(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Si基板の抵抗率が100Ωcm以上であり、前記Si基板は、C、Ge、Sn、O、H及びV族元素から選ばれた一つの不純物元素を含み、少なくとも前記Si基板の表面から深さ0.5〜10umの表層部に含まれる前記不純物元素の濃度が1×1012〜1×1020atoms/cm3である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記III族窒化物半導体層を成長させる前に、前記第一及び第二AlNバッファ層を順に成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程をさらに備える、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記第一AlNバッファ層を成長させる工程では、前記Al原料及び前記N原料を供給する時間がそれぞれ0.5〜10秒である、請求項9乃至13のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記第二AlNバッファ層を成長させる工程では、前記Al原料及び前記N原料を交互に繰り返し供給する、請求項9乃至14のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記III族窒化物半導体層を成長させる前に、前記第一及び第二AlNバッファ層を順に成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程をさらに備える、請求項9乃至15のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有する、請求項9乃至16のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記第一III族窒化物半導体層を成長させる工程では、III族原料及びN原料を交互に繰り返し供給する、請求項18乃至20のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記Si基板の抵抗率が100Ωcm以上であり、前記Si基板は、C、Ge、Sn、O、H及びV族元素から選ばれた一つの不純物元素を含み、少なくとも前記Si基板の表面から深さ0.5〜10umの表層部に含まれる前記不純物元素の濃度が1×1012〜1×1020atoms/cm3である、請求項9乃至22のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記第一AlNバッファ層を成長させる工程では、N以外のV族元素(P、As、Sb)を含む原料を前記Al原料又は前記N原料と共に供給する、請求項9乃至22のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記第一III族窒化物半導体層を成長させる工程では、III族原料及びN原料を交互に繰り返し供給する、請求項33乃至35のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記III族窒化物半導体層を成長させる前に、前記AlNバッファ層を成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程をさらに備える、請求項48乃至54のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有する、請求項48乃至55のいずれか一項に記載のIII族窒化物半導体基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
AlNバッファ層の結晶性を良好にするためには900℃以上の高温下でAlNを成長させることが好ましいが、そのような高温下でAlNを成長させるとAl原料や炉内に残留するGaやInなどのIII族原料がSi基板中に拡散して表面の抵抗率が低下するという問題がある。Si基板の表面の抵抗率の低下は、電流リークパスや寄生容量の増加の原因になる。
【0009】
特許文献1に記載の方法では、最初に900℃以上の温度でAlNを成長させるため、Si基板中にIII族元素が拡散し、Si基板の表面の抵抗率が低下する。また特許文献1ではサファイア基板やSiC基板を用いることを前提としてAlNバッファ層を形成する前に高温でNH
3ガスを供給して基板の窒化処理を行っているが、Si基板で同様の窒化処理を行うとSi基板の表面が窒素と反応してしまい、Si基板の表面が荒れるなどして結晶性の良好なAlNを成長させることができない。また特許文献2に記載の方法では、最初に600〜900℃の温度でAlNを成長させているが、Si基板中へのIII族元素の拡散を抑制する効果が弱く、さらなる改善が求められている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、Si基板上にAlNバッファ層を介してIII族窒化物半導体層を成長させる際にSi基板中へのIII族元素の拡散によるSi基板の表面の抵抗率の低下を抑制することが可能なIII族窒化物半導体基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第一の側面によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、Si基板上に第一AlNバッファ層を成長させる工程と、前記第一AlNバッファ層上に前記第一AlNバッファ層の成長温度よりも高い温度で第二AlNバッファ層を成長させる工程と、前記第二AlNバッファ層上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程とを備え、前記第一AlNバッファ層の成長温度が400〜600℃であることを特徴とする。
【0012】
Si基板上にAlNバッファ層を介してIII族窒化物半導体層を成長させる際に、結晶性を良好にするためAlNバッファ層をその成長初期から高温で成長させる場合、炉内に残留するGaやInなどのIII族元素がSi基板と反応し、Si基板中に拡散し、Si基板の表面の抵抗率が低下する。しかし、本発明による製造方法は、AlNバッファ層を最初に400℃〜600℃の低温で成長させ、引き続きIII族窒化物半導体層を成長させるので、III族元素がSi基板と反応することを抑制すること
ができ、Si基板の表面の抵抗率の低下を防止することができる。
【0013】
本発明において、前記第二AlNバッファ層の成長温度は900〜1200℃であることが好ましい。これにより、Si基板中へのIII族原料の拡散を抑制しながらAlNバッファ層の結晶性を良好にすることができる。
【0014】
本発明において、前記第一AlNバッファ層の厚さは0.4〜100nmであることが好ましく、前記第一及び第二AlNバッファ層の合計厚さは30〜200nmであることが好ましい。これにより、クラックが発生しにくく結晶性の良好なAlNバッファ層を形成することができる。
【0015】
本発明において、前記III族窒化物半導体層を成長させる工程は、前記第二AlNバッファ層上に第一III族窒化物半導体層を成長させる工程と、前記第一III族窒化物半導体層上に前記第一III族窒化物半導体層の成長温度よりも高い温度で第二III族窒化物半導体層を成長させる工程とを含み、
前記第一III族窒化物半導体層の成長温度が400〜800℃であり、前記第一AlNバッファ層の成長温度は、前記第一III族窒化物半導体層の成長温度よりも低いことが好ましい。
【0016】
AlNバッファ層上にIII族窒化物半導体層を成長させる際に、III族窒化物半導体層の厚さが例えば200nmになるまでの成長初期ではIII族窒化物を低温で成長させるので、III族元素がAlNバッファ層を通ってSi基板中へ拡散することを防止することができる。また厚さが200nm以上は高温で成長させるので、III族窒化物半導体層の結晶性を向上させることができる。
【0017】
本発明において、前記Si基板の抵抗率は100Ωcm以上であり、前記Si基板は、C、Ge、Sn、O、H及びV族元素から選ばれた一つの不純物元素を含み、少なくとも前記Si基板の表面から深さ0.5〜10umの表層部に含まれる前記不純物元素の濃度が1×10
12〜1×10
20atoms/cm
3であることが好ましい。これによれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中にIII族元素が拡散することによるキャリアの増加を抑えることができる。
【0018】
本発明によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、前記III族窒化物半導体層を成長させる前に、前記第一及び第二AlNバッファ層を順に成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程をさらに備えることが好ましい。この工程によれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中に拡散したIII族元素を表面から基板内部へさらに拡散させてAlNバッファ層との界面近傍のSi基板の抵抗率を高くすることができる。
【0019】
