(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ケイ素化合物粒子を作製する工程の後、前記混合原料とする工程よりも前に、前記ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記焼成する工程の後、前記ケイ素化合物粒子の表面若しくは前記炭素被膜の表面、又はこれらの両方の全部又は少なくとも一部に、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物を、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムのうち少なくとも1種の元素を含むものとすることを特徴とする請求項5に記載の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法。
前記負極活物質粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であることを特徴とする請求項7から請求項10のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記ケイ素化合物粒子の表面若しくは前記炭素被膜の表面、又はこれらの両方の全部又は少なくとも一部が、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を含むものであることを特徴とする請求項7から請求項13のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
前記非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物は、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムのうち少なくとも1種の元素を含むものであることを特徴とする請求項14に記載の非水電解質二次電池用負極活物質。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
【0013】
酸化珪素をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用い、高容量の電極を得ているが、未だ初回充放電時における不可逆容量が大きく、改良する余地があり、リチウムイオン二次電池用負極活物質としてはまだ不十分である。特許文献5では、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO
2、M
yO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いているが、十分に電池特性を向上できる良好な負極活物質(負極材)は得られていなかった。
【0014】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、初回効率が良好な非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供することを目的とする。また、初回効率が良好な非水電解質二次電池用負極活物質、非水電解質二次電池用負極及び非水電解質二次電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明は、リチウムを含むケイ素化合物粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であって、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を作製する工程と、該ケイ素化合物粒子に、窒化リチウムを含むリチウム化合物を混合することにより混合原料とする工程と、前記混合原料を、不活性ガスを含む雰囲気下で焼成する工程とを含み、前記リチウムを含むケイ素化合物粒子を含む非水電解質二次電池用負極活物質を製造することを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を提供する。
【0016】
このような非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であれば、リチウム源として窒化リチウムを含むリチウム化合物を用いることで、酸素によるケイ素化合物の酸化を低減することができ、良好な初回効率を有する非水電解質二次電池用負極活物質を工業的な生産において優位に製造可能となる。
【0017】
このとき、前記ケイ素化合物粒子を作製する工程の後、前記混合原料とする工程よりも前に、前記ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜を形成する工程を含むことが好ましい。
【0018】
上記のようにケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜を形成することにより、ケイ素化合物の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたものとなり、導電性に優れるものとなる。
【0019】
また、前記窒化リチウムを含むリチウム化合物として、BET比表面積が0.5m
2/g以上50m
2/g以下の窒化リチウムを用いることが好ましい。
【0020】
BET比表面積が0.5m
2/g以上50m
2/g以下であれば、窒化リチウムとSiO
xの反応性を適度にすることができるため、よりマイルドに窒化リチウムとSiO
xの反応を行うことができる。
【0021】
また、前記焼成する工程において、前記不活性ガスを含む雰囲気を、水素を含有し酸素の含有量が1ppm以下である雰囲気とすることが好ましい。
【0022】
不活性ガスを含む雰囲気を、水素を含有し酸素の含有量が1ppm以下とすることで、酸素によるケイ素化合物粒子の酸化を抑制することができ、負極活物質の初回効率の低下を抑制することが可能となる。
【0023】
また、前記焼成する工程において、前記混合原料の温度を300℃以上700℃以下で30分以上保持することが好ましい。
【0024】
混合原料の温度を300℃以上700℃以下で30分以上保持することにより、発熱挙動がマイルドになり、安全な焼成が可能となる。
【0025】
また、前記焼成する工程の後、前記ケイ素化合物粒子の表面若しくは前記炭素被膜の表面、又はこれらの両方の全部又は少なくとも一部に、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を形成する工程を含むことが好ましい。
【0026】
製造された負極活物質が金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合層を有していると、水系スラリーに対しての耐水性が高いものとなり、その結果、このような複合層を有する負極活物質粒子は、サイクル性が高いものとなる。また、上記複合体が非晶質であれば、Liの授受が行われやすい。このように、導電性に優れ、かつ非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を有していると、サイクル特性が良好なものとなる。そのため、ケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する非水電解質二次電池を工業的な生産において優位に製造可能となる。
【0027】
また、このとき、前記非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物を、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムのうち少なくとも1種の元素を含むものとすることが好ましい。
【0028】
金属酸化物及び金属水酸化物が上記のような金属元素を含むことで、電極作製時のスラリーがより安定する。
【0029】
また、本発明は、負極活物質粒子を含む負極活物質であって、前記負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiOx:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、Li
