特許第6934654号(P6934654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6934654
(24)【登録日】2021年8月26日
(45)【発行日】2021年9月15日
(54)【発明の名称】フレキシブル導電性膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20210906BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20210906BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210906BHJP
【FI】
   H01B5/14 Z
   B32B9/00 A
   H01B13/00 503Z
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-566577(P2016-566577)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086423
(87)【国際公開番号】WO2016104796
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年6月6日
【審判番号】不服2020-4090(P2020-4090/J1)
【審判請求日】2020年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-266006(P2014-266006)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 哲男
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中島 智彦
【合議体】
【審判長】 大島 祥吾
【審判官】 加藤 友也
【審判官】 大畑 通隆
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/102079(WO,A1)
【文献】 特開平10−2411464(JP,A)
【文献】 特開2012−9148(JP,A)
【文献】 特開2003−96572(JP,A)
【文献】 特開2011−3446(JP,A)
【文献】 特開平2−276630(JP,A)
【文献】 特開2004−55363(JP,A)
【文献】 杉本渉,スーパーキャパシタ,表面技術,日本,2010年,Vol.61,No.1,p.14−p.17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B5/14
H01B13/00
B32B9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上に形成された導電性膜を備えるフレキシブル導電性膜であって、
前記導電性膜が、結晶相を含
前記導電性膜が、カーボンを備え、
前記導電性膜が、導電性の金属酸化物からなるか、又は金属と導電性の金属酸化物とからなり、
前記導電性膜が、ルチル型のルテニウム酸化物を主要成分として含む、
フレキシブル導電性膜。
【請求項2】
前記導電性膜が、アモルファス相と前記結晶相とからなる、請求項1に記載のフレキシブル導電性膜。
【請求項3】
前記樹脂基材が、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、アラミド樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、及びポリカーボネイトの1種又は2種以上を主要成分とする、請求項1又は2に記載のフレキシブル導電性膜。
【請求項4】
前記導電性膜の膜厚が500nm以下であり、室温のシート抵抗が300Ω/□以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載のフレキシブル導電性膜。
【請求項5】
前記導電性膜は、室温での電気抵抗に対する250℃までの温度での電気抵抗変化〔(25〜250℃の所定温度でのシート抵抗−25℃でのシート抵抗)/25℃でのシート抵抗〕が、5%以内である、請求項1〜のいずれか一項に記載のフレキシブル導電性膜。
【請求項6】
前記導電性膜上に積層された金属膜を更に備える、請求項1〜のいずれか一項に記載のフレキシブル導電性膜。
【請求項7】
