(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態にかかる電気めっき装置100を示す断面図である。ただし、
図1およびその他の図は模式図であり、図面中の部品の形状、寸法および位置などは、実際の部品の形状、寸法および位置などと必ずしも一致するわけではない。
【0010】
本実施形態の電気めっき装置100はめっき槽110を備える。めっき槽110は、内部にめっき液を保持するために備えられている。好ましくは、めっき槽110の側部には、めっき槽110からオーバーフローしためっき液を受け止めるためのオーバーフロー槽120が設けられている。めっき槽110とオーバーフロー槽120は循環ライン121によって接続されている。オーバーフロー槽120に流れ込んだめっき液は、循環ライン121を通ってめっき槽110の内部へ戻る。
【0011】
電気めっき装置100は、基板131をめっき液に浸漬して保持するための基板ホルダ130を備える。基板ホルダ130は基板131を着脱自在かつ鉛直に保持するように構成されている。本実施形態における基板131は角形である。
【0012】
電気めっき装置100はさらに補助電極ユニット140を備える。補助電極ユニット140は、補助電極141と、電源150からの電力を補助電極141に供給するための給電要素142を備える。また、補助電極ユニット140は、補助電極141を保持する補助電極ホルダ(図示せず)を備えていてもよい。ここで、「補助電極」とは、「めっき加工がされることを意図されていない電極」、換言すれば「めっき加工を補助する電極」を意味する。「めっき加工がされることを意図されている電極」、換言すれば「補助電極によりめっき加工が補助される電極」は基板131である。一般的に、補助電極141は、基板131に印加される電圧の極性と逆の極性の電圧が印加される電極であるといえる。
【0013】
補助電極141は、めっき槽110の内部で基板131と対向する。補助電極141の少なくとも一部はめっき液に対して不溶性の材質から形成されている。補助電極141は、基板131と同様に角形に形成されている。なお、以下では、補助電極141のうち基板と対向する面(
図1の左側に図示される面)を「表面」と称する。さらに以下では、補助電極141のうち表面と逆側の面(
図1の右側に図示される面)を「裏面」と称する。
【0014】
給電要素142は補助電極141に固定されている。給電要素142の固定方法は任意の方法であってよく、たとえば固定具による固定または溶接による固定などを用いることができる。補助電極141と給電要素142とが電気的に接する点(以下では「給電点143」と称する。)が変更可能であるように、補助電極ユニット140が構成されていてもよい。補助電極141は、給電要素142を介して電源150に接続されている。
【0015】
図1では、補助電極141の中心部ただ1点にのみ給電点143が設けられているように図示されている。ただし、後述するように、給電点143の位置は補助電極141の中心部に限らない。同様に、給電点143の個数は1個に限らない。
【0016】
基板131は、基板ホルダ130に設けられた配線または電極などの部品を介して電源150に接続されている。本明細書では、基板ホルダ130に設けられた配線等の部品も基板ホルダ130の一部とみなされる。基板ホルダ130は、基板131の辺のうち、対向する2辺が電源150に接続されるように基板131を保持する。
【0017】
図1では、基板131が電源150の負極に接続され、補助電極141が電源150の正極に接続されるように図示されている。したがって、
図1の例では、補助電極141はアノードである。しかし、めっき加工の条件によっては、基板131および補助電極141に接続される電極の正負は反転し得る(補助電極141がカソードとなり得る)。電源150は電気めっき装置100と一体に、すなわち電気めっき装置100の一部として構成されていてもよい。追加または代替として、電源150として外部電源を用いてもよい。
【0018】
電気めっき装置100は、めっき液を撹拌するためのパドル160、および/または、めっき槽110の内部の電位または電流を調整するためのマスク170などを備えることができる。マスク170には、開口部171が設けられる。電気めっき装置100はさらに、めっき液を供給するための配管、めっき液の温度を調整するためのヒータ/クーラなどその他の要素を備えてもよい。
【0019】
