特許第6933360号(P6933360)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6933360
(24)【登録日】2021年8月23日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】アンチモンの分離および回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20210826BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20210826BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20210826BHJP
   C25C 1/12 20060101ALI20210826BHJP
   C25C 7/06 20060101ALI20210826BHJP
   C22B 30/02 20060101ALI20210826BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   B01J20/22 B
   C02F1/28 B
   B01J20/34 G
   C25C1/12
   C25C7/06 301A
   C22B30/02
   C22B3/24 101
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-109539(P2017-109539)
(22)【出願日】2017年6月1日
(65)【公開番号】特開2018-202314(P2018-202314A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】尾形 剛志
(72)【発明者】
【氏名】成田 弘一
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−080267(JP,A)
【文献】 特開2008−023440(JP,A)
【文献】 特許第3350917(JP,B2)
【文献】 特開2006−057118(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/093562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34、29/00−49/90
C02F 1/28、1/42、1/58−1/64
C22B 1/00−61/00
C25C 1/00−7/08
B01D 15/00−15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスを含む銅電解液中に溶存するアンチモンを前記ビスマスに対して選択的に吸着、回収するための吸着剤であって、タンニンを有効成分とする吸着剤。
【請求項2】
前記タンニンが不溶化されていることを特徴とする、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
アンチモンとビスマスを含む銅電解液を、タンニンを有効成分とする吸着剤に接触させて前記アンチモンを前記ビスマスに対して選択的に前記吸着剤に吸着させる吸着工程、及び、前記アンチモンが吸着した前記吸着剤を酸水溶液に接触させて前記アンチモンを脱着、回収し、前記吸着剤を再生させる回収工程を含むことを特徴とする、アンチモンの回収方法。
【請求項4】
前記酸水溶液が塩を添加した酸水溶液であることを特徴とする、請求項3に記載のアンチモンの回収方法。
【請求項5】
前記タンニンが不溶化されていることを特徴とする、請求項3または4に記載のアンチモンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中に存在するアンチモンを、吸着剤を用いて分離および回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンチモンは、原子番号51の元素であり、工業材料として多岐にわたる用途に用いられ、中でも最も需要が多い三酸化アンチモンは、難燃助剤やポリエチレンテレフタレートの重合触媒などに用いられている。特に、難燃助剤は、樹脂製品の難燃効果を向上させるために添加されることから、自動車や家電製品、建材などにおいて、軽量化のため、材質の金属から樹脂への置き換えが進んでいる中で、今後の使用量の増加が見込まれる。
一方で、世界のアンチモン鉱石の生産量の76%程度(2015年)は中国が占めており、供給構造の脆弱性が指摘されている。
【0003】
一方、銅電解精錬で使用される銅電解液には不純物としてアンチモン、ビスマスなどが含まれ、これらの成分が一定濃度を超えると製品である電気銅の品質に影響を及ぼすため、電解液からの除去が必要とされる。したがって、銅電解液からアンチモンを回収し、再利用することで、アンチモンの安定供給に寄与することができる。
【0004】
