出した。ε−Feの結晶構造体を用いた磁気記録媒体において、SNRの低下の抑制については、これまで十分な検討がなされていないのが現状である。
【0008】
本開示は、上記に鑑みたものである。
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、磁性材料としてイプシロン型(ε型)酸化鉄系化合物の粒子を含み、繰り返し摺動後の信号ノイズ比(SNR)の低下が抑制された磁気記録媒体を提供することにある。
本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、磁気記録媒体に適用した場合に、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑制可能なイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を製造する製造方法を提供することにある。
本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、磁性材料としてイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含み、繰り返し摺動後のSNRの低下が抑制された磁気記録媒体を製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 非磁性支持体と、非磁性支持体の少なくとも一方の面上に設けられ、下記の式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン(ε)型酸化鉄系化合物の粒子及び結合剤を含む磁性層と、を有し、
磁性層の表面において測定される接触角は、1−ブロモナフタレンに対して30.0°以上45.0°未満の範囲であり、かつ、水に対して80.0°以上95.0°以下の範囲である磁気記録媒体である。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)中、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0≦a<2を満たす。
<2> 磁性層は、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群より選択される少なくとも一種の潤滑剤を含む<1>に記載の磁気記録媒体である。
<3> イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径が、7nm〜25nmである、<1>又は<2>に記載の磁気記録媒体である。
<4> 式(1)で表される化合物が、下記の式(6)で表される化合物である<1>〜<3>のいずれか1つに記載の磁気記録媒体である。
【0012】
【化2】
【0013】
式(6)において、Xは、Co、Ni、Mn及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
【0014】
<5> XがCo及びMnから選ばれる金属元素であり、YがTiであり、ZがGa及びAlから選ばれる金属元素である<4>に記載の磁気記録媒体である。
<6> 3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液にアルカリ剤を添加する工程と、アルカリ剤を添加した後に加水分解性基を有するシラン化合物を添加し、前駆体粒子分散液を得る工程と、前駆体粒子分散液から前駆体粒子を取り出す工程と、前駆体粒子を、800℃〜1400℃の温度範囲内で熱処理して、熱処理粒子を得る工程と、熱処理粒子をアルカリ水溶液に添加し、液温75℃以上で処理する工程と、を含む、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法である。
<7> アルカリ水溶液は、金属化合物の含有濃度が8モル/L以上16モル/L以下である水溶液である<6>に記載のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法である。
<8> <6>又は<7>に記載の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いて磁性層形成用組成物を調製する工程と、非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を付与して磁性層形成用組成物層を形成する工程と、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程と、磁場配向処理された上記の磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成する工程と、を含む磁気記録媒体の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、磁性材料としてイプシロン型(ε型)酸化鉄系化合物の粒子を含み、繰り返し摺動後のSNRの低下が抑制された磁気記録媒体が提供される。
本発明の別の実施形態によれば、磁気記録媒体に適用した場合に、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑制可能なイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を製造する製造方法が提供される。
本発明の別の実施形態によれば、磁性材料としてイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含み、繰り返し摺動後のSNRの低下が抑制された磁気記録媒体を製造する製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法の実施形態の一例について説明する。但し、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。
【0017】
本開示において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0018】
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
また、本開示において、「工程」の用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば本用語に含まれる。
【0019】
[磁気記録媒体]
本開示の磁気記録媒体は、非磁性支持体と、非磁性支持体の少なくとも一方の面上に設けられ、下記の式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物(以下、総称して「イプシロン型酸化鉄系化合物」ということがある。)の粒子及び結合剤を含む磁性層と、を有し、磁性層の表面において測定される接触角を、1−ブロモナフタレンに対して30.0°以上45.0°未満の範囲とし、かつ、水に対して80.0°以上95.0°以下の範囲としたものである。
【0020】
【化3】
【0021】
式(1)において、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0≦a<2を満たす。
【0022】
以下、磁性層表面において測定される1−ブロモナフタレンに対する接触角を「1−ブロモナフタレン接触角」ともいう。また、磁性層表面において測定される水に対する接触角を「水接触角」ともいう。
【0023】
従来から、強磁性六方晶バリウムフェライト粉末を磁性層に用いた磁気記録媒体が知られており、磁性層を磁気ヘッドに接触させて使用した際の摩擦を抑える手段が検討され、走行性及び耐久性の向上が図られてきた。その方法の1つとして、例えば特許文献1のように磁性層等に潤滑剤を含める方法が知られている。また、特許文献2には、潤滑剤に加えて接触角調整剤を用いることで、1−ブロモナフタレンに対する接触角と水に対する接触角とをそれぞれ特定の範囲とし、走行耐久性を向上させることが開示されている。
一方、磁気記録媒体において、イプシロン型酸化鉄系化合物は、磁性材料として良好な磁気特性を示すことから期待されており、磁性材料として、イプシロン型酸化鉄系化合物を用いた場合においても、SNRの低下が抑制されることが求められている。
ここで、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子は、強磁性六方晶バリウムフェライト粉末とは表面の性状が異なり、また、結晶構造及び大きさも異なる。そのため、磁気記録媒体の磁性層にイプシロン型酸化鉄系化合物を含めた場合、形成される磁性層の表面状態も異なるものと推察される。
【0024】
上記した従来技術のうち、特許文献2には、1−ブロモナフタレンに対する接触角と水に対する接触角とを特定の範囲にすることが記載されているが、この範囲ではイプシロン型酸化鉄系化合物を用いた場合に良好な摩擦低減の効果は期待できない。
本発明者が検討を重ねた結果、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子は、強磁性六方晶バリウムフェライト粉末に比べて、磁気ヘッドとの摩擦が大きくなる傾向にあることが分かった。そのため、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いた磁性層を有する磁気記録媒体では、磁気ヘッドが汚れやすく、SNRの低下を引き起こしやすい。
なお、特許文献2には「高い出力」を維持することを目的とすることが記載されており、イプシロン型酸化鉄系化合物を含む磁性層に磁気ヘッドを繰り返し摺動させた場合に「信号ノイズ比(SNR)」が低下するという現象が発生することは示唆されていない。そのため、特許文献2は、SNRの低下を抑える手法等について示唆を与えるものでもない。
【0025】
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含む磁性層と磁気ヘッドとの摩擦を抑える手段としては、潤滑剤の種類の変更及び含有量の調整、並びに磁性層の平坦化等の様々な手段が考えられるものの、ただ単に平滑さを追求するだけでは足りず、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子に由来して膜面に現れる性状が異なるということが分かった。
このような状況を踏まえ、本発明者は、磁性粒子としてイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を選択し、かつ、磁性層の表面において測定される接触角を、1−ブロモナフタレンに対して30.0°以上45.0°未満の範囲とし、更に水に対して80.0°以上95.0°以下の範囲とすることにより、繰り返し摺動後のSNRの低下の改善を図ることができることを見出した。
【0026】
加えて、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含む磁性層では、北崎−畑の理論(三液法)に基づく表面自由エネルギーにおいて、分散成分が支配的であると考えられる。そして、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含む磁性層における分散成分の指標としては、1−ブロモナフタレン接触角が適切であることがわかった。また、磁性層表面に存在する潤滑剤は、磁気ヘッドの汚れに関与し、SNRの低下を引き起こす。そこで、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含む磁性層表面における潤滑剤存在量の指標を検討したところ、水接触角が適切であることがわかった。
【0027】
〜1−ブロモナフタレン接触角〜
まず初めに、本開示の磁気記録媒体の特徴の1つである1−ブロモナフタレン接触角について説明する。
本開示の磁気記録媒体は、磁性層表面において測定される1−ブロモナフタレン接触角が、30.0°以上45.0°未満である。1−ブロモナフタレン接触角が30.0°以上であると、磁気ヘッドのヘッド面との接触で磁性層表面が削れることを防ぎ、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑えることができる。また、1−ブロモナフタレン接触角が45.0°未満であると、磁気ヘッドのエッジ部での磁性層の表面性の変化に伴う削れに起因した磁気ヘッドへの付着物を少なくし、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑えることができる。
繰り返し摺動後の磁気記録媒体のSNRの低下をより効果的に抑える観点から、1−ブロモナフタレン接触角は、32.0°以上であることが好ましく、35.0°以上であることが好ましい。また、繰り返し摺動後の磁気記録媒体のSNRの低下をより効果的に抑える観点から、1−ブロモナフタレン接触角は、40.0°以下であることが好ましい。
【0028】
上記の中でも、1−ブロモナフタレン接触角は、繰り返し摺動後の磁気記録媒体のSNRの低下をより抑える観点から、32.0°〜43.0°を満たすことが好ましく、35.0°〜40.0°を満たすことがより好ましい。
【0029】
本開示において、1−ブロモナフタレン接触角は、接触角測定機を用いて、以下の方法により求められる値である。
磁気記録媒体を所定の大きさに切り取り、測定用サンプルとする。測定用サンプルの磁性層が外側表面となるように、測定用サンプルをスライドガラス上に設置する。次いで、磁性層表面に1−ブロモナフタレン2.0μlを滴下する。滴下した液体が安定した液滴を形成したことを目視で確認した後、接触角測定機に付随の接触角解析ソフトウェアにより液滴像を解析し、磁性層表面と液滴の接触角を測定する。接触角の算出はθ/2法によって行い、1サンプルにつき6回測定し、その平均値を接触角とする。
測定は、温度20℃、相対湿度25%の環境で行う。
【0030】
接触角測定機としては、例えば、協和界面科学(株)の接触角測定装置(製品名:DropMaster700)を用いることができる。但し、接触角測定機は、これに限定されない。
接触角解析ソフトウェアとしては、例えば、協和界面科学(株)の画像解析ソフト(製品名:FAMAS)を用いることができる。但し、接触角解析ソフトウェアは、これに限定されず、例えば、市販の解析ソフト又は公知の演算式を組み込んだ解析ソフトを用いてもよい。
1−ブロモナフタレン接触角の求め方の具体例は、後述の実施例に示すとおりである。