出願人は、給電点143の配置を最適化するため、次の2種類のシミュレーションに取り組んだ。シミュレーションの1つは、ある条件下における、補助電極141の表面の電極電位のシミュレーションである。シミュレーションの他の1つは、補助電極141の電極電位シミュレーションの結果を用いた、基板131上のめっき厚のシミュレーションである。なお、めっき厚のシミュレーションにあたっては、各条件においてマスク170の開口部171の大きさを最適化した上でめっき厚を計算している。さらに、電極電位シミュレーションにあたっては、給電点143における給電要素142との相互作用を除き、補助電極141と他の要素(たとえばめっき液)との相互作用は考慮していない。めっき厚のシミュレーションにあたっては、補助電極141の電極電位シミュレーションの結果から、補助電極141とめっき液の界面電位を同時にシミュレーションし、適用している。
【0020】
補助電極141の中心部にのみ給電点143が存在する場合の、補助電極141の電極電位のシミュレーション結果を
図2に示す。補助電極141は、上下方向の長さが510mm、左右方向の幅が415mmの縦長の角形であるとしてシミュレートした。さらに、
補助電極141は一般的な不溶性の電極としてシミュレートした。
図2では、給電点143の位置が点線で示されている。
図2ではさらに、補助電極141の電位の値(任意単位)が実線の等値線で示されている。等値線から把握されるように、補助電極141の電位分布は、電極の中心部付近では、実質的に給電点143を中心とした同心円状となる。換言すれば、給電点143が補助電極141の中心部にのみ存在する場合、補助電極141の電位分布は不均一なものとなる。
【0021】
補助電極141が
図2に示される電位分布を有する場合の、基板131上のめっき厚(膜厚)のシミュレーション結果を
図3に示す。基板131は、上下方向の長さが510mm、左右方向の幅が415mmの縦長の角形であるとしてシミュレートした。さらに、基板131は、基板131の長辺に沿って(長辺の全部分において)電源150に接続されているものとしてシミュレートした。
図3では、「基板131の長辺」は左辺および右辺である。さらに、めっきされる金属は銅であるとしてシミュレートした。
図3では、基板131にめっきされる銅の膜厚(任意単位)が実線の等値線で示されている。等値線から把握されるように、基板131上の膜厚は不均一なものとなる。膜厚は、基板131の中心部で最も厚い(ただし、後述するターミナルエフェクトの影響を受けている部分を除く)。膜厚は、基板131の短辺の中心からわずかに基板131の中心部に近い部分で最も薄い。基板131の中心部の膜厚を1(任意単位)とすると、膜厚が最も薄い部分の膜厚は約0.968となった(約3.2%薄くなった:膜厚については後述する
図6のプロファイルも参照のこと)。
【0022】
出願人の検討によれば、基板131上のめっき厚の不均一性は、補助電極141の不均一な電位分布に起因すると考えられることがわかった。電位分布を均一化するためには、補助電極141上に複数の給電点143を設けることが効果的であると考えられる。
【0023】
補助電極141に3点の給電点143(給電点143A、給電点143Bおよび給電点143C)が存在する場合の、補助電極141の電極電位のシミュレーション結果を
図4に示す。なお、給電点143のそれぞれは同一の電位であるものとした。給電点143Aは補助電極141の中心部に位置する。給電点143Bは給電点143Aの上部に位置する。給電点143Cは給電点143Aの下部に位置する。給電点143Aと給電点143Bの間の距離は、補助電極141の長辺の長さの1/3とした。給電点143Aと給電点143Cの間の距離も、補助電極141の長辺の長さの1/3とした。他の条件は、
図2のシミュレーションの条件と同等である。等値線から把握されるように、本シミュレーションにおける補助電極141の電位分布は、
図2の場合より均一化されている。
【0024】
補助電極141が
図4に示される電位分布を有する場合の、基板131上のめっき厚のシミュレーション結果を
図5に示す。補助電極141の給電点143の配置以外の条件は、
図3のシミュレーションの際の条件と同等である。
図5のシミュレーションでは、基板131の中心部の膜厚を1(任意単位)とすると、最も薄い部分の膜厚は約0.996となった(約0.4%薄くなった:膜厚については後述する
図6のプロファイルも参照のこと)。
図3における膜厚差(約3.2%)と比較すると、