銅電解液からのアンチモンやビスマスの除去には、従来、吸着剤による吸着・分離プロセスが用いられている。吸着剤としては、主にアミノリン酸系キレート樹脂(例えばPurolite S950、Amberlite IRC747、エポラスMX-2など)やMRT系吸着剤(例えばSuperLig 83)が用いられている。従来法においては、これらの吸着剤を利用して、銅電解液からアンチモンを回収している。
例えば、特許文献1には、銅電解液中のアンチモンおよびビスマスをキレート樹脂(アミノリン酸系)に吸着させ、その後6mol/Lの塩酸で溶離させ、溶離液に水酸化ナトリウムを加え、pH1.5〜3.0に調整することで、アンチモンのみを沈殿させる手法が記載されている。
また、特許文献2には、銅電解液中の3価の鉄を2価に還元した後、ビスマス、アンチモンをキレート樹脂(アミノリン酸系)に吸着させ、その後、硫酸20〜30g/L、塩化ナトリウム水溶液120〜180g/Lからなる脱着液でビスマスを脱着させた後、硫酸100〜250g/L、塩化ナトリウム水溶液120〜180g/Lからなる脱着液でアンチモンを脱着する手法が記載されている。
また、非特許文献1には、MRT系吸着剤を用いることで、銅電解液中から販売可能なレベルの純度のアンチモン塩およびビスマス塩が副生成物として生産できることが記載されている。なお、非特許文献1には、アンチモン塩およびビスマス塩を得る具体的プロセスについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−057118号公報、アンチモンとビスマスの分離回収法
【特許文献2】特許第3350917号公報、銅電解精製における電解液中のアンチモン、ビスマスの選択的回収方法
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Izatt et al. Ind. Eng. Chem. Res., 39, 3405-3411 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アンチモンをアンチモン製品の二次原料として使用するためには、高純度のアンチモンを得る必要がある。
しかしながら、上述のとおり、銅電解液にはアンチモンに加えてビスマスや鉄などが含まれており、特にビスマスとアンチモンは同族であるため化学的性質が類似しており、従来の方法では、銅電解液から直接、一回の吸着および脱着プロセスのみにより、アンチモンのみを分離・回収することは困難であった。
すなわち、従来の吸着剤ではアンチモン、ビスマスを選択的に吸着・分離することができず、これら両方を一度吸着させた後、それぞれを相互分離する必要があった。例えば特許文献1では、アンチモンおよびビスマスを脱着させた液からアンチモンのみを沈殿分離しており、特許文献2では、脱着液の硫酸濃度を変えてビスマス、アンチモンをそれぞれ脱着させている。
また、これらの吸着剤は、銅電解液に共存するその他の不純物(3価の鉄イオンやヒ素など)も吸着するため、これらを除去するために、後段に精製プロセスを設けるか、前処理が必要となる。例えば特許文献2では、前処理として3価の鉄を2価に還元している。
さらに、従来の吸着剤は価格が高いことが問題となっていた。
【0008】
本発明は、従来技術のこれらの欠点を解消し、銅電解液から直接、一回の吸着および脱着プロセスでアンチモンのみを分離・回収することを可能とする吸着剤を開発することを課題とする。
本発明は、上記課題を解決するため、具体的には、(1)ビスマスは吸着せず、アンチモンのみを選択的に吸着する、(2)3価の鉄やヒ素といった不純物を吸着しない、(3)高濃度に存在する銅を吸着しない、(4)高濃度硫酸中においても安定である、および、(5)安価である、という要件を満たす吸着剤を開発することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ミモザ由来のタンニン(ミモザタンニン)をホルムアルデヒドにより架橋・不溶化処理して得られた粒子が、上記要件を満たし、銅電解液から直接、一回の吸着および脱着プロセスでアンチモンのみを分離・回収することを可能とする吸着剤として使用し得ることを見出した。
具体的には、本発明者らは、上記不溶化タンニン粒子が、銅電解液を模擬した高い硫酸濃度、銅濃度の水溶液からビスマスは吸着せず、アンチモンのみを選択的に吸着することが可能なこと、すなわち、ビスマスは吸着せず、アンチモンのみを選択的に吸着するとともに、高濃度に存在する銅を吸着せず、かつ、高濃度硫酸中においても安定であること(実施例1〜6、13)、3価の鉄を吸着しない(実施例7、13)ので、前処理の必要がないこと、また、ヒ素をほぼ吸着しない(実施例8、13)ので、後段に精製プロセスを設ける必要がないこと、さらに、アンチモンの吸着能(吸着容量、速度)に問題がないこと(実施例9、10)、吸着したアンチモンは容易に脱着可能であること(実施例11、12)を、それぞれ確認し、実用的なカラム試験においても、アンチモンを選択的に回収可能なこと(実施例13)を確認した。