【0031】
1−ブロモナフタレン接触角は、例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の表面状態等により制御することができる。イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を製造する方法の一例として、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液にアルカリ剤を添加する工程と、アルカリ剤を添加した後に加水分解性基を有するシラン化合物を添加し、前駆体粒子分散液を得る工程と、前駆体粒子分散液から前駆体粒子を取り出す工程と、前駆体粒子を800℃〜1400℃の温度範囲内で熱処理して熱処理粒子を得る工程と、熱処理粒子をアルカリ水溶液に添加して処理する工程と、を有する方法が挙げられる。この際、熱処理粒子を処理するアルカリ水溶液の液温を高くするほど、1−ブロモナフタレン接触角が大きくなる傾向がある。また、熱処理粒子を処理するアルカリ水溶液の濃度を高くするほど、1−ブロモナフタレン接触角が大きくなる傾向がある。また、アルカリ水溶液による熱処理粒子の処理時間を長くするほど、1−ブロモナフタレン接触角が大きくなる傾向がある。より詳しくは、後述する。
【0032】
〜水接触角〜
本開示の磁気記録媒体は、磁性層表面において測定される水接触角が、80.0°以上95.0°以下である。本開示の磁気記録媒体は、水接触角が80.0°以上95.0°以下を満たすことにより、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑えることができる。
【0033】
水接触角が80.0°以上であることにより、磁気ヘッドのヘッド面との接触で磁性層表面が削れることを防ぎ、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑えることができる。また、水接触角が95.0°以下であることにより、磁気ヘッドのエッジ部での磁性層の表面性の変化に伴う削れに起因した磁気ヘッドへの付着物を少なくし、繰り返し摺動後のSNRの低下を抑えることができる。
水接触角は、繰り返し摺動後の磁気記録媒体のSNRの低下をより抑える観点から、85.0°以上であることが好ましい。また、水接触角は、繰り返し摺動後の磁気記録媒体のSNRの低下をより抑える観点から、93.0°以下であることが好ましく、90.0°以下であることがより好ましい。
【0034】
水接触角は、繰り返し摺動後の磁気記録媒体のSNRの低下をより抑える観点から、80.0°〜93.0°を満たすことが好ましく、85.0°〜93.0°を満たすことがより好ましく、85.0°〜90.0°を満たすことが更に好ましい。
【0035】
水接触角は、上述の1−ブロモナフタレン接触角の測定の際の1−ブロモナフタレンを水に代えたこと以外は、上述の1−ブロモナフタレン接触角の測定方法と同様の方法で求められる値である
【0036】
水接触角は、例えば、潤滑剤の使用等により制御することができる。詳しくは、磁性層表面の潤滑剤の存在量が多くなるほど、水接触角が大きくなる傾向がある。より詳しくは、後述する。
なお、水接触角は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の表面状態等によっても影響される場合がある。そのため、イプシロン型酸化鉄系化合物を製造する際、上述の熱処理粒子を処理するアルカリ水溶液の液温及び濃度、並びにアルカリ水溶液による処理時間の少なくとも1つの条件を調整して、水接触角を調節してもよい。
【0037】
−磁気記録媒体の層構成−
本開示の磁気記録媒体は、基材としての非磁性支持体と、磁気記録層としての磁性層とを有し、目的に応じて、その他の層を有していてもよい。
本開示の磁気記録媒体が有し得るその他の層としては、非磁性層、バックコート層等が挙げられる。
【0038】
<非磁性支持体>
本開示の磁気記録媒体は、非磁性支持体を有する。
本開示において、「非磁性支持体」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たす支持体を意味する。
【0039】
非磁性支持体としては、磁気記録媒体に用いられる公知の非磁性支持体であれば、特に制限なく用いることができる。
非磁性支持体の材料は、磁性を有しない材料の中から、磁気記録媒体の種類に応じて、成形性等の物性、耐久性などを考慮し、適宜選択することができる。非磁性支持体の材料としては、例えば、磁性材料を含まない樹脂材料、磁性を有しない無機材料等の材料が挙げられる。
【0040】
樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアラミドを含む芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド、セルローストリアセテート(TAC)、ポリカーボネート(PC)、ポリスルホン、ポリベンゾオキサゾールなどの樹脂材料が挙げられる。
これらの中でも、樹脂材料としては、強度及び耐久性が良好であり、かつ、加工が容易であるとの観点から、ポリエステル及びポリアミド系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0041】
非磁性支持体は、磁気記録媒体の使用形態に応じて選択される。
例えば、磁気記録媒体が磁気テープ、フレキシブルディスク等の形態をとる場合、非磁性支持体としては、可撓性を有する樹脂フィルム(又は樹脂シート)を用いることができる。
例えば、磁気記録媒体がハードディスクの場合には、非磁性支持体としては、ディスク状であり、フレキシブルディスクに用いられるものよりも硬質な樹脂成形体、無機材料成形体、金属材料成形体等を用いることができる。
【0042】
非磁性支持体として樹脂フィルムを用いる場合、樹脂フィルムは、未延伸フィルムでもよいし、一軸延伸、二軸延伸等の延伸フィルムでもよい。例えば、非磁性支持体としてポリエステルフィルムを用いる場合には、寸法安定性を向上させる観点から、二軸延伸したポリエステルフィルムを用いてもよい。
非磁性支持体に用いられる樹脂フィルムは、2層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、特開平3−224127号公報に示されているように、磁性層を形成する面と、磁性層を形成しない面との表面粗さを変えるため等の目的で、2層の異なるフィルムを積層した非磁性支持体を用いることもできる。
【0043】
非磁性支持体には、例えば、非磁性支持体の面上に設けられる磁性層との密着性を向上させる目的で、必要に応じて、予めコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理等の表面処理が施されていてもよい。また、非磁性支持体には、例えば、磁性層への異物の混入を抑制するため、防塵処理等の表面処理が施されていてもよい。
これらの表面処理は、公知の方法により行うことができる。
【0044】
−非磁性支持体の厚み−
非磁性支持体の厚みは、特に制限はなく、磁気記録媒体の使用形態に応じて、適宜選択される。
例えば、非磁性支持体の厚みとしては、2.0μm〜80μmであることが好ましく、3.0μm〜50μmであることがより好ましい。
非磁性支持体の厚みが2.0μm以上であると、成膜性が良好となり、かつ、より高い強度を得ることができる。また、非磁性支持体の厚みが80μm以下であると、磁気テープ全体の厚みが無用に厚くなり過ぎない。
磁気記録媒体が磁気テープの形態をとる場合には、非磁性支持体の厚みは、2.0μm〜20μmであることが好ましく、3.0μm〜10μmであることがより好ましい。
【0045】
非磁性支持体、及び以下に説明する磁気記録媒体の各層の厚みは、磁気記録媒体の厚み方向の断面を、イオンビーム、ミクロトーム等の公知の手法により露出させた後、露出した断面を走査型電子顕微鏡により観察し、観察した断面における、厚み方向の1箇所において測定した厚みとして、又は無作為に抽出した複数箇所(例えば、2箇所)において測定した厚みの算術平均として、求めることができる。
【0046】
<磁性層>
本開示の磁気記録媒体は、既述の非磁性支持体の少なくとも一方の面上に、磁性層を有する。本開示の磁気記録媒体は、磁性層を、非磁性支持体の一方の面にのみ有していてもよいし、非磁性支持体の両方の面に有していてもよい。
【0047】
磁性層は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子、及び結合剤を含む。磁性層は、他の成分をさらに含んでいてもよい。
以下、磁性層における各成分について、詳細に説明する。
【0048】
(イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子)
磁性層は、下記の式(1)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含む。
【0049】
【化4】
【0050】
式(1)中、Aは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素を表し、aは、0≦a<2を満たす。
【0051】
式(1)で表される化合物には、ε−Feと、ε−FeのFe3+イオンサイトの一部がFe以外の金属元素で置換された化合物と、が包含される。
ε−FeのFe3+イオンサイトの一部をFe以外の金属元素で置換することにより、例えば、磁気特性を調整したり、イプシロン型酸化鉄の結晶構造をより安定化させたりすることができる。
【0052】
式(1)におけるAは、Fe以外の少なくとも1種の金属元素であれば、金属元素の種類及び数は、特に制限されない。
例えば、イプシロン型酸化鉄の結晶構造をより形成しやすく、かつ、形成された結晶構造をより安定化しやすいとの観点からは、式(1)におけるAは、Ga、Al、In、Rh、Co、Ni、Mn、Zn、Ti、及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素であることが好ましい。
式(1)におけるaは、例えば、イプシロン型酸化鉄の結晶構造の形成性及び安定性の観点から、0.01<a<1.8が好ましく、0.05<a<1.5がより好ましい。
【0053】
式(1)で表される化合物のうち、以下に示す式(2)〜式(6)のいずれかで表される化合物は好ましい態様であり、中でも、式(6)で表される化合物は、SNRの低下をより効果的に抑えられる点でより好ましい。
【0054】
【化5】
【0055】
式(2)中、Zは、Ga、Al、及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。zは、0<z<2を満たす。
式(2)中、Zとしては、ε相の安定化の観点から、Ga及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
磁気特性の観点から、zは、0<z<0.8を満たすことが好ましく、0.05<z<0.6を満たすことがより好ましい。
式(2)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε−Ga0.55Fe1.45、ε−Al0.45Fe1.55などが挙げられる。
【0056】
【化6】
【0057】
式(3)中、Xは、Co、Ni、Mn及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たす。
式(3)中、磁気特性の観点から、Xは、Co及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Yは、Tiであることが好ましい。
ε相の安定化の観点から、xは、0<x<0.4を満たし、かつ、yは、0<y<0.4を満たすことが好ましく、0<x<0.2を満たし、かつ、0<y<0.2を満たすことがより好ましい。
式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε−Co0.05Ti0.05Fe1.9、ε−Mn0.075Ti0.075Fe1.85などが挙げられる。
【0058】
【化7】
【0059】
式(4)中、Xは、Co、Ni、Mn及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、zは、0<z<1を満たす。
式(4)中、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Xは、Co及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Zは、Ga及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
ε相の安定化及び磁気特性の観点から、xは、0<x<0.4を満たし、かつ、zは、0<z<0.6を満たすことが好ましく、0<x<0.2を満たし、かつ、0.05<z<0.6を満たすことがより好ましい。
式(4)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε−Mn0.02Ga0.5Fe1.48、ε−Co0.02Ga0.4Fe1.58などが挙げられる。
【0060】
【化8】
【0061】
式(5)中、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al及びInからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たす。
式(5)中、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Yは、Tiであることが好ましく、Zは、Ga及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
ε相の安定化及び磁気特性の観点から、yは、0<y<0.4を満たし、かつ、zは、0<z<0.8を満たすことが好ましく、0<y<0.2を満たし、かつ、0.05<z<0.6を満たすことがより好ましい。
式(5)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε−Ti0.02Ga0.5Fe1.48、ε−Ti0.02Al0.5Fe1.48などが挙げられる。
【0062】
【化9】
【0063】