本発明において、前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有することが好ましい。これによれば、III族窒化物半導体層の上面の表面粗さを改善することができる。
【0020】
また、本発明の第二の側面によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、Si基板上に第一成長温度で第一AlNバッファ層を成長させる工程と、前記第一AlNバッファ層上に前記第一成長温度よりも高い第二成長温度で第二AlNバッファ層を成長させる工程と、前記第二AlNバッファ層上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程とを備え、前記第一AlNバッファ層を成長させる工程では、Al原料及びN原料を交互に繰り返し供給することを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、第一AlNバッファ層を低温で成長させることでGa等のIII族元素がSi基板中に拡散することを抑制すること
ができ、Si基板の表面の抵抗率の低下を防止することができる。またAl原料とN原料とを同時ではなく交互に供給することで低温成長によるAlNの結晶性の悪化を改善することができる。
【0022】
本発明において、前記第一成長温度は400〜800℃であることが好ましく、400〜600℃であることが特に好ましい。また前記第二成長温度は900〜1200℃であることが好ましい。これにより、Si基板中へのIII族元素の拡散を抑制することできる。
【0023】
本発明において、前記第一AlNバッファ層を成長させる工程では、前記N原料よりも前記Al原料を先に導入することが好ましい。これにより、Si基板の表面が窒化されることを防止することができ、結晶性の良好な第一AlNバッファ層を成長させることができる。
【0024】
本発明において、前記第一AlNバッファ層の厚さは0.4〜100nmであることが好ましく、前記第一及び第二AlNバッファ層の合計厚さは30〜200nmであることが好ましい。これにより、クラックが発生しにくく結晶性の良好なAlNバッファ層を形成することができる。
【0025】
本発明において、前記第一AlNバッファ層を成長させる工程では、前記Al原料及び前記N原料を供給する時間がそれぞれ0.5〜10秒であることが好ましい。これにより、生産性を悪化させることなく高品質なAlNバッファ層を形成することができる。
【0026】
前記第二AlNバッファ層を成長させる工程では、前記Al原料及び前記N原料を交互に繰り返し供給することがさらに好ましい。Al原料とN原料とを同時ではなく交互に供給することで第二AlNバッファ層の結晶性をさらに良好にすることができる。
【0027】
本発明によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、前記III族窒化物半導体層を成長させる前に、前記第一及び第二AlNバッファ層を順に成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程をさらに備えることが好ましい。この工程によれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中に拡散したIII族元素を表面から基板内部へさらに拡散させてAlNバッファ層との界面近傍のSi基板の抵抗率を高くすることができる。
【0028】
本発明において、前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有することが好ましい。これによれば、III族窒化物半導体層の上面の表面粗さを改善することができる。
【0029】
本発明において、前記III族窒化物半導体層を成長させる工程は、前記第二AlNバッファ層上に第三成長温度で第一III族窒化物半導体層を成長させる工程と、前記第一III族窒化物半導体層上に前記第三成長温度よりも高い第四成長温度で第二III族窒化物半導体層を成長させる工程とを含むことが好ましい。この場合において、前記第三成長温度は400〜800℃であり、前記第四成長温度は900〜1200℃であることが好ましい。また、前記第一III族窒化物半導体層の厚さが10〜200nmであることが好ましい。このように、第一III族窒化物半導体層を低温で成長させることでGa等のIII族元素がAlNバッファ層を通過してSi基板中に拡散することを抑制すること
ができ、Si基板の表面の抵抗率の低下を防止することができる。
【0030】
本発明において、前記第一III族窒化物半導体層を成長させる工程では、III族原料及びN原料を交互に繰り返し供給することが好ましい。
【0031】
本発明において、前記第一III族窒化物半導体層はAlGaNからなり、前記第二III族窒化物半導体層はGaNからなることが好ましい。
【0032】
本発明において、前記Si基板の抵抗率は100Ωcm以上であり、前記Si基板は、C、Ge、Sn、O、H及びV族元素から選ばれた一つの不純物元素を含み、少なくとも前記Si基板の表面から深さ0.5〜10umの表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
12〜1×10
20atoms/cm
3であることが好ましい。これによれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中にIII族元素が拡散することによるキャリアの増加を抑えることができる。
【0033】
本発明において、前記表層部を含む前記Si基板全体に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
12〜1×10
20atoms/cm
3であってもよい。あるいは、前記表層部よりも深い領域に含まれる前記不純物元素の濃度が前記表層部よりも低くてもよい。
【0034】
前記不純物元素がCである場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
14〜1×10
17atoms/cm
3であることが好ましい。また前記不純物元素がGe又はSnである場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
14〜1×10
20atoms/cm
3であることが好ましい。
【0035】
前記不純物元素がOである場合、前記表層部における前記不純物元素の濃度は1×10
15〜5×10
18atoms/cm
3であることが好ましい。また前記不純物元素がHである場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
15〜5×10
18atoms/cm
3であることが好ましい。
【0036】
前記不純物元素が、N、P、As及びSbから選ばれた少なくとも一つのV族元素を含む場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
12〜1×10
19atoms/cm
3であり、前記表層部よりも深い領域に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
14atoms/cm
3以下であることが好ましい。この場合において、前記Si基板中の前記不純物元素は前記表面から基板内部に向けて減少する濃度勾配を有することが好ましい。
【0037】
本発明において、前記第一AlNバッファ層を成長させる工程では、N以外のV族元素(P、As、Sb)を含む原料を前記Al原料又は前記N原料と共に供給することが好ましい。これにより、Si基板側ではなくAlNバッファ層側に、Si基板中へのIII族元素の拡散に伴うSi基板中のキャリアの増加を抑制するための不純物元素を含ませておくことができる。
【0038】
本発明の第3の側面によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、Si基板上に900〜1200℃の成長温度でAlNバッファ層を成長させる工程と、前記AlNバッファ層上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程とを備え、前記Si基板の抵抗率が100Ωcm以上であり、前記Si基板は、C、Ge、Sn、O及びHから選ばれた一つの不純物元素を含み、少なくとも前記表面から深さ0.5〜10umの表層部に含まれる前記不純物元素の濃度が1×10
14〜1×10
20atoms/cm
3であることを特徴とする。本発明によれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中にIII族元素が拡散することによるキャリアの増加を抑えることができる。
【0039】
本発明において、前記表層部を含む前記Si基板全体に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
12〜1×10
20atoms/cm
3であってもよい。あるいは、前記表層部よりも深い領域に含まれる前記不純物元素の濃度が前記表層部よりも低くてもよい。
【0040】
前記不純物元素がCである場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
14〜1×10
17atoms/cm