図5では膜厚の均一性が大幅に向上している。
【0025】
詳細な比較のため、
図3および
図5のシミュレーションにおける膜厚のプロファイルを
図6に示す。
図6Aは基板131の中心部から左右方向に沿って引かれた線上における膜厚のプロファイルである。
図6Bは基板131の中心部から上下方向に沿って引かれた線上における膜厚のプロファイルである。
図6Cは基板131の中心部から基板131の角に向かう方向(対角方向)に沿って引かれた線上における膜厚のプロファイルである。なお、
図3および
図5のシミュレーションでは、基板131上の膜厚は左右対称かつ上下対称となった。したがって、
図6では、基板131の中心部を起点とした一方向のプロファ
イルを示している。また、
図6中で符号「600」を付された点線は
図3のシミュレーションにおける膜厚のプロファイルを示す。
図6中で符号「601」を付された実線は
図5のシミュレーションにおける膜厚のプロファイルを示す。
【0026】
プロファイル600は、左右方向、上下方向および対角方向の全ての方向において右肩下がりとなっている。換言すれば、
図3の条件における膜厚は、基板131の端部に近づくほど薄くなる。ただし、基板131の端部からある程度離隔した領域(端部から約20〜40mmほど離隔した領域)においては、端部に近づくほど膜厚が急激に薄くなっている。さらに、基板131の端部に隣接した領域(端部から約20mm以内の領域)においては、端部に近づくほど膜厚が非常に急激に厚くなっている。基板131の端部近辺は、ターミナルエフェクトの影響を受けていると考えられる。
【0027】
プロファイル601は、左右方向、上下方向および対角方向の全ての方向において、実質的に水平である(ターミナルエフェクトの影響を受けている領域を除く)。換言すれば、
図5の条件における膜厚は、基板131上においてほぼ均一である。
【0028】
より詳細な比較のため、
図3および
図5のシミュレーションにおける膜厚についての統計的な指標を表1に示す。
【表1】
ここで、σは標準偏差である。aveは膜厚の平均値(算術平均)である。Rangeは(膜厚の最大値−膜厚の最小値)である。σ/aveは変動係数を示す。Range/(2*ave)は膜厚の面内均一性を示す指標である。統計的な指標からも、
図5のシミュレーションにおける膜厚の均一性は、
図3のシミュレーションにおける膜厚の均一性より向上していることがわかる。
【0029】
上述のシミュレーション結果から、給電点143の配置を変更することで、基板131上の膜厚均一性が変化し得ることが判明した。しかし、出願人が検討を重ねたところ、給電点143の個数を増加させたからといって、膜厚の均一性が常に向上するわけではないことが判明した。出願人は、さらなる検討により、給電点143の最適な配置についての条件を見出した。
【0030】
出願人が得た知見によれば、給電点143の最適な個数は、基板131の面積に密接に関連している。さらに、給電点143の最適な位置は、基板131の辺の長さに密接に関連している。ただし、基板131は矩形状であり、対向する2辺が電源に接続されているものとする。さらに、基板131が長方形である場合、基板131は、2つの長辺において電源150に電気的に接続されているものとする。また、基板131の辺のうち、電源150に接続されている辺の長さを「長さL」と称する。基板131の辺のうち、電源150に接続されていない辺の長さを「幅W」とする。さらに、長さLと幅Wは次の関係式を満たすものとする。
0.8*L≦W≦L
以下では、基板131の辺のうち電源150に接続されている辺が、上下方向に平行になるように配置されているものとして説明する。また、基板131の面積をSとする。さらに、補助電極141の大きさは、後述する給電点143−1、給電点143−2、給電点143−3および給電点143−4のうち必要な給電点を設けることが可能である限り、任意の大きさであってよい。好ましくは、補助電極141の大きさは、基板131より
大きくてよい。
【0031】
好ましくは、給電点143の個数Nは、面積Sに応じて次のとおり決定される。
0<S≦0.14m
2の場合:N=1
0.14m
2<S≦0.18m
2の場合:N=1または3
0.18m
2<S≦0.23m
2の場合:N=3
0.23m
2<S≦0.27m
2の場合:N=3または5
0.27m
2<S≦0.29m
2の場合:N=5
0.29m
2<S≦0.33m
2の場合:N=5または7