2SiO
3及びLi
2Si
2O
5のうち少なくとも1種以上を含有し、前記負極活物質粒子は、その表面にNO
3イオンを含み、前記NO
3イオンの含有量が前記負極活物質粒子の質量に対して1質量ppm以上200質量ppm以下であるものであることを特徴とする非水電解質二次電池用負極活物質を提供する。
【0030】
Li
2SiO
3、Li
2Si
2O
5のようなLiシリケートは、Li化合物として比較的安定しているため、より良好な電池特性が得られる。また、負極活物質粒子が、その表面にNO
3イオンを含み、NO
3イオンの含有量が前記負極活物質粒子の質量に対して1質量ppm以上200質量ppm以下であるものであれば、負極活物質粒子の分散液が中性に近い値を取り、電極作成の際のスラリーの安定性を向上させることができる。また、このような負極活物質粒子を用いて製造された二次電池は、高い電池容量及び良好な初回効率を有するとともに、工業的に優位に製造することが可能なものとなる。
【0031】
また、このとき、前記ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたものであることが好ましい。
【0032】
このように、ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆された負極活物質は、導電性に優れる。そのため、このような負極活物質を使用すれば、Liを用いて改質されたケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する非水電解質二次電池を工業的な生産において優位に製造可能となる。
【0033】
また、前記負極活物質粒子が、Cu−Kα線を用いたX線回折スペクトルから得られる回折ピーク(2θ)として、27.5〜29.0°で与えられるSi領域に由来するピークの強度Aと、26.5〜27.5°で与えられるLi
2SiO
3に由来するピークの強度Bと、24.5〜25.5°で与えられるLi
2Si
2O
5に由来するピークの強度Cとが、A>B及びA>Cという関係を満たすものであることが好ましい。
【0034】
理由は明らかではないが、A、B、Cがこれらの関係を満たすようにすると、電池特性の向上効果を十分に得られる負極活物質となる。
【0035】
また、前記負極活物質粒子が、前記強度Bと、前記強度Cとが、B>Cという関係を満たすものであることが好ましい。
【0036】
負極活物質粒子が、このような関係を満たすものであれば、電池特性の向上効果をさらに十分に得られる負極活物質となる。
【0037】
また、前記負極活物質粒子が、Cu−Kα線を用いたX線回折スペクトルから得られる回折ピーク(2θ)として、22°付近で与えられるSiO
2領域に由来するブロードなピークを有するものであることが好ましい。
【0038】
このようなものであれば、ケイ素化合物中のLiシリケート等のLi化合物の量が過多となっておらず、SiO
2成分がある程度残っているため、電極作製時のスラリーに対する安定性がより向上する。
【0039】
また、前記負極活物質粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であることが好ましい。
【0040】
このような半値幅を有する負極活物質粒子は、結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないため、電池特性を向上させることができる。
【0041】
また、前記ケイ素化合物粒子はメディアン径が0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。
【0042】
メディアン径が0.5μm以上であれば、ケイ素化合物粒子の表面における副反応が起きる面積が小さいため、Liを余分に消費せず、電池のサイクル維持率を高く維持できる。また、メディアン径が15μm以下であれば、Li挿入時の膨張が小さく、割れ難くなり、かつ、亀裂が生じにくい。さらに、ケイ素化合物粒子の膨張が小さいため、例えば一般的に使用されているケイ素系活物質に炭素活物質を混合した負極活物質層などが破壊され難い。
【0043】
また、前記負極活物質粒子はBET比表面積が3.0m
2/g以上8.0m
2/g以下であることが好ましい。
【0044】
比表面積が8.0m
2/g以下であれば、ケイ素化合物粒子の表面における副反応が起きる面積が小さいため、Liを余分に消費せず、電池のサイクル維持率を高く維持できる。また、比表面積が3.0m
2/g以上であれば、Li挿入時の膨張が小さく、割れ難くなり、かつ、亀裂が生じにくい。さらに、ケイ素化合物粒子の膨張が小さいため、例えば一般的に使用されているケイ素系活物質に炭素活物質を混合した負極活物質層などが破壊され難い。
【0045】
また、前記ケイ素化合物粒子の表面若しくは前記炭素被膜の表面、又はこれらの両方の全部又は少なくとも一部が、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を含むものであることが好ましい。
【0046】
このような複合層を有していれば、サイクル特性が良好な負極活物質となる。また、上記複合体が非晶質であれば、Liの授受が行われやすい。このように、導電性に優れ、かつ非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を有していると、サイクル特性が良好なものとなる。そのため、ケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する非水電解質二次電池を工業的な生産において優位に製造可能となる。また、金属酸化物、金属水酸化物は同等の性能を示す。
【0047】
また、このとき、前記非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物は、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムのうち少なくとも1種の元素を含むものであることが好ましい。
【0048】
金属酸化物及び金属水酸化物が上記のような金属元素を含むことで、電極作製時にスラリーがより安定する。
【0049】
また、前記非水電解質二次電池用負極活物質と炭素系活物質との混合物を含む負極電極と対極リチウムとから成る試験セルを作製し、該試験セルにおいて、前記負極活物質にリチウムを挿入するよう電流を流す充電と、前記負極活物質からリチウムを脱離するよう電流を流す放電とから成る充放電を実施し、該充放電における放電容量Qを前記対極リチウムを基準とする前記負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと前記電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、前記負極電極の電位Vが0.40V〜0.55Vの範囲にピークを有するものであることが好ましい。
【0050】
V−dQ/dV曲線における上記のピークはケイ素材のピークと類似しており、より高電位側における放電カーブが鋭く立ち上がるため、電池設計を行う際、容量発現しやすくなる。
【0051】
また、本発明は、非水電解質二次電池用負極活物質を含む負極活物質層と、負極集電体とを有し、前記負極活物質層は前記負極集電体上に形成されており、前記負極集電体は炭素及び硫黄を含むとともに、それらの含有量がいずれも100質量ppm以下であることを特徴とする非水電解質二次電池用負極を提供する。
【0052】
このように、負極電極を構成する負極集電体が、炭素及び硫黄を上記のような量で含むことで、充電時の集電体を含む負極電極の変形を抑制することができる。また、このような負極を用いて製造された二次電池は、高い電池容量及び良好な初回効率を有するとともに、工業的に優位に製造することが可能なものとなる。
【0053】
また、本発明は、負極として、非水電解質二次電池用負極活物質を含む負極を用いたものであることを特徴とする非水電解質二次電池を提供する。