前記樹脂基材上に、金属有機化合物、金属、及び金属酸化物から選択される少なくとも1種を含む溶液又は分散液を塗布し、該塗布膜を、前記樹脂基材が劣化しない温度での加熱と、紫外線照射、マイクロ波照射、又はプラズマ照射する照射工程との、少なくとも一方により処理して、フレキシブル導電性膜を形成する工程を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のフレキシブル導電性膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物を含むフレキシブル導電性膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイス・エネルギーデバイス等の小型・軽量化や高効率化には、軽量、フレキシブルな電子部品・センサ・配線が必要、不可欠となってきている。フレキシブルな回路配線としては、導電性ペーストを、プリント配線板やフレキシブルプリント基板の上にパターン塗布して回路や電極を形成することが知られており、そのペーストとしては、Ag(銀)、Au(金)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ni(ニッケル)、Pt(白金)及びPd(パラジウム)などの金属(A)、エポキシ基、オキセタン基、3,4−エポキシシクロへキシル基、及び環員数5〜8の環状エーテル基からなる群より選択される基でカルボキシル基と反応可能な基を1種又は2種以上有する樹脂(B)と、前記の樹脂と反応可能な硬化剤(C)とを含有する導電性ペーストなどが知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、これらの導電性ペーストを用いた回路や電極では、例えば、300℃〜400℃程度の高温下において、樹脂の分解や耐熱性のない金属では酸化の問題がある。
【0003】
一方、金属酸化物材料は、高温まで酸化反応に対して安定である点や貴金属に比べて安価である特徴があり、抵抗器材料として広く用いられている。しかしながら、従来、抵抗体などの電子部品は、導電性材料とガラスフリット、ビヒクルと適宜の有機溶剤とを混合した無機材料ペーストをアルミナ等無機材料基材にスクリーン印刷し、その後、乾燥、焼成することで作製されてきた。このため、通常高温の焼成過程を含むためポリエチレンテレフタレート(PET)などのフレキシブル基板上への作製が困難であった(特許文献2〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−355933公報
【特許文献2】特開2009−105263号公報
【特許文献3】特開2001−196201号公報
【特許文献4】特開平10−335110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、無機材料ペーストは、無機材料とガラス、及びバインダーを含む材料であり、例えば、抵抗体の作製には、ルテニウム酸化物を含むペーストをスクリーン印刷などにより基材に塗布し、800oCで焼成することで作製される。このため、耐熱性のない基板に酸化物抵抗体を作製することが困難であった。
また、耐熱性のない基板に酸化物導電膜が形成されたとしても、ベンディング試験などの曲げによって亀裂等が生じ、電気抵抗が増加してしまうという点で、その導電性膜は、フレキシブルなものではなかった。さらに、厚さが500nm以下で、室温でのシート抵抗が300Ω/□以下にならなかったり、室温から300℃までの温度での電気抵抗が室温での電気抵抗に比べ5%超変化するものであった。
【0006】
本発明は、上述のような従来技術を背景とするものであり、ベンディング試験などの曲げによって電気抵抗が大きく変化しない点でフレキシブルと言える導電性膜を提供することを課題とする。
また、本発明は、厚さが500nm以下で、室温でのシート抵抗が300Ω/□以下となる導電性膜を提供することを追加的な課題とする。
また、本発明は、室温での電気抵抗に対する300℃までの温度での電気抵抗変化〔(25〜300℃の所定温度でのシート抵抗−25℃でのシート抵抗)/25℃でのシート抵抗〕が5%以下である導電性膜を提供することを追加的な課題とする。
さらに、本発明は、上記のようなフレキシブル導電性膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題のもとで試験研究を重ね、次の(ア)〜(ウ)のような知見を得た。
(ア)有機材料等の基材上に金属有機化合物、金属、金属酸化物の少なくともいずれか一つを含む溶液又は分散液を基材に塗布し、該塗布膜を、基材が劣化しない温度での加熱工程と、紫外線、マイクロ波、又は、プラズマを照射する照射工程の少なくとも一方の工程によって処理することで、金属酸化物を含むフレキシブル導電性膜が作製できる。
(イ)前記フレキシブル導電性膜は、膜厚が500nm以下で、室温のシート抵抗が1KΩ/□以下や300Ω/□以下等の各種のものとすることができる。
(ウ)前記フレキシブル導電性膜は、室温から300℃までの温度の電気抵抗変化を5%以下とすることができる。
【0008】
本発明は、上記のような知見に基づいて完成したものであり、この出願によれば、以下の発明が提供される。
<1>基材上に形成された金属酸化物を含むフレキシブル導電性膜。