0.33m
2<S≦0.34m
2の場合:N=7
0.34m
2<S≦0.36m
2の場合:N=7または9
0.36m
2<Sの場合:N=9
【0032】
最も好ましくは、給電点143の個数Nは、面積Sに応じて次のとおり決定される。
0<S≦0.16m
2の場合:N=1
0.16m
2<S≦0.25m
2の場合:N=3
0.25m
2<S≦0.31m
2の場合:N=5
0.31m
2<S≦0.36m
2の場合:N=7
0.36m
2<Sの場合:N=9
最も好ましい場合、条件同士のオーバーラップがないので、給電点143の個数Nは一義的に確定される。以上に記載したとおり、Nは1から9までの奇数となる。
【0033】
複数の電極をほぼ隣接した状態で補助電極141に接続した場合、これらの電極は、実質的には1つの給電点143として機能する。本明細書では、実質的に1つの給電点143として機能する電極は、「1つの給電点」とみなされる。「1つの給電点」とみなされる例として、電極間の距離が30mm以下、20mm以下または10mm以下である複数の電極が挙げられる。複数の電極が「1つの給電点」とみなされる場合、各電極により描かれる多角形の重心をその給電点の位置とみなしてよい。
【0034】
給電点143の個数Nに応じて、給電点143は
図7に示すとおりに配置される。
図7は、給電点143が設けられ得る位置が示された補助電極141の図である。N=1の場合、
図7中に符号「143−1」で示される位置、すなわち補助電極141の中心部に給電点143が設けられる。ただし、「補助電極141の中心部」とは、厳密な中心に限られない。給電点143−1の位置は、補助電極141の上下方向に沿った長さの1/6以内であれば、厳密な中心から上下方向にずれていてもよい。給電点143−1の位置は、補助電極141の左右方向に沿った長さの1/6以内であれば、厳密な中心から左右方向にずれていてもよい。ここで、電気めっき装置100がマスク170等を備える場合、「補助電極141の長さ」とは、補助電極141の実際の長さではなく、補助電極141のうち、マスク170等の開口部171を介して基板131に対向している部分の長さとしてもよい。
【0035】
N=3の場合、
図7中に符号「143−1」および「143−2」で示される位置に給電点143が設けられる。給電点143−2は、2つの給電点143−2Aおよび143−2Bから構成される。給電点143−2Aは給電点143−1の上方に位置する。給電点143−2Bは給電点143−1の下方に位置する。給電点143−1と給電点143−2Aとの間の距離と、給電点143−1と給電点143−2Bとの間の距離はおよそ等しく、最も好ましくは完全に等しい。したがって、N=3の場合、3つの給電点143が縦に並ぶ。
【0036】
N=5の場合、符号「143−1」、「143−2」および「143−3」で示される
位置に給電点143が設けられる。給電点143−3は、2つの給電点143−3Aおよび143−3Bから構成される。給電点143−3Aは給電点143−1の右方に位置する。給電点143−3Bは給電点143−1の左方に位置する。給電点143−1と給電点143−3Aとの間の距離と、給電点143−1と給電点143−3Bとの間の距離はおよそ等しく、最も好ましくは完全に等しい。したがって、N=5の場合、5つの給電点143が十字状に並ぶ。
【0037】
N=7の場合、符号「143−1」、「143−2」、および「143−4」で示される位置に給電点143が設けられる。給電点143−4は、4つの給電点143−4A、143−4B、143−4Cおよび143−4Dから構成される。給電点143−4Aは給電点143−2Aの右方かつ給電点143−3Aの上方に位置する。給電点143−3Bは給電点143−2Bの右方かつ給電点143−3Aの下方に位置する。給電点143−3Cは給電点143−2Bの左方かつ給電点143−3Bの下方に位置する。給電点143−3Dは給電点143−2Bの左方かつ給電点143−3Bの上方に位置する。したがって、N=7の場合、7つの給電点143がI字状に並ぶ。
【0038】
N=9の場合、符号「143−1」、「143−2」、「143−3」および「143−4」で示される位置、すなわち
図7中に図示された全ての位置に給電点143が設けられる。したがって、N=9の場合、9つの給電点143が3行3列の矩形格子状に並ぶ。
【0039】
給電点143の位置は、補助電極141の中心部に位置する給電点143−1の座標を(0,0)とした場合の座標(x,y)で表現することが可能である。ただし、