式(6)中、Xは、Co、Ni、Mn及びZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の金属元素を表し、Yは、Ti及びSnから選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素を表し、Zは、Ga、Al、In、及びRhからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素を表す。xは、0<x<1を満たし、yは、0<y<1を満たし、zは、0<z<1を満たし、x+y+z<2である。
【0064】
式(6)中、ε相の安定化及び磁気特性の観点から、Xは、Co及びMnから選ばれる金属元素であることが好ましく、Yは、Tiであることが好ましく、Zは、Ga及びAlから選ばれる金属元素であることが好ましい。
式(6)中、x、y、及びzにおいて、磁気記録媒体に適用するための好ましい磁気特性の観点から、xは、0<x<0.4を満たし、yは、0<y<0.7を満たし、かつ、zは、0<z<0.4を満たすことが好ましく、0.01<x<0.2を満たし、0.05<y<0.4を満たし、かつ、0.01<z<0.2を満たすことがより好ましい。
式(6)で表される化合物としては、具体的には、例えば、ε−Ga0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66、ε−Ga0.27Co0.05Ti0.05Fe1.63、ε−Al0.20Co0.06Ti0.06Fe1.68、ε−Al0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66、ε−Ga0.15Mn0.05Ti0.05Fe1.75などが挙げられる。
【0065】
イプシロン型の結晶構造を有する酸化鉄系化合物であることの確認は、例えば、X線回折(XRD:X-Ray-Diffraction)法により行うことができる。
また、イプシロン型酸化鉄系化合物の組成は、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により確認する。具体的には、試料粒子12mg及び4mol/Lの塩酸水溶液10mlを入れた容器を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持し、溶解液を得る。次いで、得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過する。得られた濾液の元素分析を、高周波誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置を用いて行う。得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求める。
【0066】
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の形状としては、特に制限はなく、例えば、球状、ロッド状、針状等の形状が挙げられる。
これらの中でも、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の形状としては、球状が好ましい。球状は、他の形状と比較して比表面積をより小さくできるため、分散及び配向の観点から好ましい。
【0067】
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の一次粒子の平均円相当径としては、特に制限はなく、例えば、7nm〜25nmであることが好ましく、8nm〜20nmであることがより好ましく、10nm〜17nmであることが更に好ましい。
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の一次粒子の平均円相当径が7nm以上であると、取り扱い性がより良好となる。また、イプシロン型酸化鉄の結晶構造がより安定化し、かつ、磁気特性の分布がより小さくなる。
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の一次粒子の平均円相当径が25nm以下であると、記録密度がより向上し得る。また、記録再生に適した磁気特性に調整しやすいため、SNRがより良好な磁気記録媒体を実現し得る。
【0068】
本開示において、「イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径」は、イプシロン型酸化鉄系化合物の一次粒子500個の円相当径の数平均値を意味する。
個々のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の円相当径は、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)像に基づき求める。詳細には、TEM像におけるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の面積(即ち、投影面積)と同一面積の円の直径を、円相当径とする。なお、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径の測定方法の具体例は、後述の実施例に示す通りである。
【0069】
磁性層中に含まれるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径は、例えば、以下の方法により、磁性層からイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を取り出し、測定することができる。
(1) 磁性層表面に対して、ヤマト科学(株)のプラズマリアクターを用い、1分間〜2分間表面処理を施すことにより、磁性層表面の有機物成分(例えば、結合剤)を灰化して取り除く。
(2) シクロヘキサノン、アセトン等の有機溶媒を浸した濾紙を金属棒のエッジ部に貼り付ける。金属棒の濾紙が貼り付けられたエッジ部で、上記(1)の処理後の磁性層表面をこすり、磁性層成分を磁気記録媒体から濾紙へ転写し剥離する。
(3) 上記(2)で剥離した磁性層成分をシクロヘキサノン、アセトン等の有機溶媒に振るい落とした(具体的には、濾紙ごと溶媒の中に入れて超音波分散機を用いて振るい落とした)後、有機溶媒を乾燥させて剥離した磁性層成分を取り出す。
(4) 上記(3)で取り出した磁性層成分を十分に洗浄したガラス試験管に入れた後、n−ブチルアミンを20ml程度(灰化せず残留した結合剤を分解できる量)加えてガラス試験管を封緘する。
(5) 封緘したガラス試験管を170℃で20時間以上加熱し、結合剤成分及び硬化剤成分を分解させる。
(6) 上記(5)で得られた分解後の沈殿物を純水で十分に洗浄した後、乾燥させ、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を取り出す。
【0070】
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を調製する際の焼成温度、置換する金属元素の種類等により、制御することができる。例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径は、粒子を調製する際の焼成温度を高くすることで大きくすることができ、低くすることで小さくすることができる。
【0071】
磁性層は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0072】
磁性層中におけるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の含有率としては、特に制限はなく、例えば、磁性層の固形分量に対して、50質量%〜90質量%であることが好ましく、60質量%〜90質量%であることがより好ましい。
磁性層中におけるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の含有率が、磁性層の固形分量に対して、50質量%以上であると、記録密度をより向上させることができる。
磁性層中におけるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の含有率が、磁性層の固形分量に対して、90質量%以下であると、磁性層の膜質をより硬くすることができるため、磁気ヘッドとの摺動性をより確保しやすい。
【0073】
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子は、後述の製造方法によって得ることができる。さらに、例えば、特開2017−24981号公報の段落[0021]〜[0041]の記載を参照することができる。
【0074】
(他の磁性材料)
磁性層は、磁性材料として、イプシロン型酸化鉄系化合物に加えて、必要に応じて、他の磁性材料を含んでもよい。磁性材料の一部をイプシロン型酸化鉄系化合物から他の磁性材料に置き換えることで、磁性特性の調整や、コストの軽減を図ることができる。
【0075】
他の磁性材料としては、例えば、α−Fe、β−Fe及びγ−Feから選ばれる少なくとも1種の酸化鉄系化合物(以下、他の酸化鉄系化合物と称することがある)が挙げられる。
【0076】
磁性層におけるα−Fe、β−Fe及びγ−Feからなる群より選択される少なくとも1種の酸化鉄系化合物の含有量は、磁性層における磁性材料の総量100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0077】
(結合剤)
磁性層は、結合剤を含む。
磁性層において、結合剤は、バインダーとして機能し得る。結合剤としては、各種樹脂が挙げられる。結合剤に用いられる樹脂は、目的とする強度、耐久性等の物性を満たす層を形成できれば、特に制限されない。
【0078】
結合剤に用いられる樹脂は、単独重合体(所謂、ホモポリマー)であってもよいし、共重合体(所謂、コポリマー)であってもよい。また、樹脂は、公知の電子線硬化型樹脂であってよい。
結合剤に用いられる樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、結合剤に用いられる樹脂としては、ポリウレタン、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、及び塩化ビニル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0079】
結合剤に用いられる樹脂は、例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の分散性をより向上させる観点から、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の表面に吸着する官能基(例えば、極性基)を分子内に有することが好ましい。
好ましい官能基としては、−SOM、−SOM、−PO(OM)、−OPO(OM)、−COOM、=NSOM、−NRSOM、−NR、−N等が挙げられる。
ここで、Mは、水素原子又はNa、K等のアルカリ金属原子を表す。Rは、アルキレン基を表し、R、R、及びRは、各々独立に、水素原子、アルキル基、又はヒドロキシアルキル基を表す。Xは、Cl、Br等のハロゲン原子を表す。
結合剤に用いられる樹脂が上記官能基を有する場合、樹脂中の官能基の含有量は、0.01meq/g〜2.0meq/gであることが好ましく、0.3meq/g〜1.2meq/gであることがより好ましい。
樹脂中の官能基の含有量が上記範囲内にあると、磁性層におけるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の分散性がより良好となり、磁性密度がより向上し得る。
【0080】
結合剤に用いられる樹脂としては、−SONa基を有するポリウレタンがより好ましい。ポリウレタンが−SONa基を有する場合、−SONa基は、ポリウレタンに対して、0.01meq/g〜1.0meq/gの範囲の量で含まれることが好ましい。
【0081】
結合剤に用いられる樹脂の分子量は、重量平均分子量として、例えば、10,000〜200,000とすることができる。
本開示における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。測定条件としては、下記条件を挙げることができる。
【0082】
−条件−
GPC装置:HLC−8120(東ソー(株))
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー(株)、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:0.5質量%
サンプル注入量:10μl
流速:0.6ml/min
測定温度:40℃
検出器:RI検出器
【0083】
磁性層は、結合剤を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
磁性層中における結合剤の含有量としては、特に制限はなく、例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子100質量部に対して、1質量部〜30質量部であることが好ましく、2質量部〜20質量部であることがより好ましい。
磁性層中における結合剤の含有量が、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子100質量部に対して、上記の範囲内であると、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の分散性がより良好となり、磁性密度がより向上し得る。
【0084】
(他の添加剤)
磁性層は、既述のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子及び結合剤以外に、本開示の効果を損なわない範囲において、必要に応じて、種々の添加剤(即ち、他の添加剤)を含んでいてもよい。
他の添加剤としては、潤滑剤、研磨剤、非磁性フィラー、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等が挙げられる。
他の添加剤は、1つの成分が2つ以上の機能を担うものであってもよい。
【0085】
(潤滑剤)
磁性層は、潤滑剤を含むことが好ましい。
潤滑剤は、例えば、磁気記録媒体の走行耐久性の向上に寄与し得る。
【0086】