<2>前記導電性膜が、ルテニウム酸化物、ペロブスカイト酸化物、スズ酸化物から選択される1種又は2種以上を主要成分として含むことを特徴とする<1>に記載のフレキシブル導電性膜。
<3>前記導電性膜が、金属膜と金属酸化物膜の積層構造であることを特徴とする<1>又は<2>に記載のフレキシブル導電性膜。
<4>前記導電性膜が、金属微粒子と金属酸化物微粒子のコンポジットであることを特徴とする<1>又は<2>に記載のフレキシブル導電性膜。
<5>膜厚が500nm以下で、室温のシート抵抗が300Ω/□以下であることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載のフレキシブル導電性膜。
<6>室温〜300℃までの抵抗変化が5%以内であることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか1項に記載のフレキシブル導電性膜。
<7>基材上に金属有機化合物、金属、金属酸化物の少なくともいずれか一つを含む溶液又は分散液を基材に塗布し、該塗布膜を、基材が劣化しない温度での加熱工程と、紫外線、マイクロ波、又は、プラズマを照射する照射工程の少なくとも一方の工程によって処理してフレキシブル導電性膜に形成することを特徴とする<1>〜<6>のいずれか1項に記載のフレキシブル導電性膜の製造方法。
【0009】
本発明は、次のような態様を含むことができる。
<8>金属材料がパラジウムであり、金属酸化物がルテニウム酸化物であることを特徴とする<3>又は<4>に記載のフレキシブル導電性膜。
<9>基材が有機材料から形成されたものであることを特徴とする<1>〜<6>、<8>のいずれか1項に記載のフレキシブル導電性膜。
<10> 前記金属有機化合物が、金属有機酸塩、金属アセチルアセトナート、金属塩化物、金属アルコキシドのいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする<7>に記載のフレキシブル導電性膜の製造方法。
<11>前記溶液の溶媒が、プロピオン酸、アセチルアセトナート、エチレングリコール、ピリジン、トルエン、キシレン、エタノール、メタノール、ブタノール、プロピレングリコール、エチレングリコールのいずれか一つを含むことを特徴とする<7>又は<10>に記載のフレキシブル導電性膜の製造方法。
<12> 前記紫外線の光源が、エキシマランプ、エキシマレーザ、YAGレーザ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、マイクロ波励起メタルハライドランプ、マイクロ波励水銀ランプ、フラッシュランプから選択されるものであることを特徴とする<7>に記載のフレキシブル導電性膜の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフレキシブル導電性膜は、可撓性の基材上に形成され、曲げを繰り返しても抵抗値があまり変化しないという点で「フレキシブル」と言えるものである。
本発明のフレキシブル導電性膜は、膜厚が500nm以下で、室温のシート抵抗を1KΩ/□以下や300Ω/□以下とすることができるし、また、金属酸化物材料を主成分とするため、高温環境下においても腐食や酸化による抵抗変化を防ぐことができるので、室温から300℃までの温度の抵抗変化を5%以下とすることもできる。
また、本発明のフレキシブル導電性膜は、可撓性の有機材料基材を用いることにより、デバイス等の軽量、且つ省スペース化を可能とすることができる。
更に、本発明のフレキシブル導電性膜は、製造効率が良く、大量生産に適しており低コスト化が可能となる発明である。例えば、ポリイミド基板上に抵抗体膜を作製する場合においては、本発明によるフレキシブル抵抗体は、1μm以下の膜でも10Ω〜1MΩの抵抗に制御でき、ベンデイングによる疲労を行っても、安定性にも優れ、抵抗値変化の少ないものである。また、抵抗体に限らず半導体的性質を示す各種酸化物材料のフレキシブル導電性膜を簡便に製造する発明であるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例のポリイミド基材上に形成されたフレキシブル導電性膜(抵抗体膜)のX線回折パターンを示す図面。
図2】本発明の実施例のフレキシブル導電性膜(抵抗体膜)のシート抵抗と温度との関係を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のフレキシブル導電性膜は、基材上に形成され、導電性の金属酸化物を含み、フレキシブル性(可撓性)を有するものである。
本発明において、「フレキシブル」とは、基材上の膜を、180°曲げ伸ばしを150回繰り返し行うベンディング試験後、膜のシート抵抗変化が10%以下であることを意味する。