3であることが好ましい。また前記不純物元素がGe又はSnである場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
14〜1×10
20atoms/cm
3であることが好ましい。
【0041】
前記不純物元素がOである場合、前記表層部における前記不純物元素の濃度は1×10
15〜5×10
18atoms/cm
3であることが好ましい。また前記不純物元素がHである場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
15〜5×10
18atoms/cm
3であることが好ましい。
【0042】
前記不純物元素が、N、P、As及びSbから選ばれた少なくとも一つのV族元素を含む場合、前記表層部に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
12〜1×10
19atoms/cm
3であり、前記表層部よりも深い領域に含まれる前記不純物元素の濃度は1×10
14atoms/cm
3以下であることが好ましい。この場合において、前記Si基板中の前記不純物元素は前記表面から基板内部に向けて減少する濃度勾配を有することが好ましい。
【0043】
本発明によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、前記III族窒化物半導体層を成長させる前に、前記AlNバッファ層を成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程をさらに備えることが好ましい。この工程によれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中に拡散したIII族元素を表面から基板内部へさらに拡散させてAlNバッファ層との界面近傍のSi基板の抵抗率を高くすることができる。
【0044】
本発明において、前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有することが好ましい。これによれば、III族窒化物半導体層の上面の表面粗さを改善することができる。
【0045】
本発明の第4の側面によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、Si基板上にAlNバッファ層を成長させる工程と、前記AlNバッファ層を成長させた前記Si基板を900〜1450℃で熱処理する工程と、前記熱処理後の前記AlNバッファ層上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程とを備えることを特徴とする。本発明によれば、AlNバッファ層の形成時にSi基板中に拡散したIII族元素を表面から基板内部へさらに拡散させてAlNバッファ層との界面近傍のSi基板の抵抗率を高くすることができる。
【0046】
本発明の第5の側面によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、Si基板上にAlNバッファ層を成長させる工程と、前記AlNバッファ層上にIII族窒化物半導体層を成長させる工程とを備え、前記Si基板は、シリコン単結晶の(111)面から<112>方向に0.1〜1.5°の範囲内で傾斜した主面を有することを特徴とする。これによれば、III族窒化物半導体層の上面の表面粗さを改善することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、Si基板上にAlNバッファ層を介してIII族窒化物半導体層を成長させる際にSi基板中へのIII族元素の拡散によるSi基板の表面の抵抗率の低下を抑制することが可能なIII族窒化物半導体基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0050】
図1は、本発明の第1の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の構造を示す略断面図である。
【0051】
図1に示すように、このIII族窒化物半導体基板1は、Si基板10上にAlNバッファ層20及びIII族窒化物半導体層30が順に積層された構造を有している。Si基板10の抵抗率は1000Ωcm以上であることが好ましい。またSi基板10の面方位は(111)面であることが好ましいが、他の面方位であってもよい。
【0052】
AlNバッファ層20はSi基板10とIII族窒化物半導体層30との間の格子間不整合を緩和するための層であり、第一AlNバッファ層21及び第二AlNバッファ層22が順に積層された二層構造を有している。第一AlNバッファ層21は400〜800℃、好ましくは400〜600℃の低温で成長させた層であり、第二AlNバッファ層
22は900〜1200℃の高温で成長させた層である。
【0053】
第一AlNバッファ層21の厚さは0.4〜100nmであることが好ましく、0.4〜50nmであることが特に好ましい。第一AlNバッファ層21の厚さが0.4nmよりも薄いときにはSi基板10へのIII族元素の拡散を抑制することができず、100nmよりも厚いときにはAlNの結晶性が悪化し、その上に形成されるIII族窒化物半導体層30の結晶性も悪くなるからである。
【0054】
AlNバッファ層20の厚さ、すなわち第一AlNバッファ層21及び第二AlNバッファ層22の合計厚さは30〜200nmであることが好ましい。AlNバッファ層20の厚さが30nmより薄いときには結晶性の良好なAlNバッファ層20が得られず、200nmより厚いときにはAlNバッファ層20にクラックが発生しやすくなるからである。
【0055】
III族窒化物半導体層30は、III族元素であるAl、In、Gaの少なくとも一つとNとの混晶からなる層であり、代表的なIII族窒化物半導体はGaNである。III族窒化物半導体層30の厚さは特に限定されないが、例えば1umとすることができる。
【0056】
図2は、III族窒化物半導体基板1の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0057】
図2に示すように、III族窒化物半導体基板1の製造では、まずSi基板10を準備する(ステップS11)。具体的には、Si基板10をHF及びSC-1で洗浄した後、MOCVD炉内にセットする。III族窒化物半導体の成膜方法としてはMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)を採用することが好ましいが、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長法)、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線結晶成長法)などの他の成長方法を採用してもよく、これらの成膜方法においてSi基板中への不純物拡散を同様に抑制することは可能である。
【0058】
次に、Si基板10上に第一AlNバッファ層21を形成する(ステップS12A)。第一AlNバッファ層21の形成では、400〜600℃の炉内にTMA(トリメチルアルミニウム)とNH
3をH
2キャリアガスとともに導入してSi基板10の表面にAlNを成長させる。第一AlNバッファ層21の成長温度は400〜600℃であることが好ましい。成長温度が400℃よりも低い場合にはAlNの結晶性が悪化してその後のIII族窒化物半導体材料の結晶性に影響を及ぼし、600℃より高い場合にはSi基板10へのIII族元素の拡散を抑制する効果が小さいからである。第一AlNバッファ層21の成長温度が600℃以下であればSi基板10へのIII族元素の拡散を抑制する効果を十分に高めることができる。
【0059】
第一AlNバッファ層21の形成では、NH
3よりもTMAを先に導入することが好ましい。NH
3を先に導入するとSi基板10の表面がNH
3と反応して窒化され、結晶性の良いAlNを成長させることができないからである。特に、Si基板10の面内の温度分布が不均一である場合にSi基板10の表面が荒れてその後のAlNやInAlGaNの結晶性が悪化するという事態を、回避することができる。
【0060】
NH
3よりもTMAを先に導入する場合、TMAが分解したAl原子がSi基板10の全面に1~10原子層いきわたるように、NH
3よりもTMAを3〜30秒先に供給することが好ましい。Al原子層が1原子層より薄い場合はSi基板とNH
3が反応して窒化され、結晶性の悪化を招く。一方で、Al原子層が10原子層より厚い場合は、Si表面にAlドロップレットが発生し、Siとの合金化が進む。その結果、合金化された基板上でAlNの結晶性悪化が発生する。
【0061】
第一AlNバッファ層21を成長させる前に、Si基板10の表面の酸化膜を除去する目的でSi基板10をベーキングしてもよい。このときのベーキング温度は、第一AlNバッファ層21の成長温度以上であることが好ましい。ただし、前バッチで導入されたGa等のIII族原料が炉内に残留している場合にはこれがSi基板10中に取り込まれるおそれがあるため、この場合にはベーキングを実施しないほうがよい。
【0062】