【0054】
このような二次電池は、高い電池容量及び良好な初回効率を有するとともに、工業的に優位に製造することが可能なものとなる。
【発明の効果】
【0055】
本発明の負極活物質の製造方法は、充放電効率を向上させることができ、実質的に初回充放電特性を向上させることができる負極活物質を製造できる。
【0056】
また、本発明の負極活物質は、充放電効率を向上させることができ、実質的に初回充放電特性を向上させることができる。また、この負極活物質を含む負極及び二次電池においても同様の効果が得られる。また、この負極活物質を含む本発明の二次電池は、工業的に優位に生産可能であり、電池容量、サイクル特性、及び初回充放電特性が良好なものとなる。また、本発明の二次電池を用いた電子機器、電動工具、電気自動車及び電力貯蔵システム等でも同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0059】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素系活物質を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。ケイ素系活物質を主材として用いたリチウムイオン二次電池は、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いサイクル特性、初回効率が望まれているが、初回充放電時に不可逆なリチウムシリケートが生成されてしまい、炭素材を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近い初回効率を得る事は困難であった。
【0060】
そこで、本発明者らは、高電池容量であるとともに、初回効率が良好な非水電解質二次電池を容易に製造することが可能な負極活物質を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0061】
本発明の負極活物質は、ケイ素化合物(SiOx:0.5≦x≦1.6)を有するケイ素化合物粒子を含む。また、この負極活物質に含まれるケイ素化合物粒子は、Li
2SiO
3及びLi
2Si
2O
5のうち少なくとも1種以上が含有している。さらに、この負極活物質は、負極活物質粒子の表面にNO
3イオンを含み、NO
3イオンの含有量が負極活物質粒子の質量に対して1質量ppm以上200質量ppm以下である。
【0062】
Li
2SiO
3、Li
2Si
2O
5のようなLiシリケートは、他のLi化合物よりも比較的安定しているため、これらのLi化合物を含む負極活物質(ケイ素系活物質)は、より安定した電池特性を得ることができる。これらのLi化合物は、ケイ素化合物の内部に生成するSiO
2成分の一部をLi化合物へ選択的に変更し、ケイ素化合物を改質することにより得ることができる。また、負極活物質粒子が、その表面にNO
3イオンを含み、NO
3イオンの含有量が前記負極活物質粒子の質量に対して1質量ppm以上200質量ppm以下であるものであれば、負極活物質粒子の分散液が中性に近い値を取り、電極作成の際のスラリーの安定性を向上させることができる。
【0063】
また負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は、リチウムドープされたケイ素化合物粒子を1gを秤量して、50gの超純水に加え、5分撹拌して分散させた後、メンブレンフィルターでろ過したものをイオンクロマトグラフィーで測定した。
【0064】
また、本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜が形成されている事が望ましい。ここで、本発明の負極活物質は、ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜が形成されているが、炭素被膜はケイ素化合物粒子の全面に形成されていても良い。
【0065】
負極活物質粒子の内部のLi化合物はXRD(X線回折)にて分析可能である。XRDの測定は、例えば、Bruker社製 AXS D2 PHASERを用いて行うことができる。
【0066】
本発明の負極活物質では、負極活物質粒子が、Cu−Kα線を用いたX線回折スペクトルから得られる回折ピーク(2θ)として、27.5〜29.0°で与えられるSi領域に由来するピークの強度Aと、26.5〜27.5°で与えられるLi
2SiO
3に由来するピークの強度Bと、24.5〜25.5°で与えられるLi
2Si
2O
5に由来するピークの強度Cとが、A>B及びA>Cという関係を満たすことが好ましい。理由は明らかではないが、A、B、Cがこれらの関係を満たすようにすると、電池特性の向上効果を十分に得られる負極活物質となる。また、B>Cの関係を満たすことがより好ましい。このような関係を満たすものであれば、電池特性の向上効果をさらに十分に得られる負極活物質となる。
【0067】
また、本発明の負極活物質では、負極活物質粒子が、Cu−Kα線を用いたX線回折スペクトルから得られる回折ピーク(2θ)として、22°付近で与えられるSiO
2領域に由来するブロードなピークを持つことが好ましい。このようなものであれば、ケイ素化合物中のLiシリケート等のLi化合物の量が過多となっておらず、SiO
2成分がある程度残っているため、電極作製時のスラリーに対する安定性がより向上する。
【0068】
また、本発明において、ケイ素化合物の結晶性は低いほどよい。具体的には、負極活物質粒子のCu−Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.2°以上であることが望ましい。このように、特に結晶性が低くSi結晶の存在量が少ないことにより、電池特性を向上させるだけでなく、安定的な負極活物質となる。
【0069】
また、ケイ素化合物粒子のメディアン径は特に限定されないが、中でも0.5μm以上15μm以下であることが好ましい。この範囲であれば、充放電時においてリチウムイオンの吸蔵放出がされやすくなるとともに、負極活物質粒子が割れにくくなるからである。
【0070】
また、本発明の負極活物質は、負極活物質粒子のBET比表面積が3.0m
2/g以上8.0m
2/g以下であることが好ましい。
【0071】
また、本発明の負極活物質では、ケイ素化合物粒子の表面若しくは前記炭素被膜の表面、又はこれらの両方の少なくとも一部が、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を含むことが好ましい。複合層としては、例えば、非晶質のアルミニウム酸化物及びアルミニウム水酸化物から成る複合体を含む複合層を形成させることができる。この場合、複合層は、アルミニウム酸化物領域とアルミニウム水酸化物領域を有する。また、複合層の金属酸化物は、その一部が結晶相となる場合があるが、上記の複合層は、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る領域を有していればよく、一部が結晶相となっていてもかまわない。また、複合体はアルミニウムに限定されることは無く、他の金属元素を含んでいても良い。
【0072】
また、本発明において、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物は、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムのうち少なくとも1種の元素を含むものであることが好ましい。
【0073】
また、複合層の最表層部には、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムの塩化物、硫酸塩、リン酸塩を含んでいてもかまわない。
【0074】
また、複合層の厚さは10nm以下であることが好ましく、さらに、5nm以下であることがより好ましい。複合層の厚さが10nm以下であれば、合剤組成にもよるが、電気抵抗が高くなり過ぎないため、電池特性が向上する。また、膜厚が2〜3nm程度であると、電気抵抗の増加を抑制しつつ、スラリーに対する安定性をより向上させることができる。なお、複合層の膜厚はTEM(透過型電子顕微鏡)により確認可能である。
