特許第6933440号(P6933440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6933440ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物およびゴム架橋物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6933440
(24)【登録日】2021年8月23日
(45)【発行日】2021年9月8日
(54)【発明の名称】ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物およびゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/02 20060101AFI20210826BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20210826BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20210826BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20210826BHJP
【FI】
   C08L9/02
   C08J3/24 ZCEQ
   C08K5/103
   C08L71/00 Z
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-550944(P2015-550944)
(86)(22)【出願日】2014年11月26日
(86)【国際出願番号】JP2014081183
(87)【国際公開番号】WO2015080130
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年10月30日
【審判番号】不服2019-17403(P2019-17403/J1)
【審判請求日】2019年12月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-245735(P2013-245735)
(32)【優先日】2013年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 清香
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 杉江 渉
【審判官】 橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−105037(JP,A)
【文献】 特開2003−192848(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有し、ヨウ素価が25以下であるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)と、エーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位を有するポリエーテルエステル系可塑剤(B)と、有機過酸化物架橋剤とを含有してなる架橋性ゴム組成物であって、
前記ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)中における、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が10〜50重量%であり、
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の分子量が600〜2000である架橋性ゴム組成物。
【請求項2】
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の分子量が600〜1000である請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の分子量が850〜2000である請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の分子量が850〜1000である請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項5】
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【化3】
(上記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜100の炭化水素基、Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜60の炭化水素基であり、nは3〜20の整数である。)
【請求項6】
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)は、粘度が15〜200mPa・s/25℃、凝固点が10〜−20℃、SP値が7〜11(cal/cm1/2である請求項1〜5のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項7】
前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の配合量が、高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、1〜30重量部である請求項1〜6のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項8】
さらにベンズイミダゾール系老化防止剤を含有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫速度に優れ、かつ、優れた耐熱性および耐寒性を有するゴム架橋物を与えるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、および該組成物を架橋して得られるゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐油性、耐熱性および耐オゾン性に優れるゴムとして、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(「高飽和ニトリルゴム」とも言い、水素化ニトリルゴムはこれに含まれる。)が知られており、その架橋物はベルト、ホース、ガスケット、パッキン、オイルシールなど種々の自動車用ゴム製品の材料等に用いられている。近年、自動車エンジンの小型化、高出力化が進んでおり、このような状況に対応するために、これに用いられるニトリル基含有高飽和共重合体ゴムにも更なる耐熱性の向上が求められるようになっている。また、最近では、北欧やロシアなどの寒冷地で使用する場合も多くなって来ており、耐寒性をより一層向上させることも求められている。
【0003】
これに対して、特許文献1では、共重合体鎖中の結合各単量体単位の含有量が、(1)不飽和ニトリル系単量体単位10〜40重量%、(2)不飽和カルボン酸エステル系単量体単位1〜40重量%、(3)共役ジエン系単量体単位20重量%以下、(4)水素化共役ジエン系単量体単位、残りであり、かつ単量体単位(1)と単量体単位(2)の合計が30〜50重量%及び単量体単位(3)と単量体単位(4)の合計が50〜70重量%であるニトリル基含有高飽和共重合ゴムと配合剤とから成る耐寒性が改善されたゴム組成物が開示されている。