次に、第一AlNバッファ層21上に第二AlNバッファ層22を形成する(ステップS12B)。第二AlNバッファ層22の形成では、まず炉内温度を900〜1200℃まで昇温する。昇温の際に原料供給を中断しても構わないが、生産性を考慮すると原料を供給しながら昇温させるほうが好ましい。第二AlNバッファ層22の成長温度は900〜1200℃であることが好ましい。成長温度が900℃よりも低い場合には結晶性の良いAlNが得られず、また通常の装置では1200℃よりも高い温度での結晶成長に対応できないからである。
【0063】
次に、第二AlNバッファ層22上にIII族窒化物半導体層30を形成する(ステップS13)。III族窒化物半導体層30の形成では、まずTMAの供給を停止し、その代わりにIII族原料をNH
3と共に供給してIII族窒化物半導体層30を成長させる。III族窒化物半導体層30の成長温度は900〜1200℃であることが好ましい。成長温度が900℃よりも低い場合には結晶性の良いIII族窒化物半導体層が得られないからである。以上により、Si基板10上に第一AlNバッファ層21、第二AlNバッファ層22、III族窒化物半導体層30が順に形成されたIII族窒化物半導体基板1が完成する。
【0064】
Si基板10上にAlNバッファ層20を介してIII族窒化物半導体層30を成長させるプロセスにおいて、結晶性を良好にするためAlNバッファ層20をその成長初期から900℃以上の高温で成長させる場合、Si基板10がAl原料あるいは炉内に残留するGaやInなどと反応してSi基板10中にIII族元素が拡散し、Si基板10の表面の抵抗率が低下する。しかし、第一AlNバッファ層21を最初に400℃〜600℃の低温で薄く成長させた後、900〜1200℃の高温で第二AlNバッファ層22を成長させる場合には、Si基板とIII族原料との反応を抑えることができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によるIII族窒化物半導体基板1の製造方法は、AlNバッファ層20を400〜600℃の低温と900〜1200℃の高温の2段階で成長させるので、AlNバッファ層20の結晶品質を維持しつつ、Si基板10中へのIII族元素の拡散を低減することができ、Si基板10の表面の抵抗率の低下を防止することができる。
【0066】
図3は、本発明の第2の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0067】
図3に示すように、このIII族窒化物半導体基板1の製造方法の特徴は、第一AlNバッファ層21の形成(ステップS12A)においてAl原料であるTMAとN原料であるNH
3を同時ではなく交互に繰り返し供給する点にある。すなわち、本実施形態による製造方法は、Si基板10を準備する工程(ステップS11)と、Al原料及びN原料を交互に繰り返し供給することによりSi基板10上に第一AlNバッファ層21を形成する工程(ステップS12A)と、第一AlNバッファ層21上に第二AlNバッファ層22を形成する工程(ステップS12B)と、第二AlNバッファ層22上にIII族窒化物半導体層30を形成する工程(ステップS13)とを有している。その他の条件は第1の実施の形態と同様である。
【0068】
TMA及びNH
3の交互供給では、例えば、TMAを3秒導入し、H
2キャリアガスのみを3秒導入し、その後NH
3を3秒導入し、H
2キャリアガスのみを6秒導入する工程を繰り返す。Al原料とN原料とを交互に炉内へ導入することにより、AlNを低温で成長させたとしても結晶性を向上させることができる。
【0069】
TMA及びNH
3を供給する時間はそれぞれ0.5〜10秒が好ましい。TMAの供給時間が0.5秒よりも短くなるとAlNの成長速度が遅くなり、生産性に悪影響を及ぼすからであり、TMAの供給時間が10秒よりも長くなるとAlNの結晶性が悪化するからである。またNH
3の供給時間が0.5秒よりも短くなるとAl液滴が成長表面に残留して結晶成長が阻害されるからであり、NH
3の供給時間を10秒よりも長くするとAlN初期成長段階でNH
3の過剰供給によりSi基板の窒化が進み、AlNの結晶性が悪化するからである。なお、原料供給の中断時間は0〜10秒が好ましい。原料供給の中断時間を短く、あるいは無くしても結晶性にはあまり影響しないが、原料供給の中断時間を10秒よりも長くすると生産性が悪化するからである。
【0070】
AlNの原料を導入する順序については、NH
3よりもTMAを先に導入することが好ましい。NH
3を先に導入するとSi基板10の表面がNH
3と反応して窒化され、結晶性の良いAlNを成長させることができないからである。特に、Si基板10の面内の温度分布が不均一である場合にSi基板10の表面が荒れてその後のAlNやInAlGaNの結晶性が悪化するという事態を、回避することができる。
【0071】
NH
3よりもTMAを先に導入する場合、TMAが分解したAl原子がSi基板10の全面に1~10原子層いきわたるように、NH
3よりもTMAを3〜30秒先に供給することが好ましい。Al原子層が1原子層より薄い場合はSi基板とNH
3が反応して窒化され、結晶性の悪化を招く。一方で、Al原子層が10原子層より厚い場合は、Si表面にAlドロップレットが発生し、Siとの合金化が進む。その結果、合金化された基板上でAlNの結晶性悪化が発生する。
【0072】
第一AlNバッファ層21の成長温度は400〜800℃であることが好ましく、400〜600℃であることが特に好ましい。成長温度が400℃よりも低い場合には結晶性の良いAlNが得られず、800℃より高い場合にはSi基板10へのIII族元素の拡散を抑制する効果が小さいからである。TMAとNH
3を交互に供給する場合、比較的低い温度でも結晶性の良好なAlNを成長させることができることから、第一AlNバッファ層21の成長温度を600℃以下にすることは効果的である。第一AlNバッファ層21の成長温度が600℃以下であればSi基板10へのIII族元素の拡散を抑制する効果を十分に高めることができる。またTMAとNH
3を交互に供給する場合にはAlNの結晶性を良好にすることができるだけでなく、III族元素の拡散を抑制する効果を高めることができ、600℃以上の温度でAlNを成長させる場合には有利である。
【0073】
第二AlNバッファ層22の形成(ステップS12B)において、Al原料であるTMAとN原料であるNH
3は同時に供給される。上記のように、800℃以下の低温ではTMAとNH
3を交互に供給することで結晶性を向上させることができるが、900℃以上の高温ではTMAとNH
3を連続供給することで結晶性の向上を図りつつ成長時間の短縮化による生産性の向上を図ることができる。
【0074】
以上説明したように、本実施形態によるIII族窒化物半導体基板1の製造方法は、AlNバッファ層20を400〜800℃の低温と900〜1200℃の高温の2段階で成長させると共に、第一AlNバッファ層21を形成する際にAl原料とN原料とを交互に供給するので、AlNバッファ層20の結晶性を良好にすることができ、特に第一AlNバッファ層21を400〜600℃の低温で成長させる際に問題となる結晶性の悪化を抑えることができ、あるいは600℃以上の成長温度であってもIII族元素の拡散を十分に抑制することができる。
【0075】
図4は、本発明の第3の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板1の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0076】
図4に示すように、このIII族窒化物半導体基板1の製造方法の特徴は、第一AlNバッファ層21の形成(ステップS12A)のみならず第二AlNバッファ層22の形成(ステップS12B)においてもTMAとNH
3を交互に供給する点にある。TMA及びNH
3の交互供給条件は第一AlNバッファ層21の場合と同様である。その他の条件も第2の実施の形態と同様である。本実施形態によれば、第2の実施の形態の効果に加えて、AlNバッファ層の結晶性をさらに良好にすることができる。すなわち、基板上でのTMAとNH
3の不均一反応を抑制することができ、AlNの面内膜厚分布を良好にすることができる。原料の交互供給は、AlNの膜厚分布を改善するだけでなく、デバイス活性層となるIII族窒化物半導体層の濃度分布を改善する効果もある。なお低温成長時からAl原料とN原料を交互に供給ことによってAlNの均一性の改善効果は高まるが、高温成長時にのみAl原料とN原料を交互に供給するだけでもAlNの均一性を改善する効果がある。
【0077】
図5は、本発明の第2の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の構造を示す略断面図である。
【0078】
図5に示すように、このIII族窒化物半導体基板2の特徴は、III族窒化物半導体層30が二層構造であり、第一III族窒化物半導体層31と
第二III族窒化物半導体層32とが順に積層されている点にある。第一III族窒化物半導体層31は400〜800℃の低温で成長させた層であり、第二III族窒化物半導体層32は900〜1200℃の高温で成長させた層である。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。III族窒化物半導体層30を二層構造とすることにより、III族元素がAlNバッファ層20を通ってSi基板10中へ拡散することを抑制すると共に、III族窒化物半導体層30の結晶性を良好にすることができる。