【0075】
また、このとき、本発明の負極活物質と炭素系活物質との混合物を含む負極電極と対極リチウムとから成る試験セルを作製し、該試験セルにおいて、負極活物質にリチウムを挿入するよう電流を流す充電と、負極活物質からリチウムを脱離するよう電流を流す放電とから成る充放電を実施し、該充放電における放電容量Qを対極リチウムを基準とする負極電極の電位Vで微分した微分値dQ/dVと電位Vとの関係を示すグラフを描いた場合に、負極電極の電位Vが0.40V〜0.55Vの範囲にピークを有するものであることが好ましい。V−dQ/dV曲線における上記のピークはケイ素材のピークと類似しており、より高電位側における放電カーブが鋭く立ち上がるため、電池設計を行う際、容量発現しやすくなる。
【0076】
上述のように、本発明の負極活物質は、SiO
x(0.5≦x≦1.6)からなるケイ素化合物粒子を含む。ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)の組成としてはxが1に近い方が好ましい。これは、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明における酸化ケイ素材の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素やLiを含んでいても良い。
【0077】
[負極活物質の製造方法]
続いて、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法を説明する。
【0078】
まず、ケイ素化合物(SiO
x:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を作製する。次に、このケイ素化合物粒子に、窒化リチウムを含むリチウム化合物を混合することにより混合原料とする。次に、この混合原料を、不活性ガスを含む雰囲気下で焼成することで、ケイ素化合物粒子にLiを挿入、脱離することにより、ケイ素化合物粒子を改質する。このとき、同時にケイ素化合物粒子の内部や表面にLi化合物を生成させることができる。そして、このようにして製造された負極活物質粒子を用いて、導電助剤やバインダと混合するなどして、負極材及び負極電極を製造できる。このような非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法であれば、リチウム源として窒化リチウムを含むリチウム化合物を用いることで、酸素によるケイ素化合物の酸化を低減することができ、良好な初回効率を有する非水電解質二次電池用負極活物質を工業的な生産において優位に製造可能となる。そのため、ケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する非水電解質二次電池を工業的な生産において優位に製造可能となる。
【0079】
このとき、窒化リチウムの含有量は総てのリチウムに対して、Liのモル比で80%以上が好ましい。より好ましくはLiのモル比で90%以上である。
【0080】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、ケイ素化合物粒子を作製する工程の後、混合原料とする工程よりも前に、ケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜を形成する工程を含むことが好ましい。このようにケイ素化合物粒子の表面の少なくとも一部に炭素被膜を形成することにより、ケイ素化合物の表面の少なくとも一部が炭素被膜で被覆されたものとなり、導電性に優れるものとなる。そのため、本発明の負極活物質を使用すれば、Liを用いて改質されたケイ素酸化物本来の特性を生かした高い電池容量及び良好なサイクル維持率を有する非水電解質二次電池を工業的な生産において優位に製造可能となる。
【0081】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、窒化リチウムを含むリチウム化合物として、BET比表面積が0.5m
2/g以上50m
2/g以下の窒化リチウムを用いることが好ましい。
窒化リチウムとSiO
xの反応は発熱反応である。その発熱反応による温度上昇により、炉の耐熱温度を超えて、焼成炉を傷めることを防止するため、よりマイルドに反応させることが好ましい。BET比表面積が0.5m
2/g以上50m
2/g以下であれば、窒化リチウムとSiO
xの反応性を適度にすることができるため、よりマイルドに窒化リチウムとSiO
xの反応を行うことができる。
【0082】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、焼成する工程において、前記不活性ガスを含む雰囲気を、水素を含有し酸素の含有量が1ppm以下である雰囲気とすることが好ましい。不活性ガスを含む雰囲気を、水素を含有し酸素の含有量が1ppm以下とすることで、酸素によるケイ素化合物粒子の酸化を抑制することができ、負極活物質の初回効率の低下を抑制することが可能となる。
【0083】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、前記焼成する工程において、前記混合原料の温度を300℃以上700℃以下で30分以上保持することが好ましい。300℃以上700℃以下で30分以上保持してから最高温度に上昇させることで、窒化リチウムとSiO
xの反応の発熱挙動がマイルドになり、安全な焼成が可能となる。また、より安全に合成するために、400〜600℃の範囲で保持する方が好ましい。また、最終温度は500℃以上750℃以下が好ましく、最適温度は720℃程度である。
【0084】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、前記焼成する工程の後、前記ケイ素化合物粒子の表面若しくは前記炭素被膜の表面、又はこれらの両方の全部又は少なくとも一部が、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を形成する工程を含むことが好ましい。複合層を形成する方法は、液相による表面コート、乾式方法によるメカノケミカルコート、スプレーによる湿式コート、アルミニウムイソプロポキシドのゾルゲル反応処理などのいずれかを用いる事が可能である。
【0085】
特に、金属酸化物及び金属水酸化物からなる複合体は、スプレーによる湿式コート、乾式方法によるメカノケミカルコートがより簡便な方法でコスト競争力があり望ましい。
【0086】
また、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質の製造方法では、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物として、アルミニウム、マグネシウム、チタニウム、及びジルコニウムのうち少なくとも1種の元素を含むことが好ましい。金属酸化物及び金属水酸化物が上記のような金属元素を含むことで、電極作製時のスラリーがより安定する。
【0087】
より具体的には、負極活物質は、例えば、以下の手順により製造される。
【0088】
まず、酸化ケイ素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下もしくは減圧下900℃〜1600℃の温度範囲で加熱し、酸化ケイ素ガスを発生させる。この場合、原料は金属珪素粉末と二酸化珪素粉末との混合であり、金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。粒子中のSi結晶子は仕込み範囲や気化温度の変更、また生成後の熱処理で制御される。発生したガスは吸着板に堆積される。反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕、粉末化を行う。
【0089】
次に、得られた粉末材料(ケイ素化合物)の表層に炭素被膜を形成する。炭素被膜は、負極活物質の電池特性をより向上させるには効果的である。
【0090】