しかしながら、この特許文献1に開示されたゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物は、耐寒性はそれなりに改善されているが耐熱性が十分で無く、耐熱性および耐寒性のより一層の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−95242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、加硫速度に優れ、かつ、優れた耐熱性および耐寒性を有するゴム架橋物を与えるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、および該組成物を架橋して得られるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴムとして、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有するゴムを用い、かつ、これをエーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位を有するポリエーテルエステル系可塑剤と組み合わせることにより得られるゴム組成物が、加硫速度に優れ、しかも、耐熱性および耐寒性に優れたゴム架橋物を与えることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有し、ヨウ素価が25以下であるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)と、エーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位を有するポリエーテルエステル系可塑剤(B)と、有機過酸化物架橋剤とを含有してなる架橋性ゴム組成物であって、前記ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)中における、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が10〜50重量%である架橋性ゴム組成物が提供される。
【0008】
好ましくは、前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の分子量が600〜5000である。
好ましくは、前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)が、下記一般式(1)で表される化合物である。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜350の炭化水素基、Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜350の炭化水素基であり、nは3〜100の整数である。)
好ましくは、前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)は、粘度が15〜200mPa・s/25℃、凝固点が10〜−20℃、SP値が7〜11(cal/cm1/2である。
好ましくは、前記ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の配合量が、高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、1〜30重量部である。
【0009】
らに、本発明によれば、上記架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加硫速度に優れ、かつ、優れた耐熱性および耐寒性を有するゴム架橋物を与えるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、ならびに、該組成物を架橋して得られ、優れた耐熱性および耐寒性を有するゴム架橋物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物
本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下であるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)と、エーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位を有するポリエーテルエステル系可塑剤(B)とを含有してなる組成物である。
【0012】
ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)
本発明で用いるニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)(以下、「高飽和ニトリルゴム(A)」と記すことがある。)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を有し、ヨウ素価が120以下のゴムである。
【0013】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を形成するα,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリルなどが挙げられる。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは10〜30重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(「アクリル酸エステル単量体単位および/またはメタクリル酸エステル単量体単位」の意。以下同様。)を形成する(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸のエステルであれば特に限定されず、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メトキシメチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸シアノアルキルエステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル;などが挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル単量体は一種単独でも、複数種を併用してもよい。これらのなかでも、得られるゴム架橋物の耐寒性の改善効果が大きいことから、炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、炭素数2〜8のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、アクリル酸n−ブチルが特に好ましい。
【0016】
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐寒性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると、耐油性が低下するおそれがある。
【0017】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A)は、上記α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の他に、ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位を有していることが好ましい。これにより、得られるゴム架橋物のゴム弾性を向上させることができる。
【0018】
ジエン単量体単位を形成するジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数が4以上の共役ジエン単量体;1,4−ペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどの炭素数が5〜12の非共役ジエン単量体;などが挙げられる。これらの中では共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0019】
α−オレフィン単量体単位を形成するα−オレフィン単量体としては、炭素数が2〜12のものが好ましく、具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0020】