【0079】
図6は、本発明の第4の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0080】
図6に示すように、このIII族窒化物半導体基板2の製造方法の特徴は、Si基板10上に第一AlNバッファ層21及び第二AlNバッファ層22を順に形成する工程(ステップS12A,12B)の後、第一III族窒化物半導体層31を400〜800℃で形成する工程(ステップS13A)と、第二III族窒化物半導体層32を900〜1200℃で形成する工程(ステップS13B)とを順に実施する点にある。
【0081】
第一III族窒化物半導体層31の成長温度は400〜800℃であることが好ましく、第二III族窒化物半導体層32の成長温度は900〜1200℃であることが好ましい。また第二III族窒化物半導体層32を構成するIII族元素の組成は、第一III族窒化物半導体層31と異なっていてもよい。したがって、例えば、第一III族窒化物半導体層31をAlGaN層とし、第二III族窒化物半導体層32をGaN層としてもよい。第一III族窒化物半導体層31をAlGaN層とすることによりSi基板中へのGaの拡散を抑制する効果を高めることができる。
【0082】
III族窒化物半導体層30の形成では、まずTMAの供給を停止して炉内温度を
400〜800℃まで降温する。降温の際にNH
3の供給を中断しても構わないが、生産性を考慮するとNH
3を供給しながら降温させるほうが好ましい。その後、III族原料をNH
3と共に供給してIII族窒化物半導体層30を成長させる。
【0083】
AlNバッファ層20上にIII族窒化物半導体層30を成長させる工程においてもIII族元素が第一及び第二AlNバッファ層21,22を通ってSi基板10中へ拡散するおそれがあるが、厚さが200nm以下の成長初期ではIII族窒化物半導体層を400〜800℃の低温で成長させ、その後、200nm以上の厚さでは結晶性を向上させるためにIII族窒化物半導体層を900〜1200℃の高温で成長させるので、III族窒化物半導体の結晶品質を維持しつつ、Si基板中へのIII族元素の拡散をさらに低減することができる。また、III族窒化物半導体層を低温で成長させる際にIII族原料とV族原料とを交互に供給するので、III族窒化物の結晶性を良好にすることができ、III族窒化物半導体層を400〜600℃の低温で成長させたときに問題となる結晶性の悪化を抑えることができる。
【0084】
図7は、本発明の第5の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0085】
図7に示すように、このIII族窒化物半導体基板2の製造方法の特徴は、第一AlNバッファ層21の形成(ステップ12A)のみならず第一III族窒化物半導体層31の形成(ステップ13A)においてもIII族原料とV族原料を交互に供給する点にある。その他の条件は第4の実施の形態と同様である。このように、第一III族窒化物半導体層31を成長させる際にIII族原料とV族原料を交互に炉内へ導入することにより、低温成長での結晶性を向上させることが可能である。
【0086】
図8は、本発明の第6の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0087】
図8に示すように、このIII族窒化物半導体基板の製造方法の特徴は、第3及び第5の実施の形態の組み合わせであって、第一AlNバッファ層21、第二AlNバッファ層22及び第一III族窒化物半導体層31の形成(ステップS12A,S12B,S13A)においてIII族原料とV族原料を交互に供給する点にある。その他の条件は第3又は第5の実施の形態と同様である。このように、AlNバッファ層及びIII族窒化物半導体層を成長させる際にIII族原料とV族原料を交互に炉内へ導入することにより、低温成長での結晶性をさらに向上させることが可能である。
【0088】
図9は、本発明の第3の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の構成を示す略断面図である。
【0089】
図9に示すように、このIII族窒化物半導体基板3の特徴は、Si基板10と、Si基板10上に形成されたAlNバッファ層20と、AlNバッファ層20上に形成されたIII族窒化物半導体層30とを備え、AlNバッファ層20が900〜1200℃で成長させた高温バッファ層からなり、Si基板10がIII族元素の拡散に伴うキャリアの増加を抑えるC、Ge、Sn、O、H又はV族元素(N、P、As、Sb)の不純物を含む点にある。その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0090】
図10は、本発明の第7の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0091】
図10に示すように、本実施形態によるIII族窒化物半導体基板3の製造方法では、まず抵抗率が100Ωcm以上であって、C、Ge、Sn、O、H又はV族元素(N、P、As、Sb)を1×10
12〜1×10
19atoms/cm
3含むSi基板10を用意する。これらの不純物は、表面から深さ0.5〜10umの表層部10aにのみ含まれていてもよく、基板全体に含まれていてもよい。これらの不純物は、Si基板10中にIII族元素が拡散することによるキャリアの増加を抑える役割を果たすものである。
【0092】
<C>
Si基板10がCを含む場合、少なくとも表層部10aにおけるCの濃度が1×10
14〜1×10
17atoms/cm
3であることが好ましい。この場合において、Si基板全体のCの濃度が1×10
14〜1×10
17atoms/cm
3であってもよく、あるいは表層部10aのみが1×10
14〜1×10
17atoms/cm
3であり、表層部10aよりも深い基板内部が1×10
14atoms/cm
3以下であってもよい。
【0093】
<Ge、Sn>
Si基板10がGe又はSnを含む場合、少なくとも表層部10aにおけるGe又はSnの濃度が1×10
14〜1×10
20atoms/cm
3であることが好ましい。この場合において、Si基板全体のGe又はSnの濃度が1×10
14〜1×10
20atoms/cm
3であってもよく、あるいは表層部10aのみが1×10
14〜1×10
20atoms/cm
3であり、表層部10aよりも深い基板内部が1×10
14atoms/cm
3以下であってもよい。
【0094】
<O>
Si基板10は、表層部10aにOをより多く含むものであってもよい。この場合において、Si基板全体のOの濃度が1×10
15〜1×10
18atoms/cm
3であってもよく、あるいは表層部10aのみが1×10
15〜1×10
18atoms/cm
3であり、表層部10aよりも深い基板内部が1×10
14atoms/cm
3以下であってもよい。なおOの濃度を表層部10aのみ高くする場合には、Si基板表面へのイオン注入により行うことができる。
【0095】
<H>
Si基板10は、表層部10aにHをより多く含むものであってもよい。この場合、Si基板10の表層部10aにおけるHの濃度が1×10
15〜1×10
18atoms/cm
3であり、表層部10aよりも深い基板内部におけるHの濃度が表層部10aよりも低く、1×10
14atoms/cm
3以下であることが好ましい。
【0096】
<V族元素>
Si基板10は、表層部10aにV族元素(N、P、As、Sb)をより多く含むものであってもよい。この場合、表層部10aにおけるV族元素の濃度が1×10
12〜1×10
19atoms/cm
3であり、表層部10aよりも深い基板内部におけるV族元素の濃度は表層部10aよりも低く、1×10
14atoms/cm
3以下であることが好ましい。Si基板10中のV族元素の深さ方向の濃度分布は、表面で最も高く、表面から基板内部に向かって徐々に減少する濃度勾配を有することが好ましい。
【0097】
<N以外のV族元素>
Si基板10中に拡散したIII族元素によるキャリアの増加を抑えるためのV族元素は、Si基板10側ではなく、Si基板10の表面と接するAlNバッファ層20側に含まれていてもよい。キャリアの増加を抑えるためのV族元素を含むAlNバッファ層20は、後述するAlNバッファ層20を形成する工程(ステップS12)においてN以外のV族原料(P、As、Sb)をIII族原料と一緒に炉内に導入することにより形成することができる。
【0098】
次にSi基板10の上面にAlNバッファ層20を900〜1200℃の高温で成長させる(ステップS12)。このときSi基板10中にAlやGaなどIII族元素が拡散しても、C、Ge、Sn、O、H又はV族元素がこれらIII族元素のキャリアを不活性化させるので、Si基板10の表面の抵抗率の低下を抑制することができる。したがって、これらの特別なSi基板10を用いることによりSi基板中にAlやGaなどIII族元素が拡散しても表面の抵抗率の低下を抑制することができる。
【0099】
その後、AlNバッファ層20上にIII族窒化物半導体層30を900〜1200℃の高温で成長させる(ステップS13)ことにより、III族窒化物半導体基板3が完成する。
【0100】