粉末材料の表層に炭素被膜を形成する手法としては、熱分解CVDが望ましい。熱分解CVDは炉内に酸化ケイ素粉末をセットし、炉内に炭化水素ガスを充満させ炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが特に1200℃以下が望ましい。より望ましいのは950℃以下であり、意図しないケイ素酸化物の不均化を抑制することが可能である。炭化水素ガスは特に限定することはないが、C
nH
m組成のうち3≧nが望ましい。低製造コスト及び分解生成物の物性が良いからである。
【0091】
改質は熱ドープ法を使用して行う。この場合、例えば、粉末材料を窒化リチウム(Li
3N)と混合し、不活性雰囲気ガス雰囲気下で加熱をすることで改質可能である。不活性雰囲気ガスとしては、例えば、アルゴン雰囲気、もしくは窒素雰囲気、アルゴン+水素混合ガス、窒素+水素混合ガスなどが使用できる。より具体的には、まず、Ar雰囲気下で窒化リチウム(Li
3N)と酸化珪素粉末を十分に混ぜ、封止を行い、封止した容器ごと撹拌することで均一化する。その後、500℃〜750℃の範囲で加熱し改質を行い、Liをケイ素化合物に挿入する。好ましくは窒素雰囲気、より好ましくは窒素と水素の混合ガス雰囲気である。この方が、ケイ素化合物の酸化による充放電効率の低下を抑制することができるため好ましい。水素を用いる場合、系内に1%以上不活性ガスを置換していればよく、200℃以上で5分以上流れていれば、効果が発現する。水素は混合原料などが分解して焼成中に発生するものでも構わない。
【0092】
また、Liをケイ素化合物から脱離するには、加熱後の粉末を十分に冷却し、その後アルコールやアルカリ水、弱酸や純水で洗浄する方法などを使用できる。
【0093】
熱ドープ手法を用いてケイ素化合物を改質した場合、負極活物質が安価に改質でき、電池特性が向上する。また、これにより、負極活物質の耐水性などといったスラリーに対する安定性がより向上する。
【0094】
続いて、改質後の酸化珪素粒子の表面に、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を形成する。また、上述のように、負極活物質粒子はケイ素化合物粒子の表面や炭素被膜の表面に、非晶質の金属酸化物及び金属水酸化物から成る複合体を含む複合層を有した方が好ましい。複合層の合成方法は液相による表面コート、乾式方法によるメカノケミカルコート、スプレーによる湿式コート、アルミニウムイソプロポキシドのゾルゲル反応処理等が挙げられる。
【0095】
製造された負極活物質粒子は、必要に応じて炭素系活物質を混合するとともに、これらの負極活物質とバインダ、導電助剤など他の材料とを混合し負極合剤としたのち、有機溶剤又は水などを加えてスラリーとする。
【0096】
次に、
図1に示したように、負極集電体11の表面に、この負極合剤のスラリーを塗布し、乾燥させて、負極活物質層12を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行っても良い。以上のようにして、本発明の非水電解質二次電池の負極を製造することができる。
【0097】
[負極の構成]
続いて、本発明の非水電解質二次電池用負極活物質を含む負極の構成について説明する。
【0098】
図1は、本発明の負極活物質を含む負極の断面図を表している。
図1に示すように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていても良い。さらに、本発明の非水電解質二次電池の負極においては、負極集電体11はなくてもよい。
【0099】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0100】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100ppm以下であることが好ましい。これは、より高い変形抑制効果が得られるからである。
【0101】
負極集電体11の表面は、粗化されていても良いし、粗化されていなくても良い。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は化学エッチングされた金属箔などである。粗化されていない負極集電体は例えば、圧延金属箔などである。
【0102】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、負極活物質粒子の他に炭素系活物質などの複数の種類の負極活物質を含んでいて良い。さらに、電池設計上、増粘剤(「結着剤」、「バインダー」とも呼称する)や導電助剤等の他の材料を含んでいても良い。また、負極活物質の形状は粒子状であって良い。
【0103】
<リチウムイオン二次電池>
次に、本発明の非水電解質二次電池について説明する。本発明の非水電解質二次電池は本発明の負極活物質を含むものである。ここでは本発明の非水電解質二次電池の具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池について説明する。
【0104】
[ラミネートフィルム型二次電池の構成]
図3に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池30は、主にシート状の外装部材35の内部に巻回電極体31が収納されたものである。この巻回電極体31は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード32が取り付けられ、負極に負極リード33が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0105】
正負極リード32、33は、例えば、外装部材35の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード32は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード33は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0106】
外装部材35は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が巻回電極体31と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0107】
外装部材35と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム34が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0108】
正極は、例えば、
図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0109】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0110】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて正極結着剤、正極導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいても良い。この場合、正極結着剤、正極導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0111】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又はリチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これらの正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、Li
xM
1O
2あるいはLi
yM
2PO
4で表される。式中、M
1、M
2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0112】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Li