本発明者らは、さらに、パイン由来のパインタンニン、ケブラチョ由来のケブラチョタンニンを不溶化して得られた粒子についても、ミモザタンニンと同様の、優れたアンチモン選択的吸着特性を有することを確認し、さらには、産地や採取時期の異なるミモザタンニンを不溶化して得られた粒子についても試験を行い、一般に天然物で問題になりやすい産地や採取時期、不純物等の影響が少なく、タンニンであれば、吸着性能にばらつきが少ない(実施例14〜17)ことを確認した。
天然の高分子であるタンニンは、それ自体非常に安価な原料であり、また、これを不溶化する吸着剤の作製方法も単純で、工程数および使用薬品も少量である(吸着剤1〜7作製方法参照)ため、上記吸着剤の価格は低く抑えられる。
本発明は、本発明者によるこれらの知見に基づいて、なされたものである。
【0010】
すなわち、この出願は以下の発明を提供するものである。
〈1〉水溶液中に溶存するアンチモンを選択的に吸着、回収するための吸着剤であって、タンニンを有効成分とする吸着剤。
〈2〉タンニンが不溶化されていることを特徴とする、〈1〉に記載の吸着剤。
〈3〉アンチモンを含む水溶液を〈1〉または〈2〉に記載の吸着剤に接触させて前記アンチモンを前記吸着剤に吸着させる吸着工程、及び、前記アンチモンが吸着した前記吸着剤を酸水溶液に接触させて前記アンチモンを脱着、回収し、前記吸着剤を再生させる回収工程を含むことを特徴とする、アンチモンの回収方法。
〈4〉前記酸水溶液が塩を添加した酸水溶液であることを特徴とする、〈3〉に記載のアンチモンの回収方法。
〈5〉前記アンチモンを含む水溶液が銅電解精錬で使用される銅電解液であることを特徴とする、〈3〉または〈4〉に記載のアンチモンの回収方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の吸着剤を用いることにより、1回の吸着および脱着プロセスにより、アンチモンを選択的に吸着・分離することが可能である。
本発明の吸着剤は、(1)ビスマスは吸着せず、アンチモンのみを選択的に吸着する、(2)3価の鉄やヒ素といった不純物を吸着しない、(3)高濃度に存在する銅を吸着しない、(4)高濃度硫酸中においても安定である、という特徴を有するため、高濃度の硫酸および銅を含み、さらにビスマス、3価の鉄、ヒ素等の成分も含む、銅電解精錬で使用される銅電解液についても、1回の吸着および脱着プロセスにより、アンチモンを選択的に吸着・分離することができる。
本発明の吸着剤に用いられるタンニンは、それ自体非常に安価な原料であり、また、これを不溶化する吸着剤の作製方法も単純で、工程数および使用薬品も少量であるため、本発明の吸着剤の価格は低く抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】各種吸着剤によるアンチモンの吸着試験の結果を示す図。
図2】各種吸着剤によるビスマスの吸着試験の結果を示す図。
図3】各種吸着剤によるアンチモン-ビスマス混合系における吸着試験の結果を示す図。
図4】各種吸着剤によるアンチモン吸着の硫酸濃度依存性を示す図。
図5】各種吸着剤によるビスマス吸着の硫酸濃度依存性を示す図。
図6】各種吸着剤による銅の吸着等温線。
図7】各種吸着剤による鉄の吸着等温線。
図8】各種吸着剤によるヒ素吸着の硫酸濃度依存性を示す図。
図9】各種吸着剤によるアンチモンの吸着等温線。
図10】吸着剤1(TG)によるアンチモンの吸着速度を示す図。
図11】各種酸によるアンチモンを吸着させた吸着剤1(TG)からのアンチモン脱着試験の結果を示す図。
図12】塩添加によるアンチモンを吸着させた吸着剤1(TG)からのアンチモン脱着試験の結果を示す図。
図13】吸着剤1(TG)充填カラムによるアンチモン回収を示す図。
図14】各種タンニン吸着剤によるアンチモン-ビスマス混合系における吸着試験の結果を示す図。
図15】各種タンニン吸着剤によるアンチモンの吸着等温線。
図16】各種ミモザタンニン吸着剤によるアンチモン-ビスマス混合系における吸着試験の結果を示す図。
図17】各種ミモザタンニン吸着剤によるアンチモンの吸着等温線。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の吸着剤には、タンニンが用いられる。タンニンとしては、例えば、ミモザから抽出したタンニン(ワットルタンニン)のほか、ケブラチョ、ガンビア、パイン、柿などから抽出したタンニン、チェストナッツ、オーク、タラや、植物に生成する没食子、五倍子などから抽出されたタンニンや、タンニン酸、没食子酸などが用いられる。
上記タンニンは単独で用いてもよく、また、由来、産地、採取時期等の異なる2種類以上のタンニンを組み合わせて用いてもよい。
【0014】
タンニンは、水溶性である場合が多く、吸着剤として用いるためには、水への不溶化が必要となる。不溶化の方法としては、例えば化学薬品もしくは物理的刺激による不溶化、各種担体へ保持させる(含浸、塗布、付着および吸着)、各種元素もしくは化合物とタンニンもしくはその塩との反応物(沈殿物など)の形成などが挙げられ、特に不溶化方法は問わないが、例えばホルムアルデヒドを用いて架橋するなどの、化学薬品による不溶化が好ましい。