上記のように、AlNバッファ層20をその成長初期から900〜1200℃の高温で成長させる場合には、Si基板10中にAlやGaなどのIII族元素が拡散してSi基板10の表面の抵抗率が低下する。しかし、Si基板10の表層部10aがIII族元素の拡散によるキャリアの増加を抑える不純物を含んでいる場合には、Si基板10中にIII族元素が拡散してもSi基板10の表面の抵抗率の低下を抑制することができる。したがって、AlNバッファ層20を成長初期から900〜1200℃の高温で成長させることができ、結晶性の良好なAlNを成長させることができる。
【0101】
III族元素の拡散に伴うキャリアの増加を抑えるC等の不純物を含有するSi基板は、上述した第1〜第6の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法において採用することも可能であるが、III族元素の拡散量(III族拡散プロファイル)を考慮してSi基板中の不純物の濃度(V族拡散プロファイル)を決定する必要がある。すなわちAlNバッファ層を900〜1200℃の高温でのみ成長させる場合のようにIII族元素の拡散を抑えるプロセスを適用しない場合には、III族元素の拡散量が多くなるので、Si基板中の不純物の濃度を高くする必要があるが、第6の実施の形態のようなIII族元素の拡散を抑える効果が高いプロセスを適用する場合には、Si基板中へのIII族元素の拡散量が非常に少ないので、Si基板中の不純物の濃度を低くする必要がある。
【0102】
図11は、本発明の第8の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0103】
図11に示すように、このIII族窒化物半導体基板1の製造方法の特徴は、Si基板10上にAlNバッファ層20を形成した後であってIII族窒化物半導体層30を形成する前に、900〜1450℃の熱処理を行う点にある。すなわち、本実施形態による製造方法は、Si基板10を準備する工程(ステップS11)と、Si基板10上に第一AlNバッファ層21を形成する工程(ステップS12A)と、第一AlNバッファ層21上に第二AlNバッファ層22を形成する工程(ステップS12B)と、Si基板10を熱処理する工程(ステップS20)と、第二AlNバッファ層22上にIII族窒化物半導体層30を形成する工程(ステップS13)とを有している。その他の条件は第1の実施の形態と同様である。
【0104】
熱処理はNH
3雰囲気で行うことが好ましく、AlNバッファ層20を形成したときと同一の炉内で一連のプロセスとして実施することが好ましいが、炉内から取り出して別の熱処理炉で処理してもよい。同一炉内で熱処理する場合にはあまり高温を制御できないが、プロセスの簡略化により生産性を高めることができる。熱処理時間は5分から1時間が適当である。熱処理時間が5分よりも短い場合には拡散距離が短く抵抗率を十分に回復させることができないからであり、1時間よりも長い場合には生産性が悪化するからである。
【0105】
上記のように、熱処理温度は900〜1450℃であることが好ましい。熱処理温度が900℃よりも低い場合には拡散距離が短く長時間の熱処理が必要になるからであり、1450℃よりも高い場合にはSi基板10が溶融してしまうからである。このように、AlNバッファ層20の形成後に熱処理を行うことにより、AlNバッファ層20の形成時にSi基板10中に拡散したIII族元素を基板表面から内部にさらに拡散させることができるので、基板表面の抵抗率の低下を抑制することができる。
【0106】
なお本実施形態における熱処理工程(ステップS20)は、第1の実施の形態に適用しているが、第2〜第7の実施の形態に対して適用することも可能である。また特に、通常のSi基板を用いて
図10に示したAlNバッファ層20及びIII族窒化物半導体層30を順に形成する場合に対しても有効である。
【0107】
図12は、本発明の第9の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法に用いるSi基板の構造を示す図であって、上側はSi基板の平面図、下側はSi基板の側面図である。
【0108】
図12に示すように、このIII族窒化物半導体基板1の製造方法の特徴は、シリコン単結晶の(111)面から0.1〜1.5°の範囲内で<112>方向に傾斜した主面を有するSi基板10を用いる点にある。Si基板10上にAlNバッファ層20及びIII族窒化物半導体層30を成長させる方法は、第1〜第8の実施の形態のいずれの方法であってもよい。
【0109】
Si基板10の主面の傾斜角度は0.1〜1.5°であることが好ましい。(111)面に対する傾斜角度が0.1°よりも小さい場合には、III族窒化物半導体が島状に成長することで表面に不規則な凹凸が発生するからであり、傾斜角度が1.5°よりも大きい場合には下地のAlNバッファ層の表面が粗くなり、その上に成長させたIII族窒化物半導体層30の表面粗さが粗くなるからである。傾斜角度が0.1〜1.5°の範囲内であれば、Si基板10の表面に微小なステップが存在し、それに倣ってIII族窒化物半導体層30が成長するため、表面粗さを抑制することができる。
【0110】
Si基板10の主面の傾斜方向は<112>方向(矢印(A)参照)であることが好ましい。傾斜方向が<112>方向である場合には、六方晶のIII族窒化物半導体材料における(1-100)面で会合するため、他の方向に比べて表面モフォロジーが良くなり、表面粗さが小さくなるからである。
【0111】
以上説明したように、本実施形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は、面方位が(111)面に対して僅かに傾斜したSi基板10を用いているので、Si基板10上にAlNバッファ層20を介してIII族窒化物半導体層30を成長させるプロセスにおいてIII族窒化物半導体層30の上面の表面粗さを改善することができる。したがって、III族窒化物半導体層の上面に作成されるデバイスの界面散乱を抑制してデバイス特性を向上させることができる。
【0112】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0113】
例えば、上述した第1〜第9の実施の形態によるIII族窒化物半導体基板の製造方法は適宜組み合わせることができる。したがって、上述したように、第1〜第6の実施の形態による半導体基板の製造方法において、III族元素の拡散に伴うキャリアの増加を抑える不純物元素を含むSi基板10(第7の実施の形態)を用いることも可能である。また第8の実施の形態における熱処理を第1〜第7の実施の形態において採用してもよく、第9の実施の形態におけるSi基板10を第1〜第8の実施の形態において採用してもよい。
【実施例】
【0114】
<実施例1>
抵抗率1000Ωcm、面方位(111)のSi基板をHF及びSC-1で洗浄した後、MOCVD炉内にセットした。次に炉内温度を550℃まで昇温した後、炉内にTMAとNH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、Si基板の上面に第一AlN層を30nm成長させた。その後、原料を供給し続けながら炉内温度を1100℃まで昇温し、第一AlN層の上面に第二AlN層を70nm成長させた。
【0115】
次に、TMAの供給を停止し、NH
3を供給し続けながら炉内温度を1050℃まで降温した後、Ga源としてのTMG(トリメチルガリウム)を供給して第二AlN層の上面にGaN層を1um成長させた。こうして、Si基板上に第一AlN層、第二AlN層、GaN層が順に積層された実施例1のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0116】
<実施例2>
第一AlN層を成長させる際にTMA及びNH
3を交互に供給する手法を用いた点以外は実施例1と同じ条件でIII族窒化物半導体基板を製造した。Si基板の準備は実施例1と同様である。次に、炉内温度を550℃で安定させた炉内にTMAをH
2キャリアガスとともに3秒導入し、H
2キャリアガスのみを3秒導入し、その後NH
3をH
2キャリアガスとともに3秒導入し、H
2キャリアガスのみを6秒導入した。これを繰り返し、第一AlN層を30nm成長させた。その後、炉内温度を1100℃まで昇温した後、TMAとNH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、第二AlN層を70nm成長させた。
【0117】
次に、TMAの供給を停止し、NH
3を供給し続けながら炉内温度を1050℃まで降温した後、Ga源としてのTMGを供給して第二AlN層上にGaN層を1um成長させた。こうして実施例2のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0118】
<実施例3>
第一AlN層のみならず第二AlN層を成長させる際にもTMA及びNH
3を交互に供給する手法を用いた点以外は実施例1と同じ条件でIII族窒化物半導体基板を製造した。Si基板の準備から第一AlN層の成長までは実施例2と同様である。
【0119】
次に、炉内温度を1100℃まで昇温した後、TMAをH
2キャリアガスとともに3秒導入し、H
2キャリアガスのみを3秒導入し、その後NH
3をH