前記導電性膜の厚みは、限定するものではないが、通常10nm〜100μm、好ましくは50nm〜1μm、より好ましくは100〜500nm程度である。前記導電性膜のシート抵抗は、回路膜、電極膜、抵抗体膜、半導体膜、電磁波遮蔽膜、帯電防止膜等の用途に応じて、10Ω/□〜1010Ω/□の範囲内の適宜の数値(例えば、100Ω/□以下、200Ω/□以下、300Ω/□以下、500Ω/□〜10KΩ/□、50KΩ/□〜1MΩ/□等)のものとすることができる。特に、膜厚が500nm以下で、室温のシート抵抗が1KΩ/□以下や300Ω/□以下とすることができる。
【0013】
前記導電性膜に含まれる金属酸化物としては、電気抵抗値が105Ω・cm以下(好ましくは104Ω・cm以下、より好ましくは103Ω・cm以下)のものであれば良く、例えば、酸化ルテニウム、ペロブスカイト酸化物、酸化スズ、酸化バナジウム、これらの複合酸化物、ペロブスカイト型酸化物(例えば、ランタンマンガン酸化物、ランタン鉄酸化物、ランタン銅酸化物等)などを挙げることができる。また、酸化ルテニウム、酸化スズは、アンチモン、ニオブ、タンタル、ニッケル、アルミニウムの1種又は2種以上を2〜25原子%(好ましくは5〜15原子%)ドープしたものでも良い。
これらの金属酸化物は、1種類を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。
【0014】
本発明の導電性膜は、導電性の金属酸化物を主要成分(50〜100wt%)として含むものであるが、安定性のために50wt%未満の金属微粒子を含むコンポジットであっても良い。金属微粒子の材料としては、ニオブ、タンタル、銅、バナジウム、鉄、パラジウム、銀等が挙げられる。
また、本発明の導電性膜は、導電性金属酸化物膜よりも大きな抵抗値とするため、電気抵抗値が106Ω・cm超の絶縁性微粒子を50wt%未満含んでいても良い。絶縁性微粒子の材料としては、ガラス、アルミナ、酸化ジルコニウムが挙げられる。絶縁性材料であれば高耐熱樹脂を用いてもよい。
このような導電性膜を構成する無機膜は、無機材料粒子、金属有機化合物の少なくともいずれかを溶媒に溶解又は分散させ、ガラス、ビヒクルを目的に応じて混合した前駆体溶液又は分散液を基材に塗布し、該塗布膜に対し、基材が劣化しない温度での加熱工程と、紫外線、マイクロ波、又は、プラズマを照射する照射工程の少なくとも1つの工程で処理することで作製される。前記塗布工程と、加熱及び/又は照射工程との組み合わせを複数回繰り返し、無機酸化物の複数層からなる導電性膜を形成することもできる。
特に前駆体に含まれる無機材料粒子は、あらかじめ結晶化した微粒子やアモルファスの微粒子を、単独ないしは混合することで、抵抗温度係数(電気抵抗変化)を変えることができ、例えば、チップ抵抗で用いられる抵抗温度係数:100ppm/K以下の導電性膜を樹脂基板上に作製できる。また、溶液中に含まれる金属有機化合物が、基材が劣化しない温度での加熱工程と、紫外線、マイクロ波、又は、プラズマを照射する照射工程の少なくとも1つの工程により、アモルファス相や結晶相の生成割合を制御することで、抵抗温度係数(電気抵抗変化)を最適化することができる。
更に、スパッタやCVDなどのより基材に形成した無機膜上に基材が劣化しない温度での加熱工程と、紫外線、マイクロ波、又は、プラズマを照射する照射工程の少なくとも1つの工程で処理することによって作製が可能である。
本発明の導電性膜は、このような製造方法により、曲げ試験前後での抵抗変化が10%以下(好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下)のフレキシブルなものとすることができるし、また、室温での電気抵抗に対する200℃までの温度での電気抵抗変化〔(25〜200℃の所定温度でのシート抵抗−25℃でのシート抵抗)/25℃でのシート抵抗〕を10%以下(好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下)とすることができる。
【0015】
さらに、本発明の導電性膜は、金属膜と金属酸化物膜を積層させることで、より低抵抗な導電性膜とすることもできる。該金属膜は、金属酸化物膜の一方の面に形成しても良いし、両面に形成しても良い。該金属膜の膜厚(複数の金属膜を含む場合、合計の膜厚)は、フレキシブル導電性膜の0〜50%、好ましくは0〜30%である。金属膜の材料としては、コストの点からPd, Agが好ましいが、白金、金、錫、ニッケルなどを用いることもできる。
該金属膜は、金属有機化合物、金属ナノ粒子の少なくともいずれかを溶媒に溶解又は分散させ、ビヒクルを目的に応じて混合した前駆体溶液又は分散液を基材又は無機酸化物膜に塗布し、該塗布膜に対し、基材が劣化しない温度での加熱工程と、紫外線、マイクロ波、又は、プラズマを照射する照射工程の少なくとも1つの工程で処理することで作製できるが、気相合成、メッキなど、基材が劣化しない条件での製膜が可能であればいずれを用いても良い。
【0016】