潤滑剤としては、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤等を用いることができる。
炭化水素系潤滑剤としては、脂肪酸(例えばオレイン酸、ステアリン酸等)のカルボン酸系化合物;脂肪酸エステル(例えばステアリン酸ブチル等)のエステル系化合物;オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸系化合物;リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル系化合物;ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール系化合物;脂肪酸アミド(例えばステアリン酸アミド等)のカルボン酸アミド系化合物;ステアリルアミン等のアミン系化合物;などが挙げられる。炭化水素系潤滑剤としては、摩擦力を低減する効果の観点から、アルキル基の炭化水素鎖中に、水酸基、エステル基、カルボキシ基等の極性基を有する化合物が好ましい。
フッ素系潤滑剤としては、既述の炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部又は全部が、フルオロアルキル基又はパーフルオロポリエーテル基で置換された化合物が挙げられる。
また、潤滑剤として市販品を用いることもできる。
上記のうち、潤滑剤としては、磁性層の耐久性向上及びヘッド摩耗の抑制の観点から、脂肪酸、脂肪酸エステル、及び脂肪酸アミドからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。
【0087】
磁性層は、潤滑剤を含む場合、潤滑剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
磁性層が潤滑剤を含む場合、磁性層中における潤滑剤の含有量としては、特に制限はなく、例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部であることが好ましく、0.5質量部〜15質量部であることがより好ましい。
なお、磁性層に含有される潤滑剤の量が多くなるほど、水接触角が大きくなる傾向にある。
【0088】
(研磨剤)
磁性層は、研磨剤を含むことができる。
磁性層において、研磨剤は、磁気記録媒体の走行中に生じ得る磨耗、傷付き等のテープダメージの低減、及び磁気記録媒体の使用中に磁気ヘッドに付着する付着物(所謂、デブリ)の除去に寄与し得る。
研磨剤としては、α−アルミナ、β−アルミナ、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、コランダム、人造ダイヤモンド、窒化ケイ素、炭化ケイ素チタンカーバイド、酸化チタン、二酸化ケイ素、窒化ホウ素等、主としてモース硬度6以上の公知の材料の粒子が挙げられる。
研磨剤としては、既述の研磨剤同士の複合体(例えば、研磨剤を他の研磨剤で表面処理したもの)を用いてもよい。このような研磨剤には、主成分以外の化合物又は元素が含まれる場合もあるが、主成分が90質量%以上であれば、研磨剤としての効果に変わりはない。
【0089】
研磨剤の形状としては、特に制限はなく、例えば、針状、球状、立方体状、直方体状等の粒子形状が挙げられる。
これらの中でも、研磨剤の形状としては、例えば、研磨性がより良好になるとの観点から、針状、立方体状等、粒子の一部に角を有するものが好ましい。
【0090】
研磨剤の粒子の平均円相当径としては、特に制限はなく、例えば、研磨剤の研磨性をより適切に維持する観点から、0.01μm〜2.0μmであることが好ましく、0.05μm〜1.0μmであることがより好ましく、0.05μm〜0.5μmであることが更に好ましい。
粒径の異なる複数種の研磨剤を組み合わせることで、磁性層の耐久性を向上させることができる。また、研磨剤の粒子の粒度分布を狭くすることで、磁気記録媒体の電磁変換特性を高めることもできる。
【0091】
本開示において、研磨剤の粒子の平均円相当径は、既述のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の平均円相当径と同様の方法により測定することができる。また、研磨剤の粒子は、既述の磁性層からイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を取り出す方法と同様の方法により、磁性層から取り出すことができる。
【0092】
研磨剤のBET比表面積は、1m/g〜30m/gであることが好ましい。
研磨剤のタップ密度は、0.3g/ml〜2g/mlであることが好ましい。
【0093】
研磨剤としては、市販品を用いることができる。
市販品の例としては、住友化学(株)のAKP−12、AKP−15、AKP−20、AKP−30、AKP−50、HIT20、HIT−30、HIT−55、HIT60A、HIT70、HIT80、HIT100、レイノルズ社のERC−DBM、HP−DBM、HPS−DBM、(株)フジミインコーポレーテッドのWA10000、上村工業(株)のUB20、日本化学工業(株)のG−5、クロメックスU2、クロメックスU1、戸田工業(株)のTF100、TF140、イビデン社のベータランダムウルトラファイン、昭和KDE(株)のB−3等(以上、いずれも商品名)が挙げられる。
【0094】
磁性層は、研磨剤を含む場合、研磨剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
磁性層が研磨剤を含む場合、磁性層中における研磨剤の含有量としては、特に制限はなく、例えば、より良好なSNR及び磁性層の良好な耐擦傷性の両立の観点から、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子100質量部に対して、0.1質量部〜20質量部であることが好ましく、0.5質量部〜15質量部であることがより好ましい。
【0095】
(非磁性フィラー)
磁性層は、非磁性フィラーを含むことができる。
非磁性フィラーは、磁性層の膜強度、表面粗さ等の物性の調整に寄与し得る。
本開示において、「非磁性フィラー」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たすフィラーを意味する。
【0096】
非磁性フィラーとしては、カーボンブラック、無機粒子等が挙げられる。
例えば、分散安定性及び磁性層中への均一配置の観点からは、非磁性フィラーとしては、コロイド粒子が好ましい。また、例えば、入手容易性の観点からは、非磁性フィラーとしては、カーボンブラック及び無機コロイド粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、カーボンブラック及び無機酸化物コロイド粒子からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
無機酸化物コロイド粒子としては、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ、二酸化ケイ素、炭化ケイ素、酸化クロム、酸化セリウム、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化ケイ素、チタンカーバイト、二酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二硫化モリブデン等の無機酸化物のコロイド粒子の他、SiO/Al、SiO/B、TiO/CeO、SnO/Sb、SiO/Al/TiO、TiO/CeO/SiO等の複合無機酸化物のコロイド粒子が挙げられる。
無機酸化物コロイド粒子としては、単分散のコロイド粒子の入手容易性の観点から、シリカコロイド粒子(コロイダルシリカ)が特に好ましい。
【0097】
非磁性フィラーの平均粒子径としては、特に制限はなく、例えば、記録エラーの低減及び磁気ヘッドのスペーシング確保の観点から、30nm〜300nmであることが好ましく、40nm〜250nmであることがより好ましく、50nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0098】
本開示において、非磁性フィラーの平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定される値である。また、非磁性フィラーは、既述の磁性層からイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を取り出す方法と同様の方法により、磁性層から取り出すことができる。
【0099】
磁性層は、非磁性フィラーを含む場合、非磁性フィラーを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
非磁性フィラーとしては、市販品を用いることができる。
【0100】
磁性層が非磁性フィラーを含む場合、磁性層中における非磁性フィラーの含有量としては、特に制限はなく、例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子100質量部に対して、0.01質量部〜10質量部であることが好ましい。
【0101】
(分散剤)
磁性層は、分散剤を含むことができる。
磁性層において、分散剤は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の分散性を向上させ、粒子の凝集防止に寄与し得る。また、分散剤は、研磨剤の分散性の向上にも寄与し得る。
【0102】
分散剤としては、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の表面に吸着する官能基を有する有機化合物が好ましい。
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の表面に吸着する官能基を有する有機化合物としては、アミノ基、カルボキシ基、スルホン酸基、又はスルフィン酸基を1個〜3個有する化合物が挙げられ、これらのポリマーであってもよい。
【0103】
好ましい分散剤としては、R−NH、NH−R−NH、NH−R(NH)−NH、R−COOH、COOH−R−COOH、COOH−R(COOH)−COOH、R−SOH、SOH−R−SOH、SOH−R(SOH)−SOH、R−SOH、SOH−R−SOH、SOH−R(SOH)−SOHの構造式で表される化合物が挙げられる。
構造式中のRは、直鎖、分岐若しくは環状の飽和又は不飽和の炭化水素であり、例えば炭素数1個〜20個のアルキル基であることが好ましい。
【0104】
好ましい分散剤の具体例としては、2,3−ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。中でも、分散剤としては、分散性の観点から、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。また、分散剤として、市販品を用いることもできる。
【0105】
磁性層は、分散剤を含む場合、分散剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
磁性層が分散剤を含む場合、磁性層中における分散剤の含有量は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子(研磨剤を含む場合は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子及び研磨剤の合計)100質量部に対して、0.1質量部〜30質量部であることが好ましい。
磁性層中における分散剤の含有量が、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子(研磨剤を含む場合は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子及び研磨剤の合計)100質量部に対して、上記の範囲内であると、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子(研磨剤を含む場合は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子及び研磨剤)の分散性がより良好となり、耐擦傷性がより向上し得る。
【0106】
−磁性層の厚み−
磁性層の厚みは、特に制限はなく、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量、ヘッドギャップ長、記録信号の帯域等に応じて、適宜選択される。
磁性層の厚みとしては、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜120nmであることがより好ましく、30nm〜100nmであることが更に好ましい。
磁性層の厚みが10nm以上であると、記録密度をより向上させることができる。
磁性層の厚みが150nm以下であると、ノイズがより少なくなり、電磁変換特性がより良好となる。
【0107】
本開示の磁気記録媒体は、磁性層を少なくとも一層有していればよく、例えば、異なる磁気特性を有する磁性層を二層有していてもよく、公知の重層磁性層に関する構成を適用することができる。なお、磁性層が重層磁性層である場合、既述の磁性層の厚みは、複数の磁性層の合計厚みをいう。
【0108】
以下、磁気記録媒体における任意の層である非磁性層及びバックコート層について説明する。
【0109】
<非磁性層>
非磁性層は、磁性層の薄層化等に寄与する層である。
非磁性層は、フィラーとしての非磁性粒子及び膜形成成分である結合剤を含む層であることが好ましく、目的に応じて、更に添加剤を含んでいてもよい。
【0110】
非磁性層は、非磁性支持体と磁性層との間に設けることができる。
非磁性層には、磁性を有しない層、及び、不純物として又は意図的に少量の強磁性体(例えば、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子)を含む実質的に非磁性な層が包含される。本開示において、「非磁性層」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たす層を意味する。
【0111】
(非磁性粒子)
非磁性層は、非磁性粒子を含むことが好ましい。
非磁性層において、非磁性粒子は、フィラーとして機能し得る。