高飽和ニトリルゴム(A)にジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位を含有させる場合における、これらの含有割合は、高飽和ニトリルゴム(A)全体に対して、好ましくは35〜94重量%、より好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは40〜70重量%である。ジエン単量体単位および/またはα−オレフィン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0021】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、並びに、ジエン単量体および/またはα−オレフィン単量体、と共重合可能なその他の単量体の単位を含有することができる。このようなその他の単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル単量体、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体、芳香族ビニル単量体、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0022】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、たとえば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチルなどのマレイン酸モノアルキルエステル;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチルなどのマレイン酸モノシクロアルキルエステル;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシルなどのマレイン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチルなどのフマル酸モノアルキルエステル;フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチルなどのフマル酸モノシクロアルキルエステル;フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシルなどのフマル酸モノアルキルシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのシトラコン酸モノアルキルエステル;シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのシトラコン酸モノシクロアルキルエステル;シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのシトラコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチルなどのイタコン酸モノアルキルエステル;イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチルなどのイタコン酸モノシクロアルキルエステル;イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのイタコン酸モノアルキルシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジエステル単量体としては、たとえば、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジn−ブチルなどのマレイン酸ジアルキルエステル;フマル酸ジメチル、フマル酸ジn−ブチルなどのフマル酸ジアルキルエステル;マレイン酸ジシクロペンチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸ジシクロアルキルエステル;フマル酸ジシクロペンチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジシクロアルキルエステル;イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジn−ブチルなどのイタコン酸ジアルキルエステル:イタコン酸ジシクロヘキシルなどのイタコン酸ジシクロアルキルエステル;などが挙げられる。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。
α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体としては、無水マレイン酸などが挙げられる。
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0025】
フッ素含有ビニル単量体としては、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0026】
共重合性老化防止剤としては、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが例示される。
【0027】
これらの共重合可能なその他の単量体は、複数種類を併用してもよい。その他の単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0028】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A)は、そのヨウ素価が120以下であり、好ましくは80以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは20以下のものである。高飽和ニトリルゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0029】
本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、さらに好ましくは30〜120である。高飽和ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械特性が低下するおそれがあり、逆に、高すぎるとニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物の加工性が低下する可能性がある。
【0030】
また、本発明で用いる高飽和ニトリルゴム(A)の製造方法は、特に限定されず、たとえば、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、(メタ)アクリル酸エステル単量体、ジエン単量体および/またはα−オレフィン単量体、ならびに、必要に応じて加えられるこれらと共重合可能なその他の単量体を共重合する方法が便利で好ましい。重合法としては、公知の乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法および溶液重合法のいずれをも用いることができるが、重合反応の制御が容易であることから乳化重合法が好ましい。なお、共重合して得られた共重合体のヨウ素価が120より高い場合には、共重合体の水素化(水素添加反応)を行うとよい。この場合における、水素化の方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0031】
エーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位を有するポリエーテルエステル系可塑剤(B)
本発明で用いるエーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位を有するポリエーテルエステル系可塑剤(B)(以下、「ポリエーテルエステル系可塑剤(B)」と記すことがある。)は、エーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位と、エステル構造とを有する化合物であればよく、特に限定されない。本発明においては、上述したニトリル基含有高飽和共重合体ゴム(A)に、ポリエーテルエステル系可塑剤(B)を配合することで、ニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物を加硫速度に優れ、しかも、耐熱性および耐寒性に優れたゴム架橋物を与えるものとすることができるものである。