前記金属酸化物膜や金属膜を作製する際に使用する金属有機化合物としては、限定するものではないが、金属有機酸塩、金属アセチルアセトナート、金属塩化物、金属アルコキシド等が挙げられる。
【0017】
前記金属酸化物膜や金属膜を作製する際に使用する溶媒としては、限定するものではないが、プロピオン酸、アセチルアセトナート、エチレングリコール、ピリジン、トルエン、キシレン、エタノール、メタノール、ブタノール、プロピレングリコール、エチレングリコール等が挙げられ、それらのうちの1種単独、又は、2種以上の混合物として使用することができる。
【0018】
前記金属酸化物膜や金属膜を作製する際に必要に応じ用いることができるベヒクルとしては、限定するものではないが、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、アクリル樹脂、アクリルラッカー樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ブチル化メラミン樹脂、メチル化メラミン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、スチレン−ジエン共重合体、塩化ビニル共重合体、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂、乾性油、ボイル油等が挙げられる。
【0019】
前記照射工程における紫外線の光源としては、限定するものではないが、エキシマランプ、エキシマレーザ、YAGレーザ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、マイクロ波励起メタルハライドランプ、マイクロ波励起水銀ランプ、フラッシュランプ等を使用することができるが、コストの面から、ランプ照射を用いることが好ましい。
【0020】
表面にフレキシブル導電性膜が形成される基材は、有機材料であっても良いし、無機材料であっても良い。
有機材料としては、限定するものではないが、ポリイミド、アクリル樹脂、ポリエステル〔PET、ポリエチレンナフタレート(PEN)等〕、ポリアクリロニトリル、アラミド樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカーボネイトなどを用いることができる。
これらの基材を用いた場合導電性膜は、紫外線照射により先駆体原料及び樹脂の光反応により生成したカーボンを備えた膜を形成することも可能である。
無機材料としては、例えば、フレキシブル化が可能な薄膜ガラス、金属などを用いることができる。
基材の厚さは、可撓性を示す範囲内であれば良く、通常は20μm〜2mm程度、好ましくは30μm〜1mm程度、より好ましくは50μm〜500μm程度である。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0022】
<実施例1>
ルテニウム粉末 0.1g(和光純薬)にルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製) を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、紫外線を照射したところ、30Ω/□の導電性膜が得られた。この導電性膜は、X線回折測定でルテニウム酸化物膜であることを確認した。この導電性膜を有するポリイミド基材{2cm×2cm}を180°曲げ伸ばしを150回繰り返したが、復元後の導電性膜のシート抵抗の変化は2.7%未満であった。
【0023】
<実施例2>
実施例1で、基材をポリイミドからアルミナ基材とした以外は、同様の操作を行った。その結果、180Ω/□の導電性膜が得られた。この導電性膜については、曲げ伸ばし試験を行っていないが、実施例1と同様にフレキシブルなものと考えられる。
【0024】
<実施例3>
実施例1で、基材をアルミナ基材とし、紫外線照射の代わりに500℃で焼成を行った結果、200Ω/□の導電性膜が得られた。この導電性膜については、曲げ伸ばし試験を行っていないが、実施例1と同様にフレキシブルなものと考えられる。
【0025】
<実施例4>
ルテニウム金属有機化合物溶液 1ml(大研化学製)をトルエン1mlと混合し、ポリイミドフィルムに2000rpmでスピンコーティング後、紫外線を20min照射することで、300Ω/□の導電性膜が得られた。また、図1に示すようにX線回折測定で、該導電性膜はルテニウム酸化物膜であることを確認した。
【0026】
<実施例5>
実施例2で得られたポリイミドフィルム上の導電性膜について、更に、前記溶液のコーティングと紫外線照射とを繰り返すことで、3層で、50Ω/□導電性膜が作製された。3層コートしたポリイミドフィルム上のルテニウム酸化物膜の電気特性の温度依存性を評価したところ、室温での抵抗値は50Ω/□、200℃までの抵抗変化率は0.2%,250℃までの抵抗変化率は2.4%を示した(図2参照)。
