特許第6932477号(P6932477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6932477
(24)【登録日】2021年8月20日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】チーズ包装体
(51)【国際特許分類】
   A23C 19/16 20060101AFI20210826BHJP
   A23C 19/068 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   A23C19/16
   A23C19/068
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-158361(P2015-158361)
(22)【出願日】2015年8月10日
(65)【公開番号】特開2017-35033(P2017-35033A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2018年7月20日
【審判番号】不服2019-17726(P2019-17726/J1)
【審判請求日】2019年12月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 真也
(72)【発明者】
【氏名】昆野 慶
(72)【発明者】
【氏名】小泉 詔一
【合議体】
【審判長】 瀬良 聡機
【審判官】 村上 騎見高
【審判官】 齊藤 真由美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/124453(WO,A1)
【文献】 特表2005−522202号公報(JP,A)
【文献】 特開2012−183032号公報(JP,A)
【文献】 特開2014−193729号公報(JP,A)
【文献】 特開2014−193123号公報(JP,A)
【文献】 第50回全日本包装技術研究大会予稿集(大会開催日:2012年11月29〜30日),公益社団法人 日本包装技術協会
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 29/00-29/30
FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維性を有するチーズの包装体であって
)ガス置換包装及び/又は脱酸素剤封入によって包装されていること
)前記チーズの表面液状成分量が、0.02ml/g以下であること
3)前記チーズの重量が、30g以下であること
4)前記チーズが、略円柱形状(底面が略楕円形状のものも含む)、又は略多角柱形状(略角柱形状,略三角柱形状を含む)であること
5)前記チーズの底面積が、0.5cm2以上であること
を特徴とするチーズ包装体。
【請求項2】
繊維性を有するチーズの包装体であって、
1)ガス置換包装及び/又は脱酸素剤封入によって包装されていること
2)前記チーズの表面液状成分量が、0.02ml/g以下であること
3)前記チーズの重量が、30g以下であること
4)前記チーズが、略平板形状であること
5)前記チーズの繊維方向に直交する断面の面積が、1.0cm2以上であること
を特徴とするチーズ包装体。
【請求項3】
前記包装体に使用する包材の酸素透過度が、100fmol/(m2・s・Pa)以下であることを特徴とする請求項1又は2記載のチーズ包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維性を有するチーズの包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維性を有するチーズとは、一般に「ストリングチーズ」や「さけるチーズ」等と呼ばれる、一定の方向性と弾力性、繊維性を持ち、手で裂くと一定方向に多数の糸状に細く裂ける性質を持つチーズである。このような繊維性を有するチーズは、生乳に乳酸菌及び凝乳酵素を添加して凝乳させ、カッティング、ホエー排除をして得たチーズカードを、加温等の工程を経て一定の延伸をかけて棒状又は板状に成形し、冷却・固化することにより得られる(例えば、特許文献1参照)。このような繊維性を有するチーズは、一定方向への繊維性によって引き裂いたチーズ片に独特の食感があり、特に好ましい歯ごたえを楽しむことができることから、市場において一定の需要を維持しており、また、各地のチーズ工房等において手作りが可能なことから、お土産用のチーズとして、様々な商品が売られている。しかしながら、このような繊維性を有するチーズは、チーズを引き裂いて食するという特徴的な食べ方をするため、チーズ表面に水分等の液状成分が過剰に付着していると、引き裂く際に手が滑りやすいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−256685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、繊維性を有するチーズの表面に水分等の液状成分が過剰に付着している場合、チーズを引き裂く際に手が滑りやすいという問題の解決を課題とする。当該課題は、チーズを引き裂いて食する繊維性を有するチーズ固有の課題であり、他のチーズでは生じないものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の構成要件からなるチーズ包装体である。