図7の右方をxの正方向とし、
図7の上方をyの正方向とする。給電点143が取り得る各点の位置は次の通り表わされる。
給電点143−1の座標:(0,0)
給電点143−2の座標:(0,±C
y)
給電点143−3の座標:(±C
x,0)
給電点143−4の座標:(±C
x,±C
y)
ここで、(0,±C
y)とは(0,C
y)および(0,−C
y)の2点についての総称である。(±C
x,0)とは(C
x,0)および(−C
x,0)の2点についての総称である。(±C
x,±C
y)とは(C
x,C
y)、(C
x,−C
y)、(−C
x,−C
y)および(−C
x,+C
y)の4点についての総称である。C
xおよびC
yは、基板131の辺の長さから決定される。具体的には、C
yは基板131の長さLから決定される。C
xは基板131の幅Wから決定される。
【0040】
出願人は、具体的な数値「長さL」と「幅W」を有するいくつかの矩形基板に対してめっき厚のシミュレーションを行い、最適なC
yを求めたところ、C
yと長さLとの関係は、最も好ましくは、C
y=0.3244L+10.8であることを見出した。ただし、C
yおよびLの単位はmmである。代替として、以下の連立不等式を満たすようにC
yを決定してもよい。
【数1】
上記の連立不等式を満たすようなC
yは、C
yの値が最も好ましい場合と比較して、3*σ/aveが最大でも約0.5%しか増加しない(ただし、比較は、給電点143−1が補助電極141の厳密な中心に位置し、かつ、後述するC
xの値が最も好ましい値であるとして行われた)。すなわち、上記の不等式を満たすようにC
yを決定することによっても、めっき膜厚の均一性を向上させることができる。なお、C
yは正の値であるので、上記の連立不等式が成立するのは、Lが約29mm以上である場合に限られる。
【0041】
出願人は、同様に最適なC
xを求めたところ、C
xと幅Wとの関係は、最も好ましくは、C
x=0.5727W−110.8であることを見出した。ただし、C
xおよびWの単位はmmである。代替として、以下の連立不等式を満たすようにC
xを決定してもよい。
【数2】
上記の不等式を満たすようなC
xは、C
xの値が最も好ましい場合と比較して、3*σ/aveが最大でも約0.5%しか増加しない(ただし、比較は、給電点143−1が補助電極141の厳密な中心に位置し、かつ、前述のC
yの値が最も好ましい値であるとして行われた)。すなわち、上記の不等式を満たすようにC
xを決定することによっても、めっき膜厚の均一性を向上させることができる。なお、C
xは正の値であるので、上記の連立不等式が成立するのは、Wが約211mm以上である場合に限られる。
【0042】
なお、LとWとは、上述の2つの連立不等式が成立する値でなければならないほか、前述の関係式(0.8*L≦W≦L)を満たさなければならない。したがって、Lの最小値は約169mm、Wの最小値は約211mmとなる。したがって、基板面積Sの最小値は約0.035m
2となる。ただし、N=1の場合、給電点143は座標(0,0)のみに位置するため、上述の2つの連立不等式が成立する値である必要はない。
【0043】
以上に説明した手順により、基板131の面積、長さLおよび幅Wに応じて、給電点143の最適な配置が決定される。給電点143を最適に配置することで、基板131を均一にめっき加工することが可能となり得る。
【0044】
これまでの記述は、基板131のうち電源150に接続されている辺が、上下方向に平行になるように配置されていることを前提としている。基板131のうち電源150に接続されている辺が、上下方向から傾斜した方向に沿って配置されている場合、補助電極141も同様に傾斜させた構成を採用することが好ましい。換言すれば、本明細書における「上下方向」は「鉛直方向」を指すとは限らず、「左右方向」は「水平方向」を指すとは限らない。
【0045】
<第2実施形態>
たとえば
図2で示されるように、電気めっき装置の構成を検討する際に、補助電極の電位分布がシミュレートされることがある。しかし、シミュレーションの結果得られる電位分布が実際の電位分布と一致しているとは限らない。よりよいシミュレーションのためには、シミュレーションの結果得られる電位分布と実際の電位分布を比較して、シミュレーションの条件を最適化することが必要となり得る。
【0046】