xCoO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(Li
xNiO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物などが挙げられる。リチウムニッケルコバルト複合酸化物としては、例えばリチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物(NCA)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(NCM)などが挙げられる。
【0113】
リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO
4)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe
1−uMn
uPO
4(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量を得ることができるとともに、優れたサイクル特性も得ることができる。
【0114】
[負極]
負極は、上記した
図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、集電体の両面に負極活物質層を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池としての充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。これにより、負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができる。
【0115】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、同様に負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0116】
上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため、負極活物質層の状態が形成直後のまま維持され、これによって負極活物質の組成などを、充放電の有無に依存せずに再現性良く正確に調べることができる。
【0117】
[セパレータ]
セパレータは正極と負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有しても良い。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0118】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいても良い。
【0119】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2−ジメトキシエタン、又はテトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。これは、電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0120】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0121】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0122】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0123】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF
4)などが挙げられる。
【0124】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。これは、高いイオン伝導性が得られるからである。
【0125】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤、正極導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また圧縮を複数回繰り返しても良い。
【0126】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0127】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていても良い(
図1を参照)。
【0128】
続いて、電解液を調製する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード32を取り付けると共に、負極集電体に負極リード33を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は巻回させて巻回電極体31を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材35の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ開放状態にて、巻回電極体を封入する。続いて、正極リード、及び負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。続いて、開放部から上記調製した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、開放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型二次電池30を製造することができる。
【0129】
上記作製したラミネートフィルム型二次電池30等の本発明の非水電解質二次電池において、充放電時の負極利用率が93%以上99%以下であることが好ましい。負極利用率を93%以上の範囲とすれば、初回充電効率が低下せず、電池容量の向上を大きくできる。また、負極利用率を99%以下の範囲とすれば、Liが析出してしまうことがなく安全性を確保できる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0131】
(実施例1−1)
最初に、負極活物質粒子を以下のように作製した。
【0132】
まず、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料(気化出発材)を反応炉へ設置し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。粒径を調整した後、熱CVDを行うことで炭素被膜を被覆した。続いて、炭素被膜を被覆したケイ素化合物に対して4質量%に相当する質量のリチウム化合物を窒素雰囲気下で混合し、シェイカーで撹拌した。その後、雰囲気制御炉で、攪拌した粉末をアルゴン雰囲気下で、保持温度帯を設けずに、740℃の焼成することで改質を行い、負極活物質粒子とした。リチウム化合物は、Liのモル比で、窒化リチウムを75%、炭酸リチウムを25%含有させた。窒化リチウムのBET比表面積は65m
2/gであった。また、アルゴン雰囲気中の酸素の含有量は1ppm以下であった。また、負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は25質量ppmであった。
【0133】
次に、作製した負極活物質、導電助剤1(デンカブラック)、導電助剤2(KS6)、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)を81:2.7:11.3:3.3:1.7の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し負極合剤スラリーとした。尚、上記のSBR、CMCは負極バインダー(負極結着剤)である。
【0134】
また、負極集電体としては、電解銅箔(厚さ15μm)を用いた。最後に、負極合剤スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×3時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は2.0mg/cm