本開示において、「非磁性粒子」とは、残留磁束密度が10mT以下であること、及び、保磁力が7.98kA/m(100Oe)以下であること、の少なくとも一方を満たす粒子を意味する。
【0112】
非磁性粒子は、無機粒子であってもよいし、有機粒子であってもよい。非磁性粒子としては、カーボンブラックを用いることもできる。
無機粒子としては、例えば、金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等の粒子が挙げられる。
非磁性粒子の具体例としては、二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO、SiO、Cr、α化率90%以上のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化ケイ素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO、CaCO、BaCO、SrCO、BaSO、炭化ケイ素、炭化チタンなどが挙げられる。
これらの中でも、非磁性粒子としては、α−酸化鉄が好ましい。
【0113】
非磁性粒子の形状は、特に制限はなく、針状、球状、多面体状、及び板状のいずれでもあってもよい。
非磁性粒子の平均粒子径は、5nm〜500nmであることが好ましく、10nm〜200nmであることがより好ましい。
非磁性粒子の平均粒子径が、上記範囲内であると、分散性がより良好となり、かつ、非磁性層をより好適な表面粗さに調整することができる。
平均粒子径の異なる非磁性粒子を組み合わせたり、又は、非磁性粒子の粒径分布を調整したりすることにより、非磁性粒子の分散性及び非磁性層表面粗さを好適に調整することができる。
非磁性粒子の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定される値である。
非磁性粒子のBET比表面積は、50m/g〜150m/gであることが好ましい。
【0114】
非磁性層は、非磁性粒子を含む場合、非磁性粒子を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
非磁性粒子は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。
【0115】
非磁性層が非磁性粒子を含む場合、非磁性層中における非磁性粒子の含有率は、非磁性層の固形分量に対して、50質量%〜90質量%であることが好ましく、60質量%〜90質量%であることが好ましい。
【0116】
(結合剤)
非磁性層は、結合剤を含むことが好ましい。
非磁性層における結合剤は、磁性層の項において説明した結合剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0117】
(他の添加剤)
非磁性層は、既述の非磁性粒子及び結合剤以外に、必要に応じて、種々の添加剤(即ち、他の添加剤)を含んでいてもよい。
非磁性層における他の添加剤は、磁性層の項において説明した他の添加剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0118】
−非磁性層の厚み−
非磁性層の厚みは、特に制限はない。
磁性層の厚みとしては、0.05μm〜3.0μmであることが好ましく、0.05μm〜2.0μmであることがより好ましく、0.05μm〜1.5μmであることが更に好ましい。
【0119】
<バックコート層>
バックコート層は、磁気記録媒体とした際の走行安定性等に寄与する層である。
バックコート層は、フィラーとしての非磁性粒子及び膜形成成分である結合剤を含む層であることが好ましく、目的に応じて、更に添加剤を含んでいてもよい。
バックコート層は、非磁性支持体の磁性層側とは反対側の表面に設けることができる。
【0120】
(結合剤)
バックコート層は、結合剤を含むことが好ましい。
バックコート層における結合剤は、磁性層の項において説明した結合剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0121】
(他の添加剤)
バックコート層は、既述の非磁性粒子及び結合剤以外に、必要に応じて、種々の添加剤(即ち、他の添加剤)を含んでいてもよい。
バックコート層における他の添加剤は、磁性層の項において説明した他の添加剤と同義であり、好ましい態様も同義であるため、ここでは説明を省略する。
【0122】
−バックコート層の厚み−
バックコート層の厚みは、特に制限はない。
バックコート層の厚みとしては、0.9μm以下であることが好ましく、0.1μm〜0.7μmであることがより好ましい。
【0123】
[イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法]
本開示のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法は、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液にアルカリ剤を添加する工程(以下、工程(I)ともいう)と、アルカリ剤を添加した後に加水分解性基を有するシラン化合物を添加し、前駆体粒子分散液を得る工程(以下、工程(II)ともいう)と、前駆体粒子分散液から前駆体粒子を取り出す工程(以下、工程(III)ともいう)と、前駆体粒子を800℃〜1400℃の温度範囲内で熱処理して熱処理粒子を得る工程(以下、工程(IV)ともいう)と、熱処理粒子をアルカリ水溶液に添加し、液温75℃以上で処理する工程(以下、工程(V)ともいう)と、を含む。
【0124】
本開示のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法は、目的に応じて、更に他の工程を含んでいてもよい。
好ましい他の工程としては、工程(I)と工程(II)の間に含み得る、下記の工程(I−1)〜(I−2)等が挙げられる。
工程(I−1):工程(I)のアルカリ剤を添加した後に、多価カルボン酸水溶液を添加し、生成した固形成分を取り出す工程
工程(II−2):取り出した固形成分を水に再分散する工程
【0125】
また、他の工程として、工程(V)の後に含み得る下記の工程(V−1)等を挙げることができる。
工程(V−1):得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を洗浄し、乾燥する工程
【0126】
〔工程(I)〕
工程(I)では、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液にアルカリ剤を添加する。
3価の鉄イオンを含む化合物としては、特に制限はなく、例えば、入手容易性及びコストの観点から、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の水溶性の無機酸塩が好ましい。具体的には、硝酸鉄(III)9水和物、塩化鉄(III)6水和物等が挙げられる。
【0127】
3価の鉄イオンを含む化合物の水溶液には、磁性粒子に含ませる鉄以外の金属元素を含有させることができる。
鉄以外の金属元素としては、例えば、既述の式(1)におけるAで表される金属元素が挙げられる。具体的には、Ga、Al、In、Rh、Co、Ni、Mn、Zn、Ti、及びSnが挙げられる。鉄以外の金属元素の添加、及びその含有量を変えることにより、得られる酸化鉄系化合物の相を変えることができる。
【0128】
鉄以外の金属元素の供給源としては、特に制限はなく、例えば、入手容易性及びコストの観点から、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等の水溶性の無機酸塩が好ましい。具体的には、例えば、硝酸ガリウム(III)8水和物、硝酸コバルト(II)6水和物、硫酸チタン(IV)、硝酸アルミニウム(III)9水和物、硝酸インジウム(III)3水和物、硝酸ロジウム(III)、塩化コバルト(II)6水和物、硝酸マンガン(II)6水和物、塩化マンガン(II)4水和物、硝酸ニッケル(II)6水和物、塩化ニッケル(II)6水和物、硝酸亜鉛(II)6水和物、塩化亜鉛(II)、塩化スズ(IV)5水和物等が挙げられる。
【0129】
分散媒として用いる水は、純水、イオン交換水等であることが好ましい。
【0130】
さらに、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液には、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物を含有させてもよい。これらの化合物を含有させることで、次の工程(II)で得られる前駆体の粒子の粒子径が、より均一化する傾向にある。
【0131】
まず、3価の鉄イオンを含む化合物、並びに、必要に応じて含有させる鉄以外の金属元素を含む化合物、ポリビニルピロリドン(PVP)及び臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムから選ばれる少なくとも1種の化合物等を水に添加し、撹拌して水溶液を調製する。撹拌は、公知の方法を適用でき、例えば、マグネチックスターラーを用いた撹拌等を挙げることができる。
【0132】
次に、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液の撹拌を継続しながら、アルカリ剤を添加する。アルカリ剤を添加することで、水酸化物ゾルが生成する。
アルカリ剤としては、例えば、アンモニア水溶液、アンモニウム塩化合物の水溶液、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液等が挙げられる。
アンモニア水溶液及びアンモニウム塩化合物の水溶液の濃度は、例えば、20質量%〜30質量%とすることができる。水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液及び水酸化カリウム(KOH)水溶液の濃度は、例えば、0.1質量%〜1.0質量%とすることができる。
【0133】
アルカリ剤を添加する雰囲気は特に制限されず、大気雰囲気下、即ち、常温常圧下、空気の存在下で行なってもよい。
アルカリ剤を添加する際、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液の液温は、5℃〜80℃とすることが好ましい。
【0134】
〔工程(I−1)〜(I−2)〕
工程(I−1)では、工程(I)においてアルカリ剤を添加した後に多価カルボン酸を添加する。
多価カルボン酸を添加すると、固形成分が生成する。生成した固形成分は、固液分離して取り出す。そして、工程(I−2)において、取り出した固形成分を水に再分散する。この工程を経ることで、後の工程(II)〜(IV)で得られる前駆体において、非晶質成分の含有量が少なくなる傾向にある。そして、更にその後の工程(V)における熱処理の際に、非晶質分の存在に起因する、所望されない微細な粒子の生成が抑制される。
前駆体中の非晶質成分の含有量を更に少なくする観点から、工程(I−1)において取り出した固形成分は、純水で洗浄し、乾燥してから、水に再分散することが好ましい。
【0135】
多価カルボン酸としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、固形成分の粒子の粒子径がより均一化するという観点から、クエン酸であることが好ましい。
【0136】
多価カルボン酸の使用量は、3価のFeイオン1モルに対して、0.2モル〜5.0モルの範囲であることが好ましく、0.5モル〜2.5モルの範囲であることがより好ましい。
【0137】
多価カルボン酸を添加した後、攪拌することが好ましい。攪拌時間は、例えば、10分間〜2時間であってよい。撹拌後に固形成分が沈殿する。この沈殿した固形成分を取り出す。
固形成分を取り出す方法は、特に制限されず、例えば、操作の簡便性の観点から、遠心分離する方法が好ましく挙げられる。
【0138】
取り出した固形成分は、次の工程(I−2)の前に、水等で洗浄し、乾燥してもよい。乾燥温度は特に制限されず、例えば、60℃〜100℃としてもよい。
【0139】
工程(I−2)では、工程(I−1)で取り出した固形成分を水に再分散する。水は、純水、イオン交換水等であることが好ましい。
工程(I)の後、工程(I−1)〜(I−2)を経て、工程(II)を行う場合には、固形成分を水に再分散した液に、上述のアルカリ剤を添加する。
【0140】
〔工程(II)〕
工程(II)では、工程(I)においてアルカリ剤を添加した後に加水分解性基を有するシラン化合物を添加し、前駆体粒子分散液を得る。
【0141】
加水分解性基を有するシラン化合物としては、テトラエトキシシラン(TEOS:Tetraethyl Orthosilicate)、テトラメトキシシラン等が挙げられ、TEOSが好ましい。
加水分解性基を有するシラン化合物の使用量は、Fe1モルに対して、Siが0.5モル〜30モルの範囲となる量であることが好ましく、2モル〜15モルの範囲となる量であることがより好ましい。
【0142】
加水分解性基を有するシラン化合物を添加した後、攪拌することが好ましい。攪拌時間は特に制限されず、例えば、1時間〜24時間としてもよい。
攪拌の際の液温は、15℃〜80℃の範囲とすることができ、30℃〜80℃に昇温してもよい。
【0143】
加水分解性基を有するシラン化合物を添加した後、凝集剤を添加してもよい。
凝集剤としては、価数が2価以上の塩であることが好ましい。また、凝集剤は、水に対する溶解度が高いことが好ましい。ここで、「水に対する溶解度が高い」とは、25℃の水に添加した際に、5質量%以上溶解することを指す。
凝集剤として、具体的には、硫酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0144】
凝集剤を添加する際の液温は、例えば、15℃〜80℃としてもよい。また、凝集剤は、水溶液を攪拌しながら、添加することが好ましい。
【0145】
〔工程(III)〕
工程(III)では、工程(II)で得られた前駆体粒子分散液から前駆体粒子を取り出す。
前駆体粒子を取り出す方法は、特に制限されず、例えば、操作の簡便性の観点から、遠心分離する方法が好ましく挙げられる。遠心分離の条件は特に制限されず、例えば、1000rpm(revolutions per minute;以下、同じ。)〜10000rpmにて1分間〜60分間としてもよい。
【0146】