従来から、補助電極全体の平均過電圧を測定する機能または機構を備える電気めっき装置が知られている。しかし、従来の電気めっき装置においては、補助電極の局所的な電位を測定すること、すなわち補助電極の電位分布(過電圧分布)を得ることが困難であった。第1実施形態についての説明で述べたとおり、補助電極の電位分布はめっき膜厚の均一性に影響するので、補助電極の電位分布を得ることは非常に重要である。そこで第2実施形態では、補助電極の局所的な電位の測定に適した構成について説明する。
【0047】
図8は、本実施形態にかかる電気めっき装置100を示す断面図である。
図8の電気めっき装置100は、
図1の電気めっき装置100の構成に加え、補助電極141を保持するための補助電極ホルダ800をさらに備える。また、本実施形態における基板131の形状は角形に限らず、円形等の形状であってよい。給電点143は補助電極141の任意の位置にあってよい。たとえば、第1実施形態で説明した手法により給電点143の配置
を決定してもよい。
【0048】
補助電極ホルダ800は複数の参照電極810を設けることが可能であるように構成されている。
図8の例では、参照電極810はルギン管811に収められている。参照電極810はルギン管811の先端近傍の電位とほぼ同電位となる。したがって、ルギン管811の先端を補助電極141の近傍に位置させて、参照電極810の電位を電位測定機構820により測定することで、補助電極141の局所的な電位を知ることができる。
【0049】
図8の例では、電位測定機構820として、それぞれの参照電極810の電位(すなわち補助電極141の局所的な電位)と、電源150の電位とを比較して測定する電位差計が設けられている。その他に、電位測定機構820として、参照電極810の電位の絶対値を測定する電圧計を採用することもできる。
【0050】
図9は、本実施形態にかかる補助電極ホルダ800を示す正面図である。
図9では、補助電極ホルダ800に保持される角形の補助電極141が想像線で描かれている。ただし、補助電極141の形状は角形に限らず、円形等の形状であってよい。また、補助電極ホルダ800の形状は、補助電極141の形状に応じて変化しうる。
図9の例では、補助電極ホルダ800に複数のルギン管保持穴900が設けられている。ルギン管保持穴900のそれぞれは貫通穴である。ルギン管811は、補助電極ホルダ800の背面(補助電極141を保持しない面)からルギン管保持穴900に差し込まれる。
図9では、3行3列、計9個のルギン管保持穴900が設けられているが、ルギン管保持穴900の個数に限定は無い。ルギン管保持穴900の個数を増やすことで、電位の測定点を増加させることができる。
【0051】
ルギン管保持穴900によるルギン管811の保持方法は一例に過ぎない。ルギン管保持穴900は貫通穴でなく、止まり穴であってもよい。ルギン管811は、参照電極810の電位の測定が可能であり、かつ、ルギン管811の先端を補助電極141の近傍に位置させることが可能である限り、その他の任意の保持方法により保持されてよい。
【0052】
本実施形態の構成によれば、補助電極141の局所的な電位を測定し、補助電極141の電位分布を得ることが可能である。したがって、測定より得られた電位分布と、シミュレーションより得られた電位分布を比較することが可能となる。また、本実施形態の構成によれば、補助電極141の電位分布を日々モニターし、補助電極141の電位分布の経時変化を把握することができる。電位分布の経時変化を把握することにより、電気めっき装置100の不良個所を特定することおよび電気めっき装置100の保守作業の必要性を把握することができる。
【0053】
以上、いくつかの本発明の実施形態について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【0054】
本願は、一実施形態として、対向する2辺が電源に接続されており、電源に接続されている辺の長さLと、電源に接続されていない辺の長さWとが、0.8*L≦W≦Lという条件を満たす、基板面積がSである矩形の基板をめっきするための電気めっき装置における、給電点の配置の決定方法であって、方法は、基板のめっき加工を補助するための補助電極と、補助電極に電源からの電力を供給する給電要素とが電気的に接する点である給電点の個数Nを、基板面積Sに応じて決定する方法を開示する。
【0055】
さらに本願は、一実施形態として、給電点の配置の決定方法であって、Nを、
0<S≦0.14m
2の場合:N=1
0.14m