不溶化物の形状については、例えば、粉状のもの、粒子状のもの、板状のもの、棒状のもの、管状のもの、繊維状のもの、膜状のものなどが挙げられ、特にその形状に制限はないが、粒子状のものが好ましい。
【0015】
本発明のアンチモン回収方法において、吸着剤と接触させ、吸着剤にアンチモンを選択的に吸着させる際に用いられる、吸着液のアンチモン濃度には、特に制限はない。ただし、吸着法は一般に被吸着物が比較的低濃度の溶液に用いられる方法なので、1g/L以下が好ましい。
吸着液の不純物濃度については、特に制限はない。
吸着液は酸性の水溶液であることが好ましく、吸着液に含まれる酸の種類は硫酸、硝酸が好ましい。酸が硫酸の場合、酸濃度は4mol/L以下が好ましい(酸濃度が高いとアンチモンの吸着率が低下し、不純物であるヒ素が吸着する(実施例4、8参照)。
吸着剤と吸着液を接触させる吸着時間は、バッチ方式では10分以上、好ましくは1時間以上、さらに好ましくは4時間以上であり(実施例10)、カラム方式では空間速度(SV)は2〜10 h-1程度、好ましくは2〜5 h-1である(実施例13)。
吸着の際の温度は、10〜80℃程度、好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは40〜60℃である(実施例9)。
【0016】
本発明のアンチモン回収方法において、吸着剤と接触させ、吸着剤に吸着されたアンチモンを脱着させる際に用いられる、脱着液としては、塩酸、硝酸、硫酸などの各種酸、好ましくは塩酸が用いられ(実施例11)、酸濃度は1mol/L以上が好ましく、さらに好ましくは4mol/L以上である。
また、脱着液として、酸に塩を添加した水溶液を用いることもできる(実施例12)。この場合の酸の種類は強酸であればよく、濃度は0.1mol/L以上、好ましくは1mol/Lであり、また、塩は塩化物イオンを含むもの(塩化ナトリウムなど)もしく酒石酸塩が好ましい。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
吸着剤1(TG)の作製方法
水酸化ナトリウム水溶液(0.225mol/L、50mL)に、ミモザタンニン(28g)を添加し、24時間撹拌を行なうことで十分に溶解させた。ホルムアルデヒド(37wt%、6mL)を添加し、撹拌しながら室温で1時間予備架橋を行なった。その後、80℃で24時間静置し、ゲル化させた。作製した塊状のゲルを粉砕し、125-250μmにふるい分けし、蒸留水、硝酸(0.05mol/L)、蒸留水で順次洗浄した。ろ別し、-30℃で凍らせた後、凍結乾燥装置により十分に凍結乾燥し、吸着剤1(TG)を得た。
【0019】
吸着剤2(PTG)および吸着剤3(QTG)の作製方法
水酸化ナトリウム水溶液(0.225mol/L、25mL)に、吸着剤2(PTG)ではパインタンニン(14g)を、吸着剤3(QTG)ではケブラチョタンニン(14g)を添加し、24時間撹拌を行なうことで十分に溶解させた。ホルムアルデヒド(37wt%、3mL)を添加し、撹拌しながら室温で1時間予備架橋を行なった。その後、80℃で24時間静置し、ゲル化させた。作製した塊状のゲルを粉砕し、125〜250μmにふるい分けし、蒸留水、硝酸(0.05mol/L)、蒸留水で順次洗浄した。ろ別し、-30℃で凍らせた後、凍結乾燥装置により十分に凍結乾燥し、吸着剤2(PTG)および吸着剤3(QTG)を得た。
【0020】
吸着剤4〜7(TG-A〜D)の作製方法
水酸化ナトリウム水溶液(0.225mol/L、12.5mL)に、産地、採取時期の異なるミモザタンニン(7g)を添加し、24時間撹拌を行なうことで十分に溶解させた。ホルムアルデヒド(37wt%、1.5mL)を添加し、撹拌しながら室温で1時間予備架橋を行なった。その後、80℃で24時間静置し、ゲル化させた。作製した塊状のゲルを粉砕し、125〜250μmにふるい分けし、蒸留水、硝酸(0.05mol/L)、蒸留水で順次洗浄した。ろ別し、-30℃で凍らせた後、凍結乾燥装置により十分に凍結乾燥し、吸着剤4〜7(TG-A〜D)を得た。
【0021】
比較用吸着剤
比較のため吸着試験を行なった吸着剤を表1にまとめる。
【表1】
表1:比較試験用の吸着剤
【0022】
実施例1
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物(和光純薬工業社製)を硫酸水溶液に200mg-Sb/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。この時、銅ありの系では硫酸銅(II)五水和物(和光純薬工業社製)を25g-Cu/Lとなるように添加した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R1〜9)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各吸着剤によるアンチモンの吸着試験結果を図1に示す。