(1)繊維性を有するチーズの包装体であって、前記包装体が、ガス置換包装及び/又は 脱酸素剤封入によって包装されていることを特徴とするチーズ包装体。
(2)前記包装体に使用する包材の酸素透過度が、100fmol/(m2・s・Pa) 以下であることを特徴とする(1)記載のチーズ包装体。
(3)前記チーズの表面液状成分量が、0.02ml/g以下であることを特徴とする
(1)又は(2)記載のチーズ包装体。
(4)前記チーズが、略円柱形状(底面が略楕円形状のものも含む)、略多角柱形状
(略角柱形状,略三角柱形状を含む)であって、かつ底面積が0.5cm2以上である
ことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のチーズ包装体。
(5)前記チーズが、略平板形状であって、かつ繊維方向に直交する断面の面積が
1.0cm2以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のチーズ
包装体。
【発明の効果】
【0006】
本発明のチーズ包装体によれば、繊維性を有するチーズのチーズ表面における水分等の液状成分の付着量を抑制することができ、結果として繊維性を有するチーズを引き裂く際の滑りやすさを低減させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の包装体について具体的に説明する。
繊維性を有するチーズは、製造からの期間が長くなるほど繊維性が失われていくことが知られており、流通においては、出来る限り長期間に渡って繊維性を維持することが必要となる。また、全ての食品に共通する課題であるが、流通時において、カビ等の微生物の繁殖を防ぐことが食品の包装には求められる。繊維性を有するチーズでは、この両者への対応を同時に実現するために、真空包装の形態で流通されることが一般的である。
他方、本発明の課題に示すように、繊維性を有するチーズの表面に水分等の液状成分が過剰に付着していると、引き裂く際に手が滑りやすいという課題があるが、本発明者らは、この課題の原因が繊維性を有するチーズを真空包装する際に、繊維方向に沿って水分等の液状成分がチーズから流出し、これによってチーズ表面に液状成分が付着することによって生じることを見出した。
本発明では、真空包装以外の包装形態とすることで、繊維性を有するチーズの表面に付着した水分等の液状成分量を低減し、これにより、引き裂く際に滑りやすいという課題を解消する。すなわち本発明は、ガス置換包装及び/又は脱酸素剤封入による包装とすることで、チーズの劣化を抑制しつつ、チーズ表面の液状成分量を抑制することに有効であることを見出して為されたものである。
なお、本発明における「液状成分」とは、水分、ホエーや脂肪分等、チーズ包装体内部に存在する液状の成分及びその混合物を意味するものとする。
【0008】
本発明の対象となる繊維性を有するチーズとは、ナチュラルチーズであっても、プロセスチーズ類であってもよいが、一定方向に裂ける性質を有するチーズを意味する。このような性質を有しないチーズの場合、真空包装を適用しても、繊維方向に沿って水分等の液状成分が流出するという問題が生じないほか、そもそも裂いて食することがほとんどないため、引き裂き時に表面の液状成分で手が滑るという課題は生じない。繊維性を有するチーズの製造方法としては特に制限はないが、一般的にパスタフィラータ製法と呼ばれる、チーズカードを混練、延伸して成型する方法が挙げられる。繊維性を有するチーズの製造方法としては、例えば特表平11−505406号や特開昭56−164744号公報などの記載を参考にすれば良い。
【0009】
繊維性を有するチーズの形状は、特に制限はないが、一定方向にさける性質を有することを鑑み、略円柱形状(底面が略楕円形状のものも含む),略多角柱形状(略角柱形状,略三角柱形状を含む)が好ましい。なお、対象がチーズであることから、断面形状が多少変形することは当然ありえることであり、また、両端を斜めに切断したようなものも本発明の実施においてなんら問題は生じない。このような略円柱形状や略多角柱形状であれば、引き裂くという物性を十分に楽しむことが出来る。なお、これらの形状の場合には、引き裂きやすさの観点から、底面積を0.5cm2以上とすることが好ましい。また、繊維性を有するチーズを略平板上に成型することも可能であり、このような形状の場合は、繊維方向に直交する断面の面積が1.0cm2以上とすることが好ましい。
【0010】