取り出した前駆体粒子は、乾燥してもよい。乾燥方法は特に制限されず、乾燥機(例えば、オーブン)を用いる方法が挙げられる。
前駆体粒子は、TEOSの加水分解によって生成したSi含有被膜が形成された粒子である。
【0147】
〔工程(IV)〕
工程(IV)では、工程(III)で得られた前駆体粒子を800℃〜1400℃の温度範囲内で熱処理して、熱処理粒子を得る。熱処理を施すことで、前駆体粒子が磁性を帯びる。
熱処理における雰囲気は、特に制限されず、常圧下で行ってもよく、空気の存在する環境で行なってもよい。
熱処理時間は特に制限されず、例えば、1時間〜8時間としてもよい。
【0148】
〔工程(V)〕
工程(V)では、工程(IV)で得られた熱処理粒子をアルカリ水溶液に添加し、液温75℃以上で処理する。アルカリ水溶液中において、75℃以上の温度域で処理することによって、表面が既述の1−ブロモナフタレン接触角及び水接触角を有する磁性層を形成し得るイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子が得られる。また、工程(V)において、熱処理粒子に残存するSi含有被膜を除去することができる。
なお、本工程では、表面が既述の1−ブロモナフタレン接触角及び水接触角を有する磁性層を形成し得るイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を得るための処理を行い、本工程とは別に、さらに残存Si含有被膜を除去する工程を設けてもよい。
【0149】
アルカリ水溶液としては、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属の水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属のハロゲン化物などが挙げられる。中でも、強アルカリ水溶液が好ましく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等を好適に用いることができる。
アルカリ水溶液の溶媒である水は、純水、イオン交換水等であることが好ましい。
【0150】
アルカリ水溶液の液温は、75℃以上であり、80℃以上であることが好ましい。なお、アルカリ水溶液の液温は、85℃以上であってもよく、90℃以上であってもよい。溶媒が水であることから、アルカリ水溶液の液温は、100℃未満であることが好ましい。
アルカリ水溶液の液温を75℃以上とすることで、得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いて形成した磁性層の1−ブロモナフタレン接触角を30.0°以上にすることができる。アルカリ水溶液の液温を高くするほど、1−ブロモナフタレン接触角が高くなる傾向にある。
【0151】
アルカリ水溶液の濃度は、8モル/L以上であることが好ましく、10モル/L以上であることがより好ましく、12モル/L以上であることが更に好ましい。また、アルカリ水溶液の濃度の上限については、16モル/L以下が好ましく、13モル/L以下がより好ましい。
アルカリ水溶液の濃度を高くするほど、1−ブロモナフタレン接触角が高くなる傾向にある。
【0152】
熱処理粒子が添加されたアルカリ水溶液は、液温を75℃以上に維持しながら、攪拌することが好ましい。攪拌時間は、15時間以上とすることができ、20時間以上であってもよい。
攪拌時間を長くするほど、1−ブロモナフタレン接触角が高くなる傾向にある。
【0153】
1−ブロモナフタレン接触角を30.0°以上45.0°未満とし、かつ、水接触角を80.0°以上95.0°以下とするには、アルカリ水溶液の液温、濃度及び攪拌時間の少なくとも1つを調節することが好ましい。
【0154】
〔工程(V−1)〜(V−2)〕
工程(V)で得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子は、洗浄し、乾燥してもよい。
洗浄には、水を用いてもよく、水溶性高分子を含有する水溶液を用いてもよい。水溶性高分子を含有する水溶液を用いると、水溶液中のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の分散性が向上する傾向にある。また、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の表面が水溶性高分子で処理されることで、その後の固液分離によって、所望されない微細粒子を効率よく除去できる傾向にある。
【0155】
洗浄に用いる水、及び水溶性高分子を含有する水溶液の溶媒である水は、純水、イオン交換水等であることが好ましい。
水溶性高分子としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシメチルセルロース(HEC)、ポリビニルピロリドン(PVP)等が挙げられる。
【0156】
固液分離の方法としては、簡易性の観点から、遠心分離する方法が好ましい。遠心分離の条件は特に制限されず、例えば、1000rpm〜10000rpmにて1分間〜60分間とすることができる。
【0157】
洗浄したイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の乾燥方法は特に制限されず、例えば、内部雰囲気温度60℃〜110℃の乾燥機(例えば、オーブン)を用いる方法が挙げられる。
【0158】
[磁気記録媒体の製造方法]
本開示の磁気記録媒体の製造方法は、既述の本開示のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いて磁性層形成用組成物を調製する工程(以下、「工程A」ともいう。)と、非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を付与して磁性層形成用組成物層を形成する工程(以下、「工程B」ともいう。)と、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程(以下、「工程C」ともいう。)と、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成する工程(以下、「工程D」ともいう。)と、を含む。
【0159】
本開示の製造方法は、必要に応じて、更に、磁性層を有する非磁性支持体をカレンダー処理する工程(以下、「工程E」ともいう。)、非磁性層、バックコート層等の任意の層を形成する工程(以下、「工程F」ともいう。)などを含むことができる。
個々の工程は、それぞれ2段階以上に分かれていてもよい。
以下、本開示の製造方法における各工程について詳細に説明する。
【0160】
〔工程A〕
工程Aでは、本開示のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法により得られたイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いて磁性層形成用組成物を調製する。本開示のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法によりイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を得ることの詳細については、既述の通りであり、ここでは詳細な説明を省略する。
工程Aは、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子、結合剤、必要に応じて添加剤(既述の他の添加剤等)、及び溶媒を混合する工程(以下、「工程A1」ともいう。)と、工程A1で得られた混合液を分散する工程(以下、「工程A2」ともいう。)を含むことができる。
【0161】
イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子、結合剤等の全ての原料は、工程A中のいずれの時点で混合してもよい。
個々の原料は、一括して混合してもよいし、2回以上に分割して混合してもよい。
例えば、結合剤は、工程A2にて他の原料と混合した後、分散後の粘度調整のために更に添加して混合することができる。
【0162】
磁性層形成用組成物の原料の分散には、バッチ式縦型サンドミル、横型ビーズミル等の公知の分散装置を用いることができる。
分散ビーズとしては、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズ等を用いることができる。分散ビーズの粒径(所謂、ビーズ径)及び充填率は、適宜最適化して用いることができる。
磁性層形成用組成物の原料の分散には、例えば、公知の超音波装置を用いることもできる。
また、工程A2の前に、磁性層形成用組成物の原料の少なくとも一部を、例えば、オープンニーダを用いて混練してもよい。
【0163】
磁性層形成用組成物の原料は、それぞれの原料ごとに溶液を調製した後に、混合してもよい。例えば、原料として研磨剤を用いる場合には、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含む磁性液と、研磨剤を含む研磨剤液と、をそれぞれ調製した後に、混合して分散することができる。
【0164】
(磁性層形成用組成物)
磁性層形成用組成物を調製するための「イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子」、「結合剤」、及び「他の添加剤」は、「磁性層」の項で説明した「イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子」、「結合剤」、及び「他の添加剤」と同義であり、好ましい態様も同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0165】
磁性層形成用組成物中におけるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の含有率は、磁性層形成用組成物の全質量に対して、5質量%〜30質量%であることが好ましく、8質量%〜20質量%であることがより好ましい。
磁性層形成用組成物中における結合剤の含有量は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子100質量部に対して、1質量部〜30質量部であることが好ましく、2質量部〜20質量部であることがより好ましい。
【0166】
−硬化剤−
磁性層形成用組成物は、硬化剤を含むことができる。
硬化剤は、膜強度の向上に寄与し得る。硬化剤によれば、磁性層を形成する既述の結合剤との間で架橋構造を形成することで、磁性層の膜強度を向上させることができる。
【0167】
硬化剤としては、イソシアネート系化合物が好ましい。
イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、o−トルイジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート等が挙げられる。
また、イソシアネート系化合物としては、既述のイソシアネート系化合物とポリアルコールとの反応生成物、既述のイソシアネート系化合物の縮合生成物等のポリイソシアネートを用いることもできる。
【0168】
硬化剤としては、市販品を用いることができる。
硬化剤であるイソシアネート系化合物の市販品の例としては、東ソー(株)のコロネート(登録商標)L、コロネート(登録商標)HL、コロネート(登録商標)2030、コロネート(登録商標)2031、コロネート(登録商標)3041、ミリオネート(登録商標)MR、ミリオネート(登録商標)MTL、三井化学(株)のタケネート(登録商標)D−102、タケネート(登録商標)D−110N、タケネート(登録商標)D−200、タケネート(登録商標)D−202、コベストロ社のデスモジュール(登録商標)L、デスモジュール(登録商標)IL、デスモジュール(登録商標)N、デスモジュール(登録商標)HL等(以上、いずれも商品名)が挙げられる。
【0169】
磁性層形成用組成物は、硬化剤を含む場合、硬化剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。
磁性層形成用組成物が硬化剤を含む場合、磁性層形成用組成物中における硬化剤の含有量は、結合剤100質量部に対して、例えば、0質量部を超えて80質量部以下とすることができ、磁性層等の各層の強度向上の観点からは、好ましくは、50質量部〜80質量部とすることができる。
【0170】
−溶媒−
溶媒は、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子、結合剤、並びに必要に応じて用いられる添加剤(他の添加剤及び硬化剤)の分散媒として寄与し得る。
溶媒は、1種のみであってよく、又は2種以上の混合溶媒であってもよい。
溶媒としては、有機溶媒が好ましい。
有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン等のケトン系化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール等のアルコール系化合物、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコール等のエステル系化合物、グリコールジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン等のグリコールエーテル系化合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン等の芳香族炭化水素系化合物、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン等の塩素化炭化水素系化合物、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサンなどを用いることができる。
中でも、有機溶媒としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びこれらを任意の割合で含む混合溶媒が好ましい。
【0171】
例えば、分散性を向上させる観点からは、溶媒としては、ある程度極性が高い溶媒が好ましく、磁性層形成用組成物中に、誘電率が15以上の溶媒が、溶媒の全質量に対して、50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶媒の溶解パラメータは8〜11であることが好ましい。