2キャリアガスとともに3秒導入し、H
2キャリアガスのみを6秒導入した。これを繰り返し、第二AlN層を70nm成長させた。
【0120】
その後、実施例1と同様にGaN層を1um成長させた。こうして実施例3のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0121】
<実施例4>
GaN層を成長させる際に低温と高温の2段階の温度で成長させる手法を用いた点以外は実施例1と同じ条件でIII族窒化物半導体基板を製造した。Si基板の準備は実施例1と同様である。次に、炉内温度を650℃まで昇温して安定させた後、炉内にTMAとNH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、第一AlN層を30nm成長させた。
【0122】
その後、原料を供給し続けながら炉内温度を1100℃まで昇温し、第二AlN層を70nm成長させた。
【0123】
次に、炉内温度を750℃まで降温した後、TMGを導入して第一GaN層を約150nm成長させた。その後、TMG及びNH
3の供給を継続しながら炉内温度を1050℃まで昇温し、第二GaN層を約850nm成長させた。すなわち、第一GaN層及び第二GaN層の合計厚さが1umになるまで第二GaN層の成長を継続させた。こうして、Si基板上に第一AlN層、第二AlN層、第一GaN層、第二GaN層が順に積層された実施例4のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0124】
<実施例5>
実施例4の第一GaN層に代えてAlGaN層を成長させるため、TMGとともにTMAを導入した点以外は実施例4と同じ条件でIII族窒化物半導体基板を完成させた。すなわち、Si基板上に第一AlN層、第二AlN層、AlGaN層、GaN層が順に積層された実施例5のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0125】
<実施例6>
実施例5の第一GaN層及を成長させる際にTMGとNH
3を交互に供給する手法を用いた。炉内温度を750℃で安定させた後、TMGをH
2キャリアガスとともに3秒導入し、H
2キャリアガスのみを3秒導入し、その後NH
3をH
2キャリアガスとともに3秒導入し、H
2キャリアガスのみを6秒導入した。これを繰り返し、第一GaN層を30nm成長させた。
【0126】
その後、TMG及びNH
3の同時供給に切り替え、炉内温度を1050℃まで昇温し、実施例4と同様に第二GaN層を970nm成長させた。こうして実施例6のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0127】
<実施例7>
AlN成膜プロセスは実施例3を同じ手法を使い、GaN成膜プロセスは実施例6と同じ手法を用いた。すなわち、AlN成膜プロセスでは、第一AlN層のみならず第二AlN層を成長させる際にもTMA及びNH
3を交互に供給した。また、GaN成膜プロセスでは、第一GaN層を成長させる際にTMGとNH
3を交互に供給し、第二GaN層を成長させる際にTMGとNH
3を同時に供給した。こうして、Si基板上に第一AlN層、第二AlN層、第一GaN層、第二GaN層が順に積層された実施例7のIII族窒化物半導体基板を完成させた。
【0128】
<実施例8>
Cがドープされた抵抗率1000ΩcmのSi基板を用意した。Si基板中のCの平均濃度は1×10
16atoms/cm
3であった。その後、650℃の炉内にTMAとNH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、Si基板上に第一AlN層を30nm成長させた。さらに、実施例1と同様に、第二AlN層を70nm成長させ、さらにGaN層を1um成長させた。こうして実施例8のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0129】
<実施例9>
Geがドープされた抵抗率1000ΩcmのSi基板を用意した。Si基板中のGeの平均濃度は1×10
18atoms/cm
3であった。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例9のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0130】
<実施例10>
Snがドープされた抵抗率1000ΩcmのSi基板を用意した。Si基板中のSnの平均濃度は1×10
18atoms/cm
3であった。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例10のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0131】
<実施例11>
抵抗率1000Ωcm、Oを1×10
17atoms/cm
3含むSi基板を準備し、このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例11のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0132】
<実施例12>
抵抗率1000ΩcmのSi基板の表面にCを1×10
16atoms/cm
3含むSiを5umエピタキシャル成長させた。これにより、表面から深さ5umまでの表層部にのみCを1×10
16atoms/cm
3含み、表層部よりも深い基板内部ではCの濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例12のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0133】
<実施例13>
抵抗率1000ΩcmのSi基板の表面にGeを1×10
18atoms/cm
3含むSi膜を5umエピタキシャル成長させた。これにより、表面から深さ5umまでの表層部にのみGeを1×10
18atoms/cm
3含み、表層部よりも深い基板内部ではGeの濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例13のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0134】
<実施例14>
抵抗率1000ΩcmのSi基板の表面にSnを1×10
18atoms/cm
3含むSi膜を5umエピタキシャル成長させた。これにより、表面から深さ5umまでの表層部にのみSnを1×10
18atoms/cm
3含み、表層部よりも深い基板内部ではSnの濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例14のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0135】
<実施例15>
抵抗率1000ΩcmのSi基板の表面にOをイオン注入した。これにより、表面から深さ5umまでの表層部にのみOをピーク濃度で1×10
17atoms/cm
3含み、表層部よりも深い基板内部ではOの濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例15のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0136】
<実施例16>
Si基板の表面にPを1×10
18atoms/cm
3含むSi膜を5umエピタキシャル成長させた。これにより、表面から深さ5umまでの表層部にのみPを1×10
16atoms/cm
3含み、表層部よりも深い基板内部ではPの濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例16のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0137】
<実施例17>
Si基板の表面にPを1×10
18atoms/cm
3含むSi膜を5umエピタキシャル成長させた。これにより、Pの表面濃度が1×10
16atoms/cm
3であり、深さ5umにかけてPの濃度が1×10
14atoms/cm
3に徐々に減少し、5umよりも深い基板内部のP濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例17のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0138】
<実施例18>
抵抗率1000ΩcmのSi基板の表面にHをイオン注入した。これにより、表面から深さ5umの表層部のHのピーク濃度が1×10
17atoms/cm
3であり、表層部よりも深い基板内部のH濃度が1×10
14atoms/cm
3であるSi基板を得た。このSi基板上に第一AlN層を30nm、第二AlN層を70nm、GaN層を1umそれぞれ成長させた。その他の条件は実施例8と同様とした。これにより、実施例18のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0139】
<実施例19>
抵抗率1000ΩcmのSi基板をHF及びSC-1で洗浄した後、MOCVD炉内にセットした。次に炉内温度を1100℃まで昇温し、安定させた後、炉内にTMA、NH