銅なしの系では吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6〜9においてアンチモンの吸着が確認された。銅ありの系では銅なしの系と同様に吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6〜8においてアンチモンの吸着が確認されたが、比較用吸着剤R9においては、アンチモンは吸着しないことが明らかとなった。この結果より、吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6〜8によりアンチモンの吸着が可能であることが示唆された。
【0023】
実施例2
硝酸ビスマス(III)五水和物(和光純薬工業社製)を硫酸水溶液に200mg-Bi/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。この時、銅ありの系では硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように添加した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R1〜9)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のビスマス濃度を測定し、マスバランスからビスマスの吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各吸着剤によるビスマスの吸着試験結果を図2に示す。
銅なしの系では比較用吸着剤R3、R6〜9においてビスマスの吸着が確認された。銅ありの系では銅なしの系と同様に比較用吸着剤R3、R6〜8においてビスマスの吸着が確認されたが、比較用吸着剤R9ではビスマスの吸着率が著しく低下することが明らかとなった。この結果より、吸着剤1(TG)はビスマスを吸着しないことが明らかとなり、同条件においてはアンチモンが吸着することを鑑みるとアンチモンの選択的な吸着が期待できる。
【0024】
実施例3
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物および硝酸ビスマス(III)五水和物を硫酸水溶液に200mg-Sb及び200mg-Bi/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R1〜9)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中の金属イオン濃度を測定し、マスバランスからアンチモン、ビスマスおよび銅の吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各吸着剤による吸着試験結果を図3に示す。
アンチモンおよびビスマスの単独系での試験結果(図1、2)から示唆されたように、アンチモンでは吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6〜8、ビスマスでは比較用吸着剤R3、R6〜9においてそれぞれ吸着が確認された。この結果より、アンチモンを吸着し、ビスマスを吸着しない、つまりアンチモンを選択的に吸着可能である吸着剤は吸着剤1(TG)だけであることが明らかとなった。
【0025】
実施例4
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に200mg-Sb/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、任意の硫酸濃度に調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R6、8)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各種吸着剤によるアンチモン吸着の硫酸濃度依存性を図4に示す。
比較用吸着剤R6では、アンチモン吸着率は硫酸濃度に対して依存性は見られなかった。一方で、吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R8では、アンチモン吸着率は硫酸濃度に対して依存性があり、硫酸濃度が高くなるほどアンチモン吸着率は減少した。銅電解液に用いられる硫酸濃度域(2mol/L程度)では吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6、8は高いアンチモン吸着率を有することが明らかとなった。これらの結果より、硫酸濃度依存性が見られた吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R8では高濃度硫酸により吸着したアンチモンが脱着可能で、比較用吸着剤R6では硫酸ではアンチモンを脱着できないことが示唆された。
【0026】
実施例5