【0032】
本発明で用いるポリエーテルエステル系可塑剤(B)としては、エーテル化合物が3個以上連結してなる構造単位と、エステル構造とを有する化合物であればよいが、その分子量が600〜5000であるものが好ましく、600〜2000であるものがより好ましく、600〜1000であるものが特に好ましい。分子量が上記範囲にあるものを用いることで、ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の添加効果、すなわち、加硫速度の向上効果、ならびに、耐熱性および耐寒性の向上効果をより顕著なものとすることができる。
【0033】
また、本発明で用いるポリエーテルエステル系可塑剤(B)としては、下記一般式(1)で表される化合物が好適に挙げられる。
【化2】
上記一般式(1)中、Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜350の炭化水素基であり、好ましくは、水素原子、または炭素数1〜100の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子、または炭素数1〜60の炭化水素基である。Rは、それぞれ独立して、水素原子、または炭素数1〜350の炭化水素基であり、好ましくは、水素原子、または炭素数1〜100の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子、または炭素数1〜60の炭化水素基である。また、nは3〜100の整数であり、好ましくは3〜50の整数であり、特に好ましくは3〜20の整数である。
【0034】
なお、上記一般式(1)で表される化合物は、たとえば、対応するアルキレンオキサイドの重合体を得て、得られた重合体の末端水酸基と、対応するカルボン酸を反応させることで、エステル化することにより製造することができる。
【0035】
また、本発明で用いるポリエーテルエステル系可塑剤(B)としては、その添加効果をより高めることができるという点より、粘度、凝固点、SP値が、それぞれ以下の範囲にあるものが好ましい。すなわち、粘度は、好ましくは15〜200mPa・s/25℃、より好ましくは30〜200Pa・s/25℃、さらに好ましくは50〜120mPa・s/25℃である。凝固点は、好ましくは10〜−20℃、より好ましくは0〜−20℃、さらに好ましくは−2〜−15℃である。また、SP値(溶解度パラメータ)は、好ましくは7〜11(cal/cm1/2、より好ましくは8〜10(cal/cm1/2である。
【0036】
本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物中における、ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の配合量は、高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは1〜30重量部であり、より好ましくは2〜20重量部、さらに好ましくは5〜15重量部である。ポリエーテルエステル系可塑剤(B)の配合量が少なすぎると、その添加効果、すなわち、加硫速度の向上効果、ならびに、耐寒性および耐熱性の向上効果が得難くなり、一方、多すぎると、引張強さが低下するおそれがある。
【0037】
架橋性ゴム組成物
本発明の架橋性ゴム組成物は、上述した高飽和ニトリルゴム(A)およびポリエーテルエステル系可塑剤(B)を含むニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物に、架橋剤を配合してなるものである。架橋剤としては、特に限定されないが、硫黄系架橋剤や、有機過酸化物架橋剤が挙げられる。これらのなかでも、有機過酸化物架橋剤が好ましい。
【0038】
硫黄系架橋剤としては、粉末硫黄、硫黄華、沈降性硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄などの硫黄;塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’−ジチオ−ビス(ヘキサヒドロ−2H−アゼノピン−2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、2−(4’−モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなどの硫黄供与性化合物;などが挙げられる。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0039】
有機過酸化物架橋剤としては、ジクミルペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、パラメンタンヒドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,3−トリメチルシクロヘキサン、4,4−ビス−(t−ブチル−ペルオキシ)−n−ブチルバレレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキシン−3、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、p−クロロベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルペルオキシベンゾエート等が挙げられる。これらの中では1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンが好ましい。これらは一種単独でまたは複数種併せて用いることができる。
【0040】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、架橋剤の含有量は特に限定されないが、高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1〜10重量部、特に好ましくは1〜5重量部である。
【0041】
その他の配合剤等
また、本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、および架橋性ゴム組成物には、その他必要に応じて一般的なゴムに使用される配合剤、例えば、架橋遅延剤、老化防止剤、充填剤、補強剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、加工助剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤などの添加剤を配合してもよい。これらの配合剤の配合量は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば特に限定されず、目的に応じた量を適宜配合することができる。
【0042】
老化防止剤としては、フェノール系、アミン系、ベンズイミダゾール系、リン酸系などの老化防止剤を使用することができる。フェノール系では、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が、アミン系では、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン等が、ベンズイミダゾール系では2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール亜鉛塩等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上併せて使用される。
【0043】
また、充填剤としては、カーボンブラックや、シリカ、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、短繊維、(メタ)アクリル酸亜鉛や(メタ)アクリル酸マグネシウムなどのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩などが挙げられる。
【0044】