3及びPH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、Pがドープされた第一AlN層を30nm成長させた。なおPH
3の流量はSi基板のキャリア濃度をキャンセルできるように決定した。
【0140】
次に、炉内温度を1050℃まで降温した。降温時にTMAの供給は停止したがNH
3は供給し続けた。次に温度が1050℃で安定したところでGa源としてのTMGを供給してGaN層を1um成長させた。これにより、実施例19のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0141】
<実施例20>
Si基板上にAlN層を100nm成長させた後であってGaN層を1um成長させる前に、同一炉内で1100℃の熱処理を30分実施した点以外は実施例1と同じ条件で実施例20のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0142】
<比較例1>
抵抗率1000Ωcm、C、Ge、Sn、O、Pなどの不純物が1×10
15atoms/cm
3以下のSi基板を準備した。ベーキングまでは実施例1と同様に処理した。次に炉内温度を650℃で安定させた後、TMAとNH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、第一AlN層を30nm成長させた。その後、原料はそのままで炉内温度を1100℃まで昇温し、第二AlN層を成長させた。さらに、TMAの供給を遮断して炉内温度を1050℃まで降温した後、GaN層を1um成長させた。こうして、比較例1のIII族窒化物半導体基板を完成させた。
【0143】
<比較例2>
第一AlN層の成長温度を350℃に変更した点以外は実施例1と同じ条件で比較例2のIII族窒化物半導体基板を完成させた。
【0144】
<比較例3>
第二AlN層の成長温度を800℃に変更した点以外は実施例1と同じ条件で比較例3のIII族窒化物半導体基板を完成させた。
【0145】
以上の実施例1〜17並びに比較例1〜3のIII族窒化物半導体基板のGaN層の結晶性、Si基板の表面のGa及びAlの濃度、Si基板のキャリア濃度を評価した。GaN層の結晶性はX線のロッキングカーブの半値幅により相対的に評価した。相対評価の基準値は比較例1の値とした。半値幅は値が低いほど結晶性が良好なことを示す。
【0146】
Si基板の表面のGa及びAlの濃度はSIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析法)により評価した。またSi基板のキャリア濃度は広がり抵抗評価にて評価した。Si基板中のGa及びAlの濃度は低いほど良いが、重要なことはデバイス特性に影響を与えるキャリア濃度が低いことである。
【0147】
図13は、実施例1〜20並びに比較例1〜3のIII族窒化物半導体基板のGaN層の結晶性、Si基板の表面の不純物濃度、キャリア濃度の評価結果をまとめた表である。各項目の値は、比較例1の値を基準とする相対値である。
【0148】
図13に示すように、GaN層の結晶性に関して、実施例1〜19並びに比較例1の結晶性は1.2以下の良好な結果となった。特に、実施例2は第一AlN層の原料を交互供給としたので、実施例1よりも結晶性が良好となった。また実施例3は、第一AlN層の原料のみならず第二AlN層の原料も交互供給としたので、実施例2よりも結晶性がさらに良好となった。実施例4〜19は、第一AlN層の成長温度を650℃と少し高くしたことにより、実施例2よりも結晶性がさらに良好となった。
【0149】
一方、比較例2では第一AlN層の成長温度が350℃と低かったため結晶性の値が100となり、結晶性が悪化した。また比較例3では第二AlN層の成長温度が800℃と低かったため結晶性の値が30となり、結晶性が少し悪化した。
【0150】
Gaの濃度に関して、実施例1〜7並びに比較例2では第一AlN層を低温成長させたことでGaの拡散が抑えられ、これによりSi基板中のGa濃度は0.05以下の非常に低い値となった。特に実施例4では第一AlN層のみならず第一GaN層をも低温成長させたことでGa濃度が0.02となり、実施例5ではGaNに代えてAlGaNを低温成長させたことでGa濃度がさらに低下して0.01となった。実施例6では第一GaN層の原料を交互供給したことでGaの濃度が低下して0.01となった。実施例7では、第一AlN層の原料のみならず第二AlN層の原料も交互供給としたので、Ga濃度が低下して0.01となった。
【0151】
しかし、実施例8〜19並びに比較例1では第一AlN層の成長温度を650℃と少し高くしたことによりGaが拡散し、Si基板中のGa濃度は1となった。実施例20では、AlN層を形成した後の熱処理により基板表面のGaが基板内部に拡散し、基板表面のGa濃度が低下して0.05となった。
【0152】
Alの濃度に関して、実施例1〜7では、第一AlN層を低温成長させたことでAlの拡散が抑えられ、これによりSi基板中のAl濃度が0.04以下の非常に低い値となった。また比較例2では第一AlN層の成長温度が350℃と低く、比較例3では第二AlN層の成長温度が800℃と低かったため、Alの拡散が抑えられ、Si基板中のAl濃度は0.03以下の非常に低い値となった。
【0153】
しかし、実施例8〜19並びに比較例1では第一AlN層の成長温度を650℃と少し高くしたことによりAlが拡散し、Si基板中のAl濃度は1となった。実施例20では、AlN層を形成した後の熱処理により基板表面のGaが基板内部に拡散し、基板表面のGa濃度が低下した。
【0154】
キャリア濃度に関し、実施例1〜7では第一AlN層を低温成長させたことによりGaの拡散が抑えられ、これによりキャリア濃度が0.05以下の低い値となった。また実施例8〜18では、Si基板中にC等の不純物を含めたことでGaの拡散に伴うSi基板中のキャリアの増加が抑えられた。実施例19ではSi基板ではなく第一AlN層中にn型不純物であるPを含めたことでGaの拡散に伴うSi基板中のキャリアの増加が抑えられた。これらの結果の中では実施例17及び19のキャリア濃度が0.01と最も低く、通常のSi基板とほとんど変わらないキャリア濃度となった。
【0155】
しかし、比較例1では第一AlN層の成長温度が高く、高温成長させたことによりSi基板中にGaが拡散し、これによりキャリア濃度も1になった。比較例2は実施例1〜7と同様にキャリア濃度を低く抑えることができたが、比較例3はキャリア濃度の増加が見られた。実施例20では、AlN層を形成した後の熱処理により基板表面のGaが基板内部に拡散し、基板表面のGa濃度が低下した。
【0156】
<実施例21>
Si基板の面方位の影響について考察するため、(111)面に対して<112>方向(
図12の矢印(A)参照)に0.2°傾いた主面を有するSi基板を用意した。次に、Si基板をHF及びSC-1で洗浄を行った後、MOCVD炉内にセットし、炉内温度を1100℃まで昇温した後、炉内にTMAとNH
3をH
2キャリアガスとともに導入し、Si基板の上面にAlN層を100nm成長させた。次に、TMAの供給を遮断し、NH
3を供給し続けながら炉内温度を1050℃まで降温した後、Ga源としてのTMGを供給してAlN層の上面にGaN層を1um成長させた。こうして、Si基板上にAlN層及びGaN層が順に積層された実施例21のIII族窒化物半導体基板を得た。
【0157】
<実施例22>
実施例22は、Si基板の主面の(111)面に対する傾斜角度(オフ角度)を<112>方向に1.5°とした点以外は実施例21と同様である。
【0158】
<比較例4>
比較例4は、Si基板の主面の(111)面に対する傾斜角度を0°、すなわちSi基板の面方位を(111)面とした点以外は実施例21と同様である。
【0159】
<比較例5>
比較例5は、Si基板の主面の(111)面に対する傾斜角度を<112>方向に2°とした点以外は実施例21と同様である。
【0160】
<比較例6>
比較例6は、Si基板の主面の(111)面に対する傾斜角度を<112>方向から45°の方向(
図12の矢印(B)参照)に0.2°とした点以外は実施例21と同様である。
【0161】
<比較例7>
比較例7は、Si基板の主面の(111)面に対する傾斜角度を<110>方向(
図12の矢印(C)参照)に0.2°傾けた点以外は実施例21と同様である。
【0162】
以上のプロセスにより製造した実施例
21、22及び比較例4〜7のIII族窒化物半導体層の表面を原子間力顕微鏡で観察して表面粗さを評価した。表面粗さを評価する範囲は30um×30umと10um×10umの2通りとした。その結果を
図14に示す。
【0163】
図14に示すように、30um×30umの広い範囲での表面粗さは実施例21、22では1.2nm以下となったが、比較例4〜7では1.6nm以上となった。30um×30umでの表面粗さが1.3nmを超えるとデバイスに影響を与えるが、実施例21、22では1.3nmを下回る良好な結果となった。また、10um×10umの狭い範囲での表面粗さは実施例21、22及び比較例4では0.6nm以下となったが、比較例5〜7では1.0nm以上となった。10um×10umでの表面粗さが0.8umを超えるとデバイスに影響を与えるが、実施例21、22では0.8umを下回る良好な結果となった。