2であった。負極合剤スラリーは負極集電体の片面だけに塗布し、負極活物質層を片面だけに設けた。
【0135】
初回充放電特性を調べるために、試験セルとして2032型コイン電池を組み立てた。
【0136】
負極としては、上記のラミネートフィルム型の二次電池の負極活物質(ケイ素系活物質)を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。電解液としては、エチレンカーボネートとジジエチルカーボネートとフルオロエチレンカーボネイトの2:7:1混練液1リットルにLiPF
61モルを溶解したものを使用した。対極としては、厚さ0.5mmの金属リチウム箔を使用した。また、セパレータとして、厚さ20μmのポリエチレンを用いた。続いて、2032型コイン電池の底ブタ、リチウム箔、セパレータを重ねて、電解液150mLを注液し、続けて負極、スペーサ(厚さ1.0mm)を重ねて、電解液150mLを注液し、続けてスプリング、コイン電池の上ブタの順にくみ上げ、自動コインセルカシメ機でかしめることで、2032型コイン電池を作製した。
【0137】
続いて、本発明の負極活物質の製造方法で製造された負極活物質を用いた非水電解質二次電池のサイクル特性を評価するために、
図3に示したようなラミネートフィルム型二次電池30を、以下のように作製した。
【0138】
最初にラミネートフィルム型の二次電池に使用する正極を作製した。正極活物質はリチウムコバルト複合酸化物であるLiCoO
2を95質量部と、正極導電助剤(アセチレンブラック)2.5質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:Pvdf)2.5質量部とを混合し正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体としては、厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0139】
負極としては、上記の試験セルのケイ素系活物質を含む電極と同様の手順で作製したものを使用した。
【0140】
電解液としては、上記の試験セルの電解液と同様の手順で作製したものを使用した。
【0141】
次に、以下のようにしてラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その捲き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム12μmを用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調製した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し封止した。
【0142】
このようにして作製したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池のサイクル特性(維持率%)を調べた。
【0143】
(実施例1−2、1−3)
実施例1−2、1−3は、焼成時におけるリチウム化合物を変更した事、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外、実施例1−1と同様に行った。実施例1−2において、リチウム化合物は、Liのモル比で、窒化リチウムを75%、水酸化リチウムを25%含有させたものとした。また、実施例1−2の窒化リチウムのBET比表面積は64m
2/gであった。実施例1−3において、リチウム化合物は、窒化リチウムを100%とした。また、実施例1−3の窒化リチウムのBET比表面積は48m
2/gであった。また、実施例1−2、1−3の負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量はそれぞれ21、31質量ppmであった。
【0144】
(実施例1−4)
実施例1−4は、焼成する際の雰囲気を、アルゴンと水素(水素の分圧3%)の混合気体とした事、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外、実施例1−3と同様に行った。窒化リチウムのBET比表面積は46m
2/gであった。また、負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は15質量ppmであった。
【0145】
(実施例1−5〜実施例1−8)
実施例1−5〜実施例1−8は、焼成する際の雰囲気、保持温度帯を設ける事の有無、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外は実施例1−3と同様に行った。実施例1−5において、焼成する際の雰囲気は、実施例1−4と同様、アルゴンと水素(水素の分圧3%)とした。また、実施例1−5の窒化リチウムのBET比表面積は32m
2/gであった。実施例1−6において、焼成する際の雰囲気は、アルゴンとした。また、実施例1−6の窒化リチウムのBET比表面積は15m
2/gであった。実施例1−7において、焼成する際の雰囲気は、窒素とした。また、実施例1−7の窒化リチウムのBET比表面積は10m
2/gであった。実施例1−8において、焼成する際の雰囲気は、窒素と水素(水素の分圧3%)とした。また、実施例1−8の窒化リチウムのBET比表面積は19m
2/gであった。また、実施例1−5、1−6、1−7、1−8の負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量はそれぞれ21、12、15、18質量ppmであった。
【0146】
(実施例1−9)
実施例1−9は、特に、改質後のケイ素化合物粒子を脱水エタノールとアルミニウムイソプロポキシドの混合溶液に投入し、撹拌、濾過、乾燥しエタノールを除去した。これにより、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの複合体を含む複合層を形成した。複合層の膜厚は3nmであった。ここでは濾過後の濾過液に残ったアルミニウム量から、膜厚を計算した。改質後の負極活物質粒子の表面の少なくとも一部に複合層を形成させた事、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外、実施例1−8と同様に行った。窒化リチウムのBET比表面積は15m
2/gであった。また、負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は8.0質量ppmであった。
【0147】
(実施例1−10、1−11)
窒化リチウムのBET比表面積を変化させたこと以外、実施例1−8と同様に行った。実施例1−10の窒化リチウムのBET比表面積は0.8m
2/gであった。また、実施例1−11の窒化リチウムのBET比表面積は0.1m
2/gであった。また、実施例1−10、1−11の負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量はそれぞれ2.0、3.5質量ppmであった。
【0148】
(実施例1−12)
実施例1−12は、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外、実施例1−3と同様に行った。実施例1−12の窒化リチウムのBET比表面積は78m
2/gであった。また、実施例1−12の負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は20質量ppmであった。また、実施例1−12は、焼成による改質の温度を実施例1−1〜1−11よりも高くすることで、結晶化を進行させた。すなわち、Si(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)をより小さくした。
【0149】
(比較例1−1、1−2)