繊維性を有するチーズは、前述の通り、ナチュラルチーズであってもよいし、プロセスチーズであっても良いが、表面液状成分量が0.02ml/g以下であることが望ましい。表面液状成分量が0.02ml/gより大きくなると、繊維性を有するチーズが非常に裂きにくいものとなる。
【0011】
本発明では、繊維性を有するチーズの包装形態として、ガス置換包装及び/又は脱酸素剤封入によって包装されていることを特徴とする。これらの包装形態を適用した場合、真空包装とは異なり、チーズの繊維にそって水分等の液状成分が流出するということが生じない。ガス置換包装の方法や、封入する脱酸素剤については、一般的に食品に用いられる方法であれば特に制限なく適用することができる。例えば、ガス置換包装であれば、チーズを充填する際等に、包装内に残る空気を窒素ガスや二酸化炭素ガス等の不活性ガスで置換すればよい。脱酸素剤については、一般に市販されているもの等を適宜使用すればよい。いずれの場合においても、包装内の残存酸素の割合は2%以下となるように包装することが好ましいが、残存酸素の割合は少ないほど保存性の面で有利となる。
【0012】
本発明で使用する包材としては、ガス置換包装及び/又は脱酸素剤を封入することから、酸素透過度が、100fmol/(m2・s・Pa)以下程度の包材を使用することが好ましい。使用できる包材としては、PET、ポリアミド(Ny)、EVOH、PVDC、環状オレフィン(COC、COP)を含む包材、PE、PP、PSの片面または両面にアルミ蒸着、シリカ蒸着またはアルミナ蒸着を施したものを含む包材、PE、PP、PSセロハンの片面または両面にコーティングを施し、酸素透過性が500fmol/(m2・s・Pa)以下となるよう加工したものを含む包材などが挙げられ、いずれも包材全体としての酸素透過度が100fmol/(m2・s・Pa)以下となるように構成することが好ましい。
【0013】
以下、本発明を試験例及び実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
[試験例1]
【0014】
特開昭56−164744号公報に記載される方法により直径約1cmの円柱状の繊維性を有するチーズ30gを製造した。得られた繊維性を有するチーズを、アルミ蒸着したPET包材を用いて、窒素ガスによるガス置換包装をしたもの(実施品1)、ガス置換は行わず脱酸素剤を封入したもの(実施品2)、脱酸素剤を封入し、窒素ガスによるガス置換包装を行ったもの(実施品3)、真空包装したもの(比較品1)、これらを行わず単にシールのみしたもの(比較品2)を調製し、10℃で保存した。
これらのサンプルについて、保存14日目時点と、60日時点で、表面液状成分量の測定、官能による風味、裂きやすさの評価を実施した。
表面液状成分量の測定は、ろ紙を用いてチーズ表面及び包材内の液状成分を吸着させ、吸着前後のろ紙重量を測定し、増分重量を算出することで行った。
官能評価による風味・裂きやすさの評価は、評価が高い(風味が良い、裂きやすい)ものを5点、低い(風味が悪い、裂きにくい)ものを1点として10人のパネラーによる5段階評価の結果の平均値を評価値とし、その平均点が4点以上のものを○、3点以上4点未満のものを△、3点未満のものを×とした。
保存14日目時点の結果を表1、保存60日目時点の結果を表2に示す。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【実施例1】
【0017】
特開平7−177848号公報に記載の方法によって製造した繊維性を有するプロセスチーズを、1辺が1cmの四角柱状に切り出し、アルミ蒸着したPP包材を用いて二酸化炭素ガス置換包装を行った。得られたチーズ包装体について、10℃で7日、及び60日保存した後、試験例と同様の方法で表面液状成分量及び官能評価を行った。7日後のサンプルの表面液状成分量は0.015ml/g、60日後の表面液状成分量は0.018ml/gで、風味、引き裂きやすさ共に良好であった。一方、同様の繊維性を有するプロセスチーズを真空包装したものについては、10℃で7日保存後の表面液状成分量が0.028ml/g、60日保存後の表面液状成分量が0.025ml/gであり、いずれも裂き難いという結果であった。
【実施例2】
【0018】
特開平7−177848号公報に記載の方法によって製造した繊維性を有するプロセスチーズを、断面が0.5cm×5cmの板状となるように切り出し、アルミ蒸着したPP包材を用いて二酸化炭素ガス置換包装を行った。得られたチーズ包装体について、10℃で7日、及び60日保存した後、試験例と同様の方法で表面液状成分量及び官能評価を行った。7日後のサンプルの表面液状成分量は0.014ml/g、60日後の表面液状成分量は0.019ml/gで、風味、引き裂きやすさ共に良好であった。一方、同様の形状の繊維性を有する板状プロセスチーズを真空包装したものについては、10℃で7日保存後の表面液状成分量が0.035ml/g、60日保存後の表面液状成分量が0.031ml/gであり、いずれも裂き難いという結果であった。