硝酸ビスマス(III)五水和物を硫酸水溶液に200mg-Bi/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、任意の硫酸濃度に調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R6、8)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のビスマス濃度を測定し、マスバランスからビスマスの吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各種吸着剤によるビスマス吸着の硫酸濃度依存性を図5に示す。
比較用吸着剤R6、8では、ビスマス吸着率は硫酸濃度に対して依存性があり、硫酸濃度が高くなるほどビスマス吸着率は減少した。特に比較用吸着剤R8で著しい吸着率の減少が確認された。また、吸着剤1(TG)では硫酸濃度に関係なくビスマスの吸着が確認されなかった。
【0027】
実施例6
硫酸銅(II)五水和物を硫酸水溶液に任意の濃度になるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R6、8)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中の銅濃度を測定し、マスバランスから銅の吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。各種吸着剤による銅の吸着等温線を図6に示す。
吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6、8において、銅の吸着は確認されなかった。このため、銅電解液から主要金属元素である銅を損失することなく、不純物を除去できることが示唆された。
【0028】
実施例7
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に4mmol/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸鉄(III)n水和物(和光純薬工業社製)を任意の濃度になるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R6、8)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中の鉄濃度を測定し、マスバランスから鉄の吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。各種吸着剤による鉄の吸着等温線を図7に示す。
比較用吸着剤R6においては、3価の鉄の吸着が確認された。一方で、吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R8では、3価の鉄を吸着しないことが明らかとなった。このため、吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R8では3価の鉄の吸着をさせないように前処理する必要がないことが示唆された。
【0029】
実施例8
ヒ酸(As(V))の系ではヒ酸水素二ナトリウム七水和物(和光純薬工業社製)、亜ヒ酸の系(As(III))では三酸化二ヒ素(Alfa Aesar)を硫酸水溶液に200mg-As/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、任意の硫酸濃度に調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のヒ素濃度を測定し、マスバランスからヒ素の吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各種吸着剤によるヒ素吸着の硫酸濃度依存性を図8に示す。
ヒ酸、亜ヒ酸ともに吸着率が硫酸濃度に依存し、アンチモンの吸着傾向とは異なり、硫酸濃度が高くなるほど、ヒ素吸着率も上昇した。また、銅電解液に用いられる硫酸濃度域(2mol/L程度)ではヒ素の吸着率は低いため、アンチモン脱着・回収時後に不純物除去プロセスを設ける必要がないことが示唆された。
【0030】
実施例9
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に任意の濃度になるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)および比較用吸着剤(R6、8)を10〜50mg加え、振とうしながら25、50℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。各種吸着剤によるアンチモンの吸着等温線を図9に示す。
試験温度25℃では、比較用吸着剤R6のアンチモン吸着容量が大きく、吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R8の吸着容量は同程度であった。試験温度50℃では、比較用吸着剤R6の吸着等温線は25℃の時と変化なく、吸着容量も大きいことが明らかとなった。また、比較用吸着剤R8の吸着容量は25℃の時と比較すると、著しく低下することが明らかとなった。これは酸による吸着剤の劣化が温度の高い領域では促進されたことが原因であると考えられる。一方、吸着剤1(TG)においてはアンチモンの吸着容量が25℃よりも50℃のほうが高いことが明らかとなった。実操業の銅電解液の温度は50℃程度であることを考慮すると、吸着剤1(TG)および比較用吸着剤R6はアンチモン吸着に使用可能であることが示唆された。