【0172】
〔工程B〕
本開示の製造方法は、工程Aの後に、非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を付与して磁性層形成用組成物層を形成する工程(即ち、工程B)を含む。
工程Bは、例えば、走行下にある非磁性支持体上に磁性層形成用組成物を予め定めた膜厚となるように塗布することにより行うことができる。
磁性層の好ましい厚みは、「磁性層」の項に記載したとおりである。
【0173】
磁性層形成用組成物を塗布する方法としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等の公知の方法が挙げられる。
塗布の方法については、例えば、(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参照することができる。
【0174】
〔工程C〕
本開示の製造方法は、工程Bの後に、形成された磁性層形成用組成物層を磁場配向処理する工程(即ち、工程C)を含む。
【0175】
形成された磁性層形成用組成物層は、非磁性支持体が磁気テープ等のフィルム状である場合、コバルト磁石、ソレノイド等を用いて、磁性層形成用組成物に含まれるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子に対して磁場配向処理することができる。
非磁性支持体がハードディスクである場合には、形成された磁性層形成用組成物層は、配向装置を用いずに無配向でも等方的な配向性が得られることもあるが、公知のランダム配向装置を用い、コバルト磁石を斜めに交互に配置する方法又はソレノイドで交流磁場を印加する方法等により、磁場配向処理されてもよい。
また、異極対向磁石を用いる方法等の公知の方法を用いて垂直配向とすることで、円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は、垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
磁場配向処理は、形成された磁性層形成用組成物層が乾燥する前に行うことが好ましい。
【0176】
磁場配向処理は、磁場強度0.1T〜1.0Tの磁場を、塗布した磁性層形成用組成物面に対して垂直方向に印加する垂直配向処理によって行うことができる。
【0177】
〔工程D〕
本開示の製造方法は、工程Cの後に、磁場配向処理された磁性層形成用組成物層を乾燥して磁性層を形成する工程(即ち、工程D)を含む。
【0178】
磁性層形成用組成物層の乾燥は、乾燥風の温度、風量、及び塗布速度により制御することができる。
例えば、塗布速度は20m/分〜1000m/分であることが好ましく、乾燥風の温度は60℃以上であることが好ましい。また、磁場を印加する前に、磁性層形成用組成物層を適度に予備乾燥することができる。
【0179】
〔工程E〕
本開示の製造方法は、工程A、工程B、工程C、及び工程Dを経た後に、磁性層を有する非磁性支持体をカレンダー処理する工程(即ち、工程E)を含むことが好ましい。
【0180】
磁性層を有する非磁性支持体は、巻き取りロールで一旦巻き取られた後、この巻き取りロールから巻き出されて、カレンダー処理に供することができる。
カレンダー処理によれば、表面平滑性が向上し、かつ、乾燥の際の溶媒の除去によって生じた空孔が消滅して、磁性層中のイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の充填率が向上するので、電磁変換特性(例えば、SNR)の高い磁気記録媒体を得ることができる。
工程Eは、磁性層表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。
【0181】
カレンダー処理には、例えば、スーパーカレンダーロールを用いることができる。
カレンダーロールとしては、エポキシ系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂等の樹脂で形成された耐熱性プラスチックロールを用いることができる。また、金属ロールを用いて処理することもできる。
【0182】
カレンダー処理の条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば、60℃〜120℃の範囲、好ましくは80℃〜100℃の範囲とすることができ、圧力を、例えば、100kg/cm〜500kg/cm(98kN/m〜490kN/m)の範囲、好ましくは200kg/cm〜450kg/cm(196kN/m〜441kN/m)の範囲とすることができる。
【0183】
〔工程F〕
本開示の製造方法は、必要に応じて、非磁性層、バックコート層等の任意の層を形成する工程(即ち、工程F)を含むことができる。
非磁性層及びバックコート層は、それぞれの層を形成するための組成物を調製した後、磁性層における工程B及び工程Dと同様の工程を経ることで形成することができる。
なお、「非磁性層」及び「バックコート層」の項に記載したように、非磁性層は、非磁性支持体と磁性層との間に設けることができ、バックコート層は、非磁性支持体の磁性層側とは反対側の表面に設けることができる。
【0184】
非磁性層の形成用組成物及びバックコート層の形成用組成物は、「非磁性層」及び「バックコート層」の項に記載した成分及び量にて、更に溶媒を含めることで、調製することができる。
【0185】
[磁気記録媒体の記録方式]
本開示の磁気記録媒体の記録方式としては、ヘリカルスキャン記録方式であってもよいし、リニア記録方式であってもよく、好ましくはリニア記録方式である。
本開示の磁気記録媒体は、SNRが良好であるため、リニア方式による記録に好適である。
本開示の磁気記録媒体の記録方式として、リニア記録方式を適用する場合には、例えば、記録のしやすさの観点から、磁性層に含まれるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子が、式(1)で表される化合物であることがより好ましい。
【0186】
本開示の磁気記録媒体は、電磁波アシスト記録に用いられることが好ましい。
本開示の磁気記録媒体では、磁性材料として、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を用いている。イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子は、保磁力が非常に高いため、スピンを反転させ難い。本開示の磁気記録媒体では、磁性層に含まれるイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子に対して電磁波を照射し、スピンを歳差運動させながら磁界によって反転させて記録する、所謂、電磁波アシスト記録を適用することで、スピンを記録の際にのみ容易に反転させて、良好な記録を実現し得る。
【実施例】
【0187】
以下、本開示の磁気記録媒体、イプシロン型酸化鉄系化合物の粒子の製造方法、及び磁気記録媒体の製造方法について、実施例を示して更に具体的に説明する。但し、本開示の磁気記録媒体等は、その主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0188】
(実施例1〜9及び比較例1〜5)
<イプシロン型酸化鉄系化合物の作製>
−磁性体1の作製−
〔工程(I)〕
純水360gに、硝酸鉄(III)9水和物33.2g、硝酸ガリウム(III)8水和物5.3g、硝酸コバルト(II)6水和物762mg、硫酸チタン(IV)599mg、及び、ポリビニルピロリドン(PVP)5.2gを添加し、マグネチックスターラーを用いて撹拌して、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液1を得た。
また、クエン酸4.0gを純水35gに溶解してクエン酸水溶液を調製した。
【0189】
大気雰囲気中、25℃の条件下で、調製した水溶液1をマグネチックスターラーで撹拌しながら、ここに25質量%のアンモニア水溶液(アルカリ剤)4.0gを添加し、25℃の温度を維持して2時間撹拌した。
【0190】
攪拌後、調製したクエン酸水溶液を加え、1時間撹拌し、生成した沈殿物を遠心分離により取り出した〔工程(I−1)〕。
取り出した沈殿物を純水で洗浄し、80℃で乾燥し、乾燥物を得た。乾燥物に純水30000gを加えて再度水に分散させて分散液を得た〔工程(I−2)〕。
【0191】
〔工程(II)〕
得られた分散液を50℃に昇温し、撹拌しながら25質量%アンモニア水溶液を1500g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した。そして、テトラエトキシシラン(TEOS)56mLを滴下し、24時間撹拌した。その後、硫酸アンモニウム100gを加え、沈殿物を含む分散液を得た。
【0192】
〔工程(III)〕
生成した沈殿物を遠心分離により取り出した。取り出した沈殿物を純水で洗浄し、80℃で24時間乾燥し、前駆体粒子を得た。
【0193】
〔工程(IV)〕
得られた前駆体粒子を、炉内に装填し、大気雰囲気下、1030℃で4時間の熱処理を施して、熱処理粒子を得た。
【0194】
〔工程(V)〕
熱処理粒子を、8モル/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を80℃に維持して24時間撹拌し、Si含有被膜を除去した。
その後、遠心分離により固液分離を行ない、得られた固体物を純水で洗浄し、乾燥し、磁性体1の粒子を得た。
【0195】
−磁性体2〜5、8〜10の作製−
磁性体1の作製において、工程(V)における水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液の濃度、液温、及び攪拌時間を、下記表1に記載した条件に変えたこと以外は、磁性体1の作製と同様の方法で、磁性体2〜5、8〜10の粒子を作製した。
なお、磁性体4の調製では、炉内での熱処理温度を1010℃とし、磁性体5の調製では、炉内での熱処理温度を1045℃とした。
【0196】
−磁性体6の作製−
純水360gに、硝酸鉄(III)9水和物33.2g、硝酸アルミニウム(III)9水和物4.9g、硝酸コバルト(II)6水和物762mg、硫酸チタン(IV)599mg、及び、ポリビニルピロリドン(PVP)5.2gを添加し、マグネチックスターラーを用いて撹拌して、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液2を得た。
磁性体1の調製において、水溶液1を水溶液2に代えたこと以外は、磁性体1の作製と同様の方法で、磁性体6の粒子を作製した。
【0197】
−磁性体7の作製−
純水360gに、硝酸鉄(III)9水和物40.7g、及び、ポリビニルピロリドン(PVP)5.2gを添加し、マグネチックスターラーを用いて撹拌して、3価の鉄イオンを含む化合物を含有する水溶液3を得た。
磁性体1の調製において、水溶液1を水溶液3に代えたこと以外は、磁性体1の作製と同様の方法で、磁性体7の粒子を作製した。
【0198】
−測定及び構造特定−
(1.磁性体1〜10の結晶構造)
磁性体1〜10の結晶構造を、X線回折(XRD)法により確認した。なお、測定は、装置として、PANalytical社のX’Pert Pro回折計を用い、以下の条件にて行った。
<測定条件>
X線源:Cu Kα線(波長1.54Å(0.154nm))、(出力:40mA、45kV)
スキャン範囲:20°<2θ<70°
スキャン間隔:0.05°
スキャンスピード:0.75°/min
【0199】
測定の結果、磁性体1〜10は、いずれもイプシロン型の結晶構造を有する単相であることを確認した。よって、磁性体1〜10には、いずれもα型、β型及びγ型の結晶構造が含まれないことが確認された。
【0200】
(2.磁性体1〜10の組成)
磁性体1〜10の組成を、高周波誘導結合プラズマ(ICP−OES)発光分光分析法により確認した。なお、装置には、(株)島津製作所の製品名:ICPS−8100を用いた。
具体的には、12mgの磁性体1及び4mol/Lの塩酸水溶液10mlを入れた容器を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持し、溶解液を得た。得られた溶解液に純水30mLを加えた後、0.1μmのメンブレンフィルタを用いて濾過した。得られた濾液を上記装置で元素分析した。得られた元素分析の結果に基づき、鉄原子100原子%に対する各金属原子の含有率を求めた。
その結果、各磁性体の組成は、以下の通りであった。
磁性体1〜5、8〜10:ε−Ga0.27Co0.05Ti0.05Fe1.63
〔式(6)で表される化合物〕
磁性体6:ε−Al0.24Co0.05Ti0.05Fe1.66
〔式(6)で表される化合物〕
磁性体7:ε−Fe
〔式(1)で表される化合物(a=0)〕
【0201】
(3.磁性体1〜10の粒子の形状)
磁性体1〜10の粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察により確認したところ、いずれも球状を有していた。
【0202】
(4.磁性体1〜10の粒子の平均円相当径)
磁性体1〜10の粒子の平均円相当径を、以下の方法により求めた。
粒子を、透過型電子顕微鏡(TEM)(型番:H−9000型、(株)日立ハイテクノロージーズ)を用いて、撮影倍率80000倍で撮影し、総倍率を500000倍として印画紙に印刷した。印刷された粒子から一次粒子を選び、デジタイザーで一次粒子の輪郭をトレースした。トレースした領域と同じ面積となる円の直径(同面積円相当直径)を、画像解析ソフトとしてカールツァイス製、画像解析ソフトKS−400を用いて求めた。
数枚の印画紙に印刷された一次粒子のうち任意に抽出した500個について同面積円相当直径を算出した。得られた500個の粒子の同面積円相当直径を単純平均(即ち、数平均)することにより、粒子の平均円相当径を求めた。結果を表1に示す。
【0203】
<磁気記録媒体(磁気テープ)の作製>
(1)磁性層形成用組成物の調製
下記に示す組成の磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成の磁性液の各成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いて24時間ビーズ分散した。このビーズ分散では、直径0.5mm、密度6.0g/cmのジルコニアビーズを用いた。ジルコニアビーズは、磁性体の粒子に対して、質量基準で10倍量用いた。その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより、分散液Aを得た。