比較例1−1、1−2においては、ケイ素化合物の作製後に焼成する際のLi化合物を変更した以外、実施例1−3と同様に合成を行った。比較例1−1において、リチウム化合物は、炭酸リチウムを100%とした。比較例1−2において、リチウム化合物は、水酸化リチウムを100%とした。また、比較例1−1、1−2の負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量はそれぞれ0.3、0.1質量ppmであった。
【0150】
(比較例1−3)
比較例1−3は、焼成の際に保持温度帯を設けた。また、焼成時におけるリチウム化合物は、Liのモル比で、
炭酸リチウムを50%、水酸化リチウムを50%含有させたものとした。保持温度帯の有無、リチウム化合物を変更したこと以外は実施例1−3と同様に行った。また、比較例1−3の負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は0.5質量ppmであった。
【0151】
(比較例1−4)
比較例1−4は、焼成の際に保持温度帯を設けなかったこと以外、比較例1−3と同様に行った。また、負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は0.4質量ppmであった。
【0152】
(比較例1−5)
比較例1−5は、ケイ素化合物(SiO
x)のxを0.4としたこと、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外、実施例1−4と同様に行った。また、負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は16質量ppmであった。
【0153】
(比較例1−6)
比較例1−6はケイ素化合物(SiO
x)のxを1.6
より大としたこと、窒化リチウムのBET比表面積を変化させた事以外、実施例1−4と同様に行った。また、負極活物質粒子の表面のNO
3イオン含有量は18質量ppmであった。
【0154】
上記実施例及び比較例において、保持温度帯を設けた場合、保持温度は400℃とし、保持時間は30分とした。
【0155】
上記実施例及び比較例におけるケイ素化合物の物性は以下のとおりである。比較例1−5及び比較例1−6を除く上記全ての実施例及び比較例においてSiO
xで表されるケイ素化合物のxの値が1.0であり、ケイ素化合物のメディアン径D
50は4μmであった。また、比較例1−1及び比較例1−2のような、未改質のケイ素化合物のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は2.593°であった。また、実施例1−12における、改質後のケイ素化合物のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は1.066°であった。また、これらの比較例1−1、1−2、及び、実施例1−12以外における、改質後のケイ素化合物のX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は2.257°であった。改質後のケイ素化合物はLi
2SiO
3、Li
2Si
2O
5を含んでいた。
【0156】
また、作製した負極と対極リチウムとから、前述のように、2032型コイン型リチウム電池を作製し、その放電挙動を評価した。より具体的には、まず、対極Liで0Vまで定電流定電圧充電を行い、電流密度が0.05mA/cm
2に達した時点で充電を終止させた。その後、1.2Vまで定電流放電を行った。この時の電流密度は0.2mA/cm
2であった。雰囲気温度は、25℃とした。このような充放電により得られたデータから、縦軸を容量の変化率(dQ/dV)、横軸を電圧(V)としてグラフを描き、Vが0.4〜0.55(V)の範囲にピークが得られるかを確認した。その結果、実施例1−3、1−4,1−5,1−6,1−7,1−8、1−9の実施例にてピークが確認された。
【0157】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(初期効率)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。
【0158】
サイクル特性については、以下のようにして調べた。最初に電池安定化のため25℃の雰囲気下、2サイクル充放電を行い、2サイクル目の放電容量を測定した。続いて総サイクル数が100サイクルとなるまで充放電を行い、その都度放電容量を測定した。最後に100サイクル目の放電容量を2サイクル目の放電容量で割り(%表示のため×100)、容量維持率を算出した。サイクル条件として、4.3Vに達するまで定電流密度、2.5mA/cm
2で充電し、電圧4.3Vに達した段階で4.3V定電圧で電流密度が0.25mA/cm
2に達するまで充電した。また、放電時は2.5mA/cm
2の定電流密度で電圧が3.0Vに達するまで放電した。
【0159】
BET比表面積の測定は、Macsorb1208型(MOUNTEC社製、HM model−1208)を用いて行った。
【0160】
実施例1−1〜1−12、比較例1−1〜1−6の評価結果を表1に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
また、負極活物質粒子のCu−Kα線を用いたX線回折スペクトルから得られる回折ピーク(2θ)として27.5〜29.0°で与えられるSi領域に由来するピークの強度Aと、26.5〜27.5°で与えられるLi
2SiO
3に由来するピークの強度Bと、24.5〜25.5°で与えられるLi
2Si
2O
5に由来するピークの強度Cとの関係は、実施例1−1、1−2において、A>B、A>C、C>Bであった。また、実施例1−3〜1−11、及び、比較例1−4においては、A>B、A>C、B>Cであった。また、比較例1−1においては、B>A、C>A、C>Bであった。また、比較例1−2、1−3においては、B>A、C>A、B>Cであった。また、実施例1−1〜1−9、比較例1−1〜1−4において、2θとして22°付近に与えられるSiO
2領域に由来するブロードなピークを持つことが確認された。実施例1−1において得られたX線回折スペクトルを
図2に示す。
【0163】
実施例1−1〜1−9、比較例1−1〜1−4のXRDスペクトルから得られた結果を表2に示す。
【0164】
【表2】
【0165】
表1の実施例1−1〜実施例1−11のように、本発明の負極活物質を使用した二次電池では、窒化リチウムを用いた改質による、初回効率向上といった電池特性の向上効果が得られた。
【0166】
特に、BET比表面積が0.5m
2/g以上50m
2/g以下の窒化リチウムを含むリチウム化合物を用いた実施例1−3〜1−10は、その他の実施例と比べて、より良い初回効率を示した。
【0167】
また、実施例においては、X線回折スペクトルから得られる回折ピーク(2θ)がA>B、A>Cの関係を満たしていた。特に、B>Cの関係を満たす実施例1−3〜1−11はより良い初期効率を示した。
【0168】
また、Cu−Kα線を用いたX線回折により得られるSi(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)が1.066°である実施例1−12よりも、半値幅(2θ)が1.2°以上の低結晶性材料で高い充放電効率が得られた(実施例1−1〜1−11)。
【0169】
一方、窒化リチウムを用いなかった比較例1−1〜比較例1−4では、十分な充放電効率が得られなかった。
【0170】
負極活物質粒子の表面の少なくとも一部に複合層を形成させた実施例1−9は、負極活物質粒子の表面に複合層を形成させなかった実施例1−1〜1−8、実施例1−10〜1−12よりもサイクル維持率が向上した。
【0171】
ケイ素化合物中の酸素量が減る、すなわち比較例1−5のようにx<0.5となると、Siリッチとなり、サイクル維持率が大幅に低下した。また酸素リッチの場合、すなわち比較例1−6のようにx>1.6となる場合、ケイ素酸化物の抵抗が高くなり、サイクル維持率が大幅に低下した。
【0172】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。