【0031】
実施例10
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に1mmol/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。この時、銅ありの系では硫酸銅(II)五水和物を25g/Lとなるように添加した。
吸着試験水溶液5mLに吸着剤1(TG)を50mg加え、振とうしながら25℃で吸着試験を行なった。所定の時間後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。吸着剤1(TG)によるアンチモンの吸着速度を図10に示す。
吸着剤1(TG)によるアンチモンの吸着速度は銅の有無には依存せず、同等であった。吸着開始から10分程度でアンチモン吸着率は50%に達し、4時間程度で吸着平衡に至ったことが明らかとなった。
【0032】
実施例11
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に4mmol/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
吸着試験水溶液60mLに吸着剤1(TG)を0.6g加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。吸着剤1(TG)によるアンチモンの吸着量は0.284mmol/gであった。
上記のアンチモン吸着後の吸着剤1(TG)10mgに脱着液5mL加え、振とうしながら25℃で2日間脱着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモン脱着率(%)を算出した。なお、脱着液には、任意の濃度に調製した塩酸、硫酸、硝酸を用いた。各種酸によるアンチモンを吸着させた吸着剤1(TG)からのアンチモン脱着試験結果を図8に示す。
脱着液として各種酸(塩酸、硫酸、硝酸)を用いた系では、脱着液の酸濃度を高くするほどアンチモンの脱着率が上昇することが確認された。特に塩酸では高い脱着率が得られ、4mol/L以上の塩酸では吸着したすべてのアンチモンが定量的に回収できることが明らかとなった。
【0033】
実施例12
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に4mmol/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
吸着試験水溶液60mLに吸着剤1(TG)を0.6g加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。吸着剤1(TG)によるアンチモンの吸着量は0.284mmol/gであった。
上記のアンチモン吸着後の吸着剤1(TG)10mgに脱着液5mL加え、振とうしながら25℃で2日間脱着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモン脱着率(%)を算出した。なお、脱着液には、1mol/Lの硫酸水溶液に任意の濃度の塩化ナトリウム水溶液もしくは酒石酸ナトリウムカリウム水溶液を加えたものを用いた。また、添加なしの系では1mol/Lの硫酸水溶液を脱着液として用いた。塩添加によるアンチモンを吸着させた吸着剤1(TG)からのアンチモン脱着試験結果を図12に示す。
脱着液として酸に塩(塩化ナトリウムおよび酒石酸ナトリウムカリウム)を添加したものを用いた系では、塩を添加していない1mol/Lの硫酸だけでは脱着率が20%程度だったのに対して、塩の添加により脱着率が上昇することが明らかとなった。これらは塩を添加することで、アンチモンと錯体を形成し、吸着剤からの脱着が促進したためであると考えられる。
【0034】
実施例13
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物、硝酸ビスマス(III)五水和物硫酸鉄(III)n水和物、三酸化二ヒ素を硫酸水溶液に200mg-Sb、200mg-Bi、200mg-Fe及び200mg-As/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
内径5mm、長さ10cmのガラスカラムに、吸着剤1(TG)を充填し(カラム体積: 1.96cm3)、200g/Lの硫酸水溶液を十分に通液させた。その後、吸着剤1(TG)を充填したカラムに吸着試験水溶液を定流量(0.098mL/分、空間速度: 3 h-1)で通液し、流出液を分取した。その後、洗浄液(200g/L硫酸水溶液)、脱着液(4mol/Lの塩酸水溶液)を順次流し、流出液を分取した。分取した各フラクションについて、ICP発光分析装置により水溶液中の各元素濃度Cを測定した。各元素の初期濃度C0対する各フラクションにおける各元素の濃度の変化を図13に示す。