さらに、本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、および架橋性ゴム組成物には、本発明の効果が阻害されない範囲で、高飽和ニトリルゴム(A)以外のゴムを含有していてもよい。高飽和ニトリルゴム(A)以外のゴムとしては、特に限定されないが、アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体ゴム、フッ素ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、天然ゴムおよびポリイソプレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体などを挙げることができる。なお、高飽和ニトリルゴム(A)以外のゴムを配合する場合における配合量は、高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは100重量部以下、より好ましくは50重量部以下、特に好ましくは30重量部以下である。
【0045】
本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、および架橋性ゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合して調製される。本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物、および架橋性ゴム組成物を調製する方法に限定はないが、通常、架橋剤や熱に不安定な成分(たとえば、架橋助剤など)を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、ロールなどに移して架橋剤や熱に不安定な成分などを加えて二次混練することにより調製できる。
【0046】
ゴム架橋物
本発明のゴム架橋物は、上述した架橋性ゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形機、例えば押出機、射出成形機、圧縮機、ロールなどにより成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜200℃、好ましくは130〜190℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。
【0047】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0048】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0049】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、本発明のニトリル基含有高飽和共重合体ゴム組成物に、架橋剤を配合してなる架橋性ゴム組成物を用いて得られるものであるため、耐熱性および耐寒性に優れるものである。
【0050】
このため、本発明のゴム架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、化粧品、および医薬品の分野、食品と接触する分野、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0052】
高飽和ニトリルゴムを構成する各単量体単位の含有割合は、以下の方法により測定した。
すなわち、1,3−ブタジエン単位(飽和化されている部分も含む)の含有割合は、高飽和ニトリルゴムを用いて、水素添加反応前と水素添加反応後のヨウ素価(JIS K 6235による)を測定することにより算出した。
アクリロニトリル単位の含有割合は、JIS K6384に従い、ケルダール法により、高飽和ニトリルゴム中の窒素含量を測定することにより算出した。
アクリル酸n−ブチル単位の含有割合は、上記各単量体単位に対する残り成分として算出した。
【0053】
ヨウ素価
高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K 6235に準じて測定した。
【0054】
ムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)
高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマー・ムーニー)は、JIS K6300−1に従って測定した(単位は〔ML1+4、100℃〕)。
【0055】
架橋性試験
架橋性ゴム組成物について、ゴム架橋試験機(オシレーティングディスクレオメーターODR、東洋精機社製)を用い、170℃、30分の条件で架橋性試験を行った。そして、架橋性試験の結果から、最小トルク「ML」(単位は、dN・m)、最大トルク「MH」(単位は、dN・m)、およびT90(単位は、min.)を測定した。なおT90は、「最大トルクMH−最小トルクML」を100%としたときに、トルクが最小トルクMLから、90%上昇するのに要する時間を意味する。なお、T90が小さいほど、加硫速度が速く、生産性に優れると判断することができる。
【0056】
常態物性(引張強度、伸び、100%引張応力)
架橋性ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレス成形してシート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。そして、得られた試験片を用いて、JIS K6251に従い、ゴム架橋物の引張強度、伸び、および100%引張応力を測定した。
【0057】
耐熱老化試験
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、JIS K6257に従い、空気加熱老化試験を行った。具体的には、得られたシート状のゴム架橋物を温度150℃、336時間の条件でギヤーオーブンに保持した後、上記常態物性と同様にして引張試験を実施し、伸び変化率を測定した。伸び変化率の絶対値が小さいほど耐熱性に優れると判断できる。
【0058】
ゲーマン捻り試験
上記常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得た後、得られたシート状のゴム架橋物について、JIS K6261(2006)に準拠したゲーマン捻り試験を行い、室温(23℃)のモジュラスに対する比モジュラスが10倍になる温度T10を測定した。T10の値が低いほど耐寒性に優れると判断できる。
【0059】
合成例1(高飽和ニトリルゴム(A−1)の合成)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、それに脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル9部、アクリル酸n−ブチル15部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン35部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。重合転化率が60%になった時点で、アクリロニトリル10部、アクリル酸n−ブチル10部、1,3−ブタジエン21部を添加し、重合転化率が85%になった時点で、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ−タを用いて残留単量体を除去して、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0060】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴム(a−1)を得た。
【0061】