また、この3層コート膜を有するポリイミド基材{2cm×2cm}を180°曲げ伸ばしを150回繰り返したが、復元後の導電性膜のシート抵抗の変化は2.5%未満であった。
【0027】
<実施例6>
実施例4で、基材をアルミナ基材とし、紫外線照射の代わりに500℃で焼成を行った結果、600kΩ/□の導電性膜が得られた。この導電性膜については、曲げ伸ばし試験を行っていないが、実施例4、5と同様にフレキシブルなものと考えられる。
【0028】
<実施例7>
上記実施例2と同様にして、ルテニウム金属有機化合物溶液をポリイミドフィルムにコーティングし、紫外線を照射してルテニウム酸化物膜を形成した。
その後、パラジウム金属有機酸塩〔和光純薬工業(株)製〕をルテニウム酸化物膜上にコーティングし、更に紫外線を照射することで20Ω/□の導電性膜が作製された。ルテニウム酸化物/パラジウム膜を有するポリイミド基材{2cm×2cm}を180°曲げ伸ばしを150回繰り返したが、復元後の導電性膜のシート抵抗の変化は3.3%未満であった。
【0029】
<実施例8>
上記実施例1と同様にして、前駆体溶液をポリイミドに塗布し、エキシマレーザ248nmを照射してルテニウム酸化物膜を形成した。
【0030】
<実施例9>
上記実施例1と同様にして、前駆体溶液をLCP(液晶ポリマ−)に塗布し、紫外線を照射してルテニウム酸化物膜を形成した。
【0031】
<実施例10>
上記実施例1と同様にして、ルテニウム金属有機化合物溶液をLCP(液晶ポリマ−)に塗布し、エキシマレーザ248nmを照射してルテニウム酸化物膜を形成した。
【0032】
<実施例11>
上記実施例4と同様にして、ルテニウム金属有機化合物溶液をSiN/ポリイミドに塗布、248nmのエキシマレーザを照射してルテニウム酸化物膜を形成した。
【0033】
<実施例12>
実施例1のルテニウム粉末 を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、紫外線を照射したところ、15Ω/□の導電性膜が得られた。
【0034】
<実施例13>
実施例1のルテニウム粉末を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、エキシマランプを照射したところ導電性膜が得られた。
【0035】
<実施例14>
実施例1のルテニウム粉末を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、高圧水銀ランプを照射したところ導電性膜が得られた。
【0036】
<実施例15>
実施例1のルテニウム粉末を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、248nmのエキシマレーザを照射したところ導電性膜が得られた。
【0037】
<実施例16>
実施例1のルテニウム粉末を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、193nmのエキシマレーザを照射したところ導電性膜が得られた。
【0038】
<実施例17>
実施例1のルテニウム粉末を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布しプラズマを5分照射したところ導電性膜が得られた。
【0039】
<実施例18>
実施例1のルテニウム粉末を0.1から0.3g(和光純薬)に代えて、ルテニウム金属有機化合物溶液 2.5ml(大研化学製)を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布しエキシマレーザを照射したところ導電性膜が得られ、ラマンスペクトルからカーボンが同定された。
【0040】
<実施例19>
ルテニウム金属有機化合物溶液をポリイミド基材に塗布しエキシマレーザを照射したところ導電性膜が得られ、ラマンスペクトルからカーボンが同定された。
【0041】
<実施例20>
実施例1のルテニウム粉末をアンチモンドープ酸化スズに代えて、アンチモンドープ及びスズ金属有機化合物溶液を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、193nmのエキシマレーザを照射したところ50Ω/□の導電性膜が得られた。
【0042】
<実施例21>
実施例1のルテニウム粉末 をアンチモンドープ酸化スズに代えて、アンチモンドープ及びスズ金属有機化合物溶液を入れ、遊星ミル(ナガオシステム製、Planet M2-3F)により700rpmで粉砕した。この溶液をポリイミド基材に塗布し、高圧水銀ランプを照射したところ100Ω/□の導電性膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のフレキシブル導電性膜は、様々な電気抵抗のものが得られるので、回路膜、電極膜だけでなく、抵抗体膜、半導体膜、電磁波遮蔽膜、帯電防止膜等の各種の導電性膜に応用することができる。
図1
図2