吸着試験溶液を通液後、すぐにビスマス、ヒ素、鉄、銅はカラム内の吸着剤と相互作用せず、流出した。一方、アンチモンはカラム内に保持された。アンチモンが破過した後、4mol/Lの塩酸水溶液の脱着液で吸着した元素を脱着させた。脱着液中にはビスマス、ヒ素、鉄、銅はほとんど含有しておらず、アンチモンのみを選択的に回収することができた。また、回収されたアンチモンは初期濃度の13.3倍に濃縮することができた。この結果より吸着剤を充てんしたカラムに吸着試験水溶液を通液させるだけでアンチモンのみが選択的にカラム内に保持され、酸で容易に脱着・回収できることが明らかとなった。
【0035】
実施例14
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物および硝酸ビスマス(III)五水和物を硫酸水溶液に200mg-Sb及び200mg-Bi/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1〜3(TG、PTG、QTG)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中の金属イオン濃度を測定し、マスバランスからアンチモン、ビスマスおよび銅の吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各種タンニン吸着剤によるアンチモンの吸着試験結果を図14に示す。
吸着剤の原料がパインタンニン(PTG)およびケブラチョタンニン(QTG)であっても、ミモザタンニン(TG)と同様にアンチモンを選択的に吸着することが可能であることが明らかとなった。
【0036】
実施例15
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に任意の濃度になるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤1〜3(TG、PTG、QTG)を10〜50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。各種タンニン吸着剤によるアンチモンの吸着等温線を図15に示す。
吸着剤2(PTG)および吸着剤3(QTG)によるアンチモンの吸着容量は吸着剤1(TG)と比較して、若干小さくなることが明らかとなった。この吸着容量の違いは、吸着剤乾燥重量当たりの官能基量が異なっていることに起因していると推測される。
【0037】
実施例16
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物および硝酸ビスマス(III)五水和物を硫酸水溶液に200mg-Sb及び200mg-Bi/Lとなるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤4〜7(TG-A〜D)を50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中の金属イオン濃度を測定し、マスバランスからアンチモン、ビスマスおよび銅の吸着剤に対する吸着率(%)を算出した。各種ミモザタンニン吸着剤によるアンチモンの吸着試験結果を図16に示す。
産地、採取時期の異なるミモザタンニンを用いて作製した各吸着剤はアンチモンを選択的に吸着可能であることが明らかとなった。また、吸着率はバラつきが小さいことが明らかとなった。
【0038】
実施例17
ビス[(+)-タルトラト]二アンチモン(III)酸二カリウム三水和物を硫酸水溶液に任意の濃度になるように溶解し、硫酸銅(II)五水和物を25g-Cu/Lとなるように溶解し、硫酸濃度200g/Lに調整することで吸着試験水溶液を調製した。
各吸着試験水溶液5mLに吸着剤4〜7(TG-A〜D)を10〜50mg加え、振とうしながら25℃で3日間吸着試験を行なった。その後、溶液を採取し、0.20μmのメンブレンフィルターでろ過し、ICP発光分析装置により水溶液中のアンチモン濃度を測定し、マスバランスからアンチモンの吸着剤に対する吸着量(mmol/g)を算出した。各種ミモザタンニン吸着剤によるアンチモンの吸着等温線を図17に示す。
産地、採取時期の異なるミモザタンニンを用いて作製した各吸着剤によるアンチモン吸着容量はバラつきが小さいことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、アンチモン含有水溶液からアンチモンを選択的に簡便かつ安価に回収することができ、本発明は、特に銅精錬における銅電解液からのアンチモンの除去・回収、その他、廃水からのアンチモン除去(顔料製造工場、ガラス製造工場、鉄鋼事業所、繊維事業所、非鉄精錬所など)などに適用できる。
図1
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