そして、得られたニトリルゴム(a−1)を、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴム(a−1)に対して400重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なって高飽和ニトリルゴム(A−1)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(A−1)の組成は、アクリロニトリル単位19重量%、アクリル酸n−ブチル単位35.5重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)45.5重量%であり、ヨウ素価は16、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は65であった。
【0062】
合成例2(高飽和ニトリルゴム(A−2)の合成)
合成例1で得られたニトリルゴム(a−1)を、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴム(a−1)に対して500重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なって高飽和ニトリルゴム(A−2)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(A−2)の組成は、アクリロニトリル単位19重量%、アクリル酸n−ブチル単位35.5重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)45.5重量%であり、ヨウ素価は10、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は70であった。
【0063】
合成例3(高飽和ニトリルゴム(A’−3)の合成)
反応器内でイオン交換水200部に、炭酸ナトリウム0.2部を溶解し、それに脂肪酸カリウム石鹸(脂肪酸のカリウム塩)2.25部を添加して石鹸水溶液を調製した。そして、この石鹸水溶液に、アクリロニトリル38部、およびt−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.45部をこの順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン62部を仕込んだ。次いで、反応器内を5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部、還元剤およびキレート剤適量を仕込み、重合反応を開始した。重合転化率が85%になった時点で、濃度10%のハイドロキノン(重合停止剤)水溶液0.1部を加えて重合反応を停止し、水温60℃のロータリーエバポレ−タを用いて残留単量体を除去して、ニトリルゴムのラテックス(固形分濃度約25重量%)を得た。
【0064】
次いで、上記にて得られたラテックスを、そのニトリルゴム分に対して3重量%となる量の硫酸アルミニウムの水溶液に加えて撹拌してラテックスを凝固し、水で洗浄しつつ濾別した後、60℃で12時間真空乾燥してニトリルゴム(a−2)を得た。
【0065】
そして、得られたニトリルゴム(a−2)を、濃度12%となるようにアセトンに溶解し、これをオートクレーブに入れ、パラジウム・シリカ触媒をニトリルゴムに対して500重量ppm加え、水素圧3.0MPaで水素添加反応を行なった。水素添加反応終了後、大量の水中に注いで凝固させ、濾別および乾燥を行なって高飽和ニトリルゴム(A’−3)を得た。得られた高飽和ニトリルゴム(A’−3)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、ブタジエン単位(飽和化されている部分を含む)64重量%であり、ヨウ素価は10、ポリマー・ムーニー粘度〔ML1+4、100℃〕は81であった。
【0066】
実施例1
バンバリーミキサを用いて、合成例1で得られた高飽和ニトリルゴム(A−1)100部に、FEFカーボン(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製、カーボンブラック)80部、ポリエーテルエステル系可塑剤(商品名「アデカサイザー RS−735」、ADEKA社製、分子量:850、粘度:80mPa・s/25℃、凝固点:−8℃、SP値:9.2(cal/cm1/2、上記一般式(1)で表される化合物)10部、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルルアミン(商品名「ナウガード445」、Crompton Corporation社製、老化防止剤)1部、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩(商品名「ノクラック MBZ」、大内振興化学社製、老化防止剤)1部、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン40%品(商品名「Vul Cup 40KE」、アルケマ社製、有機過酸化物架橋剤)6部を添加して混練することで、架橋性ゴム組成物を得た。
【0067】
そして、得られた架橋性ゴム組成物を用いて、上述した方法により、架橋性試験、常態物性、耐熱老化試験、ゲーマン捻り試験の各評価・試験を行った。結果を表1に示す。
【0068】
実施例2
高飽和ニトリルゴム(A−1)100部の代わりに、合成例2で得られた高飽和ニトリルゴム(A−2)100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0069】
実施例3
FEFカーボン(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製、カーボンブラック)の配合量を80部から50部に変更するとともに、メタクリル酸亜鉛15部をさらに配合した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0070】
比較例1
ポリエーテルエステル系可塑剤10部の代わりに、アジピン酸エーテルエステル系可塑剤(商品名「アデカサイザー RS−107」、ADEKA社製、分子量:434、粘度:20mPa・s/25℃、凝固点:−47℃、SP値:9.2(cal/cm1/2)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
比較例2
ポリエーテルエステル系可塑剤10部の代わりに、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(可塑剤、「商品名「アデカサイザー C−8」、ADEKA社製、分子量:547、粘度:220mPa・s/25℃、凝固点:−30℃、SP値:8.9(cal/cm1/2)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
比較例3
ポリエーテルエステル系可塑剤10部を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
比較例4
高飽和ニトリルゴム(A−1)100部の代わりに、合成例3で得られた高飽和ニトリルゴム(A’−3)100部を使用した以外は、実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物を調製し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
【表1】
なお、表1中において、「ブタジエン単位」の重量割合には、飽和化されているものも含まれている。
【0075】
表1に示すように、本発明所定の高飽和ニトリルゴム(A)、ポリエーテルエステル系可塑剤(B)を含有するゴム組成物は、加硫速度が速く、該ゴム組成物を用いて得られるゴム架橋物は、耐熱性および耐寒性に優れるものであった(実施例1〜3)。
【0076】
一方、ポリエーテルエステル系可塑剤(B)以外の可塑剤を用いた場合や、ポリエーテルエステル系可塑剤(B)を配合しなかった場合には、得られるゴム架橋物は、耐熱性に劣るものであった(比較例1〜3)。
さらに、高飽和ニトリルゴムとして、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有しない、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体ゴムを用いた場合には、得られるゴム架橋物は、耐熱性および耐寒性に劣るものであった(比較例4)。