2<S≦0.18m
2の場合:N=1または3
0.18m
2<S≦0.23m
2の場合:N=3
0.23m
2<S≦0.27m
2の場合:N=3または5
0.27m
2<S≦0.29m
2の場合:N=5
0.29m
2<S≦0.33m
2の場合:N=5または7
0.33m
2<S≦0.34m
2の場合:N=7
0.34m
2<S≦0.36m
2の場合:N=7または9
0.36m
2<Sの場合:N=9
という条件に従って決定する、方法を開示する。
【0056】
さらに本願は、一実施形態として、給電点の配置の決定方法であって、補助電極の中心部に給電点を1点位置させ、基板の電源に接続されていない辺に沿った方向をx方向とし、基板の電源に接続されている辺に沿った方向をy方向とし、補助電極の中心部に配置される給電点の座標を(0,0)とした場合に、給電点をさらに、
N=3の場合:(0,±C
y)
N=5の場合:(0,±C
y)および(±C
x,0)
N=7の場合:(0,±C
y)および(±C
x,±C
y)
N=9の場合:(0,±C
y)、(±C
x,0)および(±C
x,±C
y)
の各点に位置させる、方法を開示する。
【0057】
さらに本願は、一実施形態として、給電点の配置の決定方法であって、L≧169mmであり、W≧211mmであり、C
yは、単位をmmとして、
0.3224L−9.2≦C
y、かつ、
C
y≦0.3224L+30.8
という条件を満たし、
C
xは、単位をmmとして、
0.5727W−120.8≦C
x、かつ、
C
x≦0.5727W−100.8
という条件を満たす、方法を開示する。
【0058】
以上の方法のいずれかにより給電点の配置を決定することにより、給電点の個数および/または位置が最適なものとなり得る。給電点を最適に配置することにより、均一なめっき加工が実現され得る。
【0059】
さらに本願は、一実施形態として、矩形の基板をめっきするための電気めっき装置であって、電気めっき装置は、基板の辺のうち、対向する2辺が電源に接続された状態で基板を保持するための基板ホルダと、基板のめっき加工を補助するための補助電極と、補助電極に電源からの電力を供給するための給電要素と、を備え、基板の電源に接続されている辺の長さをLとし、基板の電源に接続されていない辺の長さをWとした場合に、L≧169mmであり、W≧211mmであり、LとWとは、0.8*L≦W≦Lという条件を満たし、給電要素は、補助電極の中心部において補助電極に接続されていて、基板の電源に接続されていない辺に沿った方向をx方向とし、基板の電源に接続されている辺に沿った方向をy方向とし、補助電極の中心部における給電要素と補助電極との接続部の座標を(0,0)とした場合に、給電要素はさらに、(0,±C
y)、(±C
x,0)および(±C
x,±C
y)のうち少なくとも1点において補助電極に接続されていて、C
yは、単位をミリメートルとして、
0.3224L−9.2≦C
y、かつ、
C
y≦0.3224L+30.8
という条件を満たす値であり、
C
xは、単位をミリメートルとして、
0.5727W−120.8≦C
x、かつ、
C
x≦0.5727W−100.8
という条件を満たす値である、電気めっき装置を開示する。
【0060】
さらに本願は、一実施形態として、基板の基板面積Sが0.14m
2より大きく0.27m
2以下であり、給電要素は、(0,0)および(0,±C
y)の3点において補助電極に接続されている、電気めっき装置を開示する。
【0061】
さらに本願は、一実施形態として、基板の基板面積Sが0.23m
2より大きく0.33m
2以下であり、給電要素は、(0,0)、(0,±C
y)および(±C
x,0)の5点において補助電極に接続されている、電気めっき装置を開示する。
【0062】
さらに本願は、一実施形態として、基板の基板面積Sが0.29m
2より大きく0.34m
2以下であり、給電要素は、(0,0)、(0,±C
y)および(±C
x,±C
y)の7点において補助電極に接続されている、電気めっき装置を開示する。
【0063】
さらに本願は、一実施形態として、基板の基板面積Sが0.36m
2より大きく、給電要素は、(0,0)、(0,±C
y)、(±C
x,0)および(±C
x,±C
y)の9点において補助電極に接続されている、電気めっき装置を開示する。
【0064】
以上の電気めっき装置は、給電点の位置が最適化されており、より均一なめっき加工が可能となり得るという効果を一例として奏する。