得られた分散液Aを、バッチ式縦型サンドミルを用いて、1時間ビーズ分散した。このビーズ分散では、直径500nm、密度3.5g/cmのダイヤモンドビーズを用いた。その後、遠心分離機を用いてダイヤモンドビーズを分離し、分散液Bを調製して磁性液とした。
【0204】
次いで、下記に示す組成の研磨剤液を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成の研磨剤液の各成分を、横型ビーズミル分散機を用いて120分間ビーズミル分散した。このビーズミル分散では、直径0.3mmのジルコニアビーズを用いた。ジルコニアビーズは、ビーズ体積/(研磨剤液の体積+ビーズ体積)が80%になる量を用いた。ビーズミル分散後、横型ビーズミル分散機から液を取り出し、フロー式の超音波分散濾過装置を用いて、超音波分散濾過し、研磨剤液を調製した。
【0205】
そして、上記にて調製した磁性液及び研磨剤液、並びに下記に示す他の成分(非磁性フィラー液、並びに潤滑剤及び硬化剤液)を混合し、ディゾルバー撹拌機を用いて周速10m/秒にて30分間撹拌した。
次いで、フロー式超音波分散機を用いて、流量7.5kg/分にて3回分散処理を行った後、平均孔径0.1μmのフィルタを用いて濾過することにより、磁性層形成用組成物を調製した。
【0206】
−磁性層形成用組成物の組成−
(磁性液)
表1に示す磁性体 100.0質量部
(上記にて作製した磁性体1〜10)
オレイン酸 2.0質量部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン(株)、MR−104) 10.0質量部
SONa基含有ポリウレタン樹脂 4.0質量部
(重量平均分子量:70000、SONa基:0.07meq/g)
メチルエチルケトン 150.0質量部
シクロヘキサノン 150.0質量部
【0207】
(研磨剤液)
α−アルミナ 6.0質量部
(BET比表面積:19m/g、モース硬度:9)
SONa基含有ポリウレタン樹脂 0.6質量部
(重量平均分子量:70000、SONa基:0.1meq/g)
2,3−ジヒドロキシナフタレン 0.6質量部
シクロヘキサノン 23.0質量部
【0208】
(非磁性フィラー液)
コロイダルシリカ 2.0質量部
(平均粒子径:120nm)
メチルエチルケトン 8.0質量部
【0209】
(潤滑剤)
ステアリン酸 表1に記載の量
ステアリン酸アミド 表1に記載の量
ステアリン酸ブチル 表1に記載の量
【0210】
(硬化剤液)
メチルエチルケトン 110.0質量部
シクロヘキサノン 110.0質量部
ポリイソシアネート 3.0質量部
(日本ポリウレタン製コロネート(登録商標)L)
【0211】
(2)非磁性層形成用組成物の調製
下記に示す組成の非磁性層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成の非磁性層形成用組成物の各成分を、バッチ式縦型サンドミルを用いて24時間ビーズ分散した。このビーズ分散では、直径0.1mmのジルコニアビーズを用いた。その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルタを用いて濾過することにより、非磁性層形成用組成物を調製した。
【0212】
−非磁性層形成用組成物の組成−
非磁性無機粒子;α−酸化鉄 100.0質量部
(平均粒子径(平均長軸長):10nm、BET比表面積:75m/g)
カーボンブラック 25.0質量部
(平均粒子径:20nm)
SONa基含有ポリウレタン樹脂 18.0質量部
(重量平均分子量70000、SONa基含有量0.2meq/g)
ステアリン酸 1.0質量部
シクロヘキサノン 300.0質量部
メチルエチルケトン 300.0質量部
【0213】
(3)バックコート層形成用組成物の調製
下記に示す組成のバックコート層形成用組成物を、以下の方法により調製した。
まず、下記に示す組成のバックコート層形成用組成物の成分のうち、潤滑剤であるステアリン酸及びステアリン酸ブチル、硬化剤であるポリイソシアネート、並びにシクロヘキサノンを除いた各成分を、オープンニーダにより混練及び希釈した。希釈には、メチルエチルケトン及びシクロヘキサノンの混合溶媒を用いた。
その後、横型ビーズミル分散機により直径1mmのジルコニアビーズを用いて、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒の条件で、1パスあたりの滞留時間を2分とし、12パスの分散処理を行い、第1の分散液を得た。
次いで、得られた第1の分散液に、残りの成分(即ち、潤滑剤であるステアリン酸ブチル及びステアリン酸、硬化剤であるポリイソシアネート、並びにシクロヘキサノン)を添加し、ディゾルバー撹拌機を用いて撹拌することにより、第2の分散液を得た。
次いで、得られた第2の分散液に対し、平均孔径1.0μmのフィルタを用いた濾過を行い、バックコート層形成用組成物を得た。
【0214】
−バックコート層形成用組成物の組成−
非磁性無機粒子;α−酸化鉄 80.0質量部
(平均粒子径(平均長軸長):0.15μm、BET比表面積:52m/g)
カーボンブラック 20.0質量部
(平均粒子径:20nm)
塩化ビニル共重合体 13.0質量部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂 6.0質量部
フェニルホスホン酸 3.0質量部
シクロヘキサノン(希釈溶媒) 155.0質量部
メチルエチルケトン(希釈溶媒) 155.0質量部
ステアリン酸 3.0質量部
ステアリン酸ブチル 3.0質量部
ポリイソシアネート 5.0質量部
シクロヘキサノン 200.0質量部
【0215】
(4)磁気テープの作製
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製の支持体(即ち、非磁性支持体)の上に、乾燥後の厚みが100nmになるように非磁性層形成用組成物を塗布し乾燥させて非磁性層を形成した。
次いで、形成した非磁性層の上に、乾燥後の厚みが70nmになるように磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。形成した塗布層が湿潤状態にあるうちに、磁場強度0.15Tの磁場を塗布層表面に対して垂直方向に印加し、垂直配向処理を行った後、塗布層を乾燥させて磁性層を形成した。
次いで、上記非磁性支持体の、非磁性層及び磁性層を形成した面とは反対側の面上に、乾燥後の厚みが0.4μmになるようにバックコート層形成用組成物を塗布し乾燥させてバックコート層を形成し、バックコート層/非磁性支持体/非磁性層/磁性層の層構成を有する積層体を得た。
次いで、得られた積層体に対し、金属ロールのみから構成された一対のカレンダーロールを用いて、カレンダー処理速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、及びカレンダーロールの表面温度100℃にて、表面平滑化処理(所謂、カレンダー処理)を行った後、雰囲気温度70℃の環境下で36時間熱処理を行った。熱処理後、積層体を1/2インチ(0.0127メートル)幅に裁断し、磁気テープを作製した。
次いで、作製した磁気テープを、特開平5−62174号公報に記載のダイヤモンドホイールによって表面処理(同公報の図1図3に示されている態様にて処理)した。表面処理後の磁気テープをロール状にリールに巻き取った。
【0216】
(5)測定及び評価
上記にて作製した実施例1〜10及び比較例1〜5の磁気テープに対して、以下の測定及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0217】
(1)接触角の測定
接触角測定機(協和界面科学(株)製、接触角測定装置DropMaster700)を用いて、以下の方法により接触角の測定を行った。
ロール状に巻き取った磁気テープをロールの端部から一定長さで切り取り、測定用サンプルを作製した。測定用サンプルは、スライドガラス上に設置した。この際、測定用サンプルのバックコート層側がスライドガラスに接するように配置した。このように配置することにより、測定サンプルの表面は、磁性層表面となっている。
測定サンプルの表面に測定用液体(1−ブロモナフタレン又は水)2.0μlを滴下した。滴下した液体が安定した液滴を形成したことを目視で確認した後、接触角測定機に付随の接触角解析ソフトウェアFAMASにより液滴像を解析し、磁性層表面と液滴の接触角を測定した。接触角の算出はθ/2法によって行い、1サンプルにつき6回測定し、その平均値を接触角とした。測定は温度20℃相対湿度25%RHの環境で行い、以下の解析条件で接触角を求めた。
【0218】
手法: 液滴法(θ/2法)
着滴認識: 自動
着滴認識ライン(針先からの距離): 50dot
アルゴリズム: 自動
イメージモード: フレーム
スレッシホールドレベル: 自動
【0219】
(2)磁気ヘッドの汚れの評価
−ヘッド面汚れ−
ロール状に巻き取った磁気テープを、温度40℃相対湿度80%RHの環境に5日間放置し、長期保管に相当する加速試験後の磁気テープを得た。加速試験後の磁気テープから長さ20mで切り取った。
温度30℃相対湿度50%RHの環境において、IBM社製LTO(登録商標)G5(Linear Tape−Open Generation 5)ドライブから取り外した磁気ヘッドをテープ走行装置に取り付けた。このテープ走行装置に、長さ20mで切り取った加速試験後の磁気テープをセットし、0.8Nのテンションをかけながら8.0m/秒で、送り出しロールによる送り出しから巻き取りロールへの巻き取りまでを1サイクルとして、10000サイクル走行させた。
走行後のヘッド全面を倍率100倍のマイクロスコープで観察し、画像処理ソフト(Win Roof(Mitani Corporatipon製)を用いて画像処理を行い、付着物が付着している面積を求めた。
そして、ヘッド面の面積に対する付着物が付着した部分の面積の割合〔(付着物が付着した部分の面積)/(ヘッド面の面積)×100〕を求め、この割合をヘッド面汚れの指標とし、以下の基準により評価した。
評価結果がA又はBの場合を、長期保管後の繰り返し走行において、ヘッド面汚れが少ないと判断した。
【0220】
<評価基準>
A:0面積%
B:0面積%超5面積%未満
C:5面積%以上10面積%未満
D:10面積%以上30面積%未満
E:30面積%以上
【0221】
−ヘッドエッジ汚れ−
ヘッド面汚れの評価と同様の方法で、走行後のヘッド全面を観察し、画像処理ソフトを用いて画像処理を行った。この際、ヘッドエッジにおいて、付着物が付着している部分の面積を求めた。
そして、ヘッドエッジの面積に対するヘッドエッジにおける付着物が付着した部分の面積の割合〔(ヘッドエッジにおける付着物が付着した部分の面積)/(ヘッドエッジの面積)×100〕を求め、この割合をヘッドエッジ汚れの指標とし、以下の基準により評価した。
【0222】
<評価基準>
4:ヘッドエッジに付着物が認められない。
3:ヘッドエッジの50面積%以下の部位に付着物が認められる。
2:ヘッドエッジの50面積%超70面積%以下の部位に付着物が認められる。
1:ヘッドエッジの70面積%超の部位に付着物が認められる。
【0223】
−SNR(Signal to Noise Ratio)−
以下の方法により、ヘッドを固定した1/2インチ(0.0127メートル)リールテスターを用いて、以下の走行の前及び後に記録再生を行い、電磁変換特性(SNR)を測定した。
(1)走行は、上記リールテスターを用いて、搬送速度(ヘッド/テープ相対速度)を12.0m/秒として、磁気テープを、1パスあたり1,000mで5,000パス往復させて行った。
(2)上記走行の前と後に、それぞれ以下に示す方法で電磁変換特性の測定を行った。
そして、求めたSNRについて、走行前のSNRと走行後(5,000パス往復後)のSNRとから差分「(走行前のSNR)−(走行後のSNR)」を繰り返し算出し、高速搬送(搬送速度12.0m/秒)によるSNRの低下分を評価した。この際のSNR低下(dB)を表1に示す。
(3)電磁変換特性(SNR)の測定は、以下の方法で行った。
[記録]
搬送速度(ヘッド/テープ相対速度)を5.5m/秒とし、MIG(Metal-In-Gap)ヘッド(ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm)を使って記録した。記録電流は、各テープの最適記録電流に設定した。
[再生]
再生ヘッドとして、素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、リード幅0.5μmの巨大磁気抵抗効果型(GMR:Giant-Magnetoresistive)ヘッドを用いて再生した。
そして、線記録密度270KFci(flux change per inch)の信号を記録し、再生信号をシバソク社製のスペクトラムアナライザーで分析し、キャリア信号の出力と、スペクトル全帯域の積分ノイズと、の比をSNRとした。
信号は、磁気テープ走行開始後に信号が十分に安定した部分を使用した。
なお、SNR低下が2.0dB以下であれば、高速搬送を繰り返しても電磁変換特性の低下が少なく、良好な電磁変換特性が発揮されていると判定した。
【0224】
【表1】

【0225】
表1に示すように、磁性層にイプシロン型酸化鉄系化合物の粒子を含め、磁性層表面にて測定される接触角が、1−ブロモナフタレンに対して30.0°以上45.0°未満であり、かつ水に対して80.0°以上95.0°以下である実施例1〜9の磁気テープでは、SNRの低下が抑えられていた。
これに対して、1−ブロモナフタレン接触角が30.0°以上及び水接触角が80.0°以上の少なくとも一方の条件を満たさない比較例1〜3の磁気テープでは、実施例の磁気テープと比較して、ヘッド面の汚れが顕著に発生し、SNRが大きく低下した。
また、1−ブロモナフタレン接触角が45.0°未満及び水接触角が95.0°以下の少なくとも一方の条件を満たさない比較例4〜5の磁気テープでは、実施例の磁気テープと比較して、ヘッドエッジの汚れが顕著に発生し、SNRが大きく低下した。